IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ノルディック・ビオサイエンス・エー/エスの特許一覧

<>
  • 特許-ニドゲン-1フラグメントアッセイ 図1
  • 特許-ニドゲン-1フラグメントアッセイ 図2
  • 特許-ニドゲン-1フラグメントアッセイ 図3
  • 特許-ニドゲン-1フラグメントアッセイ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ニドゲン-1フラグメントアッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20220203BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20220203BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
G01N33/574 A
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/53 U
G01N33/536 C
G01N33/536 B
C07K14/78 ZNA
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019514319
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 EP2017072973
(87)【国際公開番号】W WO2018050671
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】1615746.3
(32)【優先日】2016-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】503259129
【氏名又は名称】ノルディック・ビオサイエンス・エー/エス
【氏名又は名称原語表記】NORDIC BIOSCIENCE A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ヴィロムセン,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ベーヤ,セシリエ・リーヴ
(72)【発明者】
【氏名】バイ・イェンセン,アネ‐セシリエ
(72)【発明者】
【氏名】キレス‐アルバレス,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】カースダル,モルテン
(72)【発明者】
【氏名】ウアスネス‐レーミング,ディエーナ
(72)【発明者】
【氏名】マノン‐イェンセン,ティーナ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-521098(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0267574(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0270254(US,A1)
【文献】Lin Li et al,Nidogen-1: a candidate biomarker for ovarian serous cancer,Japanese Journal of Clinical Oncology,2014年11月06日,Volume 45, Issue 2,176-182
【文献】Sage J et al,Cleavage of Nidogen-1 by Cathepsin S Impairs Its Binding to Basement Membrane Partners,PLoS ONE,2012年08月28日,7(8):,e43494
【文献】Kalluri, R,Basement membranes: structure, assembly and role in tumour angiogenesis,Nature Reviews Cancer,2003年06月01日,3,422-433
【文献】Loser Reik, Pietzsch Jens,Cysteine cathepsins: their role in tumor progression and recent trends in the development of imaging probes,Frontiers in Chemistry,2015年06月23日,3,37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを診断または定量化するためのデータを提供するための方法であって、
患者の生体液試料を得るステップと、
前記前記試料中に天然に存在する、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1のフラグメントを測定するイムノアッセイを実施するステップと、
前記患者における前記測定値の、正常レベルを超える上昇をがんの存在または程度と関連させるステップと
を含み、ここで、前記イムノアッセイが、
前記試料中に天然に存在する前記N末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1の前記フラグメントを、前記N末端またはC末端ネオエピトープと特異的に反応するが未切断のニドゲン1とは反応しない免疫学的結合パートナーと接触させるステップと、 前記試料中の前記ネオエピトープを含むフラグメントを測定するために、前記N末端またはC末端ネオエピトープと前記免疫学的結合パートナーとの結合の程度を測定するステップと
を含む方法によって実施される、方法。
【請求項2】
