IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図1
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図2
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図3
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図4
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図5
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図6
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図7
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図8
  • 特許-センサ素子及びガスセンサ 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】センサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220111BHJP
【FI】
G01N27/416 376
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018044958
(22)【出願日】2018-03-13
(65)【公開番号】P2019158554
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 明良
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-116371(JP,A)
【文献】特開平10-267893(JP,A)
【文献】特開2002-181764(JP,A)
【文献】特開2016-014659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する混成電位型のセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質体を有する素子本体と、
前記素子本体の外表面に配設され、PtとAuとを含む検知電極と、
前記素子本体に配設された参照電極と、
前記素子本体の外側に配設された検知電極用接続端子と、
Ptを含み、前記素子本体の外側に配設され前記検知電極と前記検知電極用接続端子とを導通させる検知電極用リード部と、
前記検知電極用リード部と前記素子本体との間に配設されて両者を絶縁する下側絶縁層と、
前記検知電極用リード部の表面を被覆し、気孔率が10%以下である上側絶縁層と、
を備え
前記検知電極用リード部は、前記下側絶縁層及び前記上側絶縁層で囲まれて外部に露出せず、
前記下側絶縁層は、前記検知電極用リード部の全体に亘って前記検知電極用リード部と前記素子本体との間を絶縁している、
センサ素子。
【請求項2】
前記上側絶縁層は、厚さが1μm以上である、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記上側絶縁層は、厚さが5μm以上である、
請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記上側絶縁層は、厚さが40μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記上側絶縁層は、絶縁性を有する金属酸化物を含むセラミックスである、
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項6】
絶縁性を有する前記金属酸化物は、アルミナ,スピネル,チタニア,ムライト,ホルステライトのうち1以上である、
請求項5に記載のセンサ素子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えたガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガスなどの被測定ガスにおけるアンモニア濃度などの特定ガス濃度を検出するセンサ素子が知られている。例えば、特許文献1には、酸素イオン伝導性の固体電解質に設けられた検知電極及び基準電極を備えた混成電位型のセンサ素子が記載されている。検知電極は、センサ素子の表面に配設されている。このセンサ素子は、各々の電極に対応する接続端子及び配線パターンが形成されている。このセンサ素子では、検知電極と基準電極との間に、被測定ガス中の特定ガス濃度に基づく電位差が生じるため、これを利用して特定ガス濃度を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-116371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のように検知電極及び配線パターン(リード部)を備えたセンサ素子において、本来出力されるはずの電位差(起電力)が出力されない(起電力が低くなる)場合、すなわち起電力に異常が生じる場合があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、起電力の異常が生じにくいセンサ素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、センサ素子が長期間使用されるにつれて、検知電極中のAuが減少する場合があることを見いだした。本発明者らは、検知電極中のAuが蒸発してPtを含むリード部に析出(付着)していることが起電力の異常の原因であると考え、リード部へのAuの付着を抑制すべくリード部の表面を絶縁層で被覆したところ起電力の異常を抑制できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のセンサ素子は、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する混成電位型のセンサ素子であって、
