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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】マスク用濾材及びマスク
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20220112BHJP
   B03C 3/28 20060101ALI20220112BHJP
   A62B 18/02 20060101ALI20220112BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20220112BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20220112BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20220112BHJP
   B32B 27/02 20060101ALI20220112BHJP
   A41D 13/11 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
B01D39/16 A
B01D39/16 E
B03C3/28
A62B18/02 C
D04H1/4382
B32B5/02 C
B32B5/26
B32B27/02
A41D13/11 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020184944
(22)【出願日】2020-11-05
(62)【分割の表示】P 2020070018の分割
【原出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021166987
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000178675
【氏名又は名称】ヤマシンフィルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】垰口 信一
(72)【発明者】
【氏名】尾下 竜大
(72)【発明者】
【氏名】木下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】野村 満
(72)【発明者】
【氏名】谷 豊
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-536488(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047185(WO,A1)
【文献】特開2009-273726(JP,A)
【文献】特開平06-339542(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026289(WO,A1)
【文献】特開2019-199668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
A41D 13/11
A62B 7/00-33/00
A41D 13/00-13/12、20/00
B32B 1/00-43/00
D04H 1/00-18/04
B03C 3/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維積層体からなるフィルタ層を有するマスク用濾材であり、
フィルタ層の厚みが160μm以上500μm以下であり、
フィルタ層の目付が10g/m 以上50g/m 以下であり、
繊維積層体を構成する繊維の平均繊維径が600nm以上1500nm以下であり、
繊維径1μm以上2μm未満の繊維の含有率が10%以上50%以下であり、
繊維径が400nm以上600nm未満の繊維の含有率が5%以上40%以下であり、
繊維径が600nm以上800nm未満の繊維の含有率が5%以上40%以下であり、
繊維径が800nm以上1000nm未満の繊維の含有率が5%以上40%以下であり、
繊維積層体を構成する繊維が、熱可塑性樹脂を主成分として含む、
マスク用濾材。
【請求項2】
前記繊維積層体が、繊維径が400nm以上1000nm未満の繊維を35%以上含有する、請求項1に記載のマスク用濾材。
【請求項3】
前記繊維積層体における繊維径が2μm以上の繊維の含有率が20%以下である、請求項1又は2に記載のマスク用濾材。
【請求項4】
前記繊維積層体における繊維径が400nm未満の繊維の含有率が20%以下である、請求項1~のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項5】
前記繊維積層体における繊維径が200nm未満の繊維の含有率が5%以下である、請求項1~のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項6】
前記繊維積層体における繊維径が3μm以上の繊維の含有率が5%以下である、請求項1~のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項7】
前記繊維積層体が、乾式の繊維積層体である、請求項1~のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1つである、請求項1~のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンである、請求項1~のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項10】
