IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノンマシナリー株式会社の特許一覧

特許6999739結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法
<>
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図1
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図2
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図3
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図4
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図5
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図6
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図7
  • 特許-結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 13/32 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
C30B13/32
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020081929
(22)【出願日】2020-05-07
(65)【公開番号】P2021176812
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-03-19
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110859
【氏名又は名称】キヤノンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】長澤 亨
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-208378(JP,A)
【文献】特開昭62-065994(JP,A)
【文献】特開2005-247668(JP,A)
【文献】中国実用新案第202100674(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶材料を加熱する加熱装置と、前記結晶材料を所定の方向に移動させる移動装置とを具備し、加熱状態にある前記結晶材料を前記移動装置で移動させることで前記結晶材料を前記所定の方向に沿った向きに成長可能な結晶成長装置において、
前記移動装置は、互いに独立して回転数を設定可能な第一モータ及び第二モータと、
入力された回転運動を前記成長方向に沿った向きの直線運動に変換する方向変換部と
太陽歯車と、前記太陽歯車の外周側に配設されて前記太陽歯車に噛み合う遊星歯車と、前記遊星歯車および前記太陽歯車を包囲して内歯が前記遊星歯車に噛み合う内歯車とを有する遊星歯車機構と、
前記遊星歯車機構の前記内歯車の外周側に配設され、前記内歯車の外歯に噛み合う中間歯車と、
前記遊星歯車機構の前記遊星歯車を回転可能に支持しながら前記太陽歯車及び前記内歯車と同軸に回転可能なキャリアとを備え、
前記第一モータのみの回転運動が前記太陽歯車に入力されて前記遊星歯車が自転及び公転する場合と、第二モータのみの回転運動が前記中間歯車を介して前記内歯車に入力されて前記遊星歯車が自転及び公転する場合と、前記第一モータの回転運動の太陽歯車への入力および第二モータの回転運動の前記中間歯車を介した前記内歯車への入力にて前記遊星歯車が自転及び公転する場合とがあり、
前記いずれの場合であっても、前記遊星歯車の自転および公転が、前記キャリアを介して前記方向変換部に入力される回転運動となることを特徴とする結晶成長装置。
【請求項2】
前記第一モータは、相対的に低速の回転運動を行う低速用モータで、前記第二モータは、相対的に高速の回転運動を行う高速用モータである請求項1に記載の結晶成長装置。
【請求項3】
前記方向変換部は、ボールねじ機構である請求項1又は請求項2の何れか一項に記載の結晶成長装置。
【請求項4】
前記移動装置を、前記結晶材料としての原料棒を支持する第一結晶駆動軸を前記成長方向に沿って移動可能な第一駆動装置として具備している請求項1~の何れか一項に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記移動装置を、前記結晶材料としての種結晶を支持する第二結晶駆動軸を前記成長方向に沿って移動可能な第二駆動装置として具備している請求項1~の何れか一項に記載の結晶成長装置。
【請求項6】
請求項1~の何れか一項に記載の結晶成長装置を用いた結晶成長方法。
【請求項7】
前記結晶材料からフローティングゾーン法により結晶を成長させる請求項6に記載の結晶成長方法。
【請求項8】
加熱状態にある前記結晶材料としての原料棒と種結晶棒とを当接させた状態で、前記原
料棒を支持する第一結晶駆動軸及び前記種結晶棒を支持する第二結晶駆動軸を前記成長方
向に沿って移動させることで、結晶を鉛直方向に沿って成長させるに際し、
相対的に低速で回転運動を行う前記第一モータとしての低速用モータから前記遊星歯車
機構に一定方向及び一定回転数の回転運動が入力されている状態で、相対的に高速で回転
運動を行う前記第二モータとしての高速用モータから前記遊星歯車機構に所定の回転運動
を入力して、前記原料棒を支持する第一結晶駆動軸と前記種結晶を支持する第二結晶駆動
軸との鉛直方向距離を変化させることで、前記加熱装置により前記原料棒と前記種結晶棒
との当接部に形成される溶融帯の高さ寸法を調整する請求項7に記載の結晶成長方法。
【請求項9】
前記結晶材料からトップシード法により結晶を成長させる請求項6に記載の結晶成長方法。
【請求項10】
