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特許6999895放射線撮影装置および放射線画像検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】放射線撮影装置および放射線画像検出方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220112BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61B6/00 370
A61N5/10 M
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017132993
(22)【出願日】2017-07-06
(65)【公開番号】P2019013449
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2019-11-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 渉
(72)【発明者】
【氏名】森 慎一郎
【審査官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/046870(WO,A1)
【文献】特開2008-171147(JP,A)
【文献】特開平05-197811(JP,A)
【文献】特開2013-254332(JP,A)
【文献】特開2006-244289(JP,A)
【文献】特開2009-237897(JP,A)
【文献】特開2016-214270(JP,A)
【文献】特開2004-192310(JP,A)
【文献】特開2009-134466(JP,A)
【文献】特表2014-512925(JP,A)
【文献】特開2007-105196(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125600(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/003453(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/058195(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0058850(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0238866(US,A1)
【文献】特開2008-186303(JP,A)
【文献】特開2008-000456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00
A61N 5/10
G06T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に放射線を照射する照射部と、
前記被検体を透過した放射線を検出する放射線検出部と、
前記放射線検出部の検出信号に基づき放射線画像を生成する画像生成部と、
前記被検体の特定部位が写る複数のテンプレート画像に対する主成分分析により取得された前記特定部位の主成分を記憶する記憶部と、
前記テンプレート画像および前記画像生成部により生成された前記放射線画像の各々に対する前記記憶部に記憶された前記主成分の寄与率を取得し、取得した各々の前記寄与率を用いたマッチングにより、放射線画像中から前記特定部位の位置を検出する位置検出部と、を備え、
前記位置検出部は、前記テンプレート画像に対する前記寄与率と前記主成分とにより作成した前記テンプレート画像の主成分画像と、前記放射線画像に対する前記寄与率と前記主成分とにより前記放射線画像を変換した変換画像とのマッチングにより、前記特定部位の位置を検出するように構成されている、放射線撮影装置。
【請求項2】
被検体の放射線画像中から特定部位を検出するための放射線画像検出方法であって、
前記被検体の前記特定部位が写る複数のテンプレート画像に対する主成分分析により、前記特定部位の主成分を取得するステップと、
被検体に放射線を照射し、前記被検体を透過した放射線を検出することにより前記放射線画像を生成するステップと、
前記テンプレート画像および前記放射線画像の各々に対する前記主成分の寄与率を取得するステップと、
取得した各々の前記寄与率を用いたマッチングにより、前記放射線画像中から前記特定部位の位置を検出するステップと、を備え、
前記特定部位の位置を検出するステップは、前記主成分の第N主成分(Nは2以上80以下の整数)までを考慮した、前記テンプレート画像に対する前記寄与率と前記主成分とにより作成した前記テンプレート画像の主成分画像と、前記放射線画像に対する前記寄与率と前記主成分とにより前記放射線画像を変換した変換画像とを用いてマッチングを行うように構成されている、放射線画像検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線撮影装置および放射線画像検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線撮影装置により撮像した被検体の放射線画像中から、画像認識により被検体の特定部位を検出する技術が知られている。
【0003】
たとえば、腫瘍などの治療部位にX線や粒子線などを照射して治療を行う放射線治療では、被検体の体の動きや、体内器官の動きにより、治療部位が移動する。そのため、放射線治療中に放射線画像を撮像して、治療部位を特定部位として検出することによって、特定部位の検出位置に応じて放射線治療装置による治療用放射線の照射を制御することが行われる。
【0004】
