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特許7000040移動精度監視システム、並びに移動精度監視機能を備えた回転テーブル、工作機械及びNC装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】移動精度監視システム、並びに移動精度監視機能を備えた回転テーブル、工作機械及びNC装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/19 20060101AFI20220112BHJP
   G01M 13/02 20190101ALI20220112BHJP
【FI】
G05B19/19 L
G01M13/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2017108130
(22)【出願日】2017-05-31
(65)【公開番号】P2018205895
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2019-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】久須美 雅昭
【審査官】岩▲崎▼ 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-235587(JP,A)
【文献】特開2017-019080(JP,A)
【文献】特開2017-021472(JP,A)
【文献】国際公開第2006/103838(WO,A1)
【文献】特開平06-198546(JP,A)
【文献】特開平11-237920(JP,A)
【文献】特開昭61-049217(JP,A)
【文献】特開2001-166805(JP,A)
【文献】特開平7-239716(JP,A)
【文献】特開2010-188496(JP,A)
【文献】米国特許第4211927(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
G05B 19/42-19/46
G01M 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸に設けられたウォーム及び被駆動部に取り付けられたウォームホイールを備え、少なくとも前記駆動軸の一端に取り付けられた駆動モータの回転軸に取り付けられた駆動モータ用センサからの測定データ及び前記被駆動部に取り付けられたセンサからの測定データに基づいて、前記駆動モータのフィードバック制御を行うウォームギア式の駆動力伝達機構の移動精度を監視し、前記駆動モータ用センサが、前記駆動軸に対して前記駆動軸を駆動する前記駆動モータ側に取り付けられ、回転移動する前記駆動軸の位置または移動量を測定する、システムであって、
前記駆動軸に対して前記駆動モータと反対側に取付けられた駆動軸側センサの測定値を基に、前記ウォームと前記ウォームホイールとの駆動力伝達機構を介して、前記駆動軸の駆動トルクにより前記駆動力伝達機構の影響を受け回転を行う前記被駆動部の位置または移動量を測定する被駆動部側センサと、
所定の態様で定められたタイミングにおける前記駆動モータ用センサ、前記駆動軸側センサ及び前記被駆動部側センサの測定値に基づき、前記駆動力伝達機構における減速比を勘案した前記駆動軸の移動量と前記被駆動部の移動量との差分データを形成する差分検出部と、
前記差分データの変化または前記差分データを用いた演算値の変化に基づいて、前記被駆動部の移動精度に関する情報を形成する監視制御部と、
を備えたことを特徴とする移動精度監視システム。
【請求項2】
前記差分データを用いた演算値が、所定回数の前記差分データの平均値であることを特徴とする請求項1に記載の移動精度監視システム。
【請求項3】
前記駆動力伝達部が接触式の駆動力伝達装置であり、
前記差分データを用いた演算値が、前記駆動軸の回転方向が逆転するときの前後の前記タイミングにおける前記差分データの差、または所定回数の前記差の平均値であることを特徴とする請求項1に記載の移動精度監視システム。
【請求項4】
前記監視制御部が、
前記差分データまたは前記差分データを用いた演算値が第1の閾値に達したとき、警告報知のための制御処理を行い、
前記差分データまたは前記差分データを用いた演算値が第2の閾値に達したとき、前記駆動軸の駆動停止または駆動禁止のための制御処理を行うことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の移動精度監視システム。
【請求項5】
前記監視制御部が、
前記差分データまたは前記差分データを用いた演算値をAとし、前記変速比を勘案した前記駆動軸または前記被駆動部の移動量の累積値をBとするとき、比率R=A/BまたはB/Aを算出し、
直近の前記タイミングにおける前記Aの値及び前記比率Rの値に基づき、前記差分データまたは前記差分データを用いた演算値が前記第1の閾値または前記第2の閾値に達するまでの予想移動量または予想期間を演算することを特徴とする請求項4に記載の移動精度監視システム。
【請求項6】
前記監視制御部が、
前記差分データまたは前記差分データを用いた演算値をAとし、前記変速比を勘案した前記駆動軸または前記被駆動部の移動量の累積値をBとするとき、その比率Rを算出し、
前記比率Rの値が第3の閾値に達したとき、警告報知のための制御処理を行い、
前記比率Rの値が第4の閾値に達したとき、前記駆動軸の駆動停止または駆動禁止のための制御処理を行うことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の移動精度監視システム。
【請求項7】
前記駆動側センサまたは前記被駆動部側センサが絶対位置を検出可能なセンサであり、
前記駆動軸または前記被駆動部の絶対位置のデータが差分データとともに記憶され、
前記監視制御部が、前記駆動軸または前記被駆動部の移動精度に関する情報として、移動精度の低下が大きい前記駆動軸または前記被駆動部の絶対位置の情報を形成することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の移動精度監視システム。
【請求項8】
前記差分データまたは前記差分データを用いた演算値の履歴が不揮発性メモリに記憶されることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の移動精度監視システム。
【請求項9】
前記駆動軸側センサまたは前記被駆動部側センサが、移動精度監視用の検出信号及び前記駆動軸の駆動制御用の検出信号を出力することを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の移動精度監視システム。
【請求項10】
前記駆動軸側センサまたは前記被駆動部側センサが、前記監視制御部から受信した前記移動精度に関する情報を、前記駆動軸を駆動する装置の制御部に送信することを特徴とする請求項9に記載の移動精度監視システム。
【請求項11】
