(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】流体温度調節装置、その使用方法及び体温調節システム
(51)【国際特許分類】
F25B 49/02 20060101AFI20220128BHJP
F25B 31/02 20060101ALI20220128BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20220128BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20220128BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20220128BHJP
A61F 7/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
F25B49/02 Z
F25B31/02 Z
F25B1/00 399Y
A41D13/005
A41D13/00 102
A61F7/00 310Z
(21)【出願番号】P 2017241743
(22)【出願日】2017-12-18
【審査請求日】2020-11-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591240984
【氏名又は名称】株式会社鎌倉製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】堀江 威史
(72)【発明者】
【氏名】田畑 大輔
【審査官】飯星 潤耶
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127651(JP,A)
【文献】特開平07-208357(JP,A)
【文献】特開2013-100778(JP,A)
【文献】特開平08-216674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00-49/04
F25D 1/00-31/00
F24F 1/00-13/32
A41D 1/00-31/32
A61B 1/00-90/98
A61F 2/00-17/00
F04B 1/00-53/22
F04C 2/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体温調節服の内部を循環する流体の温度を調節する流体温度調節装置であって、
冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機と前記流体を冷却又は加熱する熱交換器とを有する冷熱回路と、前記熱交換器で冷却又は加熱された流体を前記体温調節服へ送出する流体回路とを含む回路ユニットと、
前記回路ユニットを収容する筐体であって、前面部と、前記前面部と対向する後面部と、前記圧縮機が設置される底面部と、前記圧縮機と前記底面部との間に設けられ、前記圧縮機を前記前面部から前記後面部に向かう方向へ鉛直方向に対して所定角度傾斜させる台座部とを有する筐体と、
前記前面部を前記体温調節服の着用者の背面に向けて前記筐体を着用者に固定する固定具と
を具備する流体温度調節装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体温度調節装置であって、
前記所定角度は、5°以上35°以下である
流体温度調節装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の流体温度調節装置であって、
前記所定角度は、着用者が直立姿勢のときに、前記圧縮機がその鉛直方向に対する傾斜許容範囲を満たす角度である
流体温度調節装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の流体温度調節装置であって、
前記回路ユニットは、前記筐体に取り付けられた傾斜センサと、前記傾斜センサの出力に基づいて前記圧縮機の駆動を制御する制御部とをさらに有し、
前記制御部は、前記傾斜センサの出力に基づいて前記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜角度を判定し、前記傾斜角度が前記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜許容範囲を超えた場合は、前記圧縮機の駆動を停止させる処理を実行する
流体温度調節装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の流体温度調節装置であって、
前記固定具は、前記筐体を着用者の腰部に固定するベルトを含む