放射線画像中から特定部位を検出する場合、放射線画像に写り込むノイズが検出精度を低下させる要因となる。ノイズを低減するための技術として、特許文献1では、画像を高解像度から低解像度の各種解像度レベルで取得し、各種解像度レベルの画像について主成分分析を行い、主成分画像に置き換えることによりノイズ成分を除去した画像を再構成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-525648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のような手法では、多数の解像度の画像を取得して主成分分析を行い、画像を再構成するため、治療中にリアルタイム的にノイズを除去した画像を再構成することは困難である。このため、放射線画像にノイズが含まれる場合でも、ノイズの影響を抑制し、特定部位の検出を迅速に行えるようにすることが望まれている。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、放射線画像にノイズが含まれる場合でも、ノイズの影響を抑制しつつ特定部位の検出を迅速に行うことが可能な放射線撮影装置および放射線画像検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
の局面による放射線撮影装置は、被検体に放射線を照射する照射部と、被検体を透過した放射線を検出する放射線検出部と、放射線検出部の検出信号に基づき放射線画像を生成する画像生成部と、被検体の特定部位が写る複数のテンプレート画像に対する主成分分析により取得された特定部位の主成分を記憶する記憶部と、テンプレート画像および画像生成部により生成された放射線画像の各々に対する記憶部に記憶された主成分の寄与率を取得し、取得した各々の寄与率を用いたマッチングにより、放射線画像中から特定部位の位置を検出する位置検出部と、を備え、位置検出部は、テンプレート画像に対する寄与率と主成分とにより作成したテンプレート画像の主成分画像と、放射線画像に対する寄与率と主成分とにより放射線画像を変換した変換画像とのマッチングにより、特定部位の位置を検出するように構成されている。これにより、取得した寄与率と主成分とを用いて主成分画像と変換画像とを再構成することによって、画像同士のマッチングを行うことができる。この場合でも、テンプレート画像の主成分によって変換した主成分画像と変換画像とを用いることにより、元の放射線画像に含まれるノイズの影響を抑制してマッチングを行うことができる。
【0015】
この発明の第の局面における放射線画像検出方法は、被検体の放射線画像中から特定部位を検出するための放射線画像検出方法であって、被検体の特定部位が写る複数のテンプレート画像に対する主成分分析により、特定部位の主成分を取得するステップと、被検体に放射線を照射し、被検体を透過した放射線を検出することにより放射線画像を生成するステップと、テンプレート画像および放射線画像の各々に対する主成分の寄与率を取得するステップと、取得した各々の寄与率を用いたマッチングにより、放射線画像中から特定部位の位置を検出するステップと、を備え、特定部位の位置を検出するステップは、主成分の第N主成分(Nは以上80以下の整数)までを考慮した、テンプレート画像に対する寄与率と主成分とにより作成したテンプレート画像の主成分画像と、放射線画像に対する寄与率と主成分とにより放射線画像を変換した変換画像とを用いてマッチングを行うように構成されている。
【0016】
この発明の第2の局面による放射線画像検出方法では、上記のように、テンプレート画像および放射線画像の各々に対する主成分の寄与率を取得するステップと、取得した各々の寄与率を用いたマッチングにより、放射線画像中から特定部位の位置を検出するステップを設ける。これにより、テンプレート画像から取得した主成分の、テンプレート画像および放射線画像の各々に対する寄与率を用いて特定部位の検出を行うことができる。この場合、新たに生成された放射線画像に対して主成分分析を行うのではなく、予め用意されたテンプレート画像に対する主成分分析の結果(主成分)を用いて放射線画像に対する寄与率を取得すればよいので、迅速な検出処理が可能である。そして、放射線画像(ノイズを含む画像)をそのまま用いるのではなく、テンプレート画像の主成分を尺度とする寄与率を用いることにより、元の放射線画像に含まれるノイズの影響を抑制してマッチングを行うことができる。その結果、放射線画像にノイズが含まれる場合でも、ノイズの影響を抑制しつつ特定部位の検出を迅速に行うことができる。
また、たかだかN個の主成分を用いればよいので、特定部位の検出を迅速に行うことができる。また、上位N番目までの主成分に、ノイズ成分を排除しつつ、特定部位を精度よく検出するのに必要な情報量を含めることができるので、必要十分な精度で、迅速な検出処理を行うことができる
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記のように、放射線画像にノイズが含まれる場合でも、ノイズの影響を抑制しつつ特定部位の検出を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態による放射線撮影装置の全体構成を示す模式図である。
図2図1に示した放射線撮影装置によるX線画像の撮影方向を示した模式図である。
図3】放射線撮影装置の記憶部を説明するための図である。
図4】X線画像を説明するための模式図である。
図5】2次粒子線の写り込みによるノイズを説明するための図である。
図6】第1実施形態における位置検出部によるマッチング処理を説明するための図である。
図7】放射線撮影装置の処理動作を説明するためのフローチャートである。
図8】第2実施形態による放射線撮影装置の位置検出部によるマッチング処理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
[第1実施形態]
(放射線撮影装置の構成)
図1図3を参照して、本発明の第1実施形態による放射線撮影装置100の構成について説明する。
【0021】
図1および図2に示すように、放射線撮影装置100は、人体などの被検体Tの外側から放射線を照射することによって、被検体T内を画像化するための放射線画像を撮影する装置である。放射線画像は、被検体Tを透過する放射線を用いて撮像した被検体Tの画像である。第1実施形態では、放射線撮影装置100は、放射線の一例であるX線を用いてX線画像を撮影するX線撮影装置である。X線画像は、放射線画像の一例である。
【0022】