請求項1から10の何れか1項に記載の移動精度監視システムを備えたことを特徴とする回転テーブル。
【請求項12】
請求項1から10の何れか1項に記載の移動精度監視システムを備えたことを特徴とする工作機械。
【請求項13】
請求項1から10の何れか1項に記載の差分検出部及び監視制御部を備えたことを特徴とするNC装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力伝達部を介して、駆動軸の駆動トルクにより回転または所定軌道上における移動を行う被駆動部の移動精度監視システム、並びに移動精度監視機能を備えた回転テーブル、工作機械及びNC装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動軸の駆動トルクにより被駆動部を回転させる駆動力伝達部として、例えば、駆動軸及び従動軸(被駆動部)に取り付けられた歯車が噛み合った歯車伝達機構が広く用いられている。このような歯車伝達機構では、駆動力が歯車の接触面によって伝達されるので、長年の使用で歯車の接触面がすり減ると、バックラッシュが増加したり、すべりが悪くなって、従動軸側の位置決め精度や回転速度精度が悪くなる虞がある。
【0003】
このような従動軸側の位置決め精度や回転速度精度の低下を適確に監視することは重要であり、これに対処するため、例えば、駆動軸及び従動軸の両歯車間の伝達誤差を検出する歯車試験が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許公報平4-77259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、互いに噛み合う歯車が取り付けられた駆動軸及び従動軸にロータリエンコーダを結合して、両者の位相差により両歯車間の伝達誤差を検出することが記載されている。しかし、この試験を行うには、装置から歯車伝達機構を取り外す必要があり、稼働中の装置の移動精度の低下を高頻度でチェックすることは困難である。また、本試験では、歯車の摩耗に起因する伝達誤差を検出することができるが、歯車伝達機構が装置に取り付けられた実際の稼働時においては、従動軸の移動精度が低下する他の要因もあり、実稼働における移動精度の低下を適確に監視することができない。
【0006】
従って、本発明の目的は、駆動力伝達部を介して、駆動軸の駆動トルクにより回転または所定軌道上における移動を行う被駆動部について、実稼働における移動精度の低下をタイムリーに適確に監視し、診断することができる移動精度監視システム、並びにこの移動精度監視機能を備えた回転テーブル、工作機械及びNC装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の1つの実施態様に係る移動精度監視システムは、
回転移動する駆動軸の位置または移動量を測定する駆動軸側センサと、
駆動力伝達部を介して、前記駆動軸の駆動トルクにより回転または所定軌道上における移動を行う被駆動部の位置または移動量を測定する被駆動部側センサと、
所定の態様で定められたタイミングにおける前記駆動軸側センサ及び前記被駆動部側センサの測定値に基づき、前記駆動力伝達部における変速比を勘案した前記駆動軸の移動量と前記被駆動部の移動量との差分データを形成する差分検出部と、
前記差分データの変化または前記差分データを用いた演算値の変化に基づいて、前記被駆動部の移動精度に関する情報を形成する監視制御部と、
を備える。
【0008】
本発明の1つの実施態様に係る回転テーブルは、上記の移動精度監視システムを備える。
【0009】
本発明の1つの実施態様に係る工作機械は、上記の移動精度監視システムを備える。
【0010】
本発明の1つの実施態様に係るNC装置は、上記の差分検出部及び監視制御部を備える。
【発明の効果】
【0011】
上記の実施態様の移動精度監視システム、回転テーブル、工作機械及びNC装置によれば、駆動力伝達部を介して、駆動軸の駆動トルクにより回転または所定軌道上における移動を行う被駆動部について、実稼働における移動精度の低下をタイムリーに適確に監視し、診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】駆動力伝達部を介して、駆動軸の駆動トルクにより被駆動部が回転移動する場合おける駆動軸側センサ及び被駆動部側センサの配置例を模式的に示す図である。
図2】駆動力伝達部を介して、駆動軸の駆動トルクにより被駆動部が所定軌道上における移動(ここでは直線方向の移動)を行う場合おける駆動軸側センサ及び被駆動部側センサの配置例を示す模式的に図である。
図3】駆動軸側センサ及び被駆動部側センサから監視システム制御装置への接続の一例を模式的に示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る移動精度監視システムの制御構成を模式的に示すブロックダイアグラムである。
図5】本発明の第2の実施形態に係る移動精度監視システムの制御構成を模式的に示すブロックダイアグラムである。
図6】本発明の第3の実施形態に係る移動精度監視システムの制御構成を模式的に示すブロックダイアグラムである。
図7】駆動軸側センサ及び被駆動部側センサによる計測例を用いた累積移動長さまたは累積稼働期間(X軸)と差分値(Y軸)の関係を示したグラフである。
図8】駆動軸側センサ及び被駆動部側センサから監視システム制御装置への接続のその他の例を模式的に示す図である。
図9】本発明の1つの実施形態に係る回転テーブルを模式的に示す図である。
図10】本発明の1つの実施形態に係る工作機械を模式的に示す図である。
図11】本発明の1つの実施形態に係るNC装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以降、図面を参照しながら、本発明を実施するための様々な実施形態、実施例を説明する。各図面中、同一の機能を有するものとして対応する部材には、同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態(実施例)を分けて示すが、異なる実施形態(実施例)で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。第2の実施形態(その他の例)以降では第1の実施形態(1つの例)と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態(実施例)毎には逐次言及しないものとする。また、本発明は、以下の実施形態や実施例に限定されるものではない。
【0014】
(駆動軸側センサ及び被駆動部側センサの配置)
本発明に係る移動精度監視システムは、回転移動する駆動軸の位置または移動量を測定する駆動軸側センサと、駆動力伝達部を介して、駆動軸の駆動トルクにより回転または所定軌道上における移動を行う被駆動部の位置または移動量を測定する被駆動部側センサと、を備える。なお、「駆動力伝達部を介して」とは、駆動力伝達部の機械要素の物理的接触によって、駆動力、駆動トルクが伝達されることを意味する。はじめに、駆動軸側センサ及び被駆動部側センサの配置について説明する。
