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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】経口投与用吸着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/44 20060101AFI20220112BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61K33/44
A61P39/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017201106
(22)【出願日】2017-10-17
(65)【公開番号】P2019073480
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】西垣 秀治
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-037749(JP,A)
【文献】特開2006-117523(JP,A)
【文献】特開2001-114852(JP,A)
【文献】特開2011-083758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00-33/44
A61P 39/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック樹脂分とレゾール樹脂分を40:60ないし60:40の重量比により含有した複合フェノール樹脂の樹脂炭化物の活性炭吸着剤であ
前記活性炭吸着剤は粒状物ないし球状物であり、
前記活性炭吸着剤の細孔直径7.5~15000nmの範囲の水銀細孔容積値は0.2~0.5mL/gであり、
前記活性炭吸着剤において、下記式(i)にて示される細孔直径7.5~15000nmの範囲の水銀細孔容積(V)と細孔直径0.7~2.0nmの範囲の窒素細孔容積(V)との容積比(R)は、0.2以上であり、
前記活性炭吸着剤のBET比表面積は800m/g以上である経口投与用吸着剤の製造方法であって、
フェノールと、ホルムアルデヒドと、酸性触媒とを混合しながら加熱してノボラック樹脂分を調製するノボラック樹脂合成工程と、
フェノールと、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒と、前記ノボラック樹脂生成工程により合成した前記ノボラック樹脂分とを混合しながら加熱して、レゾール樹脂分を合成するとともに前記ノボラック樹脂分も含有した複合フェノール樹脂を調製する複合フェノール樹脂調製工程と、
前記複合フェノール樹脂を炭化して樹脂炭化物を得る炭化工程と、
前記樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有する
ことを特徴とする経口投与用吸着剤の製造方法。
【数1】
【請求項2】
前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患または経口投与用肝疾患のための治療剤または予防剤であることを特徴とする請求項に記載の経口投与用吸着剤の製造方法
【請求項3】
下記式(ii)にて示される前記ノボラック樹脂分のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)が0.5~0.9である請求項1又は2に記載の経口投与用吸着剤の製造方法。
【数2】
【請求項4】
下記式(iii)にて示される前記レゾール樹脂分のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)が1.1~1.8である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の経口投与用吸着剤の製造方法。
【数3】
【請求項5】
前記複合フェノール樹脂の揮発分が50%以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の経口投与用吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記複合フェノール樹脂調製工程中に乳化剤が添加される請求項1ないし5のいずれか1項に記載の経口投与用吸着剤の製造方法。
【請求項7】
前記複合フェノール樹脂が平均粒径200~700μmの粒状物ないし球状物である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の経口投与用吸着剤の製造方法。
【請求項8】
前記塩基性触媒が、アミン化合物である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の経口投与用吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与用吸着剤製造方法に関し、特に、毒性物質の吸着速度を速めた経口投与用の吸着剤製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎疾患または肝疾患の患者は、血液中に毒性物質が蓄積し、その結果として尿毒症や意識障害等の脳症を引き起こす。これらの患者数は年々増加する傾向にある。患者の治療には、毒性物質を体外へ除去する血液透析型の人工腎臓等が使用される。しかしながら、このような人工腎臓は、安全管理上から取り扱いに専門技術者を必要とし、また血液の体外への取り出しに際し、患者の肉体的、精神的、及び経済的負担を要することが問題視されており、必ずしも満足すべきものではない。
【0003】
人工臓器に代わる方法として、経口により摂取し体内で毒性物質を吸着し、体外に排出する経口投与用吸着剤が開発されている(特許文献1、特許文献2等参照)。しかし、これらの吸着剤は、活性炭の吸着性能を利用した吸着剤であるため、除去すべき毒素の吸着容量や毒素の有用物質に対する選択吸着性が十分とはいえない。一般的に、活性炭の疎水性は高く、尿毒症の原因物質やその前駆物質に代表されるインドキシル硫酸、DL-β-アミノイソ酪酸、トリプトファン等の低分子量のイオン性有機化合物の吸着に適さないという問題点を内包している。
