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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】治療的送達小胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220128BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 35/12 20150101ALN20220128BHJP
   A61K 38/17 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K9/50
A61K47/46
A61P1/04
A61P25/00
A61P29/00
A61P35/00
A61K35/12
A61K38/17
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019108762
(22)【出願日】2019-06-11
(62)【分割の表示】P 2016507516の分割
【原出願日】2014-04-10
(65)【公開番号】P2019167378
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2019-06-14
(31)【優先権主張番号】1300271-2
(32)【優先日】2013-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】518259431
【氏名又は名称】エヴォックス・セラピューティクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サミル・エル・アンダロッシ
(72)【発明者】
【氏名】オスカー・ヴィークランダー
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル・ノルディン
(72)【発明者】
【氏名】エドゥアルト・スミス
(72)【発明者】
【氏名】カール-ヘンリク・グリネモ
(72)【発明者】
【氏名】オスカー・シモンソン
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06899863(US,B1)
【文献】国際公開第2012/087241(WO,A1)
【文献】特表2010-516786(JP,A)
【文献】特表2012-524052(JP,A)
【文献】特表2014-511687(JP,A)
【文献】特表2014-507140(JP,A)
【文献】Journal of Molecular and Cellular Cardiology,2010年,48,p.1215-1224
【文献】Molecular Neurodegeneration,2012年,7:42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C12N 5/071
A61K 9/50
A61K 47/46
A61P 1/04
A61P 25/00
A61P 29/00
A61P 35/00
A61K 35/12
A61K 38/17
・DB
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つのポリペプチド構築物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を提供する工程、
(ii)前記少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を、細胞外小胞(EV)を産生することができる細胞に導入する工程、
(iii)工程(ii)の細胞により産生されたEVを回収する工程、及び
(iv) 前記EVを限外濾過工程に供し、次いでサイズ排除液体クロマトグラフィー(LC)に供することによって工程(iii)のEVを精製する工程
を含む、EVを精製する方法。
【請求項2】
前記濾過工程において少なくとも1つのフィルターが用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
異なるフィルターが、同一であるか若しくは異なるカットオフを有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各フィルターカットオフが、100kDa、200kDa、若しくは500kDaである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程(i)~(iv)の前に、EVを得ようとする細胞をストレス誘導条件に曝露する工程をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ストレス誘導条件が、酸素欠乏及び/又は血清飢餓である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(i)~(iv)の前に、EVを得ようとする細胞をオートファジー阻害物質に曝露する工程をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ、ポリペプチド構築物を含む治療的送達小胞、例えばエキソソーム又は微小胞、前記治療的送達小胞を作製する方法、この医薬組成物及び医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エキソソーム及び微小胞は、生合成のプロセス並びにサイズ及び表面タンパク質マーカーを含む生物物理学的特性に基づき異なる膜結合小胞である。エキソソームは、サイズ40から150nmの均一な小粒子であり、通常はエンドサイトーシスリサイクリング経路に由来する。エンドサイトーシスにおいて、エンドサイトーシス小胞が細胞膜で生じ、融合して初期エンドソームを形成する。これらは成熟し、内腔内小胞が小胞内腔中に出芽する後期エンドソームになる。リソソームと融合する代わりに、これらの多胞体は細胞膜と直接融合し、エキソソームを細胞外空間へ放出する。エキソソーム生合成、タンパク質カーゴ選別、及び放出は、エンドソーム輸送選別複合体(ESCRT複合体)並びにAlix及びTsg101等の他の関連タンパク質を必要とする。
【0003】
対照的に、別のタイプの細胞外小胞、すなわち微小胞は、外側への出芽及び細胞膜からの膜小胞の分裂により直接産生され、故に、微小胞の表面マーカーは起源の膜の組成に大きく依存する。更に、微小胞は、直径150から1000nmの細胞外小胞のより大きくより均一な集団を成す傾向がある。しかし、小胞の両方のタイプとも、機能的mRNA、miRNA及びタンパク質をレシピエント細胞に送達することが示されている。
【0004】
受容体シグナル伝達及び応答における生理的バランスを維持するために、いくつかの受容体は膜結合型及び可溶型の両方で存在する。膜型が通常はシグナル伝達することができるのに対し、可溶型はシグナル伝達することができない。可溶型はしばしば、膜結合型の細胞外部分として生じる。可溶部分は、(1)プレmRNAの選択的スプライシング、及び(2)細胞外プロテアーゼ(しばしばメタロプロテアーゼ)の切断による2つの異なる方法で生成される。可溶型はリガンドを結合し、これによりリガンドを隔離し、膜結合型とリガンドが結合するのを阻害する。これは、この経路からのシグナル伝達全体が減少することを意味する。可溶型はしばしば、シグナル伝達経路が極めて活性であると増加する。例えば、2つの腫瘍壊死因子受容体アルファ(TNFRα)の可溶型は、炎症プロセスを減少させるために敗血症及び炎症等の病的状態において増加する。
【0005】
デコイ受容体は、目的とするタンパク質の生理的濃度を低下させるのに高度に特異的な適合したアプローチを提供するため、治療的観点からかなりの関心を受けている。該治療法は、特定のシグナル伝達経路の活性を減少させるためにデコイ受容体の投与に依存する。デコイ受容体はしばしば、抗体のFc部分と融合して該受容体の半減期を増加させ、2つが互いから近距離に来る時に該受容体のアビディティーを増加させる。この戦略の1つの例が、Fc断片と融合したTNFR2であるエタネルセプトである。エタネルセプトは、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、及び中等度から重度の活動性多関節型若年性特発性関節炎を治療するために臨床的に承認されており、最初の承認以来、過去19年にわたって安全及び有効であることが示されている。例えばVEGF、EGF、FGF及びアンジオポエチンを標的にするいくつかの他のデコイ受容体融合タンパク質が臨床試験中である。
【0006】
様々な治療状況で、及び多数の病気に対して成功裡に適用されているが、デコイ受容体及び他の生物製剤(バイオ医薬品)は、例えば薬物動態、毒性、薬力学、及び治療効果に関するいくつかの欠点を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2010/119256 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
故に、生物製剤、詳細にはデコイ受容体の使用と関連した上記に特定された問題を克服すること、並びに当技術分野の既存のニーズを満足させること、すなわち最適化された治療効果、著しく改善された薬物動態のほか、一般的にはデコイ受容体及び生物製剤(バイオ医薬品)等のバイオ医薬品ポリペプチドの副作用の低下を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
故に、本発明は、第1の態様においてポリペプチド構築物を膜に付着させた治療的送達小胞に関し、ポリペプチド構築物は、送達小胞の外側に少なくとも部分的に存在する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体に融合した少なくとも1つの担体ポリペプチドを含み、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体はシグナル伝達不能である、すなわち通常の環境下で伝達するシグナルを伝達することができない。通常、デコイ受容体は、循環リガンド又は、標的細胞の内側及び/若しくは標的細胞の表面にも実際に存在し得るリガンドに結合し、これを隔離する。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、治療的送達小胞の表面に存在する治療的ポリペプチドデコイ受容体は、適切な送達小胞、例えばエキソソーム、微小胞、アポトーシス小体、リポソーム、又は任意の他のタイプの天然に由来する若しくは人工的に作製された小胞に付着することにより、半減期が著しく改善され、クリアランスが低下し、副作用が減少し、薬物動態、及び治療効果が全体に著しく増大されるものの、該受容体の相互作用パートナー、すなわち標的及び/又はリガンドを、遊離治療的ポリペプチドデコイ受容体と事実上同じ様式で隔離すると推測される。治療的送達小胞に存在する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は、シグナル伝達不能の治療的ポリペプチド受容体にするために、シグナル伝達ドメインが部分的に又は完全になくてもよく、シグナル伝達ドメインは担体ポリペプチドにより部分的に又は完全に置換されてもよいが、シグナル伝達に寄与する能力がないことは、ポリペプチド配列の変更にも由来してよい。例えば、本発明の様々な実施形態において、治療的ポリペプチド受容体をシグナル伝達不能にするのに特定のアミノ酸を置換することが十分となってもよく、及び/又は治療的ポリペプチド受容体は、細胞外小胞の表面に該ポリペプチド構築物全体を輸送する担体ポリペプチドに、(組換え技術を用いて)デコイ受容体を単に付着させてシグナル伝達不能にしてもよい。
【0010】
重要には、エキソソーム及び他のタイプの細胞由来小胞(本発明による送達小胞の考えられる供給源を成す)は、それ自体治療活性を有し得る。例えば、例えば間葉系幹細胞に由来するが細胞の細胞にも由来する小胞は、例えば細胞毒性T細胞を抑制し、制御性T細胞の増殖を引き起こすいくつかのmiRNA、タンパク質及び生物活性脂質を担持することから、本質的に免疫抑制性であることが知られている。免疫系に対する抑制効果は、組織損傷後に続いて起こる組織再生についても必須条件となる。故に、例えばエキソソーム及び/又は他のタイプの細胞外小胞の由来に関して細胞の適切な供給源を選択することは、受容体デコイ/モノクローナル抗体(エタネルセプト及びインフリキシマブ等)のみの使用と比較して、追加の治療的利点を提供するであろう。
【0011】
更なる態様において、本発明は、医療において使用するための、より詳細にはバイオ医薬品治療薬(生物製剤)を用いて治療され得る様々な疾患及び障害の治療、緩和、及び/又は予防において使用するための、本発明による小胞を含む治療的送達小胞及び医薬組成物に関する。
【0012】
故に、本発明は本質的に、バイオ医薬品、詳細にはポリペプチドベースの生物製剤、より詳細にはデコイ受容体(シンク受容体としても知られる)の送達又は投与ビヒクルとしての、エキソソーム及び他の小胞(特に細胞源及び/又は生物学的源に由来し得るが、或いはリポソーム等の人工的に作製された小胞にも由来し得る)の使用に関する。本発明は故に、本明細書に開示された多数の疾患及び障害の治療における、本明細書に定義された様々なポリペプチドを含むエキソソーム(及び他のタイプの小胞)の使用に関する。
【0013】
追加の態様において、本発明は、(i)適切な標的及び/又はリガンドに結合する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体(例えばシグナル伝達ドメインが部分的に又は完全にないことにより、好ましくはシグナル伝達不能である)をコードする、少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を提供する工程と、(ii)前記少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を、エキソソームを産生することができる細胞に導入する工程と、(iii)工程(ii)の細胞により産生された少なくとも1つの送達小胞を回収(採取)する工程とを一般的に含む、本発明の治療的送達小胞を作製する方法に関する。本発明はまた、前記方法により作製された送達小胞のほか、本発明によるキット、組成物、及び細胞培養培地に関連する様々な態様及び実施形態にも関する。
【0014】
更なる態様において、本発明は、(細胞外小胞の供給源である)細胞をオートファジー阻害剤に曝露する工程を含む、細胞外小胞(天然型であってもよい、すなわち治療的ポリペプチド構築物を完全に含まなくてもよい)の収量を増加する方法に関する。更なる態様において、本発明は、ストレス誘導条件(例えば酸素欠乏及び/又は血清飢餓)に細胞供給源を曝露して細胞外小胞の再生能力を向上させる方法に関する。ストレス誘導条件への小胞産生細胞の曝露は、代謝的に活性なタンパク質及び/又は抗アポトーシスタンパク質の富化をもたらし、これが再生効果の増大をもたらす。
【0015】
