(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ヒトHLAにより提示されるEBV潜伏感染膜タンパク質2Aペプチドに特異的なT細胞受容体様抗体剤
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220203BHJP
C07K 16/08 20060101ALI20220203BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220203BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220203BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220203BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/08 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
A61K39/395 S
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2017564407
(86)(22)【出願日】2016-06-09
(86)【国際出願番号】 US2016036735
(87)【国際公開番号】W WO2016201124
(87)【国際公開日】2016-12-15
【審査請求日】2019-05-30
(32)【優先日】2015-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(73)【特許権者】
【識別番号】321002949
【氏名又は名称】ユーリカ セラピューティックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】チュン, ナイ-コン ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】アーメッド, マヒディン
(72)【発明者】
【氏名】ロペス-アルバイテロ, アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】リュー, チェン
(72)【発明者】
【氏名】リュー, ホン
(72)【発明者】
【氏名】シャン, ジンイー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, スー
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/026892(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/018527(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/047231(WO,A1)
【文献】特表2014-512812(JP,A)
【文献】SCIENTIFIC REPORTS,3:3232,2013年,p.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤であって、
前記EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有するアミノ酸配列を有し、HLAは、HLA-A*02であり、そして、
前記ヒト抗体剤は、3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含み、
前記3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRは、以下:
(a)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列を含む軽鎖CDR3を含有するか;
(b)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列又はKabatに従ってナンバリングされるS52Gである1つのアミノ酸置換により配列番号87と異なる配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列を含む軽鎖CDR3を含有するか;または、
(c)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列又はKabatに従ってナンバリングされるN95Iである1つのアミノ酸置換により配列番号89と異なる配列を含む軽鎖CDR3を含有する、前記ヒト抗体剤。
【請求項2】
前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、5位、8位、又はそれらの組み合わせにおいて、アミノ酸残基と直接相互作用する、請求項
1に記載のヒト抗体剤。
【請求項3】
前記ヒト抗体剤が、以下を含有する、請求項1~
2のいずれか1項に記載のヒト抗体剤:
(a)配列番号13に示される重鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域、及び
(b)配列番号1
1に示される軽鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域。
【請求項4】
前記ヒト抗体剤が、以下を含有する、請求項1~
2のいずれか1項に記載のヒト抗体剤:配列番号11の軽鎖可変領域、及び配列番号13の重鎖可変領域。
【請求項5】
前記ヒト抗体剤は、脱フコシル化されている、及び/又は末端のマンノース、N-アセチルグルコース、もしくはグルコースでグリコシル化されているヒトモノクローナル抗体である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に対するアフィニティを増大させるアミノ酸置換を1つ以上含有し、及び前記アミノ酸置換を1つ以上含有するヒト抗体剤は、そのような置換を有さないヒト抗体剤のアフィニティよりも、少なくとも約1.6倍高いアフィニティのKAにより特徴づけられる、前記ヒト抗体剤。
【請求項7】
ヒト抗体剤が、EBV-LMP2/HLA複合体以外への交差反応性がないことにより特徴づけられる、請求項1~
4のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、以下:
(a)Kabatに従うナンバリングにおいてP55H
である1つのアミノ酸置換で配列番号11と異なる配列を含有する
前記軽鎖可変領域配列と、
配列番号13の前記重鎖可変領域とを含むか;
(b)Kabatに従うナンバリングにおいてN95I
である1つのアミノ酸置換で配列番号11と異なる配列を含有する前記軽鎖可変領域配列と、配列番号13の前記重鎖可変領域とを含むか;
(c)配列番号11の前記軽鎖可変領域配列と、Kabatに従うナンバリングにおいてV78Aの1つのアミノ酸置換により配列番号13と異なる配列を含有する
前記重鎖可変領域とを含
むか;または、
(d)Kabatに従うナンバリングにおいてI48VおよびS52Gである2つのアミノ酸置換で配列番号11と異なる配列を含有する前記軽鎖可変領域配列と、配列番号13の前記重鎖可変領域とを含む、前記ヒト抗体剤。
【請求項9】
前記ヒト抗体剤は、ヒトモノクローナル抗体である、請求項1~
8のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
【請求項10】
前記ヒトモノクローナル抗体は、IgG1である、請求項
9に記載のヒト抗体剤。
【請求項11】
前記ヒト抗体剤は、scFvである、請求項1~
8のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
【請求項12】
請求項1~1
1のいずれか1項に記載のヒト抗体剤の全部または一部をコードする単離核酸分子であって、前記ヒト抗体剤の抗原結合部位をコードするヌクレオチドを含有する、前記単離された核酸分子。
【請求項13】
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位、及び第二の抗原結合部位を含有する二特異性抗体であって、前記第一の抗原結合部位が、3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含み、
前記3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRは、以下:
(a)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列を含む軽鎖CDR3を含有するか;
(b)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列又はKabatに従ってナンバリングされるS52Gである1つのアミノ酸置換により配列番号87と異なる配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列を含む軽鎖CDR3を含有するか;または、
(c)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列又はKabatに従ってナンバリングされるN95Iである1つのアミノ酸置換により配列番号89と異なる配列を含む軽鎖CDR3を含有し、
前記EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有するアミノ酸配列を有し、HLAは、HLA-A*02である、前記二特異性抗体。
【請求項14】
前記第一、及び/又は第二の抗原結合部位は、イムノグロブリン分子、scFv、scFab、Fab、Fv又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1
3に記載の二特異性抗体。
【請求項15】
前記第一及び第二の抗原結合部位は、それらが1つのポリペプチド鎖を形成するように構成される、請求項1
3に記載の二特異性抗体。
【請求項16】
前記第一及び第二の抗原結合部位は、各々scFvである、請求項
15に記載の二特異性抗体。
【請求項17】
前記第二の抗原結合部位は、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、間葉系幹細胞、及び神経幹細胞からなる群から選択される免疫細胞に結合する、請求項1
3~
16のいずれか1項に記載の二特異性抗体。
【請求項18】
前記第二の抗原結合部位は、T細胞上のCD3に結合する、請求項
17に記載の二特異性抗体。
【請求項19】
請求項1
3~
18のいずれか1項に記載の二特異性抗体の全部または一部をコードする単離核酸分子であって、前記二特異性抗体の抗原結合部位をコードするヌクレオチドを含有する、前記単離された核酸分子。
【請求項20】
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現する標的細胞を殺傷するT細胞を誘導するための組成物であって、前記組成物が、請求項
18に記載の二特異性抗体を含み、前記組成物は、前記二特異性抗体が結合されたT細胞が、前記標的細胞の殺傷を介在するために充分な条件下、及び充分な時間にわたって、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現する1つ以上の標的細胞と接触させられることを特徴とする、前記組成物。
【請求項21】
前記第一の抗原結合部位は、
(a)
配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列を含む軽鎖CDR3を含有するか;
(b)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列又はKabatに従ってナンバリングされるS52Gである1つのアミノ酸置換により配列番号87と異なる配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列を含む軽鎖CDR3を含有するか;
または
(c)配列番号43の配列を含む重鎖CDR1、配列番号45の配列を含む重鎖CDR2、配列番号47の配列を含む重鎖CDR3、配列番号85の配列を含む軽鎖CDR1、配列番号87の配列を含む軽鎖CDR2、並びに配列番号89の配列又はKabatに従ってナンバリングされるN95Iである1つのアミノ酸置換により配列番号89と異なる配列を含む軽鎖CDR3を含有する、請求項2
0に記載の組成物。
【請求項22】
前記二特異性抗体の前記第一の抗原結合部位は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、少なくとも5位のアミノ酸残基と直接相互作用する、請求項2
0又は2
1に記載の組成物。
【請求項23】
前記第一の抗原結合部位が、以下:
(a)配列番号11の配列を含有する軽鎖可変領域、及び配列番号13の配列を含有する重鎖可変領域
を含むか;または、
(b)
Kabatに従うナンバリングにおいてP55Hである1つのアミノ酸置換で配列番号11と異なる配列を含有する軽鎖可変領域配列と、配列番号13の配列を含む重鎖可変領域とを含むか;
(c)Kabatに従うナンバリングにおいてN95Iである1つのアミノ酸置換で配列番号11と異なる配列を含有する軽鎖可変領域配列と、配列番号13の配列を含む重鎖可変領域とを含むか;
(d)配列番号11の配列を含む軽鎖可変領域配列と、Kabatに従うナンバリングにおいてV78Aの1つのアミノ酸置換により配列番号13と異なる配列を含有する重鎖可変領域とを含むか;または、
(e)Kabatに従うナンバリングにおいてI48VおよびS52Gである2つのアミノ酸置換で配列番号11と異なる配列を含有する軽鎖可変領域配列と、配列番号13の配列を含む重鎖可変領域とを含む、
請求項13~18のいずれか1項に記載の二特異性抗体。
【請求項24】
前記第一の抗原結合部位は、前記HLA-A02分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドのCLGGLLTMV(配列番号1)に結合するscFvを含有し、前記HLA-A02分子が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、請求項
13~18のいずれか1項に記載の二特異性抗体。
【請求項25】
前記二特異性抗体の第一のscFvは、前記EBV-LMP2ペプチドの少なくとも5位と直接相互作用する、請求項2
3~
24のいずれか1項に記載の二特異性抗体。
【請求項26】
請求項1~
8のいずれか1項に記載のヒト抗体剤の抗原結合部位を含有するキメラ抗原受容体。
【請求項27】
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体の発現により特徴づけられる対象における医学的状態を治療するための組成物であって、前記組成物は、請求項1~1
1のいずれか1項に記載のヒト抗体剤、請求項
13~18のいずれか1項に記載の二特異性抗体、又は請求項
26に記載のキメラ抗原受容体を含む、前記組成物。
【請求項28】
Fab、Fab'、F(ab')2、又はFvである、請求項1~
8のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年6月9日に出願された米国仮特許出願第62/173,330号明細書の利益を主張するものであり、当該内容はその全体で本明細書に援用される。
【0002】
政府の支援
Memorial Sloan Kettering Small-Animal Imaging Core Facility and Molecular Cytology Core Facilityにより提供される技術サービスは、部分的に、NIH Cancer Center Support Grant P30 CA008748により支援されている。
【背景技術】
【0003】
T細胞をベースとした免疫療法は癌治療に対し非常に効果的であることが、キメラ抗原受容体、二特異性抗体、及びチェックポイント阻害抗体を用いた近年の報告により証明されている。キメラ抗原受容体と二特異性抗体の両方ともが、抗体を基にした表面抗原の標的化に依っている。しかしながら、T細胞受容体(TCR)を基にした方法は部分的に、腫瘍特異的T細胞のクローン頻度の不充分さ、又はクローン除去を理由として、その開発が遅れており、抗体ライブラリーとプラットフォーム技術の急速な進歩によって影が薄くなっている。不運なことに、臨床的に承認されている治療用モノクローナル抗体は、細胞表面タンパク質の構造を認識する。さらに、抗体を基にした標的化が可能な抗原の数は限られている。National Cancer Institute (NCI)の癌抗原優先順位リストにある候補の大部分は、細胞質分画の中に存在している。そのような候補を標的とする抗体剤の開発は、いまだに困難である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、特に、ヒトMHC(例えば、クラスI)分子を背景にした、エプスタインバールウイルス(EBV:Epstein-Barr virus)の潜伏感染膜タンパク質2(LMP2:latent membrane protein 2)ペプチドに結合するヒト抗体剤(及びそのアフィニティ成熟型)を提供するものである。一部の実施形態において、提供される抗体剤は、ペプチド-MHCクラスI(例えばHLA-A02)の結合ポケットにおいて、EBV-LMP2ペプチドの中心部分(例えば、中心ペプチド位置)に対し高い特異性を示す。一部の実施形態において、提供される抗体剤は、ペプチド-MHCクラスIの結合ポケットにおいて、EBV-LMP2ペプチドの末端部分(例えば、末端ペプチド位置)に対し高い特異性を示す。一部の実施形態において、提供される抗体剤は、その表面上にHLA-A02分子を介してEBV-LMP2ペプチドを担持する標的細胞の、抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC:antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)を効果的に実行する。一部の実施形態において、提供される抗体剤は、MHC分子(例えば、MHCクラスI分子)の結合ポケットにおいて提示されているペプチドの中心部分に対する特異性を有する抗体と関連した次善のアフィニティ克服するものである。
【0005】
一部の実施形態において、本発明はまた、EBV-LMP2/HLA-A02複合体と結合するヒト抗体剤を提供するものである。一部の実施形態において、提供される抗体剤は、EBV-LMP2/HLA-A02複合体中のEBV-LMP2ペプチド中の中心部分(例えば、5位)に結合する。一部の実施形態において、提供される抗体剤は、EBV-LMP2/HLA-A02複合体中のEBV-LMP2ペプチドの1位(P1)、5位(P5)、8位(P8)、及び/又はそれらの組み合わせに結合する。一部の実施形態において、提供される抗体剤は、EBV-LMP2/HLA-A02複合体中のEBV-LMP2ペプチドの1~5位(P1~P5)、4~7位(P4~P7) 、又は4~8位(P4-P8) に結合する。
【0006】
本発明はまた、特定の標的と相互作用する結合部分を含有す多特異性剤を提供する。多くの実施形態において、かかる結合部分は、抗体の構成要素であるか、又は抗体の構成要素を含有する。一部の実施形態において、多特異性結合剤は、二特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)である。一部の実施形態において、本発明の多特異性結合剤は、ペプチド-MHC(例えば、MHCクラスI)の結合ポケットにおいてEBV-LMP2ペプチドの中心部分及び/又は末端部分に対する高い特異性を有する抗体構成要素を含有する。一部の実施形態において、本発明の多特異性結合剤は、ペプチド-MHCクラスI結合ポケット(例えば、HLA-A02結合ポケット)においてEBV-LMP2ペプチドに対する高い特異性を有する抗体構成要素に基づいた第一の結合部分、及び免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)と相互作用する第二の結合部分を含有する。一部の実施形態において、提供される多特異性結合剤は、細胞障害活性のアッセイにおいてEBV+及び腫瘍細胞株に対し、高い有効性を有している。一部の実施形態において、提供される多特異性結合剤は、TCR様モノクローナル抗体に関する低いアフィニティ障壁を克服するものである。かかる提供剤は、本明細書に記載される構成要素を欠いている元々の結合剤と比較して、機能的特性が改善されている。
【0007】
本発明はまた、ペプチド-MHC結合ポケット(例えばMHCクラスI結合ポケット)において、EBV-LMP2ペプチドに結合する抗体剤及び/又は多特異性結合剤を作製する、選択する、及び/又は特定する方法も提供する。多くの実施形態において、本発明方法は、ヒトMHCクラスI分子(例えば、HLA-A02分子)により提示されるEBV-LMP2ペプチドの中心部分及び/もしくは末端部分に結合する抗体剤ならびに/又は多特異性結合剤を、作製すること、選択すること、ならびに/又は特定することを含む。
【0008】
一部の実施形態において、方法は、MHCクラスI分子により提示されるペプチドの中心部分及び/又は末端部分に、非天然アミノ酸置換を有するペプチドに結合する(又は結合しない)ことに基づき抗体剤を選択することを含む。一部の実施形態において、方法は、MHCクラスI分子により提示されるペプチドの中心部分及び/又は末端部分に非天然アミノ酸置換を有し、及びMHCクラスI分子により提示されるペプチドのN末端及び/又はC末端に余剰の天然隣接残基をさらに有するペプチドに結合しないことに基づき抗体剤を選択することを含む。一部の実施形態において、方法は、ペプチドの中心部分(例えば、5位)の外側の位置でペプチドに結合することに基づき、抗体剤をネガティブ選択することを含む。一部の実施形態において、ペプチドの中心部分の外側のペプチド位置は変異している。一部の実施形態において、ペプチドは、九量体又は十量体である。多くの実施形態において、MHCクラスI分子は、ヒトHLA-A02分子である。
【0009】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤を提供するものであり、当該ヒト抗体剤は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、5位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の位置で、アミノ酸残基と直接相互作用する。
【0010】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤を提供するものであり、当該ヒト抗体剤は、約2.0~約170nMのKDを有する。
【0011】
一部の実施形態において、EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるアミノ酸配列、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含むアミノ酸配列を有する。
【0012】
一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の位置で、アミノ酸残基と直接相互作用する。
【0013】
一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖の配列番号31のCDR1、配列番号33のCDR2、及び配列番号35のCDR3を含有し、この場合において当該ヒト抗体剤は、軽鎖の配列番号73のCDR1、配列番号75のCDR2、及び配列番号77のCDR3を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖の配列番号37のCDR1、配列番号39のCDR2、及び配列番号41のCDR3を含有し、この場合において当該ヒト抗体剤は、軽鎖の配列番号79のCDR1、配列番号81のCDR2、及び配列番号83のCDR3を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖の配列番号43のCDR1、配列番号45のCDR2、及び配列番号47のCDR3を含有し、この場合において当該ヒト抗体剤は、軽鎖の配列番号85のCDR1、配列番号87のCDR2、及び配列番号89のCDR3を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖の配列番号49のCDR1、配列番号51のCDR2、及び配列番号53のCDR3を含有し、この場合において当該ヒト抗体剤は、軽鎖の配列番号91のCDR1、配列番号93のCDR2、及び配列番号95のCDR3を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖の配列番号55のCDR1、配列番号57のCDR2、及び配列番号59のCDR3を含有し、この場合において当該ヒト抗体剤は、軽鎖の配列番号97のCDR1、配列番号99のCDR2、及び配列番号101のCDR3を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖の配列番号61のCDR1、配列番号63のCDR2、及び配列番号65のCDR3を含有し、この場合において当該ヒト抗体剤は、軽鎖の配列番号103のCDR1、配列番号105のCDR2、及び配列番号107のCDR3を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖の配列番号67のCDR1、配列番号69のCDR2、及び配列番号71のCDR3を含有し、この場合において当該ヒト抗体剤は、軽鎖の配列番号109のCDR1、配列番号111のCDR2、及び配列番号113のCDR3を含有する。
【0014】
一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖CDR及び/又は軽鎖CDRにおいて、1つ以上のアミノ酸置換を含有する。一部の特定の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖CDR及び/又は軽鎖CDRにおいて、少なくとも1つ、又は最大で5個のアミノ酸置換を含有する。一部の特定の実施形態において、ヒト抗体剤は、重鎖CDR及び/又は軽鎖CDRにおいて、少なくとも1つ、又は最大で3個のアミノ酸置換を含有する。
【0015】
一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、表3に明記される重鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、表3に明記される軽鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、(a)表3に明記される重鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域、及び(b)表3に明記される軽鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域、を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、表3から選択される重鎖可変領域又は軽鎖可変領域を含有する。
【0016】
一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、配列番号3の軽鎖可変領域、及び配列番号5の重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、配列番号7の軽鎖可変領域、及び配列番号9の重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、配列番号11の軽鎖可変領域、及び配列番号13の重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、配列番号15の軽鎖可変領域、及び配列番号17の重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、配列番号19の軽鎖可変領域、及び配列番号21の重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、配列番号23の軽鎖可変領域、及び配列番号25の重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、配列番号27の軽鎖可変領域、及び配列番号29の重鎖可変領域を含有する。
【0017】
一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、脱フコシル化されている、及び/又は末端のマンノース、N-アセチルグルコース、もしくはグルコースでグリコシル化されているヒトモノクローナル抗体である。
【0018】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤を提供するものであり、そのヒト抗体剤は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に対するアフィニティを上昇させるアミノ酸置換を1つ以上含有しており、この場合において、当該ヒト抗体剤は、(a)基準ペプチド/HLA複合体に対するアフィニティよりも少なくとも約1.6倍高いアフィニティのKA、及び/又は(b)基準ペプチド/HLA複合体に対する交差反応性が無いこと、により特徴づけられる。一部の実施形態において、ヒト抗体剤は、(a)基準ペプチド/HLA複合体に対するアフィニティよりも、少なくとも約1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、又は少なくとも約9.0倍高いアフィニティのKA、及び/又は(b)基準ペプチド/HLA複合体に対する交差反応性が無いこと、により特徴づけられる。
【0019】
一部の特定の実施形態において、ヒト抗体剤は、48位、52位、55位、66位、95位、及びそれらの組み合わせのアミノ酸のうちのいずれかに1つ以上のアミノ酸置換を含有する軽鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、1つ以上のアミノ酸置換は、I48V/S52G、P55H、K66R、又はN95Iである。
【0020】
一部の特定の実施形態において、ヒト抗体剤は、5位、10位、26位、51位、78位、及びそれらの組み合わせのアミノ酸のうちのいずれかに1つ以上のアミノ酸置換を含有する重鎖可変領域を含有する。一部の実施形態において、1つ以上のアミノ酸置換は、V5E、E10D、G26E/I51V、又はV78Aである。
【0021】
様々な実施形態において、ヒト抗体剤は、ヒトモノクローナル抗体、又はその断片である。一部の実施形態において、ヒトモノクローナル抗体は、 IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4の抗体である。一部の実施形態において、ヒトモノクローナル抗体は、 IgG1である。一部の実施形態において、ヒトモノクローナル抗体の断片は、 scFvである。
【0022】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位、及び第二の抗原結合部位を含有する二特異性抗体を提供する。
【0023】
一部の実施形態において、二特異性抗体は、EBV-LMP2ペプチドのCLGGLLTMV(配列番号1)でパルスされたT2細胞における、約0.2~約135pMのEC50により特徴づけられる。一部の実施形態において、二特異性抗体は、約10~約130nMのKDを有する。
【0024】
一部の実施形態において、第一、及び/又は第二の抗原結合部位は、イムノグロブリン分子、scFv、scFab、Fab、Fv又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。一部の実施形態において、第一及び第二の抗原結合部位は、それらが1つのポリペプチド鎖を形成するように構成される。一部の実施形態において、第一及び第二の抗原結合部位は各々、scFvである。一部の実施形態において、第一及び第二の抗原結合部位は、ペプチド結合により連結されている。一部の実施形態において、第二の抗原結合部位は、第一の抗原結合部位のC末端に連結されている。
【0025】
一部の実施形態において、第二の抗原結合部位は、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、間葉系幹細胞、及び神経幹細胞からなる群から選択される免疫細胞に結合する。一部の特定の実施形態において、第二の抗原結合部位は、T細胞上のCD3に結合する。一部の実施形態において、第二の抗原結合部位は、配列番号124である、又は配列番号124を含有する。
【0026】
一部の実施形態において、本発明は、HLA-A02分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドのCLGGLLTMV(配列番号1)に結合する第一のscFv、及びT細胞上のCD3に結合する第二のscFvを含有する二特異性抗体を提供するものであり、この場合において二特異性抗体は、EBV-LMP2ペプチドでパルスされたT2細胞において、約0.2~約135pMのEC50により特徴づけられる。
【0027】
一部の実施形態において、第一のscFvは、(a)配列番号3の軽鎖可変領域と、配列番号5の重鎖可変領域;(b)配列番号7の軽鎖可変領域と、配列番号9の重鎖可変領域;(c)配列番号11の軽鎖可変領域と、配列番号13の重鎖可変領域;(d)配列番号15の軽鎖可変領域と、配列番号17の重鎖可変領域;(e)配列番号19の軽鎖可変領域と、配列番号21の重鎖可変領域;(f)配列番号23の軽鎖可変領域と、配列番号25の重鎖可変領域;又は(g)配列番号27の軽鎖可変領域と、配列番号29の重鎖可変領域を含有する。
【0028】
一部の実施形態において、第二のscFvは、第一のscFvのC末端に連結される。一部の特定の実施形態において、第二のscFvは、配列番号124である、又は配列番号124を含有する。
【0029】
一部の実施形態において、二特異性抗体の第一のscFvは、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される1つ以上の位置で、アミノ酸残基と直接相互作用する。一部の実施形態において、二特異性抗体の第一のscFvは、EBV-LMP2ペプチドの少なくとも1位、少なくとも5位、又は少なくとも8位で直接相互作用する。
【0030】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤の抗原結合部位を含有するキメラ抗原受容体を提供する。
【0031】
一部の実施形態において、抗原結合部位は、scFvである。一部の実施形態において、抗原結合部位は、免疫エフェクター細胞により発現される。一部の実施形態において、免疫エフェクター細胞は、T細胞である。
【0032】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体の全部、又は一部をコードする単離核酸分子を提供する。
【0033】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載される核酸分子をコードする組み換えベクターを提供する。
【0034】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載される組み換えベクター、又は本明細書に記載される核酸分子を含有する宿主細胞を提供する。一部の実施形態において、宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳類細胞から選択される。一部の実施形態において、宿主細胞は、大腸菌(E.coli)、ピキア・パストリス(P.pastoris)、Sf9、COS、HEK293、CHO及び哺乳類のリンパ球からなる群から選択される。一部の特定の実施形態において、哺乳類のリンパ球は、ヒトのリンパ球である。
【0035】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体を製造する方法を提供するものであり、当該方法は、ヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体の発現に適した条件下で、培養培地中で本明細書に記載される宿主細胞を培養すること、及び当該培養培地から、ヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体(又は当該キメラ抗原受容体を発現している宿主細胞)を回収すること、を含む。
【0036】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体を含有する組成物を提供する。
【0037】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体、又は本明細書に記載される組成物を含有し、及び薬学的に受容可能な担体又は希釈剤をさらに含有する医薬組成物を提供する。
【0038】
一部の実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体を含有するキットを提供する。
【0039】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体の発現により特徴づけられる対象の医学的状態を治療する方法を提供するものであり、当該方法は、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、キメラ抗原受容体(又は当該キメラ抗原受容体を発現している免疫エフェクター細胞)、本明細書に記載される組成物、又は本明細書に記載される医薬組成物の治療有効量を投与する工程を含む。
【0040】
一部の実施形態において、医学的状態は、ホジキン病、非ホジキン病、又は感染性単核球症である。一部の実施形態において、医学的状態は、バーキットリンパ腫、免疫抑制性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、慢性炎症に関連したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、形質芽球性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、鼻咽頭癌、胃腺癌、リンパ上皮腫関連癌、及び免疫不全関連平滑筋肉腫から選択される。
【0041】
一部の実施形態において、本発明は、EBV感染に関連した状態の治療又は検出のための、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体(又は当該キメラ抗原受容体を発現している免疫エフェクター細胞)の使用を提供する。
【0042】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現する標的細胞を殺傷するT細胞を誘導する方法を提供するものであり、当該方法は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現している1つ以上の標的細胞と、本明細書に記載される二特異性抗体を接触させることを含み、当該接触は、二特異性抗体に結合されるT細胞が、標的細胞の殺傷を介在する条件下、及びそのために充分な時間、行われる。一部の実施形態において、二特異性抗体は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位、及びT細胞上のCD3に結合する第二の抗原結合部位を含有する。
【0043】
一部の実施形態において、EBV-LMP2ペプチドは、 CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有する。一部の実施形態において、二特異性抗体の第一の抗原結合部位は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるもう1つの位置で、アミノ酸残基と直接相互作用する。
【0044】
一部の実施形態において、本発明は、対象のヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を群から選択する方法を提供するものであり、当該方法は、(a)対象のペプチド-HLAクラスI複合体と結合する群から1つ以上の抗体剤を選択する工程、及び(b)1位、5位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される残基で、1つ以上のアミノ酸置換を有するペプチドを含むペプチド-HLAクラスI複合体との結合に関し、(a)から1つ以上の抗体剤をスクリーニングする工程を含み、この場合において、5位で置換を有するペプチドを含むペプチド-HLAクラスI複合体と抗体剤の結合の消失は、ヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を示唆するものである。
【0045】
一部の実施形態において、本発明は、対象のヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を群から選択する方法を提供するものであり、当該方法は、(a)第一のペプチド-HLAクラスI複合体に結合しない群から1つ以上の抗体剤を選択する工程であって、当該第一のペプチド-HLAクラスI複合体は、ペプチドの5位でアミノ酸置換を有し、ならびに/又はペプチドのN末端及び/もしくはC末端で1つ以上の追加のアミノ酸を有するペプチドを含み、及び(b)第二のペプチド-HLAクラスI複合体に結合することに関し、(a)から1つ以上の抗体剤をスクリーニングする工程であって、当該第二のペプチド-HLAクラスI複合体は、対象の野生型配列を有するペプチドを含み、この場合において、抗体剤と第二のペプチド-HLAクラスI複合体の結合は、ヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を示唆するものである。
【0046】
一部の実施形態において、ペプチド/HLAクラスI複合体のペプチドは、エプスタインバールウイルス(EBV)関連ペプチドである。一部の実施形態において、ペプチド/HLAクラスI複合体は、EBV-LMP2/HLA-A02複合体である。
【0047】
一部の実施形態において、抗体剤は、 ヒトモノクローナル抗体である。一部の実施形態において、抗体剤は、 ヒトモノクローナル抗体の断片である。
【0048】
一部の実施形態において、ペプチド/HLA複合体に結合する高アフィニティのヒトモノクローナル抗体を提供する方法において、本発明は、ペプチド/HLA複合体において、ペプチド中心で1つ以上のアミノ酸と直接相互作用する、又はペプチド中心の1つ以上のアミノ酸に対し選択的である、ヒトモノクローナル抗体を提供することを含む改善を提供する。
【0049】
一部の実施形態において、ペプチド/HLA複合体に結合する高アフィニティのヒトモノクローナル抗体を提供する方法において、本発明は、HLA結合ポケットにおいて、ペプチド中心で1つ以上のアミノ酸と直接相互作用する、又はペプチド中心の1つ以上のアミノ酸に対し選択的である、ヒトモノクローナル抗体を提供することを含む改善を提供し、この場合において、当該ペプチド/HLA複合体は、in silico予測法を使用して作製されていない。
【0050】
一部の実施形態において、第一及び第二の抗原結合部位を含む二特異性抗体を含有する高アフィニティ二特異性抗体組成物を提供する方法において、当該第一の抗原結合部位は、ペプチド/HLA複合体に結合し、本発明は、ペプチド/HLA複合体において、ペプチド中心で1つ以上のアミノ酸と直接相互作用するヒトモノクローナル抗体、又はその断片として、かかる第一の抗原結合部位のうちの少なくとも1つを提供することを含む改善を提供する。
【0051】
一部の実施形態において、1つ以上の抗原結合部位を含有するキメラ抗原受容体組成物を提供する方法において、当該当該1つ以上の抗原結合部位のうちの少なくとも1つはペプチド/HLA複合体に結合し、本発明は、HLA結合ポケットにおいて、ペプチド中心で1つ以上のアミノ酸と直接相互作用するヒト抗体剤の抗原結合部位を提供することを含む改善を提供する。一部の特定の実施形態において、キメラ抗原受容体組成物は、免疫エフェクター細胞により発現される。一部の実施形態において、免疫エフェクター細胞は、T細胞である。
【0052】