前記がんが、乳がんまたは非小細胞肺がんである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫学的結合パートナーが、
…CQHERE(配列番号1)
…YSLLPL(配列番号2)
…IIRQDL(配列番号3)
からなる群から選択されるC末端ネオエピトープと特異的に反応し、または
APVGGI…(配列番号4)
HILGAA…(配列番号5)
GSPEGI…(配列番号6)
からなる群から選択されるN末端ネオエピトープと特異的に反応する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記免疫学的結合パートナーが、C末端ネオエピトープVEKTRCQHERE-COOH(配列番号7)と特異的に反応する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫学的結合パートナーが、短縮されたC末端配列VEKTRCQHER-COOH(配列番号8)と反応せず、かつ/または、前記免疫学的結合パートナーが、伸長されたC末端配列VEKTRCQHEREH-COOH(配列番号9)と反応しない、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫学的結合パートナーが、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
抗がん薬の効能を評価するためのデータを提供するための方法であって、
少なくとも2つの生物学的試料について、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1のフラグメントの量を定量化するイムノアッセイを実施するステップを含み、ここで、前記生物学的試料が、対象への前記抗がん薬の投与期間中の第1の時点および後続する少なくとも1つの時点において前記対象から得られたものであり、前記抗がん薬の前記投与期間中の前記第1の時点から前記後続する少なくとも1つの時点にかけての、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1の前記フラグメントの量の減少が、効果的な抗がん薬であることを示しており、
前記イムノアッセイが、前記試料中に天然に存在する前記N末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1の前記フラグメントを、前記N末端またはC末端ネオエピトープと特異的に反応するが未切断のニドゲン1とは反応しない免疫学的結合パートナーと接触させるステップと、前記試料中の前記ネオエピトープを含むフラグメントを測定するために、前記N末端またはC末端ネオエピトープと前記免疫学的結合パートナーとの結合程度を測定するステップとを含む方法によって実施される、方法。
【請求項8】
前記免疫学的結合パートナーが、
…CQHERE(配列番号1)
…YSLLPL(配列番号2)
…IIRQDL(配列番号3)
からなる群から選択されるC末端ネオエピトープと特異的に反応し、または
APVGGI…(配列番号4)
HILGAA…(配列番号5)
GSPEGI…(配列番号6)
からなる群から選択されるN末端ネオエピトープと特異的に反応する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫学的結合パートナーが、C末端ネオエピトープVEKTRCQHERE-COOH(配列番号7)と特異的に反応する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫学的結合パートナーが、短縮されたC末端配列VEKTRCQHER-COOH(配列番号8)と反応せず、かつ/または、前記免疫学的結合パートナーが、伸長されたC末端配列VEKTRCQHEREH-COOH(配列番号9)と反応しない、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫学的結合パートナーが、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の方法において使用するための診断キットであって、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープと特異的に反応するが未切断のニドゲン1とは反応しない免疫学的結合パートナーと、以下:
- ストレプトアビジン被覆96ウェルプレート
- 任意選択的にリンカーがビオチン残基とペプチドとの間に位置している、前記N末端またはC末端ネオエピトープのアミノ酸配列に対応するビオチン化ペプチド
- サンドイッチイムノアッセイで使用されるビオチン化二次抗体
- 前記N末端またはC末端ネオエピトープのアミノ酸配列に対応する較正ペプチド
- 抗体HRP標識キット
- 抗体放射能標識キット
- アッセイ視覚化キット
の少なくとも1つと
を含む、診断キット。
【請求項13】
ビオチン化ペプチドであるビオチン-L-VEKTRCQHERE-COOH(配列番号10)(式中、Lは任意選択のリンカーである)、および、C末端配列VEKTRCQHERE-COOH(配列番号11)を含む較正ペプチドを含む、請求項12に記載の診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1のフラグメントを測定するアッセイ、ならびにがんの診断および抗がん薬の評価のための前記アッセイの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍微小環境の主成分は細胞外マトリックス(ECM)である。健常な組織恒常性の崩壊およびECMの代謝回転の変化は、疾患の進行をもたらすかもしれないがんの特徴である(1)。基底膜(BM)は、上皮細胞、内皮細胞および間葉細胞を裏打ちし、かつそれらを包囲する特殊なECM層であり、組織構造および細胞極性化の維持や、胚の発生に必須である(2)。BMはまた、細胞浸潤およびBMの破損に対する障壁としても働き、BMの完全性の喪失は、がんにおける浸潤性表現型に関連している(3)。
