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特許6999652青色カット、高UVカット及び高明瞭性を有する光学物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】青色カット、高UVカット及び高明瞭性を有する光学物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20220128BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
G02B5/22
G02C7/10
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019514080
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017073800
(87)【国際公開番号】W WO2018054988
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】16306206.0
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518182542
【氏名又は名称】エシロール アテルナジオナール
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】シウ, ハオ ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ジャルリ, アレフ
(72)【発明者】
【氏名】シャン, ハイフェン
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-535708(JP,A)
【文献】特開2010-111880(JP,A)
【文献】特表2012-522270(JP,A)
【文献】特表2013-526925(JP,A)
【文献】特表2012-532196(JP,A)
【文献】特表2015-520413(JP,A)
【文献】国際公開第2014/055513(WO,A3)
【文献】米国特許出願公開第2005/0243272(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0266505(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0004301(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0098058(US,A1)
【文献】国際公開第2010/111499(WO,A3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
400~460nmの範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタと、
UV光波長範囲内にその最大カットを有し、400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断するハイパスフィルタと、を含む強化された紫外線及び青色光遮断能力を有する透明光学物品であって、
前記透明光学物品は、波長範囲350~410nm内の各波長において、410nm以下の波長を有する光の少なくとも66%を遮断するものであり、
前記選択フィルタは、前記400~460nmの波長範囲内の光を少なくとも部分的に吸収する吸収染料であり、
前記吸収染料は、410~440nm波長範囲内で選択された波長を中心とした吸収ピークを有し、40nm以下の半値全幅を呈示する、透明光学物品。
【請求項2】
前記吸収染料は、30nm以下の半値全幅を呈示する、請求項1に記載の透明光学物品。
【請求項3】
前記吸収染料は、10nm以上の半値全幅を呈示する、請求項1又は2に記載の透明光学物品。
【請求項4】
前記吸収染料は、ポルフィン、ポルフィリン、ポルフィリン錯体又は誘導体である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の透明光学物品。
【請求項5】
前記透明光学物品は、前記吸収染料を含むポリマー基材を含み、前記吸収染料は、1~10ppmの範囲の濃度において前記ポリマー基材内に分散又は溶解されている、請求項乃至4のいずれか一項に記載の透明光学物品。
【請求項6】
前記ハイパスフィルタは、UV吸収剤である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の透明光学物品。
【請求項7】
前記UV吸収剤は、ベンゾトリアゾール化合物である、請求項6に記載の透明光学物品。
【請求項8】
前記ベンゾトリアゾール化合物は、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノールである、請求項7に記載の透明光学物品。
【請求項9】
