(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】磁性マイクロ粒子を使用して大きな体積からより小さな体積に分析物を濃縮するためのDMF方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20220111BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20220111BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220111BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20220111BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
G01N33/531 B
G01N37/00 101
G01N35/08 A
G01N35/10 K
(21)【出願番号】P 2018551846
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 CA2017050399
(87)【国際公開番号】W WO2017219122
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-03-03
(32)【優先日】2016-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514221779
【氏名又は名称】ザ ガバニング カウンシル オブ ザ ユニバーシティ オブ トロント
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ラクカス,ダリウス ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】ウィーラー,アーロン レイ
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0283407(US,A1)
【文献】ALPHONSUS H. C. NG ET AL,Digital Microfluidic Magnetic Separation for Particle-Based Immunoassays,ANALYTICAL CHEMISTRY,2012年09月26日,Vol.84,No.20 ,pages 8805-8812
【文献】KIHWAN CHOI ET AL,Automated Digital Microfluidic Platform for Magnetic-Particle-Based Immunoassays with Optimization by Design of Experiments,ANALYTICAL CHEMISTRY,2013年08月26日,Vol. 85, No. 20, pages 9638-9646
【文献】NINGSI MEI ET AL,Digital Microfluidic Platform for Human Plasma Protein Depletion,ANALYTICAL CHEMISTRY,2014年08月08日, Vol. 86, No. 16,pages 8466-8472
【文献】Wheeler, Aaron,"Focused serendipity. Interview by Kristie Nybo",,, BioTechniques,2011年,Vol. 50, No. 4, ,pp. 209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 35/00-37/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料体積と比較してより小さな体積を有する試薬のドロップレットに液体試料体積から分析物を隔離する及び濃縮するための方法であって、
a)分析物を含む液体試料体積に分析物特異的レセプターでコートされた磁性マイクロ粒子をさらすこと;
b)デジタルマイクロ流体デバイスの部分を形成するリザーバー中に磁性マイクロ粒子を含む前記液体試料体積を置くこと;
