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特許6999460位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク中間体及びこれらを用いた位相シフトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法
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  • 特許-位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク中間体及びこれらを用いた位相シフトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク中間体及びこれらを用いた位相シフトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/26 20120101AFI20220111BHJP
   G03F 1/58 20120101ALI20220111BHJP
【FI】
G03F1/26
G03F1/58
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018055897
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019168584
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】田辺 勝
(72)【発明者】
【氏名】浅川 敬司
【審査官】冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-026701(JP,A)
【文献】特表平09-508981(JP,A)
【文献】特開2015-225280(JP,A)
【文献】特開平06-342205(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171512(WO,A1)
【文献】特開2017-173578(JP,A)
【文献】特開2014-026281(JP,A)
【文献】米国特許第05604060(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム系材料で構成される位相シフト膜を透明基板上に備える位相シフトマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、露光光に含まれる代表波長の光に対して透過率が1~30%、位相差が160°~200°の光学特性を有し、該位相シフト膜は、下層を構成する第1の機能層と、その上層を構成する第2の機能層と、前記第1の機能層と前記第2の機能層との間に配置される中間層とを有する積層膜であって、
前記第1の機能層および前記第2の機能層は、クロムと酸素と窒素とを含有するクロム系材料で構成され、
前記第1の機能層および前記第2の機能層は、クロムと酸素とを含有し、クロムが30~70原子%、酸素が30~70原子%であり、
前記中間層は、クロムと炭素とを含有し、前記中間層におけるクロムと炭素との含有量の比率は、1:0.4以上であって1:0.7以下である、ことを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【請求項2】
前記中間層は、さらに酸素を含有するクロム系材料で構成されていることを特徴とする請求項1記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項3】
前記中間層に含まれる酸素の含有量は、0.2~15原子%であることを特徴とする請求項2記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項4】
前記第1の機能層および前記第2の機能層は、窒素を含有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項5】
前記第1の機能層および前記第2の機能層に含まれる窒素の含有量は、0.4~30原子%であることを特徴とする請求項4記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項6】
前記第1の機能層は、露光光に対する透過率と位相差とを主に調整する機能を有し、前記第2の機能層は、前記位相シフト膜側より入射される光に対する反射率を低減される機能を有するものであることを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項7】
前記位相シフト膜側より入射される光に対する前記位相シフト膜の表面反射率が350~436nmの波長域において15%以下であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項8】
前記透明基板側より入射される光に対する前記位相シフト膜の表面反射率が313~436nmの波長域において22.5%以下であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランクにおける前記透明基板と前記位相シフト膜との間に、遮光性膜パターンを備えることを特徴とする位相シフトマスク中間体。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランクの前記位相シフト膜上、または請求項9記載の位相シフトマスク中間体の前記位相シフト膜上には、レジスト膜が形成されており、該レジスト膜に対して350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いた描画処理、および現像処理により、レジスト膜パターンを形成する工程と、
該レジスト膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして、前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と
を有することを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の位相シフトマスクの製造方法によって製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する工程と、
前記位相シフトマスクに露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に前記位相シフト膜パターンを転写する工程と
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【請求項12】
前記露光光は、313nm~436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光であることを特徴とする請求項11に記載の表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク中間体及びこれらを用いた位相シフトマスクの製造方法、並びに表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPD(Flat Panel Display)等の表示装置の高解像度化、高精細化に伴い、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成することができる表示装置用の位相シフトマスクブランク、および、位相シフトマスクが求められている。
【0003】
表示装置用の位相シフトマスクブランクおよび位相シフトマスクとして、一般に、露光光がi線、h線、g線からなる複合光を使用する上で、十分な位相シフト効果を発揮し、高い解像度を得るために、位相シフト膜の透過率、位相差の光学特性だけでなく、位相シフト膜の表面反射率や裏面反射率を調整したものが提案されている。また、表示装置用の位相シフトマスクは、レジスト膜が形成された位相シフトマスクブランクに対して、レーザー描画・現像によりレジストパターンを形成し、レジストパターンをマスクにしてウェットエッチングにより位相シフト膜パターンを形成することによって製造される。位相シフトマスクが優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有する位相シフト膜パターンとするために、レーザー描画波長に対して、位相シフト膜の表面反射率を低減した位相シフトマスクブランクも提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、位相シフト膜(位相シフター層)の表面反射率や裏面反射率がバイナリーブランク以下とした位相シフトマスクブランクが提案されている。具体的には、この位相シフター層105は、その表面105aから層厚中心までの所定の深さ位置D1に、上下の部位A104、C102より高い屈折率の部位B103を備えた三層構造としている。
【0005】
また、特許文献2では、レーザー描画光に対して位相シフト膜の表面反射率を低減したクロム系材料からなる位相シフト膜を備えた位相シフトマスクブランクが提案されている。具体的には、透明基板上に設けられたクロム系材料からなる位相シフト膜が、位相シフト層と、反射率低減層と、位相シフト層と反射率低減層の間に設けられたメタル層とを有している表示装置用の位相シフトマスクブランクが提案されている。このメタル層は、350nm~436nmの波長域において、反射率低減層の消衰係数よりも高い消衰係数を有している。また、位相シフト膜の表面反射率が、350nm~436nmの波長域において10%以下であるように調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-134213号公報
【文献】特開2017-26701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、液晶パネルや有機ELパネルといった表示パネルにおいては、表示パネルの大型化に伴って、表示パネルを作製する際に使用される位相シフトマスクブランクの基板サイズも800mm×920mmから1220mm×1400mm以上の超大型サイズの位相シフトマスクブランクが使用されはじめている。また、表示パネルの高解像度化、高精細化が進み、位相シフトマスクの位相シフト膜パターン(ラインアンドスペースパターン、ホールパターン)サイズは微細化になるとともに、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性の要求も厳しくなっている。
しかしながら、上述のようなクロム系材料からなる積層構造の位相シフト膜に対してウェットエッチングにより複数の位相シフト膜パターンを形成すると、基板面内に形成された各位相シフト膜パターンの形状にばらつきが生じてしまい、その結果、CD均一性も悪化するという問題も発生した。
