IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新鋼管株式会社の特許一覧 ▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-表面処理管体の製造方法及び製造設備 図1
  • 特許-表面処理管体の製造方法及び製造設備 図2
  • 特許-表面処理管体の製造方法及び製造設備 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】表面処理管体の製造方法及び製造設備
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/00 20060101AFI20220111BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20220111BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220111BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20220111BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220111BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B05D7/00 K
B05D3/12 E
B05D7/24 301F
B05D7/24 302L
B05C5/00 101
B05C11/10
C23C26/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018025209
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019136689
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】592260572
【氏名又は名称】日鉄めっき鋼管株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】柵木 優平
(72)【発明者】
【氏名】坂入 悟
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一貴
(72)【発明者】
【氏名】金澤 宏樹
【審査官】團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-053273(JP,U)
【文献】特開2012-177147(JP,A)
【文献】特開平11-156274(JP,A)
【文献】特開2007-244948(JP,A)
【文献】特開昭58-058179(JP,A)
【文献】特開2005-068178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B05C5/00-21/00
B05D1/00-7/26
C23C24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に送られる管体に塗布部で水系フッ素樹脂処理液を塗布する工程と、
前記塗布部の下流に設けられた塗布量調整部材の穴に前記管体を通す工程と、
前記塗布量調整部材の下流に設けられたエアーワイパーから前記管体の外周面にエアーを吹付ける工程と
を含み、前記水系フッ素樹脂処理液の温度を0~40℃及び前記エアーの吹付け圧を0.1~0.5MPaに制御する、表面処理管体の製造方法。
【請求項2】
前記水系フッ素樹脂処理液と接する部材はステンレス鋼製である、請求項1に記載の表面処理管体の製造方法。
【請求項3】
前記水系フッ素樹脂処理液は、フッ素樹脂を含む有機樹脂と、4A属金属化合物とを含む、請求項1又は2に記載の表面処理管体の製造方法。
【請求項4】
前記塗布量調整部材は、前記エアーワイパーから吹付けられた前記エアーが前記管体に沿って前記塗布部に向かうことを阻害する、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理管体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理管体の製造方法に用いられる表面処理管体の製造設備であって、
連続的に送られる管体に水系フッ素樹脂処理液を塗布する塗布部と、
前記塗布部の下流に設けられており、前記管体を通す穴を有する塗布量調整部材と、
前記塗布量調整部材の下流に設けられており、前記管体の外周面にエアーを吹付けるエアーワイパーと
を備え、水系フッ素樹脂処理液の温度を0~40℃及び前記エアーの吹付け圧を0.1~0.5MPaに制御する、表面処理管体の製造設備。
【請求項6】
前記水系フッ素樹脂処理液と接する部材はステンレス鋼製である、請求項5に記載の表面処理管体の製造設備。
【請求項7】