前記結晶材料からチョクラルスキー法により結晶を成長させる請求項6に記載の結晶成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、単結晶を育成するに際しては、フローティングゾーン式の結晶成長方法を用いられている。この成長方法(フローティングゾーン法)は、例えば対称形の2つの楕円面鏡の一方の焦点に結晶材料としての原料棒と種結晶棒との突合せ部を配置すると共に、他方の焦点付近に、ハロゲンランプ等の加熱源を配置し、当該加熱源で突合せ部を加熱しながら、原料棒を下端に固定した上結晶駆動軸と、種結晶棒を上端に固定した下結晶駆動軸とを共に回転させ、かつ下方に向けてゆっくり移動させることによって、突合せ部に溶融帯を形成すると共に、この溶融帯を原料棒側に移動させていき、単結晶を成長させるものである(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、この場合、各駆動軸を回転させながら上下に移動させるための装置として、各駆動軸に回転用モータを接続すると共に、この回転用モータとは独立の上下動用モータを具備することで、各駆動軸と回転用モータとを一体に上下に移動可能としたものが知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-231459号公報
【文献】特開2001-342093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した結晶成長方法においては、結晶の成長に好適な速度レンジ(例えば10-2~10mm/h)で各駆動軸の移動を制御する必要があるのに対し、結晶材料の交換時や位置決め時には、作業効率の観点から、結晶成長時とは異なる速度レンジ(例えば10mm/min~)で各駆動軸を移動させたい要望がある。また、結晶の成長中においても、上述した速度で下方に移動している最中に、溶融帯(フローティングゾーン)の高さ寸法を調整する等の目的で例えば上結晶駆動軸を下方への移動速度に比べて高速で上昇又は下降させる必要が生じることがある。
【0006】
ここで、上述した広範な速度レンジを単一の上下動用モータでカバーしようとした場合、例えば低速レンジでの使用時に駆動トルクの変動(脈動)が顕著となり、スムーズな移動を得ることができないおそれが生じる。そこで、例えば低速レンジ用のモータと高速レンジ用のモータとを互いに独立して具備し、これら異なるレンジ用モータの動作を切替えることにより上述した広範な速度レンジ全域における滑らかな動作を実現することが考えられる。
【0007】
図8は、上述した各結晶駆動軸の異なる速度レンジにおける移動制御を実現するための移動装置100の一例を示している。図8に示す移動装置100は、低速用モータ101と高速用モータ102と、各モータ101,102から入力された回転運動を直線運動に変換して各駆動軸(例えば上結晶駆動軸)に伝達するボールねじ機構103とを具備する。この場合、各モータ101,102とボールねじ機構103とは歯車機構104を介して動力伝達可能に構成されると共に、各モータ101,102と歯車機構104との間にはそれぞれ減速機105,106とクラッチ機構107,108が接続されている。この場合、ボールねじ機構103のボールねじ109が歯車機構104の中間歯車110に接続されている。また、低速用モータ101が減速機105及びクラッチ機構107を介して中間歯車110と噛み合う第一歯車111に接続されると共に、高速用モータ102が減速機106及びクラッチ機構108を介して中間歯車110と噛み合う第二歯車112に接続される。この場合、ボールねじ機構103のナット部113が例えば図示しない上結晶駆動軸に連結されている。なお、図示は省略するが、下結晶駆動軸にも上記構成と同じ移動装置が設けられている。
【0008】
上記構成の移動装置100によれば、低速時と高速時とで使用するモータ101,102を切替えて、ボールねじ機構103の出力部(直線運動を行う部分)となるナット部113の移動速度を制御することができる。すなわち、例えばナット部113を材料加熱時など低速で移動させたい場合には、低速側のクラッチ機構107を切替えて低速用モータ101と歯車機構104とを接続する一方、高速側のクラッチ機構108を切替えて高速用モータ102と歯車機構104とを切断状態とする。これにより、加熱時のオーダーに見合った速度で各結晶駆動軸を移動させて、単結晶を好適な態様で成長させることが可能となる。一方で、加熱成長時以外の動作時(例えば結晶材料の交換や位置決めなど)や加熱成長時における溶融帯の高さ寸法調整の際には、低速側のクラッチ機構107を切替えて低速用モータ101と歯車機構104とを切断状態とした後、高速側のクラッチ機構108を切替えて高速用モータ102と歯車機構104とを接続する。これにより、上述した準備作業又は加熱成長時の調整作業を迅速に実施することが可能となる。
【0009】
しかしながら、上述した構造の移動装置100においては、使用するモータを切替える際,どうしても一方のモータと歯車機構104との接続状態を切断した後に、他方のモータと歯車機構104とを接続する必要が生じる。これでは、歯車機構104が何れのモータとも接続されていない状態(時間)が生じ、出力側となるボールねじ機構103(のナット部113)に固定された各結晶駆動軸の鉛直方向位置がずれるおそれが生じる。これでは、溶融帯の高さ寸法を精度よく管理できないため、高精度な単結晶を得ることは難しい。また、上記構成の移動装置100だと、二種類のモータ101,102だけでなく、それぞれのモータ101,102に対応したクラッチ機構107,108が必要となり、かつこれらを適宜のタイミングで制御する必要が生じるため、構造並びに制御が複雑となるだけでなく、細微な位置調整を必要とする際に、操作者による入力から実際の動作までに時間遅れが生じる不便がある。
【0010】
上述した問題は何もフローティングゾーン法で単結晶を成長させる場合にのみ起こることではなく、例えばチョクラルスキー法などの他の方法で単結晶を成長させる場合、さらに言えば単結晶以外の結晶(例えばシリコン多結晶)を成長させる場合にも同様に起こり得る。
【0011】
