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特許6999680高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物
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  • 特許-高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物 図1
  • 特許-高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物 図2
  • 特許-高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物 図3
  • 特許-高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物 図4
  • 特許-高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-18
(54)【発明の名称】高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/662 20060101AFI20220111BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20220111BHJP
【FI】
H01H33/662 E
H01B3/12 304
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019540612
(86)(22)【出願日】2018-01-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2018050166
(87)【国際公開番号】W WO2018137903
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2019-09-26
(31)【優先権主張番号】102017201326.5
(32)【優先日】2017-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ベンケルト,カトリン
(72)【発明者】
【氏名】ハルトマン,ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】コレツコ,マルティン
【審査官】北岡 信恭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-182877(JP,A)
【文献】特表2013-517607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0062316(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/66-33/68
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの軸対称の絶縁性構造要素(2)を備えた、高電圧装置または中電圧装置(3)用の絶縁体構造物であって、
前記絶縁性構造要素(2)は少なくとも2つの環状の基部領域(4)を有し、前記基部領域(4)は環状の遮断領域(6)によって互いに分離されており、
前記遮断領域(6)の材料の比誘電率は、少なくとも2つの環状の前記基部領域(4)の材料の比誘電率より少なくとも2倍高く、
対称軸(10)の方向における前記基部領域(4)の長さ範囲(8)は、5mm~50mmであり、
前記対称軸(10)の方向における前記遮断領域(6)の長さ範囲(12)は、0.1mm~5mmであること
を特徴とする絶縁体構造物。
【請求項2】
前記遮断領域(6)の材料の比誘電率が、前記基部領域(4)の比誘電率より少なくとも5倍高いことを特徴とする、請求項1に記載の絶縁体構造物。
【請求項3】
前記遮断領域(6)の材料が、チタン酸塩を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の絶縁体構造物。
【請求項4】
前記基部領域(4)の材料が、5~25の比誘電率を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁体構造物。
【請求項5】
前記遮断領域(6)の材料の比誘電率は、10~10,000であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁体構造物。
【請求項6】
前記基部領域(4)の間に配置される前記遮断領域(6)の長さ範囲(12)に対する、前記基部領域(4)の長さ範囲(8)の比が、10~100であることを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の絶縁体構造物。
【請求項7】
前記高電圧装置または中電圧装置(3)は、開閉装置であることを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の絶縁体構造物。
【請求項8】
前記絶縁性構造要素(2)の内壁(28)に遮蔽要素(14)が取り付けられていることを特徴とする、請求項に記載の絶縁体構造物。
【請求項9】
