(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】車両内装用表皮材
(51)【国際特許分類】
D03D 15/54 20210101AFI20220128BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20220128BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20220128BHJP
D03D 15/587 20210101ALI20220128BHJP
D03D 15/60 20210101ALI20220128BHJP
F21V 8/00 20060101ALI20220128BHJP
B60R 13/02 20060101ALN20220128BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20220128BHJP
【FI】
D03D15/00 102Z
D03D1/00 Z
D03D15/00 D
D03D15/00 G
D03D15/02 B
F21V8/00 282
B60R13/02 B
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2018099180
(22)【出願日】2018-05-23
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017104694
(32)【優先日】2017-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510045438
【氏名又は名称】TBカワシマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309042783
【氏名又は名称】大喜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝政
(72)【発明者】
【氏名】坂井 宏彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 岳由
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-084738(JP,A)
【文献】特開2001-316953(JP,A)
【文献】特開2003-227049(JP,A)
【文献】実開昭63-170481(JP,U)
【文献】特開2010-267573(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0146076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R13/01-13/04
13/08
D03D1/00-27/18
F21V1/00-15/04
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の車両内装用基体に接合される車両内装用表皮材において、
経糸又は緯糸として、合成樹脂繊維、側面発光型光ファイバー及び熱融着性繊維を用いて製織された織物を備え、
前記合成樹脂繊維の繊度(d
S)と、前記側面発光型光ファイバーの繊度(d
f)との比(d
S/d
f)が1.5~7.0であり、
前記合成樹脂繊維と、前記合成樹脂繊維に隣接する前記側面発光型光ファイバーと、が各々の長さ方向において前記熱融着性繊維により接合されていることを特徴とする車両内装用表皮材。
【請求項2】
前記合成樹脂繊維がマルチフィラメントであり、前記マルチフィラメントの繊度(d
S1)と、前記側面発光型光ファイバーの繊度(d
f)との比(d
S1/d
f)が2.0~7.0である請求項1に記載の車両内装用表皮材。
【請求項3】
前記合成樹脂繊維がモノフィラメントであり、前記モノフィラメントの繊度(d
S2)と、前記側面発光型光ファイバーの繊度(d
f)との比(d
S2/d
f)が1.5~6.0である請求項1に記載の車両内装用表皮材。
【請求項4】
隣り合う前記合成樹脂繊維の間に、複数の前記側面発光型光ファイバーが織り込まれており、隣接する前記側面発光型光ファイバーが各々の長さ方向において前記熱融着性繊維により接合されている請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の車両内装用表皮材。
【請求項5】
前記熱融着性繊維は、マルチフィラメントと、前記マルチフィラメントより融点の低い熱融着糸と、が撚られているものである請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の車両内装用表皮材。
【請求項6】
