(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】作物の管理と保護のための組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 59/20 20060101AFI20220203BHJP
A01N 37/36 20060101ALI20220203BHJP
A01N 37/44 20060101ALI20220203BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220203BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220203BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01N37/36
A01N37/44
A01N25/00 101
A01P3/00
A01P1/00
(21)【出願番号】P 2018529164
(86)(22)【出願日】2016-11-08
(86)【国際出願番号】 EP2016076975
(87)【国際公開番号】W WO2017092978
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-01
(31)【優先権主張番号】102015000080379
(32)【優先日】2015-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518192312
【氏名又は名称】アルファ バイオペスティサイズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レオナルディ,ジュリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】ベッキー,アルフェオ
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-007424(JP,A)
【文献】特表2005-509671(JP,A)
【文献】国際公開第95/002961(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0266852(US,A1)
【文献】H. Boehm, et al.,Effects of different plant protection treatments regulating late blight (Phytophthora infestans) in organic potato prodution,The 15th Triennial Conference of the European Association for Potato Research (EAPR),2002年,Abstract,https://orgprints.org/675/1/675-boehm-cerny-2002-phytophthora-infestans.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00- 65/48
A01P 1/00- 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属化合物とC
12-C
24脂肪酸誘導体を含む、真菌、卵菌および細菌に対して作物を保護するための作物保護組成物であって、
前記金属化合物が、式 M
xA
yで示され
(上記式中、Mは
Cuである。Aは錯化剤、対イオン又はそれらの組み合わせである。xは1~3の整数である。yは1~6の整数である。そして、
Aが錯化剤である場合、前記錯化剤は、チオサリチル酸、アスコルビン酸、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、バリン、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マンデル酸、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸、アントラニル酸、安息香酸、サリチル酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、没食子酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジピコリン酸、フェニル酢酸、1-ナフチル酢酸、ニコチン酸、ニコチンアミド、スルファニル酸、スルホサリチル酸、4-メチルサリチル酸、5-メチルサリチル酸、4,5-ジメチルサリチル酸、サリチル酸エチル、サリチルアニリド、サリチルアルデヒド、サリチルアルドキシム、サリチルヒドロキサム酸、4-アセトアミドサリチル酸、サリチル尿酸又はそれらの混合物であり、
Aが対イオンである場合、前記対イオンは、OH
-、酸素、ハロゲン、硫酸イオン、グルコン酸イオン又はそれらの組み合わせである。)、
金属MとC
12-C
24脂肪酸誘導体との化学量論比が、1:20~1:35であり、且つ、
前記C
12-C
24脂肪酸誘導体が、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩又はそれらの混合物である、作物保護組成物。
【請求項2】
Aが対イオンである場合、前記対イオンは、OH
-、酸素、ハロゲン、硫酸イオン、グルコン酸イオン又はそれらの組合せであり、前記金属化合物は、金属水酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属グルコン酸塩、金属オキシ塩化物又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の作物保護組成物。
【請求項3】
金属MとC
12-C
24脂肪酸誘導体との化学量論比が、1:25~1:30である、請求項1又は2に記載の作物保護組成物。
【請求項4】
C
12-C
24脂肪酸誘導体は、組成物の重量に対して95重量%未満の量であり、好ましくは75~90重量%の量であり、または、金属化合物は、組成物の重量に対して5重量%未満の量であり、好ましくは1~4重量%の量である、請求項1~3のいずれか一項に記載の作物保護組成物。
【請求項5】
金属化合物とC
12-C
24脂肪酸誘導体は、1:2~1:10の重量比である、請求項1~4のいずれか一項に記載の作物保護組成物。
【請求項6】
金属化合物とC
12-C
24脂肪酸誘導体は、1:3~1:6の重量比である、請求項5に記載の作物保護組成物。
【請求項7】
C
12-C
24脂肪酸誘導体の量が、組成物の重量に対して75~85重量%であり、金属化合物の量が、組成物の重量に対して2~4重量%である請求項1~6のいずれか一項に記載の作物保護組成物。
【請求項8】
C
12-C
24脂肪酸が、ラウリン酸(C12)、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、α-リノレン酸(C18:3)、γ-リノレン酸(C18:3)、ノナデシル酸(C19)、アラキジン酸(C20)、ヘンエイコサン酸(C21)、ベヘン酸(C22)、トリコシル酸(C23)、リグノセリン酸(C24)、ステアリドン酸(C18:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)、ジホモ-γ-リノレン酸(C20:3)、アラキドン酸(C20:4)、アドレン酸(C22:4)、パルミトレイン酸(C16:1)、バクセン酸(C18:1)、パウリン酸(C20:1)、エライジン酸(C trans-18:1)、ゴンド酸(C20:1)、エルカ酸(C22:1)、ネルボン酸(C24:1)、ミード酸(20:3)又はそれらの混合物である請求項1~7のいずれか一項に記載の作物保護組成物。