前記透明光学物品は、その中に分散又は溶解されたポリマー基材を含み、前記UV吸収剤は0.1~2.0重量%の範囲の濃度である、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の透明光学物品。
【請求項10】
前記透明光学物品は、15%以上のBVC(B’)値を有する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の透明光学物品。
【請求項11】
前記透明光学物品は、5以下であるCIE(1976)L*a*b*国際比色分析系において定義される比色分析係数b*を有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の透明光学物品。
【請求項12】
前記選択フィルタ及びハイパスフィルタは、410nm以下の波長を有する光の通し透過率を相乗的やり方で低減する、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の透明光学物品。
【請求項13】
410nm以下の波長を有する光の基板までの通し透過率を低減するためのウェハであって、
透明ポリマー樹脂の混合物と、
400~460nm範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタと、
UV光波長範囲内にその最大カットを有し、400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断するハイパスフィルタと、を含み、
前記選択フィルタは、前記400~460nmの波長範囲内の光を少なくとも部分的に吸収する吸収染料であり、
前記吸収染料は、410~440nm波長範囲内で選択された波長を中心とした吸収ピークを有し、40nm以下の半値全幅を呈示する、ウェハ。
【請求項14】
前記ウェハは、408nm以下の波長を有する前記基板までの通し透過率を低減する、請求項13に記載のウェハ。
【請求項15】
ユーザの眼の少なくとも一部を光毒性青色光から保護するための請求項1乃至12のいずれか一項に記載の透明光学物品の使用。
【請求項16】
光学素子樹脂の青色カットの性能を強化するための方法であって、
透明ポリマー樹脂と、400~460nm範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタと、UV光波長範囲内でその最大カットを有し、400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断するハイパスフィルタとを、乾式混合、溶融混合、及び溶解混合からなるグループから選択されたプロセスにより混合する工程を含み、
前記選択フィルタは、前記400~460nmの波長範囲内の光を少なくとも部分的に吸収する吸収染料であり、
前記吸収染料は、410~440nm波長範囲内で選択された波長を中心とした吸収ピークを有し、40nm以下の半値全幅を呈示する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズの分野に関し、特に(眼鏡及びサングラス用の眼用レンズを含む)眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
400~500nm、より具体的には400~460nm、特に415~455nmの波長範囲における青色光は人間の眼に有害であり、加齢黄斑変性症(AMD)などのいくつかの眼の病気に影響を与えるとして説明されてきた。
【0003】
青色カットフィルタが、青色光を吸収する眼用レンズ中に追加され、レンズを通じ眼の中に入る青色光の透過を制限する。
【0004】
眼用レンズ素子内の青色カットを実現するために当該技術分野において使用される次の2つのタイプのフィルタが一般的には存在する:
- ノッチフィルタなど狭帯域内の青色波長範囲内の光を部分的に吸収する選択フィルタ、
- ある波長までのUV光波長範囲内の波長伝送を通常はカットし、400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断する高域通過フィルタ。
【0005】
青色カット目標を達成するために両方のフィルタが使用される可能性があるが、それぞれのフィルタはそれ自身の利点及び欠点を有する。
【0006】
選択フィルタは、レンズ基板(通常、透過率が≦1%である波長により定義されるUVカットを有する)自体の上の追加UV保護を提供しない。選択フィルタは通常、1.1mm中心厚さにおいて眼科品質等級ポリカーボネート(PC)樹脂レンズでは約380nmである。
【0007】
高域通過フィルタはレンズ基板の上の追加UV保護を提供する。高域通過フィルタを有する典型的PCレンズは400nm辺りのUVカットを有する。高域通過フィルタの取り込みは望ましくなく高い黄色度(YI:yellowness index)を有するレンズを生じる。
【0008】