前記マスク用濾材が、フィルタ層の上層及び下層に、不織布層を有する、請求項1~のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項11】
エレクトレット加工が施されていない、請求項1~10のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項12】
エレクトレット加工が施されている、請求項1~10のいずれかに記載のマスク用濾材。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載のマスク用濾材を用いてなるマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク用濾材及びマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、花粉のみならず、ウィルスや微小粒子状物質(PM2.5)等の大気汚染物質から身体を守るために、マスクの着用が増加している。
特許文献1には、従来のナノファイバー積層材よりもナノファイバー不織布層の均一性を高くすることが可能なナノファイバー積層材及びナノファイバー積層材の製造方法を提供することを目的として、多孔質のシート状基材と、中間繊維層と、エレクトロスピニング法により形成されたナノファイバー不織布層とがこの順序で積層され、前記中間繊維層を構成する繊維の平均繊維径は、前記シート状基材を構成する繊維の平均繊維径よりも小さく、かつ、前記ナノファイバー不織布層を構成するナノファイバーの平均繊維径よりも大きいことを特徴とするナノファイバー積層材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-196263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、マスク着用による息苦しさが抑制され、使用による捕集効率の低下が抑制され、アルコール除菌後においても、優れた捕集効率が得られるマスク用濾材及び該マスク用濾材を用いたマスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、鋭意検討の結果、平均繊維径及び繊維径の分布が特定の範囲である繊維積層体をフィルタ層として使用することにより、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<16>に関する。
<1> 少なくとも繊維積層体からなるフィルタ層を有するマスク用濾材であり、繊維積層体を構成する繊維の平均繊維径が600nm以上1500nm以下であり、繊維径1μm以上2μm未満の繊維の含有率が10%以上50%以下であり、繊維積層体を構成する繊維が、熱可塑性樹脂を主成分として含む、マスク用濾材。
<2> 前記繊維積層体が、繊維径が400nm以上1000nm未満の繊維を35%以上含有する、<1>に記載のマスク用濾材。
<3> 前記繊維積層体における繊維径が2μm以上の繊維の含有率が20%以下である、<1>又は<2>に記載のマスク用濾材。
<4> 前記繊維積層体における繊維径が400nm以上600nm未満の繊維の含有率が5%以上40%以下である、<1>~<3>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<5> 前記繊維積層体における繊維径が600nm以上800nm未満の繊維の含有率が5%以上40%以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<6> 前記繊維積層体における繊維径が800nm以上1000nm未満の繊維の含有率が5%以上40%以下である、<1>~<5>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<7> 前記繊維積層体における繊維径が400nm未満の繊維の含有率が20%以下である、<1>~<6>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<8> 前記繊維積層体における繊維径が200nm未満の繊維の含有率が5%以下である、<1>~<7>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<9> 前記繊維積層体における繊維径が3μm以上の繊維の含有率が5%以下である、<1>~<8>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<10> 前記繊維積層体が、乾式の繊維積層体である、<1>~<9>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<11> 前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1つである、<1>~<10>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<12> 前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレンである、<1>~<11>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<13> 前記マスク用濾材が、フィルタ層の上層及び下層に、不織布層を有する、<1>~<12>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<14> エレクトレット加工が施されていない、<1>~<13>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<15> エレクトレット加工が施されている、<1>~<13>のいずれかに記載のマスク用濾材。
