(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】半透複合膜の製造方法及び半透複合膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/56 20060101AFI20220203BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220203BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220203BHJP
B01D 71/10 20060101ALI20220203BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20220203BHJP
B32B 23/04 20060101ALI20220203BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220203BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220203BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20220203BHJP
C01B 32/174 20170101ALI20220203BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20220203BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D69/12
B01D71/02
B01D71/10
B32B5/24 101
B32B23/04
B32B27/34
B32B27/18 Z
B32B27/18 J
B32B5/28 Z
C01B32/174
C01B32/168
(21)【出願番号】P 2019218541
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2021-06-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 守信
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-068435(JP,A)
【文献】特開2018-051498(JP,A)
【文献】特表2011-526834(JP,A)
【文献】特表2014-500131(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158992(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0198282(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105771694(CN,A)
【文献】特開2019-093646(JP,A)
【文献】特開2019-156920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
B32B 1/00-43/00
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとアミン成分とを含む混合液を得る工程と、
前記混合液を多孔性支持体に接触させた後、前記多孔性支持体に付着した前記混合液中のアミン成分を架橋反応させることによって半透複合膜を得る工程と、
を含み、
前記混合液を得る工程は、カーボンナノチューブを含む第1水分散液とセルロースナノファイバーを含む第2水分散液とを混合する工程を含む、半透複合膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記混合液中のアミン成分は、前記第1水分散液及び前記第2水分散液の少なくとも一方に含まれる、半透複合膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記混合液を得る工程は、前記第1水分散液と前記第2水分散液とアミン成分とを混合する工程を含む、半透複合膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項において、
前記第1水分散液を得る工程は、カーボンナノチューブを含む水分散液を流動させながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧して前記水分散液を元の体積に復元させる工程を含む、半透複合膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項において、
前記第2水分散液は、カチオン界面活性剤を含む、半透複合膜の製造方法。
【請求項6】
カーボンナノチューブを含む第1水分散液とセルロースナノファイバーを含む第2水分散液との混合液を多孔性支持体上に
塗工して形成した半透膜を設けた半透複合膜であって、
半透膜は、架橋ポリアミドと、カーボンナノチューブと、セルロースナノファイバーと
、を含む、半透複合膜。
【請求項7】
請求項6において、
前記半透膜は、カーボンナノチューブの濃度が1.0質量%以上30.0質量%以下であり、セルロースナノファイバーの濃度が0.0質量%を超え、23.6質量%以下である、半透複合膜。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、
前記カーボンナノチューブの平均直径は、5nm以上30nm以下であり、
前記セルロースナノファイバーの平均直径は、3nm以上200nm以下である、半透複合膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを用いた半透複合膜の製造方法及びカーボンナノチューブを用いた半透複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な水不足と水の汚染に対応するため、半透膜(RO膜)を用いた水処理技術が注目されている。その中でも1nm以下の孔径により塩分などのイオン成分も除去できる芳香族ポリアミドを用いた半透膜が海水淡水化プラントで最も普及している。
【0003】
水処理に用いられる半透膜は、透過流束及び脱塩性能(NaCl阻止率)等の基本性能のさらなる向上や、半透膜の洗浄における耐塩素性の向上などが求められている。
【0004】
近年、半透膜にカーボンナノチューブを用いることにより半透膜の各種性能を向上させる研究が行われている(特許文献1~3及び非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/158992号公報
【文献】特表2014-500131号公報
【文献】特表2011-526834号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Hee Joong Kim、外7名、「High-Performance Reverse Osmosis CNT/Polyamide Nanocomposite Membrane by Controlled Interfacial Interactions」、ACS Appl. Mater. Interfaces 2014,6,2819-2829
【文献】Hee Dae Lee、外3名、「Experimental Evidence of Rapid Water Transport through Carbon Nanotubes Embedded in Polymeric Desalination Membranes」Small,Volume 10, Issue 13,pages 2653-2660, July 9, 2014
【文献】Haiyang Zhao、外5名、「Improving the performance of polyamide reverse osmosis membrane by incorporation of modified multi-walled carbon nanotubes」Journal of Membrane Science, 450, 2014,249-256
