(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20220112BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/416 321
(21)【出願番号】P 2018057302
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千佳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】井口 憲一
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-055857(JP,A)
【文献】実開平04-115056(JP,U)
【文献】特開昭53-029194(JP,A)
【文献】特開昭54-067497(JP,A)
【文献】特開平08-043342(JP,A)
【文献】特開2000-019143(JP,A)
【文献】OKAMOTO T, TAKATA M,Characteristics of Oxygen Sensor Exploiting the Hot Spot in BaAl2O4-added GdBa2Cu3O7-δ Composite Ce,Journal of the Ceramic Society of Japan,2004年,Supplement 112-1, PacRim5 Special Issue,S567-S571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子に電圧を印加したときの電流値または抵抗値の変化をガス濃度として検出する
角柱状または円柱状のセラミック焼結体からなるガスセンサであって、
前記センサ素子の軸方向の
端面を除く側面の軸方向両端に一対の電極部が設けられ、該一対の電極部は前記センサ素子の隣接する
該側面どうしが接する部位
および該側面と該端面とが接する部位を回避して
、印刷法により島状に形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記センサ素子は角柱状の線状体からなり、前記一対の電極部の
うち一方の電極が、前記線状体を構成する複数の
側面のいずれか1つの
側面上
の軸方向一方端部に形成され
、他方の電極が該複数の側面のいずれか1つの側面上の軸方向他方端部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記電極部は、前記線状体の同一側面上の軸方向一方端部と軸方向他方端部、あるいは第1の側面上の軸方向一方端部とその第1の側面に対向する第2の側面上の軸方向他方端部、あるいは第1の側面上の軸方向一方端部とその第1の側面に隣接する第3の側面上の軸方向他方端
部に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記センサ素子は円柱状の線状体からなり、前記線状体の側面上の軸方向一方端部と軸方向他方端部に形成された前記電極部は、軸方向に一定の幅を有しながら該一方端部および該他方端部それぞれの円周方向に連続して周回するように形成され、あるいは、軸方向に一定の幅を有するとともに前記円周方向に途切れた中断部を有しながら周回するように形成されていることを特徴とする請求項
1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記電極部には前記センサ素子の軸方向または該軸方向に直交する方向に延びる一対の電極ワイヤーが接続されていることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項6】
センサ素子に電圧を印加したときの電流値または抵抗値の変化をガス濃度として検出するセラミック焼結体からなるガスセンサの製造方法であって、
前記センサ素子の原料を混合して形成したスラリーから第1のグリーンシートを作製する工程と、
電極を印刷した第2のグリーンシートを作製する工程と、
前記第2のグリーンシートを最上層または最上層と最下層にして複数枚の前記第1のグリーンシートとともに積層してなる積層体を形成する工程と、
前記積層体を所定サイズに切断し焼成して、軸方向に前記電極が対となって配置された線状体からなるセンサ素子を作製する工程と、
を備え、
前記電極の辺縁部と前記線状体の辺縁部との間に隙間が設けられていることを特徴とするガスセンサの製造方法。
【請求項7】
センサ素子に電圧を印加したときの電流値または抵抗値の変化をガス濃度して検出するセラミック焼結体からなるガスセンサの製造方法であって、
