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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-24
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】骨切術用開大器
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/56 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
A61B17/56
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021107257
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2021-07-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501046420
【氏名又は名称】HOYA Technosurgical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】二田 大也
(72)【発明者】
【氏名】小野瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】松澤 浩文
(72)【発明者】
【氏名】中村 徹也
(72)【発明者】
【氏名】中島 武彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 武美
(72)【発明者】
【氏名】木内 圭
(72)【発明者】
【氏名】平山 智大
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-209435(JP,A)
【文献】特許第4736091(JP,B2)
【文献】特許第6580756(JP,B2)
【文献】特許第6616039(JP,B1)
【文献】特開2020-028554(JP,A)
【文献】特表2004-524098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
A61B 17/14 - 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大して対象物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって、
先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第1の回動部材と、
前記第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結され、前記第1の回動部材の回動と同期して先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第2の回動部材と、
前記1対の第1の回動部材に設けられ、前記第1の回動部材及び第2の回動部材を前記ヒンジ部の軸線回りに開閉させる開閉手段と、を有し、
前記開閉手段が、前記第2の回動部材の後端側には位置せず、前記第1の回動部材の後端側に位置することを特徴とする骨切術用開大器。
【請求項2】
骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大して対象物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって、
先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第1の回動部材と、
前記第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結され、前記第1の回動部材の回動と同期して先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第2の回動部材と、
前記1対の第1の回動部材に設けられ、前記第1の回動部材及び第2の回動部材を前記ヒンジ部の軸線回りに開閉させる開閉手段と、を有し、
前記1対の第1の回動部材及び前記1対の第2の回動部材の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面が、前記他方の1対の回動部材が10°まで回動した際にも互いに重なるように形成された、ことを特徴とする骨切術用開大器。
【請求項3】
骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大して対象物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって、
先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第1の回動部材と、
前記第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結され、前記第1の回動部材の回動と同期して先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第2の回動部材と、
前記1対の第1の回動部材に設けられ、前記第1の回動部材及び第2の回動部材を前記ヒンジ部の軸線回りに開閉させる開閉手段と、を有し、
前記1対の第1の回動部材及び前記1対の第2の回動部材が閉じられた状態で、前記第1の回動部材と前記第2の回動部材の間に存在する空間を埋める形状を有する挿入補助部材を有する、ことを特徴とする骨切術用開大器。
【請求項4】
骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大して対象物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって、
先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第1の回動部材と、
前記第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結され、前記第1の回動部材の回動と同期して先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第2の回動部材と、
前記1対の第1の回動部材に設けられ、前記第1の回動部材及び第2の回動部材を前記ヒンジ部の軸線回りに開閉させる開閉手段と、を有し、
前記1対の第1の回動部材の外側の端部が、先端に向かって前記第2の回動部材に漸次近づくように形成される、ことを特徴とする骨切術用開大器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨切術用開大器に関する。
【背景技術】
【0002】
骨切術は、例えば、脚の形がいわゆる「O脚」又は「X脚」に変形した患者に対して、膝関節近くの大腿骨又は脛骨を切除あるいは切込みに人工骨(骨補填材)を挿入することにより、立位時の大腿骨又は脛骨の角度を矯正する治療方法である。
【0003】
上記骨切術は、例えば、「O脚」に変形した患者の立位時の大腿骨又は脛骨の角度を矯正する場合には、脛骨の角度を変化させる高位脛骨骨切術(High Tibial Osteotomy:「HTO」)が行われている。このような高位脛骨骨切術の一つとして、膝の関節近くの脛骨に形成された切込みに楔形の骨補填材を挿入し、立位時の脛骨の角度を矯正するオープンウェッジ法がある。このオープンウェッジ法において、骨補填材を挿入する際に切込みを開大させた状態にする骨切術用開大器が種々提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4736091号公報