【0003】
ニドゲンは、ほぼすべてのBMに見られる高度に保存されたタンパク質である(4)。2つの異なるニドゲンとして、ニドゲン-1(エンタクチン)およびニドゲン-2が存在する。ニドゲン-1は、最も広く発現し、2つの棒状ドメインによって接続された3つの球状ドメイン(G1、G2、およびG3)を含む。ニドゲン-1は、他のBMタンパク質、すなわち、IV型コラーゲン、パールカン、ラミニンの間のリンカーとして働く(5)。ニドゲン-1はまた、BM変化の直接の結果として、ニドゲン欠損マウスで観察された肺および心臓の異常ならびに周産期死亡(7)から明らかなように、BMの構築および安定化において重要な役割を果たす(6)。
【0004】
ニドゲン-1が乳腺上皮細胞における特異的遺伝子発現を調節できることも示されている(8)。β-カゼインの発現をニドゲンの質/組成の関数として調査したとき、ラミニン-1結合ドメインを含有するがIV型コラーゲン結合ドメインを欠くニドゲンのフラグメントは、β-カゼインの発現を減少させることができた。対照的に、IV型コラーゲン結合ドメインを含有するがラミニン-1結合ドメインを欠くニドゲンのフラグメントではそうならなかった。これは、ニドゲンが、BM完全性の維持に加えて、BM誘導性遺伝子発現において生理的役割を有し、それがニドゲンの質/組成に影響されることを示している。
【0005】
Sageら(9)は、ニドゲン-1がカテプシン-S(CatS)の基質であり、CatSが正常組織および腫瘍組織の両方で見られることを示した。しかし、正常組織および腫瘍組織におけるCatSによるニドゲン切断の生理的関連は未知のままであった。
【0006】
カテプシンはがんにおいて重要な役割を果たす可能性があると考えられている(10)。Sageらが述べるように、CatSは正常組織および腫瘍組織で産生され、CatSが腫瘍関連マクロファージ(TAM)によって産生されることも明らかにされている(11)。CatSは、様々ながんタイプにおける増殖、血管新生、遊走、浸潤、および転移に関連する(11~14)。しかし、Kosら(21)は、がんの進行におけるCatSの役割が、細胞外マトリックスの再構築ではなく免疫応答に強く関連していることを示した。
【発明の概要】
【0007】
出願人は、CatSによって分解されたニドゲン-1が、がんにおけるバイオマーカーとしての潜在能力を有することを見出した。理論に拘泥するものではないが、これは、BM完全性の喪失、前がん事象と関連していることが公知である現象、および浸潤性表現型を反映していると仮定される。したがって、本発明の目的は、ニドゲン-1のCatS分解によって産生されたバイオマーカーを使用して、がんの非侵襲的評価を可能にすることであった。
【0008】
第1の態様では、本発明は、がんを診断または定量化する方法であって、患者の生体液試料を得るステップと、前記試料中に天然に存在する、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1のフラグメントを測定するイムノアッセイを実施するステップと、前記患者における前記測定値の、正常レベルを超える上昇をがんの存在または程度と関連させるステップとを含み、前記イムノアッセイが、
前記試料中に天然に存在する前記N末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1のフラグメントを、そのN末端またはC末端ネオエピトープと特異的に反応するが未切断の(インタクトな)ニドゲン-1とは反応しない免疫学的結合パートナーと接触させるステップと、前記試料中の前記ネオエピトープを含むフラグメントを測定するために、前記N末端またはC末端ネオエピトープと前記免疫学的結合パートナーとの結合の程度を測定するステップとを含む方法によって実施される、方法に関する。
【0009】
がんは、乳がんであっても非小細胞肺がん(NSCLC)であってもよい。
【0010】
好ましくは、免疫学的結合パートナーは、
…CQHERE(配列番号1)
…YSLLPL(配列番号2)
…IIRQDL(配列番号3)
からなる群から選択されるC末端ネオエピトープと特異的に反応し、または
APVGGI…(配列番号4)
HILGAA…(配列番号5)
GSPEGI…(配列番号6)
からなる群から選択されるN末端ネオエピトープと特異的に反応する。
【0011】
好ましくは、C末端ネオエピトープと特異的に反応する免疫学的結合パートナーは、前記C末端において短縮されたおよび/または伸長された配列とは反応しない。同様に、N末端ネオエピトープと特異的に反応する免疫学的結合パートナーは、好ましくは、前記N末端において短縮されたおよび/または伸長された配列とは反応しない。「伸長された(elongated)」は、本明細書で使用する場合、配列が1または複数のアミノ酸によって伸長されていることを意味する。「短縮された(truncated)」は、本明細書で使用する場合、配列から1または複数のアミノ酸が削られていることを意味する。好ましい一実施形態では、免疫学的結合パートナーは、C末端ネオエピトープVEKTRCQHERE-COOH(配列番号7)と特異的に反応する。好ましくは、免疫学的結合パートナーは、短縮されたC末端配列VEKTRCQHER-COOH(配列番号8)と反応せず、かつ/または、伸長されたC末端配列VEKTRCQHEREH-COOH(配列番号9)と反応しない。
【0012】