酸素イオン伝導性の固体電解質体を有する素子本体と、
前記素子本体の外表面に配設され、PtとAuとを含む検知電極と、
前記素子本体に配設された参照電極と、
前記素子本体の外側に配設された検知電極用接続端子と、
Ptを含み、前記素子本体の外側に配設され前記検知電極と前記検知電極用接続端子とを導通させる検知電極用リード部と、
前記検知電極用リード部と前記素子本体との間に配設されて両者を絶縁する下側絶縁層と、
前記検知電極用リード部の表面を被覆し、気孔率が10%以下である上側絶縁層と、
を備えたものである。
【0008】
このセンサ素子では、気孔率が10%以下という緻密な上側絶縁層によって検知電極用リード部の表面が被覆されている。そのため、このセンサ素子では、検知電極中のAuが蒸発して検知電極用リード部に付着する現象の発生を抑制でき、起電力の異常が生じにくくなる。
【0009】
本発明のセンサ素子において、前記上側絶縁層は、厚さが1μm以上であってもよい。上側絶縁層の厚さが1μm以上であれば、検知電極用リード部へのAuの付着をより確実に抑制できる。上側絶縁層は、厚さが5μm以上であってもよい。
【0010】
本発明のセンサ素子において、前記上側絶縁層は、厚さが40μm以下であってもよい。上側絶縁層の厚さが40μm以下であれば、固体電解質体と上側絶縁層との熱膨張差に起因するセンサ素子の割れを抑制できる。
【0011】
本発明のセンサ素子において、前記上側絶縁層は、絶縁性を有する金属酸化物を含むセラミックスであってもよい。また、絶縁性を有する前記金属酸化物は、アルミナ,スピネル,チタニア,ムライト,ホルステライトのうち1以上であってもよい。これらの材料は、上側絶縁層の材料に適している。
【0012】
本発明のガスセンサは、上述したいずれかの態様のセンサ素子を備えたものである。そのため、このガスセンサは、上述した本発明のセンサ素子と同様の効果、例えば起電力の異常が生じにくくなる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ガスセンサ30の構成の概略を示す説明図。
図2】多孔質保護層48を除いたセンサ素子31の上面図。
図3図2のA-A断面図。
図4】実験例1~6のセンサ素子31の出力特性を示すグラフ。
図5】検知電極除去後の実験例1~6のセンサ素子31の出力特性を示すグラフ。
図6】耐久試験後の実験例1~6のセンサ素子31の出力特性を示すグラフ。
図7】耐久試験前の実験例6の検知電極51の表面のSEM画像。
図8】耐久試験後の実験例6の検知電極51の表面のSEM画像。
図9】耐久試験後の実験例1の検知電極51の表面のSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるガスセンサ30の構成の概略を示す説明図である。図2は、多孔質保護層48を除いたセンサ素子31の上面図である。図3は、図2のA-A断面図である。センサ素子31は長尺な直方体形状をしており、図1~3に示すように、センサ素子31の素子本体40の長手方向を前後方向(長さ方向)とし、素子本体40の積層方向(厚さ方向)を上下方向とし、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向(幅方向)とする。
【0015】
ガスセンサ30は、例えば車両のエンジンの排ガス管などの配管に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれる特定ガスの濃度である特定ガス濃度を測定するために用いられる。特定ガスとしては、例えばアンモニア(NH3),一酸化炭素(CO),炭化水素(HC)などが挙げられる。本実施形態では、ガスセンサ30は特定ガス濃度としてアンモニア濃度を測定するものとした。ガスセンサ30は、センサ素子31を備えている。
【0016】
センサ素子31は、素子本体40と、検知電極51と、参照電極53と、検知電極用リード部57と、検知電極用接続端子58と、ヒータ62と、ヒータ端子68と、下側絶縁層71と、上側絶縁層72と、を備えている。
【0017】
素子本体40は、それぞれが酸素イオン伝導性の固体電解質体からなる第1基板層41と、第2基板層42と、スペーサ層43と、固体電解質層44との4つの層を備えている。素子本体40は、この4つの層41~44が、図1における下側からこの順に積層された板状の構造を有している。これら4つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。素子本体40の前端側は、被測定ガスにさらされる。また、素子本体40のうち、第2基板層42の上面と、固体電解質層44の下面との間であって、側部をスペーサ層43の側面で区画される位置に基準ガス導入空間46が設けられている。基準ガス導入空間46は、センサ素子31の後端側に開口部が設けられている。基準ガス導入空間46には、アンモニア濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。酸素イオン伝導性の固体電解質としては、ジルコニア(ZrO2)が挙げられる。各層41~44は、ジルコニアを主成分としていてもよい。素子本体40の各層41~44は、安定化剤としてイットリア(Y23)を3~15mol%添加したジルコニア固体電解質からなる基板(イットリア安定化ジルコニア(YSZ)基板)としてもよい。
【0018】