【0008】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、ウェットエッチングにより形成される位相シフト膜パターンが、基板面内の位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきを抑制することができ、優れたCD均一性を有する位相シフト膜パターンが得られる、位相シフトマスクブランク、及びこれを用いた位相シフトマスクの製造方法を提供することを目的とする。さらに、優れたパターン断面形状の均一性および優れたCD均一性を有し、微細な位相シフト膜パターンが形成されている表示装置用の位相シフトマスクを使用することで、高解像度、高精細の表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した目的を達成するために鋭意検討を行った。本発明者は、まず、ウェットエッチングにより形成した位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきの要因として、位相シフト膜パターン形成時において位相シフト膜上に形成されるレジスト膜パターンのスカム(現像残渣)に着目した。レジスト膜パターンにスカムが残存していると、位相シフト膜パターンにもスカムの形状が投影されてしまうことが考えられる。このような観点で、レジスト膜パターンについてデスカム(スカム除去)処理を行ったうえで、レジスト膜パターンをマスクにしてウェットエッチングにより位相シフト膜パターンの形成を行った。しかしながら、デスカム(スカム除去)処理を行っても、基板面内の位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきに顕著な影響は見られなかった。
【0010】
この結果を踏まえて、本発明者は、位相シフト膜を構成する各層の構成に着目した。露光光に対する位相シフト膜の透過率と位相差とが位相シフト膜として必要な所定の光学特性を満たしつつ、位相シフト膜の表面反射率、および/又は裏面反射率を制御するためには、クロム系材料で構成される位相シフト膜を、屈折率の異なる少なくとも3層(下層、中間層、上層)で構成することが有効である。本発明者は、このようにクロム系材料で構成された少なくとも3層からなる位相シフト膜について、段階的にウェットエッチングを行い、その断面形状を確認して分析を行った。その結果、位相シフト膜パターンの断面形状にばらつきが見られた位相シフト膜パターンにおける中間層の領域が、その上層または下層の領域に比して、所望の断面の形状から大きく変異していた。このように、本発明者は、屈折率の異なる少なくとも3層の積層構造からなる位相シフト膜における中間層の領域が断面の形状に大きく影響していることを突き止めた。
【0011】
本発明者は、中間層における主要な要素であるクロムとその他の元素(具体的には炭素)との含有量の比率に着目した。まず、クロムと炭素との含有量の比率がそれぞれ異なる位相シフト膜を備えた複数の位相シフトマスクブランクを準備し、ウェットエッチングを行って基板面内に所定の複数の位相シフト膜パターンを形成した。次いで、それぞれの位相シフト膜パターンに対して、後述(発明の実施の形態(実施例))のパターンマッチング手法により、それぞれの位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきを判定した。そして、位相シフト膜パターンに一定基準を超えた断面形状のばらつきが見られた位相シフト膜と、一定基準以内の安定した断面形状となる位相シフト膜とに分別した。
【0012】
さらに、本発明者は、位相シフト膜パターンに一定基準を超えた断面形状のばらつきが見られた位相シフト膜と、安定した断面形状となる位相シフト膜について、X線光電子分光法(XPS)により、それぞれの位相シフト膜の中間層に含有される成分の分析を行った。その結果、中間層におけるクロムと炭素との含有量の比率が、位相シフト膜に形成されるパターンの断面形状に大きく影響していることを見出した。具体的には、中間層におけるクロムと炭素との含有量の比率を、1:0.4以上であって1:0.7以下とすることにより、位相シフト膜に形成されるパターンの断面を安定化させて、パターンのばらつきを抑制することができるという知見を得るに至った。
【0013】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)
クロム系材料で構成される位相シフト膜を透明基板上に備える位相シフトマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、露光光に含まれる代表波長の光に対して透過率が1~30%、位相差が160°~200°の光学特性を有し、該位相シフト膜は、下層を構成する第1の機能層と、その上層を構成する第2の機能層と、前記第1の機能層と前記第2の機能層との間に配置される中間層とを有する積層構造であって、
前記第1の機能層および前記第2の機能層は、クロムと酸素とを含有し、クロムが30~70原子%、酸素が30~70原子%であり、
前記中間層は、クロムと炭素とを含有し、前記中間層におけるクロムと炭素との含有量の比率は、1:0.4以上であって1:0.7以下である、ことを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【0015】
(構成2)
前記中間層は、さらに酸素を含有するクロム系材料で構成されていることを特徴とする構成1記載の位相シフトマスクブランク。
(構成3)
前記中間層に含まれる酸素の含有量は、0.2~15原子%であることを特徴とする構成2記載の位相シフトマスクブランク。
(構成4)
前記第1の機能層および前記第2の機能層は、窒素を含有することを特徴とする構成1乃至3の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
(構成5)
前記第1の機能層および前記第2の機能層に含まれる窒素の含有量は、0.4~30原子%であることを特徴とする構成4記載の位相シフトマスクブランク。
【0016】
(構成6)
前記第1の機能層は、露光光に対する透過率と位相差とを主に調整する機能を有し、前記第2の機能層は、前記位相シフト膜側より入射される光に対する反射率を低減される機能を有するものであることを特徴とする構成1乃至5の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【0017】
(構成7)
前記位相シフト膜側より入射される光に対する前記位相シフト膜の表面反射率が350~436nmの波長域において15%以下であることを特徴とする構成1乃至6の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【0018】
(構成8)
前記透明基板側より入射される光に対する前記位相シフト膜の表面反射率が313~436nmの波長域において22.5%以下であることを特徴とする構成1乃至7の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク。
【0019】
(構成9)
構成1乃至8の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランクにおける前記透明基板と前記位相シフト膜との間に、遮光性膜パターンを備えることを特徴とする位相シフトマスク中間体。
【0020】
(構成10)
構成1乃至8の何れか一項に記載の位相シフトマスクブランク、または構成9記載の位相シフトマスク中間体の前記位相シフト膜上に、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いた描画処理、および現像処理により、レジスト膜パターンを形成する工程と、
該レジスト膜パターンをマスクにして前記位相シフト膜をエッチングして、前記透明基板上に位相シフト膜パターンを形成する工程と
を有することを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【0021】
(構成11)
構成10に記載の位相シフトマスクの製造方法によって製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する工程と、
前記位相シフトマスクに露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に前記位相シフト膜パターンを転写する工程と
を有することを特徴とする表示装置の製造方法。
【0022】
(構成12)
前記露光光は、313nm~436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光であることを特徴とする構成11に記載の表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明に係る位相シフトマスクブランクは、クロム系材料で構成される位相シフト膜を透明基板上に備える位相シフトマスクブランクであって、前記位相シフト膜は、露光光に含まれる代表波長の光に対して透過率が1~30%、位相差が160°~200°の光学特性を有し、該位相シフト膜は、下層を構成する第1の機能層と、その上層を構成する第2の機能層と、前記第1の機能層と前記第2の機能層との間に配置される中間層とを有する積層構造であって、前記第1の機能層および前記第2の機能層は、クロムと酸素とを含有し、クロムが30~70原子%、酸素が30~70原子%であり、前記中間層は、クロムと炭素とを含有し、前記中間層におけるクロムと炭素との含有量の比率は、1:0.4以上であって1:0.7以下である。このため、この位相シフトマスクブランクを用いて、ウェットエッチングにより形成される位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきを抑制することができ、優れたパターン断面形状の均一性および優れたCD均一性を有し、微細なパターンが形成されている位相シフトマスクを製造することができる。また、この位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】位相シフトマスクブランクの膜構成を示す模式図である。
図2】位相シフトマスク中間体を示す模式図である。
図3】実施例1における位相シフトマスクのパターン断面形状を示す断面図である。
図4】実施例2における位相シフトマスクのパターン断面形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。なお、図中、同一又は同等の部分には同一の符号を付してその説明を簡略化ないし省略する場合がある。
【0026】
実施の形態1.