前記エアーワイパーから吹き出される前記エアーが前記管体に沿って前記塗布部に向かうことを前記塗布量調整部材が阻害する、請求項5又は6に記載の表面処理管体の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管などの管体に塗膜が形成された表面処理管体の製造方法及び製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管などの管体は、耐食性などを向上させるために、その表面に塗膜が形成されることがある。このような塗膜が形成された表面処理管体の製造方法として、例えば、特許文献1には、管体製造ラインで造管されて連続して送られる管体に塗料を塗布し、管体の外径に概ね等しい内径のスポンジ及びフェルトの穴に管体を通過させて管体表面の塗料をならす方法が提案されている。また、同特許文献には、スポンジ及びフェルトのような消耗品を不要とするために、スポンジ及びフェルトを用いることに代えて、管体の外周面にエアーを吹き付けて管体表面の塗料をならすことも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-244948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗膜が形成された表面処理管体は、雨水などにさらされる環境で使用した場合、劣化することがあるため、塗膜の耐食性を向上させることが望まれていた。
そこで、本発明者らは、まず、塗膜の種類について検討し、水系フッ素樹脂処理液を用いることによる塗膜の耐食性の向上を試みた。
しかしながら、水系フッ素樹脂処理液を用いた場合、既存の製造方法及び製造設備では、均一な厚さの塗膜が形成されないという問題があった。特に、塗膜の厚さのバラツキは、管体の周方向で大きかった。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、水系フッ素樹脂処理液を用いて均一な厚さの塗膜を形成することが可能な表面処理管体の製造方法及び製造設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、管体に水系フッ素樹脂処理液を塗布した後に、塗布量調整部材及びエアーワイパーを用いて水系フッ素樹脂処理液をならす際に、水系フッ素樹脂処理液の温度及びエアーワイパーによるエアーの吹付け圧を制御することにより、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、連続的に送られる管体に塗布部で水系フッ素樹脂処理液を塗布する工程と、
前記塗布部の下流に設けられた塗布量調整部材の穴に前記管体を通す工程と、
前記塗布量調整部材の下流に設けられたエアーワイパーから前記管体の外周面にエアーを吹付ける工程と
を含み、前記水系フッ素樹脂処理液の温度を0~40℃及び前記エアーの吹付け圧を0.1~0.5MPaに制御する、表面処理管体の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、上記の表面処理管体の製造方法に用いられる表面処理管体の製造設備であって、
連続的に送られる管体に水系フッ素樹脂処理液を塗布する塗布部と、
前記塗布部の下流に設けられており、前記管体を通す穴を有する塗布量調整部材と、
前記塗布量調整部材の下流に設けられており、前記管体の外周面にエアーを吹付けるエアーワイパーと
を備え、前記水系フッ素樹脂処理液の温度を0~40℃及び前記エアーの吹付け圧を0.1~0.5MPaに制御する、表面処理管体の製造設備である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水系フッ素樹脂処理液を用いて均一な厚さの塗膜を形成することが可能な表面処理管体の製造方法及び製造設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態による表面処理管体の製造方法が実施される製造設備を示すブロック図である。
図2図1の塗布ボックスの内部を示す説明図である。
図3】実施例で作製した表面処理管体の膜厚を測定する位置を説明するための表面処理管体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の表面処理管体の製造方法は、連続的に送られる管体に塗布部で水系フッ素樹脂処理液を塗布する工程と、塗布部の下流に設けられた塗布量調整部材の穴に管体を通す工程と、塗布量調整部材の下流に設けられたエアーワイパーから管体の外周面にエアーを吹付ける工程とを含む。
管体に塗布する塗料として、水系フッ素樹脂処理液を用いることにより、塗膜の耐食性を向上させることができる。
【0012】
水系フッ素樹脂処理液としては、特に限定されないが、フッ素樹脂を含む有機樹脂と、4A族金属化合物とを含有することが好ましい。このような成分を含有する水系フッ素樹脂処理液であれば、塗膜の耐食性だけでなく耐候性(耐紫外線性及び耐光性など)も向上させることができる。
【0013】
フッ素樹脂は、塗膜の耐候性及び耐食性を高めるための成分である。なお、有機樹脂は、塗膜の耐候性及び耐食性を顕著に低下させない限りにおいて、フッ素樹脂以外の樹脂を含んでもよい。
【0014】
フッ素樹脂は、溶剤系フッ素樹脂と水系フッ素樹脂に大別される。その中でも、揮発した溶剤の回収が問題とならない水系処理液に用いることが容易な水系フッ素樹脂を用いることが好ましい。
ここで、本明細書において「水系フッ素樹脂」とは、親水性官能基を有するフッ素樹脂のことを意味する。親水性官能基の例としては、カルボキシル基及びスルホン酸基、並びにこれらの塩などが挙げられる。カルボキシル基又はスルホン酸基の塩の例には、アンモニウム塩、アミン塩、及びアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0015】
