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特許6999426高炉炉床部用れんが及びこれを使用した高炉炉床部並びに高炉炉床部用れんがの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】高炉炉床部用れんが及びこれを使用した高炉炉床部並びに高炉炉床部用れんがの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/06 20060101AFI20220128BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20220128BHJP
   C04B 35/103 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C21B7/06 301
F27D1/00 N
C04B35/103
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017567251
(86)(22)【出願日】2017-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2017045512
(87)【国際公開番号】W WO2018123726
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2016254688
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三島 昌昭
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-208363(JP,A)
【文献】国際公開第2009/072652(WO,A1)
【文献】特開平01-208362(JP,A)
【文献】特開昭62-212259(JP,A)
【文献】特開昭61-101454(JP,A)
【文献】特開2015-113254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/00-9/16
F27D 1/00-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コランダムを47~92質量%と、アルミニウムの酸窒化物を7~50質量%とを含み、これらの合量が94質量%以上であり、
しかも炭素質原料を含有せず、窒化アルミニウムの含有量が3質量%以下(0を含む)、AlN多形サイアロン、β’-サイアロン、及び窒化珪素の含有量が合量で3質量%以下(0を含む)であり、
さらにマトリックス部に、前記アルミニウムの酸窒化物を7質量%以上含有する高炉炉床部用れんが。
【請求項2】
請求項に記載の高炉炉床部用れんががライニングされた高炉炉床部。
【請求項3】
A:平均粒径10μm以下の仮焼アルミナ及び/又は平均粒径10μm以下のアルミナ前駆体とB:粒径0.1mm以下の金属アルミニウムとの質量比(A/B)が0.4~7.6である混合物を6~38質量%と、仮焼アルミナを除くアルミナ質原料を62~94質量%とを含む耐火原料配合物に、バインダーを添加して混練し成形後、窒素雰囲気中で1300~1800℃で焼成する、高炉炉床部用れんがの製造方法。
【請求項4】
仮焼アルミナを除くアルミナ質原料を50~87質量%と、平均粒径10μm以下の仮焼アルミナを5~30質量%と、粒径0.1mm以下のアルミニウムの酸窒化物を7~50質量%とを含む耐火原料配合物に、バインダーを添加して混練し成形後、窒素雰囲気中で1300~1600℃で焼成する、高炉炉床部用れんがの製造方法。
【請求項5】
前記耐火原料配合物が、粒径0.2mm以下の鱗状黒鉛を1~10質量%含有する請求項又は請求項に記載の高炉炉床部用れんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉床部(高炉において羽口より下の側壁と炉底とを含む炉床部のことをいう。以下同じ。)で使用される高炉炉床部用れんが及びこれを使用した高炉炉床部、並びに高炉炉床部用れんがの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉炉床部には、主として、黒鉛を骨材とする炭素質れんが、あるいはアルミナを骨材とするアルミナ質れんがが使用されているが、炉寿命を支配する要因の一つとしてこれらの高炉炉床部用れんがの損耗が挙げられる。