実施の形態1では、位相シフトマスクブランクについて説明する。
【0027】
図1は位相シフトマスクブランク10の膜構成を示す模式図である。位相シフトマスクブランク10は、露光光に対して透明な透明基板20と、透明基板20上に配置されたクロム系材料からなる位相シフト膜30とを備える。透明基板20は、表面反射ロスが無いとしたときに、露光光に対して85%以上の透過率、好ましくは90%以上の透過率を有するものである。位相シフト膜30は、透明基板20側からその下層を構成する第1の機能層として位相シフト層31、その上層を構成する第2の機能層として反射率低減層32、位相シフト層31と反射率低減層32との間に配置される中間層としてメタル層33を有する積層構造とするか、透明基板20側から下層を構成する第1の機能層として反射率低減層32、その上層を構成する第2の機能層として位相シフト層31、反射率低減層32と位相シフト層31との間に配置される中間層としてメタル層33を有する積層構造とする。位相シフト膜30の光学特性(透過率、位相差、表面反射率)の制御性の観点では、位相シフト膜30の積層構造は、透明基板20側から位相シフト層31、中間層33、反射率低減層32とするのが好ましい。また、位相シフト膜30のパターン断面形状やCD均一性の観点では、位相シフト膜30の積層構造は、透明基板20側から反射率低減層32、中間層33、位相シフト層31とするのが好ましい。位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。このため、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32は、同じエッチング溶液によりエッチングすることができる。
【0028】
以下、位相シフト膜30の説明においては、透明基板20側から位相シフト層31、中間層33、反射率低減層32の積層構造を前提に説明する。
位相シフト層31は、透明基板20の主表面上に配置される。位相シフト層31は、露光光に対する透過率と位相差とを主に調整する機能を有する。尚、後述する位相シフト層31、メタル層33、反射率低減層32を構成する各元素の含有量は、X線光電子分光法(XPS)により測定された値とする。
位相シフト層31は、クロム(Cr)と酸素(O)を含有するクロム系材料で構成され、各元素の平均含有量は、クロムが30~70原子%、酸素が30~70原子%である。また、位相シフト層31は、該位相シフト層31を構成する成分の結合状態(化学状態)として、ウェットエッチングによる優れたパターン断面形状を得るという観点から、クロムと酸素が結合したクロム酸化物を含み、特に酸化クロム(III)(Cr)を含むことが好ましい。さらに、位相シフト層31は、窒素(N)、炭素(C)、フッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム系材料としてもよい。例えば、位相シフト層31を形成する材料として、CrO、CrCO、CrON、CrOCN、CrFCONが挙げられる。
位相シフト層31は、スパッタリング法により形成することができる。
【0029】
反射率低減層32は、位相シフト層31の上側に配置される。反射率低減層32は、位相シフト膜30側(すなわち、反射率低減層32の透明基板20側とは反対側)より入射される光に対する反射率を低減させる機能を主に有する。反射率低減層32は、メタル層33と反射率低減層32の界面による反射と反射率低減層32表面による反射による干渉効果により位相シフト膜30の反射率を低減するために膜厚調整されている層である。
反射率低減層32は、クロム(Cr)と酸素(O)とを含有するクロム系材料で構成され、各元素の平均含有量は、クロムが30~70原子%、酸素が30~70原子%である。また、反射率低減層32は、該反射率低減層32を構成する成分の結合状態(化学状態)として、ウェットエッチングによる優れたパターン断面形状を得るという観点から、クロムと酸素が結合したクロム酸化物を含み、特に酸化クロム(III)(Cr)を含むことが好ましい。さらに、反射率低減層32は、窒素(N)、炭素(C)、フッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム系材料としてもよい。例えば、反射率低減層32を形成する材料として、CrO、CrCO、CrON、CrOCN、CrFCONが挙げられる。
位相シフト膜30側(反射率低減層32の表面側)より入射される光に対する反射率の低減効果と、位相シフト膜30全体として、ウェットエッチングにより優れたパターン断面形状を形成する観点から、位相シフト層31および反射率低減層32は、さらに窒素(N)を含有することが好ましい。窒素(N)の含有量は、0.4~30原子%とすることができる。位相シフト層31および反射率低減層32に窒素が含まれる場合、前記位相シフト層31に含まれる窒素(N)の含有量は、反射率低減層32に含まれる窒素(N)の含有量と同じか、又はそれよりも多いことが好ましい。また、反射率低減層32に含まれる酸素(O)の含有量は、位相シフト層31に含まれる酸素(O)の含有量よりも多い状態とすることが好ましい。また、反射率低減層32に含まれる酸素(O)の含有量は、位相シフト層31に含まれる酸素(O)の含有量よりも少なくとも1原子%以上、好ましくは、5原子%以上多くすることが、表面反射率の低減効果の点で好ましい。
反射率低減層32は、スパッタリング法により形成することができる。
【0030】
メタル層33は、位相シフト層31と反射率低減層32との間に配置される。メタル層33は、露光光に対する透過率を調整する機能を有するとともに、反射率低減層32と組み合わさって、位相シフト膜30側より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する。さらに、位相シフト層と組み合わさって、透明基板20側より入射される光に対する反射率を低減させる機能を有する。
メタル層33は、クロム(Cr)と炭素(C)とを含有し、クロムと炭素との含有量の比率は、1:0.4以上1:0.7以下であることが求められ、1:0.45以上1:0.65以下であることが好ましく、1:0.5以上1:0.6以下であることがより好ましい。メタル層33におけるクロムと炭素との含有量の比率を、上記の範囲とすることで、上述したように、基板面内における位相シフト膜30に形成されるパターン(位相シフト膜パターン)の断面形状を安定化させて、断面形状のばらつきを抑制することができる。
【0031】
また、メタル層33において、各元素の平均含有量は、クロム(Cr)の含有量が55~80原子%、炭素(C)の含有量が20~45原子%である。さらに、メタル層33は、位相シフト層31、反射率低減層32との関係において、メタル層33に含まれるクロムの含有量は、位相シフト層31、反射率低減層32に含まれるクロムの含有量よりも多い。炭素(C)の含有量を20原子%以上とすることで、サイドエッチングレートが速くなることによるメタル層33の断面形状に侵食(喰われ)が生じることを抑制することができる。また、炭素(C)の含有量を45原子%以下とすることで、メタル層33断面形状がテーパー形状となることを抑制できる。メタル層に含まれる炭素(C)の平均含有量は、好ましくは25~40原子%とすることが望ましい。また、メタル層33は、窒素(N)、酸素(O)、フッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム系材料としてもよい。例えば、メタル層33を形成する材料として、CrC、CrCN、CrCO、CrCF、CrCON、CrCONFが挙げられる。また、メタル層33は、サイドエッチングレートの制御性の観点から、さらに酸素(O)を含有して、クロム(Cr)と炭素(C)と酸素(O)とを含有したクロム系材料としても構わない。メタル層33に酸素(O)が含まれる場合、位相シフト膜の表面反射率や裏面反射率の光学特性も考慮して、その酸素(O)の平均含有量は、0.2~15原子%が好ましく、さらに好ましくは0.3~10原子%、さらに好ましくは0.4~5原子%、さらに好ましくは0.5~3原子%が望ましい。
メタル層33を備えることにより、位相シフト膜のシート抵抗が下がるため、位相シフトマスクブランクおよび位相シフトマスクのチャージアップを防止することができる。メタル層33を備えていない場合、位相シフトマスクブランクおよび位相シフトマスクをケースから出し入れするとき発生する静電気が逃げずに位相シフトマスクブランクおよび位相シフトマスクに電荷が貯まるため、異物を付着させやすい。また、位相シフトマスクに小さなパターンが形成されているとき、パターンからパターンに電子が移動し、静電気破壊が起こりやすい。
メタル層33は、スパッタリング法により形成することができる。
【0032】
メタル層33は、位相シフト層31及び反射率低減層32のクロム(Cr)含有量(原子%)よりも高いクロム(Cr)含有量(原子%)を有する。
メタル層33の平均Cr含有量と、位相シフト層31及び反射率低減層32の平均Cr含有量との差は、好ましくは、10~80原子%であり、より好ましくは、15~80原子%である。平均Cr含有量の差が、10~80原子%であると、メタル層33と反射率低減層32との界面の上記波長域(350nm~436nmの波長域、または、313nm~436nmの波長域)における反射率を高めることができるので、より反射率低減効果が発揮されるので好ましい。
メタル層33の平均Cr含有量と、位相シフト層31及び反射率低減層32の平均Cr含有量の差は、さらに好ましくは15~60原子%、20~50原子%とすることが望ましい。平均Cr含有量の差を、上記範囲にすることにより、反射率低減層側より入射される光に対して、メタル層33と反射率低減層32との界面の上記波長域(350nm~436nmの波長域、または、313nm~436nmの波長域)での反射率低減効果に加え、透明基板側より入射される光に対して、メタル層33と位相シフト層31との界面の上記波長域(313nm~436nmの波長域)での反射率低減効果が発揮されるので好ましい。
