(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】透明導電膜付きガラスロール及び透明導電膜付きガラスシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/245 20060101AFI20220112BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220112BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
C03C17/245 A
C23C14/08 D
C23C14/08 K
C23C14/56 A
(21)【出願番号】P 2017225828
(22)【出願日】2017-11-24
【審査請求日】2020-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 義徳
(72)【発明者】
【氏名】野田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】古川 忠宏
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147687(JP,A)
【文献】特開2011-194907(JP,A)
【文献】特開2015-032183(JP,A)
【文献】特開2014-148734(JP,A)
【文献】特開2014-130811(JP,A)
【文献】特開2013-184346(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102102187(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
C23C 14/00-14/58
B32B 17/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜付きガラスシートが巻き取られてなる、透明導電膜付きガラスロールであって、
前記透明導電膜付きガラスシートは、
ガラスシートと、
前記ガラスシートの主面上に設けられた非晶質の透明導電膜と、
を備え
、
前記ガラスシートの厚みが、10μm以上、200μm以下であり、
前記透明導電膜が、酸化インジウム亜鉛により構成されており、
前記透明導電膜付きガラスシートを100mm角に切り出して透明導電膜付きガラスシートサンプルとし、前記透明導電膜付きガラスシートサンプルを平板の上に載置し、前記透明導電膜付きガラスシートサンプルの4つの端部から前記平板までのそれぞれの距離x1~x4を測定したときに、距離x1~x4の平均((x1+x2+x3+x4)/4)である反り量が、1mm未満である、透明導電膜付きガラスロール。
【請求項2】
前記透明導電膜付きガラスロールは、前記透明導電膜付きガラスシートが、保護フィルムと共に巻き取られてなり、
前記保護フィルムが、ポリエチレンテレフタレートにより構成されている、請求項1に記載の透明導電膜付きガラスロール。
【請求項3】
前記透明導電膜の厚みが、30nm以上、500nm以下である、請求項1
又は2に記載の透明導電膜付きガラス
ロール。
【請求項4】
ガラスロールからガラスシートを引き出す工程と、
引き出された前記ガラスシートの主面上に、透明導電膜を成膜する工程と、
前記透明導電膜が成膜されたガラスシートを巻き取る工程と、
を備え、
前記透明導電膜を成膜するときに、前記ガラスシートにおける前記透明導電膜の成膜部の温度を、-30℃以上、30℃以下となるように保持する、透明導電膜付きガラスロールの製造方法
により得られた透明導電膜付きガラスロールから、前記透明導電膜が成膜されたガラスシートを引き出し、所定の大きさに切断する工程と、
前記切断されたガラスシート上の前記透明導電膜を結晶化させる工程と、
を備える、透明導電膜付きガラスシートの製造方法。
【請求項5】
前記透明導電膜の成膜処理が、スパッタリング法により行われる、請求項
4に記載の透明導電膜付きガラス
シートの製造方法。
【請求項6】
前記透明導電膜の成膜処理が、少なくとも1回以上行われる、請求項
4又は
5に記載の透明導電膜付きガラス
シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜付きガラスシート、透明導電膜付きガラスロール、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶表示デバイス、有機EL表示デバイス等の表示デバイス、有機EL照明機器、太陽電池等の用途において、ガラス基板上に酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電膜が設けられてなる膜付きガラス基板が用いられている。このような膜付きガラス基板の製造方法としては、例えば、スパッタリング法等を用いて、ガラス基板上に透明導電膜を成膜する方法が知られている。