流体温度調節装置。
【請求項6】
体温調節服の着用者に取り付けられ、冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機
と流体を冷却又は加熱する熱交換器とを有する冷熱回路と、前記熱交換器で冷却又は加熱された
前記流体を前記体温調節服へ送出する流体回路とを有する回路ユニットが筐体に収容された流体温度調節装置の使用方法であって、
前記筐体の前面部を前記着用者の背面に向けて前記流体温度調節装置を
前記着用者の背面に取り付け
た状態で取得した、
前記着用者が所定の作業姿勢である前傾姿勢をとったときの、前記着用者の前後方向における前記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜角度に関する統計値
に基づいて、
前記流体温度調節装置が前記着用者の背面に取り付けられた状態で前記傾斜角度が前記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜許容範囲内となるように、
前記流体温度調節装置が前記着用者の背面に取り付けられていない状態で、前記圧縮機を鉛直方向に対して
前記筐体の前面部から後面部に向かう方向へ傾斜させる
流体温度調節装置の使用方法。
【請求項7】
着用者の体温を調節することが可能な体温調節服と、
前記体温調節服の内部を循環する流体の温度を調節する流体温度調節装置と
を具備し、
前記流体温度調節装置は、
冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機と前記流体を冷却又は加熱する熱交換器とを有する冷熱回路と、前記熱交換器で冷却又は加熱された流体を前記体温調節服へ送出する流体回路とを含む回路ユニットと、
前記回路ユニットを収容する筐体であって、前面部と、前記前面部と対向する後面部と、前記圧縮機が設置される底面部と、前記圧縮機と前記底面部との間に設けられ、前記圧縮機を前記前面部から前記後面部に向かう方向へ鉛直方向に対して所定角度傾斜させる台座部とを有する筐体と、
前記前面部を前記体温調節服の着用者の背面に向けて前記筐体を着用者に固定する固定具と、を有する
体温調節システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体温調節服の内部を循環する流体の温度を調節する流体温度調節装置、その使用方法及び体温調節システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高温あるいは低温の作業環境にある屋内や、夏季あるいは冬季における屋外での作業での快適性を高めるため、冷却または加熱された流体を作業者の身体近傍に流通させることによって作業者の体温調節を行う体温調節服の開発が進められている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
体温調節服の内部を循環する流体の温度は、体温調節服に接続される流体温度調節装置によって調節される。流体温度調節装置は、典型的には、冷媒が循環する冷熱回路と、冷熱回路の熱交換器で冷却または加熱された流体を体温調節服に送出する流体回路とを有する。流体温度調節装置は、典型的には、体温調節服の着用者(作業者)の近傍に設置されるが、体温調節服と流体温度調節装置との間の流体の接続配管が作業性を阻害し、あるいは、接続配管の長さによって作業者の行動範囲が制限されるという点で難がある。一方、流体温度調節装置を作業者の背中や腰に取り付けることで、作業性の向上及び行動範囲の拡大を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体温度調節装置が作業者に取り付け可能に構成される場合、作業者の姿勢によって流体温度調節装置の姿勢も変化しやすくなる。例えば、作業者が前傾姿勢で作業する場合、直立姿勢から前傾姿勢への変化によって流体温度調節装置の鉛直方向に対する傾きが前後方向に変動する。ところが、冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機が冷熱回路の一部を構成する場合、流体温度調節装置の傾きの変動によって、潤滑油の液面が傾斜し、その傾斜角度によっては潤滑不良による圧縮機の故障を誘発し、目的とする体温調節機能を維持できなくなるおそれがある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、作業者の姿勢変化による影響を抑えて、安定した体温調節機能を確保することができる流体温度調節装置、その使用方法及び体温調節システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る流体温度調節装置は、体温調節服の内部を循環する流体の温度を調節する流体温度調節装置であって、回路ユニットと、筐体と、固定具とを具備する。
