(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】衝撃吸収機構
(51)【国際特許分類】
B60R 19/34 20060101AFI20220111BHJP
B60R 19/03 20060101ALI20220111BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20220111BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
B60R19/34
B60R19/03 Z
F16F7/00 K
F16F7/12
(21)【出願番号】P 2018035411
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 豪軌
(72)【発明者】
【氏名】水谷 義輝
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 昇
(72)【発明者】
【氏名】三浦 寿久
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
【審査官】川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/077314(WO,A1)
【文献】米国特許第3633934(US,A)
【文献】実開昭62-146652(JP,U)
【文献】特開2007-253733(JP,A)
【文献】特開2017-007598(JP,A)
【文献】実開平02-057751(JP,U)
【文献】米国特許第5875875(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/00 - 19/56
F16F 7/00
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、
衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、
部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、
少なくとも前記衝撃吸収材の部材軸方向の側面を覆う被覆材と、
前記一方の部材に連結された第1の連結材と、
を具備し、
前記第1の連結材は、前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち他方の部材に面した平面部または凹面部と、前記他方の部材に面した凸面部または細幅部と、を有し、
当該細幅部は、前記第1の連結材の前記平面部または凹面部よりも細幅の部分であり、
衝突時に前記第1の連結材の前記平面部または凹面部が前記衝撃吸収材を押圧し、前記第1の連結材の前記凸面部または細幅部が前記側面の被覆材を押し分けることを特徴とする衝撃吸収機構。
【請求項2】
前記第1の連結材は、前記衝撃吸収材の前記一方の端部を貫通することを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収機構。
【請求項3】
前記第1の連結材は、前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面に接することを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収機構。
【請求項4】
前記第1の連結材は、棒材であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の衝撃吸収機構。
【請求項5】
前記平面部または凹面部と、前記凸面部または細幅部は、前記棒材に取付けられた別部品に形成されたことを特徴とする請求項4記載の衝撃吸収機構。
【請求項6】
前記第1の連結材は、板材であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の衝撃吸収機構。
【請求項7】
前記衝撃吸収材の部材軸方向の他方の端部は、前記他方の部材の内部空間に挿入され、
前記他方の部材に連結された第2の連結材を更に有し、
前記第2の連結材は、前記一方の部材に面した平面部または凹面部と、前記一方の部材に面した凸面部または細幅部と、を有し、
当該細幅部は、前記第2の連結材の前記平面部または凹面部よりも細幅の部分であり、
衝突時に前記第2の連結材の前記平面部または凹面部が前記衝撃吸収材を押圧し、前記第2の連結材の前記凸面部または細幅部が前記側面の被覆材を押し分け、