前記センサ素子の原料を混合して形成したスラリーからグリーンシートを作製する工程と、
前記グリーンシートを複数枚積層してなる積層体を形成する工程と、
前記積層体の最上面上の一方端部と最下面上の他方端部とに電極を印刷する工程と、
前記積層体を所定サイズに切断し焼成して、軸方向に前記電極が対となって配置された線状体からなるセンサ素子を作製する工程と、
を備え、
前記電極の辺縁部と前記線状体の辺縁部との間に隙間が設けられていることを特徴とするガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定雰囲気中のガス濃度、例えば酸素濃度を検知するガスセンサとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素濃度を検知する検出素子として種々の材料からなる酸素センサが知られている。セラミック焼結体を用いた酸素センサの材料組成として、例えば特許文献1には、LnBa2Cu3O7-δとLn2BaCuO5(Lnは希土類元素)とを混合した複合セラミックスを用いた酸素センサが開示されている。
【0003】
酸素センサに用いるセラミック焼結体は組成が多孔質であり、その特性上、アルミナ基板材に比べて脆弱である。また、線状体の素子形状を有する酸素センサは、その素子の両端部をキャップ状に塗布形成した端面電極を有する。したがって、素子形状が角柱状の場合には、例えば
図15に示すように、端面電極は素子の両端部それぞれの5面(a1~a5,b1~b5)に塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-85816号(特許第4714867号)公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミック焼結体を用いた酸素センサは、電圧を印加すると線状材の一部が赤熱するホットスポット現象を用いて酸素濃度を検出している。そのため、上記のように素子端部の5面に端面電極を設ける構成とした場合、動作時の発熱によって電極部に発生した熱応力の逃げ場がなくなり、電極部における素子の劣化が早く進行して、電極部にクラックや電極剥離が生じるという問題がある。
【0006】
すなわち、
図15において点線矢印Fで模式的に示すように、素子の軸方向およびそれに直交する方向に電極材が膨張および収縮し、特に、素子端部の5面に設けた端面電極が互いに接する部分(
図15の太線で示す部分であり、エッジ部ともいう)にストレスがかかり、それらエッジ部での熱応力の負荷が大きくなる。そのため、端面電極のエッジ部に集中してクラックが発生するという問題がある。
【0007】
また、従来の酸素センサは、電極の作製方法として、線状素子の端部を電極ペーストに浸して電極材を塗布するディップ方式をとっているが、この方法は生産性が悪いだけでなく、素子とリード線(ワイヤー)とが接する面積を充分に確保するにはディップ液に深くあるいは広く浸漬することが必要となり、バラツキも出やすく、制御が煩雑になりやすい。そのため、センサ素子を中空の管内に固定する際に中空構造の安定性が得られないという問題がある。
【0008】
上述した問題点は、センサ素子が角柱状でない、例えば円柱状のセンサ素子にも当てはまり、円柱状の素子の側面端部と端面とを覆うように電極材を塗布して端面電極を設けた場合には、その側面端部と端面とが接するエッジ部においてクラックが生じやすいと考えられる。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、酸素センサ等のガスセンサにおいて電極部でのクラックの発生、電極剥離等を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成し、上述した課題を解決する一手段として以下の構成を備える。すなわち、本発明のガスセンサは、センサ素子に電圧を印加したときの電流値または抵抗値の変化をガス濃度として検出する角柱状または円柱状のセラミック焼結体からなるガスセンサであって、前記センサ素子の軸方向の端面を除く側面の軸方向両端に一対の電極部が設けられ、該一対の電極部は前記センサ素子の隣接する該側面どうしが接する部位および該側面と該端面とが接する部位を回避して、印刷法により島状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
