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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】表面磁石型電動機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/278 20220101AFI20220111BHJP
【FI】
H02K1/278
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018155494
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2020031487
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】森田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】北山 巧
(72)【発明者】
【氏名】千葉 政道
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-014178(JP,A)
【文献】特開2011-045156(JP,A)
【文献】特開2012-095401(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0155546(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0109097(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転させるための電動機であって、
前記回転軸とともに回転するように当該回転軸に固定されるロータと、
前記回転軸を中心に前記ロータを取り囲むように配置され、前記ロータを電磁力によって回転させるステータと、を備え、
前記ロータは、前記回転軸に固定され、かつ、前記回転軸を中心とする円筒状の外周面を有するロータ鉄心と、前記ロータ鉄心の外周面に配置されて前記ロータ鉄心の周方向に並ぶ複数の永久磁石であって、それぞれがネオジム磁石からなるものと、を含み、
前記ロータ鉄心は、前記回転軸に固定され、所定の外径を有する鉄心本体と、前記鉄心本体の外周部から前記ロータ鉄心の軸方向の一方である第1軸方向に突出し、前記鉄心本体の外径よりも小さな内径を有するとともに、前記鉄心本体と同じ外径を有する第1環状壁であって、前記第1軸方向に開口し且つ前記周方向に全周に亘って連続する第1環状溝を囲む第1内周面を有する第1環状壁と、前記鉄心本体の外周部から前記ロータ鉄心の軸方向の他方である第2軸方向に突出し、前記鉄心本体の外径よりも小さな内径を有するとともに、前記鉄心本体と同じ外径を有する第2環状壁であって、前記第2軸方向に開口し且つ前記周方向に全周に亘って連続する第2環状溝を囲む第2内周面を有する第2環状壁と、を含み、
前記ロータ鉄心の実際の体積である実体積は、前記ロータ鉄心の実体積と前記第1環状溝及び前記第2環状溝の各々の容積とを加算することで得られる前記ロータ鉄心の仮想体積の80%以下であり、
前記第1環状壁及び前記第2環状壁が互いに同じ厚みtを有するとともに当該厚みtが0.5mm以上であり、
前記第1環状壁の高さd1と前記第2環状壁の高さd2とが同等であり、前記第1環状壁の突出高さd1と前記第2環状壁の突出高さd2の合計である合計高さdと前記厚みtとが、当該合計高さd及び当該厚みtの単位をmmとしたとき、以下の式(1)を満たす、電動機。
d≦5.19t+1.93t+3.41 (1)
【請求項2】
請求項1記載の電動機であって、前記回転軸を回転可能に支持する軸受を備え、当該軸受の少なくとも一部が前記第1環状溝内に位置するように当該軸受が配置されている、電動機。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動機であって、前記ロータ鉄心のうち前記第1環状溝を画定する面及び前記第2環状溝を画定する面の少なくとも一部に凹凸が形成されている、電動機。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関し、詳しくは、回転軸に固定されたロータ鉄心及びその外周面上に配置される複数の永久磁石を有するロータを備えた表面磁石型の電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機の一種として、表面磁石型の電動機が知られている。