(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】施肥方法
(51)【国際特許分類】
A01C 21/00 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
A01C21/00 Z
(21)【出願番号】P 2017087577
(22)【出願日】2017-04-26
【審査請求日】2020-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2016095852
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 新
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-040791(JP,A)
【文献】特開平03-108437(JP,A)
【文献】特表2002-514670(JP,A)
【文献】特開2015-151332(JP,A)
【文献】特開昭48-090850(JP,A)
【文献】特開平07-115818(JP,A)
【文献】特開平07-115819(JP,A)
【文献】特公昭50-010225(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第105111021(CN,A)
【文献】特開平05-103521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 15/00-23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基肥として、
窒素質成分と硝化抑制材とを含む
液状肥料を、
水田の水口から灌漑水と共に直接水田へ投入することを特徴とする施肥方法。
【請求項2】
前記窒素質成分が尿素又はアンモニアであることを特徴とする請求項1記載の施肥方法。
【請求項3】
前記硝化抑制材がジシアンジアミド又は3,4-ジメチル-1H-ピラゾール・りん酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載の施肥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施肥方法に関し、詳しくは、基肥として水田に流し込み施肥を行う際の施肥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水田における稲作等の施肥の合理化、省力化のために、水稲栽培を行う圃場(水田)への追肥作業を行う際の施肥方法として、水田の水口から灌漑水と共に直接水田へ投入する、いわゆる流し込み施肥方法(水口流入施肥)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、追肥として流し込み施肥方法が用いられるが、基肥としては、従来から知られているように、水田に水を入れる前に被覆粒状肥料を動力散布機等で全面に施用した後に、耕転・入水・代掻きを行う必要があった。
【0005】
ここで、基肥として流し込み施肥方法が用いることができない理由としては、水田表層部において、肥料のアンモニア成分が亜硝酸と硝酸に変化し、脱窒作用によって窒素ガスとして大気中に失われてしまうために、肥料の利用効率が著しく低下してしまうためである。
【0006】
一方、追肥として流し込み施肥方法が有効なのは、追肥を行う生育中盤以降については、上根が水田表層部にまで拡張し、吸肥力が旺盛となるため、脱窒作用が起こっても、肥料の利用効率は低下しないからである。
【0007】
そこで本発明は、より施肥の合理化、省力化を達成することができ、かつ、基肥として流し込み施肥方法を用いても肥料の利用効率が高い施肥方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の施肥方法は、基肥として、窒素質成分と硝化抑制材とを含む液状肥料を、水田の水口から灌漑水と共に直接水田へ投入することを特徴としている。
【0009】
また、前記窒素質成分が尿素又はアンモニアであると好ましく、前記硝化抑制材がジシアンジアミド又は3,4-ジメチル-1H-ピラゾール・りん酸塩であると好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の施肥方法によれば、基肥として流し込み施肥方法(水口流入施肥)を用いても、脱窒作用による窒素ガスの大気への流出(揮散)を硝化抑制材によって軽減することができ、肥料の利用効率が向上するとともに、耕転・代掻きといった従来の基肥時の作業の省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例と比較例の移植後日数の経過における草丈を比較する図である。
【
図4】実施例と比較例の窒素吸収量を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において水田とは、灌漑水を湛えて作物を栽培する耕地をいい、本発明は、特に水田での水稲の栽培における施肥方法として好適である。
【0013】
本発明は、窒素質成分を含む肥料に硝化抑制材を添加し、水田の水口から灌漑水と共に直接水田へ投入する施肥方法を基肥として実施する。
【0014】
窒素質成分を含む肥料の肥料成分としては、尿素、硫安、塩安、硝安、石灰窒素、腐植酸アンモニア等を含んでいればよく、単肥であってもよい。また、過燐酸石灰、重過燐酸石灰、溶成りん肥、焼成りん肥、腐植酸りん肥等のリン酸肥料や硫酸加里、塩化加里、重炭酸加里、腐植酸加里、珪酸加里等の加里肥料とを含む化成肥料であってもよい。
【0015】
また、本発明に適用できる硝化抑制材については、肥料から生成されるアンモニアから硝酸への変化(硝酸化成)を遅らせ、この変化に関わる菌の増殖や活性を抑制するために使われる薬剤であればよく、ジシアンジアミド、3,4-ジメチル-1H-ピラゾール・りん酸塩、2-スルファニルアミドチアゾール(スルフォチァゾール)、グアニチオウレア(1-アミジノ-2-チオウレア)などが挙げられる。
