IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テーイー・アウトモティーフェ(ハイデルベルク)ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許-パイプ接続デバイス 図1
  • 特許-パイプ接続デバイス 図2
  • 特許-パイプ接続デバイス 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】パイプ接続デバイス
(51)【国際特許分類】
   F16L 19/028 20060101AFI20220112BHJP
   F16B 33/06 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
F16L19/028
F16B33/06 E
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020501163
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 IB2018055107
(87)【国際公開番号】W WO2019012444
(87)【国際公開日】2019-01-17
【審査請求日】2020-03-02
(31)【優先権主張番号】202017104112.3
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504117534
【氏名又は名称】テーイー・アウトモティーフェ(ハイデルベルク)ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シュタン,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン-ルシェル,ユリアン
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-299895(JP,A)
【文献】特表2009-517614(JP,A)
【文献】特開2015-230099(JP,A)
【文献】特開2000-120638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 19/028
F16B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ(2)同士を接続するためのパイプ接続デバイス、特に自走車両用パイプ同士を接続するためのパイプ接続デバイスであって、
ネジ要素を有し、
前記パイプ(2)は、前記ネジ要素に接続され、
前記ネジ要素は、ネジ接続によって接続要素に接続可能であり、
前記ネジ要素は、
少なくとも1つのスレッド(3)と、
少なくとも1つのスレッドなし接触表面(4)とを備え、
前記スレッド(3)には、少なくとも1つの領域において、第1コーティング(7)が施されており、
前記少なくとも1つのスレッドなし接触表面(4)には、少なくとも1つの領域において、第2コーティング(8)が施されており、
前記第1コーティング(7)は、
少なくとも1種のエポキシ化合物、特に、少なくとも1種のフェノール系エポキシ化合物と、
少なくとも1種の潤滑剤とを
少なくとも40重量%含み、好ましくは、少なくとも50重量%含み、
前記ネジ要素は、軸方向穴を有するネジ継手(1)であり、
前記軸方向穴は、当該軸方向穴を通過するパイプ(2)を有し、
前記パイプ(2)は、当該パイプ(2)のパイプ端に、フランジ(10)を有し、
前記第2コーティング(8)が施された前記ネジ継手(1)の前記スレッドなし接触表面(4)は、前記フランジ(10)又は前記フランジ(10)の後部側と接触する
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項2】
請求項1に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第1コーティングは、第1摩擦係数μ1を有し、
前記第2コーティングは、第2摩擦係数μ2を有し、
前記第1摩擦係数μ1は、前記第2摩擦係数μ2より大きい
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第1コーティングの第1摩擦係数μ1の前記第2コーティングの第2摩擦係数μ2に対する比(μ1/μ2)は、
1.1~4.0の間、好ましくは1.25~3.5の間、特に1.26~3.5の間、最も特に好ましくは1.3~3の間である
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記ネジ要素に又は前記ネジ要素の表面に、前記第1コーティング(7)が完全に又は実質的に完全に施されており、
前記第1コーティング(7)に、前記少なくとも1つのスレッドなし接触表面(4)の少なくとも1つの領域において、前記第2コーティング(8)が施される