検知電極51は、素子本体40の外表面に配設されている。より具体的には、検知電極51は、素子本体40のうち固体電解質層44の上面の前端側に配設されている。検知電極51は多孔質の電極である。この検知電極51と、固体電解質層44と、参照電極53とによって、混成電位セル55が構成されている。混成電位セル55では、検知電極51周辺に被測定ガスが存在すると、貴金属,固体電解質,及び被測定ガスの三相界面で被測定ガス中の特定ガス(ここではアンモニア)が電気化学反応を起こす。これにより、検知電極51において被測定ガス中のアンモニア濃度に応じた混成電位(起電力EMF)が生じる。そして、検知電極51と参照電極53との間の起電力EMFの値が被測定ガス中のアンモニア濃度の導出に用いられる。検知電極51は、アンモニア濃度に応じた混成電位を生じ、アンモニア濃度に対する検出感度を有する材料を主成分として構成されている。具体的には、検知電極51は、貴金属としてPt(白金)とAu(金)とを含んでいる。検知電極51は、Au-Pt合金を主成分とすることが好ましい。ここで、検知電極51の主成分とは、検知電極51に含まれる成分全体のうち存在量(atm%,原子量比)が最も多い成分をいうものとする。検知電極51は、X線光電子分光法(XPS)を用いて測定された濃化度(=Auの存在量[atom%]/(Auの存在量[atom%]+Ptの存在量[atom%])×100)が、例えば40%以上である。濃化度は45%以上であってもよい。検知電極51の濃化度とは、検知電極51の貴金属粒子表面の表面濃化度である。例えば濃化度が50%である場合は、検知電極51を構成する貴金属粒子の表面のうち、Ptが露出している部分とAuがPtを被覆している部分との面積が等しいことを意味する。Auの存在量[atom%]は、検知電極51の貴金属粒子表面のAu存在量として求める。同様に、Ptの存在量[atom%]は、検知電極51の貴金属粒子表面のPt存在量として求める。貴金属粒子表面は、検知電極51の表面(例えば図1の上面)としてもよいし、検知電極51の破断面としてもよい。検知電極51の表面(図1の上面)が露出している場合には、その表面で濃化度を測定すればよい。一方、本実施形態のように検知電極51が多孔質保護層48で被覆されている場合は、検知電極51の破断面(上下方向に沿った破断面)をXPSにより測定して濃化度を測定する。濃化度の値が大きいほど、検知電極51表面のPtの存在割合が減少することで、被測定ガス中のアンモニアが検知電極51周辺でPtにより分解されることを抑制できる。そのため、濃化度の値が大きいほどガスセンサ30を用いたアンモニア濃度の導出精度が向上する傾向にある。なお、濃化度の値の上限は特になく、例えば検知電極51の濃化度が100%であってもよい。ただし、検知電極51の濃化度が50%以下であってもよい。検知電極51は、Au-Pt合金とジルコニアとの多孔質サーメット電極としてもよい。
【0019】
参照電極53は、素子本体40の内部に設けられた多孔質の電極である。具体的には、参照電極53は、固体電解質層44の下面、すなわち固体電解質層44のうち検知電極51とは反対側に配設されている。参照電極53は基準ガス導入空間46内に露出しており、基準ガス導入空間46内の基準ガス(ここでは大気)が導入される。この参照電極53の電位は、上述した起電力EMFの基準となる。なお、参照電極53は、触媒活性を持つ貴金属であればよい。例えば参照電極53としてPt,Ir,Rh,Pd,もしくはそれらを少なくとも1つ以上含有する合金を用いることができる。本実施形態では、参照電極53はPtとした。参照電極53は、Ptとジルコニアとの多孔質サーメット電極としてもよい。
【0020】
検知電極用リード部57は、検知電極51と検知電極用接続端子58とを導通させるための導体である。検知電極用リード部57は、素子本体40の外側に配設されている。より具体的には、検知電極用リード部57は、素子本体40の上面に前後方向に沿って配設されている。検知電極用リード部57は、Ptを含んでいる。検知電極用リード部57は、Ptを主成分とする導体であってもよい。「主成分」とは、50体積%以上の体積割合を占める成分又は全成分のうち最も体積割合の高い成分のことをいう。検知電極用リード部57は、Pt及び不可避的不純物からなるものとしてもよい。検知電極用リード部57は、Auを含まないことが好ましい。検知電極用リード部57の厚さは、例えば5μm以上15μm以下である。
【0021】
検知電極用接続端子58は、素子本体40の外側に配設されている。より具体的には、検知電極用接続端子58は、素子本体40の上面の後端側に配設されている。検知電極用接続端子58は、検知電極用リード部57と同様の材質とすることができ、本実施形態ではPtとした。検知電極用接続端子58はPtを主成分とする導体であってもよい。なお、素子本体40には参照電極53と導通する配線パターンやスルーホールなどを有する図示しない参照電極用リード部が配設されている。また、素子本体40の後端側の上面又は下面には、参照電極用リード部と導通する図示しない参照電極用接続端子が配設されている。検知電極用接続端子58及び参照電極用接続端子を介して、混成電位セル55の起電力EMFが外部から測定される。
【0022】
多孔質保護層48は、検知電極51を含む素子本体40の前端側の表面を被覆している。多孔質保護層48は、図1に示すように、上側絶縁層72の上面の一部も被覆している。多孔質保護層48は、例えば被測定ガス中の水分等が付着してセンサ素子31にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。多孔質保護層48は、例えばアルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、チタニア、及びマグネシアのいずれかを主成分とするセラミックスである。本実施形態では、多孔質保護層48はアルミナからなるものとした。多孔質保護層48の膜厚は例えば20~1000μmである。多孔質保護層48の気孔率は例えば15%~60%である。センサ素子31は多孔質保護層48を備えなくてもよい。
【0023】
