(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】FRP用編地基材
(51)【国際特許分類】
D04B 1/00 20060101AFI20220203BHJP
D04B 15/48 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
D04B1/00 B
D04B1/00 C
D04B15/48
(21)【出願番号】P 2017145323
(22)【出願日】2017-07-27
【審査請求日】2020-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】芦辺 伸介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】加納 克也
(72)【発明者】
【氏名】弓場 功雄
(72)【発明者】
【氏名】池中 政光
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-259144(JP,A)
【文献】特表2000-501792(JP,A)
【文献】特開2015-048536(JP,A)
【文献】特開2010-196177(JP,A)
【文献】国際公開第2005/095079(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00
D04B 15/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行な強化繊維糸から成る複数の層が編糸により固定されているFRP用編地基材において、
前記強化繊維糸の配列ピッチ、配列方向、太さ、あるいは強化繊維糸の層数が、前記基材内の位置に応じて変化することにより、位置に応じて前記基材の強度が変化すると共に、
FRP用編地基材の長手方向に沿って経糸が、前記長手方向と直角な方向に沿ってインレイ糸が配置され、
前記長手方向の基端部の経糸あるいはインレイ糸が、
前記長手方向の先端部で、経糸に斜めにクロスするバイアス糸となり、
経糸、インレイ糸、及びバイアス糸は強化繊維糸から成り、
前記長手方向の基端部でFRP用編地基材は、少なくとも経糸の層とインレイ糸の層を備え、
かつ
前記長手方向の先端部でFRP用編地基材は、経糸の層と、インレイ糸の層、及び、経糸とクロスする向きが逆の少なくとも2層のバイアスの層を備えていることを特徴とする、
FRP用編地基材。
【請求項2】
FRP用編地基材が翼形状をし、
前記長手方向は翼形状の長手方向であり、
前記長手方向の基端部は翼形状の基端部で、前記長手方向の先端部は翼形状の先端部部であることを特徴とする、請求項1のFRP用編地基材。
【請求項3】
前記長手方向の基端部での基端部での強化繊維糸の層数が、
前記長手方向の先端部での強化繊維糸の層数よりも多く、かつ前記長手方向の基端部でFRP用編地基材は先端部よりも厚いことを特徴とする、
請求項1のFRP用編地基材。
【請求項4】
FRP用編地基材は、1枚で翼の厚さ方向についても翼形状をしていることを特徴とする、
請求項2のFRP用編地基材。
【請求項5】
FRP用編地基材は、複数枚翼の厚さ方向に積層した際に翼形状となるように構成されていることを特徴とする、
請求項2のFRP用編地基材。
【請求項6】
平行な強化繊維糸から成る複数の層が編糸により固定されているFRP用編地基材において、
前記強化繊維糸の配列ピッチ、配列方向、太さ、あるいは強化繊維糸の層数が、前記基材内の位置に応じて変化することにより、位置に応じて前記基材の強度が変化すると共に、
FRP用編地基材の長手方向と直角な断面において、前記基材の厚さ方向中心部の層に比べ、厚さ方向両端部の層は、前記基材の幅方向の長さが長いことを特徴とする、
FRP用編地基材。
【請求項7】
平行な強化繊維糸から成る複数の層が編糸により固定されているFRP用編地基材において、
前記強化繊維糸の配列ピッチ、配列方向、太さ、あるいは強化繊維糸の層数が、前記基材内の位置に応じて変化することにより、位置に応じて前記基材の強度が変化すると共に、
FRP用編地基材の長手方向に直角な強化繊維糸の配列ピッチが、前記長手方向に沿って変化することを特徴とする、
