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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】モルタル硬化体の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2251 20180101AFI20220203BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 23/203 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20220203BHJP
【FI】
G01N23/2251
E04F13/08 101V
G01N23/203
G01N21/3563
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018120697
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2020003253
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-01-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第72回 セメント技術大会 講演要旨,26~29頁
(73)【特許権者】
【識別番号】398043285
【氏名又は名称】株式会社太平洋コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】沢木 大介
(72)【発明者】
【氏名】磯田 師子
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-189136(JP,A)
【文献】特表2009-514768(JP,A)
【文献】特開昭62-253403(JP,A)
【文献】特開2017-223546(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0037956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
E04F 13/00 - E04F 13/30
H01J 37/20 - H01J 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイルと、上記タイルを張付けるための面を有する被着体と、上記タイルと上記被着体の間に介在するモルタル硬化体を含むタイル含有構造体における上記モルタル硬化体の評価方法であって、
上記モルタル硬化体の一部を、走査型電子顕微鏡による観察に適する形状及び大きさの走査型電子顕微鏡用試料、並びに、粉末状の赤外分光分析用試料の少なくともいずれか一方として採取する試料採取工程と、
上記走査型電子顕微鏡用試料の表面を、走査型電子顕微鏡における電子線の照射による画像化によって観察する方法、及び、上記赤外分光分析用試料を含む赤外分光分析用被測定体について、赤外線の照射による赤外分光分析を行う方法の少なくともいずれか一方の方法を行うことで、上記走査型電子顕微鏡用試料及び上記赤外分光分析用試料の少なくともいずれか一方の試料の物理的または化学的な特徴として、吸水調整材の有無、上記吸水調整材の種類、上記吸水調整材の量、上記吸水調整材の使用状態、ドライアウト現象の有無、及び上記ドライアウト現象の程度、の中の一つ以上を把握する照射工程と、
上記試料の物理的または化学的な特徴に基いて、上記モルタル硬化体を評価する評価工程、
を含むことを特徴とするモルタル硬化体の評価方法。
【請求項2】
上記照射工程において、上記走査型電子顕微鏡における画像が、二次電子像である、請求項に記載のモルタル硬化体の評価方法。
【請求項3】
上記照射工程において、上記走査型電子顕微鏡における画像が、反射電子像である、請求項1又は2に記載のモルタル硬化体の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルの接着状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルの外壁等に張付け(貼付け)られたタイルが、時間の経過とともに、ビルの外壁等から浮き上がったり、剥落する場合がある。
その理由の一つとして、タイルの接着に用いられるモルタルの水分が、コンクリート等からなる躯体に吸収されることで、上記モルタルの水分が不足して、上記モルタルの硬化体の接着力が乏しくなるドライアウトと呼ばれる現象が挙げられる。
ドライアウト現象を防ぐ目的で、水分の移動を抑制する機能を有する吸水調整材が知られている。吸水調整材は、通常、モルタルを用いてタイルを接着する前に、コンクリート等からなる躯体側に塗布される。