【0004】
そこで、活性炭吸着剤の問題点を改善するべく、原料物質として木質、石油系もしくは石炭系の各種ピッチ類等を使用し球状等の樹脂化合物を形成し、これらを原料とした活性炭からなる抗ネフローゼ症候群剤が報告されている(例えば、特許文献3参照)。前出の活性炭は、石油系炭化水素(ピッチ)等を原料物質とし、比較的粒径を均一にして、炭化、賦活により調製される。また、活性炭自体の粒径を比較的均一化するとともに、当該活性炭における細孔容積等の分布について調整を試みた経口投与用吸着剤が報告されている(特許文献4参照)。このように、薬用活性炭は、比較的粒径を均一にすることに伴い、腸内の流動性の悪さを改善し、同時に細孔を調整することにより当該活性炭の吸着性能の向上を図った。そこで、多くの軽度の慢性腎不全患者に服用されている。
【0005】
薬用活性炭には、尿毒症の原因物質やその前駆物質に対する迅速かつ効率的な吸着が要求される。しかしながら、従来の薬用活性炭における細孔の調整は良好とはいえず、吸着性能も安定しなかった。そのため、一日当たりの服用量を多くしなければならない。特に、慢性腎不全患者は水分の摂取量を制限されていることから、少量の水分により嚥下することは患者にとって大変な苦痛となっていた。加えて、胃、小腸等の消化管においては、糖、タンパク質等の生理機能に不可欠な化合物及び腸壁より分泌される酵素等の種々物質の混在する環境である。その中において、尿毒症等の原因となる毒性物質、特には、窒素を含有する化合物を迅速に吸着し、そのまま便とともに体外に排泄する薬用の活性炭吸着剤が望まれていた。
【0006】
発明者は活性炭吸着剤の炭化前の原料、細孔の発達について精査した。その結果、活性炭の原料となる樹脂成分にフェノール樹脂を採用するとともに樹脂の組成を工夫することにより、樹脂炭化物由来の活性炭の細孔を好適に制御して、低分子量の含窒素化合物の迅速な吸着に好適な細孔分布を備えた活性炭を見出すに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3835698号公報
【文献】特開2008-303193号公報
【文献】特開平6-135841号公報
【文献】特開2002―308785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みなされたもので、フェノール樹脂に由来する活性炭において、フェノール樹脂中の樹脂組成を改良することにより、樹脂炭化物に生じる細孔中のマクロ孔の割合を高め、窒素を含有する低分子化合物を迅速に吸着可能な経口投与用吸着剤製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の発明は、ノボラック樹脂分とレゾール樹脂分を40:60ないし60:40の重量比により含有した複合フェノール樹脂の樹脂炭化物の活性炭吸着剤であ、前記活性炭吸着剤は粒状物ないし球状物であり、前記活性炭吸着剤の細孔直径7.5~15000nmの範囲の水銀細孔容積値は0.2~0.5mL/gであり、前記活性炭吸着剤において、下記式(i)にて示される細孔直径7.5~15000nmの範囲の水銀細孔容積(V)と細孔直径0.7~2.0nmの範囲の窒素細孔容積(V)との容積比(R)は、0.2以上であり、前記活性炭吸着剤のBET比表面積は800m/g以上である経口投与用吸着剤の製造方法であって、フェノールと、ホルムアルデヒドと、酸性触媒とを混合しながら加熱してノボラック樹脂分を調製するノボラック樹脂合成工程と、フェノールと、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒と、前記ノボラック樹脂生成工程により合成した前記ノボラック樹脂分とを混合しながら加熱して、レゾール樹脂分を合成するとともに前記ノボラック樹脂分も含有した複合フェノール樹脂を調製する複合フェノール樹脂調製工程と、前記複合フェノール樹脂を炭化して樹脂炭化物を得る炭化工程と、前記樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有することを特徴とする経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【0010】
【数1】
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患または経口投与用肝疾患のための治療剤または予防剤であることを特徴とする経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【0012】
の発明は、第1又は2の発明において、下記式(ii)にて示される前記ノボラック樹脂分のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)が0.5~0.9である経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【0013】
【数2】
【0014】
の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、下記式(iii)にて示される前記レゾール樹脂分のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)が1.1~1.8である経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【0015】
【数3】
【0016】
の発明は、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記複合フェノール樹脂の揮発分が50%以下である経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【0017】
の発明は、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記複合フェノール樹脂調製工程中に乳化剤が添加される経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【0018】