【0015】
<被駆動部が回転移動する場合>
まず、図1を参照しながら、被駆動部が回転移動する場合の配置例を説明する。図1は、駆動力伝達部8を介して、駆動軸4の駆動トルクにより被駆動部6が回転移動する場合における駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12の配置例を模式的に示す図である。
【0016】
図1に示す例では、駆動軸4を回転させる駆動モータ(電動モータ)30が備えられている。駆動軸4は、駆動モータ30の回転軸の場合も、駆動モータ30の回転軸に接続された個別の部材の場合もあり得る。また、駆動力伝達部8として、駆動軸4に設けられたウォーム4A及び被駆動部6に取り付けられたウォームホイール6Aからなるウォームギア式の駆動力伝達機構が示されている。
このようなウォームギア式の駆動力伝達機構は、大きな減速比が得られるので、例えば、工作機械に追加して設置し、加工の自由度を上げる回転テーブル(傾斜ステージ等)に用いることができる。ウォームギア式の回転テーブルは、ダイレクトドライブの回転テーブル等に比較し、小型で大重量の工作物の回転を行うことができ、バックラッシュが比較的小さくすることができるため、広く用いられている。
【0017】
図1に示す例では、駆動モータ30の駆動トルクで回転する駆動軸4に設けられたウォーム4Aが、矢印Aで示すように両方向に回転可能である。これに対応して、ウォームホイール6Aが取り付けられた被駆動部6が、矢印Bで示すように所定の変速比で減速されて両方向に回転する。この被駆動部6を、工作物を回転させる回転テーブルとして利用することができる。
【0018】
駆動軸4の駆動モータ30の回転軸の後端側に、駆動モータ用ロータリエンコーダ32が取り付けられている。この駆動モータ用ロータリエンコーダ32により、駆動モータ30の駆動軸4の回転位置や回転量を正確に測定することができる。
また、被駆動部6には、一定の角度のピッチで円弧状にスリットが設けられたエンコーダスケール12Bを有する。更に、エンコーダスケール12Bの回転半径位置に光源及び光電素子からなるエンコーダヘッド34Aが設置されている。このエンコーダヘッド34A及びエンコーダスケール12Bにより、ホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34が構成される。このホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34により、被駆動部6の回転位置や回転量を正確に測定することができる。
【0019】
駆動モータ用ロータリエンコーダ32及びホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34からの測定データに基づいて、駆動モータ30をフィードバック駆動制御することができる。
【0020】
更に、駆動軸4の駆動モータ30と反対側の端部に、ロータリエンコーダからなる、移動精度監視システム2の駆動軸側センサ10が取り付けられている。この駆動軸側センサ(ロータリエンコーダ)10により、駆動モータ30の駆動軸4の回転位置や回転量を正確に測定することができる。
被駆動部6には、上記のエンコーダスケール12Bを有し、更に、エンコーダスケール12Bの回転半径位置(エンコーダヘッド34Aとは周方向で異なる位置)に、光源及び光電素子からなるエンコーダヘッド12Aが設置されている。このエンコーダヘッド12A及びエンコーダスケール(ロータリエンコーダ)12Bにより、ロータリエンコーダからなる、移動精度監視システム2の被駆動部側センサ12が構成される。この被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12により、被駆動部6の回転位置や回転量を正確に測定することができる。
【0021】
図1に示す例では、ホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34及び被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12で、同じエンコーダスケール12Bを用いているが、2つのロータリエンコーダが個々のエンコーダスケールを有することもできる。図1に示す例では、駆動モータ30の駆動制御用の駆動モータ用ロータリエンコーダ32及びホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34と個別に、移動精度監視用の駆動軸側センサ(ロータリエンコーダ)10及び被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12を備えているが、これに限られるものではなく、駆動軸側センサ(ロータリエンコーダ)10及び被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12の少なくとも一方を、駆動モータ30の駆動制御用のロータリエンコーダ32、34と共用することもできる。
【0022】
移動精度監視システム2で用いるロータリエンコーダは、インクリメンタル型エンコーダを用いることも、アブソリュート型エンコーダを用いることもできる。インクリメンタル型エンコーダの場合には、測定開始前に一度ゼロリセットするか、電源のオンオフを行う必要がある。アブソリュート型エンコーダの場合には、測定開始時におけるエンコーダの値を記憶し、常時その値を差分して計算を行なえばよい。アブソリュート型エンコーダの場合には、駆動軸4、被駆動部6または駆動力伝達部8の各機械要素の絶対位置を検出することもできる。
【0023】
<被駆動部が所定軌道上における移動を行う場合>
次に、図2を参照しながら、被駆動部が所定軌道上における移動を行う場合の一例として、被駆動部が直線方向に移動を行う場合の配置例を説明する。図2は、駆動力伝達部8’を介して、駆動軸4’の駆動トルクにより被駆動部6’が直線方向に移動を行う場合における駆動軸側センサ10’及び被駆動部側センサ12’の配置例を模式的に示す図である。
【0024】
図2に示す例でも、駆動軸4’を回転させる駆動モータ(電動モータ)30’が備えられている。また、駆動力伝達部8’として、ボールネジ機構、ラックアンドピニオン機構、クランク機構、カム機構をはじめとする回転移動を所定軌道上における移動に変換する任意の機構を用いることができる。図2に示す例では、駆動モータ30’の駆動トルクで、駆動軸4’が矢印Cで示すように両方向に回転可能である。これに対応して、駆動力伝達部8’により回転移動が直線方向の移動に変換され、被駆動部6’が、矢印Dに示すように、両方向に直線移動する。
【0025】
図2に示す例では、駆動モータ30’の駆動トルクで回転する駆動軸4’にロータリエンコーダからなる、駆動軸側センサ10’が取り付けられている。なお、駆動モータ30’の駆動制御用のロータリエンコーダと共用することもできるし、別途設けることもできる。
また、被駆動部6’の移動方向に沿って、リニアエンコーダからなる被駆動部側センサ12’が設けられている。なお、駆動モータ30’の駆動制御用のリニアエンコーダと共用することもできるし、別途設けることもできる。