水系フッ素樹脂は、親水性官能基の量が0.05質量%~5質量%の量であることが好ましい。親水性官能基の量が0.05質量%~5質量%の量である水系フッ素樹脂は、乳化剤をほとんど使用せずとも、エマルション状の水系フッ素樹脂処理液7aとすることができる。水系フッ素樹脂処理液に乳化剤がほとんど含まれない場合、塗膜の耐水性を向上させることができる。そして塗膜の耐水性の向上に伴い、塗膜の耐食性及び耐候性が高くなる。
【0016】
水系フッ素樹脂中の親水性官能基の含有量は、水系フッ素樹脂に含まれる親水性官能基の総モル質量を、水系フッ素樹脂の数平均分子量で除して求めればよい。カルボキシル基のモル質量は45であり、スルホン酸基のモル質量は81であるので、水系フッ素樹脂に含まれるカルボキシル基及びスルホン酸基それぞれの数を求め、それぞれにモル質量を乗じることで、水系フッ素樹脂に含まれる親水性官能基の総モル質量が求まる。水系フッ素樹脂の数平均分子量はGPCで測定され得る。
【0017】
水系フッ素樹脂におけるカルボキシル基は、管体の表面と水素結合などを形成して、塗膜と管体の表面との密着性の向上に寄与するが、H+が解離し難いため4A族金属化合物との架橋反応が生じ難い。一方、水系フッ素樹脂におけるスルホン酸基は、H+が解離し易いものの、4A族金属化合物と架橋反応せずに未反応のまま塗膜中に残存すると、水分子の吸着作用が強いため塗膜の耐水性を著しく低下させてしまうおそれがある。したがって、それぞれの特徴を活かすべく、水系フッ素樹脂には、カルボキシル基及びスルホン酸基の両方を含むことが好ましい。この場合、カルボキシル基とスルホン酸基との比率は、カルボキシル基/スルホン酸基のモル比で5以上60以下の範囲内が好ましい。
【0018】
水系フッ素樹脂の数平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは1万以上、特に好ましくは20万以上である。
水系フッ素樹脂の数平均分子量の下限が上記値であると、塗膜の耐水性を十分に高めることができ、湿気などが塗膜を貫通することによる管体の腐食を抑制することができる。また、水系フッ素樹脂の数平均分子量の下限が上記値であると、光エネルギーなどの作用により発生したラジカルがポリマー鎖の末端に作用し難い。そのため、水などとの相乗作用によって水系フッ素樹脂が加水分解されることによる塗膜の劣化を抑制することができる。水系フッ素樹脂の分子量を大きくすることにより、分子間力が強くなり、塗膜の凝集力が高まるため、塗膜の耐水性をより高めることができる。また、水系フッ素樹脂の分子量を大きくすることにより、水系フッ素樹脂の主鎖における原子間の結合を安定化して、水系フッ素樹脂の加水分解による塗膜の劣化も生じ難くなる。
【0019】
一方で、水系フッ素樹脂の数平均分子量は、好ましくは200万以下である。水系フッ素樹脂の数平均分子量の上限が200万以下であれば、水系フッ素樹脂処理液のゲル化などが生じ難く、水系フッ素樹脂処理液の保存安定性がより高まる。
【0020】
水系フッ素樹脂は、塗膜の耐食性及び耐候性をより高める観点から、水系フッ素樹脂の全質量に対して8質量%以上のフッ素(F)原子を含むことが好ましい。また、水系フッ素樹脂は、塗料化を容易にし、かつ、塗膜の密着性及び乾燥性をより高める観点から、前記フッ素樹脂の全質量に対して20質量%以下のフッ素(F)原子を含むことが好ましい。水系フッ素樹脂中のフッ素(F)原子の含有量は、蛍光X線分析装置を用いることで測定することができる。
【0021】
水系フッ素樹脂としては、フッ素含有オレフィン樹脂であることが好ましい。フッ素含有オレフィン樹脂の例としては、フルオロオレフィンと親水性官能基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。
【0022】
フルオロオレフィンの例としては、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ペンタフルオロプロピレン、2,2,3,3-テトラフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロピレン、ブロモトリフルオロエチレン、1-クロロ-1,2-ジフルオロエチレン、1,1-ジクロロ-2,2-ジフルオロエチレンなどが挙げられる。これらのフルオロオレフィンは、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。耐紫外線性をより高める観点からは、これらのフルオロオレフィンの中でも、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンなどを含むパーフルオロオレフィン、並びにフッ化ビニリデンなどが好ましい。なお、塩素イオンによる腐食を抑制する観点からは、クロロトリフルオロエチレンなどの塩素を含むフルオロオレフィンの含有量は少ない(例えば、0.1モル%以下)ことが好ましい。
【0023】
親水性官能基含有モノマーの例としては、公知のカルボキシル基含有モノマー及びスルホン酸基含有モノマーが挙げられる。これらの親水性官能基含有モノマーは、単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
カルボキシル基含有モノマーの例としては、以下の式(1)に示される不飽和カルボン酸、及びこれらのエステル又は酸無水物などを含む不飽和カルボン酸類が挙げられる。
【0025】
【化1】
【0026】