【0003】
下記の特許文献1には、巻き出しロールから引き出したフレキシブル基板を蒸着部に搬送して、フレキシブル基板上に膜を成膜した後、巻き取りロールに巻き取るロールトゥロール(Roll to Roll)スパッタリング法が開示されている。特許文献1では、ITO等のターゲット物質を高温でスパッタリングすることにより、ターゲット物質が結晶化され、低い比抵抗と高い透過率を有する膜が得られる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、ITOなどのターゲット物質をスパッタリングによりフレキシブル基板上に成膜する場合、フレキシブル基板に曲げ応力が生じた際などに、容易に導電膜やフレキシブル基板が容易に破損するという問題がある。そのため、このような導電膜が形成されたフレキシブル基板の保管やハンドリングの際には、高い破損のリスクを伴うこととなる。特に、特許文献1のように、巻回体(ロール)の形態で製造や使用をする場合には、その傾向が顕著であった。
【0006】
本発明の目的は、巻回体の形態で製造や使用をした場合においても、破損が生じ難い、透明導電膜付きガラスシート、透明導電膜付きガラスロール、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の透明導電膜付きガラスシートは、ガラスシートと、前記ガラスシートの主面上に設けられた非晶質の透明導電膜と、を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明の透明導電膜付きガラスシートでは、前記透明導電膜が、酸化インジウムスズにより構成されていることが好ましい。
【0009】
本発明の透明導電膜付きガラスシートでは、前記透明導電膜が、酸化インジウム亜鉛により構成されていることが好ましい。
【0010】
本発明の透明導電膜付きガラスシートでは、前記透明導電膜の厚みが、30nm以上、500nm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の透明導電膜付きガラスシートでは、前記ガラスシートの厚みが、10μm以上、200μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の透明導電膜付きガラスロールは、本発明に従って構成される透明導電膜付きガラスシートが巻き取られてなることを特徴としている。
【0013】
本発明の透明導電膜付きガラスロールの製造方法は、ガラスロールからガラスシートを引き出す工程と、引き出された前記ガラスシートの主面上に、透明導電膜を成膜する工程と、前記透明導電膜が成膜されたガラスシートを巻き取る工程と、を備え、前記透明導電膜を成膜するときに、前記ガラスシートにおける前記透明導電膜の成膜部の温度を、-30℃以上、30℃以下となるように保持することを特徴としている。
【0014】
本発明の透明導電膜付きガラスロールの製造方法では、前記透明導電膜の成膜処理が、スパッタリング法により行われることが好ましい。
【0015】
本発明の透明導電膜付きガラスロールの製造方法では、前記透明導電膜の成膜処理が、少なくとも1回以上行われることが好ましい。
【0016】
本発明の透明導電膜付きガラスシートの製造方法は、本発明に従って構成される透明導電膜付きガラスロールの製造方法により得られた透明導電膜付きガラスロールから、前記透明導電膜が成膜されたガラスシートを引き出し、所定の大きさに切断する工程と、前記切断されたガラスシート上の前記透明導電膜を結晶化させる工程と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、巻回体の形態で製造や使用をした場合においても、破損が生じ難い、透明導電膜付きガラスシートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスシートを示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスロールを示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスロールの製造方法を説明するための模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスシートの製造方法を説明するための模式図である。
【
図5】反りの評価方法を説明するための模式図である。
【
図7】リング・オン・クランプドリング試験の方法を説明するための模式的断面図である。
【
図8】リング・オン・クランプドリング試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0020】
(透明導電膜付きガラスシート)
図1は、本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスシートを示す模式的断面図である。