【文献】特許第6580756号公報
【文献】特許第6616039号公報
【文献】特表2004-524098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~3に記載の骨切術用開大器は、いずれも骨に形成された切込みに挿入する左右2対のブレードを有し、これら左右2対のブレードを1対ずつ分離させて使用する分離型の骨切術用開大器(以下、「オープナー」と称することもある)である。例えば、特許文献2では、図1A図1Cに示すように、骨切術用開大器としてのオープナー100は、開閉手段としてのブレード110と、開大保持手段としての1対のスプレッダー120とを有している。ブレード110は、1対の回動部材111と、該1対の回動部材111をヒンジ部の軸線回りに開閉させる開閉機構112とを有している。特許文献2の分離型のオープナー100は、図1B及び図1Cに示すように、ブレード110と1対のスプレッダー120とが互いに分離可能である。
【0006】
上記特許文献2の分離型のオープナー100を用いた施術方法は、図2A図2Gに示すとおりである。
図2Aに示すように、分離型のオープナー100におけるブレード110は、1対のスプレッダー120を載置した状態で、脛骨Kに形成された切込みK1に差し込まれる。
図2Bに示すように、ブレード110の開閉機構112を作動させて1対の回動部材111を開くと連動して1対のスプレッダー120も開くことにより、切込みK1を開大する。
図2Cに示すように、1対のスプレッダー120により脛骨Kに形成された切込みK1の開大状態を保持した状態で、1対の回動部材111を閉じた状態に戻したブレード110を切込みK1から抜き取る。
図2Dに示すように、ブレード110を抜き取ることにより形成された1対のスプレッダー120の下部のスペースに第1の対象物(骨補填材)6を医療用ピンセット8で挿入し、図2Eに示すように、第1の対象物6を切込みK1の奥に配置する。
図2Fに示すように、第1の対象物6を挿置した後、1対のスプレッダー120を抜き去る。
図2Gに示すように、1対のスプレッダー120を抜き去ることにより形成されたスペースに、第2の対象物(骨補填材)7を挿入する。
【0007】
このように特許文献2の分離型のオープナー100は、ブレード110を抜き取った後、残された1対のスプレッダー120が脛骨Kに形成された切込みK1の開大状態を保持するための複雑な保持機構を有する必要があり、部品数が多くなってしまう。また、ブレード110を抜き取った後、1対のスプレッダー120で切込みK1の開大状態を保持し、第1の対象物6を挿入した後、1対のスプレッダー120を抜き取るという合計2回のブレード及び1対のスプレッダー120を抜き取る工程が必要となるため、操作性及び取扱い性が劣るという課題がある。
【0008】
一方、特許文献4に記載の非分離型の骨切術用開大器としての開創器アセンブリ1102は、図3A図3Cに示すように、上ジョー1104と下ジョー1106とを備えている。下ジョー1106は、互いに離間された1対をなす2つのアーム1108を有しており、同様に、上ジョー1104は、互いに離間された1対をなす2つのアーム1110を有している。
下ジョー1106の両アーム1108の前方端部どうしは、ピン1112によって、上ジョー1104の両アーム1110の対応端部に対して、連結されている。双方のピン1112は、開放状態と閉塞状態との間にわたって上ジョー1104と下ジョー1106とが相対回転し得るような軸を形成している。開放状態は図3Cに示されており、閉塞状態は図3Bに示されている。
【0009】
開創器アセンブリ1102は、さらに、駆動部材1114を備えている。駆動部材1114は、上ジョー1104の端部に形成された開口に対して、螺着的に係合する。駆動部材1114を第1の向きに回転させることにより、駆動部材1114を、上ジョー1104から下向きに突出させることができるとともに、下ジョー1106の端部に対して係合させることができる。この係合により、上ジョー1104と下ジョー1106どうしを、閉塞状態と開放状態との間にわたって揺動駆動することができる。
【0010】
しかしながら、特許文献4に記載の非分離型の開創器アセンブリ1102は、図3B及び図3Cに示すように開閉手段としての駆動部材1114が上ジョー1104と下ジョー1106の後端部の中央を貫通して設けられている。そのため、上ジョー1104と下ジョー1106の間に形成される開口の中央部が駆動部材1114によって分断され、開口面積が小さくなってしまうので、挿入する骨補填材の大きさ及び形状などに制限が生じてしまうおそれがある。さらに、開口から骨補填材を挿入する際に、駆動部材1114が邪魔になって骨補填材の挿入が難しくなるので、操作性及び取扱い性が劣るという問題がある。
【0011】
本発明は、従来における前述の諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、操作性に優れ、簡易な構造でありながら対象物を確実に挿置可能である骨切術用開大器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> 骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大して対象物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって、
先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第1の回動部材と、
前記第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結され、前記第1の回動部材の回動と同期して先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第2の回動部材と、
前記1対の第1の回動部材に設けられ、前記第1の回動部材及び第2の回動部材を前記ヒンジ部の軸線回りに開閉させる開閉手段と、
を有することを特徴とする骨切術用開大器である。
上記<1>に記載の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材と、1対の第2の回動部材と、開閉手段とを有している。前記1対の第2の回動部材は、前記第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結されており、前記開閉手段が前記1対の第1の回動部材に設けられているので、対象物を骨に形成された切込みに挿入する際に、開閉手段が邪魔になることがなく、第1の回動部材と第2の回動部材との間に対象物を挿入する際に必要なスペースを十分に確保でき、対象物(骨補填材)を容易かつ確実に挿置可能である。
【0013】
<2> 前記第1の回動部材と前記第2の回動部材を離間させて取り外し不可能に連結する離間連結部材を有する、前記<1>に記載の骨切術用開大器である。
上記<2>に記載の骨切術用開大器は、第1の回動部材と第2の回動部材を離間させて取り外し不可能に連結する離間連結部材を有しているので、1対の第1の回動部材と1対の第2の回動部材とを離間させて取り外し不可能に連結できると共に、第1の回動部材の回動と同期して第2の回動部材を回動させることができる。
【0014】
<3> 前記開閉手段が、前記1対の第1の回動部材を貫通するようにして前記第1の回動部材の後端側に設けられる、前記<1>から<2>のいずれかに記載の骨切術用開大器である。