の発明は、第1ないし6の発明のいずれかにおいて、前記複合フェノール樹脂が平均粒径200~700μmの粒状物ないし球状物である経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【0019】
の発明は、第1ないし7の発明のいずれかにおいて、前記塩基性触媒が、アミン化合物である経口投与用吸着剤の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0020】
第1の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、ノボラック樹脂分とレゾール樹脂分を40:60ないし60:40の重量比により含有した複合フェノール樹脂の樹脂炭化物の活性炭吸着剤であ、前記活性炭吸着剤は粒状物ないし球状物であり、前記活性炭吸着剤の細孔直径7.5~15000nmの範囲の水銀細孔容積値は0.2~0.5mL/gであり、前記活性炭吸着剤において、下記式(i)にて示される細孔直径7.5~15000nmの範囲の水銀細孔容積(V)と細孔直径0.7~2.0nmの範囲の窒素細孔容積(V)との容積比(R)は、0.2以上であり、前記活性炭吸着剤のBET比表面積は800m/g以上である経口投与用吸着剤の製造方法であって、フェノールと、ホルムアルデヒドと、酸性触媒とを混合しながら加熱してノボラック樹脂分を調製するノボラック樹脂合成工程と、フェノールと、ホルムアルデヒドと、塩基性触媒と、前記ノボラック樹脂生成工程により合成した前記ノボラック樹脂分とを混合しながら加熱して、レゾール樹脂分を合成するとともに前記ノボラック樹脂分も含有した複合フェノール樹脂を調製する複合フェノール樹脂調製工程と、前記複合フェノール樹脂を炭化して樹脂炭化物を得る炭化工程と、前記樹脂炭化物を賦活して活性炭吸着剤を得る賦活工程を有するため、フェノール樹脂に由来する活性炭において、フェノール樹脂中の樹脂組成を改良することにより樹脂炭化物に生じる細孔中のマクロ孔の割合を高めることができ、窒素を含有する低分子化合物を迅速に吸着可能な経口投与用吸着剤を得ることができる製造方法を確立できる。
【0021】
の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、第の発明において、前記活性炭吸着剤が、経口投与用腎疾患または経口投与用肝疾患のための治療剤または予防剤であるため、腎疾患または肝疾患の原因物質を選択的に吸着する効果が高く、治療剤または予防剤に相応しい。
【0022】
の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、第1又は2の発明において、式(ii)にて示される前記ノボラック樹脂分のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)が0.5~0.9であるため、ノボラック樹脂分の合成に都合良い。
【0023】
の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、式(iii)にて示される前記レゾール樹脂分のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)が1.1~1.8であるため、レゾール樹脂分とノボラック樹脂分の量の割合は好ましくなる。
【0024】
の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記複合フェノール樹脂の揮発分が50%以下であるため、揮発分の量が少なく活性炭吸着剤中の炭素量は増加し、より緻密な活性炭を得ることができる。
【0025】
の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記複合フェノール樹脂調製工程中に乳化剤が添加されるため、反応液の表面張力は高まり、微小な液滴が生じて球状化は促進する。
【0026】
の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、第1ないし6の発明のいずれかにおいて、前記複合フェノール樹脂が平均粒径200~700μmの粒状物ないし球状物であるため、炭化の焼成に伴う体積減少を見越した大きさとなり、出来上がる活性炭吸着剤は経口投与の服用に適する大きさとなる。
【0027】
の発明に係る経口投与用吸着剤の製造方法によると、第1ないし7の発明のいずれかにおいて、前記塩基性触媒が、アミン化合物であるため、安定した反応を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の経口投与用吸着剤の出発原料となる複合フェノール樹脂の製造方法を示す工程図である。
図2】複合フェノール樹脂から経口投与用吸着剤に至る製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の経口投与用吸着剤は、出発原料をフェノール樹脂とし、特に、ノボラック樹脂とレゾール樹脂の両方を含有した複合フェノール樹脂を炭化して樹脂炭化物とし、これを賦活することにより生じた活性炭吸着剤である。はじめに、図1の工程図を用い経口投与用吸着剤の出発原料となる複合フェノール樹脂の合成工程から説明する。
【0030】
はじめにフェノール樹脂の原料となるフェノールにホルムアルデヒドが添加、混合され、両分子の架橋形成目的の酸性触媒が添加される。攪拌されながらの80ないし100℃の加熱により脱水縮合反応が進む。この段階でノボラック樹脂分が調製される(「ノボラック樹脂合成工程」)。なお、生成樹脂分は適宜洗浄される。
【0031】
次に、ノボラック樹脂合成工程により合成したノボラック樹脂分と、フェノール及びホルムアルデヒドが追加混合される。さらに、新たに投入されたフェノールとホルムアルデヒドの架橋形成目的の塩基性触媒が添加される。これらは攪拌されながらの80ないし100℃の加熱により脱水縮合反応が進み、新たに投入されたフェノールからレゾール樹脂分が合成される。そこで、当該工程にて合成されたレゾール樹脂分とともに、先の工程にて合成されたノボラック樹脂分も含有する複合フェノール樹脂が調製される(「複合フェノール樹脂調製工程」)。なお、生成樹脂分は適宜洗浄される。