【請求項9】
マンデル酸銅、サリチル酸銅、アントラニル酸銅、2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅、ベンゼンスルホン酸
銅及びそれらの混合物からなる群から選択される金属錯体とC
16-C
20脂肪酸誘導体を含有し、
前記脂肪酸誘導体が、C
16-C
20脂肪酸誘導体の重量に対して少なくとも70重量%のオレイン酸カリウムを含む混合物である請求項1~8のいずれか一項に記載の作物保護組成物。
【請求項10】
前記C
16-C
20脂肪酸誘導体が、リノール酸(C18:2)の誘導体、γ-リノレン酸(C18:3)の誘導体、パルミトレイン酸(C16:1)の誘導体、バクセン酸(C18:1)の誘導体、パウリン酸(C20:1)の誘導体、オレイン酸(C18:1)の誘導体、エライジン酸(C trans-18:1)の誘導体又はそれらの混合物である請求項9に記載の作物保護組成物。
【請求項11】
銅錯体とC
16-C
20脂肪酸誘導体を含む、請求項9または10に記載の作物保護組成物。
【請求項12】
-2~4重量%のマンデル酸銅、サリチル酸銅、アントラニル酸銅、2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅、ベンゼンスルホン酸
銅及びそれらの混合物からなる群から選択される金属錯体;
-75~85重量%のオレイン酸塩;及び
-残りの溶媒
からなる請求項1~11のいずれか一項に記載の作物保護組成物。
【請求項13】
真菌、卵菌及び細菌に対して作物を保護するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の作物保護組成物の使用。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の作物保護組成物と農薬添加剤を含む農薬製品。
【請求項15】
真菌、卵菌及び細菌に対して作物を保護する方法であって、以下の工程を含む方法:
i)請求項1~12のいずれか一項に記載の作物保護組成物を提供する工程;
ii)該組成物を水で希釈して希釈溶液を得る工程;
iii)該希釈溶液を作物に適用する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物とC12-C24脂肪酸誘導体を含む作物保護組成物、その製造方法並びに真菌、卵菌及び細菌に対する作物保護のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
真菌と細菌は、質と量の著しい損失を伴う作物への重大な被害を引き起こす可能性がある。
殺菌剤製剤は、農業において、真菌、卵菌及び細菌の防除に使用される。
【0003】
殺菌剤は農業において非常に重要であるが、植物保護製品の使用には、ヒトの健康と環境への影響に関する強い懸念がある。そのため、健康と環境に対するリスクを低減した新しい農薬製剤の研究には多大な努力がなされている。
【0004】
農業においては、銅系化合物などの金属系化合物が抗真菌剤及び抗細菌剤の製剤に使用されている。特に銅系化合物は、広い範囲の抗真菌剤、抗卵菌剤及び抗細菌剤を示し、そのため銅製剤の使用には多くの利点がある。
【0005】
しかし、銅は重金属ではあるが、銅暴露がヒトの健康懸念として認識されない一方で、実際に、環境、生態毒性、水生生物及び非標的生物への影響に懸念があることに留意すべきである。
銅化合物はいくつかのIPM(総合的病害虫管理)プログラムに組み込まれており、病原体耐性株を発生させるリスクを有する可能性のある浸透性殺菌剤と交互に使用されている。
【0006】
この点に関して、近年、EFSA(欧州食品安全機関)は、重要性に基づく評価により、年間4.5kg Cu/haまでの適用が許容可能とされていたことに着目した。(非特許文献1-有効成分である様々な銅(I)、銅(II)、すなわち水酸化銅、オキシ塩化銅、三塩基性硫酸銅、酸化銅(I)、ボルドー液について提出された確認データの殺虫剤リスク評価の相互評価における結論)
【0007】
ビスマス(Bi)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)及びニッケル(Ni)等の他の重金属についても同様の懸念が知られている。(非特許文献2)
【0008】
したがって本発明の目的は、抗真菌剤、抗卵菌剤及び抗細菌剤の有効性を低下させることなく金属の総量を減少させて、結果的により環境に優しい製品となることを可能にする植物の管理と保護のための製品を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】EFSA Journal 2013;11(6):3235,CONCLUSION ON PESTICIDE PEER REVIEW
【文献】Chibuike G.U.et al.,“Heavy Metal Polluted Soils:Effect on Plants and Bioremediation Methods”,Applied and Environmental Soil Science,Vol.2014(2014),ID 752708
【発明の概要】
【0010】
上記目的は、請求項1に記載の金属化合物とC12-C24脂肪酸誘導体を含む作物保護組成物によって達成された。
用語「作物」は、利益又は生存のために広範囲に栽培及び収穫され得る、穀物、野菜、果物及び花を含む植物又は植物性産物を意味する。
ここで、以降に記載される「作物防除」は「作物保護」と読み替えるものとする。
【0011】
別の態様では、本発明は、真菌、卵菌及び細菌に対して作物を保護するための作物防除組成物の使用に関する。
この点に関して、本発明はまた、真菌、卵菌及び細菌に対して作物を保護する方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
i)作物防除組成物を提供する工程;
ii)組成物を水で希釈して希釈溶液を得る工程;
iii)希釈溶液を作物に適用する工程。
【0012】
別の態様では、本発明は、作物防除組成物と農薬添加剤を含む農薬製品に関する。
別の態様では、本発明は作物防除組成物の製造方法に関する。
【0013】
本発明の特徴及び利点は、以下の詳細な説明、例示目的のために提供された実施例及び付属の図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例1の組成物で処理した播種後12日目のBrassica oleraceaの苗木に対する植物毒性試験(白い播種基盤の左列)と、サリチル酸銅溶液で処理した播種後12日目のBrassica oleraceaの苗木に対する植物毒性試験(白い播種基盤の右列)を示す。
【
図2】
図2は、実施例1の組成物で処理した播種後12日目のBrassica oleraceaの苗木に対する植物毒性試験(白い播種基盤の左列)と、サリチル酸鉄溶液で処理した播種後12日目のBrassica oleraceaの苗木に対する植物毒性試験(白い播種基盤の右列)を示す。