前記マルチフィラメントは、前記接合の後、構成糸として残存する請求項5に記載の車両内装用表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂繊維、側面発光型光ファイバー、及び熱融着性繊維を用いて製織され、車室内の意匠面を形成し、照明として機能するとともに、隣接する合成樹脂繊維と側面発光型光ファイバーとが長さ方向において接合され、光ファイバーが摩耗したり、傷ついたりすることが防止、又は少なくとも抑えられるとともに、所定形状及び寸法に裁断したときに、裁断された端縁部における側面発光型光ファイバーのほつれが抑えられる車両内装用表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの普及等とともに、光通信などの技術分野において光ファイバーの使用が拡大している。また、一端から入射した光を他端に導いて光を伝送させることができるという光ファイバーの特性に基づき、例えば、各種の照明及びディスプレー等の用途でも用いられている。
【0003】
例えば、経糸又は緯糸として光ファイバーと普通糸とが織られた光ファイバー織物と、光ファイバーの少なくとも一端部に光を照射する光源とを備え、光源からの光を光ファイバー内に入光させることにより、ドアトリム、小物部品等の自動車内装部品として利用することができる照明装置として機能する光ファイバー織物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。そして、この光ファイバー織物では、光ファイバーと普通糸を規則的に織り込み、織組織及び発光輝度を所定の状態に制御することにより、光ファイバー織物の発光ムラを低減することができると説明されている。
【0004】
また、複数本の光ファイバーの経糸と普通糸からなる経糸が交互に配列され、光ファイバーの表裏に配列された緯糸と、普通糸からなる経糸、又は所定の間隔で配列された連結経糸が交錯して一体化された光ファイバー織物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。そして、この光ファイバー織物では、普通糸からなる経糸と緯糸による光ファイバーの表面の覆われ方により、織物表面側における光ファイバーの露出度が低い領域と高い領域とで織物面にパターンが形成され、光ファイバーの側面漏光により、鮮明な発光パターンが表現されると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-267573号公報
【文献】特開2016-37688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された光ファイバー織物では、織組織及び発光輝度を所定の状態に制御することにより、発光ムラを低減することができる。しかし、特許文献1では、光ファイバーが自動車内装部品の表面に表出し過ぎ、光ファイバーが摩耗したり、傷付いたりすることを防止すること、及びそのために光ファイバーと普通糸との繊度を適正な範囲とすることについては全く言及されていない。
【0007】
また、従来、車両内装用表皮材は、合成樹脂繊維であるマルチフィラメントを経糸及び緯糸として用いて製織することにより製造されている。この場合、耐摩耗性及び強度の他、見栄え等の観点から、比較的低繊度のマルチフィラメント、例えば、167dtex程度のマルチフィラメントが用いられることが多い。更に、経糸又は緯糸として光ファイバーを用いるときは、この光ファイバーとして、製織が容易な樹脂製の側面発光型光ファイバーを用いることが好ましく、この側面発光型光ファイバーとしては、繊度が607dtexであり、直径が0.25mm程度のものを用いることができる。
【0008】
上述のようなマルチフィラメントと側面発光型光ファイバーとを用いて製織した場合、側面発光型光ファイバーの両側に、繊度の小さいマルチフィラメントが織り込まれる織組織を備え、側面発光型光ファイバー及びマルチフィラメントがともに、樹脂製の車両内装用基体に接合される。しかし、この形態では、側面発光型光ファイバーが表皮材の最外表面に多く表出することになり、摩耗及び傷付きに対して不利である。
【0009】
そこで、繊度の小さいマルチフィラメントが最外表面に表出するような織り組織とすることもできるが、この場合、繊度の小さいマルチフィラメントが摩耗により細径化されたり、切断されてしまうことが有り得る。また、表皮材が押圧されたときには、繊度の小さいマルチフィラメントが車両内装用基体側へと押し込まれ、側面発光型光ファイバーが表皮材の最外表面に表出してしまい、摩耗したり、傷付いたりすることも考えられる。
【0010】
