(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】バルブメンテナンス支援装置および方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20220112BHJP
F16K 1/32 20060101ALI20220112BHJP
F16K 37/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
G05B23/02 T
F16K1/32 A
F16K37/00 D
(21)【出願番号】P 2017214513
(22)【出願日】2017-11-07
【審査請求日】2020-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史明
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-054483(JP,A)
【文献】特表2009-543194(JP,A)
【文献】特表2015-528916(JP,A)
【文献】特開2013-246538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
F16K 1/32
F16K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体に結合された弁軸の外周を取り囲むように設けられた蛇腹状のベローズを備えたベローズ弁のメンテナンス作業を支援する
ために、前記弁軸にはたらく摩擦力により発生する現象を利用するバルブメンテナンス支援装置であって、
前記ベローズ弁の開度を計測する開度計測部から送信されてくる開度計測値データおよび前記ベローズ弁を駆動する操作器に供給される流体圧力を計測する圧力計測部から送信されてくる圧力計測値データを記憶する計測値データ記憶部と、
前記計測値データ記憶部に記憶されている前記開度計測値データおよび前記圧力計測値データに基づいて
、前記ベローズ弁の開度を大きくして行く際に必要な前記操作器に供給される流体圧力と、前記ベローズ弁の開度を小さくして行く際に必要な前記操作器に供給される流体圧力との圧力差を
、前記ベローズ弁の
前記ベローズを歪ませる力の減少に関する診断指標として算出する診断指標算出部と、
前記診断指標算出部によって算出された前記ベローズ弁の診断指標を提示する診断指標提示部と
、
前記診断指標に対する前記ベローズが破断していない正常範囲の下限値を診断指標閾値として記憶する閾値記憶部と、
前記診断指標算出部によって算出された前記ベローズ弁の診断指標と前記診断指標閾値とを比較し、比較の結果、当該診断指標が当該診断指標閾値以下であった場合にのみ、そのベローズ弁をメンテナンスが必要なバルブであると判定する判定部と、
前記判定部によってメンテナンスが必要と判定されたベローズ弁を前記ベローズが破断している疑いがあるバルブとして提示する判定結果提示部と
を備えることを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたバルブメンテナンス支援装置において、
前記診断指標提示部は、
前
記診断指標と合わせて、この診断指標がそのベローズ弁に装着されているベローズの状態を対象としていることを提示する
ことを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載されたバルブメンテナンス支援装置において、
メンテナンスの候補のバルブとして登録されたベローズ弁の識別情報を記憶するバルブ識別情報記憶部を備え、
前記計測値データ記憶部は、
前記メンテナンスの候補のバルブを含む複数のバルブを計測対象とし、この計測対象のバルブ毎にそのバルブの識別情報と対応づけて、前記開度計測値データおよび前記圧力計測値データを記憶し、
前記診断指標算出部は、
前記バルブ識別情報記憶部に記憶されている前記メンテナンスの候補のバルブの識別情報を読み出し、この読み出した識別情報と対応づけて前記計測値データ記憶部に記憶されている前記開度計測値データおよび前記圧力計測値データに基づいて、前記メンテナンスの候補のバルブ毎に前記診断指標を算出する
ことを特徴とするバルブメンテナンス支援装置。
【請求項4】
弁体に結合された弁軸の外周を取り囲むように設けられた蛇腹状のベローズを備えたベローズ弁のメンテナンス作業を支援する
