(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ヒ素含有溶液の処理方法、ヒ素回収材、およびヒ素分析方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20060101AFI20220112BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20220112BHJP
C02F 1/62 20060101ALI20220112BHJP
B01J 39/04 20170101ALI20220112BHJP
B01J 39/18 20170101ALI20220112BHJP
B01J 49/06 20170101ALI20220112BHJP
B01J 49/12 20170101ALI20220112BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20220112BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C02F1/42 B
C02F1/28 B
C02F1/62 Z
B01J39/04
B01J39/18
B01J49/06
B01J49/12
G01N31/00 T
G01N23/223
C02F1/42 G
(21)【出願番号】P 2017106945
(22)【出願日】2017-05-30
【審査請求日】2020-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】592211194
【氏名又は名称】キレスト株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596148629
【氏名又は名称】中部キレスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】南部 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】南部 信義
(72)【発明者】
【氏名】森田 博和
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-189400(JP,A)
【文献】特表2014-516252(JP,A)
【文献】特開2008-194043(JP,A)
【文献】特表2008-542197(JP,A)
【文献】特開2006-029864(JP,A)
【文献】特開2004-294329(JP,A)
【文献】特開2006-281154(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0048567(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0273015(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0056976(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
1/58 - 1/64
1/28
B01J 39/00 - 49/90
G01N 31/00 - 31/22
23/00 - 23/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ素含有溶液を、システインの存在下、pH
0.1以上
3.9以下で強酸性陽イオン交換体と接触させる工程を有することを特徴とするヒ素含有溶液の処理方法。
【請求項2】
ヒ素含有溶液を、2-アミノエタンチオールの存在下、pH
0.1以上
8.0以下で強酸性陽イオン交換体と接触させる工程を有することを特徴とするヒ素含有溶液の処理方法。
【請求項3】
ヒ素含有溶液を、システインまたは2-アミノエタンチオールと接触させた後、強酸性陽イオン交換体と接触させる請求項1または2に記載のヒ素含有溶液の処理方法。
【請求項4】
強酸性陽イオン交換体を、システインまたは2-アミノエタンチオールと接触させた後、ヒ素含有溶液と接触させる請求項1または2に記載のヒ素含有溶液の処理方法。
【請求項5】
強酸性陽イオン交換体にシステインまたは2-アミノエタンチオールが結合していることを特徴とするヒ素回収材。
【請求項6】
請求項5に記載のヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させる工程を有し、
前記ヒ素回収材が強酸性陽イオン交換体にシステインが結合しているものである場合は、pH
0.1以上
3.9以下でヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させ、
前記ヒ素回収材が強酸性陽イオン交換体に2-アミノエタンチオールが結合しているものである場合は、pH
0.1以上
8.0以下でヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させることを特徴とするヒ素含有溶液の処理方法。
【請求項7】
請求項5に記載のヒ素回収材を検体溶液と接触させる前処理工程と、
前記前処理工程で得られたヒ素回収材のヒ素濃度を測定する分析工程とを有し、
前記ヒ素回収材が強酸性陽イオン交換体にシステインが結合しているものである場合は、pH
0.1以上
3.9以下でヒ素回収材を検体溶液と接触させ、
前記ヒ素回収材が強酸性陽イオン交換体に2-アミノエタンチオールが結合しているものである場合は、pH
0.1以上
8.0以下でヒ素回収材を検体溶液と接触させることを特徴とするヒ素分析方法。
