(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】コラーゲン組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/78 20060101AFI20220112BHJP
C07K 1/12 20060101ALI20220112BHJP
C07K 1/14 20060101ALI20220112BHJP
C07K 1/34 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C07K14/78
C07K1/12
C07K1/14
C07K1/34
(21)【出願番号】P 2016197245
(22)【出願日】2016-10-05
【審査請求日】2019-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】多賀 淳
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲志
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 康浩
(72)【発明者】
【氏名】土井 聡
(72)【発明者】
【氏名】松川 泰治
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
(72)【発明者】
【氏名】山田 一郎
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101628938(CN,A)
【文献】特開2005-053847(JP,A)
【文献】International Journal of Food Science and Technology 2015, 50, 186-193
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚皮由来のコラーゲンを主成分とするコラーゲン組成物であって、
分子量90000以上のコラーゲン含量が固形分でタンパク質量に対して70%以上であり、水(25℃)
に対する溶解度が10%以上であり、非還元非加熱条件での電気泳動においてα鎖、β鎖およびγ鎖を示すバンドが観察されるコラーゲン組成物。
【請求項2】
内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62.5cm、有効長50cm)、印加電圧25kV、50mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)でのキャピラリー電気泳動において、電気泳動移動度(μep)として10.0cm
2・min
-1・kV
-1以下を示す請求項1に記載のコラーゲン組成物。
【請求項3】
肌への塗付後20分後の水分値が塗付前と比較して1.1倍以上である保湿性を有する請求項1または2に記載のコラーゲン組成物。
【請求項4】
円偏光二色性(CD)スペクトルが207~210nmで負の極大を示し、200nmで正の値を示す請求項1~3のいずれかに記載のコラーゲン組成物。
【請求項5】
魚皮の由来がマグロ類である請求項1~4のいずれかに記載のコラーゲン組成物。
【請求項6】
魚皮を希薄強酸処
理する第一工程、
希薄強酸処理した魚皮を希薄強アルカリ処理す
る第二工程、
前記第二工程で得られた魚皮から希薄弱酸溶液を用いてコラーゲンを抽出する第三工程、および
第三工程で抽出したコラーゲンを限外ろ過法または平衡透析法により精製する第四工程
を含む請求項1~5のいずれかに記載のコラーゲン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に対する溶解性に優れ、かつ保湿性を備えた魚皮由来コラーゲンを含む組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、ヒトの他、牛皮、豚皮、魚皮など動物の皮膚を形成する主要タンパク質である。コラーゲンは、高い保湿性を有し、皮膚に滑らかな感触を付与することから化粧品の原料として多量に利用されてきた。また、医薬品、医療用具にもそれらは優れた生体適合性を有することから利用されている。さらに、近年食品素材としても注目を浴びている。これまで使用されてきたコラーゲンは主に牛皮や豚皮由来であったが、近年新しい機能を求めてウシやブタ以外の由来のコラーゲンの開発が盛んになってきた。そのなかで魚皮由来のコラーゲンも一部使用されている。しかしながら、魚皮由来のコラーゲンは、水に対する溶解度が低く高濃度溶液にすることが出来ないという問題があった。