図1に示すように、透明導電膜付きガラスシート1は、ガラスシート2と、透明導電膜3とを備える。ガラスシート2は、対向する第1の主面2a及び第2の主面2bを有する。ガラスシート2の第1の主面2a上に、透明導電膜3が設けられている。透明導電膜3は、非晶質である。なお、本発明において、非晶質の透明導電膜3とは、結晶構造を持たない原子が不規則に配列した構造の膜で、X線回折プロファイルではピークが実質的に観測されない。
【0021】
ガラスシート2の形状は、特に限定されず、例えば、矩形のシート形状である。ガラスシート2の材料としては、特に限定されず、例えば、ケイ酸塩ガラス、シリカガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、化学強化ガラス、無アルカリガラス等を用いることができる。ガラスシート2の材料としては、好ましくはホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、化学強化ガラス、無アルカリガラスを用いることができ、より好ましくは無アルカリガラスを用いることができる。ガラスシート2の材料として無アルカリガラスを用いる場合、より一層化学的に安定なガラスとすることができる。なお、無アルカリガラスとは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)が実質的に含まれていないガラスのことをいう。具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。アルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは300ppm以下である。
【0022】
ガラスシート2は、例えば、従来公知のフロート法、ロールアウト法、スロットダウンドロー法、リドロー法等により成形して得ることができる。なかでも、オーバーフローダウンドロー法によって成形されていることが望ましい。
【0023】
ガラスシート2の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下である。ガラスシート2の厚みが上記範囲内にある場合、より一層容易に巻き取ることができ、より一層容易にガラスロール(ガラスシート2の巻回体)とすることができる。また、薄型の電子デバイス基板として好適に用いることができる。
【0024】
透明導電膜3の材料としては、透光性及び導電性を有するものであれば、特に限定されない。透明導電膜3は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、アルミニウムドープ亜鉛酸化物(AZO)などにより構成することができる。
【0025】
透明導電膜3の厚みは、特に限定されないが、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。透明導電膜3の厚みが上記下限以上である場合、透明導電膜3の割れがより一層生じ難く、割れによる導電性の低下がより一層生じ難い。透明導電膜3の厚みが上記上限以下である場合、より一層容易に巻き取ることができ、より一層容易に透明導電膜付きガラスロール(透明導電膜付きガラスシート1の巻回体)とすることができる。
【0026】
なお、透明導電膜3が、酸化インジウム亜鉛(IZO)により構成される場合は、透明導電膜3の厚みは、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下である。この場合、酸化インジウム亜鉛(IZO)を結晶化しないが、透明導電膜3の透明性は良い。
【0027】
透明導電膜3が酸化インジウムスズ(ITO)の場合は、結晶化して用いることが好ましい。酸化インジウムスズ(ITO)を結晶化して用いる場合、導電性と透明性をより一層高めることができる。なお、酸化インジウムスズ(ITO)は、通常、約170℃以上の熱処理で結晶化させることができる。
【0028】
また、透明導電膜3のシート抵抗は、好ましくは30Ω/□以下、より好ましくは15Ω/□以下である。この場合、透明導電膜3の導電性をより一層高めることができる。
【0029】
透明導電膜付きガラスシート1は、透光性及び導電性に優れることから、液晶表示デバイス、有機EL表示デバイス等の表示デバイス、有機EL照明機器、太陽電池等の用途に好適に用いることができる。
【0030】
図2は、本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスロールを示す模式図である。
図2に示すように、透明導電膜付きガラスロール10は、巻芯10aに透明導電膜付きガラスシート1が好ましくは保護フィルム10bと共に巻き取られてなる透明導電膜付きガラスシート1の巻回体である。このように、透明導電膜付きガラスシート1は、透明導電膜付きガラスロール10の形態で使用してもよい。保護フィルム10bの材料としては、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂を用いることができる。