前記第1の連結材と前記第2の連結材は、前記衝撃吸収材の部材軸方向から見た時に異なる位置に配置されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の衝撃吸収機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に加わる衝撃を吸収する衝撃吸収機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時の衝突荷重を受けてその衝撃を吸収できるように構成された衝撃吸収機構に関する技術が、特許文献1、2に記載されている。
【0003】
特許文献1、2には、車両前方衝突時にバンパーリインフォースがサイドメンバ側に押された際に、バンパーリインフォースとサイドメンバの間に設けた木材がボルト等の連結材に押されて圧縮するかまたはせん断が生じることで衝撃が吸収される衝撃吸収機構について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/077314号
【文献】特開2017-7598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの衝撃吸収機構では、ボルト等の連結材が円形断面を有するため、衝突時にバンパーリインフォースがサイドメンバ側に押された際、ボルト等の連結材が木材を押し分けて木材が裂けるような挙動が生じ、木材が想定通りに圧縮あるいはせん断されずに意図した衝撃吸収がなされない場合がある。
【0006】
また上記の木材の側面を被覆材で被覆する場合もあるが、この場合、被覆材については連結材による圧縮を避けることが望ましい。すなわち、衝突時に被覆材が圧縮されて潰れると、連結材と木材との間に潰れた被覆材が入り込んで固まりとなり、想定した木材の圧縮あるいはせん断がされない恐れがある。
【0007】
本発明は前述した問題点に鑑みてなされたものであり、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、少なくとも前記衝撃吸収材の部材軸方向の側面を覆う被覆材と、前記一方の部材に連結された第1の連結材と、を具備し、前記第1の連結材は、前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち他方の部材に面した平面部または凹面部と、前記他方の部材に面した凸面部または細幅部と、を有し、当該細幅部は、前記第1の連結材の前記平面部または凹面部よりも細幅の部分であり、衝突時に前記第1の連結材の前記平面部または凹面部が前記衝撃吸収材を押圧し、前記第1の連結材の前記凸面部または細幅部が前記側面の被覆材を押し分けることを特徴とする衝撃吸収機構である。
【0009】
本発明では、衝撃吸収に寄与する上記した第1の連結材が円形断面でなく、上記の平面部または凹面部と、凸面部または細幅部とを有する構成となっている。これにより、衝突時に木製の衝撃吸収材が押し分けられるのを連結材の平面部等によって避ける一方、被覆材が圧縮して潰れないように連結材の凸面部等が被覆材を押し分けて裂くので、意図した衝撃吸収を実現することが可能になる。
【0010】
前記第1の連結材は、例えば前記衝撃吸収材の前記一方の端部を貫通する。あるいは前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面に接してもよい。
前者の場合、連結材により衝撃吸収材を好適に保持でき、後者の場合、衝撃吸収材に孔を空ける必要が無く簡易な構成となる。
【0011】
前記第1の連結材は例えば棒材であり、前記平面部または凹面部と、前記凸面部または細幅部は、前記棒材に取付けられた部品に形成されてもよい。あるいは、前記第1の連結材は板材であってもよい。
連結材としてはボルトなどの棒材を用いることができ、これを上記の荷重受け部材や被伝達部材に好適に固定できる。平面部等や凸面部等は棒材を加工して形成してもよいが、棒材に取付ける別部品に形成されたものであってもよい。別部品を取付けることで既製品に簡単に平面部等や凸面部等を付加できる。一方、連結材としては板材を用いることもでき、より広い面で荷重を受け止めることができる利点がある。
【0012】
前記衝撃吸収材の部材軸方向の他方の端部は、前記他方の部材の内部空間に挿入され、前記他方の部材に連結された第2の連結材を更に有し、前記第2の連結材は、前記一方の部材に面した平面部または凹面部と、前記一方の部材に面した凸面部または細幅部と、を有し、当該細幅部は、前記第2の連結材の前記平面部または凹面部よりも細幅の部分であり、衝突時に前記第2の連結材の前記平面部または凹面部が前記衝撃吸収材を押圧し、前記第2の連結材の前記凸面部または細幅部が前記側面の被覆材を押し分け、前記第1の連結材と前記第2の連結材は、前記衝撃吸収材の部材軸方向から見た時に異なる位置に配置されることも望ましい。
