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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】多血小板血漿を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/16 20150101AFI20220112BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20220112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61K35/16 A
A61K35/19 A
A61P43/00 105
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017218583
(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公開番号】P2019089722
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】513066111
【氏名又は名称】株式会社細胞応用技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】藤田 千春
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-528225(JP,A)
【文献】特表2016-514716(JP,A)
【文献】特開2014-118362(JP,A)
【文献】特表2009-513269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷蔵保存後の血液を,20℃以上38℃以下で6時間以上48時間以下静置する静置工程を含む,多血小板血漿を製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって,前記冷蔵保存後の血液は,0℃以上10℃以下にて1時間以上5日以下保存された血液である,方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって,前記冷蔵保存後の血液は,0℃以上10℃以下にて1時間以上72時間以下保存された血液である,方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって,上清除去工程をさらに含む,方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって,前記上清除去工程は,遠心分離工程を含む,方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,多血小板血漿を製造する方法に関する。より詳しく説明すると,本発明は,冷蔵保存後の血液を用いてより血小板の量が多い多血小板血漿を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療において,多血小板血漿(「PRP」)の利用が期待されている(下記特許文献1)。
【0003】
血液から血小板を分離する際に,血液を細胞加工施設に輸送した場合,採血から長時間経過している場合がある。その場合に,従来の重力加速度(例えば200G,15分)を用いた分離方法を用いると,血小板の回収率が減少するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-232834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は,長時間冷蔵保存後の血液であっても,血小板の回収率を高めることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
長時間冷蔵保存後の血液から血小板を回収する場合,通常であれば,できる限り早期に血小板の回収を図ろうとする。本発明は,この常識と逆に,長時間冷蔵保存後の血液をあえて所定時間以上静置をすることで,血小板の回収率を飛躍的に高めることができるという,実施例による知見に基づく。
【0007】
本発明は,多血小板血漿を製造する方法に関する。この方法は,冷蔵保存後の血液を,20℃以上38℃以下で6時間以上48時間以下静置する静置工程を含む。このような静置工程を含むことで,長期間冷蔵保存した後であっても,血漿に,血小板を多く含ませることができるようになる。
【0008】
冷蔵保存後の血液の例は,0℃以上10℃以下にて1時間以上5日以下保存された血液である。冷蔵保存後の血液の別の例は,0℃以上10℃以下にて1時間以上72時間以下保存された血液である。この方法は,特に6時間以上(好ましくは12時間以上)冷蔵保存された血液に対して有効である。
【0009】
この方法の好ましい利用例は,上清除去工程をさらに含むものである。つまり,冷蔵保存後の血液を用いて,多血小板血漿を得るためには,例えば,冷蔵保存後の血液から遠心分離等を行って,上清を除去すればよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明は,長時間冷蔵保存後の血液であっても,血小板の回収率を高めることができる方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0012】