<16> <1>~<15>のいずれかに記載のマスク用濾材を用いてなるマスク。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、マスク着用による息苦しさが抑制され、使用による捕集効率の低下が抑制され、アルコール除菌後においても、優れた捕集効率が得られるマスク用濾材及び該マスク用濾材を用いたマスクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明のマスク用濾材の概略を示す断面模式図である。
図2図2は、メルトブロー装置1の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[マスク用濾材]
本発明のマスク用濾材は、少なくとも繊維積層体からなるフィルタ層を有するマスク用濾材であり、繊維積層体を構成する繊維の平均繊維径が600nm以上1500nm以下であり、繊維径1μm以上2μm未満の繊維の含有率が10%以上50%以下であり、繊維積層体を構成する繊維が、熱可塑性樹脂を主成分として含む。
本発明によれば、使用による捕集効率の低下が抑制され、アルコール除菌後においても、優れた捕集効率が得られるマスク用濾材及び該マスク用濾材を用いたマスクが得られる。
上述の効果が得られる詳細な理由な不明であるが、一部は以下のように考えられる。
繊維径1μm以上2μm未満の繊維の含有率を上記の範囲とすることにより、大きな繊維径を有する繊維が適度に存在することで、繊維積層体に適度な空隙を与え、圧力損失が小さくなると考えられる。その結果、着用時の息苦しさが抑制され、優れた装用感が得られると考えられる。一方、平均繊維径を1500nm以下とすることにより、フィルタ層における捕集効率が向上すると考えられ、平均繊維径を600nm以上とすることにより、圧力損失が小さくなり、上述したように、息苦しさが抑制され、優れた装用感が得られると考えられる。
また、近年、マスク需要の高まりにより、マスクをアルコール除菌により再利用することが望まれている。しかし、エレクトレット加工を施し、繊維を帯電させることによって、静電気力で粒子(花粉、ウィルス、大気汚染物質など)の捕集率を向上させているマスク用濾材では、アルコール処理によって電荷が中和され、アルコール処理後には十分な捕集効率が得られないという問題があった。本発明のマスク用濾材は、エレクトレット加工を施さずに得られるため、アルコール除菌後であっても、高い捕集効率が得られるものと考えられる。
本発明は、フィルタ層として、構成する繊維径の平均繊維径及び繊維径分布が特定の範囲である繊維積層体を採用とすることにより、優れたマスク用濾材が得られることを見出したものである。
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0009】
図1は、本発明のマスク用濾材の好ましい態様の一例を示す断面図である。
本発明のマスク用濾材100は、少なくともフィルタ層110を有し、該フィルタ層の上層及び下層に、不織布からなる不織布層120、122を有することが好ましい。
すなわち、本発明のマスク用濾材100は、不織布層120、フィルタ層110、不織布層122の順で積層された3層構造であることが好ましい。また、マスク用濾材は上記の構成に限定されるものではなく、フィルタ層の上層又は下層として、機能性を付与した2層以上の不織布層を有していてもよい。
【0010】
<繊維積層体>
本発明のマスク用濾材は、繊維積層体からなるフィルタ層を有する。
繊維積層体は、繊維積層体を構成する繊維の平均繊維径が600nm以上1500nm以下であり、繊維径1μm以上2μm未満の繊維の含有率が10%以上50%以下であり、繊維積層体を構成する繊維が、熱可塑性樹脂を主成分として含む。
【0011】
〔繊維径〕
(平均繊維径)
本発明において、繊維積層体を構成する繊維の平均繊維径は、600nm以上1500nm以下である。繊維積層体を構成する繊維の平均繊維径が上記範囲内であると、低圧損かつ高捕集率となる。なお、以下の説明において「高捕集率」とは、高い捕集効率が得られることを意味する。
前記平均繊維径は、低圧損かつ高捕集率とする観点から、好ましくは700nm以上、より好ましくは800nm以上、更に好ましくは900nm以上であり、そして、好ましくは1450nm以下、より好ましくは1400nm以下、更に好ましくは1300nm以下である。
繊維積層体を構成する繊維の平均繊維径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0012】
(繊維径1μm以上2μm未満の繊維の含有率)
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が1μm以上2μm未満の繊維の含有率は10%以上50%以下である。繊維径が1μm以上2μm未満の繊維の含有率が上記範囲内であると、低圧損かつ高捕集率となる。
前記繊維径1μm以上2μm未満の繊維の含有率は、好ましくは15%以上、より好ましくは18%以上、更に好ましくは20%以上であり、そして、好ましくは47%以下、より好ましくは45%以下、更に好ましくは42%以下である。
繊維径が1μm以上2μm未満の繊維の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0013】
(繊維径400nm以上1000nm未満の繊維の含有率)
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が400nm以上1000nm未満の繊維の含有率は、低圧損かつ高捕集率なマスク用濾材を得る観点から、好ましくは35%以上、より好ましくは36%以上、更に好ましくは38%以上であり、そして、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは75%以下である。