【請求項8】
前記分析工程において、ヒ素濃度を蛍光X線法により測定する請求項7に記載のヒ素分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素含有溶液の処理方法、ヒ素回収材、およびヒ素分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、キレート樹脂やイオン交換樹脂を用いたヒ素の除去方法や回収方法が知られている。例えば特許文献1には、アミノポリール基を有するキレート樹脂を用いた温泉水中のヒ素の除去方法が開示され、特許文献2には、アミノポリール基を有するキレート樹脂を用いた銅電解液からのヒ素の回収方法が開示され、特許文献3には、カチオン交換樹脂および/またはキレート樹脂に、鉄とヒドロキシルイオンとが担持されているヒ素吸着用樹脂が開示され、特許文献4には、キレート部位および陰イオン交換部位を備えた樹脂粒子を用いたヒ素含有水溶液中のヒ素の除去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-167638号公報
【文献】特開2016-222997号公報
【文献】特開平9-225298号公報
【文献】特開2015-188809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、これまで様々なキレート樹脂やイオン交換樹脂を用いたヒ素含有溶液の処理方法が知られているが、キレート樹脂やイオン交換樹脂を用いた処理では、共存イオンの影響によって、目的とするイオンや分子の除去性能が著しく低下する場合がある。ヒ素の場合は、通常亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンといった陰イオンの形態で水溶液中に存在するため、他の陰イオンの影響によって、所望のヒ素除去性能が得られないことが懸念される。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、他の陰イオンが共存していても、ヒ素を効果的に除去することができるヒ素含有溶液の処理方法とヒ素回収材を提供することにある。本発明はまた、本発明のヒ素回収材を用いたヒ素分析方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決することができた本発明のヒ素含有溶液の処理方法とは、ヒ素含有溶液を、メルカプト基とアミノ基を有する化合物の存在下、陽イオン交換体と接触させる工程を有するところに特徴を有する。本発明の処理方法によれば、ヒ素含有溶液に含まれる亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンが、メルカプト基とアミノ基を有する化合物を介して、陽イオン交換体に捕捉されると考えられ、このように処理することにより、硫酸イオンのような他の陰イオンが共存していても、ヒ素含有溶液中の亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを効果的に除去することができる。
【0007】
本発明の処理方法は、ヒ素含有溶液を、メルカプト基とアミノ基を有する化合物と接触させた後、陽イオン交換体と接触させるものであってもよく、陽イオン交換体を、メルカプト基とアミノ基を有する化合物と接触させた後、ヒ素含有溶液と接触させるものであってもよい。いずれの場合も、ヒ素含有溶液中の亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを効果的に除去することができる。
【0008】
本発明の処理方法は、ヒ素を捕捉した陽イオン交換体からヒ素を溶離させる工程をさらに有していてもよく、これにより陽イオン交換体を繰り返し使用したり、再生することができる。また、溶離したヒ素を、例えばヒ素濃縮液として回収することができる。
【0009】
本発明はまた、陽イオン交換体にメルカプト基とアミノ基を有する化合物が結合したヒ素回収材も提供する。本発明のヒ素回収材は、硫酸イオンのような他の陰イオンが共存していても、ヒ素含有溶液中の亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを効果的に除去することができる。また、キレート材と比べて汎用性の高い陽イオン交換体を用い、これにメルカプト基とアミノ基を有する化合物を結合させているため、簡便に製造することができ、再生も容易となる。
【0010】
本発明のヒ素回収材は、ヒ素含有溶液からのヒ素の除去に用いることができる。すなわち本発明は、上記のヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させる工程を有するヒ素含有溶液の処理方法も提供する。この場合の処理方法も、ヒ素を捕捉したヒ素回収材からヒ素を溶離させる工程をさらに有していてもよい。
【0011】
本発明のヒ素回収材は、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを選択的に回収することができることから、ヒ素の分析に用いることもできる。すなわち本発明は、上記のヒ素回収材を検体溶液と接触させる前処理工程と、前処理工程で得られたヒ素回収材のヒ素濃度を測定する分析工程とを有するヒ素分析方法も提供する。分析工程では、ヒ素濃度を蛍光X線法により測定することが好ましい。
【0012】