例えば、前記センサ素子は角柱状の線状体からなり、前記一対の電極部のうち一方の電極が、前記線状体を構成する複数の側面のいずれか1つの側面上の軸方向一方端部に形成され、他方の電極が該複数の側面のいずれか1つの側面上の軸方向他方端部に形成されていることを特徴とする。例えば前記電極部は、前記線状体の同一側面上の軸方向一方端部と軸方向他方端部、あるいは第1の側面上の軸方向一方端部とその第1の側面に対向する第2の側面上の軸方向他方端部、あるいは第1の側面上の軸方向一方端部とその第1の側面に隣接する第3の側面上の軸方向他方端部に形成されていることを特徴とする。また、例えば、前記センサ素子は円柱状の線状体からなり、前記線状体の側面上の軸方向一方端部と軸方向他方端部に形成された前記電極部は、軸方向に一定の幅を有しながら該一方端部および該他方端部それぞれの円周方向に連続して周回するように形成され、あるいは、軸方向に一定の幅を有するとともに前記円周方向に途切れた中断部を有しながら周回するように形成されていることを特徴とする。さらに例えば、前記電極部には前記センサ素子の軸方向または該軸方向に直交する方向に延びる一対の電極ワイヤーが接続されていることを特徴とする。
【0012】
本発明のガスセンサの製造方法は、センサ素子に電圧を印加したときの電流値または抵抗値の変化をガス濃度として検出するセラミック焼結体からなるガスセンサの製造方法であって、前記センサ素子の原料を混合して形成したスラリーから第1のグリーンシートを作製する工程と、電極を印刷した第2のグリーンシートを作製する工程と、前記第2のグリーンシートを最上層または最上層と最下層にして複数枚の前記第1のグリーンシートとともに積層してなる積層体を形成する工程と、前記積層体を所定サイズに切断し焼成して、軸方向に前記電極が対となって配置された線状体からなるセンサ素子を作製する工程とを備え、前記電極の辺縁部と前記線状体の辺縁部との間に隙間が設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のガスセンサの製造方法は、センサ素子に電圧を印加したときの電流値または抵抗値の変化をガス濃度として検出するセラミック焼結体からなるガスセンサの製造方法であって、前記センサ素子の原料を混合して形成したスラリーからグリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシートを複数枚積層してなる積層体を形成する工程と、前記積層体の最上面上の一方端部と最下面上の他方端部とに電極を印刷する工程と、前記積層体を所定サイズに切断し焼成して、軸方向に前記電極が対となって配置された線状体からなるセンサ素子を作製する工程とを備え、前記電極の辺縁部と前記線状体の辺縁部との間に隙間が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガスセンサ素子のエッジ部での熱応力の集中を排除して熱応力を緩和し、ヒートサイクルに強いガスセンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)は本発明の実施の形態例に係る酸素センサの外観斜視図であり、
図1(b)はその平面図である。
【
図2】実施例1に係る酸素センサの外観斜視図である。
【
図3】実施例2に係る酸素センサの外観斜視図である。
【
図4】実施例3に係る酸素センサの外観斜視図であり、
図4(a)は電極ワイヤーがセンサ素子の軸方向に延びる例を、
図4(b)は電極ワイヤーが、センサ素子の軸方向と直交する方向に延びる例をそれぞれ示している。
【
図5】実施例4に係る酸素センサの外観斜視図であり、
図5(a)は電極ワイヤーがセンサ素子の軸方向に延びる例を、
図5(b)は電極ワイヤーが、センサ素子の軸方向と直交する方向に延びる例をそれぞれ示している。
【
図6】実施例5に係る酸素センサの外観斜視図である。
【
図7】実施例6に係る酸素センサの外観斜視図であり、
図7(a)は電極ワイヤーがセンサ素子の軸方向に延びる例を、
図7(b)は電極ワイヤーがセンサ素子の軸方向と直交する方向に延びる例をそれぞれ示している。
【
図8】実施例7に係る酸素センサの外観斜視図である。
【
図9】実施の形態例に係る酸素センサの第1の製造方法における製造工程を示すフローチャートである。
【
図10】両端部に電極部を印刷したグリーンシートを示す図である。
【
図11】電極が印刷されたグリーンシートを最上層とする複数のグリーンシートから積層体を作製する様子を示す図である。
【
図12】実施の形態例に係る酸素センサの第2の製造方法における製造工程を示すフローチャートである。
【
図13】複数枚のグリーンシートを積層して積層体を作製する様子を示す図である。
【
図14】最上面の一方端部と最下面の他方端部に電極部を形成した積層体を示す図である。
【