【0031】
透明導電膜付きガラスシート1は、非晶質の透明導電膜3を備えるので、透明導電膜付きガラスロール10の形態で製造や使用をした場合においても、破損が生じ難い。この点については、以下に示す製造方法の欄で詳細に説明するものとする。
【0032】
(透明導電膜付きガラスロールの製造方法)
以下、
図3を参照して、透明導電膜付きガラスロール10の製造方法の一例について説明する。
【0033】
図3は、本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスロールの製造方法を説明するための模式図である。本実施形態の製造方法では、
図3に示す成膜装置20を用いることができる。成膜装置20は、ガラスロール21、スパッタ源22、冷却ローラ23、透明導電膜付きガラスロール10、及び真空チャンバ24を備える。ガラスロール21、スパッタ源22、冷却ローラ23、及び透明導電膜付きガラスロール10は、真空チャンバ24内に設けられている。なお、真空チャンバ24内は、図示しない真空ポンプによって所定の真空度に設定されているとともに、アルゴンガス等の不活性ガスと少量の酸素が供給されている。
【0034】
本実施形態の製造方法では、まず、
図3に示すガラスロール21を用意する。ガラスロール21は、帯状のガラスシート2が巻芯21aに巻き取られてなるガラスシート2の巻回体である。なお、ガラスロール21を構成するガラスシート2には、保護フィルム21bが重ねられている。保護フィルム21bの材料としては、特に限定されず、例えば、PET等の樹脂を用いることができる。
【0035】
次に、用意したガラスロール21からガラスシート2を引き出し、保護フィルム21bを剥離しつつ、冷却ローラ23に搬送する。そして、スパッタ源22から、例えばITO粒子などのスパッタ粒子を飛散させ、ガラスシート2の第1の主面2aに付着させる。それによって、ガラスシート2の第1の主面2a上に、透明導電膜3を成膜することができる。
【0036】
スパッタ源22は、ターゲットから飛散するスパッタ粒子(ITO粒子)が、ガラスシート2の第1の主面2aに付着するように、冷却ローラ23から一定の間隔をおいて配置される。冷却ローラ23は、ガラスシート2を支持する円筒状のローラ本体23aと、このローラ本体23aを冷却する図示しない温調機本体とを備える。ローラ本体23aは、例えば、金属又はセラミックスにより構成することができる。ローラ本体23aは、軸部23a1により回転自在に支持される。温調機本体は、成膜装置20の外部に設置され、ローラ本体23aを冷却するために、ローラ本体23aの内側に熱媒体を循環する為の配管23bが配置される。なお、温調機本体から熱媒体を循環することでローラ本体23aの温度が制御される。
【0037】
冷却ローラ23のローラ本体23aは、図示しない駆動源により軸部23a1を駆動させることで、ガラスシート2の搬送方向に沿うように所定の方向(
図3における矢印Xの方向)に回転する。ローラ本体23aの一部は、ガラスシート2の第2の主面2bに接触している。ローラ本体23aは、その回転により、ガラスシート2を下流側へ搬送する。
【0038】
なお、本実施形態では、冷却ローラ23により、ガラスシート2の成膜部2a1の温度が、-30℃以上、30℃以下となるように保持されている。成膜部2a1は、ガラスシート2の第1の主面2aのうち透明導電膜3が成膜される部分である。本実施形態の製造方法においては、少なくとも成膜部2a1の温度が上記範囲に保持されていればよく、第1の主面2aのうち成膜部2a1以外の部分も上記範囲に保持されていてもよい。
【0039】
次に、透明導電膜3が成膜されたガラスシート2を巻芯10aに巻き取り透明導電膜付きガラスロール10を得る。透明導電膜3が成膜されたガラスシート2を巻き取る際には、保護フィルム10bを重ねて巻き取る。続いて、透明導電膜付きガラスロール10を真空チャンバ24から取り出す。なお、保護フィルム10bとしては、例えば、PET等の樹脂を用いることができる。
【0040】
図4は、本発明の一実施形態に係る透明導電膜付きガラスシートの製造方法を説明するための模式図である。
【0041】
図4に示すように、得られた透明導電膜付きガラスロール10から透明導電膜3が成膜されたガラスシート2を引き出し、透明導電膜3が成膜されたガラスシート2を切断する。透明導電膜3が成膜されたガラスシート2を引き出す際には、同時に保護フィルム10bを分離する。そして、引き出されたガラスシート2は、搬送装置30により搬送しつつ、切断装置40により、枚葉状に切断する。それによって、透明導電膜付きガラスシート1を得ることができる。搬送装置30としては、例えば、ローラコンベアが用いられる。切断装置40としては、例えば、
図4に示すように、レーザー光Lを照射することによって溶断又は切断する装置を用いることができる。もっとも、スクライブカッタ等の切断具を用いてもよく、切断方法は特に限定されない。
【0042】