免疫学的結合パートナーは、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0013】
前述の診断方法は、NSCLCの患者と他のがんタイプの患者とを区別するのに使用することができる。これに関して、本方法は、好ましくは、前述の方法を実施するステップと、正常レベルを少なくとも30%を超えて上回る前記患者における前記測定値の上昇をNSCLCの存在と関連付けるステップとを含む。
【0014】
別の一態様では、本発明は、抗がん薬の効能を評価する方法であって、
少なくとも2つの生物学的試料について、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1のフラグメントの量を定量化するイムノアッセイを実施するステップを含み、ここで、前記生物学的試料が、対象への前記抗がん薬の投与期間中の第1の時点および後続する少なくとも1つの時点において前記対象から得られたものであり、前記抗がん薬の前記投与期間中の前記第1の時点から前記後続する少なくとも1つの時点にかけての、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1の前記フラグメントの量の減少が、効果的な抗がん薬であることを示しており、
前記イムノアッセイが、前記試料中に天然に存在する前記N末端またはC末端ネオエピトープを有するニドゲン-1の前記フラグメントを、前記N末端またはC末端ネオエピトープと特異的に反応するが未切断のニドゲン1とは反応しない免疫学的結合パートナーと接触させるステップと、前記試料中の前記ネオエピトープを含むフラグメントを測定するために、前記N末端またはC末端ネオエピトープと前記免疫学的結合パートナーとの結合程度を測定するステップとを含む方法によって実施される、方法に関する。
【0015】
好ましくは、免疫学的結合パートナーは前述の通りである。
【0016】
さらなる一態様では、本発明は、前述の方法において使用する診断キットであって、カテプシン-Sによるニドゲン-1の切断によって形成されるN末端またはC末端ネオエピトープと特異的に反応するが未切断の(インタクトな)ニドゲン1とは反応しない免疫学的結合パートナー、および、以下:
- ストレプトアビジン被覆96ウェルプレート
- 任意選択的にリンカーがビオチン残基とペプチドとの間に位置している、N末端またはC末端ネオエピトープのアミノ酸配列に対応するビオチン化ペプチド
- サンドイッチイムノアッセイで使用されるビオチン化二次抗体
- N末端またはC末端ネオエピトープのアミノ酸配列に対応する較正ペプチド
- 抗体HRP標識キット
- 抗体放射能標識キット
- アッセイ視覚化キット
のうちの少なくとも1つを含む、診断キットに関する。
【0017】
好ましくは、アッセイキットは、ビオチン化ペプチドであるビオチン-L-VEKTRCQHERE-COOH(配列番号10)(式中、Lは任意選択のリンカーである)、および、C末端配列VEKTRCQHERE-COOH(配列番号11)を含む較正ペプチドを含む。
【0018】
[定義]
用語「抗体」は、本発明に従って最も広い意味で使用され、特に、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、およびそれらが所望の生物活性を示す限り抗体フラグメントに及ぶ。
【0019】
本発明による「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の一部を含み、好ましくはその抗原結合または可変領域を含む。抗体フラグメントの例として、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、およびFcフラグメントが挙げられる。
【0020】
本発明による「ニドゲン-1のフラグメント」は、ニドゲン-1のCatS切断によって産生されるペプチドフラグメントを意味する。
【0021】
本発明による「N末端またはC末端ネオエピトープ」は、ニドゲン-1のCatS切断部位で形成されたN末端またはC末端エピトープを意味する。例えば、以下のニドゲン-1の配列は、
…CQHERE↓HILGAA…
記号「↓」で示すようにCatSによってE693-H694ペプチド結合間の部位で切断された場合、N末端ネオエピトープHN-HILGAA…(配列番号5)およびC末端ネオエピトープ…CQHERE-COOH(配列番号1)を産生する。
【0022】
用語「正常レベル」は、本明細書では、集団中の健常な個体と一致するレベル/量を意味するのに使用される。これは通常、対照試料の中央値±標準偏差に相当する。
【0023】
「NIC」は、本明細書で使用する場合、C末端ネオエピトープVEKTRCQHERE-COOH(配列番号7)を含むニドゲン-1のフラグメントを指す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】NICアッセイの特異性に関しする図である。A)選択ペプチド(VEKTRCQHERE;配列番号11)、伸長された選択ペプチド(VEKTRCQHEREH;配列番号16)、短縮された選択ペプチド(EVEKTRCQHER;配列番号15)、ナンセンス選択ペプチド(APVGGIIGWM;配列番号12)、およびナンセンススクリーニングペプチド(ビオチン-APVGGIIGWM;配列番号13)を用いて試験した競合NIC-2 ELISAにおける所与の濃度での阻害率。%B/B0、BはxnMのペプチドのODに匹敵し、B0は0nMのペプチドのODに匹敵する。B)ヒト組換えニドゲン-1(Nid-1)を、カテプシンS(CatS)ならびにマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-1、-7、および-9を用いて切断した後に測定したNICレベル。検出下限レベル(LLOD)より低い値にはLLODを割り当てた。MMP-1、-7、および-9のすべてを表す。