第1実施形態では、放射線撮影装置100は、粒子線照射装置110と組み合わせて、放射線(粒子線)治療を行うための放射線治療システムを構成している。粒子線照射装置110は、患者である被検体Tに粒子線ビーム(治療ビーム)を照射することが可能である。放射線撮影装置100は、被検体TのX線画像から、特定部位50の位置を検出する。この場合、特定部位50は、治療対象となる腫瘍などであり、被検体Tの体内の一部位である。特定部位50は、被検体Tの姿勢の変化や呼吸などの体の動き、および、心拍(脈動)などの体内活動に伴って、時間経過と共に移動する。放射線撮影装置100は、マーカーレス(X線透過性の低いマーカー部材を利用しないこと)で、X線画像から特定部位50の位置を画像認識により直接検出し、特定部位50の移動を追跡する動体追跡を行う。動体追跡によって特定部位50が粒子線照射装置110の照射位置に移動したタイミングで粒子線照射装置110から治療ビームを照射することにより、特定部位50(腫瘍)の治療が行われる。
【0023】
粒子線照射装置110は、天板3上の被検体Tに対して、陽子線あるいは重粒子線などの粒子線を照射可能である。粒子線照射装置110は、基台111と、基台111に対して揺動可能に設置されたガントリー112と、ガントリー112に設けられ、治療ビームを出射するヘッド113とを備える。粒子線照射装置110は、ガントリー112が基台111に対して揺動することにより、ヘッド113から照射される治療ビームの照射方向を変更することができる。粒子線照射装置110は、被検体Tの腫瘍等の特定部位50に対して、様々な方向から治療ビームを照射することができる。
【0024】
放射線撮影装置100は、被検体Tに放射線(X線)を照射する照射部1と、被検体Tを透過した放射線(X線)を検出するX線検出部2とを備えている。照射部1とX線検出部2とは、被検体Tが載置される天板(検診台)3を挟んで対向するように対(ペア)で配置されている。放射線撮影装置100は、照射部1および天板3を制御する制御部4を備えている。X線検出部2は、特許請求の範囲の「放射線検出部」の一例である。
【0025】
照射部1とX線検出部2とのペアは、複数設けられている。第1実施形態では、照射部1aとX線検出部2aとのペア、および、照射部1bとX線検出部2bとのペアの2組が設けられている。各ペアは、互いに異なる方向から被検体Tを撮像する第1撮像系と第2撮像系とを構成している。各撮像系から生成されたX線画像に基づいて、特定部位50(腫瘍)の3次元位置を特定することができる。天板3は、たとえば、直交3軸(X軸、Y軸、Z軸)に移動可能で、かつ、各軸周りに回動可能であり、6軸方向に移動することができる。また、照射部1とX線検出部2とのペアは、水平面内で天板3の周囲に移動可能であってもよい。
【0026】
照射部1は、高電圧が印加されることによりX線を発生させるX線管を有する。照射部1は、制御部4に接続されている。制御部4は、管電圧、管電流およびX線照射の時間間隔などの予め設定された撮影条件に従って照射部1を制御し、照射部1からX線を発生させる。
【0027】
X線検出部2は、照射部1から照射され、被検体Tを透過したX線を検出し、検出したX線強度に応じた検出信号を出力する。X線検出部2は、たとえば、FPD(Flat Panel Detector)により構成されている。また、放射線撮影装置100は、X線検出部2からX線検出信号を取得して、X線画像30(図4参照)を生成する画像処理部5を備えている。X線検出部2は、所定の解像度の検出信号を画像処理部5に出力する。
【0028】
制御部4は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含んで構成されたコンピュータである。制御部4は、CPUが所定の制御プログラムを実行することにより、放射線撮影装置100の各部を制御する制御部として機能する。制御部4は、照射部1および画像処理部5の制御や、天板3の移動制御を行う。放射線撮影装置100は、表示部6を備える。表示部6は、たとえば液晶ディスプレイなどのモニタである。制御部4は、画像処理部5により生成された画像を表示部6に表示させる制御を行うように構成されている。また、制御部4は、画像処理部5により検出された特定部位50が粒子線照射装置110の照射位置に到達すると、粒子線照射装置110にトリガー信号を出力するように構成されている。これにより、特定部位50に対する治療ビームの照射が高精度に行われる。
【0029】
画像処理部5は、たとえば、CPUあるいはGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサ5aと、ROMおよびRAMなどの記憶部5bとを含んで構成されるコンピュータである。すなわち、画像処理部5は、記憶部5bに記憶された画像処理プログラム21(図3参照)をプロセッサ5aに実行させることにより構成される。画像処理部5は、制御部4と同一のハードウェア(CPU)に画像処理プログラムを実行させることにより、制御部4と一体的に構成されてもよい。
【0030】
画像処理部5は、プロセッサ5aが画像処理プログラム21を実行することによる機能として、画像生成部11と、位置検出部12とを含む。画像生成部11と位置検出部12とが専用のプロセッサにより個別に構成されていてもよい。
【0031】
画像生成部11は、X線検出部2の検出信号に基づきX線画像30(図4参照)を生成するように構成されている。第1実施形態では、X線画像30は動画像の形式で生成されるX線透視画像である。すなわち、照射部1から被検体Tに対してX線が所定時間間隔で断続的に照射され、被検体Tを透過したX線がX線検出部2により順次検出される。画像生成部11は、X線検出部2から順次出力される検出信号を画像化することにより、X線画像30を所定のフレームレートで生成する。フレームレートは、たとえば15FPS~30FPS程度である。画像生成部11は、生成したX線画像30を制御部4に出力する。X線画像30は、制御部4により表示部6に表示される。
【0032】
位置検出部12は、画像生成部11により生成されたX線画像30中から、特定部位50の位置を検出するように構成されている。位置検出部12は、画像認識により特定部位50を検出する。検出された特定部位50の位置情報は、制御部4に出力される。
【0033】
図3に示すように、記憶部5bは、コンピュータを画像処理部5として機能させるためのプログラム21(画像処理プログラム)を記憶している。また、記憶部5bは、画像生成部11により生成されたX線画像30を記憶する。
【0034】
