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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】回転電機および回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
H02K3/34 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2017208221
(22)【出願日】2017-10-27
(65)【公開番号】P2019080479
(43)【公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓明
(72)【発明者】
【氏名】蛭田 直大
(72)【発明者】
【氏名】亀川 大輔
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-094205(JP,A)
【文献】特開2014-054061(JP,A)
【文献】特開平10-028345(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0229190(US,A1)
【文献】特開2016-154405(JP,A)
【文献】特開2014-112985(JP,A)
【文献】特開昭62-210850(JP,A)
【文献】米国特許第05067046(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 3/30
H02K 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル導体と、前記コイル導体の周囲に配置される主絶縁層と、前記主絶縁層の周囲に配置されるスロットライナーと、から構成される固定子コイルと、
積層された複数の鋼板で構成され、前記固定子コイルを格納する固定子スロットを有する固定子鉄心と、を備える回転電機であって、
前記主絶縁層と前記固定子スロットとの間に第一のクロス繊維と、
前記第一のクロス繊維よりも前記主絶縁層側に配置される第二のクロス繊維と、を有し、
前記固定子鉄心の軸方向において、前記第一のクロス繊維の長さは前記固定子スロットの長さよりも短く、前記第二のクロス繊維の長さは前記固定子スロットの長さ以上であることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
コイル導体と、前記コイル導体の周囲に配置される主絶縁層と、前記主絶縁層の周囲に配置されるスロットライナーと、から構成される固定子コイルと、
積層された複数の鋼板で構成され、前記固定子コイルを格納する固定子スロットを有する固定子鉄心と、を備える回転電機であって、
前記主絶縁層と前記固定子スロットとの間に第一のクロス繊維と、
前記第一のクロス繊維よりも前記主絶縁層側に配置される第二のクロス繊維と、を有し、
前記固定子鉄心の軸方向において、前記第一のクロス繊維の長さは前記固定子スロットの長さよりも長く、前記第二のクロス繊維の長さは前記固定子スロットの長さ以下であることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項に記載の回転電機であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維は、前記主絶縁層と前記スロットライナーの間に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項に記載の回転電機であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維は、前記主絶縁層と前記スロットライナーの間に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項に記載の回転電機であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維は、前記スロットライナーと前記固定子スロットの間に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項に記載の回転電機であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維は、前記スロットライナーと前記固定子スロットの間に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維の少なくともいずれか一方に、エポキシ樹脂を含むことを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の回転電機であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維の少なくともいずれか一方に、硬化促進剤を含むことを特徴とする回転電機。
【請求項9】
以下の工程を含む回転電機の製造方法;
(a)コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回し固定子コイルを形成する工程、
(b)前記固定子コイルの周囲に、固定子鉄心の軸方向において固定子鉄心のスロットの長さよりも短い第一のクロス繊維と前記スロットの長さ以上である第二のクロス繊維を配置する工程、
(c)前記(b)工程の後、前記固定子コイルを前記スロット内に収納する工程、
(d)前記固定子コイルを前記スロット内に収納した状態で、真空加圧下で含浸樹脂を前記スロット内に注入する工程、