c)液体がデジタルマイクロ流体デバイスから除かれる出口位置へリザーバーからデジタルマイクロ流体デバイスを横切るあらかじめ選択されたパターンの電圧を有するあらかじめ選択されたパターンの駆動電極をアクティブにすることによりデジタルマイクロ流体デバイスを横切るバーチャル流体フローチャネルを形成すること及び同時にバーチャル流体フローチャネルに沿うあらかじめ選択された保持位置で磁場を適用することであって、前記あらかじめ選択されたパターンの駆動電極をアクティブにする際に、リザーバー中の液体試料体積からの液体がリザーバーから出口位置への距離を横切り及びリザーバーから動く分析物特異的レセプターに結合される分析物を有する磁性マイクロ粒子が、保持位置に到着する際に、磁場により保持位置で実質上保持され、かつ残存する液体がポンピング機構の手段により出口位置へ依然として流れてデジタルマイクロ流体デバイスから除かれる、こと;
d)磁場により保持位置で保持される磁性マイクロ粒子の上に試薬のドロップレットを分配することであって、前記試薬のドロップレットが前記液体試料体積と比較してより小さな体積を有すること;
e)工程d)の前
、間又は後のいずれかで保持位置での磁場を除くこと及び磁性マイクロ粒子を含む試薬のドロップレットをさらに処理すること;
を含み、かつ
f)それに結合される分析物を有する磁性マイクロ粒子を含む試薬のドロップレットが前記液体試料体積における分析物の濃度と比較してより高い濃度の磁性マイクロ粒子及び分析物を含む、
方法。
【請求項2】
ポンピング機構がパッシブポンピング機構である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パッシブポンピング機構が吸収性ウィッキング媒体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ポンピング機構がアクティブポンピング機構である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
デジタルマイクロ流体デバイスが1プレートデジタルマイクロ流体デバイスである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
デジタルマイクロ流体デバイスが2プレートデジタルマイクロ流体デバイスである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
デジタルマイクロ流体デバイスがリザーバーからDMFデバイス上で磁性マイクロ粒子が隔離されるあらかじめ特定された位置に向かって延びる1つの親水性のストリップを含み、及び2つの親水性ストリップの間に隔離が起きる位置でのボトムプレート上の下部の駆動電極より短い長さである隙間があるように出口から同じあらかじめ特定された位置に向かって延びる第二の親水性ストリップを含み、かつ液体試料体積をロード後に、それが第一の親水性ストリップによりあらかじめ特定された位置に毛管作用で運ばれ、かつ前記あらかじめ特定された位置で駆動電極に対して電圧を適用することにより、液体試料体積が第二の親水性ストリップに橋渡しされ及びポンピング機構により吸収される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
液体試料体積と比較してより小さな体積を有する試薬のドロップレットに分析物を隔離する及び濃縮するためのシステムであって、
a)駆動電極のアレイを有するデジタルマイクロ流体デバイス及び液体リザーバーから出口へ液体をポンピングするためのポンピング機構;
b)デジタルマイクロ流体デバイスの処理中に1つ又は複数のあらかじめ選択された駆動電極に隣接する収束磁場を適用して保持位置を形成するために配置される磁石;
c)前記駆動電極のアレイにあらかじめ選択されたパターンの電圧を適用するためにプログラムされるコンピューター制御装置;
d)分析物特異的レセプターでコートされた磁性マイクロ粒子を前記デジタルマイクロ流体デバイスから離れて位置する分析物を含む液体試料体積にさらす及び磁性マイクロ粒子を含む前記液体試料体積をリザーバー中に置くための手段;
e)バーチャル流体フローチャネルに沿ってあらかじめ選択された保持位置で同時に磁場を適用しながら液体がデジタルマイクロ流体デバイスから除かれる出口位置にリザーバーからデジタルマイクロ流体デバイスを横切ってあらかじめ選択されたパターンの電圧を有するあらかじめ選択されたパターンの駆動電極をアクティブにすることによりバーチャル流体フローチャネルを形成するためにプログラムされるコンピューター制御装置であって、前記あらかじめ選択されたパターンの駆動電極をアクティブにする際に、リザーバー中の前記液体試料体積からの液体がリザーバーから出口位置への距離を横切り及びリザーバーから動く分析物特異的レセプターに結合される分析物を有する磁性マイクロ粒子が、保持位置に到着する際に、磁場により保持位置で実質上保持され、及び残存する液体がポンプ機構の手段により出口位置に依然として流れてデジタルマイクロ流体デバイスから取り除かれる、制御装置;