優れた青色光及びUV光遮断能力を有するレンズ製品を消費者へ提供するためには、高域通過フィルタ及び選択フィルタの欠点に対処しなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示されるのは、両フィルタの利点(特に高青色カットと高UV保護)を実現するために選択フィルタと高域通過フィルタとを組み合わせる物品及び方法である。有害青色光を低減するための選択フィルタと高域通過フィルタとの協力的組み合わせはUVカット性能と共に最適青色カットを有するレンズを生じる。
【0010】
これらの2つの素子の協力的組み合わせはフィルタだけを使用する場合には実現可能でない低い黄色度と透過率の限界に近い低下とを保持する一方で良好な青色光保護と高度に低減された網膜細胞死とを伴うレンズの製造を可能にするということが分かった。本開示のいくつか態様は、ユーザの眼の少なくとも一部を光毒性青色光から保護するために使用される強化された紫外線及び青色光遮断能力を有する光学物品に向けられる。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明の光学物品は、400~460nm範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタと、UV光波長範囲内にその最大カットを有し400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断する高域通過フィルタとを含む。
【0012】
いくつかの態様では、光学素子は、波長範囲350~410nm内の各波長において(好適には波長範囲315~410nm内の各波長において)、約410nm以下の波長を有する光の少なくとも66%を遮断する。
【0013】
別の実施形態では、光学素子は、波長範囲350~408nm内の各波長において(好適には波長範囲315~408nm内の各波長において)、約408nm以下の波長を有する光の>95%を遮断する。
【0014】
いくつかの態様では、強化された紫外線及び青色光遮断能力を有する透明光学物品は、400~460nm範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタと、UV光波長範囲内にその最大カットを有し400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断する高域通過フィルタとを含み、この光学物品は、波長範囲350~410nm内の各波長において(好適には波長範囲315~410nm内の各波長において)、約410nm以下の波長を有する光の少なくとも66%を遮断する。
【0015】
本発明による選択フィルタは、特にそうするように構成されない限り、選択波長範囲外の波長の透過に対し殆ど影響しない又は全く影響しない一方で400~500nm範囲内で選択された選択範囲内の光の透過を選択的に禁止/遮断する。
【0016】
好適には、選択範囲は、400~460nm範囲、より好適には400~455nm範囲、又は400~450nm範囲内で選択される。
【0017】
より好適には、本発明による選択フィルタは好適には、選択波長範囲内の光の少なくとも5%、好適には少なくとも8%、より好適には少なくとも12%を遮断又はカットする。選択フィルタに対して定義される場合、特定波長範囲内の入射光の「遮断X%」は、当該範囲内のいくつかの波長が完全に遮断される(これは可能であるが)ことを必ずしも意味しない。むしろ、特定波長範囲内の入射光の「遮断X%」は当該範囲内の前記光の平均X%が透過されないことを意味する。本明細書で使用されるように、このようにして遮断される光は、少なくとも1つの光学的フィルタ手段を含む層が蒸着された光学物品の主面(通常は前主面)に到達する光である。
【0018】
選択範囲の帯域は好適には10~70nm(好適には10~60nm)の範囲であり得る。
【0019】
好適には、選択フィルタはノッチフィルタである。
【0020】
禁止率は、透過が妨げられる1つ又は複数の選択範囲の波長内の入射光のパーセントを指す(禁止率=(100-透過率))。
【0021】
いくつかの態様では、選択フィルタは400~460nm波長範囲内の光を少なくとも部分的に吸収する吸収染料である。
【0022】
いくつかの実施形態では、吸収染料は、410~440nm波長範囲内で選択された波長を中心とする吸収ピーク(選択波長範囲に関連する最小の透過率に対応する)を有し、40nm以下(好適には30nm以下、より好適には25nm未満、特に20nm未満、好適には5nm以上、さらに好適には10nm以上)の半値幅(FWHM:full width at half maximum)を呈示する。
【0023】
FWHMの定義はFWHM=λhigh-λlowである。ここで、λhighとλlowは吸収ピーク波長の両側に発生する。この両側では吸収は近似的に(ピーク吸収-基準吸収)/2である。
【0024】
FWHMはまた、吸収染料の吸光度スペクトル上で計算され得る。
【0025】