上記<3>に記載の骨切術用開大器は、開閉手段が1対の第1の回動部材を貫通するようにして第1の回動部材の後端側に設けられているので、第1の回動部材と第2の回動部材との間に対象物を挿入する十分なスペースを確保でき、対象物を骨に形成された切込みに容易かつ確実に挿置することができる。
【0015】
<4> 前記1対の第1の回動部材及び前記1対の第2の回動部材の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面が、前記他方の1対の回動部材が回動した際にも互いに重なるように形成された、前記<1>から<3>のいずれかに記載の骨切術用開大器である。
上記<4>に記載の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面が、他方の1対の回動部材が回動した際にも互いに重なるように形成されていることにより、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面に対象物が落下してしまう大きさの隙間が生じないので、対象物が落下することを防止できる。
【0016】
<5> 前記1対の第1の回動部材及び前記1対の第2の回動部材が閉じられた状態で、前記第1の回動部材と前記第2の回動部材の間に存在する空間を埋める形状を有する挿入補助部材を有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の骨切術用開大器である。
上記<5>に記載の骨切術用開大器は、挿入補助部材を有するので、骨切術用開大器を骨に形成された切込みに挿入する際に、挿入補助部材を第1の回動部材と第2の回動部材の間に配置することにより、第1の回動部材と第2の回動部材の間に存在する空間を埋めることができるので、骨切術用開大器を骨に形成された切込みに安定かつスムーズに挿入することができる。
【0017】
<6> 前記1対の第1の回動部材の平均幅が前記1対の第2の回動部材の平均幅より大きく形成される、前記<1>から<5>のいずれかに記載の骨切術用開大器である。
上記<6>に記載の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材の平均幅が第2の回動部材の平均幅より大きく形成されているので、骨切術用開大器を骨に形成された切込みに挿入するのが困難とならない第1の回動部材と第2の回動部材の合計幅とすることができると共に、第1の回動部材及び第2の回動部材のいずれか一方を除去しなくても対象物を挿入可能となる。
【0018】
<7> 前記1対の第1の回動部材の外側の端部が、先端に向かって前記第2の回動部材に漸次近づくように形成される、前記<1>から<6>のいずれかに記載の骨切術用開大器である。
上記<7>に記載の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材の外側の端部が、先端に向かって前記第2の回動部材に漸次近づくように形成されていることにより、第1の回動部材1の幅が先端に向かって漸次小さくなるので、骨に形成された切込みの奥まで先端を挿入しやすくなる。
【0019】
<8> 前記1対の第1の回動部材のなす角を測定する角度測定器を骨切術用開大器の後端側に有する、前記<1>から<7>のいずれかに記載の骨切術用開大器である。
上記<8>に記載の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材のなす角を測定する角度測定器を骨切術用開大器の後端側に有するので、操作者は一見して1対の第1の回動部材のなす角、即ち切込みの開大角度を把握することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、操作性に優れ、簡易な構造でありながら対象物を確実に挿置可能である骨切術用開大器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A図1Aは、従来の分離型の骨切術用開大器の一例を示す概略斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aに示した従来の分離型の骨切術用開大器の開閉手段を示す概略斜視図である。
図1C図1Cは、図1Aに示した従来の分離型の骨切術用開大器の開大保持手段を示す概略斜視図である。
図2A図2Aは、従来の分離型の骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、開閉手段と開大保持手段を連結した状態の骨切術用開大器を骨の切込みに挿入した状態を示す図である。
図2B図2Bは、従来の分離型の骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、開閉手段により開閉手段と開大保持手段を開大させて骨の切込みを開大させた状態を示す図である。
図2C図2Cは、従来の分離型の骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、開閉手段を除去し、開大保持手段により骨の切込みの開大を保持した状態を示す図である。
図2D図2Dは、従来の分離型の骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第1の対象物を骨の切込みに挿入する状態を示す図である。
図2E図2Eは、従来の分離型の骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第1の対象物を骨の切込みに挿入した状態を示す図である。
図2F図2Fは、従来の分離型の骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、開大保持手段を骨から取り外した状態を示す図である。
図2G図2Gは、従来の分離型の骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第2の対象物を骨の切込みに挿入した状態を示す図である。
図3A図3Aは、従来の非分離型の骨切術用開大器の一例を示す概略図である。
図3B図3Bは、図3Aの従来の非分離型の骨切術用開大器の閉塞状態の一例を示す概略図である。
図3C図3Cは、図3Aの従来の非分離型の骨切術用開大器の開放状態の一例を示す概略図である。
図4A図4Aは、第1の実施形態に係る骨切術用開大器の一例を示す概略斜視図である。
図4B図4Bは、第1の実施形態に係る骨切術用開大器を用いて、脛骨の切込みに第1の対象物を挿入した状態の一例を示す概略斜視図である。
図5A図5Aは、図4Aに示した第1の実施形態に係る骨切術用開大器の一例を示す概略上面図である。
図5B図5Bは、図4Aに示した第1の実施形態に係る骨切術用開大器の一例を示す概略側面図である。
図5C図5Cは、図4Aに示した第1の実施形態に係る骨切術用開大器の一例を示す概略背面図である。
図6A図6Aは、第1の実施形態に係る骨切術用開大器における第1の回動部材及び第2の回動部材を切込みに挿入時(5°)の状態を示す概略斜視図である。
図6B図6Bは、第1の実施形態に係る骨切術用開大器における1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材を開大時(20°)の状態を示す概略斜視図である。
図7A図7Aは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器の一例を示す概略斜視図である。
図7B図7Bは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いて、骨の切込みに第1の対象物を挿入した状態の一例を示す概略斜視図である。