上記回路ユニットは、冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機と上記流体を冷却又は加熱する熱交換器とを有する冷熱回路と、上記熱交換器で冷却又は加熱された流体を上記体温調節服へ送出する流体回路とを含む。
上記筐体は、上記回路ユニットを収容する。上記筐体は、前面部と、上記前面部と対向する後面部と、上記圧縮機が設置される底面部と、上記圧縮機と上記底面部との間に設けられ、上記圧縮機を上記前面部から上記後面部に向かう方向へ鉛直方向に対して所定角度傾斜させる台座部とを有する。
上記固定具は、上記前面部を上記体温調節服の着用者の背面に向けて上記筐体を着用者に固定する。
【0008】
上記流体温度調節装置において、圧縮機を支持する筐体は、鉛直方向に対して圧縮機を後面部側へあらかじめ所定角度傾斜させる台座部を有するため、体温調節服の着用者が前傾姿勢をとったときの圧縮機の前面部側への傾きを抑えることができる。これにより、圧縮機の過度な前方傾斜による潤滑不良の発生を回避して、安定した流体温度の調節機能および体温調節機能を確保することができる。
【0009】
上記所定角度は、特に限定されず、着用者の作業姿勢における鉛直方向に対する前傾角度等によって適宜設定される。
例えば、上記所定角度は、5°以上35°以下である。これにより、作業者が作業姿勢だけでなく、直立姿勢のときにも安定した流体温度の調節機能および体温調節機能を確保することができる。
【0010】
上記所定角度は、着用者が直立姿勢のときに、上記圧縮機がその鉛直方向に対する傾斜許容範囲を満たす角度であってもよい。これにより、着用者が直立姿勢の場合にも、安定した流体温度の調節機能および体温調節機能を確保することができる。
【0011】
上記回路ユニットは、上記筐体に取り付けられる傾斜センサと、上記傾斜センサの出力に基づいて上記圧縮機の駆動を制御する制御部とをさらに有してもよい。
上記制御部は、上記傾斜センサの出力に基づいて上記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜角を判定し、上記傾斜角が上記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜許容範囲を超えた場合は、上記圧縮機の駆動を停止させる処理を実行する。
これにより、圧縮機がその傾斜許容範囲を逸脱したとしても、潤滑不良による圧縮機の故障を回避することができる。
【0012】
上記固定具は、上記筐体を着用者の腰部に固定するベルトを含んでもよい。
これにより、着用者への取り付け時における圧縮機の傾斜を抑えることができるため、例えば筐体が着用者の背中に取り付けられる場合と比較して、直立姿勢と前傾姿勢との間における圧縮機の傾斜角度範囲を狭くすることができる。
【0013】
本発明の一形態に係る流体温度調節装置の使用方法は、体温調節服の着用者に取り付けられ、冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機と上記流体を冷却又は加熱する熱交換器とを有する冷熱回路と、上記熱交換器で冷却又は加熱された流体を上記体温調節服へ送出する流体回路とを有する回路ユニットが筐体に収容された流体温度調節装置の使用方法であって、着用者の背面に上記流体温度調節装置が取り付けられることを含む。
着用者の背面に上記流体温度調節装置を取り付け、
着用者が所定の作業姿勢である前傾姿勢をとったとき
の、上記着用者の前後方向における上記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜角に関する統計値を取得し、
上記統計値に基づいて、上記傾斜角が上記圧縮機の鉛直方向に対する傾斜許容範囲内となるように、上記圧縮機を鉛直方向に対して傾斜させる。
【0014】
本発明の一形態に係る体温調節システムは、着用者の体温を調節することが可能な体温調節服と、上記体温調節服の内部を循環する流体の温度を調節する流体温度調節装置とを具備する。
上記流体温度調節装置は、回路ユニットと、筐体と、固定具とを有する。
上記回路ユニットは、冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機と上記流体を冷却又は加熱する熱交換器とを有する冷熱回路と、上記熱交換器で冷却又は加熱された流体を上記体温調節服へ送出する流体回路とを含む。