式(1)中、R1、R2及びR3は、独立に、水素原子、アルキル基、カルボキシル基又はエステル基を表し、nは0~20の整数である。
【0027】
式(1)に示される不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、5-ヘキセン酸、5-ヘプテン酸、6-ヘプテン酸、7-オクテン酸、8-ノネン酸、9-デセン酸、10-ウンデシレン酸、11-ドデシレン酸、17-オクタデシレン酸、オレイン酸などが挙げられる。
【0028】
カルボキシル基含有モノマーの別の例としては、以下の式(2)に示されるカルボキシル基含有ビニルエーテルモノマーが挙げられる。
【0029】
【化2】
【0030】
式(2)中、R4及びR5は、独立に、飽和又は不飽和の直鎖又は環状アルキル基を表し、nは0又は1、mは0又は1である。
【0031】
式(2)に示されるカルボキシル基含有ビニルエーテルモノマーの具体例としては、3-(2-アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、3-(2-アリロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3-(2-ビニロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、3-(2-ビニロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸などが挙げられる。
【0032】
スルホン酸基含有モノマーの具体例としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリロイルオキシエタンスルホン酸、3-メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸、4-メタクリロイルオキシブタンスルホン酸、3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホイン酸、メタリルオキシベンゼンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、および3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0033】
フルオロオレフィンと親水性官能基含有モノマーとの共重合体には、必要に応じて、共重合可能な他のモノマーがさらに共重合されていてもよい。上記共重合可能な他のモノマーとしては、カルボン酸ビニルエステル類、アルキルビニルエーテル類、および非フッ素系オレフィン類などが挙げられる。
【0034】
カルボン酸ビニルエステル類は、水系フッ素樹脂の相溶性及び塗膜の光沢を向上させたり、ガラス転移温度を上昇させたりすることができる。カルボン酸ビニルエステル類の例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキシルカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、パラ-t-ブチル安息香酸ビニルなどが挙げられる。
【0035】
アルキルビニルエーテル類は、塗膜の光沢及び柔軟性を向上させることができる。アルキルビニルエーテル類の例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
非フッ素系オレフィン類は、塗膜の可撓性を向上させることができる。非フッ素系オレフィン類の例としては、エチレン、プロピレン、n-ブテン、およびイソブテンなどが挙げられる。
【0037】
例えば、上記モノマーを乳化重合法で共重合させることで、親水性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体のエマルションを得ることができる。このとき、フルオロオレフィン共重合体が0.05質量%~5質量%の量の親水性官能基を有するように、原料モノマー組成物におけるフルオロオレフィンの量を調整することで、乳化剤をほとんど使用せずにフルオロオレフィン共重合体の水系エマルションを製造することができる。乳化剤をほとんど含有しない(1質量%以下)フルオロオレフィン共重合体のエマルションを用いて形成された塗膜は、乳化剤がほとんど含まれないため、乳化剤の残留による耐水性の劣化がほとんど見られず、優れた耐水性を発揮する。
【0038】
上述のような方法で作製したフッ素樹脂は、水系フッ素樹脂処理液中でも粒子状で存在すると考えられる。水系フッ素樹脂処理液におけるフッ素樹脂の平均粒径は、50nm~300nmであることが好ましい。フッ素樹脂の平均粒径を50nm以上とすることで、水系フッ素樹脂処理液の保存安定性を高めることができる。また、フッ素樹脂の平均粒径を300nm以下とすることで、フッ素樹脂の表面積を増やして互いに融着し易くさせ、低温(例えば55℃)で焼き付けたときの造膜をより容易にできる。フッ素樹脂の平均粒径は、例えば、乳化重合法でエマルションを調製する際に、せん断速度や攪拌時間を最適化することで上記範囲内に制御することができる。
【0039】
水系フッ素樹脂処理液中のフッ素樹脂の含有量は、水100質量部に対して、10質量部~70質量部であることが好ましい。フッ素樹脂の含有量が10質量部以上であると、乾燥過程において多量の水の蒸発することによる、塗膜の成膜性及び緻密性の低下がより生じ難い。一方、フッ素樹脂の含有量が70質量部以下であると、水系フッ素樹脂処理液7aの保存安定性がより高まる。