なお、メタル層33のエッチング速度は、クロム(Cr)に窒素(N)、酸素(O)、炭素(C)、フッ素(F)を含有させてクロム系材料とすることにより調整することができる。例えば、クロム(Cr)に炭素(C)やフッ素(F)を含有させることにより、ウェットエッチング速度を遅くすることができ、クロム(Cr)に窒素(N)や酸素(O)を含有させることにより、ウェットエッチング速度を速くすることができる。メタル層33の上下に形成されている位相シフト層31、反射率低減層32とのウェットエッチング速度を考慮して、クロムに上述の元素を添加したクロム系材料とすることにより、エッチング後の位相シフト膜パターンの断面形状を良好にすることができる。
【0033】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々は、350nm~436nmの波長域において、2.0以上の屈折率を有することが好ましい。2.0以上の屈折率を有すると、所望の光学特性(透過率および位相差)を得るために必要な位相シフト膜30の膜厚を薄膜化することができる。したがって、該位相シフト膜30を備えた位相シフトマスクブランク10を用いて作製される位相シフトマスクは、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有する位相シフト膜パターンを備えることができる。
屈折率は、n&kアナライザーやエリプソメータなどを用いて算出することができる。
【0034】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の積層構造により、露光光に対する位相シフト膜30の透過率および位相差は所定の光学特性を有する。
露光光に対する位相シフト膜30の透過率は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の透過率は、露光光に含まれる所定の波長の光(以下、代表波長という)に対して、好ましくは、1%~30%であり、より好ましくは、1.5%~25%であり、さらに好ましくは2%~20%である。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した透過率を有する。例えば、露光光がj線、i線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、j線、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した透過率を有する。
露光光に対する位相シフト膜30の位相差は、位相シフト膜30として必要な値を満たす。位相シフト膜30の位相差は、露光光に含まれる代表波長の光に対して、好ましくは、160°~200°であり、より好ましくは、170°~190°である。この性質により、露光光に含まれる代表波長の光の位相を160°~200°変えることができる。このため、位相シフト膜30を透過した代表波長の光と透明基板20のみを透過した代表波長の光との間に160~200°の位相差が生じる。すなわち、露光光が313nm以上436nm以下の波長範囲の光を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、その波長範囲に含まれる代表波長の光に対して、上述した位相差を有する。例えば、露光光がj線、i線、h線およびg線を含む複合光である場合、位相シフト膜30は、j線、i線、h線およびg線のいずれかに対して、上述した位相差を有する。
位相シフト膜30の透過率および位相差は、位相シフト膜30を構成する位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さを調整することにより制御することができる。このため、この実施の形態では、位相シフト膜30の透過率および位相差が上述した所定の光学特性を有するように、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さが調整されている。なお、位相シフト膜30の透過率は、主に、位相シフト層31およびメタル層33の組成および厚さに影響される。位相シフト膜30の屈折率は、主に、位相シフト層31の組成および厚さに影響される。
透過率および位相差は、位相シフト量測定装置などを用いて測定することができる。
【0035】
位相シフト膜30側より入射される光に対する位相シフト膜30の表面反射率は、350nm~436nmの波長域において15%以下である。また、313nm~436nmの波長域において22.5%以下であることが好ましい。すなわち、位相シフト膜30側より入射される光に対する位相シフト膜30の表面反射率は、350nm~436nmの波長域において15%以下であり、波長域を313nm~436nmに広げても、22%以下であることが好ましい。位相シフト膜30の表面反射率が350nm~436nmの波長域において15%以下であると、レーザー描画光に対する表面反射率が低減するため、優れたCD均一性を有する位相シフトマスクを形成することができる。また、位相シフト膜30の表面反射率が313nm~436nmの波長域において22.5%以下であると、露光光に対する表面反射率が低減するため、位相シフトマスクに形成されているパターンを転写する際に、表示装置基板からの反射光に起因する転写パターンのぼやけ(フレア)を防止することができる。位相シフト膜30の表面反射率は、313nm~436nmにおいて、好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下が望ましい。
位相シフト膜30の表面反射率の変動幅は、好ましくは、350nm~436nmの波長域において9%以下、さらに好ましくは、8.5%以下である。また、313nm~436nmの波長域において12.5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、12%である。すなわち、位相シフト膜30の表面反射率の変動幅は、350nm~436nmの波長域において9%以下、さらには8.5%以下であることが好ましく、波長域を313nm~436nmに広げても、12.5%以下、さらには12%以下であることが好ましい。
位相シフト膜30の表面反射率およびその変動幅は、位相シフト膜30を構成する位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の屈折率、消衰係数および厚さを調整することにより制御することができる。消衰係数および屈折率は、組成を調整することにより制御することができるため、この実施の形態では、位相シフト膜30の表面反射率およびその変動幅が上述した所定の物性を有するように、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さが調整されている。なお、位相シフト膜30の表面反射率およびその変動幅は、主に、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さに影響される。
表面反射率は、分光光度計などを用いて測定することができる。表面反射率の変動幅は、350nm~436nmまたは313nm~436nmの波長域における最大の反射率と最小の反射率との差から求められる。
【0036】
位相シフト層31は、組成の均一な単一の膜からなる場合であってもよいし、組成の異なる複数の膜からなる場合であってもよいし、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合であってもよい。メタル層33および反射率低減層32についても同様である。
また、位相シフト層31とメタル層33の界面、メタル層33と反射率低減層32の界面に、位相シフト層31、メタル層33、反射率低減層23の各々を構成する各元素が組成傾斜した組成傾斜領域を有していても構わない。なお、組成傾斜領域では、領域全体にわたって連続的に組成傾斜していてもよく、段階的に組成傾斜していてもよく、さらに、一部が段階的で他の一部が連続的に組成傾斜していてもよい。
【0037】
図2は位相シフトマスク中間体を示す模式図である。図2に示すように、位相シフトマスク中間体11は、透明基板20と位相シフト膜30との間に遮光性膜パターン40を備える。
【0038】
位相シフトマスク中間体11における、遮光性膜パターン40は、透明基板20の主表面上に配置される。遮光性膜パターン40は、露光光の透過を遮る機能を有する。
遮光性膜パターン40を形成する材料は、露光光の透過を遮る機能を有する材料であれば、特に制限されない。例えば、クロム系材料が挙げられる。クロム系材料として、クロム(Cr)、または、クロム(Cr)と、炭素(C)および窒素(N)のうちの少なくとも一種とを含むクロム系材料が挙げられる。その他、クロム(Cr)と、酸素(O)およびフッ素(F)のうちの少なくとも一種とを含むクロム系材料、または、クロム(Cr)と、炭素(C)および窒素(N)のうちの少なくとも一種とを含み、さらに、酸素(O)およびフッ素(F)のうちの少なくとも一種を含むクロム系材料が挙げられる。例えば、遮光性膜パターン40を形成する材料として、Cr、CrC、CrN、CrCNが挙げられる。
遮光性膜パターン40は、スパッタリング法により成膜した遮光性膜を、エッチングによりパターニングすることにより形成することができる。
【0039】
位相シフト膜30と遮光性膜パターン40とが積層する部分において、露光光に対する光学濃度は、好ましくは3以上であり、より好ましくは、3.5以上である。