上記筐体は、上記回路ユニットを収容する。上記筐体は、前面部と、上記前面部と対向する後面部と、上記圧縮機が設置される底面部と、上記圧縮機と上記底面部との間に設けられ、上記圧縮機を上記前面部から上記後面部に向かう方向へ鉛直方向に対して所定角度傾斜させる台座部とを有する。
上記固定具は、上記前面部を上記体温調節服の着用者の背面に向けて上記筐体を着用者に固定する。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、作業者の姿勢変化による影響を抑えて、安定した体温調節機能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る体温調節システムの使用例を示す作業者の側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る流体温度調節装置の要部の概略側断面図である。
【
図4】直立姿勢及び作業姿勢にあるときの上記流体温度調節装置の傾斜状態を示す概略側面図である。
【
図5】上記流体温度調節装置における筐体の前後方向の傾斜角度と頻度との関係を示す統計値(度数分布)である。
【
図6】上記筐体の左右方向の傾斜角度と頻度との関係を示す統計値(度数分布)である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る体温調節システムの使用例を示す作業者の側面図である。
【
図8】上記体温調節システムにおける流体温度調節装置の傾斜状態を示す概略側面図である。
【
図9】上記流体温度調節装置における筐体の前後方向の傾斜角度と頻度との関係を示す統計値(度数分布)である。
【
図10】上記流体温度調節装置における筐体の左右方向の傾斜角度と頻度との関係を示す統計値(度数分布)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る体温調節システム1の使用例を示す作業者の側面図、
図2は、体温調節システム1の概略構成図である。
【0019】
[体温調節システム]
本実施形態の体温調節システム1は、体温調節服100と、流体温度調節装置200とを備える。
体温調節服100は、作業者Uが着用可能な適宜の形態の衣服であって、作業者Uの体温を調節(冷却又は加温)することが可能な流体(本例では、水)の循環通路を有する。
流体温度調節装置200は、体温調節服100の内部を循環する流体の温度を調節する冷熱回路を内蔵する。作業者Uは特に限定されず、典型的には、溶接現場や土木現場等の作業従事者が該当する。
【0020】
本実施形態の体温調節システム1においては、流体温度調節装置200が作業者Uの背後に取り付けられることで、体温調節服100を着用する作業者Uと一体的に移動可能に構成される。
【0021】
[体温調節服]
図2に示すように、体温調節服100は、本体部10と、本体部10の内部に形成された循環通路15とを有する。
【0022】
本体部10は、着用者である作業者Uの体型に合わせて構成された胴部11、袖部12及び襟部13を有する。胴部11は、前身頃と後身頃とを有し、典型的には、右前身頃と左前身頃との合わせ目に閉止手段としてのスライドファスナを備える。本体部10は、例えば、変形可能な複数の樹脂シートを適宜の位置で溶着した積層体、あるいは、これら樹脂シートと断熱シートとの積層体等で構成される。
【0023】
本体部10は、循環通路15に接続される入水口151及び排水口152を有する。入水口151及び排水口152は、典型的には、胴部11の適宜の位置に設けられる。
【0024】
循環通路15は、胴部11、袖部12及び襟部13の各部位に流体を循環させることが可能に構成される。循環通路15は、典型的には、本体部10を構成する2枚の樹脂シートの間の非溶着部で形成され、入水口151から入水した冷却水(又は加温水)を本体部10の各部位に巡回させてから排水口152へ導くことが可能な任意の流路パターンを有する。循環通路15は、入水口151と排水口152との間を結ぶ1本の流路で形成される場合に限られず、適宜の位置に形成された分流路や合流路等を含んでいてもよい。
【0025】
循環通路15は、入水口151及び排水口152にそれぞれ接続された接続配管16及びカプラ17(171,172)を介して流体温度調節装置200の流体回路22へ液的に接続される。
【0026】
[流体温度調節装置]
続いて、流体温度調節装置200の詳細について説明する。
【0027】
流体温度調節装置200は、回路ユニット20と、回路ユニット20を収容する筐体30と、筐体30を作業者Uの腰部に固定する固定ベルト40(固定具)とを有する。
【0028】
回路ユニット20は、冷熱回路21と、流体回路22と、回路ユニット20を制御する制御部23と、傾斜センサ24とを有する。