更に、繊度が十分に大きくないマルチフィラメントを用いたときは、このマルチフィラメントが摩耗した場合に、側面発光型光ファイバーが表皮材の最外表面に表出してしまい、側面発光型光ファイバーの摩耗、傷付きが十分に抑えられないかもしれない。一方、繊度が過大なマルチフィラメントを用いたときは、表皮材としての見栄えが変化してしまい、マルチフィラメントが押圧され、変形したときには、遮光されることもあって、見栄えが低下することも有り得る。
【0011】
また、特許文献2に記載された光ファイバー織物では、普通糸からなる経糸と緯糸による光ファイバーの表面の覆われ方により、光ファイバーの側面漏光によって、鮮明な発光パターンが表現される。しかし、特許文献2には、光ファイバー織物を所定形状及び寸法に裁断したときに、裁断された端縁部における光ファイバーのほつれを抑えることについては全く言及されていない。
【0012】
また、従来、合成樹脂繊維等を用いて製織された織物では、所定形状及び寸法に裁断したときに、裁断された端縁部において繊維がほつれ易い場合、熱融着糸を織り込むことにより、ほつれが抑えられている。更に、モノフィラメントであるとともに、断面が略円形であり、滑り易い光ファイバーを織り込んだ織物では、裁断時に特に光ファイバーがほつれ易く、このほつれを抑えるため熱融着糸の使用が考えられる。
【0013】
上述のように、光ファイバーのほつれを抑えるため熱融着糸を使用することが考えられるが、熱融着糸はそのまま用いられるのではなく、通常、マルチフィラメントと撚り合わせた繊度の大きい熱融着性繊維として使用される。そのため、例えば、光ファイバーを緯糸とし、熱融着性繊維を経糸として製織した場合、繊度の大きい熱融着性繊維は間隔をおいて織り込まざるを得ず、光ファイバーと熱融着性繊維とは点状に接触することになる。その結果、光ファイバーを十分に固定することができず、裁断時に光ファイバーがほつれてしまうことがあり得る。
【0014】
本発明は、上述の従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、合成樹脂繊維であるマルチフィラメント又はモノフィラメント、側面発光型光ファイバー、及び熱融着性繊維を用いて製織され、車室内の意匠面を形成するとともに、照明として機能し、光ファイバーが摩耗したり、傷ついたりすることが防止、又は少なくとも抑えられる車両内装用表皮材を提供することを目的とする。また、隣接する合成樹脂繊維と、側面発光型光ファイバーと、が長さ方向において接合され、所定形状及び寸法に裁断したときに、裁断された端縁部における側面発光型光ファイバーのほつれが抑えられる車両内装用表皮材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下のとおりである。
1.樹脂製の車両内装用基体に接合される車両内装用表皮材において、
経糸又は緯糸として、合成樹脂繊維、側面発光型光ファイバー及び熱融着性繊維を用いて製織された織物を備え、
前記合成樹脂繊維の繊度(dS)と、前記側面発光型光ファイバーの繊度(df)との比(dS/df)が1.5~7.0であり、
前記合成樹脂繊維と、前記合成樹脂繊維に隣接する前記側面発光型光ファイバーと、が各々の長さ方向において前記熱融着性繊維により接合されていることを特徴とする車両内装用表皮材。
2.前記合成樹脂繊維がマルチフィラメントであり、前記マルチフィラメントの繊度(dS1)と、前記側面発光型光ファイバーの繊度(df)との比(dS1/df)が2.0~7.0である前記1.に記載の車両内装用表皮材。
3.前記合成樹脂繊維がモノフィラメントであり、前記モノフィラメントの繊度(dS2)と、前記側面発光型光ファイバーの繊度(df)との比(dS2/df)が1.5~6.0である前記1.に記載の車両内装用表皮材。
4.隣り合う前記合成樹脂繊維の間に、複数の前記側面発光型光ファイバーが織り込まれており、隣接する前記側面発光型光ファイバーが各々の長さ方向において前記熱融着性繊維により接合されている前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の車両内装用表皮材。
5.前記熱融着性繊維は、マルチフィラメントと、前記マルチフィラメントより融点の低い熱融着糸と、が撚られているものである前記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の車両内装用表皮材。
6.前記マルチフィラメントは、前記接合の後、構成糸として残存する前記5.に記載の車両内装用表皮材。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両内装用表皮材は、経糸又は緯糸として、合成樹脂繊維、側面発光型光ファイバー、及び熱融着性繊維を用いて製織され、合成樹脂繊維の繊度(dS)と、側面発光型光ファイバーの繊度(df)との比(dS/df)が1.5~7.0である。また、合成樹脂繊維と、これに隣接する側面発光型光ファイバーと、が各々の長さ方向において熱融着性繊維により接合されている。