図15】端面電極を5面に設けた従来の酸素センサの外観であり、熱膨張による熱応力を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態例について添付図面を参照して詳細に説明する。ここでは、ガスセンサとして酸素センサを例に挙げて説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態例に係る酸素センサの外観斜視図であり、
図1(b)は、その平面図である。
図1(a)に示すように本実施の形態例に係る酸素センサ1は、角柱状のセラミック焼結体からなるセンサ本体部10と、そのセンサ本体部10の1つの側面(上面)の両端部に設けた電極12a,12bと、電極12a,12bそれぞれに接続された電極ワイヤー(リード線)13a,13bとを備える。
【0017】
センサ本体部10は、例えばLnBa2Cu3O7-δとLn2BaCuO5とを混合したセラミック焼結体からなり、所定寸法に加工された線状体の形状を有する。上記の組成式においてLnは希土類元素(例えば、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Nd(ネオジム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)等)である。また、δは酸素欠陥(0~1)を表している。
【0018】
本実施の形態例に係る酸素センサ1のセンサ本体部10は、
図1(a)に示すように4つの側面15a~15dと、2つの端面15e,15fを有する角柱状である。
図1(a)に示す状態では、側面15aが上面、側面15dが下面となる。隣り合う側面どうしは、互いに辺と辺とが接している。また、側面と端面も相互に辺と辺とが接している。
【0019】
ここでは、角柱状のセンサ本体部10の側面と側面とが接する(出会う)部分、すなわち、隣接する側面どうしが接する部位、および側面と端面とが接する部位を稜線、あるいは辺部分、あるいはエッジ部という。具体的には、側面15a,15bが互いに接する部位が稜線10aであり、同様に側面15a,15cが互いに接する部位が稜線10bである。さらに、側面15aと端面15eとの間に稜線10cが存在し、側面15aと端面15fとの間に稜線10dが存在している。
【0020】
電極12a,12bは、側面(上面)15aの軸方向両端部に配置された一対の電極であり、他の側面および端面との境界部(稜線、あるいはエッジ部)10a,10b,10c,10dにかからない(すなわち、接しない)位置に配置されている。
【0021】
上述した従来の電極構造におけるクラック発生の原因は、センサ本体部を構成する線状部材と電極材の熱膨張率の差によると考えられる。そこで、本実施の形態例に係る酸素センサ1において、電極12aの辺縁部S1および電極12bの辺縁部S4を稜線10aからそれぞれ距離D1,D4離して、電極12a,12bが稜線10aに接しない(かからない)ように位置決めする。
【0022】
同様に、電極12aの辺縁部S2および電極12bの辺縁部S5を稜線10bからそれぞれ距離D2,D5離し、電極12aの辺縁部S3を稜線10cから距離D3離し、電極12bの辺縁部S6を稜線10dから距離D6離して、それぞれが稜線にかからない位置としている。
【0023】
なお、センサ本体部10は角柱状の線状体であるが、セラミック焼結体からなることから、例えば、軸方向に直交する方向に切断したときの稜線部分(角部)の断面形状は、面どうしが真に直交して接する(互いの成す角部が90°)形状ではなく、角部が丸みを帯び、所定半径のアールが形成されている。
【0024】
そのため、上記の距離D1~D6として、電極のいずれの縁部も、少なくとも素子本体角部のアール部分に入り込まない距離とすることで、電極が稜線(エッジ部)にかからない(接しない)という条件は満たされる。
【0025】
本実施の形態例に係る酸素センサの外観形状、電極配置、電極ワイヤーの引出し等は、
図1に示す例に限定されず、様々な実施例を想定できる。以下、それらの実施例について説明する。
【0026】
<実施例1>
図2に示す実施例1に係る酸素センサ2は、
図1の酸素センサ1と同様、角柱状のセラミック焼結体からなり、センサ本体部20の側面(上面)25aの一方端に電極22bを設け、側面(上面)25aに対向する側面(下面)25dの一方端であって、電極22bと軸方向反対側に電極22aを設けた構成を有する。電極22a,22bには、それぞれ軸方向に延びる電極ワイヤー23a,23bが接続されている。
【0027】
