(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】抗菌性、消臭性、及び自己洗浄性を有する洗浄剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/053 20060101AFI20220203BHJP
A01N 25/04 20060101ALI20220203BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220203BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20220203BHJP
C11D 7/20 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C01G23/053
A01N25/04 102
A01N59/16 Z
A01P3/00
C11D7/20
(21)【出願番号】P 2017185258
(22)【出願日】2017-09-26
【審査請求日】2020-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】509154615
【氏名又は名称】山川 通子
(73)【特許権者】
【識別番号】517339109
【氏名又は名称】日本緑州株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159547
【氏名又は名称】鶴谷 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091672
【氏名又は名称】岡本 啓三
(72)【発明者】
【氏名】山川 通子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 光一
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-338417(JP,A)
【文献】特開2007-161977(JP,A)
【文献】特開2016-074851(JP,A)
【文献】特開2004-350834(JP,A)
【文献】特開2002-326910(JP,A)
【文献】特開2003-176223(JP,A)
【文献】特開2013-203781(JP,A)
【文献】特開2009-291760(JP,A)
【文献】特開2002-038054(JP,A)
【文献】米国特許第04923682(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/053
A01N 25/04
A01N 59/16
A01P 3/00
C11D 7/20
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが11~14の強アルカリ
性電解水中において、
チタンアルコキシドを加水分解、重縮合反応によってアナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成することを特徴とするアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液の製造方法。
【請求項2】
pHが11~14の強アルカリ
性電解水中において、四塩化チタンを加水分解、重縮合反応によってアナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成することを特徴とするアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液の製造方法。
【請求項3】
pHが11~14の強アルカリ
性電解水中において、
チタンアルコキシドを加水分解、重縮合反応によってアナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成する第1の工程と、
前記第1の工程で生成した前記アナターゼ型二酸化チタン微粒子の分散液の溶媒を90%以上除去する第2の工程と、
前記第2の工程で得られた分散液を前記強アルカリ性電解水で希釈する第3の工程と、
からなることを特徴とする洗浄剤の製造方法。
【請求項4】
pHが11~14の強アルカリ
性電解水中において、
四塩化チタンを加水分解、重縮合反応によってアナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成する第1の工程と、
前記第1の工程で生成した前記アナターゼ型二酸化チタン微粒子の分散液の溶媒を90%以上除去する第2の工程と、
前記第2の工程で得られた分散液を前記強アルカリ性電解水で希釈する第3の工程と、
から成ることを特徴とする洗浄剤の製造方法。
【請求項5】
前記強アルカリ性電解水が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、又は、オルト珪酸ナトリウムから選択された少なくとも一種を電解質とする電解水の電気分解によって生成された強アルカリ性電解水であることを特徴とする請求項
1又は
2に記載のアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記強アルカリ性電解水が、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、又は、オルト珪酸ナトリウムから選択された少なくとも一種を電解質とする電解水の電気分解によって生成された強アルカリ性電解水であることを特徴とする請求項
3又は
4に記載の洗浄剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造業、建設業、情報通信業、サービス業、及び、その他生活関連業等、あらゆる産業分野における、製造機械、中間製品、製品等から汚染を除去するために用いられる洗浄剤に関する。機能的には、優れた洗浄力を有し、殺菌・滅菌・消毒・消臭効果を備えた安全性の高い洗浄剤であって、その洗浄剤で洗浄された被洗浄物に抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄効果を付与することができる洗浄剤に関する。
【0002】
生活・文化用品、食料品、情報通信機器、電気・電子機器、医療機器、建材等、日常生活における洗浄は、洗浄剤として石鹸や洗剤に代表される界面活性剤を用い、その乳化作用により油脂等の汚れを取り除くことが一般的で、汚れを取り除くことに主眼が置かれてきた。
【0003】
ところが、人間は、物質的に豊かな生活を享受すると、心身共に快適で洗練された生活環境や安心して美味しく食べることができる食生活に高い関心を抱くようになり、身辺に対する清潔志向が高まってきた(非特許文献1)。
