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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ダサチニブを有効成分とする医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20220112BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220112BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20220112BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K47/14
A61K9/28
A61P35/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017250407
(22)【出願日】2017-12-27
(65)【公開番号】P2019116435
(43)【公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 崇則
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105055327(CN,A)
【文献】国際公開第2017/134615(WO,A1)
【文献】特表2008-540440(JP,A)
【文献】特表2010-502591(JP,A)
【文献】特表2016-540003(JP,A)
【文献】特開2017-101021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダサチニブを有効成分とする医薬組成物であって、クエン酸トリエチルを含む医薬組成物。
【請求項2】
クエン酸トリエチルがコーティング剤として含まれる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の医薬組成物が成型された医薬錠剤であって、クエン酸トリエチルがコーティング剤に含まれているダサチニブを有効成分とする医薬錠剤。
【請求項4】
ダサチニブを有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、ダサチニブ、並びに賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤を含む混合物を圧縮成型して得られる錠剤に、クエン酸トリエチルを含むコーティング剤でコーティングする工程を含む医薬錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダサチニブを有効成分とする医薬組成物及びそれを用いた医薬錠剤、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダサチニブは、化学名をN-(2-クロロ-6-メチルフェニル)-2-({6-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]-2-メチルピリミジン-4-イル}アミノ)-1、3-チアゾール-5-カルボキサミドとする、式(1)で示される構造を有する化合物である。
【0003】
【化1】
【0004】
慢性骨髄性白血病(CML)及びPhiladelphia染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)は、いずれもPhiladelphia染色体上に形成されたbcr-ablキメラ遺伝子が産生するBcr-Abl融合タンパクが、発症と白血病細胞の増殖に関与している疾患である。
現在、CML及び同種造血幹細胞移植の適応とならないPh+ALLに対する薬物療法としては、Bcr-Ablチロシンキナーゼ活性を阻害するイマチニブメシル酸塩(以下、イマチニブと略す。)が用いられているが、Bcr-Ablのキナーゼ領域内における点突然変異によりイマチニブの結合親和性が低下することが報告されており、当該変異がイマチニブへの治療抵抗性の要因の一つであると考えられている。
ダサチニブは、Ablキナーゼの立体構造への結合様式がイマチニブと一部異なることから、イマチニブ抵抗性CML及びPh+ALLの治療薬として用いられており、スプリセル(登録商標)の商品名にて提供されている。
【0005】
特許文献1は、ダサチニブの分解がコーティング剤中の可塑剤により引き起こされることを示唆するものであり、ポリエチレングリコールを可塑剤として含む非反応性コーティング剤を用いたダサチニブの医薬錠剤を記載している。具体的にはダサチニブ、並びに乳糖一水和物、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウムを含み、錠剤外部である被覆層にオパドライ(登録商標)ホワイトを含む薄層被覆錠剤が記載されている。オパドライ(登録商標)ホワイトは、可塑剤としてポリエチレングリコール、基剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロース、隠蔽剤として二酸化チタンを含むプレミックスのコーティング剤である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2008-540440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ダサチニブを有効成分とする医薬組成物を提供することであって、ダサチニブと反応しない添加剤を含む医薬組成物を提供することを課題とする。特にダサチニブと反応しないフィルムコーティング剤に用いることができる可塑剤を含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ダサチニブはコーティング剤成分と反応してしまうことが知られており、可塑剤としてポリエチレングリコールを含むコーティング剤が唯一の非反応性材料として知られていた。しかしながら、更なるダサチニブの安定性に影響を及ぼさないコーティング剤、及びそれに用いることができるコーティング剤用の可塑剤が求められていた。本発明者は、ダサチニブに対する非反応性添加剤として、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を見出し、これらを用いることによりダサチニブの安定性が担保された医薬組成物を提供できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の[1]~[5]を要旨とする。
【0009】
[1] ダサチニブを有効成分とする医薬組成物であって、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を含む医薬組成物。
