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特許6999909不飽和カルボン酸製造用触媒、不飽和カルボン酸の製造方法、および不飽和カルボン酸エステルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】不飽和カルボン酸製造用触媒、不飽和カルボン酸の製造方法、および不飽和カルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/188 20060101AFI20220128BHJP
   B01J 27/053 20060101ALI20220128BHJP
   B01J 27/185 20060101ALI20220128BHJP
   B01J 27/187 20060101ALI20220128BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20220128BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20220128BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20220128BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20220128BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
B01J27/188 Z
B01J27/053 Z
B01J27/185 Z
B01J27/187 Z
C07C51/235
C07C57/055 B
C07C67/08
C07C69/54 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019510016
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012918
(87)【国際公開番号】W WO2018181544
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2019-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2017070810
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017095617
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017225100
(32)【優先日】2017-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物等 発行日 平成29年5月23日 刊行物 石油学会年会・秋季大会講演要旨集2017巻,第23頁,公益社団法人 石油学会 公開者 岩倉宏樹、保田修平、大友亮一、神谷裕一、平田純、菅野充、二宮航、大谷内健 石油学会年会・秋季大会講演要旨集2017巻の第23頁にて、酸を添加したシリカ担持クロム酸化物触媒によるメタクロレイン選択酸化に関する技術を公開。 (2)刊行物等 開催日 平成29年5月24日 集会名、開催場所 石油学会第58回年会(第66回研究発表会)タワーホール船堀(東京都江戸川区船堀4-1-1) 公開者 岩倉宏樹、保田修平、大友亮一、神谷裕一、平田純、菅野充、二宮航、大谷内健 石油学会第58回年会(第66回研究発表会)にて、酸を添加したシリカ担持クロム酸化物触媒によるメタクロレイン選択酸化に関する技術を公開。 (3)刊行物等 ウェブサイトの掲載日 平成29年7月23日 ウェブサイトのアドレス https://www.jstage.jst.go.jp/article/sekiyu/2017/0/2017_10/_pdf/-char/ja 公開者 岩倉宏樹、保田修平、大友亮一、神谷裕一、平田純、菅野充、二宮航、大谷内健 上記アドレスのウェブサイトで公開された石油学会年会・秋季大会講演要旨集2017巻にて、酸を添加したシリカ担持クロム酸化物触媒によるメタクロレイン選択酸化に関する技術を公開。 (4)刊行物等 発行日 平成29年9月5日 刊行物 第120回触媒討論会講演予稿集,11_2E.pdf(フラッシュメモリで配布),触媒学会 公開者 岩倉宏樹、保田修平、大友亮一、神谷裕一、平田純、菅野充、二宮航 第120回触媒討論会講演予稿集,11_2E.pdfにて、タングストリン酸を添加したシリカ担持クロム酸化物触媒によるメタクロレイン選択酸化に関する技術を公開。 (5)刊行物等 開催日 平成29年9月13日 集会名、開催場所 第120回触媒討論会 愛媛大学城北キャンパス(愛媛県松山市文京町3) 公開者 岩倉宏樹、保田修平、大友亮一、神谷裕一、平田純、菅野充、二宮航 第120回触媒討論会にて、タングストリン酸を添加したシリカ担持クロム酸化物触媒によるメタクロレイン選択酸化に関する技術を公開。
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】菅野 充
(72)【発明者】
【氏名】平田 純
(72)【発明者】
【氏名】二宮 航
(72)【発明者】
【氏名】神谷 裕一
(72)【発明者】
【氏名】大友 亮一
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104001542(CN,A)
【文献】特開2001-137709(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035573(WO,A1)
【文献】特開2017-039717(JP,A)
【文献】国際公開第2008/102644(WO,A1)
【文献】特開平08-073753(JP,A)
【文献】特開昭58-110559(JP,A)
【文献】米国特許第05599631(US,A)
【文献】国際公開第2009/136537(WO,A1)
【文献】特開2015-120133(JP,A)
【文献】特開2005-058909(JP,A)
【文献】特開昭58-006243(JP,A)
【文献】特公昭45-016096(JP,B1)
【文献】特表2013-508127(JP,A)
【文献】ZHOU,L. et al.,Journal of Catalysis,NL,Elsevier,2015年06月29日,Vol.329,pp.431-440
【文献】POSSATO, L. G. et al.,Catalysis Today,2016年08月16日,Vol.289,pp.20-28,doi: 10.1016/j.cattod.2016.08.005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07C 51/235
C07C 57/055
C07C 67/08
C07C 69/54
C07B 61/00
DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される成分Aと、無機酸または有機酸を含む化合物である成分Bを含んでなる、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いる不飽和カルボン酸製造用触媒(但し、前記無機酸がリンモリブデン酸イオンを含む無機酸であることを除く)であって、成分Aが金属酸化物であり、前記成分Bがブレンステッド酸性を示す成分である不飽和カルボン酸製造用触媒
M’x’ (I)