ヒータ62は、素子本体40の固体電解質を活性化させて酸素イオン伝導性を高めるために、素子本体40(特に固体電解質層44)を加熱して保温する温度調整の役割を担うものである。ヒータ62は、第1基板層41と第2基板層42とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ62は、素子本体40内部に配設されたリード線及びスルーホールを介して、素子本体40の下面の後端側に配設されたヒータ端子68と接続されている。ヒータ62は、ヒータ端子68を通して外部から給電されることにより発熱する。ヒータ62の発熱により、混成電位セル55(特に固体電解質層44)は所定の駆動温度となるよう制御される。駆動温度は例えば600℃以上700℃以下としてもよい。
【0024】
下側絶縁層71は、検知電極用リード部57と素子本体40との間に配設されて両者を絶縁する絶縁体である。下側絶縁層71は、図3に示すように、検知電極用リード部57よりも幅広に形成されている。また、下側絶縁層71は、図に示すように、検知電極用接続端子58と素子本体40との間も絶縁している。下側絶縁層71は、絶縁性を有する金属酸化物を含むセラミックスとしてもよい。下側絶縁層71に含まれる金属酸化物は、酸素イオン伝導性を有さない材料であることが好ましい。本実施形態では、下側絶縁層71に含まれる金属酸化物はアルミナとした。下側絶縁層71の厚さは、例えば1μm以上40μm以下である。下側絶縁層71の厚さは、5μm以上としてもよいし、20μm以下としてもよい。下側絶縁層71の気孔率は、例えば0%以上40%以下である。下側絶縁層71は緻密すなわち気孔率が10%以下であってもよいし、緻密でなくてもよい。下側絶縁層71が緻密でない場合でも、下側絶縁層71の気孔内の空気が絶縁性を有するため、検知電極用リード部57と素子本体40との間を絶縁できる。
【0025】
上側絶縁層72は、検知電極用リード部57の表面を被覆する絶縁体である。より具体的には、上側絶縁層72は、図3に示すように、検知電極用リード部57の上面及び左右の面を被覆している。そのため、検知電極用リード部57は下側絶縁層71及び上側絶縁層72で囲まれており、外部に露出しないようになっている。上側絶縁層72は、緻密すなわち気孔率が10%以下である。上側絶縁層72は、絶縁性を有する金属酸化物を含むセラミックスとしてもよい。上側絶縁層72に含まれる絶縁性を有する金属酸化物としては、アルミナ(Al23),マグネシア(MgO),スピネル(MgAl24),チタニア(TiO2),ジルコニア(ZrO2),ムライト(Al23・SiO2),ホルステライト(2MgO・SiO2)のうち1以上が挙げられる。上側絶縁層72に含まれる金属酸化物は、酸素イオン伝導性を有さない材料であることが好ましい。そのため、上側絶縁層72は、例えば上記の金属酸化物の具体例のうち、ジルコニアを含まないことが好ましい。上側絶縁層72に含まれる、絶縁性を有する前記金属酸化物は、アルミナ,スピネル,チタニア,ムライト,ホルステライトのうち1以上であってもよい。本実施形態では、上側絶縁層72に含まれる金属酸化物はアルミナとした。上側絶縁層72の厚さは、例えば1μm以上としてもよいし、5μm以上としてもよい。上側絶縁層72の厚さは、40μm以下としてもよいし、20μm以下としてもよい。
【0026】
なお、下側絶縁層71及び上側絶縁層72などの気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、測定対象(例えば上側絶縁層72)の断面を観察面とするように測定対象の厚さ方向に沿ってセンサ素子31を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEM写真(2次電子像、加速電圧5kV、倍率7500倍)にて観察用試料の観察面を撮影することで測定対象のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。
【0027】
ガスセンサ30は、センサ素子31の他に、図示しない保護カバー及び素子固定部などを備えている。保護カバーは、センサ素子31の長手方向の一端側であり検知電極51が配設された側(ここでは前端側)を囲んで保護する。素子固定部は、センサ素子31を固定すると共に、保護カバー内に流入する被測定ガスが基準ガス導入空間46に流入しないように保護カバー内の空間と基準ガス導入空間46の開口部周辺の空間との間を封止する。
【0028】
こうして構成されたガスセンサ30の製造方法を以下に説明する。まず、センサ素子31の製造方法について説明する。センサ素子31を製造する際には、まず、素子本体40に対応する複数(ここでは4枚)の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。各グリーンシートには、必要に応じて切欠や貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けたり、電極や配線などの種々のパターンをスクリーン印刷したりする。種々のパターンには、焼成後に検知電極51,参照電極53,検知電極用リード部57,検知電極用接続端子58,下側絶縁層71,及び上側絶縁層72の各々になるパターンが含まれる。厚さの大きいパターンは、複数回のスクリーン印刷で形成してもよい。下側絶縁層71,検知電極用リード部57,上側絶縁層72用の各々のパターンは、固体電解質層44となるグリーンシートの上面に、この順に形成する。これにより、検知電極用リード部57用のパターンが下側絶縁層71及び上側絶縁層72用のパターンに囲まれて、検知電極用リード部57用のパターンが外部に露出しない状態になる。必要なパターンを形成したあと、複数のグリーンシートを積層する。積層された複数のグリーンシートは、焼成後に素子本体となる未焼成素子本体である。この未焼成素子本体を焼成することで、検知電極51,参照電極53,検知電極用リード部57,検知電極用接続端子58,下側絶縁層71,及び上側絶縁層72などを備えた素子本体40を得る。続いて、プラズマ溶射又はディッピングなどにより多孔質保護層48を形成して、センサ素子31を得る。
【0029】
センサ素子31を製造すると、センサ素子31を素子固定部内に挿入して封止固定したり、素子固定部内に保護カバーを取り付けたりする。これにより、ガスセンサ30が得られる。