様々な実施形態において、HLAは、クラスIHLA分子である。
【0053】
様々な実施形態において、ペプチドは、九量体ペプチドである。
【0054】
様々な実施形態において、ペプチドは、十量体ペプチドである。
【0055】
様々な実施形態において、ペプチドは、エプスタインバールウイルス(EBV)関連ペプチドである。
【0056】
様々な実施形態において、ペプチド/HLA複合体は、EBV-LMP2/HLA-A02複合体である。
【0057】
様々な実施形態において、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAは、HLAクラスI分子である。様々な実施形態において、HLAクラスI分子は、HLA-A02である。様々な実施形態において、HLA-A02は、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される。
【0058】
一部の実施形態において、本発明は、医療における使用のための医薬の製造における、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体(又は当該キメラ抗原受容体を発現している免疫エフェクター細胞)の使用を提供する。
【0059】
一部の実施形態において、本発明は、診断用検査又はアッセイにおける使用のための医薬の製造における、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体(又は当該キメラ抗原受容体を発現している免疫エフェクター細胞)の使用を提供する。
【0060】
一部の実施形態において、本発明は、癌の診断又は治療における使用のための医薬の製造における、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体(又は当該キメラ抗原受容体を発現している免疫エフェクター細胞)の使用を提供する。
【0061】
一部の実施形態において、本発明は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体の発現により特徴づけられる医学的状態の診断又は治療における使用のための医薬の製造における、本明細書に記載されるヒト抗体剤、二特異性抗体、又はキメラ抗原受容体(又は当該キメラ抗原受容体を発現している免疫エフェクター細胞)の使用を提供する。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、5位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置の1つ以上で、アミノ酸残基と直接相互作用する、前記ヒト抗体剤。
(項目2)
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、約2.0~約170nMのK
D
を有する、前記ヒト抗体剤。
(項目3)
前記EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有するアミノ酸配列を有する、項目1又は2に記載のヒト抗体剤。
(項目4)
前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置の1つ以上で、アミノ酸残基と直接相互作用する、項目3に記載のヒト抗体剤。
(項目5)
前記ヒト抗体剤が、以下を含有する、項目1~4のいずれか1項に記載のヒト抗体剤:
(a)重鎖の配列番号31のCDR1、配列番号33のCDR2、及び配列番号35のCDR3、ならびに軽鎖の配列番号73のCDR1、配列番号75のCDR2、及び配列番号77のCDR3、
(b)重鎖の配列番号37のCDR1、配列番号39のCDR2、及び配列番号41のCDR3、ならびに軽鎖の配列番号79のCDR1、配列番号81のCDR2、及び配列番号83のCDR3、
(c)重鎖の配列番号43のCDR1、配列番号45のCDR2、及び配列番号47のCDR3、ならびに軽鎖の配列番号85のCDR1、配列番号87のCDR2、及び配列番号89のCDR3、
(d)重鎖の配列番号49のCDR1、配列番号51のCDR2、及び配列番号53のCDR3、ならびに軽鎖の配列番号91のCDR1、配列番号93のCDR2、及び配列番号95のCDR3、
(e)重鎖の配列番号55のCDR1、配列番号57のCDR2、及び配列番号59のCDR3、ならびに軽鎖の配列番号97のCDR1、配列番号99のCDR2、及び配列番号101のCDR3、
(f)重鎖の配列番号61のCDR1、配列番号63のCDR2、及び配列番号65のCDR3、ならびに軽鎖の配列番号103のCDR1、配列番号105のCDR2、及び配列番号107のCDR3、又は
(g)重鎖の配列番号67のCDR1、配列番号69のCDR2、及び配列番号71のCDR3、ならびに軽鎖の配列番号109のCDR1、配列番号111のCDR2、及び配列番号113のCDR3。
(項目6)
前記ヒト抗体剤が、以下を含有する、項目1~4のいずれか1項に記載のヒト抗体剤:
(a)表3に明記される重鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域、及び
(b)表3に明記される軽鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域。
(項目7)
前記ヒト抗体剤が、以下を含有する、項目1~4のいずれか1項に記載のヒト抗体剤:
(a)配列番号3の軽鎖可変領域、及び配列番号5の重鎖可変領域、
(b)配列番号7の軽鎖可変領域、及び配列番号9の重鎖可変領域、
(c)配列番号11の軽鎖可変領域、及び配列番号13の重鎖可変領域、
(d)配列番号15の軽鎖可変領域、及び配列番号17の重鎖可変領域、
(e)配列番号19の軽鎖可変領域、及び配列番号21の重鎖可変領域、
(f)配列番号23の軽鎖可変領域、及び配列番号25の重鎖可変領域、又は
(g)配列番号27の軽鎖可変領域、及び配列番号29の重鎖可変領域。
(項目8)
前記ヒト抗体剤は、脱フコシル化されている、及び/又は末端のマンノース、N-アセチルグルコース、もしくはグルコースでグリコシル化されているヒトモノクローナル抗体である、項目1~7のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
(項目9)
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に対するアフィニティを増大させるアミノ酸置換を1つ以上含有し、及び前記ヒト抗体剤は、以下により特徴づけられる、前記ヒト抗体剤:
(a) 基準ペプチド/HLA複合体に対するアフィニティよりも、少なくとも約1.6倍高いアフィニティのKA、及び/又は
(b) 基準ペプチド/HLA複合体に対する交差反応性がないこと。
(項目10)
前記ヒト抗体剤は、48位、52位、55位、66位、95位、及びそれらの組み合わせのアミノ酸のうちのいずれかで1つ以上のアミノ酸置換を含有する軽鎖可変領域を含有する、項目9に記載のヒト抗体剤。
(項目11)
前記1つ以上のアミノ酸置換が、I48V/S52G、P55H、K66R、又はN95Iである、項目10に記載のヒト抗体剤。
(項目12)
前記ヒト抗体剤は、5位、10位、26位、51位、78位、及びそれらの組み合わせのアミノ酸のうちのいずれかで、アミノ酸置換を1つ以上含有する重鎖可変領域を含有する、項目9~11のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
(項目13)
前記1つ以上のアミノ酸置換が、V5E、E10D、G26E/I51V、又はV78Aである、項目12に記載のヒト抗体剤。
(項目14)
前記ヒト抗体剤は、ヒトモノクローナル抗体又はその断片である、項目1~13のいずれか1項に記載のヒト抗体剤。
(項目15)
前記ヒトモノクローナル抗体は、IgG1である、項目14に記載のヒト抗体剤。
(項目16)
前記ヒトモノクローナル抗体断片は、scFvである、項目14に記載のヒト抗体剤。
(項目17)
項目1~16のいずれか1項に記載のヒト抗体剤の全部または一部をコードする単離核酸分子。
(項目18)
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位、及び第二の抗原結合部位を含有する二特異性抗体。
(項目19)
前記二特異性抗体は、EBV-LMP2ペプチドのCLGGLLTMV(配列番号1)でパルスされたT2細胞における、約0.2~約135pMのEC
50
により特徴づけられる、項目18に記載の二特異性抗体。
(項目20)
前記第一、及び/又は第二の抗原結合部位は、イムノグロブリン分子、scFv、scFab、Fab、Fv又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目18又は19に記載の二特異性抗体。
(項目21)
前記第一及び第二の抗原結合部位は、それらが1つのポリペプチド鎖を形成するように構成される、項目18又は19に記載の二特異性抗体。
(項目22)
前記第一及び第二の抗原結合部位は、各々scFvである、項目21に記載の二特異性抗体。
(項目23)
前記第二の抗原結合部位は、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、間葉系幹細胞、及び神経幹細胞からなる群から選択される免疫細胞に結合する、項目18~22のいずれか1項に記載の二特異性抗体。
(項目24)
前記第二の抗原結合部位は、T細胞上のCD3に結合する、項目23に記載の二特異性抗体。
(項目25)
項目18~24のいずれか1項に記載の二特異性抗体の全部または一部をコードする単離核酸分子。
(項目26)
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現する標的細胞を殺傷するT細胞を誘導する方法であって、以下の工程を含有する前記方法:
二特異性抗体と、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現する1つ以上の標的細胞を接触させる工程であって、前記二特異性抗体は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位と、T細胞上のCD3に結合する第二の抗原結合部位を含有し、
前記接触は、前記二特異性抗体が結合されるT細胞が、前記標的細胞の殺傷を介在するために充分な条件下、及び充分な時間、行われること。
(項目27)
前記EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有する、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記二特異性抗体の前記第一の抗原結合部位は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるもう1つの位置で、アミノ酸残基と直接相互作用する、項目26又は27に記載の方法。
(項目29)
以下を含有する二特異性抗体:
HLA-A02分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドのCLGGLLTMV(配列番号1)に結合する第一のscFv、及び
T細胞上のCD3に結合する第二のscFvであって、
前記二特異性抗体は、EBV-LMP2ペプチドでパルスされたT2細胞における、約0.2~約135pMのEC
50
により特徴づけられること。
(項目30)
前記第一のscFvが、以下を含有する、項目29に記載の二特異性抗体:
(a)配列番号3の軽鎖可変領域、及び配列番号5の重鎖可変領域、
(b)配列番号7の軽鎖可変領域、及び配列番号9の重鎖可変領域、
(c)配列番号11の軽鎖可変領域、及び配列番号13の重鎖可変領域、
(d)配列番号15の軽鎖可変領域、及び配列番号17の重鎖可変領域、
(e)配列番号19の軽鎖可変領域、及び配列番号21の重鎖可変領域、
(f)配列番号23の軽鎖可変領域、及び配列番号25の重鎖可変領域、又は
(g)配列番号27の軽鎖可変領域、及び配列番号29の重鎖可変領域。
(項目31)
前記HLA-A02分子が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、項目29~30のいずれか1項に記載の二特異性抗体。
(項目32)
前記二特異性抗体の第一のscFvは、EBV-LMP2ペプチドの少なくとも5位と直接相互作用する、項目29~31のいずれか1項に記載の二特異性抗体。
(項目33)
EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤の抗原結合部位を含有するキメラ抗原受容体。
(項目34)
対象のヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を、群から選択する方法であって、以下の工程を含有する前記方法:
(a)対象のペプチド/HLAクラスI複合体に結合する群から抗体剤を1つ以上選択すること、及び
(b)1位、5位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される残基で1つ以上のアミノ酸置換を有するペプチドを含む、ペプチド/HLAクラスI複合体の結合に関し、(a)から1つ以上の抗体剤をスクリーニングすることであって、
5位で置換を有するペプチドを含むペプチド/HLAクラスI複合体への抗体剤の結合の消失が、ヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を示唆すること。
(項目35)
対象のヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を、群から選択する方法であって、以下の工程を含有する前記方法:
(a)第一のペプチド/HLAクラスI複合体に結合しない群から1つ以上の抗体剤を選択することであって、前記第一のペプチド/HLAクラスI複合体は、5位にアミノ酸置換、ならびに/又はペプチドのN末端及び/もしくはC末端に1つ以上の追加のアミノ酸を有するペプチド含んでおり、及び
(b)第二のペプチド/HLAクラスI複合体に結合することに関し、(a)から1つ以上の抗体剤をスクリーニングすることであって、前記第二のペプチド/HLAクラスI複合体は、対象の野生型配列を有するペプチドを含んでおり、
この場合において第二のペプチド/HLAクラスI複合体への抗体剤の結合が、ヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を示唆すること。
(項目36)
項目1~16のいずれか1項に記載のヒト抗体剤、項目18~24のいずれか1項に記載の二特異性抗体、又は項目33に記載のキメラ抗原受容体の治療有効量を投与する工程を含む、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体の発現により特徴づけられる対象における医学的状態を治療する方法。
【図面の簡単な説明】
【0062】
本明細書に含まれる図面は、以下の図から構成され、解説のみを目的としており、限定ではない。
【
図1】
図1は、T細胞受容体:九量体-ペプチド/MHCクラスI複合体の、1残基当たりの平均ファンデルワールス相互作用力を図示するグラフを示す。ペプチドの位置(P1、P2など)は、グラフのx軸に示されている。
【
図2】
図2は、T細胞受容体:十量体-ペプチド/MHCクラスI複合体の、1残基当たりの平均ファンデルワールス相互作用力を図示するグラフを示す。ペプチドの位置(P1、P2など)は、グラフのx軸に示されている。
【
図3】
図3は、単量体EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01ペプチド複合体の精製を行う間に観察された様々な種を表すサイズ排除クロマトグラムを示す。
【
図4】
図4は、還元条件下(左)と非還元条件下(右)での、単量体EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01ペプチド複合体のSDS-PAGEの画像を示す。各サンプルの内容は、単量体(EBV-LMP2/HLA-A*02:01)、MHC分子(HLA-A*02:01)、及びβ
2マイクログロブリン(β2m)の各列ならびに位置に対して示されている。対照のAとB:無関係なペプチド/HLA-A02ペプチド複合体。
【
図5】
図5は、実施例2に記載されているファージELISAアッセイにおける可溶性EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01ペプチド複合体に対する、選択ヒトscFvクローンの450nmでの光学密度(OD
450)の例示的なグラフを示す。EXT005: EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01複合体;EXT007:対照ペプチド/HLA-A*02:01複合体、EXT002対照Ab:陽性対照抗HLA-A*02:01抗体;68-72:抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01抗体ファージクローン。対照ペプチド:無関係なペプチド。
【
図6】
図6は、フローサイトメトリーにおける、EBV-LMP2ペプチドを担持したT2細胞と、対照ペプチドを担持したT2細胞の例示的なファージ結合を示す。対照ペプチド:無関係なペプチド;EXT005-57:抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01抗体ファージクローン;K07:ヘルパーファージ、ファージ陰性対照;細胞のみ:マウス抗M13モノクローナル抗体、及びR-PE複合ウマ抗マウスIgG。
【
図7】
図7は、還元条件下での、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01ペプチド複合体に特異的なscFvから作製された、選択全長ヒトIgG1抗体のSDS-PAGEの例示的画像を示す。
【
図8】
図8は、還元条件下での、選択抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02二特異性分子のSDS-PAGEの例示的画像を示す。二特異性抗体分子は、ゲル画像の各レーンに示されている。
【
図9】
図9は、T2細胞表面上のEBV-LMP2ペプチドのHLA-A02提示に対する陽性染色を図示する例示的なFACSヒストグラム(各対の左)と、対照(YMLDLQPET、配列番号120)又はEBV-LMP2ペプチド(CLGGLLTMV、配列番号1)でパルスされたT2細胞の抗体依存性細胞障害活性(ADCC;特異的溶解%、各対の右)を示す。対照Ab:ヒトIgG1アイソタイプ合致対照。NK92エフェクター細胞は、FcγRIIIa 176V/Vバリアントアレル(CD16 176V/V)を有し、20:1のエフェクターと標的(E:T)の比率でトランスフェクトされた。mAb:モノクローナル抗体。
【
図10】
図10は、異なる濃度のペプチドでパルスされたT2細胞上のEBV-LMP2ペプチドに対する、選択抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02抗体の例示的な結合を示す。
【
図11】
図11は、選択抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02 IgG1抗体により介在される、EBV形質転換Bリンパ芽球細胞(BLCL:B lymphoblastoid cell)の例示的な特異的溶解割合を示す。mAb:モノクローナル抗体。
【
図12】
図12は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02に結合する第一の抗原結合部位、及びCD3に結合する第二の抗原結合部位を有する、選択二特異性抗体(BsAb)を使用した、EBV-LMP2ペプチド(実線;CLGGLLTMV、配列番号1)又は対照ペプチド(破線;YMLDLQPET、配列番号120)でパルスされたT2細胞に対する、例示的なT細胞性細胞障害活性を示す。対照BsAb:抗HER2xCD3の二特異性抗体。
【
図13A】
図13は、選択LMP2xCD3二特異性抗体(BsAb)を使用した、EBV形質転換されたHLA-A02
+(右のパネル)細胞とHLA-A02
-(左のパネル)細胞の例示的なT細胞性細胞障害活性を示す。
図13A:LMP2-38xCD3 (上)及びLMP2-63xCD3 (下)。
【
図13B】
図13は、選択LMP2xCD3二特異性抗体(BsAb)を使用した、EBV形質転換されたHLA-A02
+(右のパネル)細胞とHLA-A02
-(左のパネル)細胞の例示的なT細胞性細胞障害活性を示す。
図13B:LMP2-40xCD3 (上)及びLMP2-61xCD3 (下)。
【
図13C】
図13は、選択LMP2xCD3二特異性抗体(BsAb)を使用した、EBV形質転換されたHLA-A02
+(右のパネル)細胞とHLA-A02
-(左のパネル)細胞の例示的なT細胞性細胞障害活性を示す。
図13C:LMP2-21xCD3 (上)及びLMP2-26xCD3 (下)。
【
図13D】
図13は、選択LMP2xCD3二特異性抗体(BsAb)を使用した、EBV形質転換されたHLA-A02
+(右のパネル)細胞とHLA-A02
-(左のパネル)細胞の例示的なT細胞性細胞障害活性を示す。
図13D:LMP2-77xCD3。KBAB: HLA-A02
-; 900D: HLA-A02
-; AK: HLA-A02
-; KS: HLA-A02
-; OKO: HLA-A02
+; BV: HLA-A02
+; 6/28: HLA-A02
+。
【
図14】
図14は、pdb 3REWを使用して生成された、1.9Å分解能での、EBV-LMP2/HLA-A02の結晶構造の概略図を示す。正確な縮尺ではない。HLA-A02結合ポケット中のペプチドの位置の方向を示す。
【
図15】
図15は、選択抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01特異的IgG1抗体のフローサイトメトリーによる例示的なペプチド結合(左のパネル)、及び対応する二特異性抗体のBLCLに対する細胞障害活性(右のパネル)を示す。対照:ヒトIgG1アイソタイプ合致対照。
【
図16】
図16は、外因性EBV-LMP2ペプチドを伴う(点線)及び伴わない(実線)、HLA-A*02:01
+ BLCL OKO細胞に対する、選択EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01特異的IgG1抗体のフローサイトメトリーによる例示的結合を示す。実線は、外因性ペプチドを伴わない細胞に対する、IgG1抗体の結合を表し、点線は、100μg/mLのペプチドとともに一晩インキュベートした後の同じOKO細胞を表す。
【
図17】
図17は、二特異性抗体の例示的な細胞障害活性(各ペアの左)、及び異なるHLA-A02サブアレルを発現する、ペプチドパルスされた抗原提示細胞に対する、全長IgG1抗体のフローサイトメトリーによる例示的な結合(各ペアの右)を示す。二特異性抗体は、例えばEXT005-38 BsAbなどとして名付けられ、これはLMP2-38xCD3二特異性抗体に相当する。IgG1抗体は、例えばEXT005-21などとして名付けられ、これはLMP2-21 IgG1抗体に相当する。
【
図18】
図18は、異なるHLA-A02サブアレルを発現する、ペプチドパルスされた抗原提示細胞に対する、選択全長IgG1抗体のフローサイトメトリーによる例示的な結合を示す。IgG1抗体は、例えばEXT005-21などとして名付けられ、これはLMP2-21 IgG1抗体に相当する。
【
図19】
図19は、ペプチドの1位、5位、及び8位でアラニン置換を有する九量体ペプチドを使用した、II型TCR様モノクローナル抗体を作製するための選択戦略の図を示す。正確な縮尺ではない。
【
図20】
図20は、ペプチドのN末端又はC末端に天然残基を有し、5位でアラニン置換を有する九量体ペプチドを使用した、II型TCR様モノクローナル抗体を作製するための選択戦略の図を示す。正確な縮尺ではない。
【
図21】
図21は、ペプチドの1位、5位、及び8位でアラニン置換を有する十量体ペプチドを使用した、II型TCR様モノクローナル抗体を作製するための選択戦略の図を示す。正確な縮尺ではない。
【
図22】
図22は、ペプチドのN末端又はC末端に余剰の天然残基を有し、5位でアラニン置換を有する十量体ペプチドを使用した、II型TCR様モノクローナル抗体を作製するための選択戦略の図を示す。正確な縮尺ではない。
【
図23】
図23は、フローサイトメトリーにより検出された、HLA-A*02:01に対するAla置換CLGペプチドの例示的なペプチド担持効率を示す。
【
図24A】
図24は、野生型CLGペプチド、又はP3~P8でAla置換されたCLGペプチドのいずれかを担持した、HLA-A*02:01に対する抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01 IgG抗体クローンの例示的なぺプチド結合を示す。
図24Aは、フローサイトメトリーにより検出された結合データを示す。
【
図24B】
図24は、野生型CLGペプチド、又はP3~P8でAla置換されたCLGペプチドのいずれかを担持した、HLA-A*02:01に対する抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01 IgG抗体クローンの例示的なぺプチド結合を示す。
図24Bは、Ala置換ペプチド/HLA*02:01複合体に対する結合が、野生型CLGペプチドに対し標準化された
図24Aの結合データを示す。
【
図25】
図25は、これらサンプルの純度の表示として、LMP2クローン38(上の左側)、38-2(上の右側)、26(真ん中の左側)、61(真ん中の右側)、及び40(下の左側)からの二量体二特異性抗体の例示的なクロマトグラムを示す。
【
図26】
図26は、エフェクター(ET比 10:1)として臍帯血T細胞を使用した、HLA-A*02(+) EBV (+)腫瘍細胞株に対する二量体二特異性抗体の例示的な細胞障害性を示す。クローン26、28、28-2、40、61及び対照から誘導された二量体二特異性抗体の各々が検証され、特異的溶解の%は、以下の腫瘍細胞株の各々で示される。RPMI-6666 (上の左側)、DT BLCL (上の右側)、F BLCL (下の左側)及びHONE-1-A2 (下の右側)。
【
図27】
図27は、F BLCLが移植され、LMP2二量体二特異性抗体とヒト成人PBMCエフェクター細胞を用いて処置された免疫不全マウスの、マウス異種移植実験から得られた例示的な腫瘍定量データを示す。
【
図28】
図28は、F BLCLが移植され、LMP2二量体二特異性抗体とヒト成人PBMCエフェクター細胞を用いて処置された免疫不全マウスの、マウス異種移植実験から得られた例示的な生存データを示す。
【
図29】
図29は、F BLCLが移植され、LMP2二量体二特異性抗体とヒト臍帯血PBMCエフェクター細胞を用いて処置された免疫不全マウスの、マウス異種移植実験から得られた例示的な腫瘍定量データを示す。
【
図30】
図30は、F BLCLが移植され、LMP2二量体二特異性抗体とヒト臍帯血PBMCエフェクター細胞を用いて処置された免疫不全マウスの、マウス異種移植実験から得られた例示的な生存データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
定義
本発明の範囲は、本明細書に添付される請求の範囲により定義され、本明細書に記載される特定の実施形態により限定されるものではない。当分野の当業者であれば、本開示を読むことで、かかる記載される実施形態に対し均等であり得る様々な改変、又は請求の範囲内にある様々な改変を認識するであろう。
【0064】
概して、本明細書に使用される専門用語は、別段の明確な示唆が無い限り、当分野において理解されるその意味に合致する。特定の用語の明白な定義を以下に提示する:本明細書全体を通して、特定の例におけるこれら及び他の用語の意味は、当分野の当業者に対し、文脈から明確であろう。
【0065】
本明細書内に引用される参照文献、又はその関連部分は、参照により本明細書に援用される。
【0066】
本発明をより理解し易いよう、特定の用語を以下に最初に定義する。以下の用語及び他の用語に関する追加の定義は、本明細書全体を通じて解説されている。
【0067】
投与:本明細書において使用される場合、「投与」という用語は、対象又は系(例えば、細胞、器官、組織、生物体、又はそれらの構成要素もしくは構成要素のセット)に対する組成物の投与を指す。投与経路は、例えば組成物が投与される対象又は系、組成物の性質、投与の目的などに依存して変化し得ることが当業者には明らかである。例えば、特定の実施形態において、動物対象への投与(例えば、ヒトへの投与)は、気管支(気管支点滴によるものを含む)、頬側、腸内、皮下(interdarmal)、動脈内、皮内(intradermal)、胃内、髄内、筋肉内、鼻内、腹腔内、くも膜下腔、静脈内、心室内、粘膜内、経鼻、口腔、直腸、皮下(subcutaneous)、舌下、局所、気管(気管内点滴によるものを含む)、経皮、膣、及び/又は硝子体であってもよい。一部の実施形態において、投与は、間欠投与を含んでもよい。一部の実施形態において、投与は、少なくとも選択された期間の連続投与(例えば、かん流)を含んでもよい。
【0068】
アフィニティ:当分野に知られているように、「アフィニティ」は、特定のリガンドが、そのパートナーに結合する密着性の測定単位である。アフィニティは、様々な方法で測定することができる。一部の実施形態において、アフィニティは、定量的アッセイにより測定される。かかる一部の実施形態において、結合パートナーの濃度は、生理学的条件を模倣するために、リガンド濃度を超過して固定されてもよい。あるいは、又はさらに、一部の実施形態において、結合パートナーの濃度、及び/又はリガンドの濃度をさせてもよい。かかる一部の実施形態において、アフィニティは、同等条件下(例えば、濃度)で、基準に対し比較されてもよい。
【0069】
アフィニティ成熟(又はアフィニティ成熟抗体):本明細書において使用される場合、1つ以上のそのCDR(又は一部の実施形態において、フレームワーク領域)において1つ以上の改変を有する抗体を指し、当該改変は、それら改変を有していない元の抗体と比較して、抗原に対する抗体のアフィニティを改善させる。一部の実施形態において、アフィニティ成熟抗体は、標的抗原に対し、ナノモル又はさらにはピコモルのアフィニティを有する。アフィニティ成熟抗体は、当分野に公知の様々な方法のいずれかにより生成され得る。Marks ら、 1992, BioTechnology 10:779-783は、VHとVLのドメインシャッフリングによるアフィニティ成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基の無作為突然変異誘発は、Barbas ら、 1994, Proc. Nat. Acad. Sci, U.S.A. 91:3809-3813; Schier ら、 1995, Gene 169: 147-155; Yelton ら、 1995. J. Immunol. 155:1994-2004; Jackson ら、 1995, J. Immunol. 154(7):3310-9;及びHawkins ら、 1992, J. Mol. Biol. 226:889-896により記載されている。
【0070】
剤:本明細書において使用される場合、例えば、ポリペプチド、核酸、単糖、脂質、低分子、金属、又はそれらの組み合わせをはじめとする、任意の化学分類の化合物又は実体を指し得る。一部の実施形態において、剤は、自然界に存在する、及び/又は自然界から取得されるという点で天然産物であるか、又はその天然産物を含有する。一部の実施形態において、剤は、ヒトの手の作用を介して設計、操作、及び/又は製造され、及び/又は自然界には存在しないという点で、人工である1つ以上の実体であるか、又はその実体を含有する。一部の実施形態において、剤は、単離型又は純粋な型で利用されてもよく、一部の実施形態において、剤は、粗な型で利用されてもよい。一部の実施形態において、コレクション又はライブラリーとして候補剤が提供され、例えば、それらの中の活性剤を特定する、又は特徴解析するために、それらはスクリーニングされ得る。本発明に従い利用され得る剤の一部の特定の実施形態には、低分子、抗体、抗体断片、アプタマー、核酸(例えば、siRNA、shRNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム)、ペプチド、ペプチド模倣体などが含まれる。一部の実施形態において、剤は、ポリマーであるか、又はポリマーを含有する。一部の実施形態において、剤は、ポリマーではなく、及び/又はいずれのポリマーも実質的に無い。一部の実施形態において、剤は、少なくとも1つのポリマー部分を含有する。一部の実施形態において、剤は、いずれのポリマー部分も欠いているか、又は実質的に無い。
【0071】
向上:本明細書において使用される場合、状態の予防、減少、もしくは緩和、又は対象の状態の改善を指す。向上は、疾患、障害、又は状態(例えば、放射線傷害)の完全な回復又は完全な予防を含むが、必須ではない。
【0072】
動物:本明細書において使用される場合、動物界の任意のメンバーを指す。一部の実施形態において、「動物」とは、いずれかの性別、及び任意の成長段階のヒトを指す。一部の実施形態において、「動物」とは、任意の成長段階の非ヒト動物を指す。特定の実施形態において、非ヒト動物は、哺乳類(例えば、げっ歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、霊長類、及び/又はブタ)である。一部の実施形態において、動物は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫、及び/又は蠕虫を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態において、動物は、EBVの感染に感受性である。一部の実施形態において、動物は、トランスジェニック動物、遺伝子操作された動物、及び/又はクローンであってもよい。
【0073】
抗体:本明細書において使用される場合、当分野に理解されている意味を有しており、特定の抗原に特異的に結合するイムノグロブリン(Ig:immunoglobulin)を指す。当分野の当業者に理解されているように、自然に生成される抗体は、一般的に、2つの重鎖(H)と2つの軽鎖(L)の4つのポリペプチド鎖から構成される。重鎖と軽鎖の各々は、可変領域(本明細書において、それぞれ、HCVR又はVH、及びLCVR又はVLと省略される)、及び定常領域から構成される。重鎖の定常領域は、CH1ドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン(ならびに任意で、IgMとIgEの場合にはCH4ドメイン)を含有する。軽鎖の定常領域は、CLの1つのドメインから構成される。VH領域とVL領域はさらに、フレームワーク領域(FR:framework regions)と名付けられたより保存的な領域とともに散在している、相補性決定領域(CDR:complementarity determining regions)と名付けられた超可変領域を含有する。VHとVLの各々は、3つのCDRと4つのFRから構成されており、それらは以下の順序で、アミノ末端からカルボキシ末端へと配置されている。FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。イムノグロブリン分子は、任意の型(例えば、IgM、IgD、IgG、IgA及びIgE)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスであってもよい。
【0074】
抗体剤:本明細書において使用される場合、「抗体剤」という用語は、特定の抗原に特異的に結合する剤を指す。一部の実施形態において、当該用語は、特異的結合に寄与するために充分なイムノグロブリン構造要素を有する任意のポリペプチドを包含する。様々な実施形態において、適切な抗体剤としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、二特異性抗体又は多特異性抗体、単一ドメイン抗体(例えば、サメの単一ドメイン抗体(例えば、IgNAR又はその断片))、複合化抗体(すなわち、他のタンパク質、放射性標識、細胞毒素に複合体化されている、又は融合されている抗体)、Small Modular ImmunoPharmaceuticals(SMIPsTM)、一本鎖抗体、ラクダ抗体、抗体断片などが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、当該用語は、ステープルペプチド(stapled peptide)を指す場合がある。一部の実施形態において、当該用語は、抗体様結合ペプチド模倣体を指す場合がある。一部の実施形態において、当該用語は、抗体様結合結合スキャホールドタンパク質を指す場合がある。一部の実施形態において、当該用語は、モノボディ又はアドネクチン(adnectins)を指す場合がある。多くの実施形態において、抗体剤は、そのアミノ酸配列が、相補性決定領域(CDR)として当分野の当業者に認識されている構造要素を1つ以上含有するポリペプチドであるか、又はそのポリペプチドを含有する。一部の実施形態において、抗体剤は、そのアミノ酸配列が、基準抗体中に存在しているものと実質的に同一なCDRを少なくとも1つ(例えば、少なくとも1つの重鎖CDR及び/又は少なくとも1つの軽鎖CDR)含有するポリペプチドであるか、又はそのポリペプチドを含有する。一部の実施形態において、含有されるCDRは、基準CDRと比較して、配列が同一であるか、又は1~5個のアミノ酸置換を含有するかのいずれかの点で、基準CDRと実質的に同一である。一部の実施形態において、含有されるCDRは、基準CDRと、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を示す点で、基準CDRと実質的に同一である。一部の実施形態において、含有されるCDRは、基準CDRと、少なくとも96%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を示す点で、基準CDRと実質的に同一である。一部の実施形態において、含有されるCDRは、当該含有されるCDR内の少なくとも1つのアミノ酸が、基準CDRと比較して欠失している、付加されている、又は置換されているが、当該含有されるCDRは、その他では基準CDRのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を有しているという点で、基準CDRと実質的に同一である。一部の実施形態において、含有されるCDRは、当該含有されるCDR内の1~5個のアミノ酸が、基準CDRと比較して欠失している、付加されている、又は置換されているが、当該含有されるCDRは、その他では基準CDRのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を有しているという点で、基準CDRと実質的に同一である。一部の実施形態において、含有されるCDRは、当該含有されるCDR内の少なくとも1つのアミノ酸が、基準CDRと比較して置換されているが、当該含有されるCDRは、その他では基準CDRのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を有しているという点で、基準CDRと実質的に同一である。一部の実施形態において、含有されるCDRは、当該含有されるCDR内の1~5個のアミノ酸が、基準CDRと比較して欠失している、付加されている、又は置換されているが、当該含有されるCDRは、その他では基準CDRのアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を有しているという点で、基準CDRと実質的に同一である。一部の実施形態において、抗体剤は、そのアミノ酸配列がイムノグロブリン可変ドメインとして当分野の当業者に認識されている構造要素を含有しているポリペプチドであるか、又はそのポリペプチドを含有する。一部の実施形態において、抗体剤は、イムノグロブリン結合ドメインに対し相同であるか、又は大部分が相同である結合ドメインを有するポリペプチドタンパク質である。一部の実施形態において、抗体剤は、特定の基準抗体鎖(例えば、重鎖及び/又は軽鎖)中に存在するすべてのCDRを含有するポリペプチドであるか、又はそのポリペプチドを含有する。
【0075】
抗体構成要素:本明細書において使用される場合、エピトープ又は抗原に特異的に結合し、1つ以上のイムノグロブリン構造特性を含む、ポリペプチド要素(完全ポリペプチドであってもよく、又は例えば本明細書に記載される融合ポリペプチドなどのより大きなポリペプチドの一部であってもよい)を指す。概して、抗体構成要素は、そのアミノ酸配列が抗体結合領域の特徴的な要素(例えば、抗体軽鎖もしくはその可変領域もしくはその1つ以上の相補性決定領域(CDR)、又は抗体重鎖もしくはその可変領域もしくはそのもう1つのCDR、任意で1つ以上のフレームワークの存在下)を含んでいる任意のポリペプチドである。一部の実施形態において、抗体構成要素は、全長抗体であるか、又は全長抗体を含有する。一部の実施形態において、抗体構成要素は、全長未満であるが、少なくとも1つの結合部位を含有する(公知の抗体「可変領域」の構造を有する少なくとも1つ、及び好ましくは少なくとも2つの配列を含有する)。一部の実施形態において、「抗体構成要素」という用語は、イムノグロブリン結合ドメインに対し相同であるか、又は大部分が相同である結合ドメインを有する任意のタンパク質を包含する。特定の実施形態において、含有される「抗体構成要素」は、イムノグロブリン結合ドメインと少なくとも99%の同一性を示す結合ドメインを有するポリペプチドを包含する。一部の実施形態において、含有される「抗体構成要素」は、例えば基準イムノグロブリン結合ドメインなどのイムノグロブリン結合ドメインと、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は98%の同一性を示す結合ドメインを有する任意のポリペプチドである。含有される「抗体構成要素」は、天然源中に存在する抗体(又はその一部、例えばその抗原結合部分など)のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有していてもよい。抗体構成要素は、一特異性、二特異性、又は多特異性であってもよい。抗体構成要素は、ヒトのクラス:IgG、IgM、IgA、IgD、及びIgEのいずれかをはじめとする、任意のイムノグロブリンクラスの特徴である構造要素を含有してもよい。 抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片でも発揮され得ることが示されている。そのような抗体の実施形態は、二特異性、二重特異性、又は多特異性の形式;2つ以上の異なる抗原に対し特異的に結合する形式であってもよい。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)VHドメイン、VLドメイン、CH1ドメイン、及びCLドメインからなる一価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2つのFab断片を含有する二価断片であるF(ab')2断片、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の1つの腕のVHドメイン及びVLドメインからなるFv断片、(v)1つの可変ドメインを含有する、dAb断片(Ward ら, 1989, Nature 341:544-546)、及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインである、VH及びVLは、別々の遺伝子によりコードされているが、組み換え法を使用して、合成リンカーによりそれらをつなげることができる。当該リンカーによってそれらは、VH領域及びVL領域が対形成して一価分子を形成する、1つのタンパク質鎖となることができる(一本鎖Fv(scFv)として知られている。例えば、Bird ら、 1988, Science 242:423-426;及びHuston ら、 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-5883を参照のこと)。一部の実施形態において、本明細書に記載される「抗体構成要素」は、かかる一本鎖抗体であるか、又は一本鎖抗体を含有する。一部の実施形態において、「抗体構成要素」は、ダイアボディ(diabody)であるか、又はダイアボディを含有する。ダイアボディは、二価、二特異性の抗体であり、VHドメインとVLドメインが1つのポリペプチド鎖上で発現されているが、その同じ鎖の上で当該2つのドメインが対形成するには短すぎるリンカーを使用しており、そのため、当該ドメインは、他の鎖の相補的ドメインと対形成し、2つの抗原結合部位を生じさせる(例えば、Holliger, P.ら、 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6444-6448; Poljak, R. J.ら、 1994, Structure 2:1121-1123を参照のこと)。かかる抗体結合部分は当分野に公知である(Kontermann 及び Dubel 編, Antibody Engineering, 2001, Springer-Verlag. New York. 790 pp. ISBN 3-540-41354-5)。一部の実施形態において、抗体構成要素は、相補的軽鎖ポリペプチドとともに一対の抗原結合領域を形成する、一対のタンデムFvセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含有する一本鎖「直線状抗体(linear antibody)」であるか、それを含有する(Zapata ら、 1995, Protein Eng. 8(10):1057-1062;及び米国特許第5,641,870号)。一部の実施形態において、抗体構成要素は、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体の特徴である構造要素を有していてもよい。概して、ヒト化抗体は、ヒトイムノグロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望される特異性、アフィニティ、及び能力を有する例えばマウス、ラット又はウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基と置き換えられている。一部の実施形態において、抗体構成要素は、ヒト抗体の特徴である構造要素を有していてもよい。