【0003】
また、魚皮から得られる従来のコラーゲンでは、製品純度が低く、しかも透明度が低いため、化粧品の分野では到底使用できないので、それを解決するために機械的な予備加工工程、混合工程及び水洗工程を経る方法が開示されているが(特許文献1)、これらの方法によって得られるコラーゲンも水に対する溶解度が低く、化粧品等で使用する際には十分な効果を発揮する濃度を添加することが困難である。従って、魚皮由来のコラーゲンを有効利用するために水に対する溶解性が優れ、かつ保湿性を備えたコラーゲン及びその製造法の開発が渇望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水に対して溶解性に優れ、かつ保湿性を備えた魚皮由来のコラーゲン組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、希酸、希アルカリ溶液で処理した魚皮から希薄酸を用いてコラーゲンを抽出し、さらに限外ろ過法にて低分子のペプチド及びアミノ酸を除去する工程を組み合わせることにより、水に対する溶解性に優れ、しかも保湿性を備えた魚皮由来のコラーゲン組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
(1)魚皮由来のコラーゲンを主成分とするコラーゲン組成物であって、
分子量90000以上のコラーゲン含量が固形分でタンパク質量に対して50%以上であり、水(25℃)に対する溶解度が10%以上かつ非還元非加熱条件での電気泳動においてα鎖、β鎖およびγ鎖を示すバンドが観察されるコラーゲン組成物、
(2)内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62.5cm、有効長50cm)、印加電圧25kV、50mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)でのキャピラリー電気泳動において、電気泳動移動度(μep)として10.0cm2・min-1・kV-1以下を示す前記(1)に記載のコラーゲン組成物、
(3)肌への塗付後20分後の水分値が塗付前と比較して1.1倍以上である保湿性を有する前記(1)または(2)に記載のコラーゲン組成物、
(4)円偏光二色性(CD)スペクトルが207~210nmで負の極大を示し、200nmで正の値を示す前記(1)~(3)のいずれかに記載のコラーゲン組成物、
(5)魚皮の由来がマグロ類である前記(1)~(4)のいずれかに記載のコラーゲン組成物、
(6)魚皮を希薄強酸処理する第一工程、
希薄強酸処理した魚皮を希薄強アルカリ処理する第二工程、
前記第二工程で得られた魚皮から希薄弱酸溶液を用いてコラーゲンを抽出する第三工程、および
第三工程で抽出したコラーゲンを限外ろ過法または平衡透析法により精製する第四工程
を含む前記(1)~(5)のいずれかに記載のコラーゲン組成物の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコラーゲン組成物は、水に対する溶解性に優れ、かつ、保湿性を備えた魚皮由来のコラーゲン組成物であるため、医薬品、医療用具だけでなく、従来品に比べてより幅広い分野の製品、例えば、医薬品、医療用具、化粧料、食品などの原料として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で得られたコラーゲン組成物の2-メルカプトエタノール存在下加熱条件で前処理した試料(レーン1)、2-メルカプトエタノール非存在下非加熱条件で前処理した試料(レーン2)の電気泳動の結果を示す図である。尚、Mはタンパク質の分子量マーカーを示す。
【
図2】実施例3で得られたコラーゲン組成物と、比較品1との水に対する溶解性の試験結果の状態を示す像である。