記憶部5bは、被検体Tの特定部位50が写る複数のテンプレート画像40と、治療計画データ22とを記憶している。テンプレート画像40および治療計画データ22は、粒子線治療に先立って予め作成される。治療計画データ22は、CT(Computed Tomography)撮影によって被検体Tの3次元CT撮影を時間経過と共に連続して実施することにより、作成された4次元CTデータを含む。治療計画データ22から、被検体Tにおける特定部位50の位置、大きさ、形状、移動範囲などが把握される。テンプレート画像40は、治療計画データ22に基づいて作成された治療計画に従って、被検体Tにおける特定部位50を放射線撮影装置100によって事前に撮像することによって取得される。テンプレート画像40は、予め取得されたX線画像30から特定部位50を含む画像部分を切り出して取得された画像である。テンプレート画像40は、予め複数作成され、記憶部5bに記憶される。
【0035】
また、第1実施形態では、記憶部5bは、被検体Tの特定部位50が写る複数のテンプレート画像40に対する主成分分析により取得された特定部位50の主成分を記憶するように構成されている。すなわち、記憶部5bは、特定部位50の主成分を含む主成分分析データ23を記憶している。主成分分析データ23の内容については、後述する。
【0036】
(特定部位の検出処理)
次に、図4図6を参照して、画像処理部による特定部位の検出処理について説明する。
【0037】
治療時には、被検体Tの特定部位50がX線画像30中に写るように、照射部1、X線検出部2および天板3の相対位置関係が調整される。図4に示すように、画像生成部11によって生成されるX線画像30には、被検体Tの骨などの構造部分60や他の器官の像(図示せず)と重なった状態で特定部位50が写る。特定部位50が腫瘍の場合、特定部位50は、視認性(周囲とのコントラスト)が低く、容易には判別しにくい。また、治療ビームが照射されると、被検体Tにおいて2次粒子線が発生し、X線画像30にノイズとして写り込む。図4では、2次粒子線の写り込みをハッチングにより示している。2次粒子線は、治療部位に治療ビーム(粒子線)を照射することに起因して、被検体の体内で2次的に発生する粒子線であり、陽子、中性子および即発ガンマ線などを含む。
【0038】
図5は、X線画像30における2次粒子線の写り込みのイメージ(模式図)を示している。2次粒子線は、X線画像30のランダムな位置に、インパルス状ノイズのように点状の輝点90として写り込む。また、2次粒子線の輝点90は、2次粒子線の飛程やX線検出部2への入射角度などに依存して、点の大きさ、形状や強度(画素値)が様々に変化する。つまり、2次粒子線の輝点90は、強度分布や形状等の不均一性が高いため、フィルタ処理などの一般的なノイズ除去手法が適用しにくい特徴がある。特定部位50の視認性の低さも影響して、2次粒子線の輝点90が特定部位50と重なって写り込むような場合、特定部位50の検出精度が低下し、特定部位50の追跡の妨げとなる。
【0039】
そこで、第1実施形態では、被検体Tの特定部位50が写る複数のテンプレート画像40に対して主成分分析を行い、得られた特定部位50の主成分のデータが予め記憶部5b(図3参照)に記憶されている。そして、図6に示すように、位置検出部12が、テンプレート画像40および画像生成部11により生成されたX線画像30の各々に対する記憶部5bに記憶された主成分Vjの寄与率cjを取得し、取得した各々の寄与率cjを用いたマッチングにより、X線画像30中から特定部位50の位置を検出するように構成されている。
【0040】
ここで、テンプレート画像40やX線画像30は、画素値を成分とするベクトルと見なされる。テンプレート画像40がm×n画素の画像の場合、テンプレート画像40は、m×n個の成分を有し、各成分が対応する画素の画素値(たとえば、0~255)を有するベクトルとして表現される。テンプレート画像40がk枚とすると、テンプレート画像40は、ベクトルX1~Xkとなる。
【0041】
主成分は、ベクトルX1~Xkについての下式(1)に示す共分散行列Cの固有値問題を解くことによって得られる。
【数1】
ここで、ベクトルμは、k枚のテンプレート画像40の平均画像のベクトルである。
【0042】
共分散行列Cの固有値をλjとし、固有ベクトルをVjとすると、固有ベクトルVjが主成分であり、対応する固有値λjの絶対値が主成分の寄与率を表す係数である。添字jは、固有値λの絶対値の大きな順に設定される。このとき、固有ベクトルV1が第1主成分、固有ベクトルV2が第2主成分、・・・、固有ベクトルVNが第N主成分となる。
【0043】
このように主成分分析を行った場合、各テンプレート画像40のベクトルXは、下式(2)のように、互いに直交する各主成分Vjの線形和により表現される。主成分の総数は、テンプレート画像40の画素数(m×n)に一致する。
【数2】
【0044】
式(2)において、平均画像ベクトルμは、各テンプレート画像40において共通する要素を表し、各主成分Vjは、各テンプレート画像40の個体差に相当する要素を表す。ここで、各主成分Vjに対する係数cjは、各テンプレート画像40に対する各主成分Vjの寄与率を表す。すなわち、寄与率cjは、各テンプレート画像40のベクトルXを各主成分Vjに射影した射影ベクトルの大きさに相当し、各テンプレート画像40のベクトルXと各主成分Vjの内積に一致する。つまり、各主成分Vjにかかる係数(寄与率cj)は、各テンプレート画像Xから平均画像μを引いた画像(X-μ)と、各主成分Vとの内積となる(ただし、主成分の大きさは1に規格化(単位ベクトル化)しておくものとする)。各テンプレート画像40には共通して特定部位50が写るため、各主成分Vjは、特定部位50の個体差(特徴)を反映する。
【0045】
ここで、特定部位50の形状や大きさは、特定部位50の個体差を反映する特徴点に含まれる。このため、上位の各主成分Vjには、特定部位50の形状や大きさに関する情報が含まれている。一方、2次粒子線のように、特定部位50とは無関係に写り込むノイズは、各主成分Vjの中でも特に下位の主成分に含まれる情報である。
【0046】
したがって、マッチングに際して、算出された主成分Vjのうち上位の第N主成分VNまでを考慮すれば、第N主成分よりも下位のノイズ成分を排除しつつ、特定部位50の識別に有効な要素のみを考慮して、特定部位50の検出を行うことが可能となる。