ために、前記弁軸にはたらく摩擦力により発生する現象を利用するバルブメンテナンス支援方法であって、
前記ベローズ弁の開度を計測する開度計測部から送信されてくる開度計測値データおよび前記ベローズ弁を駆動する操作器に供給される流体圧力を計測する圧力計測部から送信されてくる圧力計測値データを計測値データ記憶部に記憶させる計測値データ記憶ステップと、
前記計測値データ記憶部に記憶されている前記開度計測値データおよび前記圧力計測値データに基づいて
、前記ベローズ弁の開度を大きくして行く際に必要な前記操作器に供給される流体圧力と、前記ベローズ弁の開度を小さくして行く際に必要な前記操作器に供給される流体圧力との圧力差を
、前記ベローズ弁の
前記ベローズを歪ませる力の減少に関する診断指標として算出する診断指標算出ステップと、
前記診断指標算出ステップによって算出された前記ベローズ弁の診断指標を提示する診断指標提示ステップと
、
前記診断指標に対する前記ベローズが破断していない正常範囲の下限値を診断指標閾値として閾値記憶部に記憶させる閾値記憶ステップと、
前記診断指標算出ステップによって算出された前記ベローズ弁の診断指標と前記診断指標閾値とを比較し、比較の結果、当該診断指標が当該診断指標閾値以下であった場合にのみ、そのベローズ弁をメンテナンスが必要なバルブであると判定する判定ステップと、
前記判定ステップによってメンテナンスが必要と判定されたベローズ弁を前記ベローズが破断している疑いがあるバルブとして提示する判定結果提示ステップと
を備えることを特徴とするバルブメンテナンス支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁体に結合された弁軸の外周を取り囲むように設けられた蛇腹状のベローズ(ベローズシール)を備えたベローズ弁のメンテナンス作業を支援するバルブメンテナンス支援装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油、化学系のプラントなどで使用されるバルブは、特に安全性に留意する必要があり、このため定期的なメンテナンスが行われる。
図12に、石油、化学系のプラントなどで使用されるバルブ(コントロールバルブ)の一例を示す。
【0003】
このバルブ100は、バルブ本体101と、ポジショナ102と、操作器103とを備えている。操作器103は、スプリング形ダイヤフラム構造とされており、ポジショナ102から供給される空気圧Poに応じてダイヤフラム(操作器のダイヤフラム)103aをスプリング103bの力に抗して変位させることにより、弁軸(ステム)104を上下動させて、バルブの開度(弁体105とシートリング106との間の隙間)を調節する。すなわち、流体の流れを調節する。
【0004】
ポジショナ102は、弁軸104に連結されたフィードバックレバー107の回転角度位置から弁軸104のリフト位置、すなわちバルブの実開度を検出し、この検出した実開度と設定開度との差に応じた空気圧Poを操作器103へ供給する。
【0005】
このバルブ100において、弁体105に結合された弁軸104の外周には、流体の外部漏れを防止するために、蛇腹状のベローズ(ベローズシール)108が設けられている。このベローズ108は、耐食性を有する金属材料からなり、バルブ本体101に連結された下フランジ109内に、弁軸104の外周を取り囲むように設けられている。
【0006】
下フランジ109内において、ベローズ108は、弁軸104に嵌装されたベローズリング111と下フランジ109と上フランジ110との間に挟まれたベローズフランジ112との間に支持されている。上フランジ110内には、流体の外部漏れをさらに防止するために、弁軸104の外周面と上フランジ110の内周面との間にグランドパッキン113が設けられている。
【0007】
このような蛇腹状のベローズ108を備えたバルブ100をベローズ弁と呼んでいる(例えば、特許文献1参照)。以下、ベローズ弁を符号VBで示し、他の形式のバルブ100と区別する。以下の説明において、バルブ100という場合には、ベローズ弁VBを含むバルブのことを指す。
【0008】
なお、バルブ100には、逆作動操作器を用いる場合と、正作動操作器を用いる場合とがある。逆作動操作器は、
図12に示したベローズ弁VBのように、スプリングの力でバルブの開度を閉方向に付勢する。正作動操作器は、逆に、スプリングの力でバルブの開度を開方向に付勢する。また、