【
図3】実施例4で得られたコラーゲンのCDスペクトルのグラフである。
【
図4】実施例5で得られた、実施例1で得られたコラーゲン組成物などの保湿効果を検証のために、角層水分量を指標とした保湿試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコラーゲン組成物は、魚皮由来のコラーゲンを主成分とするコラーゲン組成物であって、
分子量90000以上のコラーゲン含量が固形分でタンパク質量に対して50%以上であり、水(25℃)対する溶解度が10%以上かつ非還元非加熱条件での電気泳動においてα鎖、β鎖およびγ鎖を示すバンドが観察されることを特徴とする。
【0011】
本発明のコラーゲン組成物は、前記のように、分子量90000以上のコラーゲン含量が固形分でタンパク質量に対して50%以上であることで、保湿性を発揮するのに適した分子量を有するコラーゲンを多量に含有した、コラーゲンの純度の高い組成物となる。
また、前記コラーゲンの分子量については、90000以上であればよく、その上限値については特に限定はないが500000以下であればよい。
本発明のコラーゲン組成物中におけるタンパク質としては、前記分子量90000以上のコラーゲンのみで構成されていてもよいが、他の魚皮由来のタンパク質成分、例えば、分子量90000未満のコラーゲン、筋肉由来のミオシン、血液由来のアルブミンなどを含有していてもよい。
本発明のコラーゲン組成物において、分子量90000以上のコラーゲン含量を、固形分でタンパク質量に対して50%以上となるように調整する手法としては、コラーゲンを含む組成物を限外ろ過法や平衡透析法により精製する手法が挙げられる。
前記限外ろ過法および平衡透析法は、分子量90000以上のコラーゲンを回収できる方法であればよく、限外ろ過装置、透析装置、ろ液などの種類について特に限定はない。
なお、前記分子量90000以上のコラーゲン含量は、全タンパク質中における前記分子量90000以上のコラーゲンの固形分換算の重量割合をいう。
【0012】
本発明のコラーゲン組成物は、水(25℃)対する溶解度が10%以上であることで、原料の魚皮由来のコラーゲンに比べて、優れた溶解性を有する。
前記溶解度は、溶媒である水またはpH2~5の緩衝液(25℃)100g中に対して溶解できるコラーゲン組成物の重量%を示しており、例えば、公知の方法で溶解度曲線を測定することで算出することができる。
本発明のコラーゲン組成物の溶解度は、化粧品など使用できる分野が幅広くなる観点から、5%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のコラーゲン組成物は、非還元非加熱条件での電気泳動においてα鎖、β鎖およびγ鎖を示すバンドが観察されるものである。
【0014】
本発明において、電気泳動における非還元条件とは、2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトールなどの還元剤が存在していない条件をいう。また、非加熱条件とは、試料の前処理において50℃以上の加熱条件を加えない条件をいう。
本発明のコラーゲン組成物は、非還元非加熱条件で電気泳動を行うことで、α鎖、β鎖およびγ鎖を示すバンドを目視でも容易に観察可能にする。
また、前記電気泳動は、タンパク質を分離するための電気泳動であればよいが、α鎖、β鎖、γ鎖を明瞭に観察し易い観点から、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動が好ましい。
【0015】
コラーゲンは、ポリペプチド鎖(例えば、α1鎖、α2鎖、α3鎖などのα鎖)が3本集まった三重らせん構造を有している。そして、コラーゲンには、I型~XVIII型など様々なタイプがあり、そのタイプ毎にポリペプチド鎖の種類は異なっており、例えば、I型コラーゲンはα1鎖2本とα2鎖1本から形成されており、II型コラーゲンは3本のα1鎖から形成されており、V型コラーゲンはα1鎖、α2鎖、α3鎖から形成されていることが知られている。
また、β鎖とは、前記α1鎖が2本組になった2量体をいい、γ鎖とは、前記β鎖と前記α2鎖の3量体をいう。