この場合、衝撃吸収材のせん断による衝撃吸収が可能になるが、この場合も衝撃吸収に寄与する上記した第2の連結材が上記の平面部等と凸面部等を有することで、衝突時に木製の衝撃吸収材が押し分けられるのを連結材の平面部等によって避ける一方、被覆材が圧縮して潰れないように連結材の凸面部等が被覆材を押し分けて裂くので、連結材で大きな荷重を受け止めてせん断を誘発しやすくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2を示す図。
【
図7】バンパーリインフォース11の変位とボルト3が受ける荷重の関係を示す図。
【
図14】衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2aを示す図。
【
図18】衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2bを示す図。
【
図21】衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2cを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
図1は本発明の実施形態に係る衝撃吸収機構2の配置を示す概略図である。衝撃吸収機構2は車両10に設けられ、衝突時に車両10に加わる衝撃を吸収して衝突荷重を軽減するためのものである。衝撃吸収機構2は、フロントバンパー(不図示)のバンパーリインフォース11と車両10のサイドメンバ9の間に配置される。
【0017】
図1の左右は車両前後方向に対応し、
図1の上下は車両幅方向に対応する。以下、「前」というときは車両10の前側を指し、
図1の左側に対応する。「後」は車両10の後側を指し、
図1の右側に対応する。
【0018】
バンパーリインフォース11は車両前方衝突時の荷重を受ける荷重受け部材であり、車両10の前部で車両幅方向に延びるように配置される。
【0019】
サイドメンバ9はバンパーリインフォース11で受けた衝突荷重が伝達される被伝達部材である。サイドメンバ9は車両幅方向の左右に配置され、各サイドメンバ9とバンパーリインフォース11の間に衝撃吸収機構2が設けられる。
【0020】
図2、3は衝撃吸収機構2を示す図である。
図2は衝撃吸収材1の部材軸方向に沿った鉛直方向の断面を示す図である。
図3(a)、(b)はそれぞれ
図2の線a-a、線b-bによる水平方向の断面を示す図であり、
図3(c)は
図3(a)の線c-cに沿った鉛直方向の断面を示す図である。なお
図2は
図3(a)の線d-dに沿った断面である。
【0021】
図2、3に示すように、衝撃吸収機構2は、衝撃吸収材1、ボルト3、被覆材7等を有する。
【0022】
衝撃吸収材1は木製の柱状部材(木材)であり、部材軸方向を車両前後方向(
図2、
図3(a)、(b)の左右方向に対応する)として、部材軸方向の両端部がそれぞれバンパーリインフォース11側、サイドメンバ9側となるように配置される。また、本実施形態ではこの部材軸方向が木材の年輪の軸心方向(木材の繊維方向)に対応している。
【0023】
衝撃吸収材1は被覆材7で覆われる。被覆材7は例えば樹脂製であり、衝撃吸収材1の部材軸方向の側面および部材軸方向の両端面を覆う。すなわち、被覆材7は衝撃吸収材1の全面を覆っている。
【0024】
被覆材7で覆われた衝撃吸収材1の前端部はバンパーリインフォース11に当接し、ブラケット13によりバンパーリインフォース11に固定される。
【0025】
サイドメンバ9の前端部は筒状となっており、被覆材7で覆われた衝撃吸収材1の後端部(一方の端部)はサイドメンバ9(一方の部材)の筒状部分の内部空間に挿入される。
【0026】
ボルト3は金属製の頭付ボルトであり、衝撃吸収材1の部材軸方向と直交する面(
図3(c)に示す面)の一部に接触するように配置される。ボルト3はサイドメンバ9の前端部に連結される棒材(連結材)である。ボルト3は車両幅方向(
図3(a)、(b)の上下方向に対応する)に2ケ所配置されるが、その本数や配置は特に限定されない。
【0027】
ここで、衝撃吸収材1の部材軸方向から見た時(
図3(a)の矢印参照)に、ボルト3とバンパーリインフォース11(他方の部材)の間では、ボルト3と重複する位置にサイドメンバ9に連結された他のボルト3等が存在せず、このボルト3が衝撃吸収に大きく寄与することとなる。
【0028】