前記遮蔽要素(14)は遮断領域(6)内に、または遮断領域(6)に配置されていることを特徴とする、請求項に記載の絶縁体構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧装置または中電圧装置、特に開閉装置における絶縁材料として、頻繁に絶縁性材料としてセラミック材が使用される。これらの固体の絶縁性は一般的に非常に高く、セラミック材の格子構造または粒子構造の欠陥により、特に72kVより上の高電圧において絶縁破壊を起こす可能性がある。すなわち、破壊電界強度Ebdは、これらの材料において、臨界電圧、または臨界電位以上で得られる。しかしながら、上述の欠陥に影響される臨界破壊電界強度Ebdは、セラミック絶縁体を単に厚く、またはより長く構成することのみでは増加させることができない。これは、絶縁体の厚さまたは長さを増大させることによって、破壊電界強度Ebdが線形に増加するのではなく、絶縁体の厚さまたは長さとその破壊電界強度との間に、実質的に平方根の関連性があるためである。すなわち、絶縁体の厚さまたは長さが大きく増加することによって、破壊電界強度の比較的小さい増加しか達成することができない。したがって、この厚さと破壊電界強度との間の平方根の関連性のために、破壊電界強度の著しい増加を達成するためには、絶縁材料または絶縁要素の材料面積を過度に増大させる必要がある。これは、技術的にある程度までは可能であるが、経済的には実現不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の課題は、一定の幾何学的範囲において、従来技術に比べて絶縁体構造物の破壊電界強度の増加を確実にする、高電圧装置または中電圧装置用の絶縁体構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本課題の解決策は、請求項1の特徴を有する高電圧装置および中電圧装置用の絶縁体構造物にある。
【0005】
請求項1にかかる高電圧装置または中電圧装置用の本発明にかかる絶縁体構造物は、軸対称に構成されている少なくとも1つの構造要素を有する。構造要素の典型的な対称構成は円筒形であるが、これは円錐形でもよく、楕円形の歪曲の断面も基本的に技術的に可能である。ここで、構造要素は少なくとも2つの環状基部領域を有し、これらは同様に環状の遮断領域によって互いに分離されている。ここで、環状とは円筒形であると理解され、これは同様に円錐形または中空円錐形でもよく、円形または楕円形の断面を有する。本発明は、遮断領域の材料の誘電率が、基部領域の材料の誘電率の少なくとも2倍高いことを特徴とする。
【0006】
基部領域に比べて遮断領域の誘電率を少なくとも2倍に明確に増加させた絶縁体構造物の2つの基部領域間に、複数の遮断領域または少なくとも1つの遮断領域を挿入することによって、高電圧装置によって誘起される電界の電界強度が、遮断領域において基部領域に比べて明確に減少する。これらは電界の弱い領域と呼ばれるが、無電界領域が理想である。この電界の弱まりは、基部領域の材料の比誘電率と、遮断領域の比誘電率との比によって決定される。これにより、セラミックは内部で短い軸方向の部分に電気的に分割され、これにより、区分および絶縁体構造物全体の電気強度が大幅に増加する。
【0007】
ここで、電気伝導率または電気関数とも呼ばれる誘電率εとは、電界に対する材料の透過率であると理解される。真空も、電界定数εとも呼ばれる誘電率を有する。ここで、物質の比誘電率εは、物質の実際の誘電率εと電界定数εとの比から生じる。
【0008】
ε=ε/ε
【0009】
ここで以下では、誘電率とはそれぞれ式1に記載した比誘電率εについて述べる。
【0010】
基部領域と遮断領域との比誘電率間の2倍の差によって、遮断領域内の電界に既に著しい減衰を観察することができる。しかしながら、基本的に、遮断領域における電界の弱まり、ひいてはこれによってもたらされる、電気的に互いに分離された領域における基部領域の分割はより強く作用し、遮断領域における比誘電率がより高くなり、すなわち遮断領域の誘電率と基部領域の誘電率との間の係数がより大きくなる。ここで、遮断領域の比誘電率が基部領域の誘電率より少なくとも5倍高い場合が更に有利であり、特に、遮断領域の比誘電率が基部領域の誘電率より少なくとも10倍高い場合が有利であり、また少なくとも100倍高い場合が特に有利であることが判明した。
【0011】
そのような高い誘電率は、特にチタン酸塩、すなわちチタン酸の塩、特にチタン酸バリウムによって達成することができる。ここで、有利な組合せは、基部領域の材料として酸化アルミニウムまたは酸化アルミニウムを含む材料と、遮断領域用のチタン酸塩、特にチタン酸バリウムまたはチタン酸カルシウムに基づく材料である。酸化チタンも高い誘電率を有し、遮断領域の材料または材料成分として適している。
【0012】
基部領域の材料の比誘電率は、通常、好ましくは5~25である。ここで、比誘電率は、述べたように、総誘電率と電界定数εとの比率から生じる無単位数である。これに対し、遮断領域の材料の比誘電率は基部領域の比誘電率の少なくとも2倍であり、すなわち少なくとも10の値を有し、10~10,000の範囲にある。特に好ましくは、遮断領域の比誘電率は100~10,000の範囲、特に有利には1,000~10,000の範囲にある。
【0013】
本発明のさらなる実施形態では、対称軸の方向における基部領域の長さ範囲は、5mm~50mmの値であることが好ましい。基部領域のこの長さ領域において、絶縁体構造物または構造要素が特に良好に分割されることが分かった。同じことが、0.1mm~5mmである遮断領域の長さ範囲にも当てはまる。
【0014】
同様に、それぞれの基部領域の長さ範囲と、それに付随する遮断領域のそれぞれの長さ範囲との比が、10~100の値を有することも好ましい。
【0015】
記載された絶縁体構造物が、高電圧装置開閉装置または中電圧開閉装置の構成要素であることが好ましく、開閉装置は真空開閉装置、およびガス絶縁開閉装置の両方であり得る。
【0016】
また、絶縁構造要素の内壁に遮蔽要素が取り付けられていると好ましく、遮蔽要素は、電界を偏向させて散逸させ、構造要素の材料内で等電位線をより均一に分布させるために機能する。これらの遮蔽要素または遮蔽板は、好ましくは遮断領域が存在する構造要素に取り付けられるように配置される。ここで、等電位線とは、同じ電位を有する線と理解される。それらは、付随する電界の対応する力線上に垂直に位置し、比較可能な密度を有する。狭い等電位線は狭い力線と一致し、同様に等電位線が離れると力線も離れる。
【0017】
本発明のさらなる実施形態およびさらなる特徴を、以下の図を参照して詳述する。これらは、保護範囲を限定しない例示的な実施形態である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】従来技術による絶縁体構造物を備える高電圧開閉装置である。