図8A図8Aは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第1の回動部材と第2の回動部材の間に挿入補助部材を配置した状態で骨切術用開大器を骨の切込みに挿入した状態を示す図である。
図8B図8Bは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第1の回動部材と第2の回動部材の間から挿入補助部材を除去した状態を示す図である。
図8C図8Cは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、開閉手段により第1の回動部材及び第2の回動部材をヒンジ部の軸線回りに回動させて骨の切込みを開大させた状態を示す図である。
図8D図8Dは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第1の対象物を骨の切込みに挿入する状態を示す図である。
図8E図8Eは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第1の対象物を骨の切込みに挿入した状態を示す図である。
図8F図8Fは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、骨切術用開大器を骨から取り外した状態を示す図である。
図8G図8Gは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器を用いた施術方法を示し、第2の対象物を骨の切込みに挿入した状態を示す図である。
図9A図9Aは、第3の実施形態に係る骨切術用開大器の一例を示す概略斜視図である。
図9B図9Bは、第3の実施形態に係る骨切術用開大器を用いて、骨の切込みに第1の対象物を挿入した状態の一例を示す概略斜視図である。
図10A図10Aは、第4の実施形態に係る骨切術用開大器の一例を示す概略斜視図である。
図10B図10Bは、第4の実施形態に係る骨切術用開大器を用いて、骨の切込みに第1の対象物を挿入した状態の一例を示す概略斜視図である。
図11図11は、No.1の骨切術用開大器の有限要素法(FEM)による解析結果を示す図である。
図12図12は、No.2の骨切術用開大器の有限要素法(FEM)による解析結果を示す図である。
図13図13は、No.3の骨切術用開大器の有限要素法(FEM)による解析結果を示す図である。
図14図14は、No.4の骨切術用開大器の有限要素法(FEM)による解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(骨切術用開大器)
本発明の骨切術用開大器は、骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大して対象物を挿入可能なスペースを形成する器具であって、1対の第1の回動部材と、1対の第2の回動部材と、開閉手段とを有し、さらに必要に応じてその他の部材を有する。
【0023】
本発明の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材と1対の第2の回動部材とが取り外し不可能に連結されている非分離型の骨切術用開大器である。本発明の非分離型の骨切術用開大器は、従来の分離型の骨切術用開大器のように使用時に第1の回動部材及び第2の回動部材のいずれか一方を分離除去しなくてよく、また、第1の回動部材及び第2の回動部材のいずれか一方を分離除去した後に骨の切込みの開大状態を保持する機構が不要であり、操作性及び取扱い性に優れ、部品数の少ない簡易な構造でありながら対象物を骨の切込みに容易かつ確実に挿置可能である。
ここで、1対の第2の回動部材と1対の第1の回動部材とが取り外し不可能に連結されているとは、骨切術用開大器を使用時に1対の第2の回動部材と1対の第1の回動部材とが物理的に分離した状態で使用されないことを意味し、1対の第2の回動部材と1対の第1の回動部材とが物理的に一体である状態で使用されることを意味する。なお、非分離型である骨切術用開大器は、例外的に幅広の骨補填材を挿入するために任意に1対の第2の回動部材と1対の第1の回動部材とを分離できるものであってもよいし、又は使用時には分離しないがメンテナンス等の際に1対の第2の回動部材と1対の第1の回動部材とを分離できるものであってもよい。
【0024】
本発明の骨切術用開大器は、例えば、変形性膝関節症の患者の変形した大腿骨又は脛骨に形成された切込みに挿入し、該切込みを開大して骨補填材を挿入可能なスペースを形成す器具である。
ここで、変形性膝関節症とは、「O脚」の変形が進むことなどにより膝関節の内側に荷重がかかり、膝軟骨がすり減るなどして損傷する疾患である。
変形性膝関節症の患者の変形した大腿骨又は脛骨とは、変形が進んだ「O脚」の患者の大腿骨又は脛骨を意味する。なお、本発明においては、疾患として変形性膝関節症を対象とし、形成された切込みを開大して対象物を挿入する骨を大腿骨又は脛骨としたが、大腿骨又は脛骨に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
切込みは、ノミ又は骨鋸などを用いて完全に骨を切断しないように骨皮質の連続性を保った状態で形成される。変形が進んだ「O脚」の患者の場合には、脛骨の内側に切込みを形成して、該切込みを開大した状態で対象物を挿入することにより、立位時の大腿骨又は脛骨の角度を変化させて「O脚」を矯正することができる。
【0026】
本発明の骨切術用開大器の形状、大きさ、材質、構造などは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。
骨切術用開大器の形状及び大きさは、特に制限されず、対象となる骨の形状及び大きさなどに応じて適宜選択可能である。
骨切術用開大器の材質は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。上記材質は、例えば、樹脂、金属、セラミックスであってもよい。これらの中でも、金属が好ましい。金属は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。上記金属は、例えば、貴金属合金、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、チタン、チタン合金などであってもよい。
骨切術用開大器の構造は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。
【0027】
<対象物>
対象物は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。上記対象物は、例えば、骨補填材(人工骨)、プレートであってもよい。これらの中でも、骨補填材(人工骨)が好ましい。上記プレートは、例えば、骨に形成された切込みを跨いで設置する金属プレートなどであってもよい。
【0028】
骨補填材(人工骨)の形状、大きさ、材質などは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。
骨補填材の形状は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。上記形状は、例えば、固形状(ブロック)、顆粒状、ペースト状などであってもよい。例えば、変形が進んだO脚の患者の場合には、骨補填材の形状は、症状に応じた形状の楔形のブロックを用いることが好ましい。骨補填材の形状が楔形のブロックであると、脛骨の内側に形成された切込みに挿入することにより、「O脚」を効果的に矯正することができる。
【0029】