f)磁場により保持位置で保持される磁性マイクロ粒子の上に試薬のドロップレットを分配するための手段であって、前記試薬のドロップレットが前記液体試料体積と比較してより小さな体積を有し、保持位置で磁場を除き及び磁性マイクロ粒子を含む試薬のドロップレットをさらに処理するための手段;
を含み、かつ
g)それに結合される分析物を有する磁性マイクロ粒子を含む試薬のドロップレットが前記液体試料体積中の分析物の濃度と比較してより高い濃度の分析物を含む、
システム。
【請求項9】
ポンピング機構がパッシブポンピング機構である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
パッシブポンピング機構が吸収性ウィッキング媒体である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
ポンピング機構がアクティブポンピング機構である、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
デジタルマイクロ流体デバイスが1プレートデジタルマイクロ流体デバイスである、請求項8から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
デジタルマイクロ流体デバイスが2プレートデジタルマイクロ流体デバイスである、請求項8から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
デジタルマイクロ流体デバイスがリザーバーからDMFデバイス上で磁性マイクロ粒子が隔離されるあらかじめ特定された位置に向かって延びる1つの親水性のストリップを含み、及び2つの親水性ストリップの間に隔離が起きる位置でのボトムプレート上の下部の駆動電極より短い長さである隙間があるように出口から同じあらかじめ特定された位置に向かって延びる第二の親水性ストリップを含み、かつ液体試料体積をロード後に、それが第一の親水性ストリップによりあらかじめ特定された位置に毛管作用で運ばれ、及び前記あらかじめ特定された位置で駆動電極に対して電圧を適用することにより、液体試料体積が第二の親水性ストリップに橋渡しされ及びポンピング機構により吸収される、請求項8から13のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、それに結合される分析物特異的レセプターを有する磁性マイクロ及びナノ粒子を使用して大きな体積からより小さな体積に分析物を濃縮するためのデジタルマイクロ流体(DMF)ベースの方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性マイクロ及びナノ粒子は、それらが磁場による操作の影響を受けやすくさせる磁性又は常磁性コアを有する、マイクロ又はナノメートル長スケールの直径を有する粒子(以後、「マイクロ粒子」)である。これらの粒子の表面は、分析物特異的レセプターとも呼ばれる、特異的結合要素(例えば、核酸、抗原、抗体)で官能化され得る。官能化されたマイクロ粒子は、免疫アッセイ、試料クリーンアップ、及び核酸アッセイを含むさまざまな適用において使用される。一時的に磁場中で磁性粒子を固定することは、使用者が、粒子が懸濁される溶液及び粒子が懸濁される体積を変化させることを可能にする。磁性マイクロ粒子の濃縮は、(a)マイクロ粒子上に捕捉される標的分析物が低濃度で存在する溶質であるか又は低密度で存在する懸濁される粒子(例えば、循環腫瘍細胞)である、及び/又は(b)検出の方法が捕捉される標的を検出するのに十分な感受性をもたない、文脈においてとりわけ有益である1。
【0003】
DMFは、それにおいて別々の液体ドロップレットが電極アレイの表面上で操作される、新たに出現した技術である。DMFは、従来型の閉鎖型マイクロチャネルベースの流体に対して、再構成能力(汎用デバイスフォーマットが任意の適用のため使用され得る)及び全ての試薬にわたる完全な制御を含む、多数の相補う差異を有する。DMFは、典型的には「2プレート」フォーマットにおいて実行され、それにおいてドロップレットは、ボトムプレート(絶縁体でコートされた電極アレイを持つ)及びトッププレート(絶縁体でコートされない接地電極を持つ)の間に挟まれる2。
【0004】
近年、DMFは、小さな体積の磁性マイクロ粒子を扱うために有益なツールであることが証明された3~8。そのオープンプラットフォームは、粒子が(マイクロチャネル中と異なり)デバイスを詰まらせる可能性を排除し、及びその再構成能力は、適切に官能化された粒子と組合せて、単一のチップをさまざまな適用に使用し得ることを意味する。