【0004】
そのため、日常生活における洗浄で使用する洗浄剤に対し、油脂、粉塵等の汚れを単に除去することができる洗浄力だけでなく、除菌、滅菌、殺菌、消毒、消臭等の効果がある清潔性、並びに、無色、無臭で、有害な化学物質を含まない安全性が要求されてきた(非特許文献2)。これらの要求を物語るように、日常生活でよく利用される一般的な洗剤等でも、除菌、消毒等の表示がされた洗剤等が数多く出回っている。これらの成分表示によれば、消毒液としてよく使用されてきたアルコールや第4級アンモニウム塩等を界面活性剤水溶液に添加されているものが多い。また、生分解性及び安全性の観点も加味し、植物油、香辛料抽出物、ハーブ類等の天然系抗菌剤が利用される場合も増加してきた(非特許文献3)。調理場等のような、特に、殺菌、除菌、消毒が求められるところでは、アルコール、第4級アンモニウム塩(界面活性剤を含む)等に加え、次亜塩素酸ソーダ、過酸化水素、水酸化ナトリウム等が利用されている(非特許文献4)。
【0005】
一方、機械、金属、電子機器、輸送機器等の分野の製造業においては、それぞれの生産工程に特有な汚れがあり、製品の品質向上及び生産工程削減等を目的とした様々な洗浄剤を用いた様々な洗浄方法が行われている(非特許文献5)。特に、洗浄剤としては、界面活性剤を用いた水系洗浄剤が約25%、並びに、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、及び、塩素系溶剤を中心とした溶剤系洗浄剤が約70%を占めているが、社会的な環境問題に対処するため、優れた洗浄力を有する洗浄剤が、法規制により使用の禁止及び制限を受けつつあり、洗浄の目的を達成し、環境及び人体に悪影響を及ぼさない洗浄剤が求められている(非特許文献7)。
【0006】
以上のような状況において、生活・文化、食品、医療等の分野の洗浄においても、機械、金属、電子機器、輸送機器等の分野の洗浄においても、機能水の一つであり、基礎的な解明が最も進んでいる電解水が注目を浴びている(非特許文献6~9)。電解水は、水道水や塩化物イオンを含む水溶液の電気分解によって得られる水溶液の総称であり、陽極側に生成するpHが6.5以下の酸性電解水と、陰極側に生成するpHが7.5以上のアルカリ性電解水とに大別される(非特許文献6)。
【0007】
特に、陽極と陰極が隔膜で仕切られた電解槽において、希薄な塩化ナトリウム(NaCl)水溶液の電気分解により陽極で生成される酸性電解水は、化学物質を含んでいない安全性と環境調和性を有しており、強力な殺菌力を発揮し、食品添加物に認められていることから、電解水の利用を促進した端緒であると考えられる(非特許文献7)。
【0008】
一方、陽極と陰極が隔膜で仕切られていない電解槽において、希薄なNaCl水溶液の電気分解により生成されるアルカリ性電解水は、最初に食品分野で利用され、食品添加物として認可された電解水であり、飲用水として利用されてきた。しかし、近年では、陽極と陰極が隔膜で仕切られた電解槽において、炭酸カリウム(K2CO3)等の水溶液の電気分解により陰極で生成されるアルカリ性電解水の強力な洗浄力に着目され、新しい洗浄剤として期待され、その洗浄機構についても議論されている(非特許文献8及び9)。
【0009】
アルカリ性電解水の最大の魅力は、界面活性剤等の有機化学物質を含まず、純度の高い水で、環境にも人体にも無害、無刺激であり、無色、無臭であるにもかかわらず、高いアルカリ性を示し、優れた洗浄力に加え、優れた殺菌、滅菌、除菌、消毒、消臭等の効果を有することである。この優れた洗浄力の源が、油脂等の汚れに関しては、ヒドロキシイオン(OH-)と水(H2O)とが会合したクラスターの汚れに対する乳化作用、或いは、OH-の油脂に対する加水分解(鹸化)作用であるといわれ、無機物や金属酸化物等の微粒子等の汚れに関しては、アルカリ性電解水中で負の電荷をもつ微粒子と被洗浄物間に生起する反発作用であるといわれている。また、アルカリ性電解水に生成される微小な水素の気泡がこれらの汚れを包み込み浮上させる効果があるともいわれている。
【0010】
更に、アルカリ性電解水は、塩素イオン(Cl-)を有しておらず、酸化還元電位を有する還元性の水であるため、金属の洗浄において錆を発生させる心配がなく、この点は、金属、電子機器、輸送機器等の分野の洗浄において特に重要な特徴である。そして、界面活性剤を使用していないため、泡の発生がなく、濯ぎがいらず、節水効果がある上、界面活性剤、すなわち、有機化学物質が残存する心配もない。
【0011】
このように、アルカリ性電解水による洗浄を行えば、被洗浄物表面は、殺菌、滅菌、除菌、消毒、消臭等が施され、清浄な表面を得ることができるが、アルカリ性電解水は分解して水になるだけであるため、殺菌、滅菌、除菌、消毒、消臭等の効能を維持することはできない。また、そのまま放置しておくと、短時間のうちに、汚れが付着してしまうという問題もある。
【0012】
このような問題に対する解決手段として、抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄性等の特性を有する物質を固定化する技術が検討されてきた。例えば、抗菌性を有する第4級アンモニウム塩を洗浄後に被洗浄物に化学的に固定して効果を持続させる技術(特許文献1及び非特許文献10)、化粧品等に抗酸化性や抗菌性等を付与して、その効果を持続させるための物質として白金ナノ粒子を用いる技術(特許文献2及び3)、又、布に抗菌性を有する酸化チタン粒子を固定させるため、pH=3以下の強酸性電解水又はpH=10以上の強アルカリ性電解水に酸化チタン粒子を分散させた塗工液を適用する技術(特許文献4)等を挙げることができる。
【0013】
そこで、抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄効果を有するアナターゼ型二酸化チタン微粒子(非特許文献11)を、強アルカリ電解水に分散させることによって、アルカリ性電解水の優れた洗浄力に加え、殺菌・滅菌・消毒・消臭効果を備え、高い安全性等その他アルカリ性電解水の洗剤としての優れた特徴を全て有しており、その洗浄剤で洗浄された被洗浄物に抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄効果を付与することができる新たな洗浄剤の開発に着手した。
【0014】