本発明は故に、例えばバイオ医薬品ポリペプチド剤の送達、投与、及び特性を改善するための、送達小胞、方法、組成物、及び使用、並びに様々な他の態様及び実施形態を提供する。本発明は、最適化された治療効果(例えば、治療的ポリペプチドデコイ受容体の多価性及びエキソソーム自体の固有の再生治療効果による)、著しく改善された薬物動態(例えば腎クリアランスの低下による)、脳等の特定の器官への改善された体内分布、並びにデコイ受容体及び他のタイプの生物製剤等のバイオ医薬品ポリペプチドの副作用の減少(例えば、直接的細胞保護を与えるためのレシピエント細胞との融合による)をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】マウス大腸炎モデルにおける、担体ポリペプチドCD63(配列番号14)に融合した、シグナル伝達不能の可溶性腫瘍壊死因子受容体1 (sTNFR1) (sTNFR 1A (配列番号30)又はsTNFR 1B (配列番号31)のどちらか1つであってもよい)から成るシグナル伝達不能の治療的ポリペプチドデコイ受容体を含むエキソソームの治療効果を示す図である。シグナル伝達不能のsTNFR1-CD63を示すエキソソームは、誘導された大腸炎(黒の実線)を軽微な初期の体重減少のみで成功裡に治療する。シグナル伝達能力のあるエキソソーム(グレーの破線)が、より多くのシグナル伝達受容体を細胞に送達することから明らかな抗治療効果を示すのに対し、模擬治療マウス(点線)は臨床的に意義のある効果を示さなかった。非修飾エキソソーム(すなわち、任意の人工的に導入されたポリペプチド構築物がないエキソソーム) (グレーの長い破線)も、おそらくはこの固有の抗炎症作用により中程度の大腸炎寛解を誘導した。
図2】エキソソーム表面における、図1の大腸炎治療に使用されたCD63-sTNFR1ポリペプチドの存在のウエスタンブロット確認を示す図である。
図3】TNFα媒介細胞毒性に対する図1のsTNFR1デコイエキソソームの中和活性を示す図である。シグナル伝達不能のsTNFR1-CD63を示すエキソソームは、良好なTNFα中和を用量依存的に示し(黒の実線)、シグナル伝達能力のあるsTNFR1-CD63含有エキソソームは、図1と同様に応答を悪化させている(グレーの破線)。非修飾エキソソーム(グレーの長い破線)もこの抗炎症特性により中程度の効果を示す。
図4】CD63に融合したシグナル伝達不能の可溶性血管内皮増殖因子受容体(sVEGFR) (配列番号17) (黒の実線)、又はシンデカンに融合したシグナル伝達不能のsVEGFR (配列番号23~26) (黒の破線)のどちらかを示すエキソソームの腫瘍阻害作用に関するグラフを示す図である。上記ポリペプチド構築物を含むエキソソームで治療されたマウスは治療後の腫瘍量がかなり低下したのに対し、シグナル伝達能力のあるsVEGFRポリペプチドを含むエキソソームによる治療は、対照と比較してやはり悪化した転帰を示した(グレーの破線)。
図5】担体タンパク質シンデカン(配列番号40~43) (黒の実線)、又はシナプトタグミン(配列番号27) (グレーの長い破線)のどちらかに融合した治療的デコイポリペプチド受容体アクチビンを含むエキソソームのMDXマウスにおける治療効果を示す図である。上記治療的送達エキソソームによる週2回の治療は、非修飾エキソソームによる治療及び模擬治療よりかなり大幅な体重増加をもたらした。
図6】本発明による様々なポリペプチド構築物のアミノ酸配列を示す図である。Hisタグ(精製促進のための)を含む構築物もあれば、EGFP(検出を促進するための)を含む構築物もあるが、構築物は当然ながら、前記追加の部分/配列あり及びなしの両方で適用することができる。
図7】従来の超遠心分離(UC)プロセスにより得られた同じエキソソーム(バツ印のついた黒の実線)と比べた、限外濾過液体クロマトグラフィー(UF-LC)精製により得られたエキソソーム(担体ポリペプチドCD63に融合した可溶性腫瘍壊死因子受容体1 (sTNFR1)を含む治療的ポリペプチドを含む) (黒の実線)を用いた場合に見られる治療効果の増加を図示する図である。治療効果の増加は、UF-LCにより得られたエキソソームの生物物理学的安定性の向上による可能性が最も高く、これが今度は肺組織への蓄積の低下をもたらす。
図8】エキソソーム収量の増加をもたらすオートファジーの阻害を示す図である。グラフは、左から右に、培養培地のみ(ベースライン対照として)、増殖因子補充培地(例えばIGF-1を補充された)、オートファジー阻害剤(3-メチルアデニン及びバフィロマイシン)を含む培地、又はオートファジー活性剤(ラパマイシン)を含む培地で処理された細胞を示す。オートファジー阻害剤による処理は、エキソソーム収量の強い増加をもたらし、本発明によるエキソソームの作製に利用することができる。
図9】いかに、IL6 (配列番号1~2)、IL-1β(配列番号3~5)及びTNFα(黒の実線、並びに丸、四角及び菱形のついた黒の実線)のシグナル伝達不能の治療的デコイ受容体の提示を含むエキソソームで治療されたEAEマウスが、模擬治療対照(点線)と比べて非常に穏やかな疾患徴候を示すか、一方でシグナル伝達能力のある(TNFR1シグナル伝達能力のある)エキソソーム治療マウスが実際に疾患の悪化を示すか(グレーの破線)を示す図である。
図10】GOターム(GOターム:翻訳、代謝プロセス、解糖及びリボソームタンパク質)による、抗アポトーシスタンパク質及び代謝的に活性なタンパク質の富化に対するストレス誘導条件の効果を図示する図である。通常の条件下で培養された細胞と比較して、ストレス誘導条件(例えば血清飢餓及び/又は酸素欠乏)下で培養された細胞から得ることができるエキソソームは、生存及び代謝プロセスのためのタンパク質に富み、再生医療適用に有益である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、とりわけ、第1の態様において、ポリペプチド構築物を膜に付着させた治療的送達小胞に関し、ポリペプチド構築物は、送達小胞の外側に少なくとも部分的に存在する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体に融合した少なくとも1つの担体ポリペプチドを含み、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は、循環リガンドに結合する。更なる態様において、本発明は、医療において使用するための本発明による送達小胞及び医薬組成物に関し、並びに送達小胞、キット、組成物、及び細胞培養培地を作製する方法に関する。
【0018】
本発明の特徴、実施形態、又は態様がマーカッシュ群に関して記載されている場合、当業者は、本発明が、これによりマーカッシュ群の任意の個々のメンバー又はメンバー下位群に関しても記載されていることを理解するであろう。当業者は、本発明がまた、これによりマーカッシュ群の個々のメンバー又はメンバー下位群の任意の組合せに関しても記載されていることを更に認識するであろう。更に、本発明の態様及び/又は実施形態の1つとの関連で記載された実施形態及び特徴も、本発明の全ての他の態様及び/又は実施形態を準用することが留意されるべきである。例えば、治療的送達小胞との関連で記載された少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は、送達小胞を作製する方法の関連でも、又は医薬組成物の関連でも、又は本発明によるポリペプチド及び/若しくはポリヌクレオチド構築物の関連でも、潜在的に関連している/適用できる/存在すると理解されるべきでる。更に、特定の態様との関連で記載された特定の実施形態、例えば、特定の医学的適応症の治療に関する態様との関連で記載された治療的送達小胞の投与経路は、本発明の医薬組成物に関する態様/実施形態等の他の態様及び/又は実施形態との関連でも当然関連し得る。一般的に言えば、本発明による治療的ポリペプチドデコイ受容体及び担体ポリペプチドは、本発明の範囲及び主旨から逸脱することなく、ありとあらゆる可能性のある組合せで自由に組み合わせることができ、任意の担体ポリペプチドが治療的ポリペプチドデコイ受容体を細胞外小胞の表面に運ぶ能力を保持する限り、及び任意の治療的ポリペプチドデコイ受容体が治療的に有効な様式で標的に結合する能力を保持する限り、配列はオリジナルの配列から強く逸脱してもよい。生物学的特性が保持される限り、ポリペプチド配列は、天然のポリペプチドと比較して50%(例えばBLAST又はClustalWを用いて計算)も逸脱することができるが、できる限り高い配列同一性が好ましい。担体及びデコイ受容体ポリペプチドの組合せ(融合)は、それぞれのポリペプチドの特定のセグメントが置換及び/又は修飾され得ることを含意し、主な特性が保存される限り、天然の配列からの逸脱が大きくなり得ることを意味する。
【0019】
便宜及び明確さのために、本明細書に使用されている特定の用語が集められ、以下に記載される。特に定義されない限り、本明細書で使用されている全ての専門用語及び科学的用語は、本発明が属する当技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0020】
用語「治療的送達小胞」、互換的に呼ばれる「送達小胞」は、例えば細胞から得ることができる任意のタイプの小胞、例えば微小胞(細胞の細胞膜から放たれる任意の小胞)、エキソソーム(リソソーム内経路に由来する任意の小胞)、アポトーシス小体(アポトーシス細胞由来)、微粒子(例えば血小板に由来し得る)、エクトソーム(ectosome)(例えば血清中の好中球及び単球から誘導することができる)、プロスタトソーム(prostatosome)(前立腺癌細胞から得ることができる)、カルディオソーム(cardiosomes)(心臓細胞から誘導することができる)等に関連すると理解されるものとする。更に、用語「治療的送達小胞」及び「送達小胞」はまた、LDL、VLDL、HDL及びカイロミクロン等のリポタンパク質粒子、並びにリポソーム、脂質様粒子、リピドイド(lipidoids)等にも潜在的に関連すると理解されるものとする。本質的に、本発明は、治療薬ポリペプチド構築物の送達又は輸送ビヒクルとして作用することができる任意のタイプの脂質ベース構造(小胞状の又は任意の他のタイプの適切な形態を有する)に関連し得る。
【0021】
用語「膜に付着した」は、生物学的ポリペプチドが通常どのように小胞膜に付着するか、すなわち大部分は非共有相互作用を介して付着するが、共有結合を介して付着する可能性もあるという意味での付着と理解されるものとする。膜への付着は、小胞内側、小胞膜中、小胞の外側、又はこれらの任意の組合せの付着を含み得る。小胞の膜に「付着」しているポリペプチドの典型的な例は、エキソソーム内空間からエキソソーム膜を通ってエキソソーム外環境へとエキソソームの二重層小胞膜に広がる膜貫通ポリペプチドである。
【0022】
用語「ポリペプチド構築物」(又は互換的に「治療的ポリペプチド構築物」)は、本明細書に定義された「担体ポリペプチド」及び本明細書に定義された「治療的ポリペプチドデコイ受容体」を含む任意のポリペプチドに関すると理解されるものとする。ポリペプチド構築物は、好ましくは膜貫通様式(すなわち、ポリペプチド構築物が送達小胞の内側から送達小胞膜を通って送達小胞の外側に伸びた状態)で、本発明による送達小胞の膜に付着することができる。治療的ポリペプチドデコイ受容体が膜貫通コンフィギュレーションを有している場合、担体ポリペプチドが送達小胞の内側に実質的に存在するのに対し、治療的ポリペプチドデコイ受容体が少なくとも部分的に送達小胞の外側にあるならば、治療効果を発揮できるのに好ましい場合がある。
【0023】
用語「シグナル伝達不能の(signalling-incompetent)」は、生化学的シグナルを伝達することができない、すなわちシグナル伝達不能ポリペプチドは、この細胞外相互作用パートナーを単に結合するが、結合時にシグナル(すなわち細胞内、小胞内、又は細胞外の)が生成又は伝達されていないと理解されるものとする。例えば、可溶性TNFR(sTNFR)の場合、たとえ免疫細胞に移動されても、シグナル伝達不能TNFRは重要なシグナル伝達成分を欠くことから、生物学的応答を発揮することができない。同様に、EGFRの模倣体(配列番号18)は膜貫通ドメインを欠き得、例えばレシピエント細胞への移動の場合、これがレシピエント細胞膜への挿入を妨げ、これにより生物学的シグナルを伝達することができない。臨床状況において重要には、TNFrの場合、レシピエント細胞へのシグナル伝達不能受容体の移動は別の保護層を提供する。その理由は、該受容体が次いで、リガンド結合をめぐる競合により過剰なTNFシグナル伝達から細胞を直接保護するためである。明確にするために、治療的ポリペプチドデコイ受容体及び/又はポリペプチド構築物全体は両方とも、シグナル伝達不能であってもよい。例えば、治療的ポリペプチドデコイ受容体は、例えば部位特異的変異によりシグナル伝達不能にされ得るが、シグナル伝達能力のある治療的ポリペプチド受容体は、担体ポリペプチドによる該受容体のシグナル伝達ドメインの置換及び/又はシグナル伝達ドメインへの付着により、シグナル伝達不能にされ得る。
【0024】
用語「担体ポリペプチド」は、ポリペプチド構築物を適切な小胞の位置に輸送するのに利用され得る任意のポリペプチドに関すると理解されるものとする。より詳細には、用語「担体ポリペプチド」は、ポリペプチド構築物(前記「担体ポリペプチド」が一部を形成する)を、少なくとも部分的には本発明による送達小胞の小胞膜に、少なくとも部分的には本発明による送達小胞の小胞外側(例えば表面)に輸送又はシャトリングできるようにする任意のポリペプチドを含むと理解されるものとする。担体ポリペプチドの例は、例えばLamp2b (配列番号22)、CD9 (配列番号12)、CD81 (配列番号13)、CD63、シンデカン、ALIX (配列番号28)、シンテニン(配列番号29)、及びシナプトタグミンであるが、ポリペプチド構築物を送達小胞の小胞外側に少なくとも部分的に輸送することができる多数の他のポリペプチドが、本発明の範囲内に含まれる。
【0025】
用語「治療的ポリペプチドデコイ受容体」、「ポリペプチドデコイ受容体」、及び「デコイ受容体」は、本明細書で互換的に使用され、適切な標的及び/又はリガンド(通常は循環リガンド、又はそれ自体が循環している細胞上に存在するリガンドであるが、潜在的には標的細胞の表面及び/又は内側の任意のリガンド)を隔離(結合)し、これにより治療効果を発揮して治療目的に利用され得る任意のポリペプチド(しばしばデコイ、又はシンク受容体と呼ばれる)に関すると理解されるものとする。デコイ受容体は、この標的に結合及び/又はこの標的を隔離し、治療される疾患及び/又は障害に寄与し得る機能を標的が果たすのを本質的に阻害する。本発明による特定の治療的ポリペプチドデコイ受容体を例示するために、主な受容体クラスのシグナル伝達プロセスが以下に幾分詳細に記載されている。しかし、上述の通り、本発明のデコイ受容体は、治療効果及び安全性を確保するために好ましくはシグナル伝達不能である。
【0026】
本発明に関連して用語「リガンド」及び「標的」は、本発明による治療的ポリペプチドデコイ受容体により、(通常は高い親和性、例えば100μM未満だが好ましくは1μMより低い、又はより好ましくは100nMより低い、又は更により好ましくは100nMより低いKdで)結合される任意の分子を含むと理解されるものとする。リガンド(例えば細胞の表面に存在する、任意のポリペプチド若しくは炭水化物/多糖類又は本質的に任意の分子であってもよい)は通常、血液中又は任意の他の体液中を自由に循環している(TNFαは、TNFα受容体のこのような自由に循環するポリペプチドリガンドの例である)が、リガンドはまた、体液、例えば血液中を循環する細胞及び/又は細胞の内側に存在するポリペプチド又は任意の他のタイプの分子であってもよい。細胞結合標的の例は、循環B細胞に存在し、及び市販のリツキシマブ等の治療的ポリペプチド受容体により結合され得るCD19であってもよい。用語「リガンド」は故に、ポリペプチド分子及び非ポリペプチド分子の両方(例えば炭水化物又は任意の他のタイプの分子)を含むと理解されるものとする。