上述のように、適正な範囲の繊度の合成樹脂繊維を用いることにより、側面発光型光ファイバーが合成樹脂繊維より内方に位置し、表皮材の最外表面に表出することがなく、乗員及び他の物品との接触により側面発光型光ファイバーが摩耗したり、傷付いたりすることが防止、又は少なくとも抑えられる。また、合成樹脂繊維の繊度が過大であって、表皮材の見栄えが損なわれることがなく、側面発光型光ファイバーからの発光が遮光されて表皮材の意匠性が損なわれることもない。更に、車両内装用表皮材を所定形状及び寸法に裁断するときに、モノフィラメントであるとともに、断面が略円形で滑り易い側面発光型光ファイバーのほつれを十分に抑えることもできる。
また、合成樹脂繊維がマルチフィラメントであり、マルチフィラメントの繊度(dS1)と、側面発光型光ファイバーの繊度(df)との比(dS1/df)が2.0~7.0である場合は、マルチフィラメントの繊度が過小とならず、マルチフィラメントが摩耗したとしても、側面発光型光ファイバーの摩耗、傷付きは十分に抑えられる。
更に、合成樹脂繊維がモノフィラメントであり、モノフィラメントの繊度(dS2)と、側面発光型光ファイバーの繊度(df)との比(dS2/df)が1.5~6.0である場合は、マルチフィラメントと比べて繊度を小さくしても、側面発光型光ファイバーの摩耗、傷付きを十分に抑えることができる。
また、隣り合う合成樹脂繊維の間に、複数の側面発光型光ファイバーが織り込まれており、隣接する側面発光型光ファイバーが各々の長さ方向において熱融着性繊維により接合されている場合は、隣り合う合成樹脂繊維間に複数の側面発光型光ファイバーが連続して織り込まれているにも拘わらず、車両内装用表皮材の裁断時に、側面発光型光ファイバーのほつれを十分に抑えることができる。
更に、熱融着性繊維が、マルチフィラメントと、マルチフィラメントより融点の低い熱融着糸と、が撚られているものである場合は、製織時には、織り込む繊維としての十分な強度を有し、合成樹脂繊維と側面発光型光ファイバーとの間、及び隣り合う側面発光型光ファイバー間に、確実に、且つ容易に織り込むことができ、裁断時の側面発光型光ファイバーのほつれを十分に抑えることができる。
また、マルチフィラメントが、接合の後、構成糸として残存する場合は、熱融着性繊維が有する熱融着糸が溶融し、合成樹脂繊維と側面発光型光ファイバーとの間等を接合させた後も車両内装用表皮材の強度などが低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】マルチフィラメントを用いた本発明に係る車両内装用表皮材の一部の模式的な平面図である。
【
図2】
図1の車両内装用表皮材のA-A断面を表す模式的な断面図である。
【
図3】
図2の一部を拡大して表す模式的な断面図である。
【
図4】
図1の車両内装用表皮材が車両内装用基体に接合された形態を表す模式的な斜視図である。
【
図5】
図2の車両内装用表皮材のマルチフィラメントの側部に裏止め糸が織り込まれた形態を表す模式的な断面図である。
【
図6】モノフィラメントを用いた本発明に係る車両内装用表皮材の一部の模式的な平面図である。
【
図7】
図6の車両内装用表皮材のB-B断面を表す模式的な断面図である。
【
図8】
図6の車両内装用表皮材が車両内装用基体に接合された形態を表す模式的な斜視図である。
【
図9】マルチフィラメントを用いた本発明の車両内装用表皮材の製造に使用される織物の模式的な平面図である。
【
図10】
図9の織物のa-a断面を表す模式的な断面図である。
【
図11】熱融着性繊維の一例の模式的な正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、図も参照しながら詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0019】
本発明の車両内装用表皮材100は、樹脂製の車両内装用基体5に接合される(
図4、8参照)。また、経糸又は緯糸として、合成樹脂繊維1b、1a、側面発光型光ファイバー2、及び熱融着性繊維3を用いて製織された織物10(
図9及び
図9のa-a断面を表す
図10参照)を備える。そして、合成樹脂繊維1b、1aの繊度(d
s)と、側面発光型光ファイバー3の繊度(d
f)との比(d
s/d
f)が1.5~7.0であり、合成樹脂繊維1b、1aと、合成樹脂繊維1a、1bに隣接する側面発光型光ファイバー2と、が各々の長さ方向において熱融着性繊維3により接合されている(
図1~8の接合部3a参照)ことを特徴とする。
【0020】
織物10は、経糸又は緯糸として、合成樹脂繊維1b、1a、側面発光型光ファイバー2、及び熱融着性繊維3を用いて織製される。また、合成樹脂繊維1b、1aと、この合成樹脂繊維1b、1aに隣接する側面発光型光ファイバー2との間には、熱融着性繊維3が織り込まれる。従って、側面発光型光ファイバー2が緯糸として織り込まれるときは、熱融着性繊維3も緯糸として織り込まれ、側面発光型光ファイバー2に隣接する合成樹脂繊維も緯糸1bとして織り込まれる(
