IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 伊藤園の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ニンジン加工物の呈味バランス調整方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20220112BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L2/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017203971
(22)【出願日】2017-10-20
(65)【公開番号】P2019076003
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴志
(72)【発明者】
【氏名】大関 菖平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-102650(JP,A)
【文献】北海道立食品加工研究センター報告, 2000年,4号,p.31-34
【文献】日本家政学会誌, 2004年,Vol.55, No.4,p.335-340
【文献】栄養と食糧, 1971年,Vol.24, No.5,p.292-297
【文献】日本食品工業学会誌, 1993年,第40巻, 第1号,p.17-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00-19/20
A23L 2/00-2/84
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料生ニンジンのヘタ部分をあらかじめ除去した上で、基端部から先端部に向かって5~15mmまでの部分を更に切除し、その後、ブランチング、粉砕及び搾汁をする工程を含む、ニンジン加工物の呈味バランス調整方法。
【請求項2】
原料生ニンジンのヘタ部分をあらかじめ除去した上で、基端部から先端部に向かって5~15mmまでの部分を更に切除し、その後、ブランチング、粉砕及び搾汁をすることにより
アミノ酸の合計含有量[A]に対する、ロイシン、アルギニン、リジン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、チロシン、ヒスチジン、メチオニン及びトリプトファンの合計量[B]の比率([B]/[A])を低下させる方法
【請求項3】
前記比率([B]/[A])が0.3~0.4の範囲内にある、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜飲料の原材料として好適なニンジン加工物の呈味バランス調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜不足を補う一つの手段として、野菜飲料の摂取は有効である。
前記野菜飲料には、野菜汁のみからなる野菜100%飲料をはじめ、多種の商品が上市されているが、特に野菜100%飲料は、手軽に野菜不足を補うことができるだけではなく、ミネラルや食物繊維等、身体に有効に作用する成分を配合することで、商品の訴求力を高めたものもある。
【0003】
野菜飲料の原材料の一つとして用いられるものにニンジンがある。
ニンジンは、βカロテンが豊富で、糖分も多く含まれることから、ニンジンペーストや搾汁液等のニンジン加工物は、野菜飲料のベース原料として好適に用いられる。
【0004】
しかしながらニンジンにはいわゆる土臭さや苦渋味といった不快味も存在しているため、ニンジン加工物を野菜飲料の原料に用いるためには、原料である生ニンジンを粉砕、搾
汁前にブランチング処理を行い、不快味を低減する方法が一般的に用いられている。
【0005】
野菜飲料において甘味に関与する成分としては、ショ糖や果糖といった糖分の量の他、アミノ酸の含有量や含有比率の変化による影響もある。
原料のニンジンに含まれているアミノ酸には、バリン、ロイシン、イソロイシン等のいわゆる必須アミノ酸のほか、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、セリン、スレオニン、グリシン等、多岐にわたっている。
【0006】
昨今の野菜飲料原料として用いられているニンジンは、βカロテンの含有量が多く、且つ甘味が強い品種であるが、アミノ酸の含有量も多くなっている。
前記の通り、アミノ酸には多くの種類が存在するが、甘味の向上に貢献しない、若しくは苦渋味等によって、良好な呈味を阻害するものも存在することから、アミノ酸の全体量が増えるに従って、良好な呈味を阻害してしまうアミノ酸の量も増え、この結果、呈味バランスを崩してしまう要因ともなる。
このため、呈味バランスを崩すことがなく、野菜飲料に好適に用いることが可能なニンジン加工物を提供することが求められていた。
【0007】
ニンジン加工物に関する先行技術としては、ブランチ条件を調整することによる旨味の強化方法(特許文献1)、ニンジン粉砕物の粒子径を調整することによる、甘味や旨味の持続方法(特許文献2)等が提案されている。
しかしながら、ニンジン加工物中のアミノ酸バランスを調整することにより、野菜飲料の呈味性を阻害せず、一方で、甘味や旨味といった良好な呈味を確保できるニンジン加工物の製造方法に関する知見は、現在までに開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-063735号公報
【文献】特開2017-063738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の解決する課題は、野菜飲料の原材料として用いた場合にも、苦味・旨味・甘味といった呈味バランスを良好に保持し、かつ原料の歩留りも良好であって、野菜飲料の原料として好適に用いることが可能なニンジン加工物の呈味バランス調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ニンジン中に含まれるアミノ酸の分布について調査した結果、ニンジン中において、ロイシン、アルギニン、リジン、バリン、イソロイシン、フェイルアラニン、プロリン、チロシン、ヒスチジン、メチオニン、トリプトファン、及びシスチンの合計含有比率が、ニンジンの中央部や根の先端部と比較して、高いと比率であるとの知見を得た。
