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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】ステント用合金及びステント
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/07 20060101AFI20220128BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61L 31/02 20060101ALI20220128BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20220128BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C22C19/07 Z
C22C30/00
A61L31/02
C22F1/10 J
C22F1/00 625
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 630G
C22F1/00 640A
C22F1/00 675
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018033181
(22)【出願日】2018-02-27
(65)【公開番号】P2019147982
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年11月16日~17日開催 一般社団法人 形状記憶合金協会主催 第10回 SMAシンポジウム2017 in 松江 島根県民会館(島根県松江市殿町158)
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】田崎 亘
(72)【発明者】
【氏名】澤口 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】土谷 浩一
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-208210(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0147494(US,A1)
【文献】特表2007-504362(JP,A)
【文献】特開2009-074104(JP,A)
【文献】特開2018-016888(JP,A)
【文献】特開2005-348919(JP,A)
【文献】NAGAI A. et al.,"Characterization of air-formed surface oxide film on a Co-Ni-Cr-Mo alloy (MP35N) and its change in Hanks' solution",Applied Surface Science,2012年02月18日,Vol.258,pp.5490-5498
【文献】大友拓磨、外3名,「Co‐Ni‐Cr‐Mo合金のヤング率および強度に及ぼす冷間加工‐熱処理の影響」,日本金属学会誌,2009年,第73巻, 第2号,pp.74-80
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00~19/07
C22C 30/00
A61L 31/02
C22F 1/10
C22F 1/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成が質量%で、Crが10~27%、Moが3~12%、Niが22~34%、残部が実質的にCo及び不可避不純物からなることを特徴とするステント用合金。
【請求項2】
組成が質量%で、Crが15~24%、Moが8~12%、Niが22~34%、残部が実質的にCo及び不可避不純物からなることを特徴とするステント用合金。
【請求項3】
組成が質量%で、Crが18~22%、Moが9~11%、Niが25~30%、残部が実質的にCo及び不可避不純物からなることを特徴とするステント用合金。
【請求項4】
所定条件での低サイクル疲労寿命が3000回以上であり、引張強さ750N/mm以上の力学的特性を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成を有するステント用合金。
【請求項5】