光学濃度は、分光光度計もしくはODメーターなどを用いて測定することができる。
【0040】
遮光性膜パターン40は、組成が均一な単一の膜からなる場合であってもよいし、組成が異なる複数の膜からなる場合であってもよいし、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合であってもよい。
【0041】
なお、位相シフトマスクブランク10および位相シフトマスク中間体11は、位相シフト膜30上にレジスト膜を備えるものであってもよい。
【0042】
次に、この実施の形態の位相シフトマスクブランク10の製造方法について説明する。位相シフトマスクブランク10および位相シフトマスク中間体11は、以下の準備工程と位相シフト膜形成工程とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0043】
1.準備工程
準備工程では、先ず、透明基板20を準備する。透明基板20の材料は、使用する露光光に対して透光性を有する材料であれば、特に制限されない。例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラスが挙げられる。
位相シフトマスク中間体11を製造する場合、その後、透明基板20上に、スパッタリング法により、例えば、クロム系材料からなる遮光性膜を形成する。その後、遮光性膜上にレジスト膜パターンを形成し、レジスト膜パターンをマスクにして遮光性膜をエッチングして、遮光性膜パターン40を形成する。その後、レジスト膜パターンを剥離する。
【0044】
2.位相シフト膜形成工程
位相シフト膜形成工程では、透明基板20上に、スパッタリング法により、クロム系材料からなる位相シフト膜30を形成する。ここで、透明基板20上に遮光性膜パターン40が形成されている場合、遮光性膜パターン40を覆うように、位相シフト膜30を形成する。
【0045】
位相シフト膜30は、透明基板20の主表面上に位相シフト層31を成膜し、位相シフト層31上にメタル層33を成膜し、メタル層33上に反射率低減層32を成膜することにより形成される。
【0046】
位相シフト層31の成膜は、クロムまたはクロム系材料を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。必要に応じて、上記混合ガスに窒素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスを添加しても構わない。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。スパッタターゲットとしては、クロム金属の他に、酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム、酸化窒化炭化クロム等のクロム系材料を使用することができる。
同様に、メタル層33の成膜は、クロムまたはクロム系材料を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスからなるスパッタガス雰囲気、または、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、二酸化炭素ガス、炭化水素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。必要に応じて、上記混合ガスに、酸素ガス、窒素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスを添加しても構わない。スパッタターゲットとしては、クロム金属の他に、酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム、酸化窒化炭化クロム等のクロム系材料を使用することができる。
同様に、反射率低減層32の成膜は、クロムまたはクロム系材料を含むスパッタターゲットを使用して、例えば、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスおよびキセノンガスからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む不活性ガスと、酸素ガス、一酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、二酸化炭素ガス、からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む活性ガスとの混合ガスからなるスパッタガス雰囲気で行われる。必要に応じて、上記混合ガスに窒素ガス、炭化水素系ガス、フッ素系ガスからなる群より選ばれる少なくとも一種のガスを添加しても構わない。炭化水素系ガスとしては、例えば、メタンガス、ブタンガス、プロパンガス、スチレンガス等が挙げられる。スパッタターゲットとしては、クロム金属の他に、酸化クロム、窒化クロム、酸化窒化クロム、酸化窒化炭化クロム等のクロム系材料を使用することができる。
【0047】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32を成膜する際、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成および厚さは、位相シフト膜30の透過率および位相差が上述した所定の光学特性を有し、かつ、位相シフト膜30の表面反射率およびその変動幅が上述した所定の物性を有するように調整される。特に、メタル層33に含有されるクロムと炭素については、クロムと炭素との含有量の比率は、1:0.4以上であって1:0.7以下であるように調整される。位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の組成は、スパッタガスの組成および流量などにより制御することができる。位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の厚さは、スパッタパワー、スパッタリング時間などにより制御することができる。また、スパッタリング装置がインライン型スパッタリング装置の場合、基板の搬送速度によっても、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々の厚さを制御することができる。
【0048】
位相シフト層31が、組成の均一な単一の膜、または複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成および流量を変えずに1回だけ、または複数回行う。位相シフト層31が、組成の異なる複数の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、成膜プロセス毎にスパッタガスの組成および流量を変えて複数回行う。位相シフト層31が、厚さ方向に組成が連続的に変化する単一の膜からなる場合、上述した成膜プロセスを、スパッタガスの組成および流量を変化させながら1回だけ行う。メタル層33の成膜および反射率低減層32の成膜についても同様である。成膜プロセスを複数回行う場合、スパッタターゲットに印加するスパッタパワーを小さくすることができる。
【0049】
位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32は、インライン型スパッタリング装置を用いて、透明基板20を装置外に取り出すことによって大気に曝すことなく、連続して成膜することが好ましい。装置外に取り出さずに、連続して成膜することにより、意図しない各層の表面酸化や表面炭化を防止することができる。各層の意図しない表面酸化や表面炭化は、位相シフト膜30上に形成されたレジスト膜を描画する際に使用するレーザー光や表示装置基板上に形成されたレジスト膜に位相シフト膜パターンを転写する際に使用する露光光に対する反射率を変化させたり、また、酸化部分や炭化部分のエッチングレートを変化させる恐れがある。
【0050】
なお、レジスト膜を備える位相シフトマスクブランク10を製造する場合、次に、位相シフト膜上にレジスト膜を形成する。
【0051】
この実施の形態1の位相シフトマスクブランク10は、透明基板20上に設けられたクロム系材料からなる位相シフト膜30が、位相シフト層31と、反射率低減層32と、位相シフト層31と反射率低減層32との間に設けられたメタル層33とを有しており、位相シフト層31と反射率低減層32は、クロムと酸素とを含有し、クロムが30~70原子%、酸素が30~70原子%であり、メタル層33は、クロムと炭素とを含有し、前記中間層におけるクロムと炭素との含有量の比率は、1:0.4以上であって1:0.7以下である。このため、この位相シフトマスクブランク10を用いて、優れた位相シフト膜パターンの断面形状および優れたCD均一性を有し、位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきが抑制された位相シフトマスクを製造することができる。
【0052】
また、この実施の形態の位相シフトマスクブランク10は、露光光に対する位相シフト膜30の表面反射率が、350nm~436nmの波長域において15%以下である。このため、この位相シフトマスクブランク10を用いて、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、微細パターンが形成されている位相シフトマスクを製造することができる。
また、この実施の形態1の位相シフトマスクブランク10は、位相シフト膜の裏面反射率が365~436nmの波長域において20%以下である。このため、露光装置側への反射の影響を抑えることができるので、高精度のパターン転写が可能な位相シフトマスクを製造することができる。
【0053】
実施の形態2.