この場合のFWHMの定義はFWHM=λhigh-λlowである。ここで、λhighとλlowは吸光度ピーク波長の両側に発生する。この両側では吸収度は近似的に(ピーク吸収度-基準吸収度)/2である。
【0026】
当業者により知られているように、透過率値Tと吸収度値Aとの関係はA=2-log10%T(各波長において)である。
【0027】
吸収染料の吸光度スペクトルのFWHM値は吸収に関して上に定義したものと同じ範囲内で選択される。
【0028】
好適な吸収染料は塩化メチレンにおいて200L.g-1.cm-1より高い比吸光係数を有する。特に、好適な吸収染料Aは、塩化メチレンにおいて300L.g-1.cm-1より高い、好適には400L.g-1.cm-1より高い、通常は500L.g-1.cm-1より高い比吸光係数を有する。
【0029】
好適な吸収染料はExcitonにより提供されるABS420TMである。
【0030】
選択された波長範囲を有する光を少なくとも部分的に禁止するためのフィルタとして働き得る吸収染料の化学的性質は、吸収染料が選択フィルタとして働く限り、特に制限されない。青色光遮断染料(通常は、黄色染料)は好適には、他の色の出現を最小化するために可視スペクトルの他の部分において殆ど吸収度を有しない又は全く有しないように選択される。
【0031】
選択フィルタとして使用され得る吸収染料の実施例は国際公開第2013/084177号パンフレットに説明されている。
【0032】
それらの染料の間では、ポルフィン/ポルフィリン族に関係する染料が好適である。
【0033】
ポルフィリンは、メチン橋を介しそれらの炭素原子において相互接続される4つの修飾ピロールサブユニットで構成された周知の大員環化合物である。
【0034】
親ポルフィリンはポルフィリンであり、置換されたポルフィリンはポルフィリンと呼ばれる。ポルフィリンは、錯体を形成(配位)するために金属を結び付ける配位子の共役酸である。
【0035】
いくつかのポルフィリン又はポルフィリン錯体又は誘導体は、いくつかのケースでは、選択された青色波長範囲内で例えば20nm以内のFWHMを有する選択吸収フィルタを提供するという点で興味がある。選択性特性は分子の対称性により部分的に提供される。このような選択性は、色の視覚認知の歪みを制限し、暗所視に対する光フィルタリングの有害な影響を制限し、日周期リズムに対する影響を制限するのを助ける。
【0036】
例えば、1つ又は複数のポルフィリン又はポルフィリン錯体又は誘導体は、クロロフィルa;クロロフィルb;5,10,15,20-テトラキス(4-スルホナトフェニル)ポルフィリンナトリウム塩錯体;5,10,15,20-テトラキス(N-アルキル-4-ピリジル)ポルフィリン錯体;5,10,15,20-テトラキス(N-アルキル-3-ピリジル)ポルフィリン錯体、及び5,10,15,20-テトラキス(N-アルキル-2-ピリジル)ポルフィリン錯体からなるグループから選択される。ここで、アルキルは好適には、鎖当たり1~4個の炭素原子を含む直鎖又は分岐アルキル鎖である。例えば、アルキルはメチル、エチル、ブチル及びプロピルからなるグループから選択され得る。
【0037】
錯体は通常金属複合体であり、金属はCr(III)、Ag(II)、In(III)、Mn(III)、Sn(IV)、Fe(III)、Co(II)、Mg(II)及びZn(II)からなるグループから選択される。Cr(III)、Ag(II)、In(III)、Mn(III)、Sn(IV)、Fe(III)、Co(II)、Zn(II)及びCuカチオンは、鮮明な吸収ピークを有する425nm~448nmの範囲内の水中の吸収性を実証する。
【0038】
さらに、これらが提供する錯体は安定であり、酸に敏感ではない。特に、Cr(III)、Ag(II)、In(III)、Sn(IV)、Fe(III)は室温で蛍光を呈示しない。
【0039】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のポルフィリン又はポルフィリン錯体又は誘導体は、マグネシウムメソ-テトラ(4-スルホナトフェニル)ポルフィリンテトラナトリウム塩、マグネシウムオクタエチルポルフィリン、マグネシウムテトラメシチルポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、テトラキス(2,6-ジクロロフェニル)ポルフィリン、テトラキス(o-アミノフェニル)ポルフィリン、テトラメシチルポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン、亜鉛オクタエチルポルフィリン、亜鉛テトラメシチルポルフィリン、亜鉛テトラフェニルポルフィリン、及び非プロトン化テトラフェニルポルフィリンからなるグループから選択される。
【0040】
いくつかの実施形態では、高域通過フィルタはUV吸収剤である。
【0041】
一実施形態では、UV吸収剤高域通過フィルタはベンゾトリアゾール化合物である。特定の実施形態では、ベンゾトリアゾール化合物は2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノールである。