【0030】
こうして構成されたガスセンサ30の使用例を以下に説明する。まず、ガスセンサ30を配管に取り付け、ヒータ62により混成電位セル55を駆動温度まで加熱する。この状態で配管内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは検知電極51に到達する。これにより、混成電位セル55は、被測定ガス中のアンモニア濃度に応じた起電力EMFを発生させる。この起電力EMFを検知電極用接続端子58及び参照電極用接続端子を介して外部から測定する。起電力EMFは、上述したように被測定ガス中のアンモニア濃度に応じた値となる。そのため、予め起電力EMFとアンモニア濃度との対応関係(出力特性とも称する)を実験により取得しておき、この出力特性と測定された起電力EMFとに基づいて、アンモニア濃度を導出(測定)することができる。
【0031】
ここで、比較例としてセンサ素子31が上側絶縁層72を備えない場合を考える。このような場合において、センサ素子31が高温で長期間使用されると、使用に伴って出力特性が変化してしまうことがある。すなわち、本来出力されるはずの起電力EMFが出力されない(起電力EMFが低くなる)場合がある。このような起電力の異常は、高温下で検知電極51中のAuが蒸発して検知電極用リード部57中のPtに析出(付着)していることが原因であると考えられる。なお、AuとPtとは反応して固溶体を形成するため、Ptを有する検知電極用リード部57には、Auが付着しやすい。この現象が起きると、例えば検知電極51中のAuが減少することで三相界面の量が減少して、出力特性が変化するため、起電力の異常が生じると考えられる。これに対して、本実施形態のガスセンサ30では、気孔率が10%以下という緻密な上側絶縁層72によって検知電極用リード部57の表面が被覆されている。そのため、この現象の発生を抑制でき、起電力の異常が生じにくい。
【0032】
また、センサ素子31が上側絶縁層72を備えない場合、検知電極51中のAuが蒸発して検知電極用リード部57中のPtに付着する現象は、センサ素子31を製造する際の焼成時においても発生する。通常はセンサ素子31の使用時よりも焼成時の方が温度が高く、Auの融点よりも高い温度で焼成することも多いため、この現象は焼成時の方がより発生しやすい。これに関して、本実施形態のセンサ素子31は上側絶縁層72を備えているため、センサ素子31の製造工程において、上述したように検知電極用リード部57用のパターンは上側絶縁層72用のパターンで被覆されている。そのため、焼成時に検知電極用リード部57用のパターン中のPtにAuが付着することを抑制できる。したがって、本実施形態のセンサ素子31は、焼成時における上記の現象によって起電力の異常が生じることを抑制できる。
【0033】
さらに、使用時又は焼成時に上記の現象が発生すると、検知電極用リード部57用のパターンにAuが付着し、さらにそのAuが溶解することで下側絶縁層71用のパターンよりも外側にAuが移動してグリーンシートに接触する場合もある。この場合、焼成後の検知電極用リード部57の一部が下側絶縁層71で絶縁されずに直に固体電解質層44に接触した状態になってしまう。こうなると、検知電極用リード部57がPtと付着したAuとを含むことから、検知電極51と同様に被測定ガスによって混成電位が生じる場合がある。これにより、例えば検知電極51-固体電解質層44-検知電極用リード部57間,及び参照電極53-固体電解質層44-検知電極用リード部57間で電池が形成され、ループ電流が流れてしまい、起電力の異常が生じる場合がある。また、検知電極用リード部57のうち付着したAuの量が異なることで混成電位の値が異なっている2点間(検知電極用リード部57-固体電解質層44-検知電極用リード部57間)で電池が形成されてループ電流が流れてしまい、起電力の異常が生じる場合がある。本実施形態のセンサ素子31は、上側絶縁層72を備えていることで、このような検知電極用リード部57で混成電位が生じることによる起電力の異常も抑制できる。
【0034】
ここで、上側絶縁層72の厚さが厚いほど、蒸発したAuが上側絶縁層72を通過しにくくなる。この観点から、上側絶縁層72の厚さは1μm以上が好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、上側絶縁層72の気孔率が小さいほど、蒸発したAuが上側絶縁層72を通過しにくくなる。この観点から、上側絶縁層72の気孔率は5%以下であることが好ましく、5%未満であることがより好ましい。
【0035】
上側絶縁層72は、Mgを含む金属酸化物(例えばマグネシア,スピネル,ホルステライト)を含まないことが好ましい。この理由は、Mgは例えば焼成時に素子本体40のジルコニア内部に侵入する場合があり、検知電極51と素子本体40との間にMgが到達すると、センサ素子31の出力特性が変化する可能性があるからである。チタニアについても、焼成時に素子本体40のジルコニアと化合物(例えばZrTiO4)を生成する可能性があり、Mgを含む金属酸化物と同様にセンサ素子31の出力特性が変化する可能性があるため、上側絶縁層72がチタニアを含まないことが好ましい。
【0036】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ30によれば、気孔率が10%以下という緻密な上側絶縁層72によって検知電極用リード部57の表面が被覆されているため、焼成時や使用時における検知電極51中のAuが蒸発して検知電極用リード部57に付着する現象の発生を抑制でき、起電力の異常が生じにくくなる。
【0037】
また、上側絶縁層72の厚さが1μm以上であることで、検知電極用リード部57へのAuの付着をより確実に抑制できる。さらに、上側絶縁層72の厚さが40μm以下であることで、素子本体40(特に各層41~44)と上側絶縁層72との熱膨張差に起因するセンサ素子31の焼成時及び使用時の割れを抑制できる。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0039】