図9参照)。一方、側面発光型光ファイバー2が経糸として織り込まれるときは、熱融着性繊維3も経糸として織り込まれ、側面発光型光ファイバー2に隣接する合成樹脂繊維も経糸1aとして織り込まれる。
【0021】
車両内装用表皮材100において、側面発光型光ファイバー2及び熱融着性繊維3を、経糸として織り込むか、緯糸として織り込むかは特に限定されず、織組織及び用いる織機の種類等により、適宜設定することができる。更に、製織に用いる織機も特に限定されず、織機としては、例えば、レピア織機(伊国、イテマウィービング社製、型式「G6500、R9500」)、ジャカード織機(仏国、ストーブリ社製、型式「CX880、DX110、LX1602、SXB」)、ドビー織機(仏国、ストーブリ社製、型式「UVIVAL500」)等が挙げられる。
【0022】
また、合成樹脂繊維1a、1bの繊度(d
s)と、側面発光型光ファイバー2の繊度(d
f)との比(d
s/d
f)は1.5~7.0であればよいが、合成樹脂繊維1a、1bがマルチフィラメント(
図1等参照)であるかモノフィラメント(
図6等参照)であるかによって、比(d
s/d
f)をより適正な範囲に設定することが好ましい。より具体的には、合成樹脂繊維1a、1bがマルチフィラメントであるときは、比(d
s/d
f)は、上述の数値範囲内で、より大きい数値範囲とすることが好ましい。一方、モノフィラメントであるときは、上述の数値範囲内で、より小さい数値範囲とすることが好ましい。
【0023】
例えば、
図1のように、合成樹脂繊維1a、1bとしてマルチフィラメントを用いた場合は、マルチフィラメントの繊度(d
S1)と、側面発光型光ファイバー2の繊度(d
f)との比(d
S1/d
f)は2.0~7.0であることが好ましく、3.0~7.0であることがより好ましく、4.5~7.0であることが特に好ましい。このように、合成樹脂繊維1a、1bがマルチフィラメントである場合は、モノフィラメントであるときと比べて、乗員及び他の物品との接触による摩耗、及び押圧による変形を生じ易いため、適正な繊度の範囲内で比較的繊度の大きい繊維を用いることが好ましい。
【0024】
更に、マルチフィラメントの繊度は特に限定されないが、側面発光型光ファイバー2が車両内装用表皮材100の車室内側の最外表面に表出し、摩耗したり、傷付いたりするのを防止するためには、繊度は1000~4000dtex、特に2000~4000dtex、更に2500~4000dtexであることが好ましい。
【0025】
一方、
図6のように、合成樹脂繊維1a、1bとしてモノフィラメントを用いた場合は、モノフィラメントの繊度(d
S2)と、側面発光型光ファイバー2の繊度(d
f)との比(d
S2/d
f)は1.5~6.0であることが好ましく、1.5~4.0であることがより好ましく、1.5~3.5であることが特に好ましい。このように、合成樹脂繊維1a、1bがモノフィラメントである場合は、マルチフィラメントであるときと比べて、乗員及び他の物品との接触による摩耗、及び押圧による変形を生じ難いため、適正な繊度の範囲内で比較的繊度の小さい繊維を用いることが好ましい。
【0026】
また、モノフィラメントの繊度は特に限定されないが、側面発光型光ファイバー2が車両内装用表皮材100の車室内側の最外表面に表出し、摩耗したり、傷付いたりするのを防止するためには、繊度は1000~3500dtex、特に1000~3000dtex、更に1000~2000dtexであることが好ましい。
【0027】
また、合成樹脂繊維1a、1b間に連続して織り込まれる側面発光型光ファイバー2の本数は、特に限定されないが、車両内装用表皮材100の内装材としての意匠性、及び織物としての形態、強度等の観点で1~5本とすることができる。更に、合成樹脂繊維1a、1bがマルチフィラメントであるときは(
図1、2参照)、連続して織り込まれる側面発光型光ファイバー2の本数は2~5本とすることができ、3~4本であることが好ましい。
【0028】
一方、モノフィラメントであるときは(
図6、7参照)、その光沢を利用し、側面発光型光ファイバー2からの光を反射させて十分な輝度を確保することができる。そのため、連続して織り込まれる側面発光型光ファイバー2の本数は、合成樹脂繊維1a、1bがマルチフィラメントであるときと比べて少なくすることができる。具体的には、1~3本とすることができ、2~3本であることが好ましい。また、合成樹脂繊維1a、1bがモノフィラメントであれば、側面発光型光ファイバー2が2本であっても、更には1本であっても、意匠性に優れた、見栄えの良い車両内装用表皮材100とすることができる。