図2】基部領域と遮断領域とを備える絶縁性構造要素の投影図である。
図3図2による構造要素の三次元平面図である。
図4】等電位線が描かれた図2による構造要素の半分の断面図である。
図5図4と同様の図であり、追加の遮蔽要素を備えた図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は高電圧開閉装置3の図を示し、この開閉装置は、2つの開閉接触部24が軸方向に相対移動可能である開閉空間26を有し、開閉接触部の少なくとも1つが軸方向に移動することによって、電気的接触が生じ、または分離することができる。また、開閉装置3は、少なくとも1つの絶縁性構造要素2を含む絶縁体構造物1を有する。図1に示された開閉装置では、絶縁体構造物1は3つの構造要素2を有する。しかし基本的に、また好ましくは、絶縁体構造物1は可能な限りただ1つの構造要素2からなる。さらに、これを実現する可能性についてさらに詳細に説明する。従来技術による絶縁体構造物1においては、通常、特に酸化物セラミック、例えば酸化アルミニウムセラミックからなる複数の構造要素が、適切な接合方法によって接合されて全体の絶縁体構造物1となる。いくつかの従来の構造要素を接合することによって、分割を達成することが可能であり、これはさらに、より高い破壊電界強度と、ひいては大幅な電圧増加とをもたらす。ここで、絶縁体構造物1の軸方向の長さは、特にそれらの破壊電界強度、またはそれらの最大絶縁可能電圧によって規定される。
【0020】
図2は、基部領域4と遮断領域6との両方を有する構造要素2を示す。ここで、基部領域4は軸方向の長さ範囲8を有し、これは遮断領域6の軸方向の長さ範囲12より大きい。それぞれ2つの基部領域4が、遮断領域6によって互いに分離されている。軸方向の延伸は、それぞれ回転軸10に沿って記載されている。図3では、より見やすくするために、図2と同じ絶縁性構造要素2が三次元図で示されている。図4および図5では、開閉空間26内に存在する電流によって誘導された電界の等電位線16の等電位線の経路が示されている。ここでは、構造要素2の断面の右半分のみが示されている。左側の外縁部に対称軸10があり、図4および図5の図面の中心には、基部領域4および遮断領域6による断面が示されている。ここで、図4および図5はそれぞれ画像の左側で、構造要素内側の領域18と、構造要素外側の領域22と、構造要素の材料による部分である領域20とに分割されている。
【0021】
対称軸10から出発して、等電位線16によって表される均一の電界が示される。領域18内の電界の均一性は、等電位線16間の比較的均等な距離によって示される。これに対し、構造要素2の外側の領域22では、等電位線の経路は非常に異なっており、ここでは、強い電界が支配的である高い等電位線密度を有する領域と、電界がより弱く、広く開いた等電位線16を有する領域とが存在する。目立つのは遮断領域6において等電位線16がほとんど存在しないことであり、これは、遮断領域6内には極めて弱い電界が支配的であり、また理想的には電界が存在しないことを意味する。また、これによって、絶縁性構造要素、すなわちセラミック絶縁体の電気的分割が、遮断領域6によって生成される。したがって、基部領域4は、隣接の基部領域から遮断領域6によって電気的に分離されている、さらなる従属の絶縁性構造要素のように作用する。
【0022】
これに類似した図が図5に示されており、ここでも等電位線は遮断領域6内に略存在せず、ひいては基部領域間の上記の分割が達成される。しかしながら、図5は、遮蔽板14とも呼ばれるさらなる遮蔽要素14を示しており、これらによって意図的に、かつ最適化された等電位線16の誘導が作られる。対応する遮蔽要素14は、図1にも対応して示されている。遮蔽要素14は、好ましくは構造要素2の遮断領域6に固定されるように構成される。
【0023】
構造要素2の遮断領域6における等電位線16または電界16を減少させることは、遮断領域6の材料が、基部領域4の比誘電率の少なくとも2倍の比誘電率を有することによって達成される。このようにして、電界は実質的に遮断領域6の外側へ押し出される。また、これによって、構造要素2が基部領域4に電気的に分割される。また、これは、図1に構造要素の符号2'で示されているように、複数の構造要素の接合と同様の作用を絶縁破壊電界強度に与える。基本的に、構造要素2を接合して絶縁体構造物1にすることは、真空気密性またはガス気密性を保証するために品質保証および高い技術的要求を必要とする高価な作業であるため、望ましくない。したがって、構造要素2の上記の配置構成、ならびに基部領域4および遮断領域6への分割によって、開閉装置3の絶縁体構造物1全体、または一般的に高電圧装置または中電圧装置3を、絶縁性構造要素2のみを使用して構成することが可能である。これが技術的に十分であるかどうかは、要求される全破壊電界強度または最大印加電圧に依存する。例えば、72kVの高電圧開閉装置は、軸方向に80mm以下の長さ範囲を有する構造要素2によって実現することができる。上記の従来技術では、さらに2~3個の構造要素を接合方法によって互いに接合する必要がある。要約すると、絶縁体構造物1は可能な限り1つのみの構造要素2からなるべきであるが、非常に電圧の高い高電圧装置では、2つ以上の構造要素2を接合して絶縁体構造物1にしてもよく、ここでは、上記分割をされていない従来技術において従来装備されている構造要素の長さ範囲よりも、明らかに小さい全体の長さ範囲を有する。
【0024】
絶縁体構造の製造におけるさらなる利点は、構造要素2を製造する際に、基部領域4用の材料と、遮断領域6用の材料とを交互に型に導入することができ、既にこの構成にプレスし、焼結することができる点である。すなわち、材料を交互に対応する型に導入する従来の作業手順によって、分割された構造要素2を生成することができ、この構造要素2は、複雑なはんだ付け、または接合方法によって接続された構造要素のみを用いた従来の手段によって達成できる破壊電界強度および強度を有する。このようにして、絶縁体構造物の製造コストを大幅に削減することができ、要求する長さ範囲、ひいては開閉装置の設置スペースと開閉装置の外形寸法とを縮小することができる。


図1
図2
図3
図4
図5