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、カーボンナノチューブを用いた半透複合膜の製造方法においては、成膜工程で塗工液を調整後、塗工するまでの間にカーボンナノチューブの凝集が進行しやすく、さらなる歩留まりの向上が求められている。
【0008】
また、カーボンナノチューブを用いた半透複合膜においては、さらなる透過流束の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[1]本発明に係る半透複合膜の製造方法の一態様は、
カーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとアミン成分とを含む混合液を得る
工程と、
前記混合液を多孔性支持体に接触させた後、前記多孔性支持体に付着した前記混合液中のアミン成分を架橋反応させることによって半透複合膜を得る工程と、
を含み、
前記混合液を得る工程は、カーボンナノチューブを含む第1水分散液とセルロースナノファイバーを含む第2水分散液とを混合する工程を含むことを特徴とする。
【0011】
[2]前記半透複合膜の製造方法の一態様において、
前記混合液中のアミン成分は、前記第1水分散液及び前記第2水分散液の少なくとも一方に含まれてもよい。
【0012】
[3]前記半透複合膜の製造方法の一態様において、
前記混合液を得る工程は、前記第1水分散液と前記第2水分散液とアミン成分とを混合する工程を含んでもよい。
【0013】
[4]前記半透複合膜の製造方法の一態様において、
前記第1水分散液を得る工程は、カーボンナノチューブを含む水分散液を流動させながら加圧して圧縮した後、圧力を解放または減圧して前記水分散液を元の体積に復元させる工程を含むことができる。
【0014】
[5]前記半透複合膜の製造方法の一態様において、
前記第2水分散液は、カチオン界面活性剤をさらに含んでもよい。
【0015】
[6]本発明に係る半透複合膜の一態様は、
カーボンナノチューブを含む第1水分散液とセルロースナノファイバーを含む第2水分散液との混合液を多孔性支持体上に塗工して形成した半透膜を設けた半透複合膜であって、
半透膜は、架橋ポリアミドと、カーボンナノチューブと、セルロースナノファイバーと、を含むことを特徴とする。
【0016】
[7]前記半透複合膜の一態様において、
前記半透膜は、カーボンナノチューブの濃度が1.0質量%以上30.0質量%以下であり、セルロースナノファイバーの濃度が0.0質量%を超え、23.6質量%以下であることができる。
【0017】
[8]前記半透複合膜の一態様において、
前記カーボンナノチューブの平均直径は、5nm以上30nm以下であり、
前記セルロースナノファイバーの平均直径は、3nm以上200nm以下であることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る半透複合膜の製造方法によれば、混合液(塗工液)の調整後、長時間にわたってカーボンナノチューブの凝集を抑制することができるので、歩留まりを向上することができる。また、本発明に係る半透複合膜によれば、脱塩率を維持しながら優れた透過流束を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】比較例1に係る塗工液を得る工程の1時間後の塗工液の光学顕微鏡による写真である。
【
図3】実施例1に係る混合液を得る工程の1時間後の混合液の光学顕微鏡による写真である。
【
図4】実施例2に係る混合液を得る工程の1時間後の混合液の光学顕微鏡による写真である。
【
図5】実施例3に係る混合液を得る工程の1時間後の混合液の光学顕微鏡による写真である。
【
図6】比較例2及び実施例4~9の半透膜におけるセルロースナノファイバー濃度(CNF濃度(質量%))に対する水透過流束(m
3/(day・m
2))を表すグラフである。
【
図7】比較例2及び実施例4~9の半透膜におけるセルロースナノファイバー濃度(CNF濃度(質量%))に対する脱塩率(%)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
A.半透複合膜
本発明の一実施の形態に係る半透複合膜は、多孔性支持体上に、半透膜を設けた半透複合膜であって、半透膜は、架橋ポリアミドと、カーボンナノチューブと、セルロースナノファイバーと、を含むことを特徴とする。
【0022】
図1は、半透複合膜100を模式的に示す縦断面図である。
【0023】
半透複合膜100は、多孔性支持体102上に半透膜104が設けられる。多孔性支持体102は、少なくとも一方の面を半透膜104によって覆われる。半透膜104は、架橋ポリアミド(以下、架橋芳香族ポリアミド120の例について説明するが、これに限られるものではない)と、カーボンナノチューブ110と、セルロースナノファイバー(セルロースナノファイバーは図示していない)とを含む。半透膜104の表面105は、全体が架橋芳香族ポリアミド120によって覆われる。半透複合膜100は、半透膜104にカーボンナノチューブ110を含むことにより、半透膜104の各種性能についての向上が期待される。また、半透複合膜100は、半透膜104にセルロースナノファイバーを含むことにより、脱塩率を維持しながら優れた水透過流束を実現することができる。
【0024】
半透膜104は、架橋芳香族ポリアミド120中に、解繊された状態のカーボンナノチューブ110を含む。また、半透膜104は、架橋芳香族ポリアミド120がマトリクスとなり、隣接する解繊されたカーボンナノチューブ110の間が図示しないセルロースナノファイバー及び架橋芳香族ポリアミド120で満たされる。
【0025】
半透膜104の厚みは、10nm以上200nm以下であることができ、さらに10nm以上150nm以下であることができる。半透膜104の厚さが10nm以上であれば膜厚より細い例えば繊維径が3nm~5nm程度のカーボンナノチューブ110及びセルロースナノファイバーによって半透膜104を補強することが可能となる。半透膜104の厚さが150nm以下であれば半透膜104を逆浸透膜に用いた場合に実用的な水透過流束が得られると推測される。ここで本明細書において「~」で示す数値範囲は上限と下限を含む。
【0026】
半透複合膜100は、カーボンナノチューブ110及びセルロースナノファイバーの補強効果により耐圧性が向上するため、比較的高い操作圧力でも使用できることが期待できる。操作圧力を高くできることは半透膜104を逆浸透膜として用いた場合に水透過流束を高くすることに貢献する。
【0027】
多孔性支持体102は、半透膜104に力学的強度を与えるために設けられる。多孔性支持体102は、実質的には分離性能を有さなくてもよい。多孔性支持体102としては
、公知の半透複合膜の多孔性支持体を適用することができる。
【0028】
半透膜104は、カーボンナノチューブ110の濃度が1.0質量%以上30.0質量%以下であることができる。さらに、半透膜104は、カーボンナノチューブ110の濃度が2.0質量%以上20.0質量%以下であることができ、3.0質量%以上20.0質量%以下であることができ、5.0質量%以上15.0質量%以下であることができる。半透膜104におけるカーボンナノチューブの濃度が1.0質量%以上であることにより、半透膜104の耐塩素性が向上する。半透膜104におけるカーボンナノチューブの濃度が30.0質量%以下であることにより、半透複合膜100における脱塩率の低下を抑制することができる。
【0029】
半透膜104は、セルロースナノファイバーの濃度が0.0質量%を超え、23.6質量%以下であることができる。さらに、半透膜104は、セルロースナノファイバーの濃度が1.0質量%以上23.6質量%以下であることができ、2.0質量%以上20.0質量%以下であることができ、3.0質量%以上18.0質量%以下であることができる。半透膜104におけるセルロースナノファイバーの濃度が0.0質量%を超えることにより、半透複合膜100における水透過流束を向上させることができる。半透膜104におけるセルロースナノファイバーの濃度が23.6質量%以下とすることにより、半透複合膜100における水透過流速を向上させることができる。