(式(I)中、Mは周期表第4周期の遷移金属元素より選択される少なくとも一種の元素、M’は周期表第4周期以外の金属元素から選択される少なくとも一種の元素、Oは酸素を示す。x、x’およびyは各成分の原子比率を表し、xは1以上の整数であり、x’はx=1に対して0≦x’≦0.4であり、yは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【請求項2】
前記無機酸が、B、Si、Ge、N、P、As、Sb、BiおよびSからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む請求項1に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項3】
前記無機酸が、ホウ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオンおよびヘテロポリ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含む請求項1に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸イオンがリンタングステン酸イオンである請求項3に記載の不飽和カボン酸製造用触媒。
【請求項5】
下記式(I)で表される成分Aと、無機酸または有機酸を含む化合物である成分Bを含んでなる、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いる不飽和カルボン酸製造用触媒であって、成分Aが金属酸化物であり、前記無機酸が、ホウ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオンおよびリンタングステン酸イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、不飽和カルボン酸製造用触媒。
M’x’ (I)
(式(I)中、Mは周期表第4周期の遷移金属元素より選択される少なくとも一種の元素、M’は周期表第4周期以外の金属元素から選択される少なくとも一種の元素、Oは酸素を示す。x、x’およびyは各成分の原子比率を表し、xは1以上の整数であり、x’はx=1に対して0≦x’≦0.4であり、yは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【請求項6】
前記式(I)において、MがCr、Mn、Co、CuおよびFeより選択される少なくとも一種である請求項5に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項7】
前記式(I)において、0≦x’<0.1である請求項5または6に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項8】
前記成分Bが無機酸を含む化合物である請求項1から7のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項9】
さらに、不溶性または難溶性の成分Cを含む請求項1から8のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項10】
成分Cが、SiO、Al、SiO-Al、ZrO、ゼオライト類、活性炭からなる群から選択される少なくとも1種である請求項9に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項11】
成分Aと成分Bの質量比(A/B)が、0.0001~1000である請求項1から10のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項12】
前記質量比(A/B)が0.1~300である、請求項11に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項13】
Cr、MnおよびCo、並びにこれらの酸化物より選択される少なくとも一種からなる成分Aと、無機酸を含む成分Bを含んでなる、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いる不飽和カルボン酸製造用触媒であって、前記無機酸がH BO 、H PO 、H SO 、HNO およびリンタングステン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む不飽和カルボン酸製造用触媒
【請求項14】
前記不飽和アルデヒドがメタクロレインであり、前記不飽和カルボン酸がメタクリル酸である請求項1から13のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒の存在下で、不飽和アルデヒドと分子状酸素または分子状酸素含有ガスを接触気相酸化する不飽和カルボン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和カルボン酸製造用触媒、不飽和カルボン酸の製造方法、および不飽和カルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化能を有する成分と酸特性を有する成分を担持した触媒は様々な反応に用いられている。例えば、特許文献1には炭化水素の変換反応などに有用な固体酸触媒の製造方法として、白金担持酸化物と固体酸粒子とを混合する方法が提案されている。特許文献2には、脱臭触媒としてセラミック繊維に、ゼオライト、金および鉄の金属酸化物を担持した触媒が開示されている。特許文献3には燃焼排ガス中のメタンを酸化除去するための触媒として、酸型のゼオライトと酸化ジルコニウムからなる担体に白金およびイリジウムを担持した触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-102729号公報
【文献】特開平5-131138号公報
【文献】特開2009-56455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載の触媒は、異性化や酸化分解反応に用いられている。本発明の目的は、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いられる新規な触媒、該触媒を使用した不飽和カルボン酸の製造方法、および不飽和カルボン酸エステルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]~[1]および[1’]~[8’]である。
[1]下記式(I)で表される成分Aと、無機酸または有機酸を含む化合物である成分Bを含んでなる、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いる不飽和カルボン酸製造用触媒(但し、前記無機酸がリンモリブデン酸イオンを含む無機酸であることを除く)であって、成分Aが金属酸化物であり、前記成分Bがブレンステッド酸性を示す成分である不飽和カルボン酸製造用触媒
M’x’ (I)
(式(I)中、Mは周期表第4周期の遷移金属元素より選択される少なくとも一種の元素、M’は周期表第4周期以外の金属元素から選択される少なくとも一種の元素、Oは酸素を示す。x、x’およびyは各成分の原子比率を表し、xは1以上の整数であり、x’はx=1に対して0≦x’≦0.4であり、yは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
