IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

特許7000180スクロール型コンプレッサ用チップシール
<>
  • 特許-スクロール型コンプレッサ用チップシール 図1
  • 特許-スクロール型コンプレッサ用チップシール 図2
  • 特許-スクロール型コンプレッサ用チップシール 図3
  • 特許-スクロール型コンプレッサ用チップシール 図4
  • 特許-スクロール型コンプレッサ用チップシール 図5
  • 特許-スクロール型コンプレッサ用チップシール 図6
  • 特許-スクロール型コンプレッサ用チップシール 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】スクロール型コンプレッサ用チップシール
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
F04C18/02 311T
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018015577
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2018128014
(43)【公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-12-29
(31)【優先権主張番号】P 2017020699
(32)【優先日】2017-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】石井 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 勝史
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-047266(JP,A)
【文献】特開平07-027060(JP,A)
【文献】特開2003-065266(JP,A)
【文献】特開平03-088985(JP,A)
【文献】特開平06-288361(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0131136(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロール部材である固定スクロールと可動スクロールとを備えたスクロール型コンプレッサにおいて、前記固定スクロールと前記可動スクロールとの間に形成される圧縮室をシールするための渦巻形状のチップシールであって、
前記チップシールは、前記スクロール部材との摺動面に、該摺動面を部分的に切欠いた複数の凹部を有し、該複数の凹部は渦巻の内周面と外周面の少なくとも一方に配置され、個々の凹部は内周面または外周面に開口するとともに内周面と外周面とを貫通しておらず、
前記凹部の平面形状は円弧状であり、該チップシールの渦巻の巻き始め端部から巻き終わり端部に向けて、設置されている前記凹部の円弧半径が連続的または段階的に大きくなることを特徴とするスクロール型コンプレッサ用チップシール。
【請求項2】
前記摺動面における前記凹部の総面積の割合(凹部総面積/(凹部総面積+実摺動面積)×100)は、5~45%であることを特徴とする請求項1記載のスクロール型コンプレッサ用チップシール。
【請求項3】
前記凹部の深さは、該チップシールの厚みの45%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載のスクロール型コンプレッサ用チップシール。
【請求項4】
前記凹部は、該チップシールの渦巻の巻き始め端部から巻き終わり端部までの長さ方向に離間して前記摺動面に複数個設置されており、該凹部それぞれの開口長さは、チップシールの展開長さの1~20%であり、
隣り合う前記凹部の間は前記摺動面の一部であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項記載のスクロール型コンプレッサ用チップシール。
【請求項5】
前記凹部の平面形状の面積が、凹部間で略同一であることを特徴とする請求項記載のスクロール型コンプレッサ用チップシール。
【請求項6】
前記凹部は、前記摺動面に等間隔で複数個設置されていることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項記載のスクロール型コンプレッサ用チップシール。
【請求項7】