【0003】
例えば高炉炉床部の内張り材(ライニング材)としては、炭素質れんが(ブロック)が主流となっているが、炭素成分の多いれんがは、高炉炉床部での使用時に炭素が溶銑中へ溶け出しやすく耐溶銑性が良くない。そのため、炉外から内張り材の冷却を強化して、れんが稼働面に溶銑粘稠層を形成し、この溶銑粘稠層によって炭素質れんがから溶銑中への炭素の溶け出しを防止して耐溶銑性を確保している。しかしながら、このような炉外からの冷却は、大きいエネルギーロスをもたらすことになる。
【0004】
そこで、溶銑中へ溶け出しにくいアルミナを主体とするアルミナ質れんがも近年使用されてきている。特に、化学式Si6-ZAl8-Zで表されるβ’-サイアロンをマトリックス部に含むサイアロンボンドアルミナれんがは、炭素をほとんど含まないため、耐溶銑性に優れ、しかも高炉中で発生するスラグに対する耐食性(耐スラグ性)に優れている。
【0005】
例えば特許文献1には、マトリックス部(結合基質)に、Z値(β’-サイアロンの化学式Si6-ZAl8-ZにおけるZ値のことをいう。)が0.5~4のβ’-サイアロンを12~45質量%含有するサイアロンボンドアルミナれんがが開示されている。しかし、この特許文献1のサイアロンボンドアルミナれんがでは、そのマトリックス部に含まれるβ’-サイアロン中のSiが少しずつ溶銑中へ溶け出すため、れんがの損耗が進み、耐溶銑性が十分ではない。
【0006】
そこで、マトリックス部にSiを含まないれんがとして、アルミニウム化合物を結合組織とするアルミニウム化合物結合れんがも開発されている。
【0007】
例えば、特許文献2では、れんがの組織が結晶相と非晶質相とからなり、結晶相が、コランダムが80~98質量%、並びに窒化アルミニウム結晶及び/又は酸炭化アルミニウム結晶が1~18質量%であり、非晶質相が0.5~10質量%であり、且つ、Si含有量が3質量%以下である高炉炉床部用アルミニウム化合物結合れんがが開示されている。そして、窒化アルミニウムや酸炭化アルミニウム(主にAlOCあるいはAlC)を結合組織とする耐火物は耐溶銑性に優れることが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献2の高炉炉床部用アルミニウム化合物結合れんがは、窒化アルミニウムや酸炭化アルミニウムを含有しているため、れんがの切削加工時の水分あるいは施工時のモルタル中の水分さらには保管中に空気中の水分によって、これらが水和されやすいという耐水和性に劣る問題がある。また、耐スラグ性もまだ不十分であった。
【0009】
一方、特許文献3の実施例3には、コランダム、窒化アルミニウム、及びアルミニウムの酸窒化物としてAlONを含有するアルミニウム化合物結合れんが開示されている。そして、このれんがの製造方法として、アルミニウム粉末と耐火原料粉末とからなる配合物の成形体を密閉可能な容器に入れ、その容器内に窒化珪素粒を充填した状態で焼成することが開示されている。この時、焼成雰囲気中には、大気に由来する酸素が共存するので、窒化アルミニウムの他に酸窒化アルミニウムも生成する。すなわち、焼成雰囲気中の窒素分圧及び酸素分圧に応じて気相反応を介して、窒化アルミニウムの他に酸窒化アルミニウムを同時に生成析出することが開示されている。
【0010】
この特許文献3の製造方法によって得られたアルミニウム化合物結合れんがでは、酸窒化アルミニウムは窒化アルミニウムの副生成物として窒化アルミニウムが酸化することで生成するものであり、酸窒化アルミニウムを優先して生成することが難しく、しかも生成量が少ない。実施例3のれんがはX線の回折ピーク強度において、AlNが800に対してAlONが200であり、AlONの割合が低い。このため耐溶銑性及び耐スラグ性は改善されてはいるが、さらにこれらの改善が望まれている。また窒化アルミニウムは水和しやすく、その含有率が高い場合には前述の耐水和性の問題がある。
【0011】
すなわち、高炉は新しく築造された後、最近は15~20年も使用され、しかも高炉炉床部は補修ができないため、この高炉炉床部の損耗が高炉の寿命を左右する場合が多く、常に耐スラグ性及び耐溶銑性の改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特表平6-502140号公報(特許第3212600号公報)