以上の事情に鑑み、本明細書では、広範な速度レンジにわたる駆動軸の円滑な移動を簡易にかつ高精度に実現可能とする結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法を提供することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題の解決は、本発明に結晶成長装置によって達成される。すなわち、この結晶成長装置は、結晶材料を加熱する加熱装置と、前記結晶材料を所定の方向に移動させる移動装置とを具備し、加熱状態にある前記結晶材料を前記移動装置で移動させることで前記結晶材料を前記所定の方向に沿った向きに成長可能な結晶成長装置において、前記移動装置は、互いに独立して回転数を設定可能な第一モータ及び第二モータと、入力された回転運動を前記成長方向に沿った向きの直線運動に変換する方向変換部と、太陽歯車と、前記太陽歯車の外周側に配設されて前記太陽歯車に噛み合う遊星歯車と、前記遊星歯車および前記太陽歯車を包囲して内歯が前記遊星歯車に噛み合う内歯車とを有する遊星歯車機構と、前記遊星歯車機構の前記内歯車の外周側に配設され、前記内歯車の外歯に噛み合う中間歯車と,前記遊星歯車機構の前記遊星歯車を回転可能に支持しながら前記太陽歯車及び前記内歯車と同軸に回転可能なキャリアとを備え、前記第一モータのみの回転運動が前記太陽歯車に入力されて前記遊星歯車が自転及び公転する場合と、第二モータのみの回転運動が前記中間歯車を介して前記内歯車に入力されて前記遊星歯車が自転及び公転する場合と、前記第一モータの回転運動の太陽歯車への入力および第二モータの回転運動の前記中間歯車を介した前記内歯車への入力にて前記遊星歯車が自転及び公転する場合とがあり、前記いずれの場合であっても、前記遊星歯車の自転および公転が、前記キャリアを介して前記方向変換部に入力される回転運動となる。
【0013】
このように、本発明に係る結晶成長装置では、互いに独立して回転数を設定可能な二つのモータを用いると共に、これら二つのモータと方向変換部とをそれぞれ遊星歯車機構の太陽歯車、遊星歯車、及び内歯車の何れか一つと機械的に接続し、かつこれら三つ全ての歯車を回転可能に構成した。このように構成することによって、何れのモータから入力された回転運動であっても円滑に方向変換部に伝達(出力)することができる。また、遊星歯車機構の三つの歯車全てを同時に回転運動の伝達に用いることが可能となるので、例えば第一モータ及び第二モータから重複して回転運動が入力された場合には、これら重複して入力された回転運動を合成して方向変換部に伝達することができる。よって、例えば上述したように二つのモータを使い分ける必要がある場合において、一方のモータを停止するタイミングを厳密に制御しなくても、言い換えると、双方のモータが重複して回転している時間帯が存在する場合であっても、適切な直線運動を出力することが可能となる。従って、結晶材料を駆動させる駆動部(駆動軸など)に位置ずれ等が生じる事態を防止して、結晶材料の移動方向や移動速度を自由にかつ微細に調整することが可能となる。また、本発明に係る移動装置(結晶成長装置)であれば、遊星歯車機構と各モータとの接続状態と切断状態とを切替える必要がないので、クラッチ機構なども不要となり、例えば図8に示す移動装置100と比べて、装置の簡素化並びに制御の容易化を図ることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る結晶成長装置において、第一モータは、相対的に低速の回転運動を行う低速用モータで、第二モータは、相対的に高速の回転運動を行う高速用モータであってもよい。
【0015】
このように二つのモータをそれぞれ低速用モータと高速用モータとすることによって、結晶材料の移動速度をより大きなレンジで設定することができる。従って、結晶材料の移動速度や移動速度をより自由にかつ微細に調整することが可能となる。
【0016】
また、本発明に係る結晶成長装置において、第一モータが太陽歯車に接続され、第二モータが内歯車に接続され、かつ方向変換部が遊星歯車に接続されてもよい。
【0017】
このように各モータと方向変換部を遊星歯車機構の各歯車と接続することによって、何れのモータから入力された回転運動についても減速して方向変換部に伝達することができる。よって、選定するモータの種類によっては必要とされる減速機(図8を参照)を小型化又は省略して、装置の更なる簡素化を図ることが可能となる。また、第一モータと低速用モータ、第二モータを高速用モータとする場合には、第一モータを太陽歯車に接続し、第二モータを内歯車に接続することで、モータの回転数に見合った減速比をそれぞれ付与することができるため、各モータの回転運動を効率よく減速して方向変換部に伝達することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る結晶成長装置において、何れか一方のモータから遊星歯車機構に所定の回転運動が入力されている状態で、他方のモータから遊星歯車機構に一方のモータとは異なる回転運動が入力されると共に、一方のモータからの所定の回転運動の入力が停止されるように、双方のモータが制御可能に構成されてもよい。
【0019】
このように本発明に係る結晶成長装置において双方のモータを制御可能に構成することによって、一方のモータを停止するタイミングを厳密に制御しなくても、モータの切替えを円滑にかつ自動的に行うことができる。よって、例えば結晶材料の移動速度レンジの切替えを円滑にかつ自動的に行うことができ、加熱成長プロセスを含めた結晶成長工程全体の効率化を図ることが可能となる。
【0020】
あるいは、本発明に係る結晶成長装置において、何れか一方のモータから遊星歯車機構に所定の回転運動、例えば一定方向及び一定回転数の回転運動が入力されている状態で、他方のモータから遊星歯車機構に所定の回転運動が入力されるように、双方のモータが制御可能に構成されてもよい。
【0021】
このように双方のモータを相互の干渉無く制御可能に構成することによって、一方のモータにより全体としては結晶材料を所定の方向に一定速度で移動させつつ、当該移動中に他方のモータから付加された回転運動により結晶材料の位置を調整することができる。よって、例えば後述するフローティングゾーン法により結晶の成長を図る場合に、結晶の成長に係る部分(溶融帯)の高さ寸法ないし形状を、二つのモータの協働により調整しながら結晶の成長を図ることが可能となる。