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記ネジ要素は、ネジ切りされたボルト又はネジ継手(1)であって、
ネジ切りされたボルト又はネジ継手(1)は、雄ネジとして構成されたスレッド(3)を有する
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項6】
請求項5に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記ネジ切りされたボルトの前部端又は前記ネジ継手(1)の前部端には、前記少なくとも1つのスレッドなし接触表面(4)を有し、
前記少なくとも1つのスレッドなし接触表面(4)は、少なくとも1つの領域において前記第2コーティングで被覆される
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第1コーティング(7)の層厚は、2~25μm、好ましくは3~20μmである
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第1コーティング(7)中の前記潤滑剤は、
ポリマー材料又は有機ポリマー材料であり、且つ、好ましくは、「ポリオレフィン、パラフィン、ワックス状材料、ポリアミド、フルオロポリマー」の群より選択される少なくとも1種の潤滑剤である
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記潤滑剤は、前記第1コーティング中に、
4~20重量%の量で存在し、好ましくは5~15重量%の量で存在し、特に7~13重量%の量で存在する
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第1コーティング(7)は、少なくとも1つの充填材を、
3~25重量%含み、好ましくは4~20重量%含み、特に10~20重量%含む
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第2コーティング(8)の層厚は、1~100μm、好ましくは2~80μmである
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第2コーティング(8)の層厚は、前記第1コーティング(7)の層厚よりも大きい
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第2コーティング(8)は、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の潤滑剤とを含む
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第2コーティングは、
「硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン」の群より選択される少なくとも1種の潤滑剤を含む
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記第1コーティング(7)は、
3~20重量%のアルミニウムを含み、好ましくは4~15重量%のアルミニウム、特に7~13重量%のアルミニウムを含む
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記ネジ要素は、少なくとも1つの防食コーティングで、特に亜鉛ニッケル防食コーティングで被覆され、
前記防食コーティングは、前記第1コーティングの下に設けられる
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【請求項17】
請求項16に記載のパイプ接続デバイスであって、
前記ネジ要素に、少なくとも1つの不動態化層が施され、
前記不動態化層は、前記第1コーティングの下に設けられ、
前記不動態化層は、好ましくは前記防食コーティングと前記第1コーティングとの間に設けられる
ことを特徴とするパイプ接続デバイス
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本文書は、それぞれの内容が参照により全体として本明細書に組み込まれる2017年7月11日に出願された「パイプを接続するためのネジ要素及びパイプ接続デバイス(Screw Element For Connecting Pipes And A Pipe Connecting Device)」と題する独国特許出願第202017104112.3号の優先権の利益を主張する。
【0002】
技術分野