FRP用編地基材。
【請求項8】
FRP用編地基材の長手方向に直角な断面を通過する強化繊維糸の本数が、前記長手方向に沿って変化することを特徴とする、
請求項1,2,3,6,7のいずれかのFRP用編地基材。
【請求項9】
平行な強化繊維糸から成る複数の層が編糸により固定されているFRP用編地基材において、
前記強化繊維糸の配列ピッチ、配列方向、太さ、あるいは強化繊維糸の層数が、前記基材内の位置に応じて変化することにより、位置に応じて前記基材の強度が変化すると共に、
FRP用編地基材は、FRP製品に含まれる領域と、FRP製品に含まれない領域とを備え、
FRP製品に含まれる領域での強化繊維糸の密度が、FRP製品に含まれない領域での強化繊維糸の密度よりも高いことを特徴とする、
FRP用編地基材。
【請求項10】
前記強化繊維糸の太さ、あるいは強化繊維糸の層数が、前記基材内の位置に応じて変化することを特徴とする、
請求項1~9のいずれかのFRP用編地基材。
【請求項11】
前記基材内の位置に応じて厚さが変化することを特徴とする、
請求項1~10のいずれかのFRP用編地基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はFRP(fiber reinforced plastic)用編地基材に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、経糸とインレイ糸(横糸)を挿入した編地を提案した(特許文献1 JP2013-40411A)。経糸を編地に挿入することは、インレイ糸を挿入することに比べ難しい。そこで出願人は、経糸を動力ローラにより編機の歯口へ向けて積極的に送り出すとともに、経糸を通したパイプに空気流を吹き込み、空気流により経糸を編地に挿入することを提案した(特許文献2 JP2015-48536A)。
【0003】
特許文献3(WO97/21860A)及び特許文献4(JPH02-259144A)は、複数種の強化繊維糸を挿入した編地を開示している。特許文献3(WO97/21860A)は、経糸とインレイ糸により空隙の周囲を補強することを記載している。しかし特許文献3は、編地をFRPの基材とし、最終のFRP製品に働く、引っ張り、圧縮、捩れなどの力を考慮することを記載していない。また特許文献4(JPH02-259144A)は、経糸の他に、経糸に対して斜めに配置された2種のバイアス糸を挿入した3軸の編地を記載している。なお軸は強化繊維糸を配列する方向であり、基材が強度を持つ方向でもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】JP2013-40411A
【文献】JP2015-48536A
【文献】WO97/21860A
【文献】JPH02-259144A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FRP用編地基材から製造する最終的なFRP製品は、場所によって異なる強度が必要とされる。しかしながらこのことは、従来技術において考慮されていない。特許文献3では空隙の周囲を補強するが、FRP製品全体に必要な強度分布を考慮し、それに従ってFRP用編地基材の構造を定めているのではない。
【0006】
この発明の課題は、場所によって強度あるいは厚さが異なるFRP製品に適した、FRP用編地基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のFRP用編地基材は、平行な強化繊維糸から成る複数の層が編糸により固定され、かつ強化繊維糸の配列ピッチ、配列方向、太さ、あるいは強化繊維糸の層数が、基材内の位置に応じて変化することにより、位置に応じて前記基材の強度が変化することを特徴とする。
【0008】
強化繊維糸の配列ピッチ、配列方向、太さ、あるいは強化繊維糸の層数が変化すると、基材の強度あるいは厚さも変化する。これによって、FRP製品に要求される場所毎の強度あるいは厚さに応じて、基材の強度あるいは厚さを変えることができる。
【0009】
この発明では、1つの層内では強化繊維糸の向きは基本的に平行で、層を単位として基材の強度を変化させる。このため所望の強度分布を持つ基材を容易に編成できる。なおパイプを通すための孔などを設けるため、局所的に強化繊維糸の配置を変化させることを、排除するものではない。