図2】2つの研究コホートからの血清中のNICの評価を示す図である。A)Proteogenex試料;B)Asterand試料。箱およびひげは、最小から最大までのデータを示す。データは、多重比較用に調整した一元配置ANOVAによって比較した。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。NSCLC:非小細胞肺がん;SCLC:小細胞肺がん。
図3】腫瘍ステージに応じた血清中のNICの評価を示す図である。試料を腫瘍ステージに応じてプールした。データを各がんタイプが識別できる散布図として表示する。データは、多重比較用に調整した一元配置ANOVAによって健常対照と比較した。***p<0.001、****p<0.0001。NSCLC:非小細胞肺がん;SCLC:小細胞肺がん。
図4】NSCLCと、この研究に包含される他のすべてを合わせた試料(乳がん、SCLC、および健常対照)とを分けるNICの能力を評価する受信者動作特性(ROC)分析を示す図である。AUC:ROC曲線下面積;NSCLC:非小細胞肺がん;SCLC:小細胞肺がん
【発明を実施するための形態】
【0025】
[材料および方法]
<ペプチドの選択>
ニドゲン-1の以下の3つの主なCatS切断部位(↓)を、N末端配列決定により事前に同定した(9)。
1)NH-…LLPL459↓APVG…、G2ドメインの中央部に位置する;
2)NH-…HERE693↓HILG…、G3ドメインに隣接するサイログロブリン様(Tg)ドメインに位置する;および
3)NH-…RQDL859↓GSPE…、G3ドメインのN末端部に位置する。
【0026】
抗体の産生およびイムノアッセイの開発のために、球状ドメインの外側からN末端方向に向けて生じるC末端ネオエピトープ…HERE693に対応するタンパク質分解切断を選択した。
【0027】
ニドゲン-1の選択されたCatS切断部位に特異的な抗体を作製するために、切断部位に隣接する11個のアミノ酸の配列を標的として選択した:VEKTRCQHERE↓(配列番号7)。このアミノ酸配列を選択ペプチドの設計に使用した。配列を、UniprotKB/Swiss-protデータベース(15)と共にNPS@:Network Protein Sequence Analysis(ネットワークタンパク質配列分析)を使用して、他のヒトタンパク質との相同性に関してブラスト解析し、ヒトニドゲン-1に特有のものであることが分かった。
【0028】
ストレプトアビジン被覆プレートを被覆するために、ビオチン化スクリーニングペプチド(ビオチン-VEKTRCQHERE;配列番号10)を含めた。抗体の特異性に関して試験するために、切断部位に最も近い1個のアミノ酸を欠く短縮された選択ペプチド(EVEKTRCQHER;配列番号15)および切断部位のC末端に追加アミノ酸を付加して伸長された選択ペプチド(VEKTRCQHEREH;配列番号16)に加え、ナンセンス選択ペプチド(APVGGIIGWM;配列番号12)およびナンセンスビオチン化スクリーニングペプチド(ビオチン-APVGGIIGWM;配列番号13)をアッセイ開発に含めた。後者の2つは、G2ドメインの中央部に位置する切断部位に対応する(↓APVG…)。スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、すなわち、SMCC(Thermo Scientific、Waltham、MA、USA、カタログ番号22336)を使用して、選択ペプチドをキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体タンパク質に共有結合的に架橋することにより、免疫原性ペプチド(KLH-VEKTRCQHERE;配列番号14)を作製した。NICに使用した合成ペプチドを表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
合成ペプチドはすべてAmerican Peptide Company、Vista、CA、USAから購入した。
【0031】
<抗体の開発>
6週齢のBALB/cマウス(n=6)を、フロイント不完全アジュバント(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO、USA)を使用して乳化された抗原200μLおよび免疫原性ペプチド(KLH-VEKTRCQHERE;配列番号14)50μgにより皮下免疫した。安定した血清抗体力価レベルに達するまで、免疫を2週間毎に繰り返し、2回目の免疫から血液試料を収集した。最も高い抗体力価を有するマウスを1カ月間休息させ、次いで、免疫原性ペプチド50μgを含む0.9%塩化ナトリウム溶液100μLを、静脈内投与により追加免疫した。3日後、脾臓を細胞融合のために単離した。融合手順は別記の通りに実施した(16)。簡単に説明すると、マウス脾臓細胞をSP2/0骨髄腫細胞と融合させて、ハイブリドーマ細胞を生成した。ハイブリドーマ細胞を培養皿でクローニングし、限界希釈法を使用して、モノクローナル増殖を生じさせた。10ng/mLのスクリーニングペプチドおよび増殖させたモノクローナルハイブリドーマ細胞からの上澄み(抗体を含有)を用い、ストレプトアビジン被覆マイクロタイタープレート(Roche、Basel、Switzerland、カタログ番号11940279)上での予備ELISAにおいて、ヒト血清試料および選択ペプチド(VEKTRCQHERE;配列番号11)を用いた置換法により、モノクローナル抗体の天然の反応性およびペプチド結合を評価した。