二酸化チタン微粒子は、一般的に、(1)硫酸チタニル、硫酸チタンなどの含チタン溶液を加水分解させる方法、(2)チタンアルコキシドなどの有機チタン化合物を加水分解させる方法、(3)三塩化チタンあるいは四塩化チタンなどのハロゲン化チタン水溶液を中和又は加水分解させる方法、(4)四塩化チタンを気相中で酸素と接触させ酸化させる気相法、(5)燃焼して水を生成する水素ガス等の可燃性ガスと酸素を燃焼バーナーに供給し火炎を形成し、この中に四塩化チタンを導入する火炎加水分解法等の方法で製造されており、ナノサイズの微粉末及びゾルを容易に手に入れることが可能である(特許文献5及び非特許文献12~14)。乾式法の方が、低コストで高純度の二酸化チタンを製造し易いと言われているが、ルチル化率が高く、水に対する分散性が悪い。これは、微粉末に共通して言えることで、そのままアルカリ性電解水に分散することが困難であり、多量の分散剤を使用する必要なため、二酸化チタンの機能を低下させる要因となる(特許文献3)。また、二酸化チタン微粉末が分散されたゾルが製造されているが、反応機構上酸性ゾルである場合が多く、アルカリ性電解水にはそのまま使用できないという問題がある(特許文献6)。また、中性ゾルであっても、多量の分散剤が含まれており、二酸化チタンの機能を低下させる要因となる(特許文献3)。特に、有機系の多量の分散剤の導入は、有機化学物質を含まない洗浄剤としてアルカリ性電解水が求められていることと矛盾している。
【0015】
従って、現状のアナターゼ型二酸化チタン微粒子をアルカリ性電解水に分散させて洗浄剤を製造することは困難を伴うため、湿式法で製造したアナターゼ型二酸化チタン微粒子の分散体をそのまま利用する方が容易ではないかと考えられる。
【0016】
そのため、湿式法によるアナターゼ型酸化チタン微粒子の製造方法の改良技術を調査した。しかし、例えば、特許文献7に記載されているように、チタンアルコキシド等の加水分解によるアナターゼ型二酸化チタン微粒子の製造には、反応で生成する不純物を除去することが困難で、酸性の有機酸等の多量の分散剤を必要とし、有機溶媒に対する分散性に優れる場合が多い。また、例えば、特許文献8に記載されているように、三塩化チタンの酸化還元反応による酸化チタンの製造では、150~250℃の熱処理が必要である。更に、特許文献9に記載されているように、四塩化チタンの加水分解による酸化チタンの製造では、高温を必要としないが、十分に制御された温度管理が必要である上、アナターゼ型酸化チタンとするためには生成する二酸化チタンから塩酸を分離する必要がある。これは、四塩化チタンの加水分解で生成する水酸化チタンの重縮合反応初期に生成するアナターゼ型酸化チタンが、四塩化チタンの加水分解で生成する塩酸によりルチル型に変化していくことを抑制するためである。最後に、特許文献6には、酸性ゾルではなくアルカリ性ゾルの製造方法が記載されているが、糖類の多量の分散剤を必要としている。このように、酸化チタン微粒子をアルカリ性電解水に分散させて新たな洗浄剤を開発するには数多くの課題を解決する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2004-209241号公報
【文献】特開2011-195931号公報
【文献】特開2002-338417号公報
【文献】特開2002-338417号公報
【文献】特開2001-220141号公報
【文献】特開2014-065632号公報
【文献】特開2007-217268号公報
【文献】特開2007-230809号公報
【文献】再表2012-017752号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】檜山圭一郎,「プラスチック製品の抗菌加工」,繊維製品消費科学会誌,Vol.40,No.9,576-584(1999).
【文献】登坂正樹,「洗剤の『除菌』表示と消費者意識(2)台所用・住居用洗剤の除菌標記について」,日本石鹸洗剤工業会洗浄剤部会,2006年11月21日開催,日本石鹸洗剤工業会ホームページ(http://jsda.org/w/01_katud/a_seminar061121_2.html.)
【文献】井原望,濱田信夫,「天然系抗菌・防カビ剤の利用の現状と将来」,生活衛生,Vol.54.,No.4,304-311(2010).
【文献】文部科学省,「調理場における洗浄・消毒マニュアルPart1」,文部科学省ホームページ(http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/1266268.)
【文献】みずほ情報総研株式会社,「平成20年度経済産業省委託調査報告書,「平成20年度化学物質安全確保・国際規制対策等(工業用洗浄剤の実態調査)調査報告書」,平成21年3月,経済産業省ホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/other/itaku/pdf/h20/houkukokusho_senzai_h20.pdf.)
【文献】「機能水とは」,一般財団法人機能水研究振興財団ホームページ(http://www.fwf.or.jp/index.html.)
【文献】岩本睦夫,「話題の機能水の現状と課題」,日本調理科学会誌,Vol.33,No.4,503-509(2000).
【文献】峠有利子,「アルカリ電解水の特性とその製法」,防錆管理,2009-12,468-475(2009).
【文献】竹ノ内敏一,田中博志,若林信一,「アルカリ性電解水による金属表面の洗浄」,表面技術,Vol.54,No.11,818-822(2003).
【文献】二川浩樹,「材料表面の抗菌防臭加工処理剤-洗剤・洗浄剤としての応用-固定化抗菌剤を利用した洗剤(https://shingi.jst.go.jp/past_abst/p/07/09/cicA05.pdf.)
【文献】経済産業省産業技術環境局技術調査室,技術調査レポート(技術動向編),第2号、「酸化チタン光触媒に関する産業の現状と課題」,平成14年5月31日,経済産業省ホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/tech_research/report/vol2-color.pdf.)
【文献】石原産業株式会社,光触媒酸化チタン,石原産業株式会社ホームページ(https://iskweb.co.jp/products/functional05.html.)
【文献】堺化学工業株式会社,酸化チタン,堺化学工業ホームページ(http://www.sakai-chem.co.jp/jp/products/product_01_04.html.)
【文献】多木化学株式会社,多木化学超微粒子酸化物ゾル一覧,多木化学株式会社ホームページ(http://www.takichem.co.jp/rd/pdf/sol_list.pdf.)