【0030】
半透複合膜は、例えば、スパイラル、チューブラー、プレート・アンド・フレームのモジュールに組み込んで、また中空糸は束ねた上でモジュールに組み込んで使用することができる。
【0031】
半透複合膜の用途としては、例えば、海水、かん水脱塩の処理などがある。また、半透複合膜の用途は、半透膜が耐汚染性に優れるため、例えば、食品工業排水処理、産業プロセス排水処理、活性汚泥処理水のRO前処理などがある。
【0032】
半透複合膜は、半透複合膜エレメントに組み込まれてもよい。半透複合膜エレメントは、原水が原水側流路材によって半透複合膜間に形成された原水側流路を流れる間に、原水の一部が半透複合膜を透過する。こうして得られる透過水は、原水よりも低い溶質濃度を有する。一方で、原水側流路を流れる水の溶質は濃縮される。
【0033】
B.原料
次に、半透複合膜の製造方法に用いる各原料について説明する。
【0034】
B-1.カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、平均直径(繊維径)が5nm以上30nm以下であることができる。市販されている半透複合膜の厚さが100nm以上500nm以下であるため、カーボンナノチューブは30nm以下の細いものが好ましく、後述する解繊の工程における取り扱いやすさからカーボンナノチューブは5nm以上のものが好ましい。
【0035】
なお、本発明の詳細な説明においてカーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノチューブのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。
【0036】
カーボンナノチューブは、その表面における液体との反応性を向上させるために、例えば酸化処理することもできる。
【0037】
カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面(グラフェンシート)を巻いて筒状にした形状を有するいわゆるカーボンナノチューブであることができ、多層カーボンナノチューブ(MWCNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)であることができる。
【0038】
また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0039】
カーボンナノチューブは、気相成長法によって得ることができる。気相成長法は、触媒気相合成法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:CCVD)とも呼ばれ、炭化水素等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させてカーボンナノチューブを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアーガスとともに高温例えば400℃以上1000℃以下の反応温度に設定された反応炉に導入し、浮遊状態あるいは反応炉壁にカーボンナノチューブを生成させる浮遊流動反応法(Floating Reaction Method)や、あらかじめアルミナ、酸化マグネシウム等のセラミックス上に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させてカーボンナノチューブを基板上に生成させる触媒担持反応法(Substrate Reaction Method)等を用いることができる。
【0040】
平均直径が5nm以上30nm以下のカーボンナノチューブは触媒担持反応法によって得ることができ、平均直径が30nmを超え110nm以下のカーボンナノチューブは浮遊流動反応法によって得ることができる。
【0041】
カーボンナノチューブの直径は、例えば金属含有粒子の大きさや反応時間などで調節することができる。平均直径が5nm以上30nm以下のカーボンナノチューブは、窒素吸着比表面積が10m2/g以上500m2/g以下であることができ、さらに100m2/g以上350m2/g以下であることができ、特に、150m2/g以上300m2/g以下であることができる。
【0042】
B-2.セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーは、繊維径の平均値が3nm~200nmであるセルロースの微細繊維である。セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー水分散液として提供される。該水分散液は、後述の酸化セルロース繊維を含んでもよい。
【0043】
複合材料に含まれるセルロースナノファイバーは、繊維径の平均値が3nm~200nmであることができる。セルロースナノファイバーの繊維径の平均値が3nm以上であることにより、市場で入手可能であり、同平均値が200nm以下であることにより、少量の添加でゴム成分を補強することができる。セルロースナノファイバーの繊維径の平均値は、3nm~10nmであることができ、さらに3nm~4nmであることができる。
【0044】
セルロースナノファイバーのアスペクト比(繊維長/繊維径)は、平均値で、10~1000であることができ、さらに10~500であることができ、特に100~350であることができる。セルロースナノファイバーのアスペクト比の平均値は、20~350であることができ、また20~250であることができ、さらに50~200であることができる。
【0045】
なお、セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長の平均値は、電子顕微鏡の視野内のセルロースナノファイバーの少なくとも50本以上について測定した算術平均値である
。
【0046】
セルロースナノファイバー水分散液は、セルロースナノファイバーの固形分が0.01質量%~5質量%であることができ、好ましくは0.1質量%~2質量%であることができる。水分散液におけるセルロースナノファイバー固形分が0.01質量%未満であると後述する第2水分散液を得るときに必要な濃度が得られにくくなり、5質量%を超えるとセルロースナノファイバーの凝集塊が生じやすい。また、水分散液は、例えば、セルロースナノファイバーの固形分1質量%に希釈した水分散液であることができる。さらに、水分散液は、光透過率が40%以上であることができ、さらに光透過率が60%以上であることができ、特に80%以上であることができる。水分散液の光透過率は、紫外可視分光硬度計を用いて、波長660nmでの光透過率として測定することができる。
【0047】
セルロースナノファイバーは、アニオン性基を有することができる。アニオン性基を有するセルロースナノファイバーは、原料に化学処理を施す際に、または物理的に解繊したものに対して、アニオン性基を導入して、さらに微細化(解繊)することで得られる。微細化工程では、アニオン性基の反発作用によって解繊しやすい。アニオン性基としては、例えば、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基、硫酸基、亜リン酸基、ザンテート基(-OCSS-)及びこれらの塩のいずれか1種以上を含む。アニオン性基を有するセルロースナノファイバーとしては、例えば、カルボキシル基またはカルボキシル基の塩を有する酸化セルロースナノファイバー、リン酸基またはリン酸基の塩を有するリン酸エステル化セルロースナノファイバー、硫酸基または硫酸基の塩を有する硫酸エステル化セルロースナノファイバー、亜リン酸基または亜リン酸基の塩を有する亜リン酸エステル化セルロースナノファイバー、ザンテート基またはザンテート基の塩を有するザンテート化セルロースナノファイバーなどがある。酸化セルロースナノファイバーとしては、例えば、TEMPO酸化セルロースナノファイバー及びカルボキシメチル化セルロースナノファイバーなどがある。
【0048】