【0076】
抗体断片:本明細書において使用される場合、「抗体断片」は、例えば抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、損なわれていない抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、及びFv断片;トリアボディ;テトラボディ;直線状抗体;一本鎖抗体分子;及び抗体断片から形成された多特異性抗体に含有されるCDR含有部分が挙げられる。当分野の当業者であれば、「抗体断片」が、任意の特定の製造方式を示唆せず、及びそれに限定されないことを認識するであろう。抗体断片は、適切な技法のいずれかを使用することで製造することができ、技法としては、損なわれていない抗体の切断、化学合成、組み換え作製が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
生物活性:本明細書において使用される場合、対象の剤又は実体により得られる、観察可能な生物学的効果又は結果を指す。例えば、一部の実施形態において、特異的結合相互作用は、生物活性である。一部の実施形態において、生物学的経路又は事象の調節(例えば、誘導、増強、又は阻害)は、生物活性である。一部の実施形態において、生物活性の存在又は規模は、対象の生物学的経路又は事象により産生される産物の直接的又は間接的な検出により評価される。
【0078】
二特異性抗体:本明細書において使用される場合、結合部分のうちの少なくとも1つ、典型的には両方が、抗体構成要素である、又は抗体構成要素を含有する、二特異性結合剤を指す。様々な異なる二特異性抗体構造が当分野に公知である。一部の実施形態において、抗体構成要素である、又は抗体構成要素を含有する二特異性抗体中の各結合部分は、VH領域及び/又はVL領域を含む。かかる一部の実施形態において、VH領域及び/又はVL領域は、特定のモノクローナル抗体中に存在する領域である。一部の実施形態において、二特異性抗体は、2つの抗体構成要素-結合部分を含有しており、各々、異なるモノクローナル抗体由来のVH領域及び/又はVL領域を含む。一部の実施形態において、二特異性抗体は、二量体二特異性抗体である。
【0079】
二特異性結合剤:本明細書において使用される場合、2つの別個の結合部分を有するポリペプチド剤を指し、それら各々が、明確に異なる標的に結合する。一部の実施形態において、二特異性結合剤は、1つのポリペプチドである。一部の実施形態において、二特異性結合剤は、複数のペプチドであり、又は複数のペプチドを含有しており、当該ペプチドはかかる一部の実施形態において、例えば架橋などにより互いに共有結合されていてもよい。一部の実施形態において、二特異性結合剤の2つの結合部分は、異なる部位(例えば、エピトープ)の同じ標的(例えば、抗原)を認識し、一部の実施形態においては、異なる標的を認識する。一部の実施形態において、二特異性結合剤は、同時に2つの標的に結合することができ、それら標的は異なる構造をしている。
【0080】
担体:本明細書において使用される場合、組成物とともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。一部の例示的な実施形態において、担体としては、滅菌された液体、例えば水及び油が挙げられ、油には、石油、動物、植物、又は合成を起源とする油が挙げられ、例えばピーナッツ油、石油、大豆油、鉱物油、ごま油などがある。一部の実施形態において、担体は、1つ以上の固形成分であるか、又は1つ以上の固形成分を含有する。
【0081】
CDR:本明細書において使用される場合、抗体可変領域内の相補性決定領域を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域の各々には3つのCDRが存在し、それらは各可変領域に対し、CDR1、CDR2、及びCDR3と指定されている。「CDRのセット」又は「CDRセット」とは、抗原に結合することができるいずれか1つの可変領域内に存在する3つ又は6つのCDRの群、又は抗原に結合することができる同源の重鎖及び軽鎖の可変領域のCDRの群を指す。CDRの境界は、系に依存して異なって定義され、当該系は、当分野において数種が公知である(例えば、Kabat、Chothiaなど)。
【0082】
CDR移植抗体:本明細書において使用される場合、そのアミノ酸配列が、1つの種由来の重鎖及び軽鎖の可変領域配列を含有するが、その1つ以上のVH 及び/又はVLのCDR領域の配列が、別の種のCDR配列と置き換えられている抗体を指し、例えば、その1つ以上のマウスCDR(例えば、CDR3)が、ヒトのCDR配列と置き換えられているマウスのVH とVL領域を有する抗体などがある。同様に、「CDR移植抗体」はまた、その1つ以上のヒトCDR(例えば、CDR3)がマウスCDR配列と置き換えられている、ヒト VHと VL領域を有する抗体を指す場合もある。
【0083】
キメラ抗体:本明細書において使用される場合、そのアミノ酸配列が、第一の種に存在するVHと VL領域配列、及び第一の種とは異なる第二の種に存在する定常領域配列を含む、抗体を指す。多くの実施形態において、キメラ抗体は、ヒト定常領域に連結されたマウスVH及びVL領域を有している。一部の実施形態において、非ヒト定常領域(例えば、マウス定常領域)に連結されたヒトVH及び VL領域を伴う抗体は、「逆キメラ抗体」と呼称される。
【0084】
同等:本明細書において使用される場合、互いに同一ではないが、それらを比較するには充分な類似性があり、それによって、観察された差異又は類似性に基づき合理的に結論を下すことができる、2つ以上の剤、実体、状況、条件のセットなどを指す。当分野の当業者であれば、文脈において、2つ以上のかかる剤、実体、状況、条件のセットなどが、任意の所与の環境下で同等とみなされるためにはどの程度の同一性が必要とされるかを理解するであろう。
【0085】
対照:本明細書において使用される場合、それに対し結果が比較される標準である「対照」の当分野に理解される意味を指す。典型的には、対照を使用して、変数を単離し、かかる変数に関する結論を出すことにより、実験における完全性を増補する。一部の実施形態において、対照は、比較物を提供するために被験反応又は被験アッセイと同時に行われる反応又はアッセイである。本明細書において使用される場合、「対照」とは、「対照抗体」を指す場合もある。「対照抗体」は、本明細書に記載されるヒト抗体、非ヒト(例えばマウス)抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、CDR移植抗体、多特異性抗体もしくは二特異性抗体、本明細書に記載されるものとは異なる抗体、抗体断片もしくは抗体構成要素、又は親抗体であってもよい。1つの実施形態において、「検証」(すなわち検証される変数)が適用される。第二の実験において、「対照」である、検証される変数には適用されない。一部の実施形態において、対照は、ヒストリカル対照である(すなわち、従前に行われた検査又はアッセイの対照、又は従前に知られている量又は結果の対照)。一部の実施形態において、対照は、印刷された記録、又は他の手段で保存された記録であるか、又はそれらを含有する。対照は、陽性対照又は陰性対照であってもよい。
【0086】
~に相当する:ポリペプチド配列内のアミノ酸に関して本明細書において使用された場合、対象ポリペプチド中のアミノ酸残基の位置/同一性を指定する。当業者であれば、単純性を目的として、ポリペプチド中の残基は多くの場合、ポリペプチドに関した基準に基づく正準ナンバリングシステムを使用して指定され、それによって、例えば190位の残基に「相当する」アミノ酸は、実際には必ずしも特定のアミノ酸鎖中の190番目のアミノ酸ではなく、むしろ基準ポリペプチド中の190番目に存在する残基に相当することを認識するであろう。当分野の当業者であれば、どのようにして「相当する」アミノ酸を特定するか、容易に認識するであろう。
【0087】
エフェクター機能:本明細書において使用される場合、抗体Fc領域と、Fc受容体又はリガンドの相互作用から生じる生化学的事象を指す。エフェクター機能としては、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC:antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity)、抗体依存性細胞介在性貪食(ADCP:antibody-dependent cell-mediated phagocytosis)、及び補体介在性細胞傷害(CMC:complement-mediated cytotoxicity)が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、エフェクター機能は、抗原結合後に作動するもの、抗原結合とは無関係に作動するもの、又はその両方である。
【0088】
エフェクター細胞:本明細書において使用される場合、1つ以上のFc受容体を発現し、1つ以上のエフェクター機能を介在する免疫系の細胞を指す。一部の実施形態において、エフェクター細胞としては、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、血小板、大型顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、Tリンパ球、Bリンパ球のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されず、ならびにヒト、マウス、ラット、ウサギ、及びサルをはじめとする任意の起源に由来し得るが、これらに限定されない。
【0089】
遺伝子操作された:本明細書において使用される場合、概して、ヒトの手により操作される態様を指す。例えば、一部の実施形態において、ポリヌクレオチドは、自然にはその順序で共に連結されていない2つ以上の配列が、ヒトの手により操作され、遺伝子操作されたポリヌクレオチド中で互いに直接連結されている場合、「遺伝子操作された」とみなされ得る。一部の特定のかかる実施形態において、遺伝子操作されたポリヌクレオチドは、自然界において、第一のコード配列と操作的関連性で存在しているが、第二のコード配列とは操作的関連性では存在しておらず、ヒトの手により連結され、それによって、第二のコード配列とも操作的に関連された制御性配列を含有し得る。あるいは、又はさらに、一部の実施形態において、各々自然界では互いに連結していないポリペプチド要素又はドメインをコードしている第一及び第二の核酸配列が、1つの改変ポリヌクレオチド中で連結されてもよい。同様に、一部の実施形態において、細胞又は生物体は、操作されて、その遺伝子情報が変化した(例えば、以前には存在していなかった新たな遺伝物質が導入された、又は以前には存在していた遺伝物質が変更され、又は除去された)場合、「遺伝子操作された」とみなされ得る。一般的な方法であり、当分野の当業者に理解されているように、遺伝子操作されたポリヌクレオチド又は細胞の子孫物は、実際の操作が従前の実体に対して行われたのだとしても、典型的にはまだ「遺伝子操作された」と呼称される。さらに、当分野の当業者には認識されているように、様々な技法が利用可能であり、それを介して、本明細書に記載されている「遺伝子操作」が達成され得る。例えば、一部の実施形態において、「遺伝子操作」は、解析又は比較を行うようプログラムされたコンピューターシステムの使用を介した(例えば、核酸配列、ポリペプチド配列、細胞、組織、及び/又は生物体などの)選択又は設計を含んでもよく、又は別の手段で配列や改変等の解析、推奨、及び/又は選択を含んでもよい。あるいは、又はさらに、一部の実施形態において、「遺伝子操作」とは、in vitroの化学合成法、及び/又は例えば(ポリメラーゼ鎖反応などを介した)核酸増幅、ハイブリダイゼーション、突然変異誘発、形質転換、トランスフェクションなどの組み換え核酸法、及び/又は任意の様々な制御された交配法の使用を含んでもよい。当分野の当業者に認識されているように、そのような様々な確立された技法(例えば、組み換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、ならびに組織培養及び形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクションなど))が当分野に公知であり、それらは本明細書全体を通して引用、及び/又は検討されている様々な概論及びより具体的な参考文献において記載されている。例えば、Sambrook ら、 Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)を参照のこと。
【0090】
エピトープ:本明細書において使用される場合、イムノグロブリン(又は抗体又は受容体)結合構成要素により特異的に認識される任意の部分を含む。一部の実施形態において、エピトープは、抗原上の複数の化学的原子又は基から構成される。一部の実施形態において、かかる化学的原子又は基は、抗原が関連3次元構造をとったときに表面に露出される。一部の実施形態において、かかる化学的原子又は基は、抗原がかかる構造をとったときに、空間において互いに物理的に近くなる。一部の実施形態において、少なくともいくつかのかかる化学的原子及び基は、抗原が別の構造(例えば、直線化)をとったとき、互いに物理的に離れる。
【0091】
賦形剤:本明細書において使用される場合、例えば所望される濃度又は安定の効果を提供するため、又は付与するために医薬組成物中に含有され得る非治療剤を指す。適切な薬学的賦形剤としては、例えば、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、イネ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、滑石、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0092】
Fcリガンド:本明細書において使用される場合、抗体のFc領域に結合し、Fc-リガンド複合体を形成する、任意の生物体由来の分子、好ましくはポリペプチドを指す。Fcリガンドとしては、FcγRIIA (CD32A)、FcγRIIB (CD32B)、FcγRIIIA (CD16A)、FcγRIIIB (CD16B)、FcγRI (CD64)、FcεRII (CD23)、FcRn、Clq、C3、ブドウ球菌プロテインA、連鎖球菌プロテインG、及びウイルスFcγRが挙げられるが、これらに限定されない。Fcリガンドは、Fcに結合する未発見の分子も含み得る。
【0093】
フレームワーク又はフレームワーク領域:本明細書において使用される場合、可変領域からCDRを差し引いた配列を指す。CDR配列は、異なるシステムにより決定され得る。同様に、フレームワーク配列も相応して、別の解釈の対象となる。6つのCDRは、重鎖及び軽鎖上のフレームワーク領域を、各鎖上の4つの副領域(FR1、FR2、FR3、及びFR4)へと分割し、その中でCDR1はFR1とFR2の間に位置し、CDR2はFR2とFR3の間に位置し、そしてCDR3はFR3とFR4の間に位置する。特定の副領域をFR1、FR2、FR3、又はFR4と規定することはないが、他で言及されているように、フレームワーク領域とは、1つの天然イムノグロブリン鎖の可変領域内の混合FRを現わしている。本明細書において使用される場合、FRは、4つの副領域のうちの1を表しており、例えばFR1は、可変領域のアミノ末端最も近く、及びCDR1に関しては5'の最初のフレームワーク領域を表し、FRsは、フレームワーク領域を構成する副領域のうちの2つ以上を表している。
【0094】
宿主細胞:本明細書において使用される場合、外因性DNAが(組み換え、又はその他で)導入される細胞を指す。本開示を読んだ当業者であれば、かかる用語が、特定の対象の細胞だけではなく、かかる細胞の子孫物も指すことを理解するであろう。突然変異誘発又は環境の影響のいずれかによって、後の世代に若干の改変が発生し得るため、かかる子孫物は、実際には、親細胞と同一ではない場合もあるが、本明細書に使用されている場合、「宿主細胞」という用語の範囲内にいまだ含まれる。一部の実施形態において、宿主細胞は、外因性DNA(例えば、組み換え核酸配列)の発現に適した生命界のいずれかから選択される原核細胞及び真核細胞を含む。例示的な細胞としては、原核生物及び真核生物(単細胞又は多細胞)の細胞、細菌細胞(例えば、E.coli、Bacillus spp.、Streptomyces spp.の株)、マイコバクテリウム細胞、真菌細胞、酵母細胞(例えば、S. cerevisiae、S. pombe、P. pastoris、P. methanolicaなど)、植物細胞、昆虫細胞(例えば、SF-9、SF-21、バキュロウイルス感染昆虫細胞、Trichoplusia niなど)、非ヒト動物細胞、ヒト細胞、又は例えばハイブリドーマもしくはクアドローマなどの細胞融合物が挙げられる。一部の実施形態において、宿主細胞は、ヒト、サル、類人猿、ハムスター、ラット、又はマウスの細胞である。一部の実施形態において、宿主細胞は、真核細胞であり、以下の細胞から選択される:CHO (例えば、CHO Kl、DXB-1 1 CHO、Veggie-CHO)、COS (例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero、CV1、腎臓(例えば、HEK293、293 EBNA、MSR 293、MDCK、HaK、BHK)、HeLa、HepG2、WI38、MRC 5、Colo205、HB 8065、HL-60、(例えば、BHK21)、Jurkat、Daudi、A431 (表皮)、CV-1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT 060562、Sertoli細胞、BRL 3 A細胞、HT1080細胞、ミエローマ細胞、腫瘍細胞、及び前述の細胞から誘導された細胞株。一部の実施形態において、宿主細胞は、1つ以上のウイルス遺伝子を含有し、例えばウイルス遺伝子を発現する網膜細胞(例えば、PER.C6(商標) cell細胞)などである。
【0095】
ヒト抗体:本明細書において使用される場合、ヒトイムノグロブリン配列から生成された(又はアセンブリされた)可変領域と定常領域を有する抗体を含むことが意図される。一部の実施形態において、抗体(又は抗体構成要素)は、例えば1つ以上のCDR及び特にCDR3において、そのアミノ酸配列がヒト生殖イムノグロブリン配列によりコードされない残基又は要素を含む場合であっても(例えば、in vitroの無作為もしくは部位特異的な突然変異誘発、又はin vivoの体細胞変異により(元々)導入された配列変化を含む)、「ヒト」であるとみなされる場合がある。
【0096】
ヒト化:当分野において知られているように、「ヒト化」という用語は、そのアミノ酸配列が、非ヒト種(例えばマウス)で惹起された基準抗体に由来するVH領域及びVL領域の配列を含むが、それら配列中に、より「ヒト様」、すなわち、ヒト生殖系可変配列にそれらをより類似させることを意図された、基準抗体と比較して改変を含む、抗体(又は抗体構成要素)を指すために普遍的に使用されている。一部の実施形態において、「ヒト化」抗体(又は抗体構成要素)は、免疫特異的に対象抗原に結合し、実質的にヒト抗体と同様のアミノ酸配列を有するフレームワーク(FR)領域を有し、及び実質的に非ヒト抗体と同様のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を有する抗体である。ヒト化抗体は、少なくとも1つ、及び典型的には2つの可変ドメインのうちの実質的にすべてを含有し(Fab、Fab'、F(ab')2、FabC、Fv)、それらにおいて、CDR領域のすべて又は実質的にすべてが、非ヒトイムノグロブリン(すなわち、ドナーイムノグロブリン)のそれに相当し、及びフレームワーク領域のすべて又は実質的にすべてが、ヒトイムノグロブリンのコンセンサス配列のそれである。一部の実施形態において、ヒト化抗体はまた、イムノグロブリン定常領域(Fc)のうちの少なくとも一部、典型的にはヒトイムノグロブリン定常領域の少なくとも一部も含有する。一部の実施形態において、ヒト化抗体は、軽鎖、ならびに重鎖の少なくとも可変ドメインの両方を含有する。抗体はまた、重鎖定常領域のCH1、ヒンジ、CH2、CH3、及び任意でCH4領域を含有してもよい。一部の実施形態において、ヒト化抗体は、ヒト化VL領域のみを含有する。一部の実施形態において、ヒト化抗体は、ヒト化VH領域のみを含有する。一部の特定の実施形態において、ヒト化抗体は、ヒト化VH領域及びVL領域を含有する。
【0097】
改善、増加又は低下:本明細書において使用される場合、又はその文法的な均等は、例えば本明細書に記載される治療の開始前の同個体における測定値、又は本明細書に記載される治療を行っていない対照個体(又は複数の対照個体)における測定値などの基準測定値に対する相対的な値を示す。「対照個体」は、治療される個体と同型の疾患又は傷害に罹患している個体である。
【0098】
In vitro:本明細書において使用される場合、多細胞生物体内ではなく、例えば試験管中又は反応管中、細胞培養中などの人工的な環境中で発生する事象を指す。
【0099】
In vivo:本明細書において使用される場合、例えばヒト及び非ヒト動物などの多細胞生物体内で発生する事象を指す。細胞ベースの系との関連において、当該用語を使用して、(例えばin vitro系との対語として)生きている細胞内で発生する事象を指す場合もある。
【0100】
単離された:本明細書において使用される場合、(1)(自然界、及び/又は実験的設定のいずれでも)最初に生成されたときに関連付けられていた構成要素の少なくとも一部から分離された、ならびに/又は(2)ヒトの手により設計、生成、調製、及び/もしくは製造された、物質ならびに/又は実体を指す。単離された物質、及び/又は実体は、それらが最初に関連づけられていた他の構成要素の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、又は約99%超から分離されていてもよい。一部の実施形態において、単離された剤は、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%, 又は約99%超の純度である。本明細書において使用される場合、物質は、他の構成要素が実質的に無い場合、「純粋」である。一部の実施形態において、当分野の当業者に理解されているように、物質は、例えば1つ以上の担体又は賦形剤(例えば、緩衝剤、溶媒、水など)のような特定の他の構成要素と組み合わされた後でも、「単離された」又はさらには「純粋」とみなされることができる。そのような実施形態において、物質の単離割合、又は純度は、かかる担体又は賦形剤を含まずに算出される。1つの例ではあるが、一部の実施形態におて、例えば自然界に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチドなどの生物ポリマーは、a)その誘導の起源又は源を理由として、自然界において、自然状態でそれと付随する構成要素のすべて又は一部と関連づけられていない場合、b)自然界において、それを生成する種と同じ種の他のポリペプチド又は他の核酸が実質的に無い場合、c)自然界においてそれを生成する種のものではない細胞又は他の発現システムに由来する構成要素により発現されている場合、又はその構成要素と別手段で関連づけられている場合に、「単離されている」とみなされる。したがって、例えば一部の実施形態において、化学的に合成された、又は自然界においてそれを生成するものとは異なる細胞システム中で合成された、ポリペプチドは、「単離された」ポリペプチドであるとみなされる。あるいは、又はさらに、一部の実施形態において、1つ以上の精製法に供されたポリペプチドは、a)自然界において関連づけられている他の構成要素から分離されている限り、及び/又は最初に生成されたときに関連づけられていた他の構成要素から分離されている限り、「単離された」ポリペプチドであるとみなされることができる。
【0101】
KA:本明細書において使用される場合、結合剤(例えば、抗体剤又はその結合構成要素など)とそのパートナー(例えば、抗体剤又はその結合構成要素が結合するエピトープなど)との複合体からの結合(又はアフィニティ)定数を指す。
【0102】
KD:本明細書において使用される場合、結合剤(例えば、抗体剤又はその結合構成要素など)とそのパートナー(例えば、抗体剤又はその結合構成要素が結合するエピトープなど)との複合体からの解離定数を指す。
【0103】
koff:本明細書において使用される場合、結合剤(例えば、抗体剤又はその結合構成要素など)とそのパートナー(例えば、抗体剤又はその結合構成要素が結合するエピトープなど)との複合体からの解離に対する解離速度定数を指す。
【0104】
kon:本明細書において使用される場合、結合剤(例えば、抗体剤又はその結合構成要素など)とそのパートナー(例えば、抗体剤又はその結合構成要素が結合するエピトープなど)との結合に対する結合速度定数を指す。
【0105】
リンカー:本明細書において、異なる要素を互いにつなげる、多要素ポリペプチドの部分を指す。例えば、当分野の当業者であれば、その構造が2以上の機能性ドメイン又は組織的ドメインを含有するポリペプチドは多くの場合、かかるドメインの間に、それらを互いに連結するアミノ酸の連続配列を含有していることを認識している。一部の実施形態において、リンカー要素を含有するポリペプチドは、一般的な形式としてS1-L-S2の全体構造を有しており、ここでS1とS2は、同じであっても、異なっていてもよく、及びリンカーにより互いに結合された2つのドメインを表している。一部の実施形態において、リンカーは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100又はそれ以上のアミノ酸の長さである。一部の実施形態において、リンカーは、硬い3次元構造をとる傾向はなく、むしろポリペプチドに対し柔軟性を与える傾向にあるという点で特徴づけられる。ポリペプチド(例えば融合ポリペプチド)を遺伝子操作するときに適切に使用され得る、様々な異なるリンカー要素が当分野に公知である(例えば、Holliger, P.ら、 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:6444-6448; Poljak, R. J. ら、 1994, Structure 2:1121-1123を参照のこと)。
【0106】
多価結合剤(又は多特異性結合剤):本明細書において使用される場合、2つ以上の抗原に結合することができる結合剤を指し、それら抗原は、同じ分子上であっても、異なる分子上にあってもよい。本明細書に記載される多価結合剤は、一部の実施形態において、2以上の抗原結合部位を有するよう遺伝子操作され、及び典型的には、天然タンパク質ではない。本明細書に記載される場合、多価結合剤とは、2つ以上の関連標的又は非関連標的に結合することができる結合剤を指す。多価結合剤は、単一の抗体構成要素の複数のコピーから構成されていてもよく、又は異なる抗体構成要素の複数のコピーから構成されていてもよい。かかる結合剤は、2つ以上の抗原に結合することができ、及び四価結合剤又は多価結合剤である。多価結合剤はさらに、例えば免疫調節物質、毒素、又はRNaseなどの治療剤を含有してもよい。本明細書に記載される多価結合剤は、一部の実施形態において、異なる構造の少なくとも2つの標的、例えば2つの異なる抗原、同一抗原上の2つの異なるエピトープに同時に結合することができ、又はハプテン及び/又は抗原もしくはエピトープに同時に結合することができる。多くの実施形態において、本発明の多価結合剤は、本明細書に記載される多価結合剤の特徴を有するよう遺伝子操作されたタンパク質である。本発明の多価結合剤は、一特異的(1つの抗原に結合することができる)又は多特異的(2つ以上の抗原に結合することができる)であってもよく、及び2つの重鎖ポリペプチドと2つの軽鎖ポリペプチドから構成されていてもよい。各結合部位は、一部の実施形態において、1つの抗原結合部位当たり、抗原結合に関与する総数で6個のCDRを有する、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインから構成される。
【0107】
核酸:本明細書において使用される場合、最も広い意味において、オリゴヌクレオチド鎖に組み込まれる、又は組み込まれることができる任意の化合物及び/又は物質を指す。一部の実施形態において、核酸は、ホスホジエステル結合を介してオリゴヌクレオチド鎖に組み込まれる、又は組み込まれることができる化合物及び/又は物質である。文脈から明らかであるように、一部の実施形態において、「核酸」とは、個々の核酸残基(例えば、ヌクレオチド及び/又はヌクレオシド)を指す。一部の実施形態においては、「核酸」とは、個々の核酸残基を含有するオリゴヌクレオチド鎖を指す。一部の実施形態において、「核酸」は、RNAであるか、又はRNAを含有する。一部の実施形態においては、「核酸」は、DNAであるか、又はDNAを含有する。一部の実施形態において、核酸は、1つ以上の天然核酸残基であるか、1つ以上の天然核酸残基を含有するか、又は1つ以上の天然核酸残基からなる。一部の実施形態において、核酸は、1つ以上の核酸アナログであるか、1つ以上の核酸アナログを含有するか、又は1つ以上の核酸アナログからなる。一部の実施形態において、核酸アナログは、ホスホジエステル主鎖を使用していないという点で、核酸とは異なっている。例えば、一部の実施形態において、核酸は、1つ以上の「ペプチド核酸」であるか、それを含有するか、又はそれからなる。ペプチド核酸は、当分野において公知であり、主鎖中にホスホジエステル結合の代わりにペプチド結合を有しており、本発明の範囲内にあるとみなされる。あるいは、又はさらに、一部の実施形態において、核酸は、ホスホジエステル結合ではなく、1つ以上のホスホロチオエート結合及び/又は5'-N-ホスホラミダイト結合を有している。一部の実施形態において、核酸は、1つ以上の天然ヌクレオシド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、およびデオキシシチジンなど)であるか、それらを含有するか、又はそれらからなる。一部の実施形態において、核酸は、1つ以上のヌクレオシドアナログ(例えば、2-アミノアデノシン、2-チオチミジン、イノシン、ピロロ-ピリミジン、3-メチルアデノシン、5-メチルシチジン、C-5プロピニル-シチジン、C-5プロピニル-ウリジン、2-アミノアデノシン、C5-ブロモウリジン、C5-フルオロウリジン、C5-ヨードウリジン、C5-プロピニル-ウリジン、C5-プロピニル-シチジン、C5-メチルシチジン、2-アミノアデノシン、7-デアザアデノシン、7-デアザグアノシン、8-オキソアデノシン、8-オキソグアノシン、0(6)-メチルグアニン、2-チオシチジン、メチル化塩基、挿入塩基、およびそれらの組み合わせ)であるか、それらを含有するか、又はそれらからなる。一部の実施形態において、核酸は、天然核酸のものと比較して、1つ以上の修飾糖(例えば、2'-フルオロリボース、リボース、2'-デオキシリボース、アラビノース、およびヘキソース)を含有する。一部の実施形態において、核酸は、例えばRNA又はタンパク質などの機能性遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を有する。一部の実施形態において、核酸は、1つ以上のイントロンを含む。一部の実施形態において、核酸は、天然源から単離、相補性鋳型に基づいた重合による(in vivo又はin vitroの)酵素的合成、組み換え細胞又は組み換え系での複製、及び化学合成のうちの1つ以上により調製される。一部の実施形態において、核酸は、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、1 10、120、130、140、150、160、170、180、190、20、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000以上の残基の長さである。一部の実施形態において、核酸は一本鎖である。一部の実施形態においては、核酸は二本鎖である。一部の実施形態において核酸は、ポリペプチドをコードする要素を少なくとも1つ含有するヌクレオチド配列を有しているか、又はポリペプチドをコードする配列の相補鎖である。一部の実施形態において、核酸は、酵素活性を有している。
【0108】
操作可能に連結された:本明細書において使用される場合、記載される構成要素が、それらの意図される様式でそれらが機能することが可能となる関係性にある並置を指す。コード配列に「操作可能に連結された」制御配列は、コード配列の発現が、その制御配列に適合した条件下で達成されるようにライゲートされている。「操作可能に連結された」配列としては、対象遺伝子と隣接する発現制御配列、及びトランス型又は離れて作用して前記対象遺伝子を制御する発現制御配列の両方を含む。本明細書において使用される場合、「発現制御配列」という用語は、それらがライゲートされているコード配列の発現及びプロセッシングを生じさせるために必要なポリヌクレオチド配列を指す。発現制御配列としては、適切な転写開始配列、終結配列、プロモーター配列、及びエンハンサー配列;例えばスプライシングシグナル及びポリアデニル化シグナルなどの、効果的なRNAプロセッシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を増強させる配列(すなわち、Kozakコンセンサス配列);タンパク質の安定性を増強させる配列;及び所望の場合にはタンパク質の分泌を増強させる配列、があげられる。かかる制御配列の性質は、宿主生物体によって異なる。例えば、原核生物では、かかる制御配列は通常、プロモーター、リボソーム結合部位、及び転写終結配列を含有する一方で、真核生物は、多くの場合、かかる制御配列は、プロモーター及び転写終結配列を含有する。「制御配列」という用語は、その存在が、発現及びプロセッシングに必須である構成要素を含むことが意図されており、及びまた、その存在が有益である追加の構成要素、例えばリーダー配列及び融合パートナー配列を含んでもよい。
【0109】
ペプチド:本明細書において使用される場合、ペプチドとは、典型的には比較的短い、例えば約100アミノ酸未満、約50アミノ酸未満、20アミノ酸未満、又は10アミノ酸未満の長さを有するポリペプチドを指す。一部の実施形態において、ペプチドは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15アミノ酸の長さである。
【0110】
生理学的条件:本明細書において使用される場合、細胞又は生物体が、生存及び/又は繁殖する条件を指す、当分野に理解されている意味を有する。一部の実施形態において、当該用語は、生物体又は細胞系に対し、自然界で発生し得る外部環境又は内部環境の条件を指す。一部の実施形態において、生理学的条件は、ヒト又は非ヒト動物の身体内に存在するそれら条件であり、特に手術部位に、及び/又は手術部位内に存在するそれら条件である。生理学的条件は、典型的には、20~40℃の温度範囲、1の大気圧、6~8のpH、1~20mMのグルコース濃度、大気中レベルでの酸素濃度、及び地上で直面する際の重力などがあげられる。一部の実施形態において、実験室の条件は、生理学的条件で操作され、及び/又は維持される。一部の実施形態において、生理学的条件は、生物体中で直面する。
【0111】
ポリペプチド:本明細書において使用される場合、アミノ酸の任意のポリマー鎖を指す。一部の実施形態において、ポリペプチドは、自然界に存在するアミノ酸配列を有する。一部の実施形態において、ポリペプチドは、自然界に存在しないアミノ酸配列を有する。一部の実施形態において、ポリペプチドは、ヒトの手の作用を介して設計された、及び/又は生成されたという点で、遺伝子操作されているアミノ酸配列を有する。一部の実施形態において、ポリペプチドは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又はその両方を含有してもよく、又はそれらからなっていてもよい。一部の実施形態において、ポリペプチドは、天然アミノ酸のみ、又は非天然アミノ酸のみを含有してもよく、又はそれらのみからなっていてもよい。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D-アミノ酸、L-アミノ酸、又はその両方を含有してもよい。一部の実施形態において、ポリペプチドは、D-アミノ酸のみを含有してもよい。一部の実施形態において、ポリペプチドは、L-アミノ酸のみを含有してもよい。一部の実施形態において、ポリペプチドは、例えばポリペプチドのN末端、ポリペプチドのC末端、もしくはそれらの任意の組み合わせで、1つ以上のペンダント基を含有していてもよく、又は1つ以上のアミノ酸側鎖に対する修飾、又はそれらに付加されるなどの、他の修飾を含有していてもよい。一部の実施形態において、かかるペンダント基又は修飾は、それらの組み合わせを含む、アセチル化、アミド化、脂質化、メチル化、ペグ化などからなる群から選択されてもよい。一部の実施形態において、ポリペプチドは、環状であってもよく、及び/又は環状部分を含有してもよい。一部の実施形態において、ポリペプチドは、環状ではなく、及び/又はいずれの環状部分も含有しない。一部の実施形態において、ポリペプチドは直線状である。一部の実施形態において、ポリペプチドは、ステープル化ポリペプチドであってもよく、又はステープル化ポリペプチドを含有してもよい。一部の実施形態において、「ポリペプチド」という用語は、基準ポリペプチドの名称、活性、又は構造に加えられてもよい。かかる例において、本明細書においてそれを使用し、関連活性又は構造を共有するポリペプチドを指し、それによって、同じクラス又はファミリーのポリペプチドのメンバーであるとみなされ得る。本明細書は、そのようなクラスの各々を提供し、及び/又は当分野の当業者は、そのアミノ酸配列及び/又は機能が公知であるクラス内の例示的なポリペプチドを認識している。一部の実施形態において、そのような例示的なポリペプチドは、当該ポリペプチドのクラスに対し、基準のポリペプチドである。一部の実施形態において、ポリペプチドのクラス又はファミリーのメンバーは、当該クラスの基準ポリペプチドと、及び一部の実施形態では当該クラス内のすべてのポリペプチドと、高い配列相同性又は同一性を示し、共通の配列モチーフ(例えば、特徴的な配列要素)を共有し、及び/又は(一部の実施形態では、同等レベルの、又は指定された範囲内の)共通の活性を共有している。例えば、一部の実施形態において、メンバーのポリペプチドは、少なくとも約30~40%、及びしばしば、約50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の基準ポリペプチドとの配列相同性又は同一性の全体的な程度を示し、及び/又はしばしば90%を超える、又はさらには95%、96%、97%、98%、又は99%よりも高い、非常に高い配列同一性を示す、少なくとも1つの領域(すなわち、一部の実施形態において、特徴的な配列要素であり得る、又は特徴的な配列要素を含有し得る、保存領域)を含有する。かかる保存領域は通常、少なくとも3~4、多くの場合には最大で20以上のアミノ酸を包含する。一部の実施形態において、保存領域は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15以上の連続したアミノ酸の少なくとも1つの連続配列を包含する。一部の実施形態において、有用なポリペプチドは、親ポリペプチドの断片を含有してもよく、又は親ポリペプチドの断片からなっていてもよい。一部の実施形態において、有用なポリペプチドは、複数の断片を含有し、又は複数の断片からなっている。それら断片の各々が、互いに関して、対象のポリペプチド中で存在する場合とは異なる空間配置で、同じ親ポリペプチド中に存在している(例えば、親では直接連結されていた断片が、対象のポリペプチド中では空間的に分離されている場合もあり、逆もまた然りである。及び/又は断片は、対象のポリペプチドにおいて、親ポリペプチドとは異なる順序で存在している場合もある)。それによって、対象ポリペプチドは、その親ポリペプチドの派生物である。
【0112】
予防する又は予防:本明細書において疾患、障害、及び/又は状態の発生と関連づけて使用される場合、当該疾患、障害、及び/又は状態の発現リスクを低下させること、ならびに当該疾患、障害、及び/もしくは状態の特徴又は症状の1つ以上の発症を遅延させること、を指す。予防は、疾患、障害、又は状態の発症が、既定の期間、遅延された場合には、完了とみなされ得る。
【0113】
組換え体:本明細書において使用される場合、組み換え手段により設計、遺伝子操作、調製、発現、生成、又は単離されたポリペプチド(例えば、本明細書に記載される抗体もしくは抗体構成要素、又は多特異的結合剤)を指す。例えば、宿主細胞へとトランスフェクトされた組み換え発現ベクターを使用して発現されたポリペプチド、組み換えコンビナトリアルヒトポリペプチドライブラリから単離されたポリペプチド(Hoogenboom H.R., 1997, TIB Tech. 15:62-70; Azzazy H., 及び Highsmith W.E., 2002, Clin. Biochem. 35:425-445; Gavilondo J.V., 及び Larrick J.W., 2002, BioTechniques 29:128-145; Hoogenboom H., 及び Chames P., 2000, Immunol. Today 21:371-378)、ヒトイムノグロブリン遺伝子に関してトランスジェニックな動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor, L.D.ら、 1992, Nucl. Acids Res. 20:6287-6295; Kellermann S-A., 及び Green L.L., 2002, Curr. Opin. Biotech. 13:593-597; Little, M. ら、 2000, Immunol. Today 21:364-370; Murphy, A.J. ら、 2014, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111(14):5153-5158を参照のこと)、又は選択配列要素の互いのスプライシングを含む、任意の他の手段により調製、発現、生成又は単離されたポリペプチドがある。一部の実施形態は、かかる選択配列要素のうちの1つ以上が、自然界に存在する。一部の実施形態は、かかる選択配列要素のうちの1つ以上が、in silicoで設計されている。一部の実施形態において、1つ以上のかかる選択配列要素は、例えば、天然源又は合成源に由来する、公知の配列要素の(例えば、in vivo又はin vitroの)突然変異誘発から、生じている。例えば、一部の実施形態において、組み換え抗体ポリペプチドは、対象の源生物体(例えば、ヒト、マウスなど)の生殖細胞系列中に存在する配列から構成される。一部の実施形態において、組み換え抗体は、(例えばトランスジェニック動物中の、in vivo又はin vitroの)突然変異誘発から生じたアミノ酸配列を有しており、それによって、当該組み換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、生殖細胞系列のVH及びVL配列に由来し、及び関連している一方で、当該生殖細胞系列抗体レパートリー中にin vivoで天然には存在し得ない配列であり得る。