【文献】土屋敏雄,西尾圭史,「ゾル・ゲル法によるセラミックスの合成“有機-無機ハイブリッドイオン電導材料”」,国立大学法人東京工業大学附属科学技術高等学校ホームページ(http://www.hst.titech.ac.jp/meb/Ceramics/hybrid/hybrid.htm.)
【文献】松本太輝,「次元制御ゾル-ゲル法による酸化チタン合成と光触媒への展開」,第4回マツモト技術講演会,2013年5月24日(http://www.m-chem.co.jp/documents/pdf/20130614_02.pdf.)
【文献】飯田武揚,山岡一彦,野尻成治,野崎弘,「四塩化チタンの加水分解による酸化チタンの結晶生成過程とその物性」,工業化学雑誌,第69巻,第11号,2087-2095(1966).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、製造業、建設業、情報通信業、サービス業、及び、その他生活関連業等、あらゆる産業分野における、製造機械、中間製品、製品等から汚染を除去する優れた洗浄力と、殺菌・滅菌・消毒・消臭機能を備えた安全性の高い洗浄剤であって、その洗浄剤で洗浄された被洗浄物表面に抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄機能を付与することができる洗浄剤を提供することを目的とする。また、このような洗浄剤に適した原料の製造方法及びその原料を用いた洗浄剤の製造方法を提供することを目的とする。
【0020】
更に具体的には、本発明は、強アルカリ性電解水による優れた洗浄力と、純度99.9%の水であるという高い安全性と、濯ぎが不要な節水効果とを有する、腐食性がない洗浄剤を提供することを目的とするものであって、その洗浄剤で洗浄された被洗浄物表面に、アナターゼ型二酸化チタンによる、抗菌性及び親水性と共に、汚れ等の化学物質を分解する自己洗浄機能を付与することが可能な洗浄剤を提供することを目的とする。また、このような洗浄剤に適したアナターゼ型二酸化チタンの製造方法及びそのアナターゼ型二酸化チタンを用いた洗浄剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、市販されているアナターゼ型二酸化チタン微粒子の粉末が、pH=11~14の強アルカリ性電解水には、一般的な方法で分散させることによって、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が均一に分散し、この粒子の沈降もない、アナターゼ型二酸化チタン微粒子を含有する強アルカリ性電解水が得られることを見出した。また、これを洗浄剤として使用することによって、優れた洗浄力と、殺菌・滅菌・消毒・消臭機能を備え、被洗浄物表面に抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄機能を付与することができることも見出した。更に、強アルカリ性電解水中で、チタンアルコキシド又は四塩化チタンの加水分解、重縮合反応によって、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が生成し、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が強アルカリ性電解水に分散した洗浄剤を容易に製造できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0022】
すなわち、本発明は、pHが11~14の強アルカリ性電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子が分散されていることを特徴とする洗浄剤である。特に、アナターゼ型二酸化チタン微粒子の強アルカリ電解水中への分散安定性という観点から、pHが12~14の強アルカリ電解水であることがより好ましい。
【0023】
ここで使用することができる強アルカリ性電解水は、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、メタ珪酸ナトリウム(Na2SiO3)、又は、オルト珪酸ナトリウム(Na4SiO4)から選択された少なくとも一種を電解質とする電解水の電気分解によって生成された強アルカリ性電解水であることが好ましく、K2CO3を電解質とする電解水の電気分解によって生成された強アルカリ性電解水であることがより好ましいが、水道水を用いることも可能である。電解質を用いる場合の電解水の濃度は、電解水の純度という観点から、0.05wt%以下であることが好ましく、0.02wt%以下であることがより好ましい。
【0024】
強アルカリ性電解水の製造装置は、
図1の代表的な電解水生成装置の模式図に示すように、電解槽に陽極と陰極を配備した1室型電解水生成装置(a)、電解槽が陽イオン交換膜で二つの電解室に区画され、一方の電解室に陽極、他方の電解室に陰極を配備した2室型電解水生成装置(b)、電解槽が陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とで3つの電解室に区画され、陰イオン交換膜で仕切られた電解室に陽極を、陽イオン交換膜で仕切られた電解室に陰極を配備し、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜とで仕切られた中間室に電解水を導入する3室型電解水生成装置(c)のいずれも用いることができるが、2室型又は3室型電解水生成装置、及び、これらを改良してアルカリ性電解水だけを取り出すことができるようにした電解水生成装置が好ましく用いられる。また、一室型電解水生成装置の場合、特殊なイオン吸着電極を用い、電極を交互に入れ替え、イオン吸着電極を陽極とした場合に強アルカリ性電解水が、イオン吸着電極を陰極とした場合に強酸性電解水が製造されるものである。そして、このような電解水製造装置は、例えば、(株)アルテック製アルトロンシリーズ、(株)エナジック製レベラックシリーズ、興研(株)製オキシライザ オーシャンCL、(株)テックコーポレーション製ESSシリーズ、ホシザキ(株)製ROXシリーズ、(株)東芝製EWMシリーズ、(株)Eプラン製UNIFLOW UF-15α、(株)ガイア製Win-G(登録商標)、アマノメンテナンスエンジニアリング(株)製α-Light、α-2000N、ラボII、Σ3000N、及び、σ1000K、日新精機(株)製NEWS、三浦電子(株)製OXILYZER(登録商標)、(有)ターナープロセス製AWシリーズ、(株)ウォーターデザイン研究所製アルトロンND-1000型及びレドックスR25-15型等として市販されており、使用することができる。