骨補填材の材質は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。上記材質は、例えば、樹脂、金属、セラミックスなどであってもよい。これらの中でも、生体適合性及び加工性に優れており、切削加工等により骨補填材の形状を症状に応じて容易に調整できる点からセラミックスが好ましい。
セラミックスは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。セラミックスは、例えば、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウム系化合物などであってもよい。これらの中でも、リン酸カルシウム系化合物が好ましい。
リン酸カルシウム系化合物は、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウムなどであってもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
本発明の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材と、1対の第2の回動部材と、開閉手段とを有し、離間連結部材、挿入補助部材、及び角度測定器を有することが好ましく、更に必要に応じてその他の部材を有する。上記骨切術用開大器は、例えば、LED等の照明装置を有していてもよい。
【0031】
<1対の第1の回動部材>
1対の第1の回動部材は、先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された部材であり、1対の第2の回動部材と共に骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大するための部材である。
1対の第1の回動部材は、先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結されていれば特に制限されず、例えば、1対の矩形状の平板であって、一方の短辺の端部がヒンジ部により相対的に回動可能に連結されている部材などであってもよい。
1対の第1の回動部材の大きさ、形状、材質などについては特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。
1対の第1の回動部材の形状は、特に制限されず、閉じられた状態で先端からそれぞれ漸次厚くなる略楔形状に形成されていてもよい。また、第1の回動部材1の外側の端部が、先端に向かって第2の回動部材に漸次近づくように形成されていることが好ましい。これによって、第1の回動部材1の幅が先端に向かって漸次小さくなるので、骨に形成された切込みの奥まで先端を挿入しやすくなる点から好ましい。
1対の第1の回動部材の大きさは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。
1対の第1の回動部材の材質は、特に制限されず、骨切術用開大器と同様の材質などであってもよい。
【0032】
<1対の第2の回動部材>
1対の第2の回動部材は、1対の第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結され、第1の回動部材の回動と同期して先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された部材であり、1対の第1の回動部材と共に、骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大するために用いられる。
1対の第2の回動部材と第1の回動部材とが取り外し不可能に連結されているので、第1の回動部材の回動と同期して1対の第2の回動部材も回動する。
1対の第2の回動部材と第1の回動部材とが離間しているとは、1対の第2の回動部材と第1の回動部材との間に対象物を挿入可能なスペースを有していることを意味する。
【0033】
1対の第2の回動部材は、先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結されていれば特に制限されず、例えば、1対の矩形状の平板であって、一方の短辺の端部がヒンジ部により相対的に回動可能に連結されている部材などであってもよい。
1対の第2の回動部材の形状は、閉じられた状態で先端からそれぞれ漸次厚くなる略楔形状に形成されていることが好ましい。これにより、1対の第2の回動部材が、骨に形成された切込みの奥まで回動部材の先端を挿入しやすくなる。
1対の第2の回動部材の材質は、特に制限されず、骨切術用開大器と同様の材質などであってもよい。
【0034】
第1の回動部材の平均幅は、第2の回動部材の平均幅より大きく形成されることが好ましく、第1の回動部材の平均幅は、全体として第2の回動部材の平均幅より大きく形成されることがより好ましい。上記「全体として」とは、第1の回動部材及び第2の回動部材を全体とした場合の幅で比較することを意味し、例えば、第1の回動部材の幅が先端に向かって小さくなっていても全体として第1の回動部材の平均幅が第2の回動部材の平均幅より大きければ該当する。
平均幅は、第1の回動部材及び第2の回動部材の先端から後端まで、先端と後端を含めて等間隔で10点測定した10箇所の幅の平均値である。
第1の回動部材の平均幅L1と第2の回動部材の平均幅L2との比率は、L1:L2=1.5:1~6:1であることが好ましく、L1:L2=2:1~3:1であることがより好ましい。
本発明の骨切術用開大器は、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材をそれぞれ開くことにより脛骨に形成された切込みを開大させることができるが、1対の第1の回動部材と1対の第2の回動部材との間に充分なスペースを確保しつつ、脛骨の幅よりも第1の回動部材と第2の回動部材と上記スペースとの合計幅が大きくならないように、最初に骨補填材を挿入する側の第2の回動部材の平均幅を第1の回動部材の平均幅よりも小さく形成している。その結果、骨切術用開大器を切込みに挿入するのが困難とならない第1の回動部材と第2の回動部材と上記スペースとの合計幅とすることができると共に、第1の回動部材及び第2の回動部材のいずれか一方を除去しなくても骨補填材を挿入可能となる。また、第1の回動部材の幅に対する第2の回動部材の幅が所定値以上であることにより、第2の回動部材が過度に細くならず、第2の回動部材の挿入時に骨切り周辺組織を損傷しにくくすることができる。つまり、上記の比率が上記の好ましい範囲内であることにより、第2の回動部材の挿入時に骨切り周辺組織を損傷しにくくする作用効果と、第1の回動部材と第2の回動部材との間に充分なスペースを確保しながらも、脛骨の幅よりも第1の回動部材と第2の回動部材と上記スペースとの合計幅が大きくならないようにする作用効果とをさらにバランス良く発揮することができる。
【0035】
1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面が、他方の1対の回動部材が回動した際にも互いに重なるように形成されていることが好ましい。これにより、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面に対象物が落下してしまう大きさの隙間が生じないので、対象物が落下することを防止できる。なお、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面は、他方の1対の回動部材が回動した際に互いに重なっていればよく、対象物が落下しない程度の隙間が空いていても構わない。また、上記の重なる「表面」は、骨切術用開大器の高さ方向に伸びた形状を有することにより、開大器が受ける応力によって生じるゆがみを軽減する作用効果も発揮することができる。上記の「表面」の重なる部分の(骨切術用開大器の高さ方向における)長さは、離間連結部材の(骨切術用開大器の高さ方向における)厚さよりも長いことが好ましい。より好ましくは、開大角度が5°~10°となるように骨切術用開大器を開いた状態において、上記の「表面」の重なる部分の全体が、骨切術用開大器の高さ方向において、少なくとも0.01mm以上の長さに亘って重なるような長さを有することが好ましい。