(e)前記(d)工程の後、前記スロット内に注入した含浸樹脂を静止乾燥により加熱硬化する工程。
【請求項10】
以下の工程を含む回転電機の製造方法;
(a)コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回し固定子コイルを形成する工程、
(b)前記固定子コイルの周囲に、固定子鉄心の軸方向において固定子鉄心のスロットの長さよりも長い第一のクロス繊維と前記スロットの長さ以下である第二のクロス繊維を配置する工程、
(c)前記(b)工程の後、前記固定子コイルを前記スロット内に収納する工程、
(d)前記固定子コイルを前記スロット内に収納した状態で、真空加圧下で含浸樹脂を前記スロット内に注入する工程、
(e)前記(d)工程の後、前記スロット内に注入した含浸樹脂を静止乾燥により加熱硬化する工程。
【請求項11】
請求項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記第二のクロス繊維は、前記第一のクロス繊維よりも前記固定子コイル側に配置されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の回転電機の製造方法であって、
前記第二のクロス繊維は、前記第一のクロス繊維よりも前記固定子コイル側に配置されることを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項13】
請求項から12のいずれか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維の少なくともいずれか一方に、エポキシ樹脂を含むことを特徴とする回転電機の製造方法。
【請求項14】
請求項から12のいずれか1項に記載の回転電機の製造方法であって、
前記第一のクロス繊維および前記第二のクロス繊維の少なくともいずれか一方に、硬化促進剤を含むことを特徴とする回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧回転電機に係り、特に、固定子鉄心のスロット内部に絶縁構成を含む固定子コイルを収納した後に含浸樹脂を一体注入し硬化する一体注入方式で製造される回転電機に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用誘導電動機、産業用誘導電動機、風力用発電機、タービン発電機などの高圧回転電機用固定子の絶縁処理方式には、一体注入方式、単独注入方式がある。特に、一体注入絶縁処理方式が採用されている固定子は、一般的に次のように製造される。
【0003】
先ず、成形された導体にマイカと基材から成るマイカテープを巻回し、その外周に必要に応じてガラステープを巻回した固定子コイルを、内部に有機フィルムなどのスロットライナーを備えた固定子鉄心のスロットへ収納して、含浸樹脂を真空加圧下で一体注入し、その後、硬化して固定子を製造する。
【0004】
固定子は、導体周囲のマイカテープと含浸樹脂の硬化物から成る主絶縁層や、主絶縁層と鉄心間のスロットライナーと含浸樹脂の硬化物から成るライナ層などに、ボイドや剥離などの空隙が存在すると部分放電等の発生原因となり、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性に悪影響を及ぼす恐れがある。固定子のスロット内部の主絶縁層やライナ層に発生する空隙は、固定子の製造時に含浸樹脂を加熱硬化する工程で、粘度が低下した含浸樹脂がスロット内部から徐々に漏れることで生じる。
【0005】
特に、ライナ層には有機フィルムなどの表面が平滑なシート材が採用されるため、マイカ絶縁層に比べると含浸樹脂が漏れやすくなり、また、固定子が大型化するほどライナ層の含浸樹脂が漏れやすくなる。このため、固定子の製造時に含浸樹脂を加熱硬化する工程では、固定子を周方向に回転させながら硬化する回転乾燥工程を導入して、スロット内部からの含浸樹脂の漏れを防止し、固定子の性能低下を阻止している。
【0006】
この一方、回転乾燥工程は硬化前に治具取付けの工数、硬化後には治具の取外しやメンテナンスの工数を要するため生産性の低下や、さらに回転乾燥工程に合せた専用硬化装置が必要となるため設備面でのコスト上昇の恐れがある。
【0007】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、固定子の主絶縁層と鉄心間の含浸樹脂の漏れを防止する構成の例として、主絶縁層表面に設けたコロナ防止層に、半導電性樹脂が塗布された熱収縮性の高分子フィルムの反対面に集成マイカとエポキシ樹脂組成物とからなる集成マイカ絶縁部材を貼りあわせて構成されたコロナ防止テープまたはシートを巻回して形成した構成で含浸樹脂の漏れを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-259589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
固定子スロット内部の主絶縁層と鉄心間の含浸樹脂の漏れの抑制には、ガラス繊維を挿入する方法やガラスクロスと集成マイカを組合せた部材を介在させる方法が提案されている。一方で、生産面や設備面で改善余地が大きい回転乾燥工程を廃止して静止乾燥工程へ導く方法に対しては、上記特許文献1では触れられていない。これは固定子スロット内部の含浸樹脂の漏れを特許文献1のような従来技術範囲の絶縁構成では抑制しきれていないという課題が顕在化していると考えられる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、製造コストを抑えつつ、絶縁信頼性の高い回転電機を提供することにある。