【0025】
アナターゼ型二酸化チタン微粒子は、市販されている一般的なものを使用することができ、その製造方法によって限定されるものではない。しかし、水やアルコール等の分散体は、有機酸や有機アミン等の分散剤が多量に使用されており、粉末であるものが好ましく、特に、有機物質による表面改質が施されていないものが好ましい。二酸化チタン微粒子の表面積が大きい程光触媒としての機能が向上するため、粒子径は小さい程好ましいが、光触媒としての機能を発現するための大きさを必要とするので、電子顕微鏡観察法による粒子径で500nm以下であればよいが、X線小角散乱法による粒子径で、5~200nmであることがより好ましく、5~20nmであることがより更に好ましい。例えば、堺化学工業(株)製SSPシリーズ及びSTAシリーズ、石原産業(株)製STシリーズ等を挙げることができる。
【0026】
このような粉末は、水やアルコール等の溶媒に一般的な方法で分散させることが困難であるため、従来は、上述したような分散剤が多量に使用されてきた。しかしながら、pHが11~14、より好ましくは、pHが12~14の強アルカリ電解水中では、容易に分散し、分散安定性に優れていることを見出した。この要因は定かではないが、例えば、非特許文献8及び特許文献4等から、アルカリ電解水は、負の酸化還元電位を有し、アルカリ電解水中では、金属酸化物微粒子が負に帯電することが知られており、pH11、より好ましくは、pH12を超えると、その効果が更に加速すると共に、アルカリ電解水中に数多く存在するOH-の影響もうけ、金属酸化物微粒子間の電気的反発力が予想以上に大きくなり、分散が容易に行えたものと推測されるが、従来、その効果は認められていなかった。
【0027】
ところで、分散方法は、最も簡単なものでは、例えば、ホモジナイザーやヘンシェルミキサー等の容器に撹拌翼を備えた撹拌槽を使用する方法を用いることが可能であるが、分散力の分布が大きいため、次の様なせん断力が凝集した粉末に加わる分散機を用いて分散することが好ましい。例えば、高速の回転翼と外筒との狭い間隙へ凝集粒子を通すことにより分散する高速回転せん断型撹拌機、分散する処理液を高圧噴射し、固定板もしくは処理液同士に衝突させることにより分散する高圧噴射式分散機、超音波振動やキャビテーション等により分散する超音波分散機、回転容器内等に挿入された媒体(ボールなど)の衝突、摩擦により分散する容器駆動型ミル(回転ミル、振動ミル、遊星ミル等)、媒体であるボールやビーズを使用し、媒体の衝撃力とせん断力により分散する媒体撹拌ミル(アトライター、ビーズミル(サンドミル)を挙げることができる。
【0028】
このように、pHが11~14の強アルカリ性電解水の特異性を利用して、強アルカリ性電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子が分散されており、優れた洗浄力と、殺菌・滅菌・消毒・消臭機能を備え、被洗浄物表面に抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄機能を付与することができる洗浄剤が、一般的な原材料及び分散方法を用いて製造することができるが、更に、本発明者らは、pHが11~14の強アルカリ電解水には、チタンアルコキシド又は四塩化チタンの加水分解、重縮合反応によって、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が生成し易いことを見出し、上記機能を有する洗浄剤の原料となるアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液の製造法及びpHが11~14の強アルカリ性電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子が分散されていることを特徴とする洗浄剤の製造方法を発明した。
【0029】
本発明の第一のアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液の製造方法は、pHが11~14の強アルカリ電解水中において、チタンアルコキシドを加水分解、重縮合反応によってアナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成することを特徴とするものである。
【0030】
チタンアルコキシドとしては、チタン(IV)テトラメトキシド、チタン(IV)テトラエトキシド、チタン(IV)テトラ-n-プロポキシド、チタン(IV)テトライソ-i-プロポキシド、チタン(IV)テトラ-n-ブトキシド、チタン(IV)テトラ-tert-ブトキシド、チタン(IV)テトラ(2-エチルヘキシル)オキシド等から少なくとも1種以上が選択されて用いることができる。しかし、後述するように、強アルカリ電解水中における塩基触媒反応において、3次元性が高く緻密な架橋構造の形成、アナターゼ型二酸化チタンの生成、及び、反応性のバランスという観点から、チタン(IV)テトラエトキシド、チタン(IV)テトラ-n-プロポキシド、チタン(IV)テトライソ-i-プロポキシド、チタン(IV)テトラ-n-ブトキシド、チタン(IV)テトラ-tert-ブトキシド、及び、チタン(IV)テトラ(2-エチルヘキシル)オキシドが好ましく、チタン(IV)テトラ-n-プロポキシド、チタン(IV)テトライソ-i-プロポキシド、チタン(IV)テトラ-n-ブトキシド、チタン(IV)テトラ-tert-ブトキシド、及び、チタン(IV)テトラ(2-エチルヘキシル)オキシドがより更に好ましい。
【0031】
強アルカリ電解水は、pH=11~14であればよいが、触媒の機能として、また、粒子の分散安定性という観点からpH=12~14である方がより好ましい。製造方法は、段落0023及び0024に記載した通りである。
【0032】