【0040】
また、水系フッ素樹脂処理液中のフッ素樹脂の含有量は、固形分(水及びその他の溶媒を除いた成分)の合計量に対して、70質量%~99質量%であることが好ましい。
【0041】
4A族金属化合物は、フッ素樹脂、特には水系フッ素樹脂中のカルボキシル基やスルホン酸基などの官能基と反応し易く、水系フッ素樹脂の硬化又は架橋反応を促進する。そのため、4A族金属化合物は、低温乾燥でも塗膜の耐水性を向上させることができる。
【0042】
4A族金属化合物としては、4A族金属の酸素酸塩、フッ化物、水酸化物、有機酸塩、炭酸塩、過酸化塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などを用いることができる。なお、酸素酸塩は、酸素と別の元素とを有する酸(炭酸や硫酸など)との塩を意味する。酸素酸塩の例としては、水素酸塩、炭酸塩、硫酸塩などが挙げられる。
【0043】
4A族金属化合物の例としては、チタン(Ti)化合物、ジルコニウム(Zr)化合物、ハフニウム(Hf)化合物などが挙げられる。これらのうち、後述する光触媒による耐候性の低下を抑制する観点から、ジルコニウム化合物が好ましい。
【0044】
4A族金属化合物は、エステル結合やホルムエーテル結合などの酸化及び加水分解などによる塗膜の耐候性の劣化を生じ難くする成分である。また、4A族金属化合物は、酸性雨に含まれる硫酸イオンや硝酸イオンなどの酸性物質によって架橋構造が切断されることによる塗膜の耐候性の劣化も生じ難くすることもできる。
また、4A族金属化合物は、イソシアネート樹脂を用いた架橋部分に形成されるウレタン結合よりも強い結合力でフッ素樹脂を架橋させるため、架橋構造の切断による塗膜の耐候性の劣化の進行もより生じ難くすることができる。
さらに、4A族金属化合物は、塗膜の密着性、耐水性及び耐変色性も向上させることもできる。
【0045】
水系フッ素樹脂処理液中の4A族金属化合物の金属換算での含有量は、水系フッ素樹脂を十分に架橋させて塗膜の密着性をより高める観点から、好ましくは1g/L以上、より好ましくは2g/L以上である。なお、塗膜が多孔質状となることによる、塗膜の耐候性の低下を抑制する観点からは、水系フッ素樹脂処理液中の4A族金属化合物の含有量は、好ましくは30g/L以下である。水系フッ素樹脂処理液中の4A族金属化合物の金属換算での含有量は、蛍光X線分析装置を用いて測定することができる。
【0046】
水系フッ素樹脂処理液は、上記の成分以外に、当該技術分野において公知の成分を含有することができる。当該成分の例としては、結合促進剤、エッチング剤、上記の成分以外の無機化合物、シランカップリング剤などの有機潤滑剤、無機潤滑剤、無機顔料、有機顔料、染料などが挙げられる。
【0047】
水系フッ素樹脂処理液は、水などの溶媒を除く固形分の含有量(固形分濃度)が、水系フッ素樹脂処理液中の全質量に対して20質量%以上であることが好ましい。固形分の含有量が20質量%以上であると、十分な膜厚を有し、十分な耐候性を有する塗膜を形成できる。なお、固形分の含有量の上限は、水系フッ素樹脂処理液の安定性の面から、40質量%以下であることが好ましい。
また、水系フッ素樹脂処理液は、pHが7.0以上9.5以下であることが好ましい。
【0048】
管体に水系フッ素樹脂処理液を塗布する際、水系フッ素樹脂処理液の温度は0~40℃、好ましくは3~30℃、より好ましくは5~20℃に制御される。このような温度範囲に制御することにより、水系フッ素樹脂処理液の粘度を管体の塗布に適した範囲(好ましくは2.0~4.7mPa・s、より好ましくは2.3~4.7mPa・s)に維持することができる。水系フッ素樹脂処理液の温度が0℃未満であると、粘度が高くなりすぎてしまい、水系フッ素樹脂処理液を管体に均一に塗布することが難しくなる。一方、水系フッ素樹脂処理液の温度が40℃を超えると、硬化時間が短くなるため、塗膜の厚さを制御することが難しくなる。
【0049】
エアーワイパーから管体の外周面にエアーを吹付ける際、エアーの吹付け圧は0.1~0.5MPa、好ましくは0.2~0.4MPaに制御される。このような範囲の吹付け圧に制御することにより、塗膜の厚さ(特に、管体の周方向における塗膜の厚さ)を均一にすることができる。エアーの吹付け圧が0.1MPa未満であると、塗膜の厚さを制御する効果が十分に得られない。一方、エアーの吹付け圧が0.5MPaを超えると、塗膜が薄くなりすぎてしまう。
【0050】
連続的に送られる管体の速度(ライン速度)は、使用する製造設備に応じて適宜調整すればよいが、一般に50~300m/分、好ましくは60~250m/分、より好ましくは70~200m/分である。
【0051】
上記のような構成を有する表面処理管体の製造方法では、塗布量調整部材及びエアーワイパーを用いて水系フッ素樹脂処理液をならす際に、水系フッ素樹脂処理液の温度及びエアーワイパーによるエアーの吹付け圧を所定の範囲に制御しているため、均一な厚さの塗膜を形成することができる。
【0052】
上記の表面処理管体の製造方法は、連続的に送られる管体に水系フッ素樹脂処理液を塗布する塗布部と、塗布部の下流に設けられており、管体を通す穴を有する塗布量調整部材と、塗布量調整部材の下流に設けられており、管体の外周面にエアーを吹付けるエアーワイパーとを備える表面処理管体の製造設備において、水系フッ素樹脂処理液の温度を0~40℃及びエアーの吹付け圧を0.1~0.5MPaに制御することによって実施することができる。