図12に示したベローズ弁VBでは、空気圧によって操作器103を作動させているが、油圧によって操作器103を作動させるタイプもある。
【0009】
このようなバルブが設置されているプラントなどでは、多数のバルブを効率良くメンテナンスする必要があり、そのメンテナンス作業の効率を改善するために、バルブスティックスリップ検出(例えば、特許文献2参照)、バルブハンチング検出(例えば、特許文献3参照)、バルブスケール付着検出(例えば、特許文献4参照)などの手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-154929号公報
【文献】特許第3254624号公報
【文献】特開2015-114942号公報
【文献】特開2015-114943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、安全性やメンテナンス作業の効率については、完全とか十分とか言える上限は無い。石油、化学系のプラントなどでは多数のバルブが使用されるので、メンテナンス作業の効率については、さらなる改善が求められている。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、特に、ベローズ弁を扱う場合について、バルブのメンテナンス作業の効率を改善することができるバルブメンテナンス支援装置および方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために本発明は、弁体(105)に結合された弁軸(104)の外周を取り囲むように設けられた蛇腹状のベローズ(108)を備えたベローズ弁(VB)のメンテナンス作業を支援するバルブメンテナンス支援装置(200)であって、ベローズ弁の開度を計測する開度計測部(21)から送信されてくる開度計測値データ(D1)およびベローズ弁を駆動する操作器(103)に供給される流体圧力(Po)を計測する圧力計測部(22)から送信されてくる圧力計測値データ(D2)を記憶する計測値データ記憶部(1)と、計測値データ記憶部に記憶されている開度計測値データおよび圧力計測値データに基づいてベローズ弁の最大摩擦力に関する情報をベローズ弁の診断指標(F)として算出する診断指標算出部(3)と、診断指標算出部によって算出されたベローズ弁の診断指標を提示する診断指標提示部(4)とを備えることを特徴とする。
【0014】
この発明において、計測値データ記憶部には、開度計測部からの開度計測値データおよび圧力計測部からの圧力計測値データが記憶される。診断指標算出部は、計測値データ記憶部に記憶されている開度計測値データおよび圧力計測値データに基づいて、ベローズ弁の最大摩擦力に関する情報をベローズ弁の診断指標として算出する。
【0015】
ベローズ弁において、一部が裂けるなどの破断がベローズに生じると(ベローズに孔が開くと)、ベローズを歪ませる力が減少する。このベローズを歪ませる力の減少は、ベローズ弁の最大摩擦力(弁軸との間に生じる最大摩擦力)の減少として現れ、算出されるベローズ弁の診断指標が小さくなる。この算出されたベローズ弁の診断指標は、ベローズの破断の疑いの有無を知らせる指標として、オペレータに提示される。
【0016】
なお、上記説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の構成要素を、括弧を付した参照符号によって示している。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、開度計測値データおよび圧力計測値データに基づいて、ベローズ弁の最大摩擦力に関する情報がベローズ弁の診断指標として算出され、この算出されたベローズ弁の診断指標がベローズの破断の疑いの有無を知らせる指標としてオペレータに提示されるものとなり、特に、ベローズ弁を扱う場合について、バルブのメンテナンス作業の効率を改善することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、破断が生じていない場合のベローズの圧縮前と圧縮後の状態を模式化して示す図である。
【
図2】