モルタルの保水性を保ち、かつ、下地とモルタルの界面接着力を向上することができる吸水調整材として、特許文献1には、吸水調整材にナイロン系繊維補強材が混和されていることを特徴とする繊維補強吸収調整材が記載されている。
また、下地に吸水調整材を塗布する際に、塗布した部分と未塗布部分とを目視で明確に区別することができる吸水調整材として、特許文献2には、モルタル塗り工事において使用される吸水調整材であって、染料で着色されていることを特徴とする吸水調整材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-105948号公報
【文献】特開2011-241589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、タイルの接着状態(例えば、吸水調整材の使用の有無やその使用状態、及び、ドライアウト現象の有無やその程度)を評価して、タイルの浮き上がりや剥落の原因の究明、タイルの浮き上がりや剥落の予測等をすることができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、モルタル硬化体の一部を試料として採取する工程と、該試料に光線または電子線を照射して、該試料の物理的または化学的な特徴を把握する工程と、把握した特徴に基いて、タイルの接着状態の良否を評価する工程を含む評価方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
[1] タイルと、上記タイルを張付けるための面を有する被着体と、上記タイルと上記被着体の間に介在するモルタル硬化体を含むタイル含有構造体における上記タイルの接着状態の評価方法であって、上記モルタル硬化体の一部を試料として採取する試料採取工程と、上記試料に光線または電子線を照射して、上記試料の物理的または化学的な特徴を把握する照射工程と、上記試料の物理的または化学的な特徴に基いて、上記タイルの接着状態の良否を評価する評価工程、を含むことを特徴とするタイルの接着状態の評価方法。
[2] 上記試料採取工程において、上記モルタル硬化体から、走査型電子顕微鏡による観察に適する形状及び大きさの試料を採取し、上記照射工程において、上記試料の表面を、走査型電子顕微鏡における電子線の照射による画像化によって観察する、前記[1]に記載のタイルの接着状態の評価方法。
[3] 上記照射工程において、上記走査型電子顕微鏡における画像が、二次電子像である、前記[2]に記載のタイルの接着状態の評価方法。
[4] 上記照射工程において、上記走査型電子顕微鏡における画像が、反射電子像である、前記[2]に記載のタイルの接着状態の評価方法。
[5] 上記試料採取工程において、上記モルタル硬化体から、試料を粉末として採取し、上記照射工程において、上記試料を含む赤外分光分析用被測定体について、赤外線の照射による赤外分光分析を行う、前記[1]に記載のタイルの接着状態の評価方法。
[6] 上記評価工程において、(a)上記モルタル硬化体中の吸水調整材の有無及びその使用状態、並びに、(b)ドライアウト現象の有無及び程度、の中の一つ以上を評価する、前記[1]~[5]のいずれかに記載のタイルの接着状態の評価方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のタイルの接着状態の評価方法によれば、ビルの外壁等に張付けられたタイルの浮き上がりや剥落箇所におけるタイルの接着状態について評価を行うことで、その原因を究明したり、あるいは、タイルの浮き上がりや剥落が起こっていない箇所におけるタイルの接着状態について評価を行うことで、今後のタイルの浮き上がりや剥落の可能性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1における赤外スペクトルを示す図である。
図2】実施例2における赤外スペクトルを示す図である。
図3】実施例3における二次電子像Aを示す図である。
図4】実施例3における二次電子像Bを示す図である。
図5】実施例4における二次電子像Cを示す図である。
図6】実施例4における二次電子像Dを示す図である。
図7】実施例5における反射電子像Aを示す図である。
図8】実施例5における反射電子像Bを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、タイルと、タイルを張付けるための面を有する被着体と、タイルと被着体の間に介在するモルタル硬化体を含むタイル含有構造体におけるタイルの接着状態を評価する方法である。
ここで、タイルを張付けるための面を有する被着体とは、タイル含有構造体の本体部分であり、例えば、コンクリート等からなる躯体が挙げられる。