【0114】
回収:本明細書において使用される場合、例えば当分野に公知の精製技術を使用した単離により、従前に関連づけられていた他の構成要素が実質的に無い剤又は実体を提供するプロセスを指す。一部の実施形態において、剤又は実体は、天然源、及び/又は細胞を含有する源から回収される。
【0115】
基準:本明細書において使用される場合、本明細書に記載されるようにそれに対して比較が行われる、標準、対照、又は他の適切な基準を記載する。例えば一部の実施形態において、基準は、対象の剤、動物、個体、群、サンプル、配列、一連の工程、条件セット、又は値に対して比較される、標準もしくは対照の剤、動物、個体、群、サンプル、配列、一連の工程、条件セット又は値である。一部の実施形態において、基準は、対象の検証又は決定と実質的に同時に、検証、及び/又は決定される。一部の実施形態において、基準は、任意で有形のメディア中に具現化されたヒストリカルな基準である。典型的には、当分野の当業者には理解されるように、基準は、対象の評価において使用されるものと同等な条件下で、決定又は特徴づけられる。
【0116】
リスク:文脈から理解されるように、疾患、障害、及び/又は状態の「リスク」は、特定の個体が、疾患、障害、及び/又は状態(例えば、放射線傷害)を発症する可能性を含有する。一部の実施形態において、リスクはパーセンテージとして表される。一部の実施形態において、リスクは、0から、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、及び最大で100%である。一部の実施形態において、リスクは、基準サンプル、又は基準サンプル群と関連づけられたリスクに相対するリスクとして表される。一部の実施形態において、基準サンプル、又は基準サンプルの群は、疾患、障害、状態、及び/又は事象(例えば、放射線傷害)の公知のリスクを有している。一部の実施形態において、基準サンプル、又は基準サンプルの群は、特定の個体と同等な個体に由来する。一部の実施形態において、相対リスクは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上である。
【0117】
特異的結合:本明細書において使用される場合、結合が発生する環境下で、可能性のあるパートナー間を識別する結合剤の能力を指す。他の可能性のある標的が存在しているときに、1つの特定の標的と相互作用する結合剤は、相互作用する標的に対し、「特異的に結合する」と言われる。一部の実施形態において、特異的結合は、結合剤とそのパートナーの間の関連性の程度を検出又は決定することにより評価される。一部の実施形態において、特異的結合は、結合剤‐パートナー複合体の解離の程度を検出又は決定することにより評価される。一部の実施形態において、特異的結合は、そのパートナーと他の実体の間の代替的相互作用と競合する結合剤の能力を検出又は決定することにより評価される。一部の実施形態において、特異的結合は、ある範囲の濃度にわたり、かかる検出又は決定を行うことにより評価される。
【0118】
対象:本明細書において使用される場合、ヒトを含む任意の哺乳動物を意味する。本発明の特定の実施形態において、対象は、成人、青年、又は幼児である。一部の実施形態において、「個体」又は「患者」という用語は、「対象」と相互交換可能であるように使用され、及び意図される。また、本発明により、in utero治療の医薬組成物の投与、及び/又はその治療の方法の実行が予期される。
【0119】
実質的に:本明細書において使用される場合、「実質的に」という用語は、対象の特徴又は性質のすべて、もしくはほぼすべての範囲又は程度を示す定性的な状態を指す。生物分野の当業者であれば、生物的及び化学的な現象は、完了にまで進行すること、及び/又は完全性にまで進展すること、又は完全な結果に達すること、もしくは回避することは仮にあったとしても稀であることを理解するであろう。したがって本明細書において「実質的に」という用語を使用して、多くの生物的及び化学的な現象に固有な、完全性の欠落の可能性を捕捉する。
【0120】
実質的な配列相同性:本明細書において使用される場合、「実質的な相同性」という文言は、アミノ酸又は核酸の配列の間の比較を指す。当分野の当業者により認識されているように、2つの配列が、対応する位置で相同な残基を有する場合、「実質的に相同」であると一般的にみなされる。相同な残基は、同一な残基であってもよい。あるいは、相同な残基は、およそ類似の構造、及び/又は機能特性の非同一残基であってもよい。例えば、当分野の当業者により公知であるように、特定のアミノ酸は、典型的には、「疎水性」もしくは「親水性」なアミノ酸として分類され、及び/又は「極性」もしくは「非極性」の側鎖を有するとして分類される。1つのアミノ酸を、同じ型の他のアミノ酸に置換することは、多くの場合、「相同な」置換とみなされ得る。典型的なアミノ酸の分類を以下に要約する:
【0121】
【0122】
【0123】
当分野において良く知られているように、アミノ酸又は核酸の配列は、例えばヌクレオチド配列に対してはBLASTN、アミノ酸配列に対してはBLASTP、ギャップ化BLAST、及びPSI-BLASTなどの市販のコンピュータープログラムにおいて利用可能なものをはじめとする、任意の様々なアルゴリズムを使用して比較されることができる。そのようなプログラムの例は、Altschul ら、 1990, J. Mol. Biol., 215(3):403-410; Altschul ら、 1996, Meth. Enzymology 266:460-480; Altschul ら、 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Baxevanis ら, Bioinformatics: A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins, Wiley, 1998;及びMisener, ら, (編), Bioinformatics Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology, Vol. 132), Humana Press, 1999に記載されている。相同配列の特定に加えて、上述のプログラムは、多くの場合、相同性の程度の指標も提供する。一部の実施形態において、2つの配列が、その対応する残基の少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%か、又はそれ以上が、関連する残基の連続配列にわたり、相同である場合、実質的に相同であるとみなされる。一部の実施形態において、関連する連続配列は、完全な配列である。一部の実施形態において、関連する連続配列は、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも55、少なくとも60、少なくとも65、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも80、少なくとも85、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150、少なくとも175、少なくとも200、少なくとも225、少なくとも250、少なくとも275、少なくとも300、少なくとも325、少なくとも350、少なくとも375、少なくとも400、少なくとも425、少なくとも450、少なくとも475、少なくとも500、又はそれ以上の残基数である。
【0124】
実質的な同一性:本明細書において使用される場合、「実質的な同一性」という文言は、アミノ酸又は核酸の配列間の比較を指す。当分野の当業者により認識されているように、2つの配列が、対応する位置で同一の残基を有する場合、「実質的に同一」であると一般的にみなされる。当分野において良く知られているように、アミノ酸又は核酸の配列は、例えばヌクレオチド配列に対してはBLASTN、アミノ酸配列に対してはBLASTP、ギャップ化BLAST、及びPSI-BLASTなどの市販のコンピュータープログラムにおいて利用可能なものをはじめとする、任意の様々なアルゴリズムを使用して比較されることができる。そのようなプログラムの例は、Altschul ら、 1990, J. Mol. Biol, 215(3):403-410, 1990; Altschul ら, 1996, Methods in Enzymology 266:460-480; Altschul ら, 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Baxevanis ら, Bioinformatics: A Practical Guide to the Analysis of Genes and Proteins, Wiley, 1998;及びMisener, ら, (編), Bioinformatics Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology, Vol. 132), Humana Press, 1999に記載されている。同一配列の特定に加えて、上述のプログラムは、多くの場合、同一性の程度の指標も提供する。一部の実施形態において、2つの配列は、その対応する残基の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上が、関連する残基の連続配列にわたり、同一である場合、実質的に同一であるとみなされる。一部の実施形態において、関連する連続配列は、完全な配列である。一部の実施形態において、関連する連続配列は、少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500か又はそれ以上の残基数である。CDRとの関連において、「実質的な同一性」という言及は、多くの場合、基準CDRのアミノ酸配列に対し、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するCDRを指す。
【0125】
表面プラズモン共鳴:本明細書において使用される場合、例えばBIAcoreシステム (Pharmacia Biosensor AB社、Uppsala, Sweden and Piscataway, N.J.)を使用したバイオセンサーマトリクス内のタンパク質濃度の変化の検出を介して、特異的結合相互作用をリアルタイムで解析することが可能な光学現象を指す。さらなる解説に関しては、Jonsson, U. ら、 1993, Ann. Biol. Clin. 51:19-26; Jonsson, U. ら、 1991, Biotechniques 11:620-627; Johnsson, B. ら、 1995, J. Mol. Recognit. 8:125-131;及びJohnnson, B. ら、 1991, Anal. Biochem. 198:268-277を参照のこと。
【0126】
治療有効量:本明細書において使用される場合、それが投与される所望の効果をもたらす量を意味する。一部の実施形態において、当該用語は、治療薬投与計画に従っている、疾患、障害、及び/又は状態に罹患している、又は感受性の群に、当該疾患、障害及び/又は状態を治療するために投与されたときに、充分である量を指す。一部の実施形態において、治療有効量は、疾患、障害、及び/又は状態の1つ以上の症状の発生を低下させる、及び/又は重篤度を低下させる、及び/又は発症を遅延させる量である。当分野の当業者であれば、「治療有効量」という用語が、実際には、特定個体における治療成功の達成が必須ではないことを認識するであろう。むしろ、治療有効量は、かかる治療の必要のある患者に投与されたときに、多数の患者において、所望される特定の薬理反応をもたらす量であってもよい。一部の実施形態において、治療有効量に対する基準は、1つ以上の特定の組織(例えば、疾患、障害又は状態に影響を受ける組織)又は液体(例えば、血液、唾液、血清、汗、涙、尿など)において測定されたときの量に対する基準であってもよい。当分野の当業者であれば、一部の実施形態において、特定の剤又は療法の治療有効量は、単回投与で製剤化及び/又は投与され得ることを認識するであろう。一部の実施形態において、治療有効な剤は、例えば投与計画の一部として、複数回投与で製剤化及び/又は投与され得る。
【0127】
形質転換:本明細書において使用される場合、外因性DNAが宿主細胞に導入される任意のプロセスを指す。形質転換は、当分野に公知の様々な方法を使用して、自然条件下、又は人工条件下で発生し得る。形質転換は、原核宿主細胞又は真核宿主細胞への、外来性核酸配列の挿入のための任意の公知の方法に依っていてもよい。一部の実施形態において、特定の形質転換方法は、形質転換される宿主細胞に基づいて選択され、及び限定されないが、ウイルス感染、エレクトロポレーション、交配、リポフェクションを含んでもよい。一部の実施形態において、「形質転換された」細胞は、挿入DNAが、自己複製プラスミドとして、又は宿主染色体の一部としてのいずれかで複製することができるという点で、安定的に形質転換されている。一部の実施形態において、形質転換された細胞は、限定された期間、導入された核酸を一過性に発現する。
【0128】
ベクター:本明細書において使用される場合、自身に連結されている他の核酸を運搬することができる核酸分子を指す。ベクターの1つの型は、「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二重鎖DNAループを指す。別の型のベクターはウイルスベクターであり、ここで追加のDNAセグメントは、ウイルスゲノム内にライゲートされ得る。特定のベクターは、自身が導入された宿主細胞(例えば、複製の細菌性起源を有する細菌ベクター、及びエピソーム哺乳類ベクター)中で自己複製することができる。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳類ベクター)は、宿主細胞に導入されたときに、宿主細胞のゲノム内に組み込まれることができ、それによって、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、特定のベクターは、自身が操作可能に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。かかるベクターは、本明細書において、「発現ベクター」と呼称される。
【0129】
特定の実施形態の詳細な説明
本発明は、部分的に、MHC分子(例えばクラスI分子)により提示されるペプチドとTCRの相互作用を模倣する、高アフィニティヒト抗体剤(例えば、ヒトモノクローナル抗体)は、MHC結合ポケット中のペプチドの末端部分(すなわち、抗原性ペプチドN末端又はC末端。例えば1位及び8位)への選択的結合を有して作製され得るという認識に基づいている(本明細書において、I型抗体と呼称される)。さらに、MHC結合ポケット中のペプチドの中間部分又は中心部分(例えば、5位)への選択的結合を有する抗体剤(本明細書において、II型抗体と呼称される)は多くの場合、低いアフィニティを示し、容易にアフィニティ成熟しない。本発明はまた、腫瘍細胞株上に自然処理されるペプチドは、in silico予測から変化する場合があり、及び当該自然処理ペプチドは、II型抗体に認識されるが、I型抗体には認識されないという認識に基づいている。1つの例ではあるが、本開示は、(1)ヒトMHCクラスI分子(例えば、HLA-A02)により提示されるEBV潜伏感染膜2ペプチド、及び(2)非特異的免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)、に結合する多特異性結合剤(例えば二特異性抗体)との関連においてヒト抗体剤が使用されたとき、エプスタインバールウイルス(EBV)感染細胞株は、選択的にII型抗体により殺傷されるが、I型抗体には殺傷されないことを示す。
【0130】
本発明は、特に、ヒトMHC分子結合ポケットにおいて提示されるエプスタインバールウイルス(EBV)関連抗原の中心部分に結合するII型ヒトモノクローナル抗体の産生及び選択に成功したことを示す。本発明は、部分的に、EBV関連抗原に特異的なT細胞受容体(TCR)は、HLA-A02(例えば、HLA-A*02:01)を背景にした抗原性ペプチドの5位と選択的に相互作用するという認識に基づいている。したがって、本発明は、特に、本明細書に記載されるヒト抗体剤が、HLA-A02結合ポケット中に提示されるEBV潜伏感染膜タンパク質2(LMP2)ペプチドの中心部分(例えば、5位)に結合するという点で、EBV関連抗原とTCRの相互作用を模倣するヒト抗体剤を提供する。本発明は、明確に、ヒトHLA-A02(例えば、HLA-A*02:01)分子を背景にしたEBV-LMP2(CLGGLLTMV、配列番号1)から誘導されたペプチドを標的とするヒト抗体剤を提供する。LMP2は、EBVが感染したB細胞ならびに鼻咽頭細胞及び胃上皮細胞の両方に発現されており、それによって、当該ヒト抗体は、EBVが関連した疾患及び悪性腫瘍の治療ならびに診断に有用である。
【0131】
特に、本発明はまた、ヒトMHC分子結合ポケット中で提示されるEBV-LMP2ペプチドに結合する多特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)の製造に成功したことを示す。特に、本発明は明確に、HLA-A02結合ポケット中に提示されるEBV-LMP2ペプチドの中心部分(例えば、5位)に結合する多特異性結合剤を提供する。かかる多特異性結合剤は、EBV+Bリンパ芽球細胞株(BLCL)及び腫瘍細胞株を含む細胞障害性アッセイにおける、高い特異性と有効性が特徴である。
【0132】
学説に拘束されることは望まないが、本発明者らは、細胞質抗原に到達するための唯一の公知の技法は、細胞表面上に提示されるペプチド-HLA複合体を介しているものであり、この方法はTCRとの相互作用を介して最初に発見されたことに注目した。TCR模倣体と名付けられた特異的抗体は報告されているが、もしあったとしても、その臨床的可能性が実現されているものはほとんどない。公知のTCR-ペプチド-HLA構造の結晶構造の詳細なメタ解析、及びEBV-LMP2ペプチドを使用した実験データに基づき、本開示は特に以下を示す。(1)TCRは一貫した中心位置(4~7位)への選択的結合を示すが、HLAポケット中のペプチドの末端位置への選択的結合は示さない、(2)ペプチド-HLA複合体の4~7位(P4~P7)への特異性を有する抗体剤(すなわち、II型TCR模倣体)は、高度に特異的であるが、多くの場合、低アフィニティで結合し、天然TCRに類似している、(3)HLAポケット中のペプチドの末端位置に選択的に結合する抗体(すなわち、I型TCR模倣体)は、高いアフィニティで結合し、しかしペプチド末端が天然アミノ酸によりブロックされたときにはアフィニティを失う、(4)九量体ペプチドに対して作製されたI型TCR模倣体は、形質転換細胞中で自然に提示されるペプチド-HLA複合体を認識し損ねるが、その理由は、当該細胞上に提示されるペプチドは、おそらく遊離末端を有する九量体ペプチドを提示せず、むしろ十量体、十一量体、又は十二量体のペプチドを提示するためである、(5)ペプチド-HLA複合体中のペプチドの末端部分に対する特異性を有するTCR模倣体は、HLA-A02アレルを含む、無関係なペプチド-HLA複合体と交差反応する可能性が高いことが示されている。さらに、天然TCRとII型TCR模倣体の両方の低アフィニティという特性は、残基が固定されている末端位置と比較して、ペプチドの中間(又は中心)位置のエントロピー的な解放状態の結果である。かかる低アフィニティによって、T細胞は標的から確実に解離し、連続殺傷を継続できるようになる。またかかる低アフィニティは、細胞表面上で自由に動くことができる複数のTCRコピーの存在によって相殺されている。したがって、本開示は、少なくとも一部の実施形態において、かかる剤が、より特異的であり、及び天然TCRに類似していること、ならびにかかる剤の二価型及び四価型は、交差反応性に悩まされることなく、親和性と臨床有用性を増強させるはずであるという認識に基づいた、癌の診断及び療法のためのII型TCR模倣体の開発を包含している。
【0133】
エプスタインバールウイルス感染と癌
悪性腫瘍とエプスタインバールウイルス(EBV)の関連性が報告されている(例えば、Coghill, A.E. 及び A. Hildesheim, 2014, Am. J. Epidemiol. 180:687-95に概説される)。EBVは、腫瘍原性として特定された最初のウイルスのうちの1つであった。EBVは、CD21とMHCクラスIIとの相互作用を介して、非常に効果的にB細胞に感染する(Hislop, A.D., G.S. Taylor, 及び D. Sauce ら、 2007, Ann. Rev. Immunol. 25:587-617)。しかしながら、EBVはまた、上皮細胞に感染し、及び留まることもできるが、そのプロセスは効率が低く、よく理解されていない。
【0134】
事実上、世界中のすべての成人が、EBVに暴露されている。免疫低下が無い状態では、幼児期の最初の暴露により、細胞性免疫反応により制御される、自然治癒される病気を発症する (Hislop, A.D., G.S. Taylor, 及び D. Sauce ら、 2007, Ann. Rev. Immunol. 25:587-617)。エプスタインバールウイルス(EBV)に対する免疫防御と、EBV関連疾患の存在はよく知られている(Hislop, A.D. ら、 2007, Ann. Rev. Immunol. 25:587-617; Long, H.M. ら、 2011, J. Immunol. 187:92-101)。宿主による、ウイルスタンパク質に対する抗原特異的T細胞の産生は、ウイルスに対し非常に有効である。しかしながら、EBVは上皮細胞又はB細胞中に持続感染することができ、完全に排除されることはない(Long, H.M. ら、 2011, J. Immunol. 187:92-101)。宿主の免疫状態に何らかの変化が起こると、再活性化が生じ、免疫低下の程度に応じて、この再活性化によって悪性腫瘍が発生し得る。
【0135】
ウイルス複製は、2つのメカニズムにより発生し得る:溶解性複製または、潜伏感染中の複製。前者は直線状のウイルスゲノムが必要であり、活性ビリオンを産生し、宿主細胞を破壊する。他方で潜伏感染中の複製は、ウイルスゲノムがエピソームを産生したときに発生し、宿主細胞のDNAポリメラーゼにより複製される。これによって、EBV感染細胞とともに、細胞の複製が存続する。潜伏感染中の複製は、3つの異なる潜伏感染プログラムを生じさせ得、各々、発現されるEBV遺伝子レパートリーが異なっている。
【0136】
EBVは、固形臓器及び造血細胞の移植(HSCT)の状況において最もよく研究されており、T細胞の数が減少すると、又はT細胞が無くなると、EBVを有するB細胞の無制限な増殖が発生し得る(Rasche, L. ら、 2014, Bone Marrow Transplant 49:163-7)。そのような無制御な増殖によって、最も普遍的な移植後悪性腫瘍である、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD:post transplant lymphoproliferative disease)が生じ得る。この症候群の頻度及び強度は、各患者内で、及び患者のT細胞群に対する免疫抑制効果によって異なっている(Bollard, C.M. ら、 2012, Nat. Rev. Clin. Oncol. 9:510-9)。
【0137】
しかしながら、EBVは、他の悪性腫瘍にも関与している。いくつかの研究グループにより、様々な上皮性悪性腫瘍及びリンパ性悪性腫瘍の発症機序におけるEBVが示唆されている。例えば、ホジキンリンパ腫(Glaser, S.L. ら、 1997, Int. J. Cancer 70:375-82)及び非ホジキンリンパ腫はEBVと関連していることがよく知られているが、これら疾患の発症におけるその役割はよく解明されていない。同様に、EBVと鼻咽頭癌(NPC:nasopharyngeal carcinoma)の間に明確な因果関係が存在しているが(Shanmugaratnam, K., 1978, IARC Sci. Publ:3-12)、この新生物の発症機序におけるEBVの役割はまったく解明されていない。ホジキンリンパ腫の患者、及びNPCの患者の腫瘍サンプルは、潜伏感染膜タンパク質2(LMP2)を含むEBV由来タンパク質を発現している。LMP2は、EBV関連胃癌の40%でも発見されている。これらは非自己であり、EBVに対する細胞性免疫応答の主要標的でもあることから、これらは、免疫療法の理想的な標的である。
【0138】
EBVに関連したLMP2(+)ヒト悪性腫瘍のリストには、バーキットリンパ腫、免疫抑制性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、慢性炎症に関連したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、形質芽球性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、鼻咽頭癌、胃腺癌、リンパ上皮腫関連癌、及び免疫不全関連平滑筋肉腫が含まれる(Ok, CY ら、 2015, Exp. Mol. Med. 47:e132; Grywalska, E. 及び J. Rolinski, 2015, Semin. Oncol. 42:291-303; Petersson, F, 2015, Semin. Diagn. Pathol. 32:54-73; Tsao, S.W. ら、 2015, J. Pathol. 235(2):323-33)。
【0139】
EBV潜伏感染タンパク質の発現
休止B細胞のEBV感染/形質転換は、潜伏リンパ芽球腫株(LCL:Latent Lymphoblastoma Lines)を産生する。このプロセスは、マーモセットBリンパ芽球様株B95-8中に存在するEBVのB95-8株を使用することで、in vitroで正確に反復された(Menezes, J. ら、 1975, Biomedicine 22:276-84)。実験室におけるBLCLの産生は、EBV感染と、それに対する免疫反応の理解及び特徴解析に非常に有益である。対照的に、上皮細胞のin vitro感染は効果がなく、この相互作用を理解するための現行モデルは存在しない。
【0140】
LCLは、潜伏感染複製中に存在し、複数のウイルスゲノムコピーをエピソームとして保有している。LCLは多くのウイルス遺伝子産物を発現しており、それらは、潜伏感染タンパク質(latent protein)と命名され、潜伏感染の段階によって変化する。
【0141】
総数で10個の潜伏感染タンパク質が報告されている:6個のエプスタインウイルス核抗原(EBNA 1、2、3A、3B、3C、及びLP)、3個の潜伏感染膜タンパク質(LMP 1、2A、及び2B)、及びBARF1。初期EBV感染はB細胞を活性化し、EBNA1、EBNA2、EBNA3、LMP1、LMP2、及びBARF1が発現されたときに潜伏感染III型を誘導する(Bollard ら、 Nat. Rev. Clin. Oncol. 9:510, 2012)。この後、より限定的なウイルス産物の発現が生じ、感染B細胞がメモリーB細胞へと転換する。これは潜伏感染II型と名付けられ、EBNA1、LMP1、及びLMP2が発現される。これら抗原の発現がさらに制限されると、潜伏感染I型となり、EBNA-1、LMP2、及びBARF1のみが発現される。
【0142】
B細胞は、潜伏感染プログラムI型からIII型を有し得る。しかしながら、上皮細胞は、潜伏感染I型とII型のみを示す。LMP‐2Aは、潜伏感染I型、II型、及びIII型出発現され(Bollard, C.M. ら、 2012, Nat. Rev. Clin. Oncol. 9(9):510-9)、ゆえに複数の固形悪性腫瘍及び非固形悪性腫瘍に対する魅力的な標的である。
【0143】
EBVに対する免疫反応、及び養子T細胞療法
身体中のほぼすべての有核細胞は、ヒト白血球抗原‐クラスI(HLAクラスI)分子を発現している。これら分子は、タンパク質が細胞表面上に存在していようと、又は細胞質内に存在していようと、細胞により発現されるすべてのタンパク質に由来するペプチドを提示する能力を有している。本発明は、これらペプチド‐HLA複合体に対し惹起された免疫反応は、自己と非自己を識別することができる良好な細胞性免疫の土台を形成するという認識に基づいている。1つの例ではあるが、ホジキンリンパ腫(HL)及び鼻咽頭癌(NPC)の細胞は構造的にEBV由来タンパク質を発現しており、HLA分子を背景に提示されたこれらタンパク質から誘導された免疫原性ペプチドは、これらEBV関連悪性腫瘍に対する治療戦略において細胞性免疫を活用するためのユニークな機会を提供する。
【0144】
T細胞は、自身のクローンT細胞受容体(TCR)を介してこれらペプチド‐HLA複合体を認識する(Haigh, T.A. ら、 2008, J. Immunol. 180:1643-54.)。実際に、同種骨髄移植又は幹細胞移植(HSCT)又は固形臓器移植のレシピエントにおける、EBVの再燃に対する非常に効果的な治療は、養子T細胞療法である。さらに重要なことに、特にT枯渇移植片を用いた移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)は、EBV感染B細胞のT細胞制御が欠落した結果であり、現在ではドナーT細胞の注入、又はEBV特異的同種T細胞の注入により、70%の症例で治療を成功させることができている(Bollard, C.M. ら、 2012, Nat. Rev. Clin. Oncol. 9:510-9)。
【0145】
エプスタインバールウイルス(EBV)とEBV関連疾患に対する免疫防御は、よく知られている(Hislop, A.D. ら、 2007, Ann. Rev. Immunol. 25:587-617; Long, H.M. ら、 2011, Curr. Opin. Immunol. 23:258-64, 2011.)。EBVキャリアは、EBV特異的CD4+及びCD8+の多機能性T細胞反応を生じさせ、それらは以下のEBVタンパク質の主要抗原ヒエラルキーを示す:(CD4+T細胞に対しては、EBNA1>EBNA3/LMP2。CD8+T細胞に対しては、EBNA3>LMP2>EBNA1。Ning, R.J. ら、 2011, Immunology 134:161-71.)。EBV潜伏感染膜タンパク質(LMP)1及び2は、EBNA1とともに、EBV関連ホジキンリンパ腫(HL)と鼻咽頭癌(NPC)におて発現されている3つのウイルスタンパク質である。これら腫瘍は、HLAクラスI陽性、及びクラスII陽性であるため、LMPとEBNA1は、CD8T細胞とCD4T細胞の両方の標的として扱うことができた(Haigh, T.A. ら、 2008, J. Immunol. 180:1643-54)。これら潜伏感染遺伝子産物に由来するエピトープに特異的なCTLの頻度は、下位であるにもかかわらず(0.05~1%)、それらが、in vivoでEBV感染の制御に関与している(Hislop, A.D. ら、 2007, Ann. Rev. Immunol. 25:587-617)。これら3つの抗原を標的とするDNAワクチンが、NPCの患者で検証されている(Lutzky, V.P. ら、 2010, J. Virol. 84:407-17)。A11に対するLMP2 SSCペプチド(SSCSSCPLSK、配列番号121)は、NPC患者の大多数において、反応を惹起させた。B55(アジア人種の中で最も高頻度)に対するペプチドAPYL(APYLFWLAA、配列番号122)もまた対象である。NPCに対する養子T細胞療法は安全であり、臨床的可能性を有することも証明されている(Louis, C.U. ら、 2010, J. Immunother. 33:983-90)。LMP2及びEBNA3特異的なT細胞は、EBNA1又はLMP1に特異的なT細胞よりも普遍的である。HLA-A02に対するLMP2ペプチドのCLGGLLTMV(340-349、配列番号1)、及びHLA-A11に対するSSCSSCPLSK(426-434、配列番号121)は、高度に関連のあるT細胞エピトープ(TCE:T cell epitopes)である。
【0146】
EBV由来タンパク質に対して特異的なT細胞の生成及び活性化を改善する試みにおいて、LMP2を標的とするワクチンが、NPCの患者において検証されている。Lutzkyら (2010, 上記)は、EBNA1、LMP1、及びLMP2に対する配列を含むスクランブル化ペプチドをアデノウイルスとともに使用して、健常なドナーとNPC患者におて、LMP2特異的反応を生じさせた(Lutzky, V.P. ら、 2010, J. Virol. 84:407-17)。Cheungらは、LMP2由来ペプチド(SSCSSCPLSK、配列番号121)を、ゴールドナノ粒子を有する構築物中で使用した場合の、EBV形質転換細胞に対する反応を示した (Cheung, W.H. ら、 2009, Bioconjug. Chem. 20:24-31)。同様に、EBNA1、LMP1、及びLMP2由来の配列を含有するAPYLペプチド(配列番号122)を使用した場合も、いくらかの反応を示した。さらに、NPCに対する養子T細胞療法は、安全であることが証明されており、臨床的活性の提言がなされている(Louis, C.U. ら、 2010, J. Immunother. 33:983-90)。HLA-A*02:01に対して特異的なLMP-2ペプチドのCLGGLLTMV(340-349、配列番号1)は、II型潜伏感染段階のEBV関連固形悪性腫瘍及び非固形悪性腫瘍に対して有効であることが報告されている。実際に、このペプチドは、HLA-A*02:01ドナーに対し、LMP2Aの全配列内で最も強い免疫原性がある。
【0147】
これらの前臨床的及び臨床的な成功にもかかわらず、EBV関連悪性腫瘍におけるEBV潜伏感染エピトープの発現に関して、不確実性がある。質量分析により、群レベルでこれらエピトープの存在又は非存在を分析することができる(Weidanz, J.A. ら、 2011, Int. Rev. Immunol. 30:328-40)一方で、腫瘍内の細胞間の不均一性、及び腫瘍間の不均一性を評価することは難しい。ペプチド‐HLA複合体に特異的な抗体(TCR模倣体と呼称される)の発見により、かかる課題を再検証する新たな機会が提供された(Sim, A.C. ら、 2013, Sci. Rep. 3:3232)。HLA-A*02:01と関連した、潜伏感染エピトープのLMP1(125-133)、LMP2A(340-349)、又はEBNA1(562-570)を標的とする3個のTCR様マウスモノクローナル抗体が近年、内因的に生成されたEBVエピトープの発現ヒエラルキーのマッピングのために記載された。細胞株、及びEBV関連腫瘍の生検において、HLA-A*02:01と関連したEBNA(1562-570)の優勢が、一貫して観察された。
【0148】
T細胞受容体様モノクローナル抗体
ほとんどの細胞質タンパク質は、表面に発現しないため、通常の抗体で標的化することはほぼ不可能であった。しかしながら、これらタンパク質に由来する抗原性ペプチドは、MHCクラスI内で細胞表面に提示され、TCR結合に類似した、又はTCR結合を再現する抗体で標的化されることができる(Dahan, R. 及び Y. Reiter, 2012, Expert Rev. Mol. Med. 14:e6; Denkberg, G. ら、 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99:9421-6; Sergeeva, A. ら、 2011, Blood 117:4262-72; Tassev, D.V. ら、 2012, Cancer Gene Ther. 19:84-100; Dao, T. ら、 2013, Sci. Transl. Med. 5:176ra33)。これらペプチド‐HLA複合体は短いペプチド配列を含有し、その配列の長さは変化する場合があるが、通常、クラスIアレルに対し、9アミノ酸である(Townsend, A. 及び H. Bodmer, 1989, Ann. Rev. Immunol. 7:601-24; Rudolph, M.G.ら、 2005, Ann. Rev. Immunol. 24:419-466)。これら九量体内には通常、HLA-A*02:01アレルに対し、2位及び9位(P2及びP9)に位置する2つの固定残基が存在する(Parker, K.C. ら、 1992, J. Immunol. 149:3580-7)。いくつかのTCR-ペプチドHLA複合体の共結晶構造により、複合体のこれら3つのメンバー(ペプチド、HLA、TCR)の免疫シナプスでの相互作用のさらなる理解が可能となった。
【0149】
例えば、CD8+T細胞のTCRは、複合体のこれら3つのメンバーにより担持されるいくつかの相互作用部位で、35度の平均角度で対角線上にペプチド‐HLA複合体に結合する。しかしながら、T細胞活性化自体は、免疫反応の有効な増大に必須である、数個の接触アミノ酸にのみ依存している。これら一次接触部位及び二次接触部位は、抗原性ペプチドの中間部位に位置する2~5個のアミノ酸残基の側鎖により決定され(Rudolph, MG 及び Wilson IA, Curr. Opin. Immunol. 14(1):52-65, 2002)、いわゆる機能的ホットスポットである(Massimo, D. ら、 2000, Immunity 12:251-261)。クラスIアレル中に提示される最も高頻度のペプチド長である九量体ペプチドの場合、TCR相互作用に最も重要な残基は、抗原性ペプチドの5位(P5)に位置しており、P6、P7及びP8は、第二義的な役割を果たしている(Rudolph, M.G. ら、 2005, Ann. Rev. Immunol. 24:419-466; Rudolph, MG 及び Wilson IA, Curr. Opin. Immunol. 14(1):52-65, 2002; Massimo, D. ら、 2000, Immunity 12:251-261)。十量体ペプチドでは、最も関連のある残基は、P4、P6及びP7である(Rudolph, M.G. ら、 2005, Ann. Rev. Immunol. 24:419-466; Rudolph, MG 及び Wilson IA, Curr. Opin. Immunol. 14(1):52-65, 2002; Massimo, D. ら、 2000, Immunity 12:251-261)。構造的証拠とは別に、抗原性ペプチド内のこれら領域の機能的な重要性も一貫して証明されている。例えば、EBV特異的メモリーT細胞の活性化は、わずか1アミノ酸で発生することができる。ただし、この残基が一次接触部位のうちの1つであることが条件である(Reali, E.ら、1999, J. Immunol. 162:106-113)。
【0150】
ペプチド‐MHC複合体を標的とする抗体は、大まかに「TCR模倣体」と名付けられる。その理由は、それら抗体が、ペプチドMHC複合体に結合し、TCR結合を再現すると考えられるからである。最初は作製に困難があるが、可溶性ペプチド‐MHC単量体と、ファージディスプレイ法の利用可能性は、その作製を大きく促進させた(Dahan, R. 及び Y. Reiter Y, 2011, Expert Rev. Mol. Med. 14)。可溶性TCRの製造に成功し、アフィニティが成熟された(Liddy, N. ら、 2012, Nat. Med. 18:980-987)。しかしながら、TCR模倣抗体試薬は、以下の理由から、これらを超えた別個の利点を有している:(1)TCRライブラリーよりも、スクリーニングするためのライブラリーが大きい、(2)天然及び人工ライブラリーの両方を使用することができ、後者は、免疫系成熟の間に欠落したクローンの発見に理想的である、(3)ペプチド中の各アミノ酸位置を指向する抗体を選択することによる、優先エピトープの微調整、(4)標準的なファージディスプレイ法又は酵母ディスプレイ法を使用したアフィニティ成熟、(5)Fab、scFv、もしくはIgG、又はさらには多量体を使用することによる、価数の制御、及び(6)TCRをベースとしたプラットフォームよりも、抗体をベースとしたプラットフォームの製造及び遺伝子操作の容易さ。遺伝子操作に関しては、診断薬候補及び治療薬候補の両方とも、当該TCR模倣体から誘導することができ、限定されないが、抗体‐薬剤複合体、放射性‐複合体、毒素複合体、及び人工的にT細胞反応を惹起させるための二特異性抗体があげられる。
【0151】
Andersenらが最初にTCR特異性を有するモノクローナル抗体を作製(Andersen, P.S. ら、 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:1820-4)して以来、ヒトペプチド‐HLAクラスI複合体に対し作製されたTCR模倣モノクローナル抗体は60を超える。かかるモノクローナル抗体を使用して、抗原提示の特徴解析に成功し、前臨床モデルにおいて治療剤として使用された。しかしながら、抗原性ペプチドの特定部分に対する、これら試薬の特異性に関する情報が不足しており、一次接触残基及び二次接触残基を特異的に標的とするよう作製されたものはない(Townsend, A. 及び H. Bodmer, 1989, Ann. Rev. Immunol. 7:601-24; Willemsen, RA ら、 2001, Gene Ther. 8(21):1601-8, 2001; Low, JL ら、 2012, PLOS ONE 7(12):e51397; Miller, KR ら、 2012, PLOS ONE 7(8):e43746; Biddison, WE ら、 2003, J. Immunol. 171(6):3064-74; Cohen, CJ ら、 2002, Cancer Res. 62(20):5835-44; Cohen, CJ ら 2003, J. Immunol. 170(8):4349-61; Dao, T ら、 2013, Sci. Transl. Med. 5(176):176ra33; Denkberg, G ら、 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 99(14):9421-6; Epel, M ら、 2008, Eur. J. Immunol. 38:1706-20; Zhang, G ら、 2014, Scientific Reports 4:3571; Klechevsky, E ら、 2008, Cancer Res. 68(15):6360-7; Oren, R ら、 2014, J. Immunol. 193(11):5733-43; Sergeeva, A ら、 2011, Blood 117(16):4262-72; Stewart-Jones, G ら、 2009, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106(14):5784-8; Verma, B ら、 2011, J. Immunol. 186(5):3265-76; Weidanz, JA ら、 2006, J. Immunol. 177(8):5088-97; Ziegler, A ら、 2007, Recent Results Cancer Res. 176:229-41)。したがって、かかるモノクローナル抗体はペプチド‐HLA複合体に結合するが、ペプチド‐HLAとTCRの結合を必ずしも再現していない。