【0010】
基材内で、強化繊維糸の配列ピッチを変えると、強化繊維糸を配置する密度が変化し、強度も変化する。配列方向を変えると、基材の強度の方向性を変化させることができる。
【0011】
配列方向と層数を同時に変えることもできる。例えば長手方向と短辺方向(編成でのコース方向)の2層に強化繊維糸が配列されているとする。すると基材は、これらの2層での配列方向から成る2軸の方向で強度が高く、それらの中間の斜め方向では強度が低い。この発明では、長手方向の強化繊維糸の向きを斜め方向に変化させ、長手方向に強化繊維糸を配列した1つの層を、長手方向に配列した層、斜め方向に配列した層などに、基材の途中から変化させることができる。また斜め方向に配列した層は、長手方向に沿って右下から左上向きと左下から右上向きの2層などにすることができる。すると、2層を基材の位置に応じて4層に変化させ、基材内での位置に応じて、強度が高い方向を2軸から4軸に変化させることができる。長手方向に強化繊維糸を配列した層に限らず、短辺方向に配列した層を、強化繊維糸の配列方向が斜め方向の2層と、短辺方向の1層の合計3層などに変化させることができる。また3層などの複数層に変化させた層を、基材内の長手方向位置に応じて1層などに戻すことができる。
【0012】
強化繊維糸の太さと層数は、基材の強度を大きく変化させる。太さを変えるには、強化繊維糸を供給する給糸口を、編成の途中で変更すればよい。層数も同様にして変更できるが、前記のように1層を配列方向が異なる複数層に分割し、配列方向が異なる複数の層を1層にまとめるなどによっても、層の数を変化させることができる。
【0013】
強化繊維糸の太さを変え、あるいは層の数を変えると、基材の位置に応じてその厚さを変えることができる。また強化繊維糸の配列ピッチを変えても、基材の位置に応じてその厚さを変えることができる。これら以外に、基材を重ねても厚さを変えることができる。しかし、基材を編成する間にその厚さを変えると、所望の厚さ形状に合わせて、最初から厚さを変えることができる。
【0014】
FRP用編地基材の用途は任意であるが、好ましくFRP用編地基材は翼形状をし、
翼形状の長手方向に沿って経糸が、長手方向と直角な方向に沿ってインレイ糸が配置され、
翼形状の基端部の経糸あるいはインレイ糸が、翼形状の先端部で、経糸に斜めにクロスするバイアス糸となり、
経糸、インレイ糸、及びバイアス糸は強化繊維糸から成り、
翼形状の基端部は、少なくとも経糸の層とインレイ糸の層を備え、
かつ翼形状の先端部は、経糸の層と、インレイ糸の層、及び、経糸とクロスする向きが逆の少なくとも2層のバイアスの層を備えている。
【0015】
経糸とインレイ糸だけでは翼形状は捩れに対する強度が不足するが、経糸あるいはインレイ糸をバイアス糸に変更すると、捩れへの強度が向上する。バイアス糸は経糸とクロスする向きを逆にして少なくとも2層あるので、経糸の方向(基材の長手方向)を軸として、いずれの側への捩りに対しても強度が高い。また先端部は、経糸の層、インレイ糸の層、2層以上バイアス糸の層の少なくとも4層である。これに対して、強度が余り要求されない基端部は経糸の層とインレイ糸の層の少なくとも2層である。FRP用編地基材は平面視で任意の形状に編成できるので、翼に応じた形状にできる。
【0016】
好ましくは、FRP用編地基材の長手方向と直角な断面において、基材の厚さ方向中心部の層に比べ、基材の幅方向に沿っての、厚さ方向両端部の層の長さを長くする。このようにすると、基材の幅方向に沿って、層の端部が目立たなくなり、基材の表面が滑らかになる。このことは、例えば翼の抵抗を小さくする上で重要である。
【0017】
好ましくは、翼形状の基端部での強化繊維糸の層数が、翼形状の先端部での強化繊維糸の層数よりも多く、かつ翼形状の基端部を先端部よりも厚くする。一般に翼は、ボスなどに取り付ける基端部が厚く、先端部が薄いことが要求され、この要求を満たすFRP用編地基材が得られる。
【0018】