また、前記α1鎖の電気泳動のバンドは120kDa付近、α2鎖の電気泳動のバンドは100kDa付近、β鎖の電気泳動のバンドは230kDa付近、γ鎖の電気泳動のバンドは300kDa付近に観察される。
【0016】
本発明において前記α鎖、β鎖およびγ鎖を示すバンドの観察は、コマシーブリリアントブルーR250、ポンソSなど市販のタンパク質染色剤を使い、目視で行ってもよいし、市販のゲル解析装置で行ってもよく、バンドが、背景よりも濃い色で現れていれば、バンドがあると判断し、バンドと背景の境界が明確であれば、バンドが明瞭であると判断する。
なお、明瞭なバンドが得られない場合には、試料溶液を希釈または濃縮して明瞭なバンドが観察される濃度で電気泳動を行う。
【0017】
また、上記のコラーゲンの三重らせん構造の状態については、キャピラリー電気泳動や円偏光二色性(CD)スペクトルを用いることである程度把握できる。
例えば、キャピラリー電気泳動での電気泳動移動度は電荷/サイズ比により決まる。すなわち、電荷が同じ場合、分子の嵩高さが大きい場合に小さく、嵩高さが小さい場合には大きくなる。したがって、キャピラリー電気泳動を行った場合に、本発明のコラーゲン組成物の電気泳動移動度が10cm2・min-1・kV-1以下であれば、三重らせんの構造が部分的にほぐれたランダムコイル状の構造になっていると推測される。
前記キャピラリー電気泳動の条件としては、内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(内径50μm、長さ62.5cm、有効長50cm)、印加電圧25kV、50mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)とすることで、電気泳動移動度を測定することができる。
また、電気泳動移動度を測る対象は、中性マーカーを含有する試料であればよい。中性マーカーとしては、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール、メシチルオキシドなど、正または負の電荷を持たず、紫外部吸収を有するものが望ましい。
【0018】
また、本発明のコラーゲン組成物のCDスペクトルが207~210nmで負の極大を示し、200nmで大きく正の値を示す場合、前記コラーゲンの三重らせん構造の一部が部分的にほぐれて、ランダムコイル状の構造を有する状態に変化していると推測される。
本発明のコラーゲン組成物では、分子量90000以上と比較的大きな分子状のコラーゲンにおいて、その三重らせん構造の一部がほぐれたランダムコイル状の構造になることによって、その部分がゼラチン様の構造となり、保湿性とともに、優れた溶解性を両立させている点で、従来の魚皮由来のコラーゲンにはない効果が奏されると考えられる。
なお、コラーゲンを分解して得られるゼラチンでは、三重らせん構造の全てがバラバラになっておいると共に低分子化されている場合が多いため、特定の高次構造を持たないことからCDスペクトルを測定すると前記200nmで大きな正の値を示さない。
前記CDスペクトルは、公知の測定装置を用いて測定できる。具体的には、後述の実施例に記載の方法で、CDスペクトルを測定することができる。
【0019】
また、本発明のコラーゲン組成物は、ヒトの肌に塗布した場合、皮膚の保湿性に優れたものである。
前記保湿性としては、例えば、肌への塗付後20分後の水分値が塗付前と比較して1.1倍以上となることが好ましく、1.3倍以上となることがより好ましい。
前記水分値の測定方法としては、皮膚水分計を用いて角層水分量を測定する。なお、具体的な測定は、後述の実施例に記載のようにすればよい。
【0020】
前記コラーゲンの原料である魚皮の由来となる魚の種類としては、マグロ類、ブリ類、ハタ類、タラ類、カレイ類、カツオ類、クエ類等が挙げられる。中でも、魚体が大型で、分子量90000以上のコラーゲンを多量に含む魚皮を採り易い点、皮が厚いため処理中に魚皮が崩れにくく抽出・精製が容易などの点などから、クロマグロ、タイセイヨウクロマグロ、キハダマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、ビンナガマグロ、コシナガなどのマグロ類が好ましく、更には完全養殖に成功して安定して入手し易い点から、クロマグロがより好ましい。