【0036】
<開閉手段>
開閉手段は、1対の第1の回動部材に設けられ、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材をヒンジ部の軸線回りに開閉させることにより、骨に形成された切込みを開大させる手段である。
1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材をヒンジ部の軸線回りに開閉させるとは、1対の回動部材のうち少なくとも一方の回動部材を回動させ、1対の回動部材がヒンジ部より後端側で当接する状態(閉状態)から当接しない状態(開状態)、あるいは開状態から閉状態にすることを意味する。
【0037】
開閉手段は1対の第1の回動部材に設けられており、1対の第1の回動部材を貫通するようにして第1の回動部材の後端側に設けられることが好ましい。これにより、第1の回動部材と第2の回動部材との間に骨補填材を挿入する際に必要なスペースを十分に確保でき、骨補填材を骨に設けた切込みに容易かつ確実に挿入することができる。
【0038】
開閉手段は、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材をヒンジ部の軸線回りに開閉させることができれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。なお、1対の第2の回動部材における開閉動作は、1対の第1の回動部材の開閉と同期して行われる。
具体的には、1対の第1の回動部材の後端側にそれぞれ設けられているネジ孔と、各ネジ孔を貫通して螺合するネジシャフトとを有する機構などが挙げられる。このような機構の場合、ネジシャフトは、一方のネジ孔と螺合し、他方のネジ孔とは螺合せずに空転させるようにすると、螺合するネジ孔側の第1の回動部材をヒンジ部の軸線回りに開閉させることができる。より好ましい態様は、ネジシャフトは、2つのネジ孔とそれぞれ螺合する箇所で巻回方向が逆であり、いわゆる「正ネジ」と「逆ネジ」の関係にあるようにするようにしてもよい。これにより、1対の第1の回動部材を同時に効率よく回動させて開閉することができる。
なお、開閉手段を作動させていない状態、即ち、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材がそれぞれ全く開いていない状態であっても使用することが可能である。
【0039】
<離間連結部材>
離間連結部材は、1対の第1の回動部材と1対の第2の回動部材を離間させて連結する部材である。離間連結部材により、1対の第1の回動部材と1対の第2の回動部材とが離間して取り外し不可能に連結され、第1の回動部材の回動と同期して第2の回動部材を回動させることができる。
【0040】
離間連結部材の形状、大きさ、材質、構造などについては特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。
離間連結部材の形状は、特に制限されず、例えば、板状、長尺状、ボックス状などであってもよい。
離間連結部材の材質は、特に制限されず、骨切術用開大器と同様の材質などであってもよい。
離間連結部材は、第1の回動部材及び第2の回動部材の両側に1対設けることが好ましいが、第1の回動部材及び第2の回動部材のいずれかの片側に1つだけ設けてもよい。また、離間連結部材は第1の回動部材及び第2の回動部材の外側及び内側のいずれの側に設けてもよいが、外側に設けることが対象物の挿入を邪魔しない点から好ましい。
離間連結部材を設ける位置は、特に制限されず、骨切術用開大器の後端部などであってもよい。
【0041】
<挿入補助部材>
挿入補助部材は、1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材が閉じられた状態で、第1の回動部材と第2の回動部材の間に存在する空間を埋める形状を有する部材である。
非分離型の骨切術用開大器を骨に設けた切込みに挿入する際に、挿入補助部材を第1の回動部材と第2の回動部材の間に配置することにより、第1の回動部材と第2の回動部材の間に存在する空間を埋めることができるので、骨切術用開大器を骨の切込みに安定かつスムーズに挿入することができる。
挿入補助部材の大きさ、形状、材質、構造などは、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能である。
【0042】
<角度測定器>
角度測定器は、1対の第1の回動部材のなす角を測定する部材であり、骨切術用開大器の後端側に設けられる。
角度測定器を設けることにより、操作者は一見して1対の第1の回動部材のなす角、即ち切込みの開大角度を把握することができる。
角度測定器における不要な目盛り部分を板状部材によって隠すことにより、目盛りの読み間違いを防止できる。
【0043】
<その他の部材>
その他の部材は、特に制限されず、例えば、開閉手段におけるネジを回転するのに用いる六角ドライバー、対象物を把持し挿入するのに用いる医療用ピンセットなどが挙げられる。
【0044】
<骨切術用開大器の製造方法>
本発明の骨切術用開大器の製造方法は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択可能であり、例えば、金属加工による手法、金型による手法、3Dプリンタによる手法などが挙げられる。
【0045】
以上説明したように、本発明の骨切術用開大器は、第1の回動部材と第2の回動部材とが取り外し不可能な非分離型の骨切術用開大器であり、従来技術に比べて操作性及び取扱い性に優れ、部品数の少ない簡易な構造でありながら対象物を容易かつ確実に挿置可能である。
【0046】
ここで、本発明の骨切術用開大器の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。また、下記構成部材の数、位置、形状等は本実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好ましい数、位置、形状などにすることができる。
なお、以下の実施形態においては、変形性膝関節症患者の「O脚」を矯正することを目的として、膝の関節近くの脛骨に形成された切込みに対象物としての楔形の骨補填材を挿入するため、本発明の骨切術用開大器を用いて切込みを開大する場合について説明する。
【0047】
<第1の実施形態>
図4Aは、第1の実施形態に係る骨切術用開大器10の一例を示す概略斜視図である。図4Bは、図4Aに示した骨切術用開大器10を脛骨Kに形成された切込みK1に挿入し、第1の回動部材1と第2の回動部材2との間に第1の対象物(骨補填材)6を挿入した状態を示す概略斜視図である。
また、図5Aは、図4Aに示した骨切術用開大器10の概略上面図である。図5Bは、図4Aに示した骨切術用開大器10の概略側面図である。図5Cは、図4Aに示した骨切術用開大器10の概略背面図である。
図4A図4B及び図5A図5Cに示すように、第1の実施形態の骨切術用開大器10は、1対の第1の回動部材1と、1対の第2の回動部材2と、開閉手段3とを有する。
第1の実施形態の骨切術用開大器10の材質はステンレス鋼である。また、第1の実施形態の骨切術用開大器10の大きさ(寸法)は図5A図5Cに示す通りである。