【0032】
前述の両工程にて使用のフェノールに代えて、水酸基を有する芳香族化合物も用いられる。例えば、クレゾール(o-、m-、p-位)、p-フェニルフェノール、キシレノール(2,5-、3,5-)、レゾルシノール、各種ビスフェノール等が挙げられる。
【0033】
前述の両工程にて使用のホルムアルデヒドに代えて、次のアルデヒド化合物も用いられる。アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサール、フルフラール等が挙げられる。
【0034】
ノボラック樹脂合成工程に使用した酸性触媒は、無機酸、有機酸である。実施例はシュウ酸である。これに加えて、ギ酸等のカルボン酸、マロン酸等のジカルボン酸、塩酸、硫酸、リン酸等が酸性触媒として挙げられる。
【0035】
複合フェノール樹脂調製工程において、レゾール樹脂分の合成に使用される塩基性触媒にはアミン化合物が使用される。アミン化合物はレゾール樹脂分の合成に多用され、安定した反応を得る上で好適である。実施例では、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン、1,3,5,7-テトラアザアダマンタン)、トリエチレンテトラミン(N,N’-ジ(2-アミノエチル)エチレンジアミン)が使用される。これらに加えて、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等も塩基性触媒として挙げられる。複合フェノール樹脂調製工程にて添加される塩基性触媒の量は、当該工程中の総仕込量の5ないし15重量%である。添加量は塩基性触媒の種類等に依存する。
【0036】
ノボラック樹脂合成工程におけるノボラック樹脂分の合成促進と、未反応物の低減から原料物質量は当量比(モル換算量)により規定される。ノボラック樹脂分の合成時のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)の関係は、前出の式(ii)より、0.5ないし0.9の範囲である。後記の実施例においても当該範囲であればノボラック樹脂分の合成に都合良い。当量比Rが0.5を下回る場合、フェノールの量が過少であり、同当量比Rが0.9を上回る場合、相対的にフェノールの量が過剰である。
【0037】
複合フェノール樹脂調製工程におけるレゾール樹脂分の合成促進と、未反応物の低減から原料物質量も当量比(モル換算量)により規定される。レゾール樹脂分の合成時のフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)の関係は、前出の式(iii)より、1.1ないし1.8の範囲、より好ましくは1.1ないし1.6の範囲である。当該範囲に収斂すると、レゾール樹脂分とノボラック樹脂分の量の割合は好ましくなる。当量比Rが1.1を下回る場合、フェノールの量が過少であり、同当量比Rが1.8を上回る場合、相対的にフェノールの量が過剰である。当該当量比R及びRの範囲は好適なエマルジョン形成等を加味した範囲であり、後記の実施例の検証に基づく。
【0038】
複合フェノール樹脂は、炭化及び賦活を経て樹脂炭化物、最終的に経口投与用の活性炭吸着剤となる。それゆえ、活性炭吸着剤は、口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸と消化管内を円滑に流動しながら尿毒症等の原因物質を吸着して、便とともに肛門から排泄される。そうすると、抵抗の少ない粒径ないし球形は、各種の消化管内の円滑な流動の便宜から望ましい形状である。この点に鑑み、炭化前の樹脂の段階から粒状物ないし球状物であることが望ましい。
【0039】
そこで、複合フェノール樹脂調製工程においては乳化剤が添加される。同工程にて調製される複合フェノール樹脂は、乳化剤の作用による分散により粒状物ないし球状物になる。乳化剤として、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアガム(アラビアゴム)等の水溶性の多糖類が使用される。乳化剤は炭化水素化合物であるため、以降の炭化に際しても余分な残分は生じにくい。乳化剤の添加量は、複合フェノール樹脂調製工程における総仕込量の0.1ないし1重量%である。乳化剤の種類、反応条件により適宜増減される。
【0040】
乳化剤が添加されているため、複合フェノール樹脂調製工程中の加熱と攪拌を通じてエマルジョン化が進み、反応液中に粒状物ないし球状物となった複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)が生じる。乳化剤の添加によりフェノール等を含む反応液の表面張力は高まり、微小な液滴が生じて球状化は促進すると考えられる。当該複合フェノール樹脂の望ましい大きさは、平均粒径200ないし700μmの粒状物ないし球状物である。当該範囲の粒径は、次述の炭化の焼成に伴う体積減少を見越した大きさである。かつ、出来上がる活性炭吸着剤は経口投与の服用に適する大きさとなる。
【0041】
一連の工程から調製された複合フェノール樹脂(ノボラック樹脂分及びレゾール樹脂分含有の複合フェノール樹脂粒子)は、適宜の洗浄と乾燥後、図2の工程図に示す工程を経て樹脂炭化物となる。複合フェノール樹脂は、円筒状レトルト電気炉等の焼成炉内に収容され、炉内を窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下とし、300ないし1000℃、好ましくは450ないし700℃において1ないし20時間かけて炭化され、樹脂炭化物となる(「炭化工程」)。
【0042】
炭化工程の後、樹脂炭化物は、ロータリー式外熱炉等の加熱炉等に収容され、750ないし1000℃、好ましくは800ないし1000℃、さらには850ないし950℃において水蒸気賦活される(「賦活工程」)。賦活時間は生産規模、設備等によるものの、0.5ないし50時間である。あるいは、二酸化炭素等のガス賦活も用いられる。賦活後の活性炭吸着剤は、希塩酸によって洗浄される。希塩酸洗浄後の活性炭吸着剤は、例えば、JIS K 1474(2014)に準拠したpHの測定により、pH5ないし7になるまで水洗される。