そして、ホモジナイザー等の撹拌槽や超音波分散機等に投入された強アルカリ電解水を20~30℃に保ち、撹拌しながら、チタンアルコキシドを所定の速度で滴下した後、そのまま2時間撹拌を続け、更に、85~100℃で10~12時間撹拌を行うことによってアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液が製造される。チタンアルコキシドに対する強アルカリ電解水の配合比(モル比)も、3次元性が高く緻密な架橋構造の形成、アナターゼ型二酸化チタンの生成、及び、反応性のバランスという観点から、20~100であることが好ましく、30~70であることがより好ましく、40~60であることがより更に好ましい。ただし、この配合比は、強アルカリ性電解水をH2O(分子量=18)として計算したものである。
【0033】
この方法で生成したアナターゼ型二酸化チタン微粒子は、X線小角散乱法による粒子径で、5~200nmの範囲にあり、強アルカリ電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子を分散させた洗浄剤の原料として最適なものである。
【0034】
本発明のチタンアルコキシドの加水分解に引き続いて生起する重縮合反応が、pH=11~14、より好ましくは、12~14の強アルカリ性電解水中において行われると、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が生成するメカニズムは定かではないが、塩基性触媒の加水分解及び重縮合反応は、反応速度は遅いが、酸性触媒と反応機構が異なり、酸性触媒の2次元性が高く線状構造を形成し易いのに対し、3次元性が高く緻密な架橋構造を形成し易いこと(非特許文献15及び16)、並びに、豊富に存在するOH-が何らかの役割を果たしているものと考えられる。更に、85~100℃の熟成を行うことも重要な要因の一つであると推測している。
【0035】
本発明の第二のアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液の製造方法は、pHが11~14の強アルカリ電解水中において、四塩化チタンを加水分解、重縮合反応によって、アナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成することを特徴とするものであり、この場合も、強アルカリ性電解水のpHは、12~14であることがより好ましい。
【0036】
この場合も、ホモジナイザー等の撹拌槽や超音波分散機等に投入された強アルカリ電解水をおよそ0℃に保ち、撹拌しながら、四塩化チタンを所定の速度で滴下した後、そのまま2時間撹拌を続け、更に、85~100℃で10~12時間撹拌を行うことによってアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液が製造される。四塩化チタンに対する強アルカリ性電解水の配合比(モル比)は、アナターゼ型二酸化チタン微粒子の生成及び反応性のバランスという観点から、70~150であることが好ましく、80~130であることがより好ましい。この配合比も、強アルカリ性電解水をH2O(分子量=18)として計算したものである。
【0037】
この方法で生成したアナターゼ型二酸化チタン微粒子も、X線小角散乱法による粒子径で、5~200nmの範囲にあり、強アルカリ電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子を分散させた洗浄剤の原料として最適なものである。
【0038】
本発明の四塩化チタンの加水分解に引き続いて生起する重縮合反応が、pH=11~14、より好ましくは、12~14の強アルカリ性電解水中において行われると、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が生成するメカニズムは定かではないが、この場合はチタンアルコキシドの場合と異なり、次のように考えられる。この反応系は、四塩化チタンの加水分解により生成した水酸化チタンが重縮合して二酸化チタンの結晶核が析出し、それが成長して一次粒子となる。この初期の結晶がアナターゼ型で、所定の四塩化チタン濃度にあると、成長した粒子もアナターゼ型であることが知られているが、反応の進行と共に生成する塩酸(HCl)の作用によって、アナターゼ型がルチル型に変化していくことも知られている(非特許文献17及び特許文献9)。しかし、本発明のように、反応系が強アルカリ電解水であるため、このHClが中和され、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が安定して製造されるものであると考えられる。また、豊富に存在するOH-が何らかの役割を果たし、85~100℃の熟成を行うことも重要な要因の一つになっているものと推測している。
【0039】
更に、本発明は、上記二通りの方法で製造されたアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液を用い、強アルカリ性電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子が分散された洗浄剤の製造方法を提供するものである。
【0040】
すなわち、本発明の第一の洗浄剤の製造方法は、pHが11~14の強アルカリ電解水中において、チタンアルコキシドを加水分解、重縮合反応によってアナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成する第1の工程と、第1の工程で生成したアナターゼ型二酸化チタン微粒子の分散液の溶媒を90%以上除去する第2の工程と、第2の工程で得られた分散液を上記強アルカリ性電解水で希釈する第3の工程とからなることを特徴とするものである。
【0041】
本発明の第二の洗浄剤の製造方法は、pHが11~14の強アルカリ電解水中において、四塩化チタンを加水分解、重縮合反応によって、アナターゼ型二酸化チタン微粒子を生成する第1の工程と、第1の工程で生成したアナターゼ型二酸化チタン微粒子の分散液の溶媒を90%以上除去する第2の工程と、第2の工程で得られた分散液を強アルカリ性電解水で希釈する第3の工程とから成ることを特徴とするものである。
【0042】