【0021】
本発明のコラーゲン組成物には、水に対する溶解性および保湿性に影響を与えない範囲で、前記分子量90000以上のコラーゲン以外にも他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、一部断片化されたコラーゲン分子や、脂質、糖質、他のタンパク質、ビタミン類、pH調整剤及びエタノール、パラベン類やフェノキシエタノールなどの保存料などが挙げられる。
【0022】
本発明のコラーゲン組成物は、魚皮から所望の分子量のコラーゲンを効率よく抽出でき、かつ、他の成分の含有量も効率よく抑えることができる観点から、
魚皮を希薄強酸処理または希薄強アルカリ処理する第一工程、
希薄強酸処理した魚皮を希薄強アルカリ処理する、または希薄強アルカリ処理した魚皮を希薄強酸処理する第二工程、
前記第二工程で得られた魚皮から希薄弱酸溶液を用いてコラーゲンを抽出する第三工程、および
第三工程で抽出したコラーゲンを限外ろ過法または平衡透析法により精製する第四工程
を有することが好ましい。
【0023】
前記第一工程で原料として使用する魚皮は、例えば、鱗、肉部などが付着した魚皮でもよいし、鱗、肉部などを切り離した魚皮でもよい。また、コラーゲン組成物が着色するのを防ぐ観点から、魚体の中でも着色の少ない部分、例えば、マグロ類であれば、着色の少ない腹部の魚皮が好ましい。
【0024】
また、前記魚皮としては、不純タンパク質、血液、色素、油分等を物理的方法または化学的方法によって完全にまたは一部除去されものが好ましい。
前記物理的方法としては、ヘラ、ナイフ等の刃物を用いて魚体から魚皮を回収し、鱗、肉部などに加えて、血液、色素、油分が付いた他の部分を除去する方法、水圧を利用して魚皮表面についた鱗、肉部、さらに血液、色素、油分が付いた他の部分を除去する方法などが挙げられる。
【0025】
前記のようにして、不純タンパク質、血液、色素、油分などを完全にまたは一部除去した魚皮を第一工程に供する。
前記第一工程では、希薄強酸処理、希薄強アルカリ処理のいずれかを行う。
【0026】
前記希薄強酸処理は、魚皮を所定濃度の希薄強酸溶液に浸漬、噴霧などして接触させることで行う。
前記希薄強酸溶液の溶媒は、水であればよいが、エタノールなどの有機溶媒を混合していてもよい。
前記希薄強酸溶液中の強酸の種類としては、通常用いられる強酸であればよく、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられるが特に限定は無い。使用する強酸濃度としては、魚皮から油分を効率よく除去できる観点から、0.01~0.5Nが好ましく、0.05~0.3Nがより好ましく、0.1~0.2Nがさらに好ましい。
前記希薄強酸処理では、コラーゲンの変性を防ぎ、かつ効率的に脂質を除去する観点から、処理温度としては15~25℃で行うことが好ましく、また、処理時間としては1~72時間が好ましく、3~48時間がより好ましく、12~30時間がさらに好ましい。
【0027】
前記希薄強アルカリ処理としては、魚皮を希薄強アルカリ溶液に浸漬、噴霧などして接触させることで行う。
前記希薄強アルカリ溶液に用いるアルカリ成分としては、食品に用いられるアルカリ成分であればよく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられるが、特に限定はない。
前記希薄強アルカリ溶液の溶媒は、水であればよいが、エタノールなどの有機溶媒を混合していてもよい。
前記希薄強アルカリ溶液中の希薄強アルカリ濃度としては、コラーゲン以外のタンパク質成分の除去及び油分のけん化によって不純物の除去を効率よく行うとともに、テロペプチド部分の切断を効率よく行う観点から、0.05~0.5Nが好ましく、0.1~0.2Nがより好ましい。
前記希薄強アルカリ処理では、コラーゲンの変性を防ぐために、処理温度としては、15℃以下で行うことが好ましく、また、処理時間としては、1~72時間が好ましく、3~48時間がより好ましく、12~30時間がさらに好ましい。
【0028】