【0053】
以下、上記の表面処理管体の製造方法を実施するのに好適な製造設備について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態による表面処理管体の製造方法が実施される製造設備を示すブロック図である。図1に示す表面処理管体の製造設備は、連続的に送られる管体1aに水系フッ素樹脂処理液7aを塗布して、塗膜が形成された表面処理管体1を製造するための設備である。この表面処理管体の製造設備には、造管部2、サイジング部3、洗浄部4、予備加熱部5、第1エアーワイパー6、塗布部7、塗布ボックス8、ポンプ9、熱交換部10、塗布量調整部材11、第2エアーワイパー12、乾燥炉13及び切断機14が設けられている。
【0054】
造管部2は、管体1aを造る部分である。管体1aは、両側端を互いに突き合わせるように金属帯を湾曲させることにより断面略C字状のオープンパイプを形成し、そのオープンパイプの突合部分を溶接することで造ることができる。金属帯を構成する金属としては、任意の金属を使用することができ、例えば、普通鋼又はステンレス鋼を用いることができる。また、金属帯の表面には、Znめっき層、Alめっき層、Niめっき層、Cuめっき層、Zn-Feめっき層、Zn-Alめっき層、Zn-Al-Mgめっき層などの各種めっき層が形成されていてもよい。管体1aは、造管部2から送方向1bに連続的に送られる。
【0055】
サイジング部3は、管体1aの形状を整える部分であり、造管部2の下流側に配置されている。管体1aの形状は、管体1aの上下左右に配置されたサイジングロールの中に管体1aを通すことで整えることができる。
【0056】
洗浄部4は、管体1aの外周面の洗浄を行う部分であり、サイジング部3の下流側に配置されている。管体1aの洗浄は、管体1aに熱湯を吹き付けることなどにより行うことができる。
【0057】
予備加熱部5は、塗布部7による管体1aへの水系フッ素樹脂処理液7aの塗布の前に管体1aを予め加熱する部分であり、洗浄部4の下流側に配置されている。管体1aを予め加熱することで、管体1aの外周面に水系フッ素樹脂処理液7aをより確実に定着させることができる。管体1aの加熱は、管体1aを囲む誘導コイルに高周波電流を通し、電磁誘導により管体1aを加熱する高周波加熱により行うことができる。
【0058】
第1エアーワイパー6は、管体1aの外周面にエアーを吹き付けて管体1aの外周面に付着している水を除去するものであり、予備加熱部5の下流側に配置されている。
【0059】
塗布部7は、管体1aに水系フッ素樹脂処理液7aを塗布する部分であり、第1エアーワイパー6の下流側に配置されている。塗布部7は、管体1aの上方に配置されたノズルから水系フッ素樹脂処理液7aを滴下することにより、水系フッ素樹脂処理液7aを管体1aに塗布する。
【0060】
塗布ボックス8は、塗布部7により管体1aに水系フッ素樹脂処理液7aが塗布される場所を囲う箱体である。塗布部7から吐出されて管体1aに付着しなかった水系フッ素樹脂処理液7aは、塗布ボックス8の下部に落とされる。
【0061】
ポンプ9は、塗布ボックス8の下部に接続されており、塗布ボックス8の下部に溜められた水系フッ素樹脂処理液7aを塗布部7に戻すためのものである。
【0062】
熱交換部10は、ポンプ9と塗布部7との間に介在されており、塗布部7に戻される水系フッ素樹脂処理液7aの温度を制御するためのものである。
熱交換部10による温度の制御方法としては、特に限定されないが、例えば、熱交換器内を流通する媒体をチラー(図示していない)で冷却し、熱交換器で媒体と水系フッ素樹脂処理液7aとの間の熱交換を行うことにより、水系フッ素樹脂処理液7aを冷却することができる。したがって、水系フッ素樹脂処理液7aの温度範囲は、チラーで冷却する媒体の温度を調整することによって制御することができる。
【0063】
塗布量調整部材11は、管体1aに塗布される水系フッ素樹脂処理液7aの量を調整するための部材であり、塗布ボックス8内で塗布部7の下流側に配置されている。塗布量調整部材11については、後に詳しく説明する。
【0064】
第2エアーワイパー12は、管体1aに塗布される水系フッ素樹脂処理液7aの量を調整するものであり、塗布ボックス8の下流側に配置されている。第2エアーワイパー12は、管体1aの外周面にエアーを吹き付けて管体1aに塗布された水系フッ素樹脂処理液7aをならす。
【0065】
乾燥炉13は、管体1aに塗布された水系フッ素樹脂処理液7aを乾燥させる炉であり、第2エアーワイパー12の下流側に配置されている。水系フッ素樹脂処理液7aを乾燥させることで、管体1aの外周面に塗膜が形成された表面処理管体1となる。
【0066】
切断機14は、表面処理管体1を所定長さに切断する装置であり、乾燥炉13の下流側に配置されている。表面処理管体1は、表面処理管体1の搬送速度に同期して送方向1bに変位される切断刃により切断され得る。
【0067】
次に、図2は、図1の塗布ボックス8の内部を示す説明図である。図2に示すように、塗布ボックス8には、塗布部7の下流側に中間壁80及び出側壁81が設けられている。中間壁80には中間開口80aが設けられており、出側壁81にはボックス出口81aが設けられている。これら中間開口80a及びボックス出口81aの内径は、中間壁80及び出側壁81に管体1aが接触することを回避するように、管体1aの外径よりも大きくされている。
【0068】