所定条件での低サイクル疲労寿命が4500回以上であり、引張強さ750N/mm以上の力学的特性を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成を有するステント用合金。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のステント用合金を用いてなるステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、胆のう、食道、腸、尿管などの体腔内の狭窄部などに留置されるステントに関し、特に狭窄等が生じた血管等を拡張して開通性を確保する為に用いられるステント及びこれに用いるステント用合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステントは、狭窄した体内脈管を拡張することを目的とした中空の管状物であり、大きく分けて自己拡張型ステントとバルーン拡張型ステントがある。
自己拡張型ステントは形状記憶合金を用いる事で自己拡張性を付与したステントであり、例えばNi-Ti系の超弾性合金等が実用化されている。
【0003】
バルーン拡張型ステントについては管径圧縮によりバルーンカテーテルに固定し、所定の位置にてバルーンの拡張により管径拡張するステントであり、主にステンレスのSUS316Lが使用されている(例えば、特許文献1)。例えば、血管などの体腔内に狭窄部が生じた場合、その狭窄部をバルーンカテーテルにより拡げた後に留置され、体腔内壁を内側から支持し、再狭窄を起こすことを防止するために使用される。ステントの挿入に際しては、ステントは収縮状態のバルーン部の外側に縮径状態で装着され、バルーン部と一緒に体腔内に挿入される。バルーン部を狭窄部に位置させた後、バルーン部を膨らませることによりステントも膨らみ、狭窄部を拡張してステント拡張状態を維持したまま留置され、バルーンカテーテルのみが引き抜かれる。
【0004】
ステント用合金としては、体内固定用ケーブルとしてASTMF90(Co-20Cr-15W-10Ni)や手術用インプラント用金属としてASTMF562(Co-20Cr-10Mo-35Ni)が知られている。特許文献2では、Co、Ni、Cr、Mo-Ti-Fe合金が開示されている。特許文献3では、金を主構成成分とし、銀、銅、パラジウム、ニッケル、コバルトから選ばれた少なくとも1つ以上の合金を用いて、電鋳で作製されたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-3126号公報
【文献】特開2011-208210号公報
【文献】特開2012-40050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、SUS316Lでは、ステンレス自体の耐食性の問題や異種金属との組み合わせによるガルバニック腐食等の問題が解決されておらず、長期埋め込みでは問題が起きる可能性がある。
ASTMF90、ASTMF562、引用文献2の合金では、低サイクル疲労強度が低いという問題があった。
【0007】
Ni-Ti系は軽量で且つ耐食性に優れたものであることから広く使用されている。しかし、抗張力が弱く適用部位によっては希望する管径に拡張できない場合がある。加えて冷間加工性に乏しく、加工コストが他の材料に比較して著しく高くつくという大きな欠点がある。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、加工性、機械的特性に優れ、低サイクル疲労強度の高いステント用合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のステント用合金は以下の構成を採用した。
[1] 組成が質量%で、Crが10~27%、Moが3~12%、Niが22~34%、残部が実質的にCo及び不可避不純物からなるステント用合金。
【0010】
[2] 組成が質量%で、Crが15~24%、Moが8~12%、Niが22~34%、残部が実質的にCo及び不可避不純物からなるステント用合金。
【0011】
[3] 組成が質量%で、Crが18~22%、Moが9~11%、Niが25~30%、残部が実質的にCo及び不可避不純物からなることを特徴とするステント用合金。
【0012】
本発明のステント用合金の組成範囲を限定した理由を以下に説明する。
Co(コバルト)はそれ自体加工硬化能が大きく、切り欠け脆さを減じ、疲労強度を高め、高温強度を高めると共に、所定条件での低サイクル疲労寿命を改善する効果がある。不可避不純物のうち、Ti、Mn、Fe、Nb、W、Al、Zr及びCの含有量が質量%で合計0%の場合には、Coは39%未満ではその効果が弱く、本組成では48%を越えるとマトリクスが硬くなり過ぎて加工困難となると共に、所定条件での低サイクル疲労寿命を改善する効果がなくなるため、39~48%が好ましい。望ましくは、40~45%である。不可避不純物のうち、Ti、Mn、Fe、Nb、W、Al、Zr及びCの含有量が質量%で合計0%を超える場合には、Co、Ni、Cr、Moの組成割合を基準に全体が100%となるように組成割合を案分して調整するとよい。