翼形状をしているものには、例えばガスタービン、コンプレッサ、送風機の翼、船あるいは航空機のプロペラ、風力発電の羽根、小形航空機の主翼、補助翼がある。そしてガスタービン、コンプレッサ、送風機の翼、船あるいは航空機のプロペラ、風力発電の羽根等は、インペラーあるいはローターのブレードである。また翼形状とは、航空機等の翼、及びインペラーあるいはローターのブレード等の形状を意味する。
【0019】
好ましくは、FRP用編地基材は1枚で翼の厚さ方向についても翼形状をしている。この場合、FRP用編地基材を積層する必要がなく、翼の製造が容易になる。
【0020】
好ましくは、FRP用編地基材は、複数枚翼の厚さ方向に積層した際に翼形状となるように構成されている。この場合、厚さが大きくならないので、FRP用編地基材の編成が容易になる。
【0021】
好ましくは、FRP用編地基材の長手方向に直角な強化繊維糸(インレイ糸)の配列ピッチが、長手方向に沿って変化する。これによって、基材の強度を長手方向に沿って変化させることができる。
【0022】
好ましくは、FRP用編地基材の長手方向に直角な断面を通過する強化繊維糸の本数が、長手方向に沿って変化する。これによって、基材の強度を長手方向に沿って変化させることができる。
【0023】
好ましくは、FRP用編地基材は、FRP製品に含まれる領域と、FRP製品に含まれない領域とを備え、FRP製品に含まれる領域での強化繊維糸の密度(例えば面積当たりの強化繊維糸の本数)を、FRP製品に含まれない領域での強化繊維糸の密度よりも高くする。このようにすると、FRP用編地基材の必要個所を補強すると共に、強化繊維糸を有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例のFRP用編地基材の構造を示す横方向断面図
【
図2】実施例のFRP用編地基材の編成方法を模式的に示す図
【
図3】経糸と2本のバイアス糸とから成る、長尺状のFRP用編地基材の横方向断面図
【
図4】FRP用編地基材内で、経糸の一部とインレイ糸をバイアス糸に変更することを模式的に示す図
【
図5】表面の段差が少ないFRP用編地基材の構造を模式的に示す図
【
図6】表面の段差が少なく、かつ所望の断面形状を持つFRP用編地基材の例を模式的に示す図
【
図7】経糸の密度と、バイアス糸を配置する範囲を調整することにより、厚さと強度を場所によって異ならせた、FRP用編地基材を模式的に示す図
【
図8】経糸の密度と太さを場所によって異ならせると共に、バイアス糸を幅方向の中心に集中的に配置することにより、幅方向中央部の強度と密度を高めたFRP用編地基材を模式的に示す図
【
図10】ヘルメット用のFRP用編地基材を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0026】
図1~
図11にFRP用編地基材の実施例を示す。
図1はFRP用編地基材2の基本的構造を示し、3は経糸、4はインレイ糸(横糸)、5,6はバイアス糸で、バイアス糸5,6は糸の方向が縦横の方向から傾斜している。なお基材2の縦方向は図面に垂直な方向、横方向は図の左右方向で、バイアス糸5は図の右側が図面よりも上となるように傾斜し、バイアス糸6は図の左側が図面よりも上となるように傾斜している。
【0027】
8は編糸で、編機により編成され、編目10と渡り糸9とを形成する。渡り糸9はFRP用編地基材2を貫通し、基材2の表裏を結び、渡り糸9の一部は編目10側から見て経糸3の裏面をとめている。編目10は図面に垂直な方向(縦方向)に複数接続され、編目10の列はインレイ糸4及びバイアス糸5,6とは方向が異なる。そして編目10と渡り糸9により、経糸3、インレイ糸4,及びバイアス糸5,6が固定される。
【0028】
実施例では、経糸3を渡り糸9で固定したが、バイアス糸5あるいは6を固定しても良い。同様に、インレイ糸4を編目10で固定したが、バイアス糸5あるいは6を固定しても良い。また編目10と渡り糸9の間に配置する、経糸3,インレイ糸4,バイアス糸5,6の層の数は任意で、
図1では4層である。
【0029】