メルカプト基とアミノ基を有する化合物としては、システインおよび/または2-アミノエタンチオールを用いることが、入手容易性や人体や環境への安全性の点から好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のヒ素含有溶液の処理方法およびヒ素回収材によれば、硫酸イオンのような他の陰イオンが共存していても、ヒ素含有溶液中の亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを効果的に除去することができる。また、本発明のヒ素回収材は、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを選択的に回収することができることから、ヒ素の分析に用いることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のヒ素含有溶液の処理方法は、ヒ素含有溶液を、メルカプト基とアミノ基を有する化合物の存在下、陽イオン交換体と接触させる工程を有する。本発明の処理方法によれば、ヒ素含有溶液に含まれる亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンが、メルカプト基とアミノ基を有する化合物を介して、陽イオン交換体に捕捉されると考えられ、ヒ素含有溶液からヒ素を効率的に除去することができる。なお、本明細書において、メルカプト基とアミノ基を有する化合物を、「仲介化合物」と称する場合がある。
【0015】
本発明の処理方法では、例えば、ヒ素含有溶液を仲介化合物と接触させた後、陽イオン交換体と接触させてもよく、陽イオン交換体を仲介化合物と接触させた後、ヒ素含有溶液と接触させてもよい。また、ヒ素含有溶液に仲介化合物と陽イオン交換体を同時に添加して、ヒ素含有溶液を仲介化合物と陽イオン交換体と同じタイミングで接触させてもよい。いずれの場合も、ヒ素含有溶液に含まれる亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンが仲介化合物のメルカプト基と結合するとともに、仲介化合物のアミノ基が陽イオン交換体の交換基(イオン交換基)と結合することにより、ヒ素含有溶液からヒ素が除去されると考えられる。なお、ここで説明した「結合」とは、共有結合やイオン結合や配位結合といった比較的強い結合のみならず、水素結合や双極子相互作用のような比較的弱い結合を含むものとして使用され、本発明は結合の様式によって限定されるものではない。また、本明細書において、「(ヒ素の)除去」は「(ヒ素の)回収」と読み替えることも可能である。
【0016】
本発明の処理方法において、処理対象となるヒ素含有溶液は、ヒ素が溶解した水溶液であれば特に限定されない。ヒ素は通常、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンといったオキソ酸(オキソアニオン)の形態で水溶液中に存在しており、本発明の処理方法では、そのような形態で含まれるヒ素を除去することができる。ヒ素の酸化数としては、亜ヒ酸イオン等の3価の形態であってもよく、ヒ酸イオン等の5価の形態であってもよい。亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンは、一部または全部がプロトン化していてもよく、また塩や錯体を形成していてもよく、本発明ではこれらをまとめて亜ヒ酸イオンまたはヒ酸イオンと称する。ヒ素含有溶液としては、土壌汚染水、温泉水等の地質由来のヒ素含有水や、精錬工場、採掘場、火力発電所、その他ヒ素を扱う工場(例えば、半導体工場、木材防腐剤工場、ガラス工場、メッキ工場)等から排出されるヒ素含有排水等が挙げられる。
【0017】
ヒ素含有溶液のヒ素濃度は特に限定されず、実施例では、ヒ素濃度が約10mg/Lのヒ素含有溶液から最高で99%以上のヒ素を除去できることを確認している。処理条件を適宜設定することにより、これより高濃度あるいは低濃度のヒ素含有溶液を処理することも当然可能である。
【0018】
ヒ素含有溶液は、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオン以外の陰イオンを含んでいてもよい。一般に、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンの除去に際しては、共存する陰イオンが亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンと競合することにより、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンの除去を妨害する場合があるが、本発明では、ヒ素含有溶液中に亜ヒ酸イオンやヒ酸イオン以外の陰イオンが存在していても、効果的に亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを除去することができる。本発明では、例えば実施例に示されるように、亜ヒ酸イオンまたはヒ酸イオンの300倍モル以上の硫酸イオンがヒ素含有溶液中に含まれていても、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを効果的に除去することができる。
【0019】
陽イオン交換体は、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸基を交換基として有するものであれば、特に制限なく用いることができる。なお、広いpH範囲、特に強酸性条件下でのヒ素除去性能を確保する点から、陽イオン交換体は強酸性陽イオン交換体であることが好ましく、例えばスルホン酸基を有する陽イオン交換体が好ましく用いられる。
【0020】