【文献】国際公開第2009/72652号
【文献】特許第4245122号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、耐水和性に優れしかも耐溶銑性と耐スラグ性を向上させた高炉炉床部用れんがを提供し、さらに高炉炉床部の寿命を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、高炉炉床部用のアルミニウム化合物を結合組織とするれんがにおいて、マトリックス部の組織が耐溶銑性及び耐スラグ性に大きな影響を与えると考え、このマトリックス部の改善に着目して種々の実験を行った。その結果、マトリックス部の組織としてアルミニウムの酸窒化物は、窒化アルミニウムや酸炭化アルミニウムよりも耐スラグ性及び耐溶銑性に格段に優れ、かつ耐水和性にも優れることを知見した。
【0015】
すなわち本発明の要旨は次のとおりである。
(1)
コランダムを47~92質量%と、アルミニウムの酸窒化物を7~50質量%とを含み、これらの合量が94質量%以上であり、
しかも炭素質原料を含有せず、窒化アルミニウムの含有量が3質量%以下(0を含む)、AlN多形サイアロン、β’-サイアロン、及び窒化珪素の含有量が合量で3質量%以下(0を含む)であり、
さらにマトリックス部に、前記アルミニウムの酸窒化物を7質量%以上含有する高炉炉床部用れんが。
(2)
(1)に記載の高炉炉床部用れんががライニングされた高炉炉床部。
(3)
A:平均粒径10μm以下の仮焼アルミナ及び/又は平均粒径10μm以下のアルミナ前駆体とB:粒径0.1mm以下の金属アルミニウムとの質量比(A/B)が0.4~7.6である混合物を6~38質量%と、仮焼アルミナを除くアルミナ質原料を62~94質量%とを含む耐火原料配合物に、バインダーを添加して混練し成形後、窒素雰囲気中で1300~1800℃で焼成する、高炉炉床部用れんがの製造方法。
(4)
仮焼アルミナを除くアルミナ質原料を50~87質量%と、平均粒径10μm以下の仮焼アルミナを5~30質量%と、粒径0.1mm以下のアルミニウムの酸窒化物を7~50質量%とを含む耐火原料配合物に、バインダーを添加して混練し成形後、窒素雰囲気中で1300~1600℃で焼成する、高炉炉床部用れんがの製造方法。
(5)
前記耐火原料配合物が、粒径0.2mm以下の鱗状黒鉛を1~10質量%含有する(3)又は(4)に記載の高炉炉床部用れんがの製造方法。
【0016】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0017】
本発明の高炉炉床部用れんが(以下、単に「本発明のれんが」ともいう。)の組織は、骨材からなる骨材部と、その骨材どうしを結合する結合組織であるマトリックス部とからなる。そして図1に示すように、骨材とは0.1mm超の粒子であり、マトリックス部とは骨材と骨材の間に存在する0.1mm以下の粒子が連続した組織の部分である。
【0018】
そして本発明のれんがにおいて、マトリックス部は主にアルミニウムの酸窒化物のみ、あるいはアルミニウムの酸窒化物とコランダムから成り、骨材部は主にコランダムのみ、あるいはコランダムとアルミニウムの酸窒化物から成っている。ここで、「アルミニウムの酸窒化物」とは図2のSi-AlN-Al-SiO系組成図において、AlON/x=0.22から2Hδ/x=6までの範囲に含まれる組成をいう。すなわち本発明では、これらをアルミニウムの酸窒化物という。なお、AlON/xとはAl(8+X)/3(4-X)であり、2Hδ/xとはSi(6-X)Al(16+X)(24-X)である。また、本発明においてAlON固溶体とは図2においてAlON/x=0.22からAlON/x=0.57の範囲に含まれる組成をいう。
【0019】
アルミニウムの酸窒化物はコランダムよりも耐スラグ性が高いため、骨材部よりもスラグが浸透しやすいマトリックス部に存在することで耐スラグ性が高まる。具体的には本発明のれんがにおいてアルミニウムの酸窒化物はマトリックス部に7質量%以上含有する。7質量%未満では、耐スラグ性が不十分となる。なお、アルミニウムの酸窒化物は骨材部に含有しても悪影響はなく、最大15質量%程度までは骨材部に含有することもできる。