【0011】
また、本発明の別の目的は、固定子鉄心のスロット内部に固定子コイルを収納した後に含浸樹脂を一体注入し硬化する一体注入方式の回転電機の製造方法において、製造コストを抑えつつ、絶縁信頼性の高い回転電機を製造可能な回転電機の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、コイル導体と、前記コイル導体の周囲に配置される主絶縁層と、前記主絶縁層の周囲に配置されるスロットライナーと、から構成される固定子コイルと、積層された複数の鋼板で構成され、前記固定子コイルを格納する固定子スロットを有する固定子鉄心と、を備える回転電機であって、前記主絶縁層と前記固定子スロットとの間に第一のクロス繊維と、前記第一のクロス繊維よりも前記主絶縁層側に配置される第二のクロス繊維と、を有し、前記固定子鉄心の軸方向において、前記第一のクロス繊維の長さは前記固定子スロットの長さよりも短く、前記第二のクロス繊維の長さは前記固定子スロットの長さ以上であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、(a)コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回し固定子コイルを形成する工程、(b)前記固定子コイルの周囲に、固定子鉄心の軸方向において固定子鉄心のスロットの長さよりも短い第一のクロス繊維と前記スロットの長さ以上である第二のクロス繊維を配置する工程、(c)前記(b)工程の後、前記固定子コイルを前記スロット内に収納する工程、(d)前記固定子コイルを前記スロット内に収納した状態で、真空加圧下で含浸樹脂を前記スロット内に注入する工程、(e)前記(d)工程の後、前記スロット内に注入した含浸樹脂を静止乾燥により加熱硬化する工程、を含む回転電機の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、静止乾燥工程を導入して製造した回転電機用固定子において、スロット内部の主絶縁層と鉄心間の空隙発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上することができる。
【0015】
これにより、製造コストを抑えつつ、絶縁信頼性の高い回転電機を提供することができる。
【0016】
また、製造コストを抑えつつ、絶縁信頼性の高い回転電機を製造可能な回転電機の製造方法を提供することができる。
【0017】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る固定子の断面正面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る固定子スロットの断面斜視拡大図である。(実施例1)
図3】本発明の一実施形態に係る固定子スロットの断面斜視拡大図である。(実施例2)
図4】本発明の一実施形態に係る固定子スロットの断面斜視拡大図である。(実施例3)
図5】本発明の一実施形態に係る固定子スロットの断面斜視拡大図である。(実施例4)
図6】本発明の一実施形態に係る固定子スロットの断面斜視拡大図である。(実施例5)
図7】本発明の一実施形態に係る固定子スロットの断面斜視拡大図である。(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0020】
本発明は、固定子スロット内部の主絶縁層と鉄心間の含浸樹脂の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層と鉄心間のボイドや剥離による空隙の発生をなくすことを可能とする構成である。
【実施例1】
【0021】
図1および図2を参照して、実施例1の回転電機とその製造方法について説明する。図1は固定子の断面正面図を示し、図2は本実施例の固定子スロットの内部を詳細に示す固定子スロットの断面斜視拡大図である。なお、図1は以降の各実施例に共通する固定子鉄心の概略構成を示しており、固定子鉄心1に固定子コイル2が挿入された状態を示している。
【0022】
図2は本実施例の回転電機の固定子スロット4の一部を拡大して、スロット内部を詳細に表した図(図1のA部拡大図)であり、含浸樹脂8の漏れが生じやすい固定子スロット4内部の主絶縁層3と固定子スロット4の間に、毛細管現象の機能を有するクロス繊維を複数配置し、例えばスロットライナー7を配置した状態でクロス繊維を2層(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を配置した例である。
【0023】
本実施例では、図2に示すように、一方のクロス繊維(第一のクロス繊維5)の長手方向の長さを固定子スロット4よりも短くし、もう一方のクロス繊維(第二のクロス繊維6)の長手方向の長さを固定子スロット4以上の長さとしている。これにより、固定子スロット4内部の両端に複数のクロス繊維の長さが違う箇所に形成した僅かな隙間において毛細管現象が発現する。
【0024】
なお、本明細書中では、固定子スロット4内において外側(固定子スロット4側)に配置されるクロス繊維を「第一のクロス繊維5」と呼び、内側(主絶縁層3側或いは固定子コイル側)に配置されるクロス繊維を「第二のクロス繊維6」と呼ぶ。
【0025】