【0022】
また、本発明に係る結晶成長装置において、方向変換部は、ボールねじ機構であってもよい。
【0023】
このように方向変換部としてボールねじ機構を採用することによって、ボールねじ機構が有する優れた位置精度を結晶材料の移動に反映させることができる。すなわち結晶材料の加熱成長時、結晶材料は上述の如く極めて低速で移動するため、その位置精度が結晶品質にとって重要となる。そのため、方向変換部にボールねじ機構を用いることで、例えばサーボモータなどモータ側から高精度に入力された回転運動をロスなく正確に直線運動に変換して結晶材料の位置精度に反映させることが可能となる。
【0024】
また、本発明に係る結晶成長装置においては、移動装置を、結晶材料としての原料棒を支持する第一結晶駆動軸を成長方向に沿って移動可能な第一駆動装置として具備してもよい。また、移動装置を、結晶材料としての種結晶棒を支持する第二結晶駆動軸を成長方向に沿って移動可能な第二駆動装置として具備してもよい。
【0025】
公知の結晶成長方法のうち、例えばフローティングゾーン法では、加熱成長時、結晶材料としての原料棒と種結晶棒とを鉛直方向で当接させた状態で、原料棒を第一結晶駆動軸の駆動により、種結晶棒を第二結晶駆動軸の駆動により共に成長方向に沿って移動、例えば下方に向けて直線移動させる。そのため、原料棒と種結晶棒の何れか一方の駆動を担う移動装置に本発明を適用することにより、結晶成長部位となる原料棒と種結晶棒との当接部の位置を高精度に管理することが可能となる。また、フローティングゾーン法のように当接部に溶融帯が形成される場合には当該溶融帯の高さや形状を高精度に制御することが可能となる。
【0026】
また、以上の説明に係る成長結晶装置は、広範な速度レンジにわたる駆動軸の円滑な移動を簡易にかつ高精度に実現可能とするものであるから、例えばこの結晶成長装置を用いた結晶成長方法として好適に提供することが可能である。
【0027】
この場合、本発明に係る結晶成長方法として、結晶材料からフローティングゾーン法により単結晶を成長させてもよい。あるいは、結晶材料からチョクラルスキー法により単結晶を成長させてもよい。あるいは、結晶材料からトップシード法により単結晶を成長させてもよい。
【0028】
上述した結晶成長方法は何れも加熱状態の結晶材料を鉛直方向に移動させながら結晶の成長を図る手法であるから、本発明の利点を享受することができる。
【0029】
また、フローティングゾーン法により結晶を成長させる場合、本発明に係る結晶成長方法においては、加熱状態にある結晶材料としての原料棒と種結晶棒とを当接させた状態で、原料棒を支持する第一結晶駆動軸及び種結晶棒を支持する第二結晶駆動軸を成長方向に沿って移動させることで、結晶を鉛直方向に沿って成長させるに際し、相対的に低速で回転運動を行う第一モータとしての低速用モータから遊星歯車機構に一定方向及び一定回転数の回転運動が入力されている状態で、相対的に高速で回転運動を行う第二モータとしての高速用モータから遊星歯車機構に所定の回転運動を入力して、第一結晶駆動軸と第二結晶駆動軸との鉛直方向距離を変化させることで、加熱装置により原料棒と種結晶棒との当接部に形成される溶融帯の高さ寸法を調整してもよい。
【0030】
このように、本発明に係る結晶成長方法では、フローティングゾーン法により結晶を成長させる場合に、本発明に係る移動装置で第一結晶駆動軸と第二結晶駆動軸の少なくとも何れか一方を上述のように移動させることとし、かつ低速用モータと高速用モータとを併用することによって、加熱成長時における溶融帯の高さ寸法を調整した。この方法によれば、低速用モータにより全体としては結晶材料を所定の方向に一定速度で移動させつつ、当該移動中に高速用モータから付加された回転運動により結晶材料の位置を円滑に微調整することができる。また、その際の調整量を高速用モータの回転数のみで調整することができる。よって、結晶の成長に係る溶融帯の高さ寸法ないし形状をより高精度に制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、広範な速度レンジに亘る駆動軸の円滑な移動を簡易にかつ高精度に実現可能とする結晶成長装置、及びこの装置を用いた結晶成長方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の一実施形態に係る結晶成長装置の全体構成を示す断面図である。
図2図1に示す結晶成長装置のA-A切断線に沿った断面を模式的に表した図である。
図3図1に示す結晶成長装置の要部を拡大して模式的に表した 図である。
図4図1に示す移動装置の一構成例を示す図である。
図5図4に示す移動装置のB-B切断線に沿った断面図である。
図6図4に示す移動装置を用いた結晶材料の加熱成長プロセスにおける(a)低速用モータの回転速度と(b)高速用モータの回転速度、及びに(c)駆動軸の高さ位置との関係を示すグラフである。
図7図4に示す移動装置を用いた結晶材料の加熱成長プロセスにおける(a)低速用モータの回転速度と(b)高速用モータの回転速度、及び(c)駆動軸の高さ位置との関係を示すグラフである。
図8】本発明との比較対象に係る移動装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態に係る結晶成長装置及びこの装置を用いた結晶成長方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0034】
図1は、本発明の一実施形態に係る結晶成長装置10の全体構成を示す図(縦断面図)である。また、図2は、図1に示す結晶成長装置10のA-A切断線に沿った断面を模式的に表している。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る結晶成長装置10は、結晶材料を加熱するための加熱装置11と、結晶材料を所定の方向に移動させる移動装置12,13とを主に具備する。
【0035】