【
図3】
図3は、様々な濃度における実施例1の組成物のブドウの葉の害虫発生率を、第1の市販品と比較して示す。
【
図4】
図4は、様々な濃度における実施例1の組成物のブドウの房の害虫発生率を、第1の市販品と比較して示す。
【
図5】
図5は、様々な濃度における実施例1の組成物のブドウの葉の害虫発生率を、第2の市販品と比較して示す。
【
図6】
図6は、様々な濃度における実施例1の組成物のブドウの房の害虫発生率を、第2の市販品と比較して示す。
【
図7】
図7は、様々な濃度における実施例1の組成物のトマトの葉の害虫発生率を、第1の市販品と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
したがって、本発明の対象は、少なくとも1種の金属化合物とC12-C24脂肪酸誘導体を含む作物防除組成物である。
前記金属化合物は、式MxAy(式中、MはBe,Mg,Ca,Sr,Ba,Ti,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ag,Au,Al,Bi又はAsである。Aは錯化剤、対イオン又はそれらの組み合わせである。xは1~3の整数である。yは1~6の整数である。そして、
Aが錯化剤である場合、前記錯化剤は、チオサリチル酸、アスコルビン酸、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、バリン、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マンデル酸、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブタン酸、アントラニル酸、安息香酸、サリチル酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、没食子酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ジピコリン酸、フェニル酢酸、1-ナフチル酢酸、ニコチン酸、ニコチンアミド、スルファニル酸、スルホサリチル酸、4-メチルサリチル酸、5-メチルサリチル酸、4,5-ジメチルサリチル酸、サリチル酸エチル、サリチルアニリド、サリチルアルデヒド、サリチルアルドキシム、サリチルヒドロキサム酸、4-アセトアミドサリチル酸、サリチル尿酸又はそれらの混合物であり、
Aが対イオンである場合、前記対イオンは、OH-、酸素、ハロゲン、硫酸イオン、グルコン酸イオン又はそれらの組み合わせである。)で示され、且つ、
前記C12-C24脂肪酸誘導体は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の塩、エステル又はそれらの混合物である。
【0016】
この組成物は、非常に低い濃度でも、すなわち、金属の総量3000g/ha/年未満、好ましくは、金属の総量1000g/ha/年未満、より好ましくは、金属の総量300~500g/ha/年でも、驚くべきことに、真菌、卵菌及び細菌に対して良好な有効性を示すことが分かった。さらにこの組成物は、良好な経時安定性、高い水懸濁性を有し、さらに葉や幹の表面等の作物表面に適用した時点で、その表面にしっかり保持される性質を有する。
【0017】
これらの利点は、金属化合物とC12-C24脂肪酸誘導体との間で観察される驚くべき相乗作用に起因する。
前記相乗効果は、以下の観点から、さらに予想外で驚くべきものである。
【0018】
第1に、脂肪酸誘導体の水溶液に金属を添加すると、通常は脂肪酸と金属との塩が形成され、その得られる塩は水に不溶性又は非常に難溶性である(W.F.Whitmore et al.,Jun 1930“Metallic Soaps-Their Uses,Preparation,and Properties”Industrial And Engineering Chemistry Vol.22,No.6):これは、反応生成物がもはや有効でなく使用できないことを意味する。
【0019】
第2に、いくつかの金属化合物や複合体はある程度の濃度で望ましくない植物毒性を示すので、植物の管理と保護に特化した製剤では、これ以上同じことを考慮することはできない。この点に関して、
図1及び
図2では、銅サリチル酸塩と鉄サリチル酸塩でそれぞれ処理したBrassica oleraceaの苗木の植物毒性試験が、これらの化合物それ自体の重大な植物毒性を明確に示している。
【0020】
第3に、銅などの一部の例では、金属は脂肪酸鎖の二重結合に対して酸化促進作用を与える。
【0021】
したがって、作物防除組成物は、大幅に改善された有効性を示すのみならず、不溶性塩の形成に関する金属化合物の安定性などの多くの側面における適切な組み合わせを特定することによって、これらの全ての技術的問題及び不利益を克服する。これは、本発明の組成物の金属化合物が脂肪酸誘導体と反応しないために、有利なことに、不溶性塩の形成及び沈殿が起こらないことを意味する。この点に関して、本発明の作物防除組成物では、好ましくは、C12-C24脂肪酸誘導体の量は化学量論的に金属化合物の量を超える。
【0022】
同時に、さらに金属錯体の安定性の観点から、金属自体の酸化促進作用が防止される。
またさらに、金属化合物は、脂肪酸誘導体が経時的に酸敗することを防止する。
【0023】
さらに、一部の金属化合物は許容できないほど植物毒性であることが知られているのに反して、本発明の組成物は植物毒性の低下を示すことが見出されたので、銅複合体などの金属化合物の抗真菌性と抗微生物性の利点を作物防除の用途に利用することが今や可能となった。
【0024】
さらに、上記のように本発明の組成物は、成分の親水性のために高度に水懸濁性である。
好ましくは、作物防除組成物は、沈殿物を有さない透明な溶液である。
好ましくは、作物防除組成物は、0.80~1.50g/ml、より好ましくは1.00~1.20g/mlの濃度である。
【0025】
本発明の目的に適した金属化合物は、市販の製品であってもよく、又は、下記科学文献に記載される方法など当該技術分野で公知の方法に従って合成することもできる:
-R.J.Shennan et al.“Anthranilic acid and its use in the determination of zinc,cadmium,cobalt,nickel and copper”,Analyst,1936,61,395-400
-D.J.C.Gomes et al.,“Synthesis,characterization and thermal study of solid mandelate of some bivalent transition metal ions in CO2 and N2 atmospheres”,Journal of Thermal Analysis and Calorimetry,January 2013,Volume 111,Issue 1,pp 57-62
-D.R.Satriana,“Preparation of analytically pure monobasic copper salicylate”,from U.S.Nat.Tech.Inform.Serv.,AD Rep.(1971),(No.732352),27 pp.