【0047】
第1実施形態では、位置検出部12は、記憶部5bに記憶された第1主成分V1から第N主成分VN(Nは2以上100以下の整数)までを用いてマッチングを行うように構成されている。検出精度を確保するには、ある程度の数の主成分を考慮する方が好ましく、たとえば、Nは10以上が好ましい。マッチングに際してのノイズ要素の排除のためには、主成分の数を多くしすぎない方がよいため、Nは、たとえば80以下が好ましい。第1実施形態では、Nは、たとえば30である。第30主成分V30までを考慮することにより、ノイズ要素の排除と、特定部位50の検出精度との両立を図ることが可能である。
【0048】
第1実施形態では、位置検出部12は、複数のテンプレート画像40に対する主成分Vjの寄与率cjを取得する。たとえば、位置検出部12は、第1主成分から第N主成分までの上位N個の主成分Vjを用いて、各テンプレート画像40に対するN個の主成分Vjの寄与率cjをそれぞれ求める。
【0049】
たとえば、位置検出部12は、上位N個の主成分Vjを用いて、入力画像を各主成分Vjにより射影するための射影行列Qを作成する。射影行列Qは、下式(3)により表される。入力画像(テンプレート画像40や、新たに取得されるX線画像30)のベクトルに射影行列Qを乗じることにより、入力画像の第1主成分から第N主成分までのN次元の寄与率ベクトルを得ることができる。
【数3】
【0050】
位置検出部12は、各テンプレート画像40について射影行列Qを乗じることにより、各テンプレート画像40に対する各主成分Vjの寄与率cjが並んだN次元の寄与率ベクトルUk={ck1,・・・ckN}(k=1~k)を作成する。第1実施形態では、位置検出部12は、作成した各テンプレート画像40の寄与率ベクトルUkの平均をとることにより、平均寄与率ベクトルUa={ca1,・・・caN}を作成する。つまり、位置検出部12は、複数(k枚)のテンプレート画像40に対する各主成分Vjの寄与率cjの平均値caj(平均寄与率ベクトルUa)を算出し、記憶部5bに記憶する。
【0051】
一方、特定部位50の検出時には、位置検出部12は、画像生成部11により生成されたX線画像30についても、X線画像30に対する主成分Vjの寄与率cwjを取得する。たとえば、位置検出部12は、画像生成部11により生成されたX線画像30に射影行列Qを乗じることにより、X線画像30に対する各主成分Vjの寄与率cwjが並んだN次元の寄与率ベクトルW={cw1,・・・cwN}を作成する。
【0052】
位置検出部12は、複数(k枚)のテンプレート画像40に対する主成分Vjの寄与率cjの平均値cajと、X線画像30に対する主成分Vjの寄与率cwjとの差に基づいて、特定部位50の位置を検出するように構成されている。すなわち、位置検出部12は、各テンプレート画像40の寄与率ベクトルUkを平均したN次元の平均寄与率ベクトルUaと、X線画像30に射影行列Qを乗じて得た寄与率ベクトルWとの、寄与率同士の差分に基づいて、マッチングを行う。たとえば、位置検出部12は、下式(4)により、各テンプレート画像40の平均寄与率ベクトルUaとX線画像30の寄与率ベクトルWとの自乗誤差D2を求める。
【数4】
ここで、Uaは各テンプレート画像40の平均寄与率ベクトル、WはX線画像30の寄与率ベクトルである。
【0053】
上式(2)のように、テンプレート画像40やX線画像30は、各射影ベクトル(cjj)の線形和により近似されるので、寄与率同士の差分の自乗誤差D2は、第N主成分までの各主成分を尺度とした各テンプレート画像40の平均画像とX線画像30との相違度を表し、自乗誤差D2が小さいほど、X線画像30がテンプレート画像40と一致している(特定部位50が存在している)ことを表す。この自乗誤差D2が、マッチングにおけるX線画像30とテンプレート画像40との類似度の尺度(スコア)として利用される。マッチングにおける類似度の尺度(スコア)としては、自乗誤差D2の逆数に相当する値を用いてもよい。その場合、スコアの値は、相違度ではなく類似度を表す。
【0054】
このようにして、位置検出部12は、X線画像30中から特定部位50の位置を検出する。第1実施形態では、記憶部5bが記憶する主成分分析データ23は、主成分分析によって取得された各主成分Vj、射影行列Q、各寄与率cjおよび平均寄与率ベクトルUaを含む。
【0055】
なお、第1実施形態では、位置検出部12は、粒子線治療に伴って発生する2次粒子線の写り込みがないテンプレート画像40から取得された主成分を用いて寄与率を取得し、粒子線治療中において画像生成部11により順次生成されるX線画像30の各々から特定部位50を検出し、特定部位50の移動を追跡するように構成されている。
【0056】
すなわち、テンプレート画像40は、治療ビームが照射されていない状態(治療前)で予め取得されることにより、2次粒子線の写り込みがない状態で作成される。これにより、主成分分析によって取得された各主成分Vjや寄与率cjにおける2次粒子線によるノイズの影響が確実に排除され、各主成分Vjおよび寄与率cjが特定部位50の特徴をより反映したものとなる。
【0057】
また、位置検出部12は、画像生成部11により生成されたX線画像30に設定した検出窓30a内の画像部分についての寄与率cwjを求め、検出窓30aを移動させて寄与率cwjを用いたマッチングを順次行うことにより、X線画像30中から特定部位50を検出するように構成されている。すなわち、図6に示すように、位置検出部12は、粒子線治療中に取得されたX線画像30に所定の大きさの検出窓30aを設定して、検出窓30a内の画像部分の寄与率ベクトルWと、各テンプレート画像40の平均寄与率ベクトルUaとの自乗誤差D2を算出する。位置検出部12は、検出窓30aを移動させて、順次、自乗誤差D2を算出する。この際、治療計画データ22から、予め特定部位50が移動する推定範囲は分かっているため、検出窓30aの移動範囲は、X線画像30の一部に限定される。検出窓30aの移動範囲は、たとえば特定部位50が移動する推定範囲に、所定のマージンを加えた範囲として設定される。
【0058】