繊維径が400nm以上1000nm未満の繊維の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0014】
(繊維径2μm以上の繊維の含有率)
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が2μm以上の繊維の含有率は、高捕集率なマスク用濾材を得る観点から、好ましくは20%以下、より好ましくは18%以下、更に好ましくは16%以下である。
繊維径が2μm以上の繊維の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0015】
(繊維径400nm以上600nm未満の繊維の含有率)
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が400nm以上600nm未満の繊維の含有率は、低圧損かつ高捕集率なマスク用濾材を得る観点から、好ましくは5%以上であり、そして、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは25%以下である。
繊維径が400nm以上600nm未満の繊維の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0016】
(繊維径600nm以上800nm未満の繊維の含有率)
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が600nm以上800nm未満の繊維の含有率は、低圧損かつ高捕集率なマスク用濾材を得る観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、更に好ましくは10%以上であり、そして、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下である。
繊維径が600nm以上800nm未満の繊維幅の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0017】
〔繊維径800nm以上1000nm未満の繊維の含有率〕
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が800nm以上1000nm未満の繊維の含有率は、低圧損かつ高捕集率なマスク用濾材を得る観点から、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、更に好ましくは8%以上であり、そして、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下である。
繊維径が800nm以上1000nm未満の繊維幅の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0018】
〔繊維径400nm未満の繊維の含有率〕
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が400nm未満の繊維の含有率は、低圧損かつ高捕集率なマスク濾材を得る観点から、好ましくは20%以下であり、より好ましくは18%以下、更に好ましくは15%以下である。また、その下限は特に限定されず、0%であってもよい。
繊維径が400nm未満の繊維幅の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0019】
〔繊維径200nm未満の繊維の含有率〕
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が200nm未満の繊維の含有率は、低圧損かつ高捕集率なマスク濾材を得る観点から、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。また、その下限は特に限定されず、0%であってもよい。
繊維径が200nm未満の繊維幅の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0020】
〔繊維径3μm以上の繊維の含有率〕
本発明において、繊維積層体を構成する繊維のうち、繊維径が3μm以上の繊維の含有率は、低圧損かつ高捕集率なマスク濾材を得る観点から、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下である。また、その下限は特に限定されず、0%であってもよい。
繊維径が3μm以上の繊維幅の含有率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0021】
本発明において、繊維積層体を構成する繊維は、上述の繊維径の分布を有することが好ましいが、大径の繊維と、小径の繊維とを混合して使用するのではなく、分布が広く、場合によっては、2つ以上のピークが存在するような繊維の集合であることが、製造容易性及び面内均一性の観点から好ましい。
また、繊維積層体を構成する繊維は、一本の中で繊維の太さが均一でもよいが、一本の中でも繊維の太さが変化することが好ましい。これにより、繊維同士が絡み合い、より高い捕集効率が得られる。
【0022】
〔熱可塑性樹脂〕
本発明において、繊維積層体を構成する繊維は、熱可塑性樹脂を主成分として含む。本発明において、繊維積層体は、後述するようにメルトブロー法により製造することが好ましく、繊維原料として、熱可塑性樹脂が好適である。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂(PA)等が例示される。これらの中でも、熱可塑性樹脂は、好ましくはポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも1つであり、より好ましくはポリプロピレン及びポリブチレンテレフタレートから選択される少なくとも1つであり、更に好ましくはポリプロピレンである。
熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明において、繊維積層体を構成する繊維は、熱可塑性樹脂を50質量%以上含有し、好ましくは70質量%以上、より好ましく90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、100質量%であってもよい。
【0024】
本発明において、繊維積層体は、上記熱可塑性樹脂に加え、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、界面活性剤、着色剤、リン系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系等の耐候安定剤、ヒンダードアミン系等の耐光安定剤、ブロッキング防止剤、ステアリン酸カルシウム等の分散剤、滑剤、核剤、顔料、柔軟剤、親水剤、撥水剤、助剤、充填剤、抗菌剤、薬剤、天然油、合成油などが挙げられる。
【0025】
<マスク用濾材の製造方法>
本発明において、マスク用濾材は、上述した平均繊維径及び繊維径分布を有する繊維積層体からなるフィルタ層を有していれば特に限定されず、前記繊維積層体は乾式で製造してもよく、湿式で製造してもよいが、上述した平均繊維径及び繊維径分布を得るためには、乾式で製造することが好ましい。乾式の繊維積層体の製造方法としては、メルトブロー法、スパンボンド法等が例示される。これらの中でも、メルトブロー法で作製することが好ましく、熱可塑性樹脂を溶融して押出機のノズルから吐出し、高速高温の気流で噴き出すメルトブロー法で製造することがより好ましい。
より詳細には、高温雰囲気下において、溶融した熱可塑性樹脂を上方から下方に向けて吐出すると共に、吐出された熱可塑性樹脂に向けて略水平方向より、エアノズルから高温かつ高圧の空気を吹き付けて、溶融した熱可塑性樹脂を繊維状の樹脂とし、該繊維状の樹脂を捕集して、繊維積層体を製造することが好ましい。上記の方法では、エアノズルから吹き付けられた空気により、溶融した熱可塑性樹脂が延伸されて繊維状の樹脂となる。
ここで、捕集までの距離が長いほど、密度が低い繊維積層体が得られる傾向にある。また、吐出された熱可塑性樹脂に吹き付ける空気の温度を上げるほど、繊維状の樹脂の繊維径が小さくなる傾向にあり、吹き付ける空気の風量を上げるほど、繊維状の樹脂の繊維径が小さくなる傾向にある。また、溶融した熱可塑性樹脂の時間あたりの吐出量を下げると、繊維径が小さくなる傾向にある。
また、捕集した繊維状の樹脂を巻き取りながら、繊維積層体を製造するが、このとき、巻き取り速度を遅くすることで、目付(坪量)を上げることができる。
【0026】
本発明において特に好適な繊維積層体の製造方法について、図2を参照して詳述する。図2は、メルトブロー装置1の概略を示す模式図である。
メルトブロー装置1は、主として樹脂供給部10と、空気流発生部20と、捕集部30と、過熱蒸気供給部40と、を有する。
樹脂供給部10は、主として、ホッパ11と押出機12と、ダイ13と、樹脂ノズル14と、を有する。熱可塑性樹脂の原料チップをホッパ11に投入し、押出機12に備えられた図示しないヒータで加熱して熱可塑性樹脂を溶融し、溶融した熱可塑性樹脂を得る。押出機12は、図示しないギアポンプにより、溶融した熱可塑性樹脂をダイ13へと押し出す。
樹脂ノズル14は、ダイ13に設けられており、溶融した熱可塑性樹脂を吐出する。樹脂ノズル14からは、溶融した熱可塑性樹脂が上方から下方に向けて吐出される。
【0027】
空気流発生部20は、主として圧縮空気を生成するコンプレッサ21と、圧縮空気が通過する配管22と、レギュレータ23と、配管22を加熱するヒータ24と、エアノズル25と、を有する。コンプレッサ21、配管22、及びヒータ24は、高温かつ高圧の空気を生成する高温高圧空気生成部に相当する。エアノズル25は、樹脂ノズル14に隣接して設けられており、高温高圧空気生成部で生成された高温かつ高圧の空気を吐出する。
エアノズル25から吐出する空気の温度は、熱可塑性樹脂の種類等により適宜選択すればよいが、所望の平均繊維径及び繊維径分布を得る観点から、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上、更に好ましくは470℃以上であり、そして、好ましくは800℃以下、より好ましくは700℃以下、更に好ましくは650℃以下、より更に好ましくは620℃以下である。
なお、樹脂ノズル14及びエアノズル25は、図の紙面奥に向かって、一列に並んで設けられており、エアノズル25の配列方向は、樹脂ノズル14の配列方向と略並行であり、エアノズル25の配置領域は、樹脂ノズル14の配置領域を含む。
【0028】
エアノズル25からは、高温かつ高圧の空気が略水平方向に吐出される。エアノズル25から吐出される空気の流量は、所望の平均繊維径及び繊維径分布を得る観点から、好ましくは5L/min以上、より好ましくは10L/min以上、更に好ましくは15L/min以上であり、そして、好ましくは60L/min以下、より好ましくは45L/min以下、更に好ましくは35L/min以下である。エアノズル25から吐出された空気を吹き付けることによって、樹脂ノズル14から吐出された溶融熱可塑性樹脂が延伸されて、繊維状の樹脂となる。
【0029】
捕集部30は、主として、繊維状の樹脂を捕集する略円筒形状のサクションドラム31と、ブロワ32と、ブロワ32に接続された吸引部33と、不織布51、52が巻回された不織布ロール34、35と、巻取りドラム36と、を有する。ここで、不織布51は基材(下層)であり、不織布52は被覆材(カバー材、上層)である。