【0026】
以上のように被駆動部6’が所定軌道上における移動を行う場合においても、上記の被駆動部6が回転移動する場合と同様に、以下に説明する本発明の任意の実施形態に係る移動精度監視システム2を適用することができる。
【0027】
図1及び2の例では、駆動軸4を回転させる駆動モータ(電動モータ)が備えられているが、これに限られるものではなく、油圧モータ、エアモータ、原動機をはじめとする任意の回転駆動源を用いることができる。
図1の例では、駆動力伝達部8として、ウォーム及びウォームホイールからなるウォームギアが用いられているが、これに限られるものではなく、平歯、かさ歯をはじめとするその他の任意の歯車を用いることができるし、遊星歯車を用いることもできる。
【0028】
図1の例では、駆動軸側センサ及び被駆動部側センサとして、ロータリエンコーダが用いられているが、これに限られるものではなく、所定のインターバルでデジタル信号を発信するその他の任意のデジタル回転センサを用いることもできる。更に、ポテンショメータのような連続的に測定値を出力するアナログセンサを用いることもできる。
【0029】
(駆動軸側センサ及び被駆動部側センサから監視システム制御装置への接続の一例)
次に、図3を参照しながら、図1に示す場合を例にとって、駆動軸側センサ及び被駆動部側センサから監視システム制御装置への電気的な接続について説明する。図3は、駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12から監視システム制御装置20への接続の一例を模式的に示す図である。
【0030】
図3に示すように、回転移動する駆動軸4の位置または移動量を測定する駆動軸側センサ10、及び駆動力伝達部8を介して、駆動軸4の駆動トルクにより回転移動を行う被駆動部6の位置または移動量を測定する被駆動部側センサ12が、監視システム制御装置20に電気的に接続されている。
監視システム制御装置20には、所定の態様で定められたタイミングにおける駆動軸側センサ(ロータリエンコーダ)10及び被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12の測定値に基づき、駆動力伝達部8における変速比を勘案した駆動軸4の移動量と被駆動部6の移動量との差分データを形成する差分検出部22、及び差分データの変化または差分データを用いた演算値の変化に基づいて、被駆動部6の移動精度に関する情報を形成する監視制御部24が備えられている。
【0031】
また、駆動モータ用ロータリエンコーダ32及びホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34が、回転テーブル用制御装置42に電気的に接続されている。これにより、駆動モータ30のフィードバック駆動制御を行うことができる。
以下においては、上記のような機器構成を有する移動精度監視システムの様々な実施形態について説明する。
【0032】
(本発明の第1の実施形態に係る移動精度監視システム)
はじめに、図4を参照しながら、発明の第1の実施形態に係る移動精度監視システムについて説明する。図4は、本発明の第1の実施形態に係る移動精度監視システム2の制御構成を模式的に示すブロックダイアグラムである。なお、図4から図6に示す矢印は、信号の流れを示している。
【0033】
図4に示すように、本実施形態に係る監視システム制御装置20は、差分検出部22及び監視制御部24を備える。差分検出部22は、変速値勘案部22A及び差分算出部22Bを備える。また、監視制御部24は、診断部から構成されている。
【0034】
所定の態様で定められたタイミングで、駆動軸側センサ10で測定された駆動側測定データ及び被駆動部側センサ12で測定された被駆動側測定データが差分検出部22の変速値勘案部22Aへ送信される。ここで、所定の態様で定められたタイミングには、一定の時間間隔ごとのタイミングも含まれるし、一定ではない、予め定められたルールに基づく(プログラミングされた)時間間隔ごとのタイミングも含まれるし、何らかのイベント(例えば、駆動軸4の駆動指令信号送信時)におけるタイミングも含まれるし、それらを組み合わせたタイミングも含まれる。更に、駆動軸側センサ10や被駆動部側センサ12がアナログセンサの場合には、常時測定データを送信可能である。
【0035】
変速値勘案部22Aでは、駆動力伝達部8における変速比を勘案して、駆動軸4の位置または移動量及び被駆動部6の位置または移動量を比較可能なように調整する。具体的には、例えば、駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)10が検出した回転角度をθ10とし、被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12が検出した回転角度をθ12とし、駆動力伝達部(ウォームギア)8の減速比をnとすると、
被駆動部6側の回転角度を駆動軸4側と同様になるように、減速比nを乗じて、
θ12aj=n×θ12
とする。
【0036】
以上のようにして調整されたθ10及びθ12ajが、差分算出部22Bに送信される。
差分算出部22Bでは、比較可能になった両者の差分データΔθを形成する。つまり、
Δθ=θ12aj-θ10
を算出して、この差分データΔθはメモリに保管される。
【0037】
なお、駆動軸4側の回転角度を被駆動部6側と同様になるように、減速比nで割って、
θ10aj=θ10/n
を計算し、
Δθ=θ12-θ10aj
を算出して、この差分データΔθをメモリに保管することもできる。
【0038】
この演算に用いるθ10及びθ12は、同時に計測されたデータに基づくことが好ましい。しかし、もし、駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)10及び被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12の2つのロータリエンコーダが、クロック部を共有していない場合には、クロック分の計測ジッタ(クロックジッタ)を含むことになる。このクロックジッタは、駆動軸4及び被駆動部6の回転速度が速い場合により大きく影響する。よって、クロックジッタが、信頼性のある監視、診断が得られる所定の許容範囲内に収まるように、駆動軸4及び被駆動部6の回転速度に応じて、クロックのタイミングを勘案する必要がある。
【0039】
駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)10及び被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12の1回の計測データに基づく差分データΔθは、多少のばらつきが生じる可能性もある。よって、差分算出部22Bは、所定回数の計測データに基づいて算出した差分データΔθの平均値である差分データ平均値Δθaveを算出し、この差分データ平均値Δθaveもメモリに保管される。これにより、より信頼度の高いデータに基づく、監視、診断が実施できる。