【0026】
好ましい実施形態では、金属MとC12-C24脂肪酸誘導体との化学量論比は、1:20~1:35、好ましくは1:25~1:30である。
別の実施形態では、C12-C24脂肪酸誘導体は、組成物の重量に対して95重量%未満の量であり、好ましくは75~90重量%の量である。
別の実施形態では、金属化合物は、組成物の重量に対して5重量%未満の量であり、好ましくは1~4重量%の量である。
別の好ましい実施形態では、C12-C24脂肪酸誘導体は、組成物の重量に対して75~85重量%の量であり、金属化合物は、組成物の重量に対して2~4重量%の量である。
別の実施形態では、C12-C24脂肪酸誘導体は、金属化合物よりも多い量である。好ましくは、金属化合物とC12-C24脂肪酸誘導体は、1:2~1:10、より好ましくは1:3~1:6の重量比である。
【0027】
作物防除組成物においてAが対イオンである場合、得られる金属化合物は金属水酸化物、金属酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属グルコン酸塩、金属オキシ塩化物又はそれらの組み合わせである。
好ましくは、Aが対イオンであり、その対イオンが酸素である場合、金属MはFeではない。
好ましい実施形態では、Aが対イオンである場合、その対イオンはOH-、ハロゲン、硫酸イオン、グルコン酸イオン又はそれらの組合せであり、その結果得られる金属化合物は金属水酸化物、金属ハロゲン化物、金属硫酸塩、金属グルコン酸塩、金属オキシ塩化物又はそれらの組み合わせである。
【0028】
作物防除組成物においてAが錯化剤である場合、得られる金属化合物は金属錯体である。その金属錯体は、アニオン性、中性又はカチオン性であり得る。
好ましくは、その錯化剤は、サリチル酸、マンデル酸、アントラニル酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、ベンゼンスルホン酸又はそれらの混合物である。
【0029】
好ましくは、金属Mは、Cu、Zn、Fe、Ag、Mg又はAlである。
好ましい金属錯体は、マンデル酸銅、サリチル酸銅、アントラニル酸銅、2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅、ベンゼンスルホン酸銅、マンデル酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、アントラニル酸亜鉛、ベンゼンスルホン酸亜鉛、マンデル酸鉄、サリチル酸鉄、2,6-ジヒドロキシ安息香酸鉄、マンデル酸銀、アントラニル酸銀、ベンゼンスルホン酸銀、マンデル酸マグネシウム、2,6-ジヒドロキシ安息香酸マグネシウム又はそれらの混合物である。
好ましい実施形態では、前記金属錯体は、サリチル酸銅、サリチル酸亜鉛、サリチル酸鉄(II)、アントラニル酸銅、2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅、マンデル酸鉄(III)、マンデル酸マグネシウム又はそれらの混合物である。
【0030】
用語「C12-C24脂肪酸」は、ラウリン酸(C12)、トリデシル酸(C13)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデシル酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マルガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、α-リノレン酸(C18:3)、γ-リノレン酸(C18:3)、ノナデシル酸(C19)、アラキジン酸(C20)、ヘンエイコサン酸(C21)、ベヘン酸(C22)、トリコシル酸(C23)、リグノセリン酸(C24)、ステアリドン酸(C18:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)、ジホモ-γ-リノレン酸(C20:3)、アラキドン酸(C20:4)、アドレン酸(C22:4)、パルミトレイン酸(C16:1)、バクセン酸(C18:1)、パウリン酸(C20:1)、エライジン酸(C trans-18:1)、ゴンド酸(C20:1)、エルカ酸(C22:1)、ネルボン酸(C24:1)、ミード酸(20:3)又はそれらの混合物を意味する。
【0031】
好ましくは、前記脂肪酸は植物や野菜由来の脂肪酸など天然に存在する脂肪酸である。
作物防除組成物の好ましい実施形態では、前記C12-C24脂肪酸誘導体は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩又はそれらの混合物である。
作物防除組成物の別の実施形態では、前記C12-C24脂肪酸誘導体は、メタノールとのエステル、エタノールとのエステル、プロパノールとのエステル、ブタノールとのエステル又はそれらの混合物である。
【0032】
好ましくは、作物防除組成物は、銅錯体とC16-C20脂肪酸誘導体を含む。
より好ましくは、前記C16-C20脂肪酸誘導体は、リノール酸(C18:2)の誘導体、γ-リノレン酸(C18:3)の誘導体、パルミトレイン酸(C16:1)の誘導体、バクセン酸(C18:1)の誘導体、パウリン酸(C20:1)の誘導体、オレイン酸(C18:1)の誘導体、エライジン酸(C trans-18:1)の誘導体又はそれらの混合物である。
【0033】