例えば、上述した実施形態では、素子本体40の外表面に形成された電極は検知電極51のみであったが、他の電極が形成されていてもよい。例えば、固体電解質層44の上面に、検知電極51及び補助電極を備えていてもよい。この場合、補助電極と、固体電解質層44と、参照電極53とによって電気化学的な濃淡電池セルを構成するようにしてもよい。こうすれば、補助電極と参照電極53との酸素濃度差に応じた電位差である起電力差Vに基づいて、被測定ガス中の酸素濃度も検出できる。補助電極は、触媒活性を持つ貴金属であってもよく、例えば上述した参照電極53と同様の材料を用いることができる。
【0040】
上述した実施形態では、検知電極用リード部57の周囲に下側絶縁層71及び上側絶縁層72を配設したが、これに限らず素子本体40の外表面に配設された他のリード部が存在する場合には、そのリード部の周囲も絶縁層で被覆することが好ましい。例えば、上述した補助電極を有する場合には、補助電極と導通するリード部の周囲も絶縁層で被覆することが好ましい。
【実施例
【0041】
以下には、センサ素子を具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例1,3~5が本発明の実施例に相当し、実験例2,6が比較例に相当する。
なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実験例1]
多孔質保護層48を備えない点以外は、図1~3に示したセンサ素子31と同じ素子を、上述した製造方法により作製して実験例1とした。具体的には、まず、素子本体40の各層として、安定化剤としてイットリアを3mol%添加したジルコニア固体電解質をセラミックス成分として含む4枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意した。このグリーンシートには印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴や必要なスルーホール等を予め複数形成しておいた。また、スペーサ層43となるグリーンシートには基準ガス導入空間46となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておいた。そして、第1基板層41と、第2基板層42と、スペーサ層43と、固体電解質層44とのそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに種々のパターンをスクリーン印刷により形成するパターン印刷・乾燥処理を行った。パターン印刷・乾燥処理が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行った。そして、接着用ペーストを形成したグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させ、一つの積層体(未焼成素子本体)とする圧着処理を行った。こうして得られた未焼成素子本体からセンサ素子31の大きさの積層体を切り出した。そして、切り出した積層体を、大気雰囲気下、1400℃で3時間焼成して、実験例1のセンサ素子31を得た。
【0043】
実験例1において、検知電極51は、Au-Pt合金とジルコニアとの多孔質サーメット電極とした。検知電極51用のパターンは、Ptの粉末にAuをコーティングしたコーティング粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合して作製したペーストを用いて形成した。参照電極53は、Ptとジルコニアとの多孔質サーメット電極とした。参照電極53用のパターンは、Ptの粉末と、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合して作製したペーストを用いて形成した。下側絶縁層71は、アルミナからなるセラミックスとした。下側絶縁層71用のパターンは、原料粉末(平均粒径1.5μmのアルミナ粉末),バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール),溶媒(アセトン)を混合して調合したペーストを用いて形成した。このペーストは、原料粉末が54vol%、バインダー溶液が46vol%になるように秤量したあとに、これらに溶媒を追加してらいかい機で混合し、粘度20Pa・sに調製して得た。検知電極用リード部57は、Ptとした。検知電極用リード部57用のパターンは、白金粒子と溶媒とを混練した白金ペーストを用いて形成した。上側絶縁層72は、アルミナからなるセラミックスとした。上側絶縁層72用のパターンは、原料粉末(平均粒径1.0μmのアルミナ粉末),バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール),及び溶媒(アセトン)を混合して調合したペーストを用いて形成した。このペーストは、原料粉末が51vol%、バインダー溶液が49vol%になるように秤量したあとに、これらに溶媒を追加してらいかい機で混合し、粘度200Pa・sに調製して得た。下側絶縁層71用のペースト及び上側絶縁層72用のペーストは、幅が同じになるように形成した。実験例1の検知電極51の厚さは15μmであった。下側絶縁層71の厚さは10μmであった。検知電極用リード部57の厚さは15μmであった。上側絶縁層72の厚さは10μmであった。上側絶縁層72の気孔率をSEM画像を用いて上述した方法で測定したところ、3箇所の測定値の平均(小数点以下切り捨て)で3%であった。
【0044】
[実験例2]
上側絶縁層72をマグネシアからなるセラミックスとした点以外は、実験例1と同様にしてセンサ素子31を作製し、実験例2とした。上側絶縁層72用のパターンを形成するためのペーストは、原料粉末(平均粒径1.0μmの水酸化マグネシウム粉末)が50vol%、バインダー溶液が50vol%になるように秤量したあとに、これらに溶媒を追加してらいかい機で混合し、粘度250Pa・sに調製して得た。上側絶縁層72の気孔率を実験例1と同様に測定したところ32%であり、上側絶縁層72が緻密になっていなかった。