【0020】
また、本発明のれんがにおいてアルミニウムの酸窒化物の総含有量は7~50質量%である。7質量%未満では耐スラグ性が不十分となり、50質量%を超えると耐溶銑性が不足してくる。
【0021】
コランダムは耐溶銑性に優れるため主に骨材部に含有するが、一部はマトリックス部に含有しても問題ない。コランダムは47質量%未満では耐溶銑性が不十分となり、92質量%を超えると相対的にアルミニウムの酸窒化物が不十分となるため耐スラグ性が不十分となる。
【0022】
さらに、本発明のれんがにおいて、コランダムとアルミニウムの酸窒化物との合量は鱗状黒鉛、仮焼無煙炭、コークス、ピッチなどの炭素質原料を含有する場合には84質量%以上であるが、さらに耐溶銑性を高めるために炭素質原料を含有しない場合には94質量%以上とすることができる。コランダムとアルミニウムの酸窒化物との合量が84質量%未満では、実用上要求される耐食性(耐スラグ性)が得られない。なお、コランダムとアルミニウムの酸窒化物以外の成分としては、X線測定で定量測定することができないAlを主成分とする非晶質相などである。さらに、耐スラグ性を補助するためあるいは製造時の副生成物として、窒化アルミニウムやAlN多形サイアロンを少量含むこともできる。
【0023】
本発明のれんがにおいて、窒化アルミニウムは、耐スラグ性を高めるためには有効であるが、耐水和性が低下するため含有しない方が良い。ただし、3質量%以下であれば耐水和性の悪影響を最小限とすることができる。
【0024】
本発明のれんがにおいて、AlN多形サイアロン、β’-サイアロン、及び窒化珪素は、溶銑に溶けやすいため含有しない方が良いが、これらが合量で3質量%以下であれば許容できる。なお、AlN多形サイアロンとはSi-Al-O-N固溶体であって、Ramsdellの表記法において、Si含有率の少ない順に2Hδ型、27R型、21R型、12H型、15R型及び8H型の6種のことである。
【0025】
本発明のれんがにおいて、高炉炉床部でもスラグと接しない部位にライニングする場合などの耐溶銑性を優先する場合には、鱗状黒鉛、仮焼無煙炭、コークス、ピッチなどの炭素質原料は溶銑中に溶解しやすいため含有しない方が良い。一方、スラグと接する部位にライニングされる場合などの耐スラグ性を優先する場合には、鱗状黒鉛、仮焼無煙炭、コークス、ピッチなどの炭素質原料は耐スラグ性を向上する目的で、10質量%以下で含有することができる。特に粒径0.2mm以下の鱗状黒鉛を1~10質量%含有することで、耐溶銑性の低下を招くことなく耐スラグ性を向上することができる。なお、「スラグと接しない部位」とは、具体的には高炉炉床部において出銑孔より下方の部位であり、「スラグと接する部位」とは、具体的には高炉炉床部において出銑孔を含む上方の部位である。
【0026】
以上のような本発明のれんがは、高炉炉床部にライニングすることで高炉の耐用性を大幅に延長することができる。
【0027】
次に、本発明のれんがの製造方法について説明する。
本発明のれんがの製造方法には2つの製造方法がある。すなわち、アルミナと金属アルミニウムが窒化されて生じた窒化アルミニウムとが反応してアルミニウムの酸窒化物を生成する第一の製造方法と、アルミニウムの酸窒化物を原料として最初から使用する第二の製造方法である。
【0028】
前述の特許文献3の製造方法においては、金属アルミニウムを窒素と酸素を含む混合雰囲気中で熱処理することによって、気相反応によりアルミニウムの酸窒化物が得られる。したがって得られるアルミニウムの酸窒化物の結晶形態は羽毛状、針状、あるいはひげ状を成しており、緻密な組織のアルミニウムの酸窒化物を得ることが困難である。これに対して本発明の第一の製造方法では、活性な仮焼アルミナ又はアルミナ前駆体と金属アルミニウムとの混合物を窒素雰囲気中で熱処理することにより緻密な組織のアルミニウムの酸窒化物を得ることができる。
【0029】