【0027】
句「リガンド/標的に結合する」は、ヒト及び/又は動物の身体においてリガンド及び/又は標的に結合する能力を有する治療的ポリペプチドデコイ受容体と理解されるものとし、リガンド/標的が通常の生理的機能を果たすのを阻害して治療効果を発揮するように、デコイ受容体がこのリガンドに結合及び隔離し得ることを意味する。リガンド/標的は通常、血流を循環し、又は標的細胞の表面に存在することにより細胞外環境に曝露される。
【0028】
シグナル伝達は通常、細胞外リガンドが細胞表面受容体に結合し、これを活性化する時にインビボで生じる。同様に受容体は、細胞内タンパク質/分子を変化させ、シグナル伝達経路を開始する。2つの主な受容体群、すなわち細胞外受容体及び細胞内受容体がある。細胞外受容体は、異なるクラスに更に分類することができる:
1. Gタンパク質共役(7-TM)受容体
2. チロシン及びヒスチジンキナーゼ
3. インテグリン
4. Tollゲート受容体
5.リガンド依存性イオンチャネル
【0029】
7-TM受容体は7回膜貫通領域を有し、ヘテロ三量体Gタンパク質に連結される。リガンドが結合すると、受容体はコンフォメーション変化を受け、Gタンパク質が活性になる。活性化されたGタンパク質サブユニットは受容体から切り離され、ホスホリパーゼ及びイオンチャネル等の多くの下流エフェクタータンパク質を介してシグナル伝達を開始する。アドレナリン受容体及びケモカイン受容体は、このファミリーに属する。7-TM受容体は、Gタンパク質に対する結合部位を除去してシグナル伝達不能にすることができる。例えば、Gタンパク質の細胞内結合部位をシンデカンのシンテニン結合部位と置換すると、シグナル伝達不能受容体をエキソソームへ移動させることになる。
【0030】
チロシンキナーゼ受容体(RTK)は、細胞内キナーゼドメイン及び細胞外リガンド結合ドメインを有する膜貫通タンパク質である。リガンドの例は、増殖因子、インスリン等である。シグナルを誘導するために、RTKは細胞膜で二量体を形成する必要がある。二量体が形成されると、細胞内ドメイン間の相互作用はチロシン残基の自己リン酸化を開始し、受容体にコンフォメーション変化をもたらす。受容体のキナーゼドメインはこの後に活性化され、シグナル伝達カスケードを引き起こす下流のシグナル伝達分子をリン酸化する。
【0031】
チロシン受容体は、キナーゼドメイン又はチロシンドメインを除去し又は変異させてシグナル伝達不能にすることができる。これは、7-TM受容体と類似した方法で行うことができる。更に、チロシン受容体の細胞外ドメインは、CD63、Lamp2b等のエキソソームタンパク質と融合し得る。
【0032】
インテグリンは、他の細胞及び細胞外マトリックスへの細胞接着に重要な膜貫通タンパク質である。インテグリンはまた、フィブロネクチン及びコラーゲン等の細胞外マトリックスタンパク質からのシグナルの伝達にも関与する。インテグリンは、リガンドが結合するとコンフォメーションを変化させる。インテグリンはキナーゼドメインを欠き、これは、インテグリンがシグナルを細胞に中継するにはアダプター分子を必要とすることを意味する。いくつかのアダプター分子及びインテグリン結合キナーゼがある。インテグリンは2つの異なるコンフォメーション、すなわち不活性型及び活性型で存在することができる。不活性型は非活性化白血球で多く見られ、白血球が活性化されると、該細胞はこのインテグリンを活性状態に変化させる。インテグリンは、アダプター分子がなければシグナル伝達不能であり、そのため受容体シグナル伝達不能にするのにアダプター分子及びキナーゼの結合部位が除去され得る。
【0033】
Toll様受容体は、リガンドが結合すると活性化される4つの既知のアダプター分子を有する。この4つのアダプター分子、Myd88、TIRAP、TRIF、及びTRAMは、この後に細胞内分子を活性化し、Toll様受容体は、活性化されると数千の遺伝子を阻害又は活性化する。Toll様受容体は、アダプター分子の結合部位及び/又は相互作用部位のどちらかの除去によりシグナル伝達不能にすることができる。
【0034】
本出願で言及された様々なポリペプチド(例えば、Lamp2b又はCD63等の担体ポリペプチド、及びsTNFR又はVEGFR等の治療的ポリペプチドデコイ受容体等)は、好ましくは50%を超える、より好ましくは60%を超える、より好ましくは70%を超える、より好ましくは80%を超える、及びより好ましくは90%を超える当該ポリペプチドとの配列同一性を有する相同なポリペプチドにも関すると理解されるものとする。
【0035】
第1の態様において、本発明は、ポリペプチド構築物を膜に付着させた治療的送達小胞に関し、ポリペプチド構築物は、送達小胞の外側に少なくとも部分的に存在する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体に融合した少なくとも1つの担体ポリペプチドを含み、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は、シグナル伝達不能であり、任意のシグナルを生成及び/又は伝達することなく標的分子の結合及び隔離を可能にする。好ましい実施形態において、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は循環リガンドに結合するが、標的細胞に存在する標的分子にも当然ながら結合し得る。治療的ポリペプチド構築物は、担体ポリペプチドに融合した、シグナル伝達不能の(或いはいくつかの実施形態においてはシグナル伝達能力のある)少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体(互換的に「デコイ受容体」と呼ばれるが、前記治療的ポリペプチドデコイ受容体は、デコイ受容体それ自体に必ずしも分類されない治療的ポリペプチドにも関し得る)を含み得る。当然ながら、1つの送達小胞が1つを超えるポリペプチド構築物(すなわち複数の構築物が単一のエキソソームに存在する)、及び1つを超えるタイプのポリペプチド構築物(例えば、単一のエキソソームが、複数の(1)デコイ受容体としてのVEGF受容体、及びLamp2b等の担体ポリペプチドを含む構築物、並びに(2)デコイ受容体としてのEGF受容体、及び担体ポリペプチドCD63を含む構築物を含み得る)を含んでもよい。本発明者らは、細胞外小胞(エキソソーム等の)を治療的ポリペプチドデコイ受容体(例えばバイオ医薬品)の送達ビヒクルとして用いると、薬物動態の増大をもたらすだけでなく、おそらくはエキソソーム及び他の小胞それ自体により発揮される再生効果の結果として、治療的ポリペプチドデコイ受容体の有効性も予想外に向上させることに思いがけず気づいた。更に、細胞外小胞を治療的ポリペプチドの送達ベクターとして使用することが、古典的な生物製剤と比較して産生を促進するだけでなく、各送達小胞がかなり複数の治療構築物を含む可能性がある(同様に、複数の治療的ポリペプチドデコイ受容体を含む可能性がある)という事実も、治療効果を増大し治療転帰を改善する受容体の多価性をもたらす可能性がある。
【0036】
好ましい実施形態において、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は、これをシグナル伝達不能にするために、シグナル伝達ドメインが部分的に又は完全になくてもよい。これは、治療的ポリペプチドデコイ受容体からの任意のシグナル伝達をブロックするために、シグナル伝達ドメインをコードするポリヌクレオチドの切断若しくは変異により、又は前記ポリヌクレオチドの完全な除去により達成することができる。更なる実施形態において、治療的ポリペプチドデコイ受容体のシグナル伝達ドメインは、ポリペプチド構築物のサイズをできる限り最小化するために、担体ポリペプチドにより部分的に又は完全に置換されてもよい。
【0037】
本発明者らは、さもなければ治療効果に悪影響を与え得るシグナルの生成を回避するには、シグナル伝達不能の治療的ポリペプチドデコイ受容体を利用することが、驚くべきことに、いくつかの例において好ましいことに気づいた。
【0038】
本発明による1つの実施形態において、担体ポリペプチドは、一部分は治療的送達小胞の内側、及び/又は一部分は治療的送達小胞膜中、及び/又は一部分は治療的送達小胞の外側に位置してもよい。好ましい実施形態において、担体ポリペプチドは、送達小胞の内側又はこの膜中に実質的に存在するのに対し、治療的ポリペプチドデコイ受容体は、この治療効果を発揮できるように少なくとも部分的に送達小胞の外側に存在する。故に、ポリペプチド構築物は、好ましくは、担体ポリペプチドが小胞膜の内側又は小胞膜中に実質的に存在し、及び治療的ポリペプチドデコイ受容体が送達小胞の外側に実質的に存在する(並びに、担体ポリペプチド及び/又は治療的ポリペプチドデコイ受容体のどちらかが送達小胞の膜を通って伸びている)膜貫通型(すなわち膜貫通ポリペプチド構築物)で存在してもよい。1つの実施形態において、治療的送達小胞の表面(外側)での治療的ポリペプチドデコイ受容体の発現を改善するために、1つを超える担体ポリペプチドが使用されてもよい。
【0039】
膜における担体ポリペプチドの位置は、適用及び当該治療的ポリペプチドに応じて異なり得る。第1に考慮することは、治療的ポリペプチドデコイ受容体が相互作用パートナー、通常は循環リガンド(通常は細胞外の、例えば血液中若しくは任意の他の体液中、又は循環標的細胞に存在する)と相互作用できることである。更なる実施形態において、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は、ペプチド(アミド)結合、チオエーテル結合、ジスルフィド架橋、及びビオチン-ストレプトアビジン相互作用を含む群から選択される化学結合を介して、担体ポリペプチドに融合していてもよい。ペプチド(アミド)結合の形成は、当然ながら、組換え技術により(すなわち、適切な送達小胞を産生できる細胞における適切なポリヌクレオチドの発現により)達成することができるが、このような結合は、当技術分野で一般的に使用される様々なコンジュゲーション戦略、例えばEDC/NHS媒介コンジュゲーション、スルホ-NHSコンジュゲーション、又は任意の他のタイプのアミド(ペプチド)コンジュゲーションアプローチを用いて生成することもできる。しかし、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体及び少なくとも1つの担体ポリペプチドを結合するための他の方法は、治療的ポリペプチドデコイ受容体及び担体ポリペプチドを結合するのに、例えば2つのシステイン残基間のジスルフィド架橋の形成、又はビオチンとストレプトアビジンの天然の相互作用の利用を含む可能性がある。融合構築物及び化学結合形成を用いる代わりの選択肢は、治療的ポリペプチドデコイ受容体上に脂質タグを置き、単純な脂質挿入により治療的ポリペプチドデコイ受容体で送達小胞の表面を非共有的に被覆することである。
【0040】
このような脂質タグには、コレステリル、ステアリル、ジステアリル、ミリストイル、パルミトイル、デカノイル、及び当業者に公知の他の適切な脂質が含まれ得る。
【0041】
担体ポリペプチドは、Lamp2b、CD63、シンデカン、シナプトタグミン、ALIX (CHAMP 4)ドメイン、ALIX-シンテニン結合ドメイン、ESCRTタンパク質、PDGF、シンテニン-PDZ、P6及びP9ドメイン、CD81、CD9、並びにこれらの任意の組合せを含む群から選択することができる。この場合もやはり、適切な担体ポリペプチドの選択の陰で第1に考慮することは、治療的ポリペプチドデコイ受容体を適切な小胞の位置(通常はこの表面、又は少なくとも、治療的ポリペプチドデコイ受容体がリガンド、すなわちこの相互作用パートナーと相互作用し、これに結合して治療効果を発揮できるようにする治療的送達小胞膜の部分に)に効率的に運ぶ能力に関連する。更に、本発明により、担体ポリペプチドは、シンデカンの細胞質部分を含むことができる。シンデカンの細胞質部分は、シンテニン-ALIX複合体を結合するPDZ結合ドメインを有し、シンテニン-ALIX複合体は、この後に細胞外小胞及び/又はエキソソームを形成する(PDZドメインはしたがって、本質的に受容体を細胞外小胞に導くことになる)。
【0042】
本発明による少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体は、例えば、以下の受容体ファミリー:インスリン、PDGF (配列番号15~16)、FGF (配列番号36~39)、EGF、NGF (配列番号32)、VEGF、HGF、TRK、EPH、AXL、LTK、TIE、ROR、DDR、RET、KLG、RYK、MuSK、I型及びII型TGF (配列番号33~35)、アクチビン、並びにTNF、PTCH1 (配列番号44)、インターロイキン(IL) 1、6、12、17、23他(配列番号1~11)、アンジオポエチン、HER、上記受容体のファージディスプレイペプチド結合リガンド(及びおそらくは、アロステリック障害により結合空間を占拠するための、受容体に対するファージディスプレイも)、7-TM受容体、インテグリン、セレクチン(例えばセレクチンE、P、及びL (配列番号19~21)、インテグリン/セレクチン膜結合抗体のリガンド、T細胞受容体、NK細胞受容体、Toll様受容体、PAMP等からの受容体を含む群から選択することができる。
【0043】
また、VEGF及びアンジオポエチン(DAAP)の両方等のいくつかのリガンドを結合する改変受容体は本発明によるものであり、更に全ての上述の受容体ファミリー及び特異的受容体は本発明によるものである。更に本発明によれば、治療的送達小胞に付着したポリペプチド構築物は、例えば治療効果、又は送達小胞膜(又はこの表面)への治療的ポリペプチドデコイ受容体の輸送を最適化するために、1つを超える治療的ポリペプチドデコイ受容体、及び同様に1つを超える担体ポリペプチドを含むことができる。
【0044】
本発明によるポリペプチド構築物はその結果として、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体及び少なくとも1つの担体ポリペプチドの任意の組合せから形成することができる。例示的な実施形態は、例えば、(i) CD63(配列番号14)、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、TNFファミリー(例えばTNFR1)由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(ii) CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、VEGFファミリー(例えばVEGFR)由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(iii) CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、FGFファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(iv) CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、EGFファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(v)例えばCD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミンから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、アクチビンファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(vi)例えばCD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、インターロイキン受容体ファミリー(例えばIL6R (配列番号1)又はIL12Rベータ1 (配列番号4)又は1型IL1R (配列番号3))由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を含む。