セルロースナノファイバーは、市場で販売等により提供されるものを用いることができる。セルロースナノファイバーは、一般にセルロースナノファイバー水分散液として提供される。セルロースナノファイバーは木材などのパルプを原料とするバイオマスであるため、セルロースナノファイバーを有効利用することによって環境負荷低減が期待される。
【0049】
B-3.ポリアミド
ポリアミドは、芳香族系のポリアミドであることができる。半透膜におけるポリアミドは、架橋体である。
【0050】
芳香族系ポリアミドは、芳香族アミン成分を含む。芳香族系ポリアミドは、全芳香族系ポリアミドであることができる。芳香族アミンとしては、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、1,3,5-トリアミノベンゼン、1,2,4-トリアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,4-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン、N-メチル-m-フェニレンジアミンおよびN-メチル-p-フェニレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一つの芳香族多官能アミンが好ましく、これらは単独で用いてもよく若しくは2種類以上併用してもよい。
【0051】
架橋芳香族ポリアミドは、COO-、NH4
+、及びCOOHからなる群から選択される官能基を有することができる。
【0052】
B-4.多孔性支持体
多孔性支持体102としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレン
スルフィドスルホンなどを用いることができる。ポリスルホンは化学的、機械的、熱的に安定性が高いため、多孔性支持体102に好適である。
【0053】
C.半透複合膜の製造方法
次に、半透複合膜の製造方法について説明する。
【0054】
本発明の一実施の形態に係る半透複合膜の製造方法は、カーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとアミン成分とを含む混合液を得る工程と、前記混合液を多孔性支持体に接触させた後、前記多孔性支持体に付着した前記混合液中のアミン成分を架橋反応させることによって半透複合膜を得る工程と、を含み、前記混合液を得る工程は、カーボンナノチューブを含む第1水分散液とセルロースナノファイバーを含む第2水分散液とを混合する工程を含むことを特徴とする。混合液は、多孔性支持体に付着させる塗工液として用いることができる。
【0055】
C-1.第1水分散液を得る工程
第1水分散液は、少なくとも水とカーボンナノチューブを含む。第1水分散液は、カーボンナノチューブが解繊された状態で水の全体に均一に分散して存在することができる。第1水分散液は、例えば、第1混合工程と第2混合工程とから得られる。
【0056】
第1混合工程は、容器内に入れた所定量の水とカーボンナノチューブとを手作業で撹拌し、あるいは公知の攪拌機で撹拌することができる。第1混合工程で得られたカーボンナノチューブを含む水分散液は、水中にカーボンナノチューブが粒子状に単独で分布した状態である。カーボンナノチューブを超音波攪拌機などで撹拌しただけでは、カーボンナノチューブの大きな凝集塊が細分化されて小さな凝集塊として存在しており、カーボンナノチューブの凝集塊が解繊されていない。そこで、第1混合工程で得られた分散液に対して第2混合工程を実施する。
【0057】
第2混合工程は、第1混合工程で得られたカーボンナノチューブを含む水分散液を流動しながら加圧して当該水分散液を圧縮した後、当該水分散液の圧力を解放または減圧して当該水分散液を元の体積に復元させる工程を含む。第2混合工程は、複数回繰り返し行われる。第2混合工程は、例えば3本ロールを用いることができる。各ロールのロール間隔(ニップ)は0.001mm以上0.01mm以下とすることができる。ここでは3本ロールを用いているが、ロールの数は特に限定されるものでは無く、複数本のロール、例えば、2本ロールを用いてもよく、その場合には、同様のロール間隔で混練することができる。
【0058】
第2混合工程は、ロールの回転比が1.2以上9.0以下であることができ、さらに3.0以上9.0未満であることができる。ロールの回転比が大きければ、水分散液に剪断力が大きくなり、カーボンナノチューブ同士を引き離す力として作用するからである。ここでいうロールの回転比は、隣り合うロールの回転比である。
【0059】
第2混合工程は、ロールの周速が0.1m/s以上2.0m/s以下であることができ、さらに0.1m/s以上1.5m/s以下であることができる。ロールの周速が大きければ水分散液であっても弾性を利用した混練が可能となるからである。ここでいうロールの周速は、ロールの表面の速度である。
【0060】
ロールに供給された水分散液は、ロール間の非常に狭いニップに入り込み、ロールの回転比によって流動しながら加圧され、所定体積が順次ニップに供給され、ニップで圧縮されて体積が減少する。その後、水分散液は、ニップを抜けると、圧力が解放または減圧されて元の体積に復元される。そして、この体積の復元に伴って、カーボンナノチューブは
大きく流動し、凝集したカーボンナノチューブがほぐれる。この一連の工程を複数回繰り返し行うことにより、水中のカーボンナノチューブの解繊は進み、第1水分散液を得ることができる。第2混合工程は、例えば、3分間以上10分間以下行うことができる。第2混合工程は、例えば、一連の工程を1回としたとき、10回以上30回以下行うことができる。
【0061】
また、第2混合工程は、第1混合工程で得られた水分散液の温度を0℃以上60℃以下の範囲で行うことができ、さらに、第2混合工程は、第1混合工程で得られた水分散液の温度を15℃以上50℃以下の範囲で行うことができる。第2混合工程は、水の有する体積弾性率を利用して行うものであるため、なるべく低温で行う方が好ましい。体積弾性率は、ヤング率と比例関係にあり、圧縮率の逆数である。ヤング率は温度の上昇とともに減少し、圧縮率は温度上昇に伴い増加する為、体積弾性率も温度の上昇に伴い減少するからである。したがって、水分散液の温度は、60℃以下とすることができ、さらに50℃以下とすることができる。水分散液の温度は、生産性の観点から、0℃以上とすることができ、さらに15℃以上であることができる。ロールの温度が低いと、例えば、ロールにおける結露の問題が発生するからである。
【0062】
第2混合工程は、3本ロールなどのロールによる混練に限らず、水分散液の体積を圧縮させた後に復元させることができる混練方法であれば、他の方法を採用することができる。例えば、水分散液を加圧して流動させながら圧縮し、キャビテーションや乱流を発生させた後、急激に減圧する分散装置を用いることが出来る。
【0063】
第2混合工程において得られた剪断力により、水に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノチューブがロールに繰り返し通されることによって徐々に相互に分離し、解繊され、水中に分散され、カーボンナノチューブの分散性および分散安定性(カーボンナノチューブが再凝集しにくいこと)に優れる。
【0064】
C-2.第2水分散液を得る工程
第2水分散液は、少なくとも水とセルロースナノファイバーを含む。第2水分散液は、セルロースナノファイバーが解繊された状態で水の全体に均一に分散して存在することができる。
【0065】
セルロースナノファイバーの原料としては、木材等の植物性材料に由来するものでもよいし、植物性材料以外の例えばホヤなどの動物性材料やバクテリアなどの微生物に由来するものでもよい。また、植物性材料の原料を用いるセルロースナノファイバーの作成方法としては、例えば、原料に化学的処理を施して解繊しやすい状態にした後に機械的なせん断力による物理的処理を施して原料を解繊し製造したものや、高圧ホモジナイザー法、グラインダー摩砕法、凍結粉砕法、強剪断力混練法、ボールミル粉砕法など公知の機械的な高せん断力を用いた方法により物理的に原料を解繊し製造したものを使用することができる。