位置検出部12は、たとえば、検出窓30aの移動範囲内で算出した自乗誤差D2のうちで最小値を有する位置を、特定部位50の検出位置として出力する。特定部位50の検出位置は、制御部4に出力される。位置検出部12は、粒子線治療中に所定のフレームレートで生成されるX線画像30の各々についてマッチング処理を行う。制御部4は、取得されたX線画像30に、特定部位50の検出位置を表す識別表示を重畳して、表示部6に表示する。識別表示としては、たとえば図3に示したような、特定部位50の輪郭を示す線などである。制御部4は、新たなX線画像30および新たな検出位置を画像処理部5から取得する度に、表示部6を更新表示させ、リアルタイムの動画像形式でX線画像30および検出位置を表示させる。
【0059】
(放射線撮影装置の処理動作)
次に、図7を参照して、放射線撮影装置100の処理動作について説明する。各ステップの処理は、基本的には画像処理部5(画像生成部11および位置検出部12)と制御部4との協働により実施される。
【0060】
ステップS1において、画像処理部5が、テンプレート画像40を取得する。すなわち、治療前の準備として、事前にX線画像30が撮像され、X線画像30中から特定部位50を含む領域が切り出されることにより、テンプレート画像40が得られる。テンプレート画像40は、画像処理部5が切り出し処理をして作成してもよいし、別途作成されたテンプレート画像40が図示しないネットワークあるいは記録媒体から読み出されてもよい。
【0061】
ステップS2において、画像処理部5が、被検体Tの特定部位50が写る複数のテンプレート画像40に対する主成分分析により、特定部位50の主成分Vjおよび寄与率cjを取得する。そして、ステップS3において、画像処理部5が、主成分分析データ23を作成する。すなわち、位置検出部12により、上述の第N主成分までの主成分Vjのデータ、射影行列Q、各寄与率cjおよび各テンプレート画像40の平均寄与率ベクトルUaが作成され、記憶部5bに記憶される。
【0062】
以降のステップS4~S9が、粒子線治療時の処理である。ステップS4において、画像処理部5が、X線画像30を取得する。すなわち、照射部1が被検体Tに放射線を照射し、X線検出部2が被検体Tを透過した放射線を検出して、X線検出部2からの検出信号に基づいて、画像生成部11がX線画像30を生成する。X線画像30は、位置検出部12および制御部4に出力される。
【0063】
ステップS5において、画像処理部5が、マッチング処理を実施する。すなわち、位置検出部12が、X線画像30中の検出窓30a内の画像部分についての寄与率(寄与率ベクトルW)を取得する。そして、位置検出部12は、取得した各々の寄与率(平均寄与率ベクトルUaおよび寄与率ベクトルW)を用いたマッチングを行う。上記の通り、位置検出部12は、検出窓30aを移動させて、X線画像30中の各位置における寄与率(寄与率ベクトルW)の取得と自乗誤差D2の算出とを繰り返し行う。そして、位置検出部12が、最小の自乗誤差D2を有する位置を、X線画像30中から特定部位50の位置として検出する。なお、照射部1とX線検出部2とのペアが2組設けられているため、特定部位50の検出は、それぞれのX線画像30について行われる。
【0064】
ステップS6において、画像処理部5が、各X線画像30において検出した特定部位50の位置を、制御部4に出力する。制御部4は、各X線画像30における特定部位50の検出位置に基づいて、特定部位50の3次元位置を取得する。制御部4は、今回取得されたX線画像30に、特定部位50の検出位置を示す識別表示を重ねて表示部6に表示(更新表示)する。
【0065】
ステップS7において、制御部4が、粒子線照射装置110による治療ビームの照射タイミングか否かを判断する。すなわち、制御部4は、今回取得された特定部位50の3次元位置が、治療計画によって予め設定された治療ビームの照射位置(照射範囲)に含まれるか否かを判断する。
【0066】
なお、照射タイミングか否かは、2方向の各X線画像30において検出した2次元の特定部位50の位置が、両方ともX線画像30上の照射位置(照射範囲)に含まれるか否かによって判断してもよい。この場合、制御部4は、ステップS6において各X線画像30における特定部位50の検出位置から特定部位50の3次元位置を取得する必要はない。
【0067】
特定部位50が照射位置に含まれる場合、制御部4は、ステップS8において、粒子線照射装置110にトリガー信号を出力する。特定部位50が照射位置からずれている場合、制御部4は、トリガー信号を出力せずに、ステップS9に処理を進める。
【0068】
ステップS9において、制御部4が、粒子線治療を終了するか否かを判断する。粒子線治療が継続して行われる場合、ステップS4~S8の各処理が繰り返し実行される。今回の粒子線治療が完了した場合には、検出処理および粒子線治療に関する制御が終了する。
【0069】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0070】
第1実施形態では、上記のように、テンプレート画像40および画像生成部11により生成されたX線画像30の各々に対する記憶部5bに記憶された主成分Vjの寄与率(cj、cwj)を取得し、取得した各々の寄与率(cj、cwj)を用いたマッチングにより、X線画像30中から特定部位50の位置を検出する位置検出部12を設ける。これにより、テンプレート画像40から取得した主成分Vjの、テンプレート画像40およびX線画像30の各々に対する寄与率(cj、cwj)を用いて特定部位50の検出を行うことができる。この場合、画像生成部11により新たに生成されたX線画像30に対して主成分分析を行うのではなく、予め用意されたテンプレート画像40に対する主成分分析の結果(主成分Vj)を用いてX線画像30に対する寄与率cwjを取得すればよい(射影ベクトルの大きさを求めるだけでよい)ので、迅速な検出処理が可能である。そして、画像生成部11により生成されたX線画像30(ノイズを含む画像)をそのまま用いるのではなく、テンプレート画像40の主成分Vjを尺度とする寄与率cjを用いることにより、元のX線画像30に含まれるノイズの影響を抑制してマッチングを行うことができる。その結果、X線画像30にノイズが含まれる場合でも、ノイズの影響を抑制しつつ特定部位50の検出を迅速に行うことができる。
【0071】