【0029】
冷熱回路21は、冷媒を作動流体として用いる冷凍サイクル回路で構成され、圧縮機211と、凝縮器212と、キャビラリーチューブ213と、蒸発器214とを有する。以下、蒸発器214を熱交換器として流体回路22内の流体(水)を所定温度に冷却する場合について説明する。
なお、蒸発器214を凝縮器として機能させるとともに、凝縮器212を蒸発器として機能させるようにすれば、流体回路22内の流体を所定温度に加熱することができる。
【0030】
圧縮機211は、冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機で構成される。潤滑油は、圧縮機211の底部に貯留され、蒸発器214から供給される気体冷媒を圧縮させる動作と連動して、貯留場所から必要量が汲み上げられて圧縮機211内部の摺動部を潤滑する。
凝縮器212は、圧縮機211から吐出された高温高圧の冷媒ガスを凝縮して液化させる。凝縮器212には必要に応じて凝縮効率を促進させるファン215が付設される。凝縮器212で凝縮された冷媒は、キャピラリーチューブ213で断熱膨張し、蒸発器214で蒸発(気化)する。キャピラリーチューブ213に代えて、電子膨張弁等が採用されてもよい。
【0031】
流体回路22は、体温調節服100の排水口152にカプラ172を介して着脱可能に接続される吸水配管221と、体温調節服100の入水口151にカプラ171を介して着脱可能に接続される送水配管222とを有する。
【0032】
流体回路22はさらに、吸水配管221を介して導入された流体(以下、冷却水ともいう)を貯留するタンク223と、タンク223内の冷却水を蒸発器214へ向けて吐出するポンプ224とを有する。ポンプ224から吐出された冷却水は、蒸発器214において、冷媒の蒸発潜熱に相当する熱量を奪われることで冷却される。蒸発器214において所定温度に冷却された冷却水は、送水配管222を介して体温調節服100の入水口151へ送出される。
【0033】
制御部23は、典型的には、CPU(Central Processing Unit)やメモリを有するコンピュータで構成される。制御部23は、圧縮機211、ファン215、ポンプ224等の駆動を制御する。制御部23は、傾斜センサ24の出力に基づいて、圧縮機211の鉛直方向に対する傾斜角を算出するとともに、算出した傾斜角に基づいて圧縮機211の運転を制御することが可能に構成される。
【0034】
傾斜センサ24は、筐体30の適宜の位置に取り付けられ、鉛直方向に対する筐体30の前後方向における傾斜角度を検出することが可能に構成される。傾斜センサ24は、鉛直方向に対する筐体30の左右方向における傾斜角度も検出することが可能に構成されてもよい。傾斜センサ24は、加速度センサ、重力センサ、静電センサ等の適宜のセンサが採用可能である。傾斜センサ24は、筐体30に直接取り付けられる場合に限られず、筐体30に設置される圧縮機211に取り付けられてもよい。
【0035】
筐体30は、前面部31、後面部32、底面部33、天面部34及び両側面部等を有する概略直方体形状に形成される。筐体30は、典型的には金属材料で構成されるが、合成樹脂材料、金属材料と合成樹脂材料との複合体等で構成されてもよい。
【0036】
前面部31には、固定ベルト40が取り付けられる。固定ベルト40は、筐体30を作業者Uの腰部背面に取り付けるためのもので、締付け力を調整可能なバックルを有する。前面部31に対する固定ベルト40の固定位置は特に限定されず、本実施形態では、底面部33よりの前面部31下方位置に固定ベルト40が固定される。これにより、作業者Uの姿勢変化に伴う筐体30及び圧縮機211の鉛直方向に対する傾斜角の変動を抑えることができる(
図4A,B参照)。
【0037】
前面部31には腰当て部材36(
図1参照)がさらに設置されてもよい。腰当て部材36は、例えばクッション性を有するのが好ましい。これにより、筐体30と作業者Uの背面との間の隙間をなくしてフィット性を高めることができる。
【0038】
筐体30は後面部32には、図示せずとも、入力操作部、表示部等が設けられる。入力操作部は、電源スイッチ、温度設定部等の操作キーを含む。表示部は、入力操作部の入力状態を表示する液晶ディスプレイ等の適宜の表示素子で構成される。表示部の表示制御は、例えば、制御部23において実行される。
なお、入力操作部及び表示部は、後面部32に設置される例に限られず、筐体30の天面部34や側面部に設置されてもよい。あるいは、図示しないリモートコントローラを介して入力操作を行うことが可能に構成されてもよい。
【0039】