【0152】
抗原認識に最も重要な残基を標的としていないことは、治療剤としてTCR模倣体を開発する際に特に重要である関連性への到達からは遠い。機能的ホットスポットを標的としないことにより、かかる試薬は、特に多価結合(例えば、キメラ抗原受容体)が導入された際に、非特異的相互作用又はエピトープ拡大の傾向がある(Oren, R. ら、 2014, J. Immunol. 193:5733-43)。さらには、TCRモノクローナル抗体模倣体の作製は通常、in silicoで作製されたペプチド配列を使用するが、当該配列はin vivoで提示される抗原性ペプチドとは異なっている可能性があり(Scott, R.B. ら、 2006, Trends Immunol. 27:11-16)、それによって適合性を低下させ得る選択バイアスが生じてしまう。
【0153】
真の第二世代T細胞受容体モノクローナル抗体模倣体の作製
真のTCR様モノクローナル抗体を生成するために、本発明者らは最初に、どのようにTCRがペプチド‐HLA複合体に自然状態で結合しているかを測定した。本発明者らは、タンパク質データバンクから、14個の固有なTCR:九量体‐ペプチド/HLAクラスI共結晶構造を特定した(表1;Stewart-Jones, G.B. ら、 2003; Nat. Immunol. 4:657-63; Garboczi, D.N. ら、 1996, Nature 384:134-41; Ding, Y.H. ら、 1998, Immunity 8:403-11; Chen, J.L. ら、 2005, J. Exp. Med. 201:1243-55; Borbulevych, O.Y. ら、 2009, Immunity 31:885-96; Borbulevych, O.Y. ら、 2011, J. Immunol. 186:2950-8; Gras, S. ら 2009, J. Immunol. 183:430-7)。天然型ヒトTCR:HLA相互作用のみが検討され、一方で、非ヒトTCR、非天然型ペプチドバリアント、及び人工アフィニティ増強TCRは除外された。本発明者らはまた、タンパク質データバンクから5個の固有なTCR:十量体‐ペプチド/HLAクラスI共結晶構造を特定した(表2)。十量体のデータセットのサイズが小さかったため、本発明者らは、ヘテロクリット性ペプチドを有する2つの構造を含有させた。これら構造のすべてから、共通の結合配置を共有していることが示され、その結合配置では、TCRがHLA結合ポケット(又はクレフト)中のペプチドに対角線上に結合していた。次いで本発明者らは、CHARMM力場シミュレーションを使用し、結合TCRとペプチドの1残基当たりの相互作用エネルギーを算出することにより、この相互作用についてより詳細な分子学的解析を行った。
【0154】
分子モデリング及び相互作用エネルギーの算出は、Discovery Studio 4.1 (米国カリフォルニア州サンディエゴ Accelrys社)を使用して行われた。TCR-ペプチド-HLA複合体の結晶構造は、CHARMM(Chemistry at Harvard Molecular mechanics)力場シミュレーションを使用してエネルギー最小化され、次いで原子相互作用エネルギーが、ファンデルワールス力と静電エネルギーの総計として算出された。
【0155】
【0156】
【0157】
TCR-ペプチド-HLA接触面での、短距離分子接触を理解するために、ファンデルワールス相互作用エネルギーを、九量体ペプチド及び十量体ペプチドの各残基に対し解析した。1残基当たりのファンデルワールス相互作用エネルギーは、TCR:九量体‐ペプチド/HLA構造に対しては
図1に記載し、TCR:十量体‐ペプチド/HLA構造に対しては
図2に記載されている(マイナスの値が大きくなると、相互作用がより好ましくなることを示す)。九量体構造に対するファンデルワールス相互作用エネルギーは、P4~P7残基を含有する、主要相互作用クラスターを示しており、最も高い相互作用は、P5残基で発生していた。本発明者らは、TCRとの最も低い相互作用は、ペプチドアンカーのP2残基及びP9残基で発生していると予測した。十量体構造に対しても類似したパターンが観察され、TCR相互作用の最も大きなクラスターは、P4~P7に存在しており、最も高い相互作用はP5で発生していた。十量体の場合において、最後のアンカー残基はP9ではなくP10であり、九量体構造と比較してP5位とP6位の高相互作用エネルギー分布が広いが、これは、余剰残基の存在によるものである。天然ヒトTCR‐ペプチド‐HLA複合体に対する、このユニークな構造解析に基づき、本発明者らは、TCRの正確なペプチド‐MHC結合様式を模倣するヒト抗体剤(例えば、ヒトモノクローナル抗体)を作製した。
【0158】
本発明のヒト抗体剤は、TCRによる抗原認識は、B細胞受容体及び抗体による抗原認識と比較し、困難であるという認識に基づいている。特に、B細胞受容体及び抗体は、抗原の表面を認識しており、しばしば、フォールディングされたタンパク質構造中に集まった不連続なアミノ酸に接触している。典型的には、抗体は多くの場合、特定の抗原に対するアフィニティに基づいて選択されており、最も高いアフィニティを有する結合体が、「最も良い」治療剤として選択されている。対照的に、TCRは短い連続的なアミノ酸(ペプチド)を認識しており、それらは多くの場合フォールディングされたタンパク質の構造内に埋もれてしまい、MHC分子を介して細胞表面上に当該ペプチドが提示されなかったら、認識されることができない。TCRは比較的低いアフィニティで、MHC結合ポケット中に提示されるペプチドに結合する(通常、マイクロモルの範囲である:例えば、Donermeyer, DL ら、 2006, J. Immunol. 177(10):6911-9を参照のこと)。また、TCRの多様性の大部分は、ペプチドと直接相互作用するCDR3中にあり、一方で他のCDR(例えばCDR1、CDR2)は変化が少なく、MHCのアミノ酸と直接相互作用する。そのような低アフィニティは、特にペプチド‐MHC複合体からの解離に重要であり、それによって、当該ペプチドを提示している細胞の連続殺傷、ならびに他のT細胞機能が再開される。ゆえに、本発明のヒト抗体剤は、MHC分子により提示されるペプチドに特異的な抗体剤を作製する際の主要基準としてのアフィニティ及びin silico予測に対する過度の依存は、欠陥があり、誤った方向へと導く方法であるという認識を包含している。そのような方法は、MHC分子により提示されるペプチドの末端部分と高いアフィニティを有し、さらに優位的に相互作用するが、無関係なペプチド‐MHC複合体との交差反応に悩まされる数種の抗体の生成をもたらしてしまう。
【0159】
特に、本発明は、MHC分子により提示されるペプチドを認識するヒト抗体剤を開発するための改善方法を具体的に提供するものである。特に、本発明は、in vivoでMHC分子により提示されるペプチドの中心位置のアミノ酸との相互作用に焦点を当てた方法を使用して作製されたヒト抗体剤を提供するものであり、さらに、ペプチド‐MHC複合体を発現する細胞に対する細胞障害活性における高い特異性及び有効性により特徴づけられるヒト抗体剤を提供するものである。したがって、本開示は、少なくとも一部の実施形態において、望まない交差反応性を伴わない、天然TCR様相互作用を達成するための主要基準として、抗体剤‐ペプチドのin vivo相互作用の位置を使用した、ヒト抗体剤開発のための改善された方法の開発を利用するものである。
【0160】
本明細書に記載されるように、ファージディスプレイ法が本発明者らにより使用され、HLA-A*02:01アレルを背景にしたLMP2由来の抗原性ペプチド(CLGGLLTMV,、340-349、配列番号1)に特異的な高アフィニティヒト抗体剤(例えば、ヒトモノクローナル抗体)が作製された。本発明者は、他のHLAアレル及び抗原への一般化が可能な、明確な利点を提供する:(1)構造的証拠によって、EBV-LMP2-HLA-A*02:01複合体が、抗原性ペプチド内の重要な中心位置領域に対する原型的な振る舞いを有することが示されている(Simpson, AA ら、 2011, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 108(52):21176-81)、及び(2)HLAに関して完全に遺伝子型解析され、EBV陽性にin vitroで形質転換されている数種の細胞株が利用可能であること。本明細書に記載されるヒトモノクローナル抗体は、ペプチド‐HLA複合体に対するアフィニティ及び特異性に関して選択されているだけではなく、当該複合体に存在するペプチド中の特定のアミノ酸残基に結合する能力に関しても特徴解析されている。本開示に提示されるデータは、異なるアミノ酸位を標的とすることは、TCR模倣体の特異性及びアフィニティに関し重要な関連性を有していることを示しており、その有用性がEBV関連悪性腫瘍の診断と治療だけではなく、どのようにして当該方法を他のペプチド‐HLAクラスI複合体へと適用することができるかの重要な洞察を提供するものであることが確認される。
【0161】
抗EBV‐LMP2/HLAクラスI抗体剤
本発明は、抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体剤(例えば、モノクローナル抗体)の投与、及び一部の実施形態においては、EBV-LMP2/HLA-A02複合体に結合する第一の抗原結合部位と、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)に結合する第二の抗原結合部位を有する多特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)の投与に基づき、EBVが関連する疾患、障害、及び状態、ならびに関連悪性腫瘍を治療するための方法及び組成物を提供するものである。
【0162】
EBV-LMP2/HLA-A02複合体に結合するヒト抗体剤(例えば、ヒトモノクローナル抗体)の例を表3に示す(LCVR:軽鎖可変領域、HCVR:重鎖可変領域、scFv:一本鎖可変断片)。
【0163】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0164】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表3に明記される重鎖可変領域中に存在するCDRのうちの少なくとも1つを含有し、当該軽鎖可変領域は、表3に明記される軽鎖可変領域中に存在するCDRのうちの少なくとも1つを含有する。
【0165】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表3に明記される重鎖可変領域中に存在するCDRのうちの少なくとも2つを含有し、当該軽鎖可変領域は、表3に明記される軽鎖可変領域中に存在するCDRのうちの少なくとも2つを含有する。
【0166】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表3に明記される重鎖可変領域中に存在する3つのCDRを含有し、当該軽鎖可変領域は、表3に明記される軽鎖可変領域中に存在する3つのCDRを含有する。
【0167】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、3つのCDRを含有し、当該各CDRは、表5に明記される重鎖CDRに対し、少なくとも約50%(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一である配列を有している。
【0168】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、3つのCDRを含有し、当該各CDRは、表5に明記される重鎖CDRに対して実質的に同一であるか、又は同一である配列を有している。
【0169】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該軽鎖可変領域は、3つのCDRを含有し、当該各CDRは、表6に明記される軽鎖CDRに対し、少なくとも約50%(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一である配列を有している。
【0170】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該軽鎖可変領域は、3つのCDRを含有し、当該各CDRは、表6に明記される軽鎖CDRに対して実質的に同一であるか、又は同一である配列を有している。
【0171】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表5に明記される3つのCDRを含有し、当該軽鎖可変領域は、表6に明記される3つのCDRを含有する。
【0172】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表3に明記される重鎖可変領域に対し、少なくとも約50%(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一である配列を有している。
【0173】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表3に明記される重鎖CDRに対して実質的に同一であるか、又は同一である配列を有している。
【0174】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該軽鎖可変領域は、表3に明記される軽鎖可変領域に対し、少なくとも約50%(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一である配列を有している。
【0175】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該軽鎖可変領域は、表3に明記される軽鎖CDRに対して実質的に同一であるか、又は同一である配列を有している。
【0176】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表3に明記される重鎖可変領域に対し、少なくとも約50%(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一である配列を有しており、及び当該軽鎖可変領域は、表3に明記される軽鎖可変領域に対し、少なくとも約50%(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一である配列を有している。
【0177】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域から構成され、当該重鎖可変領域は、表3に明記される重鎖CDRに対して実質的に同一であるか、又は同一である配列を有しており、当該軽鎖可変領域は、表3に明記される軽鎖CDRに対して実質的に同一であるか、又は同一である配列を有している。
【0178】
様々な実施形態において、本発明によるヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02モノクローナル抗体は、表3に明記される重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列から選択される、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域から構成される。
【0179】
本明細書に記載されるEBV-LMP2ペプチド、又はその断片を使用して、当分野の当業者に公知の方法により抗体を作製することができる。本明細書において使用される場合、抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体は、HLA-A02を背景にしたEBV-LMP2ペプチドCLGGLLTMV(配列番号1)のうちのいずれか残基に特異的に結合する任意の抗体、又は抗体の断片を含有する。
【0180】
本明細書において使用される場合、「抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体」, 「抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体部分」、又は「 抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体断片」及び/又は「抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体バリアント」などは、本明細書に記載されるモノクローナル抗体のいずれかに由来する重鎖又は軽鎖又はそのリガンド結合部分の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を、本発明抗体へと組み込むことができる非ヒトマウス起源の、好ましくはヒト起源の、重鎖可変領域もしくは軽鎖可変領域、重鎖定常領域もしくは軽鎖定常領域、フレームワーク領域、又はそれらの任意の部分と組み合わせて含有する、イムノグロブリン分子の少なくとも一部を含有する分子を含有する任意のタンパク質又はペプチドを含有する。あるいは、「抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体」という用語は、LMP2-21、LMP2-21 IgG1、LMP2-26、LMP2-26 IgG1、LMP2-38、LMP2-38 IgG1、LMP2-40、LMP2-40 IgG1、LMP2-61、LMP2-61 IgG1、LMP2-63、LMP2-63 IgG1、LMP2-77、LMP2-77 IgG1、及びそれらの組み合わせ、ならびにそれらの断片及び領域、例えばLMP2-21 scFv、LMP2-26 scFv、LMP2-38 scFv、LMP2-40 scFv、LMP2-61 scFv、LMP2-63 scFv、LMP2-77 scFv及びそれらの組み合わせをはじめとする、本発明の一本鎖可変断片などを集合的に、又は個々に指すものとする。かかるヒトモノクローナル抗体は、in vitro、in situ、及び/又はin vivoで少なくとも1つの細胞機能を調節する、低下させる、アンタゴナイズする、軽減する、緩和する、遮断する、阻害する、無効化する、及び/又は干渉することができ、ここで当該細胞は、EBV-LMP2/HLA-A02複合体を発現している。非限定的な例として、本発明の特定の部分又はバリアントである、適切な抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体は、ヒトHLAクラスI分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドのエピトープ、特にペプチドエピトープに高いアフィニティで結合することができる。
【0181】
抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体は、当分野に公知の方法を使用して作製することができる。例えば、抗体作製のプロトコールは、Harlow 及び Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, (1988)に記載されている。典型的には、抗体は、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ラクダ、リャマ、サメ、又は他の適切な宿主中で作製することができる。あるいは、抗体は、IgY分子を産生する鶏で作製することができる(Schade ら、 1996, ALTEX 13(5):80-85)。一部の実施形態において、本発明に適した抗体は、ヒトに近い霊長類の抗体である。例えば、ヒヒで治療有用抗体を惹起させるための一般的な技術は、WO91/11465、及びLosman ら、 1990, Int. J. Cancer 46:310に見出すことができる。一部の実施形態において、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法を使用して調製されてもよい(Milstein 及び Cuello, 1983, Nature 305(5934):537-40)。一部の実施形態において、モノクローナル抗体はまた、組み換え法により作製されてもよい(例えば、米国特許第4,166,452号を参照のこと)。
【0182】
B細胞不死化によるモノクローナル抗体作製に関連した困難性の多くは、ファージディスプレイを使用し、E.coliにおいて抗体断片を遺伝子操作及び発現させることにより克服することができる。確実に高いアフィニティのモノクローナル抗体を回収するためには通常、コンビナトリアルイムノグロブリンライブラリーが大きなレパートリーサイズを有していなければならない。典型的な戦略は、免疫化マウスのリンパ球又は脾臓細胞から取得されたmRNAを利用し、逆転写酵素を使用してcDNAを合成することである。重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子は、PCRにより別々に増幅され、ファージクローニングベクターへとライゲートされる。2つの異なるライブラリーを作製する。1つは重鎖遺伝子を含み、1つは軽鎖遺伝子を含んでいる。ファージDNAを各ライブラリーから単離し、重鎖配列と軽鎖配列をともにライゲートし、封入して、コンビナトリアルライブラリーを形成させる。各ファージは、重鎖cDNAと軽鎖cDNAのランダムなペアを含有し、E.coliに感染すると、感染細胞中で抗体鎖の発現を誘導する。対象抗原を認識する抗体を特定するために、ファージライブラリーをプレートに播種し、プラーク中に存在する抗体分子をフィルターへと移す。フィルターを、放射性標識された抗原とともにインキュベートして、その後、洗浄し、余剰な未結合リガンドを取り除く。オートラジオグラム上の放射性スポットは、抗原に結合する抗体を含有するプラークを特定している。ヒトイムノグロブリンファージライブラリー作製に有用なクローニング及び発現ベクターは、例えばStratagene Cloning Systems社(カリフォルニア州ラホヤ)から入手することができる。
【0183】
同様の戦略を利用して、高アフィニティscFvを取得することもできる(例えば、Vaughn ら、 1996, Nat. Biotechnol., 14:309-314を参照のこと)。大きなレパートリーを有するscFvライブラリーは、すべての公知のVH、Vκ及びVλ遺伝子ファミリーに対応するPCRプライマーを使用し、非免疫化ヒトドナーV遺伝子を単離することにより、構築することができる。増幅後、Vκ及びVλのプールを組み合わせ、1つのプールを作製する。これら断片を、ファージミドベクターへとライゲートする。次いで、scFvリンカー(例えば、[G4S]3)を、VL断片の上流のファージミドへとライゲートする。VH 、及びリンカー-VL断片を増幅し、JH領域上でアセンブリする。得られたVH-リンカー-VL断片をファージミドベクターへとライゲートする。ファージミドライブラリーを、上述のようにフィルターを使用してパンニングすることができ、又はイムノチューブ(Nunc;Maxisorp)を使用してパンニングすることができる。同様の結果は、免疫化ウサギのリンパ球又は脾臓細胞からコンビナトリアルイムノグロブリンライブラリーを構築することにより得ることができ、又はピキア酵母(P.pastoris)においてscFv構築物を発現させることにより得ることもできる(例えば、Ridder ら、 1995, Biotechnology, 13:255-260を参照のこと)。さらに、適切なscFvの単離後、例えばCDR3突然変異誘発及び鎖シャフリングなどのアフィニティ成熟プロセスを介して、高い結合アフィニティを有し、解離が低速な抗体断片を取得することができる(例えば、Jackson ら、 1998, Br. J. Cancer, 78:181-188; Osbourn ら、 1996, Immunotechnology, 2:181-196を参照のこと)
【0184】
抗体断片の他の形式は、1つのCDRをコードするペプチドである。CDRペプチド(最小認識単位)は、対象抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することにより取得することができる。かかる遺伝子は、例えばポリメラーゼ鎖反応を使用して抗体産生細胞のRNA由来の可変領域を合成することにより、調製される(例えば、Larrick ら、 1991, Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:106; Courtenay-Luck, "Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies," in Monoclonal Antibodies: Production, Engineering And Clinical Application, Ritter ら、編, p. 166-179, Cambridge University Press 1995;及びWard ら、 "Genetic Manipulation and Expression of Antibodies," in Monoclonal Antibodies: Principles And Applications, Birch ら、編, p. 137-185, Wiley-Liss, Inc. 1995を参照のこと)。
【0185】
一部の実施形態において、本発明に適した抗体は、ヒト化抗体及びヒト抗体を含んでもよい。ヒト化型の非ヒト抗体は、キメライムノグロブリン(Igs)、Ig鎖、又は非ヒトIgに由来する最小配列を含有する断片(例えば、Fv、Fab、Fab'、F(ab')2又は抗体の他の抗原結合副配列)である。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒト源から導入された1つ以上のアミノ酸残基を有している。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、「輸入」残基と呼称され、多くの場合、「輸入」可変ドメインから取り出されている。ヒト化は、ヒト抗体の対応する配列の代わりに、げっ歯類の相補性決定領域(CDR)又はCDR配列を置換することにより達成される(Riechmann ら、 1988, Nature 332(6162):323-7; Verhoeyen ら、 1988, Science 239(4847):1534-6)。そのような「ヒト化」抗体は、キメラ抗体(例えば、米国特許第4,816,567号、第5,693,762号、及び第5,225,539号を参照のこと)であり、実質的に、完全未満のヒト可変ドメインが、非ヒト種の対応する配列により置き換えられている。一部の実施形態において、ヒト化抗体は多くの場合、一部のCDR残基、及び場合によって一部のフレームワーク(FR)残基が、げっ歯類Abs中の類似部位からの残基により置換されているヒト抗体である。ヒト化抗体は、ヒトIgs(レシピエント抗体)であり、そのヒトIgsにおいてレシピエントのCDR由来の残基が、所望される特異性、アフィニティ、及び能力を有する例えばマウス、ラット又はウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基と置き換えられている。一部の例において、対応する非ヒト残基は、ヒトIgのFvフレームワーク残基を置き換えている。ヒト化抗体は、レシピエント抗体に存在せず、輸入CDR又はフレームワーク配列中にも存在しない残基を含有してもよい。概して、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含有しており、その中で、すべてではないが大部分のCDR領域が、非ヒトIgのCDR領域に相当し、すべてではないが大部分のFR領域が、ヒトIgコンセンサス配列のFRである。ヒト化抗体は、好ましくは、Ig定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒトIgのFcの少なくとも一部も含有する(Riechmann ら、 1988, Nature 332(6162):323-7; Verhoeyen ら、 1988, Science 239(4847): 1534-6)。
【0186】
ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリー(Hoogenboom ら、 1991, Mol. Immunol. 28(9):1027-37; Marks ら、 1991, J. Mol. Biol. 222(3):581-97)及びヒトモノクローナル抗体の調製(Reisfeld 及び Sell, 1985, Cancer Surv. 4(l):271-90)をはじめとする様々な技術を使用して製造することができる。同様に、内因性Ig遺伝子が部分的又は完全に不活化されているトランスジェニック動物へのヒトIg遺伝子の導入を利用して、ヒト抗体を合成することができる(例えば、Fishwild ら、 1996, Nat. Biotechnol. 14(7):845-51; Lonberg ら、 1994, Nature 368(6474):856-9; Lonberg 及び Huszar, 1995, Int. Rev. Immunol. 13:65-93; Taylor, L.D., ら、 1992, Nucl. Acids Res. 20:6287-6295; Kellermann S-A., 及び Green L.L., 2002, Curr. Opin. Biotechnol. 13:593-597; Little, M. ら、 2000, Immunol. Today 21:364-370; Murphy, A.J. ら、 2014, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 111(14):5153-5158を参照のこと)。チャレンジを行うことで、ヒト抗体の産生が観察される。一部の実施形態において、抗EBV-LMP2/HLA-A02ヒト抗体は、CLGGLLTMV(配列番号1)である、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有するアミノ酸配列を有するEBV-LMP2ペプチドを用いた抗原チャレンジに反応してヒト抗体を産生するよう遺伝子操作された非ヒト動物の免疫化により、作製される。
【0187】
一部の実施形態において、本発明に従う使用のための抗EBV-LMP2/HLA-A02ヒトモノクローナル抗体は、バリアントFc領域を含有し、この場合において当該バリアントFc領域は、野生型Fc領域(又は親Fc領域)と比較し少なくとも1つのアミノ酸改変を含有し、それにより、当該分子は、Fc受容体(例えば、FcγR)に対するアフィニティが変化している。ただし、当該バリアントFc領域が、Sondermann ら、 2000, Nature, 406:267-273に開示されるようなFc-Fc受容体相互作用の結晶構造解析に基づく、Fc受容体と直接接触する位置に置換を有していない場合に限る。例えばFcγRなどのFc受容体と直接接触するFc領域内の位置の例は、アミノ酸234-239(ヒンジ領域)、アミノ酸265-269(B/Cループ)、アミノ酸297-299(C'/Eループ)、及びアミノ酸327-332 (F/G)ループである。一部の実施形態において、バリアントFc領域を含有する本発明の抗EBV-LMP2/HLA-A02ヒトモノクローナル抗体は、構造結晶解析に基づき、FcγRと直接接触する残基の少なくとも1つの改変を含有する。
【0188】
一部の実施形態において、本発明に従う使用のための抗EBV-LMP2/HLA-A02ヒトモノクローナル抗体は、1つ以上のアミノ酸改変を伴うバリアントFc領域を有する、活性化受容体及び/又は阻害性受容体に対するアフィニティが変化した抗EBV‐LMP2/HLA-A02ヒトモノクローナル抗体であり、この場合において当該1つ以上のアミノ酸改変は、297位でのアラニンとの置換である。一部の実施形態において、FcRアフィニティを増強させるための239D、330L、332Eでの置換である。一部の実施形態において、FcR結合を低下又は消滅させるための322Kでの置換である。一部の実施形態において、本発明に従う使用のための抗EBV-LMP2/HLA-A02ヒトモノクローナル抗体は、親Fc領域と比較して、バリアントグリコシル化を伴うFc領域を有している。一部の実施形態において、バリアントグリコシル化は、フコースの不在を含む。一部の実施形態において、バリアントグリコシル化は、GnT1-欠損CHO細胞での発現から生じる。一部の実施形態において、本発明は、K322A置換により特徴づけられるバリアントFc領域を含有する、ヒト抗EBV-LMP2/HLA-A02抗体の構成要素を有する多特異性結合剤を提供する。一部の実施形態において、提供される多特異性結合剤は、構成要素が由来し得る親抗体と比較してバリアントグリコシル化(例えば、脱グリコシル化(aglycosylated)されている)を示す抗体構成要素を含有する。一部のそのような実施形態において、そのようなバリアントは、K322A置換により特徴づけられるバリアントFc領域であってもよく、又はそのバリアントFc領域を含有してもよい。
【0189】
一部の実施形態において、本発明は、基準Fcと比較して、エフェクター機能が変化している、及び/又はFcRに対するアフィニティが増強又は消失している点で特徴づけられるバリアントFc領域(すなわち、Fc領域が、適切な基準Fcと比較して1つ以上の付加、欠失、及び/又は置換を含む)を含有する抗体又は抗体剤を提供、及び/又は利用するものである。これらの変化は、当分野の当業者の技術範囲内である。
【0190】
したがって、特に、本発明は、1つ以上のFcγRに高いアフィニティで結合するバリアントFc領域を含有する抗体剤及び多特異性結合剤(例えば、抗体剤)を提供するものである。かかる剤は、以下に検討されるように、エフェクター機能をより効果的に調節することが好ましい。一部の実施形態において、本発明は、1つ以上のFcγRに弱いアフィニティで結合するバリアントFc領域を含有する抗体剤及び多特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)を提供するものである。エフェクター機能の低下又は消失は、例えばその作用機序が遮断又は拮抗作用を含むが、標的抗原を担持する細胞の殺傷を含まない抗体の場合など、特定の場合で望ましい。さらに、エフェクター機能の消失は、以下に検討される二特異性抗体の作製時など一部の実施形態において望ましい。エフェクター機能の低下又は消失は自己免疫疾患の場合で望ましく、この場合、抗体はエフェクター細胞のFcγR活性化受容体を遮断する(このタイプの機能は、宿主細胞中に存在する)。概して、エフェクター機能の増大は、腫瘍及び外来性細胞へと向かうものである。一部の実施形態においては、エフェクター機能は、腫瘍細胞から離れたほうへと向かう。
【0191】
本発明に従う使用のためのFcバリアントは、限定されないが、エフェクター機能を変化させる改変をはじめとする他のFc改変と組み合わされてもよい。本発明は、本明細書に記載されるFcバリアントと、他のFc改変を組み合わせて、抗体又はFc融合物において、付加的な、相乗的な、又は新規の性能を提供することを包含するものである。一部のそのような実施形態において、Fcバリアントは、それらが組み合わされる改変の表現型を増強させることができる。例えば、もしFcバリアントが、野生型Fc領域を含有する同等の分子よりも高いアフィニティでFcγRIIIAに結合することが知られている変異体と組み合わされる場合、当該変異体との組み合わせによって、FcγRIIIAアフィニティのより大きな倍数増強が生じる。
【0192】
本発明に従う一部の実施形態において、本明細書に記載されるFcバリアントは、抗体又はFc融合物に組み込まれ、1つ以上のFc糖型を含有する、Fc領域を含有する分子へと遺伝子操作された剤を生成し(すなわち、1つ以上の炭水化物が共有結合されている1つ以上のFcポリペプチド)、この場合において炭水化物組成物の糖型は、Fc領域を含有する親分子の糖型とは化学的に異なっている。
【0193】
一部の実施形態において、本明細書に記載される多特異性結合剤(例えば、抗体剤)は、バリアントグリコシル化を示すFcバリアントを含有してもよく、及び/又はグリコシル化欠損細胞株(例えば、GnT1欠損CHO細胞)で発現されてもよく、そのような剤のFc領域は、適切な基準Fc領域(例えば、野生型)と比較し、又はグリコシル化が欠損していない細胞株で発現されたFc領域と比較し、グリコシル化を欠損して産生される。
【0194】
一部の実施形態において、本発明に従い使用される抗体は、対象抗原(例えば、EBV-LMP2ペプチド)に結合する適切な基準抗体と比較し、好ましくは例えば抗原への結合活性などの抗体の機能性が変化することなく、改変されたグリコシル化部位を有していてもよい。本明細書において使用される場合、「グリコシル化部位」は、オリゴ糖(すなわち、ともに連結された2つ以上の単純糖を含有する炭水化物)が特異的に、及び共有結合的に付加する抗体における任意の特定のアミノ酸配列を含む。オリゴ糖側鎖は、典型的にはN結合又はO結合のいずれかにより抗体の主鎖に連結されている。N結合型グリコシル化とは、アスパラギン残基側鎖へのオリゴ糖部分の付加を指す。O結合型グリコシル化とは、例えばセリン、スレオニンなどのヒドロキシアミノ酸へのオリゴ糖部分の付加を指す。例えば、フコース又は末端N-アセチルグルコサミンをはじめとする特定のオリゴ糖を欠くFc糖型は、特別なCHO細胞中で産生されることができ、及びADCCエフェクター機能の増強を示す。
【0195】
一部の実施形態において、本発明は、グリコシル化部位を付加又は欠失させることにより、本明細書に記載される抗体の炭水化物内容を改変する方法を包含する。抗体の炭水化物内容を改変する方法は当分野に公知であり、本発明の範囲内に含まれる(例えば、米国特許第6,218,149号、EP0359096B1、米国特許出願公開US2002/0028486、国際特許出願公開WO03/035835、米国特許出願2003/0115614、米国特許第6,218,149号、米国特許第6,472,511号を参照のこと)。一部の実施形態において、本発明は、抗体の1つ以上の内因性炭水化物部分を欠失させることにより、抗体の炭水化物内容(又はその関連部分又は構成要素)を改変する方法を含む。一部の特定の実施形態において、本発明は、297位をアスパラギンからアラニンへと改変することによる、抗体のFc領域のグリコシル化部位を欠失させることを含む。
【0196】
遺伝子操作された糖型は、限定されないが、エフェクター機能の増強又は低減をはじめとする様々な目的に対し有用であり得る。遺伝子操作された糖型は、当業者の当分野に公知の任意の方法により作製することができ、例えば、遺伝子操作された発現株もしくはバリアント発現株を使用することにより、例えばDI N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)などの1つ以上の酵素と共発現させることにより、様々な生物体もしくは様々な生物体由来の細胞株においてFc領域を含有する分子を発現させることにより、又はFc領域を含有する分子が発現された後に炭水化物を改変することにより、作製することができる。遺伝子操作された糖型を作製する方法は当分野に公知であり、限定されないが、Umana ら、 1999, Nat. Biotechnol. 17:176-180; Davies ら、 2001, Biotechnol. Bioeng. 74:288-294; Shields ら、 2002, J. Biol. Chem. 277:26733-26740; Shinkawa ら、 2003, J. Biol. Chem. 278:3466-3473、米国特許第6,602,684号、米国特許出願10/277,370、米国特許出願10/113,929、国際特許出願公開WO00/61739A1、WO01/292246A1、WO02/311140A1、WO02/30954A1、POTILLEGENT(商標)法(Biowa, Inc. ニュージャージー州プリンストン)、GLYCOMAB(商標)グリコシル化遺伝子操作法(GLYCART biotechnology AG社、スイス チューリッヒ)に記載される方法があげられる。例えば、国際特許出願公開WO00/061739、EA01229125、米国特許出願2003/0115614、Okazaki ら、 2004, JMB, 336:1239-49を参照のこと。
【0197】
多価結合剤
当分野の当業者であれば、多価結合剤は、2つ以上の標的(例えば、エピトープ)に特異的に結合する結合構成要素を含む、分子実体又は複合体であることを認識している。そのような多価結合剤は、当分野において、治療用途を含む様々な用途が見いだされる。1つの例ではあるが、当分野の当業者であれば、多価結合剤を遺伝子操作し、細胞障害性T細胞を腫瘍部位へと向かわせる(又はリクルートする)ことにより、腫瘍細胞の殺傷が促進されることを認識している。腫瘍抗原の例としては、限定されないが、アルファフェトプロテイン(AFP:alpha fetoprotein)、CA15-3、CA27-29、CA19-9、CA-125、カルレチニン、癌胎児性抗原、CD34、CD99、CD117、クロモグラニン、サイトケラチン、デスミン、上皮膜タンパク質(EMA:epithelial membrane protein)、第VIII因子、CD31 FL1、グリア細胞繊維性酸性タンパク質(GFAP:glial fibrillary acidic protein)、gross cystic disease fluid protein (GCDFP-15)、HMB-45、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG:human chorionic gonadotropin)、インヒビン、ケラチン、CD45、リンパ球マーカー、MART-1 (Melan-A)、Myo Dl、筋特異的アクチン(MSA:muscle-specific actin)、ニューロフィラメント、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE :neuron-specific enolase)、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP:placental alkaline phosphatase)、前立腺特異抗原、S100タンパク質、平滑筋アクチン(SMA:smooth muscle actin)、シナプトフィジン、サイログロブリン、甲状腺転写因子-1、腫瘍M2-PK、及びビメンチンが挙げられる。
【0198】
一部の実施形態において、本発明に従う使用のための多価結合剤は、二特異性結合剤である。多くの実施形態において、かかる二特異性結合剤は、腫瘍細胞に結合することができる。多くの実施形態において、かかる二特異性結合剤は、エプスタインバールウイルス(EBV)に感染したEBV+細胞、又はMHC分子(例えばHLAクラスI分子)を介して腫瘍細胞表面上にEBV関連ペプチドを発現している細胞に結合することができる。
【0199】
一部の実施形態において、本発明により提供される多価結合剤(例えば、二特異性結合剤)は、抗体構成要素であるか、又は抗体構成要素を含有する。抗体構成要素を含有する多特異性結合剤を設計、構築、及び/又は作製するための様々な方法が当分野に公知である。
【0200】
例えば、全長イムノグロブリンフレームワーク(例えばIgG)、一本鎖可変断片(scFv)、又はそれらの組み合わせのいずれかを利用する多価結合剤が構築される。タンデムの2つのscFv単位から構成される二特異性結合剤は、臨床的に有効な二特異性抗体型であることが示されている。抗腫瘍免疫療法の場合において、2つの一本鎖可変断片(scFv)をタンデムに含有する二特異性結合剤は、腫瘍抗原に結合するscFvが、CD3に結合することによりT細胞を誘導するscFvと連結するよう設計される。この方法において、特定のT細胞が有する細胞障害の特性によって腫瘍細胞の殺傷が調節され得ることを願って、T細胞が腫瘍細胞へとリクルートされる。そのような二特異性結合剤の例としては、リンパ腫のCD19及びCD3を標的とするものが作製されており(二特異性T細胞誘導(Bispecific T cell Engaging)又はBiTEと名付けられている。例えば、Dreier ら、 2003, J. Immunol. 170:4397-4402; Bargou ら、 2008, Science 321:974-977を参照のこと)、動物異種移植編実験におて腫瘍増殖の阻害に有効であった。ヒトの試験において、この二特異性結合剤は、5件の部分寛解と2件の完全寛解を含む、他覚的腫瘍応答が示された。