前記チップシールは、合成樹脂製であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項記載のスクロール型コンプレッサ用チップシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型コンプレッサ(圧縮機)に用いられるチップシールに関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型コンプレッサは、基板とこの基板表面に立設する渦巻壁を有する固定スクロールと可動スクロールが、それぞれ渦巻壁において互いに噛み合わされて、それらの間に圧縮室が形成されている。この圧縮室が固定スクロールの軸線の周りを公転する可動スクロールの作用により渦巻中心側に移動してガスなどの圧縮が行なわれる。ガスなどの圧縮に際して圧縮室の密閉性を確保するために、スクロール部材である固定スクロールと可動スクロールの渦巻壁の端面には、渦巻の延長方向に沿ってシール溝が形成され、この溝内には対向するスクロール基板(鏡板)に接触するシール部材であるチップシールが収容されている。
【0003】
このようなチップシールは、例えば所定の合成樹脂を射出成形することにより、断面が矩形状の長尺部材を渦巻に巻いたような渦巻形状に製造されている(特許文献1参照)。図7に示すように、この種のチップシール21は、一方のラップ(渦巻壁)22の溝22a内で隙間をもって収容され、溝22aと対向する鏡板(スクロール基板)23との間で、ガス24の圧力により鏡板23に向かって溝底22bより浮上する。浮上したチップシール21は、断面の矩形を構成する一面であるシール面21aで鏡板23と摺接し、互いの渦巻壁の間の圧縮室をシールしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-322988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スクロール型コンプレッサの省エネルギー化のためには、スクロール部材とチップシールの低摩擦化により、スクロール時のトルクを低減することが重要である。しかしながら、チップシールの断面が矩形状である場合、スクロール基板との摺動面積が大きく、摺動面での摩擦力が大きくなる。
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、シール性を維持しつつ、スクロール部材とチップシールとの摩擦力を低減でき、スクロール型コンプレッサの省エネルギー化に寄与できるスクロール型コンプレッサ用チップシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスクロール型コンプレッサ用チップシールは、スクロール部材である固定スクロールと可動スクロールとを備えたスクロール型コンプレッサにおいて、上記固定スクロールと上記可動スクロールとの間に形成される圧縮室をシールするための渦巻形状のチップシールであって、上記チップシールは、上記スクロール部材との摺動面に、該摺動面を部分的に切欠いた複数の凹部を有し、該複数の凹部は渦巻の内周面と外周面の少なくとも一方に配置され、個々の凹部は内周面または外周面に開口するとともに内周面と外周面とを貫通しないことを特徴とする。
【0008】
上記摺動面における上記凹部の総面積の割合(凹部総面積/(凹部総面積+実摺動面積)×100)は、5~45%であることを特徴とする。
【0009】
上記凹部の平面形状は、円弧状または渦巻形状に沿った略矩形状であることを特徴とする。
【0010】
上記凹部の深さはチップシールの厚みの45%以下であることを特徴とする。
【0011】
上記凹部は、該チップシールの渦巻の巻き始め端部から巻き終わり端部までの長さ方向に離間して上記摺動面に複数個設置されており、該凹部それぞれの開口長さは、チップシールの展開長さの1~20%であり、隣り合う上記凹部の間は上記摺動面の一部であることを特徴とする。
【0012】
また、上記凹部の平面形状の面積が、凹部間で略同一であることを特徴とする。また、上記凹部は、上記摺動面に等間隔で複数個設置されていることを特徴とする。
【0013】
上記凹部の平面形状は円弧状であり、該チップシールの渦巻の巻き始め端部から巻き終わり端部に向けて、設置されている上記凹部の円弧半径が連続的または段階的に大きくなることを特徴とする。
【0014】
上記チップシールは、合成樹脂製であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスクロール型コンプレッサ用チップシールは、スクロール部材である固定スクロールと可動スクロールの間に形成される圧縮室をシールするための渦巻形状のチップシールであり、スクロール部材との摺動面に、該摺動面を部分的に切欠いた複数の凹部を有するので、摺動面積が小さくなり、面圧が高くなることにより摺動面での摩擦力を小さくできる。この結果、スクロール型コンプレッサにおけるスクロール部材のスクロール時のトルクを低減でき、該コンプレッサの省エネルギー化に寄与できる。また、上記摺動面の複数の凹部が、渦巻の内周面と外周面の少なくとも一方に配置され、個々の凹部は内周面または外周面に開口するとともに内周面と外周面とを貫通しないので、シール性を維持しつつ、摺動面に冷凍機油等の潤滑油が供給され、摺動面での摩擦力をより小さくできる。