図2は、破断が生じている場合のベローズの圧縮前と圧縮後の状態を模式化して示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態1に係るバルブメンテナンス支援装置の要部の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、このバルブメンテナンス支援装置の計測値データ記憶部に開度計測値データおよび圧力計測値データが蓄積されて行く様子を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、バルブの操作器を逆作動操作器とした場合の1回の上下動におけるバルブの開度θおよび空気圧Poの変化を例示する図である。
【
図6】
図6は、バルブの操作器を正作動操作器とした場合の1回の上下動におけるバルブの開度θおよび空気圧Poの変化を例示する図である。
【
図7】
図7は、このバルブメンテナンス支援装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図8】
図8は、メンテナンス対象のプラントのバルブ配置の一例を示すイメージ図である。
【
図9】
図9は、時間の経過に伴うバルブ(ベローズ弁)の最大摩擦力の変化を示す図である。
【
図10】
図10は、メンテナンス候補のバルブ(ベローズ弁)の診断指標の表示例を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施の形態2に係るプラントとその機器管理システムの構成(実施の形態1の実装例)を例示する図である。
【
図12】
図12は、コントロールバルブ(ベローズ弁)の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔発明の原理〕
発明者は、ベローズ(ベローズシール)を利用するベローズ弁の場合、一部が裂けるなどの破断がベローズに生じると(ベローズに孔が開くと)、ベローズを歪ませる力が減少することに着眼した。
【0020】
すなわち、正常なベローズにおけるベローズ全体を歪ませるために必要な力に対し、破断が生じている場合、破断箇所については適正な弾性変形をさせるための力が不要になるので、ベローズを歪ませるために必要なトータルの力が減少する。例えば、ベローズが圧縮バネのように歪む場合、破断により生じた開口部分で弾性変形をさせるための力が不要となる。
【0021】
図1に破断が生じていない場合のベローズの圧縮前と圧縮後の状態を模式化して示す。
図1(a)は圧縮前、
図1(b)は圧縮後のベローズの状態を示す。ベローズに破断が生じていない場合、全ての折り曲げ箇所に断線変形の力が必要である。
【0022】
図2に破断が生じている場合のベローズの圧縮前と圧縮後の状態を模式化して示す。ベローズに破断が生じると、破断(分離)した箇所(開口部分)では弾性変形をさせるための力が不要となり、ベローズを歪ませる力が減少する。
【0023】
このベローズを歪ませる力の減少は、ベローズの取付状態を考慮すれば、ベローズ弁の最大摩擦力(弁軸との間に生じる最大摩擦力)の減少として現れる。発明者は、このベローズ弁の最大摩擦力に関する情報をベローズ弁の診断指標としてオペレータに提示することで、ベローズに破断の疑いがあるか否かを推定できるようになることに想到した。これにより、特に、ベローズ弁を扱う場合について、バルブのメンテナンス作業の効率を改善することができるようになる。
【0024】
〔実施の形態1〕
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図3は本発明の実施の形態1に係るバルブメンテナンス支援装置の要部の構成を示すブロック図である。ここでは、説明を簡潔にするため、バルブのID(識別情報)の事例などは、実際のプラントで利用されるものよりもシンプルなものにする。
【0025】
本実施の形態のバルブメンテナンス支援装置200は、プロセッサや記憶装置からなるハードウェアと、これらのハードウェアと協働して各種機能を実現させるプログラムとによって実現され、計測値データ記憶部1と、バルブID記憶部2と、診断指標算出部3と、診断指標提示部4と、判定部5と、閾値記憶部6と、判定結果提示部7とを備えている。
【0026】
このバルブメンテナンス支援装置200において、計測値データ記憶部1には、プラントで使用されているバルブ100の開度計測部21から送信されてくる開度計測値データD1および圧力計測部22から送信されてくる圧力計測値データD2が記憶される。
【0027】