経糸3,インレイ糸4,バイアス糸5,6は強化繊維糸で、材質は例えば炭素繊維糸、ガラス繊維糸、及びアラミド繊維糸などである。経糸3には、屈曲しにくく強度が高い炭素繊維糸及びガラス繊維糸が適し、インレイ糸4には屈曲が容易なアラミド繊維糸が適している。なおインレイ糸4についても、アラミド繊維糸に限らず炭素繊維糸やガラス繊維などでもかまわない。バイアス糸5,6はいずれの強化繊維糸でも良い。実施例では、特に断らない限り、経糸3とバイアス糸5,6に炭素繊維糸を、インレイ糸4にアラミド繊維糸を用い、基材の横方向の端部で折り返しが要求されるバイアス糸5,6は、経糸3よりも細い炭素繊維糸を用いる。編糸8は、ナイロン、ポリエステル等の、編成して編地を形成できる糸である。
【0030】
各実施例では、同じ材質で例えば同じ太さの強化繊維糸を、複数同じ向きに平行に配置する。同じ向きで平行な複数の強化繊維糸を1つの要素と見なし、これを1つの軸あるいは1つの層と呼ぶ。例えば
図1のFRP用編地基材2は4軸で、各実施例では軸数は2以上である。即ち、経糸3,インレイ糸4,バイアス糸5,6の4軸は必要不可欠ではなく、例えば2軸でも、あるいは5軸以上でも良い。FRP用編地基材では、経糸3の方向(編目10が上下に繋がる方向と同じ)を縦方向といい、インレイ糸4の方向(編糸8が伸びる方向と同じ)を横方向という。縦方向は編成時のウェール方向、横方向は編成時のコース方向である。
【0031】
図2は、基材2の編成方法を示し、用いる編機は横編機あるいは丸編機で、例えば前後一対の針床11,12を備えている。編糸8はキャリア14から供給し、経糸3は固定あるいは可動の図示しないキャリアから、バイアス糸5,6とインレイ糸4は可動の図示しないキャリアから供給する。さらに、編機に経糸3,インレイ糸4,バイアス糸5,6を切断するカッタを設けると、基材2の編成に用いなくなった強化繊維糸を編成中にカットできる。このため、編成の途中で軸数を減らす処理が容易になる。カッタを設けずに、これらの糸を編成の途中でFRP用編地基材から外すと、FRP用編地基材に挿入されていないフリーな経糸,インレイ糸,あるいはバイアス糸が生じる。
【0032】
針床11の針で編目10を形成し、キャリア14は基材2から見て針床11と反対側を移動させる。すると、渡り糸9は基材2を表裏に貫通するように配置される。編糸8は基材2の経糸3,インレイ糸4,及びバイアス糸5,6を一体に固定し、編糸8による編成方法は任意である。丸編機の場合、インレイ糸とバイアス糸は螺旋状に基材に組み込まれる。これに対して、横編機の場合、インレイ糸は編幅の端部で折り返し、バイアス糸も所望の位置で折り返す。
【0033】
図3は、経糸3,バイアス糸5,6から成る3軸のFRP用編地基材22を示し、インレイ糸4がない。基材22はインレイ糸4の折り返しが無く、長尺状である。場所によって軸数、あるいは各軸での強化繊維糸の配列ピッチ、強化繊維糸の太さ、材質、等を変え、FRP用編地基材内での場所に応じた強度の分布、あるいは厚さを備えた基材とする。
【0034】
経糸あるいはインレイ糸をFRP用編地基材の編成の途中でバイアス糸に変更し、逆にバイアス糸をFRP用編地基材の編成の途中で経糸あるいはインレイ糸に変更できる。
図4では、経糸の一部を編成の途中でバイアス糸に変更した例を示しているが、全ての経糸をバイアス糸に変更することも可能である。またバイアス糸の一部のみ経糸に変更することも可能である。このようなFRP用編地基材32を、
図4に示す。強化繊維糸35,36を、途中までキャリアを固定することにより、経糸として基材32に挿入し、途中からキャリアをコース方向に移動させることによりバイアス糸として挿入する。強化繊維糸34は、当初はコース方向に配置してインレイ糸として挿入し、途中からコース方向(横方向)とウェール方向(縦方向)に斜めに配置して、バイアス糸として挿入する。横編機で編成するので、インレイ糸4,バイアス糸5,6は、折り返し部38で折り返し、折り返しの頻度はインレイ糸4が最大で、バイアス糸5,6では少ない。
【0035】
図4とは逆に、バイアス糸を、FRP用編地基材の編成の途中から、経糸あるいはインレイ糸に変更できる。これらのためには、可動のキャリアから強化繊維糸を供給すれば良い。キャリアを固定すると強化繊維糸は経糸となる。数コース毎に編目1目分など、少しずつキャリアを移動させると、バイアス糸となり、横編機や丸編機のキャリッジと等速で移動させるとインレイ糸となる。
【0036】
図5は、表面の段差が少ないFRP用編地基材40を示す。基材40の外層(外側の軸)は横方向の長さを長く、内層(内側の軸)は横方向の長さを短くする。