このうち、加熱装置11は、対称形の二つの回転楕円面鏡14,15と、加熱源としての赤外線ランプ16,17とを有する。ここで、二つの回転楕円面鏡14,15は、各々の一方の焦点F0,F0が一致するように対向結合している。各回転楕円面鏡14,15の内面となる反射面は、例えば赤外線を高反射率で反射する目的で金めっき処理を施している。また、各回転楕円面鏡14,15の他方の焦点F1,F2付近には、それぞれハロゲンランプなどの赤外線ランプ16,17が配置されている。各回転楕円面鏡14、15の 一致した焦点F0には被加熱部18が位置するように、結晶材料としての原料棒19と種結晶棒20がそれぞれ所定の位置に配置されている。ここでは、上側の移動装置(第一駆動装置)12を構成する上結晶駆動軸21の下端に原料棒19が固定されると共に、下側の移動装置(第二駆動装置)13を構成する下結晶駆動軸22の上端に種結晶棒20が固定されており、原料棒19の下端と種結晶棒20の上端とを突き合せた状態にある。この突合せ部(当接部)が加熱装置11による被加熱部18となる。
【0036】
上結晶駆動軸21及び下結晶駆動軸22が収容される空間23は、図1に示すように、透明な石英管24によって、加熱源16,17が配置された空間25と区画され、石英管24の長手方向両端に取付けられる保持部材26,27によって気密状態とされている。この気密状態の空間23には不活性ガスなどが充填され、結晶(単結晶)の成長に好適な雰囲気が生成される。
【0037】
各移動装置12,13は、上述の如く上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22をそれぞれ有し、各駆動軸21,22を回転駆動すると共に、上下方向に移動可能に構成されている。また、上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22とが同期して、又は相対速度を有して上下方向に移動可能に構成されている。各移動装置12,13の詳細は後述する。
【0038】
次に、上記構成の結晶成長装置10を用いた結晶成長方法の一例を説明する。
【0039】
まず、図1に示すように、二つの回転楕円面鏡14,15の共通の焦点F0に原料棒19と種結晶棒20との突合せ部を配置すると共に、焦点F1,F2に配置した赤外線ランプ16,17から赤外線を照射する。照射された赤外線は、回転楕円面鏡14,15の内面で反射され、焦点F0に配置した原料棒19と種結晶棒20との当接部、すなわち被加熱部18に集光することにより、被加熱部18が加熱される。この赤外線加熱による輻射エネルギーにより、被加熱部18の原料棒19の下端及び種結晶棒20の上端を加熱溶融させながら、円滑に接触させることにより、図3に示すように、原料棒19と種結晶棒20間の被加熱部18に溶融帯28を形成する。
【0040】
また、上述した加熱を行いながら、上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22とを共に回転させ、かつ同期して又は相対速度を有した状態で非常に低速(例えば10-2~10mm/h)で下方に向けて移動させることで、原料棒19と種結晶棒20との間の溶融帯28が次第に原料棒19側に移動していく。この際、被加熱部18も次第に原料棒19側に移動していくことで、溶融帯28であった領域が次第に冷却されていく。以上のプロセスを経ることで、溶融帯28のうち冷却された領域に単結晶が生成され、生成された単結晶が原料棒19と種結晶棒20の移動方向(ここでは鉛直方向)に沿って成長する。
【0041】
図4は、移動装置としての第一駆動装置12の全体構成を示している。この第一駆動装置12は、結晶材料としての原料棒19を所定の方向(ここでは鉛直方向)に沿って直線的に移動させるためのもので、本実施形態では、原料棒19を下端に固定した上結晶駆動軸21を所定の軸線X1まわりに回転させながら上下方向に移動できるように構成されている。具体的に、第一駆動装置12は、二つのモータ31,32と、各モータ31,32から入力された回転運動を直線運動に変換する方向変換部33と、各モータ31,32及び方向変換部33と機械的に接続される遊星歯車機構34と、制御部35とを備える。また、本実施形態では、各モータ31,32と遊星歯車機構34との間に減速機36,37がそれぞれ配設されている。
【0042】
二つのモータ31,32は互いに独立して回転方向及び回転数を調整可能なモータで、本実施形態では、相対的に低速の回転運動を行う低速用モータ31と、相対的に高速の回転運動を行う高速用モータ32である。この場合、低速用モータ31が本発明に係る第一モータに相当し、高速用モータ32が本発明に係る第二モータに相当する。ここで、低速用モータ31の回転軸31aは、減速機36を介して、遊星歯車機構34の太陽歯車38、遊星歯車39、及び内歯車40の何れか一つに連結されている。また、高速用モータ32の回転軸32aは、減速機37を介して、太陽歯車38、遊星歯車39、及び内歯車40のうち低速用モータ31と連結される歯車以外の歯車と連結されている。本実施形態では、低速用モータ31の回転軸31aは、太陽歯車38と連結されている。また、高速用モータ32の回転軸32aは、中間歯車41に連結されており、この中間歯車41の外歯41aが、図5に示すように、内歯車40の外周に設けられた外歯40aと噛み合うことで、高速用モータ32が内歯車40と機械的に接続されている。なお、低速用モータ31と高速用モータ32ともに、任意の種類のモータが採用可能であり、例えばサーボモータを好適に採用することが可能である。
【0043】
方向変換部33は、本実施形態では、ボールねじ機構42で構成されている。ボールねじ機構42のねじ部43は、キャリヤ44を介して複数の遊星歯車39と連結されている。また、ボールねじ機構42のナット部45は、連結部材46を介して回転用モータ47と連結されており、この回転用モータ47の回転軸47aが上結晶駆動軸21と連結されている。この場合、遊星歯車39から取り出された回転運動がキャリヤ44を介してボールねじ機構42のねじ部43に出力されると共に、ねじ部43の長手方向移動が規制されることで、ねじ部43と螺合しているナット部45がねじ部43の長手方向に沿って直線運動を行う。この結果、ナット部45と連結された回転用モータ47及び上結晶駆動軸21が一体にねじ部43の長手方向に沿って直線運動を行い得る。
【0044】