【0045】
本発明の別の有利な実施形態において、適切な担体ポリペプチド(CD63、Lamp2b、CD9、CD81、シナプトタグミン、又はシンデカン等の)がPTCH1に融合し、様々な癌に関与する重要なシグナル伝達分子であるソニックヘッジホッグ(SHH)を隔離することができるポリペプチド構築物をもたらす。本発明者らは、PTCH1及びPTCH1の特異的に選択されたSHH結合ドメインに結合された様々な担体ポリペプチドを含むエキソソームで治療されたマウスにおいて、腫瘍量の減少を実験的に認めた。例えば、図4に報告されている実験設定において、担体ポリペプチドとしてのCD63又はLamp2b、及び治療的ポリペプチドデコイ受容体としてのPTCH1を含むポリペプチド構築物を含むエキソソームは、当該グラフに示されているシンデカン-VEGFR構築物と類似した抗腫瘍有効性を示した。
【0046】
追加の実施形態において、本発明による治療的送達小胞は更に、存在する少なくとも1つの標的化実体を含んでもよい。前記標的実体は通常、目的とする組織、細胞タイプ又は器官に対する該小胞の標的化を可能にするために、例えば、治療効果ができる限り高い必要がある部位で送達小胞の濃度を局所的に増加させるために、送達小胞の外側に少なくとも部分的に存在する。標的化実体は、ペプチド又はポリペプチド(例えば抗体又は抗体断片)であってもよいが、同様に小分子(ビタミン等の)、炭水化物、核酸(アプタマー等の)、又は治療的送達小胞に標的化特性を付与することができる任意の他のタイプの分子であってもよい。
【0047】
更に本発明によれば、治療的送達小胞は、エキソソーム、微小胞、アポトーシス小体、微粒子、エクトソーム、プロスタトソーム、カルディオソーム、リポソーム、脂質様物質又は構造、リピドイド、VLDL粒子、LDL粒子、HDL粒子、カイロミクロン等を含む群から選択することができる。
【0048】
一般的に、本発明は、医療において使用するための本発明による送達小胞に関し、より詳細には本発明は、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、特発性肺線維症、乾癬、腫瘍壊死因子(TNF)受容体関連周期性症候群(TRAPS)、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト欠損症(DIRA)、子宮内膜症、自己免疫性肝炎、強皮症、筋炎、脳卒中、急性脊髄損傷、血管炎、ギラン-バレー症候群、急性心筋梗塞、ARDS、敗血症、髄膜炎、脳炎、肝不全、腎不全、移植片対宿主病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー及び他の筋肉疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ALSを含む神経変性疾患、癌誘導性悪液質、食欲不審、2型糖尿病、及び癌(例えばEGF、VEGF、FGFに感受性の癌)を含む群から選択される疾患及び障害の予防及び/又は緩和及び/又は治療における使用に関する。本発明に適切ないくつかの癌タイプは、例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、AIDS関連癌、AIDS関連リンパ腫、肛門癌、虫垂癌、星状細胞腫(小脳又は大脳)、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨腫瘍、脳幹神経膠腫、脳癌、脳腫瘍(小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、上衣腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉腫瘍、視経路及び視床下部神経膠腫)、乳癌、気管支腺腫/カルチノイド、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍(小児、消化管)、原発不明癌、中枢神経系リンパ腫、小脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性障害、結腸癌、皮膚T細胞性リンパ腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、子宮内膜癌、上衣腫、食道癌、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、眼癌(眼内黒色腫、網膜芽細胞腫)、胆嚢癌、胃(Gastric) (胃(Stomach))癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍(頭蓋外、性腺外、又は卵巣)、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫(大脳の神経膠腫、大脳星状細胞腫、視経路及び視床下部神経膠腫)、胃カルチノイド、ヘアリー細胞白血病、頭頸部癌、心臓癌、肝細胞(肝臓)癌、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、眼内黒色腫、膵島細胞癌(膵臓内分泌部)、カポジ肉腫、腎臓癌(腎細胞癌)、咽頭癌(laryng
eal cancer)、白血病((急性リンパ芽球性(急性リンパ球性白血病とも呼ばれる)、急性骨髄性(急性骨髄性白血病とも呼ばれる)、慢性リンパ球性(慢性リンパ球性白血病とも呼ばれる)、慢性骨髄性(慢性骨髄性白血病とも呼ばれる)、ヘアリー細胞白血病))、口唇、口腔、腔癌、脂肪肉腫、肝臓癌(原発性)、肺癌(非小細胞、小細胞)、リンパ腫((AIDS関連リンパ腫、バーキットリンパ腫、皮膚T細胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキン(ホジキンを除く全てのリンパ腫の古い分類)リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫))、髄芽腫、メルケル細胞癌、中皮腫、原発不明の転移性頸部扁平上皮癌、口腔癌(mouth cancer)、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫、菌状息肉腫、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性白血病(myelogenous leukemia)、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia)(急性、慢性)、骨髄腫、鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、口腔癌(oral cancer)、口腔咽頭癌、骨肉腫/骨の線維性組織球腫、卵巣癌、卵巣上皮癌(表面上皮-間質性腫瘍)、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、膵島細胞癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌(pharyngeal cancer)、褐色細胞腫、松果体星細胞腫、松果体胚細胞腫、松果体芽細胞腫及びテント上原始神経外胚葉腫瘍、下垂体腺腫、胸膜肺芽腫、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌(腎臓癌)、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫(ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、カポジ肉腫、軟部組織肉腫、子宮肉腫)、セザリー症候群、皮膚癌(非黒色腫、黒色腫)、小腸癌、扁平上皮癌、頸部扁平上皮癌、胃癌、テント上原始神経外胚葉腫瘍、精巣癌、咽頭癌(throat cancer)、胸腺腫及び胸腺癌、甲状腺癌、腎盂及び尿管の移行細胞癌、尿道癌、子宮癌、子宮肉腫、膣癌、外陰癌、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、並びに/又はウィルムス腫瘍(腎臓癌)を含む。
【0049】
更に、本発明は、通常は少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤と共に製剤化される、本発明による治療的送達小胞を含む医薬組成物に関する。少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤は、例えば治療的送達小胞の懸濁、治療的送達小胞の活性の維持、又は1つの器官若しくは身体の部分から、別の器官若しくは別の器官へ(例えば血液から目的とする任意の組織及び/又は器官及び/又は身体部分へ)の治療的送達小胞の運搬若しくは輸送に関与し得る、任意の薬学的に許容可能な材料、組成物又はビヒクル、例えば固体若しくは液体充填剤、希釈剤、賦形剤、担体、溶媒、又は封入材料を含む群から選択することができる。
【0050】
本発明は、ポリペプチド構築物あり又はなしの送達小胞の化粧品用途にも関する。故に、本発明の実施形態は、乾燥肌、皺(wrinkle)、皺(fold)、皺(ridge)、及び/又は皮膚の皺(crease)等の症状及び問題を改善及び/又は緩和するために送達小胞を含む、クリーム、ローション、ゲル、エマルジョン、軟膏、ペースト、粉末、塗布剤、日焼け止め、シャンプー等のスキンケア製品に関してもよい。送達小胞は、ポリペプチド構築物が存在することなく有益な効果を示すことができるが、適切なポリペプチド構築物の存在は、化粧品効果を更に増大することができる。1つの実施形態において、本発明による送達小胞は、治療的ポリペプチドデコイ受容体としてボツリヌス毒素(例えばボトックス、例えばA~G型ボツリヌス毒素)を含んでもよい(ボツリヌス毒素は、必ずしも化粧品用途にのみ使用され得るものではなく、例えば偏頭痛及びジストニアの治療にも適用され得る)。好ましい実施形態において、適切なエキソソーム産生細胞由来のエキソソームが、皺(wrinkle)、皺(line)、皺(fold)、皺(ridge)及び/又は皮膚の皺(crease)の治療において使用するために(通常は化粧品用途である)化粧用クリーム、ローション、又はゲルに含まれる。
【0051】
更なる実施形態において、本発明によるエキソソームは治療的ポリペプチド構築物を含んでもよいが、任意の人工的に導入された治療的ポリペプチド構築物がなくてもよく、又は例えば美容能力を単に有するポリペプチド構築物を含有してもよい。治療的ポリペプチド構築物がない細胞外小胞、及び治療的ポリペプチド構築物を含む細胞外小胞は両方とも、創傷治癒及び皮膚の再生を増大し得る抗炎症、抗アポトーシス及び細胞増殖作用を媒介することができる。(i)任意の治療的ポリペプチド構築物なしのエキソソーム、及び(ii)(担体ポリペプチドとしてCD63又はLamp2bのどちらかと共に)VEGFR1治療的ポリペプチド構築物を含むエキソソームを用いて実施された実験は、両方の戦略が、例えば毛細血管拡張(皮膚近くに位置する小さな拡張した血管)の緩和に強い化粧品効力を示すことを示している。治療的ポリペプチドがないエキソソームもまた、乾燥肌、皺、皮疹等の美容問題を緩和することが示され、更に、例えばTNFR含有治療的ポリペプチドを含むエキソソームは、皮疹、落屑、並びに潜在的には乾癬及び乾癬関連問題の治療において極めて効力がある。
【0052】
更なる実施形態において、本発明による送達小胞は、コラーゲン、ラミニン(例えばラミニン111、211、511及び/又は521)、及び/又は細胞透過性ペプチド(CPP)等の治療的ポリペプチドデコイ受容体を含んでもよい。
【0053】
場合により、皮膚の構造的完全性の維持に関連した効果を更に高めるために、グリコサミノグリカン(GAG)及び/又は他のタイプの炭水化物が送達小胞に含まれてもよい。
【0054】
本発明による1つの態様において、ポリペプチド構築物は、実質的に任意の担体ポリペプチドに融合した、循環リガンドに結合することができる実質的に任意の治療的ポリペプチドデコイ受容体を含むポリペプチド構築物を含んでもよい。
【0055】
本発明による医薬組成物は当然ながら、医療における使用、詳細には、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、特発性肺線維症、乾癬、腫瘍壊死因子(TNF)受容体関連周期性症候群(TRAPS)、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト欠損症(DIRA)、子宮内膜症、自己免疫性肝炎、強皮症、筋炎、脳卒中、急性脊髄損傷、血管炎、ギラン-バレー症候群、急性心筋梗塞、ARDS、敗血症、髄膜炎、脳炎、肝不全、腎不全、移植片対宿主病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー及び他の筋肉疾患、癌誘導性悪液質、食欲不審、2型糖尿病、及び癌(例えばEGF、VEGF、FGFに感受性の癌)を含む群から選択される疾患及び障害の予防及び/又は緩和及び/又は治療における使用に適している。
【0056】
本発明による治療的送達小胞は、様々な種々の経路、例えば耳介、頬側、結膜、皮膚、歯科、電気浸透、頸管内、洞内、気管内、腸内、硬膜外(epidural)、羊膜外、体外、血液透析、浸透、間質、腹腔内(intra-abdominal)、羊膜内、動脈内、関節内、胆管内、気管支内、嚢内、心臓内、軟骨内、仙骨内、空洞内、腔内、大脳内、槽内、角膜内、歯冠内(歯科)、冠動脈内、海綿体内、皮内、脊髄内(intradiscal)、管内、十二指腸内、硬膜内、表皮内、食道内、胃内、歯肉内、回腸内、病巣内、腔内、リンパ腺内、骨髄内、髄膜内、筋内内、眼内、卵巣内、心膜内、腹腔内(intraperitoneal)、胸膜腔内、前立腺内、肺内、イントラシナル(intrasinal)、脊髄内(intraspinal)、滑膜内、腱内、精巣内、包膜内、胸腔内、尿細管内、腫瘍内、鼓膜内、子宮内、血管内、静脈内、静脈内急速、静脈内点滴、心室内、膀胱内、硝子体内、イオン浸透法、洗浄、咽頭、経鼻、経鼻胃、閉鎖包帯法、経眼、経口、口腔咽頭、その他、非経口、経皮(percutaneous)、関節周囲、硬膜外(peridural)、神経周囲、歯周、直腸、呼吸(吸入)、眼球後、軟組織、くも膜下、結膜下、皮下、舌下、粘膜下、局所、経皮(transdermal)、粘膜内、経胎盤、経気管、経鼓膜、尿管、尿道、及び/又は膣投与、及び/又は上記投与経路の任意の組合せを介してヒト又は動物被験者に投与することができる。