【0066】
第2水分散液として酸化セルロースナノファイバーの一例であるTEMPO酸化セルロースナノファイバーを含む例について説明する。第2水分散液は、例えば天然セルロース繊維を酸化して酸化セルロース繊維を得る酸化工程と、酸化セルロース繊維を微細化処理する微細化工程とを含む製造方法によって得ることができる。以下、酸化工程及び微細化工程について説明する。
【0067】
まず、酸化工程は、原料となる天然セルロース繊維に対して水を加え、ミキサー等で処理して、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。ここで、天然セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ、綿系パルプ、バクテリアセルロース等が含ま
れる。より詳細には、木材パルプとしては、例えば針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等を挙げることができ、綿系パルプとしては、コットンリンター、コットンリントなどを挙げることができ、非木材系パルプとしては、麦わらパルプ、バガスパルプ等を挙げることができる。天然セルロース繊維は、これらの少なくとも1種以上を用いることができる。
【0068】
天然セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリル束とその間を埋めているリグニン及びヘミセルロースから構成された構造を有する。すなわち、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、さらにこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される。リグニンによってセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束間は、強固に接着しており、植物繊維を形成している。そのため、植物繊維中のリグニンはあらかじめ除去されていることが、植物繊維中のセルロース繊維の凝集を防ぐことができるという点で好ましい。具体的には、植物繊維含有材料中のリグニン含有量は、通常40質量%程度以下、好ましくは10質量%程度以下である。また、リグニンの除去率の下限は、特に限定されるものではなく、0質量%に近いほど好ましい。なお、リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0069】
セルロースミクロフィブリルとしては、繊維径3nm~4nm程のセルロースミクロフィブリルが最小単位として存在し、これをシングルセルロースナノファイバーと呼ぶことができる。セルロースナノファイバーとしては、天然セルロース繊維及び/又は酸化セルロース繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたものであり、特に繊維径の平均値が3nm~200nmであることができ、さらに3nm~150nmであることができ、特に3nm~100nmのセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束であることができる。すなわち、セルロースナノファイバーは、シングルセルロースナノファイバー単体、またはシングルセルロースナノファイバーが複数本集まった束を含むことができる。
【0070】
次に、酸化工程は、水中においてN-オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して酸化セルロース繊維を得る。酸化工程としては、セルロースを酸化する公知の方法を採用することができる。セルロースの酸化触媒として使用可能なN-オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(以下、TEMPOとも表記する)、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、4-フォスフォノオキシ-TEMPO等を用いることができる。
【0071】
酸化工程後、例えば水洗とろ過を繰り返す精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、スラリー中に含まれる酸化セルロース繊維以外の不純物を除去することができる。酸化セルロース繊維を含む溶媒は、例えば水に含浸させた状態であり、この段階では酸化セルロース繊維はセルロースナノファイバーの単位まで解繊されていない。溶媒は、水を用いることができるが、例えば、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用することができる。
【0072】
酸化セルロース繊維は、セルロースナノファイバーの水酸基の一部がカルボキシル基を有する置換基で変性され、カルボキシル基を有する。
【0073】
酸化セルロース繊維は、繊維径の平均値が10μm~30μmであることができる。なお、酸化セルロース繊維の繊維径の平均値は、電子顕微鏡の視野内の酸化セルロース繊維の少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。
【0074】
酸化セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリルの束であることができる。酸化セルロース繊維は微細化工程においてセルロースナノファイバーに解繊することができる。
【0075】
微細化工程は、酸化セルロース繊維を水等の溶媒中で撹拌処理することができ、セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0076】
微細化工程において、分散媒としての溶媒を水とすることができる。また、水以外の溶媒として、水に可溶な有機溶媒、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類等を単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0077】
微細化工程における撹拌処理は、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。
【0078】
また、微細化処理における酸化セルロース繊維を含む溶媒の固形分濃度は、例えば50質量%以下とすることができる。この固形分濃度が50質量%を超えると、分散に高いエネルギーを必要とすることになる。
【0079】
微細化工程によってセルロースナノファイバーを含む第2水分散液を得ることができる。第2水分散液は、無色透明又は半透明な懸濁液であることができる。懸濁液には、表面酸化されると共に解繊されて微細化した繊維であるセルロースナノファイバーが水中に分散されている。すなわち、この第2水分散液においては、ミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、酸化工程によるカルボキシル基の導入によって弱め、更に微細化工程を経ることで、セルロースナノファイバーが得られる。そして、酸化工程の条件を調整することにより、カルボキシル基含有量、極性、平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。また、ここでは酸化工程により得られた酸化CNFについて説明したが、イオン性官能基としてアニオン性基を導入した例えばカルボキシメチル化CNFであっても酸化CNFと同様の繊維径及びアスペクト比であることができる。
【0080】