ボルト3の軸部はサイドメンバ9の下面からサイドメンバ9、被覆材7および衝撃吸収材1を貫通し、軸部の先端がナット4によってサイドメンバ9の上面に固定される。これによりボルト3がサイドメンバ9の前端部に固定され、衝撃吸収材1がボルト3によって保持される。
【0029】
ボルト3の軸部の長手方向の中央部には、バンパーリインフォース11側に面した平面部5が形成される。平面部5は、
図2において衝撃吸収材1を貫通している範囲に形成される。平面部5はボルト3の軸部を加工して軸部と一体に形成され、ボルト3の軸部の長手方向と直交する断面(以下、単に断面という)が、円の一部を直線で切り取った形状となる。
【0030】
一方、ボルト3の軸部の長手方向の両端部では、バンパーリインフォース11側に面した凸面部6が形成される。凸面部6は、
図2において少なくとも被覆材7とサイドメンバ9を貫通する範囲に形成される。なお本実施形態では凸面部6がさらに衝撃吸収材1の一部の範囲にも若干延長される。凸面部6ではボルト3の軸部の断面が円形となり、バンパーリインフォース11側に円弧状の凸面部6が形成される。
【0031】
このボルト3は、例えば
図4(a)に示すように、ボルト3の軸部を、平面部5を有する中央部31と凸面部6を有する両端部32とで別体に製作する。一方の端部32にはボルト3の頭部が設けられる。
【0032】
そして、
図4(b)に示すように平面部5の上記断面に対応した平面形状を有する衝撃吸収材1の貫通孔に中央部31を通し、
図4(c)に示すように中央部31に両端部32を取付ければよい。被覆材7とサイドメンバ9および衝撃吸収材1の前記した一部には凸面部6の上記断面に対応した円形平面の孔が形成される。こうして衝撃吸収材1等を貫通してボルト3を配置でき、この後前記したナット4が締め込まれる。
【0033】
図5は矢印Aに示す方向に衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2を示す図である。
図5(a)~(c)はそれぞれ前記の
図2、
図3(a)、(b)で示した断面にそれぞれ対応する。
【0034】
図5(b)に示すように、矢印Aに示す方向に衝突荷重が加わりバンパーリインフォース11がサイドメンバ9側に押されると、その初期段階において、衝撃吸収材1のうち車両幅方向においてボルト3と対応する位置にある部分が、平面部5によって前方に押圧されて圧縮される。これにより衝撃吸収材1に局所的な圧縮が発生して木材が硬化し、圧縮部19が形成される。以降、衝撃吸収材1は、ボルト3の平面部5によってせん断変形しながらサイドメンバ9の内部に進入する。
【0035】
被覆材7は衝撃吸収材1の側方への膨れを防いでボルト3が受け止める衝突荷重の低下を防止するが、衝撃吸収材1の側面の被覆材7のうち車両幅方向においてボルト3と対応する位置にある部分は、
図5(c)に示すように凸面部6によって押し分けられて裂かれ、裂かれた被覆材7がサイドメンバ9の内部に進入する。
【0036】
以上の過程において、ボルト3の平面部5は前記のように衝撃吸収材1を押し分けることなく衝撃吸収材1を好適に圧縮してより大きな荷重を安定して受け止めることができる。一方、ボルト3の凸面部6では衝撃吸収材1の側面の被覆材7を押し分けることにより、ボルト3が被覆材7を圧縮するのを防ぎ、被覆材7が潰れて固まって衝撃吸収材1の圧縮が妨げられることがなくなる。
【0037】
すなわち、凸面部6が仮に前記の平面部5となっていると、
図6に示すように衝撃吸収材1の側面の被覆材7が平面部5により圧縮されて潰され、ボルト3と衝撃吸収材1との間に入り込んで衝撃吸収材1の圧縮を妨げ、結果として当初の想定より木材の圧縮範囲が縮小されてしまい、充分な衝撃吸収効果が得られなくなる恐れがあるが、本実施形態ではそのような恐れが生じない。
【0038】
図7は、上記の衝突過程におけるバンパーリインフォース11の変位とボルト3が受ける荷重(衝撃吸収材1の圧縮によって吸収される荷重)の関係を、縦軸を荷重、横軸をバンパーリインフォース11のサイドメンバ9側への変位として示した図である。
【0039】
本実施形態の衝撃吸収機構2では、ボルト3が前記の平面部5と凸面部6を有するので、衝撃吸収材1に用いた木材が裂けるのを防止でき、また衝突時に被覆材7が圧縮されて潰れ、これが衝撃吸収材1の圧縮を妨げることもない。従って、円形断面のボルトを用いた従来例では点線21に示すように木材が裂けることにより低荷重で変位が進むのに比べ、本実施形態ではバンパーリインフォース11の移動中、実線23に示すように大きな荷重を安定して受け止めることができる。衝撃吸収材1の衝撃吸収量は実線23で示す荷重の変位による積分値で表され、従来例と比較して大幅に増加する。
【0040】