【0040】
次に、監視制御部(診断部)24では、メモリに記憶された差分データΔθまたは差分データ平均値Δθaveの変化に基づいて、被駆動部6の移動精度に関する情報を形成し、その結果を診断出力として外部へ送信する。
【0041】
ここで、「被駆動部の移動精度に関する情報」には、使用初期または部品交換時からの被駆動部6の移動精度の変化を示す情報(差分データΔθまたは差分データ平均値Δθaveが大きくなればバックラッシュ等が増えたと認識できる)、被駆動部6の移動精度の低下を示す情報、移動精度が許容範囲内であるか否かの判定結果、許容範囲を越えるまでの推定移動距離または推定期間、使用者への警告に関する情報、駆動軸4の駆動停止・駆動禁止に関する情報、被駆動部6の移動精度が特に低下した絶対位置に関する情報等が含まれる。
【0042】
駆動力伝達部8において、例えば、バックラッシュが増大した場合、被駆動部6の移動精度の低下が問題となる。本実施形態では、変速比を勘案した駆動軸4の移動量と被駆動部6の移動量との差分データΔθの変化または差分データ平均値Δθaveの変化に基づいて、被駆動部6の移動精度に関する情報を形成するので、被駆動部6の移動精度の低下を適確に監視し、診断することができる。特に、所定の態様で定められたタイミングにおける測定値に基づくので、用途に応じた稼働時の適確なタイミングにおける正確な監視、診断が期待できる。
【0043】
よって、移動精度監視システム2では、実稼働における被駆動部6の移動精度の低下をタイムリーに適確に監視し、診断することができる。
特に、所定回数の差分データの平均値Δθaveを用いることにより、信頼度の高い測定データに基づく、信頼度の高い監視、診断が実現できる。
【0044】
「使用者への警告に関する情報」や「駆動軸4の駆動停止・駆動禁止に関する情報」については、監視制御部(診断部)24は、下記のような制御処理を行う。
もし、差分データΔθまたは差分データ平均値Δθaveが第1の閾値に達したとき、警告報知のための制御処理を行う。警告報知のための制御処理には、監視制御部(診断部)24から送信された診断出力に基づいて、ランプ表示、音声、表示装置を用いた画像表示等により、使用者に警告報知する制御処理が含まれる。
これらの報知するための機器は、移動精度監視システム2内に有することもできるし、後述するような回転テーブル、工作機械、NC装置に備えられている場合もあり得る。
【0045】
もし、差分データΔθまたは差分データ平均値Δθaveが第2の閾値に達したとき、駆動軸4の駆動停止または駆動禁止のための制御処理を行う。監視制御部(診断部)24から送信された診断出力に基づいて、駆動モータ30の駆動制御部が、もし、駆動モータ30が駆動中であれば、駆動を停止させて、再起動不可の状態に設定する。もし、駆動モータ30が停止中の場合には、起動信号を受信しても起動しない状態に設定する。
第1の閾値及び第2の閾値については、用途に応じて、経験的に最適値を定めることもできるし、試験を繰り返して最適値を定めることもできるし、理論計算に基づいて定めることもできるし、それらを組み合わせて最適値を定めることもできる。
【0046】
以上のように、被駆動部6の移動精度の低下の適確な監視に基づくワーニングまたはアラームのための制御処理により、不具合が生じることを未然に確実に防ぐことができる。
【0047】
なお、差分算出部22Bで算出した差分データΔθや差分データ平均値Δθaveの履歴は、不揮発性メモリに記憶されることが好ましい。これにより、例えば、ワーニングまたはアラームのための制御処理が行われて、メンテナンスが実施されるとき、作業員が、不揮発性メモリに記憶された差分データΔθや差分データ平均値Δθaveの履歴を取り出して、機械要素の劣化の履歴を把握して、適確なメンテナンスを実行できる。
【0048】
また、図1等に示すように、駆動軸側センサ10が、駆動軸4の駆動モータ30と反対側の端部に取り付けられている場合には、センサの分解能によっては、駆動モータ30に取り付けられた駆動モータ用ロータリエンコーダ32と、反対側の端部に取り付けられ駆動軸側センサ10により、被駆動部6の移動精度に影響する駆動軸4の捻れを適確に検出することができる。
【0049】
(本発明の第2の実施形態に係る移動精度監視システム)
次に、図5を参照しながら、発明の第2の実施形態に係る移動精度監視システムについて説明する。図5は、本発明の第2の実施形態に係る移動精度監視システム2の制御構成を模式的に示すブロックダイアグラムである。
【0050】
本実施形態に係る移動精度監視システムでは、上記の第1の実施形態に係る移動精度監視システムに比べ、更に、差分検出部22に方向分別部22C及び方向別差分部22Dが備えられている点で異なる。
【0051】
方向分別部22Cは、駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)10または被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12において、当該測定時と一つ前の測定時の測定値の差が正の場合は正回転と判断し、当該測定時と一つ前の測定時の測定値の差が負の場合は逆回転と判断する。
この判断に基づき、差分算出部22Bで算出した差分データΔθは、正回転と判断された場合にはΔθpとして、メモリのΔθpの保管場所に記憶され、逆回転と判断された場合にはΔθmとして、メモリのΔθmの保管場所に記憶される。最新のΔθp及びΔθmの値としては、次の測定時において、Δθp及びΔθmのどちらか一方が新値に書き換えられる。
【0052】
方向別差分部22Dは、駆動軸の回転方向が逆転するときの前後のタイミングにおける差分データの差を算出する。つまり、差分データの差Δとして、θp及びΔθmの差の絶対値である
Δ=|Δθp-Δθm|
を算出する。この回転方向が逆転するときの差分データの差Δが、メモリに記憶される。ここで絶対値を用いているのは、回転方向によらず、バックラッシュ等により同様な差分データの差Δが生じるからである。
ただし、正から負への逆転か負から正への逆転か識別可能なので、逆転する方向のデータを個別にメモリに保管することもできる。この場合には、逆転の方向の違いによってバックラッシュの量がそれぞれどのようになるか、逆転する方向によってバックラッシュの量に差が生じるかといったような、更に詳細な分析も可能である。
【0053】
方向別差分部22Dは、所定回数における回転方向が逆転するときの差分データの差Δの平均値Δaveも算出する。この差Δの平均値Δaveが、メモリに記憶される。
以上のように、本実施形態では、差分検出部22により、駆動軸4の回転方向が逆転するときの前後のタイミングにおける差分データの差Δ、及び所定回数の差の平均値Δaveが計算され、メモリに保管される。
【0054】