すなわち、本発明の第一の製造方法において耐火原料配合物に使用する仮焼アルミナは、金属アルミニウムが窒化されて生じた窒化アルミニウムと反応してアルミニウムの酸窒化物を生成するうえで、粒径が小さいほどその活性が高くアルミニウムの酸窒化物が生成する割合が高くなる。したがって、本発明の第一の製造方法において仮焼アルミナの平均粒径は10μm以下とする。この仮焼アルミナの平均粒径が10μmを超えると窒化アルミニウムとの反応性が低くなるためアルミニウムの酸窒化物が生成する割合が低くなり、逆に窒化アルミニウムの割合が高くなるため耐水和性が不十分となってしまう。平均粒径10μm以下の仮焼アルミナと同様に平均粒径10μm以下のアルミナの前駆体も単独又は平均粒径10μm以下の仮焼アルミナと併用して使用可能である。ここで、「平均粒径」とはレーザー回折散乱式粒度分布計で測定した粒径と質量割合の関係をグラフにプロットし、質量積算割合が50%に達するときの粒径を意味する。
【0030】
また、前述と同様に活性を高くするために、耐火原料配合物に使用する金属アルミニウムの粒径は0.1mm以下とする。ここで「粒径」とは篩目のことであり、粒径が0.1mm以下とは0.1mmの篩目を通過したものをいう。
【0031】
第一の製造方法において本発明者は、図2のSi-AlN-Al-SiO系組成図から、Al/Alが18/82~80/20の範囲で、アルミニウムの酸窒化物の生成割合が高くなると考えた。そしてこれらの比を耐火原料配合物に使用する原料、すなわちA:平均粒径10μm以下の仮焼アルミナ及び/又は平均粒径10μm以下の仮焼アルミナ前駆体と、B:粒径0.1mm以下の金属アルミニウムに換算して、その質量比A/Bを0.4~7.6とした。この質量比A/Bが0.4未満では金属アルミニウムが過剰となるためれんが中のフリーの窒化アルミニウムが多くなりすぎて耐水和性の問題が生じ、さらには金属アルミニウムの添加量が多い場合には成形時に十分な密度が得られ難くなる。一方、質量比A/Bが7.6を超えると、アルミニウムの酸窒化物の割合が小さくなり耐スラグ性が不十分となる。
【0032】
また、第一の製造方法において耐火原料配合物中のA:平均粒径10μm以下の仮焼アルミナ及び/又は平均粒径10μm以下のアルミナ前駆体と、B:粒径0.1mm以下の金属アルミニウムとの合量(混合物量)が6質量%未満ではマトリックス部中のアルミニウムの酸窒化物が不足し耐スラグ性が不十分となり、38質量%を超えるとマトリックス部が多くなりすぎて耐溶銑性が不十分となる。
【0033】
仮焼アルミナを除くアルミナ質原料は、れんがの骨材部やマトリックス部を構成するために使用する。具体的には第一の製造方法では62~94質量%の範囲で使用する。
【0034】
次に第二の製造方法について説明する。
第二の製造方法は、平均粒径が10μm以下の仮焼アルミナと粒径0.1mm以下のアルミニウムの酸窒化物を使用することでマトリックス部がアルミニウムの酸窒化物を含む焼結ボンド(結合組織)を形成するため、耐水和性に優れしかも耐溶銑性と耐スラグが向上した組織となるものである。さらに、原料としてアルミニウムの酸窒化物を使用することで厚みが200mm~300mmと厚い大型れんがでもアルミニウムの酸窒化物が表層から中心部まで均一に含有されるれんがを製造することができる。
【0035】
第二の製造方法において耐火原料配合物に使用するアルミニウムの酸窒化物は、マトリックス部中に存在させるために粒径0.1mm以下のものを使用する。
また、第二の製造方法において耐火原料配合物に使用するアルミニウムの酸窒化物は焼成中に変化しないため、焼成後のれんが中の割合と耐火原料配合物中の割合はほぼ同じ割合になるため、れんが中に必要な量を使用すれば良い。より具体的には耐火原料配合物中の割合は7~50質量%とする。7質量%未満では得られたれんがの耐スラグ性が不十分となり、50質量%を超えると耐溶銑性が不足してくる。
【0036】
第二の製造方法において、平均粒径が10μm以下の仮焼アルミナは、マトリックス部を形成するために5~30質量%使用する。5質量%未満では、マトリックス部の結合組織が未発達となるためれんがが低強度となり、30質量%を超えると耐スラグ性が不十分となる。
仮焼アルミナを除くアルミナ質原料は、れんがの骨材部やマトリックス部を構成するために使用する。具体的には50~87質量%以下の範囲で使用する。
【0037】
また、第一及び第二の製造方法において、鱗状黒鉛、仮焼無煙炭、コークス、ピッチなどの炭素質原料は耐スラグ性を向上する目的で、10質量%以下で使用することも可能である。特に粒径0.2mm以下の鱗状黒鉛を1~10質量%の範囲で使用すると、耐溶銑性の低下を招くことなく耐スラグ性を向上することができる。
【0038】