[2] 添加剤がグリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上である前記[1]に記載の医薬組成物。
[3] 添加剤がコーティング剤として含まれる前記[1]又[2]の何れか一項に記載の医薬組成物。
[4] 前記[1]~[3]の何れか一項に記載の医薬組成物が成型された医薬錠剤であって、添加剤がコーティング剤に含まれているダサチニブを有効成分とする医薬錠剤。
[5] ダサチニブを有効成分とする医薬錠剤の製造方法であって、ダサチニブ、並びに賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤を含む混合物を圧縮成型して得られる錠剤に、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を含むコーティング剤でコーティングする工程を含む医薬錠剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダサチニブと、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を含む医薬組成物は、添加剤によるダサチニブの分解がなく、化学的安定性が確保された医薬組成物である。したって、ダサチニブを有効成分とする医薬製剤を調製する際に、当該医薬組成物を用いることにより安定な医薬製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明は、ダサチニブを有効成分とする医薬組成物であって、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を含む医薬組成物、それを用いたコーティング錠剤、並びに医薬錠剤の製造方法に関する。以下にその詳細について説明する。
【0012】
本発明の医薬組成物は、有効成分としてダサチニブを用いる。ダサチニブは、化学名をN-(2-クロロ-6-メチルフェニル)-2-({6-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]-2-メチルピリミジン-4-イル}アミノ)-1、3-チアゾール-5-カルボキサミドとする化合物である。当該化合物は、特表2002-542193号公報にて実施例455として開示されており、それに記載の方法により合成することができる。
ダサチニブは医薬品の有効成分として用いることができる品質レベルの化合物を用いることが望ましい。
本発明の医薬組成物は、有効成分としてダサチニブ水和物、有機溶媒和物又はその医薬的に許容な塩を用いても良い。
【0013】
本発明の医薬組成物は、医薬用の添加剤として、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を含むことを特徴とする。これらの添加剤は、医薬製剤の添加剤として認められており、特にコーティング剤の可塑剤として用いられているものである。これらは単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。これら添加剤の中でも、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群から選択される1種以上がより好ましい。
当該添加剤は、医薬品添加剤として用いられる品質のものであれば、特に制限することなく用いることができる。
当該医薬組成物において、これらの添加剤はコーティング剤に含まれる可塑剤として用いても良い。当該添加剤がコーティング剤に含まれる場合、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、エチルセルロース等をコーティング基材とし、任意に遮光剤や着色剤と共に混合して用いられる。
また、当該添加剤を結合剤、可溶化剤等としてダサチニブと共に混合して用いても良い。その場合は、ダサチニブ及び当該添加剤を、任意の更なる医薬品用添加剤と共に混合することで調製されるものである。
【0014】
本発明の医薬組成物において、ダサチニブは5質量%以上60質量%以下で含有することが好ましい。好ましくは10質量%以上50質量%以下である。
一方、当該添加剤は0.05質量%以上10質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.1質量%以上質量5%以下である。
【0015】
ダサチニブはイマチニブ抵抗性CML及びPh+ALLの治療薬として経口的に服用されて用いられる。このため、本発明の医薬組成物は、これを成型して調製される医薬錠剤であることが好ましい。医薬錠剤としては、通常の錠剤の他、口腔内崩壊錠といった錠剤形態も含まれる。すなわち本発明の医薬錠剤は、有効成分としてダサチニブと任意の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の錠剤成型用添加剤と併せて混合し、成型することで調製される錠剤であって、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を可塑剤として含むコーティング剤によりコーティングされた医薬錠剤であることが好ましい。
本発明の医薬錠剤において、有効成分であるダサチニブは、医薬錠剤総量に対し5質量%以上60質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは10質量%以上50質量%以下である。
また、可塑剤としての当該添加剤は、医薬錠剤総量に対し0.05質量%以上10質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.1質量%以上質量5%以下である。
【0016】
当該添加剤を、可塑剤として含むコーティング剤によりコーティングされた医薬錠剤を用いる場合、該コーティング剤は、当該添加剤及びコーティング基材、並びに任意に遮光剤や着色剤と共に混合して調製されたものである。
コーティング基材としては、医薬製剤用のコーティング剤として用いられるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、エチルセルロース等のセルロース系コーティング基材が挙げられる。
また、遮光剤や着色剤としては、酸化チタン、黄酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、タルク、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられる。
【0017】
ダサチニブを有効成分とする医薬錠剤を調製するためには、任意に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、可溶化剤、流動化剤、安定化剤、保存剤、矯味剤、着色剤等の医薬製剤を調製するための通常の医薬製剤用添加剤を用いても良い。