【0016】
摺動面における凹部の総面積の割合(凹部総面積/(凹部総面積+実摺動面積)×100)が、5~45%であるので、摺動面での摩擦力が小さくなるとともに機械強度の低下が抑えられる。
【0017】
凹部の平面形状が、円弧状または渦巻形状に沿った略矩形状であるので、凹部の設計や配置が容易となる。特に、複数配置する場合において、面積を略同一とするような設計が容易となる。
【0018】
凹部の深さが、チップシールの厚みの45%以下であるので、摺動面を部分的に切欠いた凹部を備えながら、十分なシール性を担保できる。
【0019】
凹部は、チップシールの渦巻の巻き始め端部から巻き終わり端部までの長さ方向に離間して摺動面に複数個設置されており、該凹部それぞれの開口長さが、チップシールの展開長さの1~20%であり、隣り合う凹部の間は摺動面の一部であるので、摺動面積が小さくなり、摺動面での摩擦力をより小さくできる。
【0020】
また、凹部の平面形状の面積が略同一であるので、シール部位間での摩擦力の差が小さくなり、安定したスクロール部材のスクロールが可能となる。また、凹部が、摺動面に等間隔で複数個設置されているので、上記同様、安定したスクロール部材のスクロールが可能となる。
【0021】
凹部の平面形状が円弧状であり、チップシールの渦巻の巻き始め端部から巻き終わり端部に向けて、設置されている凹部の円弧半径が連続的または段階的に大きくなるので、凹部の開口長さなどをほぼ同等としながら、凹部の平面形状の面積を凹部間で略同一とできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のチップシールの一例を示す平面図である。
図2図1における凹部周囲の拡大図である。
図3】チップシールをコンプレッサに組み込んだ状態の断面図である。
図4】本発明のチップシールの他の例を示す平面図である。
図5図4における凹部周囲の拡大図である。
図6】スクロール型コンプレッサの圧縮機構部の一部断面図である。
図7】従来のチップシールをコンプレッサに組み込んだ状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のチップシールを適用するスクロール型コンプレッサの圧縮機構部の構造の一例を図6に基づいて説明する。図6は、スクロール型コンプレッサの圧縮機構部の一部断面図である。図6に示すように、スクロール型コンプレッサは、基板14aとその表面に直立する渦巻壁14bを有する固定スクロール14と、基板15aとその表面に直立する渦巻壁15bを有する可動スクロール15とを備えている。固定スクロール14と可動スクロール15が、渦巻壁境界16において相互に偏心状態にかみ合わされて、それらの間に圧縮室12が形成されている。可動スクロール15が固定スクロール14の軸線の周りで公転することにより、圧縮室12が渦巻形状の中心側に移動してガスなどの圧縮が行なわれる。固定スクロール14と可動スクロール15の渦巻壁端面に、渦巻の延長方向に沿ったシール溝13が形成されている。本発明のチップシール11は、シール溝13内に収容され、対向するスクロール基板と摺接して、圧縮室12の密閉性を確保するものである。
【0024】
本発明のスクロール型コンプレッサ用チップシールの一例を図1図3に基づいて説明する。図1は本発明のチップシールをシール面となる相手スクロール部材との摺動面側から見た平面図であり、図2はその一部拡大図であり、図3はこのチップシールをコンプレッサに組み込んだ状態の断面図である。図1に示すように、チップシール1は、断面が略矩形状の長尺部材を渦巻に巻いたような渦巻形状を有する。この渦巻形状は、巻き始め端部2から巻き終わり端部3に向けて徐々に曲率半径が大きくなる形状である。摺動面5が、対向するスクロール基板との摺動面であり、圧縮室内のガスなどをシールするシール面となる。
【0025】
チップシール1は、スクロール部材との摺動面5に、この摺動面5を部分的に切欠いた複数の凹部4を有する。複数の凹部4は、渦巻の内周面1bに配置している。なお、凹部4は、外周面1aに配置する形態としてもよく、内周面1bと外周面1aの両方に配置する形態としてもよい。個々の凹部は内周面1bまたは外周面1aに開口するとともに内周面1bと外周面1aとを貫通しない。つまり、複数の凹部4が形成されたチップシール1において、内周面1bの凹部は外周面1aに非貫通であり、外周面1aの凹部は内周面1bに非貫通である。凹部4を摺動面内で閉じた凹部とせずに、摺動面5の縁部を切り欠いて内周面1bまたは外周面1aに開口させた形状とすることで、該凹部に冷凍機油等の潤滑油を導入でき、摺動面への潤滑油の供給が容易になる。また、凹部4を、渦巻の内周面1bと外周面1aのいずれか一方にのみ開口させ、内周面1bと外周面1aとを非貫通とすることで、シール性も担保できる。
【0026】