いずれの方法も、強アルカリ電解水のpHは、12~14であり、段落0023及び0024に記載した強アルカリ電解水を用いることが好ましい。また、いずれの第3の工程における強アルカリ性電解水の希釈は、最終的な洗浄剤におけるアナターゼ型二酸化チタン微粒子が、1×10-1~5×10-6mol/Lとなるように行われることが好ましいが、1×10-1~5×10-5mol/Lであることがより好ましく、1×10-1~5×10-4であることがより更に好ましい。濃度が低すぎると、アナターゼ型二酸化チタンの光触媒機能が乏しく、濃度が高すぎると、分散安定性が低下すると共に、被洗浄物上の汚染の原因になる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の、pH11~14の強アルカリ性電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子を分散した洗浄剤は、製造業、建設業、情報通信業、サービス業、及び、その他生活関連業等、あらゆる産業分野における、製造機械、中間製品、製品等から汚染を除去する優れた洗浄力と、殺菌・滅菌・消毒・消臭機能を備えた安全性の高い洗浄剤であって、その洗浄剤で洗浄された被洗浄物表面に抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄機能を付与することができる。
【0044】
しかも、市販されているアナターゼ型二酸化チタン微粒子粉末を水又はアルコール等へ分散するには分散剤を必要とするが、本発明の洗浄剤は、市販されているアナターゼ型二酸化チタン微粒子粉末を強アルカリ性電解水に、一般的な方法でそのまま分散するだけで容易に製造できるという効果もある。従って、本発明の洗浄剤は分散剤を含まないため、洗浄後の有機系化学物質による汚染の問題がなく、被洗浄物表面に付着したアナターゼ型二酸化チタンの光触媒機能が低下することがないという効果もある。
【0045】
一方、本発明のアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液の製造方法は、チタンアルコキシドを用いる方法と四塩化チタンを用いる方法とでは、強アルカリ電解水の作用効果は異なるが、いずれについても、強アルカリ性電解水にアナターゼ型二酸化チタン微粒子を分散した洗浄剤を製造するために適したアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液であり、それに適した方法である。特に、分散剤が不要である上、アナターゼ型二酸化チタン微粒子粉末とするための乾燥、熱処理が不要で、極めて容易に製造することができるという効果がある。従って、本発明のアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液を用いた、本発明の洗浄剤の製造方法も極めて容易な製造方法を提供するものである。
【0046】
以上、本発明の洗浄剤、洗浄剤を製造するための原料の製造方法、及び、洗浄剤の製造方法は、pH=11~14の強アルカリ性電解水を使用することによってもたらされる技術であって、従来にない、新たな洗浄剤、新たな二酸化チタン微粒子の製造方法、及び、新たな洗浄剤の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】強アルカリ性電解水を製造することが可能な電解水製造装置の概念図である。
【
図2】二酸化チタン微粒子分散液の合成装置の概念図である。
【
図3】アナターゼ型二酸化チタン微粒子の自己洗浄性能評価方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を、一実施形態を用いてより詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能であり、特許請求の範囲に記載した技術思想によってのみ限定されるものである。
【0049】
≪実施例1≫
市販されているアナターゼ型二酸化チタン微粒子粉末を強アルカリ性電解水に分散させた洗浄剤は、次のようにして作製した。強アルカリ性電解水は、(株)ガイア製Win-G(登録商標)を用いて作製した、pH=13.0の強アルカリ性電解水を使用し、アナターゼ型二酸化チタン微粒子粉末は、堺化学工業(株)製のSPP-20(X線粒子径=12nm)をそのまま使用した。
【0050】
まず、ボールミルで分散させた後、更に、濃度を下げてビーズミルで分散した。ボールミルは、フリッチュ社製遊星型ボールミル・プレミアムラインP-7を用い、高硬度ステンレス製80ml容器に直径10mmのボールを25個で、強アルカリ性電解水30mlに上記二酸化チタン微粒子3.99gを分散した。これを2バッチ作製し、これらの分散液60mlに強アルカリ電解水940mlを加えて、日本コークス工業(株)製湿式アトライターS型で分散した。更に、強アルカリ電解水を1000ml加えて、日本コークス工業(株)製湿式ビーズミルSC型及びMSC型で分散して、本発明のアナターゼ型二酸化チタン微粒子が強アルカリ電解水に分散した洗浄剤を得ることができた。この分散液は透明で、マイクロトラック・ベル(株)製動的光散乱式粒子径分布測定装置NanotracWaveII-UT151を用いて粒度分布を測定した結果、カタログ値のX線粒子径に近似した平均粒子径を示した。この洗浄剤は、二酸化チタン濃度が約0.05mol/Lで、洗浄剤No.1とする。
【0051】
≪実施例2≫
チタンアルコキシドの加水分解、重縮合反応によるアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液を作製した後、分散溶媒を置換して、本発明のアナターゼ型二酸化チタン微粒子が強アルカリ電解水に分散した洗浄剤を作製した。強アルカリ性電解水は、(株)ガイア製Win-G(登録商標)を用いて作製した、pH=13.0の強アルカリ性電解水を使用し、チタンアルコキシドは、和光純薬工業(株)製チタン(IV)テトラブトキシド一級品をそのまま用いた。また、チタン(IV)テトラブトキシドの滴下速度を制御するための希釈剤として和光純薬工業(株)製n-ブタノール一級品を用いた。
【0052】