次に、セルロースナノファイバーとしてリン酸エステル化セルロースナノファイバーを含む第2水分散液の製造方法の一例について説明する。第2水分散液は、例えば、乾燥したまたは湿潤状態のセルロース繊維原料にリン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維原料の分散液にリン酸またはリン酸誘導体の水溶液を添加する方法などで得ることができる。これら方法においては、通常、リン酸またはリン酸誘導体の粉末や水溶液を混合または添加した後に、脱水処理、加熱処理等を行う。ここで、リン酸またはリン酸誘導体としては、リン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。これにより、セルロースを構成するグルコースユニットの水酸基にリン酸基を含む化合物またはその塩が脱水反応してリン酸エステルが形成され、リン酸基またはその塩が導入される。リン酸基またはその塩が導入されたセルロース繊維は、上述の微細化工程を行うことにより、リン酸エステル化セルロースナノファイバーを得ることができる。こうして得られるリン酸エステル化セルロースナノファイバーは、TEMPO酸化セルロースナノファイバーと同じ繊維径とアスペクト比を有することができる。
【0081】
第2水分散液は、カチオン界面活性剤をさらに含んでもよい。カチオン界面活性剤は、混合液を用いて半透複合膜を得る工程におけるセルロースナノファイバー同士の水素結合による凝集を抑制できる。カチオン界面活性剤は、1級~3級のアミン塩及び4級アンモニウム塩のいずれか1つ以上であることができる。特にカチオン界面活性剤は、炭素数(C数)が1~40、好ましくは2~20、更に好ましくは8~18の長鎖アルキル基を有する4級アンモニウム塩であることができる。炭素数が多い方が隣接するセルロースナノファイバーの水素結合による凝集を抑制する効果が高いと推測できる。塩としては塩化物
、臭化物等であることができる。
【0082】
炭素数が1~40の長鎖アルキル基を有する4級アンモニウム塩としては、例えば、塩化デシルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム等のトリメチルアンモニウム塩;塩化オクチルピリジニウム、塩化デシルピリジニウム、塩化ドデシルピリジニウム、塩化テトラデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化オクタデシルピリジニウム等のピリジニウム塩;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンジルトリアルキルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化トリメチルステアリルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニム等が挙げられる。
【0083】
第2水分散液におけるカチオン界面活性剤は、セルロースナノファイバー1質量部に対して0.1質量部~2.5質量部が配合されることができる。
【0084】
C-3.混合液を得る工程
混合液を得る工程は、カーボンナノチューブとセルロースナノファイバーとアミン成分とを含む混合液を得る。
【0085】
混合液を得る工程は、カーボンナノチューブを含む第1水分散液とセルロースナノファイバーを含む第2水分散液とを混合する工程を含む。混合液中のアミン成分は、第1水分散液及び第2水分散液の少なくとも一方に含まれていてもよい。この場合、第1水分散液を得る工程及び第2水分散液を得る工程の少なくとも一方の工程中にアミン成分を含む水溶液を水分散液に混合させておけばよい。
【0086】
また、混合液を得る工程において、第1水分散液と第2水分散液とアミン成分とを混合する工程を含んでもよい。この場合、第1水分散液及び第2水分散液とは別にアミン成分を含む水溶液を用意しておき、これらを混合すればよい。また、第1水分散液とアミン成分とを混合した後に第2水分散液を混合してもよいし、第2水分散液とアミン成分とを混合した後に第1水分散液を混合してもよい。混合液を得る工程は、公知の混合方法を用いることができ、例えばマグネティックスターラーや超音波攪拌機等を用いることができる。
【0087】
アミン成分としては、上記B-3で説明した芳香族アミンから少なくとも1種を選択できる。アミン成分を含む溶媒は水が好ましい。水溶液における芳香族アミン成分の濃度は0.5質量%~5.0質量%であることができる。
【0088】
混合液を得る工程によって得られた混合液は、当該工程後1時間経過しても混合液中のカーボンナノチューブに凝集は見られない。混合液中の隣接するカーボンナノチューブの間にセルロースナノファイバーが存在することにより、カーボンナノチューブの再凝集を抑制すると考えられる。これによって、半透複合膜の製造方法においては、成膜工程で塗工液である混合液を調整後、塗工するまでの間にカーボンナノチューブの凝集が抑制されるため、歩留まりの向上が可能となる。また、従来であれば塗工液中のカーボンナノチューブの再凝集を防ぐため、カーボンナノチューブを含む塗工液の作製直後に半透複合膜を得る工程を実施しなければならなかったが、混合液中でのカーボンナノチューブの再凝集が抑制されるため、混合液を用いる半透複合膜を得る工程の作業性が向上する。具体的には、例えば、混合液を長時間保管することが可能となるので混合液の大量生産も可能となる。
【0089】
混合液におけるカーボンナノチューブの凝集を抑制するためには、混合液中のセルロースナノファイバーの濃度を高くすることが望ましいが、混合液中のm-フェニレンジアミンの濃度やカーボンナノチューブの濃度によってセルロースナノファイバーの好ましい濃度があると予想される。混合液中のセルロースナノファイバーの濃度は、0.2質量%を超えない範囲にすることが半透複合膜における脱塩率の低下を抑制するために好ましい。
【0090】
C-4.半透複合膜を得る工程
半透複合膜を得る工程は、混合液を得る工程で得られた混合液を多孔性支持体に接触させた後、多孔性支持体に付着した混合液中のアミン成分を架橋反応させる。
【0091】
この工程において、まず、混合液は、多孔性支持体に塗布し乾燥する。そののち架橋剤を含む溶液を混合液の上にさらに塗布し、重縮合反応を起こさせて架橋させ、加熱乾燥した後蒸留水で洗浄して半透膜を形成する。こうして、上記「A.半透複合膜」で説明した半透複合膜100を作製できる。
【0092】
混合液を多孔性支持体に塗布する工程は、バーコーターを用いて均一に塗布することができる。均一に塗布できればバーコーターに限らず他の公知の装置を採用してもよい。
【0093】
架橋剤としては、例えば、トリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライドなどの酸クロライド成分を含む有機溶媒溶液を用いることができる。また、架橋剤以外に界面重合で副生する塩酸を捕捉するための塩基触媒を含有させる。当該塩基触媒としては、トリエチルアミン、ピリジン等を挙げることができる。
【0094】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0096】
(1)混合液の経時変化
(1-1)比較例1
第1水分散液を得る工程:蒸留水10gに、2gの多層カーボンナノチューブ(Cnano社製FT9110、平均直径15nm(平均直径は、走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値))を手作業で撹拌(第1混合工程)した後、ロール直径が50mmの3本ロール(株式会社長瀬スクリーン印刷研究所製EXAKT
M-50 I)(ロール温度25以上40℃以下)に投入して、3分間以上10分間以下混練(第2混合工程)して第1水分散液を得た。ロール間隔は0.001mm以上0.01mm未満、ロール速度比はV1=1、V2=1.8、V3=3.3、ロール速度V3は周速1.2m/sであった。
【0097】
塗工液を得る工程:また、蒸留水50gに添加剤(TEA(トリエチルアミン)10質量%、CSA(カンファスルホン酸)20質量%を含む水溶液)105g、SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)0.45gを加え、マグネティックスターラーで撹拌・溶解後に、先に得た16.7質量%のカーボンナノチューブを含む第1水分散液0.9gを加え攪拌し、さらに、m-フェニレンジアミン10.5g、IPA(イソプロピルアルコール)1