【0043】
希塩酸の洗浄後、必要により活性炭吸着剤は、酸素及び窒素の混合気体中において加熱処理、水洗浄され、灰分等の不純物が取り除かれる。加熱処理により残留する塩酸分等は取り除かれる。そして、各処理を経ることにより活性炭吸着剤の表面酸化物量は調整される。酸洗浄後、賦活済みの樹脂炭化物に対する加熱処理を通じて、活性炭吸着剤の表面酸化物量は増加する。当該処理時の酸素濃度は0.1ないし21体積%である。また、加熱温度は150ないし1000℃、好ましくは400ないし800℃であり、15分ないし2時間である。
【0044】
賦活処理後、または賦活処理に続く加熱処理後の樹脂炭化物(活性炭吸着剤)は、篩別により平均粒子径150ないし500μmの粒状物ないし球状物の活性炭に選別されるのがよい。粒子径の調整及び分別により、活性炭吸着剤の吸着速度の一定化と吸着能力の安定化が図られる。粒子径の範囲特に限定されるものではないが、前記の範囲とすると、患者(服用者)の嚥下を円滑にするとともに活性炭吸着材の表面積を確保することができる。また、粒子径が揃えられると、消化管内での吸着性能は安定することができる。しかも、粒子の硬さを維持して経口投与後(服用後)の消化管内でさらに粉化することも抑制される。ゆえに、経口投与用吸着剤の活性炭の形状は好ましくは球状物である。ただし、製造に起因する真球度のばらつき等も許容されるため、粒状物も含められる。
【0045】
既述のとおり、ノボラック樹脂合成工程及び複合フェノール樹脂調製工程を経て調製された複合フェノール樹脂は、ノボラック樹脂分とレゾール樹脂分の両方の異なる形質のフェノール樹脂を含有している。フェノール樹脂の内、ノボラック樹脂は熱可塑性樹脂であり、レゾール樹脂は熱硬化性樹脂である。従って、炭化工程の加熱温度に複合フェノール樹脂粒子が曝露された際、当該複合フェノール樹脂粒子中のノボラック樹脂分とレゾール樹脂分では耐熱性、溶融温度、揮発量等が互いに相違する。そうすると、焼成に伴う炭化は一様となるよりも、むしろ複合フェノール樹脂粒子の炭化は不均質に進行すると考えられる。炭化時の加熱焼成により複合フェノール樹脂粒子中から樹脂成分は揮発する。この揮発を通じて樹脂炭化物に割れ目、亀裂等が生じると予想される。このため、複合フェノール樹脂の樹脂炭化物由来の活性炭吸着剤には相対的にマクロ孔(およそ50nm以上)が発達しやすくなると考えられる。
【0046】
そこで、複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)中に占めるノボラック樹脂分(前者)とレゾール樹脂分(後者)の割合は、40(前者):60(後者)ないし60(前者):40(後者)の重量比の範囲が望ましく、さらには、概ね同重量ずつの重量比がより好ましい。一方の樹脂成分の割合が過少となると、樹脂炭化物由来の活性炭には相対的にマクロ孔の発達状況が悪くなり、所望の細孔設計は難しくなる。また、形状維持等も難しくなる。
【0047】
複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)から炭化を経て樹脂炭化物となり、さらに賦活を経て活性炭吸着剤に至る過程において、自明ながら揮発分の重量は減少する。そのため、揮発分の量が少ないほど活性炭吸着剤中の炭素量は増加し、より緻密な活性炭を得ることができる。そこで、複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)の揮発分は、50%以下に抑制される。
【0048】
複合フェノール樹脂(複合フェノール樹脂粒子)は分子中に芳香環構造を有しているため、炭化率は高まる。さらに賦活により表面積の大きな活性炭吸着剤が生じる。賦活後の活性炭吸着剤は、従来の木質やヤシ殻、石油ピッチ等の活性炭と比較しても、細孔径は小さく充填密度は高い。そのため、比較的小さい分子量(分子量が数十ないし数百の範囲)のイオン性有機化合物の吸着に適する。また、複合フェノール樹脂は従来の活性炭原料の木質等と比較して窒素、リン、ナトリウム、マグネシウム等の灰分が少なく単位質量当たりの炭素の比率は高い。このため、不純物の少ない活性炭吸着剤を得ることができる。
【0049】
前述の製造方法から得られた活性炭吸着剤には、後記する実施例に掲げる肝機能障害や腎機能障害の原因物質を極力速やかに吸着すること、また比較的少ない服用量で十分な吸着性能を発揮することが求められる。具備すべき性質の調和範囲を見いだすべく、活性炭吸着剤は、〔1〕水銀細孔容積値、〔2〕容積比、〔3〕BET比表面積の指標で規定される。そして、後記する実施例の傾向等から明らかなとおり、各指標の好適な範囲値が導出される。なお、以下に記載する前記活性炭の物性等の測定方法及び諸条件等は、実施例において詳述する。
【0050】
そして、活性炭吸着剤は粒状物ないし球状物であり、その平均粒子径は特に規定されないが、150ないし500μmであることが望ましい。粒子自体の大きさが前記の範囲であると、マクロ孔等の細孔が適宜に発達し、選択吸着性の面から好ましい。また、表面積が適当となるため、吸着速度や強度の面からも好ましい。そこで、平均粒径は前記の範囲が好適となり、好ましくは150ないし500μm、より好ましくは300ないし400μmである。
【0051】
本明細書及び実施例における活性炭吸着剤及び複合フェノール樹脂粒子の平均粒径はレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。
【0052】
〔1〕水銀細孔容積(V)は活性炭のメソ孔ないしマクロ孔の大きな細孔を評価する指標である。そこで、細孔直径7.5ないし15000nmの範囲の水銀細孔容積は0.2ないし0.5mL/gである。すなわち、マクロ孔側を発達させることにより、吸着対象物質は速く活性炭吸着剤の内部に取り込まれる。水銀細孔容積が0.2mL/gを下回る場合、マクロ孔は発達不足となる。水銀細孔容積0.5mL/gはフェノール樹脂由来の活性炭の上限と考えられる。従って、同値を上限とし、前記の水銀細孔容積の値の範囲とした。
【0053】