本開示は、パイプを接続するためのネジ要素、好ましくは自走車両用パイプを接続するためのネジ要素に関する。このネジ要素は、少なくとも1つのスレッドと、少なくとも1つのスレッドなし接触表面とを備える。スレッドには、少なくともいくつかの領域において、第1コーティングが施されており、また、少なくとも1つのスレッドなし接触表面には、少なくともいくつかの領域において、第2コーティングが施されている。本開示は、本開示によるネジ要素を備えた、パイプを接続するためのパイプ接続デバイス、特に自走車両用パイプを接続するためのパイプ接続デバイスにも関する。
【背景技術】
【0003】
パイプ又は自走車両用パイプ又はその両方のためのネジ要素及びパイプ接続デバイスは、実用化されている様々な実施形態が知られている。特に、ネジ継手として実施されているネジ要素が知られており、これらを用いて、パイプを接続要素に接続することができ、特に自走車両用パイプが接続要素に接続可能である。これらの公知のネジ継手には、通常、コーティング、特に防食コーティングがなされており、通常はネジ継手全体を覆っている。
【0004】
公知のネジ継手を有する実用化により公知となっているネジ接続では、ネジ接続の望ましくない緩み又は解除が頻繁に生じる。このような望ましくない緩み/解除は、特に自走車両用パイプを含むパイプが接続されたネジ継手で主に生じる。ネジ継手が一緒に螺合されると、その結果、パイプも回転されうる。そのため、パイプのねじりに起因して、パイプに所謂スプリング力が蓄えられる。パイプのねじりによって逆向きのトルクが生成し、その結果、ネジ接続の望ましくない緩み若しくは解除、又は、無制御な緩み若しくは解除、又はその両方が生じうる。ネジ接続の望ましくない緩み又は解除は、特に自走車両で生じる振動によっても特に生じうる。
【0005】
特許文献1は、上述のタイプのネジ要素又は請求項1のプリアンブルに記載のネジ要素又はその両方を開示する。これらのネジ要素は、信頼性があることが基本的に分かっている。それにもかかわらず、これらのネジ要素は、そのコーティングの最適化に関して、さらなる改善が可能である。これは、特に、これらの摩耗特性及び腐食特性にも言えることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許第2136119号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本開示は、最適化されたコーティングならびに高い耐摩耗性及び高い耐食性を特徴とする、冒頭に定義されたタイプのネジ要素を提供する技術的課題に基づく。本開示は、そのようなネジ要素を有するパイプ接続デバイスを提供する技術的課題にも基づく。
【0008】
技術的課題を解決するために、本開示は、まず、請求項1のプリアンブルに記載の、パイプを接続するためのネジ要素、好ましくは自走車両用パイプを接続するためのネジ要素を教示する。このネジ要素は、第1コーティングが、少なくとも1種のエポキシ化合物、特に少なくとも1種のフェノール系エポキシ化合物と、少なくとも1種の潤滑剤とを、少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、特に少なくとも60重量%含むことを特徴とする。本開示によるネジ要素は、自走車両における自走車両用パイプに使用されるのが特に好ましい。ここでは、自走車両用パイプという語は、燃料や、ブレーキ液や、冷媒などのための管路を含む。
【0009】
本開示の範囲内において、スレッドなし接触表面は、スレッドのない表面を特に有し、ネジ接続の場合には、ネジ要素の対応する嵌合ネジ要素に対して力を及ぼす。これは、特に、ネジ切りされたボルトの前部端又はネジ継手の前部端又はその両方の前部端であってもよい。または、ネジ要素のネジ頭又はネジ切りされたボルトのネジ頭又はその両方のネジ頭の、底部側であってもよい。
【0010】
本開示の推奨される実施形態によれば、第1コーティングは第1摩擦係数μ1を有し、第2コーティングは第2摩擦係数μ2を有し、第1摩擦係数μ1は第2摩擦係数μ2よりも大きい。ある確実な実施形態では、第1摩擦係数μ1は第2摩擦係数μ2よりもかなり大きいことを特徴とする。摩擦係数は、摩擦の係数又は摩擦値としても知られる。第1コーティングの第1摩擦係数μ1の第2コーティングの第2摩擦係数μ2に対する比μ1/μ2は、1.1~5.0の間、より好ましくは1.1~4.0の間、好ましくは1.25~4.0の間、特に1.5~3.5の間、より好ましくは1.26~3.5の間、非常に好ましくは1.3~3.5の間又は1.3~3の間又はその両方を満たすことが推奨される。本開示の非常に推奨される実施形態によれば、第1コーティングの摩擦係数μ1は0.1より大きく、好ましくは0.15より大きい。第2コーティングの摩擦係数μ2は、好ましくは0.08未満であり、特に0.075未満である。第1コーティング及び第2コーティングそれぞれの摩擦係数μ1及びμ2は、そこに含まれる少なくとも1種の潤滑剤によって調節可能であり、特に、この少なくとも1種の潤滑剤の種類及び量によって調節可能である。潤滑剤についても、以下でより詳しく記載する。