本発明は,多血小板血漿を製造する方法に関する。多血小板血漿(以下,「PRP」ともいう)は,血小板を多く含む血漿である。血球成分を含む全血においては,赤血球が約95%,白血球が3%,血小板が約1%の割合で含まれる。これに対し,多血小板血漿においては,血小板が高い割合で含まれる。PRPにおける血小板の割合は特に定義がない。一般に,全血における血漿の割合が約55%であることを考慮すると,血球成分が除去された血漿に含まれる血小板の割合は約2%程度と考えられる。このため,PRPは,3重量%以上,好ましくは5重量%以上,より好ましくは10重量%以上の血小板を含む血漿を意味する。
【0013】
この方法は,冷蔵保存後の血液を,20℃以上38℃以下で6時間以上48時間以下静置する静置工程を含む。このような静置工程を含むことで,長期間冷蔵保存した後であっても,血漿に,血小板を多く含ませることができるようになる。
【0014】
冷蔵保存後の血液の例は,0℃以上10℃以下にて1時間以上5日以下保存された血液である。冷蔵保存の温度は,1℃以上8℃以下,2℃以上6℃以下,又は3℃以上5℃以下でもよい。採血された際の血液の温度は,体温や室温に近い温度である。冷蔵保存の温度は,冷蔵庫といった冷蔵手段によって,血液の温度が下げられた後に,一定の温度幅にて管理される温度を意味する。冷蔵手段は,冷蔵庫であってもよいし,冷媒が存在する発泡スチロールでもよい。冷蔵保存される際の血液は,通常,静置された状態で,保管又は輸送される。冷蔵保存の時間の上限の例は,5日,4日,3日(72時間),60時間,2日(48時間),又は1日であってもよく,本発明が有効に効果を発揮するのは,特に保存期間が6時間以上,12時間以上,20時間以上,24時間以上又は30時間以上のものである。上記の上限時間及び下限時間は,適宜組み合わせることができる。
【0015】
静置工程は,冷蔵保存後の血液を,20℃以上38℃以下で6時間以上48時間以下静置する工程である。この工程は,室温にて,血液を静かに置いておくだけでよい。このため,静置工程における温度の例は,20℃以上38℃以下(22℃以上35℃以下,23℃以上30℃以下,又は24℃以上28℃以下)である。この工程の温度は,静置工程における平均温度であればよい。静置時間の例は,6時間以上48時間以下(12時間以上36時間以下,15時間以上30時間以下又は20時間以上28時間以下)である。
【0016】
このようにして静置工程を経た血液は,液体成分を除去することで容易に多血小板血漿を得ることができる。血液から,多血小板血漿を製造する方法の例は,遠心分離を用いることが一般的である。しかし,例えば,特許第4961354号公報,又は特許第5248665号公報に記載された多血小板血漿濃縮装置を用いる方法や,特許第4667039号公報に記載されたように白血球フィルターを用いて多血小板血漿濃縮装置を用いる方法を用いて多血小板血漿を得てもよい。
【0017】
本発明の多血小板血漿を製造する方法の例は,上清除去工程をさらに含むものである。つまり,冷蔵保存後の血液を用いて,多血小板血漿を得るためには,例えば,冷蔵保存後の血液から遠心分離等を行って,上清を除去すればよい。血液に対して遠心分離を行って多血小板血漿を得る方法は公知である。遠心分離により多血小板血漿を得る方法を簡単に説明する。まず,全血を弱遠心して赤血球を分離して血漿を得る。この血漿には白血球及び血小板が含まれる。さらに,得られた血漿を強遠心する。これにより,血小板は遠心力が加わる方向に集中し,上清には血小板がほぼ含まれない。強遠心された血漿から上清を取り除くか,又は遠心分離方向の所定量のみを取り出す。このようにすれば多血小板血漿得ることができる(特開2006-78428号公報参照)。具体的に説明すると,例えば,特許第4983204号公報,特許第5105925号公報,特許第5309995号公報,又は特許5691581号公報に記載された多血小板血漿分離装置を用いて,これらの文献に記載された方法に従って遠心分離を行うことで,血液から多血小板血漿を得ることができる。
【0018】
多血小板血漿(多血小板血漿製剤)において, 血小板の含有量は,5×10~1000×10cells/μLであることが好ましく,50×10~500×10cells/μLであってもよい。なお,PRP中の血小板の含有量は,多項目自動血球計数装置により測定することができる。1mLの多血小板血漿に対し血小板の含有量は,5×10~1000×10cells/mLであることが好ましく,5×10~1000×10cells/mLであってもよい。
【0019】
多血小板血漿製剤の剤型は,特に限定されず,注射剤,液体,ゲル状,粒子状,カプセル剤のいずれであってもよい。多血小板血漿製剤は,多血小板血漿のほかに多血小板血漿(PRP)ゲル化剤や溶媒を含む医薬用組成物であってもよい。 多血小板血漿(PRP)ゲル化剤は,PRPをゲル化させる機能を有する。これにより,罹患部における多血小板血漿の留置性が向上する。PRPゲル化剤の例は,カルシウム,カルシウム塩,フィブリン,フィブリノゲン,トロンビン,ビタミンK,からなる群から選択される少なくとも1つである。PRPゲル化剤は単独で用いても,2種以上を組み合わせて用いてもよい。PRPとPRPゲル化剤との比は,1:0.001~1:10(質量比)であることが好ましく,1:0.003~1:5(質量比)であることがより好ましい。溶媒の例は,水,生理食塩水,リンゲル液,DMSO,DMF,HCl,アルコール,及びグリセロールである。溶媒の量は,多血小板血漿の質量に対して,5~300質量%であることが好ましく,10~200質量%であることがより好ましい。
【0020】