反応性が最も高いクローンを、Gタンパク質カラムを使用して、製造業者の使用説明書(GE Healthcare Life Sciences、Little Chalfont、UK、カタログ番号17-0404-01)に従って精製した。選択ペプチド(VEKTRCQHERE;配列番号11)とのみ競合的に反応し、かつ切断された選択ペプチド(EVEKTRCQHER;配列番号15)、伸長された選択ペプチド(VEKTRCQHEREH;配列番号16)、およびナンセンス選択ペプチド(APVGGIIGWM;配列番号12)とは反応しない能力に関するスクリーニングには、2つのハイブリドーマクローンが適合した。さらなるアッセイ開発のために1つのハイブリドーマクローン(NB613-12)を選択した。最適なインキュベーション緩衝液、インキュベーション時間、およびインキュベーション温度、ならびに抗体およびスクリーニングペプチドの最適濃度をチェッカーボード分析から決定した。
【0032】
<インビトロでのニドゲン-1のタンパク質分解>
ヒト組換え(hr-)ニドゲン-1(R&D Systems、Minneapolis、MN、USA、カタログ番号2570-ND)を、CatS-緩衝液(100mMのNaHPO(HO)、2mMのDTT、0.01%のBrij-35、pH7.4)またはMMP-緩衝液(50mMのTris、150mMのNaCl、10mMのCaCl、10μMのZnCl、pH7.5)に溶解させて、125μg/mlの最終濃度にした。最終濃度1.25μg/mlとしたhr-カテプシンS(Calbiochem、Whitehouse Station、NJ、USA、カタログ番号219343)、hr-MMP-1(R&D Systems、カタログ番号901-MP)、hr-MMP-7(R&D Systems、カタログ番号907-MP)、またはhr-MMP-9(R&D Systems、カタログ番号911-MP)を添加して、酵素とタンパク質の比を1:100としたニドゲン-1溶液、または上記酵素を添加していないニドゲン-1溶液を、37℃で1時間および24時間インキュベートした。選択されたMMPは、ニドゲン-1を分解することが以前示されている(17、18)。酵素活性試験を、ニドゲン-1の実際の切断と同時に行った。CatS-溶液およびMMP-溶液それぞれにE-64またはEDTA(最終濃度1μM)を添加することによって反応を停止させた。関連するプロテアーゼを含むCatS-緩衝液およびMMP-緩衝液を対照として含めた。実験を2回繰り返した。分析まで試料を-80℃で保存した。ニドゲン-1の切断を、製造業者の使用説明書(SilverXpress(登録商標)、Invitrogen、カタログ番号LC6100)に従って銀染色することで確認した(データは示さず)。
【0033】
<NICアッセイプロトコル>
競合ELISAの手順は以下の通りであった。96ウェルのストレプトアビジン被覆マイクロタイタープレートを、アッセイ緩衝液(50mMのTris-BTB、8g/LのNaCl、pH8.0)に溶解させた2.5ng/mlのスクリーニングペプチド(ビオチン-VEKTRCQHERE;配列番号10)で被覆した。プレートを暗所にて20℃で30分間インキュベートし、その後、洗浄緩衝液(20mMのTris、50mMのNaCl、pH7.2)で5回洗浄した。20μlの選択ペプチド(VEKTRCQHERE;配列番号11)または試料(例えば血清)を適切なウェルに添加した。これに続いて、アッセイ緩衝液に溶解させたモノクローナル抗体100μlを直ちに添加して、濃度を20ng/mlにした。プレートを20℃で3時間インキュベートし、続いて、洗浄緩衝液で5回洗浄した。次いで、アッセイ緩衝液で1:6000希釈したヤギ抗マウスPOD共役IgG抗体(Thermo Scientific、Waltham、MA、USA、カタログ番号31437)100μl(最終濃度130ng/ml)を各ウェルに添加した。プレートを20℃で1時間インキュベートし、続いて、洗浄緩衝液で5回洗浄した。次に、100μLのテトラ-メチル-ベンジニジン(benzinidine)(Kem-En-Tec、Taastrup、Denmark、カタログ番号438OH)を添加し、プレートを20℃で15分間インキュベートし、次いで、100μlの停止溶液(1%のHSO)を添加した。すべてのインキュベーション工程は、プレートを300rpmで振とうさせながら行った。最後に、光学濃度をVersaMax ELISAマイクロプレートリーダーにおいて450nmで測定し、参照は650nmとした。較正曲線のプロットには4パラメータ数学的フィットモデルを使用した。データは、SoftMax Pro v.6.3ソフトウェアを使用して分析した。
【0034】
<NIC ELISAの技術的評価>
検出下限(LLOD)は、ゼロ試料(アッセイ緩衝液)の21回の測定から決定し、平均+3標準偏差(SD)として計算した。検出上限(ULOD)は、標準曲線で用いた最大選択ペプチド濃度の10回の独立実行から決定し、平均逆較正濃度+3SDとして計算した。定量下限(LLOQ)は、血清中の定量可能な最大NIC2-レベルとして計算し、30%未満の変動係数が段階希釈した血清試料の3回の独立実行から再現された。アッセイ内変動は、プレート内の平均変動係数(CV%)として計算し、アッセイ間変動は、プレート間の平均CV%として計算した。アッセイ間およびアッセイ内変動は、8つの品質対照試料の10回の独立実行、および検出範囲(LLOD~ULOD)にわたる2つの内部対照によって決定し、各実行は試料の二重決定からなる。8つの試料には、2つのヒト血清試料、選択ペプチドでスパイクした2つの動物血清試料、および選択ペプチドでスパイクした4つのヒト血清試料プールがあった。ヒト血清および血漿-EDTA試料の2倍希釈物を使用して、未希釈試料の希釈回収率として直線性を計算した。