【0030】
エアノズル25から吐出された空気により、樹脂ノズル14から吐出された溶融ポリマーは微細な繊維(例えば、ナノファイバ)となり、サクションドラム31に吹き付けられる。サクションドラム31には、不織布ロール34から引き出された不織布51が巻き掛けられており、吸引部33から空気が吸引されることで繊維状の樹脂が不織布51の表面に吸着する。
不織布51の端は巻取りドラム36に設けられている。巻取りドラム36が一定の速度で回転することで、繊維状の樹脂が表面に吸着した不織布51は、巻取りドラム36に向けて一定速度で移動する。
また、不織布ロール35から引き出された不織布52も、端が巻取りドラム36に設けられている。従って、巻取りドラム36が一定の速度で回転することで、不織布52が不織布51表面の繊維層を覆う。そして、不織布52が不織布51表面の繊維層を覆ったものをカレンダー加工等により一体化することで、繊維積層体が不織布51、52によって挟持された構造が得られ、これは、巻取りドラム36に巻回される。
【0031】
過熱蒸気供給部40は、樹脂ノズル14、エアノズル25、及びサクションドラム31により囲まれた空間に過熱蒸気を供給する。樹脂ノズル14、エアノズル25、及びサクションドラム31により囲まれた空間は、エアノズル25から吹き出された空気が溶融した熱可塑性樹脂を繊維化する領域である。過熱蒸気供給部40は、主として、過熱蒸気を発生させる加熱器41と、配管42と、過熱蒸気ノズル43とを有する。
加熱器41は、図示しないボイラー等により発生する飽和蒸気を更に熱し、高い温度の過熱蒸気を発生させる。過熱蒸気は、沸点より高い温度の乾いた水蒸気であり、例えば、200℃以上700℃以下の温度帯で使用される。
加熱器41で生成された過熱蒸気は、配管42を介して、過熱蒸気ノズル43に供給され、過熱蒸気ノズル43から吐出される。過熱蒸気ノズル43は、紙面の奥に向けて一列に並んで設けられており、過熱蒸気ノズル43の配列方向は、樹脂ノズル14及びエアノズル25の配列方向と略並行であり、過熱蒸気ノズル43の配置領域は、樹脂ノズル14及びエアノズル25の配置領域を含む。
過熱蒸気ノズル43から、過熱蒸気を大量に供給することで、樹脂ノズル14、エアノズル25、及びサクションドラム31により囲まれた空間を高温高湿雰囲気下に置くことができる。
【0032】
なお、樹脂ノズル14は、中心軸が略鉛直方向に沿っている。従って、樹脂ノズル14から吐出された溶融した熱可塑性樹脂は、自重で鉛直下向きに落下する。
また、エアノズル25は、中心軸が略水平方向に沿っている。従って、高温かつ高圧の空気は、エアノズル25から水平方向に吹き出す。
エアノズル25は、樹脂ノズル14の中心軸と交差することが好ましい。つまり、エアノズル25の先端は、樹脂ノズル14の中心軸よりも前方に位置することが好ましい。エアノズル25から吹き出した空気は随伴流が発生しており、樹脂ノズル14から吐出された溶融した熱可塑性樹脂は、随伴流に乗って水平方向に吹き飛ばされ、その後、エアノズル25から吐出された空気により前方に吹き飛ばされることで延伸されて繊維状の樹脂となり、エアノズル25の前方に配置されたサクションドラム31に吹き付けられる。
なお、過熱蒸気ノズル43は、中心軸が水平方向に傾いており、エアノズル25の下方かつ後方からエアノズル25に向けて過熱蒸気を吐出することが好ましい。過熱ノズル43から吐出された過熱蒸気は、随伴流に乗って水平方向に流れ、樹脂ノズル14、エアノズル25、及びサクションドラム31によって囲まれた雰囲気に供給される。過熱蒸気を随伴流に乗せることで、樹脂ノズル14、エアノズル25及びサクションドラム31により囲まれた空間に過熱蒸気が広がりやすい。
樹脂ノズル14から吐出された溶融した熱可塑性樹脂は、過熱蒸気が樹脂ノズル14、エアノズル25、及びサクションドラム31により囲まれた空間に供給されているため、高温雰囲気下で延伸されて繊維状となる。
【0033】
<マスク用濾材及びマスクの特性>
〔繊維積層体(フィルタ層)の目付〕
本発明において、繊維積層体(フィルタ層)の目付(坪量)は、低圧損かつ高捕集率なマスク用濾材を得る観点から、好ましくは10g/m以上、より好ましくは15g/m以上、更に好ましくは20g/m以上、より更に好ましくは25g/m以上であり、そして、好ましくは50g/m以下、より好ましくは40g/m以下、更に好ましくは35g/m以下である。
繊維積層体の目付は、実施例に記載の方法により測定される。
【0034】
〔繊維積層体(フィルタ層)の厚み〕
本発明において、繊維積層体(フィルタ層)の厚みは、捕集率向上の観点から、好ましくは160μm以上、より好ましくは180μm以上、更に好ましくは200μm以上、より更に好ましくは220μm以上であり、そして、圧損を減少させる観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは300μm以下、より更に好ましくは240μm以下である。
繊維積層体の厚みは、例えば、株式会社ミツトヨ製、シックネスゲージで測定される。
【0035】
〔不織布層〕
本発明のマスク用濾材は、フィルタ層の上層及び下層に不織布層を有することが好ましい。前記不織布層を構成する不織布は、上述の製造方法において、基材及び被覆材として使用された不織布であることが好ましい。不織布としては、スパンボンドやサーマルボンド、スパンレースからなる不織布基材が例示され、適度に目が粗いため通気性を損なうことがなく、フィルタ層の基材、保護層として必要な耐久性と良好な肌触りを備える安価な材料であることから、スパンボンド不織布又はスパンレース不織布が好ましい。