これらのアミノ酸は、人体内で合成できないものが多いため、アミノ酸補給という側面では重要であるが、一方で、苦味や渋味に近い呈味を示すことから、野菜飲料の呈味バランスを崩す要因となり、含有比率が高いことは必ずしも好ましいことではない。
本知見をもとに、あらかじめヘタ部分を除去した上で、ニンジンの基端部を先端部に向かって所定寸法分を切除し、その後ブランチング、粉砕、及び搾汁の工程を経ることで、アミノ酸の呈味バランスが良好に保たれ、野菜飲料の原材料に好適に用いることができるニンジン加工物を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本願は以下の発明を包含する。
[1]
原料生ニンジンのヘタを除去後、更に根の先端方向へ根部を5~15mmの範囲で
除去するアミノ酸バランス調整工程を含むことを特徴とするニンジン加工物の呈味バランス調整方法。
[2]
前記ニンジン加工物に含まれるアミノ酸の合計含有量[A]に対する、ロイシン、アルギニン、リジン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、チロシン、ヒスチジン、メチオニン、及びトリプトファンの合計含有量[B]([B]/[A])が0.3~0.4の範囲に調整されることを特徴とする[1]のニンジン加工物の呈味バランス調整方法。
【発明の効果】
【0012】
前記構成を具備することにより、野菜飲料の原材料として用いた場合にも、苦味・旨味・甘味といった呈味バランスを良好に保持し、かつ原料の歩留りも良好であって、野菜飲料の原料として好適に用いることが可能なニンジン加工物の呈味バランス調整方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るニンジン加工物の製造方法について、その実施形態を説明するが、本発明の要件を満たす限りにおいては以下の形態に限定されるものではない。
【0014】
(ニンジン)
本発明において用いるニンジンは、セリ科の植物であって、今日では主にその根部を食用と用いる野菜である。品種としては、向陽二号、愛紅、彩誉、ベーター312等の青果用品種、黒田五寸、朱衣等の野菜飲料原料用の品種等があげられる。
また、本願においてニンジンの基端部とは、ヘタを除去した後の、茎側の端部を指す。
【0015】
(アミノ酸)
本発明においてアミノ酸の合計含有量は、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、セリン、スレオニン、グリシン、ロイシン、アルギニン、リジン、バリン、イソロイシン、フェイルアラニン、プロリン、チロシン、ヒスチジン、メチオニン、トリプトファン、シスチンの含有量の合計値を表すものとする。
【0016】
(ニンジン加工物)
本発明においてニンジン加工物とは、生ニンジンを85~96℃で、中心部の品温が85℃程度になるまでブランチングした後、粉砕及び/または搾汁することで得られる、ニンジン搾汁液、ニンジンペースト及びニンジンピューレを含む概念である。なおニンジン搾汁液は必要に応じて濃縮処理されたものであってもよい。
なお、粉砕にはハンマークラッシャー、マスコロイダー等の装置を用いることができ、搾汁には遠心分離搾汁機(デカンター)等、それぞれ公知の手段を選択することができる。
【実施例
【0017】
ニンジン品種として、向陽2号を用い、アミノ酸含有量を測定した。
なお、本実施例においてアミノ酸[A]とは、測定されたアミノ酸の総量、アミノ酸[B]
とは、アミノ酸[A]のうち、ロイシン、アルギニン、リジン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、チロシン、ヒスチジン、メチオニン、及びトリプトファンの合計量を表している。
【0018】
(アミノ酸の測定方法)
以下機器及び条件で測定した。
(1)トリプトファン
機種:LC-20AD[(株)島津製作所製]
検出器:傾向分光光度計 RF20AXS[(株)島津製作所製]
カラム:CAPCELL PAK G18 AQ φ4.6mm×250mm[(株)資生堂製]
移動相:20mmol/L 化塩素酸及びメタノールの混液(80:20)
流量:0.7ml/min
蛍光励起波長:285nm
蛍光測定波長:348nm
カラム温度:40℃
(2)シスチン・メチオニン
機種:JLC-500/V[日本電子(株)製]
カラム:LCR-6、φ4mm×120mm[日本電子(株)製]
移動相クエン酸リチウム緩衝液(P-21)[日本電子(株)製]
反応液:日本電子用ニンヒドリン発色溶液キットー2[和甲純薬工業(株)製]
流量:0.45ml/min、反応液 0.30ml/min
(3)その他
測定波長:570nm
機種:JLC-500/V[日本電子(株)製]
カラム:LCR-6、φ4mm×120mm[日本電子(株)製]
移動相クエン酸ナトリウム緩衝液(H-01~H-04)[日本電子(株)製]
反応液:日本電子用ニンヒドリン発色溶液キットー2[和甲純薬工業(株)製]
流量:0.42ml/min、反応液 0.22ml/min
測定波長:440nm(プロリン)
570nm(プロリン以外)
【0019】
前記手段で測定したアミノ酸の含有量から、前記[A]に対する[B]の割合(%)、([B]/[A]×100%)の値を求めた結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
(官能評価)
原料生ニンジンの基端部を5mm、10mm、15mm、20mm切除した上で、96℃で15分ブランチングした後、搾汁してニンジン搾汁液を得た。
得られた搾汁液それぞれについて、以下の観点で、5名の開発職パネラーによって官能試験を実施した。官能評価は以下の基準により実施した。
・苦味が無く甘味と旨味バランスが非常に良好:◎
・苦味が弱く甘味と旨味のバランスが普通良好:〇
・苦味がやや強く感じられる:△
また、原料歩留りについては、切除重量が5%未満の場合を良(〇)、5~10%を可(△)、10%以上を(×)で評価した。それぞれの評価結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】
原料ニンジン中のアミノ酸の分布をもとに、基端部から所定分を切除することによって、得られるニンジン搾汁液の呈味バランスが良好に調整された。
また歩留りを考慮すると、切除する範囲は0mm~10mmが最も好ましいことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、野菜飲料の原材料として好適なニンジン加工物の呈味バランス調整方法に適用可能である。