【0045】
[実験例3]
上側絶縁層72をスピネルからなるセラミックスとした点以外は、実験例1と同様にしてセンサ素子31を作製し、実験例3とした。上側絶縁層72用のパターンを形成するためのペーストは、原料粉末(平均粒径1.2μmのスピネル粉末)が51vol%、バインダー溶液が49vol%になるように秤量したあとに、これらに溶媒を追加してらいかい機で混合し、粘度230Pa・sに調整して得た。上側絶縁層72の気孔率を実験例1と同様に測定したところ、10%であった。
【0046】
[実験例4]
上側絶縁層72をチタニアからなるセラミックスとした点以外は、実験例1と同様にしてセンサ素子31を作製し、実験例4とした。上側絶縁層72用のパターンを形成するためのペーストは、原料粉末(平均粒径1.5μmのチタニア粉末)が51vol%、バインダー溶液が49vol%になるように秤量したあとに、これらに溶媒を追加してらいかい機で混合し、粘度200Pa・sに調整して得た。上側絶縁層72の気孔率を実験例1と同様に測定したところ、6%であった。
【0047】
[実験例5]
上側絶縁層72をジルコニアからなるセラミックスとした点以外は、実験例1と同様にしてセンサ素子31を作製し、実験例5とした。上側絶縁層72用のパターンを形成するためのペーストは、原料粉末(平均粒径0.8μmのジルコニア粉末)が52vol%、バインダー溶液が48vol%になるように秤量したあとに、これらに溶媒を追加してらいかい機で混合し、粘度120Pa・sに調整して得た。上側絶縁層72の気孔率を実験例1と同様に測定したところ、5%であった。
【0048】
[実験例6]
上側絶縁層72を備えない点以外は、実験例1と同様にしてセンサ素子31を作製し、実験例6とした。
【0049】
[試験1:検知電極51及び検知電極用リード部57の濃化度の測定]
実験例1~6の各々について、検知電極51の表面をXPSを用いて測定して、上述した濃化度(=Auの存在量[atom%]/(Auの存在量[atom%]+Ptの存在量[atom%])×100)を測定した。また、検知電極用リード部57が露出している実験例6については、検知電極用リード部57の濃化度も測定した。検知電極用リード部57の濃化度の測定は、検知電極51からの距離が3mm,6mm,10mmの3箇所の位置で行った。実験例1~5の検知電極用リード部57については、上側絶縁層72に被覆されているため表面の濃化度が測定できず、図3に示す断面積も小さいことから破断面の濃化度も測定できなかった。測定結果を表1に示す。表1には、実験例1~6の上側絶縁層の材質,気孔率,及び後述する試験4の結果(耐久後濃化度)も示した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果から分かるように、実験例1,3~5では検知電極51の濃化度がいずれも50%程度であったのに対し、実験例2,6では検知電極51の濃化度が35%程度まで減少しており、実験例6は最も濃化度の値が小さかった。また、実験例6では、Auを含まず本来であれば0%であるはずの検知電極用リード部57の濃化度の値が、20~30%程度になっていた。また、検知電極51に近い位置ほど、濃化度が高くなっていた。これらの結果から、実験例6では、上側絶縁層72を備えないことで、焼成時に検知電極51用のパターンからAuが蒸発し検知電極用リード部57用のパターンにAuが付着する現象が生じている考えられる。また、実験例2でも同様の現象が生じていると考えられる。すなわち、実験例2では上側絶縁層72の気孔率が10%を超えており緻密ではないため、焼成時に上側絶縁層72用のパターン内の気孔をAuが通過してしまい、検知電極用リード部57用のパターンにAuが付着していると考えられる。これらに対し、気孔率10%以下の上側絶縁層72を備える実験例1,3~5では、上記の現象が生じていないか又は生じていてもわずかであると考えられる。
【0052】
[試験2:出力特性の確認]
実験例1~6の各々のセンサ素子31について、出力特性を確認した。具体的には、被測定ガス中の酸素濃度を10%,水蒸気濃度を5%で固定とし、アンモニア濃度を表2のように変化させて、それぞれの起電力EMFを測定した。被測定ガスの上記以外の成分(ベースガス)は窒素とし、温度は120℃とした。被測定ガスは、直径70mmの配管内を流通させ、流量は200L/minとした。センサ素子31は、ヒータ62により混成電位セル55を駆動温度(650℃)に制御した状態とした。結果を表2及び図4に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2及び図4から分かるように、実験例1,3~4はほぼ同じ出力特性を示していた。実験例2,5,6は、実験例1,3~4と比べて同じアンモニア濃度に対応する起電力EMFの値が低くなっていた。実験例6が最も起電力EMFの値が低く、次に実験例2の値が低かった。実験例1~4,6では、表1の検知電極51の濃化度が低いほど図4の起電力EMFの値も低くなる傾向が確認できた。この結果から、検知電極51中のAuが減少したことで実験例2,6では起電力EMFが低下していると考えられる。また、後述する試験3の結果から、実験例2,6では検知電極用リード部57で混成電位が生じており、これにより検知電極51-固体電解質層44-検知電極用リード部57間,参照電極53-固体電解質層44-検知電極用リード部57間,及び検知電極用リード部57-固体電解質層44-検知電極用リード部57間でループ電流が流れてしまっていることも、図4での起電力EMFの低下に影響していると考えられる。また、実験例5の起電力EMFの値が実験例1,3~4よりも低い理由は、以下のように考えられる。まず、実験例5の上側絶縁層72用のペーストが垂れる(幅が広がる)ことで焼成後の上側絶縁層72と固体電解質層44とが接触していると考えられる。そして、上側絶縁層72がジルコニアすなわち固体電解質層44と同様の固体電解質であるため、温度差のある2点間(検知電極51-固体電解質層44-検知電極用リード部57間,参照電極53-固体電解質層44-検知電極用リード部57間,及び検知電極用リード部57-固体電解質層44-検知電極用リード部57間)で電池が形成されて熱起電力によるループ電流が流れてしまい、起電力EMFが低下していると考えられる。したがって、例えば実験例5において下側絶縁層71の幅を十分大きくして上側絶縁層72が固体電解質層44に接触しないようにした場合には、実験例5も実験例1,3~4と同じ出力特性が得られる可能性はある。