【0013】
Cr(クロム)は耐食性を確保するのに不可欠な成分であり、またマトリクスを強化する効果があるが、10%未満では優れた耐食性を得る効果が弱く、27%を越えると加工性及び靱性が急激に低下することから、10~27%とした。望ましくは、15~24%であり、更に好ましくは18~22%である。
【0014】
Mo(モリブデン)はマトリクスに固溶してこれを強化する効果、加工硬化能を増大させる効果、及びCrとの共存において耐食性を高める効果があるが、3%未満では所望する効果が得られず、12%を越えると加工性が急激に低下すること、及び脆いσ相が生成しやすくなることから、3~12%とした。望ましくは、8~12%であり、更に好ましくは9~11%である。
【0015】
Ni(ニッケル)は面心立方格子相を安定化し、加工性を維持し、耐食性を高め、所定条件での低サイクル疲労寿命を改善する効果があるが、本発明合金のCo、Cr、Moの組成範囲において、22%未満では安定した低サイクル疲労寿命の改善効果を得ることが困難であると共に、34%を越えても低サイクル疲労寿命の改善効果を得ることが困難であることから、22~34%とした。望ましくは、25~30%である。
【0016】
Ti(チタン)は強い脱酸、脱窒、脱硫の効果があるが、多過ぎると合金中に介在物が増えたり、η相(NiTi)が析出して靱性が低下することから、不可避的不純物として1.0%以下とした。
Mn(マンガン)は脱酸、脱硫の効果、及び面心立方格子相を安定化する効果があるが、多過ぎると耐食性、耐酸化性を劣化させるため、1.5%以下とした。
Fe(鉄)は、面心立方格子相を安定化し加工性を向上させる働きがあるが、多過ぎると耐酸化性が低下するため、不可避不純物としての上限を1.0%とした。
【0017】
C(炭素)はマトリクスに固溶するほか、Cr、Mo等と炭化物を形成し、結晶粒の粗大化の防止効果があるが、多過ぎると靭性の低下、耐食性の劣化等が生じるため、0.1%以下とした。
Nb(ニオブ)はマトリクスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を増大させる効果があるが、3.0%を越えるとσ相やδ相(NiNb)が析出して靭性が低下することから、3.0%以下とした。望ましくは、1.0%以下である。
【0018】
W(タングステン)は、マトリクスに固溶してこれを強化し、加工硬化能を著しく増大させる効果があるが、5.0%を越えるとσ相を析出して靭性が低下することから、5.0%以下とした。望ましくは、1.0%以下である。
Al(アルミ)は、脱酸、及び耐酸化性を向上させる効果があるが、多過ぎると耐食性の劣化等が生じるため、0.5%以下とした。
Zr(ジルコニウム)は、高温での結晶粒界強度を上げて、熱間加工性を向上させる効果があるが、多過ぎると逆に加工性が悪くなるため、0.1%以下とした。
B(ホウ素)は、熱間加工性を改善する効果があるが、多過ぎると逆に熱間加工性が低下し割れやすくなるため、0.01%以下とした。
【0019】
[4] 所定条件での低サイクル疲労寿命が3000回以上であり、引張強さ750N/mm以上の力学的特性を有することを特徴とするステント用合金。
[4]の発明によれば、加工率0%であっても、引張強さ750N/mm以上の力学的特性を有し、SUS304よりも単位面積当りの引張強さが高いステント用合金を得ることができる。
また、所定条件での低サイクル疲労寿命が3000回以上であり、SUS316LやASTMF562よりも疲労寿命が長くなる。好ましくは、所定条件での低サイクル疲労寿命が4500回以上であると、ASTMF90よりも疲労寿命が長くなる。
【0020】
[5] [1]~[4]に記載のステント用合金を用いてなることを特徴とするステント。
[5]の発明によれば、前記ステント用合金を用いれば、従来よりも、薄型化でき、高強度、耐食性に優れたステントを得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のステント用合金は、所定条件での低サイクル疲労寿命が改善されるなどの機械的特性に優れており既存製品よりも信頼性が高い。このことより、装着時のステント信頼性が高まり、患部への装着がより容易となる。
【0022】
本発明のステント用合金は、Co、Ni、Cr、Moを主成分とする合金を冷間加工した後、再結晶温度以上での均質化熱処理を施すことにより、変形に際してfcc双晶変形および変形誘起fcc→hcp変態が生じ、高い加工硬化能と優れた機械的強度・延性を示す。