【0016】
水田の水口から灌漑水と共に直接水田へ投入する際には、窒素質成分と硝化抑制材とを含んだ肥料を所定濃度の液状にしておいて水口に滴下しておいてもよい。流し込み施肥(水口流入施肥)のための周知の装置を用いることができ、水田に均一に施肥できることが好ましい。
【0017】
また、本発明の施肥方法は、水稲以外の水田で栽培できる作物、例えばレンコン、イグサ、クワイ、マコモタケ、ワサビ等の湛水栽培作物にも適用できる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに詳説するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0019】
<実施例1>
供試作物として水稲を用い、多湿黒ボク土(平塚市大神水田土壌)を供試土壌として、試験栽培を実施した。試験規模としては2連制の1/10000aワグネルポットで、栽培密度は、3株/ポットとした。また、肥料としては、窒素成分として尿素を0.30g/ポット、硝化抑制材としてジシアンジアミドを0.06g/ポットを450mlの水に溶解させ、ポット上部から流し込むことで施肥した。また、移植日に全面に、リン酸はBM重焼燐を、加里は塩化加里を用いて、それぞれ0.3g/ポットを施用した。
【0020】
<比較例1>
比較例1として、供試作物、供試土壌、試験規模、栽培密度は実施例と共通にしているが、肥料成分については、移植日に全面に、リン酸はBM重焼燐、加里は塩化加里を用いて、それぞれ0.3g/ポットを施用したのみで、窒素成分は一切施用しなかった。
【0021】
<比較例2>
比較例2として、供試作物、供試土壌、試験規模、栽培密度は実施例と共通にしているが、肥料成分については、窒素成分として尿素のみを0.30g/ポットを施用した。なお、実施例と同様に、移植日に全面に、リン酸はBM重焼燐を、加里は塩化加里を用いて、それぞれ0.3g/ポットを施用している。
【0022】
<比較例3>
比較例3については従来の基肥の施肥方法(いわゆる全面全層施肥)を想定したものであり、耕起前の施肥を想定し、移植20日前に、窒素成分として尿素のみを0.30g/ポットを全面に施用した。なお、実施例と同様に、移植日に全面に、リン酸はBM重焼燐を、加里は塩化加里を用いて、それぞれ0.3g/ポットを施用している。
【0023】
表1は、実施例及び各比較例の肥料施用量を示すものである。また、表2及び
図1は、実施例及び各比較例の移植後経過日数に伴う草丈の結果を示すものである。表3及び
図2は、実施例及び各比較例の移植後経過日数に伴う茎数の結果を示すものである。表4及び
図3は、実施例及び各比較例の移植後経過日数に伴う葉色の結果を示すものである。表5は、窒素吸収量・窒素利用率を示すものである。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
表5の結果から、実施例の窒素利用率が比較例2,3と比べて最も高かった。また、実施例における生育については、おそらくジシアンジアミドの影響により初期成育が抑制されたものの移植後44日目以降に著しく増加しており、実施例が従来の基肥の施肥方法を想定した比較例3と比べても遜色のないものといえる。
【0030】
これらの結果から、本発明の施肥方法が、肥料の利用効率が高く、また、作業の省力化も可能な基肥の施肥方法であることが分かる。
【0031】
<実施例2>
供試作物として水稲を用い、多湿黒ボク土(平塚市大神水田土壌)を供試土壌として、試験栽培を実施した。試験規模としては2連制の1/10000aワグネルポットで、栽培密度は、3株/ポットとした。肥料としては、窒素成分として尿素を0.40g/ポット施肥した。また、硝化抑制材としてジシアンジアミド(Dd)を、添加する窒素重量の10%がDd由来の窒素となるように添加した。また、移植日に全面に、リン酸は重焼燐を、加里は塩化加里を用いて、それぞれ0.4g/ポットを施用している。
【0032】
<実施例3>
実施例3として、供試作物、供試土壌、試験規模、栽培密度、肥料の窒素成分については実施例2と共通にしているが、硝化抑制材として3,4-ジメチル-1H-ピラゾール・りん酸塩(DMPP)を添加する窒素の2%の重量となるように添加した。なお、実施例2と同様に、移植日に全面に、リン酸は重焼燐を、加里は塩化加里を用いて、それぞれ0.4g/ポットを施用している。
【0033】
<比較例4>
比較例4として、供試作物、供試土壌、試験規模、栽培密度は実施例と共通にしているが、肥料成分については、窒素成分として尿素のみを0.40g/ポットを施用した。なお、実施例2,3と同様に、移植日に全面に、リン酸は重焼燐を、加里は塩化加里を用いて、それぞれ0.4g/ポットを施用している。
【0034】
表6は、実施例2,3及び比較例4の基肥施用64日後の乾物重及び窒素吸収量を示すものである。また、
図4は、同じく窒素吸収量を比較するグラフである。
【0035】
【0036】
硝化抑制材としてDd又はDMPPを添加した実施例2,3については、硝化抑制材を添加しなかった比較例4と比べて窒素吸収量が2倍近くとなり、水稲の生育向上につながっていることが分かる。
【0037】
これは、硝化抑制材を含む尿素液肥は、アンモニア態窒素の硝酸化成を抑制することが判明し、水田の水口から灌漑水と共に直接水田へ投入することで、基肥の施肥方法として十分に効果が発揮できることを裏付けるものである。
【0038】
なお、DdやDMPP以外の硝化抑制材として、表7の硝化抑制材が日本では登録されているが、これらにも同様の作用機序があると考えられ、本発明に適用可能である。また、それ以外のアンモニアから硝酸への変化(硝酸化成)を遅らせ、この変化に関わる菌の増殖や活性を抑制するために使われる薬剤においても、適用可能である。
【0039】