このような表面磁石型の電動機は、例えば特許文献1に記載されるように、回転軸に固定されたロータ鉄心と、ロータ鉄心の周方向に並ぶようにしてロータ鉄心の外周面上に固定された複数の永久磁石と、を有するロータを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-040996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のような電動機では、ロータの軽量化が求められている。そのための方策として、例えばロータ鉄心に溝等を形成してその体積を減少させることが考えられるが、当該溝等の形成はロータにおける表面磁束密度の著しい低下を招くおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、回転軸に固定されたロータ鉄心と、ロータ鉄心の周方向に並ぶようにしてロータ鉄心の外周面に固定された複数の永久磁石と、を有するロータを備える電動機であって、前記ロータにおける表面磁束密度の著しい低下を招くことなく前記ロータの軽量化が可能な電動機を提供することを目的とする。
【0006】
提供されるのは、回転軸を回転させるための電動機であって、前記回転軸とともに回転するように当該回転軸に固定されるロータと、前記回転軸を中心に前記ロータを取り囲むように配置され、前記ロータを電磁力によって回転させるステータと、を備える。前記ロータは、前記回転軸に固定され、かつ、前記回転軸を中心とする円筒状の外周面を有するロータ鉄心と、前記ロータ鉄心の外周面に配置され、前記ロータ鉄心の周方向に並ぶ複数の永久磁石であってそれぞれがネオジム磁石からなるものと、を含む。前記ロータ鉄心は、前記回転軸に固定され、所定の外径を有する鉄心本体と、前記鉄心本体の外周部から前記ロータ鉄心の軸方向の一方である第1軸方向に突出し、前記鉄心本体の外径よりも小さな内径を有するとともに、前記鉄心本体と同じ外径を有する第1環状壁であって、前記第1軸方向に開口し且つ前記周方向に全周に亘って連続する第1環状溝を囲む第1内周面を有する第1環状壁と、前記鉄心本体の外周部から前記ロータ鉄心の軸方向の他方である第2軸方向に突出し、前記鉄心本体の外径よりも小さな内径を有するとともに、前記鉄心本体と同じ外径を有する第2環状壁であって、前記第2軸方向に開口し且つ前記周方向に全周に亘って連続する第2環状溝を囲む第2内周面を有する第2環状壁と、を含む。前記ロータ鉄心の実際の体積である実体積は、前記ロータ鉄心の実体積と前記第1環状溝及び前記第2環状溝の各々の容積とを加算することで得られる前記ロータ鉄心の仮想体積の80%以下である。前記第1環状壁及び前記第2環状壁が互いに同じ厚みtを有するとともに当該厚みtが0.5mm以上である。さらに、前記鉄心本体220からの前記第1環状壁の突出高さd1及び前記第2環状壁の突出高さd2が互いに同等であり、かつ、前記第1環状壁の高さd1と前記第2環状壁の高さd2との合計である合計高さdと前記厚みtとが、当該合計高さd及び当該厚みtの単位をmmとしたとき、以下の式(1)を満たす。
【0007】
d≦5.19t+1.93t+3.41 (1)
このような電動機においては、前記第1及び第2環状溝の形成によって、当該第1及び第2環状溝を含む仮想体積に対して実体積を80%以下にすることにより、ロータの著しい軽量化が可能である。しかも、前記第1及び第2環状壁が前記式(1)を満たすことにより、特定の形状及び大きさを有することにより、表面磁束密度の著しい低下を招くことなく前記軽量化を実現することが可能である。その理由は後に詳述する。
【0008】
前記電動機が、前記回転軸を回転可能に支持する軸受を備える場合、当該軸受の少なくとも一部が前記第1環状溝内に配置されていることが、好ましい。このことは、当該軸受と前記ロータ鉄心とが軸方向にオーバーラップすることを可能にし、これにより電動機の軸方向の長さを小さくすることを可能にする。
【0009】
前記電動機において、前記ロータ鉄心のうち前記第1環状溝を画定する面及び前記第2環状溝を画定する面の少なくとも一部に凹凸が形成されていることが、好ましい。当該凹凸は、前記第1及び第2環状溝を画定する面の表面積をさらに増やすことによりロータ鉄心の放熱性を有効に高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、ロータにおける著しい表面磁束密度の低下を招くことなく当該ロータの軽量化が可能な表面磁石型電動機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る電動機の断面正面図である。