8gを加えて撹拌・溶解後に、蒸留水で全量を300gとして、m-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA(トリエチルアミン)3.5質量%、SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)0.15質量%、CSA(カンファスルホン酸)7質量%、IPA(イソプロピルアルコール)6質量%、カーボンナノチューブが0.05質量%の塗工液を得た。
【0098】
顕微鏡観察:塗工液を得る工程直後の塗工液と、当該工程の1時間後の塗工液とを光学顕微鏡で観察した。塗工液を得る工程直後の塗工液ではカーボンナノチューブの再凝集は確認できなかったが、当該工程の1時間後の塗工液ではカーボンナノチューブの凝集塊が多数確認された。
図2は、当該工程の1時間後の塗工液の光学顕微鏡による写真である。
図2における黒い点がカーボンナノチューブの凝集塊である。
【0099】
(1-2)実施例1~実施例3
第1水分散液を得る工程:比較例1と同様にして第1水分散液を得た。
【0100】
第2水分散液を得る工程:セルロースナノファイバー(TEMPO酸化セルロースナノファイバー)水分散液を水で希釈してセルロースナノファイバー0.4質量%濃度の水分散液として、ジューサーミキサー(Waring製ブレンダーMX1200XTX)を使用し、回転数20,000rpmで30秒間高速で撹拌することで混合してセルロースナノファイバーを含む第2水分散液を得た。
【0101】
混合液を得る工程:蒸留水100gに添加剤(TEA(トリエチルアミン)10質量%、CSA(カンファスルホン酸)20質量%を含む水溶液)105g、SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)0.45gを加え、マグネティックスターラーで撹拌・溶解後に、先に得た16.7質量%のカーボンナノチューブを含む第1水分散液1.8gを加え攪拌し、さらに、m-フェニレンジアミン10.5g、IPA(イソプロピルアルコール)18gを加えて撹拌・溶解したものと、
蒸留水100gにセルロースナノファイバー0.4質量%を含む第2水分散液を必要量分取し、マグネティックスターラーを用いて撹拌し、添加剤(TEA10質量%、CSA20質量%を含む水溶液)105g、SLS0.45gを加え、マグネティックスターラーで撹拌後に、m-フェニレンジアミン10.5g、IPA(イソプロピルアルコール)18gを加え撹拌したものと、を混合攪拌し、
蒸留水で全量が600gとなるように調整し、マグネティックスターラーを用いて撹拌して、m-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA3.5質量%、SLS0.15質量%、CSA7質量%、IPA6質量%、カーボンナノチューブ及びセルロースナノファイバーを含む混合液(塗工液)を得た。
【0102】
実施例1~実施例3の混合液におけるカーボンナノチューブの濃度は0.05質量%であった。実施例1の混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は0.003質量%、実施例2の混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は0.005質量%、実施例3の混合液におけるセルロースナノファイバーの濃度は0.0075質量%であった。
【0103】
顕微鏡観察:混合液を得る工程直後の混合液と、当該工程の1時間後の混合液とを光学顕微鏡で観察した。混合液を得る工程直後の混合液及び当該工程の1時間後の混合液において、カーボンナノチューブの凝集塊はほとんどなかった。
図3は、実施例1に係る混合液を得る工程の1時間後の混合液の光学顕微鏡による写真であり、
図4は、実施例2に係る混合液を得る工程の1時間後の混合液の光学顕微鏡による写真であり、
図5は、実施例3に係る混合液を得る工程の1時間後の混合液の光学顕微鏡による写真である。
【0104】
(2)水透過流束及び脱塩率
(2-1)比較例2のサンプルの作製
多孔性支持体の作製:単糸繊度0.5デシテックスのポリエステル繊維と1.5デシテックスのポリエステル繊維との混繊糸からなる、通気度0.7cm3/cm2・秒、平均孔径7μm以下の湿式不織布であって、縦30cm、横20cmの大きさの物を、ガラス板上に固定し、その上に、ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒のポリスルホン濃度15重量%の溶液(20℃)を、総厚み210μm~215μmになるようにキャストし、直ちに水に浸積してポリスルホンの多孔性支持体を製造した。
【0105】
半透複合膜を得る工程:80cm2の多孔性支持体に、バーコーター(#6wired
bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で比較例1の塗工液を塗布した後、多孔性支持体表面から余分な水溶液をゴムブレードで除去した後、トリメシン酸クロライド0.18質量%を含む室温のIPソルベント溶液4mlを膜表面が完全に濡れるように塗布した。膜から余分な溶液を除去するために膜面を鉛直に保持して液切りし、その後、120℃の恒温槽中で3分間乾燥後、蒸留水に浸漬洗浄することで、比較例2の半透複合膜を得た。
【0106】
(2-2)実施例4のサンプルの作製
第1水分散液を得る工程:比較例1と同様にして第1水分散液を得た。
【0107】
第2水分散液を得る工程:実施例1と同様の方法で第2水分散液を得た。
【0108】
混合液を得る工程:蒸留水100gに添加剤(TEA(トリエチルアミン)10質量%、CSA(カンファスルホン酸)20質量%を含む水溶液)105g、SLS(ラウリル硫酸ナトリウム)0.45gを加え、マグネティックスターラーで撹拌・溶解後に、先に得た16.7質量%のカーボンナノチューブを含む第1水分散液1.8gを加え攪拌し、さらに、m-フェニレンジアミン10.5g、IPA(イソプロピルアルコール)18gを加えて撹拌・溶解したものと、
蒸留水100gにセルロースナノファイバー0.4質量%を含む第2水分散液3.8gを加え、マグネティックスターラーを用いて撹拌し、添加剤(TEA10質量%、CSA20質量%を含む水溶液)105g、SLS0.45gを加え、マグネティックスターラーで撹拌後に、m-フェニレンジアミン10.5g、IPA(イソプロピルアルコール)18gを加え撹拌したものと、を混合攪拌し、
蒸留水で全量が600gになるように調整し、m-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA3.5質量%、SLS0.15質量%、CSA7質量%、IPA6質量%、カーボンナノチューブ0.05質量%及びセルロースナノファイバー0.0025質量%を含む混合液(塗工液)を得た。
【0109】
半透複合膜を得る工程:比較例2と同様にして作製した多孔性支持体に、バーコーター(#6wired bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で実施例4の混合液を塗布した後、比較例2と同様にして実施例4の半透複合膜を得た。
【0110】
(2-3)実施例5のサンプルの作製
第1水分散液を得る工程:比較例1と同様にして第1水分散液を得た。
【0111】
第2水分散液を得る工程:実施例4と同様にして第2水分散液を得た。
【0112】
混合液を得る工程:蒸留水75gに第2水分散液75gを加えた以外は実施例4と同様にして、m-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA3.5質量%、SLS0.15質量%、CSA7質量%、IPA6質量%、カーボンナノチューブ0.05質量%及びセルロースナノファイバー0.05質量%を含む混合液(塗工液)を得た。
【0113】
半透複合膜を得る工程:比較例2と同様にして作製した多孔性支持体に、バーコーター(#6wired bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で実施例4の混合液を塗布した後、比較例2と同様にして実施例5の半透複合膜を得た。
【0114】
(2-4)実施例6のサンプルの作製