本実施形態の製造方法では、上記のように、ガラスシート2の成膜部2a1の温度を、-30℃以上、30℃以下となるように保持した状態で透明導電膜3の成膜が行われる。そのため、透明導電膜3の成膜温度を低くすることができ、非晶質の透明導電膜3を得ることができる。従って、本実施形態の製造方法で得られた透明導電膜付きガラスシート1は、透明導電膜付きガラスロール10のような巻回体の形態で製造や使用をした場合においても、破損が生じ難い。以下、この理由について、従来の透明導電膜付きガラスシートと比較して説明する。
【0043】
従来の製造方法では、スパッタリング法等により高温で透明導電膜を成膜することにより、結晶性の透明導電膜を得ていた。従来の製造方法では、このように結晶化を伴う高温で成膜処理することによって、低い比抵抗と高い透過率を有する膜を得ていた。
【0044】
しかしながら、このように結晶化を伴う高温で成膜処理する場合、結晶化による膜の収縮によって膜面に膜応力が生じたり、結晶粒界が生成したりすることが多い。なお、結晶粒界はOLEDデバイスの電流のリークやショート欠陥の原因となる。このような膜応力や結晶粒界が存在する場合、基体となるガラスシートに曲げ応力による反りで、取扱いにて容易に破損することとなる。特に、
図3に示すように、ガラスロールから引き出されたガラスシートに透明導電膜を成膜し、透明導電膜付きガラスロールを得るロールトゥロールの形態で取り扱う場合、ガラスシートに曲げ応力が作用し反ることから、高い破損のリスクを伴っていた。
【0045】
これに対して、本実施形態の製造方法では、低温で成膜することにより非晶質の透明導電膜3を形成しており、透明導電膜3が結晶化されていない。そのため、膜応力は低減され、しかも結晶粒界が不明瞭となる。従って、ロールトゥロールでの製造時や使用時において、膜起因の破損が生じ難くなる。
【0046】
また、本実施形態では、ガラスシート2における成膜部2a1の温度を、-30℃以上、30℃以下と低温に保持した状態で行われるため、反りを大きく低減することができる。加熱されて飛来してくるスパッタ粒子の付着による温度上昇を考慮すると、より一層反りを低減する観点から、成膜部2a1の温度を-30℃以上、0℃以下に保持することがより好ましい。特に、透明導電膜3が酸化インジウムスズ(ITO)により構成される場合、成膜時の結晶化がより一層生じ難く、膜の収縮がより一層生じ難いため好ましい。
【0047】
このように、本実施形態の製造方法で得られた透明導電膜付きガラスシート1は、巻回体の形態で製造や使用をした場合においても、破損が生じ難く、しかも反りが生じ難いことから取り扱い性に優れている。
【0048】
透明導電膜3の成膜処理は、1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。成膜処理を1回で行う場合、製造工程をより一層簡略化することができる。また、成膜処理を複数回行うことにより1回で成膜する膜厚を小さくする場合、成膜によるガラスシート2面への応力負荷をより一層低減することができ、より一層反りが生じ難くなる。
【0049】
透明導電膜3の成膜方法は、スパッタリング法に限定されない。透明導電膜3は、例えば、蒸着法やCVD法により成膜してもよい。
【0050】
なお、得られた枚葉状の透明導電膜付きガラスシート1は、後工程で曲げ応力等の付与が小さい場合については、結晶化して用いてもよい。特に、透明導電膜3がITOの場合、より一層抵抗値を低める観点から、結晶化して用いることが望ましい。透明導電膜3の結晶化する方法は、特に限定されず、例えば熱処理が挙げられる。この場合、熱処理の温度は、例えば、200℃~250℃とすることができる。熱処理の時間は、熱処理方法によりかなり異なるが例えば、0.5分~30分とすることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0052】
(実施例1)
図3に示す成膜装置20を用いて、ガラスシート2上に透明導電膜3を成膜した。具体的には、ガラスロール21から引き出したガラスシート2(日本電気硝子株式会社製、無アルカリガラス「OA-10G」、100μm厚)に、以下の条件でスパッタリングにより透明導電膜3を成膜し、透明導電膜付きガラスロール10を得た。得られた透明導電膜付きガラスロール10は、
図4に示すようにレーザー光Lにより枚葉シートに切断し、透明導電膜付きガラスシート1とした。
【0053】
透明導電膜3の成膜条件
膜材:ITO
成膜温度(成膜部2a1の温度):-20℃
成膜印加電圧:3kW
成膜スピード:0.3m/分
処理回数:1回
【0054】
得られた透明導電膜3の膜厚は、100nmであり、シート抵抗は、30Ω/□であった。また、反りの評価においては、100mm角のシートで0.6mmの浮きが観察された。このように、実施例1では、面強度を低下させることなく、反りを1mm未満に低減することができ、取り扱い時の破損が生じ難いことが確認できた。
【0055】