出側壁81には、支持枠82が取り付けられている。支持枠82は、ボックス出口81aに連通された受入空間82aを後面側に形成する枠体である。より具体的には、支持枠82は、一対の脚部820と支持板821とを有している。支持板821と出側壁81との間に脚部820が介在されていることで、脚部820の高さに相当する奥行の受入空間82aが支持板821と出側壁81との間に形成されている。支持板821には、管体1aが支持板821に接触することを回避するように、管体1aの外径よりも大きな内径を有する枠開口821aが形成されている。
【0069】
塗布ボックス8の内部には、塗布量調整部材11としての第1及び第2塗布量調整部材111,112が設けられている。第1塗布量調整部材111は、第1取付部材111aにより中間壁80に取り付けられている。第2塗布量調整部材112は、第2取付部材112aにより支持枠82に取り付けられている。支持枠82は、支持板821の前面において第2塗布量調整部材112を支持している。
【0070】
第1及び第2塗布量調整部材111,112は、例えば、スポンジ又はフェルトなどの柔軟な素材により構成されたものである。第1及び第2塗布量調整部材111,112には、管体1aの外径と等しい内径を有する穴111b,112bが設けられている。これらの径が等しいとは、これらの径が厳密に等しいことのみならず、水系フッ素樹脂処理液7aのならしを実現できる範囲でこれらの径が等しいとみなすことができることも含む。これら第1及び第2塗布量調整部材111,112の穴111b,112bに管体1aが通されることで、管体1aに塗布された水系フッ素樹脂処理液7aがならされる。管体1aとの摺動により第1及び第2塗布量調整部材111,112が中間開口80a及び枠開口821a内に引き込まれることを回避するように、第1及び第2塗布量調整部材111,112の外寸は中間開口80a及び枠開口821aの内径よりも大きくされている。
【0071】
第2エアーワイパー12は、基体120及びカバー体121を有している。基体120とカバー体121との間にはエアーが通る通風路が形成されており、外部から供給された圧縮空気が第2エアーワイパー12の先端に設けられたノズル12aからエアーとして吹き出される。ノズル12aは管体1aの周方向全体に形成されている。
【0072】
ノズル12aからのエアーは、送方向1bとは逆の方向に沿って管体1aの外周面に向かって吹き付けられる。管体1aの外周面にエアーが吹き付けられることで、管体1aの外周面に付着する水系フッ素樹脂処理液7aがならされる。
【0073】
エアーによって水系フッ素樹脂処理液7aがならされるとき、少なくとも一部の水系フッ素樹脂処理液7aが送方向1bとは逆の方向に向かって吹き飛ばされる。第2エアーワイパー12は、エアーによって吹き飛ばされた水系フッ素樹脂処理液7aがボックス出口81aから塗布ボックス8内に入るように出側壁81の近傍に配置されている。この吹き飛ばされた水系フッ素樹脂処理液7aは、ボックス出口81aから塗布ボックス8内に進入するとともに受入空間82aで受け入れられて、塗布ボックス8の下部に落とされる。エアーによって吹き飛ばされた水系フッ素樹脂処理液7aがボックス出口81aから塗布ボックス8内に進入し易いように、ボックス出口81aの内径は、中間開口80a及び枠開口821aの内径よりも大きくされている。
【0074】
上述のようにボックス出口81aの上流側に第1及び第2塗布量調整部材111,112が配置されている。また、第1及び第2塗布量調整部材111,112の穴111b,112bの内径は管体1aの外径と実質的に等しくされている。このため、第2エアーワイパー12から吹き出されるエアーが管体1aに沿って塗布部7に向かうことが第1及び第2塗布量調整部材111,112によって阻害される。これにより、管体1aに吹き付けるエアーにより管体1aへの水系フッ素樹脂処理液7aの塗布に支障を来すことを回避できる。
【0075】
上記のような構成を有する管体の製造設備では、塗布量調整部材11及び第2エアーワイパー12が管体1aに塗布された液剤をならすので、塗布量調整部材11及び第2エアーワイパー12のいずれか一方のみで水系フッ素樹脂処理液7aのならしを行う場合と比較して、水系フッ素樹脂処理液7aのならしをより適切に行うことができる。また、第2エアーワイパー12から吹き出されるエアーが管体1aに沿って塗布部7に向かうことを塗布量調整部材11が阻害するので、管体1aに吹き付けるエアーにより管体1aへの水系フッ素樹脂処理液7aの塗布に支障を来すことを回避できる。
【0076】
また、エアーによって吹き飛ばされた水系フッ素樹脂処理液7aがボックス出口81aから塗布ボックス8内に入るように出側壁81の近傍に第2エアーワイパー12を配置しているので、水系フッ素樹脂処理液7aの使用量を抑えることができるとともに、飛び散った水系フッ素樹脂処理液7aが周囲の機器に付着することを回避することができる。
【0077】
さらに、支持枠82を塗布量調整部材11(第2塗布量調整部材112)と出側壁81との間に設け、エアーによって吹き飛ばされてボックス出口81aから塗布ボックス8内に入った水系フッ素樹脂処理液7aが支持枠82の後面側の受入空間82aを通して塗布ボックス8の下部に落とされるようにするので、塗布量調整部材11(第2塗布量調整部材112)の支持と塗布ボックス8内への水系フッ素樹脂処理液7aの受け入れとの両立を図ることができる。
【実施例
【0078】