陽イオン交換体の母材としては、樹脂や繊維等の高分子材料を用いればよく、そのような母材から形成された陽イオン交換体としては、陽イオン交換樹脂、陽イオン交換膜、陽イオン交換繊維等が挙げられる。母材となる樹脂としては、ポリスチレン樹脂(例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、レゾルシン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、これらの形状は、球状、柱状、リング状、鞍状、ハニカム状等、特に限定されない。また、樹脂を膜状に形成して陽イオン交換膜としたり、繊維状に形成して陽イオン交換繊維としてもよい。繊維は、天然繊維、再生繊維、半合成繊維を用いてもよい。陽イオン交換樹脂、陽イオン交換膜、陽イオン交換繊維は公知のものを用いることができ、例えば特開平9-227601号公報や特開平7-324221号公報に開示される陽イオン交換繊維を用いることもできる。
【0021】
メルカプト基とアミノ基を有する化合物は、亜ヒ酸イオンまたはヒ酸イオンと陽イオン交換体とを繋ぐように機能し、分子中にメルカプト基とアミノ基を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。なお仲介化合物は、陽イオン交換体への結合が容易になる点から、分子の大きさがあまり大きすぎないことが好ましい。従って、仲介化合物の分子量は、例えば、500以下が好ましく、300以下がより好ましく、200以下がさらに好ましい。あるいは、仲介化合物は炭素数1~20であることが好ましく、1~12がより好ましく、1~8がさらに好ましい。
【0022】
仲介化合物に含まれるアミノ基は、陽イオン交換体の交換基と静電的に結合するように作用すると考えられ、1級アミノ基または2級アミノ基であることが好ましく、1級アミノ基であることがより好ましい。仲介化合物に含まれるアミノ基は、1つのみであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0023】
仲介化合物に含まれるメルカプト基(チオール基)は、亜ヒ酸イオンまたはヒ酸イオンと共有結合または配位結合するように作用すると考えられ、例えば、亜ヒ酸イオンまたはヒ酸イオンのヒ素原子がメルカプト基の硫黄原子と結合すると考えられる。なお、メルカプト基はヒ酸イオンの還元剤として作用し、メルカプト基は主に亜ヒ酸イオンと結合している可能性もある。仲介化合物に含まれるメルカプト基は、1つのみであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0024】
仲介化合物は、メルカプト基とアミノ基以外の官能基を有するものであってもよく、例えばカルボン酸基等の酸基をさらに有するものであってもよい。
【0025】
仲介化合物としては、メルカプトアミン、2-アミノエタンチオール(システアミン)、2-アミノベンゼンチオール、3-アミノベンゼンチオール、4-アミノベンゼンチオール、システイン、ホモシステイン等が挙げられる。なかでも、仲介化合物としては、入手容易性や人体や環境への安全性の点から、システインおよび/または2-アミノエタンチオールを用いることが好ましい。
【0026】
仲介化合物は、ヒ素含有溶液に含まれる亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンに対して過剰量となるように配合することが好ましく、これによりヒ素除去性能を高めることができる。具体的には、ヒ素含有溶液と仲介化合物とを接触させる際の仲介化合物のヒ素に対するモル比(仲介化合物/ヒ素)は、5倍モル以上が好ましく、10倍モル以上がより好ましく、20倍モル以上がさらに好ましく、40倍モル以上がさらにより好ましい。仲介化合物とヒ素とのモル比(仲介化合物/ヒ素)の上限は特に限定されないが、処理コスト低減の点から、ヒ素含有溶液中のヒ素含有量の1000倍モル以下が好ましく、500倍モル以下がより好ましく、300倍モル以下がさらに好ましい。
【0027】
なお、ヒ素含有溶液を仲介化合物または陽イオン交換体と接触させる前に、ヒ素含有溶液に還元剤を加えてヒ酸イオンを亜ヒ酸イオンに還元させてもよく、これにより仲介化合物の使用量を低減できる可能性がある。還元剤としては、チオ硫酸(塩)、亜硫酸(塩)、亜硝酸(塩)等が挙げられる。
【0028】
ヒ素含有溶液と陽イオン交換体との接触は、バッチ法により行ってもよく、連続法により行ってもよい。仲介化合物と陽イオン交換体との接触も、バッチ法により行ってもよく、連続法により行ってもよい。具体的な態様としては、例えば、ヒ素含有溶液に仲介化合物を添加してヒ素と仲介化合物を含有する溶液を調製し、これを陽イオン交換体と接触させる方法、陽イオン交換体を仲介化合物溶液と接触させた後、ヒ素含有溶液と接触させる方法、陽イオン交換体にヒ素含有溶液と仲介化合物溶液を同時または任意の順で加える方法等が挙げられる。
【0029】
陽イオン交換体をバッチ法によりヒ素含有溶液または仲介化合物溶液と接触させる場合は、ヒ素含有溶液または仲介化合物溶液に陽イオン交換体を添加すればよい。あるいは、陽イオン交換体を、仲介化合物溶液とヒ素含有溶液に順次接触させてもよい。この際、陽イオン交換体は、そのままの姿でヒ素含有溶液または仲介化合物溶液と接触させてもよいし、陽イオン交換体を入れた通液可能な袋をヒ素含有溶液または仲介化合物溶液に浸したり、陽イオン交換体を一体的に取り扱えるように所定の形状に成形したものをヒ素含有溶液または仲介化合物溶液に浸したりしてもよい。
【0030】