さらに得られた透明導電膜付きシート1に、クリーンオーブン内にて250℃で30分、結晶化処理を行ったところシート抵抗値を15Ω/□に低下させることができた。なお、シート抵抗の測定には、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製、ロレスタ)を用いた。
【0056】
また、反りの評価は、SEMI D074-0116(Guide for Measuring Dimensions for Plastic Films/Substrates)に準拠して測定した。具体的には、
図5に示すように、透明導電膜付きガラスシートサンプル1aを100mm角(100mm×100mm)に切り出して、平板50上に載置した。そして、透明導電膜付きガラスシートサンプル1aの4つの端部から平板50までのそれぞれの距離x1~x4を測定し、その平均((x1+x2+x3+x4)/4)を反り量とした。
【0057】
(実施例2)
透明導電膜3の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付きガラスシート1を得た。
【0058】
透明導電膜3の成膜条件
膜材:ITO
成膜温度(成膜部2a1の温度):-20℃
成膜印加電圧:3kW
成膜スピード:1m/分
処理回数:3回
【0059】
得られた透明導電膜3の膜厚は、100nmであり、シート抵抗は、30Ω/□であった。また、反りの評価においては、100mm角のシートで浮きはほぼ生じず、反りを1mm未満に低減することができた。なお、実施例2では、実施例1に対して1回の成膜の厚みを約1/3とし、3回の処理で必要なシート抵抗値(膜厚)を得ている。成膜を分割したことにより、ガラスシート2面への応力が低減され、反りの発生をより一層抑制することができ、取り扱い時の破損が生じ難いことが確認できた。
【0060】
(実施例3)
透明導電膜3の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付きガラスシート1を得た。
【0061】
透明導電膜3の成膜条件
膜材:ITO
成膜温度(成膜部2a1の温度):-20℃
成膜印加電圧:1kW
成膜スピード:0.1m/分
処理回数:1回
【0062】
得られた透明導電膜3の膜厚は、125nmであり、シート抵抗は、30Ω/□であった。また、反りの評価においては、100mm角のシートで浮きはほぼ生じず、反りを1mm未満に低減することができた。なお、実施例3では、実施例1に対して印加電圧を1/3とする代わりに、成膜スピードを1/3にし、シート抵抗値(膜厚)を得ている。実施例3でも、ガラスシート面への応力が低減され、反りの発生は0でありより一層抑制することができ、取り扱い時の破損が生じ難いことが確認できた。
【0063】
(実施例4)
ガラスシート2の厚みを50μm(日本電気硝子株式会社製、無アルカリガラス「OA-10G」)とし、透明導電膜3の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付きガラスシート1を得た。
【0064】
透明導電膜3の成膜条件
膜材:IZO
成膜温度(成膜部2a1の温度):-20℃
成膜印加電圧:1kW
成膜スピード:0.1m/分
処理回数:1回
【0065】
得られた透明導電膜3の膜厚は、100nmであり、シート抵抗は、30Ω/□であった。また、反りの評価においては、100mm角のシートで浮きはほぼ生じず、反りを1mm未満に低減することができた。実施例4でも、面強度を低下させることなく、反りをより一層低減することができ、取り扱い時の破損が生じ難いことが確認できた。
【0066】
(実施例5)
ガラスシート2の厚みを50μm(日本電気硝子株式会社製、無アルカリガラス「OA-10G」)とし、透明導電膜3の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付きガラスシート1を得た。
【0067】
透明導電膜3の成膜条件
膜材:IZO
成膜温度(成膜部2a1の温度):20℃(常温)
成膜印加電圧:1kW
成膜スピード:0.1m/分
処理回数:1回
【0068】
得られた透明導電膜3の膜厚は、100nmであり、シート抵抗は、30Ω/□であった。また、反りの評価においては、100mm角のシートで浮きはほぼ生じず、反りを1mm未満に低減することができた。このように、面強度を低下させることなく、反りを低減することができた。実施例4の低温成膜に対して、ほぼ室温の20℃で成膜を行ったが、シート抵抗値に違いはなかった。また、反りも発生せず、取り扱い時の破損が生じ難いことが確認できた。
【0069】
(実施例6)
ガラスシート2の厚みを50μm(日本電気硝子株式会社製、無アルカリガラス「OA-10G」)とし、透明導電膜3の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付きガラスシート1を得た。
【0070】
透明導電膜3の成膜条件
膜材:IZO
成膜温度(成膜部2a1の温度):-20℃
成膜印加電圧:1kW