前記希薄強酸処理または希薄強アルカリ処理を浸漬で行う際には、攪拌機を用いて循環させてもよい。
また、希薄強酸処理または希薄強アルカリ処理後、篩を用いて魚皮をろ過した後、篩上に残った魚皮残渣を水などの溶媒に浸漬して洗浄してもよい。
【0029】
前記第二工程では、第一工程において希薄強酸処理した魚皮を希薄強アルカリ処理する、または第一工程で希薄強アルカリ処理した魚皮を希薄強酸処理する。
【0030】
第二工程で行う希薄酸処理および希薄強アルカリ処理の条件については、前記第一工程で行う条件と同じであればよい。
【0031】
前記第三工程では、前記第二工程で得られた魚皮から希薄弱酸溶液を用いてコラーゲンを抽出する。
前記希薄弱酸溶液に用いる酸としては、食品に用いられる酸であればよく、例えば、炭酸、リン酸などの無機酸や、酢酸、クエン酸、乳酸などの有機酸などが挙げられるが、特に限定はない。
前記希薄弱酸溶液の溶媒は、水であればよいが、エタノールなどの有機溶媒を混合していてもよい。
前記希薄弱酸溶液中の酸濃度としては、コラーゲンの酸抽出を効率よく行う観点から、0.001~2Nが好ましく、0.01~2Nがより好ましく、ナトリウム及びカリウム等の塩の状態で使用しても良い。
また、前記希薄弱酸溶液によるコラーゲンの抽出は、4~50℃、好ましくは30~40℃、より好ましくは35~37℃の温度条件下で、1~48時間、好ましくは3~30時間、撹拌することにより行うことが望ましい。
【0032】
また、第三工程で抽出されたコラーゲンに不溶分が残存している場合には、コラーゲンを含む溶液(コラーゲン溶液)を濾過法、遠心分離法などに供して不溶分を除去することが好ましい。
【0033】
前記第三工程で得られたコラーゲン組成物は、希薄弱酸溶液に溶解しているので、そのままでも使用可能であるが、さらに精製するのが好ましい。
すなわち、限外ろ過膜や透析膜を使用して限外ろ過や平衡透析を行うことで抽出用の希薄弱酸溶液を含め、適当な弱酸溶液または緩衝液に置換すると同時に、低分子のペプチド、アミノ酸等の水溶性化合物を除去することが可能である。
前記限外ろ過膜または透析膜としては、分子量90000以上のコラーゲンを分画できるものであればよく、例えば、分画分子量30000(MWCO30000)以上の膜、好ましくはMWCO100000、より好ましくはMWCO150000の膜が挙げられるが、特に限定はない。
【0034】
使用する前記弱酸溶液および緩衝液はpH3~6で緩衝能を有する弱酸溶液または緩衝液であればどの弱酸溶液および緩衝液であっても使用可能であるが、経済性、安全性等から考えて、クエン酸、酢酸、リン酸の溶液、これらのナトリウム塩、カリウム塩との混合液を使用することが好ましい。
【0035】
また、コラーゲン溶液中に分散している油分その他の不純物を除去するため、細口径のメンブレンフィルターにてろ過してもよい。
前記メンブレンフィルターの口径としては、1.0マイクロメートル以下のものであればよく、特に限定はない。
【0036】
前記の溶液状のコラーゲン組成物は、凍結乾燥法、スプレードライ法などの乾燥法により乾燥物にすることも可能である。
凍結乾燥法およびスプレードライ法については、コラーゲン組成物の水に対する溶解性および保湿性に影響を与えない範囲で、公知の手法を用いればよい。
【0037】
以上のようにして得られる本発明のコラーゲン組成物は、医薬品、医療用具、医薬部外品、化粧品、食品などに好適に使用することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。
【0039】
(実施例1)
クロマグロ皮の赤身部分のみをヘラでそぎ落としたのち、1辺が2~3cmの正方形になるように切断した。この断片を1kg量り採り、10Lの0.1Nの希塩酸溶液に20℃で24時間浸漬した(第一工程)。希塩酸溶液は攪拌機を用いて緩やかに循環させた。
浸漬終了後、ポリプロピレン製の篩を用いてろ過した後、魚皮残渣を5Lの水に緩やかに攪拌しながら浸漬した。
再度篩にてろ過し、残渣を0.1Nの水酸化ナトリウム溶液に室温で24時間浸漬した。水酸化ナトリウム溶液は攪拌機を用いて緩やかに循環させた(第二工程)。
浸漬終了後、ポリプロピレン製の篩を用いてろ過した後、魚皮残渣を5Lの水に緩やかに攪拌しながら浸漬した。