【0042】
好適には、高域通過フィルタとして使用されるUV吸収剤は蛍光性ではない。
【0043】
いくつかの実施形態では、樹脂組成物は、1~10ppm、好適には1~5ppm、より好適には1~2ppmの範囲の選択フィルタ濃度を含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、樹脂組成物は高域通過フィルタとして0.1~2.0重量%(樹脂組成物の重量に基づく)のUV吸収剤を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、光学物品は、≧15%、より好適には≧18%、より良好には≧20%のBVC(B’)値を有する。いくつか態様では、光学物品は、5以下であるCIE(1976)L国際比色分析系で定義されるような比色分析係数bを有する。いくつか態様では、光学物品は4又は3以下であるCIE(1976)L国際比色分析系で定義されるような比色分析係数aを有する。
【0046】
いくつかの実施形態では、本発明の光学物品は、少なくとも13%、好適には少なくとも17%、より好適には少なくとも19%のRCARを提供する。
【0047】
いくつかの実施形態では、選択フィルタ及び高域通過フィルタは約408nm以下の波長を有する光の通し透過率を加法的なやり方又は相乗的なやり方で低減する。
【0048】
いくつかの実施形態では、物品はさらに色バランス添加剤を含む。
【0049】
いくつかの態様では、光学素子は95%より大きい(より好適には96%より大きい)透過率Tvを有する。いくつか態様では、光学素子は6未満の黄色度を有する。
【0050】
本開示の別の目的は、約410nm(好適には408nm)以下の波長を有する光の基板までの通し透過率を低減するためのウェハであって、透明ポリマー樹脂の混合物と、400~460nm範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタと、UV光波長範囲内にその最大カットを有し約410nm又は408nm以下の波長を有する光の基板までの通し透過率を低減するために400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断する高域通過フィルタと、を含むウェハを提供することである。
【0051】
いくつか態様では、ウェハは、透明ポリマー樹脂、選択フィルタ、及び高域通過フィルタを含む少なくとも1つの層を含む。いくつかの実施形態では、ウェハはさらに色バランス添加剤を含む。ウェハはユーザの眼の少なくとも一部を光毒性青色光から保護する。
【0052】
いくつか態様では、選択フィルタとしての吸収染料はポルフィン、ポルフィリン、及び/又はポルフィリン錯体又は誘導体である。
【0053】
いくつかの実施形態では、高域通過フィルタはベンゾトリアゾール化合物である。特定実施形態では、ベンゾトリアゾール化合物は2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノールである。
【0054】
いくつかの実施形態では、ウェハ又はウェハ層は1~10ppmの範囲の濃度において選択フィルタとして働く吸収染料を含む。いくつかの実施形態では、ウェハ又はウェハ層は高域通過フィルタとして働く0.1~2.0重量%(ウェハ又はウェハ層の重量に基づく)のUV吸収剤を含む。いくつかの実施形態では、ノッチフィルタ及び高域通過フィルタは、約408nm以下の波長を有する光の通し透過率を加法的やり方又は相乗的やり方で低減する。
【0055】
光学物品は当該技術分野で知られた方法により作製され得る。
【0056】
吸収染料は1~10ppmの範囲の濃度においてポリマー基材内で分散又は溶解され得る。
【0057】
UV吸収剤は0.1~2.0重量%の範囲の濃度においてポリマー基材内で分散又は溶解され得る。
【0058】
好適なポリマー基材はポリカーボネートである。
【0059】
吸収染料及びUV吸収剤は被覆内に取り込まれ、基板上に塗布され、こうして最終光学物品を形成し得る。
【0060】
本開示の目的は、透明ポリマーベース樹脂の青色カット性能を強化するプロセスを提供することであり、本プロセスは、透明ポリマーベース樹脂と、400~460nm範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタとしての吸収染料と、UV光波長範囲内にその最大カットを有し400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断する高域通過フィルタとしてのUV吸収剤とを混合する工程と、樹脂組成物を光学物品に成形する工程とを含む。いくつか態様では、樹脂組成物は、乾式混合、溶融混合、及び溶解混合からなるグループから選択されたプロセスにより光学物品に成形される。
【0061】