以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
1.水系フッ素樹脂処理液の調製
フッ素系樹脂の水系エマルション(フッ素樹脂の平均粒径95nm)と、4A属金属化合物と、エッチング剤とを混合して水系フッ素樹脂処理液を調製した。
フッ素樹脂としては、親水性官能基(カルボキシル基及びスルホン酸基)の量が1.8質量%、カルボキシル基/スルホン酸基のモル比が35、数平均分子量が84万、フッ素(F)原子の量が14質量%のフッ素含有オレフィン樹脂(ヘキサフルオロプロピレン及びフッ化ビニリデンと3-(2-アリロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸及び3-メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸との共重合体)を用いた。
4A族金属としては、フッ化ジルコニウムアンモニウムを用いた。
エッチング剤としては、リン酸二水素アンモニウムを用いた。
水系フッ素樹脂処理液中のフッ素樹脂の含有量は、固形分の合計量に対して89質量%とした。
水系フッ素樹脂処理液中の4A族金属化合物の金属(Zr)換算での含有量は4.0g/Lとした。
水系フッ素樹脂処理液中のエッチング剤(リン酸二水素アンモニウム)の含有量は15g/Lとした。
水系フッ素樹脂処理液は、固形分濃度が25質量%、pHが8.1であった。
【0079】
(実施例1)
溶融Zn-6質量%Al-3質量%Mgめっき層(めっき付着量:60g/m2)が形成された普通鋼帯を用い、図1及び2に示す製造設備にて表面処理管体(外径31.8mm×長さ1.6m)の製造を行った。この製造設備では、上記の水系フッ素樹脂処理液を用い、水系フッ素樹脂処理液の温度、第2エアーワイパーによるエアーの吹付け圧、及びライン速度を表1に示す通りに設定して管体の表面に塗膜を形成した。
【0080】
(実施例2)
水系フッ素樹脂処理液の温度、第2エアーワイパーによるエアーの吹付け圧、及びライン速度を表1に示す通りに変更したこと以外は実施例1と同様にした。
(実施例3及び4)
製造する管体のサイズを外径19.1mm×長さ1.2m、水系フッ素樹脂処理液の温度、第2エアーワイパーによるエアーの吹付け圧、及びライン速度を表1に示す通りに変更したこと以外は実施例1と同様にした。
【0081】
形成された水系フッ素樹脂処理液の塗膜について、管体の長さ方向の中央部付近において、図3に示す位置A~Dの膜厚をIR膜厚計(クラボウ製RX-200)によって測定した。また、位置A~Dの膜厚の平均値も算出した。なお、図3中、位置Aは、表面処理管体の製造工程において水系フッ素樹脂処理液が滴下される位置である。その結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
水系フッ素樹脂処理液の温度及び第2エアーワイパーによるエアーの吹付け圧が所定の範囲を外れる場合、塗膜が形成されない部分が生じたり、位置A~Dにおける膜厚の差が大きくなったりするのに対し、表1に示されるように、水系フッ素樹脂処理液の温度及び第2エアーワイパーによるエアーの吹付け圧を所定の範囲に制御することにより、均一な厚さの塗膜を形成することができた。
【0084】
実施例3及び4の表面処理管体について、JIS Z2371:2000に規定される塩水噴霧試験方法に準拠して、35℃の5%NaCl水溶液を表面処理管体の表面に72時間及び240時間噴霧したときの、当該表面に発生したときの白錆の面積率(白錆発生面積率:WR)を求めることによって耐食性の評価を行ったところ、想定される耐食性よりも低くなることが確認された。
この原因について調査したところ、水系フッ素樹脂処理液と接する部材(熱交換器)の成分(Cu)が水系フッ素樹脂処理液に溶出しており、この成分が塗膜の耐食性を低下させる原因となっていることが確認された。そこで、ステンレス鋼(SUS)製の熱交換器に変更して実施例3及び4の表面処理管体の製造を行い、耐食性の評価を行った。その結果を表2に示す。この評価では、以下の基準によって判断した。評価結果は、A又はBであれば実用上問題ない。
A:WRが5%以下
B:WRが5%超10%以下
C:WRが10%超
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示されるように、SUS製の熱交換器を用いることにより、表面処理管体の耐食性を向上させることができた。
【0087】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、水系フッ素樹脂処理液を用いて均一な厚さの塗膜を形成することが可能な表面処理管体の製造方法及び製造設備を提供することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 表面処理管体
1a 管体
2 造管部
3 サイジング部
4 洗浄部
5 予備加熱部
6 第1エアーワイパー
7 塗布部
7a 水系フッ素樹脂処理液
8 塗布ボックス
9 ポンプ
10 熱交換部
11 塗布量調整部材
12 第2エアーワイパー
13 乾燥炉
14 切断機
80 中間壁
80a 中間開口
81 出側壁
81a ボックス出口
82 支持枠
82a 受入空間
111 第1塗布量調整部材
111a 第1取付部材
112 第2塗布量調整部材
112a 第2取付部材
820 脚部
821 支持板
821a 枠開口
図1
図2
図3