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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】ホイールアライメント調整システム
(51)【国際特許分類】
   B62D 17/00 20060101AFI20220112BHJP
   B23P 21/00 20060101ALI20220112BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20220112BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
B62D17/00 Z
B23P21/00 303B
G01B11/00 H
G01M17/007 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018105973
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2019209774
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000191353
【氏名又は名称】新明工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 幸治
(72)【発明者】
【氏名】田中 鷹平
(72)【発明者】
【氏名】吉原 千秋
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-197030(JP,A)
【文献】特開2017-196713(JP,A)
【文献】特開2016-031284(JP,A)
【文献】特開平11-211625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0048649(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00
B23P 21/00
G01B 11/00
G01M 17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブラケットに挿通されたカムボルトの頭部に嵌合される調整ソケットを有しかつ当該調整ソケットで前記カムボルトを回動させることによりホイールアライメントを調整する調整機と、
前記カムボルトに螺合されたロックナットに嵌合される締付ソケットを有しかつ当該締付ソケットで前記ロックナットを締め付けることにより前記ブラケットに前記カムボルトを固定する締付機と、
前記調整ソケットおよび前記締付ソケットを同軸上に離隔して対向するように支持する支持台と、
前記支持台の姿勢および位置を変更するためのアクチュエータと、
前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を第1の方向から撮影する第1カメラと、
前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を前記第1の方向と異なる第2の方向から撮影する第2カメラと、
前記第1、第2カメラならびに前記アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記第1カメラの撮影画像に基づいて前記第1の方向からの前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方の二次元位置を取得し、当該取得結果に応じて前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合可能な位置に移動させてから、
前記第2カメラの撮影画像に基づいて前記第2の方向からの前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方の二次元位置を取得し、当該取得結果に応じて前記カムボルトの頭部に対する前記調整ソケットの位置ならびに前記ロックナットに対する前記締付ソケットの位置をそれぞれ補正することを特徴とするホイールアライメント調整システム。
【請求項2】
請求項1に記載のホイールアライメント調整システムにおいて、
前記カムボルトは、水平方向に沿う横向き姿勢とされ、
前記第1カメラは、前記カムボルトの放射方向の一方位から撮影するように前記支持台に搭載され、
前記第2カメラは、前記カムボルトの軸方向一端側から撮影するように前記支持台上の前記調整ソケットの近傍に付設される、ことを特徴とするホイールアライメント調整システム。
【請求項3】
請求項2に記載のホイールアライメント調整システムにおいて、
前記制御装置は、
ホイールアライメントを適正に調整した基準となる車両の前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を、前記第1、第2カメラでそれぞれ撮影するとともに、当該各撮影画像を第1基準画像および第2基準画像として取得する学習処理と、
ホイールアライメント調整の対象となる車両の前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を前記第1カメラで撮影した画像を第1実画像として取得する第1撮影処理と、
前記第1基準画像に対する前記第1実画像の位置ずれを計測するとともに、当該計測結果に応じて前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合可能な位置に移動させるための第1目標位置を設定する第1目標設定処理と、
前記第1目標位置に前記調整ソケットおよび前記締付ソケットを移動させるように前記アクチュエータを制御する第1移動処理と、
ホイールアライメント調整の対象となる車両の前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を前記第2カメラで撮影した画像を第2実画像として取得する第2撮影処理と、
前記第2基準画像に対する前記第2実画像の位置ずれを計測するとともに、当該計測結果に応じて前記カムボルトの頭部に対する前記調整ソケットの位置ならびに前記ロックナットに対する前記締付ソケットの位置をそれぞれ補正するための第2目標位置を設定する第2目標設定処理と、
前記第2目標位置に前記調整ソケットおよび前記締付ソケットを移動させるように前記アクチュエータを制御する第2移動処理と、
前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合させる装着処理と、を行うことを特徴とするホイールアライメント調整システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールアライメント調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1,2には、ホイールアライメント調整装置が記載されている。
【0003】
特許文献1のホイールアライメント調整装置は、同軸をなすように互いに対向するように離隔して回動可能に配置された第1ソケットおよび第2ソケットと、車体に設けられているブラケットに挿通されるホイールアライメント調整用のカムボルトを前記第1ソケットで回動させることによりホイールアライメントを調整するとともに、前記ロックナットを前記第2ソケットで締め付けることにより前記カムボルトを前記ブラケットに固定する駆動部と、を備えている。
【0004】