陽イオン交換体をバッチ法によりヒ素含有溶液または仲介化合物溶液と接触させる際の陽イオン交換体の添加量は、例えば、ヒ素含有溶液または仲介化合物溶液1Lに対して、1g/L~100g/Lの範囲で適宜調整すればよい。陽イオン交換体とヒ素含有溶液または仲介化合物溶液との接触時間は特に限定されず、例えば15分~48時間(好ましくは30分~24時間)の間で適宜設定すればよい。陽イオン交換体とヒ素含有溶液または仲介化合物溶液との接触は、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0031】
陽イオン交換体を連続法によりヒ素含有溶液または仲介化合物溶液と接触させる場合は、例えば陽イオン交換体をカラムに充填し、そこにヒ素含有溶液または仲介化合物溶液を通液させればよい。あるいは、陽イオン交換体を充填したカラムに、仲介化合物溶液とヒ素含有溶液を順次通液させてもよい。このときの通液速度は、陽イオン交換体による処理性能に応じて適宜設定すればよいが、空間速度(SV)として、例えば0.2hr-1~50hr-1の範囲(好ましくは1hr-1~20hr-1の範囲)で適宜調整すればよい。
【0032】
上記のバッチ法と連続法による処理は、ヒ素と仲介化合物の両方を含有する溶液に対して陽イオン交換体を接触させることも当然可能であり、その場合の処理方法や処理条件も上記と同様である。また、陽イオン交換体と仲介化合物溶液との接触をバッチ法により行い、陽イオン交換体とヒ素含有溶液との接触を連続法により行ってもよく、それとは逆に、陽イオン交換体と仲介化合物溶液との接触を連続法により行い、陽イオン交換体とヒ素含有溶液との接触をバッチ法により行ってもよい。
【0033】
ヒ素含有溶液または仲介化合物溶液を陽イオン交換体と接触させる際のpHの好適範囲は、使用する仲介化合物の種類によっても変わりうるが、ヒ素除去性能を高める点から、9.5以下が好ましく、9.0以下がより好ましく、8.5以下がさらに好ましく、また-1.0以上が好ましく、-0.5以上がより好ましく、0.0以上がさらに好ましい。例えば仲介化合物としてシステインを使用する場合は、前記pHは、5.0以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましい。なお、ヒ素含有溶液または仲介化合物溶液を陽イオン交換体と接触させた際に、陽イオン交換体からプロトンが遊離するなどしてpHが変化する場合は、変化後(すなわちヒ素含有溶液または仲介化合物溶液と陽イオン交換体との接触後)のpH値が前記範囲にあることが好ましい。
【0034】
本発明の処理方法によれば、硫酸イオンのような他の陰イオンが共存していても、ヒ素含有溶液中の亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを効果的に除去することができる。また、キレート材と比べて汎用性の高い陽イオン交換体を用い、これにメルカプト基とアミノ基を有する化合物を併用することで、簡便に亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを除去することができ、また陽イオン交換体を用いることにより再生も容易となる。
【0035】
本発明では、陽イオン交換体を仲介化合物溶液と接触させて、陽イオン交換体の交換基に仲介化合物を結合させたものを、ヒ素回収材として使用することも可能である。この場合、陽イオン交換体を仲介化合物溶液と接触させた後、固液分離したりすることにより、陽イオン交換体に仲介化合物が結合したヒ素回収材を得ることができる。すなわち本発明は、陽イオン交換体にメルカプト基とアミノ基を有する化合物が結合したヒ素回収材も提供する。ヒ素回収材は、陽イオン交換体の交換基に仲介化合物のアミノ基が結合して形成され、仲介化合物のメルカプト基がヒ素(亜ヒ酸イオンやヒ酸イオン)を捕捉する官能基として機能すると考えられる。ヒ素回収材とは、ヒ素含有溶液と接触させたときに、ヒ素を除去あるいは回収可能な材料を意味する。
【0036】
ヒ素回収材に関する詳細(例えば、陽イオン交換体、メルカプト基とアミノ基を有する化合物およびその溶液、これらの接触方法や接触条件等)は、上記の説明が参照される。陽イオン交換体を仲介化合物溶液と接触させてヒ素回収材を調製する際の仲介化合物溶液の濃度と量は、接触させる陽イオン交換体の交換容量に応じて適宜設定すればよい。基本的に、陽イオン交換体と接触させる仲介化合物溶液に含まれる仲介化合物の量は、陽イオン交換体の交換容量の1.0倍モル以上であることが好ましく、1.5倍モル以上がより好ましく、2.0倍モル以上がさらに好ましい。
【0037】
ヒ素回収材は、ヒ素含有溶液と接触させることにより、ヒ素含有溶液から亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを除去することができる。すなわち本発明は、ヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させる工程を有するヒ素含有溶液の処理方法も提供する。ヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させる際の処理条件については、上記の説明が参照される。なお、ヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させる前に、ヒ素含有溶液に還元剤を添加して、ヒ素含有溶液に含まれうるヒ酸イオンを亜ヒ酸イオンに還元してもよく、これによりヒ素除去効率を高めることができる。
【0038】