したがって、本実施例の固定子スロット4内は、クロス繊維自体による毛細管現象と、長手方向の長さを変えて配置した複数のクロス繊維で形成した僅かな空隙による毛細管現象の機能を有す構成としているため、主絶縁層3と固定子スロット4間の含浸樹脂の漏れを従来よりも抑制することができる。
【0026】
さらに、固定子スロット4からの樹脂漏れを大幅に抑制できるため、固定子の回転乾燥工程を静止乾燥工程に変えることも可能となる。
【0027】
次に、本実施例の固定子の構成とこの固定子を用いた回転電機を詳細に説明する。
【0028】
[クロス繊維]
本実施例のクロス繊維は材質や寸法などは特に限定ないが、材質は適用条件に応じてガラス、セラミックなどの無機物、ポリエステルやアラミドなどの高分子やセルロースなどの天然繊維などの有機物のクロス繊維、無機物と有機物を使用したクロス繊維などを使用することができる。
【0029】
寸法として、特にクロス繊維の厚さは、適用箇所の寸法に応じて、同じ厚さのクロス繊維の組合せや異なる厚さのクロス繊維を組合せて使用することができる。また、固定子スロット4内へ配置するクロス繊維は、例えば、2層配置する場合に空隙を設けるための寸法は、一方のクロス繊維の長手方向の長さを固定子スロット4よりも短くし、もう一方のクロス繊維の長手方向の長さを固定子スロット4以上であれば良く、特に制限しない。また、クロス繊維の全体、あるいは固定子スロット4の出口近傍に、硬化触媒や硬化促進剤、エポキシ樹脂、硬化剤、これらの樹脂組成物などを予め付加して置き、硬化時にその箇所が早めに硬化して樹脂の流出を抑える機能を付加することもできる。
【0030】
ところで、固定子スロット4内に配置するクロス繊維の配置方法と、固定子スロット4内から漏れる含浸樹脂量の関係は、本実施例のように複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を固定子鉄心1(固定子スロット4)以上に長くしたもの(第二のクロス繊維6)と固定子鉄心1(固定子スロット4)より短くしたもの(第一のクロス繊維5)に長手方向の長さを変えて配置した場合、同一長のクロス繊維を複数重ねて配置した場合、クロス繊維が1層の場合、を比較すると、本実施例のようにクロス繊維を複数層配置する方法>2層(複数)を重ねて配置する方法>1層を配置する方法の順で含浸樹脂8の漏れ量低減(抑制)の効果が得られる。
【0031】
以上より、クロス繊維を単純に複数枚重ねることで固定子スロット4からの含浸樹脂8の流出量を抑えることも原理上可能であると考えられるが、複数枚重ねた分の寸法や重ねる作業が、固定子コイル2の寸法増大や製造工数の増加に繋がる弊害が生じる。従って、本実施例では最低2枚のクロス繊維を配置するのみで良いため、固定子コイル寸法や製造工数の増加を最小限にとどめた上で、固定子スロット4からの含浸樹脂8の流出を防止して、固定子スロット4内部の主絶縁層3と固定子鉄心1(固定子スロット4)間の空隙の発生をなくすことができる。
【0032】
以上説明したように、本実施例の回転電機においては、コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回した固定子コイルと、鋼板が積層されて構成された固定子コイルを格納する固定子スロット4が形成された固定子鉄心1と、を有し、固定子スロット4と主絶縁層3との間に複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)が配置されており、複数のクロス繊維のうち第一のクロス繊維5は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)よりも短く、複数のクロス繊維のうち第二のクロス繊維6は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)の長さ以上の構成として、含浸樹脂8を真空加圧下で一体注入し、静止乾燥工程で加熱硬化することで製作した回転電機用固定子を用いている。
【0033】
これにより、固定子スロット4内部の主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間の含浸樹脂8の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間のボイドや剥離による空隙の発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上した回転電機の固定子を得ることができる。
【0034】
つまり、本実施例のスロット内の第一のクロス繊維5と第二のクロス繊維6とその配置方法による毛細管現象の機能によって、固定子スロット4からの含浸樹脂8の漏れがなく、含浸樹脂8が所定箇所に充填できるため、電気絶縁性に優れた回転電機を提供することができる。
【実施例2】
【0035】
図3を参照して、実施例2の回転電機とその製造方法について説明する。図3は本実施例の固定子スロットの内部を詳細に示す固定子スロットの断面斜視拡大図であり、実施例1の図2に相当する図である。
【0036】
実施例1では、主絶縁層3と固定子スロット4の間に配置する複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を、固定子鉄心1(固定子スロット4)以上に長くしたもの(第二のクロス繊維6)と固定子鉄心1(固定子スロット4)より短くしたもの(第一のクロス繊維5)に長手方向の長さを変えて配置しているが、本実施例では、固定子鉄心1(固定子スロット4)以上に長くしたもの(第一のクロス繊維5)と固定子鉄心1(固定子スロット4)より短くしたもの(第二のクロス繊維6)に長手方向の長さを変えて配置している点において、実施例1とは異なる。