[2]前記無機酸が、B、Si、Ge、N、P、As、Sb、BiおよびSからなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む[1]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[3]前記無機酸が、ホウ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオンおよびヘテロポリ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含む[1]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[4]前記ヘテロポリ酸イオンがリンタングステン酸イオンである[3]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【0006】
[5]下記式(I)で表される成分Aと、無機酸または有機酸を含む化合物である成分Bを含んでなる、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いる不飽和カルボン酸製造用触媒であって、成分Aが金属酸化物であり、前記無機酸が、ホウ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオンおよびリンタングステン酸イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、不飽和カルボン酸製造用触媒。
M’x’ (I)
(式(I)中、Mは周期表第4周期の遷移金属元素より選択される少なくとも一種の元素、M’は周期表第4周期以外の金属元素から選択される少なくとも一種の元素、Oは酸素を示す。x、x’およびyは各成分の原子比率を表し、xは1以上の整数であり、x’はx=1に対して0≦x’≦0.4であり、yは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
[6]前記式(I)において、MがCr、Mn、Co、CuおよびFeより選択される少なくとも一種である[5]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[7]前記式(I)において、0≦x’<0.1である[5]または[6]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[8]前記成分Bが無機酸を含む化合物である[1]から[7]のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[9]さらに、不溶性または難溶性の成分Cを含む[1]から[8]のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[10]成分Cが、SiO、Al、SiO-Al、ZrO、ゼオライト類、活性炭からなる群から選択される少なくとも1種である[9]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[11]成分Aと成分Bの質量比(A/B)が、0.0001~1000である[1]から[10]のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[12]前記質量比(A/B)が0.1~300である、[11]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
【0007】
[13]Cr、MnおよびCo、並びにこれらの酸化物より選択される少なくとも一種からなる成分Aと、無機酸を含む成分Bを含んでなる、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いる不飽和カルボン酸製造用触媒であって、前記無機酸がHBO、HPO、HSO、HNOおよびリンタングステン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む不飽和カルボン酸製造用触媒。
[1]前記不飽和アルデヒドがメタクロレイン、前記不飽和カルボン酸がメタクリル酸である[1]から[1]のいずれかに記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[15][1]から[14]のいずれか1項に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒の存在下で、不飽和アルデヒドと分子状酸素または分子状酸素含有ガスを接触気相酸化する不飽和カルボン酸の製造方法。
【0009】
[1’]酸化能を有する成分Aと酸特性を有する成分Bを含んでなる、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いる不飽和カルボン酸製造用触媒。
[2’]さらに、不溶性または難溶性の成分である成分Cを触媒成分として含む[1’]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[3’]前記成分Aが金属または金属酸化物である[1’]または[2’]に記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[4’]前記成分Aとして、Cr、MnおよびCoより選択される少なくとも一種を含む[1’]から[3’]のいずれかに記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[5’]前記成分Bとして無機酸を含む[1’]から[4’]のいずれかに記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[6’]前記成分Bとして、HBO、HPO、HSO、HNOおよびヘテロポリ酸からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含む[1’]から[5’]のいずれかに記載の不飽和カルボン酸製造用触媒。
[7’][1’]から[6’]のいずれかに記載の不飽和カルボン酸製造用触媒の存在下で、不飽和アルデヒドと分子状酸素または分子状酸素含有ガスを接触気相酸化する不飽和カルボン酸の製造方法。
[8’][7’]に記載の不飽和カルボン酸の製造方法により製造された不飽和カルボン酸をエステル化する不飽和カルボン酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いられる新規な触媒、該触媒を使用した不飽和カルボン酸の製造方法、および不飽和カルボン酸エステルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[不飽和カルボン酸製造用触媒]
本発明者らは、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造するのに好適に使用できる触媒について鋭意検討した結果、酸化成分および酸成分を含む触媒であって、前記酸化成分と前記酸成分とが異なる化学種である触媒を用いることによって、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明に係る不飽和カルボン酸製造用触媒は、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得るために用いられる、少なくとも二つの異なる成分Aおよび成分Bを含む不飽和カルボン酸製造用触媒である。ここで、前記成分Aは酸化能を有する成分、前記成分Bは酸特性を有する成分である。不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造する反応において、異なる種類の成分として成分Aと成分Bとが共存することにより、本質的に成分Aは酸化触媒、成分Bは酸触媒として機能すると考えられる。具体的には、成分Bは不飽和アルデヒドのプロトン化に寄与すると考えられる。また、成分Aはプロトン化した不飽和アルデヒドへの酸素原子の付加に寄与すると考えられる。したがって、本発明に係る触媒を用いることで不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸への反応が進行すると推測される。