いくつか態様では、選択フィルタは吸収染料であり、好適にはABS420TMである。特定態様では、選択青色フィルタとしての吸収染料はABS420TMである。いくつかの実施形態では、高域通過フィルタはベンゾトリアゾール化合物である。特定実施形態では、ベンゾトリアゾール化合物は2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノールである。いくつかの実施形態では、樹脂組成物は1~10ppmの範囲の濃度における選択フィルタとして吸収染料を含む。いくつかの実施形態では、樹脂組成物は高域通過フィルタとして0.1~2.0重量%(樹脂組成物の重量に基づく)のUV吸収剤を含む。いくつかの実施形態では、ノッチフィルタ及び高域通過フィルタは約410nm以下の波長を有する光の通し透過率を加法的やり方又は相乗的やり方で低減する。
【0062】
いくつかの実施形態では、光学物品は、ポリカーボネートポリマを含む樹脂組成物と、400~460nm範囲内で選択された波長範囲内の青色光を少なくとも部分的に遮断する選択フィルタと、UV光波長範囲内にその最大カットを有し400~500nm範囲内の青色光を部分的に遮断する高域通過フィルタとで作られる。
【0063】
いくつか態様では、レンズ、膜、ラミネート、ウェハ、又はノッチフィルタなどの選択フィルタ及び高域通過フィルタを含む他の光学物品が、ユーザの眼の少なくとも一部を光毒性青色光から保護するために使用される。
【0064】
開示された組成及び/又は方法のうちの任意のものの任意の実施形態は説明した素子及び/又は特徴及び/又は工程のうちの任意のものからなる又はそれから本質的になる(それを含む/有するというよりむしろ)。したがって、特許請求の範囲のうちの任意のものにおいて、用語「からなる」又は「から本質的になる」は、そうでなければ開放型連結動詞を使用するであろうものから所与の請求項の範囲を変更するために、上記列挙された開放型連結動詞のうちの任意のもので置換され得る。
【0065】
用語「ほぼ」及びその変形形態は、当業者により理解されるように、大まかにではあるが必ずしも完全にではなく規定されたものであるとして定義され、1つの非限定的実施形態では、10%以内、5%以内、1%以内、又は0.5%以内の範囲をほぼ指す。
【0066】
化合物を指す場合の「類似物」は、1つ又は複数の原子が他の原子により置換された、又は1つ又は複数の原子が化合物から削除された、又は1つ又は複数の原子が化合物へ添加された修飾化合物、又はこのような修飾化合物の任意の組み合わせを指す。原子のこのような添加、削除又は置換は、化合物を含む一次構造に沿った任意の点又は多数の点において発生し得る。
【0067】
親化合物に関連する「誘導体」は、少なくとも1つの置換基が親化合物又はそれの類似物内に存在する化学的に修飾された親化合物又はその類似物を指す。このような1つの非限定的例は共有結合的に修飾された親化合物である。典型的修飾は、アミド、炭水化物、アルキル基、アシル基、エステル、PEG化物などである。
【0068】
用語「約」又は「近似的に」又は「ほぼ不変」は、当業者により理解されるものに近いものとして定義され、1つの非限定的実施形態では、同用語は10%以内、好適には5%以内、より好適には1%以内、そして最も好適には0.5%以内であると定義される。さらに、「ほぼ非水性」は水の重量又は体積で5%、4%、3%、2%、1%以下を指す。
【0069】
特許請求の範囲及び/又は本明細書における用語「含む」と併せて使用される冠詞は「1つ」を意味し得るが、「1つ又は複数」、「少なくとも1つ」、及び「1つ、又は2つ以上」の意味にも一致する。
【0070】
本明細書及び特許請求の範囲において使用されるように、用語「含む」(及びその任意の活用形)及び「有する」(及びその任意の活用形)は、包括的又は開放型であり、追加の未列挙素子又は方法工程を排除しない。
【0071】
組成及びそれらの使用のための方法は、本明細書を通じて開示される成分又は工程のうちの任意のものを「含み」、「それから本質的になり」又は「それからなり」得る。移行期「から本質的になる」に関して、1つの非限定的態様では、本明細書において開示される組成及び方法の基本的及び新規特徴は青色光に光学物品を通過させる組成の能力を含む。
【0072】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は以下の詳細説明から明らかになる。しかし、詳細説明及び実施例は本発明の特定実施形態を示すが例示目的のためだけに与えられるというこことを理解すべきである。加えて、本発明の精神及び範囲内の変更と修正は本詳細説明から当業者にとって明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】ノッチフィルタと高域通過フィルタとを通る光透過率を描写するグラフである。
図2】TinuvinTM326とABS420TMのフィルタ効率を比較するために2つのレンズのYIに対してプロットされたレンズRCARのグラフである。
図3】TinuvinTM326、ABS420TM、又はこれら2つの組み合わせを含むレンズのYIに対してプロットされたレンズRCARのグラフである。