〔2〕容積比(R)は、前掲の式(i)にて示されるとおり0.2以上である。同式(i)の容積比(R)は、細孔直径7.5ないし15000nmの範囲(マクロ孔)の水銀細孔容積(V)を、細孔直径0.7ないし2.0nmの範囲(ミクロ孔)の窒素細孔容積(V)により除した商である。すなわち、ミクロ孔に比してマクロ孔の割合が高いことを示す指標である。活性炭のような吸着剤の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭吸着剤の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭吸着剤は、尿毒症の原因物質やその前駆物質に代表されるインドキシル硫酸、アミノイソ酪酸、トリプトファン等の窒素を含有する低分子量のイオン性有機化合物の吸着を想定する。そして、本発明の活性炭吸着剤は、前記の吸着対象の分子を従前の活性炭吸着剤よりも速く吸着することである。
【0054】
マクロ孔側の割合が相対的に高められることにより、吸着対象は活性炭吸着剤内部へ容易に侵入できる。そして、吸着対象はマクロ孔に接続したミクロ孔に補足され、吸着は速く進む。通常、摂食から排泄までのうち、食物が消化により分解されて小腸内を流動する時間はおよそ6ないし10時間と考えられる。つまり、小腸内を流動する間に経口投与用吸着剤(活性炭吸着剤)が目的の吸着対象である窒素を含有する低分子を吸着する必要がある。そこで、腸管内における効率良い吸着を勘案すると、短時間の吸着が望ましいといえる。このことから、活性炭吸着剤のマクロ孔側の細孔を多く発達させることには意味がある。後記の実施例に開示するように、容積比(R)の数値が高まるほど、吸着速度は速まる。そこで、より詳細に見ると、容積比(R)は0.2以上であれば優位差となり、さらには0.27以上が好ましい。上限については、活性炭の構造上おそらく0.6付近と考えられる。
【0055】
〔3〕BET比表面積の800m/g以上とは、吸着性能の点から活性炭吸着剤として必要とされる下限であり、好ましくは1600m/g以上、より好ましくは1800m/g以上に規定される。700m/gよりも小さくなると、毒性物質の吸着性能が低下すると考えられるためである。BET比表面積が3000m/gを超える場合、充填密度が悪化することに加えて細孔容積が大きくなることから活性炭吸着剤自体の強度が悪化し易くなる。そこで、3000m/gが上限と考えられる。
【0056】
これらの指標に加えて、〔4〕平均細孔直径も加えられる。そこで、平均細孔直径は1.7ないし2.0nmの範囲である。活性炭吸着剤の平均細孔直径が当該範囲内に調整されることにより、分子量数十ないし数百の比較的低分子のイオン性有機化合物の吸着は良好となる。同時に、活性炭吸着剤は分子量数千ないし数万の酵素、多糖類等の生体に必要な高分子化合物の吸着を抑制できる。活性炭吸着剤の平均細孔直径が2.0nmを越える場合、酵素、多糖類等の高分子を吸着する細孔が多く存在してしまうため好ましくない。また、活性炭の平均細孔直径が1.7nm未満であると、細孔容積自体が減少し、吸着力を低下させるおそれがある。
【0057】
〔5〕充填密度については、0.3ないし0.6g/mLに規定される。充填密度が0.3g/mL未満の場合、服用量が増加し経口投与時に嚥下し難くなる。充填密度が0.6g/mLを超える場合、フェノール樹脂由来の活性炭としての選択吸着性が伴わなくなる。このようなことから、充填密度は前記の範囲が好適となり、好ましくは0.39ないし0.45g/mLである。
【0058】
前述の物性を具備する活性炭吸着剤は、経口投与を目的とした薬剤であって、腎疾患または肝疾患の治療剤または予防剤となる。活性炭吸着剤の表面に発達した細孔内に疾患、慢性症状の原因物質が吸着、保持され、体外へ排出されることにより、症状悪化は要請され、病態改善につながる。さらに、先天的あるいは後天的に代謝異常またはそのおそれのある場合、予め活性炭吸着剤を内服することにより、疾患、慢性症状の原因物質の体内濃度は下げられる。そこで、症状悪化を防ぐ予防としての服用も考えられる。
【0059】
腎疾患として、例えば、慢性腎不全、急性腎不全、慢性腎盂腎炎、急性腎盂腎炎、慢性腎炎、急性腎炎症候群、急性進行型腎炎症候群、慢性腎炎症候群、ネフローゼ症候群、腎硬化症、間質性腎炎、細尿管症、リポイドネフローゼ、糖尿病性腎症、腎血管性高血圧、高血圧症候群、あるいは前記の原疾患に伴う続発性腎疾患、さらに、透析前の軽度腎不全を挙げることができる。肝疾患として、例えば、劇症肝炎、慢性肝炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝癌、自己免疫性肝炎、薬剤アレルギー性肝障害、原発性胆汁性肝硬変、振戦(しんせん)、脳症、代謝異常、機能異常を挙げることができる。
【0060】
活性炭吸着剤を経口投与用吸着剤として使用する際の投与量は、年令、性別、体格または病状等に影響されるため一律の規定は難しい。しかし、一般にヒトを対象とする場合、活性炭吸着剤の重量換算で1日当り1~20g、2~4回の服用が想定される。活性炭吸着剤の経口投与用吸着剤は、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁剤、スティック剤、分包包装体、または乳剤等による形態、剤型で投与される。
【実施例
【0061】
[ノボラック樹脂分の合成]
複合フェノール樹脂を調製するに際し、はじめに当量比(R)の異なる3種類のノボラック樹脂分(Nov1,Nov2,Nov3)を合成した。実施例における「重量部」は「g」と同義である。
【0062】
・ノボラック樹脂分:Nov1
90%フェノール1400重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)753重量部、酸性触媒としてのシュウ酸6.5重量部を、攪拌機、還流冷却器を備えた2Lのセパラブルフラスコ内に投入して90ないし100℃で4時間反応した。反応終了後、反応容器内を減圧し、水分と及び未反応物を除去した。その後、95℃まで昇温し、滴下漏斗により水を投入し低重合物を除去する操作を繰り返して洗浄した。こうして、「Nov1」のノボラック樹脂分を合成した。当該「Nov1」におけるフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)は0.693であった。