【0013】
(成分A)
成分Aは酸化能を有する成分であり、下記式(I)で表される、触媒反応に用いる反応基質(不飽和アルデヒド)を酸化することができる成分である。また、触媒として機能させるためには、自身の酸化還元反応が可逆的に起こることが好ましい。
【0014】
M’x’ (I)
(式(I)中、Mは周期表第4周期金属元素より選択される少なくとも一種の元素、M’は周期表第4周期以外の金属元素から選択される少なくとも一種の元素、Oは酸素を示す。x、x’およびyは各成分の原子比率を表し、xは1以上の整数であり、x’はx=1に対して0≦x’≦0.4であり、yは前記各成分の原子比を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【0015】
成分Aは金属酸化物が挙げられ、前記Mを主成分とする。Mは具体的には、周期表第4周期の金属元素である、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、ZnおよびGaより選択される少なくとも一種の元素である。これらの中でも、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸への反応がより進行しやすい観点から、Mは周期表第4周期の遷移金属元素であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnより選択される少なくとも一種の元素であることが好ましく、Cr、Mn、Co、CuおよびFeより選択される少なくとも一種の元素であることがより好ましく、CrおよびFeより選択される少なくとも一種の元素であることが更に好ましい。Mは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
M’は周期表第4周期以外の金属元素から選択される少なくとも一種の元素であり、特にMとともに複合金属酸化物を形成し得る元素であることが好ましい。M’としては、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt及びAuより選択される少なくとも一種の元素であることがより好ましい。
前記式(I)において、x=1に対してx’は0≦x’≦0.4を満たし、0≦x’<0.1を満たすことが好ましく、0≦x’≦0.01を満たすことが更に好ましく、x’=0が特に好ましい。
成分Aは、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸への反応がより進行しやすい観点から、中でも、下記式(II)で表される金属酸化物が好ましい。
MOy’ (II)
(式(II)中、Mは周期表第4周期金属元素より選択される少なくとも一種の元素、y’はMの価数に対応する酸素の原子比である。)
式(II)中のMは、式(I)で説明したMと同じ元素が例示できる。特に一種のM元素の酸化物、例えば、Cr、Mn、Co、CuO、Feであることが好ましく、Cr、Feであることがより好ましい。
【0016】
(成分B)
成分Bは酸特性を有する成分であり、無機酸または有機酸であって、ブレンステッド酸性またはルイス酸性、或いはその両方を示す成分である。具体的には、無機酸としては例えば、HPO、HBO、HNO、HSOおよびヘテロポリ酸等が挙げられる。有機酸としては例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸等が挙げられる。前記ヘテロポリ酸としては、例えばHPW1240、HSiW1240、HPMo1240、HPVMo40、HPVMo1040、HPV1040、HPVMo1140、HPVW1140などが挙げられる。不飽和アルデヒドの酸化反応は一般に200~450℃程度の高温で実施されるため、成分Bは無機酸であることが好ましい。また前記無機酸はホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)および硫黄(S)からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含むことが好ましい。これらの中でも、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸への反応がより進行しやすい観点から、前記無機酸はHBO、HPO、HSO、HNO、ヘテロポリ酸からなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましい。また前記無機酸は、ホウ酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオンおよびヘテロポリ酸イオンからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。また、前記無機酸の酸強度が強いほど不飽和アルデヒドのアルデヒド基のプロトン化が促進され、続く成分Aによる酸化が進みやすくなることから、前記無機酸として、構成元素にMoやWを含むヘテロポリ酸を用いることが好ましく、リンタングステン酸イオンを含むヘテロポリ酸を用いることが特に好ましい。これらの成分Bは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0017】
なお、成分Aと成分Bの両方に該当する成分は存在する。すなわち1つの化合物で成分Aと成分Bの両方を含むものは存在する。しかしながら本発明では成分Aと成分Bとは異なる成分として存在する必要があり、成分Aと成分Bをそれぞれ異なる成分として含む。すなわち、触媒が成分Aと成分Bの両方に該当する成分一種のみを含む場合には本発明の効果を奏することはできず、該成分以外の成分Aまたは成分Bをさらに含むことが求められる。
【0018】
(成分C)
本発明に係る触媒は、成分Aおよび成分B以外に、さらに不溶性または難溶性の成分である成分Cを触媒成分として含むことが好ましい。成分Cは、成分Aおよび成分Bとは異なる、成分Aおよび成分Bを保持するための固体成分であって、触媒担体の役割を果たす。すなわち、成分Cは担体成分であり、成分Aおよび成分Bは成分C上に担持されることができる。ここで、「不溶性」とは水に全く不溶であることを示す。また、「難溶性」とは25℃の水に対する溶解度が100mg/100mL以下であることを示す。成分Aおよび成分Bを水やその他の溶媒に溶解または分散させ、溶液またはスラリーの状態で成分Aおよび成分Bを成分C上に保持することができる。そのため、成分Cは成分Aおよび成分Bの溶液またはスラリーと混合してもほとんど溶解しないことが好ましい。
【0019】
成分Cとしては特に制限はないが、無機化合物であって熱安定性が高いものが好ましい。具体的には、SiO、Al、SiO-Al、ZrO、各種ゼオライト(ゼオライト類)、活性炭などを用いることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0020】
なお、金属酸化物の中には成分Aとしても成分Cとしても使用可能なものが存在するが、これらが共存する場合、より酸化力が強い方が酸化反応に働く。従って、より酸化力の強い方を成分A、より酸化力の弱い方を成分Cと見なす。ここで、金属酸化物の酸化力は、酸素原子あたりの生成熱-ΔH によって評価され、-ΔH が小さいほど酸化力が強いことを示す。なお、各種金属酸化物の-ΔH は、例えばY.Morooka and A.Ozaki,J.Catal.,5,116(1966)、清山哲郎ほか、触媒,8,306(1966)等に記載されている。