【0055】
[試験3:検知電極除去後の出力特性の確認]
実験例1~6の各々のセンサ素子31について、検知電極51を全て除去した後に、試験2と同様に出力特性を測定した。結果を表3及び図5に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
試験3では検知電極51を除去しているため起電力EMFは生じないはずであり、実験例1,3~4では表3及び図5に示すように起電力EMFがほぼ0mVであり正常な結果が得られた。これに対し、実験例2,5,6では図5においてアンモニア濃度が高いほど起電力EMFが高くなる傾向の出力特性が見られた。また、図5では実験例6が最も起電力EMFの値が高く、次に実験例2の値が高かった。実験例1~4,6では、表1の検知電極51の濃化度が低いほど図5の起電力EMFの値が高くなる傾向が確認できた。この結果から、実験例2,6では、焼成時に検知電極用リード部57用のパターンにAuが付着し、さらにそのAuが溶解することで下側絶縁層71用のパターンよりも外側にAuが移動してグリーンシートに接触しており、これにより検知電極用リード部57で混成電位が生じていると考えられる。そして、これにより参照電極53-固体電解質層44-検知電極用リード部57間,及び検知電極用リード部57-固体電解質層44-検知電極用リード部57間でループ電流が流れることで、実験例2,6では起電力EMFが発生していると考えられる。図5において実験例5で起電力EMFが生じている理由は、試験2の考察で記載したように、上側絶縁層72が固体電解質(ジルコニア)であるため、検知電極51が除去されていても、温度差のある2点間(参照電極53-固体電解質層44-検知電極用リード部57間,及び検知電極用リード部57-固体電解質層44-検知電極用リード部57間)でループ電流が流れているためと考えられる。
【0058】
[試験4:耐久試験後の出力特性の確認]
実験例1~6の各々のセンサ素子31について、長期間の使用を模擬するため耐久試験を行った。耐久試験は、ヒータ62により混成電位セル55を駆動温度(650℃)に制御した状態で、ディーゼルエンジンの排ガスに2000時間晒すことにより行った。耐久試験の後、実験例1~6の各々のセンサ素子31について、検知電極51の濃化度(耐久後濃化度)を試験1と同様に測定し、出力特性を試験2と同様に測定した。結果を表1,表4及び図6に示す。また、図7は、耐久試験前の実験例6の検知電極51の表面のSEM画像である。図8は、耐久試験後の実験例6の検知電極51の表面のSEM画像である。図9は、耐久試験後の実験例1の検知電極51の表面のSEM画像である。図7~9では、検知電極51中の貴金属粒子が白色で表され、気孔が黒色で表され、ジルコニアがグレーで表されている。
【0059】
【表4】
【0060】
表1の耐久後濃化度と試験1の濃化度との比較からわかるように、実験例1,3~5では耐久試験の前後で濃化度はほとんど変化しなかった。これに対し、実験例2,6では、耐久前(製造時)に既に35%程度と低かった濃化度が、さらに20%程度まで低下していた。また、図7,8から分かるように、実験例6の検知電極51は、耐久試験後では貴金属粒子が細分化する傾向が見られ、耐久試験前よりも検知電極51中のAuが減少していることを示していると考えられる。これに対し、図9からわかるように、実験例1では耐久試験後において貴金属粒子の細分化は見られず、耐久試験前と比べて検知電極51中のAuは減少していないと考えられる。また、試験4(図6及び表4)と試験2(図4及び表2)との比較からわかるように、実験例1,3~5については、耐久試験前後で出力特性はほとんど変化しなかった。これに対し、実験例2,6では、耐久試験後には出力特定が変化しており、同じアンモニア濃度に対応する起電力EMFの値が低くなっていた。これらの結果から、上側絶縁層72を備えない実験例6、及び上側絶縁層72の気孔率が高く緻密でない実験例2では、耐久試験時の高温によっても、焼成時と同様に検知電極51中のAuが蒸発して検知電極用リード部57中のPtに付着する現象が生じていると考えられる。この結果、実験例2,6は図6に示すように耐久試験前と比べて耐久試験後にさらに起電力EMFの値が低くなっていると考えられる。これらの結果から、長期間の使用によって上述した現象により起電力に異常が生じることが推測され、緻密な上側絶縁層72を備えることによってこの異常の発生を抑制できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、自動車の排ガスなどの被測定ガスにおけるアンモニア濃度などの特定ガス濃度を検出するガスセンサの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
30 ガスセンサ、31 センサ素子、40 素子本体、41 第1基板層、42 第2基板層、43 スペーサ層、44 固体電解質層、46 基準ガス導入空間、48 多孔質保護層、51 検知電極、53 参照電極、55 混成電位セル、57 検知電極用リード部、58 検知電極用接続端子、62 ヒータ、68 ヒータ端子、71 下側絶縁層、72 上側絶縁層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9