すなわち、プラントで使用されているバルブ100は、そのバルブの開度θを計測する開度計測部21と、そのバルブの操作器に供給される空気圧Poを計測する圧力計測部22とを備えている。開度計測部21は、計測したバルブの開度θを開度計測値データD1としてバルブメンテナンス支援装置200へ送信し、圧力計測部22は計測した空気圧Poを圧力計測値データD2としてバルブメンテナンス支援装置200へ送信する。
【0028】
バルブメンテナンス支援装置200は、
図4にそのフローチャートを示すように、開度計測部21からの開度計測値データD1を受信すると(ステップS101のYES)、その受信した開度計測値データD1を計測値データ記憶部1に記憶させ(ステップS102)、圧力計測部22からの圧力計測値データD2を受信すると(ステップS103のYES)、その受信した圧力計測値データD2を計測値データ記憶部1に記憶させる(ステップS104)。
【0029】
図5にバルブ100の操作器を逆作動操作器とした場合の1回の上下動におけるバルブの開度θ(開度計測値データD1)および空気圧Po(圧力計測値データD2)の変化を例示し、
図6にバルブ100の操作器を正作動操作器とした場合の1回の上下動におけるバルブの開度θ(開度計測値データD1)および空気圧Po(圧力計測値データD2)の変化を例示する。
【0030】
なお、本実施の形態において、計測値データ記憶部1には、バルブ100の開度計測部21および圧力計測部22から開度計測値データD1および圧力計測値データD2が周期的に送信され、時系列データとして蓄積されて行くものとする。
【0031】
また、本実施の形態において、プラントにはベローズ弁VB(
図12)を含むバルブ100が多数設置されており、これらのバルブ100(100-1~100-N)からの開度計測値データD1(D1
1~D1
N)および圧力計測値データD2(D2
1~D2
N)が、そのバルブのIDと対応づけて計測値データ記憶部1に蓄積されて行くものとする。
【0032】
以下、
図7に示すフローチャートを参照しながら、このバルブメンテナンス支援装置200の動作について各部の機能を交えながら具体的に説明する。
【0033】
オペレータは、プラントに設置されているバルブ100-1~100-Nを計測対象とし、この計測対象のバルブ100-1~100-Nの中からメンテナンスの候補のバルブを定め、このメンテナンスの候補のバルブを登録する(ステップS201)。
【0034】
この場合、メンテナンスの候補のバルブとして登録されたバルブのID(以下、バルブIDとも呼ぶ。)が、バルブメンテナンス支援装置200のバルブID記憶部2に記憶される。
【0035】
例えば、プラント内にバルブ100が26個あるとして、これら26個のバルブ100にそれぞれ“A”,“B”,“C”,・・・,“M”,・・・,“X”,“Y”,“Z”という固有のIDが予め割り当てられているものとする。バルブA,M,Cをメンテナンスの候補のバルブと定めた場合、オペレータはバルブIDとして“A”,“M”,“C”を入力する。
【0036】
本実施の形態では、バルブA,M,Cが
図12に示されたようなベローズ弁VBであるものとし、特定の定期プラントメンテナンスにおいて最優先のメンテナンス対象として選定されるものと仮定する。以下、バルブA,M,Cをベローズ弁A,M,Cとも呼ぶ。
【0037】
図8はメンテナンス対象のプラントのバルブ配置の一例を示すイメージ図である。本実施の形態では、バルブID“A”,“M”のバルブ100-A(ベローズ弁A),100-M(ベローズ弁M)が流路ID“1”の流路11-1に配設され、バルブID“C”のバルブ100-C(ベローズ弁C)が流路ID“3”の流路11-3に配設されているものとする。
【0038】
図8における12-A,12-C,12-Mは流量計測器、13はタンク、14は圧力発信器である。なお、
図8では、バルブIDが“A”,“C”,“M”以外のバルブについては記載を省略している。
【0039】
診断指標算出部3は、診断指標の算出指示があると(ステップS202のYES)、バルブID記憶部2に記憶されているメンテナンスの候補のバルブのID“A”,“C”,“M”を読み出し(ステップS203)、この読み出したバルブID“A”,“C”,“M”と対応づけて計測値データ記憶部1に記憶されている開度計測値データD1および圧力計測値データD2を読み出す(ステップS204)。
【0040】
