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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】福祉車両
(51)【国際特許分類】
   A61G 3/02 20060101AFI20220111BHJP
   A61G 3/08 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
A61G3/02
A61G3/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018008203
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2019126422
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390038092
【氏名又は名称】株式会社マツダE&T
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 剛史
【審査官】小原 正信
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188162(JP,A)
【文献】特開2005-192740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0247837(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 3/02
A61G 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内の後部座席を前方に折り畳むことで、車椅子を搭載可能な車椅子搭載スペースが設けられる福祉車両であって、
前記車椅子搭載スペースの左右側部のうち少なくとも一方には、前記車椅子の搭乗者が該車椅子に座ったまま把持可能な手摺り部材が設けられ、
前記手摺り部材は、
側面視で前記後部座席の乗降口よりも後方に配置され、前記車椅子搭載スペースの床部から立設する支柱部と、
前記支柱部の上端部から前方に延びる延伸部と、
前記乗降口を開いた状態のスライドドアの前縁部と側面視で略同じ位置を、前記延伸部の先端部から上方に延びる前側ガード部と、
前記前側ガード部の上端部から後方に延び、前記車椅子搭載スペースに搭載された前記車椅子のアームレストよりも側面視で下方に配置された把持部とを有することを特徴とする福祉車両。
【請求項2】
請求項1において、
前記手摺り部材は、前記把持部の後端部から下方に延びる後側ガード部を有することを特徴とする福祉車両。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記車椅子搭載スペースの床部には、前記支柱部の下端部を締結ボルトによって締結固定するための固定ブラケットが設けられ、
前記支柱部の下端部は、前記固定ブラケットの締結面に当接する平面部を有することを特徴とする福祉車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、福祉車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワゴンタイプやワンボックスタイプの車両において、搭乗者が着座したまま車椅子を搭載して運搬する福祉車両が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、一般に、車椅子の搭乗者が車両へ乗車しているときに走行の揺れや振動などによる不安を感じることがあるため、不安を軽減させて身体の安定を確保するために福祉車両には、手摺りを備えることが要求されている。
【0004】
特許文献1には、車室のフロアパネルにおける車椅子両側方に対応する位置に、逆U字状の手摺りがそれぞれ車体の左右側壁と平行に固定されて車椅子の搭乗者が把持することができるようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-113966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の発明では、手摺りが車椅子の両側方に車体の側壁と平行に固定されているため、搭乗者は、車椅子のアームレストよりも外側に腕を伸ばして把持する必要がある。ここで、手摺りの高さが車椅子のアームレストよりも高い場合には、搭乗者が車椅子のアームレストよりも上方に腕を持ち上げて手摺りを把持しなければならず、把持しにくいという問題があった。
【0007】
また、折り畳み式の後部座席を設けて車椅子の搭載を可能とする場合、車椅子搭載スペースに後部座席を配置して使用するときに、逆U字状の手摺りの前側の脚部が、後部座席に着座する乗員が乗降しようとする際に邪魔になる可能性があり、後部座席の快適性を損ねるという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、手摺り部材の構造を工夫することで、車椅子の搭乗者の安全と後部座席の快適性とを確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車室内の後部座席を前方に折り畳むことで、車椅子を搭載可能な車椅子搭載スペースが設けられる福祉車両を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0010】
すなわち、第1の発明は、前記車椅子搭載スペースの左右側部のうち少なくとも一方には、前記車椅子の搭乗者が該車椅子に座ったまま把持可能な手摺り部材が設けられ、
前記手摺り部材は、
側面視で前記後部座席の乗降口よりも後方に配置され、前記車椅子搭載スペースの床部から立設する支柱部と、
前記支柱部の上端部から前方に延びる延伸部と、