また、第1実施形態では、上記のように、位置検出部12を、複数のテンプレート画像40に対する主成分Vjの寄与率cjの平均値(平均寄与率ベクトルUa)と、X線画像30に対する主成分Vjの寄与率cwj(寄与率ベクトルW)との差(自乗誤差D2)に基づいて、特定部位50の位置を検出するように構成する。これにより、各テンプレート画像40(の平均画像)とX線画像30との寄与率(cj、cwj)の差(自乗誤差D2)により、主成分Vjを尺度とした場合の、各テンプレート画像40に共通する要素(平均画像)からのX線画像30の相違度が得られるので、この相違度が小さくなることに基づいて特定部位50を精度よく検出することができる。また、画像同士のテンプレートマッチングを行う場合と異なり、寄与率(cj、cwj)同士のマッチング(自乗誤差D2の算出)を行うだけで特定部位50を検出することができるので、計算量を抑制して高速な検出が可能となる。
【0072】
たとえば、m×n画素のテンプレート画像40とX線画像30との画像同士のマッチングと、第N主成分までを用いたN次元の平均寄与率ベクトルUaと寄与率ベクトルWとの寄与率同士のマッチングとを比較すると、画像同士のマッチングでは、画素毎にm×n回の自乗誤差D2の算出を行うのに対して、寄与率同士のマッチングでは、たかだかN回の自乗誤差D2の算出を行うだけで、マッチングを行うことが可能となる。このため、計算量を大幅に抑制することが可能となる。
【0073】
また、第1実施形態では、上記のように、記憶部5bに記憶された第1主成分V1から第N主成分VN(Nは2以上100以下の整数)までを用いてマッチングを行うように位置検出部12を構成する。これにより、最大で第100主成分までの、たかだかN個の主成分を用いればよいので、特定部位50の検出を迅速に行うことができる。また、上位N番目までの主成分に、ノイズ成分を排除しつつ、特定部位50を精度よく検出するのに必要な情報量を含めることができるので、必要十分な精度で、迅速な検出処理を行うことができる。
【0074】
また、第1実施形態では、上記のように、粒子線治療に伴って発生する2次粒子線の写り込みがないテンプレート画像40から取得された主成分Vjを用いて寄与率cjを取得し、粒子線治療中において画像生成部11により順次生成されるX線画像30の各々から特定部位50を検出し、特定部位50の移動を追跡するように位置検出部12を構成する。2次粒子線の写り込みがないテンプレート画像40から取得された主成分Vjを用いることによって、2次粒子線(ノイズ)が写り込んだX線画像30から2次粒子線の影響を効果的に除去することができる。その結果、特定部位50の検出における2次粒子線(ノイズ)の影響を効果的に抑制することができる。
【0075】
また、第1実施形態では、上記のように、画像生成部11により生成されたX線画像30に設定した検出窓30a内の画像部分についての寄与率cwjを求め、検出窓30aを移動させて寄与率cwjを用いたマッチングを順次行うことにより、X線画像30中から特定部位50を検出するように、位置検出部12を構成する。これにより、粒子線治療の場合、治療計画データ22によって、X線画像30中で特定部位50が存在する領域が把握されるため、検出窓30aによる探索範囲を絞り込むことができる。その結果、X線画像30の全体についてマッチング処理を行う必要がなくなるので、さらに迅速な検出処理を行うことができる。
【0076】
[第2実施形態]
次に、図8を参照して、本発明の第2実施形態による放射線撮影装置について説明する。第2実施形態では、テンプレート画像40およびX線画像30に対する主成分の寄与率についてマッチングを行う例を示した上記第1実施形態とは異なり、主成分と寄与率とを用いて画像を再構成し、画像同士のマッチングを行う例について説明する。なお、第2実施形態では、位置検出部によるマッチング処理の内容のみが上記第1実施形態と異なるため、マッチング処理以外については説明を省略する。
【0077】
図8に示すように、位置検出部12a(図1参照)は、テンプレート画像40に対する寄与率cjと主成分Vjとにより作成したテンプレート画像40の主成分画像41と、X線画像30に対する寄与率cjと主成分VjとによりX線画像30を変換した変換画像31とのマッチングにより、特定部位50の位置を検出するように構成されている。すなわち、第2実施形態では、位置検出部12aは、テンプレート画像40およびX線画像30の各々に対して寄与率(cj、cwj)を各主成分Vjに乗じることにより、上式(2)に示した各射影ベクトル(cjj)を用いて画像を再構成する。
【0078】
まず、位置検出部12aは、各テンプレート画像40について射影行列Qを乗じることにより取得したN次元の寄与率ベクトルUkを取得し、各主成分Vjに寄与率ckjを乗じることにより、各テンプレート画像40の主成分画像41(射影ベクトル)を作成する。第2実施形態では、位置検出部12aは、作成した各主成分画像41の平均をとることにより、主成分画像41の平均画像42を作成する。つまり、位置検出部12aは、各テンプレート画像40に対して第1主成分から第N主成分までを用いて特徴抽出を行った主成分画像41を平均して、第1主成分から第N主成分までを考慮した平均画像42(平均画像ベクトルH)を算出し、記憶部5bに記憶する。
【0079】
特定部位50の検出時には、位置検出部12aは、画像生成部11により生成されたX線画像30についても、射影行列Qを乗じることにより寄与率ベクトルWを取得し、各主成分Vjに寄与率cwjを乗じることにより、主成分による変換画像31を作成する。すなわち、変換画像31は、X線画像30を第1主成分から第N主成分により射影した射影画像32(射影画像ベクトルI)である。
【0080】
位置検出部12aは、複数(k枚)の主成分画像41の平均画像42と、X線画像30の射影画像32との差に基づいて、特定部位50の位置を検出するように構成されている。たとえば、位置検出部12aは、下式(5)により、平均画像42と射影画像32との自乗誤差D2を求める。
【数5】
ここで、Hは平均画像42のベクトル、Iは射影画像32のベクトルである。
【0081】
このようにして、位置検出部12aは、X線画像30中から特定部位50の位置を検出する。第2実施形態では、記憶部5bが記憶する主成分分析データ23は、主成分分析によって取得された各主成分Vj、射影行列Q、各寄与率cj、主成分画像41および平均画像42を含む。