以上説明したように、第1の実施形態によれば、ボルト3が一様な円形断面でなく、前記の平面部5と凸面部6を有しており、衝突時に衝撃吸収材1が押し分けられるのをボルト3の平面部5によって避ける一方、被覆材7が圧縮して潰れないようにボルト3の凸面部6が被覆材7を押し分けて裂くので、意図した衝撃吸収を実現することが可能になる。すなわち、衝突初期に圧縮部19を確実に形成し、より大きな荷重を受け止めることができる。その後は衝撃吸収材1がボルト3によってせん断変形しながら安定して破壊が進み、衝突荷重の変動が少ないという木材の利点を生かしてより大きな衝撃を吸収できる。
【0041】
しかしながら本発明はこれに限らない。例えば本実施形態では衝撃吸収材1の年輪の軸心方向が部材軸方向に対応しているが、部材軸方向と異なる方向であってもよい。
【0042】
また本実施形態では金属製のボルトを連結材として用いているが、連結材はサイドメンバ9に連結されたものであればよく、ボルトに限らずピン等でもよい。その材質も金属に限らず、セラミックなどでもよい。
【0043】
また、連結材の断面形状も第1の実施形態で説明したものに限らない。
図8は平面部5の断面の例を示す図である。例えば
図8(a)は半円形と矩形とを組み合わせた形状であり、矩形部分に平面部5を有する。また
図8(b)は四角形状、
図8(c)は六角形状であり、それぞれ多角形状の断面を有し、前記と同様に平面部5を有する。
【0044】
また、平面部5の代わりに凹面部を設けても前記と同様の効果が得られ、例えば
図9(a)のように円の一部を円弧で切り取った断面形状としたり、
図9(b)のように矩形の一部を円弧で切り取った断面形状として凹面部8を設けてもよい。また凹面部は円弧状の曲面に限らず、例えば
図9(c)のように、矩形の一部を楔形に切り取った断面形状とし、直線によって楔状に形成された凹面部8を設けてもよい。
【0045】
さらに、凸面部6の断面形状も特に限定されない。例えば
図10(a)は四角形状、
図10(b)は六角形状であり、それぞれ多角形状の断面を有する。この時、バンパーリインフォース11側に三角形状に突出した凸面部6が形成される。
【0046】
さらに、平面部5と凸面部6との間で断面形状を連続的に変化させてもよい。この場合も、凸面部6は、ボルト3の軸部の長手方向の両端部の少なくとも被覆材7とサイドメンバ9を貫通している範囲に形成されるものとする。
【0047】
また、
図11(a)に示すように、平面部5と凸面部6を一体化した軸部を有するボルト3aを用いてもよい。この場合、
図11(b)に示すように衝撃吸収材1の貫通孔の形状をボルト3の凸面部6の断面に合わせ、平面部5と衝撃吸収材1との間に隙間12ができるようにしておく。この例では前記のようにボルト3の軸部を分割する必要がなく、平面部5と凸面部6を有する1本のボルト3aを衝撃吸収材1等の貫通孔に通すだけでよいので、ボルト3aの取付けが容易になる。
【0048】
また
図12(a)に示すように、ボルト3bの軸部の周囲に別部品として平面部5および凸面部6を有するカラー25を取付けてもよい。これにより既製のボルト3bに簡単に平面部5および凸面部6を付加できる。
図12(b)、(c)はそれぞれ
図12(a)の線e-e、線f-fによる断面であり、カラー25の長手方向に直交する断面は、長手方向の中央部において円の一部を直線で切り取った形状、両端部において円形となり、第1の実施形態と同様の平面部5と凸面部6が形成される。
【0049】
以下、本発明の別の例について、第2~第4の実施形態として説明する。各実施形態はそれまでに説明した実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、第1の実施形態も含め、各実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0050】
[第2の実施形態]
図13は第2の実施形態の衝撃吸収機構2aを示す図である。
図13(a)は衝撃吸収材1の部材軸方向に沿った鉛直方向の断面を示す図であり、
図13(b)、(c)はそれぞれ
図13(a)の線f-f、線g-gによる水平方向の断面を示す図である。なお
図13(a)は
図13(b)の線h-hに沿った断面である。
【0051】
この衝撃吸収機構2aは、衝撃吸収材1の後端面の後方に前記のボルト3a(
図11参照)が設けられ、ボルト3aの凸面部6が衝撃吸収材1の後端面に被覆材7を介して接する点で第1の実施形態と異なる。
【0052】
図14は矢印Aに示す方向に衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2aを示す図である。