前記乗降口を開いた状態のスライドドアの前縁部と側面視で略同じ位置を、前記延伸部の先端部から上方に延びる前側ガード部と、
前記前側ガード部の上端部から後方に延び、前記車椅子搭載スペースに搭載された前記車椅子のアームレストよりも側面視で下方に配置された把持部とを有することを特徴とするものである。
【0011】
第1の発明では、手摺り部材の把持部を、側面視で車椅子のアームレストよりも下方に配置するようにしている。これにより、車椅子の搭乗者は、車椅子のアームレストよりも上方に腕を持ち上げることなく、より自然な姿勢で手摺り部材の把持部を把持することができる。
【0012】
また、手摺り部材の前側ガード部を、乗降口を開いた状態のスライドドアの前縁部と側面視で略同じ位置で上下方向に延ばすようにしている。これにより、車椅子搭載スペースに後部座席を配置して使用するときに、乗員が乗降口から乗降するのにあたって、手摺り部材の前側ガード部が邪魔になることはない。
【0013】
また、手摺り部材の把持部は、前側ガード部の上端部から後方に延びており、乗降口付近の掴みやすい位置に配置されている。これにより、乗員は、把持部を掴みながら、乗降口から安全に乗降することができる。また、後部座席に着座した乗員は、把持部を肘掛けとして利用することができる。
【0014】
第2の発明は、第1の発明において、
前記手摺り部材は、前記把持部の後端部から下方に延びる後側ガード部を有することを特徴とするものである。
【0015】
第2の発明では、手摺り部材の後側ガード部を、把持部の後端部から下方に延ばすようにしている。これにより、後部座席に着座した乗員の衣服が把持部の後端部に引っ掛かるのを抑えることができる。
【0016】
第3の発明は、請求項1又は2において、
前記車椅子搭載スペースの床部には、前記支柱部の下端部を締結ボルトによって締結固定するための固定ブラケットが設けられ、
前記支柱部の下端部は、前記固定ブラケットの締結面に当接する平面部を有することを特徴とするものである。
【0017】
第3の発明では、手摺り部材の支柱部に下端部に平面部を設け、平面部を固定ブラケットの締結面に当接させて、締結ボルトによって支柱部と固定ブラケットとを締結固定している。これにより、支柱部と固定ブラケットとの接触面積が増えることで、支柱部が周方向に回転するのが規制され、手摺り部材のがたつきを抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、手摺り部材の構造を工夫することで、車椅子の搭乗者の安全と後部座席の快適性とを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る福祉車両において後部座席が配置された状態の後部側面図である。
図2】後部座席が配置された状態の後部平面図である。
図3】車椅子が搭載された状態の後部側面図である。
図4】車椅子が搭載された状態の後部平面図である。
図5】手摺り部材の構成を示す側面図である。
図6】手摺り部材を固定ブラケットに取り付けるときの分解斜視図である。
図7】手摺り部材が固定ブラケットに締結された状態を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。なお、以下の説明において、車両の前方向を「前側」又は「前方」とし、車両の後方向を「後側」又は「後方」とする。
【0021】
図1及び図2に示すように、福祉車両10の車室の後部に配置された後部座席20は、背もたれ部を構成するシートバック21と、着座部を構成するシートクッション22と、シートバック21の下端部をシートクッション22の後端部に支持する支持部材23と、シートバック21の上端部に着脱可能に取り付けられたヘッドレスト24を備えている。
【0022】
シートバック21は、支持部材23に対して左右方向を向くヒンジ軸(図示省略)によって前後方向へ起倒可能に支持されている。
【0023】
フロアパネル11は、後側が緩やかに下方へ傾斜して形成されている。フロアパネル11の左右両側方には、凹部12が設けられている。凹部12には、左右一対の回動ブラケット13が設けられている。回動ブラケット13には、シートクッション22を支持するパイプ状の脚部材14が取り付けられている。
【0024】
脚部材14の下端は、回動ブラケット13に上下方向へ回動可能に取り付けられている。脚部材14の上部は、シートクッション22の前側の下面22aに当接して、シートクッション22を支持している。
【0025】
フロアパネル11の左右両側方でシートクッション22の両側方には、第1膨出部15が車室側に膨出して形成されている。また、第1膨出部15の後側には、第2膨出部16が車室側に膨出して形成されている。
【0026】
第1膨出部15には、車椅子50の搭乗者Pが把持するためのパイプ状の手摺り部材30が立設されている。なお、手摺り部材30の詳細について後述する。
【0027】
第2膨出部16には、前側に後部座席20の支持部材23の係合部23aと係合して後部座席20を保持する保持金具17が設けられている。
【0028】
次に、車椅子50を搭載可能な状態について図3及び図4に基づいて説明する。図3に示すように、詳細は省略するが、ヘッドレスト24をシートバック21の上端に当接するまで押し下げて、シートバック21をシートクッション22と略平行になるように折り畳む。なお、ヘッドレスト24が大きく上方に飛び出していない場合には、ヘッドレスト24を押し下げずに折り畳むことも可能である。
【0029】
この状態で、後部座席20を、保持金具17との係合を解除して前方に持ち上げることにより、後部座席20は、脚部材14の下端を中心に、支持部材23が上側にくる位置まで回動して、運転席及び助手席(図示省略)の後方に保持される。このようにして、後部座席20が配置されていたスペースに、車椅子を搭載可能な車椅子搭載スペースSが形成される。