流体温度調節装置200は、回路ユニット20へ電源を供給する電源ケーブル37をさらに備える。電源ケーブル37は、筐体30の例えば側面部から外部へ延出される。電源ケーブル37は交流を直流に変換するアダプタ38を有する。
【0040】
流体温度調節装置200は、電源ケーブル37に代えて又はこれに加えて、充電可能なバッテリユニットを備えていてもよい。これにより、外部電源を必要とすることなく体温調節システム1を稼働させることができるとともに、作業者Uの行動範囲が広がり、移動の自由度が高められる。
【0041】
(圧縮機の設置構造)
筐体30の内部空間は、回路ユニット20の収納空間として構成される。筐体30内部における回路ユニット20の配置レイアウトは特に限定されず、適宜設定可能である。典型的には、冷熱回路21の圧縮機211は、筐体30の底面部33に設置される。
【0042】
図3は、筐体30と圧縮機211との関係を示す流体温度調節装置200の要部概略側断面図である。
【0043】
図3に示すように、筐体30は、底面部33と圧縮機211との間に設けられた台座部35を有する。台座部35は、圧縮機211を前面部31から後面部32に向かう方向へ鉛直方向(上下方向)に対して所定角度α1だけ傾斜させる支持面351を有する。つまり、支持面351は、水平面に対して所定角度α1だけ後面部32に向かって下向きに傾斜する傾斜面で構成される。
【0044】
底面部33は、典型的には、平面で構成される。このため、筐体30を床面あるいはテーブル面に載置したとき、筐体30の内部において、圧縮機211の高さ方向に沿った軸心Pは、
図3に示すように、鉛直線Vから後面部32側へ所定角度α1だけ傾斜して台座部35の支持面351に固定される。
なお、傾斜センサ24は、筐体30が床面等に載置されたときの検出角度が0度となるように校正される。制御部23は、傾斜センサ24の出力に基づく圧縮機211の鉛直線Vに対する傾斜方向及び傾斜角を算出する。
【0045】
図4A,Bは、作業者Uの直立姿勢及び前屈みで所定の作業をするときの姿勢(以下、作業姿勢あるいは前傾姿勢という)にあるときの筐体30及びその内部に設置された圧縮機211の傾斜状態をそれぞれ示している。
【0046】
図4A,Bに示すように、作業者Uが直立姿勢のときと作業姿勢のときとで、鉛直線Vに対する圧縮機211の傾斜方向及び角度が変化する。図示の例では、作業者Uが直立姿勢のときは、圧縮機211は鉛直線Vに対して後方側へ角度θ1だけ傾斜し、作業者Uが作業姿勢のときは、圧縮機211は鉛直線Vに対して前方側へ角度θ2だけ傾斜する。
【0047】
一方、冷媒系統内に潤滑油を保有する圧縮機211には、一般的に、鉛直方向(鉛直線V)に対する傾斜許容範囲が設定される。傾斜許容範囲は、圧縮機211の種類や仕様に応じて異なるものの、典型的には、圧縮機211の底部に貯留される潤滑油の液面Fs(
図3参照)の傾斜許容範囲で決定される。つまり、潤滑油の液面Fsが所定以上傾斜すると、軸受等の摺動部やモータ等を含む内部機構部への潤滑油の吸い上げが困難となり、その結果、内部機構部の潤滑不良を生じさせて圧縮機の故障を誘発する。
【0048】
本実施形態では、圧縮機211が台座部35によって、鉛直線Vに対して所定角度α1だけ予め後面部32側へ傾けた状態で筐体30に設置されるため、作業者Uが前傾姿勢をとったときの圧縮機211の前方への傾斜角度が、所定角度α1だけ小さく抑えられる。その結果、圧縮機211が傾斜許容範囲を逸脱する頻度が抑えられるため、作業姿勢にあるときも圧縮機211を安定に駆動させることが可能となり、体温調節服100を循環する流体(冷却水)の温度を安定に維持して適切な体温調節機能を確保することができる。これにより、作業者Uの姿勢変化による影響を抑えて、安定した体温調節機能を確保することができる
【0049】
所定角度α1は、作業者Uの直立姿勢と作業姿勢との双方の状態において、圧縮機211の傾斜許容範囲を満たす角度に設定されるのが好ましい。これにより、作業姿勢だけでなく、歩行時等の直立姿勢のときにも適切な体温調節機能を確保することができる。
【0050】
図5は、筐体30を作業者Uの腰部背面に装着して、その前後方向における傾斜角度を取得したときの統計値(度数分布)である。
図5において、S1は0°を示す。ピークP1は、作業者Uの直立姿勢(
図4A)に相当し、ピークP2は、作業者Uの作業姿勢(
図4B)に相当する。圧縮機211の傾斜許容範囲RAを±30°(後反り側へ30°、前屈み側へ30°)とすると、傾斜許容範囲RAのセンター値Cを度数分布上のいずれの角度位置に設定するかで、当該作業者Uに適した圧縮機211の初期傾斜角度(所定角度α1)が定まる。
【0051】