図14(a)、(b)はそれぞれ前記の
図13(b)、(c)で示した断面にそれぞれ対応する。
【0053】
衝突荷重が加わりバンパーリインフォース11がサイドメンバ9側に押された場合、本実施形態でも、初期段階でボルト3aの平面部5によって衝撃吸収材1に局所的な圧縮が発生し、木材が硬化して圧縮部19が形成され、その後、衝撃吸収材1がボルト3aの平面部5によってせん断変形しながらサイドメンバ9の内部に進入する。また、衝撃吸収材1の側面の被覆材7がボルト3aの凸面部6によって押し分けられて裂かれ、裂かれた被覆材7がサイドメンバ9の内部に進入する。
【0054】
従って、第2の実施形態でも、ボルト3aの平面部5と凸面部6が前記したボルト3の平面部5と凸面部6と同様に機能し、意図した衝撃吸収を実現することが可能になって第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0055】
さらに第2の実施形態では、ボルト3aを衝撃吸収材1に貫通させないので、衝撃吸収材1等に孔を空ける必要が無く簡易な構成となる。また圧縮部19を長くとることができ、より多くの荷重を吸収できる。一方、第1の実施形態のようにボルト3が衝撃吸収材1を貫通する場合、衝撃吸収材1の保持を好適に行うことができる。
【0056】
なお、第2の実施形態では衝撃吸収材1の全面を被覆材7で覆っているが、これに代えて、
図15の衝撃吸収機構2a’のように筒状のケーシング7a(被覆材)で衝撃吸収材1の部材軸方向の側面のみを被覆してもよい。ケーシング7aは、前記した衝突時に凸面部6で押し分けて裂くことのできる材質であればよく、例えばアルミ等の金属が用いられる。同様のケーシング7aは、前記した第1の実施形態においても使用可能である。
【0057】
[第3の実施形態]
図16、17は第3の実施形態に係る衝撃吸収機構2bを示す図である。
図16は衝撃吸収材1の部材軸方向に沿った鉛直方向の断面を示す図である。
図17(a)、(b)はそれぞれ
図16の線i-i、線j-jによる水平方向の断面を示す図であり、
図17(c)は
図17(a)の線k-kに沿った鉛直方向の断面を示す図である。なお
図16は
図17(a)の線m-mに沿った断面である。
【0058】
この衝撃吸収機構2bは、連結材としてボルト3aの代わりに板材3cが用いられる点で第2の実施形態と異なる。
【0059】
板材3cはサイドメンバ9の前端部に連結され、バンパーリインフォース11側に平面部5aを有し、この平面部5aが衝撃吸収材1の後端面に被覆材7を介して接する。また、板材3cの平面部5aは、サイドメンバ9の内面近傍の両端部に細幅部29を有する。細幅部29は平面部5aよりも細幅の部分であり、本実施形態では平面部5aに開口部27を設けることによって形成される。
【0060】
図18は矢印Aに示す方向に衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2bを示す図である。
図18(a)、(b)は、それぞれ
図17(a)、(b)で示した断面にそれぞれ対応する。
【0061】
衝突荷重が加わりバンパーリインフォース11がサイドメンバ9側に押された場合、本実施形態でも、初期段階で板材3cの平面部5aによって衝撃吸収材1に局所的な圧縮が発生し、木材が硬化して圧縮部19が形成され、その後、衝撃吸収材1が板材3cの平面部5aによってせん断変形しながらサイドメンバ9の内部に進入する。また、衝撃吸収材1の側面の被覆材7が細幅部29によって押し分けられて裂かれ、裂かれた被覆材7が細幅部29の間の開口部27(
図17(b)参照)あるいは平面部5aの両側を通ってサイドメンバ9の内部に進入する。
【0062】
このように、第3の実施形態では、衝突時に板材3cの平面部5aと細幅部29が前記したボルト3の平面部5と凸面部6と同様に機能することにより、第1の実施形態と同様の効果が得られる。また板材3cを用いることで、広い面で荷重を受け止めることができる。なお、第1や第2の実施形態においても、
図19のボルト3a’に示すように、前記したボルト3aの凸面部6に代えて開口部27を設け、平面部5より細幅の細幅部29を形成したものを用いてもよい。
【0063】
[第4の実施形態]
図20は第4の実施形態の衝撃吸収機構2cを示す図である。
図20(a)は衝撃吸収機構2cの水平方向の断面を示す図であり、ボルト3の平面部5に対応する高さにおける断面である。
図20(b)、(c)はそれぞれ
図20(a)の線n-n、線p-pによる鉛直方向の断面を示す図である。
【0064】
この衝撃吸収機構2cは、衝撃吸収材1のせん断による衝撃吸収を行う点で第1の実施形態と異なる。