遊星歯車機構34は、既述のように、太陽歯車38と、遊星歯車39と、内歯車40とを有する。本実施形態では、図5に示すように、三個の遊星歯車39が太陽歯車38と内歯車40の内歯40bとそれぞれ噛み合う位置に配設されている。また、これら太陽歯車38と遊星歯車39、及び内歯車40は何れも回転可能に構成されており、言い換えると、何れも固定されることなく回転可能に支持されており、低速用モータ31から入力された回転運動を受けて太陽歯車38が回転できるようになっている。また、高速用モータ32に連結された中間歯車41から入力された回転運動を受けて内歯車40が回転できるようになっている。また、これら太陽歯車38と内歯車40の何れか一方、又は双方から入力された回転運動を受けて太陽歯車38又は内歯車40と噛み合う遊星歯車39が自転及び公転できるようになっている。以上より、本実施形態に係る遊星歯車機構34においては、低速用モータ31のみから回転運動が太陽歯車38に入力された場合、当該入力された回転運動が遊星歯車39、さらにキャリヤ44を介して方向変換部33(ボールねじ機構42)に出力され得る。あるいは、高速用モータ32のみから回転運動が内歯車40に入力された場合、当該入力された回転運動が遊星歯車39、さらにキャリヤ44を介して方向変換部33に出力され得る。あるいは、低速用モータ31と高速用モータ32の双方から回転運動が太陽歯車38と内歯車40に入力された場合、当該入力された二つの回転運動が合成された状態で遊星歯車39、さらにキャリヤ44を介して方向変換部33に出力され得る。
【0045】
制御部35は、低速用モータ31の回転を制御すると共に、高速用モータ32の回転を制御する。具体的には、低速用モータ31及び高速用モータ32の回転駆動の開始タイミングと停止タイミングを制御すると共に、その回転方向と回転数を制御する。また、制御部35による各モータ31,32の制御は、例えば図示しない記憶部に予め記憶させておいた制御プログラムに基づいて自動的に行ってもよいし、作業者の操作に基づいて各モータ31,32の回転を制御するものであってもよい。
【0046】
移動装置としての第二駆動装置13は、結晶材料としての種結晶棒20を上下方向に移動させるためのもので、本実施形態では、種結晶棒20を上端に固定した下結晶駆動軸22を、上結晶駆動軸21と共通の軸線X1まわりに回転させながら上下方向に移動できるように構成されている(図3を参照)。具体的な構成としては、第一駆動装置12と同じ構成をとることができ、例えば図示は省略するが、低速用モータと高速用モータ、方向変換部、遊星歯車機構、制御部、及び減速機で第二駆動装置13を構成することが可能である。また、この場合、制御部は、第一駆動装置12の制御部35としてもよい。すなわち、一つの制御部35で第一及び第二駆動装置12,13を制御してもよい。
【0047】
次に、上記構成の移動装置の動作の一例を、図6及び図7を中心に説明する。すなわち、本実施形態では、本発明に係る結晶成長方法を、結晶材料の準備工程S1と、加熱成長工程S2とに分けて、さらには準備工程S1を位置決め工程S3と予備加熱工程S4とに分けると共に、加熱成長工程S2を、移動工程S5と、位置調整工程S6とに分けて説明する。
【0048】
(S1)準備工程
(S3)位置決め工程
まず、結晶材料となる原料棒19と種結晶棒20をそれぞれ第一駆動装置12の上結晶駆動軸21と第二駆動装置13の下結晶駆動軸22とに取り付け、第一駆動装置12の回転用モータ47で上結晶駆動軸21を回転させると共に、第二駆動装置13の図示しない回転用モータでと下結晶駆動軸22を回転させる。そして、制御部35により、第一及び第二駆動装置12,13を制御して、上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22をそれぞれ移動させて、原料棒19の下端と種結晶棒20の上端とを当接させた状態とする。然る後、制御部35により、各駆動装置12,13を制御して、各回転楕円面鏡14,15の共通の焦点F0又はその周辺に基準位置を設けて、当該位置に原料棒19と種結晶棒20との当接部を移動させることにより、原料棒19と種結晶棒20との位置決めを行う。この際の第一駆動装置12における各モータ31,32の動作と上結晶駆動軸21の動きを図6に示す。図6(b)に示すように、位置決め工程S3においては、高速用モータ32を用いて上結晶駆動軸21を移動させる。一方、この間の低速用モータ31は停止状態である(図6(a)を参照)。この場合、高速用モータ32の回転速度(指令値)は、最終的に変換出力される所望の直線運動の速度(上結晶駆動軸21の軸線X1に沿った向きの移動速度)に応じて設定される。一例として、上結晶駆動軸21の移動速度が10mm/minオーダーの範囲となるように、高速用モータ32の回転速度が適宜の範囲に設定される。本実施形態では、一定の回転速度V2(絶対値)とすることで、図6(c)に示すように、上結晶駆動軸21が一定の速度(勾配)で、初期位置P0から基準位置P1に向けて移動する。上述した各モータ31,32の位置決め工程S3期間における速度制御が制御部35により行われる。また、第二駆動装置13においても、第一駆動装置12と同じ各モータの速度制御が制御部35により行われる。これにより、原料棒19と種結晶棒20との相対位置は変化することなく各結晶駆動軸21,22が所定の高さ位置に位置決めされる。例えば上結晶駆動軸21であれば、図6(c)に示すように基準位置P1に配置される。
【0049】
(S4)予備加熱工程
上述のように各駆動装置12,13を駆動して原料棒19と種結晶棒20との当接部の位置決めを行った後、加熱装置11による当接部の加熱を行う。この際、被加熱部18が所定の温度にまで加熱される間、上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22の位置は位置決め時の高さ位置(上結晶駆動軸21であれば図6(c)に示すように基準位置P1)に保持される。これにより、被加熱部18が所定の温度にまで加熱され、被加熱部18に溶融帯28が形成される。この間(予備加熱工程S4期間)、低速用モータ31、高速用モータ32ともに停止した状態にある(図6(a)及び図6(b)を参照)。
【0050】
(S2)加熱成長工程
(S5)移動工程