第1水分散液を得る工程:比較例1と同様にして第1水分散液を得た。
【0115】
第2水分散液を得る工程:実施例4と同様にして第2水分散液を得た。
【0116】
混合液を得る工程:蒸留水50gに第2水分散液113gを加えた以外は実施例4と同様にしてm-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA3.5質量%、SLS0.15質量%、CSA7質量%、IPA6質量%、カーボンナノチューブ0.05質量%及びセルロースナノファイバー0.075質量%を含む混合液(塗工液)を得た。
【0117】
半透複合膜を得る工程:比較例2と同様にして作製した多孔性支持体に、バーコーター(#6wired bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で実施例4の混合液を塗布した後、比較例2と同様にして実施例6の半透複合膜を得た。
【0118】
(2-5)実施例7のサンプルの作製
第1水分散液を得る工程:比較例1と同様にして第1水分散液を得た。
【0119】
第2水分散液を得る工程:実施例4と同様にして第2水分散液を得た。
【0120】
混合液を得る工程:蒸留水に対する第1水分散液、第2水分散液、TEA、及びCSAの添加量を変更して混合液の全量を500gとした以外は実施例4と同様にして、m-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA3.5質量%、SLS0.15質量%、CSA7質量%、IPA6質量%、カーボンナノチューブ0.05質量%及びセルロースナノファイバー0.1質量%を含む混合液(塗工液)を得た。
【0121】
半透複合膜を得る工程:比較例2と同様にして作製した多孔性支持体に、バーコーター(#6wired bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で実施例4の混合液を塗布した後、比較例2と同様にして実施例7の半透複合膜を得た。
【0122】
(2-6)実施例8のサンプルの作製
第1水分散液を得る工程:比較例1と同様にして第1水分散液を得た。
【0123】
第2水分散液を得る工程:実施例4と同様にして第2水分散液を得た。
【0124】
混合液を得る工程:蒸留水25gに第2水分散液188gを加えて全量を500gとした以外は実施例4と同様にして、m-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA3.5質量%、SLS0.15質量%、CSA7質量%、IPA6質量%、カーボンナノチューブ0.05質量%及びセルロースナノファイバー0.15質量%を含む混合液(塗工液)を得た。
【0125】
半透複合膜を得る工程:比較例2と同様にして作製した多孔性支持体に、バーコーター(#6wired bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で実施例4の混合液を塗布した後、比較例2と同様にして実施例8の半透複合膜を得た。
【0126】
(2-7)実施例9のサンプルの作製
第1水分散液を得る工程:比較例1と同様にして第1水分散液を得た。
【0127】
第2水分散液を得る工程:実施例4と同様にして第2水分散液を得た。
【0128】
混合液を得る工程:蒸留水に対する第1水分散液及び第2水分散液の添加量を変更して混合液の全量を400gとした以外は実施例4と同様にして、m-フェニレンジアミンが3.5質量%、TEA3.5質量%、SLS0.15質量%、CSA7質量%、IPA6質量%、カーボンナノチューブ0.05質量%及びセルロースナノファイバー0.2質量%を含む混合液(塗工液)を得た。
【0129】
半透複合膜を得る工程:比較例2と同様にして作製した多孔性支持体に、バーコーター(#6wired bar)を用いて多孔性支持体表面を10mm/sの速度で実施例4の混合液を塗布した後、比較例2と同様にして実施例9の半透複合膜を得た。
【0130】
(2-8)カーボンナノチューブの濃度の測定
半透膜中のカーボンナノチューブの濃度は、特開2018-169308号公報に開示される測定方法により測定した。より具体的には、まず、国際公開第2016/158992号に開示される方法で熱分析装置を用いてポリアミドとカーボンナノチューブの熱分解開始温度の違いを利用して半透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定し、当該濃度が既知となったサンプルについてフーリエ変換赤外分光器(FT-IR)を用いる全反射赤外分光法(IR-ATR法)を用いて赤外吸収スペクトルを分析して吸収ピーク強度比(Ia=I2/I1)とカーボンナノチューブの濃度(熱分析装置により予め測定した濃度)との関係をグラフ化し、最小二乗法により基準となる検量線を求め、分析対象の比較例及び実施例の半透複合膜サンプルに対して半透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを得て、この赤外線スペクトルから検量線に基づいて各サンプルのカーボンナノチューブの濃度を算出した。下記表1に各サンプルの混合液中のカーボンナノチューブの濃度(「混合液中のCNT濃度(質量%)」)と半透膜中のカーボンナノチューブの濃度(「半透膜中のCNT濃度(質量%)」)とを示した。
【0131】
(2-9)セルロースナノファイバーの濃度の推定
半透膜中のセルロースナノファイバーの濃度は、混合液中のカーボンナノチューブ濃度に対するセルロースナノファイバー濃度の比(CNF濃度/CNT濃度)に、上記(2-5)で測定したカーボンナノチューブの濃度を乗じて得た。したがって、例えば、実施例4であれば、半透膜中のセルロースナノファイバーの濃度は、(0.025/0.05)×5.9(質量%)で求めた。下記表1に各サンプルの混合液中のセルロースナノファイバーの濃度(「混合液中のCNF濃度(質量%)」)と半透膜中のセルロースナノファイバーの濃度(「半透膜中のCNF濃度(質量%)」)とを示した。
【0132】
【0133】
(2-10)水透過流束及び脱塩率の測定
半透複合膜100の水透過流束は次のように測定した。φ25mm(有効面積3.46cm
2)の半透複合膜のテストセルを膜テスト装置に装着し、純水を操作圧力5.5Mpa、流量300mL/minで3時間供給し、水透過流束を安定させた。次にクロスフローろ過方式により、温度25℃、3.2質量%の塩化ナトリウム水溶液を操作圧力5.5MPa、流量300mL/minで供給し、10分ごとに水透過流束を測定し、供給開始後30分から1時間までの水透過流束を測定した。比較例2及び実施例4~9の半透膜におけるセルロースナノファイバー濃度(CNF濃度(質量%))に対する水透過流束(m
3/(day・m
2))を
図6に示した。
図6において、黒丸は実施例4~9を示し、白丸は比較例2を示す。
【0134】
また、水透過流束の測定とともに水透過流束を測定したときの脱塩率(NaCl阻止率)も測定した。脱塩率は、供給水及び透過水の電気伝導度を堀場社製電気伝導率計(ES-71)で脱塩率は供給開始から1時間後の値とした。電気伝導度を測定し、この電気伝導度を換算して得られるNaCl濃度から、下記式(1)により脱塩率(%)を求めた。半透膜におけるセルロースナノファイバー濃度(CNF濃度(質量%))に対する脱塩率(%)を
図7に示した。
図7において、黒丸は実施例4~9を示し、白丸は比較例2を示す。
【0135】
【0136】
表1及び
図6に示すように、セルロースナノファイバーを含まない比較例2の半透複合膜の水透過流束よりもセルロースナノファイバーを含む実施例4~9の半透複合膜の水透過流束の方が高い値を示した。
【0137】
表1及び
図7に示すように、実施例4~9の半透複合膜は、98.8%以上の高い脱塩率を示した。実施例4~8の半透複合膜の脱塩率は、セルロースナノファイバーを含まない比較例2の脱塩率よりも高い値を示した。
【符号の説明】
【0138】
100…半透複合膜、102…多孔性支持体、104…半透膜、105…表面、110…カーボンナノチューブ、120…架橋芳香族ポリアミド