【0063】
・ノボラック樹脂分:Nov2
反応原料を90%フェノール1088重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)500重量部、酸性触媒としてのシュウ酸4.9重量部に変更した以外は、Nov1と同様の条件下で反応して「Nov2」のノボラック樹脂分を合成した。当該「Nov2」におけるフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)は0.592であった。
【0064】
・ノボラック樹脂分:Nov3
反応原料を90%フェノール1200重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)838重量部、酸性触媒としてのシュウ酸5.4重量部に変更した以外は、Nov1と同様の条件下で反応して「Nov3」のノボラック樹脂分を合成した。当該「Nov3」におけるフェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)は0.900であった。
【0065】
[複合フェノール樹脂の調製(レゾール樹脂分の合成)]
ノボラック樹脂分(Nov1,Nov2,Nov3)のいずれかを含有するとともに、新たにレゾール樹脂分も合成して双方のフェノール樹脂を含有する複合フェノール樹脂(粒子)(実施例1ないし5)を調製した。
【0066】
・複合フェノール樹脂:実施例1
ノボラック樹脂分(Nov1)108重量部、90%フェノール120重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)140重量部、乳化剤としてのヒドロキシエチルセルロース1.62重量部、水148重量部を、攪拌機、還流冷却器を備えた1Lのセパラブルフラスコ内に投入して70℃で溶解した。次に、塩基性触媒としてのヘキサメチレンテトラミン37.8重量部、水56.7重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し80ないし90℃を維持しながら3時間加熱して反応を進めた。その後、95℃以上に加熱し4時間還流してレゾール樹脂分の合成とともに実施例1の複合フェノール樹脂を調製した。
【0067】
・複合フェノール樹脂:実施例2ないし5
実施例2ないし5の複合フェノール樹脂の調製に際しては、後出の表1に記載のノボラック樹脂分(Nov1,2,3)と量を選択するとともに、同表1に記載の反応原料、乳化剤、塩基性触媒の量を使用した。実施例2ないし5は、前述の実施例1と同様の条件により反応を行い調製した。実施例1ないし5の複合フェノール樹脂は、乳化剤により調製の工程を通じて粒状ないし球状となった。表1の平均粒子径が参照される。
【0068】
・比較例1,2
比較例1及び2は、ノボラック樹脂分を含まずレゾール樹脂分のみのフェノール樹脂とした。比較例1では、90%フェノール200重量部、37%ホルムアルデヒド(ホルマリン)233重量部、乳化剤としてのヒドロキシエチルセルロース0.63重量部、水100重量部を、攪拌機、還流冷却器を備えた1Lのセパラブルフラスコ内に投入して60℃で溶解した。次に、塩基性触媒としてのヘキサメチレンテトラミン16.2重量部、水16.2重量部を同セパラブルフラスコ内に投入し80ないし90℃を維持しながら3時間加熱して反応を進めた。その後、95℃以上に加熱し4時間還流してレゾール樹脂分を合成し比較例1を得た。
【0069】
比較例2は、反応原料等を表2に記載の量に変更した。量の変更以外は比較例1と同様の条件により反応を行い合成した。比較例1及び2の樹脂も乳化剤の作用により調製の工程を通じて粒状ないし球状となった。表2の平均粒子径が参照される。
【0070】
[活性炭吸着剤の調製]
実施例1ないし5の複合フェノール樹脂と比較例1及び2のフェノール樹脂について、それぞれを円筒状のレトルト電気炉に収容し炉内を窒素により充たした後、600℃まで100℃/1時間で昇温し、600℃を1時間維持して炉内のフェノール樹脂を炭化した。その後、フェノール樹脂の炭化物を900℃に加熱し炉内に水蒸気を注入して900℃で1時間維持して賦活した。賦活後、0.1%塩酸水溶液で洗浄して各実施例及び比較例の活性炭吸着剤を得た。
【0071】
洗浄後の活性炭吸着剤について、JIS K 1474(2014)に記載の方法でpHを測定し、おおむねpH5ないし7になるまで水洗した。水洗後の活性炭吸着剤をロータリー式外熱炉により窒素雰囲気中において600℃で2時間加熱して、各実施例及び比較例に対応する活性炭吸着剤を得た。
【0072】
[測定項目・測定方法]
実施例の複合フェノール樹脂及び比較例のフェノール樹脂、並びに実施例及び比較例の活性炭吸着剤に関し、揮発分(%)、ノボラック・レゾール重量比、平均粒子径(μm)、収率(%)、充填密度(g/mL)、BET比表面積(m/g)、平均細孔直径(nm)、水銀細孔容積(V)(mL/g)、窒素細孔容積(V)、容積比(R)を測定した。結果は表1及び2である。表2は関連する項目のみを表記した。
【0073】
〔揮発分〕
実施例の複合フェノール樹脂と比較例のフェノール樹脂の揮発分(%)の測定は、前述の「活性炭吸着剤の調製」において、当初の樹脂の重量と窒素雰囲気中での炭化後の重量を測定し、両者から炭化の前後の重量変化を求めた。樹脂は炭化すると重量は減少する。そこで当該重量減少は揮発による減少量とし、当初の樹脂重量からの割合とした。
【0074】
〔ノボラック・レゾール重量比〕
ノボラック・レゾール重量比は、実施例の複合フェノール樹脂中に含有されたノボラック樹脂分とレゾール樹脂分の互いの重量を反応量から算定した比率である。
【0075】
〔平均粒径〕
実施例の複合フェノール樹脂及び比較例のフェノール樹脂、並びに活性炭吸着剤の平均粒子径(μm)は、株式会社島津製作所製のレーザー光散乱式粒度分布測定装置(SALD3000S)を使用して測定し、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%における粒径とした。
【0076】
〔収率〕