【0011】
本発明の特に好ましい実施形態では、ネジ要素に、すなわちネジ要素の表面に、第1コーティングが完全に又は実質的に完全に施されており、この第1コーティングに、少なくとも1つのスレッドなし接触表面上の少なくともいくつかの領域において、第2コーティングが施されることを特徴とする。本開示における2つのコーティング(第1コーティング及び第2コーティング)のうち、第1コーティングのみが、ネジ要素の表面全体又は実質的に表面全体を覆うこと、及び、この第1コーティングに、少なくとも1つのスレッドなし接触表面の領域のみにおいて、第2コーティングが少なくともいくつかの領域で施されることは、本開示の範囲内である。したがって、本開示における2つの層に関して、スレッドなし接触表面又は少なくとも1つのスレッドなし接触表面の領域のみが2層として設計されており、且つ、ネジ要素の残部の全体又は残部の実質的に全体に、第1コーティングのみが、単層で施される。ネジ要素には、第1コーティングの下に、追加でコーティングがなされること、特に少なくとも1つの抗食コーティング又は少なくとも1つの不動態化層又はその両方が設けられることも、本開示の範囲内である。例えば、接着促進剤層がさらにあってもよい。追加されるのが好ましい層については、以下でより詳細に説明する。
【0012】
本開示の特に推奨される実施形態によれば、本開示によるネジ要素は、ネジ切りされたボルト又はネジ継手であり、雄ネジとして実施されるスレッドを有する。次いで、このスレッドに、特に第1摩擦係数μ1を有する第1コーティングを、少なくとも1又は複数の領域において施す。ネジ要素が、パイプが接続されるネジ継手であることは、本開示の範囲内である。本開示の推奨される実施形態によれば、パイプ又は自走車両用パイプは、ネジ継手を軸方向に貫通し、ネジ継手の前部端の後方で、パイプ端と係合することが好ましい。パイプ端は、フランジとして実施されるのが好適である。
【0013】
ネジ要素の、少なくとも1つのスレッドなし接触表面又は複数のスレッドなし接触表面が、ネジ要素をねじ込む方向に対して直角である又は実質的に直角であることも、本開示の範囲内である。本開示における、ネジ切りされたボルトとして又はネジ継手としてのネジ要素の設計では、本開示の推奨される実施形態によるネジ切りされたボルトの前部端又はネジ継手の前部端には、スレッドなし接触表面を有し、このスレッドなし接触表面は、少なくとも1又は複数の領域において、特に第2摩擦係数μ2を有する第2コーティングで被覆されている。また、ネジ切りされたボルト又はネジ継手がネジ頭を有することと、スレッド側のネジ頭の底部側にスレッドなし接触表面を有し、このスレッドなし接触表面は、少なくとも1又は複数の領域において、特に第2摩擦係数μ2を有する第2コーティングにより被覆されたことは、本開示の範囲内である。本開示の非常に好ましい実施形態では、スレッドなし接触表面は、ネジ切りされたボルトの前部端又はネジ継手の前部端に、第2コーティングが完全に施されること、又は、ネジ頭の底部側のスレッドなし接触表面は、完全に又は実質的に完全に第2コーティングが施されること、又はその両方を特徴とする。
【0014】
本開示によるネジ要素がネジナットとして設計され、このネジナットは雌ネジとして設計されたスレッドを有することも、基本的に本開示の範囲内である。この場合、雌ネジは、少なくとも1又は複数の領域において、好ましくは完全に又は実質的に完全に第1コーティングにより被覆されている。ネジナットは、ネジ切りされたボルト又はネジ継手を受けるように働き、好ましくは本開示にしたがって被覆されたネジ切りされたボルト又はネジ継手を受けるように働く。好ましい実施形態では、ネジナットが、2つのパイプを接続するための雌ネジを備えた接続スリーブであるか、又は、接続されるパイプのための接続ブロック内の雌ネジを備えた止まり穴であることを特徴とする。接続スリーブの接触フランジがスレッドなし接触表面を有し、このスレッドなし接触表面が、少なくとも1又は複数の領域において、好ましくは完全に又は実質的に完全に第2コーティングにより被覆されていることは、本開示の範囲内である。本開示のある実施形態では、第1コーティングの第1摩擦係数μ1は、第2コーティングの第2摩擦係数μ2の少なくとも1.2倍、特に少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍であり、ある実施形態の変形例では少なくとも3倍である。
【0015】