本実施形態では、圧縮機211の傾斜許容範囲RAのセンター値Cが、得られた度数分布のうち最も頻度が高い角度位置に設定される。この場合、ピークP1の角度とセンター値Cとの差分に相当する角度θc(
図5の例では、約5°)が、所定角度α1として設定される。これにより、作業者Uの体型や動きのパターンに適合した所定角度α1の最適化を図ることが可能となるとともに、圧縮機211が本来有する潤滑機能を確保し、圧縮機211の安定した継続運転を極力維持した状態で流体温度調節装置200を使用することができる。
【0052】
所定角度α1の決定方法は上述の例に限られず、例えば、角度θcを基準として前屈み方向あるいは後反り方向へ所定量シフトした任意の角度(θc±β)であってもよいし、2つのピークP1及びP2間の中間の角度((P1+P2)/2)であってもよい。
【0053】
上述のように所定角度α1を実際に作業現場で取得された筐体30の傾斜角度の統計値に基づいて決定することで、圧縮機211の傾斜許容範囲RAから逸脱する頻度をより抑えることが可能な筐体30への圧縮機211の取付姿勢を設定することができる。
【0054】
台座部35は、底面部33と一体的に形成されてもよいが、底面部33とは別部材で構成されてもよい。この場合、支持面351の傾斜角(α1)が
異なる複数の台座部35が用意されてもよい。これにより、作業者Uへの筐体30の取り付け位置や作業姿勢等に応じて、最適な傾斜角(α1)を有する台座部35を選択することができる。あるいは、支持面351の傾斜角(α1)を任意の角度に調整することが可能な角度調整機構を有する台座部が採用されてもよい。これにより、装着対象である作業者の個人差に応じて最適な傾斜角(α1)が設定可能となる。
【0055】
なお
図6は、圧縮機211の左右方向における傾斜角度を取得したときの
図5と同様な統計値(度数分布)である。同図から、直立姿勢と作業姿勢(前傾姿勢)とで圧縮機211の左右方向への傾斜に差異が生じにくく、また、作業者Uが左右方向へ傾いた状態で作業する頻度が少ないこともあるため、左右方向における圧縮機211の傾斜角度範囲は、
図5に示した前後方向におけるそれよりも小さいことがわかる。このため、
図5を基に決定した初期傾斜角度(所定角度α1)によって、左右方向においても安定した圧縮機211の運転を実現可能であることが推定される。
【0056】
(圧縮機の運転方法)
一方、傾斜許容範囲RA内で圧縮機211が傾斜する場合であっても、潤滑不足からの圧縮機211の保護の実効を図る上では、筐体30の傾斜角度に応じて圧縮機211の運転条件を変更することが好ましい。
【0057】
本実施形態において、制御部23は、傾斜センサ24の出力に基づき、作業者Uの動きに応じて変化する圧縮機211の鉛直線Vに対する前後方向への傾斜角度θを算出する。
【0058】
図5に示したように、圧縮機211が傾斜許容範囲を逸脱する頻度は皆無ではない。このため、制御部23は、傾斜センサ24の出力に基づいて圧縮機211の傾斜角度θを判定し、傾斜角度θが圧縮機211の傾斜許容範囲RAを超えたときは、圧縮機211の駆動を停止させる処理を実行する。これにより、傾斜許容範囲RAを超える場合であっても圧縮機211を潤滑不良による故障から保護することができる。
また、傾斜角度θが傾斜許容範囲RAを超えたときに警報を鳴らし、その状態が例えば60秒以上継続したときに圧縮機211を停止させてもよい。また、警報中に圧縮機211の回転数を減少させてもよい。
【0059】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態に係る体温調節システム2の使用例を示す作業者の側面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0060】
本実施形態の体温調節システム2は、流体温度調節装置200が作業者Uの背中に取り付け可能に構成されている点で、第1の実施形態と異なる。
【0061】
本実施形態において、流体温度調節装置200の固定具は、作業者Uの両肩に架け渡される一対のストラップ41を含む。ストラップ41の両端は、流体温度調節装置200の筐体30の前面部31の上下の端部付近にそれぞれ固定される。前面部31には、クッション性を有する背当て部材39(
図8A,B参照)が設けられてもよい。
【0062】
図8A,Bは、作業者Uの直立姿勢及び前屈みで所定の作業をするときの姿勢(以下、作業姿勢あるいは前傾姿勢という)にあるときの筐体30及びその内部に設置された圧縮機211の傾斜状態をそれぞれ示している。
【0063】
図8A,Bに示すように、作業者Uが直立姿勢のときと作業姿勢のときとで、鉛直線Vに対する圧縮機211の傾斜方向及び角度が変化する。図示の例では、作業者Uが直立姿勢のときは、圧縮機211は鉛直線Vに対して後方側へ角度θ3だけ傾斜し、作業者Uが作業姿勢のときは、圧縮機211は鉛直線Vに対して前方側へ角度θ4だけ傾斜する。