図2に示す酸素センサ2においても、電極22a,22bを、センサ本体部20のエッジ部を避けて島状に形成することで、これらの電極とエッジ部間の隙間が、センサ本体の熱膨張・収縮にともなう電極材の膨張・収縮の逃げ部となる。これにより、エッジ部分での熱応力の集中を排除できる。
【0028】
なお、
図2に示す酸素センサ2では、側面25a,25d上の電極22a,22bがセンサ本体部20の軸方向において対角状に配置されているので、センサ素子内での電流が、対向面の端の電極に向けて素子の厚み方向に直線状に流れることになる。そのため、素子の端から端を結ぶ電流経路が、素子の厚さ方向においても電流が一様に通過する経路であることから、センサ素子内での電流集中を抑えることができ、負荷軽減によるガス濃度検出特性の安定化や局部的な温度上昇を防止でき、好適である。
【0029】
<実施例2>
図3に示す実施例2に係る酸素センサ3は、角柱状のセラミック焼結体からなるセンサ本体部30の側面35bの一方端に電極32aを設け、側面(上面)35aの一方端であって、軸方向において電極32aと反対側に電極32bを設けた構成を有する。電極32aには軸方向に延びる電極ワイヤー33aが接続され、電極32bには、同じく軸方向に延びる電極ワイヤー33bが接続されている。
【0030】
図3に示す酸素センサ3の電極32a,32bも、センサ本体部30のエッジ部を避けて島状に形成され、電極とエッジ部間の隙間がセンサ本体の熱膨張・収縮にともなう電極材膨張・収縮の逃げ部となって、エッジ部分における熱応力の集中を排除している。
【0031】
<実施例3>
図4は、実施例3に係る酸素センサの外観図である。
図4(a)と
図4(b)の酸素センサは、電極への電極ワイヤーの接続方向が異なるのみで、他の構成は同じである。
【0032】
図4(a)の酸素センサ4aと
図4(b)の酸素センサ4bは、いずれも角柱状のセラミック焼結体からなるセンサ本体部40の一方端面45eに電極42aを設け、その電極42aに電極ワイヤー43aが接続されている。また、センサ本体部40の他方端面45fに電極42bを設け、その電極42bに電極ワイヤー43bが接続された構成を有する。
【0033】
酸素センサ4aの電極ワイヤー43a,43bは軸方向に延びるように取り付けられ、酸素センサ4bでは、電極ワイヤー43c,43dが軸方向と直交する方向に延びるように取り付けられている。
【0034】
図4の酸素センサ4a,4bにおいても、電極42a,42bがセンサ本体部40のエッジ部(端面45e,45fの周縁部であり、これらの端面と側面とが接する部位)を避けて形成されている。その結果、電極とエッジ部間の隙間がセンサ本体の熱膨張・収縮にともなう電極材膨張・収縮の逃げ部となって、エッジ部分における熱応力の集中が排除される。
【0035】
図1~
図4では、酸素センサの本体部が角柱状のセラミック焼結体からなる例を示しているが、素子本体の外観形状は角柱状に限定されない。以下、素子本体の形状が円柱状の例を示す。
【0036】
<実施例4>
図5は、センサ本体部の形状が円柱状の実施例4に係る酸素センサの外観図である。
図5(a)と
図5(b)の酸素センサは、電極への電極ワイヤーの接続方向が異なるのみで、他の構成は同じである。
【0037】
具体的には、
図5(a)に示す酸素センサ5aと、
図5(b)に示す酸素センサ5bはともに、センサ本体部50の側面55の一方端側において、軸方向に一定の幅を有しながら円周方向に周回する電極52aと、側面55の他方端側において、軸方向に一定の幅を有しながら円周方向に周回する電極52bとを備えた構成を有する。
【0038】
ここでは、電極52aの周方向の一方縁部が、センサ本体部50のエッジ部50c(端面50aの周縁部であり、側面55と接する部位)から距離D10離れ、かつ、電極52aは、中断部57によって円周方向において途切れ、その端部どうしが距離D12離れて向き合うように形成されている。同様に、電極52bについても、周方向の一方縁部がセンサ本体部50のエッジ部50dから所定距離離れるとともに、中断部により円周方向に途切れた端部どうしが所定距離離れて向き合うように形成されている。
【0039】
酸素センサ5aの電極52a,52bそれぞれには、軸方向に延びる電極ワイヤー53a,53bが接続されている。また、酸素センサ5bは、電極52a,52bそれぞれに接続され、軸方向と直交する方向に延びる電極ワイヤー53c,53dを有する。
【0040】
<実施例5>
図6に示す実施例5に係る酸素センサ6は、