図2】前記電動機のロータ及び当該ロータが固定される回転軸を示す断面正面図である。
図3】前記ロータ及び前記回転軸の平面図である。
図4】前記ロータにおけるロータ鉄心の形状と前記ロータにおける表面磁束密度との関係について行われたシミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳述する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る電動機10を示す断面正面図である。当該電動機10は、回転軸12を回転させるためのものであり、軸方向、径方向及び周方向を有する。これらの方向は、回転軸12の軸方向、径方向及び周方向とそれぞれ一致する。
【0014】
前記電動機10は、いわゆる表面磁石型のもので、ロータ20と、ステータ30と、ロータ20及びステータ30を収容するケース40と、を備える。
【0015】
前記ロータ20は、前記回転軸12とともに周方向に回転するように当該回転軸12に外嵌されて固定されている。前記ロータ20は、前記回転軸12を全周にわたって囲むように周方向に連続する。前記ロータ20は、前記回転軸12と同心的に配置されている。
【0016】
ロータ20は、ロータ鉄心22と、複数の永久磁石24と、を有する。
【0017】
前記ロータ鉄心22は、円筒状の外周面22Sを有しており、全体として円環形状を呈している。ロータ鉄心22は、磁性材料によって形成されている。磁性材料は、例えば、鉄である。ロータ鉄心22は、例えば、圧粉磁心を用いた鍛造加工によって形成されてもよいし、断面が円形の棒状鋼材に適当な加工を施すことによって形成されてもよい。当該適当な加工は、例えば切削加工、鍛造加工、あるいは鍛造加工と切削加工の組合せである。ロータ鉄心22の詳細については後述する。
【0018】
前記複数の永久磁石24は、前記ロータ鉄心22の外周面22S上で互いに間隔をおいて周方向に並ぶ位置で当該外周面22S上に固定されている。当該複数の永久磁石24のそれぞれは、径方向内側面及び径方向外側面を有してこれらの面が着磁されている。具体的に、前記ロータ鉄心22の外周面22Sに固定された複数の永久磁石24のうち、周方向で隣り合う2つの永久磁石24の一方の径方向外側面にはN極が着磁され、他方の径方向外側面にはS極が着磁されている。前記複数の永久磁石24のそれぞれは、ネオジム磁石により構成される。当該ネオジム磁石は、ネオジム、鉄及びホウ素を主成分とする希土類磁石である。
【0019】
前記ロータ鉄心22は30mm以下の半径r及び60mm以下の全高(軸方向全長)Hを有する。その形状について後に詳述する。
【0020】
前記ステータ30は、回転軸12の回転中心軸線を中心に前記ロータ20を取り囲むように配置され、当該ロータ20を電磁力によって回転させる。前記ステータ30は、ステータ本体32と、複数のティース34と、複数のステータコイル36と、を有する。前記ステータ本体32は、前記ロータ20を囲む環状をなす。前記複数のティース34は、前記ステータ本体32の周方向に並ぶ複数の位置で当該ステータ本体32から径方向内側に向かって突出する。前記複数のステータコイル36は、電動機径方向に延びるコイル中心軸回りに前記複数のティース34の各々に巻き回されたコイル素線により構成される。
【0021】
前記ケース40は、ケース本体42と、ケース蓋44と、を有する。前記ケース本体42は、円板状の底421と、当該底421の外周縁につながる円筒状の周壁422と、を含む。前記ケース本体42全体は、前記電動機10の軸方向の一方(図1では上方)に開口する形状、詳しくは前記周壁422の中心軸と前記回転軸12の中心軸とが一致する形状、を有している。
【0022】
前記ケース本体42は、前記ロータ20及び前記ステータ30を収容する。前記ステータ30のステータ本体32の外周面は、前記ケース本体42の周壁422の内側面に固定されている。前記ケース蓋44は、前記ケース本体42の開口を塞ぐように当該ケース本体42の軸方向の端面に固定されている。前記複数のステータコイル36は、この実施の形態では、前記ケース本体42の底421または前記ケース蓋44に接触している。
【0023】
続いて、図2及び図3を参照しながら、ロータ鉄心22の詳細について説明する。図2及び図3は、前記回転軸及びこれに固定される前記ロータ20を示す断面正面図及び平面図である。
【0024】