【0029】
熱融着性繊維3は、少なくともその一部が所定の温度で溶融し、合成樹脂繊維1b、1aと、これに隣接する側面発光型光ファイバー2、及び側面発光型光ファイバー2が隣接して織り込まれているときは、これらの側面発光型光ファイバー2を、各々の長さ方向において接合することができればよく、その材質等は特に限定されない。また、熱融着性繊維3の少なくとも一部が溶融する温度も特に限定されないが、車両内装用表皮材100の製造工程のうちのいずれかにおいて溶融し、合成樹脂繊維1b、1aと、隣接する側面発光型光ファイバー2、及び隣接する側面発光型光ファイバー2を接合することができれば、別途、熱融着のための工程を設ける必要がなく好ましい。
【0030】
上述のように、熱融着性繊維3の材質、溶融する温度は特に限定されないが、織物10を車両内装用表皮材100とする工程において溶融し、熱融着性繊維3として作用させるためには、比較的、低温、例えば、70~100℃、特に70~90℃で溶融する材質であることが好ましい。このような熱融着性繊維3としては、例えば、非晶性共重合ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリル繊維等が挙げられる。
【0031】
更に、熱融着性繊維3は、通常、熱融着糸31のみで用いられるのではなく、熱融着糸31が溶融するときに溶融しない合成樹脂繊維からなるマルチフィラメント32と、熱融着糸31と、が撚られた形態の複合繊維として用いられる(
図11参照)。また、マルチフィラメント32としては、合成樹脂繊維1b、1aと同様の材質で、繊度の小さいマルチフィラメントを用いることができる。このような複合繊維とすることで、十分な強度等を有し、織物10を製織するときに容易に織り込むことができる。更に、溶融し、接合の作用をした後も、マルチフィラメント32は、そのまま車両内装用表皮材100の構成糸として残存し、車両内装用表皮材100の強度等の低下が抑えられる。
【0032】
また、合成樹脂繊維1a、1bの材質は特に限定されず、各種の合成樹脂からなる繊維を用いることができる。この合成樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。合成樹脂としては、特にポリアミド系樹脂及びポリエステル系樹脂が好ましい。
【0033】
更に、光ファイバーは、通常、コア層とクラッド層とから構成されており、コア層の外周をクラッド層が被覆した構造を有する。そして、コア層及びクラッド層の各々の材質、屈折率、反射率等により、側面から適度に漏光し、発光する側面発光型光ファイバー2とすることができる。更に、コア層及びクラッド層は、それぞれ単層でもよく、複数層が積層された形態であってもよい。光ファイバーとしては、樹脂製光ファイバー、石英系光ファイバー等の各種のものがあるが、本発明では、織物に織り込まれる光ファイバーであるため、柔軟で曲げ衝撃等に優れ、容易に製織することができる樹脂製の側面発光型光ファイバー2が用いられる。
【0034】
また、既存の樹脂製光ファイバー等の側面発光型光ファイバー2の直径は0.1~10mm程度であるが、製織のし易さ、発光ムラの低減、又は汎用性の観点から、直径が0.15~1.5mm、特に0.15~1.0mm、更には0.15~0.4mmの側面発光型光ファイバー2を用いることが好ましい。更に、樹脂製の側面発光型光ファイバー2の繊度は、コア層及びクラッド層を構成する各々の樹脂の種類にもよるが、例えば、前述のように、直径が0.25mmであるときに、繊度が607dtexの側面発光型光ファイバー2が挙げられ、好ましい繊度の範囲は、マルチフィラメント及びモノフィラメントの各々の繊度との好ましい繊度比により定まることになる。
【0035】
樹脂製光ファイバーのコア層としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート等のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、及びポリオレフィン系樹脂等の優れた透明性を有する樹脂が用いられていることが好ましい。更に、クラッド層としては、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニリデンテトラフルオロエチレン共重合樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、トリフルオロイソプロピルメタクリレート樹脂等の優れた透明性を有するとともに、コア層より屈折率が小さい樹脂が用いられていることが好ましい。
【0036】