【0082】
この第2実施形態の場合、図7のステップS5では、位置検出部12aが、X線画像30中の検出窓30a内の画像部分についての寄与率(寄与率ベクトルW)を取得して、寄与率cwjと主成分Vjとにより射影画像32を再構成する。そして、位置検出部12aは、平均画像42と射影画像32とのマッチングを行う。上記の通り、位置検出部12aは、検出窓30aを移動させて、X線画像30中の各位置における射影画像32の作成と自乗誤差D2の算出とを繰り返し行うことにより、X線画像30中から特定部位50の位置を検出する。
【0083】
第2実施形態のその他の構成は上記第1実施形態と同様である。
【0084】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態でも、上記第1実施形態と同様に、テンプレート画像40およびX線画像30の各々に対する主成分Vjの寄与率(cj、cwj)を取得し、取得した各々の寄与率(cj、cwj)を用いたマッチングにより、X線画像30中から特定部位50の位置を検出する位置検出部12aを設ける。テンプレート画像40の主成分Vjを尺度とする寄与率cjを用いることにより、X線画像30にノイズが含まれる場合でも、ノイズの影響を抑制しつつ特定部位50の検出を迅速に行うことができる。
【0085】
また、第2実施形態では、上記のように、位置検出部12aを、テンプレート画像40に対する寄与率ckjと主成分Vjとにより作成したテンプレート画像40の主成分画像41(平均画像42)と、X線画像30に対する寄与率cwjと主成分VjとによりX線画像30を変換した変換画像31(射影画像32)とのマッチングにより、特定部位50の位置を検出するように構成する。これにより、取得した寄与率(ckj、cwj)と主成分Vjとを用いて主成分画像41(平均画像42)と変換画像31(射影画像32)とを再構成することによって、画像同士のマッチングを行うことができる。この場合でも、テンプレート画像40の主成分Vjによって変換した主成分画像41(平均画像42)と変換画像31(射影画像32)とを用いることにより、元のX線画像30に含まれるノイズの影響を抑制してマッチングを行うことができる。
【0086】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0087】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、位置検出部12(12a)が、動画像の形式のX線画像30について、フレーム毎に特定部位の検出を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、動画像でフレームレートが大きい場合などには、フレーム毎ではなく、複数フレームに対して1回の割合で特定部位の検出を行ってもよい。また、動画像ではなく、静止画像に対して検出処理を行ってもよい。なお、本発明は、撮像される放射線画像に対する主成分分析を行わずに、主成分Vjの寄与率(cj、cwj)を用いて迅速に特定部位を検出できるため、動画像を扱う用途や、リアルタイムの検出処理が要求される治療中に利用される用途など、迅速な検出処理が必要とされる用途に向けた放射線撮影装置に、好適に適用できる。
【0088】
また、上記第1および第2実施形態では、放射線撮影装置の一例として、X線を用いてX線画像を撮影するX線撮影装置に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明は、X線以外の放射線を用いて撮影を行う装置に適用してもよい。
【0089】
また、上記第1および第2実施形態では、粒子線治療における特定部位50の追跡を行う放射線撮影装置の例を示したが、本発明はこれに限られない。粒子線治療における特定部位50の追跡以外の用途に本発明の放射線撮影装置を適用してもよい。本発明では、ノイズを含んだ放射線画像から特定部位を検出する放射線撮影装置であれば、どのような用途に適用されてもよい。本発明は、2次粒子線のように、一般的なフィルタ処理などでは除去し難いノイズを含んだ放射線画像から特定部位を検出する放射線撮影装置に好適に適用できる。
【0090】
また、上記第1および第2実施形態では、被検体Tの特定部位50として、腫瘍を検出する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、マーカーを用いて腫瘍の位置を追跡する場合に、被検体Tの特定部位50としてのマーカーを検出してもよい。
【0091】
また、上記第1実施形態では、複数(k枚)のテンプレート画像40の各々について、テンプレート画像40に対する各主成分Vjの寄与率cjが並んだN次元の寄与率ベクトルUkを作成し、各テンプレート画像40の寄与率ベクトルUkの平均をとることにより、平均寄与率ベクトルUaを作成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば各テンプレート画像40の平均画像42に対する各主成分Vjの寄与率cjが並んだN次元の寄与率ベクトルを作成し、この各テンプレート画像40の平均画像42に対する寄与率ベクトルと、X線画像30の寄与率ベクトルWとのマッチング(自乗誤差D2の算出)を行ってもよい。
【0092】
また、上記第1および第2実施形態では、説明の便宜上、画像処理部の処理を、処理フローに沿って順番に処理を行うフロー駆動型のフローを用いて説明したが、本発明はこれに限られない。本発明では、画像処理部の処理を、イベント単位で処理を実行するイベント駆動型(イベントドリブン型)の処理により行ってもよい。この場合、完全なイベント駆動型で行ってもよいし、イベント駆動およびフロー駆動を組み合わせて行ってもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 照射部
2 X線検出部(放射線検出部)
5b 記憶部
11 画像生成部
12、12a 位置検出部
30 X線画像(放射線画像)
31 変換画像
40 テンプレート画像
41 主成分画像
50 特定部位
100 放射線撮影装置
c(cj、ckj、caj、cwj) 寄与率
V(Vj) 主成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8