ヒト血清および血漿-EDTA試料を選択ペプチドの2倍希釈物でスパイクし、予想濃度(血清およびペプチドを合わせたもの)を参照として使用してスパイク回収率を計算することによって精度を決定した。試料の繰り返し凍結融解の効果を、4回の凍結/融解サイクルにおいて3つのヒト血清試料および血漿-EDTA試料に関して決定した。凍結融解回収率を参照として第1サイクルを用いて計算した。4℃または20℃のいずれかで24時間保存した後、3つのヒト血清試料および血漿-EDTA試料の分析物安定性を判定した。回収率を参照として-20℃で保存した試料を用いて計算した。低/高含量のヘモグロビン(0.155/0.310mM)、脂肪血症/脂質(4.83/10.98mM)、およびビオチン(30/90ng/ml)を既知濃度の血清試料に添加することによって干渉を決定した。回収率を参照として正常血清試料を用いて計算した。
【0035】
<患者試料>
血清試料は2つのコホートからなるものであった。概要を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
適切な施設内審査委員会/独立倫理委員会が試料収集を承認し、全患者がインフォームドコンセントを提出した。第1コホートは、市販ベンダーProteogenex(Culver City、CA、USA)から入手した。第2コホートは、市販ベンダーAsterand(Detroit、MI、USA)から取得したがん患者試料と、別の研究集団(登録番号KA99070gm)から得られた健常対照試料との組合せであった。デンマークの法律によれば、以前収集した試料のバイオマーカーを測定する際に追加の倫理審査による承認を得る必要はない。全調査をヘルシンキ宣言に従って行なった。
【0038】
<統計分析>
NICの血清レベルを、Holm-Sidak検定による多重比較用に調整した一元配置ANOVAによって比較した。受信者動作特性(AUROC)曲線下の面積を、NICの診断能力の評価に使用した。p<0.05の場合、データを統計的に有意とみなした。GraphPad Prism v6.05およびMedCalc Statistical Software v14.8.1を使用して、統計分析を実施した。
【0039】
[結果]
<NICアッセイの特異性>
競合NIC ELISAの特異性は、選択ペプチド(VEKTRCQHERE;配列番号11)によって誘発された阻害率を、伸長された選択ペプチド(VEKTRCQHEREH;配列番号16)、短縮された選択ペプチド(EVEKTRCQHER;配列番号15)、ナンセンス選択ペプチド(APVGGIIGWM;配列番号12)およびナンセンススクリーニングペプチド(ビオチン-APVGGIIGWM;配列番号13)の場合と比較して評価することにより判断した(後者の2つは、ニドゲン-1のG2ドメインの中央部に位置する切断部位に対応する)。結果を図1Aに示す。選択ペプチドは明らかにシグナルを用量依存的に阻害したが、一方、シグナルは、最高濃度の短縮されたペプチド、伸長されたペプチドおよびナンセンスペプチドによってわずかに阻害されただけであった。ナンセンススクリーニングペプチドに対する反応性は検出されなかった。さらに、ニドゲン-1をCatSおよび様々なMMPと共にインキュベートすることによって生成したNICのレベルを調査した。図1Bに示すように、CatSはNICを時間依存的に生成したが、プロテアーゼなしの場合も、MMP-1、MMP-7、またはMMP-9と共にインキュベートした場合も、NICを生成しなかった。ニドゲン-1をCatSと共に24時間インキュベートした後、約5倍高いレベルのNICが検出された。概して、これは、抗体が特異的であり、アッセイがCatSによってアミノ酸位置693で切断されたニドゲン-1を正確に測定していることを示している。
【0040】
<NICアッセイの技術的評価>
NICアッセイの全体的な技術的性能を表3に列挙する。
【0041】
【表3】
【0042】
アッセイは、3.1nMのLLODおよび260nMのULODを有した。LLOQは3.2nMであった。アッセイ内変動は9%、アッセイ間変動は14%であり、それぞれ許容レベルの10%および15%未満であった。100±20%以内の場合、全分析物回収率を許容した。希釈回収率は、血清および血漿-EDTAに関してそれぞれ104%および92%であり、試料の希釈時に良好な直線性を示した。また、標準ペプチドのスパイク回収率が血清(91%)および血漿-EDTA(94%)において許容され、これらの試料マトリックスがアッセイ応答に影響を及ぼさないことが示された。分析物は、血清および血漿-EDTAの両方について、4回の凍結融解サイクルの後にそれぞれ95%および85%の回収率で回収された。また、分析物を4℃および20℃で24時間保存した後に回収したところ、4℃および20℃それぞれにおいて血清では88%および82%の回収率、ならびに血漿-EDTAでは90%および98%の回収率が得られた。概して、これは、分析物が比較的安定であることを示している。低または高含量のビオチン、脂質(脂肪血症)、またはヘモグロビンのいずれからも干渉は検出されず、回収率は81%~105%の範囲であった。
【0043】
<肺がん、乳がん、および健常対照の患者からの血清におけるNICレベルの評価>