【0005】
今まで、DMFチップの1つの制限は、大きな体積を扱うことができないことであり、それは、希薄な溶質又は懸濁する粒子を濃縮する能力を制限する。下部の電極の面積はDMFチップ上の流体体積を決定し、及びチップの総体積容量は、ボトム及びトッププレートの間の隙間距離を乗じた全ての電極の面積の総和である。結果として、チップ上で可能な理論的な濃縮係数は、DMFデバイスの総面積及び最も小さな電極の面積の両方により、制限される。
【0006】
実際には、濃縮係数は、デバイスのジオメトリ及び磁石の位置の制限により、この理論的な係数より小さいであろう。DMFデバイス上に磁性マイクロ粒子を数桁の大きさで効果的に濃縮するために、デバイスは、デバイスの容量よりはるかに大きい体積を処理できなくてはならない。
【発明の概要】
【0007】
分析物を液体試料の体積から、より小さな体積を有する試薬のドロップレットに隔離する及び濃縮するための方法が、本明細書中に開示される。当該方法は、分析物特異的レセプターでコートされた磁性マイクロ粒子を、分析物を含む液体試料の体積(それは、恣意的に大きくてもよい)にさらすこと、及び分析物が粒子上のレセプターに結合するようインキュベートすることを含む。磁性マイクロ粒子を含む当該液体体積は、デジタルマイクロ流体デバイス上の電極上に又は電極に隣接して置かれる。バーチャル流体フローチャネルは、リザーバーから、液体が除かれる出口位置へとデジタルマイクロ流体デバイスを横切る、あらかじめ選択されたパターンの電圧を有するあらかじめ選択されたパターンの駆動電極をアクティブにすることにより、デジタルマイクロ流体デバイスを横切って生み出される。同時に、あらかじめ選択されたパターンの駆動電極をアクティブにする際に、リザーバー中の当該液体体積から液体がバーチャルフローパスに沿って、リザーバーから動くことができるように、バーチャル流体フローチャネルに沿ったあらかじめ選択された保持位置で磁場が適用される。リザーバーから液体と共に動く分析物特異的レセプターに結合された分析物を有する磁性マイクロ粒子は、保持位置に到着すると、磁場により保持位置に保持され、残存する液体は、ポンプ機構の手段により出口位置に流れる。
【0008】
磁性粒子が保持位置でいったん固定される又は保持されると、選択された試薬のドロップレットが、保持位置で、保持された磁性マイクロ粒子上に分配される。この試薬のドロップレットは、分析物が抽出される液体の元の体積と比較して、はるかにより小さな体積を有する。磁場は、試薬ドロップレットが添加される前、又はドロップレットの添加の間、又は試薬ドロップレットの添加の後のいずれかで、除かれ得る。磁性マイクロ粒子を含む試薬のドロップレットはDMFによりさらに処理されて、例えば、さまざまな駆動電極をアクティブにしてドロップレットが動きまわり混合を誘導することにより、磁性粒子が試薬のドロップレットと均一に混合されるのを確かにする。それに結合された分析物を有する磁性マイクロ粒子を含む試薬のドロップレットは、当該液体体積中の分析物の濃度と比較して、より高い濃度の分析物を含む。
【0009】
一実施形態において、ポンピング機構は、出口位置に位置する吸収性ウィッキング媒体(ティッシュ又は一切れのろ紙など)であってよく、リザーバーを出口位置に接続する一連の電極に電圧を適用することによりバーチャルチャネル(複数可)が一度作られれば、吸収性ウィッキング媒体はその後、毛細管力を介して流体を運ぶことによりポンプとして作動する。
【0010】
本開示の機能的及び有利な態様のさらなる理解は、以下の詳細な説明及び図面を参照することによって実現できる。
【0011】
以下、図面を参照し、実施形態を例示としてのみ説明する:
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】分析物特異的レセプターでコートされた磁性マイクロ粒子(poraticles)による、液体試料体積からの標的分析物の捕捉を説明する。
【
図2】本発明の方法の工程を実証するDMFデバイスの断面側面図(縮尺通りでない)を示す。
【
図3】本発明の方法の5つの工程を実証するDMFデバイスのトップダウンビュー図を示す。
【
図4】各条件について3つの試験にわたる平均パーセンテージリカバリー及びスタンダード偏差を提示する、50、75、及び100μL体積のリン酸緩衝生理食塩水からの2.8、5、及び10μmの磁性粒子のリカバリー率を探索する試験の結果を示す。