前記ロータ鉄心22は、鉄心本体220と、第1環状壁221と、第2環状壁222と、を含む。
【0025】
前記鉄心本体220は、前記回転軸12を囲む円環状をなす。当該鉄心本体220は、前記回転軸12の軸方向中間部分に固定されている。つまり、鉄心本体220は、その内周面が回転軸12の外周面に接する状態で、当該回転軸12と一体に回転するように当該回転軸12に固定されている。
【0026】
前記第1環状壁221は、前記鉄心本体220の外周部から軸方向の一方である第1軸方向(図2では下方向)に延びている。前記第2環状壁222は、前記鉄心本体220の外周部から軸方向の他方である第2軸方向(図2では上方向)に延びている。前記第1及び第2環状壁221は互いに同一の形状、具体的には円筒形状、を有している。
【0027】
第1及び第2環状壁221,222は、それぞれ、鉄心本体220の外径と等しい外径を有する。前記第1及び第2環状壁221,222は、前記鉄心本体220の外径よりも小さく、かつ、前記回転軸12の外径よりも大きい内径を有する。つまり、前記第1及び第2環状壁221,222は、前記回転軸12の外周面から径方向外側に離れた第1内周面223及び第2内周面224をそれぞれ有する。
【0028】
前記第1内周面223は第1環状溝25を囲み、前記第2内周面224は第2環状溝26を囲む。前記第1環状溝25は、前記回転軸12の外周面と前記第1内周面223との間において全周にわたり周方向に連続する環状をなし、前記第1軸方向(図2では下向き)に開口する。前記第2環状溝26は、前記回転軸12の外周面と前記第2内周面224との間において全周にわたり周方向に連続する環状をなし、前記第2軸方向(図2では上向き)に開口する。つまり、前記第1及び第2環状壁221,222の第1及び第2内周面223,224は、それぞれ、前記第1環状溝25及び前記第2環状溝26の外周面を画定している。また、前記鉄心本体220の軸方向両端面は、それぞれ、前記第1環状溝25及び前記第2環状溝26の底面を画定している。
【0029】
この実施の形態に係る前記電動機10は、前記回転軸12を回転可能に支持するための複数の軸受、具体的には、図1に示すような第1軸受51及び第2軸受52、をさらに備える。
【0030】
前記第1軸受51は、その一部(図1では上側部分)が前記第1環状溝25内に入り込む位置で前記ケース40に固定されている。詳しくは、前記ケース本体42が、前記底421の中心部の上面から上向きに突出する筒状の軸受保持部423をさらに有し、当該軸受保持部423に前記第1軸受51が嵌め込まれ、固定されることにより、当該軸受保持部423に当該第1軸受51が保持されている。
【0031】
同様に、前記第2軸受52は、その一部(図1では下側部分)が前記第2環状溝26内に入り込む位置で前記ケース40に固定されている。詳しくは、前記蓋44の中心部が他の部分よりも下向きに凹む軸受保持部442を構成しており、当該軸受保持部442に前記第2軸受52が嵌め込まれ、固定されることにより、当該軸受保持部442に当該第2軸受52が保持されている。
【0032】
前記第1及び第2環状溝25,26の形成は、前記ロータ鉄心22の大幅な体積の減少を可能にする。具体的に、当該ロータ鉄心22の実際の体積(実体積)Vrは、当該ロータ鉄心22の仮想体積Vvの80%以下である(Vr≦0.8Vv)。前記仮想体積Vvは、当該ロータ鉄心22の実体積Vrに前記第1環状溝25及び第2環状溝26の各々の容積C1,C2を加算したもの(Vv=Vr+C1+C2)である。換言すれば、当該仮想体積は、前記第1環状溝25及び前記第2環状溝26が形成されていない(つまり第1環状溝25及び第2環状溝26が埋められた)と仮定した場合)におけるロータ鉄心22の体積である。
【0033】
第1環状壁221及び第2環状壁222は、互いに同じ厚みであって0.5mm以上の厚みt(≧0.5mm)を有している。当該厚みtは、電動機10の径方向の寸法である。当該厚みtが0.5mm以上であることは、前記複数の永久磁石24の安定した保持を可能にする。
【0034】
前記第1及び第2環状壁221,222は、互いに等しい突出高さd1,d2をそれぞれ有する。当該突出高さd1,d2は前記電動機10の軸方向に沿った寸法であって、前記鉄心本体220から突出する寸法である。前記突出高さd1,d2の合計である合計高さd及び厚みtの単位をそれぞれmmとしたとき、これらは以下の式(1)を満たす。
【0035】
d≦5.19t+1.93t+3.41 …(1)