図2に示すように、マグネチックスターラー、冷却器、定量滴下ポンプを備えたフラスコ合成装置をオイルバス内に設置し、強アルカリ電解水130gを投入し、約25℃の室温に保った。チタン(IV)テトラブトキシド46.4gをn-ブタノール20gで希釈し、定量滴下ポンプを用い、1ml/minの速度で滴下した。滴下が完了した後、フラスコ合成装置を100℃にまで昇温し、12時間反応を続けた。その結果、強アルカリ電解水/n-ブタノール混合溶媒のアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液を作製することができた。アナターゼ型二酸化チタン微粒子の粒子径は、マイクロトラック・ベル(株)製動的光散乱式粒子径分布測定装置NanotracWaveII-UT151を用いて粒度分布を測定した結果、メイジアン径=32nmであった。結晶型は、上記分散液からサンプリングした電子顕微鏡観察における電子線回折によりアナターゼ型であることを確認した。
【0053】
このようにして得られた二酸化チタン微粒子分散液の混合溶媒の95%を除去し、上記強アルカリ電解水2700gを加えて、本発明のアナターゼ型二酸化チタン微粒子が強アルカリ電解水に分散した洗浄剤を得ることができた。この洗浄剤は、二酸化チタン濃度が約0.05mol/Lで、洗浄剤No.2とする。
【0054】
≪実施例3≫
四塩化チタンの加水分解、重縮合反応によるアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液を作製した後、分散溶媒を置換して、本発明のアナターゼ型二酸化チタン微粒子が強アルカリ電解水に分散した洗浄剤を作製した。強アルカリ性電解水は、(株)ガイア製Win-G(登録商標)を用いて作製した、pH=13.0の強アルカリ性電解水を使用し、四塩化チタンは、和光純薬工業(株)製四塩化チタン一級品をそのまま用いた。また、四塩化チタンの滴下速度を制御するための希釈剤として和光純薬工業(株)製n-ブタノール一級品を用いた。
【0055】
図2に示すように、マグネチックスターラー、冷却器、定量滴下ポンプを備えたフラスコ合成装置をオイルバス内に設置し、強アルカリ電解水130gを投入し、約25℃の室温に保った。14.2gをn-ブタノール20gで希釈し、定量滴下ポンプを用い、1ml/minの速度で滴下した。滴下が完了した後、フラスコ合成装置を100℃にまで昇温し、12時間反応を続けた。その結果、強アルカリ電解水/n-ブタノール混合溶媒のアナターゼ型二酸化チタン微粒子分散液を作製することができた。アナターゼ型二酸化チタン微粒子の粒子径は、マイクロトラック・ベル(株)製動的光散乱式粒子径分布測定装置NanotracWaveII-UT151を用いて粒度分布を測定した結果、メイジアン径=24nmであった。結晶型は、上記分散液からサンプリングした電子顕微鏡観察における電子線回折によりアナターゼ型であることを確認した。
【0056】
このようにして得られた二酸化チタン微粒子分散液の混合溶媒の95%を除去し、上記強アルカリ電解水1490gを加えて、本発明のアナターゼ型二酸化チタン微粒子が強アルカリ電解水に分散した洗浄剤を得ることができた。この洗浄剤は、二酸化チタン濃度が約0.05mol/Lで、洗浄剤No.3とする。
【0057】
≪性能評価1≫洗浄力評価
JIS3362:2008家庭用合成洗剤試験方法に準じ、25℃に温度調節された室内において評価した。牛脂及び大豆油を1:1(体積比)で混合した油脂20g、モノオレイン0.25g、及び、オイルレッド0.1gをクロロホルム60mlに溶解した汚垢浴を調整し、スライドグラス6枚一組で浸漬し、ほぼ一定量の汚垢を付着させ、1時間以上風乾して試験片とした。洗浄は、pH=13の強アルカリ性電解水単体、洗浄剤No.1、洗浄剤No.2、及び、洗浄剤No.3を、マグネチックスターラーを備えたリーナツ形容器にいれ、回転数500rpmで撹拌しながら、一組の試験片を5分浸漬して行い、乾燥させた。このような試験の各工程におけるスライドグラスの重量変化により洗浄力を5段階評価したところ、いずれも十分な洗浄力を示す5の評価が得られ、いずれも優れた洗浄力があることが分かった。
【0058】
≪性能評価2≫アナターゼ型二酸化チタン微粒子の自己洗浄性能評価
JIS1703-1:2007サインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法-第1部:水接触角の測定に準じ、20℃、65%に温湿度が調節された室内において評価した。10cm×10cmのガラス板をpH=13の強アルカリ性電解水単体、洗浄剤No.1、洗浄剤No.2、及び、洗浄剤No.3に30分浸漬した後風乾しした。そして、これらのガラス板を、オレイン酸のヘプタン溶液(0.5vol%)を用いてディップコーティング(引き上げ速度:60cm/min)した後、70℃で15分乾燥させて試験片とした。
図3に示したように、この試験片に微小な水滴を載せ、放射照度2.0mW/cm
2の紫外線を照射して、水滴の形状の変化を観察した。48時間後、強アルカリ性電解水で処理したガラス板上の水滴の形状変化は認められなかったのに対し、洗浄剤No.1、洗浄剤No.2、及び、洗浄剤No.3で処理したガラス板の水滴はガラス板に濡れるように形状が変化した。このことから、アナターゼ型二酸化チタン微粒子を強アルカリ性電解水に分散した洗浄剤を用いて洗浄された被洗浄物には、アナターゼ型二酸化チタン微粒子が付着し、洗浄後被洗浄物に自己洗浄機能が付与されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、製造業、建設業、情報通信業、サービス業、及び、その他生活関連業等、あらゆる産業分野における、製造機械、中間製品、製品等から汚染を除去する優れた洗浄力と、殺菌・滅菌・消毒・消臭機能を備えた安全性の高い洗浄剤であって、その洗浄剤で洗浄された被洗浄物表面に抗菌性、消臭性、及び、自己洗浄機能を付与することができる洗浄剤であるが、用途はこれらに限定されるものではない。例えば、食品加工業では、食材原料殺菌、容器殺菌、冷却水、作業衣除菌等、サービス業では、食材殺菌、食器殺菌、生鮮食品乾燥防止、浴湯殺菌、客室除菌等、農林水産業では、種子除菌、果樹除菌、魚介類殺菌、養魚場除菌等、保健衛生業では、厨房衛生管理、トイレ清掃、手指除菌、浴室除菌、介護器具除菌等、更に、水処理業では、上水殺菌、放流廃水殺菌、ビル空気除菌除臭等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1-1 セパラブルフラスコ上
1-2 セパラブルフラスコ下
2 クーラー
3 マグネチックスターラー
4 オイルバス
5 ヒーター
6 温度コントローラー
7 定量滴下ポンプ
8 反応液
9 滴下試料
10 試験片
11 オレイン酸
12 水