【0030】
なお、後部座席20を配置した状態において、後部座席20の回動中心となる脚部材14の下端とシートクッション22の前縁22bとの間には、前後方向に所定の距離が設けられていることから、後部座席20を回動させた図3の状態において、フロアパネル11とシートクッション22の前縁22bとの間に空間が生じる。この空間にヘッドレスト24を収容できるため、後部座席20はヘッドレスト24を装着したまま折り畳んで移動させることができ、ヘッドレスト24を取り外す手間を省くことができる。
【0031】
車椅子搭載スペースSに、搭乗者Pが搭乗した車椅子50を搭載すると、図3及び図4に二点鎖線で示す状態となる。搭載された車椅子50は、フロアパネル11の傾斜によって若干後傾した状態になる。フロアパネル11とシートクッション22の前縁22bとの間に生じた空間には搭乗者Pの足先が位置する。
【0032】
すなわち、搭乗者Pの足先が前述の空間に入り込むことができるため、車椅子50をできるだけ前方に寄せて搭載することができ、車椅子50が若干後傾するだけで済むようになっている。
【0033】
〈手摺り部材について〉
図3及び図5に示すように、手摺り部材30は、車椅子搭載スペースSの床部から立設する支柱部31と、支柱部31の上端部から前方に向かって斜め上方に延びる延伸部32と、延伸部32の先端部から上方に延びる前側ガード部33と、前側ガード部33から後方に延びる把持部34と、把持部34の後端部から下方に延びる後側ガード部35とを有する。
【0034】
ここで、支柱部31、延伸部32、前側ガード部33、把持部34、後側ガード部35は、1本のパイプ状の部材を折り曲げることで一体に形成されている。
【0035】
支柱部31は、側面視で後部座席20の乗降口25よりも後方に配置されている。支柱部31には、前後方向に貫通する貫通孔31aが、上下方向に間隔をあけて2つ形成されている。支柱部31には、前後方向の両側に平面部31bが設けられている。平面部31bは、例えば、支柱部31を構成するパイプ部材の湾曲面を前後方向から押しつぶすことで形成されている。
【0036】
図6及び図7にも示すように、支柱部31は、締結ボルト40によって、フロアパネル11に設けられた固定ブラケット41に締結固定されている。固定ブラケット41は、平面視で前方に開口するように凹状に折り曲げられた板材で形成され、第1膨出部15の内部に配設されている。
【0037】
固定ブラケット41における支柱部31の平面部31bに対向する面には、支柱部31の貫通孔31aに対応して2つの溶接ナット42が設けられている。そして、支柱部31の平面部31bを固定ブラケット41の締結面に当接させた状態で、締結ボルト40を溶接ナット42に締結させることにより、支柱部31が固定ブラケット41に締結固定される。
【0038】
これにより、支柱部31の平面部31bと固定ブラケット41の締結面とが当接して接触面積が増えることで、支柱部31が周方向に回転するのが規制され、手摺り部材30のがたつきを抑えることができる。
【0039】
また、支柱部31の締結ボルト40側にも平面部31bが設けられているので、締結ボルト40を締め付けたときに、締結ボルト40と固定ブラケット41との間に支柱部31をしっかりと挟み込むことができる。
【0040】
図3及び図5に示すように、延伸部32の先端部は、乗降口25を開いた状態のスライドドア26の前縁部と側面視で略同じ位置まで延びている。そのため、延伸部32の先端部から上方に延びる前側ガード部33は、スライドドア26の前縁部と側面視で略同じ位置で上下方向に延びている。
【0041】
これにより、車椅子搭載スペースSに後部座席20を配置して使用するときに、乗員が乗降口25から乗降するのにあたって、手摺り部材30の前側ガード部33が邪魔になることはない(図2参照)。
【0042】
把持部34は、前側ガード部33の上端部から後方に向かって斜め下方に延び、車椅子搭載スペースSに搭載された車椅子50のアームレスト51よりも側面視で下方に配置されている。なお、搭乗者Pが握りやすいように、把持部34に弾性部材等を被せたり、滑り止め加工を施してもよい。
【0043】
これにより、車椅子50の搭乗者Pは、車椅子50のアームレスト51よりも上方に腕を持ち上げることなく、より自然な姿勢で手摺り部材30の把持部34を把持することができる。また、後部座席20を配置した状態において、後部座席20に着座した乗員は、手摺り部材30の把持部34を肘掛けとして利用することができる。また、把持部34が、乗降口25付近の掴みやすい位置に配置されているので、乗員は、把持部34を掴みながら、乗降口25から安全に乗降することができる。
【0044】
後側ガード部35は、把持部34の後端部から下方に延びている。また、後側ガード部35の下端部には、エッジを保護するためのキャップ36が取り付けられている。これにより、後部座席20を配置した状態において、後部座席20に着座した乗員の衣服が把持部34の後端部に引っ掛かるのを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明は、手摺り部材の構造を工夫することで、車椅子の搭乗者の安全と後部座席の快適性とを確保することができるという実用性の高い効果が得られることから、きわめて有用で産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0046】
10 福祉車両
20 後部座席
25 乗降口
26 スライドドア
30 手摺り部材
31 支柱部
31b 平面部
32 延伸部
33 前側ガード部
34 把持部
35 後側ガード部
40 締結ボルト
41 固定ブラケット
50 車椅子
51 アームレスト
P 搭乗者
S 車椅子搭載スペース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7