一方、第一の製造方法において、金属シリコン粉末を耐火原料配合物に含有すると、アルミニウムの酸窒化物や窒化アルミニウムよりもAlN多形サイアロンが優先して生成しやすくなり耐溶銑性が不十分となる。また、第二の製造方法においては、窒化珪素が生成しやはり耐溶銑性が不十分となる。したがって本発明の製造方法では、金属シリコンを含有しない耐火原料配合物を使用することが好ましいが、2質量%以下であれば許容できる。
【0039】
また、第一及び第二の製造方法において耐火原料配合物に使用する仮焼アルミナを除くアルミナ質原料あるいは炭素質原料には少量のSiOが含有されており、これらの原料に含まれるSiOに由来するSi成分は溶銑中に溶け出すため耐溶銑性を低下させることになる。このため耐火原料配合物中のSi成分はないことが最も良いが、3質量%以下、好ましくは1質量%以下に抑えることが好ましい。この範囲であれば耐スラグ性及び耐溶銑性に与える悪影響は小さいことから使用することもできる。
【0040】
また、第一及び第二の製造方法においては前述の原料以外にも、ムライト、窒化珪素炭化珪素、酸化チタン、酸化クロム等は、粒径0.1mm超の骨材として7質量%以下かつ耐火原料配合物中のSi成分が3質量%以下、好ましくは1質量%以下の場合には、耐スラグ性及び耐溶銑性への悪影響は少ないため使用可能である。
【0041】
本発明の高炉炉床部用れんがは、以上のような耐火原料配合物に、バインダーを添加して混練し成形後、窒素雰囲気中で第一の製造方法では1300℃~1800℃で、第二の製造方法では1300℃~1600℃で焼成することによって得られる。なお、焼成後のれんが中に含まれる窒化アルミニウムは焼成温度が低すぎると多くなりすぎることがあり、その場合には焼成温度を上げることで窒化アルミニウムとアルミナとの反応が促進され未反応の窒化アルミニウムを少なく又はなくすことができる。
第一の製造方法において、焼成温度が1300℃よりも低いとアルミニウムの酸窒化物の生成が不十分であり耐溶銑性と耐スラグ性の向上効果が得られないとともに、耐水性も劣る結果になる。焼成温度の上限は1800℃で、この温度を超えるとアルミニウムの酸窒化物の粒成長が甚大に進むことによって、れんがの緻密性が低下するあるいは機械的強度が低下するなど、高炉炉床部用れんがとして好ましくない結果になる。
第二の製造方法において、焼成温度が1300℃よりも低いと仮焼アルミナの焼結が不十分であり耐溶銑性と耐スラグ性の向上効果が得られない。焼成温度の上限は1600℃で、この温度を超えると仮焼アルミナの焼結が過度に進行して粒成長を生じることにより緻密性が損なわれる。さらにアルミニウムの酸窒化物も同様に粒成長及び部分的な分解も生じるために、結果として高耐食性が損なわれる。
【発明の効果】
【0042】
本発明のれんがは、耐水和性、耐溶銑性及び耐スラグ性に優れるため、高炉炉床部の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の高炉炉床部用れんがの組織写真の一例である。
図2】Si-AlN-Al-SiO系組成図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明において耐火原料配合物に使用する平均粒径10μm以下の仮焼アルミナとは、比表面積が大きく、反応性の高いアルミナであり、易焼結性アルミナとも呼ばれることもあるが、一般に市販されているものが使用できる。また、平均粒径10μm以下のアルミナの前駆体とは、窒素雰囲気中で加熱されることで酸化アルミニウムを生成するアルミニウム化合物であり、例えば擬ベーマイド型水酸化アルミニウム、γアルミナ、アルミニウムアルコキシド等がある。
【0045】
また、仮焼アルミナを除くアルミナ質原料としては、例えば電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、及びバンケツのうち1種以上を使用することができる。ただし、SiOの含有量は少ないほど耐溶銑性が向上するので、好ましくはSiOの含有量が1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下のアルミナ質原料を使用する。またAl純度としては耐溶銑性の面から90質量%以上のものを使用することが好ましく、98質量%以上のものがより好ましい。
【0046】