再度篩にてろ過し、37℃に調整した0.1Nの酢酸溶液に3時間浸漬した(第三工程)。酢酸溶液は攪拌機を用いて緩やかに循環させた。
浸漬終了後、ポリプロピレン製の篩にてろ過した後、ろ液をフィルターろ過し、限外ろ過(MWCO150000、商品名「FB02-FC-FUS1582」、ダイセン・メンブレン・システムズ)にて、ろ液容量の5倍量のクエン酸緩衝液(0.3%クエン酸、0.05%クエン酸ナトリウム)にて溶液置換した(第四工程)。
溶液置換終了後、メンブレンフィルター(0.2μmφ)にてろ過滅菌し、コラーゲン組成物を得た。
【0040】
得られた液体状のコラーゲン組成物中におけるコラーゲンの濃度をBCA法でフィッシュゼラチンをスタンダードとして測定したところ0.4%となった。
【0041】
(実施例2)
クロマグロ皮の赤身部分のみをヘラでそぎ落としたのち、1辺が2~3cmの正方形になるように切断した。この断片を1kg量り採り、10Lの0.1Nの希塩酸溶液に20℃で24時間浸漬した(第一工程)。希塩酸溶液は攪拌機を用いて緩やかに循環させた。
浸漬終了後、ポリプロピレン製の篩を用いてろ過した後、魚皮残渣を5Lの水に緩やかに攪拌しながら浸漬した。
再度篩にてろ過し、残渣を0.1Nの水酸化ナトリウム溶液に室温で24時間浸漬した。水酸化ナトリウム溶液は攪拌機を用いて緩やかに循環させた(第二工程)。
浸漬終了後、ポリプロピレン製の篩を用いてろ過した後、魚皮残渣を5Lの水に緩やかに攪拌しながら浸漬した。
再度篩にてろ過し、37℃に調整した0.1Nの酢酸溶液に3時間浸漬した(第三工程)。酢酸溶液は攪拌機を用いて緩やかに循環させた。
浸漬終了後、ポリプロピレン製の篩にてろ過した後、ろ液をフィルターろ過し、限外ろ過(MWCO100000、スペクトラム)にて、ろ液容量の50倍量のクエン酸緩衝液(0.3%クエン酸、0.05%クエン酸ナトリウム)にて溶液置換した(第四工程)。
溶液置換終了後、メンブレンフィルター(0.2μmφ)にてろ過滅菌し、コラーゲン組成物を得た。
【0042】
得られた液体状のコラーゲン組成物中におけるコラーゲンの濃度をBCA法でフィッシュゼラチンをスタンダードとして測定したところ0.1%となった。
【0043】
(実施例3)
実施例1で得られたコラーゲン組成物を、10%ポリアクリルアミドゲルを用いて、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行ったのち、コマシーブリリアントブルーR250でタンパク質バンドを検出した。これらの結果を
図1に示す。
なお、
図1ではレーン1が実施例1で得られたコラーゲン組成物の2-メルカプトエタノール存在下加熱条件(95℃、10分間)で前処理した試料、レーン2は2-メルカプトエタノール非存在下非加熱条件で前処理した試料を示す。
【0044】
図1に示す結果より、コラーゲンのα1鎖、α2鎖、β鎖、γ鎖を示すバンドが確認され、コラーゲン溶液が得られていることが確認できる。さらに、2-メルカプトエタノール非存在下非加熱で前処理した試料では、更に明瞭なα1鎖、α2鎖、β鎖、γ鎖を示すバンドが観察されており、高純度なコラーゲン溶液が得られていることが確認できる。なお、β鎖とはα1鎖が2本組になった2量体であり、γ鎖とはβ鎖とα2鎖の3量体である。
また、バンドの状態をWealtec社製KETA M 解析装置を用いて測定したところ、コラーゲン組成物中において、分子量90000以上のコラーゲン含量は、固形分として、タンパク質量に対して85%と算出された。
【0045】
(実施例3)
実施例1で得られたコラーゲン組成物の溶解性を検討した。
実施例1で得られたコラーゲン組成物を凍結乾燥することにより、29.6gのコラーゲン乾燥物が得られた。コラーゲン乾燥物400mg(コラーゲンとして211mgを含有する)に1mLの常温の水を加え、固形分濃度が20%のコラーゲン溶液を得た。
一方、キハダマグロ由来の市販コラーゲンの凍結乾燥物(シージェムコラーゲン、以下、比較品1)450mg(コラーゲンとして212mg含有)にそれぞれ1mLの水を加え、軽く攪拌しながら室温で5分間放置した。これらの結果を
図2に示す。