実施の形態2では、位相シフトマスクの製造方法について説明する。位相シフトマスクブランクは、以下のレジスト膜パターン形成工程と位相シフト膜パターン形成工程とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0054】
1.レジスト膜パターン形成工程
レジスト膜パターン形成工程では、先ず、実施の形態1の位相シフトマスクブランク10の位相シフト膜30上に、レジスト膜を形成する。ただし、位相シフトマスクブランク10が、位相シフト膜30上にレジスト膜を備えるものである場合、レジスト膜の形成は行わない。使用するレジスト膜材料は、特に制限されない。後述する350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光に対して感光するものであればよい。また、レジスト膜は、ポジ型、ネガ型のいずれであっても構わない。
その後、350nm~436nmの波長域から選択されるいずれかの波長を有するレーザー光を用いて、レジスト膜に所定のパターンを描画する。レジスト膜に描画するパターンとして、ラインアンドスペースパターンやホールパターンが挙げられる。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、位相シフト膜30上にレジスト膜パターンを形成する。
【0055】
2.位相シフト膜パターン形成工程
位相シフト膜パターン形成工程では、先ず、レジスト膜パターンをマスクにして位相シフト膜30をエッチングして、位相シフト膜パターンを形成する。位相シフト膜30を構成する位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32の各々は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。このため、位相シフト層31、メタル層33および反射率低減層32は、同じエッチング媒質(エッチング溶液)によりエッチングすることができる。位相シフト膜30をエッチングするエッチング媒質(エッチング溶液)は、位相シフト膜30を選択的にエッチングできるものであれば、特に制限されない。具体的には、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング溶液などが挙げられる。
その後、レジスト剥離液を用いて、または、アッシングによって、レジスト膜パターンを剥離する。
【0056】
この実施の形態2の位相シフトマスクの製造方法によれば、実施の形態1の位相シフトマスクブランクを用いて位相シフトマスクを製造することで、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有し、位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきが抑制されている位相シフトマスクを製造することができる。
【0057】
実施の形態3.
実施の形態3では、表示装置の製造方法について説明する。表示装置は、以下のマスク載置工程とパターン転写工程とを行うことによって製造される。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0058】
1.載置工程
載置工程では、実施の形態2で製造された位相シフトマスクを露光装置のマスクステージに載置する。ここで、位相シフトマスクは、露光装置の投影光学系を介して表示装置基板上に形成されたレジスト膜に対向するように配置される。
【0059】
2.パターン転写工程
パターン転写工程では、位相シフトマスクに露光光を照射して、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に位相シフト膜パターンを転写する。露光光は、313nm~436nmの波長域から選択される複数の波長の光を含む複合光や、313nm~436nmの波長域からある波長域をフィルターなどでカットし選択された単色光である。例えば、露光光は、i線、h線およびg線を含む複合光や、j線、i線、h線およびg線を含む混合光や、i線の単色光である。露光光として複合光を用いると、露光光強度を高くしてスループットを上げることができるため、表示装置の製造コストを下げることができる。
さらに、位相シフト膜の裏面反射率が365~436nmの波長域において20%以下となる位相シフトマスクであるため、露光装置側への反射の影響を抑えることができ、表示装置基板上に形成されたレジスト膜に対して高精度のパターン転写を行うことができる。
【0060】
この実施の形態3の表示装置の製造方法によれば、高解像度、高精細の表示装置を製造することができる。
【実施例
【0061】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
【0062】
実施例1~2および比較例1の位相シフトマスクブランクは、透明基板と、透明基板上に配置されたクロム系材料からなる位相シフト膜とを備える。透明基板として、合成石英ガラス基板を用いた。
図3は実施例1における位相シフトマスクのパターン断面形状を示す断面図である。図4は実施例2における位相シフトマスクのパターン断面形状を示す断面図である。
以下、実施例1~2および比較例1について詳細に説明する。
【0063】
実施例1.