本発明において耐火原料配合物に使用する粒径0.1mm以下の金属アルミニウムとしては、通常、耐火物に使用されている粉末状のものであれば問題なく使用することができる。粉末状アルミニウムはその製法の違いにより、アトマイズ粉とフレーク粉とが市販されている。本発明ではどちらのものでも使用可能である。
【0047】
本発明において、耐スラグ性をさらに向上させるための炭素質原料としては、鱗状黒鉛、仮焼無煙炭、コークス、ピッチなどを単独使用あるいは併用することもできる。ここで、炭素質原料にはバインダーとして使用するフェノール樹脂やタール等の有機バインダーは含まない。
【0048】
鱗状黒鉛は一般的に耐火物の原料として使用されているものを使用することができ、その粒径は0.2mm以下のものを使用する。前述のとおり「粒径」とは篩目のことであり、粒径が0.2mm以下とは0.2mmの篩目を通過したものをいう。なお、粉砕処理したものも使用可能である。
【0049】
本発明において耐火原料配合物に使用する粒径0.1mm以下のアルミニウムの酸窒化物としては、前述のSi-AlN-Al-SiO系組成図(図2)において、AlON/x=0.22から2Hδ/x=6までの範囲に含まれる組成のもの、具体的にはAlON固溶体、3Al・AlN、Al・AlNなどの結晶相を有するもの及びこれらの混合物であれば問題なく使用することができる。また、これらの結晶相の割合は95質量%以上で、しかもSi成分の含有量は1質量%以下であるものが好ましい。
アルミニウムの酸窒化物は、公知の製造方法で製造されたものを使用することができ、例えば金属アルミニウムと仮焼アルミナあるいはアルミナの前駆体との窒化反応で合成したAlON固溶体組成及びAl・AlN相、2Al・AlN相からなるものを使用することができる。
【0050】
本発明の高炉炉床部用れんがを高炉炉床部に使用(ライニング)する場合、従来のカーボンれんがと併用してあるいは全て置き換えて使用することができる。具体的には、羽口より下の側壁あるいは炉底に適用することができる。
【実施例
【0051】
各例のれんがは、それぞれ表1及び表2に示した耐火原料配合物にバインダーとしてレゾール型フェノール樹脂を適量添加して混練し、オイルプレスでJIS並形れんが形状の成形体を作製し、250℃で加熱処理後、窒素気流中で1400℃で焼成して得た。
【0052】
耐火原料配合物に使用した電融アルミナはAlが98質量%以上、SiOが0.5質量%以下のもので、仮焼アルミナはAlが98質量%以上、SiOが0.5質量%以下のものを、鱗状黒鉛はCが95質量%以上の天然鱗状黒鉛を、金属アルミニウムは、粒径が74μm以下のフレークタイプを使用した。AlNは市販品で純度98%以上のものを、AlN多形サイアロンは事前に反応焼結法で合成した27R型を使用した。また、アルミニウムの酸窒化物は金属アルミニウムと仮焼アルミナとの窒化反応で合成したAlON固溶体組成及びAl・AlN相からなるものを使用した。それぞれの鉱物組成の純度は95%、Si成分の含有量は1質量%未満であった。
【0053】
得られたれんがについて鉱物組成を分析するとともに、見掛気孔率及び圧縮強さを測定するとともに、耐スラグ性、耐溶銑性及び耐水和性を評価した。見掛気孔率はJIS-R2205、圧縮強さはJIS-R2206に従い測定した。鉱物種の定量はX線回折法と化学分析法を使用して行った。鉱物組成において合量が100質量%になっていないが、残部はX線で定量測定できないAlを主成分とする非晶質相であった。
【0054】
耐スラグ性及び耐溶銑性については、高炉スラグと銑鉄を誘導加熱溶解して1600℃に調整した中で、20×20×180mmの角棒形状とした試験れんがを5h侵食させて侵食厚さを計測し、比較例5のれんがの侵食厚さを100とする侵食損傷指数で評価した。具体的には、耐溶銑性は溶銑浸漬部の侵食厚さ、耐スラグ性はスラグ-溶銑境界部の最大損耗部の侵食厚さをそれぞれ測定し、比較例5の侵食厚さを100として指数で評価した。侵食損傷指数が小さいほど耐溶銑性及び耐スラグ性に優れるということである。
【0055】