【0057】
更なる態様において、本発明は、(i)ポリペプチド構築物が、循環リガンドを結合する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体に融合した少なくとも1つの担体ポリペプチドを含む、少なくとも1つのポリペプチド構築物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を提供する工程と、(ii)前記少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を、適切な送達小胞を産生することができる細胞に導入する(ポリヌクレオチド構築物を対応するポリペプチド構築物に翻訳することにより)工程と、(iii)工程(ii)の細胞により産生された少なくとも1つの送達小胞を回収する工程とを含む、治療的送達小胞を作製する方法に関する。方法は更に、治療的送達小胞が、液体クロマトグラフィー(LC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、スピン濾過、接線流濾過、遠心分離、免疫沈降等、又はこれらの任意の組合せを含む群から選択される手順により精製される、精製工程を含んでもよい。
【0058】
本発明者らは驚くべきことに、濾過(好ましくは限外濾過(UF))及びサイズ排除液体クロマトグラフィー(LC)の逐次併用の適用が、最適化された精製をもたらし、これが今度は優れた治療効果をもたらすことに気づいた。更に、エキソソームの精製に日常的に使用される超遠心分離(UC)と比較して、連続的限外濾過-液体クロマトグラフィー(UF-LC)はかなり速く、及び現在のUC方法の重大な欠点である、より高い製造量まで拡大することができる。しかし、以下により詳細に記載されるように、UCの代わりにUF-LCを使用することの最も有利な意味は、エキソソーム(及びUF-LCが適用される他の細胞外小胞)がこの生物物理学的及び生物学的特性を保持するという事実であり、インビボで投与した際に肺組織における蓄積の低下をもたらし、したがって治療効果を向上させる。
【0059】
電子顕微鏡法(EM)分析によれば、UF及びUC調製物の両方由来の小胞は、円形又はカップ状形態を示した。ほとんどの場合において、小胞の直径は約100nmであることが測定された。これは、ナノ粒子追跡分析(NTA)により得られた結果と一致した。しかし、注目すべきことに、UC試料中の小胞画分は明らかに変形されており(破壊され又は融合してわずかにより大きな小胞を形成)、このような小胞はUF試料では観察されなかった。故に、これらの結果は、UC方法が小胞の完全性に対して悪影響を与えたことを示している。
【0060】
UC試料中の小胞凝集物の存在を検証するために、本発明者らは次にHEK293T CD63-EGFP標識エキソソームを蛍光顕微鏡法により直接調べた。FCS結果と同様に、UC試料のみが蛍光チャネルにUF試料では見られない目に見える大きな凝集物を示した。これは、蛍光色素DiOC6標識エキソソームを用いて裏付けられた。故にUF単離方法は、小胞の融合/凝集及び破壊をもたらすUCと比べて小胞の固有の生物物理学的特性の保護をもたらす。
【0061】
本発明によるUF実験は、100kDa、250kDa、及び/若しくは500kDa、又はこれらの任意の連続的組合せの分子量カットオフを有するフィルターを主に用いて行われた。好ましい実施形態において、100kDaカットオフが好ましいが、より高い分子量を有する生体分子の数を考慮すると、エキソソーム以外の培地/細胞分泌成分がフィルターにかかる可能性があり、したがってUFプロトコルは、極めて型破りなサイズ排除液体クロマトグラフィーを用いて更に改良された。UF試料は、とりわけSephacryl S-300又はSephacryl S-500サイズ排除LCカラムに充填され、2つの異なる画分が280nmのUVフローセル吸光度に基づき回収された。NTAは、粒子の98%が画分1で回収され、モード粒径が3回のUF-LC再現全てにおいて一致することを明らかにした。この後のSDS-PAGEにおける全タンパク質染色は、元々UF試料で見られた汚染タンパク質の多くが画分2に溶出されるが、画分1はいずれの検出可能なレベルのタンパク質も有さないことを確認した。ウエスタンブロット(WB)を用いることにより、Alix及びCD9等のエキソソームマーカーは画分1でのみ検出され、画分2では検出されず、画分1が純粋なエキソソームを含有することを示した。更に、LC分画後の小胞回収率は70+/-19%であり、故にLCは、UF単独により達成される粒子収量の増加を妨げなかった。エキソソームマーカーがUC精製試料と比べてLC画分1でより強く発現されたことから、WBはこのデータを裏付けた。更に、小胞あたりのタンパク質比は、UC試料と比べてUF-LCではるかに低かった。EMも画分1及び2で行われ、インタクトなカップ状の小胞は画分1でのみ検出されたが、タンパク質凝集物は画分2で見られた。更に、UF-LCで精製されたHEK293T CD63-EGFP標識エキソソームが蛍光顕微鏡法により可視化された場合、EGFP陽性小胞はUF精製小胞に類似しているように見えた。これは、LCが小胞の生物物理学的特性に影響を与えなかったことを示すものである。故に、本発明者らは、UFをこの後のLCと組み合わせる2段階方法の使用が、驚くべきことに、タンパク質汚染がない高収量の生物物理学的にインタクトなエキソソームの高効率の単離を可能にすることを発見した。エキソソーム分野は現在、本発明者らが極めて信頼できないことを証明したUC方法の有効性の認識に完全に依存している。
【0062】
本発明のUF-LC精製方法及び従来のUC方法は、2つの方法間の良好なプロテオミクス的重複により証明された、類似のタンパク質含量を有する小胞を単離した。しかし、重要には、UF-LC方法は非エキソソーム汚染がない小胞の高収量精製をもたらす。
【0063】
本発明のUF-LC方法及び従来のUC方法により単離されたエキソソームの類似のプロテオミクスプロファイルにもかかわらず、本発明者らは、精製方法間のエキソソーム完全性の明白な違い(UC精製後の小胞凝集及び融合)が、インビボでのこれらの生物学的特性に影響を与え得ると仮定した。凝集粒子は典型的には、静脈内(IV)注射後に肺蓄積を示すことが十分に確立されていることを考慮し、本発明者らは、UF-LC精製小胞と比べてUC精製エキソソームは肺組織に優先的に分布し得ると推測した。これを調べるために、同数の近赤外蛍光色素(DiR)標識エキソソーム(NTA計算に基づく)が、成体Balb/cマウスに尾静脈を介して注射され、体内分布が注射24時間後のIVISイメージングを用いて分析された。仮定された通り、UC精製エキソソームは、UF-LC精製小胞と比べて肺で4.6倍(p<0.0001)強いシグナルを示した。肝臓からのシグナルは、注射された全蛍光が6%しか違わなかったため、予測通りUF-LC群でより高かった(p<0.0001)。故に、本発明の極めて有利なUF-LC方法を用いて単離された小胞は生物物理学的にインタクトであり、肺に優先的に蓄積せず、したがってインビボでの治療適用により適している。
【0064】
上記の記載からわかるように、UF-LC方法は一般的に任意のタイプの小胞(エキソソーム、リポソーム等)の精製に適用でき、広範な態様において、精製される必要がある任意のタイプの適切な小胞調製物を本明細書に記載されたUF-LCに曝露させる工程を含むことができる。1つの例示的な実施形態において、本発明は故に、適切な供給源から細胞外小胞(例えば、場合によりポリペプチド構築物を含み得、ポリペプチド構築物が今度は担体ポリペプチド及び治療的デコイ受容体を含む、本発明の方法により作製された小胞)を得る工程、小胞(通常は、タンパク質及びペプチド等の様々な他の成分も含む培地に存在する)を限外濾過工程とこれに続くにサイズ排除液体クロマトグラフィー(LC)工程に曝す工程に関する。
【0065】
更に、好ましい実施形態において本発明は、(i)ポリペプチド構築物が、循環リガンドを結合する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体に融合した少なくとも1つの担体ポリペプチドを含む、少なくとも1つのポリペプチド構築物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を提供する工程と、(ii)前記少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を、適切な送達小胞を産生することができる細胞に導入する(ポリヌクレオチド構築物を対応するポリペプチド構築物に翻訳することにより)工程と、(iii)工程(ii)の送達小胞を、限外濾過(UF)とこれに続くサイズ排除液体クロマトグラフィー(LC)を用いて精製する工程とを含む、治療的送達小胞を作製する方法に関する。前記方法を用いて得られた送達小胞は、したがって、従来のUC方法により得られた小胞より大幅に増大された生物物理学的安定性及び生物学的特性を示すことができる。更なる実施形態において、少なくとも1つのフィルターがUF工程に使用されてもよく、フィルターは同じ又は異なるカットオフを有してもよく、例えば最初に第1の工程を100kDaのカットオフで、及び第2の工程において200kDaのカットオフを有するフィルターで行うことができる。当然ながら、フィルターは任意の適切なカットオフ、例えば100kDa、200kDa、500kDa等を有するように選択することができる。更に、追加の実施形態において、LC工程に使用されるカラムは本質的に任意の適切な細孔径を有してもよい。SephacrylカラムのS-300、S-500及びS-1000は同様に十分に機能し、一貫して2つの明確なピークを生成した。前記ピークの1つは小胞含有画分であった。
【0066】
本発明の更なる実施形態において、細胞外小胞(エキソソーム等)の産生は、小胞産生細胞を増殖させる時に細胞培養培地にオートファジー阻害剤を含めることにより増加され得る。図8に描かれているように、オートファジー阻害剤による細胞の処理は、エキソソーム収量の驚くべき増加をもたらした。例えばバフィロマイシンA及びクロロキン(オートファゴソームとリソソームとの融合を阻害する)、及び/又は3-メチルアデニン(オートファゴソームの前段階の形成を妨げるPI3K阻害剤である)を含むがこれらに限定されない様々な物質が、オートファジー経路の種々の段階を阻害するのに使用され得る。故に、本発明は更に、細胞培養において小胞収量を増加させるためのオートファジー阻害剤の使用に関する。本発明によるオートファジー阻害物質は、ベクリン-1阻害剤、PI3K阻害剤(例えば3-メチルアデニン)、及びオートファゴソームとリソソームとの間の融合の阻害剤(例えばバフィロマイシンA及びクロロキン)を含んでもよい。故に、1つの一般的な態様において本発明は、オートファジーの少なくとも1つの阻害剤で小胞産生細胞を処理することによる細胞外小胞の収量の増加に関する。
【0067】
好ましい実施形態において、本発明による治療的送達小胞を作製する方法は故に、(i)少なくとも1つのポリペプチド構築物をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を提供する工程と、(ii)前記少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を、ポリヌクレオチド構築物から翻訳されたポリペプチド構築物を含む小胞を産生することができる細胞に導入する工程と、(iii)少なくとも1つのオートファジー阻害剤の存在下で前記細胞を培養する工程と、(iv)前記細胞から得られた送達小胞をUF-LC精製を用いて精製する工程とを含んでもよい。
【0068】
治療的送達小胞を作製する方法は、或いは、(i)(a)少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物、及び(b)少なくとも1つの担体ポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を提供する工程と、(ii)少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物(a)及び少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物(b)を、送達小胞を産生することができる細胞に導入する工程と、(iii)工程(ii)の細胞により産生された少なくとも1つの送達小胞を回収する工程とを含んでもよい。この方法を使用する場合、少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体及び少なくとも1つの担体ポリペプチドは、例えば、担体ポリペプチドと治療的ポリペプチドデコイ受容体の間のジスルフィド架橋の形成、又はビオチン-ストレプトアビジン相互作用の形成、又はシンデカン-シンテニン-ALIX複合体の形成を含む任意の他のタイプの化学結合の形成により、単一のポリペプチド構築物を形成することができる。
【0069】
別の態様において本発明は、少なくとも1つの担体ポリペプチドに融合した、標的分子を結合する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を含むポリペプチド構築物に関する。前記ポリペプチド構築物は例示的な実施形態において、例えば、(i)CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン(又はこれらの任意の誘導体若しくは類似体)、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、TNFファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(ii)CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン(又はこれらの任意の誘導体若しくは類似体)、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、VEGFファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(iii)CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン(又はこれらの任意の誘導体若しくは類似体)、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、FGFファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(iv)CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン(又はこれらの任意の誘導体若しくは類似体)、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、EGFファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体、(v)CD63、Lamp2b、シンデカン、シナプトタグミン(又はこれらの任意の誘導体若しくは類似体)、又は少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を表面(又は治療的送達小胞上の本質的に任意の適切な位置)に輸送することができる任意の他の適