そして、診断指標算出部3は、計測値データ記憶部1から読み出した開度計測値データD1および圧力計測値データD2に基づいて、ベローズ弁A,C,Mの最大摩擦力(弁軸との間に生じる最大摩擦力)に関する情報をベローズ弁A,C,Mの診断指標F(FA,FC,FM)として算出する(ステップS205)。
【0041】
図9に、時間の経過に伴うベローズ弁の最大摩擦力の変化を示す。診断指標算出部3は、同一の開度における、ベローズ弁の開度を大きくして行く際に必要な操作器に供給される空気圧Poと、ベローズ弁の開度を小さくして行く際に必要な操作器に供給される空気圧Poとの圧力差を最大摩擦力に関する情報として求め、この最大摩擦力に関する情報をベローズ弁の診断指標Fとする。例えば、直前の24時間を診断対象期間とし、この診断対象期間内の最大摩擦力に関する情報を現在の最大摩擦力に関する情報として求め、この現在の最大摩擦力に関する情報をベローズ弁の診断指標Fとする。
【0042】
診断指標算出部3で算出された診断指標F(FA,FC,FM)は診断指標提示部4へ送られる。診断指標提示部4は、診断指標算出部3からの診断指標Fをメンテナンス候補のバルブ(ベローズ弁)の診断指標として、すなわちベローズの破断の疑いの有無を知らせる指標として、オペレータに提示する(ステップS206)。
【0043】
例えば、
図10に診断指標の提示領域を#1として示すように、メンテナンスの候補のバルブであるベローズ弁A,C,Mに対応づけて、すなわちメンテナンスの候補のバルブのID“A”,“C”,“M”に対応づけて、診断指標算出部3で算出された診断指標F
A,F
C,F
Mの数値をディスプレイに表示する。
【0044】
この際、
図10に診断対象部分の提示領域を#2として示すように、診断指標の提示領域#1に提示(表示)されている診断指標F
A,F
C,F
Mがベローズ弁A,C,Mに装着されているベローズの状態を対象としていることを提示(表示)するようにすれば、ベローズのメンテナンスの必要性についての知識が乏しいオペレータに対して、ベローズへの着目の必要性を定量的に示すことになるので、ベローズのチェック漏れが発生する危険性を低減することができる。
【0045】
診断指標算出部3で算出された診断指標F(FA,FC,FM)は判定部5へも送られる。閾値記憶部6には、診断指標Fに対する正常範囲の下限値が診断指標閾値Fthとして記憶されている。
【0046】
判定部5は、診断指標算出部3から診断指標Fが送られてくると、閾値記憶部6に記憶されている診断指標閾値Fthを読み出し(ステップS207)、診断指標算出部3からの診断指標Fを診断指標閾値Fthと比較する(ステップS208)。この場合、診断指標算出部3からの診断指標FA,FC,FMのそれぞれについて診断指標閾値Fthと比較する。
【0047】
ここで、判定部5は、診断指標算出部3からの診断指標Fが診断指標閾値Fth以下であった場合(ステップS208のYES)、そのバルブ(ベローズ弁)をメンテナンスが必要なバルブであると判定する(ステップS209)。例えば、診断指標FA,FC,FMの内、診断指標FMが診断指標閾値Fth以下であった場合、ベローズ弁Mをメンテナンスが必要なバルブであると判定する。判定部5は、この判定結果を判定結果提示部7へ送る。
【0048】
判定結果提示部7は、判定部5からの判定結果をオペレータに提示する(ステップS210)。例えば、メンテナンスの候補のバルブであるベローズ弁A,C,Mのうちベローズ弁Mがメンテナンスが必要なバルブと判定された場合、
図10に示された診断指標の提示領域#1において、ベローズに破断が生じている疑いがあるバルブとして、ベローズ弁MのバルブIDおよび診断指標F
Mを赤色で表示する。この場合、ベローズ弁A,CのバルブIDおよび診断指標F
A,F
Cについては、黒色で表示される。この際、診断指標の提示領域#1に、判定の際に用いた診断指標閾値Fthを表示するようにしてもよい。
【0049】
なお、この実施の形態では、メンテナンスの候補のバルブ(ベローズ弁A,C,M)の診断指標やメンテナンスが必要なバルブであるか否かの判定結果をディスプレイに表示するようにしたが、プリンタなどで打ち出してもよく、音声で知らせるようにしたりしてもよい。
【0050】
また、この実施の形態では、診断指標算出部3において、メンテナンスの候補のバルブ(ベローズ弁A,C,M)についてのみ診断指標Fを算出するようにしたが、計測対象のバルブの全て(バルブA~Z)について診断指標Fを算出するようにしてもよい。