該不織布を構成する樹脂として特に限定されないが、マスク用濾材としての耐久性や触感等の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12等の脂肪族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリ乳酸等のポリエステルが例示され、特にポリプロピレンが好ましい。
また、不織布層の一層あたりの厚さは、マスク濾材としての形状安定性、耐久性の観点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは120μm以上、更に好ましくは140μm以上であり、そして、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは300μm以下である。
【0036】
〔マスク用濾材及びマスクの0.3μm径の粒子の捕集率〕
本発明のマスク用濾材は、初期性能(使用前)として、透過風速5.3cm/secにおける0.3μm径の粒子の捕集率(捕集効率)は、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは65%以上である。
また、6時間使用後の0.3μm径の粒子の捕集率(捕集効率)の低下率(%)は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは15%以下、より更に好ましくは10%以下である。
更に、アルコール処理後の0.3μm径の粒子の捕集率(捕集効率)は、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上である。なお、アルコール処理は、イソプロピルアルコールの代わりに、ドライゾールNM(86.9%エタノール)を使用する以外は、JIS B 9908-4:2019の「換気用エアフィルタユニット・換気用集じん器の性能試験方法-第4部:換気用エアフィルタユニットの除電処理の試験方法」に準じて行うものである。
前記捕集率は、実施例に記載の方法により測定される。
【0037】
〔エレクトレット加工〕
本発明において、マスク用濾材及び該マスク用濾材を用いてなるマスクは、エレクトレット加工が施されていてもよく、施されていなくてもよい。
初期の捕集率を向上させる観点でエレクトレット加工を施してもよいが、本発明のマスク用濾材及びマスクは、エレクトレット加工を施していなくても、高い捕集率が得られる。
また、アルコール処理や、長時間の使用によって除電されたり、洗濯処理されても、高い捕集率が得られることから、耐久性に優れた、又は繰り返し使用に耐えるマスクとしての使用が期待される。
【0038】
〔マスク用濾材及びマスクの圧力損失〕
本発明のマスク用濾材及びマスクは、圧力損失が低いことが好ましく、透過風速を5.3cm/secとしたときの圧力損失は、好ましくは80Pa以下、より好ましくは70Pa以下、更に好ましくは60Pa以下、より更に好ましくは50Pa以下である。
前記圧力損失は、実施例に記載の方法により測定される。
【0039】
[用途]
本発明のマスク用濾材は、これを使用してマスクを製造してもよく、また、マスク用の取り換えシートとして使用してもよい。
マスク用の取り換えシートは、マスクの内側に装着するシートであり、本発明のマスク用濾材をマスク用取り換えシートとしての使用は、衛生面及び捕集効率向上の観点から好ましい。
本発明のマスクは、本発明のマスク用濾材を用いてなるマスクである。
前記マスクは、プリーツ型マスク、立体型マスク、打ち抜き型マスクのいずれでもよいが、特にプリーツ型マスクであることが好ましい。
【実施例
【0040】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0041】
[測定・評価]
<繊維径の測定>
〔測定装置〕
スパッタ:Vacuum Device Inc.製、MODEL MSP-1S Magnetron Sputter
SEM:本体=株式会社キーエンス製 VHX-D510
測定システム=株式会社キーエンス製 VHX-950F
〔測定方法〕
測定試料に上記スパッタ装置で金蒸着し、視野に100本強入る倍率で(2,500~3,000倍)100本以上の繊維径を測定した。得られたデータから、各繊維径の分布を算出した。
なお、幅約1mの繊維積層体について、幅方向に5分割したときの中央部(端から約40~60cm)を試料とした。
-平均繊維径算出方法-
(1)測定値を下記のような階級に分類し、相対度数を求めた。
200nm未満、200nm以上400nm未満、400nm以上600nm未満、600nm以上800nm未満、800nm以上1,000nm未満、1μm以上2μm未満、2μm以上3μm未満、3μm以上5μm未満、5μm以上10μm未満、10μm以上
(2)各階級の階級値は下記の通りとした。
200nm未満;階級値=200nm
200nm以上400nm未満;階級値300nm
400nm以上600nm未満;階級値550nm
600nm以上800nm未満;階級値750nm
800nm以上1,000nm;階級値850nm
1μm以上2μm未満;階級値1,500nm
2μm以上3μm未満;階級値2,500nm
3μm以上5μm未満;階級値4,000nm
5μm以上10μm未満;階級値7,500nm
10μm以上;階級値10,000nm
(3)測定した繊維径の対数平均値を平均繊維径とした。
【0042】
<厚み>
繊維積層体、並びに基材及び被覆材として使用した不織布の厚みは、株式会社ミツトヨ製、シックネスゲージ(547-301)を使用して測定した。
【0043】
以下の項目については、約1m幅の繊維積層体を、幅方向に5分割し、それぞれについて測定を行い、平均値を求めた。
<目付>
目付は、10cm角にカットした試料を精密天秤にて測定し、質量(g)を面積(0.01m)で除した値とした。