切な担体ポリペプチドから選択される担体ポリペプチドと組み合わされた、アクチビンファミリー由来の少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を含んでもよい。
【0070】
更に、本発明は更なる態様において、本発明による少なくとも1つの治療的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド構築物、並びに追加の態様において、少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物及び/又は少なくとも1つのポリペプチド構築物を含む細胞に関してもよい。更なる態様において、本発明は、本発明による方法により得ることができる治療的送達小胞に関する。本発明の目的に利用され得る細胞は、例えば、間葉細胞、成体幹細胞(例えば筋芽細胞)、人工多能性幹(iPS)細胞、臍帯血幹細胞、胚性幹細胞及び/又は羊膜幹細胞、血液由来細胞(例えばB細胞、マクロファージ、DC細胞、T細胞、NK細胞、血小板等)、不死化真核細胞若しくは細胞系(例えば神経芽細胞腫細胞NSC34、N2a及びSHSY5Y、HEK細胞、C17.2ニューロン幹細胞、bEND3神経内皮細胞、HeLa細胞、U20S細胞等)、又はこれらの細胞源の任意の組合せを含む。
【0071】
本発明者らは、ストレス誘導培養条件(血清飢餓及び酸素欠乏等)に曝露された細胞から得ることができる細胞外小胞のプロテオームは、正常な対照条件下で増殖した細胞由来の細胞外小胞のプロテオームと比較して、陽性GOタームが増大することに思いがけず気づいた。異なる培養条件がもたらすプロテオームの変化を調べるために、血清飢餓及び/又は酸素欠乏(すなわち低下した酸素供給)に曝露された細胞由来の細胞外小胞(エキソソーム等)が最先端のLC/MS/MS(プロテオミクス)で分析された。驚くべきことに、ストレス誘導条件は、GOターム(図10)(GOターム:翻訳、代謝プロセス、解糖及びリボソームタンパク質)による通常の培養条件より、抗アポトーシスタンパク質及び代謝的に活性なタンパク質を大幅に富化した。故に、血清飢餓及び/又は酸素欠乏は、エキソソームにおける生存及び代謝プロセスに関するタンパク質を富化する。これは、再生目的に有益となろう。GOタームは、参照対照細胞由来のエキソソームのプロテオームに対して正規化され、富化は、参照細胞からの期待値に対する倍の増加として表される。故に、更に一般的に適用できる態様において、本発明は、代謝的に活性なタンパク質及び/又は抗アポトーシスタンパク質、すなわち翻訳、代謝プロセス、解糖及び/又はリボソームタンパク質等の陽性GOタームに関する、細胞外小胞(例えばエキソソーム)のプロテオームを富化するストレス誘導条件の使用に関する。更なる実施形態において、本発明による細胞外送達小胞を得る方法は、代謝的に活性なタンパク質及び/又は抗アポトーシスタンパク質の富化を誘導して細胞外小胞の再生効果を増大させるために、細胞外小胞が得られる細胞がストレス誘導条件(例えば酸素欠乏及び/又は血清飢餓、ただし、これらに限定されない)に曝露される工程を含んでもよい。ストレス誘導条件下で培養された対照小胞(任意の治療的ポリペプチドなし)を通常の条件下で培養された対照小胞(任意の治療的ポリペプチドなし)と比較すると、ストレス曝露細胞外小胞は、様々な炎症モデルにおいて明らかに増大した治療効果を生み、細胞外小胞(特にエキソソーム)の再生能力がストレス誘導培養条件によって増加したことを示す。
【0072】
本発明の特に有利な態様は、(1)小胞の収量を増加させ、(2)故に産生されるエキソソームの再生能力を増加させるために、細胞外小胞が得られる細胞を、オートファジー阻害剤及びストレス誘導条件の両方の組合せに曝露することに関する。細胞外小胞の治療効果が最適化されることを真に確保するために、この組合せアプローチにより得られた小胞(エキソソーム等)は本発明の有利なUF-LCプロトコルを用いて精製されてもよい。
【0073】
更に本発明は、治療的に有効な量の治療的送達小胞を、これを必要とする被験者に投与する工程を含む治療方法に関し、方法は、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、特発性肺線維症、乾癬、腫瘍壊死因子(TNF)受容体関連周期性症候群(TRAPS)、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト欠損症(DIRA)、子宮内膜症、自己免疫性肝炎、強皮症、筋炎、脳卒中、急性脊髄損傷、血管炎、ギラン-バレー症候群、急性心筋梗塞、ARDS、敗血症、髄膜炎、脳炎、肝不全、腎不全、移植片対宿主病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー及び他の筋肉疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病を含む神経変性疾患、癌誘導性悪液質、食欲不審、2型糖尿病、及び癌(例えばEGF、VEGF、FGFに感受性の癌)等の疾患の改善、緩和、及び/又は予防を目的としている。本発明に適切ないくつかの癌タイプは、例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、AIDS関連癌、AIDS関連リンパ腫、肛門癌、虫垂癌、星状細胞腫(小脳又は大脳)、基底細胞癌、胆管癌、膀胱癌、骨腫瘍、脳幹神経膠腫、脳癌、脳腫瘍(小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、上衣腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉腫瘍、視経路及び視床下部神経膠腫)、乳癌、気管支腺腫/カルチノイド、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍(小児、消化管)、原発不明癌、中枢神経系リンパ腫、小脳星状細胞腫/悪性神経膠腫、子宮頸癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性障害、結腸癌、皮膚T細胞性リンパ腫、線維形成性小円形細胞腫瘍、子宮内膜癌、上衣腫、食道癌、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、眼癌(眼内黒色腫、網膜芽細胞腫)、胆嚢癌、胃(gastric)(胃(stomach))癌、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍(頭蓋外、性腺外、又は卵巣)、妊娠性絨毛腫瘍、神経膠腫(大脳の神経膠腫、大脳星状細胞腫、視経路及び視床下部神経膠腫)、胃カルチノイド、ヘアリー細胞白血病、頭頸部癌、心臓癌、肝細胞(肝臓)癌、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、眼内黒色腫、膵島細胞癌(膵臓内分泌部)、カポジ肉腫、腎臓癌(腎細胞癌)、咽頭癌(laryngeal cancer)、白
血病((急性リンパ芽球性(急性リンパ球性白血病とも呼ばれる)、急性骨髄性(急性骨髄性白血病とも呼ばれる)、慢性リンパ球性(慢性リンパ球性白血病とも呼ばれる)、慢性骨髄性(慢性骨髄性白血病とも呼ばれる)、ヘアリー細胞白血病))、口唇及び口腔癌(oral cavity cancer)、脂肪肉腫、肝臓癌(原発性)、肺癌(非小細胞、小細胞)、リンパ腫((AIDS関連リンパ腫、バーキットリンパ腫、皮膚T細胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキン(ホジキンを除く全てのリンパ腫の古い分類)リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫))、髄芽腫、メルケル細胞癌、中皮腫、原発不明の転移性頸部扁平上皮癌、口腔癌(mouth cancer)、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫、菌状息肉腫、骨髄異形成/骨髄増殖性疾患、骨髄性白血病(myelogenous leukemia)、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia)(急性、慢性)、骨髄腫、鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、口腔癌(oral cancer)、口腔咽頭癌、骨肉腫/骨の線維性組織球腫、卵巣癌、卵巣上皮癌(表面上皮-間質性腫瘍)、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、膵島細胞癌、副甲状腺癌、陰茎癌、咽頭癌(pharyngeal cancer)、褐色細胞腫、松果体星細胞腫、松果体胚細胞腫、松果体芽細胞腫及びテント上原始神経外胚葉腫瘍、下垂体腺腫、胸膜肺芽腫、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌(腎臓癌)、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、肉腫(ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、カポジ肉腫、軟部組織肉腫、子宮肉腫)、セザリー症候群、皮膚癌(非黒色腫、黒色腫)、小腸癌、扁平上皮癌、頸部扁平上皮癌、胃癌、テント上原始神経外胚葉腫瘍、精巣癌、咽頭癌(throat cancer)、胸腺腫及び胸腺癌、甲状腺癌、腎盂及び尿管の移行細胞癌、尿道癌、子宮癌、子宮肉腫、膣癌、外陰癌、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、並びに/又はウィルムス腫瘍(腎臓癌)を含む。
【0074】
多くの他の療法とは異なり、エキソソーム及び他の細胞外小胞は血液脳関門(BBB)を越える可能性がある。例えばIL6、IL-1β及びTNFαに対するシグナル伝達不能のデコイ受容体を含む治療的送達エキソソームは、故に、中枢神経系(CNS)の様々な障害、詳細には様々な形態の神経炎症を調節し得る。神経炎症は、中枢神経系(CNS)を含む神経系の炎症である。神経炎症は、急性、例えば感染若しくは外傷的事象、又は慢性、例えば神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、及び多発性硬化症(MS)等の脱髄疾患を含む)であり得る。CNSにおいて、ミクログリア及び星状膠細胞を含むグリア細胞は先天免疫に重要な役割を果たす。脳の他の細胞タイプの中でもこれらの細胞は、神経調節物質として作用するサイトカイン及びケモカインを産生することができる。CNS神経炎症において最も一般的なサイトカインには、IL6、IL-1β及びTNFαが含まれる。これらの炎症誘発性サイトカインの産生は神経毒性を引き起こし得、血液脳関門(BBB)の完全性を損ない得る。
【0075】
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)のインビボモデルにおいて、様々な治療的ポリペプチドデコイ受容体を含む治療的送達エキソソームで治療されたマウス(上記に記載された)は、図9に図示されているように著しく改善された疾患表現型を示した。故に、更なる態様において本発明は、本質的に任意の神経炎症を治療するための、CNSへの任意の適切な受容体(例えばIL-6R、TNFR1、IL-1βR、及び/又はこれらの任意の組合せ)の送達に関する。
【0076】
更に、本発明は、試薬、キット、細胞培地、及び細胞培養プロセスに更に関する。例えば、本発明の治療的送達小胞を作製する方法を利用する細胞培養プロセスは、間葉細胞、成体幹細胞(例えば筋芽細胞)、人工多能性幹細胞(iPS)細胞、臍帯血幹細胞、胚性幹細胞、及び/又は羊膜幹細胞、血液由来細胞(例えばB細胞、マクロファージ、DC細胞、T細胞、NK細胞、血小板等)、不死化真核細胞若しくは細胞系(例えば神経芽細胞腫細胞NSC34、N2a及びSHSY5Y、HEK細胞、C17.2ニューロン幹細胞、bEND3神経内皮細胞、HeLa細胞、U20S細胞等)、又はこれらの細胞源の任意の組合せ等の様々な適切なエキソソーム産生細胞系で使用することができる。更なる実施形態において、本発明は、細胞培養培地、インビトロで使用するための任意の適切な試薬、及び/又は治療的送達小胞を含む部分のキットに関する。特に有利なキットは、小胞(好ましくはエキソソーム)産生収量を増加させるために、場合により別個の容器で、小胞産生細胞及びオートファジー阻害剤を培養する細胞培地を含んでもよい。本発明による細胞培養培地は、細胞により産生された小胞が、より大量の代謝的に活性なタンパク質及び抗アポトーシスタンパク質を発現していることを確保してこの固有の再生能力を増加させるために、極めて少ない血清を含有する又は血清を含有しないように適合されてもよい。例えば、1つの好ましい実施形態において本発明は、(i)産生される細胞外小胞(エキソソーム)の再生効果を増大させる血清飢餓条件下の細胞培養用の培養培地、(ii)細胞外小胞(エキソソーム)の産生収量を増加させるクロロキン、バフィロマイシンA、及び/又は3-メチルアデニン、又はこれらの任意の組合せ等のオートファジー阻害剤、並びに細胞外小胞、例えばエキソソームの産生に適切な細胞を含むキットに関する。
【0077】
上記に記載された例示的態様、実施形態、及び代替、及び変形は、とりわけ記載された構成要素及び成分(例えば治療的送達小胞、治療的ポリペプチドデコイ受容体、及び担体ポリペプチド等)、材料(例えば治療的送達小胞、細胞タイプ等)、及び適用される方法パラメータ(例えば精製手法、コンジュゲーションアプローチ等)に関して、本発明の範囲から逸脱することなく変更することができると理解されるものとする、本発明は、当然ながら同様に本発明の範囲から逸脱することなく変更することができる添付の例を用いて、これより更に例示される。
【実施例
【0078】
細胞ベースの送達小胞作製
エキソソーム、微小胞、又は任意の他のタイプの細胞由来構造等の適切な治療的送達小胞を産生する細胞タイプを、適切な密度で細胞培地にプレーティング/播種する。エキソソーム作製の場合は、エキソソーム産生細胞タイプを適切な密度で細胞培地にプレーティング/播種する。細胞培地を24時間後に除去し、プレートをPBSで3回洗浄する。新たな新鮮エキソソーム枯渇培地又は無血清培地を添加する。エキソソームを馴化培地から精製する。培地を細胞から取り出す前のインキュベーション時間は、細胞タイプに応じて通常48~72時間であるが、特定の状況下で増減し得る。
【0079】
細胞が増殖する培地は、細胞とインキュベーションする前に、110,000gで一晩超遠心分離して異種エキソソーム及び微粒子が常に枯渇される。或いは、OptiMEM又はDMEM等の無血清培地を代わりに適用する。
【0080】
馴化培地は、種々の手法、すなわち連続的LC精製若しくは高速液体クロマトグラフィー精製を伴う限外濾過、超遠心分離、又は市販のキットを用いて精製することができる。限外濾過又は超遠心分離前に、馴化培地は、培地を300gで5分間スピンして細胞及び細胞残屑が除去される。上清をこの後に再び1,500gで15分間スピンし、0.2マイクロメートルフィルターに通す。馴化培地は故に、200ナノメートルを超える大きさの小胞及び凝集物が除去される。0.2マイクロメートル濾過は30分間の15,000gスピンに交換することができる。
【0081】