次に、監視制御部(診断部)24では、メモリに記憶された差分データの差Δまたは差の平均値Δaveの変化に基づいて、被駆動部6の移動精度に関する情報を形成し、その結果を診断出力として外部へ送信する。つまり、第2の実施形態では、第1の実施形態の「差分データΔθまたは差分データ平均値Δθaveの変化」の代わりに、「回転が逆転するときの差分データの差Δまたはその平均値Δaveの変化」に基づいて、被駆動部6の移動精度に関する情報を形成する。回転が逆転するときの差分データの差Δまたはその平均値Δaveの変化が、第1の閾値または第2の閾値に達したとき、それに応じて、第1の実施形態と同様な制御処理を行う。
監視制御部(診断部)24が形成する移動精度に関する情報や、それに付随する制御処理については、上記の第1の実施形態と同様なので、更なる説明は省略する。
【0055】
駆動力伝達部8において、一方向の移動における差分データΔθを用いると、駆動力伝達部8の機械要素(例えば、ウォーム及びウォームホイール)どうしが接触した状態から移動が開始されて、バックラッシュを検出できない虞がある。本実施形態では、駆動軸の回転方向が逆転するときの前後のタイミングでの差分データΔθの差Δに基づいて判定を行うので、バックラッシュ量の正確な検出に基づく正確な監視、診断が実現できる。
更に、所定回数の差Δの平均値Δaveを用いることにより、より信頼度の高い測定データに基づく、より信頼度の高い監視、診断が実現できる。
【0056】
上記のような、所定回数の差分データΔθの平均値である差分データ平均値Δθave、回転方向が逆転するときの差分データの差Δ、及び所定回数の差Δの平均値Δave等を総称して、「差分データを用いた演算値」と称することもできる。
【0057】
「差分データを用いた演算値」を用いて、第1及び第2の実施形態をまとめれば、下記のように示すことができる。
移動精度監視システム2は、
(1)回転移動する駆動軸4の位置または移動量を測定する駆動軸側センサ10と、
(2)駆動力伝達部8を介して、駆動軸4の駆動トルクにより回転または所定軌道上における移動を行う被駆動部6の位置または移動量を測定する被駆動部側センサ12と、
(3)所定の態様で定められたタイミングにおける駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12の測定値に基づき、駆動力伝達部8における変速比を勘案した駆動軸4の移動量と被駆動部6の移動量との差分データΔθを形成する差分検出部22と、
(4)差分データΔθの変化または差分データΔθを用いた演算値(Δθave、Δ、Δave等)の変化に基づいて、被駆動部6の移動精度に関する情報を形成する監視制御部24と、
を備える。
【0058】
(差分データまたは差分データを用いた演算値の変化に対応した制御処理)
次に、図7を参照しながら、差分データまたは差分データを用いた演算値の変化に対応した制御処理について説明する。図7は、駆動軸側センサ及び被駆動部側センサによる計測例を用いた累積移動長さまたは累積稼働期間(X軸)と差分値(Y軸)の関係を示したグラフである。
【0059】
グラフのX軸の累積移動長さは、駆動力伝達部8における変速比を勘案した駆動軸4または被駆動部6の回転移動した累積移動長さを示す。もし、駆動軸4または被駆動部6の移動長さ及び稼働期間に対する相関が得られれば、X軸が累積稼働期間を表すようにすることもできる。グラフのY軸の差分値は、図7のグラフでは、回転方向が逆転するときの差分データの差Δの所定回数の平均値Δaveを示している。ただし、これに限られるものではなく、差分値が、差分データΔθや、差分データΔθを用いたその他の演算値(差分データΔθの平均値である差分データ平均値Δθave、回転方向が逆転するときの差分データの差Δ等)を用いることもできる。
グラフには、計測値1~3として、実際に計測した累積移動長さ(累積稼働期間)に対する差分値の変化がプロットされている。また、上記の第1の閾値及び第2の閾値が、X軸と平行なラインで示されている。
【0060】
駆動軸4または被駆動部6の累積移動長さ(累積稼働期間)が増加するにつれて、バックラッシュ等の増加に起因して差分値が徐々に増加する。例えば、計測例3(実線)において、差分値が第1の閾値に達すると(矢印E1参照)、ワーニングのための制御処理が実施される。更に、差分値の値が第2の閾値に達すると(矢印E2参照)、アラームのための制御処理が実施される。
グラフから明らかなとおり、各計測値の累積移動長さ(累積稼働期間)及び差分値は線形に近い相関関係を有する。よって、各計測値のグラフでの傾きを示す比率Rは、
R=単位移動長さに対応する差分値の増加量/単位移動長さ、または
R=単位稼働期間に対応する差分値の増加量/単位稼働期間働時間、
として算出することができる。この比率Rは、メモリに記憶される。
【0061】
現状での差分値と、比率Rがわかれば、第1の閾値及び第2の閾値に達するまでの推定移動長さ、または推定稼働期間を算出することができる。例えば、計測例3(実線)において、現状の差分値を矢印Fで示すポイントとすると、傾きRがほぼ一定なので、第1の閾値に達する矢印E1で示すポイントまでの、移動距離Wまたは稼働期間(予想寿命)Tが算出できる。
【0062】
なお、比率Rは、上記に限られるものではなく、その逆数の
R=単位移動長さ/単位移動長さに対応する差分値の増加量、または
R=単位稼働期間/単位稼働期間に対応する差分値の増加量
を用いることもできる。
【0063】
以上のように、監視制御部24が、差分データΔθまたは差分データΔθを用いた演算値(Δθave、Δ、Δave等)をAとし、変速比を勘案した駆動軸4または被駆動部6の累積移動量または累積稼働期間をBとするとき、比率R=A/BまたはB/Aを算出し、直近のタイミングにおけるAの値及び比率Rの値に基づき、差分データまたは差分データを用いた演算値が第1の閾値または第2の閾値に達するまでの予想移動量または予想稼働期間を算出することができる。
【0064】
これにより、被駆動部6の移動精度の所定の許容範囲を越えるまでの移動量または稼働期間を適確に予測して、使用者に報知することができるので、不具合が生じることを適確に防ぐことができる。
【0065】
上記のように、駆動軸4または被駆動部6の累積移動長さ(累積稼働期間)と差分値は線形に近い相関を有するが、寿命が近くなると、移動長さ(稼働期間)に対する差分値Δθaveの増加量が大きくなる傾向にある。つまり、グラフの傾きを示す比率Rが急に大きくなる傾向にある。例えば、計測例3(実線)において、矢印Gで示すポイントで、比率Rが大きくなることが示されている。
【0066】
これに基づいて、比率Rの大きさ(グラフにおける傾きの程度)に着目して、比率Rの大きさに応じてワーニングやアラームのための制御処理を行うこともできる。図7には、比率R(グラフの傾き)に関する許容限度を示す第3の閾値及び第4の閾値が示されている。ここで、第3の閾値が上記の第1の閾値に対応し、第4の閾値が上記の第2の閾値に対応している。
【0067】
つまり、監視制御部24が、差分データΔθまたは差分データΔθを用いた演算値(Δθave、Δ、Δave等)をAとし、変速比を勘案した駆動軸4または被駆動部6の移動量の累積値(稼働期間の累積値)をBとするとき、その比率R(例えば、A/BまたはB/A)を算出し、比率Rの値が第3の閾値に達したとき、警告報知のための制御処理を行い、比率Rの値が第4の閾値に達したとき、駆動軸4の駆動停止または駆動禁止のための制御処理を行うことができる。