耐水和性については、JIS並形の試験れんがから10×10×10mmの試料を切り出し、200mlの室温の水に漬けてpHを測定し24時間後のpHから発生したアンモニアガス量を計算した。そして比較例4のアンモニアガス量を100として指数で表示した。この指数が小さいほど耐水和性に優れるということである。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1はアルミニウムの酸窒化物としてAlONの固溶体を、実施例2はアルミニウムの酸窒化物としてAl・AlNを、実施例3はアルミニウムの酸窒化物として2Hδ/x=6をそれぞれ15質量%マトリックス部中に含有するものであり、耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性に優れている。また、実施例4は、アルミニウムの酸窒化物としてAlONの固溶体とAl・AlNとを合計で15質量%、実施例5はアルミニウムの酸窒化物としてAl・AlNと2Hδ/x=6とを合計で15質量%、それぞれマトリックス部中に含有するものであり、耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性に優れている。
【0059】
また、実施例6は、アルミニウムの酸窒化物を7質量%マトリックス部中に含む例であり、実施例7は、アルミニウムの酸窒化物を50質量%マトリックス部中に含む例であるが、いずれも、耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性に優れている。
【0060】
これに対して比較例1は、アルミニウムの酸窒化物が4質量%と本発明の下限値を下回っており耐スラグ性が大幅に低下している。また、比較例2はアルミニウムの酸窒化物が60質量%と本発明の上限値を上回っており、耐溶銑性が低下している。
【0061】
実施例8は、AlN多形サイアロンを3質量%含有する例であるが、耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性に優れている。これに対して比較例3はAlN多形サイアロンを4質量%含有する例で、耐水和性に劣る結果となった。
【0062】
実施例9及び実施例10は窒化アルミニウムを2質量%及び3質量%それぞれ含有しているが、耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性に優れている。これに対して比較例4は窒化アルミニウムを4質量%含有しており、耐水和性に劣る結果となった。なお、実施例9、実施例10、及び比較例4は未反応の窒化アルミニウムを残すために、他の実施例及び比較例よりも低温で焼成することで製造した。
【0063】
実施例11は鱗状黒鉛を含有しており、良好な耐スラグ性を示している。
【0064】
比較例5は、A:平均粒径10μm以下のアルミナ及び/又は平均粒径10μm以下のアルミナ前駆体と、B:粒径0.1mm以下の金属アルミニウムとの質量比A/Bが0.25と本発明の下限値を下回っており、窒化アルミニウムが5質量%含まれるため耐水和性が低下している。
【0065】
比較例6は、質量比A/Bが10と本発明の上限値を上回っており、耐スラグ性が低下している。
【0066】
実施例12はアルミナ前駆体として平均粒径5μmのγアルミナを、実施例13はアルミナ前駆体として平均粒径5μmの水酸化アルミニウムを使用した例であるが、平均粒径5μmの仮焼アルミナを使用した場合と同等又は同等以上の耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性となっている。これに対して、比較例7は、平均粒径20μmの仮焼アルミナを使用した例であり、アルミニウムの酸窒化物の生成量が5質量%と少ない。
【0067】
実施例14はアルミニウムの酸窒化物としてAlON固溶体を原料に使用した例であり、耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性に関して実施例1と同等又は同等以上の結果となっている。
実施例15はアルミニウムの酸窒化物としてAl・AlNを原料に使用した例であり、耐スラグ性、耐溶銑性、及び耐水和性に関して実施例2と同等又は同等以上の結果となっている。
【0068】
比較例8は、窒化珪素粒とコークス粒を充填した容器の中で焼成したものであり、窒化アルミニウムが多く生成し、耐水和性が低下している。比較例9は、平均粒径10μm以下の仮焼アルミナを使用せずに窒化珪素粒とコークス粒を充填した容器の中で焼成したものであり、金属アルミニウムの使用量に対する窒化アルミニウムの生成割合がさらに高くなり、耐水和性が低下している。
図1
図2