図5(a)に示す酸素センサ5aの変形例であり、センサ本体部60の側面の一方端と他方端それぞれの円周方向の全周に渡って、軸方向に一定幅の電極62a,62bが形成されている。すなわち、電極62a,62bには、円周方向において途切れる中断部は設けられていない。また、電極62a,62bそれぞれの周方向の一方縁部は、エッジ部から所定距離離れており、それにより電極とエッジ部間に隙間が形成されている。
【0041】
酸素センサ6には、
図5(a)の酸素センサ5aと同様、電極62a,62bそれぞれに、軸方向に延びる電極ワイヤー63a,63bが接続されている。
【0042】
<実施例6>
図7は、実施例6に係る酸素センサの外観を示している。
図7(a)と
図7(b)の酸素センサは、電極への電極ワイヤーの接続方向が異なるのみで、他の構成は同じである。
【0043】
図7(a)の酸素センサ7aと
図7(b)の酸素センサ7bはともに、円柱状のセラミック焼結体からなるセンサ本体部70の一方端面75aに電極72aが設けられ、センサ本体部70の他方端面75bに電極72bが設けられている。酸素センサ7aでは、電極72a,72bそれぞれに、軸方向に延びる電極ワイヤー73a,73bが接続され、酸素センサ7bは、軸方向と直交する方向に延びる電極ワイヤー73c,73dを有する。
【0044】
実施例6の酸素センサ7a,7bでは、センサ本体部70のエッジ部70a,70b(端面75a,75bの周縁部であって、側面75と接する部位)を避けて電極72a,72bを形成し、電極とエッジ部との間に隙間を設けている。そうすることで、センサ本体の熱膨張・収縮にともなう電極材膨張・収縮の逃げ部が形成され、エッジ部分における熱応力の集中が排除される。
【0045】
<実施例7>
図8の実施例7に係る酸素センサ8は、センサ本体部80が軸方向に短い円柱状のセラミック焼結体からなる。この酸素センサ8では、円柱状のセンサ本体部80の一方端面85aに電極82aが設けられ、他方端面85bに電極82bが設けられている。そして、電極82a,82bそれぞれには、軸方向と直交する方向に延びる電極ワイヤー83a,83bが接続されている。
【0046】
酸素センサ8においても、電極82a,82bがセンサ本体部80のエッジ部80a,80b(端面85a,85bの周縁部であって、側面85と接する部位)を避けて形成され、電極とエッジ部との間に隙間が設けられている。これにより、センサ本体の熱膨張・収縮にともなう電極材膨張・収縮の逃げ部が形成され、エッジ部分における熱応力の集中が排除される。
【0047】
次に、本実施の形態例に係る酸素センサと従来の酸素センサを比較検証した結果を説明する。ここでは、センサ本体部の端部の5面(
図15参照)に電極を形成して作製した従来の酸素センサ(従来例という)と、センサ本体部の端部の1面に電極を形成して作製した本実施の形態例に係る酸素センサ(実施例という)の2種類について比較検証した。
【0048】
また、上記いずれの酸素センサにおいても、電極ワイヤーの先端部に電極材を付着し、その先端部を、酸素センサの本体部に形成した電極に接触させながら焼成して接合した(電極ディップ)。
【0049】
ここでの試験は、それぞれの酸素センサを電源に接続して電流を流し、酸素センサの中央部において高温発熱と冷却とを連続して繰り返す(ホットスポットの点灯(ON)と消灯(OFF)を繰り返す)方法で実施した。
【0050】
表1は、従来例に係る酸素センサと、実施例に係る酸素センサそれぞれについてホットスポットのON/OFFサイクルを繰り返したときの試験結果を示している。
【0051】
【0052】
表1に示すように、センサ本体部の端部の5面に電極を形成した従来例に係る酸素センサは、ON-OFFサイクルの繰り返し数が約7万回で電極部の線材が割れた(電極部の劣化)。
【0053】
一方、センサ本体部の端部の1面に電極を形成した実施例に係る酸素センサは、ON-OFFサイクルの繰り返し数が5万回、7万回、7.5万回のいずれにおいても電極部に劣化は見られなかった。
【0054】
すなわち、センサ本体部の端部の5面に電極を形成した従来例では、電極部のエッジ部分(各面の電極どうしが互いに接する部分)での電極の割れ、電極の一部の剥離等の劣化が顕著に現れた。
【0055】
これに対して、センサ本体部の端部の1面に電極を形成した実施例では、ON-OFFサイクルの繰り返し数が7.5万回に至るまで、電極の割れ等の劣化が生じなかった。このことから、実施例のように電極を1面に形成して、電極とエッジ部間に隙間を形成することで、センサ素子にかかる熱応力負荷が軽減され、電極部のクラックの発生等を防止できるという効果が確認された。
【0056】
次に、本実施の形態例に係る酸素センサの製造方法について説明する。
<第1の製造方法>