本開示によるネジ要素のベース本体が、特に本開示によるネジ切りされたボルト又はネジ継手のベース本体が、金属製又は実質的に金属製であり、好ましくは鋼製又は実質的に鋼製であることは、本開示の範囲内である。このベース本体は、最初に、亜鉛ニッケル層又は亜鉛ニッケル防食コーティングで被覆されることが望ましい。本開示の推奨される実施形態では、この亜鉛ニッケル層又は亜鉛ニッケル防食コーティングに不動態化層が施される。ネジ要素の全体又はネジ要素の実質的に全体が、亜鉛ニッケル層及び不動態化層の両方で被覆されることが望ましい。不動態化層には、第1コーティングが施されるのが好ましく、推奨される実施形態では、ネジ要素の表面又は不動態化層の表面に、完全に又は実質的に完全にこの第1コーティングが施される。ネジ要素の少なくとも1つのスレッドなし接触表面の第1コーティングに、特にネジ要素又はネジ継手の前部端の第1コーティングに、少なくとも1又は複数の領域において、好ましくは完全に、第2コーティングが施されることが推奨される。
【0016】
本開示の良好な実施形態は、第2コーティングの層厚が、第1コーティングの層厚よりも大きいことを特徴とする。第1コーティングの層厚は、2~25μm、好ましくは3~20μmに達するのが好適である。第2コーティングの層厚は、1~100μm、好ましくは2~80μmに達することが推奨される。
【0017】
第1コーティングが少なくとも1種の潤滑剤を含むフェノール系エポキシ化合物を含むことは、本開示の範囲内である。第1コーティングが、フェノール系エポキシ化合物を、少なくとも40重量%含む、好ましくは少なくとも50重量%含む、特に少なくとも60重量%含むことが望ましい。潤滑剤は、第1コーティング中に、4~20重量%の量で存在し、好ましくは5~15重量%の量で存在し、特に7~13重量%の量で存在し、非常に好ましくは8~12重量%の量で存在することが望ましい。本開示の好ましい実施形態によれば、第1コーティング中の潤滑剤は、ポリマー材料又は有機ポリマー材料である。第1コーティングは、「ポリオレフィン、パラフィン、ワックス状材料、ポリアミド、フルオロポリマー」の群より選択される少なくとも1種の潤滑剤を含むのが好ましい。潤滑剤として使用される少なくとも1種のポリオレフィンは、望ましくはポリエチレン又はポリプロピレン又はその両方であることが推奨される。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、第1コーティングの潤滑剤として使用されるフルオロポリマーとして推奨される。
【0018】
第1コーティングは、少なくとも1種の充填材を、3~25重量%含み、好ましくは4~20重量%含み、特に好ましくは10~20重量%含むことが推奨される。複数種類の充填材が第1コーティング中に存在し、全体として前述の重量%単位で表された量を好適に生じることは、本開示の範囲内である。本開示の非常に好ましい実施形態では、第1コーティングが、3~20重量%のアルミニウムを含み、好ましくは4~15重量%のアルミニウムを含み、特に7~13重量%のアルミニウムを含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の良好な実施形態は、第2コーティングは、少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の潤滑剤とを含むことを特徴とする。本開示の実施形態の変形例は、第2コーティングのポリマーがエポキシ化合物であり、特にフェノール系エポキシ化合物であることを特徴とする。第2コーティングは、「硫化モリブデン、グラファイト、フルオロポリマー」の群より選択される少なくとも1種の潤滑剤を含むのが好ましい。フルオロポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でもよい。第2コーティングの摩擦係数が潤滑剤の種類及び量によって調節可能であることは、本開示の範囲内である。第2コーティング中の潤滑剤の量は、6~22重量%、好ましくは7~20重量%、特に7~18重量%であることが推奨される。第2コーティングの層厚は、3~35μm、好ましくは5~20μmであるのが好適であることが分かっている。
【0020】
本開示の好ましい例示的実施形態によれば、第1コーティングは、2~25μm、好ましくは3~20μmの層厚を有し、第1コーティングは、0.1~0.7、好ましくは0.1~0.6の摩擦係数μ1を有する。この例示的実施形態によれば、第2コーティングは1~100μm、好ましくは2~80μmの層厚を有し、第2コーティングは、0.06~0.2の摩擦係数μ2を有する。
【0021】