上述のようにして被加熱部18に溶融帯28が形成された後、上述した加熱を引き続き行いながら、制御部35により、上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22とを同期して又は一定の相対速度を有した状態で非常に低速で下方に向けて移動させる。この際、例えば第一駆動装置12においては、図6(a)に示すように、主に低速用モータ31を回転駆動させることにより上結晶駆動軸21を移動させる。一方、この間の高速用モータ32は停止状態である(図6(b)を参照)。この場合、低速用モータ31の回転速度(指令値)は、最終的に変換出力される所望の直線運動の速度(上結晶駆動軸21の軸線X1に沿った向きの移動速度)に応じて設定される。一例として、上結晶駆動軸21の移動速度が10-2~10mm/hオーダーの範囲となるように、低速用モータ31の回転速度が適宜の範囲に設定される。本実施形態では、一定の回転速度V1(絶対値)とすることで、図6(c)に示すように、上結晶駆動軸21が一定の速度(勾配)で、基準位置P1から下方に向けて移動する。上述した各モータ31,32の移動工程S5期間における制御が制御部35により行われる。また、第二駆動装置13においても、第一駆動装置12と同様の各モータの制御が制御部35により行われる。ここで、被加熱部18の鉛直方向位置は一定であることから(図1を参照)、上述のように上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22とを移動させることによって、原料棒19と種結晶棒20との間の溶融帯28が次第に原料棒19側に移動していく(広がっていく)。そして、溶融帯28のうち被加熱部18から外れた領域から次第に冷却されていく。以上のプロセスを経ることで、溶融帯28のうち冷却された領域に単結晶が生成され、生成された単結晶が原料棒19と種結晶棒20の移動方向(ここでは鉛直方向)に沿って成長する。
【0051】
(S6)位置調整工程
また、加熱成長工程S2の間、溶融帯28の形態、例えば高さ寸法H1(図3を参照)が所望の寸法から乖離している等、形態の修正が必要と判断された場合には、原料棒19と種結晶棒20の何れか一方の高さ位置を調整する。この調整は、作業者が溶融帯28の形態を監視しながら、作業者の判断により随時行ってもよい。あるいは、例えば溶融帯28の高さ寸法を検知し、検知した高さ寸法と、予め記憶させておいた制御プログラムとに基づいて、制御部35により自動的に行ってもよい。
【0052】
この場合、例えば第一駆動装置12においては、図7(a)及び図7(b)に示すように、制御部35により、低速用モータ31の回転駆動状態を移動工程S5時から継続すると共に、高速用モータ32を回転駆動させる。ここで、入力側である低速用モータ31と高速用モータ32はそれぞれ、遊星歯車機構34と太陽歯車38と内歯車40に機械的に接続され、出力側である方向変換部33は遊星歯車機構34の遊星歯車39(キャリヤ44)に機械的に接続されている(図4を参照)。また、これら太陽歯車38と内歯車40、及び遊星歯車39は何れも同時に回転可能に構成されている(図5を参照)。そのため、低速用モータ31と高速用モータ32とがともに回転駆動する場合、低速用モータ31から入力された回転運動と、高速用モータ32から入力された回転運動とが合成されて方向変換部33に出力される。よって、例えば高速用モータ32の回転方向が低速用モータ31の回転方向と逆向きである場合、回転運動全体としては、上結晶駆動軸21を移動工程S5時の移動方向(下方向)とは逆向きの方向(上方向)に移動させる回転運動が方向変換部33に入力される。これにより上結晶駆動軸21は、図7(c)に示すように、位置P2から位置P3に上昇する。一方で、第二駆動装置13の駆動態様は、移動工程S5時と位置調整工程S6時とで変わらないため、位置調整工程S6の前後で、上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22との鉛直方向距離は拡大し、原料棒19と種結晶棒20との間に形成される溶融帯28の高さ寸法H1が増大する。このようにして溶融帯28の形態について所望の修正が行われる。従って、より所望の形態に近づけた状態で単結晶の成長を図ることが可能となる。
【0053】
以上述べたように、本実施形態に係る結晶成長装置10では、互いに独立して回転数を設定可能な二つのモータ31,32を用いると共に、これら二つのモータ31,32と方向変換部33とをそれぞれ遊星歯車機構34の太陽歯車38、遊星歯車39、及び内歯車40の何れか一つと機械的に接続し、かつこれら三つ全ての歯車38~40を回転可能に構成した(図4及び図5を参照)。このように構成することによって、何れのモータ31(32)から入力された回転運動であっても円滑に方向変換部33に伝達(出力)することができる。また、遊星歯車機構34の三つの歯車38~40全てを同時に回転運動の伝達に用いることが可能となるので、例えば第一モータ31及び第二モータ32から重複して回転運動が入力された場合には、これら重複して入力された回転運動を合成して方向変換部33に伝達することができる。よって、例えば上述したように二つのモータ31,32を使い分ける必要がある場合において、一方のモータ31(32)を停止しなくても、言い換えると、双方のモータ31,32が重複して回転していても、問題なく所望の直線運動を出力することが可能となる。従って、原料棒19又は種結晶棒20を駆動させる駆動部(ここでは上結晶駆動軸21と下結晶駆動軸22)に位置ずれ等が生じる事態を防止して、原料棒19又は種結晶棒20の移動方向や移動速度を自由にかつ微細に調整することが可能となる。また、本実施形態に係る移動装置12,13(結晶成長装置10)であれば、遊星歯車機構34と各モータ31(32)との接続状態と切断状態とを切替える必要がないので、クラッチ機構なども不要となり、例えば図8に示す移動装置100と比べて、装置の簡素化並びに制御の容易化を図ることが可能となる。
【0054】