限外濾過又は接線流により、馴化培地を濃縮する。両方の方法で使用されたMWCO限界は100kDaである。濃縮培地を、Sephacryl S-300等の適切なカラムを用いてLC又はHPLCにより更に精製する。LC/HPLCからの第1の画分はエキソソームを含有する。
【0082】
超遠心分離により馴化培地を110,000gで70分間スピンし、上清を捨て、ペレットをPBSに再懸濁し、もう1回110,000gで70分間遠心分離する。上清を捨て、ペレットをPBSに再懸濁する。エキソソームを更に精製するために、精製プロセスの第2工程を30%ショ糖クッションで行うことができる。クッションはエキソソームを捕捉する。エキソソームを110,000gで70分間、もう1回遠心分離工程によりショ糖クッションからPBSに溶出し、次いでペレットをPBSに再懸濁する。
【0083】
エキソソーム試料は、ウエスタンブロット、ELISA、NTA及び電子顕微鏡法で分析することができる。各試料中のデコイ受容体の量は、目的とするポリペプチドに対してELISAにより決定することができる。投与量を次いで、ELISAから得られた濃度から与えられるポリペプチドの量として計算する。
【0084】
人工小胞作製
リポソーム、脂質様構造、リピドイド、及び他のタイプの人工的に作製された脂質ベースの送達小胞も、本発明の目的に利用することができる。これらの小胞は、当技術分野で公知の手法により作製することができ、担体ポリペプチド及び治療的ポリペプチドデコイ受容体を含むポリペプチド構築物は、標準的な技術、例えば脂質タグ化等を用いて小胞に充填することができる。
【0085】
UF-LC精製プロトコルの検証
細胞培養
NSC-34(運動ニューロンリッチ胚性マウス脊髄細胞とマウス神経芽細胞腫との融合)、N2a(マウス神経芽細胞腫細胞系)、B16F10(マウス黒色腫細胞系)、及びヒト胎児腎臓(HEK293T)細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS、Cellgro)、及びペニシリン/ストレプトマイシン(pen/strep、5000μg/ml、Cellgro)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Invitrogen)から成る完全培地で37℃、5%CO2で培養した。エキソソーム単離のために、培地は播種24時間後、予めスピンした培地又はOptiMEMのどちらかに交換した。プレスピン培地は、小胞不含培地を作る前に120,000gで70分間予めスピンした、10%FBSを補充したDMEMである。OptiMEM及びプレスピン培地の両方にpen/strepを補充した。馴化培地を次いで、インキュベーション48時間後にエキソソーム単離のために回収した。大規模実験用に、馴化培地を複数のフラスコから回収し、エキソソームの単離前にプールした。
【0086】
HEK293T細胞のトランスフェクション
600万個の細胞を、DMEM完全培地を含む15cm培養皿にトランスフェクションの1日前に播種した。CD63-EGFPプラスミドのトランスフェクションは、ポリエチレンイミン(PEI)を1:4 pDNA:PEI比で用いて行った。簡単には、25μgのプラスミド及び100μgのPEIを別々の試験管中の500μlのOptiMEMに希釈した。室温(RT)でのインキュベーションの5分後、pDNA及びPEI溶液を混合し、RTで更に30分間インキュベートしてDNA/PEI複合体を形成した。複合体を次いで細胞に滴下添加した。4時間後、複合体を含有する細胞増殖培地を除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、P/S抗生物質を補充した新鮮OptiMEMを細胞に添加した。インキュベーションの48時間後、馴化培地をエキソソーム単離のために回収した。
【0087】
エキソソームの単離のための超遠心分離(UC)
UCによるエキソソームの単離は、補足の図S1aに記載されているように行った。簡単には、細胞残屑及びより大きな粒子を取り除くのに、プロトコル1は2つの低速スピン、300g、5分間と、これに続く1,200g、10分間を必要とする。上清をこの後、120,000g、70分間の最終超遠心分離工程前に0.22μmシリンジフィルターを通して濾過した。プロトコル2はプロトコル1に従っているが、120,000g、70分間の追加のPBS洗浄を含む。簡単には、馴化培地を300g、5分間の最初の低速スピンと、これに続く30分間の10,000gスピンに供した。上清を次いで120,000gで70分間超遠心分離した。プロトコル4はプロトコル1と類似しているが、0.22μmシリンジ濾過工程を欠く。
【0088】
エキソソームの単離のための限外濾過(UF)
UFプロトコルは、UCプロトコルと同じ最初の低速スピンを必要とする。最終工程での高速超遠心分離の代わりに、細胞培養上清を100kDaカットオフAmicon Ultra-15スピンフィルター(Millipore)でスピンする一方、胎盤灌流液を300kDaカットオフフィルター(Vivaspin、Sartorius Stedim)で3500g、15分間スピンさせた。PBSを次いでフィルターに添加し、沈降させて試料を洗浄した。
【0089】
細胞培養からのUF試料の液体クロマトグラフィー分画(UF-LC)
UVフローセルを備えたAKTAプライム(GE healthcare)に連結した、OptiMEM馴化培地から回収した試料に対するHiPrep 16/60 Sephacryl S-300 HRカラム、プレスピン馴化培地(GE Healthcare)から回収した試料に対する26/60 S-500 HRカラムに、上記に記載されているように調製したUF試料を充填した。個々の画分をUV吸光度に従って回収した。回収画分を次いで30kDaカットオフAmicon Ultra-15スピンフィルター(Millipore)を用いて300~400μlに濃縮し、更なる分析まで-80℃で保管した。
【0090】
胎盤灌流由来のUF試料の液体クロマトグラフィー画分(UF-LC)
1mlのUF STBM試料を、フラクションコレクター(RediFrac, Pharmacia)に連結した、XK16/70 Sephacryl S-1000カラム(GE Healthcare)に充填した。2ml/分のポンプ速度を使用し、4ml画分を回収した。回収画分を次いで30kDaスピンフィルター(Vivaspin、Sartorius Stedim)で濃縮し、300~400μlに希釈し、更なる分析まで-80℃で保管した。
【0091】
ウエスタンブロッティング
ウエスタンブロッティングは、Bio-Rad(登録商標)Mini-PROTEAN(登録商標)Tetra細胞又はiBlot(登録商標)システム(Invitrogen、Life Technologies)のどちらかを製造者の指示に従って用いて行った。エキソソームの収量を交差比較するために、本発明者らは次に等容量の再懸濁エキソソームペレット又は濾液をゲルに充填した。
【0092】
Bio-Radシステムに関して、5%β-メルカプトエタノールを含有する15μlの2×Laemilli試料バッファー(Bio-Rad)を含む15μlのエキソソーム試料を混合し、100℃で10分間加熱した。試料を次いで1.5mm、10%Tris/グリシンSDS-ポリアクリルアミドゲルに添加し、色素の先端がタンクの底に達するまでランニングバッファーで170V、60~70分間流した。ゲル上のタンパク質を次いで、20%メタノールを含有する転写バッファーで100V、60~70分間、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(Millipore)に移した。膜を次いで、ブロッキングバッファー(0.1%Tween-20 (TBS-T)を含むTris緩衝生理食塩水中5%無脂肪乳)中で穏やかに撹拌しながら、室温(RT)で60分間インキュベートした。
【0093】
iBlot(登録商標)システムに関して、30μlの試料を、0.5Mジチオスレイトール(DTT)、0.4M炭酸ナトリウム(Na2C03)、8%SDS及び10%グリセロールを含有する試料バッファーと混合し、65℃で5分間加熱した。試料を次いでNuPAGE(登録商標)Novex(登録商標)4~12%Bis-Tris Gelに添加し、色素の先端がタンクの底に達するまでランニングバッファー中120Vで流した。ゲル上のタンパク質をiBlotニトロセルロース膜(Invitrogen)にiBlotシステムを用いて7分間移した。膜をポンソーS色素で染色し、ポンソーS色素を後でPBSで洗い流した後、OdysseyブロッキングバッファーでRT、60分間、穏やかに撹拌しながらブロッキングした。
【0094】
ブロッキング工程後、膜を、新しく調製した一次抗体溶液(抗CD9、抗PDC6I (Alix)、抗Tsg101及び抗カルネキシン;全て1:1,000希釈、Abcam製、ケンブリッジ、UK)と4℃で一晩、又はRTで2時間インキュベートした。膜を3回、各10分、洗浄バッファー(TBS-T)を用いて強く撹拌しながら洗浄した後、二次抗体溶液(Alixを検出する場合、1:10,000希釈の抗マウスIgG DyLight-800; CD9、Tsg101及びカルネキシンの検出には1:10,000希釈の抗ウサギIgG DyLight-800)を添加し、RTで1時間インキュベートした。二次抗体のインキュベーション後、膜を3回、各10分洗浄し、LI-COR Odyssey CLx赤外線イメージングシステムにおいて700及び800nmチャンネルの両方をスキャンして可視化した。この後、同じ膜上の他のタンパク質をプローブするために、膜を3回、各10分洗浄した後、次の一次抗体と再インキュベートした。
【0095】
ナノ粒子追跡分析
粒径決定のために、ナノ粒子追跡分析(NTA)をNTA 2.3分析ソフトウェアを備えたNanoSight NS500装置で行った。全ての本発明らの記録に関して、全ての取得後設定に対し13又は15及び自動機能:本発明者らが5に固定した検出閾値を除く、ぶれ及び最小予測粒径のカメラレベルを使用した。試料を氷上で解凍し、1:500から1:20,000の間でPBSに希釈して1mLあたり2×108から2×109の粒子計数を得た。試料の希釈が決定したら、試料を試料チャンバに充填し、カメラ焦点を粒子が光の鮮明な点として現れるように調整した。スクリプト制御機能を用いて、本発明者らは試料を先に取り込み、各記録間は5秒遅らせて、試料ごとに5本の30又は60秒動画を記録した。GFP陽性エキソソームに関しては、GFPシグナルを退色させないように試料チャンバにおいて試料を一定流量下に置くという1つの小さな変更をして、同じ設定を使用した。これらの測定値を次いでバッチプロセス機能を用いて分析し、更なる分析のために結果をMicrosoft Excelにエクスポートした。
【0096】
エキソソーム中のタンパク質及びRNAの定量
エキソソーム中のタンパク質量はmicroBCAアッセイキット(Thermo Scientific)を用いて製造者の指示に従って定量化し、RNAレベルはQuant-iT (商標) RiboGreen(登録商標)RNAアッセイキット(Life Technologies)を用いて製造者の指示に従って測定した。
【0097】
電子顕微鏡法
5μlのエキソソーム懸濁液をPBSで1:1希釈し、ホルムバール炭素被覆した電子顕微鏡グリッドに20分間添加した。グリッドをフィルター紙でブロットし、15μlの2%酢酸ウラニル(UA)をグリッドに1分間添加した。次に、UAを除去し、15μlの蒸留水を1分間添加した。水滴を次いで除去し、グリッドを15分間空気乾燥させた。グリッドを次いで電子顕微鏡で可視化した。
【0098】
蛍光顕微鏡法
CD63-EGFP陽性エキソソームを上記に記載されているように生成した。粒子をNTAにより定量化し、UF-LC及びUC試料を同じ濃度の粒子/mlに希釈した。任意の測定前にエキソソームを27G針で再懸濁した。試料を顕微鏡スライドに置き、カバースリップで覆い分析した。顕微鏡法は、20×対物レンズを備えたOlympus IX-81倒立顕微鏡(Olympus America、センターバレー、PA、USA)を用いて行った。示された励起及び発光フィルターの中心波長及び帯域: GFP (励起470/40nm;発光525/50nm)で、以下の蛍光フィルターセット(Chroma Technology Corp.、ベローズフォールズ、VT、USA)を使用した。
【0099】
エキソソームの液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)
UC及びUF-LCからのエキソソームをspeedvacにより濃縮し、1%SDS、25mM HEPES、1mM DTTで溶解した。溶解物を95℃に5分間加熱し、これに続いて1分間の超音波処理、14,000gで15分間の遠心分離を行った。上清を1mM DTT、8M尿素、25mM HEPES、pH7.6と混合し、10kDaカットオフ遠心分離フィルターユニット(Pall、Nanosep(登録商標))に移し、14,000gで15分間遠心分離し、これに続いて8M尿素バッファーを添加し、再び遠心分離した。タンパク質を8M尿素、25mM HEPES中で10分間、50mMヨードアセトアミド(IAA)によりアルキル化した。タンパク質を次いで14,000gで15分間遠心分離し、これに続いてもう2回、8M尿素、25mM HEPESを添加し、遠心分離した。250mM尿素、50mM HEPES中トリプシン(Promega)を1:50トリプシン:タンパク質の比で細胞溶解物に添加し、37℃で一晩インキュベートした。フィルターユニットを14,000gで15分間遠心分離し、これに続いてMQでもう1回遠心分離し、フロースルーを回収した。ペプチドをstrata-X-Cカートリッジ(Phenomenex)により清澄化した。
【0100】
Q Exactive (Thermo Fischer Scientific、サンホセ、CA、USA)での分析前に、ペプチドをAgilent 1200ナノLCシステムを用いて分離した。試料をZorbax 300SB-C18に捕捉し、0.4μl/分の流量で240分に7%から40%Bの範囲のA (3%ACN、0.1%FA)及びB (95%ACN、0.1%FA)の勾配を用いて、NTCC-360/100-5-153 (Nikkyo Technos., Ltd)カラム上で分離した。HCDによる断片化用に上位5つのプリカーサーを選択しながら、Q Exactiveをデータ依存的に操作した。サーベイスキャンは、最大インジェクション時間100ms及び標的1×106イオンでm/z 445.120025のロックマスを用いて、300~1700m/zから70,000分解能で行った。HCD断片化スペクトルを生成するために、30%正規化衝突エネルギー、17,500分解能での断片化前に、最大インジェクション時間500ms及びAGC 1×105を使用した。プリカーサーを2m/z幅で単離し、除外リストに70秒間載せた。単一電荷及び割り当てられない(unassigned)電荷状態はプリカーサー選択からリジェクトした。
【0101】
sequest-percolatorによるプロテオームディスカバー1.3をタンパク質同定に使用した。プリカーサー質量許容差を10ppmに設定し、断片については0.02Daに設定した。酸化メチオニンを動的修飾(dynamic modification)、及びカルバミドメチル化を静的修飾(static modification)として設定した。スペクトルを統合したハツカネズミ(mus musculus)及びウシ(bos taurus) ensembl 72データベースにマッチングさせ、結果を1%FDRまでフィルタリングした。ウシでの同定はFBSに由来すると見なし、除去した。GOターム富化分析をPantherを用いて行った。