技術的課題を解決するために、本開示は、本開示によるネジ要素と接続要素とを用いてパイプを接続するパイプ接続デバイスも開示しており、特に自走車両用パイプを接続するパイプ接続デバイスを開示している。ここでは、ネジ要素は、接続要素とともにねじ込むことができる。本開示によるネジ要素に接続されるパイプは本開示の範囲内であり、また、このネジ要素がネジ接続によって接続要素に接続可能であることは本開示の範囲内である。本開示の推奨される実施形態によれば、ネジ要素はネジ継手として設計されており、このネジ継手は軸方向穴(bоre)を有し、パイプはこの軸方向穴を通過している。また、パイプはその一端にフランジを有し、第2コーティングが施されたネジ継手の前部端がパイプのフランジの裏側に接触することは、本開示の範囲内である。パイプの一端にあるフランジの裏側に第2コーティングが提供されることも、基本的に本開示の範囲内である。ネジ継手の前部端は、少なくとも1又は複数の領域において、フランジの裏側と形態嵌合接触(form-fitting contact)するのが好適である。本開示のある実施形態の変形例によれば、パイプの一端にあるフランジはFフランジであり、このため、フランジの後部側は、パイプの長手軸に対して横方向に設けられるか、又は、パイプの長手軸に対して直角に若しくは実質的に直角に設けられる。本開示によるネジ継手の前部端は、少なくとも1つの表面部分を有し、この少なくとも1つの表面部分は、パイプの長手軸に対して横方向に向いており、又は、パイプの長手軸に対して直角に若しくは実質的に直角に向いている。この表面部分は、フランジの後部側と形態嵌合接触するか又は実質的に形態嵌合接触する。この表面部分は、ネジ継手の周囲にわたって延びるのが好ましい。ここでFフランジという用語は、特に、DIN規格74234に説明されるようなF字型のフランジを指す。本開示の別の実施形態によれば、パイプの一端にあるフランジはEフランジであり、その後部側は円錐状又は実質的に円錐状に設計されている。ネジ継手の前部端は、円錐状の又は実質的に円錐状の少なくとも1つの表面部分を有し、この少なくとも1つの表面部分は、Eフランジのフランジ後部側と形態嵌合接触するか又は実質的に形態嵌合接触する。この表面部分は、ネジ継手の周囲にわたって延びるのが好適である。ここでEフランジという用語は、特にDIN規格74234に説明されるようなE字型のフランジを指す。
【0022】
本開示は、ネジ要素の製造方法、すなわち本発明によるネジ要素の製造方法にも関する。このネジ要素は、少なくとも1つのスレッドと、少なくとも1つのスレッドなし接触表面とを備える。このスレッドは、少なくとも1又は複数の領域において、第1コーティングで被覆されており、また、少なくとも1つのスレッドなし接触表面は、少なくとも1又は複数の領域において第2コーティングで被覆されている。第1コーティングは、少なくとも1種のエポキシ樹脂と少なくとも1種の潤滑剤とを、少なくとも50重量%含む。
【0023】
本開示は、各ネジ接続が不意に緩んだり又は解除されたりすることが有効かつ機能的に安全な態様で阻止されうるという知見にまず基づいている。本開示は、ネジ要素、特にネジ継手は、そのスレッドの領域において第1コーティングで被覆されているが、それにもかかわらず、それぞれのネジ接続の一部として共に容易にねじ込めるという知見にも基づいている。しかし、同時に、この第1コーティングは、さらに、ネジ接続が不意に緩んだり又は解除されたりすることを阻止する。この範囲で、本開示による第1コーティングは、非常に特別な優位性を特徴とするといえる。しかし、接触面の領域において第1コーティングに施される第2コーティングは、接合される部品へのねじり力の伝達を、又は、接合されるパイプもしくはパイプ端の少なくとも1つへのねじり力の伝達を、低減又は阻止又はその両方をする。これは、逆向きのトルクを間違いなく低減するか又は完全に阻止しさえする。本開示の範囲内において、第1コーティングは特に重要である。この第1コーティングは、本開示によるネジ要素又はネジ要素の不動態化層又はその両方に最適に接着する。上述の優位性に加えて、この第1コーティングは、ネジ要素の被覆された表面が高い耐摩耗性を持つことと確実にし、さらに最適な腐食保護を確実にする。本開示によるネジ要素において、一方では第1コーティングが、他方では第2コーティングが、それらの摩擦係数について優れた態様で互いに調整してもよく、これにより、本開示による技術的課題が容易かつ効率的に解決可能である。本開示による、ネジ要素の第1コーティングは、主に機械的損傷からネジ要素のスレッドを保護する。本開示による第1コーティングは、その摩擦係数の調節を通じてパイプのフランジにおける力の条件を最適化できるという重要な優位性も有し、そのため、パイプ接続における不浸透性が大幅に改善され、その結果信頼性を上げることが可能となる。さらに、本開示によるネジ要素の2つのコーティングは、ネジ要素のそれぞれの表面に容易かつ正確に施すことが可能である。さらに、本開示によるコーティングは、比較的安価な態様で実施可能である。
【0024】
本開示が図面に基づいて以下により詳細に説明されるが、図面は例示的実施形態の1つを示すにすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示による、ネジ継手の形態をしたネジ要素を備えたパイプ接続デバイスの縦断面図である。
【0026】
図2】本開示による、ネジ継手として設計されたネジ要素の断面図である。
【0027】