【0201】
例示的な二特異性結合剤は、腫瘍抗原(例えば、MHC分子の結合ポケット中のEBV関連ペプチド)に特異的な第一の抗体構成要素と、免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞など)に特異的な第二の抗体構成要素を含む。二特異性結合剤は、例えば、同じ抗原又は別の抗原の異なるエピトープを認識する重鎖及び/又は軽鎖を組み合わせることにより作製することができる。一部の実施形態において、分子機能により、二特異性結合剤は、その2つの結合腕のうちの1つ(1つのVH/VLペア)の上で1つの抗原(又はエピトープ)に結合し、及びその2つ目の腕(別のVH/VLペア)の上で別の抗原(又はエピトープ)に結合する。この定義により、二特異性結合剤は、2つの(特異性及びCDR配列の両方において)別個の抗原結合腕を有しており、結合する各抗原に対し、一価である。
【0202】
一部の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、異なる構造の2つの標的に同時に結合する能力により特徴づけられる。一部の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、例えばB細胞、T細胞、骨髄、血漿もしくは肥満細胞の抗原又はエピトープに特異的に結合する少なくとも1つの構成要素と、ペプチド‐HLA複合体に特異的に結合する少なくとも1つの他の構成要素を有しており、当該ペプチド‐HLA複合体のペプチドは、EBVタンパク質に由来する。
【0203】
本発明の二特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)は、EBVが関連する疾患及び悪性腫瘍の診断ならびに/又は治療に使用する場合には、特定の型が、特定の標的(例えば、腫瘍抗原)に対し、より役に立ち得るという固有の見識に基づいている。例えば、本明細書に提示される二特異性抗体は、異なる結合特性を有するscFvの組み合わせを利用している。かかる二特異性抗体は、第一のscFvによるEBV-ペプチド/HLA複合体に対する特異性と、第二のscFv(例えば、抗CD3)によるT細胞に対する特異性を示す。本明細書に記載されるように、この型を有する二特異性抗体は、最初に第一のscFv(例えば、抗EBV-LMP2/HLA-A02)を介してEBV-LMP2ペプチド/HLA複合体を発現する細胞に結合し、そして第二のscFvを介してT細胞上のCD3に結合する。かかる二特異性結合剤は、EBV-LMP2ペプチド/HLA複合体とCD3の同時結合を介して、EBV+細胞のT細胞による細胞障害を促進する。さらに、本発明の二特異性抗体は、腫瘍を標的とする診断性能及び治療性能の両方を提供する。
【0204】
様々な実施形態において、本発明に従う二特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)は、第一の結合構成要素と、第二の結合構成要素から構成される。多くの実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第一及び第二の結合構成要素は、各々、異なる特異性により特徴づけられる抗体構成要素から構成される。多くの実施形態において、抗体構成要素は、表3から選択される。
【0205】
様々な実施形態において、本発明に従う二特異性結合剤は、第一の結合構成要素と、第二の結合構成要素を含有する。様々な実施形態において、本発明に従う二特異性結合剤は、第一の結合構成要素及び第二の結合構成要素、ならびに当該第一及び第二の結合構成要素の両方を連結する(例えば、第一と第二の結合構成要素の間に位置する)リンカーを含有する。
【0206】
様々な実施形態において、本明細書に記載される第一及び/又は第二の結合構成要素は、抗体構成要素であるか、又は抗体構成要素を含有する。様々な実施形態において、本明細書に記載される第一及び/又は第二の結合構成要素は、リンカー配列を含有する。
【0207】
一部の実施形態において、リンカーは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100又はそれ以上のアミノ酸の長さである。一部の実施形態において、リンカーは、硬い3次元構造をとる傾向はなく、むしろポリペプチド(例えば、第一及び/又は第二の結合構成要素)に対し柔軟性を与えるという点で特徴づけられる。一部の実施形態において、例えば凝集の低下及び/又は安定性の上昇などの、二特異性結合剤に付与される固有の特性に基づいて、本明細書に記載される二特異性結合剤にリンカーが使用される。一部の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、G4Sリンカーを含有する。一部の特定の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、(G4S)nリンカーを含有し、この場合において、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又はそれ以上である。
【0208】
一部の実施形態において、本明細書に記載される第一及び/又は第二の結合構成要素は、イムノグロブリン(例えば、IgG)であるか、又はイムノグロブリンを含有する。一部の実施形態において、本明細書に記載される第一及び/又は第二の結合構成要素結合構成要素は、抗体断片(例えば、scFv)を含有するか、又は抗体断片である。一部の実施形態において、本明細書に記載される第一の結合構成要素は、イムノグロブリンを含有するか、又はイムノグロブリンであり、及び第二の結合構成要素は、抗体断片を含有するか、又は抗体断片である。一部の特定の実施形態において、第一の結合構成要素は、イムノグロブリンであり、及び第二の結合構成要素は、抗体断片である。一部の特定の実施形態において、第一の結合構成要素は、IgGであり、及び第二の結合構成要素は、scFvである。
【0209】
一部の特定の実施形態において、本発明に従う二特異性結合剤は、第一及び第二のscFvを含有する。一部の実施形態において、第一のscFvは、第二のscFvのC末端に連結される。一部の実施形態において、第二のscFvは、第一のscFvのC末端に連結される。一部の特定の実施形態において、scFvは、リンカー配列を介して互いに連結される。
【0210】
一部の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、表3に明記される配列の1つ以上に対し、少なくとも約50%(例えば少なくとも約55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%)同一である配列を1つ以上含有する。
【0211】
一部の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、表3に明記される配列の1つ以上に対し、実質的に同一であるか、又は同一である配列を1つ以上含有する。
【0212】
一部の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、表3に明記される配列の1つ以上から選択される。一部の特定の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、表3に明記される2つの配列、例えば重鎖配列と軽鎖配列から選択される。一部の特定の実施形態において、本発明の二特異性結合剤は、表3に明記される3つの配列、例えば重鎖配列と軽鎖配列とscFv配列から選択される。
【0213】
様々な実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第一の結合構成要素は、表3に明記される抗体構成要素に対し、少なくとも50%(例えば、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上)同一の配列を有する抗体構成要素を含有する。
【0214】
様々な実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第一の結合構成要素は、表3に明記される抗体構成要素に対し、実質的に同一であるか、又は同一である配列を有する抗体構成要素を含有する。
【0215】
様々な実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第二の結合構成要素は、T細胞に結合する抗体構成要素を含有する。本明細書に記載される二特異性結合剤の第二の結合構成要素に対する標的として利用され得る例示的なT細胞マーカーとしては、CD3、CD4、CD8、CD28などが挙げられる。一部の実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第二の結合構成要素は、CD3に結合する抗体構成要素を含有する。一部の特定の実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第二の結合構成要素は、CD3に結合する抗体構成要素を含有する。
【0216】
様々な実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第二の結合構成要素は、表3に明記される抗体構成要素に対し、少なくとも50%(例えば、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上)同一の配列を有する抗体構成要素を含有する。
【0217】
様々な実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第二の結合構成要素は、表3に明記される抗体構成要素に対し、実質的に同一であるか、又は同一である配列を有する抗体構成要素を含有する。一部の特定の実施形態において、本明細書に記載される二特異性結合剤の第二の結合構成要素は、配列番号124であるか、又は配列番号124を含有する。
【0218】
本明細書に記載されるように、本発明者らは、HLAクラスI結合ポケット中に提示されるEBV関連ペプチドを標的とする改善された一特異性結合剤及び多特異性結合剤(二特異性抗体)を提供する。かかる多特異性結合剤は、一部の実施形態において、HLAクラスI結合ポケット中で提示されるペプチドとTCRの相互作用を模倣する結合構成要素を含有する。したがって、本発明の多特異性結合剤の結合構成要素は、より特異的であり、及びHLAクラスI結合ポケット中で提示されるEBV関連ペプチドに特異的な天然TCRに対し、より類似しているとして記載され得る。本明細書に記載されるように、かかる多特異性結合剤は、かかる結合構成要素を含有しない多特異性結合剤と比較し、交差反応性に悩まされることなく、親和性及び臨床有用性の増強を示した。したがって、本発明はは、二価及び多価のLMP2(CLG)/HLA-A02特異的II型抗体を具体的に示すものであり、この抗体は、in vitro及びin vivoでの有効性の増強により特徴づけられる。さらに本発明は、一部の実施形態において、EBV関連ペプチドの4~7位の標的ペプチドに対する特異性により特徴づけられる、II型TCR模倣体を開発するための選択技法を具体的に示すものであり、これによって、他のHLAアレル及び抗原への一般化が可能となる明確な利益がもたらされる。
【0219】
キメラ抗原受容体(CAR:Chimeric Antigen Receptor)
本発明はまた、本明細書に記載されるヒト抗体剤及び/又は多特異性結合剤を含有するキメラ抗原受容体を提供する。CARは、当分野に公知の方法により構築されることができる(例えば、WO2012/079000、米国特許出願公開2012/0213783、WO2013/126726、WO2015/177789、及びWO2015/080981を参照のこと。それらすべては本明細書に参照により援用される)。免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞、NK細胞など)を遺伝子操作して、本明細書に記載される抗体構成要素を含有するキメラ抗原受容体を発現させ、それによって、検出を回避するために癌細胞により利用される免疫系の監視システムを克服する抗腫瘍免疫エフェクター細胞を生成することができる。一部の実施形態において、本発明は、キメラ抗原受容体を発現する免疫エフェクター細胞を提供するものであり、当該キメラ抗原受容体は、本明細書に記載される、ヒト抗体剤の1つ以上の抗原結合部位、又は多特異性結合剤の1つ以上の抗原結合部位を含有する。一部の実施形態において、免疫エフェクター細胞は、本明細書に記載される抗体構成要素の抗原結合部位を発現するよう遺伝子操作されたT細胞を含む。一部の実施形態において、抗原結合部位は、本明細書に記載される抗体構成要素であるか、又はそれを含有する。
【0220】
一部の実施形態において、免疫エフェクター細胞は、キメラの、ヒト化の、ヒトの、及び/又はヒトの手により遺伝子操作されたキメラ抗原受容体を含む。一部の実施形態において、キメラ抗原受容体は、1、2、3、4、5、又はそれ以上の構成要素(例えば、抗体構成要素、結合構成要素、シグナル伝達構成要素など)を含有する。一部の実施形態において、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体の構成要素は、EBV+細胞又はEBV感染細胞への免疫エフェクター細胞の結合を促進する。一部の実施形態において、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体は、EBV-LMP2/HLA-A複合体(例えば、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02複合体)に結合する抗体構成要素を含有し、及び1つ以上の細胞質シグナル伝達ドメインのすべて又は一部、及び1つ以上の共刺激分子のすべて又は一部をさらに含有する。一部の実施形態において、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体の抗体構成要素は、scFvであるか、scFvを含有する。一部の特定の実施形態において、scFvは、表3から選択される。
【0221】
標的
特に、本発明は、多特異性結合剤(及び/又はキメラ抗原受容体)、及び例えば二特異性抗体などの二特異性結合剤は、細胞殺傷の促進に特に有用及び/又は効果的であるという認識を包含している。特に、本発明は、標的細胞関連エピトープ(例えば、EBV関連ペプチド抗原)と、リンパ球関連エピトープ(例えば、T細胞表面タンパク質)の両方に特異的に結合する多価結合剤の活性は、EBVが関連する疾患及び悪性腫瘍に対する効果的な免疫療法であり得ることを示す。
【0222】
例えば、本発明の一部の実施形態において、多価結合剤は、腫瘍関連エピトープ及びT細胞エピトープに特異的に結合する。かかる実施形態に従い、多価結合剤は、その標的エピトープのうちの1つまたは両方に対する剤の結合を促進することができ、及び/又は標的T細胞により介在される標的腫瘍細胞の殺傷を増強することができる。別の例ではあるが、本発明の一部の実施形態において、キメラ抗原受容体は、EBV+細胞又はEBV感染細胞上のEBV関連エピトープに結合する。かかる実施形態に従い、免疫エフェクター細胞は、キメラ抗原受容体とその標的エピトープの結合後、EBV+細胞又はEBV感染細胞の殺傷を促進することができる。
【0223】
一部の実施形態において、殺傷される標的細胞としては例えば、ウイルスペプチド抗原(例えば、EBV関連ウイルスペプチド抗原)を発現している細胞が挙げられる。当分野の当業者であれば、本明細書に記載される多価結合剤が望ましく結合する当該細胞上の適切な標的エピトープを認識するであろう。
【0224】
一部の実施形態において、本明細書に記載される標的細胞の殺傷を介在し得るリンパ球は、T細胞(例えば、CD8+T細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、顆粒球、及び抗体依存性細胞障害性細胞を含む。当分野の当業者であれば、本明細書に記載される多価結合剤が望ましく結合する当該リンパ球上の適切な標的エピトープを認識するであろう。当該エピトープの代表例は、例えばIgGのFc受容体 (例えば、FcγRIIB)、CD1d、CD3、CD4、CD7、CD8、CD13、CD14、CD16、CD31、CD38、CD56、CD68、MAC-l/MAC-3、IL-2Ra、OX40、Ly49、及びCD94などの抗原上に見出すことができる。
【0225】
核酸構築物及び発現
本明細書に記載されるヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤(例えば二特異性抗体)、及びキメラ抗原受容体は、当分野に公知の分子生物学的方法を使用して、核酸分子から作製され得る。核酸分子は、適切な宿主細胞へと導入されたときに融合タンパク質を発現することができるベクターへと挿入される。適切な宿主細胞としては限定されないが、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、及び哺乳類細胞が挙げられる。当分野の当業者に公知の、ベクターへのDNA断片挿入のための方法のいずれかを使用して、転写/翻訳制御シグナル伝達の制御下で、本発明の融合タンパク質をコードする発現ベクターを構築してもよい。これら方法としては、in vitroの組み換えDNA法及び合成法、ならびにin vivoの組み換え(Sambrook ら、 Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory; Current Protocols in Molecular Biology, 編 Ausubel ら, Greene Publ. Assoc., Wiley-Interscience, NYを参照のこと)が挙げられる。
【0226】
本発明に従う核酸分子の発現は、組み換えDNA分子で形質転換された宿主中で当該分子が発現されるよう、第二の核酸配列により制御されてもよい。例えば、本発明の核酸分子の発現は、当分野に公知のプロモーター及び/又はエンハンサーエレメントにより制御されてもよい。
【0227】
核酸構築物は、抗体及び/又は抗体構成要素から生成された多特異性結合タンパク質(又はキメラ抗原受容体)をコードする領域を含む。典型的には、かかる多特異性結合タンパク質(又はキメラ抗原受容体)は、VH領域及び/又はVL領域から生成される。所望される結合特性及び/又は機能的特性を示す抗体の特定及び選択を行った後、各抗体の可変領域を単離、増幅、クローニング、及び配列解析する。VHヌクレオチド配列及びVLヌクレオチド配列に対し改変を行ってもよく、当該改変としては、アミノ酸をコードするヌクレオチド配列及び/もしくは制限酵素部位を担持するヌクレオチド配列の付加、アミノ酸をコードするヌクレオチド配列の欠失、又はアミノ酸をコードするヌクレオチド配列の置換が挙げられる。抗体及び/又は抗体構成要素は、ヒト抗体、非ヒト抗体(例えばマウス)、ヒト化抗体、又はキメラ抗体から生成されてもよい。
【0228】
本発明の核酸構築物は、当分野に公知の方法により発現ベクター又はウイルスベクターに挿入され、核酸分子は発現制御配列に制御可能に連結される。
【0229】
適切な場合には、本明細書に記載されるヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、及びキメラ抗原受容体をコードする核酸配列を改変し、特定の細胞型又は生物体における発現に最適化されたコドンを含ませてもよい(例えば、米国特許第5,670,356号及び第5,874,304号を参照のこと)。コドン最適化配列は、合成配列であり、及び好ましくは非コドン最適化親ポリヌクレオチドによりコードされる、同一のポリペプチド(又は全長ポリペプチドと実質的に同じ活性を有する全長ポリペプチドの生物学的に活性な断片)をコードする。一部の実施形態において、抗体構成要素の全部又は一部をコードする遺伝物質のコード領域は、特定の細胞型(例えば真核細胞又は原核細胞)に対してコドン使用を最適化するよう改変された配列を含有してもよい。例えば、本明細書に記載されるヒト又はヒト化された重鎖(又は軽鎖)の可変領域に対するコード配列を、細菌細胞における発現に最適化してもよい。あるいは、コード配列は、哺乳類細胞(例えば、CHO)における発現に最適化されてもよい。そのような配列は、コドン最適化配列と記載される場合がある。
【0230】
核酸分子を含有する発現ベクターを、適切な宿主細胞へと形質転換し、当該核酸構築物によりコードされるタンパク質の産生を可能にさせる。例示的な宿主細胞としては、原核生物(例えば、大腸菌)及び真核生物(例えば、COS又はCHOの細胞)が挙げられる。発現ベクターで形質転換された宿主細胞を、本発明のヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体の産生を可能とさせる条件下で増殖させ、次いで、ヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体を回収する。
【0231】
本発明のヒトモノクローナル抗体、及び/又は多特異性結合剤は、任意の技術により精製されてもよく、それにより安定した抗体又は結合剤分子のその後の形成が可能となる。例えば、学説に拘束されることは望まないが、ヒトモノクローナル抗体、及び/又は多特異性結合剤は、可溶性ポリペプチドとして、又は封入体としてのいずれかで細胞から回収されてもよく、封入体から、8Mグアニジン塩酸塩により定量的に抽出され、透析されてもよい。さらに本発明のヒトモノクローナル抗体、及び/又は多特異性結合剤を精製するために、従来的なイオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、又はゲルろ過を使用してもよい。本発明のヒトモノクローナル抗体、及び/又は多特異性結合剤はまた、真核細胞又は原核細胞から分泌された後に、馴化培地から回収されてもよい。
【0232】
免疫エフェクター細胞の表面上で発現されたキメラ抗原受容体は、当分野に公知の方法により獲得されてもよい。典型的には、キメラ抗原受容体ポリペプチドをコードする核酸配列を担持する発現ベクターは、発現用微生物へと形質転換される。上述のように、かかる微生物は、原核生物(細菌)又は真核生物(例えば酵母)であってもよい。発現ベクターはまた、望ましい結末に応じて、キメラ抗原受容体の発現が細胞膜又は細胞内の位置へと標的化されるよう、シグナルペプチドをコードする配列を含有してもよい。かかるシグナルペプチドは、当分野の当業者に公知である。キメラ抗原受容体ポリペプチドをコードする発現ベクターは、当分野に公知の方法により宿主細胞へと導入され、当該方法としては例えばDNAトランスフェクション、エレクトロポレーション、トランスフェクション及び(例えばアデノウイルス又はレトロウイルスなどのウイルスを用いた)感染などが挙げられる。
【0233】
一部の実施形態において、T細胞における発現用の、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体をコードする核酸分子を提供し、それによってキメラ抗原受容体T細胞が生成される。キメラ抗原受容体をコードする核酸分子は、例えばT細胞などの宿主免疫エフェクター細胞における発現のためのベクター(例えばレンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクター)中に含有されてもよい。例示的な免疫エフェクター細胞としては、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞障害性Tリンパ球(CTL)、及び制御性T細胞が挙げられる。キメラ抗原受容体をコードする核酸分子を作製する方法、及びかかるキメラ抗原受容体を含有するT細胞を作製する方法は当分野に公知である(例えば、Till, B.G. ら、 2008, Blood 112(6):2261-71; Brentjens, R. ら、 2010, Molecular Therapy 18(4):666-8; Morgan, R.A. ら、 2010, Molecular Therapy 18(4):843-51; Park, T.S. ら、 2011, Trends Biotechnol. 29(11):550-7; Grupp, S.A. ら、 2013, N. Engl. J. Med. 368(16):1509-18; Han, E.Q. ら、 2013, J. Hematol. Oncol. 6:47;WO2012/079000、WO2013/126726;及び米国特許出願公開2012/0213783を参照のこと。それらはすべて参照により本明細書に援用される)。
【0234】
スクリーニング方法及び検出方法
本発明のヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、及び/又はキメラ抗原受容体は、in vitro又はin vivoのスクリーニング方法において使用されてもよく、当該方法は、細胞の1つ以上の活性(例えば、アポトーシス又は細胞増殖)を検出すること、及び/又は測定することが望ましい。スクリーニング方法は当分野に公知であり、セルフリーのアッセイ、細胞ベースのアッセイ、及び動物アッセイが挙げられる。in vitroアッセイは、固形状態又は可溶性のいずれかであってもよく、標的分子検出は、当分野に公知の多くの方法で行うことができ、標的分子(例えば、細胞表面抗原)に結合されるヒトモノクローナル抗体又は多特異性結合剤を特定することができる標識又は検出基の使用を含む。本発明のヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤又はキメラ抗原受容体を使用したアッセイと併せて、検出可能な標識を使用してもよい。
【0235】
治療方法
標的抗原のうちの1つに対する高いアフィニティ結合を示す、本発明のヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、及び/又はキメラ抗原受容体の能力によって、それらは、標的抗原(例えば、EBV関連ペプチド)を発現する細胞の効率的な標的化に関し、治療的に有用となる。ゆえに、一部の実施形態において、1つの標的抗原に対するヒトモノクローナル抗体又は多特異性結合剤のアフィニティは増加させ、また当該多特異性結合剤により結合される他の標的抗原(又はヒトモノクローナル抗体の場合にはFc受容体)に対するアフィニティは増加させないことが望ましい。例えば、腫瘍殺傷に関して、特定の状態は、腫瘍抗原に対するアフィニティは増加させ、腫瘍殺傷を介在することができる細胞(例えばT細胞)表面上の抗原に対するアフィニティは増加させないことによって利益を受けうる。したがって、本明細書に記載されるヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体の使用を介して、腫瘍抗原を発現している腫瘍を有する患者において、当該腫瘍抗原に対するヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体の結合アフィニティを増加させることは、有益であり得る。
【0236】
本発明は、腫瘍を有する患者の治療のための治療剤として、本明細書に記載されるヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、及び/又はキメラ抗原受容体を提供するものであり、当該腫瘍は、当該多特異性結合剤により結合され得る抗原を発現している。かかるヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、及び/又はキメラ抗原受容体は、ヒト又は動物の身体の治療方法で使用することができ、又は診断方法で使用することができる。
【0237】
一部の実施形態において、医薬において有用なヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体が提供される。一部の実施形態において、EBVが関連した疾患もしくは悪性腫瘍、又はEBVが関連した疾患もしくは悪性腫瘍と関連した又は相関した負の派生効果の治療又は予防における予防剤として有用なヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体が提供される。一部の実施形態において、例えばEBVが関連した疾患もしくは悪性腫瘍に罹患している、又はそれらに感受性の個体における、治療応用に有用なヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体が提供される。
投与
【0238】
本発明は、治療の必要のある対象に対する、本明細書に記載される治療剤(例えば、ヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体)の有効量を投与する方法が提供される。
【0239】
本明細書に記載されるヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体は、剤の治療送達に関し、当分野において公知の様々な方法を介して投与されることができる。例えば、対象における標的細胞の殺傷又は増殖阻害を目的として、ヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤又はキメラ抗原受容体、又は本発明のヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、もしくはキメラ抗原受容体をコードする核酸を治療送達するために、タンパク質又は核酸を使用することができる。送達には例えば、細胞トランスフェクション、遺伝子治療、送達用ビヒクル又は薬学的に受容可能な担体を用いた直接投与、本発明の多特異性結合剤をコードする核酸を含有する組み換え細胞を提供することによる間接的送達がある。
【0240】
様々な送達システムが公知であり、及び本発明のヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体の投与に使用することができる。例えば、リポソーム内の封入、微粒子、マイクロカプセル、化合物を発現することができる組み換え細胞、受容体介在性のエンドサイトーシス(例えば、Wu 及び Wu, 1987, J. Biol. Chem. 262:4429-4432を参照のこと)、レトロウイルス又は他のベクターの一部としての核酸の構築などがある。投与経路は、腸内又は非経口であってもよく、限定されないが、静脈内、皮下、筋肉内、非経口、経皮、又は経粘膜(例えば、経口又は鼻内)が挙げられる。一部の実施形態において、本発明の多特異性結合剤は、静脈内に投与される。一部の実施形態において、本発明の多特異性結合剤は、皮下に投与される。一部の実施形態において、多特異性結合剤は、他の生物活性剤とともに投与される。
【0241】
医薬組成物
本発明はさらに、本発明のヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤、又はキメラ抗原受容体、及び薬学的に受容可能な担体又は賦形剤を含有する医薬組成物を提供するものである。もし所望の場合には、当該組成物は、1つ以上の追加の治療的活性物質を含有してもよい。
【0242】
一部の実施形態において、キメラ抗原受容体を含有する医薬組成物は、対象から単離された自己T細胞に感染するために使用されるウイルス(例えばレトロウイルス)として提供されてもよい。かかる実施形態において、自己T細胞は、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体を発現するよう遺伝子操作されたウイルスで感染され、それによって、対象(例えば、ヒト患者)への再補給のためのキメラ抗原受容体T細胞が生成される。
【0243】
本明細書に提示される医薬組成物に関する記載は、ヒトへの医療用投与に適した医薬組成物を主に指向しているが、当業者には、かかる組成物が、すべての種の動物への投与にも一般的に適していることを理解するであろう。ヒトへの投与に適した医薬組成物を、様々な動物への投与に適した組成物にするための改変は、良く解明されており、獣医薬理学の当業者であれば、もし必要であっても、単なる通常の実験でかかる改変を設計及び/又は改変を行うことができる。
【0244】
例えば、本明細書に提示される医薬組成物は、滅菌注射剤型で提供されてもよい(例えば、皮下注射又は静脈内点滴に適した剤型)。例えば一部の実施形態において、医薬組成物は、注射に適した液体の剤型で提供される。一部の実施形態において、医薬組成物は、(例えば、凍結乾燥及び/又は滅菌された)粉末として、任意で真空下で提供され、それらは注射の前に水性希釈剤(例えば、水、緩衝液、塩溶液など)で再構築される。一部の実施形態において、医薬組成物は、水、塩化ナトリウム溶液、酢酸ナトリウム溶液、ベンジルアルコール溶液、リン酸緩衝生理食塩水などにおいて希釈され、及び/又は再構築される。一部の実施形態において、粉末は、水性希釈剤と穏やかに混合されなければならない(例えば、振とうされない)。
【0245】
本明細書に記載される医薬組成物の製剤は、公知の任意の方法、又は薬理学分野で後に開発された任意の方法により調製されることができる。概して、かかる調整方法は、活性成分を、希釈剤もしくは他の賦形剤、及び/もしくは1つ以上の他の補助的な成分と関連づける工程、次いで必要で望ましいものであれば、ならびに/又は製品を、望ましい単回用量単位又は複数回用量単位へと形作る工程、及び/もしくはパッケージする工程を含む。
【0246】
本発明に従う医薬組成物は、単回用量単位、及び/又は複数の単回用量単位として、バルクで調製、パッケージ、及び/又は販売されてもよい。本明細書において使用される場合、「用量単位」は、活性成分の規定量を含有する医薬組成物の個別の量である。活性成分の量は、一般的に、対象に投与される活性成分の投与量と等しく、及び/又は例えばかかる投与量の2分の1又は3分の1などの、かかる投与量の簡便な画分である。
【0247】
本発明に従う医薬組成物中の活性成分、薬学的に受容可能な賦形剤、及び/又は任意の追加成分の相対的な量は、治療される対象の固有性、大きさ、及び/又は状態に応じて変化し、及び当該組成物が投与される経路に応じてさらに変化する。例として、当該組成物は、0.1%~100%(w/w)の活性成分を含有してもよい。
【0248】
医薬製剤は、薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含有してもよく、本明細書において使用される場合、所望される特定の剤型に適した、任意の及びすべての溶媒、分散媒、希釈剤、又は他の液体ビヒクル、分散補助物質又は懸濁補助物質、表面活性剤、等張剤、増粘剤又は乳化剤、保存剤、固形結合剤、潤滑剤などが挙げられる。Remington's The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, A. R. Gennaro (Lippincott, Williams & Wilkins, メリーランド州ボルチモア, 2006)は、医薬組成物の製剤化で使用される様々な賦形剤、及びそれらの調製のための公知の技術を開示している。例えば任意の望ましくない生物効果を生じさせる、又は医薬組成物の任意の他の構成要素と有害な様式で相互作用するなどにより、任意の従来的な賦形媒が、物質又はその誘導体と不適合である場合を除き、その使用は本発明の範囲内であることが予期される。
【0249】
一部の実施形態において、薬学的に受容可能な賦形剤は、少なくとも95%、少なくとも96%、、少なくとも97%、、少なくとも98%、、少なくとも99%、又は100%の純度である。一部の実施形態において、賦形剤は、ヒトでの使用、及び獣医学的な使用が承認されている。一部の実施形態において、賦形剤は、米国食品医薬品局(United States Food and Drug Administration.)により承認されている。一部の実施形態において、賦形剤は、医薬グレードである。一部の実施形態において、賦形剤は、米国薬局方(USP)、欧州薬局方(EP)、英国薬局方、及び/又は国際薬局方の基準に合致している。
【0250】
医薬組成物の製造において使用される薬学的に受容可能な賦形剤としては、不活性な希釈剤、分散剤、及び/もしくは造粒剤、表面活性剤及び/もしくは乳化剤、崩壊剤、結合剤、保存剤、緩衝剤、潤滑剤、ならびに/又は油が挙げられるが、これらに限定されない。かかる賦形剤は任意で、医薬製剤中に含有されることができる。例えばココアバター及び座薬ワックス、着色剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、ならびに/又は香料などの賦形剤は、調剤者の判断に従い組成物中に存在することができる。
【0251】
一部の実施形態において、提供される医薬組成物は、1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤(例えば、保存剤、不活性な希釈剤、分散剤、表面活性剤、及び/又は乳化剤、緩衝剤など)を含有する。一部の実施形態において、医薬組成物は、1つ以上の保存剤を含有する。一部の実施形態において、医薬組成物は、保存剤を含有しない。
【0252】
一部の実施形態において、医薬組成物は、冷蔵及び/又は冷凍することができる形態で提供される。一部の実施形態において、医薬組成物は、冷蔵及び/又は冷凍することができない形態で提供される。一部の実施形態において、再構築された溶液及び/又は液体剤型は、再構築後、特定の期間、保存されてもよい(例えば、2時間、12時間、24時間、2日、5日、7日、10日、2週間、1か月、2か月、又はそれより長期間)。一部の実施形態において、特定の期間よりも長期間の抗体組成物の保存は、抗体の分解を生じさせる。
【0253】
液体剤型及び/又は再構築された溶液は、投与の前に、粒状物質及び/又は変色を含有する場合がある。一部の実施形態において、溶液は、もし変色もしくは濁りがある場合、及び/又は粒状物質がろ過後も残っている場合、使用してはならない。
【0254】
製剤における概論、及び/又は医薬品の製造における概論は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy 21st ed., Lippincott Williams & Wilkins, 2005に見出されることができる。
【0255】
キット
本発明はさらに、本明細書に記載される、少なくとも1つのヒトモノクローナル抗体、多特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)、又はキメラ抗原受容体(キメラ抗原免疫エフェクター細胞)で満たされた1つ以上の容器を含有する、医薬品パック又はキットを提供する。キットは、例えば診断方法をはじめとする、任意の適切な方法において使用されることができる。任意で、医薬品又は生物学的製品の製造、使用、又は販売を管理する政府当局により指定された形式の通知と、かかる容器を関連づけてもよく、当該通知は、(a)ヒト投与に関する製造、使用、又は販売に関する当局による承認、(b)使用に関する指示、又はその両方を記載している。
【0256】
本発明の他の特性は、以下の一連の例示的な実施形態に関する記載において明らかであろう。それらは本発明の解説のために提示されるものであり、その限定であるとはみなされない。
【0257】
例示的な実施形態
1. EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、5位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置の1つ以上で、アミノ酸残基と直接相互作用する、前記ヒト抗体剤。
【0258】
2. EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、約2.0~約170nMのKDを有する、前記ヒト抗体剤。
【0259】
3. 前記EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有するアミノ酸配列を有する、例示的実施形態1又は2に記載のヒト抗体剤。
【0260】
4. 前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される位置の1つ以上で、アミノ酸残基と直接相互作用する、例示的実施形態3に記載のヒト抗体剤。
【0261】
5. 前記ヒト抗体剤は、配列番号31の重鎖CDR1、配列番号33の重鎖CDR2、及び配列番号35の重鎖CDR3を含有し、及び前記ヒト抗体剤は、配列番号73の軽鎖CDR1、配列番号75の軽鎖CDR2、及び配列番号77の軽鎖CDR3を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0262】
6. 前記ヒト抗体剤は、配列番号37の重鎖CDR1、配列番号39の重鎖CDR2、及び配列番号41の重鎖CDR3を含有し、及び前記ヒト抗体剤は、配列番号79の軽鎖CDR1、配列番号81の軽鎖CDR2、及び配列番号83の軽鎖CDR3を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0263】
7. 前記ヒト抗体剤は、配列番号43の重鎖CDR1、配列番号45の重鎖CDR2、及び配列番号47の重鎖CDR3を含有し、及び前記ヒト抗体剤は、配列番号85の軽鎖CDR1、配列番号87の軽鎖CDR2、及び配列番号89の軽鎖CDR3を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0264】
8. 前記ヒト抗体剤は、配列番号49の重鎖CDR1、配列番号51の重鎖CDR2、及び配列番号53の重鎖CDR3を含有し、及び前記ヒト抗体剤は、配列番号91の軽鎖CDR1、配列番号93の軽鎖CDR2、及び配列番号95の軽鎖CDR3を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0265】
9. 前記ヒト抗体剤は、配列番号55の重鎖CDR1、配列番号57の重鎖CDR2、及び配列番号59の重鎖CDR3を含有し、及び前記ヒト抗体剤は、配列番号97の軽鎖CDR1、配列番号99の軽鎖CDR2、及び配列番号101の軽鎖CDR3を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0266】
10. 前記ヒト抗体剤は、配列番号61の重鎖CDR1、配列番号63の重鎖CDR2、及び配列番号65の重鎖CDR3を含有し、及び前記ヒト抗体剤は、配列番号103の軽鎖CDR1、配列番号105の軽鎖CDR2、及び配列番号107の軽鎖CDR3を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0267】
11. 前記ヒト抗体剤は、配列番号67の重鎖CDR1、配列番号69の重鎖CDR2、及び配列番号71の重鎖CDR3を含有し、及び前記ヒト抗体剤は、配列番号109の軽鎖CDR1、配列番号111の軽鎖CDR2、及び配列番号113の軽鎖CDR3を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0268】
12. 前記ヒト抗体剤は、重鎖CDR及び/又は軽鎖CDRにおいて、1つ以上のアミノ酸置換を含有する、例示的実施形態5~11のうちの1つに記載のヒト抗体剤。
【0269】
13. 前記ヒト抗体剤は、重鎖CDR及び/又は軽鎖CDRにおいて、少なくとも1つ、又は最大で5つのアミノ酸置換を含有する、例示的実施形態12に記載のヒト抗体剤。
【0270】
14. 前記ヒト抗体剤は、重鎖CDR及び/又は軽鎖CDRにおいて、少なくとも1つ、又は最大で3つのアミノ酸置換を含有する、例示的実施形態12に記載のヒト抗体剤。
【0271】
15. 前記ヒト抗体剤は、表3に明記される重鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0272】
16. 前記ヒト抗体剤は、表3に明記される軽鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0273】
17. 前記ヒト抗体剤が、