実施例1の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層とメタル層と反射率低減層とから構成されている。
【0064】
実施例1の位相シフトマスクブランクは、以下の方法により製造した。
先ず、透明基板である合成石英ガラス基板を準備した。透明基板の両主表面は鏡面研磨されている。実施例2および比較例1において準備した透明基板の両主表面も同様に鏡面研磨されている。
次に、表示装置用の位相シフトマスクブランクに使用する1214サイズ(1200mm×1400mm)の透明基板と同一成膜条件にて成膜する評価用の6025サイズ(152mm×152mm)の透明基板をインライン型スパッタリング装置に搬入した。インライン型スパッタリング装置には、スパッタ室が設けられている。
【0065】
次に、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに8kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、60mm/分の速度で透明基板を搬送させた。ここで、混合ガスは、Arが12sccm、Nが12sccm、COが40sccm、Oが3sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、透明基板上に主にCrとOとを含むクロム系材料からなる位相シフト層を成膜した。
次に、クロムターゲットに3kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCHガスとの混合ガス(Ar:45sccm、CH:15sccmが含まれている混合ガス)をスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、位相シフト層上に主にCrとCを含むクロム系材料からなるメタル層を成膜した。
次に、クロムターゲットに8kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとNガスとCOガスとOガスとの混合ガスをスパッタ室内に導入しながら、120mm/分の速度で透明基板を搬送させた。透明基板がクロムターゲット付近を通過する際に、メタル層上に主にCrとCとを含むクロム系材料からなる反射率低減層を成膜した。ここで、混合ガスは、Arが12sccm、Nが12sccm、COが40sccm、Oが3sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入した。
次に、位相シフト層とメタル層と反射率低減層とから構成される位相シフト膜が形成された透明基板をインライン型スパッタリング装置から取り出し、洗浄を行った。
なお、位相シフト層の成膜、メタル層の成膜、および反射率低減層の成膜は、透明基板をインライン型スパッタリング装置外に取り出すことによって大気に曝すことなく、インライン型スパッタリング装置内で連続して行った。
【0066】
実施例1の位相シフト膜について、深さ方向の組成をX線光電子分光法(XPS)により測定した。
位相シフト層は、主にクロム(Cr)と酸素(O)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:46.3原子%、O:52.7原子%、N:0.7原子%、C:0.3原子%であった。また、メタル層は、主にクロム(Cr)と炭素(C)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:65.7原子%、C:29.4原子%、O:4.8原子%、N:0.1原子%であった。さらに、反射率低減層は、主にクロム(Cr)と酸素(O)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:44.7原子%、O:54.1原子%、N:0.7原子%、C:0.5原子%であった。また、位相シフト層とメタル層との間、メタル層と反射率低減層との間には、連続的に各元素が減少又は増加した組成傾斜領域を有していた。
【0067】
なお、上述の組成分析結果から、メタル層におけるクロムと炭素との含有量の比率は、1:0.45であり、1:0.4以上1:0.7以下の範囲を満たすものであった。
【0068】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率は4.8%および位相差は182°を有していた。
なお、透過率および位相差は、レーザーテック社製のMPM-100(商品名)を用いて測定した。実施例2および比較例1においても同様に測定した。
【0069】
位相シフト膜は、表面反射率が、313nmの波長において18.0%であり、350nmにおいて12.8%であり、365nmの波長において12.3%であり、405nmの波長において13.1%であり、413nm波長において13.4%であり、436nmの波長において14.5%であった。また、位相シフト膜は、表面反射率の変動幅が、350nm~436nmの波長域において、2.2%であり、365nm~436nmの波長域において、2.2%であり、313nm~436nmの波長域において、5.8%であった。
なお、表面反射率は、島津製作所社製のSolidSpec-3700(商品名)を用いて測定した。実施例2および比較例1においても同様に測定した。
【0070】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、以下の方法により位相シフトマスクを製造した。
先ず、上述した位相シフトマスクブランクの位相シフト膜上に、ノボラック系のポジ型のフォトレジストからなるレジスト膜を形成した。
その後、レーザー描画機により、波長413nmのレーザー光を用いて、レジスト膜に所定のパターンを描画した。
その後、レジスト膜を所定の現像液で現像して、位相シフト膜上にレジスト膜パターンを形成した。
その後、レジスト膜パターンをマスクにして位相シフト膜をエッチングして、位相シフト膜パターンを形成した。位相シフト膜を構成する位相シフト層、メタル層および反射率低減層の各々は、クロム(Cr)を含むクロム系材料から形成される。このため、位相シフト層、メタル層および反射率低減層は、同じエッチング溶液によりエッチングすることができる。ここでは、位相シフト膜をエッチングするエッチング溶液として、硝酸第二セリウムアンモニウムと過塩素酸とを含むエッチング溶液を用いた。
その後、レジスト剥離液を用いて、レジスト膜パターンを剥離した。
【0071】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンの断面形状について、NI VISION(NATIONAL INSTRUMENTS社製)のパターンマッチング手法により評価を行った。まず、位相シフト膜パターンから1個のパターンを任意に選択して、その位相シフト膜パターンの断面形状を撮像して、パターンの断面形状の基準形状を作成した。
なお、位相シフトマスクの位相シフト膜パターン断面は、電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJSM7401F(商品名))を用いて、基板面内の中心と外側4箇所の合計5箇所を観察した。実施例2および比較例1においても同様に測定した。
次に、各パターンの断面形状と基準形状とを対比して、各パターン断面に対して点数付けを行った。点数は、基準形状を1000点とし、この基準形状からのずれの大きさに応じて点数が下がるように調整した。また、パターンとして許容できる範囲の下限値を750点に設定し、許容できる範囲を超えてずれた形状のものについては判定外として、点数付けを行わなかった。
【0072】
図3は、実施例1における位相シフトマスクのパターン断面形状を示す断面図である。同図に示されるように、いずれのパターンの断面も、900点を上回っており、得られたパターン断面はいずれも安定していた。
【0073】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、68nmであり、良好であった。CDばらつきは、目標とするラインアンドスペースパターン(ラインパターンの幅:1.8μm、スペースパターンの幅:1.8μm)からのずれ幅である。
なお、位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、セイコーインスツルメンツナノテクノロジー社製SIR8000を用いて測定した。実施例2および比較例1においても同様に測定した。
【0074】
上述した位相シフトマスクは、位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきを抑制することができ、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有していた。
評価用の6025サイズの透明基板を1214サイズの透明基板に代えて、インライン型スパッタリング装置に導入して、上述と同一条件で位相シフト層とメタル層と反射率低減層の積層構造の位相シフト膜を形成して位相シフトマスクブランクを作製した。得られた位相シフト膜の膜組成比は上述の測定結果と同じで、位相シフト膜の光学特性(透過率、位相差、表面反射率、裏面反射率)も同じであった。
次に、位相シフトマスクブランクを使用して位相シフトマスクを作製した。得られた位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、上述と同じ結果となった。
このように、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
【0075】
実施例2.