図5の最外層41,41を互いに近づけると、最外層41,41が基材40の表面を覆い、目だった段差は生じない。
図5では内層を基材40に対し左右対称に配置したが、最終のFRP製品の形状に合わせ、左右非対称でも良い。
図5では最外層41をインレイ糸の層としたが、経糸あるいはバイアス糸の層でも良い。
【0037】
図6のFRP用編地基材42では、
図5と同様に、最外層を横方向に最も長くし、段差が目立たないようにしてある。また基材42は、右側が薄く、左側が厚く、翼の断面に近い形状をしている。基材42には捩れなどの複雑な形状はないが、型にセットし、樹脂を型内に注入して硬化させることにより、捻れなどの最終形状を付与できる。
【0038】
FRP用編地基材には、最終のFRP製品に近い形状であること、必要な個所に必要なだけの強度があることが要求され、翼などの機械部品では所望の密度分布をしていることも要求される。例えば翼などでは、長手方向に直角な強化繊維糸の配列ピッチが、基端部では小さく、先端部では大きくなるように、FRP用編地基材52の長手方向に沿って強化繊維糸の配列ピッチを変化させる。また翼などで、長手方向に直角な断面を通過する強化繊維糸の本数を、基端部では多く、先端部では少なくなるように長手方向に沿って変化させる。これにより翼の先端部の質量を基端部の質量に比べて小さくすることができる。これらの要求を充たすため、層の数(軸数)を場所に応じて変更し、強化繊維の種類、太さ、配列ピッチの少なくともいずれかを、場所に応じて変更することができる。なお強化繊維の強度は、炭素繊維が最も高く、ガラス繊維及びアラミド繊維は炭素繊維よりも低い。
【0039】
図7のFRP用編地基材52では、バイアス糸5,6を図の左側に右側よりも広い範囲に配置し、かつ図の左側で経糸3のピッチを小さくしている。これらの結果、バイアス糸の層が右側にないため左側は厚く強度が高い。また、左側はバイアス糸の層があるため捻れに対して強くなる。右側は薄く強度は低くなる。
【0040】
図8のFRP用編地基材62では、横方向の両端部に細い経糸63を大きなピッチで配置し、中央部に太い経糸3を小さなピッチで配置する。またバイアス糸5,6は図の横方向中心部に集中的に配置し、横方向両端部には配置していない。これらのため、FRP用編地基材62は横方向の中央部が厚くかつ強度が高く、横方向の両端部は薄く強度も小さい。
【0041】
図9は、ガスタービン、コンプレッサ、送風機の翼、船あるいは航空機のプロペラ、風力発電の羽根、小形航空機等の主翼、補助翼等の、翼用のFRP用編地基材72を示す。ガスタービン、コンプレッサ、送風機の翼、船あるいは航空機のプロペラ、風力発電の羽根等は、インペラーあるいはローターのブレードである。そして翼形状とは、航空機等の翼、及びインペラーあるいはローターのブレード等の形状を意味する。図の上部の例では、翼形状の先端部から基端部に向けて、4層で構成されるFRP用編地基材73,74と、2層あるいは4層等のFRP用編地基材75を編成する。基材73,74は、左側の領域76では例えば縦横の2軸とバイアス糸が2軸の合計4軸から成り、軸数を増すことにより捩れに対する剛性を高めてある。即ち、縦横の2軸にバイアス糸の2軸を加えると、曲げへの剛性が増し、これによって捻れへの剛性も高まる。翼の基部となり、ボスなどに収容され、曲げ応力などが加わりにくい領域77では、バイアス糸を経糸あるいはインレイ糸に変更し、2軸に編成する。またボスに固定しやすいように、経糸の層数あるいはインレイ糸の層数を増して、領域77の厚さを増す。このため、領域77では経糸、インレイ糸等のキャリアを追加し、経糸、あるいはインレイ糸の層数を増す。
【0042】
FRP用編地基材は、強化繊維糸を編地内に挿入する位置を適宜に制御でき、また強化繊維糸の挿入を停止する位置も適宜に制御できる。このため、平面視でほぼ任意の形状にFRP用編地基材を編成できる。翼の場合、先端は円弧状で、側端も曲線状である。そしてこのような形状に、FRP用編地基材73,74を編成する。FRP用基材75を例えば長手方向の中心部で折り返し、折り返した基材75の上下にFRP用基材73,74を重ねて、翼の形状をしたFRP用編地基材72とする。これを型にセットし、加熱を行うことで編糸を分解する。加熱の温度については使用する編糸の素材に応じて変更すれば良い。また型にセットする前に樹脂を基材に含浸し、あるいは型内で樹脂を注入し、翼の形状をしたFRP製品とする。翼は複雑な断面形状をしており、型に基材72をセットし、型に沿って基材72を変形させることにより、所望の断面形状を付与する。