【0037】
つまり、クロス繊維の(固定子鉄心1の)長手方向の長さが、実施例1では「第一のクロス繊維5の長さ<第二のクロス繊維6の長さ」となっているのに対し、本実施例では反対に「第一のクロス繊維5の長さ>第二のクロス繊維6の長さ」となっている。
【0038】
すなわち、本実施例の回転電機においては、コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回した固定子コイル2と、鋼板が積層されて構成された固定子コイル2を格納する固定子スロット4が形成された固定子鉄心1と、を有し、固定子スロット4と主絶縁層3との間に複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)が配置されており、複数のクロス繊維のうち第一のクロス繊維5は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)よりも長く、複数のクロス繊維のうち第二のクロス繊維6は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)の長さ以下の構成として、含浸樹脂8を真空加圧下で一体注入し、静止乾燥工程で加熱硬化することで製作した回転電機用固定子を用いている。
【0039】
これにより、固定子スロット4内部の主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間の含浸樹脂8の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間のボイドや剥離による空隙の発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上した回転電機の固定子を得ることができる。
【0040】
つまり、本実施例のスロット内の第一のクロス繊維5と第二のクロス繊維6とその配置方法による毛細管現象の機能によって、固定子スロット4からの含浸樹脂8の漏れがなく、含浸樹脂8が所定箇所に充填できるため、電気絶縁性に優れた回転電機を提供することができる。
【実施例3】
【0041】
図4を参照して、実施例3の回転電機とその製造方法について説明する。図4は本実施例の固定子スロットの内部を詳細に示す固定子スロットの断面斜視拡大図であり、実施例1(図2)の変形例に相当する。
【0042】
実施例1では、長手方向の長さを変えた複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を、主絶縁層3と固定子スロット4の間に配置しているのに対し、本実施例では、固定子スロット4の内側にフィルムやシートなどから成るスロットライナー7が配置され、スロットライナー7と主絶縁層3との間に長手方向の長さを変えた複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を配置している点において、実施例1とは異なる。
【0043】
なお、クロス繊維の(固定子コイル2の)長手方向の長さが、「第一のクロス繊維5の長さ<第二のクロス繊維6の長さ」となっている点においては、実施例1と同様である。
【0044】
すなわち、本実施例の回転電機においては、コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回した固定子コイル2と、鋼板が積層されて構成された固定子コイル2を格納する固定子スロット4が形成された固定子鉄心1と、を有し、固定子スロット4の内側にフィルムやシートなどから成るスロットライナー7が配置され、スロットライナー7と主絶縁層3との間に複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)が配置されており、複数のクロス繊維のうち第一のクロス繊維5は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)よりも短く、複数のクロス繊維のうち第二のクロス繊維6は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)の長さ以上の構成として、含浸樹脂8を真空加圧下で一体注入し、静止乾燥工程で加熱硬化することで製作した回転電機用固定子を用いている。
【0045】
これにより、固定子スロット4内部の主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間の含浸樹脂8の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間のボイドや剥離による空隙の発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上した回転電機の固定子を得ることができる。
【0046】
つまり、本実施例のスロット内の第一のクロス繊維5と第二のクロス繊維6とその配置方法による毛細管現象の機能によって、固定子スロット4からの含浸樹脂8の漏れがなく、含浸樹脂8が所定箇所に充填できるため、電気絶縁性に優れた回転電機を提供することができる。
【実施例4】
【0047】
図5を参照して、実施例4の回転電機とその製造方法について説明する。図5は本実施例の固定子スロットの内部を詳細に示す固定子スロットの断面斜視拡大図であり、実施例2(図3)の変形例に相当する。
【0048】