更に、車両内装用表皮材100に織り込まれた側面発光型光ファイバー2を発光させるためには、複数本の側面発光型光ファイバー2の先端部が束ねられ、その端面と対向する位置に光源が配置される。光源は特に限定されないが、通常、LEDが用いられる。そして、LED光源から束ねられた側面発光型光ファイバー2の端面に向けて光を照射させ、導光させることで、側面発光型光ファイバー2が発光する。また、複数本の側面発光型光ファイバー2の先端部を束ねる場合、車両内装用表皮材100の形状、寸法(面積)によって、可能であれば、車両内装用表皮材100に織り込まれた全ての側面発光型光ファイバー2を束ねてもよく、所定本数の側面発光型光ファイバー2が束ねられた複数の側面発光型光ファイバー束としてもよい。
【0037】
また、車両内装用基体5は、通常、合成樹脂製の成形体であり、成形型を用いて加熱、加圧するプレス成形法により、ドアトリム、ルーフトリム等の車両用内装材の形状に成形される。また、合成樹脂は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、及びナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂が用いられる。これらの合成樹脂のうちでは、成形のし易さ、強度等の観点でポリプロピレンが好ましい。また、剛性等の物性を向上させるため、ガラス繊維、カーボン繊維等が配合された繊維強化樹脂を用いることもできる。
【0038】
尚、本発明においては、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施形態とすることができる。例えば、側面発光型光ファイバー2は、側面発光型光ファイバー2とマルチフィラメント又はモノフィラメントとを用いて製織される織物の2重織、3重織などの織組織に基づき、また、糸密度を調整すること等により、車両内装用表皮材100の最外表面に表出し難く、より内方側の奥まった位置に織り込まれている形態とすることもできる。
【0039】
更に、側面発光型光ファイバー2の車両内装用表皮材100の車室内側の最外表面への表出は、マルチフィラメント及びモノフィラメントの繊度と、側面発光型光ファイバー2の繊度とを、前述のような繊度比とすることにより防止することができるが、側面発光型光ファイバー2の繊度が小さければ、製織時に加わる張力によってマルチフィラメントが細径化したとしても、その繊維径が側面発光型光ファイバー2の径より小さくなることが防止される。これによっても、側面発光型光ファイバー2が車両内装用表皮材100の車室内側の最外表面に表出することを抑えることができる。また、この側面発光型光ファイバー2の車両内装用表皮材100の最外表面への表出は、織組織及び糸密度、並びに繊度の大小の各々の作用、効果を併せて勘案することによって、より効率よく防止することができる。
【0040】
また、合成樹脂繊維1b、1aの、熱融着性繊維3により側面発光型光ファイバー2と接合されていない側には、裏止め糸4を織り込むことができる(
図5参照)。このように裏止め糸4を織り込むことにより、合成樹脂繊維1b、1aの横方向へのずれを防止することができ、車両内装用表皮材100を所定の形状、及び寸法を有するものとすることができる。特に、合成樹脂繊維1b、1aがマルチフィラメントであるときは、モノフィラメントと比べて柔軟で変形し易く、繊度が大きいこともあって、裏止め糸4によるずれ防止の作用がより効果的に奏される。
【0041】
更に、合成樹脂繊維1b、1aとしては、原着糸などを用いることができるが、意匠性の観点で、色調の異なる合成樹脂繊維1b、1aを織り込むこともできる。例えば、グレー系の落ち着いた色調の車両内装用表皮材100に、明色系の合成樹脂繊維1b、1aを織り込むことにより、意匠面でアクセントが付与され、この明色系の合成樹脂繊維1b、1aにより図柄を構成することもできる。色調の異なる合成樹脂繊維1b、1aは1種類のみでもよく、複数種であってもよい。
【0042】
また、前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施態様の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その態様において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施態様を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は車両内装用基体に接合され、車室内の意匠面を形成し、間接的な車室内照明として利用することができる車両内装用表皮材の技術分野において利用することができる。特に、ドアトリム、ルーフトリムなどの車両内装材の表皮材の技術分野において有用である。
【符号の説明】
【0044】
100;車両内装用表皮材、10;織物、1b、1a;合成樹脂繊維、2;側面発光型光ファイバー、3;熱融着性繊維、31;熱融着糸、32;マルチフィラメント、4;裏止め糸、5;車両内装用基体。