図4】青色光ハザード関数B’(λ)(相対的スペクトル効率)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
様々な特徴及び有利な詳細は、添付図面に示され以下の明細書に詳述される非限定的実施形態を参照してより十分に説明される。しかし、詳細説明と具体例は実施形態を示すが例示目的のためだけに与えられており限定するためではないということを理解すべきである。様々な置換、修正、追加、及び/又は再構成が本開示から当業者にとって明らかになる。
【0075】
以下の説明では、多くの具体的詳細が、開示実施形態を完全に理解するために提供される。しかし、当業者は、本発明はこれらの特定詳細のうちの1つ又は複数の特定詳細無しに、又は他の方法、部品、材料等により、実行され得るということを認識することになる。他の例では、よく知られた構造、材料、又は操作は、本発明の態様を不明瞭にすることを避けるために詳細に図示又は説明されない。
【0076】
本開示では、選択フィルタと高域通過フィルタは、得られるレンズのYIの著しい増加及びTの低下%無しに両方のフィルタの利点(特に高青色カット及び高UV保護)を実現するために組み合わせられる。選択フィルタ及び高域通過フィルタは、高青色カットと高UVカットとの両方をレンズに与えるために、ウェハ内又はバルク内のフィルタを介しレンズ中に取り込まれ得る。
【0077】
本開示の方法の1つの利点は余分な処理工程が必要でないということである。両方のフィルタは混合され、同じウェハ又はレンズ中に取り込まれ得る。
【0078】
レンズの青色カットは通常、次式により定義される:
青色光カット(%)=100-Tsb
【数1】
ここで
T(λ):5nmピッチによる透過率(%)
sλ(λ):太陽スペクトル照射(ISO8980-3:Annex B)
B(λ):青色光ハザード関数(ISO8980-3:Annex B)
【0079】
青色カットの性能は下記式に従って測定され得る。
【数2】
ここで
T(λ):0°入射において測定される所与の波長における5nmピッチによる透過率(%)
B(λ):青色光ハザード関数(ISO8980-3のAnnex B)
B’(λ):図4(相対的スペクトル関数効率)に示される青色光ハザード関数(Arnault et al.,PlosOne,2013)。
【0080】
前記光ハザード関数はParis Vision InstituteとEssilor International間の作業の結果である。
【0081】
次表は、BVC(B’)の計算において使用されたB’(λ)について記す:
【0082】
【表1】
【0083】
レンズの青色カット性能は、特定透過スペクトルに対応するその色外観へ直接リンクされる透過率T(λ)の関数である。
【0084】
したがって、レンズが一定青色カット性能を実現するために一貫しかつ安定した色を有することが重要である。RCARと主としてBVC(B’)が、レンズ青色カット性能の測度として本明細書では使用される。
【0085】
レンズの光保護性能PP又はRCAR(網膜細胞死低下:Retinal Cell Apoptosis Reduction)は、レンズANFの無い光誘起細胞死率により除算されたレンズANFのフィルタリングの無い光誘起細胞死率とレンズAを有する光誘起細胞死率との差として判断される:
RCAR(%)=(ANF-A)/ANF
【0086】
RCARは、網膜細胞死A2E充填網膜色素上皮細胞上に青色フィルタを備えたレンズの効果を測定することによる生体外測定結果により測定され得る。
【0087】
A2E充填網膜色素上皮細胞を含むこの生体外モデルは 論文審査された科学的Journal PlosOneにおいて2013年8月23日に発行されたArnault, Barrauらの“Phototoxic Action Spectrum on a retinal Pigment Epithelium model of Age-Related macular Degeneration Exposed to Sunlight Normalized Conditions”(ウェブサイトplosone.orgで入手可能)に詳細に説明されている。
【0088】
狭帯域光源又は広帯域可視光源を使用する生体外測定結果は2016年3月4日に本出願人の名のもとに申請された欧州特許第16158842.1号明細書に説明されている。
【0089】
RCARの測定はまた、欧州特許第16158842.1号明細書に記載の実験的生体外結果に関連する計算モデルを使用することにより本発明のレンズの透過スペクトルから直接計算され得る。
【0090】
独創的光学物品の黄色さの程度YIは、C光源2°観察者による、標準規格ASTM E313に記載されたようなCIE三刺激値X、Y、Zに基づく比色分析測定により定量化され得る。本発明による光学物品は好適には、上記標準規格に従って測定されるように5未満の低い黄色度YIを有する。黄色度Yiは、関係式YI=(127.69×-105.92Z)/Yを介しASTM方法E313に基づき計算される、ここでX、Y及びZはCIE三刺激値である。