なお、前記比較品1中におけるコラーゲンの含量は、固形分として、タンパク質中約90%であった。
【0046】
図2に示すように、実施例1で得られたコラーゲン組成物の凍結乾燥物は、5分間で水に完全に溶解し、20%(w/v)の溶液が容易に調製されたことから、水(25℃)に対する溶解度は21.1%以上あり、非常に高いことが分かる。
一方、比較品1は、完全には溶解しないで残渣があったことから、水(25℃)に対する溶解度は、実施例1で得られたコラーゲン組成物に比べると劣ることがわかる。
【0047】
(実施例4)
実施例1で得られたコラーゲン組成物の円偏光二色性(CD)スペクトルを測定した。
実施例1で得られたコラーゲン組成物を0.3%クエン酸-0.05%クエン酸二ナトリウム溶液で0.003mg/mLに希釈し、光路長1mmのセルを用いて、日本分光株式会社製 円二色性分散計「J-820」を用いて10℃における円偏光二色性スペクトルを分析した。
一方、キハダマグロ由来の市販コラーゲンの凍結乾燥物(比較品1)およびフィッシュゼラチン(「FGL-250TS」 新田ゼラチン社製、以下、比較品2)を用いて、0.3%クエン酸-0.05%クエン酸二ナトリウム溶液で固形分濃度が0.003mg/mLの溶液を調製し、同様に円偏光二色性スペクトルを分析した。これらの結果を
図3に示す。
【0048】
図3に示す結果より、実施例1で得られたコラーゲン組成物は、円偏光二色性(CD)スペクトルが207~210nmで負の極大を示し、200nmで正の値を示すことがわかる(
図3の上図)。
一方、比較品1は、CDスペクトルが207nm未満で負の極大を示しており(
図3の中図)、また比較品2のフィッシュゼラチンは、CDスペクトルが、200nmで負の値を示しているため(
図3の下図)、コラーゲン分子の構造が実施例1で得られたコラーゲン組成物中のコラーゲンと相違していることが分かる。
【0049】
(実施例5)
実施例1で得られたコラーゲン組成物(以下、本発明品)および比較品1の保湿効果を検証のために、角層水分量を指標とした保湿試験を行った。
前腕部をドライヤーの冷風にて1分間乾燥させ、携帯型皮膚水分計モバイルモイスチャーHP10-Nにて角層水分量を測定した(ベースライン)。
55mmろ紙に1%コラーゲンサンプル(本発明品、比較品1またはコントロール(蒸留水)を染み込ませ、乾燥部分に5分貼り付けた。
ろ紙を除去して1分間風乾し、角層水分量を測定した(塗布直後)。
その後、冷風にて乾燥させながら2分後、5分後、10分後、20分後にそれぞれ前記携帯型皮膚水分計を用いて角層水分量を測定した。これらの結果を
図4に示す。
【0050】
図4に示す結果より、本発明品は、肌への塗付後20分後の水分値が塗付前と比較して1.3倍以上であり、また、比較品1に比べて塗布後時間が経過するごとに各層水分量の低減が抑えられていることから、保湿性に優れていることがわかる。
一方、比較品1は、肌への塗布後20分後の水分値が塗布前と同程度になったことから、保湿効果は20分程度でなくなることがわかる。
【0051】
(実施例6)
実施例1および2で得られたコラーゲン組成物(以下、本発明品)ならびに比較品1をキャピラリー電気泳動によって分析し、以下の式により電気泳動移動度(μep)を算出した。その結果を表1に示す。なお、表中、「t-0」は中性物質の移動時間を示し、「t-Protein」は、標的タンパク質の移動時間を示す。
電気泳動移動度(μep)(cm2min-1kV-1)
=キャピラリー全長(cm) x キャピラリー有効長 (cm) x ((中性物質の移動時間(min))-1-(試料の移動時間(min))-1)/印加電圧(kV)
【0052】
また、キャピラリー電気泳動の条件は、以下のとおり。
キャピラリー電気泳動装置:大塚電子製CAPI-3100
キャピラリー:内面未修飾のフューズドシリカキャピラリー(ジーエルサイエンス社製、内径50μm、長さ62.5cm、有効長50cm)
試料注入:落差法(2.5cmx30秒)
印加電圧:25kV
検出波長:200nm
泳動液:50mM ホウ酸緩衝液(pH10.5)
【0053】
【0054】
表1に示す結果より本発明品はいずれも比較品1と比較して電気泳動移動度が小さく、嵩高い構造を有していることが分かる。