【0043】
図9の下部のFRP用基材78では、強化繊維糸の層数を4層よりも多くし、あるいは強化繊維糸をFRP用基材72よりも太くする。そして1枚の基材78が平面視で
図9の下部の形状をし、側面視で
図9の中段の形状をするように編成する。FRP用基材78を同様に型にセットし、同様に処理する。
【0044】
図10はヘルメット用のFRP用編地基材82を示し、型で成型した後の形状は半球状である。円形の領域84がヘルメットとなり、平面的な基材82を半球状にすると強化繊維の間隔が大きくなり密度が低くなって強度が不足する。FRP用編地基材82の円形の領域84の周囲の部分はFRP製品に含まれない領域である。そこで領域84に対して、経糸85とインレイ糸86を追加する。図の▲はインレイ糸を導入する位置を、△はインレイ糸を基材に挿入しなくなる位置を示す。インレイ糸のキャリアは可動で、基材82の外側で待機していたキャリアを基材82内へ移動させ、▲の位置で、インレイ糸86を基材82内へ挿入する。△の位置でキャリアを基材82の外へ移動させ、カッタなどによりインレイ糸86を切断する。なおインレイ糸86のキャリアを最初から基材82内で待機させ、インレイ糸86の切断後もキャリアを基材82内に留め置いても良い。またインレイ糸86の端部をカットせずに、△の位置とキャリアとの間にフリーのインレイ糸が生じるようにしても良い。
【0045】
経糸85を追加するため、例えば基材82の外側で待機していた経糸のキャリアを、基材82内へ移動させ、領域84の端部付近で、例えば動力ローラと空気流により経糸を基材82内へ挿入する。そして領域84の編成が終わると、動力ローラと空気流を止め、経糸85の挿入を停止する。例えばカッタにより、経糸85の端部をカットし、経糸85のキャリアを基材82の外側に移動させる。経糸85の場合も、キャリアを最初から基材82内で待機させ、端部の切断後もキャリアを基材82内に留め置いても良い。従って、経糸85のキャリアは固定のキャリアでも良い。また経糸85糸の端部をカットせずに、フリーの経糸が生じるようにしても良い。これによりFRP用編地基材において、強化繊維糸の密度はFRP製品に含まれる領域の方が、FRP製品に含まれない領域に比べて高くなる。
【0046】
図11は箱状のFRP用編地基材92を示す。93,94は箱の縁に相当する折り曲げ線である。縁95aを縁96aに、縁95bを縁96bに、縁97aを縁98aに、縁97bを縁98bに、接続することにより、基材92は箱状の形状となる。なお引き返し編成により、縁95a,縁96a等を接続する。引き返し編成では、例えば
図11の下から上への順に編成し、縁95a,bの編目を針から外さずに針に保持し、編幅を小さくしながら折り曲げ線94まで編成する。次いで縁95a,bの編目上に新しい編目を形成して編幅を拡げる。また縁95a,bを通る経糸とバイアス糸は、縁96bを編成するまでそのままにしておく。同様にして、縁97a,bを縁98a,bと接続する。
【0047】
基材92は全面にインレイ糸と経糸等が挿入されているが、折り曲げ線93,94の部分は外部からの力で変形しやすい。そこで、折り曲げ線93の周囲の領域100と、折り曲げ線94の周囲の領域101とに、強化繊維を挿入して経糸とインレイ糸などを追加し、他の領域よりも強度を高める。このためのキャリアの移動、余分のインレイ糸と経糸のカットなどは、
図10の実施例と同様である。
【符号の説明】
【0048】
2,22,32,40,42,52,62 FRP用編地基材
3,63 経糸
4,34 インレイ糸
5,6,35,36 バイアス糸
8 編糸
9 渡り糸
10 編目
11,12 針床
14 キャリア
38 折り返し部
41 最外層
43 層
72~75 FRP用編地基材
76,77 領域
78,82 FRP用編地基材
84 領域
85 経糸
86 インレイ糸
92 FRP用編地基材
93,94 折り曲げ線
95a~98b 縁
100,101 領域