【
図5】スタンダードDMF-ELISA方法及び本明細書中に開示される前濃縮DMF-ELISA処理についての、検量曲線を示すグラフである。
【
図6】磁性マイクロ粒子隔離位置へと導き及びそこから導く親水性ストリップを有するDMFデバイスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示のさまざまな実施形態及び態様を、以下に説明する詳細を参照して説明する。以下の説明及び図面は、本開示を説明するものであり、本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。図は縮尺通りではない。多数の特定の詳細が、本開示のさまざまな実施形態の完全な理解を提供するために記載される。しかしながら、ある場合には、本開示の実施形態の簡潔な議論を提供するために、よく知られた又は従来型の詳細は記載されていない。
【0014】
本明細書中に使用されるように、用語「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」は、包括的かつオープンエンドであり、排他的ではないと解釈されるべきである。具体的には、本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、指定された特徴、ステップ又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は構成要素の存在を排除するものと解釈されるべきではない。
【0015】
本明細書で使用される場合、用語「例示的な」は、「例、事例、又は説明として機能する」を意味し、本明細書に開示される他の構成よりも好ましい又は有利であると解釈されるべきではない。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「約」及び「およそ」は、特性、パラメータ及び寸法の変化などの値の範囲の上限及び下限に存在し得る変形をカバーすることを意味する。1つの非限定的な例において、用語「約」及び「およそ」は、プラス又はマイナス10パーセント以下を意味する。
【0017】
別に定義しない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有することが意図される。
【0018】
本明細書中に使用されるように、表現「磁性マイクロ及びナノ粒子」は、直径1~10ミクロンの範囲でありかつ捕捉部分で官能化される、ポリスチレンなどの、ポリマーシェルでカプセル化される常磁性酸化鉄コアを含む粒子を指す。この定義はまた、約10~50ナノメートルのオーダーの直径を有しかつ捕捉部分で官能化される、磁性ナノ粒子も記載する。
【0019】
説明される方法の構成要素は、以下のように、同定される:
【0020】
キャプション及びラベル
1.液体試料の体積(結合した分析物を有する磁性粒子を含む)
2.より小さな体積の試薬のドロップレット
3.分析物特異的レセプターでコートされた磁性マイクロ粒子(及び結合した分析物)
4.デジタルマイクロ流体デバイス
5.バーチャル流体フローチャネル
6.駆動電極
7.出口位置
8.磁石/磁場
9.保持位置
10.ポンプ機構
(DMFデバイスに付随する)
11.トッププレート基板(ガラス)
12.トッププレート電極(インジウムスズオキシド)
13.疎水性コーティング(テフロン(登録商標)、FluoroPel)
14.絶縁誘電体(パリレンC)
15.リザーバー(電極)
16.ボトムプレート基板(ガラス)
(種々雑多な)
17.磁性レンズ
18.「トッププレート」
19.試薬の体積
20.分析物特異的レセプター
21.分析物
22.リザーバーから延びる親水性ストリップ
23.出口から延びる親水性ストリップ
【0021】
図1は、分析物特異的レセプター20でコートされた磁性マイクロ粒子3による、液体試料体積1からの標的分析物21の捕捉を説明する。理解できるとおり、当該方法は、容器中に磁性マイクロ粒子3を提供すること、及び、そこで試料中に存在する分析物21が磁性粒子に結合したそれらの相補的な分析物特異的レセプター20に結合する、容器中に、大きな体積の液体試料1を添加することを含む。
【0022】
図2i~2vから理解できるとおり、包括的DMFデバイス4は、あるパターンの駆動電極6を含み、それはあらかじめ選択されたパターンでアクティブにされる場合に、リザーバー15(それ自身の電極セットを有する)から出口位置7へとDMFデバイス4を横切るバーチャル流体フローチャネル5(