実施例2では、長手方向の長さを変えた複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を、主絶縁層3と固定子スロット4の間に配置しているのに対し、本実施例では、固定子スロット4の内側にフィルムやシートなどから成るスロットライナー7が配置され、スロットライナー7と主絶縁層3との間に長手方向の長さを変えた複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を配置している点において、実施例1とは異なる。
【0049】
なお、クロス繊維の(固定子コイル2の)長手方向の長さが、「第一のクロス繊維5の長さ>第二のクロス繊維6の長さ」となっている点においては、実施例2と同様である。
【0050】
すなわち、本実施例の回転電機においては、コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回した固定子コイル2と、鋼板が積層されて構成された固定子コイル2を格納する固定子スロット4が形成された固定子鉄心1と、を有し、固定子スロット4の内側にフィルムやシートなどから成るスロットライナー7が配置され、スロットライナー7と主絶縁層3との間に複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)が配置されており、複数のクロス繊維のうち第一のクロス繊維5は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)よりも長く、複数のクロス繊維のうち第二のクロス繊維6は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)の長さ以下の構成として、含浸樹脂8を真空加圧下で一体注入し、静止乾燥工程で加熱硬化することで製作した回転電機用固定子を用いている。
【0051】
これにより、固定子スロット4内部の主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間の含浸樹脂8の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間のボイドや剥離による空隙の発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上した回転電機の固定子を得ることができる。
【0052】
つまり、本実施例のスロット内の第一のクロス繊維5と第二のクロス繊維6とその配置方法による毛細管現象の機能によって、固定子スロット4からの含浸樹脂8の漏れがなく、含浸樹脂8が所定箇所に充填できるため、電気絶縁性に優れた回転電機を提供することができる。
【実施例5】
【0053】
図6を参照して、実施例5の回転電機とその製造方法について説明する。図6は本実施例の固定子スロットの内部を詳細に示す固定子スロットの断面斜視拡大図であり、実施例3(図4)の変形例に相当する。
【0054】
実施例3では、長手方向の長さを変えた複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を、スロットライナー7と主絶縁層3との間に配置しているのに対し、本実施例では、固定子スロット4とスロットライナー7との間に配置している点において、実施例3とは異なる。
【0055】
なお、クロス繊維の(固定子コイル2の)長手方向の長さが、「第一のクロス繊維5の長さ<第二のクロス繊維6の長さ」となっている点においては、実施例3と同様である。
【0056】
すなわち、本実施例の回転電機においては、コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回した固定子コイル2と、鋼板が積層されて構成された固定子コイル2を格納する固定子スロット4が形成された固定子鉄心1と、を有し、固定子スロット4の内側にフィルムやシートなどから成るスロットライナー7が配置され、固定子スロット4とスロットライナー7との間に複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)が配置されており、前記複数のクロス繊維のうち第一のクロス繊維5は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)よりも短く、複数のクロス繊維のうち第二のクロス繊維6は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)の長さ以上の構成として、含浸樹脂8を真空加圧下で一体注入し、静止乾燥工程で加熱硬化することで製作した回転電機用固定子を用いている。
【0057】
これにより、固定子スロット4内部の主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間の含浸樹脂8の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間のボイドや剥離による空隙の発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上した回転電機の固定子を得ることができる。
【0058】
つまり、本実施例のスロット内の第一のクロス繊維5と第二のクロス繊維6とその配置方法による毛細管現象の機能によって、固定子スロット4からの含浸樹脂8の漏れがなく、含浸樹脂8が所定箇所に充填できるため、電気絶縁性に優れた回転電機を提供することができる。
【実施例6】
【0059】
図7を参照して、実施例6の回転電機とその製造方法について説明する。図7は本実施例の固定子スロットの内部を詳細に示す固定子スロットの断面斜視拡大図であり、実施例4(図5)の変形例に相当する。