また、上記モルタル硬化体の例としては、被着体にタイルを張付ける前に、被着体のタイルを張付けるための面の凹凸を平滑にする目的で用いられるモルタル(以下、「下地調整モルタル」ともいう。)が硬化してなるものや、タイルを被着体に張付ける目的で用いられるモルタル(以下、「張付けモルタル」ともいう。)が硬化してなるものなどが挙げられる。
上記モルタル(下地調整モルタル、張付けモルタル等)を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、工法に応じてその配合等を適宜定めればよい。
【0009】
タイル含有構造体は、例えば、被着体におけるタイルを張付けるための面に、下地調整モルタルからなる層を形成した後、該層の面に吸水調整材を塗布し、次いで、一方の面(被着体に張付けるための面)に張付けモルタルからなる層を予め形成させてなるタイルを、被着体に張付けることで製造することができる。
また、吸水調整材は、下地調整モルタルからなる層の面に塗布せずに、下地調整モルタルまたは張付けモルタルの製造時に、該モルタルの材料と一緒に混練してもよい。
吸水調整材は、高分子を水に分散させてなるエマルジョンである。本発明において、吸水調整材の種類は、特に限定されない。市販されている吸水調整材の例としては、高分子としてエチレン/酢酸ビニル共重合体を用いた吸水調整材(以下、「EVA系吸水調整材」ともいう。)や、高分子としてアクリル/スチレン共重合体を用いた吸水調整材(以下、「アクリル系吸水調整材」ともいう。)などが挙げられる。吸水調整材中の高分子の含有率は、通常、40~50質量%である。
【0010】
以下、本発明のタイルの接着状態の評価方法について、工程ごとに詳しく説明する。
[試料採取工程]
本工程は、タイル含有構造体に含まれるモルタル硬化体の一部を試料として採取する工程である。
試料の採取方法は、照射工程(後述)において、試料の物理的または化学的な特徴を把握するための方法(例えば、走査型電子顕微鏡による観察や赤外分光分析)に応じて、適宜、定めればよい。
【0011】
[照射工程]
本工程は、試料採取工程で採取された試料に光線または電子線を照射して、該試料の物理的または化学的な特徴を把握する工程である。
試料に照射される光線または電子線の種類は、試料の物理的または化学的な特徴を把握するための方法(例えば、走査型電子顕微鏡による観察や赤外分光分析)に応じて、適宜、定めればよい。
[評価工程]
本工程は、照射工程で把握された試料の物理的または化学的な特徴に基いて、タイルの接着状態の良否を評価する工程である。
【0012】
照射工程及び評価工程において、試料の物理的または化学的な特徴を把握し、該特徴に基づいてタイルの接着状態の良否を評価する方法の具体例としては、以下の(i)~(ii)が挙げられる。
(i)走査型電子顕微鏡における電子線の照射による画像化によって観察する方法
観察の対象となる、電子線の照射による画像の例としては、二次電子像、反射電子像が挙げられる。
二次電子像を用いて観察を行う場合、二次電子像の観察に適する形状及び大きさの試料は、試料採取工程において、例えば、モルタル硬化体から、タガネ等を用いて1~4mm程度の小片を採取することで得ることができる。採取された試料はそのままの状態で、または、観察したい部分が露出するように試料の切断等を行った後、走査型電子顕微鏡を用いて観察される。
【0013】
二次電子像の観察によって、主に、吸水調整材の有無およびその使用状態を判断することができる。なお、吸水調整材の使用状態とは、吸水調整材の層の厚み(吸水調整材の使用量)や、モルタル硬化体における吸水調整材からなる層の位置等が挙げられる。
吸水調整材がないまたは不十分と判断された場合、観察対象であるタイル含有構造体はドライアウト現象の起こりやすいものであると判断することができる。吸水調整材が十分(適量)にあると判断された場合、観察対象であるタイル含有構造体はドライアウト現象の起こりにくいものであると判断することができる。しかし、吸水調整材の量が大きすぎる場合(例えば、観察された吸水調整材からなる層の厚みが5μm以上である場合)、かえってタイルの浮き上がりや剥落が助長されるため、観察対象であるタイル含有構造体はタイルの浮き上がりや剥落の起こりやすいものであると判断することができる。
【0014】
二次電子像の観察による吸水調整材の有無の判断は、赤外分光分析(後述)による吸水調整材の有無の判断と併せて行ってもよい。例えば、吸水調整材が、モルタル硬化体の内部の特定の領域のみ(例えば、下地調整モルタルからなる層と張付けモルタルからなる層の間)に存在する場合や、モルタル硬化体と被着体の間に存在する場合等に、適切な試料の採取ができなくて、赤外分光分析では吸水調整材の有無の判断が難しくなることがある。しかし、このような場合であっても、二次電子像を用いることで、吸水調整材の有無をより正確に判断することができる。