図3ii)を定義するため使用され得る。レンズ構造又は電界誘導構造17を有する磁石8は、あらかじめ選択された駆動電極6の下に配置され、あらかじめ選択された駆動電極6上に磁場を生じる。磁場のあらかじめ選択された位置が、磁場の係合の際にフローチャネル5に沿って通過する磁性マイクロ粒子3が磁場により固定され一方で試料の液体が流れ続けるように、あらかじめ選択された駆動電極(複数可)6上のバーチャル流体フローチャネル5に沿って保持位置9を定義する。
【0023】
DMFデバイス4は、バーチャルフローチャネル5に沿って流れる液体がDMFデバイス4から廃液容器中へ引き出されるように、電極6から離れた1つ又は複数のあらかじめ選択された位置7に位置するポンプ機構10を含む。ポンプ機構10は、シリンジ、蠕動ポンプ又はバキュームポンプなどのアクティブポンプであり得るがそれらに限定されず、又は吸収性のウィッキング材料(2つの非限定的な例として、ろ紙又はティッシュペーパー)などのパッシブポンプであり得るがそれらに限定されない。
【0024】
DMFデバイス4は、ボトムプレート16及びトッププレート18を含み、ここでボトムプレート16は、疎水性材料13に覆われる絶縁誘電性層14でコートされる駆動電極6及びリザーバー電極15のパターンを含み、かつトッププレート18は、疎水性材料層13に覆われる対電極12を有する基板11を含む。他の可能性のある実施形態(示さない)は、逆転する向きのプレート(ボトム上の「トップ」プレート及びその逆を有する)、及び/又は絶縁誘電性層で覆われた両方のプレートを有する、及び/又は両方のプレート上に複数のパターン化された駆動及び対電極を有する、及び/又は全ての駆動及び対電極が単一のボトムプレート上にある「単一のプレート」モードにおけるものを含む。
【0025】
図2i、2ii、2iii、2iv及び2vは、本発明の方法の5つの工程を実証するDMFデバイス4の断面側面図(縮尺通りでない)を示す。
図2iにおいて、それに結合した分析物21(
図1)を有する磁性マイクロ粒子(partilces)3を含む液体試料体積1は、ロードリザーバー15でDMFデバイス4上に置かれる。
【0026】
図2iiにおいて、バーチャル流体フローチャネル5は、DMFデバイス4から液体を除くための出口位置7に位置するポンプ機構10と液体試料体積1を接続する駆動電極6のシーケンスを作動させることにより形成される。同時に、磁石8は、あらかじめ選択された駆動電極6の下で保持位置9に磁場を適用するためにあらかじめ配置され及びはめこまれ、それにより分析物特異的レセプター20でコートされた磁性粒子3及び結合した分析物21を保持位置9で固定する。
【0027】
図2iiiにおいて、当該液体体積1はポンプ機構10により除かれ、分析物特異的レセプター20でコートされる磁性粒子3及び結合した分析物21が保持ゾーン9に残される。
【0028】
図2ivにおいて、磁石8は、DMFデバイス4から移動して離れ、それにより磁場が除かれ、及びより小さな体積の試薬のドロップレット2が保持位置9の磁性マイクロ粒子3上に分配される。
【0029】
図2vにおいて、より小さな体積の試薬のドロップレット2は、分析物特異的レセプター20でコートされる磁性マイクロ粒子3及び結合した分析物21と混ざる。
【0030】
図3i、3ii、3iii、3iv及び3vは、本発明の方法の5つの工程を実証する、DMFデバイス4のトップダウンビュー図を示す。
【0031】
図3iにおいて、液体試料体積1は、トッププレート18の外側のリザーバー15の1つ又は複数の上に置かれ、及び液体試料体積1の一部は、トッププレート18の下に引きこまれる。ポンプ機構10は、トッププレート18の下に据えられ、及び出口位置7に隣接する。
【0032】
図3iiにおいて、バーチャル流体フローチャネル5は、DMFデバイス4から液体を除くための出口位置7に位置するポンプ機構10と液体試料体積1を接続する駆動電極6をアクティブにすることにより形成される。同時に、磁石8あらかじめ選択された駆動電極6の下の保持位置9に磁場を適用するためあらかじめ配置され及びはめこまれて、それにより分析物特異的レセプター20でコートされる磁性粒子3及び結合した分析物21を保持位置9において固定する。
【0033】
図3iiiにおいて、ポンプ機構10は液体試料体積1を取り除き、分析物特異的レセプター20でコートされた磁性マイクロ粒子3及び結合した分析物21を保持位置9に残す。
【0034】
図3ivにおいて、試薬19(試薬2と同じであるがリザーバー15においてより大きな体積)がリザーバー15の1つにロードされ、及びより小さな試薬ドロップレット2が一連のあらかじめ選択された駆動電極6を作動させることにより分配される。