なお、本発明のステント用合金において、Nb等の溶質原子をさらに含有する場合には、転位芯ないしは拡張転位の積層欠陥に偏析させて交差すべりを起き難くすることができ、加工硬化により、機械的強度がさらに高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態によるステント100を示す構成図である。
図2】本発明にかかるステント用合金の低サイクル疲労寿命(LCF)試験結果を示した図面である。
図3】本発明にかかるステント用合金の引張強度試験結果を示した図面である。
図4】本発明にかかるステント用合金の低サイクル疲労寿命(LCF)試験での応力振幅結果を示した図面である。
図5】本発明にかかるステント用合金のLCF試験後の成分相を示した図面である。
図6】本発明にかかるステント用合金の低サイクル疲労破面を示した写真である。
図7】本発明にかかるステント用合金の破壊表面モルフォロジーを示した写真である。
図8】本発明にかかるステント用合金の二次割れ近くの微細構造を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のステント用合金は、積層欠陥エネルギーが低く、変形に際し部分転位が運動しプレート状の微細なfcc双晶およびhcp相が形成することによって、高い加工硬化能が得られる。また、原子半径の大きさが1.25ÅであるCo、Ni、Crに比べ、原子半径が大きいかあるいは近似しているMo等の溶質原子が、転位芯ないしは拡張転位の積層欠陥に強く引き付けられて偏析して交差すべりが起き難くなるため、高い加工硬化能が発現する。
【0025】
また、本発明のステント用板材は、冷間塑性加工により高強度特性を付与した後、200℃以上再結晶温度以下の温度で時効処理することにより、転位芯ないしは拡張転位の積層欠陥にMo等の溶質原子が引き付けられ転位を固着する、いわゆる静的ひずみ時効により、一層高い強度特性が得られる。
【0026】
なお、本発明のステント用合金の高い加工硬化能は体温のみならず高温下においても発現するため、高温強度特性も高いという特徴を有している。
【実施例
【0027】
図1は、本発明の一実施形態によるステント100を示す構成図である。図において、ステント100は、複数の支柱112および複数の折返し部114を含み、各折返し部114が一組の隣接支柱112と連結される。ステント100は、当該技術分野で既知の方法を用いて、管またはワイヤから形成され、ステント100を形成するために用いられる管またはワイヤは、本発明の実施形態による材料から製造される。例えば、管がステントを形成するために用いられる場合、管は、レーザーで切断されるか、または既知の方法によりステントの模様で食刻される。ワイヤがステントの形成に用いられる場合、ワイヤは、一般的にS字状波型に形成され、心棒またはロッドの周囲に巻きつけられる。選ばれた隣接折返し部は一緒に融合され、ワイヤの末端がレーザーにより切断されて、ステントが製造される。
【0028】
実施例で用いた合金では以下の組成のものを採用した。
(実施例1)組成が不可避不純物を含み、質量%でCo:38.0%、Cr:20.0%、Mo:10.0%、Ni:32.0%からなる合金を用いた。
(実施例2)組成が不可避不純物を含み、質量%でCo:41.0%、Cr:20.0%、Mo:10.0%、Ni:29.0%からなる合金を用いた。
(実施例3)組成が不可避不純物を含み、質量%でCo:44.0%、Cr:20.0%、Mo:10.0%、Ni:26.0%からなる合金を用いた。
(実施例4)組成が不可避不純物を含み、質量%でCo:47.0%、Cr:20.0%、Mo:10.0%、Ni:23.0%からなる合金を用いた。
【0029】
(比較例1:ASTMF562)組成が不可避不純物を含み、質量%でCo:35.0%、Cr:20.0%、Mo:10.0%、Ni:35.0%からなる合金を用いた。
(比較例2)組成が不可避不純物を含み、質量%でCo:50.0%、Cr:20.0%、Mo:10.0%、Ni:20.0%からなる合金を用いた。
(比較例3:ASTMF90)組成が不可避不純物を含み、質量%でCo:55.0%、Cr:20.0%、W:15.0%、Ni:10.0%からなる合金を用いた。
(比較例4:SUS316L)組成が不可避不純物を含み、質量%でCr:18.0%、Mo:2.0%、Ni:12.0%、Fe:68.0%からなる合金を用いた。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例1~4、比較例1~4の合金について低サイクル疲労寿命(LCF)試験及び引張試験の測定を行った。