【0068】
なお、「警告報知のための制御処理」や「駆動軸4の駆動停止または駆動禁止のための制御処理」については、上記の第1の閾値、第2の閾値に達した場合と同様なので、更なる説明は省略する。
【0069】
これにより、比率Rの値が急に大きくなるポイント、つまり被駆動部6の移動精度の低下が顕著になるポイントを適確に捉えることができるので、被駆動部6の移動精度の適確な監視に基づくワーニングまたはアラームのための制御処理により、不具合が生じることを未然に確実に防ぐことができる。
なお、第3の閾値及び第4の閾値についても、用途に応じて、経験的に最適値を定めることもできるし、試験を繰り返して最適値を定めることもできるし、理論計算に基づいて定めることもできるし、それらを組み合わせて最適値を定めることもできる。
【0070】
その他の例として、駆動軸4または被駆動部6の累積移動長さ(累積稼働時間)と差分値が、グラフで曲線状となるような相関を有する場合には、その曲線に類似する関数fを用いて、
差分値=f(累積移動長さ)、
差分値=f(累積稼働期間)
のように表すこともできる。
この関数fを用いて、第1の閾値及び第2の閾値に達するまでの移動長さや稼働期間(寿命)を予測することもできる。同様に、関数fを用いて、ワーニングまたはアラームのための制御処理を行うこともできる。
【0071】
(本発明の第3の実施形態に係る移動精度監視システム)
次に、図6を参照しながら、発明の第3の実施形態に係る移動精度監視システムについて説明する。図6は、本発明の第3の実施形態に係る移動精度監視システム2の制御構成を模式的に示すブロックダイアグラムである。
【0072】
本実施形態に係る移動精度監視システムでは、上記の第2の実施形態に係る移動精度監視システムに比べ、被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12から被駆動部側測定データが、差分検出部22の変速値勘案部22Aに送信されるだけでなく、監視制御部(診断部)24にも送信される点で異なる。また、本実施形態では、被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12として、絶対位置を検出可能なアブソリュート型エンコーダが用いられている。
【0073】
なお、駆動力伝達部8を介して、駆動軸4及び被駆動部6は連結されているので、駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)10から、駆動部側測定データが監視制御部(診断部)24に直接送信されるようにすることも同様な機能を果たすことができる。その場合には、駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)10として、絶対位置を検出可能なアブソリュート型エンコーダが用いられる。
【0074】
アブソリュート型エンコーダの場合、1回転の絶対角度情報を基にして、1回転のどの位置において、移動精度の低下が大きいか、つまりバックラッシュが大きいか特定することができる。バックラッシュの量を駆動側、被駆動側の絶対値情報とともに、メモリに記憶することで、個々特定の位置におけるバックラッシュの変化(経過)を知ることができる。 例えば、ギア式の回転テーブルにおいては、結果的にどのギア(歯車)のバックラッシュの量が増加して、状態が劣化しているか等、個別のギア(歯車)の状態及び状態の変化を知ることができる。
【0075】
このことを利用すれば、ギア(歯車)の劣化している箇所とそうでない箇所が判別できるので、繰り返し同じ加工や運動をする様な機械の場合や、故障したり、バックラッシュか多くなり使用に支障をきたす様な場合に、使用している特定の箇所での状況によりワーニング情報やアラーム情報等を出すなど、特定の使用状態におけるカスタマイズされた情報とすることができる。
【0076】
更に、故障して修理をする際にも、装置(ウォームギア)全体を交換することなく、ギアの軸に対する取付角度を変えたり、又は加工物の取付角度を変える等により、支障の無いところを使って使用を続ける(再開する)ことが可能になるなど、簡便に復帰させることが可能となる。
【0077】
以上のように、本実施形態では、駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)10または被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)12が絶対位置を検出可能なセンサ(アブソリュート型エンコーダ)であり、駆動軸4または被駆動部6の絶対位置のデータが差分データΔθ等とともに記憶され、監視制御部24が、駆動軸4または被駆動部6の移動精度に関する情報として、移動精度の低下が大きい駆動軸4または被駆動部6の絶対位置の情報を形成する。これにより、移動精度の低下が大きい駆動力伝達部8の機械要素の絶対位置も判別できる。
【0078】
よって、駆動力伝達部8の機械要素(例えば、歯車)において、劣化している箇所と劣化が少ない箇所を判別できるので、被駆動部6の移動精度に関し、特定の使用状態におけるカスタマイズされた情報を形成できる。更に、機械要素(歯車)の劣化の少ない箇所が主な稼働箇所となるように変更することにより、機械要素全体を交換することなく操業を継続することもできる。
【0079】
(駆動軸側センサ及び被駆動部側センサから監視システム制御装置への接続のその他の例)
次に、図8を参照しながら、駆動軸側センサ及び被駆動部側センサから監視システム制御装置への接続のその他の例を説明する。図8は、駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12から監視システム制御装置20への接続のその他の例を模式的に示す図である。
【0080】
図8に示す接続例は、上記の図4に示す接続例に比べて、駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12が、移動精度監視用の検出信号だけでなく、駆動軸4の駆動制御用の検出信号も出力する点でことなる。ただし、これに限られるものではなく、駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12の片方が、移動精度監視用の検出信号及び駆動軸4の駆動制御用の検出信号を出力する場合もあり得る。
【0081】
この場合、駆動軸4または被駆動部6において、1つのセンサを備えるだけで、移動精度監視及び駆動制御を個別に確実に実施することができる。
【0082】
更に、駆動軸側センサ10または被駆動部側センサ12が、監視制御部24から受信した被駆動部6の移動精度に関する情報を、駆動軸4を駆動する装置の制御部に送信することもできる。つまり、センサが測定データの送信だけでなく、所定の情報を含む信号の受信、送信を行う中継基地の機能も果たしている。
【0083】