【0021】
(含有比率)
本発明に係る触媒に含まれる、成分Aと成分Bの各質量をそれぞれm、mとしたとき、成分Aと成分Bとの含有比率(m/m、以下A/B質量比とも示す)は、不飽和カルボン酸収率の観点から、0.0001~1000が好ましく、0.001~500がより好ましく、0.01~400がさらに好ましく、0.1~300が特に好ましい。
【0022】
本発明に係る触媒が成分Cを含む場合、成分A、成分Bおよび成分Cの各質量をそれぞれm、m、mとしたとき、成分Aの含有比率(m/(m+m)×100)は1~99質量%が好ましく、5~90質量%がより好ましく、10~85質量%がさらに好ましく、20~80質量%が特に好ましく、30~60質量%が最も好ましい。成分Bの含有比率(m/(m+m+m)×100)は0.001~99質量%が好ましく、0.01~90質量%がより好ましく、0.1~70質量%がさらに好ましく、0.1~50質量%が特に好ましい。なお、成分Cの含有比率の好ましい範囲は、前述した成分Aおよび成分Bの含有比率の好ましい範囲より自ずと定まる。
【0023】
[触媒の製造方法]
本発明に係る触媒の製造方法は特に限定されないが、例えば下記工程を含む方法により調製することができる。
工程(A):成分Aを溶媒に溶解または分散させて、溶液または溶媒分散液を得る。
工程(B):工程(A)で得られた溶液または溶媒分散液に成分Cを加えて撹拌し、減圧留去などにより溶媒を除去して固形分を得る。
工程(C):工程(B)で得られた固形分を焼成して焼成物を得る。
工程(D):成分Bを溶媒に溶解または分散させて、溶液または溶媒分散液を得る。
工程(E):工程(C)で得られた焼成物に工程(D)で得られた溶液または溶媒分散液を加えて撹拌し、乾燥して溶媒を除去して固形分を得る。
工程(F):工程(E)で得られた固形分を焼成して焼成物を得る。
【0024】
各成分の原料化合物としては特に制限はない。成分Aおよび成分Bの原料としては特に限定されないが、例えば成分元素の水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物、酢酸塩等が挙げられる。成分Cを用いる場合には、成分Cとの混合のしやすさを考えると、用いる溶媒への溶解性が高い原料が好ましい。例えば水を溶媒として用いる場合、成分Aの原料としては、Cr(NO、Mn(NO、Co(NOおよびその水和物などが挙げられる。また、成分Bの原料としては、HPW1240、HSiW1240、HPMo1240、HPVMo40、HPVMo1040、HPV1040、HPVMo1140、HPVW1140、HBO、HPO、HSO、HNOなど成分Bをそのまま、又は溶媒で希釈したものが挙げられる。溶媒は特に限定されないが、例えば水や、エタノール、アセトンなどの有機溶媒が挙げられる。
【0025】
また、成分Cを用いる場合には、工程(C)に示されるように、成分Aと成分Cとを含む溶液または溶媒分散液の乾燥後の固形分を焼成することが好ましい。焼成により、成分Aが成分C上に十分に固定化される。焼成は例えば、空気雰囲気下、200~600℃で1~100時間実施される。また、工程(F)に示されるように、成分Bは、成分Aと成分Cとを含む焼成物を得た後に、該焼成物と混合して再度焼成することが好ましい。
得られた触媒はそのまま不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸への反応に用いてもよいが、焼成してから用いてもよい。焼成は、例えば200~600℃で1~100時間実施される。
【0026】
また、本発明に係る触媒は、例えば下記工程を含む方法により調製することができる。
工程(1):成分Aの原料を溶媒に溶解または分散させて、溶液または溶媒分散液を得る。
工程(2):前記溶液または溶媒分散液に成分Cを加え、溶媒を除去して固形分iを得る。
工程(3):前記固形物iに成分Bの原料を含む化合物を加え、成分A、成分Bおよび成分Cを含む固形分iiを得る。
【0027】
(工程(1))
前記成分Aの原料としては特に限定されないが、例えば成分元素の水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物、酢酸塩等が挙げられる。成分Cを用いる場合には、成分Cとの混合のしやすさを考えると、用いる溶媒への溶解性が高い原料が好ましい。例えば水を溶媒として用いる場合、成分Aの原料としては、Cr(NO、Mn(NO、Co(NO、Fe(NO、Cu(NOおよびその水和物などが挙げられる。溶媒は特に限定されないが、例えば水や、エタノール、アセトンなどの有機溶媒が挙げられる。
【0028】
(工程(2))
前記成分Cとしては、前述の通りSiO、Al、SiO-Al、ZrO、各種ゼオライト、活性炭などを用いることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
また前記溶液または溶媒分散液から溶媒を除去する方法としては、減圧蒸留を用いることが好ましい。
また、成分Cを用いる場合には、本工程において固形分iを焼成することが好ましい。焼成により、成分Aが成分C上に十分に固定化される。焼成は例えば、空気雰囲気下、200~600℃で1~100時間実施される。
【0029】
(工程(3))
前記成分Bの原料としては、HPW1240、HSiW1240、HPMo1240、HPVMo40、HPVMo1040、HPV1040、HPVMo1140、HPVW1140、HBO、HPO、HSO、HNOなどが挙げられる。
本工程において、前記成分Bの原料は溶媒に溶解又は分散させて前記固形物iに添加することができる。溶媒は特に限定されないが、例えば水や、エタノール、アセトンなどの有機溶媒が挙げられる。この場合、前記成分Bの原料を溶媒に溶解又は分散させて前記固形物iに添加した後、溶媒を除去することにより固形分iiを得ることができる。
また前記成分Bを前記成分Cに担持させたものを前記固形物iに混合し、固形分iiを得ることもできる。
【0030】
(焼成工程)
前記固形分iiはそのまま不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸への反応に用いてもよいが、焼成してから用いることが好ましい。焼成は、例えば200~600℃で1~100時間実施される。
【0031】
また、本発明に係る触媒は、例えば下記工程を含む方法により調製することができる。
工程(1’):成分Aの原料を溶媒に溶解または分散させて、溶液または溶媒分散液を得る。
工程(2’):前記溶液または溶媒分散液に成分Cおよび成分Bの原料を加え、溶媒を除去して成分A、成分Bおよび成分Cを含む固形分iiiを得る。
【0032】
(工程(1’))
前記成分Aの原料としては特に限定されないが、例えば成分元素の水酸化物、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物、酢酸塩等が挙げられる。成分Cを用いる場合には、成分Cとの混合のしやすさを考えると、用いる溶媒への溶解性が高い原料が好ましい。例えば水を溶媒として用いる場合、成分Aの原料としては、Cr(NO、Mn(NO、Co(NO、Fe(NO、Cu(NOおよびその水和物などが挙げられる。溶媒は特に限定されないが、例えば水や、エタノール、アセトンなどの有機溶媒が挙げられる。
【0033】
(工程(2’))