本発明のヒ素回収材は、硫酸イオンのような他の陰イオンが共存していても、ヒ素含有溶液中の亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを効果的に除去することができる。また、キレート材と比べて汎用性の高い陽イオン交換体を用い、これにメルカプト基とアミノ基を有する化合物を結合させているため、簡便に製造することができ、再生も容易となる。
【0039】
本発明のヒ素回収材は、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンを選択的に回収することができることから、ヒ素の分析に用いることも可能である。例えば、他の陰イオンが共存する検体溶液にヒ素回収材を接触させてヒ素を回収し、得られたヒ素回収材のヒ素濃度を測定することにより、検体溶液のヒ素濃度を見積もることができる。すなわち本発明は、ヒ素回収材を検体溶液と接触させる前処理工程と、前処理工程で得られたヒ素回収材のヒ素濃度を測定する分析工程とを有するヒ素分析方法も提供する。
【0040】
前処理工程では、検体溶液中のヒ素ができるだけヒ素回収材に回収されるように、適宜条件を設定することが好ましい。例えば、検体溶液に加えるヒ素回収材の量は、検体溶液に含まれるヒ素を全量回収するのに十分な量とすることが好ましい。あるいは、添加するヒ素回収材の量に応じて検体溶液を適宜希釈して、ヒ素回収材に捕捉させるヒ素の量を調整することが好ましい。検体溶液のpHは、例えば検体溶液中のヒ素の95%以上(より好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上)を除去することが可能な範囲に調製することが好ましく、例えばpH1.0~8.0の範囲に調整することが好ましい。
【0041】
前処理工程では、バッチ法で検体溶液とヒ素回収材とを接触させてもよく、連続法で検体溶液とヒ素回収材とを接触させてもよい。バッチ法で行う場合は、検体溶液とヒ素回収材との接触時間をある程度長い時間確保することが好ましく、例えば、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、4時間以上がさらに好ましい。検体溶液とヒ素回収材との接触は、撹拌しながら行うことが好ましい。連続法で行う場合は、空間速度(SV)を速くしすぎないように設定することが好ましい。
【0042】
前処理工程では、ヒ素の価数(酸化数)による回収性能の違いの影響を抑える点から、検体溶液に酸化剤または還元剤を加えることにより、検体溶液に含まれるヒ素の価数を3価または5価に揃えた上で、ヒ素回収材と接触させることが好ましい。この場合、ヒ素の価数に応じて前処理工程の条件を適宜設定することが好ましい。簡便には、過酸化水素、分子状酸素、オゾン等の酸化剤を加えることにより、検体溶液中のヒ素をヒ酸イオンの形態とすることが好ましい。なお、酸化剤または還元剤を加えた検体溶液と、酸化剤も還元剤も加えない検体溶液の2種類を用意し、それぞれ分析を行えば、ヒ酸イオンと亜ヒ酸イオンのそれぞれの濃度を見積もることも可能である。
【0043】
前処理工程とは別に、ヒ素の標準溶液を調製し、前処理工程と同じ条件でヒ素回収材と接触させる工程(リファレンス工程)を行うことが好ましい。このとき、標準溶液は、複数の異なるヒ素濃度の標準溶液を調製し、それぞれヒ素回収材と接触させるようにする。標準溶液中のヒ素の種類は亜ヒ酸イオンまたはヒ酸イオンのどちらかとし、具体的には、前処理工程で検体溶液に酸化剤を加えてヒ素の価数を5価に揃える場合は、ヒ素としてヒ酸イオンを用いることが好ましく、検体溶液に還元剤を加えてヒ素の価数を3価に揃える場合は、ヒ素として亜ヒ酸イオンを用いることが好ましい。検体溶液に含まれるヒ酸イオンと亜ヒ酸イオンのそれぞれの濃度を測定する場合は、亜ヒ酸イオンの標準溶液とヒ酸イオンの標準溶液をそれぞれ用意する。
【0044】
分析工程では、前処理工程で得られたヒ素回収材のヒ素濃度を測定する。分析工程で得られた測定値からヒ素回収材に含まれるヒ素含有量を算出し、前処理工程で用いた検体溶液の容量で除することにより、検体溶液のヒ素濃度を求めることができる。例えば、前処理工程でバッチ法により検体溶液とヒ素回収材とを接触させた場合は、ヒ素が比較的均一にヒ素回収材に捕捉されるため、このような簡便な方法により検体溶液のヒ素濃度を求めることが可能となる。より正確に検体溶液のヒ素濃度を求める場合は、分析工程で得られた測定値を、標準溶液と接触させたヒ素回収材のヒ素濃度の測定値と比較することによって、検体溶液中のヒ素濃度を求めることが好ましい。この方法は、前処理工程をバッチ法と連続法のいずれで行う場合にも採用可能であるが、連続法で行う場合は、カラム中の特定箇所(好ましくは複数箇所)からヒ素回収材を取り出し、そのヒ素濃度を測定することが好ましい。
【0045】
分析は、固体のヒ素濃度を簡便に測定できる方法として、蛍光X線法を採用することが好ましい。蛍光X線装置はポータブルのものも市販されているため、オンサイトでの測定が可能となる。
【0046】
本発明では、ヒ素を捕捉した陽イオン交換体(仲介化合物が結合した陽イオン交換体)またはヒ素回収材をアルカリ溶液や酸溶液と接触させることにより、陽イオン交換体またはヒ素回収材からヒ素を溶離させることもできる。すなわち、本発明の処理方法は、ヒ素含有溶液を、メルカプト基とアミノ基を有する化合物の存在下、陽イオン交換体と接触させる工程、あるいは、ヒ素回収材をヒ素含有溶液と接触させる工程、すなわちヒ素除去工程に引き続いて、陽イオン交換体またはヒ素回収材からヒ素を溶離させる工程(溶離工程)をさらに有するものであってもよい。ヒ素は、亜ヒ酸イオンやヒ酸イオンとして溶離するものであってもよく、仲介化合物と結合した形で溶離するものであってもよい。このように処理することにより、陽イオン交換体やヒ素回収材の繰り返し使用や再生が可能となる。また、溶離したヒ素は、ヒ素濃縮液として回収することができる。例えば、通常のキレート材を用いてヒ素を除去する場合は、ヒ素がキレート材の有するキレート官能基に強く結合することによって、キレート材からヒ素を溶離させることが困難となる場合があるが、本発明では、仲介化合物を介してヒ素が陽イオン交換体に捕捉され、仲介化合物が陽イオン交換体と静電的に結合していると考えられるため、ヒ素を陽イオン交換体から容易に溶離させることができる。