【0060】
実施例4では、長手方向の長さを変えた複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)を、スロットライナー7と主絶縁層3との間に配置しているのに対し、本実施例では、固定子スロット4とスロットライナー7との間に配置している点において、実施例4とは異なる。
【0061】
なお、クロス繊維の(固定子コイル2の)長手方向の長さが、「第一のクロス繊維5の長さ>第二のクロス繊維6の長さ」となっている点においては、実施例4と同様である。
【0062】
すなわち、本実施例の回転電機においては、コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回した固定子コイル2と、鋼板が積層されて構成された固定子コイル2を格納する固定子スロット4が形成された固定子鉄心1と、を有し、固定子スロット4の内側にフィルムやシートなどから成るスロットライナー7が配置され、固定子スロット4とスロットライナー7との間に複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)が配置されており、複数のクロス繊維のうち第一のクロス繊維5は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)よりも長く、複数のクロス繊維のうち第二のクロス繊維6は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)の長さ以下の構成として、含浸樹脂8を真空加圧下で一体注入し、静止乾燥工程で加熱硬化することで製作した回転電機用固定子を用いている。
【0063】
これにより、固定子スロット4内部の主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間の含浸樹脂8の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間のボイドや剥離による空隙の発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上した回転電機の固定子を得ることができる。
【0064】
つまり、本実施例のスロット内の第一のクロス繊維5と第二のクロス繊維6とその配置方法による毛細管現象の機能によって、固定子スロット4からの含浸樹脂8の漏れがなく、含浸樹脂8が所定箇所に充填できるため、電気絶縁性に優れた回転電機を提供することができる。
【実施例7】
【0065】
最後に、実施例7の回転電機とその製造方法について説明する。本実施例では、実施例1の構成において、複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)に、エポキシ樹脂および硬化促進剤の少なくともいずれか一方を含む樹脂組成物を付加する構成とする。
【0066】
すなわち、本実施例の回転電機においては、コイル導体の周囲に少なくともマイカと基材から構成されるマイカテープを巻回した固定子コイル2と、鋼板が積層されて構成された固定子コイル2を格納する固定子スロット4が形成された固定子鉄心1と、を有し、固定子スロット4と主絶縁層3との間に複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)が配置されており、複数のクロス繊維のうち第一のクロス繊維5は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)よりも短く、複数のクロス繊維のうち第二のクロス繊維6は、長手方向の長さが固定子鉄心1(固定子スロット4)の長さ以上の構成として、複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)にエポキシ樹脂および硬化促進剤の少なくともいずれか一方を含む樹脂組成物を付加しておき、含浸樹脂8を真空加圧下で一体注入し、静止乾燥工程で加熱硬化することで製作した回転電機用固定子を用いている。
【0067】
これにより、固定子スロット4内部の主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間の含浸樹脂8の漏れの抑制をより高めて、静止乾燥工程を導入しても主絶縁層3と鉄心(固定子スロット4)間のボイドや剥離による空隙の発生をなくして、初期の電気絶縁特性や長期の絶縁信頼性を向上した回転電機の固定子を得ることができる。
【0068】
つまり、本実施例のスロット内の第一のクロス繊維5と第二のクロス繊維6とその配置方法による毛細管現象の機能によって、固定子スロット4からの含浸樹脂8の漏れがなく、含浸樹脂8が所定箇所に充填できるため、電気絶縁性に優れた回転電機を提供することができる。
【0069】
なお、複数のクロス繊維(第一のクロス繊維5および第二のクロス繊維6)に、エポキシ樹脂および硬化促進剤の少なくともいずれか一方を含む樹脂組成物を付加する本実施例の構成は、実施例1の構成のみならず、上記の実施例2~6の各実施例の構成においても適用可能であることは言うまでもない。
【0070】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…固定子鉄心、2…固定子コイル、3…主絶縁層、4…固定子スロット、5…第一のクロス繊維、6…第二のクロス繊維、7…スロットライナー、8…含浸樹脂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7