多血小板血漿製剤の投与量は,患者の病態によっても異なるが,0.01~1mL/cmであることが好ましく,0.1~0.5mL/cmであることがより好ましい。
【0021】
このようにして得られた多血小板血漿(多血小板血漿製剤)を,例えば,多血小板血漿(PRP)療法に用いることができる。PRP療法は,自分の血液中に含まれる血小板の成長因子が持つ組織修復能力を利用し,ヒトに本来備わっている「治る力」を高め,治癒を目指す再生医療である。例えば,難治性皮膚潰瘍や褥瘡(床ずれ),熱傷,糖尿病患者の下肢の壊死または壊疽,歯科の歯槽骨や歯肉の再生促進のためにこれらの患部にPRPを投与すればよい。また,軟骨や筋肉の損傷部位にPRPを投与してもよいし,外科手術の際に患部にPRPを投与してもよい。変形性関節症やリウマチ,半月板損傷,上腕骨外側上顆炎の患部にPRPを投与してもよい。顔や首などの皮膚のしわ改善や発毛促進のために患者にPRPを投与してもよい。
【実施例
【0022】
[実施例1]
抗凝固剤として1.25mlのクエン酸ナトリウム注射液(扶桑薬品工業株式会社)を30mlのシリンジ(テルモ株式会社)に分取し,1名の健常者から25mlの採血を行い,5mlずつ5本の真空採血管(日本ベクトン・ディッキンソン)に分注した。そのうち,真空採血管1本は,血球計数装置(シスメックス株式会社)で血小板数を測定した。また,遠心分離(200Gで15分間)を行う1回遠心法を実施し,上清を多血小板血漿とした(試料1)。
真空採血管の2本を4℃で24時間保存した。そのうち1本の血液に対して,1回遠心法を実施し,上清を多血小板血漿とした(試料2)。残りの1本の血液を室温で24時間静置(1Gで24時間)し,上清を多血小板血漿とした(試料3)。
真空採血管の2つを4℃で48時間保存した。そのうち1本の血液に対して,1回遠心法を実施し,上清を多血小板血漿とした(試料4)。残りの1本の血液を室温で24時間静置(1Gで24時間)し,上清を多血小板血漿とした(試料5)。多血小板血漿の血小板数を血球計数装置で測定した。その結果を以下の表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1から,24または48時間経過した後に1回遠心法では回収できる血小板数に顕著な低下が見られたが,24時間または48時間経過した血液からでも24時間静置(1Gで24時間)することで,回収される血小板数の顕著な低下は認められなかった。
【0025】
[実施例2]
抗凝固剤として1.25mlのクエン酸ナトリウム注射液を30mlのシリンジに分取し,1名の健常者から25mlの採血を行い,5mlずつ5本の真空採血管に分注した。真空採血管1本は,遠心分離(200Gで15分間)を実施し,上清を分注し,分注した上清に対して遠心分離(1500Gで15分間)を行う2回遠心分離法を実施し,上清を除去し,0.5mlの多血小板血漿とした。残りの4本は,4℃で24時間または48時間保存し,時間経過した血液に対して,同様に2回遠心分離法を行い0.5mlの多血小板血漿とした。同様に,24時間または48時間経過した血液を室温で24時間静置(1Gで24時間)し,上清を分注し,分注した上清に対して遠心分離(1500Gで15分間)を行い,0.5mlの多血小板血漿とした。多血小板血漿の血小板に含まれているEGF(表皮増殖因子:Epidermal Growth Factor)の含有量をR&D System社のELISAキットを用いて調べた。
【0026】
【表2】
【0027】
表2から,24または48時間経過した後に2回遠心法では回収できる血小板に含まれるEGFに顕著な低下が見られたが,24時間または48時間経過した血液からでも24時間静置(1Gで24時間)することで,回収される血小板に含まれるEGFに顕著な低下は認められなかった。
【0028】
[参考例1]
保存時間を6時間とした以外は試料4と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は60%であった。
【0029】
[実施例3]
保存時間を6時間とした以外は試料5と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は93%であった。
【0030】
[実施例4]
保存時間を72時間とした以外は試料5と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は81%であった。
【0031】
[実施例5]
保存時間を5日とした以外は試料5と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は75%であった。
【0032】
[実施例6]
静置時間を6時間とした以外は試料5と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は80%であった。
[実施例7]
静置時間を24時間とした以外は試料5と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は79%であった。
[実施例8]
静置温度を25度とした以外は試料5と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は82%であった。
[実施例9]
静置温度を37度とした以外は試料5と同様にして上清を得た。その結果,血小板の回収率は86%であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は,多血小板血漿を製造する方法に関するので,医薬品産業や医療機器の技術分野にて利用されうる。