前記成分Cとしては、前述の通りSiO、Al、SiO-Al、ZrO、各種ゼオライト、活性炭などを用いることができる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
前記成分Bの原料としては、HPW1240、HSiW1240、HPMo1240、HPVMo40、HPVMo1040、HPV1040、HPVMo1140、HPVW1140、HBO、HPO、HSO、HNOなどが挙げられる。これらは溶媒に溶解又は分散させて前記固形物iに添加することができる。溶媒は特に限定されないが、例えば水や、エタノール、アセトンなどの有機溶媒が挙げられる。
また溶媒は減圧蒸留を用いて除去し、固形物iiiを得ることが好ましい。
【0034】
(焼成工程)
前記固形分iiiはそのまま不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸への反応に用いてもよいが、焼成してから用いることが好ましい。焼成は、例えば200~600℃で1~100時間実施される。
また、前記固形分ii又は前記固形分iiiの焼成工程において得られた触媒は、粉砕、整粒してその粒子径を数十~数百ミクロン(μm)としたり、ペレット状に成形したりして使用することができる。本発明に係る触媒は、固定床、流動床、移動床等のいずれの反応様式にも適用できるが、固定床での反応に用いることが好ましい。固定床で使用する場合、除熱のため、海砂、シリコンカーバイドなどの不活性な希釈剤と混合して用いることが好ましい。
【0035】
[不飽和カルボン酸の製造方法]
本発明に係る不飽和カルボン酸の製造方法は、本発明に係る不飽和カルボン酸製造用触媒の存在下で、不飽和アルデヒドの分子状酸素または分子状酸素含有ガスによる接触気相酸化反応を行う。該方法によれば、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を得ることができる。不飽和アルデヒドとしては、例えば(メタ)アクロレイン、クロトンアルデヒド(別名:β-メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(別名:β-フェニルアクロレイン)等が挙げられる。中でも(メタ)アクロレインが好適である。不飽和アルデヒドから製造される不飽和カルボン酸は、該不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基に変化した不飽和カルボン酸であり、例えば不飽和アルデヒドが(メタ)アクロレインの場合、(メタ)アクリル酸が得られる。なお、「(メタ)アクロレイン」はアクロレインおよびメタクロレインを示し、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸およびメタクリル酸を示す。
【0036】
前記接触気相酸化反応における原料ガス組成は、特に限定されないが、不飽和アルデヒド:酸素:水蒸気:希釈ガス=1:0.1~10:0~30:0~60(モル比)が好ましい。ここで、希釈ガスとしては、窒素、炭酸ガス等が好ましい。接触気相酸化反応は、加圧下または減圧下で実施してもよいが、大気圧付近の圧力で実施することが好ましい。反応温度は200~400℃が好ましく、220~350℃がより好ましい。原料ガスの供給量は、空間速度(SV)で100~100000hr-1が好ましく、400~30000hr-1がより好ましい。
【0037】
[不飽和カルボン酸エステルの製造方法]
本発明に係る不飽和カルボン酸エステルの製造方法は、本発明に係る方法により得られる不飽和カルボン酸のエステル化を行う。該方法によれば、不飽和アルデヒドから得られる不飽和カルボン酸を用いて、不飽和カルボン酸エステルを得ることができる。不飽和カルボン酸と反応させるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。得られる不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等が挙げられる。反応は、スルホン酸型カチオン交換樹脂等の酸性触媒の存在下で行うことができる。反応温度は50~200℃が好ましい。
【実施例
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、その趣旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における成分Aの含有比率および成分Bの含有比率は以下のように定義される。ここで、担体(成分C)上に担持されたCr、Mn、Co、Cu、Feについては、X線回折測定の結果を基に、それぞれすべてCr、Mn、Co、CuO、Feとして計算している。
【0039】
成分Aの含有比率(質量%)=m/(m+m)×100。
成分Bの含有比率(質量%)=m/(m+m+m)×100。
:成分A(金属酸化物)の質量
:成分B(HPW1240、HPOまたはHSO)の質量
:成分C(SiOまたはSiO-Al)の質量
なお、m、mおよびmは原料の仕込み量から求めた値とする。
【0040】
また、成分Aと成分Bとの含有比率(A/B質量比)は以下のように定義される。
A/B質量比=m/m
また、以下の実施例におけるメタクリル酸収率は次の通り定義される。
メタクリル酸収率(モル%)=(生成したメタクリル酸のモル数)/(供給したメタクロレインのモル数)×100。
【0041】
[実施例1]
(触媒の調製)
Cr(NO・9HO(式量400)9.895g(0.02474mol、Crの質量:1.286g)を超純水100mLに加えて撹拌し、完全に溶解させた。この水溶液にSiO(商品名:アエロジル300、日本アエロジル株式会社製)3gを加え、室温で1時間撹拌した。ナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて約5Torr(約7×10N/m)、ウォーターバス温度50℃で乾固するまで溶媒を減圧留去した。得られた固体を100℃で一晩乾燥させた。マッフル炉にて空気中、550℃(昇温速度10℃/min)にて5時間焼成し、成分Aの含有比率が38.52質量%であるCrO/SiO(固形分i)を得た。
【0042】
リンタングステン酸(日本無機化学工業(株)製)100gを超純水30mLに加えて撹拌し、完全に溶解させた。溶解が不十分な場合は、完全に溶解するまで超純水を少しずつ加えた。分液漏斗に移し、ジエチルエーテル50mLを加え、気体を抜き取りながら振り混ぜ、その後一晩静置した。下層のエーテル相を別の分液漏斗に移し、そこへ超純水50mLを加えて、気体を抜き取りながら振り混ぜ、その後一晩静置した。この操作を合計5回行った。下層のエーテル相をナスフラスコに移し、超純水50mLを加えた。エバポレーターを用いて、約5Torr(約7×10N/m)、ウォーターバス温度40℃の条件で溶媒を減圧留去した。固体が析出し溶液がシャーベット状になったところで一旦エバポレーターを止め、そこに超純水50mLを加えた。再び、ロータリーエバポレーターを使い溶媒を減圧留去した。この操作を5回繰り返した。5回目は液面に少量の結晶が析出したところで減圧留去を止めた。ナスフラスコを湯浴に浸けて析出した結晶を再溶解させた。得られた飽和水溶液を室温で一晩静置した。生成した結晶をデカンテーションによって母液から分離し、60℃で一晩乾燥した後、さらに室温で2日間風乾し、HPW1240・nHOを得た。該HPW1240・nHOのTG-DTAプロファイルを測定し、結晶水の数(nの値)を算出した。この値に基づいて0.08mol/LのHPW1240水溶液50mLを調製した。
【0043】