【0047】
ヒ素を捕捉した陽イオン交換体またはヒ素回収材をアルカリ溶液と接触させる場合は、陽イオン交換体の交換基と仲介化合物のアミノ基とが静電的に引き合う力が弱まることにより、陽イオン交換体からヒ素が結合した仲介化合物を溶離させることができる。ヒ素を捕捉した陽イオン交換体またはヒ素回収材を酸溶液と接触させる場合は、陽イオン交換体の交換基と仲介化合物のアミノ基との反応平衡が解離側にずれることにより、陽イオン交換体からヒ素が結合した仲介化合物を溶離させることができる。
【0048】
溶離工程で使用するアルカリ溶液としては、アルカリ金属水酸化物の溶液を用いることが好ましい。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等を用いることができ、これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、アルカリ金属水酸化物としては、コスト面から水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0049】
アルカリ溶液は、水酸化物イオン濃度が高いほどヒ素を高濃度に含む溶離液が得られることから、ある程度高い水酸化物イオン濃度を有するアルカリ溶液を使用することが好ましい。アルカリ溶液の水酸化物イオン濃度は、例えば0.05mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がより好ましく、0.2mol/L以上がさらに好ましい。一方、アルカリ溶液の取り扱い性や設備仕様への影響を考慮すると、アルカリ溶液の水酸化物イオン濃度は3mol/L以下が好ましく、1mol/L以下がより好ましい。
【0050】
溶離工程で酸溶液を用いてヒ素を溶離させる場合は、酸溶液は、陽イオン交換体またはヒ素回収材と接触させたヒ素含有溶液よりも低いpH(例えば、0.5以上低いpH)のものを用いることが好ましい。これにより、ヒ素含有溶液からヒ素を除去した陽イオン交換体またはヒ素回収材から効率的にヒ素を溶離させることができる。酸溶液としては、塩酸や硫酸を用いることが簡便であり、そのpHは、例えば-1.5以上であることが好ましく、また6.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましい。
【0051】
アルカリ溶液と接触させた陽イオン交換体またはヒ素回収材は、水洗や酸洗浄することにより、再びヒ素含有溶液からのヒ素の除去に使用することができる。このときの酸としては、塩酸や硫酸を用いることが好ましい。溶離工程で酸溶液と接触させた陽イオン交換体またはヒ素回収材は、そのような洗浄を行わなくても、再びヒ素含有溶液からのヒ素の除去に使用することができる。なお、ヒ素回収材として再生する場合は、その後メルカプト基とアミノ基を有する化合物を接触させることにより、陽イオン交換体にメルカプト基とアミノ基を有する化合物が結合したヒ素回収材を得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0053】
実験例1:各吸着材によるヒ素除去性能のシステイン添加の影響の検討
イオン交換水に、亜ヒ酸ナトリウムまたはヒ酸溶液、および硫酸を添加し、亜ヒ酸イオン(As(III)イオン)またはヒ酸イオン(As(V)イオン)をヒ素として0.133mmol/L(約10mg/L)、硫酸イオンを50mmol/L(約4,800mg/L)含有する溶液を作製した。この溶液に、L-システイン塩酸塩一水和物を13.3mmol/L(約1,610mg/L)の濃度で添加した後、または添加せずに、吸着材として、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂(キレスト社製、キレスパール(登録商標)SA110)、トリメチルアミノ基を有する強塩基性陰イオン交換樹脂(キレスト社製、キレスパール(登録商標)SB130)、またはグルカミン型キレート樹脂(三菱ケミカル社製、ダイヤイオン(登録商標)CRB05)を乾燥重量で約0.25%添加し、2時間室温で撹拌した。吸着材添加前後における試験溶液のヒ素濃度をICP発光分光分析法により測定した。結果を表1に示す。
【0054】
吸着材として陽イオン交換樹脂を用いた場合、メルカプト基とアミノ基を有する化合物であるシステインを添加することにより、硫酸イオンが共存していても、亜ヒ酸イオンとヒ酸イオンのいずれも高効率で除去することができた。一方、システインを添加しない場合は、陽イオン交換樹脂によりヒ素を除去することはほとんどできなかった。また、陰イオン交換樹脂を用いた場合は、システインの添加の有無に関わらず、ヒ素をほとんど除去できなかった。キレート樹脂を用いた場合はいくらかヒ素を除去することができたが、陽イオン交換樹脂とシステインを併用した場合と比べて、ヒ素除去性能は全般的に低下した。
【0055】
【0056】
実験例2:陽イオン交換樹脂とシステインによるヒ素除去性能のpHの影響の検討