また、摺動面における凹部の総面積の割合(凹部総面積/(凹部総面積+実摺動面積)×100)が、5~45%であるので、摺動面での摩擦力が効果的に小さくできる。摺動面における凹部の総面積の割合が5%より少ない場合は、摺動面の面圧を効果的に高くすることができず、摩擦力の低減効果が乏しい。また、45%より多くなると凹部からのガス圧が高くなり、反シール面からのガス圧が相殺されて、摺動面の面圧が低下する結果となるため、摩擦力の低減効果が乏しくなる。なお、摺動面における凹部の総面積の割合は、好ましくは7~40%であり、さらに好ましくは10~35%である。なお、実摺動面積は、摺動面から凹部を除いた面積である。
【0027】
また、図1に示す形態では、凹部4は、チップシール1の渦巻の巻き始め端部2から巻き終わり端部3までの長さ方向に離間して摺動面5に複数個(図1は44個)並べて設置されている。隣り合う凹部4の間は摺動面5(シール面)の一部である。凹部の個数は、特に限定されず、各々の凹部の大きさを考慮して適宜設定する。例えば、10個~50個、好ましくは30個~50個とする。凹部4は、摺動面5において等間隔で設置することが好ましい。これにより、シール部位間での摩擦力の差が小さくなり、安定したスクロール部材のスクロールが可能となる。
【0028】
各々の凹部4の開口長さは、チップシールの展開長さの1%~20%が好ましい。1%~10%がより好ましく、1%~5%がさらに好ましい。開口長さを小さくすることで、個数を多く配置できる。例えば、渦巻きに沿った長い凹部を少ない個数で配置する場合と、短い凹部を複数配置する場合とを比較すると、凹部総面積が同一である場合にも前者よりも後者の方が、チップシールの変形などを抑制しやすく、シール性に優れるため好ましい。なお、チップシールの展開長さとは、渦巻形状の長尺部材を展開した長さであり、これは図1の平面図においてチップシールの幅W方向の中央位置(内周面および外周面から等距離の位置)を結んだ中央線1cの全長である。また、円弧状の凹部の開口長さとは、凹部の内周面または外周面に開口する円弧の最大長さ(図2では4b-4b間の内周面1bに沿った長さ)である。
【0029】
図2に示すように、凹部4の平面形状は、円弧状とされている。また、図3に示すように、凹部4の断面形状は矩形とされている。よって、この凹部4は、平面形状を円弧状とし、摺動面5から垂直に一定深さまで形成された形状を有する。このため、この凹部4は、摺動面5での平面形状と、最深部4cでの平面形状が同じである。円弧面4aの円弧半径R(図2参照)とその中心位置は、特に限定されないが、凹部がチップシールの幅方向の中央位置を超えない位置となるように設定することが好ましい。例えば、半径Rは、チップシールのサイズ(渦巻の略外径)が70mmである場合において、R2mm~R4mmとすることが好ましい。中央位置を超えないように複数の凹部を設けることで、高いシール性を維持できる。
【0030】
凹部4の深さd(図3参照)は、チップシールの厚みの45%以下であることが好ましい。30%以下が好ましく、15%以下がより好ましい。なお、チップシールの厚みTは、摺動面であるシール面から反シール面までの間である。凹部4の深さをチップシールの厚みの45%以下とすることで、チップシールの剛性を維持し、摩耗が進行しても適度に摺動面での摩擦力を低減できる。これにより、摺動面を部分的に切欠いた凹部を設けて摩擦力を低減しつつ、十分なシール性を担保できる。
【0031】
また、図2中の拡大図に示すように、渦巻の内周面1bと円弧面4aとの境界部4bは、R形状(例えばR0.5mm以下)とすることが好ましい。このようなR形状を設けることで、内周面とシール溝とが摺接する際に、境界部のエッジをなくすことができ、また、凹部に冷凍機油等の潤滑油を導入しやすくなるので、安定した潤滑状態を維持し、チップシールの局部変形を抑制できる。
【0032】
凹部4の平面形状の面積は、凹部間で略同一であることが好ましい。これにより、シール部位間での摩擦力の差が小さくなり、安定したスクロール部材のスクロールが可能となる。ここで、図1に示すように、本発明のチップシール1は渦巻形状であるため、巻き始め端部2から巻き終わり端部3に向けて徐々に曲率半径が大きくなる形状である。このため、凹部4を単一の円弧形状で統一して、その平面形状の面積を同一とすることはできない。よって、凹部の開口長さなどをほぼ同等としながら、凹部の平面形状の面積を凹部間で略同一とすべく、チップシールの渦巻の巻き始め端部から巻き終わり端部に向けて、設置されている凹部の円弧半径を連続的または段階的に大きくすることが好ましい。図1に示す形態では、(1)巻き始め端部2からXまで、(2)XからYまで、(3)Yから巻き終わり端部3まで、の3段階に分けて、段階的に凹部の円弧半径を大きくしている。
【0033】