【0048】
1対の第1の回動部材1及び1対の第2の回動部材2は、脛骨Kに形成された切込みK1に挿入され、開閉手段3を作動させることにより切込みK1を開大させる。その後、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間の空間に第1の対象物(骨補填材)6を挿入した後、切込みK1から1対の第1の回動部材1及び1対の第2の回動部材2が抜き取られる。
【0049】
1対の第1の回動部材1は、図5Aに示すように、閉じられた状態で先端1cからそれぞれ漸次厚くなる略楔形状に形成されている。
1対の第1の回動部材1は、先端1cに配置されたヒンジ部1dにより相対的に回動可能に連結されている第1の回動部材1a,1bを有する。
第1の回動部材1a,1bは、後端側に設けられている開閉手段3により相対的に回動して開閉する。
1対の第1の回動部材1の開く側の表面には、1対の離間連結部材4が設けられている。1対の離間連結部材4によって、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2とが離間した状態で取り外し不可能に連結され、1対の第1の回動部材1の回動と1対の第2の回動部材2の回動とを同期させることができる。
【0050】
1対の第2の回動部材2は、1対の第1の回動部材1と同様に、閉じられた状態で先端2cからそれぞれ漸次厚くなる略楔形状に形成されている。
1対の第2の回動部材2は、先端2cに配置されたヒンジ部2dにより相対的に回動可能に連結されている第2の回動部材2a,2bを有する。
第2の回動部材2a,2bは、第1の回動部材1a,1bと離間して取り外し不可能に連結されており、第1の回動部材1a,1bの回動と同期して回動する。
図5Bに示すように、第1の回動部材1の平均幅L1は、全体として第2の回動部材2の平均幅L2より大きく形成されている。図5Bにおいては、L1:L2=10:4である。
1対の第1の回動部材1及び1対の第2の回動部材2の少なくともいずれかにおける他方の回動部材と対向かつ平行に位置する表面9が、他方の1対の回動部材が回動した際にも互いに重なるように形成されている。これにより、表面9に対象物が落下してしまう大きさの隙間が生じないので、対象物(骨補填材)が落下することを防止できる。
【0051】
開閉手段3は1対の第1の回動部材1に設けられており、図5Aに示すように1対の第1の回動部材1を貫通するようにして第1の回動部材1の後端側に設けられている。つまり、開閉手段3は、骨切術用開大器の幅方向の中央付近には設けられていない。開閉手段3は、骨切術用開大器の幅方向において、第1の回動部材1の側に偏って設けられている。これにより、図5Bに示すように、第1の回動部材1と第2の回動部材2との間に対象物(骨補填材)を挿入する際に必要なスペースSを十分に確保でき、骨補填材を骨に設けた切込みに容易かつ確実に挿入することができる。
【0052】
開閉手段3は、1対の第1の回動部材1をヒンジ部1dの軸線回りに開閉させるために、第1の回動部材1a,1bの後端側にそれぞれ設けられているネジ孔3a,3bと、各ネジ孔を貫通して螺合するネジシャフト3cとを有する。
雄ネジであるネジシャフト3cは、ネジ孔3a,3bとそれぞれ螺合する箇所で巻回方向が逆であり、いわゆる「正ネジ」と「逆ネジ」の関係にある。また、ネジシャフト3cの端部には六角穴が設けられており、六角ドライバー(不図示)が嵌め合わされることによりネジシャフト3cを回転させることができる。
雌ねじであるネジ孔3a,3bは、ネジシャフト3cの巻回方向に応じた「正ネジ孔」と「逆ネジ孔」である。また、ネジ孔3a,3bには、1対の第1の回動部材1が開いたときにネジシャフト3cの回転が規制されないように傾斜が設けられている。このため、開閉手段3は、ネジシャフト3cを回転させると、第1の回動部材1a,1bが相対的に回動して1対の第1の回動部材1を円滑に開閉することができる。
図6Aは、第1の実施形態に係る骨切術用開大器における第1の回動部材及び第2の回動部材を切込みに挿入時(5°)の状態を示す概略斜視図、図6Bは、第1の実施形態に係る骨切術用開大器における1対の第1の回動部材及び1対の第2の回動部材を開大時(20°)の状態を示す概略斜視図である。
【0053】
離間連結部材4は、図4Aに示すように、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2を離間させて連結する部材である。離間連結部材4によって、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2とが離間して取り外し不可能に連結される。また、離間連結部材4によって、第1の回動部材1の回動と同期して第2の回動部材2を回動させることができる。
【0054】
挿入補助部材8は、例えば、図8Aに示すように、1対の第1の回動部材1及び1対の第2の回動部材2が閉じられた状態で、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間に存在する空間を埋める形状を有する部材である。
挿入補助部材8を1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間挿入した状態で、骨切術用開大器10を脛骨Kに形成された切込みK1に挿入する際に、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間に存在する空間を埋めることができるので骨切術用開大器10を切込みK1に挿入しやすくなる。
【0055】
角度測定器5は、図4Aに示すように、第1の回動部材1a,1bのなす角を測定する器具であり、骨切術用開大器の後端側に設けられる。これにより、操作者は一見して1対の第1の回動部材のなす角、即ち、切込みの開大角度を把握することができる。
骨切術用開大器10は、図4Aに示すように、角度測定器5における不要な目盛り部分を隠す板状部材5aを有している。板状部材5aによって不要な目盛り部分を隠すことができるので、操作者が目盛りの読み間違いすることを防止できる。なお、図4Aでは板状部材5aによって不要な目盛り部分の一部が隠されているが、不要な目盛り部分の全体を隠せるように板状部材5aの大きさを変えることができる。
【0056】
<第2の実施形態>
図7Aは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器10Aの一例を示す概略斜視図、図7Bは、第2の実施形態に係る骨切術用開大器10Aを用いて、脛骨Kに形成された切込みK1に第1の対象物6を挿入した状態の一例を示す概略斜視図である。なお、第2の実施形態に係る骨切術用開大器10Aにおいて、既に説明した第1の実施形態に係る骨切術用開大器10と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0057】
第2の実施形態に係る骨切術用開大器10Aは、1対の第1の回動部材1の外側の端部1cが、先端に向かって第2の回動部材2に漸次近づくように形成されている点以外は、第1の実施形態に係る骨切術用開大器10と同様である。
第2の実施形態に係る骨切術用開大器10Aは、1対の第1の回動部材1の外側の端部1cが先端に向かって第2の回動部材2に漸次近づくように形成されており、第1の回動部材1の幅が先端に向かって漸次小さくなるので、脛骨Kに形成された切込みK1の奥まで先端を挿入しやすくなる。
【0058】
<第2の実施形態の動作>
次に、第2の実施形態に係る骨切術用開大器10Aを脛骨Kに形成された切込みK1に差し込み、切込みK1を開大し、対象物(骨補填材)を挿入する動作について、図8A図8Gを参照しながら説明する。