好ましい実施形態では、前記C16-C20脂肪酸誘導体は、C16-C20脂肪酸誘導体の重量に対して少なくとも70重量%のオレイン酸の誘導体を含む混合物である。
より好ましい態様では、オレイン酸の誘導体はオレイン酸のアルカリ塩であり、好ましくはオレイン酸カリウムである。
【0034】
最も好ましい実施形態は、マンデル酸銅、サリチル酸銅、アントラニル酸銅、2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅、ベンゼンスルホン酸銅、マンデル酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、アントラニル酸亜鉛、ベンゼンスルホン酸亜鉛、マンデル酸鉄、サリチル酸鉄、2,6-ジヒドロキシ安息香酸鉄、マンデル酸銀、アントラニル酸銀、ベンゼンスルホン酸銀、マンデル酸マグネシウム、2,6-ジヒドロキシ安息香酸マグネシウム及びそれらの混合物からなる群から選択される金属錯体とC16-C20脂肪酸誘導体を含有し、前記脂肪酸誘導体は、C16-C20脂肪酸誘導体の重量に対して少なくとも70重量%のオレイン酸カリウムを含む混合物である。
【0035】
組成物はさらに溶媒を含むことができる。
適切な溶媒は、グリコール、アルコール、ポリアルコール及びそれらの組み合わせである。
好ましい溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、アリルアルコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ベンジルアルコール、グリセロール及びそれらの混合物である。
【0036】
別の実施形態では、作物防除組成物は、上記のように、基本的に少なくとも1種の金属化合物とC12-C24脂肪酸誘導体からなる。本発明の目的において「基本的に~からなる」という表現は、前記少なくとも1種の金属化合物と前記C12-C24脂肪酸誘導体のみが、組成物中に存在する抗真菌剤、抗卵菌剤及び抗細菌剤の成分であることを意味する。
さらなる実施形態では、作物防除組成物は、上記のように、少なくとも1種の金属化合物、C12-C24脂肪酸誘導体及び少なくとも1種の溶媒からなる。
【0037】
下記からなる作物防除組成物が特に好ましい:
-2~4重量%のマンデル酸銅、サリチル酸銅、アントラニル酸銅、2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅、ベンゼンスルホン酸銅、マンデル酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、アントラニル酸亜鉛、ベンゼンスルホン酸亜鉛、マンデル酸鉄、サリチル酸鉄、2,6-ジヒドロキシ安息香酸鉄、マンデル酸銀、アントラニル酸銀、ベンゼンスルホン酸銀、マンデル酸マグネシウム、2,6-ジヒドロキシ安息香酸マグネシウム及びそれらの混合物からなる群から選択される金属錯体;
-75~85重量%のオレイン酸塩;及び
-残りの溶媒。
【0038】
さらなる態様において、本発明は、真菌、卵菌及び細菌に対して作物を保護するための上記の作物防除組成物の使用に関する。
特に、この組成物は、Erwinia amylovora,Pseudomonas syringae p.v.actinidiae(PSA),Xanthomonas arboricola p.v.pruni,Xanthomonas campestris p.v.vescicatoriaなどの細菌と、Phytophthora infestans,Botrytis cinerea,Plasmopara viticola,Cercospora beticola,Zymoseptoria triticiなどの病原性真菌に対して有効であることが実証されている。
【0039】
上記のように、組成物は非常に低減した量、すなわち、3000g/ha/年未満、好ましくは1000g/ha/年未満、より好ましくは300~500g/ha/年の金属の総量でも有効である。換言すると、既知の銅製品は水溶液として140g/100Lを超えた濃度で使用されるのに対し、この溶液は非常に低い濃度、すなわち水溶液として10g/100L未満で有効である。
【0040】
したがって、また本発明は、真菌、卵菌及び細菌に対して作物を保護する方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
i)上記組成物を提供する工程;
ii)組成物を水で希釈して希釈溶液を得る工程;
iii)希釈溶液を作物に適用する工程。
【0041】
好ましくは、工程iii)における作物への溶液の適用は、病原体の増殖のパラメータに従って、作物の成長中の様々な時間に作物上に溶液を噴霧することによって行われる。
好ましくは、溶液は少なくとも年に1回適用される。より好ましくは、年に2~6回、さらに好ましくは1年に3回である。
【0042】
好ましくは、工程i)において、組成物は5~50g/lの金属濃度で提供される。
当該方法の好ましい実施形態では、工程iii)の溶液を、3000g/ha/年未満、好ましくは1000g/ha/年未満、より好ましくは300~500g/ha/年の金属の濃度で適用する。
好ましくは、溶液は少なくとも年に1回適用される。より好ましくは、年に2~6回、さらに好ましくは1年に3回である。この点については、該溶液は各々の適用の際に、金属5~20g/100L H2Oの濃度で適用される。