【0051】
この場合、診断指標提示部4において、計測対象の全てのバルブのバルブIDと診断指標Fとを対応づけて、例えば、メンテナンスの候補のバルブについては青色で、メンテナンスの候補でないバルブについては黒色で、メンテナンスが必要と判定されたバルブについては赤色でというように、それぞれを区別して表示させるようにする。
【0052】
また、診断指標閾値Fthは、どの程度の破断を問題にするかに依存し、ベローズの破断により生じる危険度とメンテナンスコストとのトレードオフなどに応じて適宜決定すればよい。また、破断が生じていないと想定される摺動距離累積値が小さいとき(初期状態)の摩擦力に基づいて、診断指標閾値Fthを決定してもよい。
【0053】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の実施の形態2に係るバルブメンテナンス支援装置について説明する。実施の形態2は、実施の形態1の実装例を説明するものである。
図11はプラントとその機器管理システムの構成を示す図であり、
図8と同一の構成には同一の符号を付してある。
【0054】
石油、化学系のプラントには、そのプラントの各機器を制御・管理する機器管理システム8が設けられている。実施の形態1で説明した計測値データ記憶部1,バルブID記憶部2、診断指標算出部3、判定部5、閾値記憶部6については、プラント固有の膨大な情報を扱うので、機器管理システム8側に実装されることが好ましい。
【0055】
一方、診断指標提示部4、判定結果提示部7については、原則的にバルブのメンテナンス判断時に特に必要な処理を提供するものである。また、メンテナンス実施者(メンテナンス受託企業の作業担当者)は、プラントオーナ企業から委託されてプラントのメンテナンスを実施するのが一般的である。したがって、不特定多数のプラントを対象にすることを想定して、メンテナンス受託企業の作業担当者(オペレータ)が持ち歩く携帯型のコンピュータ9に、診断指標提示部4と判定結果提示部7とを実装することが好ましい。
【0056】
コンピュータ9は、CPU(Central Processing Unit)とメモリとインタフェースとを備えている。プラントの機器管理システム8とコンピュータ9とは、メンテナンス作業実施時にイーサネット(登録商標)などの通信機能を利用して一時的に接続される。
【0057】
オペレータがコンピュータ9上のアプリケーションソフトウエアを起動すると、コンピュータ9のCPUは、メモリに格納されたプログラムに従って処理を実行し、機器管理システム8に診断指標の算出指示を送り、機器管理システム8に登録されているメンテナンスの候補のバルブ(ベローズ弁)について、その診断指標の算出およびメンテナンスが必要か否かの判定を行わせる。この機器管理システム8で算出されたメンテナンスの候補のバルブ(ベローズ弁)の診断指標およびメンテナンスが必要か否かの判定結果はコンピュータ9のディスプレイに表示される。
【0058】
なお、この例では、機器管理システム8に既にメンテナンスの候補のバルブ(ベローズ弁)が登録されているものとしているが、このメンテナンスの候補のバルブ(ベローズ弁)の登録や変更はコンピュータ9よりオペレータが行うことも可能である。
【0059】
オペレータは、コンピュータ9のディスプレイに表示されたメンテナンスの候補のバルブ(ベローズ弁)の診断指標およびメンテナンスが必要か否かの判定結果に基づき、特にベローズの点検に留意すべきバルブ(ベローズ弁)を確認する。確認したら、オペレータは、コンピュータ9と機器管理システム8との接続を解除する。
【0060】
このようにして、実施の形態1で説明したバルブメンテナンス支援装置200を実際のプラントに適用することができる。
【0061】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0062】
1…計測値データ記憶部、2…バルブID記憶部、3…診断指標算出部、4…診断指標提示部、5…判定部、6…閾値記憶部、7…判定結果提示部、21…開度計測部、22…圧力計測部、100(100-1~100-N)…バルブ、101…バルブ本体、102…ポジショナ、103…操作器、104…弁軸、105…弁体、108…ベローズ、VB…ベローズ弁、200…バルブメンテナンス支援装置。