NICレベルを、2つの異なる患者コホートからの血清において測定した。図2Aに示すように、NICは、健常対照および乳がん患者と比較してNSCLC患者からの血清において有意に上昇した(p>0.05)。NSCLC患者のNIC中央値は、13.1~51.1nMの範囲にある20nMであった。乳がん患者のNIC中央値は6.9~17.3nMの範囲にある13.3nMであり、健常対照のNIC中央値は8.9~14.4nMの範囲にある12.4nMであった。図2Bに示すように、NICは、健常対照(p<0.001)、乳がん患者(p<0.01)およびSCLC患者(p<0.05)と比較して、NSCLC患者からの血清において有意に上昇した。このコホートでは、NSCLC患者のNIC中央値は、7.6~22.1nMの範囲にある13.4nMであった。SCLC患者のNIC中央値は7.6~13.7nMの範囲にある10.4nMであり、乳がん患者のNIC中央値は3.3~16.2nMの範囲にある9.8nMであり、健常対照のNIC中央値は4.0~15.1nMの範囲にある9.7nMであった。NICレベルはまた、がんにおける重要な臨床パラメータである腫瘍ステージに従って評価した。すべてのがんを合わせた結果を図3に示す。詳細には、健常対照と比較して、疾患のすべてのステージでNICレベルが上昇したが、ステージ間で差は検出されなかった。これは、NICが腫瘍ステージと関係なく生成されることを示している。
【0044】
NSCLCについてのNICの診断能力を分析するために、両方のコホートをプールし、「NSCLC」対「その他すべて」にグループ分けし、AUROCを計算した。AUROCは、0.83(95%信頼区間:0.71~0.95)、p<0.0001であった。ROC曲線ならびに推定最適カットオフ値における感受性および特異性を図4に示す。これらの知見は、NICがNSCLC患者と他の合わせた対象とを区別できることを示している。概して、本発明の知見は、NICがNSCLCと非常に関連している可能性があることを示唆している。
【0045】
[考察]
本明細書では、CatSによって特異的に分解されたニドゲン-1のフラグメント(NIC)の非侵襲的測定を可能にするロバスト競合NIC ELISAの開発および検証を記載している。さらに、これは、CatSによって特異的に分解されたニドゲン-1が、がん、特にNSCLCのためのバイオマーカーとしての潜在能力を有することを初めて示すものである。
【0046】
ニドゲン-1のCatS切断は、C末端配列VEKTRCQHERE(配列番号7)を有するネオエピトープを含有する特異的フラグメント(NIC)の放出をもたらした。
【0047】
本明細書に記載のNICアッセイによって測定されるようなNICレベルの上昇は、乳がん、SCLC、および健常対照の患者と比較して、NSCLCの患者からの血清において検出された。これは、NSCLC患者がニドゲン-1のCatS介在分解を増大させたことを示唆しており、他のすべての対象と比較した場合のNSCLCにおけるNICの診断精度(AUROC 0.83)によりさらに裏付けられた。さらに、NICレベルは、患者の腫瘍における特定の病理学的事象の指標となり得、この病理学的事象は、分析した他のがんタイプと比較してNSCLCとより関連しているように思われる。
【0048】
NICレベルが疾患、特にNSCLCのすべてのステージにおいて上昇したことから、これは、ニドゲン-1のCatS分解が腫瘍ステージとは無関係に疾患の初期および後期の両方で進行しており、NICが疾患の早期発症において適用され得ることを示している。
【0049】
抗がん薬の効能に関して、腫瘍微小環境をモジュレートするため、ならびに腫瘍収縮または化学療法薬および標的療法のより効率的な送達を得るための可能な介入としてECM修飾薬が現在研究されている。興味深いことに、CatSの抗体媒介性遮断が化学療法の効能を高めることが示されている(19)。さらに、この抗体は固形腫瘍の治療のための直接的戦略として示唆されている(20)。したがって、NICアッセイは、どの患者がそのような治療から利益を得る可能性が最も高いかを予測するため、または治療の初期効能を監視するために使用できるであろう。
【0050】
NICアッセイの重要なパラメータは、ロバスト性、すなわち、技術的および分析的評価と関係がある。NICの技術的評価には、検出範囲、感受性、アッセイ間およびアッセイ内変動、直線性/精度(希釈回収率)、分析物安定性、および干渉の確立が包含され、これらはすべて許容範囲内であった。NICアッセイの分析的評価は、アッセイの特異性、およびアッセイが血清/血漿-EDTAにおいて検出するように設計された分析物を検出するかどうかを指す。特異性は、置換分析(図1A)、ならびに、インタクトなニドゲン-1および切断されたニドゲン-1に対する反応性の試験(図1B)によって評価した。精度は、分析物を関連するマトリックス(血清および血漿-EDTA)にスパイクし、回収率を(許容範囲内で)計算することによって評価した。したがって、NICアッセイは、技術的および分析的にロバスト性を示した。
【0051】
結論として、CatS分解ニドゲン-1は、技術的にロバストなNICアッセイにより血清において定量化することができる。乳がん患者、SCLC患者、および健常対照と比較して、NSCLC患者においてNICレベルは上昇した。したがって、NICアッセイは、がんのための非侵襲的バイオマーカーとして役立ち得、腫瘍生物学への重要な洞察を提供し得る。
【0052】
本明細書では、明確に別段の指示がない限り、用語「または(or)」は、条件のうちの一方のみを満たすことが必要とされる「排除的または」とは対照的に、規定の条件のいずれか一方または両方を満たす場合に真値を返す演算子の意味で使用される。用語「含む(comprising)」は、「からなる(consisting of)」の意味ではなく、「包含する(including)」の意味で使用される。上記で認められた従来技術はすべて、参照により本明細書の一部をなすものとする。本明細書におけるいかなる先行公開文書の認識も、その教示がその日時における技術常識であったことの承認または表明であると解釈されるべきではない。
【0053】
参照文献
【表4A】
【表4B】
【表4C】
図1
図2
図3
図4
【配列表】
0006999653000001.app