本実施の形態例に係る酸素センサの第1の製造方法として、グリーンシートに電極を印刷してなる電極シート等を積層して酸素センサを製造する方法を説明する。
図9は、センサ本体部の同一側面上の両端部に一対の電極を設けた、
図1に示す酸素センサの製造工程を示すフローチャートである。
【0057】
図9のステップS1において、酸素センサ素子の原材料の混合・粉砕を行う。具体的には、酸素センサ素子の材料としてLnBa
2Cu
3O
7-δとLn
2BaCuO
5と(Lnは希土類元素)を混合し、その混合原料をボールミル等で粉砕して粒を揃える。
【0058】
ステップS2において、上記の工程で得られた材料に対して、例えば900~1000℃による熱処理(仮焼き)を行う。ステップS3では、仮焼きした原料をボールミル等により粉砕して粒を揃えた後、スラリーを作製する。ここでは、仮焼した材料にバインダ樹脂(例えば、ブチラール樹脂(PVB樹脂)、分散剤(例えば、トリオレイン酸ソルビタン)、可塑剤(例えば、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、DOP)、希釈溶剤(例えば、2-エチルヘキサノール等)を混合する。
【0059】
ステップS4では、ドクターブレードにより成膜して、例えば10~100μm程度のグリーンシートを作製する。続くステップS5において、
図10に示すように、後述する積層体の最上層に位置するグリーンシートであって、センサ本体の両端部に位置する電極部とするための電極材(例えば銀(Ag)ペースト)を印刷して電極部92a,92bを形成した電極シート90を作製する。
【0060】
ステップS6の積層工程では、
図11に示すように複数枚のグリーンシート93と、グリーンシート93の最上部に載置した電極シート90とを積層してなる積層物を、例えば一軸プレス機で加圧して、所定厚の積層体を作製する。
【0061】
ステップS7において、製品のサイズに合わせて積層体を切断して(ダイシング)、同一面上の両端部に一対の電極が形成されたセンサ素子(線状体)を作製する。ステップS8では、ダイシング後の積層体を大気中で、例えば、920℃で10時間、焼成する。なお、焼成前の積層体に対して脱バインダーを行い、焼成後の積層体にアニール処理をしてもよい。
【0062】
ステップS9では、センサ素子(線状体)の電極部に電極ワイヤーを接続する。ここでは、例えば、電極ワイヤーの先端部に電極部の電極材と同一の材料を付着して、その先端部を電極部に接触させながら焼成して接合する電極ディップ法、パルスヒート電源を用いて接合部を瞬時加熱してはんだ付け、あるいは溶接するパルスヒート法、超音波振動あるいは熱圧着によるワイヤーボンディング、接合部に接合剤を塗布するディスペンサー等を使用する。
【0063】
上記の電極部の形成工程において印刷法を採用したことで、従来のディップ方式による電極よりも、電極部を軸方向に延ばすことができる。具体的には、電極部の軸方向の長さである、
図1のL1,L2と
図15のl1,l2とにおいて、(L1,L2)>(l1,l2)となり、電極ワイヤーを電極に接続する面積を従来よりも広くすることができる。
【0064】
<第2の製造方法>
本実施の形態例に係る酸素センサの第2の製造方法として、グリーンシートの積層体に電極を形成して酸素センサを製造する方法を説明する。
図12は、センサ本体部の側面(上面)の一方端と、その側面に対向する側面(下面)の他方端に電極を設けた、
図2に示す酸素センサの製造工程を示すフローチャートである。
【0065】
なお、
図12において、下記の積層工程および電極印刷工程以外は、
図9に示す第1の製造方法に係る工程と同一であるため、ここではそれらの説明を省略する。
【0066】
図12のステップS5では、
図13に示すように複数枚のグリーンシート93を積層した積層物を、例えば一軸プレス機で加圧して、所定厚の積層体95を作製する。そして、ステップS6において、
図14に示すように、上記の積層体95の最上面の一方端部に電極材(例えば銀ペースト)を印刷して電極部102aを形成し、同様に積層体95の最下面の他方端部に電極部102bを形成した積層体100を作製する。
【0067】
ステップS7のダイシング工程では、積層体100を製品のサイズに合わせて切断して、上面の一方端部と下面の他方端部に一対の電極が設けられたセンサ素子(線状体)を作製する。
【0068】
なお、第1の製造方法としてセンサ本体部の同一側面上の両端部に一対の電極を設ける例として電極部92a,92bを同一シートに形成し、最上部に電極シート90を戴置する方法を説明したが、電極部92a,92bを別々のシートに形成し、各々のシートを最上部と最下部に戴置することで、