チップシール1は、スクロール型コンプレッサにおいて、スクロール部材である固定スクロールと可動スクロールの渦巻壁間に形成された圧縮室をシールするためのシール部材である。図3に示すように、チップシール1は、渦巻壁7のシール溝内に収容され、対向するスクロール基板6と摺接して、圧縮室を密閉している。渦巻壁7とスクロール基板6とは隙間8(対向距離D)を有して対向している。凹部4の深さdと、隙間8の対向距離Dとの関係は、略同一か、凹部4の深さdが僅かに小さい程度が好ましい。チップシール1は、渦巻壁7のシール溝内で隙間をもって収容され、対向するスクロール基板6との間で、ガス9の圧力によりスクロール基板6に向かってシール溝底より浮上する。浮上したチップシール1は、摺動面5でスクロール基板6と、外周面1aで渦巻壁7のシール溝壁7aと摺接し、スクロール部材である固定スクロールと可動スクロールのそれぞれの渦巻壁7とスクロール基板6の渦巻壁間の圧縮室をシールしている。
【0034】
チップシール1は、摺動面5に上述の凹部4を複数有するので、この凹部4に圧縮室のガス9を一部導入できる。図中の矢印9aと9bは、ガス9から各面に受ける圧力を示したものである。摺動面5を部分的に切欠いた凹部4により、凹部のない従来品(図7)よりも摺動面積自体が小さくなる。図1図3に示す本発明のチップシール(凹部44個)と、図7に示す従来品のチップシールとは、凹部の有無以外は同寸法である。この場合、実摺動面積は、従来品を100とすると、本発明では75となり、摺動面における凹部の総面積の割合(凹部総面積/(凹部総面積+実摺動面積)×100)は、25%である。実摺動面積が少なくなることで摺動面にかかる面圧が高くなり摩擦係数が小さくなる。その結果、摺動面の摩擦力が小さくなる。また、上記ガスの圧力として示すように、本発明では、チップシール1の反シール面が受けるガス圧を、凹部4に導入されたガスにより凹部底面が受けるガス圧で一部相殺される。しかし、冷凍機油等の潤滑油が摺動面に供給され易くなるため、従来品と比較して摺動面での摩擦力を大きく低減できる。摺動面における凹部の総面積の割合(凹部総面積/(凹部総面積+実摺動面積)×100)は、5~45%であり、45%より多くなると、摺動面にかかる面圧が凹部4に導入されたガスにより低下する結果となる。
【0035】
本発明のスクロール型コンプレッサ用チップシールの他の例を図4図5に基づいて説明する。図4は本発明のチップシールをシール面となる相手スクロール部材との摺動面側から見た平面図であり、図5はその一部拡大図である。図4および図5に示すように、チップシール1’は、スクロール部材との摺動面5に、この摺動面5を部分的に切欠いた複数の凹部4を有する。この凹部の形状が、渦巻形状に沿った略矩形状である。矩形の両長辺が渦巻形状に沿った曲線とされており、該凹部は、渦巻の内周面1bに配置され、個々の凹部の矩形長辺の一方側が渦巻の内周面1bに開口している。
【0036】
凹部の個数、各々の凹部の開口長さ、凹部の深さなどは、図2に示す円弧状の凹部と同様である。平面形状に関して、凹部がチップシールの幅方向の中央位置を超えない位置となるように設定することが好ましい。
【0037】
以上のように、凹部の平面形状を円弧状または渦巻形状に沿った略矩形状とすることで、凹部の設計や配置が容易となり、特に凹部を複数配置する場合において、面積を略同一とするような設計が容易となる。また、各図に基づき、摺動面に凹部を有するチップシールを説明したが、本発明はこれに限定されず、特に凹部の形状に関しては、摺動面を部分的に切欠いた複数の凹部であって、該複数の凹部は渦巻の内周面と外周面の少なくとも一方に配置され、個々の凹部は内周面または外周面に開口するとともに内周面と外周面とを貫通しないのであれば、任意の形状とできる。例えば、凹部の深さを一定深さとせずに、最深部の形状を半球状やテーパ状のような開口側に広がる傾斜面としてもよい。
【0038】
本発明のチップシールは合成樹脂製とすることが好ましい。例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、液晶ポリマーなどの樹脂に、炭素繊維、ウィスカなどの繊維状充填材、テトラフルオロエチレン樹脂粉末などの潤滑剤などが配合された樹脂組成物を用いて射出成形により製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のスクロール型コンプレッサ用チップシールは、シール性を維持しつつ、スクロール部材とチップシールとの摩擦力を低減でき、スクロール部材のスクロール時のトルクを低減できるので、スクロール型コンプレッサに広く適用できる。
【符号の説明】
【0040】
1 チップシール
2 渦巻の巻き始め端部
3 渦巻の巻き終わり端部
4 凹部
5 摺動面
6 スクロール基板
7 渦巻壁
8 隙間
9 ガス
11 チップシール
12 圧縮室
13 シール溝
14 固定スクロール
15 可動スクロール
16 渦巻壁境界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7