イオン交換水に亜ヒ酸ナトリウムとL-システイン塩酸塩一水和物を添加し、亜ヒ酸イオン(As(III)イオン)をヒ素として0.133mmol/L(約10mg/L)、システインを14.3mmol/L(約1,730mg/L)含有する溶液を作製した。この溶液に硫酸を加えてpHを調整した後、吸着材として、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライト(登録商標)IR120B H)を乾燥重量で0.5%添加し、12時間室温で撹拌した。吸着材添加前後における試験溶液のヒ素濃度をICP発光分光分析法により測定した。結果を表2に示す。
【0057】
陽イオン交換樹脂に、メルカプト基とアミノ基を有する化合物としてシステインを併用して処理した場合、処理後pH0.1~3.9の範囲で、ヒ素を60%~100%の除去率で除去することができた。特に、pH1.1~3.3の範囲では、ほぼ完全にヒ素を除去することができた。
【0058】
【0059】
実験例3:陽イオン交換樹脂とシステインによるヒ素除去性能のシステイン添加量の影響の検討
イオン交換水に亜ヒ酸ナトリウムと硫酸を添加し、亜ヒ酸イオン(As(III)イオン)をヒ素として0.133mmol/L(約10mg/L)、硫酸イオンを50mmol/L(約4,800mg/L)含有する溶液を作製した。この溶液に、L-システイン塩酸塩一水和物をヒ素の5倍モル~100倍モルの濃度となるように添加した後、吸着材として、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライト(登録商標)IR120B H)を乾燥重量で0.5%添加し、2時間室温で撹拌した。吸着材添加前後における試験溶液のヒ素濃度をICP発光分光分析法により測定した。結果を表3に示す。システインの添加量が多いほどヒ素除去率は高くなり、システインをヒ素の20倍モル添加したときのヒ素除去率は84%となり、システインをヒ素の50倍モル以上添加することにより、95%以上のヒ素を除去することができた。
【0060】
【0061】
実験例4:陽イオン交換樹脂とシステアミンによるヒ素除去性能のpHの影響の検討
イオン交換水に亜ヒ酸ナトリウムと2-アミノエタンチオール(システアミン)塩酸塩を添加し、亜ヒ酸イオン(As(III)イオン)をヒ素として0.133mmol/L(約10mg/L)、システアミンを13.3mmol/L(約1,030mg/L)含有する溶液を作製した。この溶液に硫酸または水酸化ナトリウムを加えてpHを調整した後、吸着材として、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂(キレスト社製、キレスパール(登録商標)SA100)を乾燥重量で0.25%添加し、2時間室温で撹拌した。吸着材添加前後における試験溶液のヒ素濃度をICP発光分光分析法により測定した。結果を表4に示す。
【0062】
陽イオン交換樹脂に、メルカプト基とアミノ基を有する化合物としてシステアミンを併用して処理した場合、pH0.1~8.0の範囲で、ヒ素を86%~97%の除去率で除去することができた。システアミンを用いた場合も、システインを用いた実験例1~3と同様に、陽イオン交換樹脂によるヒ素の除去が可能であった。なお、実験例4では、実験例2と比べて陽イオン交換樹脂の使用量を減らしたため、陽イオン交換樹脂の量を増やせばさらに高いヒ素除去率を達成できると考えられる。
【0063】
【0064】
実験例5:システインまたはシステアミンが結合した陽イオン交換樹脂によるヒ素除去性能の検討
スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂(キレスト社製、キレスパール(登録商標)SA110)を直径1.5cmの筒状のカラムに充填高さ10cmになるように充填し、塩酸を300g-HCl/L-resin通液後、36mmol分のL-システイン塩酸塩一水和物水溶液または2-アミノエタンチオール(システアミン)塩酸塩水溶液を通液し、陽イオン交換樹脂にシステインまたはシステアミンを結合させ、カラムから取り出した。
【0065】
イオン交換水に、亜ヒ酸ナトリウムまたはヒ酸溶液、および硫酸を添加し、亜ヒ酸イオン(As(III)イオン)またはヒ酸イオン(As(V)イオン)をヒ素として0.133mmol/L(約10mg/L)、硫酸イオンを50mmol/L(約4,800mg/L)含有する溶液(pH=1.2)を作製した。この溶液に、システインまたはシステアミンを結合させた陽イオン交換樹脂を乾燥重量で約0.25%添加し、16時間室温で撹拌した。システインまたはシステアミンを結合させた陽イオン交換樹脂の添加前後における試験溶液のヒ素濃度をICP発光分光分析法により測定した。結果を表5に示す。
【0066】
システインまたはシステアミンを予め陽イオン交換樹脂に結合させた場合でも、ヒ素含有溶液からヒ素を除去できることが明らかになった。なお、システアミンを結合させた陽イオン交換樹脂を用いた場合は、5価のヒ素除去率が若干低下したが、これはシステアミンのAs(V)のAs(III)への還元力がシステインよりも弱いことが原因と推測され、システアミンを結合させた陽イオン交換樹脂の添加率を高めたり、ヒ素含有溶液の還元前処理を行うことにより、ヒ素除去率を高めることができると考えられる。
【0067】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、土壌汚染水、温泉水等の地質由来のヒ素含有水や、精錬工場、採掘場、火力発電所、その他ヒ素を扱う工場等から排出されるヒ素含有排水の処理に適用することができる。また、ヒ素含有溶液の分析に用いることができる。