成膜スピード:0.13m/分
処理回数:3回
【0071】
得られた透明導電膜3の膜厚は、250nmであり、シート抵抗は、15Ω/□であった。また、反りの評価においては、100mm角のシートで浮きはほぼ生じず、反りを1mm未満に低減することができた。このように、面強度を低下させることなく、反りを低減することができ、取り扱い時の破損が生じ難いことが確認できた。
【0072】
また、実施例4の成膜条件で3回成膜処理することにより、膜厚250nmを得て、シート抵抗が15Ω/□となった。このシート抵抗値はITO膜の結晶化後のものと同等であった。
【0073】
(実施例7)
ガラスシート2の厚みを50μm(日本電気硝子株式会社製、無アルカリガラス「OA-10G」)とし、透明導電膜3の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付きガラスシート1を得た。
【0074】
透明導電膜3の成膜条件
膜材:IZO
成膜温度(成膜部2a1の温度):-20℃
成膜印加電圧:1kW
成膜スピード:0.1m/分
処理回数:1回
【0075】
得られた透明導電膜3の膜厚は、100nmであり、シート抵抗は、30Ω/□であった。また、反りの評価においては、100mm角のシートで浮きはほぼ生じず、反りは1mm未満に低減することができた。このように、面強度を低下させることなく、反りを低減することができ、取り扱い時の破損が生じ難いことが確認できた。
【0076】
また、実施例7では、成膜後に100mm角に切断し、非加熱品と事後の加熱処理品での可視光透過率の変化の有無を観察した。加熱条件は、150℃で1時間(150℃処理)、及び250℃で1時間(250℃処理)とした。すなわち、熱処理無し、150℃処理、250℃処理で可視光線波長域に相当する400nm~700nmでの分光透過率曲線の比較を行なった。結果を、
図6に示す。
図6に示すように、熱処理により、可視光透過率に顕著な変化は見られなかった。なお、分光透過率曲線の測定には、分光透過率計(日本分光社製、商品名「紫外可視分光光度計 V-570」)を用いた。
【0077】
(比較例1)
透明導電膜の成膜条件を下記のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電膜付きガラスシートを得た。
【0078】
透明導電膜の成膜条件
膜材:ITO
成膜温度(成膜部2a1の温度):250℃
成膜印加電圧:3kW
成膜スピード:0.3m/分
処理回数:1回
【0079】
得られた透明導電膜3の膜厚は、125nmであり、ITOの結晶化温度である約170℃を超える250℃で成膜されているため部分的に結晶化を生じている。完全に結晶化させるためにクリーンオーブン内にて250℃で30分間熱処理し、シート抵抗が15Ω/□のものを得た。また、反りの評価においては、100mm角のシートで6mmの浮きが生じた。反りが大きく、また面強度も著しく低下していたため、取り扱い時に破損が生じ易く、枚葉であってもガラスシートのハンドリングが困難であった。
【0080】
<面強度比較試験>
実施例1のITO-20℃成膜品(未結晶化)、実施例4のIZO-20℃成膜品、及び比較例1のITO250℃成膜品(結晶化)について、面強度の比較を行った。面強度は、リング・オン・クランプドリング試験(Ring on Clamped Ring試験)により評価した。リング・オン・クランプドリング試験では、
図7に示すように、50mm×50mmのサイズに切り取った透明導電膜付きガラスシートサンプル1aを、樹脂からなる上円板62と金属からなる下円板63とで挟み込んだ。そして、透明導電膜付きガラスシートサンプル1aを上円板62(貫通孔の内径:25mm)及び下円板63(貫通孔の内径:25mm)で挟み込んだ状態で、上側リング61(直径:12.5mm)を速度0.5mm/分で押圧することにより試験を行った。なお、下円板63は下側リングを兼ねている。また、透明導電膜付きガラスシートサンプル1aは、成膜側が下円板63側となるように載置した。なお、面強度の試験においては、成膜されていない素ガラスの平均破壊荷重値を100として各サンプルとの比較を行った。結果を
図8に示す。
図8に示すように、非晶質状態の膜を持つ実施例1(ITO成膜)と実施例4(IZO成膜)は、素ガラスと比較して約80%の強度を維持していたが、比較例1のITO膜が結晶化したものでは約30%へと著しく強度が低下した。
【符号の説明】
【0081】
1…透明導電膜付きガラスシート
1a…透明導電膜付きガラスシートサンプル
2…ガラスシート
2a…第1の主面
2a1…成膜部
2b…第2の主面
3…透明導電膜
10…透明導電膜付きガラスロール
10a,21a…巻芯
10b,21b…保護フィルム
20…成膜装置
21…ガラスロール
22…スパッタ源
23…冷却ローラ
23a…ローラ本体
23a1…軸部
23b…配管
24…真空チャンバ
30…搬送装置
40…切断装置
50…平板
61…上側リング
62…上円板
63…下円板