なお、不織布(基材)、繊維積層体、及び不織布(被覆材)の順で積層してあるマスク用濾材について目付を測定し、基材及び被覆材の不織布の目付を差し引いて、繊維積層体の目付とした。
【0044】
<圧力損失>
不織布(基材)、繊維積層体、及び不織布(被覆材)の順で積層してあるマスク用濾材の測定サンプルを、直内径113mm(有効濾材面積100cm)のフィルタホルダにセットし、濾材透過風速を5.3cm/secになるよう流量計で調整した。そして、この時のサンプル濾材の上下流で生じる圧力損失をマノメータで測定した。
また、基材及び被覆材の不織布は、目の粗い不織布から形成されており、圧力損失については、ほとんど影響しない。
また、アルコール処理は、イソプロピルアルコールの代わりに、ドライゾールNM(86.9%エタノール)を使用する以外は、JIS B 9908-4:2019の「換気用エアフィルタユニット・換気用集じん器の性能試験方法-第4部:換気用エアフィルタユニットの除電処理の試験方法」に準じて行った。
更に、洗濯処理は、以下の方法により行った。市販の洗濯用中性洗剤10mLを4Lの水に希釈し、その洗濯液2Lにマスク(4枚)を漬け、押し洗いし、その後、4Lの水にて2回濯ぎを行い、泡が残っていないことを確認後、乾いた布で水切りを行い、陰干しした。これを1サイクルとし、5サイクルの処理を行った。
【0045】
<捕集効率>
圧力損失の測定と同一のフィルタホルダに、測定試料であるマスク用濾材をセットした後、濾材の上流側に大気塵を導入し、空気を流速5.3cm/secで通過させたときの0.3μm径の上流及び下流の粒子数を、微粒子計測器(ベックマンコールター社製、MET ONE HHPC 3+)で測定した。捕集効率は次式で算出した。
捕集効率(%)=(1-(CO/CI))×100
CO=下流側0.3μm粒子の粒子数
CI=上流側0.3μm粒子の粒子数
なお、基材及び被覆材の不織布は、目の粗い不織布から形成されており、捕集効率については、ほとんど影響しない。
【0046】
[繊維積層体の製造]
図2に示すメルトブロー装置を使用し、ポリプロピレン樹脂を、単孔吐出量(1孔あたりの吐出量)1.23g/min、エアノズル25の1孔あたりの吐出風量を30(L/min)、エアノズル25からの吐出温度を500(℃)、繊維積層体の厚みを表1に記載のように設定して、マスク用濾材を作製し、上述の方法により、得られたマスク用濾材及び繊維積層体について、測定及び評価を行った。
なお、製造時には、基材(下層)の不織布及び被覆材(上層)の不織布として、ポリプロピレン長繊維不織布(目付=30g/m、旭化成工業株式会社製、P03030、厚み=0.25mm)を使用した。
また、実施例1のマスク用濾材を、15cm角の試料とし、試料の上部10cmの位置で、高圧電源に繋がる針状電極から、30kVで30秒間印加することによりエレクトレット処理し、実施例2のマスク用濾材を得た。
結果を以下の表1に示す。
更に、得られたマスク用濾材をプリーツ型マスクに加工し、評価を行った。結果を以下の表2に示す。なお、表2において、比較例1として市販品A(不織布3層構造、基材/フィルタ層/基材)を使用し、比較例2として、市販品B(内層にメッシュ層1層を含み、他は不織布からなる4層構造、基材/フィルタ層/メッシュ層/基材)を使用した。
得られた実施例1及び実施例2のプリーツ型マスクを1日装着したところ、息苦しさはなく、装着感も良好であった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1に示されているような繊維積層体をフィルタ層として有するマスク濾材及びマスクでは、表2に示すように、捕集効率が高く、圧損も許容できる範囲であった。また、実施例1のマスク用濾材をエレクトレット処理した実施例2では、更に高い捕集効率が得られた。
一方、比較例1のように、従来の市販品Aでは、十分な捕集効率が得られず、使用による捕集効率の低下率も大きかった。また、エレクトレット加工がされている比較例2の市販品Bでは、使用前の捕集効率は高いものの、エタノールによる除菌によって、除電され、捕集効率が大きく劣化し、初期性能からの低下率が70%以上であった。
一方、エレクトレット加工を行った実施例2のマスクは、エタノールによる除菌によって除電されることから、捕集効率の低下は認められるもののその低下は実施例1のエタノールによる除菌時同程度までであり、比較例1及び比較例2のマスクに比べて高い捕集効率を維持しており、比較例1との関係では、エタノールによる除菌により、除電された後でも、比較例1における使用前の捕集効率よりも高い捕集効率が得られた。
更に、本発明のマスク用濾材は、洗濯処理によっても高い捕集効率を維持しており、初期性能からの低下率も低く、再利用性にも優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のマスク用濾材及びこれを用いてなるマスクは、エレクトレット処理を行っていなくても高い捕集効率が得られ、また、使用後や、アルコール処理後、更には洗濯処理によっても捕集効率が許容可能な範囲に維持され、繰り返し使用が可能なマスク用濾材、及びマスクとしての応用が期待される。
【符号の説明】
【0051】
1:メルトブロー装置
10:樹脂供給部
11:ホッパ
12:押出機
13:ダイ
14:樹脂ノズル
20:空気流発生部
21:コンプレッサ
22:配管
23:レギュレータ
24:ヒータ
25:エアノズル
30:捕集部
31:サクションドラム
32:ブロワ
33:吸引部
34,35:不織布ロール
36:巻取りドラム
40:過熱蒸気供給部
41:加熱器
42:配管
43:過熱蒸気ノズル
51:不織布(基材)
52:不織布(被覆材(カバー材))
100:マスク用濾材
110:フィルタ層
120,122:不織布層
図1
図2