前記合計高さd及び前記厚みtが前記式(1)を満たすことは、ロータ20における表面磁束密度の著しい低下を招くことなく前記第1及び第2環状溝25,26の形成によりロータ鉄心22の大幅な軽量化を図ることを可能にする。以下、その理由を、図1図3に示される前記電動機10について行われたシミュレーションの結果を参照しながら説明する。
【0036】
前記ステータ30の構造や、ステータ30に用いられる磁性材料、及びステータ30の励磁状態条件を一定に設定した場合、電動機10のトルクはロータ20の表面磁束密度に依存する。そこで、本発明者らは、ロータ鉄心22の形状がロータ20における表面磁束密度にどのような影響を与えるかについての検証を行った。具体的には、磁場解析ソフト(JSOL社の電磁界解析ソフトJMAG(ver14.0))を用いて、電動機10のロータ20の表面における磁束密度分布を解析した。
【0037】
前記シミュレーションの実行のために想定された条件は、以下のとおりである。
【0038】
前記複数の永久磁石24の総数は8であって、互いに間隔をおいて周方向に並ぶ配列で前記ロータ鉄心22の外周面22S上に貼り付けられる。各永久磁石24は、前記ロータ鉄心22の軸方向全長にわたって、つまり前記鉄心本体220、第1環状壁221及び第2環状壁222に軸方向にまたがって、配置される。換言すれば、各永久磁石24は、ロータ鉄心22の全高(軸方向の全長)Hと等しい長さを有する。各永久磁石24は約10mmの幅寸法(周方向に沿う長さ)を有し、互いに隣接する永久磁石24の間には約1.5mmの間隔が設けられる。また、各永久磁石24は約1mmの厚みを有する。
【0039】
前記ロータ鉄心22は、炭素含有量区分「45」の機械構造用炭素鋼(S45C)であってかつ純鉄系軟磁性材料(ELCH2)からなる。一方、前記ステータ30におけるティース34の数は12である。当該ステータ30のステータ本体32及び複数のティース34は、互いに積層された複数の電磁鋼板(50H600)により構成される。
【0040】
前記ロータ鉄心22のサイズについて、その直径(=2r)は30mm、全高Hは30mmである。鉄心本体220の1/2高さ(鉄心本体220の軸方向の長さの1/2)をhとすると、前記合計高さd(=d1+d2)は、d=H-2hで与えられる。
【0041】
電動機の磁束密度分布の解析のために解析モデルが用いられる。当該解析モデルは、前記電動機10を前記ロータ20の回転方向において4つに分割し、そのうちの1つをロータ20の軸方向において2つに分割としたうちの1つである。
【0042】
前記シミュレーションでは、前記厚みt及び1/2高さhを変化させた際のロータ表面の平均磁束密度が解析され、前記第1及び第2環状溝25,26が形成されていない場合(つまり、両環状壁25,26の容積C1,C2が0であってロータ鉄心22の実体積Vrが仮想体積Vvと等しい場合)と比較される。
【0043】
表1は、前記第1及び第2環状溝25,26が形成されていない場合を「1」としたときの平均磁束密度Baveの解析結果、具体的には前記厚みt及び前記合計高さdに対する平均磁束密度Baveの依存性についての解析結果、を示す。この結果は、前記合計高さd(=d1+d2)が大きいほど、また厚さtが小さいほど、前記平均磁束密度Baveが減少することを示している。電動機10のトルクは平均磁束密度Baveが高いほど大きくなるので、当該平均磁束密度Baveをトルクの指標にして解析結果を評価することが可能である。図4は、このような評価の結果を示している。図4において、第1及び第2環状溝25,26が形成されていない場合を「1」としたときに、前記指標が「0.95」以上の場合が「○」、「0.95」未満を「×」でそれぞれ表されている。
【0044】
【表1】
【0045】
図4の結果によれば、「○」の領域と「×」の領域との境界を画定する曲線を以下の式(2)に相当する2次曲線に近似することができる。
【0046】
d=5.19t+1.93t+3.41 (2)
つまり、図4において前記式(2)により与えられる前記2次曲線の下側の領域では、平均磁束密度Baveについて「○」の評価を得ることができる一方、当該2次曲線の上側の領域では「×」の評価となる。このことは、当該式(2)に対応する前記式(1)が、第1及び第2環状溝25,26を形成しながらも十分な平均磁束密度Baveを確保するための条件であることを示している。ただし、実体積が仮想体積の80%を超えるものは軽量化の達成という条件を満たさないものとして除外される。その除外される範囲は例えば回転軸12の径に依存するが、当該回転軸12の径によっては例えば図4において破線で囲まれた領域が好適な例から除外される。