なお、図8A図8C図8E図8Gは、脛骨Kに形成された切込みK1に対し正面から見たときの説明図であり、図8Dは、脛骨Kに形成された切込みK1に対し側面から見たときの説明図である。
【0059】
まず、図8Aに示すように、第1の実施形態の骨切術用開大器10Aの先端、即ち1対の第1の回動部材1の先端1c及び1対の第2の回動部材2の先端2cが脛骨Kに形成された切込みK1に差し込まれる。
この際、図8Aに示すように、1対の第1の回動部材1及び1対の第2の回動部材2が閉じられた状態で、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間に存在する空間に挿入補助部材8が配置されているので、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間の空間が埋まり、第1の実施形態の骨切術用開大器10Aを切込みK1に安定かつ正確に差し込むことができる。
【0060】
次に、図8Bに示すように、1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間から挿入補助部材8を除去する。挿入補助部材8を除去することにより、切込みK1に差し込んだ第1の実施形態の骨切術用開大器10Aにおける1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材2の間に対象物を挿入する空間が生じ、対象物を挿入できるようになる。
【0061】
次に、図8Cに示すように、開閉手段3を作動させることにより1対の第1の回動部材1及び1対の第2の回動部材2をヒンジ部の軸線回りに回動させて切込みK1を開大させる。
開閉手段3としてのネジ3cの作動は、ネジ3cに設けられている六角穴に六角ドライバー(図示を省略)を嵌め込み、六角ドライバーを回転することにより行ってもよいし、指でネジ3cを回転させることによって行われてもよい。
【0062】
次に、図8Dに示すように、第1の対象物6を1対の第1の回動部材1と1対の第2の回動部材の間の空間に医療用ピンセット8を用いて脛骨Kに形成された切込みK1に挿入する。図8Eは、第1の対象物6が脛骨Kに形成された切込みK1に挿入された状態を示している。
【0063】
次に、図8Fに示すように、骨切術用開大器10Aを脛骨Kに形成された切込みK1から取り外す。なお、骨切術用開大器10Aを取り外しても、切込みK1内には第1の対象物6が挿入されているので、切込みK1の開大状態は保持されている。
【0064】
次に、図8Gに示すように、第2の対象物7を脛骨Kに形成された切込みK1に挿入する。
なお、第2の実施形態の骨切術用開大器10Aを抜き去ることで形成されたスペースには、第2の対象物7以外にも、開大された切込みを跨ぐようにして、金属プレートをスクリュー固定により設置してもよい。
【0065】
<第3の実施形態>
図9Aは、第3の実施形態に係る骨切術用開大器10Bの一例を示す概略斜視図、図9Bは、第3の実施形態に係る骨切術用開大器10Bを用いて、脛骨Kの切込みK1に第1の対象物6を挿入した状態の一例を示す概略斜視図である。なお、第3の実施形態に係る骨切術用開大器10Bにおいて、既に説明した第1の実施形態に係る骨切術用開大器10と同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0066】
第3の実施形態に係る骨切術用開大器10Bは、第1の回動部材1と第2の回動部材2を離間させて取り外し不可能に連結する離間連結部材4が第1の回動部材の後端部に設けられている点以外は、第1の実施形態の骨切術用開大器10と同様である。
第3の実施形態に係る骨切術用開大器10Bは、離間連結部材4が第1の回動部材の後端部に設けられており、離間連結部材4が骨補填材の挿入を案内する構造を形成しているので、対象物(骨補填材)を容易かつ確実に挿置することができる。
【0067】
<第4の実施形態>
図10Aは、第4の実施形態に係る骨切術用開大器10Cの一例を示す概略斜視図、図10Bは、第4の実施形態に係る骨切術用開大器10Cを用いて、脛骨Kの切込みK1に第1の対象物6を挿入した状態の一例を示す概略斜視図である。なお、第4の実施形態に係る骨切術用開大器10Cにおいて、既に説明した第1の実施形態に係る骨切術用開大器10及び第3の実施形態に係る骨切術用開大器10Bと同一の構成については、同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0068】
第4の実施形態に係る骨切術用開大器10Cは、1対の第1の回動部材1の外側の端部1cが、先端に向かって第2の回動部材2に漸次近づくように形成されている点以外は、第3の実施形態の骨切術用開大器10Bと同様である。
第4の実施形態に係る骨切術用開大器10Cは、1対の第1の回動部材1の外側の端部1cが先端に向かって第2の回動部材2に漸次近づくように形成されており、第1の回動部材1の幅が先端に向かって漸次小さくなるので、脛骨Kに形成された切込みK1の奥まで先端を挿入しやすくなる。
【0069】
<変位量の解析実験>
下記に示すNo.1~No.4の骨切術用開大器を用い、図11に示すように簡易模擬骨(材質:構造用鋼)を表1に示す挿入長に挿入し、第1の回動部材と第2の回動部材との開大角を20°とした状態で、300Nの荷重をかけた際の変位量を有限要素法(FEM)(ANSYS社製有限要素法解析ソフト「Workbench」/「Mechanical」R20.0)を用いて、解析した。結果を表1及び図11図14に示した。
[骨切術用開大器]
・No.1:特許第6616039号公報(特許文献3)に記載の骨切術用開大器
・No.2:特許第6580756号公報(特許文献2)に記載の骨切術用開大器
・No.3:第1の実施形態の骨切術用開大器
・No.4:第3の実施形態の骨切術用開大器
【0070】
【表1】
【0071】
表1及び図11図14の結果から、非分離型である第1及び第3の実施形態の骨切術用開大器は、分離型である特許第6616039号公報及び特許第6580756号公報の骨切術用開大器に比べて、いずれも変位量が小さく、第1の回動部材及び第2の回動部材の歪みが少ないので、第1の回動部材と第2の回動部材との間に挟まれる対象物の歪みを少なくすることができ、対象物(骨補填材)を骨に形成された切込みの奥まで正しく挿置できることがわかった。
【符号の説明】
【0072】
1 1対の第1の回動部材
2 1対の第2の回動部材
3 開閉手段
4 離間連結部材
5 角度測定器
6 第1の対象物
7 第2の対象物
8 医療用ピンセット
10、10A、10B、10C 骨切術用開大器
K 脛骨
K1 切込み
【要約】
【課題】操作性に優れ、簡易な構造でありながら対象物を確実に挿置可能である骨切術用開大器の提供。
【解決手段】骨に形成された切込みに挿入され、該切込みを開大して対象物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって、先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第1の回動部材と、前記第1の回動部材と離間して取り外し不可能に連結され、前記第1の回動部材の回動と同期して先端に配置されたヒンジ部により相対的に回動可能に連結された1対の第2の回動部材と、前記1対の第1の回動部材に設けられ、前記第1の回動部材及び第2の回動部材を前記ヒンジ部の軸線回りに開閉させる開閉手段と、を有する骨切術用開大器である。
【選択図】図4A
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14