【0018】
本発明において賦形剤としては、乳糖、マンニトール、マルトース、スクロース、ソルビトール、キシリトール、イノシトール、トウモロコシデンプン等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。
賦形剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し5質量%以上90質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは10質量%以上80質量%以下である。
【0019】
本発明において結合剤としては、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポビドン、部分アルファー化デンプン等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。
結合剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し1質量%以上60質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは2質量%以上50質量%以下である。
【0020】
本発明において崩壊剤としては、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度カルボキシメチルスターチナトリウム等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。
崩壊剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し1質量%以上20質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0021】
本発明において滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン、フマル酸ステアリルナトリウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、カルナウバロウ等が挙げられ、これらの単独使用、若しくは2種以上を組み合せて用いることが好ましい。
滑沢剤を用いる場合は、当該医薬錠剤総量に対し0.1質量%以上5質量%以下で使用することが好ましい。好ましくは0.2質量%以上3質量%以下である。
【0022】
本発明において可溶化剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、精製大豆レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、ダイズ油、ラウロマクロゴール等が挙げられる。
本発明において流動化剤としては、軽質無水ケイ酸、タルク、含水二酸化ケイ素等が挙げられる。
本発明において安定化剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、亜硫酸塩等が挙げられる。
本発明において保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類等が挙げられる。
本発明において矯味剤としては、白糖、D-ソルビトール、キシリトール等が挙げられる。
本発明において着色剤としては、酸化チタン、黄酸化鉄、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、酸化亜鉛、褐色酸化鉄、タルク、食用黄色素類、食用青色素類、食用赤色素類等が挙げられる。
これらの添加剤は、医薬品製剤用途で許容される純度であれば特に制限されることなく用いることができる。これらの添加剤は1種のみを用いても良く、これらの混合物として用いても良い。当該医薬組成物又は医薬製剤を調製する際に、任意に使用される。
【0023】
本発明は当該添加剤を可塑剤として含むコーティング剤によりコーティングされた医薬錠剤の製造方法を含む。その製造方法は、まず、ダサチニブ及び任意の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等の医薬製剤用添加剤を配合し、これを場合によって顆粒体を調製した後に、任意に滑沢剤を別に添加して圧縮成型することにより素錠を調製する。次に、クエン酸トリエチル、D-ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール及び流動パラフィンからなる群より選択される1種以上の添加剤を可塑剤としてコーティング基材、並びに任意の隠蔽剤や着色剤を、水又は水と任意の割合で混合し得る有機溶剤を含む水性溶剤にて溶解又は懸濁させてコーティング剤水性溶液を調製し、前記の圧縮成型した素錠に、スプレー等により錠剤表面付着させ、熱風を送り錠剤表面から溶媒を除去乾燥させる方法により、調製することができる。
【0024】
本発明の医薬組成物及びそれを用いた医薬錠剤は、添加剤によるダサチニブの類縁物質の生成が抑制されており保存安定性に優れた特性を有する。具体的には、コーティング剤の可塑剤として汎用されているポリエチレングリコールを含む医薬組成物又は医薬錠剤よりもダサチニブの含量低下が抑制されていることを特徴とする。
【実施例
【0025】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
ダサチニブ200mg、クエン酸トリエチル200mgを混合し、実施例1の医薬組成物を調製した。
[実施例2~5、並びに比較例1、2]
実施例1におけるクエン酸トリエチル200mgに代えて、表1に挙げる添加剤を用い、その他は実施例1と同様の操作を行うことにより実施例2~5、並びに比較例1、2に係る医薬組成物を調製した。
【0027】
実施例1~5、並びに比較例1、2の添加剤を表1にまとめた。
【表1】
【0028】
[試験例1]
実施例1~5並びに比較例1、2の医薬組成物を、40℃、75%RH及び60℃の条件下で、1カ月保存した。
1カ月後に液体クロマトグラフィーによりダサチニブ含量を分析し、開始時からの含量低下率を以下の式により算出した。
(開始時のピーク面積%)-(1カ月後のダサチニブのピーク面積%)
得られた結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例1~5は、比較例1、2と比較し、苛酷条件下での1カ月保存後において、ダサチニブの含量低下が少ないことが確認された。特に、特表2008-540440号にて記載されるポリエチレングリコールよりもダサチニブ含量の低下が大きく抑制される物性であった。したがって本発明の医薬組成物は、ダサチニブと反応しない添加剤であることが示された。