先に調製した成分Aの含有比率が38.52質量%であるCrO/SiO(1.8g)に、先に調製した0.08mol/LのHPW1240水溶液3.91mL(HPW1240の物質量:0.3128mmol、HPW1240の質量:0.901g)をincipient wetness法で担持した。具体的には、ビーカーに量り取ったCrO/SiOの粉体に、前記粉体の全体が適度に湿る程度の少量のHPW1240水溶液をパスツールピペットを用いて滴下し、ガラス棒で良くかき混ぜた。その後、100℃で15~30分程度乾燥させた。HPW1240水溶液の全量を滴下するまでこの操作を繰り返した。得られた粉末(固形分ii)を60℃で一晩乾燥させた後、マッフル炉を用いて空気中、250℃(昇温速度10℃/min)で2時間焼成し、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-CrO/SiO触媒を得た。得られた触媒のX線回折(Cu-Kα線を使用)を測定したところ、三価の酸化クロムおよびHPW1240の結晶構造が認められ、少なくとも酸化能を有する成分AであるCrと、酸特性を有する成分BであるHPW1240とが存在していることが確認された。
【0044】
(触媒評価試験)
得られたHPW1240-Cr/SiO触媒を250~500μmに整粒した。触媒1gと、250~500μmに整粒した海砂(和光純薬工業(株)製)3gとを物理混合し、ガラス製反応管内に充填し、反応装置に接続した。O:HO:N=10.7:17.9:71.4(体積比)の混合ガスを空間速度(SV)1680hr-1で流しながら320℃に昇温し、1時間加熱した。その後、反応浴温度(反応温度)300℃にて、メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=3:6:13:78(モル比)の原料ガスを空間速度(SV)4320hr-1の条件で流し、メタクリル酸収率の評価を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
CrO/SiOへの担持の際に使用したHPW1240水溶液の量を0.868mL(HPW1240の質量:0.20g)に変更した以外は、実施例1と同様にして成分Bの含有比率が10.00質量%であるHPW1240-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
CrO/SiOへの担持の際に使用したHPW1240水溶液の量を7.81mL(HPW1240の質量:1.80g)に変更した以外は、実施例1と同様にして成分Bの含有比率が49.99質量%であるHPW1240-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0047】
[実施例4]
CrO/SiOへの担持の際に使用したHPW1240水溶液の量を18.2mL(HPW1240の質量:4.19g)に変更した以外は、実施例1と同様にして成分Bの含有比率が69.97質量%であるHPW1240-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
実施例1において調製した、成分Aの含有比率が38.52質量%であるCrO/SiO(固形分i)を触媒として用いたこと以外は、実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
CrOを担持していないSiOに対して、実施例1と同様の方法によりHPW1240水溶液をincipient wetness法で担持し、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240/SiO触媒を得た。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0050】
[実施例5]
反応温度を350℃に変更した以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0051】
[実施例6]
反応温度を400℃に変更した以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0052】
[実施例7]
実施例1における触媒評価試験後、続けて温度300℃のままで水蒸気の供給を停止し、原料ガス組成をメタクロレイン:酸素:窒素=3:6:76(モル比)、空間速度(SV)を3670hr-1に変更してメタクリル酸収率の評価を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0053】
[実施例8]
Cr(NO・9HOに代えて、Mn(NO・6HO(式量287)6.717g(0.0234mol、Mnの質量:1.286g)を用いた以外は、実施例1のCrO/SiOの調製と同様の方法により成分Aの含有比率が38.11質量%であるMnO/SiO(固形分i)を調製した。CrO/SiOに代えて前記MnO/SiOを用いた以外は、実施例1のHPW1240-Cr/SiO触媒の調製と同様の方法により、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-MnO/SiO触媒を調製した。得られた触媒のX線回折(Cu-Kα線を使用)を測定したところ、三価の酸化マンガンおよびHPW1240の結晶構造が認められ、少なくとも酸化能を有する成分AであるMnと、酸特性を有する成分BであるHPW1240とが存在していることが確認された。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0054】
[比較例3]
実施例8において調製した、成分Aの含有比率が38.11質量%であるMnO/SiO(固形分i)を触媒として用いたこと以外は、実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0055】
[実施例9]
Cr(NO・9HOの使用量を23.083g、超純水の使用量を233.28mLに変更した以外は、実施例1のCrO/SiOの調製と同様の方法により成分Aの含有比率が59.37質量%であるCrO/SiO(固形分i)を調製した。前記CrO/SiOを用いた以外は、実施例1のHPW1240-Cr/SiO触媒の調製と同様の方法により、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0056】
[実施例10]
SiOに代えて、SiO-Al(触媒学会参照触媒、JRC-SAL-2)を用いた以外は、実施例1のCrO/SiOの調製と同様の方法により成分Aの含有比率が38.52質量%であるCrO/SiO-Al(固形分i)を調製した。前記CrO/SiO-Alを用いた以外は、実施例1のHPW1240-Cr/SiO触媒の調製と同様の方法により、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-Cr/SiO-Al触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0057】
[実施例11]
Cr(NO・9HOの使用量を53.869g、超純水の使用量を544.32mLに変更した以外は、実施例1のCrO/SiOの調製と同様の方法により成分Aの含有比率が77.33質量%であるCrO/SiO(固形分i)を調製した。前記CrO/SiOを用いた以外は、実施例1のHPW1240-Cr/SiO触媒の調製と同様の方法により、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0058】
[実施例12]