【0015】
反射電子像を用いて観察を行う場合、反射電子像の観察に適する形状及び大きさの試料は、試料採取工程において、例えば、モルタル硬化体から採取された試料が、被着体におけるタイルを張付けるための面に対して垂直となる切断面(モルタル硬化体の厚み方向の切断面)を有するような形状となるように採取される。通常、試料の上記切断面は、鏡面に近くなるまで研磨された後、導電性を持たせる目的で炭素を蒸着し、走査型電子顕微鏡を用いて観察される。
反射電子像の観察によって、ドライアウト現象の有無及び程度を判断することができる。
より具体的には、反射電子像において、水和物の生成により緻密な組織となっている部分は明るめに観察され、また、水和物が少なく全体的に空疎な組織となっている部分(ドライアウト現象によるもの)は暗めに観察されることから、反射電子像における明暗によって、ドライアウト現象の有無及び程度を判断することができる。
【0016】
(ii)赤外線の照射による赤外分光分析による方法
赤外線(光線の1種)の照射による赤外分光分析を行う場合、試料採取工程において、モルタル硬化体から、試料を粉末として採取する。
得られた粉末状の試料は、例えば、メノウ乳鉢等を用いて臭化カリウム(KBr)と混合し、次いで、加圧成型法により円盤型ペレットに成型されることで、赤外分光分析用被測定体となる。赤外分光分析は、上記赤外分光分析用被測定体に赤外線を照射することで行なわれる。
赤外分光分析で得られた赤外スペクトルから、吸水調整材の有無やその種類を評価することができる。
【0017】
例えば、得られた赤外スペクトルにおいて、1,680~1,780cm-1付近(エステルのC=O結合の伸縮によるもの)、及び、1,190~1,290cm-1付近(C-O結合の伸縮によるもの)にピークが現れた場合、試料(モルタル硬化体)には、EVA系吸水調整材が含まれていると判断することができる。また、2,800~3,000cm-1付近(メチル基及びメチレン基のC-H結合の伸縮によるもの)のピークも、EVA系吸水調整材の有無の判断の指標とすることができる。
また、得られた赤外スペクトルにおいて、3,000~3,200cm-1付近(ベンゼン環のC-H結合の伸縮によるもの)、2,800~3,000cm-1付近(メチル基及びメチレン基のC-H結合の伸縮によるもの)、及び、1,680~1,780cm-1付近(エステルのC=O結合の伸縮によるもの)にピークが現れた場合、試料(モルタル硬化体)には、アクリル系吸水調整材が含まれていると判断することができる。
また、ピークの大きさから吸水調整材の量を判断することができる(例えば、ピークが大きければ、吸水調整材の量が大きいと判断することができる。)。
【実施例
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ビルの外壁(被着体)にタイルが張付けられてなるタイル含有構造体であって、被着体におけるタイルを張付けるための面と、タイルの間に、吸水調整材の塗布層を有するタイル含有構造体、及び、ビルの外壁(被着体)にタイルが張付けられてなるタイル含有構造体であって、被着体におけるタイルを張付けるための面と、タイルの間に、吸水調整材の塗布層を有しないタイル含有構造体について、各々、タイル含有構造体からタイルを剥がし、タイルが接着されていた被着体の表面に形成されているモルタル硬化体から、カッターを用いて粉末状の試料を採取した。
採取した粉末状の試料約1mgと臭化カリウム約100mgを混合し、メノウ乳鉢中でよくすりつぶした。次いで、メノウ乳鉢中の混合物を加圧成型法により円盤型のペレットに成型し、得られた成型物(ペレット)に赤外線を照射して、赤外分光分析装置(日本分光社製、「FT/IR-6100」)を用いて赤外分光分析を行った。
得られた赤外スペクトルを図1に示す。
図1から、吸水調整材が塗布されてなるタイル含有構造体のモルタル硬化体の試料では、得られた赤外スペクトルにおいて、2,800~3,000cm-1付近、1,680~1,780cm-1付近、及び、1,190~1,290cm-1付近にピークが現れていることがわかる(図1の矢印参照)。このことから、試料には、EVA系吸水調整材が含まれていると判断することができる。
一方、吸水調整材が塗布されていないタイル含有構造体のモルタル硬化体の試料では、得られた赤外スペクトルにおいて、2,800~3,000cm-1付近のピークは微弱であり、また1,680~1,780cm-1付近、及び、1,190~1,290cm-1付近にピークが現れていないことがわかる(図1の矢印参照)。
【0019】
[実施例2]