【0043】
さらなる態様では、また本発明は作物防除組成物と農薬添加剤を含む農薬製品に関する。
適切な添加剤は、pH調節剤、酸性調節剤、水硬度調節剤、鉱物油、植物油、肥料、葉の肥料及びそれらの組み合わせである。
組成物が非常に低い濃度であっても効果的であるという事実を考慮すると、農薬製品は、有利には、そして好ましくは、農薬製品1リットル当たり5~50gの金属濃度となる量で作物防御組成物を含む。
【0044】
別の態様では、本発明は、上記の作物防除組成物の製造方法であって、以下の工程を含む製造方法に関する:
a)金属化合物を準備し、該金属化合物を溶媒に溶解して溶液を得る工程;
b)該溶液をC12-C24脂肪酸誘導体に添加する工程;及び、
c)溶液形態の作物防除組成物が得られるまで混合する工程。
【0045】
適切な溶媒は、グリコール、アルコール、ポリアルコール及びそれらの組み合わせである。
好ましい溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、アリルアルコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ベンジルアルコール、グリセロール及びそれらの混合物である。
最も好ましい溶媒は、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-エチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)及びそれらの混合物である。
好ましくは、工程a)において、金属化合物は、55~85℃の温度で、攪拌しながら溶媒に溶解する。
【0046】
好ましくは、工程b)において、C12-C24脂肪酸誘導体は、35~65℃の温度で予熱する。
作物防除組成物について好ましく、そして有利であると特定された全ての態様は、製造方法、農薬製品、その使用及び作物の保護方法についても同様に好ましく、そして有利であるとみなされると理解される。
また上述された本発明の作物防除組成物、製造方法、農薬製品、使用及び方法の好ましい態様の組み合わせの全ては、本明細書中に開示されたものとみなされると理解される。
【0047】
以下は、例示目的のために提供される本発明の実施例である。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
作物防除組成物を本発明に従って調製した。
135gの無水サリチル酸銅を1リットルの1,2-プロピレングリコールに、溶液が得られるまで60~65℃で攪拌しながら溶解した。この溶液は強い緑色で透明である。この溶液は、室温であっても長期間の安定性を有し、1.05g/mlの濃度である。
オレイン酸カリウムを選択し、攪拌しながら40~50℃で加温する。
【0049】
次に、溶液1部に対してオレイン酸カリウム4部の割合となるまで、先に調製したサリチル酸銅と1,2-プロピレングリコールの溶液を、加温したオレイン酸カリウムに加えてさらに撹拌する。
得られた作物防除組成物は、沈殿物を有さない透明な暗緑色の溶液であり、濃度は1.03g/mlである。
水中での試験CIPAC MT 36.1.1、std「D」342ppmでは、完全なエマルジョンが得られ、水中での組成物の高い懸濁性が実証された。
【0050】
[実施例2]
作物防除組成物を本発明に従って調製した。
水酸化銅と2-アミノ安息香酸を反応させて無水アントラニル酸銅を予め合成した。
次に、134gの無水アントラニル酸銅を1リットルのベンジルアルコールに、溶液が得られるまで約80℃で攪拌しながら溶解した。この溶液は強い青色で透明である。この溶液は、室温であっても長期間の安定性を有し、1.06g/mlの濃度である。
オレイン酸カリウムを選択し、攪拌しながら50~60℃で加温する。
【0051】
次に、溶液1部に対してオレイン酸カリウム4部の割合となるまで、先に調製したアントラニル酸銅とベンジルアルコールの溶液を、加温したオレイン酸カリウムに加えてさらに撹拌する。
得られた作物防除組成物は、沈殿物を有さない透明な暗青色の溶液であり、濃度は1.10g/mlである。
水中での試験CIPAC MT 36.1.1、std「D」342ppmでは、完全なエマルジョンが得られ、水中での組成物の高い懸濁性が実証された。
【0052】
[実施例3]
作物防除組成物を本発明に従って調製した。
水酸化銅と2,6-ジヒドロキシ安息香酸を反応させて無水2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅を予め合成した。
次に、150gの無水2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅を1リットルのグリセロールに、溶液が得られるまで65~70℃で攪拌しながら溶解した。この溶液は強い緑色で透明である。この溶液は、室温であっても長期間の安定性を有し、1.35g/mlの濃度である。
オレイン酸カリウムを選択し、攪拌しながら50~60℃で加温する。
【0053】
次に、溶液1部に対してオレイン酸カリウム4部の割合となるまで、先に調製した2,6-ジヒドロキシ安息香酸銅とグリセロールの溶液を、加温したオレイン酸カリウムに加えてさらに撹拌する。
得られた作物防除組成物は、沈殿物を有さない透明な暗緑色の溶液であり、濃度は1.10g/mlである。