図3】本開示による、スレッドなし接触表面の領域での、ネジ要素における層の構成順序の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、本開示によるネジ要素を示しており、これはパイプ接続デバイスのネジ継手1として設計されている。この例示的実施形態では、パイプ2がネジ継手1を軸方向に貫通しており。このパイプ2はその一端に前部要素を有し、この前部要素はフランジ10として設計されている。これは、本例示的実施形態における本開示の範囲内では、金属製フランジ10であるのが好ましく、パイプ2のパイプ端に一体成形されるのが好ましい。本例示的実施形態では、ネジ継手1は、接続ブロック12として設計された接続要素にねじ込まれる。望ましくは且つ本例示的実施形態において、接続ブロック12は、一体化された第2パイプ13をここでは有する。ネジ継手1は、その前部シーリング表面11でフランジ10を接続ブロック12の接続表面14上に押圧する。ネジ継手1は、さらに、そのスレッド3により接続ブロック12内の止まり穴15にもねじ込まれる。このスレッド3は、雄ネジとして設計されている。ネジ継手1上のスレッド3には、本開示による第1コーティング7が施されており、この第1コーティング7は、第1摩擦係数μ1を有するのが好ましい。ネジ継手1の前部端には、スレッドなし接触表面4が形成されている。本例示的実施形態においては、このスレッドなし接触表面4に第2コーティング8が施されるのが好ましく、この第2コーティング8は、第2摩擦係数μ2を有するのが好ましい。推奨される態様において且つ例示的実施形態において、第1摩擦係数μ1は第2摩擦係数μ2よりも大きい。
【0029】
図1による例示的実施形態では、パイプ2のパイプ端のフランジ10は、そのフランジ後部側がパイプの長手軸Lに対して横方向に又は直角に設けられたFフランジとして設計されている。第2コーティング8が施されたネジ継手1の前部端は、パイプの長手軸Lに対して直角に設けられる。この前部端は、Fフランジのフランジ後部側と形態嵌合接触する補助的な表面部分17を有する。ネジ継手1を締める際には、そのスレッドなし接触表面4を備えたネジ継手1が、フランジ10に対して、すなわちフランジ10のフランジ後部側に対して押圧される。同様に、フランジ10の前部シーリング表面11が、接続ブロック12の接続表面14に対して押圧される。これにより、パイプ2と、接続ブロック12内に一体化されたパイプ路13との間に液密接続が形成される。
【0030】
図2は、本開示によるネジ要素を示しており、これはネジ継手1として設計されている。既に上述したように、このネジ継手1は、スレッド3を備え、ネジ継手1の前部端に、スレッドなし接触表面4を備える。本例示的実施形態において、スレッド3は、第1摩擦係数μ1を有する第1コーティング7で被覆され、好ましくは完全にすなわち全周囲が第1コーティング7で被覆される。推奨される態様において且つ例示的実施形態において、ネジ継手1全体にすなわちネジ継手1の表面全体に、第1摩擦係数μ1を有する第1コーティング7がまず施される。本例示的実施形態において、この第1コーティング7に、ネジ継手1の前部端のスレッドなし接触表面4に施された第2摩擦係数μ2を有する第2コーティング8が施されるのが好ましい。ここで第1コーティング7の第1摩擦係数μ1は、第2コーティング8の第2摩擦係数μ2よりも大きいのが好適である。
【0031】
図3は、本開示による、ネジ要素又はネジ継手1のコーティングの非常に好ましい層構成順序を示すものであり、すなわちネジ継手1の前部端のスレッドなし接触表面4の領域における層構成順序である。最初に、ベース本体5に、すなわちネジ継手1の金属製ベース本体5に、亜鉛ニッケル層又は亜鉛ニッケル防食コーティング9が施される。本開示によるネジ要素又はネジ継手1の全体に、この亜鉛ニッケル防食コーティング5が施されるのが好ましい。本開示の好ましい実施形態によれば且つ例示的実施形態においては、不動態化層6が、ネジ継手1の表面全体に又は亜鉛ニッケル防食コーティング9に設けられることが望ましく、この不動態化層6が亜鉛ニッケル防食コーティング9に施される。本例示的実施形態では、第1摩擦係数μ1を有する本開示による第1コーティング7が、不動態化層6に施されるのが好ましく、特にネジ継手1の全表面上に亘って施されるのが好ましい。ネジ継手の前部端のスレッドなし接触表面4の領域において、本例示的実施形態における第2摩擦係数μ2を有する第2コーティング8が、第1摩擦係数μ1を有する第1コーティング7に施されることが望ましい。図3の例示的実施形態では、このように、ネジ継手1の前部端のスレッドなし接触表面4の領域において、本開示によるネジ要素のベース本体5又はネジ継手1のベース本体5に、合計4つの層、すなわち亜鉛ニッケル防食コーティング9、不動態化層6、第1コーティング7、第2コーティング8が設けられている。
図1
図2
図3