ビルの外壁(被着体)にタイルが張付けられてなるタイル含有構造体であって、被着体におけるタイルを張付けるための面と、タイルの間に、吸水調整材の塗布層を有するタイル含有構造体について、タイル含有構造体からタイルを剥がし、タイルの接着されていた被着体の表面に形成されているモルタル硬化体から、カッターを用いて粉末状の試料を採取した。採取した粉末状の試料を用いて、実施例1と同様にして、赤外分光分析を行った。
得られた赤外スペクトルを図2に示す。
図2から、得られた赤外スペクトルにおいて、2,800~3,000cm-1付近、及び、1,680~1,780cm-1付近にピークが現れていることがわかる(図2の矢印参照)。また、3,000~3,200cm-1付近にピークが現れていることから、試料には、アクリル系吸水調整材が含まれていると判断することができる。
【0020】
[実施例3]
ビルの外壁(被着体)にタイルが張付けられてなるタイル含有構造体において、該構造体からタイルを剥がし、タイルが接着されていた被着体の表面に形成されているモルタル硬化体から、タガネを用いて数mm程度の小片を採取し、この小片を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジー社製、電子顕微鏡「SU-5000」)の試料台に固定して、次いで、この小片(試料)の表面に導電性物質として白金・パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡を用いて二次電子像を観察した。
上記試料の、被着体のタイルを張付けるための面に対して平行な面(下地調整モルタルと張付けモルタルの接着面)の二次電子像Aを図3に、被着体のタイルを張付けるための面に対して垂直となる切断面(モルタル硬化体の厚み方向の切断面)の二次電子像Bを図4に示す。
二次電子像Aから、視野全体がべったりとした飴状の物質で覆われている様子が観察された。また、二次電子像Bから、表面に厚さが1~2μmの膜状の物質があることが観察された。これらの物質は吸水調整材である。
【0021】
[実施例4]
ビルの外壁(被着体)にタイルが張付けられてなるタイル含有構造体について、実施例3と同様にして試料を採取し、走査型電子顕微鏡を用いて二次電子像を観察した。
上記試料の、被着体のタイルを張付けるための面に対して平行な面(下地調整モルタルと張付けモルタルの接着面)の二次電子像Cを図5に、被着体のタイルを張付けるための面に対して垂直となる切断面(モルタル硬化体の厚み方向の切断面)の二次電子像Dを図6に示す。
二次電子像C~Dから、吸水調整材であると思われる形態の物質は観察されず、セメントの水和物またはセメントの水和物の炭酸化によって生じた炭酸カルシウムと思われる粒子が観察された。
【0022】
[実施例5]
ビルの外壁(被着体)にタイルが張付けられてなるタイル含有構造体であって、健全に保たれている箇所(タイルの浮き上がりや剥落が見られない箇所)から、タイルを剥がし、タイルが接着されていた被着体の表面に形成されているモルタル硬化体から、ダイヤモンドカッターで切断して、数mm程度のモルタル硬化体の小片を採取し、採取した小片(モルタル硬化体からなる試料)を、被着体におけるタイルを張付けるための面に対して垂直となる切断面(モルタル硬化体の厚み方向の切断面)を有するような形状となるように切断した。次いで、切断面を、鏡面に近くなるまで研磨した後、導電性を持たせる目的で切断面に炭素を蒸着し、該切断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、電子顕微鏡「JSM-7100」)を用いて観察した。観察された反射電子像Aを図7に示す。
また、同様にして、ビルの外壁(被着体)にタイルが張付けられてなるタイル含有構造体であって、タイルの浮き上がりが発生した箇所から、試料を採取して、走査型電子顕微鏡を用いて観察した。観察された反射電子像Bを図8に示す。
反射電子像A~Bにおいて、灰色~暗灰色である多角形の粒子は細骨材、明灰色の粒子は未水和のセメント粒子、黒色に観察される部分は空隙、細骨材やセメント粒子を取り囲む灰色の領域はセメント水和物を、各々、意味している。
反射電子像A(健全に保たれている箇所から採取された試料)と反射電子像B(タイルの浮き上がりが発生した箇所から採取された試料)を比較すると、反射電子像Aではセメント粒子の間をセメント水和物がしっかりと充填されているのに対して、反射電子像Bでは黒色に観察される空隙部分が多いことがわかる。このことから、反射電子像Bでは、水分が不足することにより硬化組織が十分に形成されないドライアウト現象が起こっていると判断することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8