これにより、新たなケーブル等を設けることなくシンプルな構成で、移動精度に関する情報を含む信号を、駆動制御用の信号(位置や角度信号)とともに装置の制御部に送信できる。これにより、駆動軸4を駆動する装置において、ワーニング、アラーム等の必要な制御処理を行うことができる。
なお、駆動軸4を駆動する装置の制御部としては、回転テーブルの制御装置や、工作機械の制御装置や、NC装置等が該当する。
【0084】
(本発明の1つの実施形態に係る回転テーブル)
次に、図9を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る回転テーブルの説明を行う。図9は、本発明の1つの実施形態に係る回転テーブル40を模式的に示す図である。
【0085】
本実施形態では、図8に示す駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12から監視システム制御装置20への接続例と同様に、駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12が、移動精度監視用の検出信号及び駆動軸4の駆動制御用の検出信号を出力する。なお、駆動モータ用ロータリエンコーダ32及びホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34が、移動精度監視用の検出信号及び駆動軸4の駆動制御用の検出信号を出力すると捉えることもできる。
また、差分検出部22及び監視制御部(診断部)24を備えた監視システム制御装置20が、回転テーブル40の回転テーブル用制御装置42に設けられている。図9において、移動精度監視システム2に該当する部分を一点鎖線で囲んである。
【0086】
ただし、これに限られるものではなく、本発明には、上記の任意の移動精度監視システム2を備えた回転テーブル40が含まれ、駆動軸側センサ10や被駆動部側センサ12は、移動精度監視システム専用に備えることもできるし、回転テーブル40の駆動制御用のセンサを用いることもできる。また、差分検出部22及び監視制御部24は、移動精度監視システム専用に備えることもできるし、回転テーブル用制御装置42を用いることもできる。差分検出部22及び監視制御部(診断部)24を移動精度監視システム専用に備える場合には、移動精度監視システムから出力された信号に基づいて、回転テーブル用制御装置42において、駆動軸4の駆動停止または駆動禁止のための制御処理を行う。
【0087】
(本発明の1つの実施形態に係る工作機械)
次に、図10を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る工作機械の説明を行う。図10は、本発明の1つの実施形態に係る工作機械を模式的に示す図である。本実施形態では、傾斜ステージ等に用いる回転テーブルだけでなく、工作機械専用の回転機構に適用することもできる。
【0088】
本実施形態では、図8に示す駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12から監視システム制御装置20への接続例と同様に、駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12が、移動精度監視用の検出信号及び駆動軸4の駆動制御用の検出信号を出力する。なお、駆動モータ用ロータリエンコーダ32及びホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34が、移動精度監視用の検出信号及び駆動軸4の駆動制御用の検出信号を出力すると捉えることもできる。
また、差分検出部22及び監視制御部(診断部)24を備えた監視システム制御装置20が、工作機械50の工作機械用制御装置52に設けられている。なお、工作機械のフィードバック制御を行うためのNC装置60が、工作機械用制御装置52に接続されている。図10において、移動精度監視システム2に該当する部分を一点鎖線で囲んである。
【0089】
ただし、これに限られるものではなく、本発明には、上記の任意の移動精度監視システム2を備えた工作機械50が含まれ、駆動軸側センサ10や被駆動部側センサ12は、移動精度監視システム専用に備えることもできるし、工作機械または回転テーブルの駆動制御用のセンサを用いることもできる。また、差分検出部22及び監視制御部24は、移動精度監視システム専用に備えることもできるし、工作機械50の工作機械用制御装置52または回転テーブルの制御装置を用いることもできる。差分検出部22及び監視制御部(診断部)24を移動精度監視システム専用に備える場合には、移動精度監視システムから出力された信号に基づいて、工作機械用制御装置52または回転テーブルの制御装置において、駆動軸4の駆動停止または駆動禁止のための制御処理を行う。
【0090】
(本発明の1つの実施形態に係るNC装置)
次に、図11を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係るNC装置の説明を行う。図11は、本発明の1つの実施形態に係るNC装置を模式的に示す図である。
【0091】
本実施形態では、図8に示す駆動軸側センサ及び被駆動部側センサから監視システム制御装置への接続例と同様に、駆動軸側センサ10及び被駆動部側センサ12が、移動精度監視用の検出信号及び駆動軸4の駆動制御用の検出信号を出力する。なお、駆動モータ用ロータリエンコーダ32及びホイール駆動制御用ロータリエンコーダ34が、移動精度監視用の検出信号及び駆動軸4の駆動制御用の検出信号を出力すると捉えることもできる。
また、差分検出部22及び監視制御部(診断部)24を備えた監視システム制御装置20が、NC装置内に設けられている。よって、上記のように、移動精度に関する情報を含む信号を、駆動制御用の信号(位置や角度信号)とともにNC装置に送信できるので、NC装置において、ワーニング、アラーム等の必要な制御処理を行うことができる。図11において、移動精度監視システム2に該当する部分を一点鎖線で囲んである。
【0092】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0093】
2 移動精度監視システム
4、4’ 駆動軸
4A ウォーム
6、6’ 被駆動部
6A ウォームホイール
8、8’ 駆動力伝達部
10、10’ 駆動軸側センサ(ロータリエンコーダ)
12 被駆動部側センサ(ロータリエンコーダ)
12A エンコーダヘッド
12B エンコーダスケール
12’ 被駆動部側センサ(リニアエンコーダ)
20 監視システム制御装置
22 差分検出部
22A 変速値勘案部
22B 差分算出部
22C 方向分別部
22D 方向別差分部
24 監視制御部(診断部)
30 駆動モータ
32 駆動モータ用ロータリエンコーダ
34 ホイール駆動制御用ロータリエンコーダ
34A エンコーダヘッド
40 回転テーブル
42 回転テーブル用制御装置
50 工作機械
52 工作機械用制御装置
60 NC装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11