また、本実施形態では、二つのモータ31,32に低速用モータ31と高速用モータ32を用いると共に、低速用モータ31を遊星歯車機構34の太陽歯車38に、高速用モータ32を内歯車40にそれぞれ接続し、かつ方向変換部33を遊星歯車39に接続した構成をとるようにしたので、結晶材料(原料棒19と種結晶棒20)の移動速度を異なる二つのレンジで設定することができる。従って、単結晶成長時とそれ以外の時(位置決め時等)とで、それぞれ適切な移動速度を設定することができ、より効率よく結晶の成長を図ることが可能となる。
【0055】
また、移動装置(第一駆動装置12、第二駆動装置13)が上記構成をとる場合、加熱成長工程S2時の主たる移動速度レンジに対応する低速用モータ31から遊星歯車機構34に一定方向(例えば下方向)及び一定回転数の回転運動が入力されている状態で、通常、加熱成長工程S2時以外の工程時(例えば位置決め工程S3時)に使用する高速用モータ32から遊星歯車機構34に所定の回転運動が入力されるように、双方のモータ31,32を制御部35によって制御することにより、以下のような作用効果を享受することが可能となる。すなわち、本実施形態のようにいわゆるフローティングゾーン法で単結晶を成長させる場合、原料棒19と種結晶棒20との当接部に形成される溶融帯28の形態を如何に管理するかが重要となる。ここで、上述のようにして原料棒19が固定される上結晶駆動軸21と、種結晶棒20が固定される下結晶駆動軸22の何れか一方の移動速度を移動工程S5時と異ならせて(図7(c)を参照)、双方の駆動軸21,22間の鉛直方向距離を一時的に変化させることで、溶融帯28の形態、例えば高さ寸法H1を調整することができる。すなわち、この方法によれば、低速用モータ31により全体としては原料棒19及び種結晶棒20を所定の方向(下方)に一定速度で移動させつつ、当該移動中に高速用モータ32から付加された回転運動により原料棒19と種結晶棒20の相対位置を円滑に微調整することができる。また、その際の調整量を高速用モータ32の回転数のみで調整することができる。よって、結晶の成長に係る溶融帯28の形態をより高精度に制御して、所望の単結晶を安定的に得ることが可能となる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る結晶成長装置及びこの装置を用いた結晶成長方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0057】
例えば各モータ31,32と遊星歯車機構34との接続態様に関し、上記実施形態では、低速用モータ31と太陽歯車38、高速用モータ32と内歯車40をそれぞれ機械的に接続し、かつ方向変換部33を遊星歯車39に機械的に接続した場合を例示したが(図4を参照)、もちろん、これには限られない。各モータ31,32の種類、規格や、使用する減速機36,37の種類に応じて、例えば低速用モータ31を内歯車40、高速用モータ32を太陽歯車38に機械的に接続してもよい。また、図4に示すように、中間歯車41を介して各モータ31,32と遊星歯車機構34の各歯車38~40の何れか一つを機械的に接続してもよい。なお、この際、可能であれば、減速機36,37の一方又は双方を省略して、対応するモータを遊星歯車機構34に直接的に接続してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、上結晶駆動軸21を駆動する第一駆動装置12と下結晶駆動軸22を駆動する第二駆動装置13の双方に本発明に係る動力伝達機構を適用した場合を例示したが、もちろんこれ以外の構成をとることも可能である。すなわち、第一駆動装置12のみに本発明に係る動力伝達機構を適用してもよいし、第二駆動装置13のみに本発明に係る動力伝達機構を適用してもよい。また、図1等に示すフローティングゾーン法により単結晶の成長を図る場合、第一駆動装置12の高速用モータ32を制御することで、溶融帯28の形態(高さ寸法H1等)を調整してもよいし、第二駆動装置13の高速用モータを制御することで、溶融帯28の形態を調整してもよい。あるいは、第一駆動装置12の高速用モータ32及び第二駆動装置13の高速用モータの双方を制御することで、溶融帯28の形態を調整してもよい。
【0059】
また、以上の説明では、フローティングゾーン法により単結晶の成長を図る場合に、本発明に係る結晶成長装置及びこの装置を用いた結晶成長方法を適用した場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、トップシード法あるいはチョクラルスキー法により単結晶の成長を図る場合に、本発明に係る結晶成長装置及びこの装置を用いた結晶成長方法を適用してもよい。もちろん、単結晶以外の結晶(例えばシリコン多結晶)の成長を図る場合に、本発明に係る結晶成長装置及びこの装置を用いた結晶成長方法を適用してもよいし、結晶化を意図しない用途(例えばゾーンリファイン)に、本発明に係る結晶成長装置及びこの装置を用いた結晶成長方法を適用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 結晶成長装置
11 加熱装置
12 第一駆動装置
13 第二駆動装置
14,15 回転楕円面鏡
16,17 赤外線ランプ
18 被加熱部
19 原料棒
20 種結晶棒
21 上結晶駆動軸
22 下結晶駆動軸
23,25 空間
24 石英管
26,27 保持部材
28 溶融帯
31 低速用モータ
32 高速用モータ
33 方向変換部
34 遊星歯車機構
35 制御部
36,37 減速機
38 太陽歯車
39 遊星歯車
40 内歯車
41 中間歯車
42 ボールねじ機構
43 ボールねじ部
44 キャリヤ
45 ナット部
46 連結部材
47 回転用モータ
100 移動装置
101 低速用モータ
102 高速用モータ
103 ボールねじ機構
104 歯車機構
105,106 減速機
107,108 ラッチ機構
109 ボールねじ
110 中間歯車
111 第一歯車
112 第二歯車
113 ナット部
F0 焦点(被加熱側)
F1,F2 焦点(加熱側)
H1 高さ寸法(溶融帯)
S1 準備工程
S2 加熱成長工程
S3 位置決め工程
S4 予備加熱工程
S5 移動工程
S6 位置調整工程
X1 軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8