(a)表3に明記される重鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する重鎖可変領域、及び
(b)表3に明記される軽鎖可変領域配列に対し、少なくとも95%同一の配列を有する軽鎖可変領域、を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0274】
18. 前記ヒト抗体剤が、表3から選択される重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0275】
19. 前記ヒト抗体剤が、表3から選択される軽鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0276】
20. 前記ヒト抗体剤は、配列番号3の軽鎖可変領域、及び配列番号5の重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0277】
21. 前記ヒト抗体剤は、配列番号7の軽鎖可変領域、及び配列番号9の重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0278】
22. 前記ヒト抗体剤は、配列番号11の軽鎖可変領域、及び配列番号13の重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0279】
23. 前記ヒト抗体剤は、配列番号15の軽鎖可変領域、及び配列番号17の重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0280】
24. 前記ヒト抗体剤は、配列番号19の軽鎖可変領域、及び配列番号21の重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0281】
25. 前記ヒト抗体剤は、配列番号23の軽鎖可変領域、及び配列番号25の重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0282】
26. 前記ヒト抗体剤は、配列番号27の軽鎖可変領域、及び配列番号29の重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態1~4のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0283】
27. 前記ヒト抗体剤は、脱フコシル化されている、及び/又は末端のマンノース、N-アセチルグルコース、もしくはグルコースでグリコシル化されているヒトモノクローナル抗体である、前述の例示的実施形態のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0284】
28. EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤であって、前記ヒト抗体剤は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に対するアフィニティを増大させるアミノ酸置換を1つ以上含有し、及び前記ヒト抗体剤は、以下により特徴づけられる:
(a) 基準ペプチド/HLA複合体に対するアフィニティよりも、少なくとも約1.6倍高いアフィニティのKA、及び/又は
(b) 基準ペプチド/HLA複合体に対する交差反応性がないこと。
【0285】
29. 前記ヒト抗体剤は、48位、52位、55位、66位、95位、及びそれらの組み合わせのアミノ酸のうちのいずれかで、1つ以上のアミノ酸置換を含有する軽鎖可変領域を含有する、例示的実施形態28に記載のヒト抗体剤。
【0286】
30. 前記1つ以上のアミノ酸置換が、I48V/S52G、P55H、K66R、又はN95Iである、例示的実施形態29に記載のヒト抗体剤。
【0287】
31. 前記ヒト抗体剤は、5位、10位、26位、51位、78位、及びそれらの組み合わせのアミノ酸のうちのいずれかで、アミノ酸置換を1つ以上含有する重鎖可変領域を含有する、例示的実施形態28~30のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0288】
32. 前記1つ以上のアミノ酸置換が、V5E、E10D、G26E/I51V、又はV78Aである、例示的実施形態31に記載のヒト抗体剤。
【0289】
33. 前記ヒト抗体剤は、ヒトモノクローナル抗体又はその断片である、前述の例示的実施形態のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0290】
34. 前記ヒトモノクローナル抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4の抗体である、例示的実施形態33に記載のヒト抗体剤。
【0291】
35. 前記ヒトモノクローナル抗体は、IgG1である、例示的実施形態34に記載のヒト抗体剤。
【0292】
36. 前記ヒトモノクローナル抗体断片は、scFvである、例示的実施形態33に記載のヒト抗体剤。
【0293】
37. 前記EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAが、HLAクラスI分子である、前述の例示的実施形態のいずれか1つに記載のヒト抗体剤。
【0294】
38. 前記HLAクラスI分子が、HLA-A02である、例示的実施形態37に記載のヒト抗体剤。
【0295】
39. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態38に記載のヒト抗体剤。
【0296】
40. 例示的実施形態1~39のいずれか1つに記載のヒト抗体剤の全部または一部をコードする単離核酸分子。
【0297】
41. 例示的実施形態40に記載の核酸分子を含有する組み換えベクター。
【0298】
42. 請求項41に記載の組み換えベクター、又は例示的実施形態40に記載の核酸分子を含有する宿主細胞。
【0299】
43. 前記宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳類細胞から選択される、例示的実施形態42に記載の宿主細胞。
【0300】
44. 前記宿主細胞は、大腸菌(E.coli)、ピキア・パストリス(P.pastoris)、Sf9、COS、HEK293、CHO及び哺乳類のリンパ球からなる群から選択される、例示的実施形態43に記載の宿主細胞。
【0301】
45. 前記哺乳類のリンパ球が、ヒトのリンパ球である、例示的実施形態44に記載の宿主細胞。
【0302】
46. 以下を含有する、例示的実施形態1~39のいずれか1つに記載のヒト抗体剤を作製する方法:
請求項42~45のいずれか1項に記載の宿主細胞を、前記ヒト抗体剤の発現に適した条件下で、培養培地中で培養すること、及び
前記培養培地から前記ヒト抗体剤を回収すること。
【0303】
47. 例示的実施形態1~39のいずれか1つに記載のヒト抗体剤を含有する組成物。
【0304】
48. 例示的実施形態1~39のいずれか1つに記載のヒト抗体剤又は例示的実施形態47に記載の組成物、及び薬学的に受容可能な担体又は希釈剤を含有する医薬組成物。
【0305】
49. 例示的実施形態1~39のいずれか1つに記載のヒト抗体剤を含有するキット。
【0306】
50. 以下の工程を含有する、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体の発現により特徴づけられる対象における医学的状態を治療する方法:
例示的実施形態1~39のいずれか1つに記載のヒト抗体剤、例示的実施形態47に記載の組成物、又は例示的実施形態48に記載の医薬組成物の治療有効量を投与すること。
【0307】
51. 前記医学的状態は、ホジキン病、非ホジキン病、又は感染性単核球症である、例示的実施形態50に記載の方法。
【0308】
52. 前記医学的状態は、バーキットリンパ腫、免疫抑制性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、慢性炎症に関連したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、形質芽球性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、鼻咽頭癌、胃腺癌、リンパ上皮腫関連癌、及び免疫不全関連平滑筋肉腫から選択される、例示的実施形態50に記載の方法。
【0309】
53. 前記EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAが、HLAクラスI分子である、例示的実施形態50~52のいずれか1つに記載の方法。
【0310】
54. 前記HLAクラスI分子が、HLA-A02である、例示的実施形態53に記載の方法。
【0311】
55. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態54に記載の方法。
【0312】
56. EBV感染に関連した状態を治療又は検出するための、例示的実施形態1~39のいずれか1つに記載のヒト抗体剤の使用。
【0313】
57. EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位、及び第二の抗原結合部位を含有する二特異性抗体。
【0314】
58. 前記二特異性抗体は、EBV-LMP2ペプチドのCLGGLLTMV(配列番号1)でパルスされたT2細胞における、約0.2~約135pMのEC50により特徴づけられる、例示的実施形態57に記載の二特異性抗体。
【0315】
59. 前記第一、及び/又は第二の抗原結合部位は、イムノグロブリン分子、scFv、scFab、Fab、Fv又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、例示的実施形態57又は58に記載の二特異性抗体。
【0316】
60. 前記第一及び第二の抗原結合部位は、それらが1つのポリペプチド鎖を形成するように構成される、例示的実施形態57又は58に記載の二特異性抗体。
【0317】
61. 前記第一及び第二の抗原結合部位は、各々scFvである、例示的実施形態60に記載の二特異性抗体。
【0318】
62. 前記第一及び第二の抗原結合部位は、ペプチドリンカーにより連結される、例示的実施形態60に記載の二特異性抗体。
【0319】
63. 前記第二の抗原結合部位は、前記第一の抗原結合部位のC末端に連結されている、例示的実施形態61又は62に記載の二特異性抗体。
【0320】
64. 前記第二の抗原結合部位は、T細胞、B細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、好中球、間葉系幹細胞、及び神経幹細胞からなる群から選択される免疫細胞に結合する、例示的実施形態57~63のいずれか1つに記載の二特異性抗体。
【0321】
65. 前記第二の抗原結合部位は、T細胞上のCD3に結合する、例示的実施形態64に記載の二特異性抗体。
【0322】
66. 前記EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAが、HLAクラスI分子である、例示的実施形態57~65のいずれか1つに記載の二特異性抗体。
【0323】
67. 前記HLAクラスI分子が、HLA-A02である、例示的実施形態66に記載の二特異性抗体。
【0324】
68. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態67に記載の二特異性抗体。
【0325】
69. 例示的実施形態57~68のいずれか1つに記載の二特異性抗体の全部または一部をコードする単離核酸分子。
【0326】
70. 例示的実施形態69に記載の核酸分子を含有する組み換えベクター。
【0327】
71. 例示的実施形態70に記載の組み換えベクター、又は例示的実施形態69に記載の核酸分子を含有する宿主細胞。
【0328】
72. 前記宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳類細胞から選択される、例示的実施形態71に記載の宿主細胞。
【0329】
73. 前記宿主細胞は、大腸菌(E.coli)、ピキア・パストリス(P.pastoris)、Sf9、COS、HEK293、CHO及び哺乳類のリンパ球からなる群から選択される、例示的実施形態72に記載の宿主細胞。
【0330】
74. 前記哺乳類のリンパ球が、ヒトのリンパ球である、例示的実施形態73に記載の宿主細胞。
【0331】
75. 例示的実施形態57~68のいずれか1つに記載の二特異性抗体を含有する組成物。
【0332】
76. 例示的実施形態57~68のいずれか1つに記載の二特異性抗体又は例示的実施形態75に記載の組成物、及び薬学的に受容可能な担体又は希釈剤を含有する医薬組成物。
【0333】
77. 例示的実施形態57~68のいずれか1つに記載の二特異性抗体を含有するキット。
【0334】
78. 例示的実施形態57~68のいずれか1つに記載の二特異性抗体、例示的実施形態75に記載の組成物、又は例示的実施形態76に記載の医薬組成物の治療有効量を投与する工程を含有する、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体の発現により特徴づけられる対象における医学的状態を治療する方法。
【0335】
79. 前記医学的状態は、ホジキン病、非ホジキン病、又は感染性単核球症である、例示的実施形態78に記載の方法。
【0336】
80. 前記医学的状態は、バーキットリンパ腫、免疫抑制性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、慢性炎症に関連したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、形質芽球性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、鼻咽頭癌、胃腺癌、リンパ上皮腫関連癌、及び免疫不全関連平滑筋肉腫から選択される、例示的実施形態78に記載の方法。
【0337】
81. 前記EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAが、HLAクラスI分子である、例示的実施形態78~80のいずれか1つに記載の方法。
【0338】
82. 前記HLAクラスI分子が、HLA-A02である、例示的実施形態81に記載の方法。
【0339】
83. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態82に記載の方法。
【0340】
84. EBV感染に関連した状態を治療又は検出するための、例示的実施形態57~68のいずれか1つに記載の二特異性抗体の使用。
【0341】
85. EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現する標的細胞を殺傷するT細胞を検出する方法であって、以下の工程を含有する前記方法:
二特異性抗体と、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体を発現する1つ以上の標的細胞を接触させる工程であって、前記二特異性抗体は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位と、T細胞上のCD3に結合する第二の抗原結合部位を含有し、
前記接触は、二特異性抗体が結合されるT細胞が、前記標的細胞の殺傷を介在するために充分な条件下、及び充分な時間、行われる。
【0342】
86. 前記EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有する、例示的実施形態85に記載の方法。
【0343】
87. 前記二特異性抗体の第一の抗原結合部位は、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるもう1つの位置で、アミノ酸残基と直接相互作用する、例示的実施形態85又は86に記載の方法。
【0344】
88. 前記EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAが、HLAクラスI分子である、例示的実施形態85~87のいずれか1つに記載の方法。
【0345】
89. 前記HLAクラスI分子が、HLA-A02である、例示的実施形態88に記載の方法。
【0346】
90. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態89に記載の方法。
【0347】
91. 以下を含有する二特異性抗体:
HLA-A02分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドのCLGGLLTMV(配列番号1)に結合する第一のscFv、及び
T細胞上のCD3に結合する第二のscFvであって、
前記二特異性抗体は、EBV-LMP2ペプチドでパルスされたT2細胞における、約0.2~約135pMのEC50により特徴づけられる。
【0348】
92. 前記第一のscFvが、以下を含有する、例示的実施形態91に記載の二特異性抗体:
(a)配列番号3の軽鎖可変領域、及び配列番号5の重鎖可変領域、
(b)配列番号7の軽鎖可変領域、及び配列番号9の重鎖可変領域、
(c)配列番号11の軽鎖可変領域、及び配列番号13の重鎖可変領域、
(d)配列番号15の軽鎖可変領域、及び配列番号17の重鎖可変領域、
(e)配列番号19の軽鎖可変領域、及び配列番号21の重鎖可変領域、
(f)配列番号23の軽鎖可変領域、及び配列番号25の重鎖可変領域、又は
(g)配列番号27の軽鎖可変領域、及び配列番号29の重鎖可変領域。
【0349】
93. 前記第二のscFvは、前記第一のscFvのC末端に連結されている、例示的実施形態91又は92に記載の二特異性抗体。
【0350】
94. 前記HLA-A02分子が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態91~93のいずれか1つに記載の二特異性抗体。
【0351】
95. 前記二特異性抗体の第一のscFvは、EBV-LMP2ペプチドにおいて、1位、2位、3位、4位、5位、6位、7位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるもう1つの位置で、アミノ酸残基と直接相互作用する、例示的実施形態91~94のいずれか1つに記載の二特異性抗体。
【0352】
96. 前記二特異性抗体の第一のscFvは、EBV-LMP2ペプチドの少なくとも5位と直接相互作用する、例示的実施形態91~94のいずれか1つに記載の二特異性抗体。
【0353】
97. 前記二特異性抗体の第一のscFvは、EBV-LMP2ペプチドの少なくとも1位と直接相互作用する、例示的実施形態91~94のいずれか1つに記載の二特異性抗体。
【0354】
98. 前記二特異性抗体の第一のscFvは、EBV-LMP2ペプチドの少なくとも8位と直接相互作用する、例示的実施形態91~94のいずれか1つに記載の二特異性抗体。
【0355】
99. EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合するヒト抗体剤の抗原結合部位を含有するキメラ抗原受容体。
【0356】
100. 前記抗原結合部位が、scFvである、例示的実施形態99に記載のキメラ抗原受容体。
【0357】
101. 前記抗原結合部位が、免疫エフェクター細胞により発現される、例示的実施形態99又は100に記載のキメラ抗原受容体。
【0358】
102. 前記免疫エフェクター細胞が、T細胞である、例示的実施形態101に記載のキメラ抗原受容体。
【0359】
103. 前記EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAが、HLAクラスI分子である、例示的実施形態99~102のいずれか1つに記載のキメラ抗原受容体。
【0360】
104. 前記HLAクラスI分子が、HLA-A*02である、例示的実施形態103に記載のキメラ抗原受容体。
【0361】
105. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態104に記載のキメラ抗原受容体。
【0362】
106. 例示的実施形態99~105のいずれか1つに記載のキメラ抗原受容体の全部または一部をコードする単離核酸分子。
【0363】
107. 例示的実施形態106に記載の核酸分子を含有する組み換えベクター。
【0364】
108. 例示的実施形態107に記載の組み換えベクター、又は例示的実施形態106に記載の核酸分子を含有する宿主細胞。
【0365】
109. 前記宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又は哺乳類細胞から選択される、例示的実施形態108に記載の宿主細胞。
【0366】
110. 前記宿主細胞は、大腸菌(E.coli)、ピキア・パストリス(P.pastoris)、Sf9、COS、HEK293、CHO及び哺乳類のリンパ球からなる群から選択される、例示的実施形態109に記載の宿主細胞。
【0367】
111. 前記哺乳類のリンパ球が、ヒトのリンパ球である、例示的実施形態110に記載の宿主細胞。
【0368】
112. 例示的実施形態99~105のいずれか1つに記載のキメラ抗原受容体を含有する組成物。
【0369】
113. 例示的実施形態99~105のいずれか1つに記載のキメラ抗原受容体又は例示的実施形態112に記載の組成物、及び薬学的に受容可能な担体又は希釈剤をさらに含有する医薬組成物。
【0370】
114. 例示的実施形態99~105のいずれか1つに記載のキメラ抗原受容体を含有するキット。
【0371】
115. 以下の工程を含有する、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体の発現により特徴づけられる対象における医学的状態を治療する方法:
例示的実施形態99~105のいずれか1つに記載のキメラ抗原受容体、例示的実施形態112に記載の組成物、又は例示的実施形態113に記載の医薬組成物の治療有効量を投与すること。
【0372】
116. 前記医学的状態は、ホジキン病、非ホジキン病、又は感染性単核球症である、例示的実施形態115に記載の方法。
【0373】
117. 前記医学的状態は、バーキットリンパ腫、免疫抑制性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、慢性炎症に関連したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、リンパ腫様肉芽腫症、形質芽球性リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、移植後リンパ増殖性疾患、鼻咽頭癌、胃腺癌、リンパ上皮腫関連癌、及び免疫不全関連平滑筋肉腫から選択される、例示的実施形態115に記載の方法。
【0374】
118. 前記EBV-LMP2/HLAペプチド複合体のHLAが、HLAクラスI分子である、例示的実施形態115~117のいずれか1つに記載の方法。
【0375】
119. 前記HLAクラスI分子が、HLA-A02である、例示的実施形態118に記載の方法。
【0376】
120. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態119に記載の方法。
【0377】
121. EBV感染に関連した状態を治療又は検出するための、例示的実施形態99~105のいずれか1つに記載のキメラ抗原受容体の使用。
【0378】
122. 対象のヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を、群から選択する方法であって、以下の工程を含有する前記方法:
(a)対象のペプチド/HLAクラスI複合体に結合する群から抗体剤を1つ以上選択すること、及び
(b)1位、5位、8位、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される残基で1つ以上のアミノ酸置換を有するペプチドを含む、ペプチド/HLAクラスI複合体の結合に関し、(a)から1つ以上の抗体剤をスクリーニングすることであって、
5位で置換を有するペプチドを含むペプチド/HLAクラスI複合体への抗体剤の結合の消失が、ヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を示唆すること。
【0379】
123. 対象のヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を、群から選択する方法であって、以下の工程を含有する前記方法:
(a)第一のペプチド/HLAクラスI複合体に結合しない群から1つ以上の抗体を選択することであって、前記第一のペプチド/HLAクラスI複合体は、5位にアミノ酸置換、ならびに/又はペプチドのN末端及び/もしくはC末端に1つ以上の追加のアミノ酸を有するペプチド含んでおり、及び
(b)第二のペプチド/HLAクラスI複合体に結合することに関し、(a)から1つ以上の抗体剤をスクリーニングすることであって、前記第二のペプチド/HLAクラスI複合体は、対象の野生型配列を有するペプチドを含んでおり、
この場合において第二のペプチド/HLAクラスI複合体への抗体剤の結合が、ヒトHLAクラスI分子により提示されるペプチドの中心残基に結合する抗体剤を示唆すること。
【0380】
124. 前記ペプチド/HLAクラスI複合体のペプチドは、エプスタインバールウイルス(EBV)関連ペプチドである、例示的実施形態122又は123に記載の方法。
【0381】
125. 前記ペプチド/HLAクラスI複合体が、EBV-LMP2/HLA-A02複合体である、例示的実施形態122又は123に記載の方法。
【0382】
126. 前記HLA-A02が、HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06から選択される、例示的実施形態125に記載の方法。
【0383】
127. 前記EBV-LMP2ペプチドは、CLGGLLTMV(配列番号1)であるか、又はCLGGLLTMV(配列番号1)を含有する、例示的実施形態125又は126に記載の方法。
【0384】
128. 前記ペプチドは、九量体ペプチドである、例示的実施形態122又は123に記載の方法。
【0385】
129. 前記ペプチドは、十量体ペプチドである、例示的実施形態122又は123に記載の方法。
【0386】
130. 前記抗体剤は、ヒトモノクローナル抗体である、例示的実施形態122~129のいずれか1つに記載の方法。
【0387】
131. 前記抗体剤は、ヒトモノクローナル抗体の断片である、例示的実施形態122~129のいずれか1つに記載の方法。
【0388】
132. ペプチド/HLA複合体に結合する高アフィニティヒトモノクローナル抗体を提供する方法において、前記改善が以下を含有する、前記方法:
ペプチド/HLA複合体のペプチドの中心で、1つ以上のアミノ酸と直接相互作用する、又は1つ以上のアミノ酸を優先する、ヒトモノクローナル抗体を提供すること。
【0389】
133. ペプチド/HLA複合体に結合する高アフィニティヒトモノクローナル抗体を提供する方法において、前記改善が以下を含有する、前記方法:
HLA結合ポケット中のペプチドの中心で、1つ以上のアミノ酸と直接相互作用する、又は1つ以上のアミノ酸を優先する、ヒトモノクローナル抗体を提供することであって、前記ペプチド/HLA複合体は、in silico予測法を使用して作製されていない。
【0390】
134. 第一及び第二の抗原結合部位を含む二特異性抗体を含有する高アフィニティ二特異性抗体組成物を提供する方法において、前記第一の抗原結合部位は、ペプチド/HLA複合体に結合し、前記改善が以下を含有する、前記方法:
ペプチド/HLA複合体のペプチドの中心で、1つ以上のアミノ酸と直接相互作用する、ヒトモノクローナル抗体又はその断片として、かかる第一の抗原結合部位のうちの少なくとも1つを提供すること。
【0391】
135. 1つ以上の抗原結合部位を含有するキメラ抗原受容体組成物を提供する方法において、前記1つ以上の抗原結合部位の内の少なくとも1つは、ペプチド/HLA複合体に結合し、前記改善が以下を含有する、前記方法:
HLA結合ポケット中のペプチドの中心で、1つ以上のアミノ酸と直接相互作用する、ヒト抗体剤の抗原結合部位を提供すること。
【0392】
136. 前記キメラ抗原受容体組成物が、免疫エフェクター細胞により発現される、例示的実施形態135に記載の方法。
【0393】
137. 前記免疫エフェクター細胞が、T細胞である、例示的実施形態136に記載の方法。
【0394】
138. 前記HLAが、HLAクラスI分子である、例示的実施形態132~137のいずれか1つに記載の方法。
【0395】
139. 前記ペプチドは、九量体ペプチドである、例示的実施形態132~137のいずれか1つに記載の方法。
【0396】
140. 前記ペプチドは、十量体ペプチドである、例示的実施形態132~137のいずれか1つに記載の方法。
【0397】
141. 前記ペプチドは、エプスタインバールウイルス(EBV)関連ペプチドである、例示的実施形態132~137のいずれか1つに記載の方法。
【0398】
142. 前記ペプチド/HLA複合体が、EBV-LMP2/HLA-A02複合体である、例示的実施形態132~137のいずれか1つに記載の方法。
【実施例】
【0399】
以下の実施例は、当分野の当業者に対し、どのように本発明の方法及び組成物を作製並びに使用するかを記載するために提供されるものであり、発明者らが本発明とみなすものの範囲を限定する意図はない。別段の示唆がない限り、温度は、セ氏で示されており、圧力は、大気圧であるか、大気圧に近い。
【0400】
実施例1 ビオチニル化ペプチド/HLA-A*02:01複合体単量体の作製
本実施例は、クラスIヒトMHC分子により提示されるEBV関連ペプチドを認識する抗体及び多特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)の開発及び特定における、MHCペプチド複合体の作製を示す。特に、本実施例は、単量体EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01複合体の作製を具体的に記載しており、これらは、ヒトHLA-A02により提示されるEBV-LMP2ペプチドを認識する抗体(すなわち、抗体剤及び全長IgG)及び二特異性抗体の製造の後に続く実施例で使用された。
【0401】
簡潔に述べると、ビオチニル化ペプチド/HLA-A*02:01複合体単量体を、当分野に公知の方法を使用して調製した(例えば、Altman, J.D. 及び M.M. Davis, 2003, MHC-peptide tetramers to visualize antigen-specific T cells. Curr. Protoc. Immunol. Chapter 17:Unit 173を参照のこと)。全長ヒトベータ-2マイクログロブリン(β2m)をコードするDNAは、Genewiz社により合成され、pET-27bベクターにクローニングされた。BirA基質ペプチド(BSP:BirA substrate peptide)を、HLA-A*02:01細胞外ドメイン(ECD:extracellular domain)のC末端に付加した。HLA-A*02:01 ECD-BSPをコードするDNAは、Genewiz社により合成され、pET-27bベクターへとクローニングされた。ヒトβ2m及びHLA-A*02:01 ECD-BSPを発現するベクターを、別々にE.coli BL21へと形質転換し、細菌培養物から封入体として単離した。ペプチドリガンドのEBV-LMP2A(CLG)(全長九量体配列CLGGLLTMV、配列番号1)は、ヒトβ2m及びHLA-A*02:01 ECD-BSPとともに再フォールディングされ、単量体EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01ペプチド複合体を形成した。フォールディングされたペプチド/HLA-A*02:01単量体は、限外ろ過により濃縮され、サイズ排除クロマトグラフィーによりさらに精製された(
図3)。精製されたペプチド/HLA-A*02:01単量体はまた、SDS-PAGEにより可視化され(
図4)、BirA介在性酵素反応によりビオチニル化され、その後、高分解能陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製された。ビオチニル化ペプチド/HLA-A*02:01単量体は、-80
oCでPBS中に保存された。
【0402】
HiPrep 26/60 Sephacryl S-300 HRは、1.5カラム体積のハイクローンダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(Thermo Scientific社、カタログ番号SH3002802)を用いて平衡化された。未精製のサンプルをロードし、1カラム体積で溶出した。
図3に示されるように、最初のピークは、ミスフォールディングした凝集体からなり、ロード後、およそ102.24mLで溶出した。適正にフォールディングされたMHC複合体に相当するピークは、201.24mLで観察された。最後に、遊離β2mからなるピークが、254.85mLで観察された。
【0403】
上述された精製EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01複合体を以下の実施例で使用し、HLA-A02を背景にしてLMP2ペプチドを認識するヒト抗体構成要素を作製した。
【0404】
実施例2 EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01複合体に特異的なファージscFvのスクリーニング
本実施例は、ヒトMHCクラスI分子を背景にしたEBV-LMP2ペプチドに特異的なヒト抗体剤の構築を示す。特に本実施例は、ヒトscFvの作製、及びそれに引き続く、ヒトHLA-A02分子により提示される配列CLGGLLTMV(配列番号1)を有するEBV-LMP2九量体ペプチドに結合する全長ヒトIgGの作製を示す。LMP2は、EBV感染B細胞、ならびに鼻咽頭上皮細胞及び胃上皮細胞の両方で発現される。したがって、かかるヒト抗体剤は、EBVが関連した疾患及び悪性腫瘍の治療ならびに診断に利用することができる。
【0405】
簡潔に述べると、Eureka Therapeutics (ALPHA(商標)ファージディスプレイ)により構築されたヒトscFv抗体ファージディスプレイライブラリー(10x10
10クローン)を、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01に特異的なヒトモノクローナル抗体の選択に使用した。プラスチック表面上にタンパク質複合体を固定することにより導入される、MHCI複合体の任意の構造変化を減少させるために、従来的なプレートパンニングの代わりに溶液パンニングを使用した。溶液パンニングにおいて、ビオチニル化抗原は最初にPBS緩衝液で長時間洗浄された後、ヒトscFvファージライブラリーと混合され、その後、抗原-scFv抗体ファージ複合体を、ストレプトアビジン結合Dynabeads M-280により磁性ラックを通して引き出した。結合したクローンを溶出させ、次いで、E.coli XL1-Blueに感染させるために使用した。このファージクローンを、細菌中で発現させ、その後、精製した。3~4ラウンド、パンニングを行い、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01に対する特異的結合を有するscFvファージクローンを富化させた。表4は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01に対するファージパンニングの要約を明記している。陽性クローンは、ビオチニル化EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01複合体を使用したELISAアッセイにより決定した(例えば
図5を参照のこと)。
【0406】
【0407】
陽性クローンを、TAP欠損HLA-A*02:01
+細胞株のT2を使用して、フローサイトメトリーにより、生細胞表面上のペプチド/HLA-A02複合体の結合に関してさらに検証した。T2細胞は外来性ペプチドのみを提示しており、HLA-A02分子上のペプチド提示に関し日常的に使用されている。簡潔に述べると、T2細胞を、20μg/mLのβ2mを有する無血清RPMI-1640培地中で、50μg/mLのLMP2ペプチド(CLGGLLTMV、配列番号1)とともに一晩パルスした。次いで細胞を、精製scFvファージクローン、その後にマウス抗M13モノクローナル抗体、及びR-PE結合ウマ抗マウスIgG(Vecror Labs社)で染色した。染色の各工程は、氷上で、約30~60分のインキュベーションで行われた。染色の各工程の間、細胞は2回洗浄された。
図6は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01を担持したT2細胞に対するファージクローンの例示的な結合を明記している。
【0408】
ELISAアッセイを使用してスクリーニングされた281個のクローンのうち、125個のELISA陽性クローンが特定された。特定された125個の陽性クローンのうち、80個の固有クローンが単離され、特徴解析された。80個の固有クローンのうち、54個がELISA及びFACSにより、タンパク質レベルと細胞表面レベルの両方で、標的複合体に特異的に結合すると特定された。EBV-LMP2ペプチド中の位置に対するクローンの特異性は、アラニンウォーキング(alanine walking)を使用して確認された(例えば、Liu, Z ら、 1999, J. Mol. Recognit. 12(2):103-11; Weiss, GA ら、 2000, Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 97(16):8950-4; Morrison, KL 及び GA Weiss, 2001, Curr. Opin. Chem. Biol. 5(3):302-7を参照のこと)。簡潔に述べると、LMP2ペプチド(CLGGLLTMV、配列番号1)は、1位、5位、又は8位でアラニン残基と置換された。T2細胞は、50μg/mLのアラニン変異ペプチドでパルスされた。結合は、フローサイトメトリーにより測定された。選択クローンの重鎖CDRと軽鎖CDRのDNA配列及びアミノ酸配列は、それぞれ表5と表6に明記される。
【0409】
【0410】
【0411】
抗体クローンの38と63は、ペプチド5位~ペプチド8位(P5~P8)に対する選択的結合を示し、ほぼ同一の重鎖を有していた(約75%のアミノ酸同一性)。さらに、抗体クローンの38と63は、同一の重鎖CDR1及びCDR2の配列と、類似したCDR3配列を示し、軽鎖CDR内に、いくつか共通した残基を共有していた。抗体クローンの21と26は、ペプチド8位(P8)に対する選択的結合を示し、類似した重鎖を有していた(約88%のアミノ酸同一性)。一方で、CDR1とCDR2は同一であり、CDR3は類似していた。抗体クローンの21と26の軽鎖も同様に類似していた。抗体クローンの40と61は、ペプチド1位(P1)に対する選択的結合を示し、約67%の同一性と、全体的に類似したCDRを有していた。抗体クローンの77は、ペプチド1位~ペプチド5位(P1~P5)に対する選択的結合を示し、抗体クローンの63の軽鎖と配列類似性(約40%の同一性)を有していた。抗体クローンの21、26、40、及び61は、I型TCR模倣体と指定され、一方でクローン38及び63は、II型TCR模倣体と指定された。
【0412】
まとめると、本実施例は、ヒトMHCクラスI分子を背景に提示されるEBV関連ペプチドに結合する、I型及びII型の両方のTCR様モノクローナル抗体の作製に成功したことを示している。特に、本実施例は、ヒトHLA-A02分子により提示されるペプチドの中心領域(例えば、ペプチドの5位)を選択的に標的とする抗体の作製を記載する。以下に記載されるように、かかる抗体は、EBV+細胞株に対する細胞障害性において、高い特異性と有効性を有しており、多特異性結合剤(例えば、二特異性抗体)の構築に使用されることができる。
【0413】
実施例3 scFv断片を使用した全長モノクローナル抗体の構築
本実施例は、実施例2に記載される、選択されたヒトscFvを使用した全長抗体の構築を示す。特に本実施例は、表5及び表6に明記される、選択されたヒトscFvクローンを使用した全長ヒトIgG(例えば、IgG1)の構築を具体的に記載する。
【0414】
簡潔に述べると、選択されたファージクローンの全長ヒトIgG1は、従前に記載されているように(Tomimatsu, K. ら、 2009, Biosci. Biotechnol. Biochem. 73:1465-9)、HEK293細胞株、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株において産生された。抗体の可変領域は、同種のヒトラムダ(λ)又はカッパ(κ)軽鎖定常領域配列、及びヒトIgG1定常領域配列とともに、哺乳類発現ベクターへとサブクローニングされた。
【0415】
【0416】
精製された全長IgG1抗体の分子量は、電気泳動により、還元条件下及び非還元条件下の両方で測定された(
図7)。まとめると、本実施例は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02に特異的な選択scFvの可変領域を使用した、全長ヒトIgG1の構築及び発現に成功したことを示す。
【0417】
実施例4 一本鎖抗体の構成要素を使用した多特異性結合剤の構築
本実施例は、ヒトMHCクラスI分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドに特異的なscFv断片を使用した、多特異性結合剤の構築を示す。特に本実施例は、ヒトHLA-A02分子を背景としたEBV-LMP2ペプチド(CLGGLLTMV、配列番号1)に結合する第一の抗原結合部位と、T細胞上のCD3に結合する第二の抗原結合部位を有する二特異性抗体の構築を具体的に示す。したがって、本実施例は、一部の実施形態において、本明細書に記載される抗体構成要素を含有する多特異性結合剤を使用して、ヒトMHCクラスI分子を介して(例えば、HLA-A02。例えば、Brischwein, K. ら、 2006, Mol. Immunol. 43:1129-43を参照のこと)、その表面上にペプチド(例えば、EBV-LMP2)を提示している標的細胞を殺傷するように、T細胞を指向させることができることを解説している。
【0418】
簡潔に述べると、二特異性抗体構築物は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01に特異的なscFvが、そのC末端で、ヒトCD3(すなわち、CD3ε。DNAは配列番号123、アミノ酸は配列番号124)に特異的なscFvに連結されるよう、一本鎖型を使用して構築された。EBV-LMP2(CLG)特異的scFv、及びヒトCD3特異的scFvをコードするDNAは、Genewiz社により合成され、哺乳類発現ベクターpGSN-Hyg (Eureka Therapeutics, Inc.)にサブクローニングされた。精製及び検出のために、6ヒスタミンタグを、二特異性構築物のC末端に挿入した。HEK293細胞は、一過性発現のために二特異性抗体発現ベクターでトランスフェクトされ、分泌された二特異性抗体分子を含有する上清を採取した。二特異性抗体分子の安定的発現は、二特異性抗体発現ベクターでトランスフェクトされ、グルタミン合成酵素(GS:glutamine synthetase)をベースとした系を使用し、メチオニンスルホキシミン(MSX:methionine sulfoximine)での薬剤選択下で増殖したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用して行われた。分泌された抗EBV-LMP2(CLG)二特異性抗体分子を含有するCHO細胞の上清を採取し、FPLC AKTAシステムを使用し、HisTrap HPカラム(GE healthcare社)を使用して精製した。CHO細胞培養物を浄化して、低イミダゾール濃度(20mM)を用いてカラム上にロードし、カラムに結合した抗EBV-LMP2(CLG)二特異性抗体分子を、定組成高イミダゾール濃度溶出緩衝液(500mM)で溶出した。精製された抗EBV-LMP2(CLG)二特異性抗体分子の分子量は、電気泳動により、非還元条件下で測定された(