【0065】
すなわち、衝撃吸収機構2cでは、被覆材7で覆われた衝撃吸収材1の前端部(他方の端部)が筒状のバンパーリインフォース11aの後壁に設けられた開口110からバンパーリインフォース11a(他方の部材)の内部空間に挿入される。
【0066】
また衝撃吸収機構2cはバンパーリインフォース11aに連結されるボルト3(連結材)を有し、当該ボルト3の軸部がバンパーリインフォース11aの下面からバンパーリインフォース11a、被覆材7および衝撃吸収材1を貫通し、軸部の先端がナット4によってバンパーリインフォース11aの上面に固定される。このボルト3はサイドメンバ9側に凸面部6および平面部5が位置するように配置され、衝撃吸収材1の前端面の被覆材7とバンパーリインフォース11aの前壁の間には隙間が設けられる。
【0067】
衝撃吸収材1の後端部は前記と同様サイドメンバ9の前端部に挿入され、ボルト3の軸部がサイドメンバ9の下面からサイドメンバ9、被覆材7および衝撃吸収材1を貫通し、軸部の先端がナット4によってサイドメンバ9の上面に固定される。
【0068】
ここで、部材軸方向から見た時(
図20(a)の矢印参照)に、衝撃吸収材1の前端部のボルト3と後端部のボルト3は異なる位置に配置され、これらの平面部5同士が向き合わないようになっている。また部材軸方向から見た時に、衝撃吸収材1の前端部のボルト3とサイドメンバ9の間では、前端部のボルト3と重複する位置にバンパーリインフォース11aに連結された他のボルト3等が存在しない。
【0069】
またバンパーリインフォース11aの前壁において衝撃吸収材1の後端部のボルト3と車両幅方向に対応する位置には開口111が形成される。
【0070】
図21は矢印Aに示す方向に衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2cを示す図であり、
図20(a)に示した断面に対応する。
【0071】
図21に示すように衝突荷重が加わりバンパーリインフォース11aがサイドメンバ9側に押されると、衝突初期には第1の実施形態と同様に衝撃吸収材1の後端部のボルト3の平面部5と凸面部6による衝撃吸収材1の圧縮と被覆材7の押し分けが生じる。また、衝撃吸収材1の前端部のボルト3も、その平面部5により衝撃吸収材1を後方に押圧して圧縮し、また凸面部6により衝撃吸収材1の側面の被覆材7を押し分ける。
【0072】
ただし本実施形態では、その後、衝撃吸収材1の前端部のボルト3によって衝撃吸収材1が後方に押され、衝撃吸収材1の後端部のボルト3によって衝撃吸収材1が前方に押されることで、前端部のボルト3と後端部のボルト3の車両幅方向の間で衝撃吸収材1のせん断が誘発される。
【0073】
そして、前端部のボルト3と車両幅方向に対応する位置の衝撃吸収材1-1は、サイドメンバ9の内部を後方に進む。一方、後端部のボルト3と車両幅方向において対応する位置の衝撃吸収材1-2は、バンパーリインフォース11a内を開口111に向かって前方に進む。
【0074】
第4の実施形態では、せん断の発生によって衝撃が吸収され、サイドメンバ9側に伝達される衝突荷重を軽減することができる。この場合も衝突時に衝撃吸収材1が押し分けられるのを各ボルト3の平面部5によって避ける一方、被覆材7が圧縮して潰れないように各ボルト3の凸面部6が被覆材7を押し分けて裂くことで、ボルト3によって大きな荷重を受け止めて衝撃吸収材1のせん断を誘発しやすくなり、意図した衝撃吸収が実現できる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0076】
例えば前記の各実施形態では車両10のバンパーリインフォース11とサイドメンバ9の間に衝撃吸収機構を設置しているが、衝撃吸収機構は車両10において衝突時の荷重を受ける荷重受け部材と当該荷重が伝達される被伝達部材の間に設ければよく、上記のバンパーリインフォース11とサイドメンバ9の間に設けるものに限らない。例えば車両側突時の衝突荷重を軽減することを目的として、車両側部のボディー本体と車両内部のバッテリーケース等の間に設けてもよい。また車両10の種類も特に限定されない。
【符号の説明】
【0077】
1:衝撃吸収材
2、2a、2a'、2b、2c:衝撃吸収機構
3、3a、3a'、3b:ボルト
3c:板材
4:ナット
5、5a:平面部
6:凸面部
7:被覆材
7a:ケーシング
8:凹面部
9:サイドメンバ
10:車両
11、11a:バンパーリインフォース
12:隙間
13:ブラケット
19:圧縮部
25:カラー
27:開口部
29:細幅部
31:中央部
32:端部
110、111:開口