【0035】
図3vにおいて、試薬のより小さなドロップレット2は、あらかじめ選択された駆動電極6を作動させ、それにより混合を引き起こすことにより、分析物特異的レセプター20でコートされる磁性マイクロ粒子3及び結合した分析物21と混合される。
【0036】
結果
予備試験において、mLあたり1.04×107粒子の密度で磁性マイクロ粒子を含む100μL溶液を、記載した方法を使用して処理した。固定された磁性粒子をおよそ1.8μLの緩衝液溶液中に再懸濁した。結果として生じる密度を、mLあたり4.75±0.37×108粒子、およそ45倍の濃縮係数因子であると測定した。理論的には、リザーバーに添加され得る液体の量のみに依存して、この記載された方法により100倍以上の濃縮係数因子が達成できるはずである。
【0037】
吸収性のウィッキング材料は、バーチャルチャネルの流速を制御するために選択され得る。材料及びウィックのジオメトリの両方が、流速に影響を及ぼす。バーチャルチャネル及び吸収性のウィックを使用してDMFデバイス上で75μLの溶液を処理した試験において、二枚重ねの10mm×10mmWhatman No.1ろ紙などの材料は、75μLを60秒で吸収したが、二枚重ねの10mm×10mm SureWick G028ガラスファイバーなどのより吸収力のある(absorbment)材料は、同じ体積を7秒で吸収する。
【0038】
本発明の方法の代替の実施形態において、駆動電極及び対電極が同一平面内にある1プレートDMFデバイスを使用してもよい。1プレートデバイスは、どのように電圧が適用されるかという点で、2プレートデバイスと異なる。駆動電圧をボトムプレートに及び接地電圧をトッププレートに適用する代わりに、駆動及び接地電圧はいずれも、ボトムプレート上の隣接する電極に適用される。この実施形態において、前濃縮手順は、上に記載されたものと同じままである。
【0039】
本発明の方法の別の実施形態は、トッププレート上に親水性パターンを有する2プレートDMFデバイスを使用することに依る。これは、
図6において説明される。この実施形態において、1つの親水性ストリップ22は、リザーバーから、DMFデバイス上で磁性マイクロ粒子が隔離されるあらかじめ特定された位置に延びる。第二の親水性ストリップ23は、2つの親水性ストリップの間に、隔離が起きる位置でボトムプレート上の下部の駆動電極より短い長さの隙間があるように、出口から同じあらかじめ特定された位置に延びる。液体体積試料をロード後に、それは、第一の親水性ストリップによりあらかじめ特定された位置に毛管作用で運ばれる。当該あらかじめ特定された位置で駆動電極に対して電圧を適用することにより、液体試料は、第二の親水性ストリップに橋渡しされ、パッシブポンプにより吸収される。
【0040】
DMF上であらかじめ磁性粒子を濃縮する方法を、リン酸緩衝生理食塩水、唾液及び尿を含む、異なる試料液体に適用した。全ての場合において、当該方法は、上清液体を除くこと及び粒子を濃縮することができた。50、75、及び100μL体積のリン酸緩衝生理食塩水からの2.8、5、及び10μmの磁性粒子のリカバリー率を探索する、さらなる試験の結果を、
図4に示す。この試験において、9.00×10
7~1.84×10
8の密度で2μL体積の磁性粒子を、リン酸緩衝生理食塩水体積に添加した。粒子をその後、本明細書中に記載の前濃縮方法を使用して濃縮し、及び回収した粒子をカウントした。
図4は、各条件について3回の試験にわたる、平均パーセンテージリカバリー及びスタンダード偏差を表す。
【0041】
粒子の前濃縮は、免疫アッセイ又は核酸ハイブリダイゼーションアッセイなどの、捕捉アッセイの感受性を改良するのに使用され得る。Plasmodium falciparum乳酸脱水素酵素(LDH)についてのDMF酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を、従来型のDMF-ELISAプロトコル、及び前濃縮方法の追加により変更したプロトコルを使用して、オンチップで行った。従来型のDMF-ELISAを比較として実行し、抗PfLDH抗体で官能化した2.4μL体積の磁性粒子(6.7×10
8粒子/mL)をDMFデバイス上で分配した。粒子を固定し、上清を取り除いた。粒子をその後、2.4μLのリン酸緩衝生理食塩水及び抗原PfLDHとインキュベートした。混合物を、DMF電極により混合しながら、5分間インキュベートした。粒子をその後スタンダードDMF-ELISAプロトコルに付し、洗浄し、酵素コンジュゲートされた抗体標識とインキュベートし、さらに洗浄し、化学発光酵素基質(ルミノール及びH