【0102】
マウスにおけるエキソソーム体内分布
馴化細胞上清を0.22μmシリンジフィルターを通して濾過し、1μM DiR (1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドトリカルボシアニンヨージド(Tetramethylindotricarbocyanine Iodide))(Invitrogen)とインキュベートした。DiRを含む馴化培地を次いで110,000gで70分間超遠心分離し、又は100kDa Amicon Ultraスピンフィルター(Millipore)で濃縮した。UCペレットを再懸濁し、再びPBS中でスピンして非結合DiRを精製し、又は上記に記載されているようにLC分画した。精製エキソソームをNTAにより定量化し、UC及びLC調製物の両方に由来の等量の粒子をBalb/cマウス(n=5)の尾静脈に注射した。注射24時間後、器官を採取し、In Vivo Imaging System (IVIS) Spectrum (Caliper)でのイメージングに供した。IVISは蛍光を2秒間記録するように設定し(励起710、発光760)、得られたデータを次いでIVISソフトウェアで分析した。全ての動物実験は、Swedish Local Board for Laboratory Animalsにより承認された。実験は倫理的認可に従って行い、動物の苦痛を最小限にするように設計した。
【0103】
シグナル伝達不能のCD63- sTNFR1を示すエキソソームを用いた大腸炎治療
マウスにおける十分に研究されたTNBS誘導大腸炎モデルを使用し、IBD患者で見られるサイトカインストーム、下痢、体重低下、及び腸の炎症をシミュレートした。24匹のマウスを1群あたり6匹で4つの治療群に分けた。マウスを、2%TNBSを含む150μlのオリーブオイル酢酸溶液を大腸炎誘導の1週間前に皮膚に塗布して前感作した。大腸炎を次いで、40%エタノールに1.5%TNBSを含有する100μl溶液を直腸注入して誘導した。大腸炎誘導の直後、200μl中30μgエキソソームを尾静脈に静脈内投与した。マウスに、割り当てられた治療群に応じてデコイシグナル伝達不能TNFR1-CD63エキソソーム、非修飾エキソソーム、シグナル伝達能力のあるTNFR1-CD63エキソソーム、又は模擬治療としてのPBSのいずれかを与えた。体重は毎日記録した。
【0104】
図2からわかるように、本発明によるデコイ受容体を含むエキソソームの投与は、マウスにおいて大腸炎の成功裡の治療をもたらす。シグナル伝達不能のデコイエキソソームが、誘導された大腸炎を数日以内により少ない体重減少で成功裡に治療するのに対し、非修飾エキソソームは中程度の効果を示す。シグナル伝達能力のあるデコイ受容体は、実際に状態を悪化させる。
【0105】
エキソソーム表面のCD63-sTNFR1のウエスタンブロット
エキソソーム表面のCD63-sTNFR1ポリペプチド構築物の存在を検証するために、ウエスタンブロットをTNFR1の細胞外部分に対して実施した。CD63-TNFR1構築物の予想分子量は、細胞溶解物試料及びエキソソーム試料の両方において37kDa参照バンド付近で見ることができる38.52kDaである。バンドはエキソソーム画分で非常に強いことから(15kDa周辺のバンドは無関係な非特異的バンドである)、融合タンパク質は極めて効率的にエキソソームに積み込まれる。
【0106】
TNFα媒介毒性の中和
TNFαに対する結合親和性を検証するために、ヒトTNF-αに対するシグナル伝達不能のCD63-TNFR1エキソソーム、シグナル伝達能力のあるCD63-TNFR1エキソソーム及びN2a細胞由来のエキソソームの中和活性を、以前に記載されているように(Austgulenら、1986; Khabarら、1995)アクチノマイシンDで処理したマウスWEHI 164細胞系において測定した。簡単には、WHEI 164細胞を96ウェルプレートに1×104細胞/ウェルで3通りに播種し、10% (v/v) FBSを補充したRPMI 1640培地で20時間培養した。この後に、2μg/mlアクチノマイシンDを含有する培地に連続的に希釈したエキソソーム(最終濃度:0.5~100ug/ml)を、細胞培養物に0.1ng/mlのヒトTNF-αと一緒に添加した。細胞を摂氏37℃で更に20時間インキュベートし、細胞生存能を比色MTTベースのCell Growth Determinationキット(Sigma、セントルイス、MO)を用いて分析した。ED50値は、Sigmaプロットソフトウェア(Systat software, Inc. リッチモンド、CA)を用いて複合s字状非線形回帰分析(complex sigmoid non-linear regression analysis)により計算した。
【0107】
シグナル伝達不能のシンデカン/CD63-sVEGFR1を示すエキソソーム及びリポソームの抗腫瘍有効性
30匹のマウスに、1×106 B16/F10黒色腫細胞を脇腹に0日目に移植した。マウスを次いで1群あたり6匹で5つの治療群に分けた。1週間後(7日目)、マウスは200μl中30μgエキソソームの静脈内注射を受けた。これを2日ごとに2週間繰り返した。マウスに、割り当てられた治療群に応じてシグナル伝達不能のシンデカン-sVEGFRIを含むエキソソーム、シグナル伝達不能のCD63-sVEGFR1エキソソーム、非修飾エキソソーム、及びシグナル伝達能力のあるCD63-sVEGFRIを含むエキソソーム、又は模擬治療としてのPBSを与えた。腫瘍体積を2日ごとに測定した。
【0108】
図4の矢印は、治療の開始を示している(7日目)。シグナル伝達不能のデコイsVEGFRIエキソソーム(シンデカン-sVEGFR1 EXO及びCD63-sVEGFR1 EXO)で治療したマウスは、治療後に最も低い腫瘍量を示した。非修飾エキソソームによる治療は、腫瘍サイズに対して中程度の効果があったのに対し、シグナル伝達能力のあるCD63-sVEGFR1を含むエキソソームによる治療は、模擬治療対照群と比べて悪化状態をもたらした。
【0109】
上記の実験を、ポリペプチドデコイ受容体の同じセットを含むリポソームでも繰り返し、類似した結果を得た。
【0110】
MDXマウスの治療
N2a細胞を150cm2フラスコあたり300万個で播種し、10%FBSを含むDMEMで増殖させた。24時間後、シグナル伝達不能のアクチビン-シンデカン又はシグナル伝達不能のアクチビン-シナプトタグミンをコードするプラスミドで、細胞をPEIトランスフェクトした。トランスフェクション4時間後、培地をOptiMEMに交換した。培地交換の72時間後、N2a細胞により産生されたエキソソームを限外濾過及び連続的LC精製により採取した。エキソソームは直ちに使用し、又は-20℃で保管した。MDXマウスを約18~19グラムの体重でCharles Riverから入手した。マウスを各群に6匹で4群に割り当てた。マウスは、エキソソーム又はPBSの注射を週に2回受けた。各注射前に体重を記録した。
【0111】
図5は、担体タンパク質シンデカン(黒の実線)又はシナプトタグミン(グレーの長い破線)のどちらかに融合した治療的デコイポリペプチド受容体アクチビンを含むエキソソームのMDXマウスにおける治療効果を示している。上記の治療的送達エキソソームによる週2回の治療は、非修飾エキソソームによる治療及び模擬治療よりかなり大きい体重増加をもたらした。
【0112】
上記の実験をカイロミクロンでも繰り返し、類似した結果を得た。
【0113】
神経炎症の治療
実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)のインビボモデルにおいて、デコイエキソソーム(上記に記載された)で治療したマウスは、著しく改善された疾患表現型を示した(数値×3)。EAEは、神経抗原(ミエリン塩基性タンパク質、MBP)及び完全フロイントアジュバント(結核菌(M. tuberculosis)を含有する)でマウスを免疫して誘導し、これに続いて百日咳毒素を注射して重度の及び確実なEAEを引き起こした。臨床症状を伴う疾患進行を、疾患発症から毎日記録した(12~28日目)。症状を重症度に基づきスコア化し(0=正常マウス;疾患の明らかな徴候なし; 1=だらりとした尾又は後肢脱力(ただし両方ではない); 2=だらりとした尾及び後肢脱力; 3=部分的な後肢麻痺; 4=完全な後肢麻痺; 5=瀕死状態; EAEによる死亡:人道的理由のため殺処分)、疾患状態を評価するのに使用される平均臨床スコアを得た。誘導されたEAEの有無にかかわらず、神経起源に由来するエキソソームで治療したマウスは、他の細胞起源由来のエキソソームの治療と比べて、痙攣及びこの後の死という結果となったことは注目に値する。他の細胞起源由来のエキソソームの治療においては、この現象が存在しなかった。図9は、以下の送達エキソソームの有効性を図示している:
・ IL6R+TNFR1を含むデコイエキソソーム
・ IL6Rを含むデコイエキソソーム
・ TNFR1を含むデコイエキソソーム
・ IL-1βRを含むデコイエキソソーム
・ 非修飾エキソソーム
・ 未治療対照
【0114】
図9からわかるように、IL6、IL-1β及びTNFαに対するシグナル伝達不能の受容体を示すデコイエキソソームで治療したEAEマウスは、模擬治療対照と比べて非常に穏やかな疾患徴候を示すのに対し、シグナル伝達能力のある(TNFR1シグナル伝達能力のある)治療的ポリペプチド受容体含有エキソソームで治療したマウスは疾患の悪化を示す。
【0115】
(請求項1)
ポリペプチド構築物をその膜に付着させて含む治療的送達小胞であって、前記ポリペプチド構築物が、前記送達小胞の外側に少なくとも部分的に存在する少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体に融合した少なくとも1つの担体ポリペプチドを含み、前記少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体がシグナル伝達不能である、治療的送達小胞。
(請求項2)
前記ポリペプチド構築物が膜貫通ポリペプチド構築物である、請求項1に記載の治療的送達小胞。
(請求項3)
前記少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体が、ペプチド(アミド)結合、チオエーテル結合、ジスルフィド架橋、ビオチン-ストレプトアビジン相互作用、及びこれらの任意の組合せを含む群から選択される化学結合を介して前記担体ポリペプチドに融合している、請求項1又は2に記載の治療的送達小胞。
(請求項4)
前記少なくとも1つの担体ポリペプチドが、Lamp2b、CD9、CD81、CD63、シンデカン、シナプトタグミン、ALIX、シンテニン、及びこれらの任意の組合せから選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の治療的送達小胞。
(請求項5)
前記送達小胞が、細胞外小胞、エキソソーム、微小胞、アポトーシス小体、微粒子、エクトソーム、プロスタトソーム、カルディオソーム、リポタンパク質粒子、LDL粒子、VLDL粒子、HDL粒子、カイロミクロン、リポソーム、脂質様粒子、リピドイド、及びこれらの任意の組合せを含む群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の治療的送達小胞。
(請求項6)
前記少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体が、以下の受容体ファミリー:インスリン、PDGF、FGF、EGF、VEGF、HGF、TRK、EPH、AXL、LTK、TIE、ROR、DDR、RET、KLG、PTCH1、RYK、MuSK、アクチビン、I型TGF、II型TGF、及びTNF、インターロイキン(IL)由来の受容体、並びにこれらの任意の組合せを含む群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の治療的送達小胞。
(請求項7)
医療において使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の治療的送達小胞。
(請求項8)
クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、サルコイドーシス、特発性肺線維症、乾癬、腫瘍壊死因子(TNF)受容体関連周期性症候群(TRAPS)、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト欠損症(DIRA)、子宮内膜症、自己免疫性肝炎、強皮症、筋炎、脳卒中、急性脊髄損傷、血管炎、ギラン-バレー症候群、急性心筋梗塞、ARDS、敗血症、髄膜炎、脳炎、肝不全、腎不全、移植片対宿主病、デュシェンヌ型筋ジストロフィー及び他の筋肉疾患、癌誘導性悪液質、食欲不審、糖尿病、神経炎症性疾患及び/又は障害、癌(例えばEGF、VEGF、FGFに感受性の癌)、結腸癌、乳癌、並びに神経膠腫の治療及び/又は予防において使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の治療的送達小胞。
(請求項9)
請求項1から6のいずれか一項に記載の治療的送達小胞及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物。
(請求項10)
少なくとも1つの担体ポリペプチドに融合した少なくとも1つの治療的ポリペプチドデコイ受容体を含む、シグナル伝達不能のポリペプチド構築物。
(請求項11)
請求項10に記載のシグナル伝達不能のポリペプチド構築物をコードするポリヌクレオチド構築物。
(請求項12)
請求項10に記載の少なくとも1つのポリペプチド構築物及び/又は請求項11に記載の少なくとも1つのポリヌクレオチド構築物を含む細胞。
(請求項13)
(i)少なくとも1つの細胞外小胞を含む試料を限外濾過に曝す工程と、
(ii)工程(i)から得ることができる試料をサイズ排除液体クロマトグラフィーに曝す工程と
を含む、細胞外小胞を精製する方法。
(請求項14)
細胞外小胞の産生収量を増加させる方法であって、前記細胞外小胞が得られる小胞産生細胞を少なくとも1つのオートファジー阻害剤に曝露する工程を含む、方法。
(請求項15)
前記少なくとも1つのオートファジー阻害剤が、ベクリン-1阻害剤、PI3K阻害剤(例えば3-メチルアデニン)、オートファゴソームとリソソームとの間の融合の阻害剤(例えばバフィロマイシンA及びクロロキン)、及びこれらの任意の組合せを含む群から選択される、請求項14に記載の方法。
(請求項16)
細胞外小胞中の代謝的に活性なタンパク質及び/又は抗アポトーシスタンパク質を富化する方法であって、前記細胞外小胞が得られる小胞産生細胞をストレス誘導条件に曝露する工程を含む、方法。
(請求項17)
前記ストレス誘導条件が酸素欠乏及び/又は血清飢餓である、請求項16に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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