図14の電極配置の積層体を製造することができる。
【0069】
また、第2の製造方法としてセンサ本体部の側面(上面)の一方端と、その側面に対向する側面(下面)の他方端に電極を設けた例を取り上げたが、
図1のように同一面に電極を形成した酸素センサを製造する場合にも、第2の製造方法(積層体に電極を形成する方法)を採用することが可能である。
【0070】
本実施の形態例に係る酸素センサはヒーターを必要としない自己発熱型のセンサであり、電源に接続して電流が流れることで、酸素センサ素子の中央部が約900℃の高温で発熱し、その発熱箇所(ホットスポット)を酸素濃度の検出部としている。そのため、例えば、両端に銅(Cu)等からなる金属製の導電キャップ(口金)が嵌着された、耐熱ガラスからなる円筒形のガラス管の内部に酸素センサを収容した構造を有している。
【0071】
導電キャップの端面には通気孔が設けられており、ガラス管内の酸素センサが、通気孔から流入した、酸素濃度の測定対象とする気体に晒される構造になっている。
【0072】
酸素センサの外形寸法(サイズ)は、例えばガラス管の直径が5mm、長さが20mm、通気孔の径が2.5mmである。また、酸素センサは、例えば長さが5mmである。このような寸法とすることで、例えばガラス管の通気孔を介して酸素センサの交換が可能となる。
【0073】
一方、上述した酸素センサを面実装可能な面実装タイプにする場合には、
図1等に示す酸素センサにおいて電極ワイヤーを設けず、センサ本体部の面上に形成した一対の電極をはんだ付け部位とする。その場合、酸素センサに発熱箇所(ホットスポット)があるため、上述したガラス管等のケース内へ封入後、電極ワイヤーではなく、センサ本体部に形成された電極をガラス管の導電キャップ等に直接、はんだ付けできる。よって、酸素センサの製造効率が良くなり、酸素センサの構造そのものを簡素化できる。
【0074】
上記のように本実施の形態例に係る酸素センサは、セラミック焼結体からなり、電圧を印加したときの電流値をもとに酸素濃度を検出する酸素センサであり、センサ本体部に形成した電極の辺縁部と、センサ本体部の面どうしが接する稜線との間に隙間を形成した。その結果、この隙間が、センサ本体の熱膨張・収縮にともなう電極材の膨張・収縮の逃げ部となるので、エッジ部分での熱応力の集中を排除して、酸素センサにおける熱応力を緩和することができる。
【0075】
換言すれば、酸素センサの本体部のエッジ部を避けて、本体部の端部の1面に電極を形成し、その電極と隣り合わせで接する他の電極を設けずに島状に電極を形成する構成としたことで、電極の四方が開放されて、電極の周囲に向けての膨張・収縮が妨げられることがない。これにより、熱応力を緩和してヒートサイクルに強く、かつ、長期間安定して使用できる酸素センサを提供できる。
【0076】
また、従来は、電極ワイヤーの先端とセンサ本体とが小さい面積で接地され、電極ワイヤーの先端でセンサ本体を支えていたため、接地部への負担が大きかった。そこで、本実施の形態例に係る酸素センサでは、印刷法で電極を形成することで、従来のディップ方式と比べて電極の生産性と品質の向上のみならず、電極の軸方向の長さを延ばして広い電極面積を確保できる。
【0077】
よって、センサ本体部に対して電極ワイヤーの接地面積を広く取れ、接地部のストレスによる負担を軽減して、電極のクラック発生を防止できる。その結果、安定した動作の下で酸素濃度を測定可能な酸素センサを提供できる。
【0078】
さらに、ディップ方式で素子端部の5面に電極を形成する構成とした場合、素子角部での電極の膜厚が薄くなり、特に3つの面が交わる稜線部分の熱負荷が大きくなることから、上記実施の形態例の酸素センサのように印刷法によって1面に電極を形成することによって、均一かつ安定した電極膜厚が得られる。
【符号の説明】
【0079】
1,2~4,5a,5b,6~8 酸素センサ
10,20,30,40,50,60,70,80,90 センサ本体部
10a~10d,50c,50d,70a,70b,80a,80b 稜線(エッジ部)
12a,12b,22a,22b,32a,32b,42a,42b,52a,52b,62a,62b,72a,72b,82a,82b 電極
13a,13b,23a,23b,33a,33b,43a,43b,53a~53d,73a,73b,83a,83b 電極ワイヤー(リード線)
15a~15d,55,65,75,85 側面
15e,15f,45e,45f,75a,75b,85a,85b 端面
57 中断部
90 電極シート
93 グリーンシート
95,100 積層体