収率(%)は、炭化前の樹脂段階の重量と、炭化、賦活、洗浄、篩別を終えて最終的に分取した活性炭吸着剤の重量を計測して減少量を求めた。そして、当初の樹脂重量からの割合とした。
【0077】
〔充填密度〕
実施例及び比較例の活性炭吸着剤の充填密度(g/mL)は、JIS K 1474(2014)に準拠して測定した。
【0078】
〔BET比表面積〕
実施例及び比較例の活性炭吸着剤のBET比表面積(m/g)は、77Kにおける窒素吸着等温線を日本ベル株式会社製,BELSORP miniにより測定し、BET法により求めた。
【0079】
〔平均細孔直径〕
実施例及び比較例の活性炭吸着剤の平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、細孔容積(mL/g)及び比表面積(m/g)の値を用いて下記の(iv)式より求めた。
【0080】
【数4】
【0081】
〔水銀細孔容積(V)〕
実施例及び比較例の活性炭吸着剤の水銀細孔容積(V)は、株式会社島津製作所製,オートポア9500を使用し、接触角130°、表面張力484ダイン/cm(4.84mN/m)に設定し、細孔直径7.5ないし15000nmの水銀圧入法による細孔容積値(mL/g)を求めた。
【0082】
〔窒素細孔容積(V)〕
実施例及び比較例の活性炭吸着剤の窒素細孔容積(V)は、Gurvitschの法則を適用し、日本ベル株式会社製BELSORPminiを使用し、相対圧0.953における液体窒素換算した窒素吸着量(Vads)を(v)式から液体状態の窒素体積(V)に換算して求めた。同方法は細孔直径0.7ないし2.0nmの範囲を対象とした。(v)式において、Mは吸着質の分子量(窒素:28.020)、ρ(g/cm)は吸着質の密度(窒素:0.808)である。
【0083】
【数5】
【0084】
〔容積比(R)〕
容積比(R)は、前出の式(i)のとおり、水銀細孔容積(V)を窒素細孔容積(V)により除した商とした。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
[物性値に関する考察]
実施例1ないし5の複合フェノール樹脂の結果より、ノボラック樹脂分の合成段階において、フェノールの当量(P)とホルムアルデヒドの当量(F)との当量比(R)は0.5ないし0.9範囲からの合成を確認した。実施例の複合フェノール樹脂の揮発分は、比較例のフェノール樹脂(レゾール樹脂分単独)よりも少ない。しかも、平均粒子径も総じて大きい傾向にある。実施例5については、投入量の増加と反応容器の大きさよりエマルジョン粒子の形成が左右されたと考える。
【0088】
実施例1ないし5の活性炭吸着剤によると、水銀細孔容積(V)は比較例よりも有意に大きく、同時に、容積比(R)も大きい。すなわち、相対的にマクロ孔は多く発達したことを確認した。なお、ミクロ孔自体も窒素細孔容積(V)の測定から、比較例と同等の数値である。それゆえ、ミクロ孔が減少していないことも確認した。
【0089】
実施例と比較例は何れもフェノール樹脂に起因する活性炭吸着剤であり、炭化焼成、賦活の条件は同一である。これにもかかわらず、実施例のマクロ孔の発達は顕著である。実施例は熱硬化性のレゾール樹脂分に加えて熱可塑性のノボラック樹脂分も含有する性状である。実施例の活性炭吸着剤のマクロ孔がより多く発達した原因として、複合フェノール樹脂に対する炭化焼成時において、樹脂成分の熱膨張(膨張率の相違)、揮発条件の相違等が複合的に重なり合い、活性炭表面の細孔に留まらず、活性炭の粒子内部に侵入する深さの細孔が生じたと推察する。
【0090】
また、実施例1ないし5の複合フェノール樹脂は、ノボラック・レゾール重量比を前者50:後者50の同重量を目標とした合成例である。このように双方の重量割合の揃った実施例ではマクロ孔の発達に有利に作用した。そこで、合成時の重量変動等を勘案して40:60ないし60:40の重量比の範囲を妥当と考える。
【0091】
[吸着性能評価]
前述のとおり、実施例の複合フェノール樹脂の炭化、賦活の工程を経て調製した活性炭吸着剤はマクロ孔の相体割合が大きい。この点を踏まえ、発明者は、尿毒症等の原因となり得る窒素を含有する化合物に対する吸着性能の良否を検討した。そこで、含窒素低分子化合物から「インドール、インドール酢酸、インドキシル硫酸、及びトリプトファン」の4種類の物質を選択し、実施例1ないし5と、比較例1及び2の活性炭吸着剤について、当該4種の分子の吸着率(%)を経時的(1,2,3,24時間経過時点)に測定した。これと併せて、24時間経過時点の吸着率の半分量の吸着率となる経過時間も求めた。吸着率の結果は表3ないし表6である。
【0092】
インドール、インドール酢酸、インドキシル硫酸、及びトリプトファンの4種類の吸収率については、pH7.4のリン酸緩衝液に前記の物質をそれぞれ溶解して10mg/dLの濃度の標準溶液を調製した。各物質の標準溶液を溶出試験用ベッセルに500mLずつ注ぎ37℃に調温した。そして、各実施例及び比較例の活性炭吸着剤を0.1gずつ投入して、攪拌しながら経時的に分取した。分取試料の279nmの吸光度を測定して、標準溶液の吸光度の差から吸着率(%)を算出した。
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
[吸着性能の結果・考察]
実施例1ないし5の活性炭吸着剤は、吸着性能評価に供した4種類の含窒素化合物の何れについて、どの時点においても、比較例1及び2よりも高い吸着性能を発揮した。特に、初期段階において迅速に吸着性能を発現した。吸着速度(時間)の指標からも明らかである。この結果より、実際の投与後の消化管内においても迅速な吸着が進み、体外への排泄が期待できる。そこで、活性炭吸着剤は腎機能、肝機能障害等の治療、予防に有効な経口投与用吸着剤となり得る。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の経口投与用吸着剤は、経口投与により消化器官に達し、尿毒症、腎機能、肝機能障害等の原因となる窒素を含有する化合物を迅速に吸着できることから、治療剤または予防剤として有望である。また本発明の経口投与用吸着剤の製造方法は、活性炭吸着剤におけるマクロ孔を効率良く発達できることから、吸収速度の高い活性炭を得ることができる。
図1
図2