実施例2の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層とメタル層と反射率低減層とから構成される。
【0076】
実施例2の位相シフトマスクブランクを構成するメタル層を、以下の成膜条件で成膜した以外は、実施例1と同様にして位相シフトマスクブランクを製造した。反射率低減層は、クロムターゲットに3kwのスパッタパワーを印加し、ArガスとCHガスとの混合ガス(Ar:42sccm、CH:18sccmが含まれている混合ガス)をスパッタ室内に導入しながら、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた。
実施例2の位相シフト膜について、深さ方向の組成をX線光電子分光法(XPA)により測定した結果を示す。
位相シフト層は、主にクロム(Cr)と酸素(O)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:46.5原子%、O:52.4原子%、N:0.8原子%、C:0.3原子%あった。また、メタル層は、主にクロム(Cr)と炭素(C)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:64.2原子%、C:33.1原子%、O:2.7原子%であった。さらに、反射率低減層33は、主にクロム(Cr)と酸素(O)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:46.0原子%、O:52.7原子%、N:0.8原子%、C:0.5原子%あった。また、位相シフト層とメタル層との間、メタル層と反射率低減層との間には、連続的に各元素が減少又は増加した組成傾斜領域を有していた。
【0077】
メタル層におけるクロムと炭素との含有量の比率は、1:0.52であり、1:0.4以上1:0.7以下の範囲を満たすものであった。
【0078】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率は4.9%および位相差は182°を有していた。
【0079】
位相シフト膜は、表面反射率が、313nmの波長において19.3%であり、350nmにおいて13.8%であり、365nmの波長において13.2であり、405nmの波長において14.1%であり、413nm波長において14.4%であり、436nmの波長において15.6%であった。また、位相シフト膜は、表面反射率の変動幅が、350nm~436nmの波長域において、2.5%であり、365nm~436nmの波長域において、2.5%であり、313nm~436nmの波長域において、6.1%であった。
【0080】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて、実施例1と同様の方法により位相シフトマスクを製造した。
【0081】
そして、実施例1と同様に、位相シフト膜パターンの断面形状について、パターンマッチング手法により評価を行った。
図4は、実施例2における位相シフトマスクのパターン断面形状を示す断面図である。同図に示されるように、いずれのパターンの断面も、許容下限値である750点を上回っており、実施例1で得られたパターンよりはばらつきはあるものの、許容される範囲内であった。
【0082】
上述した位相シフトマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、80nmであり、良好であった。
【0083】
上述した位相シフトマスクは、位相シフト膜パターンの断面形状のばらつきを抑制することができ、優れたパターン断面形状および優れたCD均一性を有していた。
実施例1と同様に評価用の6025サイズの透明基板を1214サイズの透明基板に代えて、インライン型スパッタリング装置に導入して、上述と同一条件で位相シフト層とメタル層と反射率低減層の積層構造の位相シフト膜を形成して位相シフトマスクブランクを作製した。得られた位相シフト膜の膜組成比は上述の測定結果と同じで、位相シフト膜の光学特性(透過率、位相差、表面反射率、裏面反射率)も同じであった。
次に、位相シフトマスクブランクを使用して位相シフトマスクを作製した。得られた位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、上述と同じ結果となった。
このように、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができた。
【0084】
比較例1
比較例1の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜は、透明基板側から順に配置された、位相シフト層とメタル層と反射率低減層とから構成される。
比較例1の位相シフトマスクブランクにおける位相シフト層、メタル層、反射率低減層の各層は、以下の成膜条件により成膜した。
位相シフト層は、クロムターゲットに10kWのスパッタパワーを印加し、混合ガスとして、Arが12sccm、Nが12sccm、COが40sccm、Oが6sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入し、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた以外は、実施例1と同様にして透明基板上に主にCrとOとを含むクロム系材料からなる位相シフト層を成膜した。
次に、メタル層は、スパッタ室に配置されたクロムターゲットに3kWのスパッタパワーを印加し、ArガスとCHガスとの混合ガス(Ar:42sccm、CH:18sccm)をスパッタ室内に導入し、400mm/分の速度で透明基板を搬送させた以外は実施例1と同様にして位相シフト層上に主にCrを含むクロム系材料からなるメタル層を成膜した。
次に、反射率低減層は、混合ガスとして、Arが12sccm、Nが12sccm、COが40sccm、Oが6sccmの流量となるようにスパッタ室内に導入し、200mm/分の速度で透明基板を搬送させた以外は、実施例1と同様にしてメタル層上に主にCrとOとを含むクロム系材料からなる反射率低減層を成膜した。
【0085】
比較例1の位相シフト膜について、深さ方向の組成をX線光電子分光法(XPS)により測定した。
位相シフト層は、主にクロム(Cr)と酸素(O)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:45.9原子%、O:52.0原子%、N:1.3原子%、C:0.8原子%あった。また、メタル層は、主にクロム(Cr)と炭素(C)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:72.9原子%、C:22.5原子%、O:4.6原子%であった。さらに、反射率低減層33は、主にクロム(Cr)と酸素(O)とを含むクロム系材料で構成されており、各元素の平均含有量は、Cr:45.5原子%、O:52.0原子%、N:1.4原子%、C:1.1原子%であった。また、位相シフト層とメタル層との間、メタル層と反射率低減層との間には、連続的に各元素が減少又は増加した組成傾斜領域を有していた。
【0086】
なお、上述の組成分析結果から、メタル層におけるクロムと炭素との含有量の比率は、1:0.31であり、1:0.4以上1:0.7以下の範囲を満たすものではなかった。
【0087】
位相シフト膜は、上述した3層構造により、365nmの光に対する透過率6.3%および位相差180°を有していた。
【0088】
位相シフト膜は、表面反射率が、313nmの波長において8.1%であり、350nmにおいて4.7%であり、365nmの波長において4.0%であり、405nmの波長において5.3%であり、413nm波長において5.8%であり、436nmの波長において7.2%であった。また、位相シフト膜は、表面反射率の変動幅が、350nm~436nmの波長域において、3.2%であり、365nm~436nmの波長域において、3.2%であり、313nm~436nmの波長域において、4.1%であった。
なお、表面反射率は、島津製作所社製のSolidSpec-3700(商品名)を用いて測定した。
上述の実施例と同様に比較例1の位相シフトマスクブランクを用いて、位相シフトマスクを製造した。
【0089】
そして、実施例1と同様に、位相シフト膜パターンの断面形状について、パターンマッチング手法により評価を行った。その結果、1000点、827点、825点、787点と、許容下限値である750点を下回る、点数付けができないパターンが存在していた。
このように、比較例1における位相シフト膜のパターンには、大きなばらつきが生じていた。
【0090】
得られた位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、120nmであり、高解像度、高精細の表示装置の製造に用いられる位相シフトマスクに求められるレベルを達していなかった。
比較例1と同様に評価用の6025サイズの透明基板を1214サイズの透明基板に代えて、インライン型スパッタリング装置に導入して、上述と同一条件で位相シフト層とメタル層と反射率低減層の積層構造の位相シフト膜を形成して位相シフトマスクブランクを作製した。得られた位相シフト膜の膜組成比は上述の測定結果と同じで、位相シフト膜の光学特性(透過率、位相差、表面反射率、裏面反射率)も同じであった。
次に、位相シフトマスクブランクを使用して位相シフトマスクを作製した。得られた位相シフトマスクの位相シフト膜パターンのCDばらつきは、上述と同じ結果となった。
このように、上述した位相シフトマスクを用いて、高解像度、高精細の表示装置を製造することができなかった。
【0091】
以上のように、本発明を実施の形態および実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されない。該当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内にての変形や改良が可能であることは明白である。例えば、実施例においては、第1の機能層として位相シフト層を、第2の機能層として反射率低減層を有するものとしたが、所定の光学特性を満たす場合には、第1の機能層として反射率低減層を、第2の機能層として位相シフト層を有するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 位相シフトマスクブランク、20 透明基板、30 位相シフト膜、31 位相シフト層、32 反射率低減層、33 メタル層、40 遮光性膜パターン。
図1
図2
図3
図4