【0064】
本実施形態では、第1の実施形態と比較して、直立姿勢および作業姿勢のいずれについても圧縮機211の傾斜角が大きい。これは、作業者Uに対する筐体30の取り付け方法の違いによるもので、腰部に筐体30を設置する場合と比較して、作業者Uの背中に筐体30を設置する場合の方が筐体30の後方側への傾斜が大きい。本実施形態においても、直立姿勢および作業姿勢において圧縮機211の傾斜角度が傾斜許容範囲となる圧縮機211の初期傾斜角度が統計値に基づいて決定される。
【0065】
図9は、筐体30を作業者Uの背中に装着して、その前後方向における傾斜角度を取得したときの統計値(度数分布)である。
図10は、圧縮機211の左右方向における傾斜角度を取得したときの
図9と同様な統計値(度数分布)である。
【0066】
図9において、S2は0°を示す。ピークP3は、作業者Uの直立姿勢(
図8A)に相当し、ピークP4は、作業者Uの作業姿勢(
図8B)に相当する。圧縮機211の傾斜許容範囲RAを±30°(後反り側へ30°、前屈み側へ30°)とすると、傾斜許容範囲RAのセンター値Cを度数分布上のいずれの角度位置に設定するかで、当該作業者Uに適した圧縮機211の初期傾斜角度(所定角度α2)が定まる。
【0067】
本実施形態では、ピークP3とピークP4との角度差が傾斜許容範囲RAを超える。このため、傾斜許容範囲RAのセンター値Cの決定位置が問題となる。本実施形態では、
図9に示すように、ピークP4が傾斜許容範囲RAに入るように、センター値Cが設定される。このときの圧縮機211の筐体30に対する初期傾斜角度(α2)は、ピークP3の角度とセンター値Cとの差分に相当する角度θc(
図9の例では、約35°)である。
【0068】
本実施形態によれば、少なくとも作業者Uが作業姿勢(前傾姿勢)をとっている間は圧縮機211の潤滑不良を極力回避しつつ所望とする体温調節機能を確保することが可能となる。一方、作業者Uが直立姿勢をとったとき、圧縮機211の傾斜角度はその傾斜許容範囲を逸脱するため、制御部23により圧縮機211の駆動停止制御を実行することが好ましい。これにより、圧縮機211の潤滑不足による劣化、損傷を回避することができる。
【0069】
なお上記の例に限られず、圧縮機211の初期傾斜角度(α2)は、作業者Uの直立姿勢時に相当するピークP3が傾斜許容範囲RAに入るように、センター値Cが設定されてもよい。この場合、直立姿勢をとる時間が作業姿勢をとる時間よりも長い場合等において特に有利となる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0071】
例えば以上の第1の実施形態では、流体温度調節装置200の筐体30が固定ベルト40を介して作業者Uの腰部に取り付け可能に構成されたが、固定具として、第2の実施形態で説明したストラップ41あるいはこれに準ずる補助部材が併用されてもよい。これにより、腰部に取り付けられた筐体30の後方側への意図しない傾斜を規制して、圧縮機211が傾斜許容範囲を逸脱することを防止することができる。
【0072】
また、以上の第2の実施形態において、作業者Uの直立姿勢時における筐体30の後方側への傾きを低減できるように背当て部39の形状を例えば断面三角形状等へ変更することも可能である。これにより、
図9に示したピークP3の角度位置をピークP4の角度位置へ接近させることができるため、ピークP3及びP4をいずれも圧縮機211の傾斜許容範囲におさめることが可能となる。
【0073】
さらに以上の各実施形態では、体温調節服100の循環通路15を流れる流体が水である場合を例に挙げて説明したが、これに限られず、水以外、例えば不凍液などの他の水溶液あるいは非水系溶液であってもよい。
【0074】
さらに以上の各実施形態では、筐体10に対する圧縮機211の傾斜角(α1、α2)は固定としたが、傾斜センサ24の出力に基づいて制御部23により圧縮機211の傾斜角を動的に変化させることが可能に台座部35を構成してもよい。これにより、圧縮機211を常時傾斜許容範囲に維持して安定した流体温度調節機能を確保することができる。
【符号の説明】
【0075】
1,2…体温調節システム
15…循環通路
20…回路ユニット
21…冷熱回路
22…流体回路
23…制御部
24…傾斜センサ
30…筐体
31…前面部
32…後面部
33…底面部
35…台座部
40…固定ベルト(固定具)
41…ストラップ(固定具)
100…体温調節服
200…流体温度調節装置
211…圧縮機
212…凝縮器
213…蒸発器(熱交換器)
U…作業者