図8)。
【0419】
まとめると、本実施例は、HLA-A02分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドに特異的な第一の抗原結合部位と、CD3に特異的な第二の抗原結合部位を有する二特異性分子の構築に成功したことを示す。かかる二特異性分子のさらなる特徴解析を、以下の実施例に記載する。
【0420】
実施例5 TCR様抗EBV-LMP2(CLG)IgG1抗体により介在される、T2細胞の抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)
本実施例は、抗EBV-LMP2(CLG)特異的scFvから作製された全長IgG1抗体が、標的細胞の表面上に提示されたEBV-LMP2ペプチドを特異的に認識することができ、及びヒトHLA-A02分子を介してEBV-LMP2ペプチドを提示する標的細胞の抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)を介在し得ることを示す。リンパ芽球様T2細胞は、T1細胞株(ATCC CRL-1991)のバリアントであり、HLA-A*02:01+ TAP1-である。T2細胞は、内因性ペプチドを提示することはできないが、外因性ペプチドとインキュベートされた場合、外因性ペプチドを提示することはできる。T2細胞は、自然にはβ2mを産生しないため、外因性ペプチドとインキュベートする際にβ2mを添加してもよい。したがって、T2細胞はトランスフェクションに適しており、抗原処理、及びMHCクラスI抗原のT細胞認識に日常的に使用されている(例えば、Salter, R.D. ら、 1985, Immunogenetics 21: 235-246を参照のこと)。
【0421】
簡潔に述べると、T2細胞を一晩、HLA-A*02:01により提示される対照ペプチド(YMLDLQPET、IC50=7.5、配列番号120)、又はEBV-LMP2ペプチド(CLGGLLTMV、IC50=95.6、配列番号1)のいずれか100μg、及び外因性β2mとともに、無血清IMDM培地中でパルスした。次いで細胞を、5μg/mLの選択された全長IgG1抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01抗体とともに1時間、4℃でインキュベートした。PE標識二次抗体抗ヒトFc抗体を使用し、細胞をフローサイトメトリーにより解析した。
【0422】
フローサイトメトリーのために、T2細胞を1回洗浄し、余剰ペプチドを取り除いて、5μg/mLの所与の抗体(又はアイソタイプ合致対照)とともに4℃でインキュベートした。抗Fc PE標識二次抗体を使用し、細胞を、アイソタイプ対照を5のMFIで設定しているFACS caliburフローサイトメトリー中で測定した。データ及びオーバーレイは、Flowjo Software Version 6を使用して調製された。例示的な結果を
図9に記載する。
【0423】
サイトメトリー解析のために、T2細胞を上述のようにインキュベートし、翌日の朝に採取し、100μCiの
51Crで1時間標識し、その後、指定濃度の各モノクローナル抗体を有する丸底96ウェルプレートの1ウェル当たり、5x10
3の密度で播種した。NK92細胞は、CD16 (FcγRIIIa)の158V/Vホモ接合体バリアントでトランスフェクトされており、20:1のE:T比で、エフェクター細胞として使用された。プレートを37℃で4時間インキュベートし、上清を採取して、その後、シンチレーション計数器を使用して解析された。結果は、PRISM-Graphpadソフトウェアを使用してプロットされた。細胞障害性は、式 特異的溶解%=((実験的溶解-自発的放出)/(最大溶解-自発的放出))を使用して算出された。最大溶解は、SDS上で標的細胞をインキュベートすることにより取得された。自発的放出は、培地のみでインキュベートされた標的細胞を表している。例示的な結果を
図9に記載する。
【0424】
図9に示されるように、選択された各全長IgG1抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01 抗体は、T2細胞の表面上のHLA-A02分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドへの結合を示した(ヒストグラム、各対の左側)。一方で、いずれの抗体も対照ペプチドへの結合が観察されなかった。さらにADCCは、各抗体に関し同等レベルで明らかであり(特異的溶解%。各対の右側)、各抗体に対し観察されたペプチド結合と相関していた。
【0425】
まとめると、これらデータから、実施例3に記載される全長IgG1抗体は、親抗体構成要素(すなわち、scFv)のEBV-LMP2ペプチドに対する特異性を維持していることが示される。さらに、これら全長抗体は、その表面上にHLA-A02分子を介してEBV-LMP2ペプチドを提示している標的細胞(例えば、T2細胞)のADCCを効果的に介在することができた。
【0426】
実施例6 TCR様抗EBV-LMP2(CLG) IgG1抗体のアフィニティ測定
本実施例は、実施例3に記載される全長IgG1抗体が、T2細胞の表面上にHLA-A02分子により提示された、様々な濃度のEBV-LMP2ペプチドに結合することを示している。
【0427】
簡潔に述べると、1x10
6のT2細胞を、1mLの無血清IMDM培地中に再懸濁し、異なる濃度のEBV-LMP2ペプチド(0.0001~100μg/mLの範囲)及び外因性β2m(25 μg/mL)をロードし、一晩、37
oCでインキュベートした。次いで細胞を、5μg/mLの選択抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02 IgG1抗体とともにインキュベートし、フローサイトメトリーを使用して解析した。各抗体で得られたMFIは、ペプチド濃度に対してプロットされた。例示的な結果を
図10に記載する。
【0428】
図10に示されるように、各抗体は、異なるアフィニティで、T2細胞表面上のHLA-A02を介して提示されたEBV-LMP2ペプチドに結合している。結果は、抗体の結合における差異を決定するために標準化され、一貫した結合を示していた。各抗体のアフィニティもまた、BIACOREを使用して決定された(表7、nb:結合なし)。
【0429】
【0430】
実施例7 抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02 IgG抗体により介在される、EBV形質転換細胞の抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)
本実施例は、抗EBV-LMP2(CLG)特異的scFvから作製された全長IgG1抗体の、エプスタインバールウイルス(EBV)で形質転換された標的細胞の抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)を介在する可能性を記載する。特に本実施例は、実施例3に記載される選択抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02 IgG1抗体が、EBV形質転換細胞のADCCを介在しないことを具体的に記載する。
【0431】
簡潔に述べると、健常ドナー由来のPBMCを、B95-8マーモセット細胞由来のウイルス上清を用いて形質転換することにより、HLA-A*02:01
+/EBV
+ Bリンパ芽球様細胞株(BLCL)、BV-を作製した。異なる濃度の抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02 IgG1抗体と、エフェクターとしてNK92細胞を用いた、クロミウムベースの細胞障害アッセイにおける標的として、この遺伝子操作されたBLCL細胞株を使用した(上述)。EBV形質転換BLCLは、CD20
+であるため、Rituximab(抗CD20抗体。例えばMaloney, D.G. ら、 1997, Blood 90 (6): 2188-95を参照のこと)を陽性対照として使用した。アイソタイプ合致陰性対照もまた、このアッセイに含めた。例示的な結果を
図11に記載する。
【0432】
図11に示されるように、ADCCは、RITUXIMAB(登録商標) (抗CD20)に対し発生していた。しかしながら、いずれの抗EBV-LMP2 IgG1抗体に対しても、たとえこれらIgG1抗体が高い濃度(30μg/mL)で使用されたとしても、ADCCは観察されなかった。
【0433】
実施例8 ペプチドパルスされたT2細胞を使用したT細胞性細胞障害活性アッセイ
本実施例は、EBV-LMP2/HLA-A02ペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位と、T細胞に結合する第二の抗原結合部位を有する多特異性結合剤により介在されるT細胞性細胞障害活性に対する、ペプチドを担持したT2細胞の感受性を決定するために行われた実験を示す。特に本実施例は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01ペプチド複合体に結合する第一の抗原結合部位と、CD3に結合する第二の抗原結合部位を有する二特異性抗体が、フェムトモルの範囲で、ペプチド担持T2細胞のT細胞性細胞障害活性を効率的に介在することを具体的に示す。
【0434】
簡潔に述べると、実施例4に記載される異なる濃度のEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体構築物を使用することにより、T細胞性細胞障害活性に対する感受性に関して、ペプチド担持T2細胞(上述)を検証した。標的T2細胞は、100μg/mLのLMP2 (CLGGLLTMV、配列番号1)ペプチド、又は対照(YMLDLQPET、配列番号120)ペプチドのいずれか、及び20μg/mLのヒトβ2mとともに、一晩パルスした。二特異性抗体の各々を、LMP2ペプチドに対する特異性及びアフィニティに関して検証した(表8)。BIACORE技術を使用した、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01に対する各二特異性抗体の例示的なアフィニティ測定値を表9に示す。EBV-LMP2ペプチドでパルスされたT2細胞の、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体を使用した、例示的なT細胞性細胞障害活性を、
図12に示す。
【0435】
【0436】
【0437】
表8に示されるように、二特異性抗体の各々は、0.4~約133pMの範囲のEC
50で、LMP2ペプチドに対して特異的であった。さらに、二特異性抗体の各々は、類似したアフィニティを有し(表9)、ペプチド特異的な様式でT細胞のT2細胞殺傷を効率的に介在した(
図12)。
【0438】
実施例9 EBV形質転換BLCLを使用したT細胞性細胞障害活性アッセイ
本実施例は、複数の異なるEBV形質転換細胞を使用して、本発明の多特異性結合剤が、EBVペプチドを提示するEBV形質転換標的細胞の、T細胞性細胞障害活性を介在し得ることを示す。特に、本実施例は、選択されたEBV-LMP2(CLG)/HLA-A02xCD3二特異性抗体が、 一団のHLA-A02+ EBV形質転換BLCLに対し、T細胞性細胞障害活性を介在することを具体的に示す。
【0439】
7つの異なるBLCLの一団は、B95-8マーモセット株によりin vitroで作製され、従前にそのHLA-A*02:01の状態に関し、フローサイトメトリーと配列解析の両方により遺伝子型決定された。それらは、異なる濃度のEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体を使用した細胞障害アッセイにおいて、臍帯血ドナーから作製された活性化T細胞(ATC)を使用し、検証された。臍帯血細胞はEBVに対しナイーブであり、培養物中に存在する抗原特異的T細胞に由来する交差反応の可能性を除外することができるため、臍帯血細胞が使用された。
【0440】
簡潔に述べると、BLCLは、健常なドナーから作製され(上述)、次いで10%FBSで培養された。細胞障害性アッセイのために、1x10
6個のBLCLを、100μCiの
51Crとともに、37℃で60分間、別紙(Xu, H. ら、 2015, Cancer Immunol. Res. 3(3):266-77)に記載されるようにインキュベートした。次いでBLCLを2回洗浄し、丸底96ウェルプレートにおいて、1ウェル当たり、5x10
3個の密度で播種した。各二特異性抗体を、10:1のE:T比で、指定された濃度で添加し、37℃で4時間インキュベートした。上清を採取し、ガンマカウンターを使用して読み取った。特異的溶解は上述のように算出した。エフェクター細胞を作製するために、臍帯血細胞をNY血液バンクから取得し、フィコール勾配を使用して処理した。得られたリンパ球富化群を、CD3マイクロビーズを使用した磁気カラム(Miltenyi Biotech社)を通してCD3発現に対して富化させた。次いで細胞を、CD3/CD28磁気ビーズ(Life Technologies社)とともに、7日間(x2)、播種し、ATCを作製した。例示的な結果を
図13A~D、及び表10に示す(EBV-LMP2ペプチドのアミノ酸に対する特異性に従い、二特異性抗体を群分けした)。
【0441】
【0442】
図13A~Dに示されるように、EBV形質転換細胞に対する、各二特異性抗体による細胞障害活性は変化し、LMP2-38xCD3が最も高い細胞障害活性を示した。LMP2-38xCD3とLMP2-63xCD3の二特異性抗体は、HLA-A*02:01
+細胞に対して最も高い特異性を示した一方で、いくつかの他の二特異性抗体(LMP2-21xCD3、LMP2-26xCD3、LMP2-40xCD3及びLMP2-77xCD3)は、HLA-A*02:01陰性細胞の内の少なくとも1つと交差反応性を示した。また、EBV-LMP2ペプチドの残基5~8(表10)を標的とする二特異性抗体は、HLA-A*02:01
+ EBV
+細胞に対し最も高い特異性を示した。
【0443】
まとめると、本実施例は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02xCD3二特異性抗体が、一団のHLA-A02+ EBV形質転換BLCLに対し、効果的にT細胞性細胞障害活性を介在したことを確認している。
【0444】
実施例10 BLCLにおいて、HLA-A02により提示されるLMP-2ペプチドの特徴解析
本実施例は、BLCLにおいてHLA-A*02:01により提示されるLMP2ペプチド(CLGGLLTMV、配列番号1)の、(EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体を用いた特徴解析を示す。例示的な結果を
図15及び
図16に記載する。
【0445】
図15に示されるように、EBV-LMP2ペプチド(例えば、LMP2-21、LMP2-26)の8位を標的とするEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01 IgG1は、LMP2
+ HLA-A*02:01
+細胞に対し、最小の細胞障害活性を呈したことを示す。興味深いことに、これらと同じ構築物は、T2ペプチドでパルスされた細胞に対して検証した際には、最も低いEC
50(最も高いアフィニティ)を示していた(上述)。この関係性の潜在的理由を究明するために、HLA-A*02:01
+/EBV
+ BLCL OKO細胞を、異なるペプチドの位置を標的とする選択抗体を用いて染色し、HLA-A*02:01
+ BLCLへのその結合を測定した。EBV-LMP2ペプチドの1位を標的とする抗体は、フローサイトメトリーによると、BLCLに対し最小の結合を示すか、又は結合せず、これは細胞障害活性アッセイで観察された結果と相関していた。HLA-A*02:01
-細胞株のKBAB-1を、陰性対照として使用した(
図15、下のパネル)。
【0446】
図16に示されるように、BLCL OKO細胞を、100μg/mLのEBV-LMP2ペプチドで一晩パルスし、同じEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01特異的IgG1抗体で染色した場合、EBV-LMP2ペプチドの8位を標的とする構築物の結合が復活していた。発明者らは、この差異を、BLCLにおけるCLGGLLTMVペプチドの提示の差異によるものと推定した。
【0447】
実施例11 異なるHLA-A02サブアレルにより提示される、EBV-LMP2ペプチドの認識
本実施例は、EBV-LMP2ペプチドの5~8位に特異性を有するEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体が、HLA-A02分子の複数の異なるサブアレルにより提示されたときに、EBV-LMP2ペプチドに結合し得ることを示す。本実施例は、特定のHLAクラスIアレルを、共刺激性分子とともに安定的に発現するよう遺伝子操作された3TCマウス線維芽細胞である、人工抗原提示細胞(aAPC)を使用している。
【0448】
簡潔に述べると、HLA-A02のサブアレル(HLA-A*02:01、HLA-A*02:02、HLA-A*02:03、HLA-A*02:04、HLA-A*02:05、及びHLA-A*02:06)を発現する6つの異なるsAPCを、100μg/mLのEBV-LMP2ペプチドを用いて、37℃で一晩パルスし、EBV-LMP2ペプチドの5~8位のアミノ酸を標的とするEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体を用いた細胞障害活性アッセイ(上述)に使用した。これらと同じ細胞を、全長IgG1抗体としてこれらと同じEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体で染色したあと、フローサイトメトリーにより解析した。細胞障害活性におけるすべての差異が、HLAクラスI分子の発現における差異が原因ではないことを確認するために、汎HLA抗体(W6/32)を使用したフローサイトメトリーにより、sAPCを、そのHLA分子発現に関して特徴解析した。例示的な結果を
図17に記載する。
【0449】
図17に示されるように、いくつかの二特異性抗体及びIgG1抗体が、異なるHLA-A02アレルにより提示されたペプチドに結合した。特に、本実施例は、EBV-LMP2ペプチドの5~8位に結合するEBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01二特異性抗体が、HLA-A*02:02、及びHLA-A*02:06に対しても反応性であることを示している。
【0450】
これら細胞が、外因性ペプチドを担持していないaAPCとは交差反応しないことを示すために、HLA-A*02:01細胞aAPCを、低濃度(0.0001μg/mL)の外因性ペプチド又は外因性ペプチドなしでインキュベーションした後に、細胞障害活性アッセイ(上述)における標的細胞として使用し、EBV-LMP2ペプチドの異なる位置に結合する選択LMP2(CLG)/HLA-A*02:01 二特異性抗体を使用したATCで検証した。また、それらを選択抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01 IgG1抗体を使用して染色し、フローサイトメトリーにより解析した。例示的な結果を
図18に記載する。
【0451】
図18に示されるように、aAPCは、二特異性抗体又は全長IgG1抗体のいずれかにより認識されるためには、ペプチドパルスされたT2細胞よりも高濃度のペプチドを必要とする。さらに、本実施例は、同様の細胞障害活性が、検証された二特異性抗体とIgG1抗体の間にも観察されたことを示している。
【0452】
実施例12 I型TCR模倣抗体のアフィニティ成熟
本実施例は、抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02抗体のアフィニティ成熟を示す。特に、本実施例は、選択された抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02抗体(LMP2-38)に無作為突然変異誘発を組み込み、次いで単量体EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02を使用して抗体バリアントのスクリーニング及び特徴解析を行うことによる、一連の抗体バリアントの作製を示す。
【0453】
ALPHA(商標)ファージディスプレイ(上述)を使用して、LMP2-38 IgG1抗体に無作為に突然変異誘発させ、単量体EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01を用いて選択した。スクリーニングされた総数581個のクローンうち、111個がペプチド-HLA複合体に特異的であった。ペプチド-HLA複合体に特異的な111個のうち、34個が固有結合体であると決定された。11個が、ペプチド担持T2細胞に対し強い結合を示した。すなわち、[P19ペプチド担持T2細胞ファージ抗体FACSシグナル]/[陰性対照FACSシグナル]<5。17個が、T2細胞交差結合を示した。[P19ペプチド担持T2細胞ファージ抗体FACSシグナル]/[陰性対照FACSシグナル]>5。総数で、9個のクローンが、親抗体を超える改善を示した。すなわち、[LMP2-38 親IC50]/[突然変異固有ファージ抗体IC50]>2。24個が改善を示さなかった。すなわち、[EXT005-38 親IC50]/[突然変異固有ファージ抗体IC50]<2。例示的な結果を表11(細胞表面結合:[特異的ファージ抗体FACSシグナル]/[陰性対照FACSシグナル]<2;+:[特異的ファージ抗体FACSシグナル]/[陰性対照FACSシグナル]=2~10;++:[特異的ファージ抗体FACSシグナル]/[陰性対照FACSシグナル]>10;nd:未決定;抗体改善:[LMP2-38親IC50]/[突然変異固有ファージ抗体IC50];P19ペプチド:19個の内因性対照ペプチドの混合物)、及び表12(BIACORE;nd:未決定)に示す。
【0454】
【0455】
【0456】
LMP2-38のアフィニティ改善には、特異性が犠牲となった。すなわち、アフィニティ改善が>1.0であるとき、P19ペプチドとの交差反応性が多くの抗体クローンで観察された。4個の抗体クローンが、ELISAにより、結合において、LMP2-38親抗体を超える最低限の改善を示し(1.29、1.37、1.58、1.67)、一方で、特異性は維持していた。これらクローンの結合動態を、SPR(BIACORE)により詳細に解析した際に、アフィニティの増加は安定していなかった。konについては、1.05~3.44倍の範囲。koffについては、1.36~2.07倍の範囲であり、1.62倍から6.2倍のKAの改善を生じさせた(表12)。選択されたアフィニティ成熟抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A02 IgG1抗体クローンのVH領域及びVL領域における例示的な突然変異を表13に示す(アミノ酸ナンバリングは、Kabatに従った。例えば、E.A. Kabat ら、 Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, 1991, NIHを参照のこと)。
【0457】
【0458】
本実施例に提示されるデータは、II型TCR模倣抗体のKAのアフィニティ成熟、及び特にkoffが困難であり得ることを示す。これは、ペプチドの中心位置(すなわち、5位周辺)に特異性を有し、in vitro又はin vivoで反復チャレンジを行っても、典型的には低いアフィニティ(μM)を有するTCRに類似している。ペプチド‐HLA-A02複合体の結晶構造に基づくと、ペプチドの中心、P4~P6(P2及びP9で固定される場合)は、MHCクラスIタンパク質との接触数が最も少ない(Madden, D.R. ら、 1993, Cell 75:693-708)。これによって、P5位周辺のペプチド中心での高度な構造的柔軟性が可能となり、多くの場合、ほとんど固定されていない残基である。ペプチドのP5位領域をTCR又は抗体が認識することによって、この領域のエントロピーの著しい低下が生じる。構造実験の報告から、結合のエントロピーコストの高さは、タンパク質-リガンド相互作用のアフィニティの低さと関連している(Thorpe, I.F. 及び Brooks, C.L., 2007, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 104:8821-6)。本発明者らは、本明細書に提示されるデータに基づき、一部の実施形態において、II型TCR様モノクローナル抗体の作製に対し、固有のアフィニティ障害が存在すると認識している。
【0459】
実施例13 TCR模倣モノクローナル抗体作製の選択戦略
本実施例は、TCR様モノクローナル抗体、特にII型TCR模倣体の開発のための、複合選択戦略を示す。
【0460】
中心エピトープ(P2及びP9で固定されている場合にはペプチドの5位、例えば、
図19及び
図20を参照のこと)に特異的なII型TCR様モノクローナル抗体は、2つの選択戦略を使用して効率的に作製することができる。
【0461】
最初の戦略(
図19)において、候補抗体のライブラリーは最初に、無関係なペプチド-MHC複合体への結合に関して、ネガティブ選択される。残ったライブラリーは、次いで、対象の標的‐ペプチド/MHC複合体への結合に関しポジティブ選択される。次いで、第二のスクリーニング工程を利用し、P1、P5又はP8でAla置換されたペプチドを使用して、I型(ペプチドの末端に結合する抗体)とII型(5位のペプチド中心近くに結合する抗体)を識別する。P1-Ala置換されたペプチド、又はP8-Ala置換されたペプチドとの結合のみを消失した抗体をI型と分類する。P5-Alaペプチドで、その結合の大部分を消失した抗体をII型と分類する。
【0462】
第二の戦略(
図20)において、抗体ライブラリーは、最初に、P5-Ala置換を有するペプチドへの結合、及びペプチドのN末端又はC末端に追加の天然隣接残基を含有するペプチドへの結合に関し、ネガティブ選択される。残った抗体候補ライブラリーは、次いで、野生型の標的‐ペプチド/MHC複合体への結合に関しポジティブ選択される。伸長ペプチドを使用することによって、天然の中心エピトープ(P5位に集中している)のみが確実に最終抗体候補により結合される。
【0463】
上述の戦略の組み合わせを使用してもよい。Ala以外の他の非天然アミノ酸置換を同戦略で使用してもよい。P1、P5、又はP8の天然配列がアラニンである場合には、異なるアミノ酸を使用してもよい。アンカー部位がP1及びP8である場合、中心位置は、P(1+3)=P4であり、末端近傍位は、P(8-1)=P7となる。デカペプチドに使用することができる戦略を、
図21及び
図22に要約する。
【0464】
実施例14 抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01クローンのエピトープマッピング
本実施例は、EBV-LMP2/HLAペプチド複合体に結合する、本明細書に記載される特定の抗体剤の詳細な結合特徴を記載するものである。特に、本実施例に提示されるデータは、例えばペプチド‐MHCクラスI(例えば、HLA-A02)結合ポケット中のEBV-LMP2ペプチドの中心部位内の位置への結合の重要性を確認するものである。本明細書に提示されるデータはまた、TCR結合の1つ以上の特性を模倣する特定の剤に関する結合特徴を記載するものである。任意の特定の学説に拘束されることは望まないが、本開示は、P3~P8残基のAla置換された位置に対する結合消失に関して、逆さの鈴の形状をした分布により特徴づけられる結合を示す抗体剤が、特に対象となり得ることを提案する。
【0465】
特に、本実施例は、EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01ペプチド複合体に結合する、本明細書に記載される全長IgG1抗体で行われた詳細なエピトープマッピング実験を記載する。最初に、P1、P2、P3、P4、P5、P6、P7、P8又はP9の位置の各々に、アラニン置換を有するEBV-LMP2(CLG)ペプチドのHLA-A*02:01への担持効率を検証した(
図23)。T2細胞を、CLGの野生型ペプチド(配列番号1)、又はP1~P9の各々のAla-置換ペプチドのいずれかでパルスし、次いで抗体BB7.2との結合に対し染色した。この抗体は、ペプチド担持状態のHLA-A*02:01に対し、強い結合を示す。BB7.2の結合は、フローサイトメトリーにより検出した(
図23)。
図23に提示されるフローサイトメトリーデータは、P3~P9の位置でのAla置換は、耐用性良好であり、野生型CLGペプチドと同等のBB7.2結合を示した。一方で、P1又はP2の位置でのAla置換は、HLA-A*02:01上への担持ができなくなっていた。
【0466】
CLGペプチドのP1及びP2の位置でのAla置換は、HLA-A*02:01への担持の消失をもたらしたこと、及びP2及びP9の位置は、T細胞受容体又は抗体から離れて埋もれているアンカー残基であること(結晶構造pdb 3REWに例示される)を理由として、クローン21、26、38、61、63及び77のIgG抗体の詳細なエピトープマッピングは、P3、P4、P5、P6、P7及びP8の位置でのAla置換を使用して行われた(
図24)。
図24Aは、フローサイトメトリーにより検出された、野生型CLGペプチド、又はP3~P8の位置でAla置換されたCLGペプチドのいずれかを担持したHLA-A*02:01への、抗EBV-LMP2(CLG)/HLA-A*02:01 IgG構築物の結合を示す。
図24Bにおいて、Ala置換ペプチド/HLA-A*02:01複合体へのIgG構築物の結合は、野生型CLG/HLA-A*02:01複合体への各IgGクローンの結合に対して標準化されている。
図24A及び
図24Bに提示されるデータから、実施例2及び表10において検証されなかった位置でアラニン置換を有するペプチドへの結合の評価を含む、詳細なエピトープ解析がもたらされた。実施例2及び表10での最初のエピトープマッピングは、CLGペプチドのP1、P5及びP8の位置でのみ、アラニン置換を用いて行われた。
【0467】
図23のデータから、ペプチドのP1の位置でのAla置換は、HLA-A*02:01上への担持を阻害したことを示している。
図24A及び
図24Bに提示されるデータから、検証されたLMP2クローンの結合特性に関する詳細な洞察がもたらされる。したがって、本明細書に提示されるデータから、高アフィニティのLMP2-21及びLMP2-26(それらは高い配列相同性を共有している)は、CLGペプチドのC末端に主に結合し、LMP2-38及びLMP2-63(それらもまた、高い配列相同性を共有している)は、CLGペプチドの中心に主に結合していることが示され、及び/又は確認された。
【0468】
重要なことは、LMP2-38及びLMP2-63のP3~P8の全残基に関する、Ala置換された位置に対する結合の消失に関する逆さの鈴の形状をした分布は、HLAクラスI分子に対する天然TCRの接触エネルギー(ファンデルワールス)の逆さの鈴の形状をした分布に非常に類似しているということである(
図1に示される)。したがって、本開示は、LMP2-38及びLMP2-63の様々な結合特性が、ほぼTCRを模倣していることを記載している。任意の特定の学説に拘束されることは望まないが、本開示は、LMP2-38及びLMP2-63が、MHCクラスIポケットを横切る天然TCRと同じような交角で結合している可能性を提示している。本明細書に提示されるエピトープマッピングデータは、LMP2-40もまた、主にCLGペプチドの中心に結合していることを示しているが、LMP2-38及びLMP2-63に対して観察された、P4~P8残基に集中した分布よりも、狭い分布となっている。LMP2-61及びLMP2-77もまた、CLGペプチドの中心に近いエピトープを示しているが、平坦な分布(逆さの鈴型ではない)であり、全体的に弱い結合である。
【0469】
実施例15 二量体二特異性抗体剤の作製
本実施例は、本開示により提示される教示に従う、ヒトMHCクラスI分子により提示されるEBV-LMP2ペプチドと、CD3に特異的な二量体二特異性抗体の構築を示すものである。
【0470】
学説に拘束されることは望まないが、少なくとも一部の実施形態において、二量体型は安定的であり得、及び/又は別の手段で二特異性(又は他の多特異性)抗体剤型に対し、有用な特質をもたらし得ることが、想定される。少数の例を挙げるだけでも、一部の実施形態において、二量体二特異性型は、1つ以上の結合特性、及び/もしくは薬物動態的特性を改善することができ、ならびに/又は解析を単純化することができ、これは少なくとも一部には、そのサイズの大きさに起因する可能性がある。
【0471】
5個のリード抗体LMP2クローン(26、38、38-2、40及び61)が、その結合特性及び全体的なアフィニティを基に、二量体二特異性型の解析に選択された。5個のリード抗体LMP2クローンは、Ahmed ら (2015) Oncoimmunology 4, e989776に記載される型を基にした、二量体二特異性抗体(DiBsAb)構築物として再構築された。LMP2クローン26、38、38-2、40及び61の二量体BsAbを作製するために、実施例4に記載されるように、2つの変化をLMP2xCD3 BsAbに作製した。最初に、抗CD3 scFv(配列番号124)中の遊離システインを、セリンに変異させ(配列番号125)、転写因子HNF1aに基づく 二量体化タグを、抗CD3 scFvのC末端に付加し、次いで6x-Hisタグを付加した(配列番号126)。
遊離システインからセリンへ変異した抗CD3 scFvアミノ酸配列(配列番号125)
【0472】
DVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTRYTMHWVRQAPGQGLEWIGYINPSRGYTNYADSVKGRFTITTDKSTSTAYMELSSLRSEDTATYYCARYYDDHYSLDYWGQGTTVTVSSGEGTSTGSGGSGGSGGADDIVLTQSPATLSLSPGERATLSCRASQSVSYMNWYQQKPGKAPKRWIYDTSKVASGVPARFSGSGSGTDYSLTINSLEAEDAATYYCQQWSSNPLTFGGGTKVEIK
HNF1aに基づくホモ二量体化タグ配列(配列番号126)
RTPLGDTTHTSGMVSKLSQLQTELLAALLESGLSKEALIQALGEGSGGAPHHHHHH
【0473】
得られたDiBsAbは、
図25に提示されるサイズ排除クロマトグラフィーデータにより示されるように、高純度であった(97~100%)。
【0474】
実施例16 腫瘍細胞株を使用した、特定の提示される抗体剤のT細胞性細胞障害活性
本実施例は、本明細書に提示される特定の抗体剤が、腫瘍細胞のT細胞性細胞障害活性を介在し得ることを示す。特に、本実施例は、選択されたEBV-LMP2(CLG)/HLA-A02xCD3二量体二特異性抗体が、 実施例15に記載される二量体型で使用されたときに、一団のHLA-A*02(+) EBV (+)腫瘍細胞株に対し、T細胞性細胞障害活性を介在することを具体的に記載する。
【0475】
RPMI-6666(ホジキンリンパ腫)、DT BLCL、F BLCL、HONE-1-A2LMP2(HLA-A*02:01でトランスフェクトされた鼻咽頭癌)を含む、HLA-A*02:01(+) EBV (+)腫瘍細胞株に対するDiBsAbのT細胞依存性細胞障害活性のアッセイが行われた。10:1のエフェクター細胞と標的の比率で、活性化臍帯血T細胞をエフェクター細胞として使用し、処置の4時間後、
51Cr放出により細胞障害活性を測定した(
図26)。LMP2-38及びLMP2-38-2のDiBsAbsは、4つすべての腫瘍細胞株に対し、最も高レベルの細胞障害活性を示した。LMP2-26及びLMP2-61は、対照BsAbと比較し、細胞障害活性をほとんど、又はまったく示さなかった。LMP-40 DiBsAbは、DT BLCLに対しては著しい殺傷活性を示したが、F BLCL、RPMI-6666又はHONE-1-A2に対しては示さなかった。非線形4パラメーター変数傾斜回帰分析(GraphPad Prism)に基づくEC
50及び最大殺傷データを、表14に示す。LMP2-38-2 DiBsAbは、0.003~0.07μg/mLのEC50値、及び37~55%の最大殺傷を有し、LMP2-38 DiBsAbは、0.02~0.04μg/mLのEC
50値、及び17~40%の最大殺傷を有していた。表14は、LMP2二量体BsAbを用いて得られたin vitro細胞障害活性の結果を記載する。「nd」は、不十分な曲線適合を理由とした、非線形回帰分析による「未決定」を示す。
【0476】
【0477】
LMP2二量体BsAbのT細胞依存性細胞障害活性のアッセイを、臍帯血T細胞をエフェクターとして使用して、HLA-A*02(-) EBV (+)腫瘍細胞株のKS BLCL、ならびにHLA-A*02(+) EBV(-)腫瘍細胞株のCOLO205 (大腸癌)、MCF-7 (乳癌)、及びHepG2 (肝細胞癌)を含む、抗原陰性腫瘍細胞株に対しても行った。対照BsAbと比較し、実質的な殺傷は観察されなかった。
【0478】
実施例17 本明細書に記載される特定の抗体剤のマウス異種移植編実験
本実施例は、本明細書に記載される2つの例示的な二特異性抗体剤のin vivo有効性を示す。特に本実施例は、選択されたEBV-LMP2(CLG)/HLA-A02xCD3二特異性抗体(二量体型で評価)が、マウス異種移植片モデルにおいて、腫瘍増殖の低減と生存に非常に効果的であることを具体的に示している。
【0479】
LMP-38候補及びLMP2-38-2候補は、本明細書で記載されるように効果的なin vitro活性を示しており、本明細書に記載される二量体二特異性型でマウス異種移植片実験においても検証された。最初の実験で、免疫不全DKOマウス(一群当たり5匹のマウス)に、1x10
6個のF BLCL(ルシフェラーゼレポーター遺伝子を有する)を静脈内移植し、次いで、10x10
6百万個のヒト成人PBMCを2投与で7日目(50%T細胞)及び14日目(50%T細胞)に静脈内注射することで処置した。対照DiBsAb、LMP2-38 DiBsAb、又はLMP2-38-2 DiBsAbのいずれかの20μgの注射を、7、8、9、10、11、14、15、17、19、22、25、28、32、及び39日目に与えた。腫瘍増殖は、生体発光により監視した。結果を
図27に示す。示されるように、非処置群の発光シグナルは、28日目に飽和状態となった。28日目の生体発光を表15に示す。LMP2-38及びLMP2-38-2のDiBsAbは、腫瘍増殖の低減に非常に効果的であった(対照DiBsAbと比較し、それぞれ98.8%及び99.8%の低減)。表15は、F BLCLを移植され、ヒト成人PBMC及びLMP2 DiBsAbで処置された免疫不全マウスの28日目の生体発光定量の結果を含んでいる。
【0480】
【0481】
生存率データは
図28に示す。LMP2-38 DiBsAb群(P=0.04)及びLMP2-38-2 DiBsAb群(P=0.03)の両方に対して生存率における有意な改善が観察された。
【0482】
2番目の実験で、免疫不全DKOマウス(一群当たり5匹のマウス)に、1x10
6個のF BLCL(ルシフェラーゼレポーター遺伝子を有する)を静脈内移植し、次いで、10x10
6百万個のヒト臍帯血PBMCを2投与で7日目(20%T細胞)及び14日目(50%T細胞)に静脈内注射することで処置した。対照DiBsAb、LMP2-38 DiBsAb、又はLMP2-38-2 DiBsAbのいずれかの20μgの注射を、7、8、9、10、11、14、15、17、19、22、25、28、32、及び39日目に与えた。腫瘍増殖は、生体発光により監視した。結果を
図29に示す。非処置群の発光シグナルは、28日目に飽和状態となった。28日目の生体発光を表16に示す。LMP2-38及びLMP2-38-2のDiBsAbは、腫瘍増殖の低減に非常に効果的であった(対照DiBsAbと比較し、それぞれ91.2%及び98.1%の低減)。表16は、F BLCLを移植され、ヒト臍帯血PBMC及びLMP2 DiBsAbで処置された免疫不全マウスの28日目の生体発光定量を記載する。
【0483】
【0484】
生存率データは
図30に示す。示されるように、LMP2-38 DiBsAb群(P=0.003)及びLMP2-38-2 DiBsAb群(P=0.003)の両方に対して生存率における有意な改善が観察された。
【0485】
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【0486】
均等
請求の範囲において、請求項の構成要素を修正するための例えば、「第一」、「第二」、「第三」等の序数用語の使用は、それ自身で1つの請求項が他の請求項を超える任意の優先度、優位性又は順序を暗示するものではなく、さもなければ方法の行為が行われる時間的順序を暗示するものでもない。請求項の要素を識別するために、特定の名称を有する1つの請求項の要素を、(序数用語の使用に関し)同一の名称を有する他の要素から識別するためのラベルとして単に使用されているものである。
【0487】
明細書及び請求の範囲において、本明細書で使用される場合、別段であることが明白に示されていない限り、「a」及び「an」という冠詞は、複数の指示対象を含むと理解されるものとする。群の1つ以上のメンバー間に、「or」を含む請求項又は記載は、反対であることが示唆されている場合又は文脈から別段であることが明白である場合を除き、群の1つ、2つ以上、又はすべてのメンバーが、所与の産物もしくはプロセス中に存在し、使用され、又はその他に関連している場合に満たされたとみなされる。本発明は、群の正確に1つのメンバーが、所与の産物もしくはプロセス中に存在し、使用され、又はその他に関連している実施形態を含む。本発明はまた、2つ以上の群のメンバー又は群全体のメンバーが、所与の産物もしくはプロセス中に存在し、使用され、又はその他に関連している実施形態を含む。さらに、本発明は、別段の示唆がない限り、又は当分野の当業者に矛盾又は不一致が生じることが明らかではない限り、列記される請求項のうちの1つ以上からの、1つ以上の限定、要素、条項、記述用語などが、同じ基本クレーム(又は関連クレーム、任意の他のクレーム)に応じて他のクレームへと導入される、すべての変動、組み合わせ、及び配列を包含すると理解されたい。要素がリストとして提示される場合(例えば、マーカッシュグループ又は類似した形式)、要素の各下位群もまた開示され、及び任意の要素が当該群から除去され得ることを理解されたい。概して、本発明、又は本発明の態様が、特定の要素、特性などを含有すると呼称される場合、本発明の特定の実施形態又は本発明の態様は、かかる要素、特性などからなる、又は原則的にかかる要素、特性などからなると理解されたい。平易化を目的として、それら実施形態は、各場合において、それら多くの文言を本明細書において具体的には説明していない。また、本発明の任意の実施形態又は態様は、特定の除外が本明細書において列挙されているか否かにかかわらず、請求項から明白に除外され得ることを理解されたい。本発明の背景を記載するため、及びその実施に関して、さらなる詳細を提供するために本明細書に参照されている公表文献、ウェブサイト、及び他の参考資料は、参照により本明細書に援用される。
【0488】
したがって、本発明の少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様を記載することで、当分野の当業者には、様々な変更、改変、及び改善が容易に明白となることを認識されたい。かかる変更、改変、及び改善は、本開示の一部であることが意図されており、及び本発明の主旨及び範囲内にあることが意図されている。したがって、前述の記載及び図面は、例示の目的のみであり、本発明は、以下の請求項により詳細に記載されている。
【配列表】