2O
2)とインキュベーし、光電子増倍管チューブを用いて化学発光を測定した。前濃縮方法のため、抗PfLDH抗体で官能化した2.4μL体積の磁性粒子を、75μLリン酸緩衝生理食塩水及び抗原PfLDHを含むマイクロ遠心分離管に添加した。混合物を、本明細書に記載の前濃縮方法を使用してDMFデバイス上で処理する前に、回転させながら室温で3時間インキュベートした。粒子濃度における30倍の減少のため、より長いインキュベーション時間が前濃縮方法について必要であった。粒子をその後、スタンダードDMF-ELISAプロトコルに付した。7ng/mL及び70ng/mL PfLDHの濃度について従来型のDMF-ELISAに対する前濃縮のシグナルを比較した結果を、
図5に示す。30倍までのシグナル増加が観察された。
【0042】
議論
DMFによる磁性粒子ベースの捕捉バイオアッセイに対するアプローチは、DMFデバイス上で、捕捉剤でコートされた磁性マイクロ粒子及び試料を混合することを含む。この従来型のアプローチは、磁性粒子を分配すること、上清液体を除くこと、同様のサイズの体積の試料を分配すること及び磁性マイクロ粒子を有する試料のドロップレットを混合することを含む。捕捉され得る標的分析物の量は、当該試料体積において存在するものに限定され、及びこれらの体積は典型的には、50nL~5μLのオーダーである。これは、試料内の標的分析物の濃度の特定の範囲を検出するのに十分であり得るが、分析検出器の検出制限より低い分析物の濃度を検出するのに十分ではないだろう。
【0043】
試料中の不十分な分析物の課題を克服するため、より大きな体積が使用され、それにより、より多くの分析物を捕捉し得る。これは、一回で処理され得る最大の体積がDMFデバイスのサイズにより限定されるため、上述の従来型のDMF方法を使用して処理するのが困難であることを示す。これは、磁性粒子を試料のドロップレットと繰り返し混合すること、磁石の手段により粒子から試料を除くこと、及び別のドロップレットとインキュベーションを繰り返すことにより、回避できた。この繰り返し処理は、時間がかかり、非効率的であり、かつ複数の工程が要求される。
【0044】
DMFデバイス上で大きな体積の試料を処理するための別のアプローチは、一連の駆動電極により定義され、かつポンプにより動作されるバーチャルチャネルを作ること、かつこのチャネルを使用してデバイス上で磁場により固定された磁性粒子の上を、より大きな体積試料を流すことであろう。この方法は、より大きな体積の試料を処理することを可能にするが、固定された粒子は、磁場内に集まり、粒子の限定された表面が試料にさらされて、それにより結合される分析物の量を減らす。これは、磁性粒子の利用可能な結合部位の多くが塊の中に埋もれ試料にさらされないため、非効率的である。
【0045】
本明細書中で開示される本発明の方法は、オフチップで試料と磁性マイクロ粒子のインキュベーションを行い、その後DMFデバイス上のバーチャルチャネル及び磁石の組合せを使用して当該より大きな液体試料から捕捉された分析物を濃縮することにより、バイオアッセイのために磁性マイクロ粒子を有する大きな体積の試料を処理するという課題を克服する。この方法により処理され得る試料の体積は、DMFにより典型的に処理される体積より、50~1000倍大きいオーダーであり、DMFデバイスによるさらなる処理に適している、より小さな体積へと分析物を濃縮する。
【0046】
さらに、デバイス上のバーチャルチャネルを駆動するポンプ機構が、ろ紙又はティッシュペーパーのような吸収性ウィッキング材料などのパッシブポンプである場合、複雑なアクティブポンプ及び管類の必要性が排除される。この単純化はさらに、パッシブポンプがDMFデバイス上にあらかじめロードされることも可能にする。
【0047】
上述の例示した本発明の方法は、検出することが困難な低濃度で存在し得る目的の分析物の濃度を増加させることに関して記載されているが、本発明の方法は、検出される必要がある分析物の存在をマスクする高い濃度で存在する場合に干渉物と考えられ得る分析物を、選別して外す又は除くために使用され得ると理解されるであろう。この実施形態において、分析物特異的レセプターでコートされた磁性マイクロ粒子及び結合した分析物から除かれる液体試料体積は、容器内に保持され、さらなる処理及び分析のためのDMFデバイスに再導入され得るか、又は分析のための別のシステムに送られ得る。
【0048】
参考文献
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