図2は、本発明にかかる実施例1~4、比較例1~4の合金の低サイクル疲労寿命(LCF)試験結果を示した図面である。低サイクル疲労寿命試験は、ひずみ振幅±0.01での疲労寿命を測定したものであり、比較例4:SUS316Lで1805回、比較例1:ASTMF562で2496回であったが、実施例3では6537回であった。従って、低サイクル疲労寿命試験結果が3000回を上回る疲労寿命を有するステント用合金Co-xNi-20Cr-10Moのニッケル含有範囲xは22~34%である。
【0032】
比較例1:ASTMF562で4000回であるが、実施例1~4の低サイクル疲労寿命試験結果からは、これを上回る疲労寿命を有するステント用合金Co-xNi-20Cr-10Moのニッケル含有範囲xは25~30%である。表2は、図2に示す実施例1-4と比較例1-4における引張強度(MPa)と低サイクル疲労寿命(サイクル)の数値を表したものである。
【0033】
【表2】
【0034】
図3は、本発明にかかるステント用合金の引張強度試験結果を示した図面で、(A)は横軸が歪[%]、縦軸が応力[MPa]を示しており、(B)は横軸がNiの組成比率、縦軸が応力[MPa]を示しており、(C)は横軸がNiの組成比率、縦軸が全伸び[%]を示してある。図3(B)は、各実施例1-4と比較例1、2の合金の引張強度を表している。実施例1~4、比較例1、2の合金については、引張強度820~900MPaであった。
【0035】
図4は、本発明にかかるステント用合金の低サイクル疲労寿命(LCF)試験での応力振幅結果を示した図面で、Niの組成比率により各実施例1-4と比較例1、2の合金を表している。このグラフの縦軸は応力振幅、横軸は低サイクル回数を示しており、各合金の低サイクル疲労寿命を表している。
【0036】
図5は、本発明にかかるステント用合金のLCF試験後の成分相を示した図面である。マトリクスは面心立方格子構造(fcc)であり、ミラー指数(111)がX線回折プロファイル図形の回折ピークの角度(2θ)として44°、(200)が52°、(220)が75°、(311)と(222)が91°となっている。マルテンサイト相は六方晶系格子構造(HCP)であり、ミラー指数(10-10)がX線回折プロファイル図形の回折ピークの角度(2θ)として41°、(0002)が44°、(10-11)が47°、(10-12)が61°となっている。
【0037】
図6は、本発明にかかるステント用合金の低サイクル疲労破面を示した写真である。実施例1、2および比較例1の合金はfcc合金に典型的な延性破面であり、実施例3、4および比較例2の合金は脆性的な破面であった。
【0038】
図7は、本発明にかかるステント用合金の破壊表面モルフォロジーを示した写真である。実施例2、3の合金の破壊表面にはfcc合金の疲労破面によく認められるストライエーションおよびディンプルが観察された。このことは破壊がき裂の開口と閉口により徐々に進行したことを示している。一方で実施例4および比較例2の合金の破壊表面には結晶粒界を反映した凹凸の激しい擬へき開破壊的なモルフォロジーが観察された。このことは疲労破壊が脆性的であり、き裂は比較的急速に伝播したことを示している。
【0039】
図8は、本発明にかかるステント用合金の二次割れ近くの微細構造を示した写真である。実施例1、2の合金においては二次割れ近傍にfcc相の{111}双晶が観察された。一方で実施例2から4、比較例2の合金においては二次割れ近傍にhcp相が認められた。き裂は概ねfcc{111}面およびそれに平行なhcp(0001)面に沿っている。hcp相の量は各合金のNi―Co量とよく対応しており、hcp相の安定化に伴い変形モードはfcc双晶変形から変形誘起fcc→hcp変態へと推移したことが認められる。fcc双晶変形と変形誘起fcc→hcp変態は共に部分転位運動によって担われる。本発明のステント用合金では、拡張転位がfcc相の{111}面上で可逆的に運動することで塑性変形が担われ非可逆な交差すべりが抑制されるため、低サイクル疲労変形に伴う累積損傷が小さい。またき裂の伝播に際し、き裂先端に生じる応力場の影響により形成するhcp相はき裂の進展を抑制する効果がある一方で、hcp相とfcc相の界面はき裂の伝播経路となることから過度なhcp安定化はき裂進展速度を速める。このことから低サイクル疲労寿命の向上には交差すべりとき裂の進展を抑制するために適度なhcp相の安定化が望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のステント用合金は、低サイクル疲労寿命が長く、信頼性が高いため、血管、胆のう、食道、腸、尿管などの体腔内の狭窄部などに留置されるステントに用いて好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8