水中での試験CIPAC MT 36.1.1、std「D」342ppmでは、完全なエマルジョンが得られ、水中での組成物の高い懸濁性が実証された。
【0054】
[実施例4]
その特性を評価するために、実施例1の作物防除組成物(簡潔に「ABP590」という)を試験した。
最初に、播種後12日目のBrassica oleraceaの苗木で、ABP590を試験した。
この試験は、比較品としてサリチル酸銅溶液とサリチル酸鉄溶液を用いて、本発明の組成物の植物毒性を評価することを目的とした。全ての溶液を水で0.2%希釈してから植物に適用した。
図1と
図2は、これらのテストの結果を示す。
【0055】
図1は、実施例1の組成物で処理したBrassica oleraceaの苗木(白い播種基盤の左列)が非常によく育っているのに対して、銅サリチル酸溶液(白い播種基盤の右列)は高度に植物毒性であることを示す。
【0056】
図2は、実施例1の組成物で処理したBrassica oleraceaの苗木(白い播種基盤の左列)が非常によく育っているのに対して、サリチル酸鉄溶液(白い播種基盤の右列)が、サリチル酸銅溶液よりもさらに植物毒性であることを示す。
【0057】
[実施例5]
ABP590の葉(
図3)及び房(
図4)に対する害虫発生率は、ブドウの露菌病に対する野外実験で試験した(Plasmopara Viticolaはブドウの露菌病の病原体であり、落葉や土壌中で卵胞子として越冬する雌雄異型の卵菌である。)。比較は、オキシ塩化銅35%(Cu
2(OH)
3Clを0.4kg/100Lの水溶液で使用する;140gのCu/100Lの水に相当する)を含む市販の銅製品(製品名「Ossiclor 35WG」)を用いて行った。
【0058】
図3及び4に示すように、ABP590を3つの異なる濃度で試験した。すなわち、1L/100L、2L/100L及び4L/100Lの水溶液であり、それぞれ、6.4g Cu/100L、12.8g Cu/100L及び25.6g Cu/100Lに相当する。
害虫発生率(% pestinc)のパーセンテージは、15日ごとに検出した(
図3及び
図4の図表の各サンプルについて左から右へ)。
【0059】
予想外に、2L/100Lの水溶液の濃度に相当する12.8gの量の銅が、140gの銅を含有する既知の銅製品に関して改善されたレベルの病原体防除を達成するのに十分であった。これは、既知の製品よりも10.9倍を超えて少ない銅量を意味する。換言すると、特に房については、既知の製品の銅含有量の9%で十分であった。
さらに、葉や房には植物毒性の痕跡は見られなかった。
【0060】
[実施例6]
ABP590の葉(
図5)及び房(
図6)に対する害虫発生率は、ブドウの露菌病に対する野外実験で試験した(Plasmopara Viticolaはブドウの露菌病の病原体であり、落葉や土壌中で卵胞子として越冬する雌雄異型の卵菌である。)。比較は、337.5g/kgのオキシ塩化四銅(3CuO-CuCl
2-3H
2Oを0.3kg/100Lの水溶液で使用する;113gのCu/100Lの水に相当する)を含む市販の銅製品(製品名「Pasta Caffaro Blu」)を用いて行った。
【0061】
図5及び6に示すように、ABP590を3つの異なる濃度で試験した。すなわち、1L/100L、2L/100L及び4L/100Lの水溶液であり、それぞれ、6.4g Cu/100L、12.8g Cu/100L及び25.6g Cu/100Lに相当する。
害虫発生率(% pestinc)のパーセンテージは、15日ごとに検出した(
図5及び
図6の図表の各サンプルについて左から右へ)。
【0062】
予想外に、2L/100Lの水溶液の濃度に相当する12.8gの量の銅が、300gの銅を含有する既知の銅製品に関して改善されたレベルの病原体防除を達成するのに十分であった。これは、既知の製品よりも8.8倍を超えて少ない銅量を意味する。換言すると、特に房については、既知の製品の銅含有量の4.27%で十分であった。
さらに、葉や房には植物毒性の痕跡は見られなかった。
【0063】
[実施例7]
ABP590の葉に対する害虫発生率(
図7)は、トマトの葉枯れ病(卵菌病原体:Phytophthora Infestans)に対する野外実験で試験した。比較は、オキシ塩化銅35%(Cu
2(OH)
3Clを0.4kg/100Lの水溶液で使用する;140gのCu/100Lの水に相当する)を含む市販の銅製品(製品名「Ossiclor 35WG」)を用いて行った。
【0064】
図7に示すように、ABP590を4つの異なる濃度で試験した。すなわち、0.5L/100L、1L/100L、1.5L/100L及び2L/100Lの水溶液であり、それぞれ、3.2g Cu/100L、6.4g Cu/100L、9.6g Cu/100L及び12.8g Cu/100Lに相当する。
害虫発生率(% pestinc)のパーセンテージは、15日ごとに検出した(
図7の図表の各サンプルについて左から右へ)。
【0065】
予想外に、1.5L/100Lの水溶液の濃度に相当する9.6gの量の銅が、140gの銅を含有する既知の銅製品に関して改善されたレベルの病原体防除を達成するのに十分であった。これは、既知の製品よりも14.5倍を超えて少ない銅量を意味する。換言すると、特に房については、既知の製品の銅含有量の6.85%で十分であった。
さらに、葉や房には植物毒性の痕跡は見られなかった。