【実施例
【0091】
PC青色カットレンズ作製
以下に説明されるレンズ作製方法は、SABICにより供給されるレキサンPC樹脂と、Excitonにより供給されるABS420TM選択フィルタとBASFにより供給されるTinuvinTM326高域通過フィルタの一方又は両方とを組み合わせて採用した。樹脂は、様々なフィルタ濃度でもって混合され、次に、BOY射出成形機を使用してレンズ中に射出成形された。レンズ仕様は60mm直径を有する1.1mmプラノ平坦レンズだった。
【0092】
実施例1.ABS420TMだけを有するプラノレンズ
表1は、ABS420TMだけを含んだレンズの結果を含む。レンズ青色カット性能は、パラメータRCARにより判断され、ABS420TM濃度と相関付けられた。レンズUVカットは4つのレンズサンプルに対して383nmで一定のままだったが、レンズのYIは増加しT%は若干減少した。
【0093】
【表2】
【0094】
実施例2.TinuvinTM326だけを有するプラノレンズ
表2は、TinuvinTM326だけを含んだレンズの結果を含む。レンズの青色カット性能及びUVカットはTinuvinTM326濃度の増加と共に増加した。レンズのYIも増加したがT%はほぼ不変であった。
【0095】
【表3】
【0096】
図2はフィルタの青色カット効率を比較するためにYIに対してプロットされたRCARのグラフである。より急峻な傾斜はより高い青色カット効率に対応する。
【0097】
TinuvinTM326レンズはRCARの同じレベルにおいてより黄色に見える。
【0098】
したがって、ABS420TMはRCARに基づきTinuvinTM326より効率的であると結論付けられる。
【0099】
実施例3.TinuvinTM326及びABS420TMを有するプラノレンズ
表3は、TinuvinTM326及びABS420TMを含んだレンズの結果を含む。ABS420TMとTinuvinTM326とを混合することにより、高青色カット(すなわち高RCAR及び高UVカット)がT%及びYIへの無視できる影響でもって実現された。最良結果は、ABS420TM濃度1ppmと0.3%のTinuvinTM326濃度に対して観測された。同様な結果は表4に含まれる実施例において観測された。
【0100】
【表4】
【0101】
図3において、レンズRCARは、混合されたTinuvinTM326とABS420TMのYIに対してプロットされ、TinuvinTM326だけとABS420TMだけを有するものと比較された。TinuvinTM326とABS420TMとの両方を有するレンズは、単一成分レンズとの中間であるがABS420TMにより近い値を提示した。
【0102】
【表5】
【0103】
実施例4.TinuvinTM326及びABS420TMを有する度数付きレンズ
FSV(完成単焦点)-6.00レンズ(72mm直径、1.3mmCT)が、ABS420TM、TinuvinTM326、又はその2つの組み合わせいずれかにより成形された。HMC処理レンズ(欧州特許第614号明細書の実施例3に記載のハード被覆及び反射防止被覆Crizal Forteを有する)と非被覆レンズとの両方の中心におけるレンズ特性が測定され表5に列挙された。表5は、混合されたABS420TMとTinuvinTM326により作製されたレンズが約400nm(最高UV波長)におけるUVカットを依然として維持する一方で同じRCARにおいて低い黄色さを呈示するということを示す。
【0104】
【表6】
【0105】
実施例4のレンズもそれらの端部において測定され、ΔEは、中心と端との間の色ムラを判断するために次に示すCIE76式を使用して計算された。通常、より低いΔEはより少ない色ムラを意味する。結果は表6に示される。
【数3】
【0106】
【表7】
【0107】
混合されたABS420TM及びTinuvinTM326により作製されたレンズは、ABS420TMだけを有するレンズとTinuvinTM326だけを有するレンズとの中間のΔE値を呈示する。
【0108】
TinuvinTM326と共にABS420TMをPC樹脂中に混合することにより、同等青色カットレベルが、2つの成分のいずれか単独によるものよりはるかに少ない装填において実現され得る。得られたレンズは、ABS420TMだけを使用することによるものを越える改善されたUVカットを呈示する。同じ青色カットレベルにおいて、ABS420TM+TinuvinTM326は色均一性を損なうことなく低い黄色さ(レンズ美学的問題にとって重要な特徴)を表した。
【0109】
特許請求の範囲は、ミーン・プラス・ファンクション又はステップ・プラス・ファンクション制限が語句「~する手段」又は「~する工程」それぞれを使用することにより所与の請求項において明示的に列挙されない限りこのような制限を含むと解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4