Cr(NO・9HOに代えて、Co(NO・6HO(式量291.03)12.69g(0.04360mol、Coの質量:2.570g)を用いた以外は、実施例1のCrO/SiOの調製と同様の方法により成分Aの含有比率が53.85質量%であるCoO/SiO(固形分i)を調製した。CrO/SiOに代えて前記CoO/SiOを用いた以外は、実施例1のHPW1240-Cr/SiO触媒の調製と同様の方法により、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-CoO/SiO触媒を調製した。得られた触媒のX線回折(Cu-Kα線を使用)を測定したところ、二価と三価の混合原子価となっているスピネル型の酸化コバルトおよびHPW1240の結晶構造が認められ、少なくとも酸化能を有する成分AであるCoと、酸特性を有する成分BであるHPW1240とが存在していることが確認された。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0059】
[比較例4]
実施例12において調製した、成分Aの含有比率が53.85質量%であるCoO/SiO(固形分i)を触媒として用いたこと以外は、実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0060】
[実施例13]
PW1240水溶液に代えて、0.08mol/LのHPO水溶液0.343mLを用いた以外は、実施例1と同様にして成分Bの含有比率が0.15質量%であるHPO-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0061】
[実施例14]
PW1240水溶液に代えて、0.08mol/LのHSO水溶液0.515mLを用いた以外は、実施例1と同様にして成分Bの含有比率が0.22質量%であるHSO-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0062】
[実施例15]
PW1240水溶液に代えて、0.08mol/LのHPO水溶液3.34mLを用いた以外は、実施例1と同様にして成分Bの含有比率が1.43質量%であるHPO-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0063】
[実施例16]
PW1240水溶液に代えて、0.08mol/LのHSO水溶液5.01mLを用いた以外は、実施例1と同様にして成分Bの含有比率が2.14質量%であるHSO-Cr/SiO触媒を調製した。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0064】
[実施例17]
Cr(NO・9HO(式量400)9.895g(0.02474mol、Crの質量:1.286g)を超純水100mLに加えて撹拌し、完全に溶解させた。この水溶液にSiO(商品名:アエロジル300、日本アエロジル株式会社製)を3g加え、さらに0.08mol/LのHPW1240水溶液9.02mL(HPW1240の物質量0.7216mmol、HPW1240の質量2.078g)を加え1時間、室温で撹拌した。その後、ナスフラスコに移し、エバポレーターを用いて約5Torr、ウォーターバス温度50℃で乾固するまで溶媒を減圧留去した。得られた固体(固形分iii)を100℃で一晩乾燥させた。マッフル炉にて空気中、250℃にて1時間焼成し、成分Aの含有比率が38.52質量%、成分Bの含有比率が29.87質量%であるHPW1240-CrO/SiO触媒を得た。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0065】
[実施例18]
Cr(NO・9HOに代えてCu(NO・3HO(式量 241.6)4.889g(0.020mol、Cuの質量1.286g)を用いた以外は、実施例1のCrO/SiOの調製と同様の方法により成分Aの含有比率が34.92質量%であるCuO/SiO(固形分i)を調製した。CrO/SiOに代えて前記CuO/SiOを用いた以外は、実施例1のHPW1240-CrO/SiO触媒の調製と同様の方法により、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-CuO/SiO触媒を調製した。得られた触媒のX線回折(Cu-Kα線を使用)を測定したところ、二価の酸化銅およびHPW1240の結晶構造が認められ、少なくとも酸化能を有する成分AであるCuOと、酸特性を有する成分BであるHPW1240とが存在していることが確認された。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0066】
[実施例19]
Cr(NO・9HOに代えてFe(NO・9HO(式量 404.0)9.301g(0.023mol、Feの質量1.286g)を用いた以外は、実施例1のCrO/SiOの調製と同様の方法により成分Aの含有比率が37.99質量%であるFeO/SiO(固形分i)を調製した。CrO/SiOに代えて前記FeO/SiOを用いた以外は、実施例1のHPW1240-CrO/SiO触媒の調製と同様の方法により、成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240-FeO/SiOを調製した。得られた触媒のX線回折(Cu-Kα線を使用)を測定したところ、三価の酸化鉄およびHPW1240の結晶構造が認められ、少なくとも酸化能を有する成分AであるFeと、酸特性を有する成分BであるHPW1240とが存在していることが確認された。前記触媒を用いた以外は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0067】
[実施例20]
実施例1において調製した、成分Aの含有比率が38.52質量%であるCrO/SiO(固形分i)と、比較例2と同様の方法により調製した成分Bの含有比率が33.35質量%であるHPW1240/SiOを、それぞれ250~500μmに整粒した。0.5gのCrO/SiOと0.5gのHPW1240/SiOを物理混合し、A成分の含有比率(A成分の質量/(A成分の質量+C成分(全SiO)の質量)×100)が23.11質量%、成分Bの含有比率が16.68質量%であるCrO/SiO-HPW1240/SiO(固形分ii)を得た。この触媒に250~500μmに整粒した海沙3.0gをさらに物理混合し、ガラス製反応管内に充填した。その後は実施例1と同様に触媒評価試験を行った。評価試験の結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
*1 成分Aと成分C中の含有比率
*2 成分A~C中の含有比率
*3 原料ガス組成 メタクロレイン:酸素:窒素=3:6:76(モル比)。その他はメタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=3:6:13:78(モル比)。
【0069】
酸化能を有する成分Aと酸特性を有する成分Bを含む触媒を用いた実施例ではいずれもメタクロレインからメタクリル酸を得ることができた。一方、触媒に成分Bを含まない比較例1、3および4、並びに触媒に成分Aを含まない比較例2では、いずれもメタクロレインからメタクリル酸を得ることはできず、異なる種類の成分として成分Aと成分Bとが共存することにより、メタクロレインからメタクリル酸を製造する反応が進行することがわかった。
【0070】
この出願は、2017年3月31日に出願された日本出願特願2017-070810、2017年5月12日に出願された日本出願特願2017-095617及び2017年11月22日に出願された日本出願特願2017-225100を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。