【0066】
[実施例8]
細菌Erwinia amylovora(Ea)についてin vitro試験を実施した。
製剤:ABP510(オレイン酸製剤)、ABP590(実施例1)
培養基質:Ceria 132
【0067】
これらの細菌について、0%、0.1%、1%、2%の添加量率のABP510及びABP590で処理したペトリ皿において、増殖試験を行った。
様々な添加量で、製品を用いてペトリ皿を処理した後、同日に約103CFU ml-1の濃度で測光的にコントロールした300μlの細菌懸濁液を接種した。
各ペトリ皿のコロニー計数を、最初は接種から48時間後に、2回目は接種から5日後に、2回行った。
【0068】
【0069】
コロニー数は、オレイン酸単独のコロニー数よりもABP590の方が、特に5日後に、有意に少ないことが観察できる。
【0070】
[実施例9]
病原真菌Zymoseptoria tritici(Mycosphaerella graminicolaの異名)及びCercospora beticola(テンサイ斑点病)についてin vitro試験を実施した。
製剤:ABP510(オレイン酸製剤)、ABP590(実施例1)
培養基質:PDA
これらの真菌について、0%、0.5%、1%、2%、4%の添加量率のABP 510及びABP 590で処理したペトリ皿において、3連で菌糸体成長試験を行った。
【0071】
Zymoseptoria tritici
菌糸体成長試験:様々な添加量で、製品ABP510及びABP590を用いてペトリ皿を処理した後、同じ日に、1×104の濃度の150μlの真菌懸濁液を用いて全てのペトリ皿上に均一に分布させて接種した。
各ペトリ皿のコロニー計数は2回行った:最初は接種から4日後、2回目は接種から7日後。
【0072】
【0073】
【0074】
コロニー数は、オレイン酸単独のコロニー数よりもABP590の方が、1%だけであっても、有意に少ないことが観察できる。
【0075】
Cercospora beticola
菌糸体成長試験:様々な添加量で、製品ABP510及びABP590を用いてペトリ皿を処理した後、同じ日に、各ペトリ皿の中央に4mmの真菌のディスケットを置いた。
観察データは、次に関係する菌糸体成長の2つの直交する直径の測定からなる。観察は2回行った:最初は接種から4日後、2回目は接種から7日後。
【0076】
【0077】
【0078】
コロニー数は、オレイン酸単独のコロニー数よりもABP590の方が、2%だけであっても、有意に少ないことが観察できる。
【0079】
[実施例10]
作物防除組成物を本発明に従って調製した。
サリチル酸銅の代わりに水酸化銅を用いて実施例1の手順を繰り返した。
【0080】
[実施例11]
作物防除組成物を本発明に従って調製した。
サリチル酸銅の代わりにオキシ塩化銅を用いて実施例1の手順を繰り返した。
【0081】
[実施例12]
上記の実施例で調製した作物防除組成物の抗菌活性を、ブロス微量希釈法[CLSIプロトコル-臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standard Institution)]を用いたin vitroの抗菌剤感受性試験により評価した。最小阻止濃度(MIC)をマルチウェルプレートで測定した。
【0082】
全ての試験を三連で実施し、非常に類似した阻害結果を得た。
MICを測定した時点で、C12-C24脂肪酸誘導体と金属化合物の相乗作用の評価を行った。相乗効果の判定は、標準プロトコルを使用して評価し、特にFIC指数によって評価した。
FIC指数の値は、以下の式によって算出した。
【0083】
【0084】
式中:A=C12-C24脂肪酸誘導体;B=金属化合物 を示す。
FIC指数<1:相乗効果あり(組み合わせた2つの化合物の活性が、別々に調査したそれらの独立した活性の合計より大きい)。
FIC指数>1:相乗効果なし
【0085】
[実施例12A]
実施例1の作物防除組成物のMICをB.cinereaに対して評価し、次いでサリチル酸銅単独のMIC及びオレイン酸カリウム単独のMICと比較した。
【0086】
【0087】
[実施例12B]
実施例1の作物防除組成物のMICをZ.triticiに対して評価し、次いでサリチル酸銅単独のMIC及びオレイン酸カリウム単独のMICと比較した。
【0088】
【0089】
[実施例12C]
実施例2の作物防除組成物のMICをE.amylovoraに対して評価し、次いでアントラニル酸銅単独のMIC及びオレイン酸カリウム単独のMICと比較した。
【0090】
【0091】
[実施例12D]
実施例2の作物防除組成物のMICをP.syringaeに対して評価し、次いでアントラニル酸銅単独のMIC及びオレイン酸カリウム単独のMICと比較した。
【0092】
【0093】
[実施例12E]
実施例10の作物防除組成物のMICをE.amylovoraに対して評価し、次いで水酸化銅単独のMIC及びオレイン酸カリウム単独のMICと比較した。
【0094】
【0095】
[実施例12F]
実施例11の作物防除組成物のMICをP.infestansに対して評価し、次いでオキシ塩化銅単独のMIC及びオレイン酸カリウム単独のMICと比較した。
【0096】
【0097】
上記の結果は、FIC指数の値が示すように、本発明の作物防除組成物が予想外の有意な相乗効果を奏することを示す。