【0047】
総じて、前記電動機10における表面磁束密度Baveの低下を十分に抑えながらその軽量化を図るためには、当該電動機10が以下の条件1~3を満たせばよい。
【0048】
条件1:ロータ鉄心22の実体積Vrがロータ鉄心22の仮想体積Vvの80%以下である(Vr≦0.8Vv)。
【0049】
条件2:厚みtが0.5mm以上である(t≧0.5mm)。
【0050】
条件3:合計高さd及び厚みt(ともに単位はmm)が前記式(1)を満たす(d≦5.19t+1.93t+3.41)。
【0051】
また、前記ロータ鉄心22における前記第1及び第2環状溝25,26の形成は、当該ロータ鉄心22の軽量化に加え、当該ロータ鉄心22の表面積を増やしてその放熱性を高めることを可能にする。換言すれば、前記条件1~3を満たすことは、平均磁束密度Baveの著しい低下を招くことなくロータ鉄心22の軽量化及び放熱性の向上の双方を実現することを可能にする。
【0052】
また、図1に示される前記電動機10では、前記複数のステータコイル36のそれぞれが前記ケース40に対して軸方向に接触しているので、複数のステータコイル36の各々への通電に起因して発生する熱を高い効率でケース40に逃がすことができる。
【0053】
さらに、前記電動機10においては、回転軸12を回転可能に支持するための前記第1軸受51の少なくとも一部(図1では上側部分)がロータ鉄心22の第1環状溝25内に入り込むように当該第1軸受51が配置されているので、当該第1軸受51と当該ロータ鉄心22との軸方向のオーバーラップにより、前記電動機10の軸方向の長さを小さくすることができる。
【0054】
同様に、前記電動機10においては、回転軸12を回転可能に支持するための前記第2軸受52の少なくとも一部(図1では下側部分)がロータ鉄心22の第2環状溝26内に入り込むように当該第2軸受52が配置されているので、当該第2軸受52と当該ロータ鉄心22との軸方向のオーバーラップにより、前記電動機10の軸方向の長さを小さくすることができる。
【0055】
前記ロータ鉄心22の放熱性をさらに向上させるために、第1環状溝25及び第2環状溝26の少なくとも一方についてこれを画定するロータ鉄心22の内面に凹凸が形成されてもよい。当該凹凸は、第1内周面223または第2内周面224であってもよいし、前記第1及び第2環状溝25,26のうちの一方の底面、つまり鉄心本体220のうち軸方向を向く端面、に形成されてもよい。
【0056】
前記ロータ鉄心22において第1及び第2環状溝25,26を画定する面の少なくとも一部に形成される凹凸は、当該凹凸を形成すべき面を凹ませて複数の凹部を形成すること、あるいは逆に、当該凹凸を形成すべき面に複数の凸部を与えること、のいずれによっても実現されることが可能である。後者の場合、前記凸部はロータ鉄心22の径方向の外側に移行するにつれて回転方向下流側に延びる曲線状、例えば渦巻き羽根状、であることが好ましい。このような形状を有する凸部は、ロータの回転に伴ってロータ鉄心の内側に気流を発生させることができる。このことは、ロータ鉄心の放熱性のさらなる向上を可能にする。
【0057】
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されない。本発明は、例えば次のような態様を包含する。
(A)回転軸及び軸受について
本発明において、回転軸及びこれを回転可能に支持するための軸受の具体的な配置は限定されない。例えば、本発明に係る複数の電動機が共通の長尺の回転軸の周囲にその軸方向に沿って並ぶように配置されてもよい。また、当該回転軸を支持する軸受は本発明に係る電動機に必須の要素ではない。例えば、当該軸受は当該電動機から離れた位置に設けられてもよい。
(B)複数の永久磁石について
本発明に係る電動機に含まれる永久磁石の総数及びその具体的な形状は限定されない。当該複数の永久磁石は、その周囲に配置されたステータが生成する電磁力の作用によって当該複数の永久磁石及びロータがともに回転するようにロータ鉄心の外周面上に周方向に配列されるものであればよい。
【符号の説明】
【0058】
10 電動機
20 ロータ
22 ロータ鉄心
22S ロータ鉄心の外周面
220 鉄心本体
221 第1環状壁
222 第2環状壁
223 第1内周面
224 第2内周面
24 永久磁石
25 第1環状溝
26 第2環状溝
30 ステータ
51 第1軸受
52 第2軸受
図1
図2
図3
図4