特許文献2のホイールアライメント調整装置は、同軸をなすように互いに対向するように離隔して回動可能に配置された調整ソケットおよび締付ソケットと、車体に設けられているブラケットに挿通されるホイールアライメント調整用のカムボルトを前記調整ソケットで回動させることによりホイールアライメントを調整するとともに、前記ロックナットを前記締付ソケットで締め付けることにより前記カムボルトを前記ブラケットに固定する動作部および制御手段と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実公平7-14127号(実開平01-104867号)公報
【文献】特開2017-197030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、さらに、ロボットにより前記第1ソケットおよび前記第2ソケットを前記カムボルトおよび前記ロックナットの両側に移動させてから、駆動部、シリンダならびにスプリングにより前記第1ソケットを前記カムボルトに、また前記第2ソケットを前記ロックナットに嵌合させるということが記載されている。
【0007】
しかしながら、前記ロボットに関する詳細な説明が全く無いので、前記カムボルトおよび前記ロックナットの存在位置や姿勢を認識するための具体的な手法や、当該カムボルトおよびロックナットの両側に前記第1ソケットおよび前記第2ソケットを正確に配置させるための具体的な手法が不明である。
【0008】
そのため、上記特許文献1では、特に前記カムボルトおよび前記ロックナットが狭小場所に配置されている場合において、前記第1ソケットおよび第2ソケットを前記カムボルトおよび前記ロックナットに確実に嵌合させることが可能か否かを類推できない。
【0009】
上記特許文献2には、前記調整ソケットおよび前記締付ソケットを前記カムボルトおよび前記ロックナットの両側に移動させてから、前記調整ソケットを前記カムボルトに、また前記締付ソケットを前記ロックナットに嵌合させるということについての具体的な記載ならびに示唆は無い。
【0010】
ところで、特許第6080407号(特開2014-13147号)公報には、視点の異なる2つのカメラの各撮影画像に基づいてワークの三次元位置を計測する三次元計測装置ならびに当該三次元計測装置で計測された三次元位置に基づいてワークを把持するロボットアームを備えたロボット装置が記載されている。
【0011】
この三次元計測装置ならびにロボット装置では、前記2つのカメラでワークの同じ面を同時に撮影する必要があるために、比較的広い計測エリアが必要になるとともに、2つのカメラの各撮影画像に基づいて三次元位置を取得するにあたって多大な演算処理が必要になる等の不具合が懸念される。
【0012】
ここで、仮に、前記三次元計測装置ならびにロボット装置でもって、前記しているように前記第1ソケット(調整ソケット)を前記カムボルトに、また前記第2ソケット(締付ソケット)を前記ロックナットに嵌合させることを想定した場合には、特に前記カムボルトおよび前記ロックナットが狭小場所に配置されている状況だと、前記三次元計測装置で当該カムボルトおよびロックナットを撮影することが困難になることが予想されるため、前記ロボット装置で前記第1ソケット(調整ソケット)を前記カムボルトに、また前記第2ソケット(締付ソケット)を前記ロックナットに確実に嵌合させることは不可能であると言える。
【0013】
このような事情に鑑み、本発明は、ホイールアライメント調整の対象となる車両のカムボルトおよびロックナットが比較的狭小場所に配置されているような状況であっても、比較的簡易な構成でありながら、調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合させる作業を行うことが可能なホイールアライメント調整システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るホイールアライメント調整システムは、車両のブラケットに挿通されたカムボルトの頭部に嵌合される調整ソケットを有しかつ当該調整ソケットで前記カムボルトを回動させることによりホイールアライメントを調整する調整機と、前記カムボルトに螺合されたロックナットに嵌合される締付ソケットを有しかつ当該締付ソケットで前記ロックナットを締め付けることにより前記ブラケットに前記カムボルトを固定する締付機と、前記調整ソケットおよび前記締付ソケットを同軸上に離隔して対向するように支持する支持台と、この支持台の姿勢および位置を変更するためのアクチュエータと、前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を第1の方向から撮影する第1カメラと、前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を前記第1の方向と異なる第2の方向から撮影する第2カメラと、前記第1、第2カメラならびに前記アクチュエータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記第1カメラの撮影画像に基づいて前記第1の方向からの前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方の二次元位置を取得し、当該取得結果に応じて前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合可能な位置に移動させてから、前記第2カメラの撮影画像に基づいて前記第2の方向からの前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方の二次元位置を取得し、当該取得結果に応じて前記カムボルトの頭部に対する前記調整ソケットの位置ならびに前記ロックナットに対する前記締付ソケットの位置をそれぞれ補正することを特徴としている。
【0015】
この構成では、前記第1カメラで空間における第1の方向からの前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方の二次元位置を把握することにより、前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合可能な位置に移動させる作業(ホイールアライメント調整の前準備作業の第1段階と言う)を行うようにしているから、ホイールアライメント調整の対象となる車両の前記カムボルトおよび前記ロックナットが比較的狭小場所に配置されているような状況であっても、「発明が解決しようとする課題」に記載した三次元計測装置およびロボット装置に比べて簡易な構成でありながら、前記前準備作業の第1段階を行うことが可能になる。
【0016】
しかも、上記構成では、前記第1段階の後で、前記第2カメラで空間における第2の方向からの前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方の二次元位置を把握し、必要に応じて前記カムボルトの頭部に対する前記調整ソケットの位置ならびに前記ロックナットに対する前記締付ソケットの位置をそれぞれ補正する作業(前記前準備作業の第2段階と言う)を行うようにしているから、前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ確実に嵌合させることが可能になる。
【0017】
これにより、本発明に係るホイールアライメント調整システムによれば、ホイールアライメント調整の前準備作業を行ってから、ホイールアライメント調整の作業へと短時間で移行できるようになる等、一連の作業効率の向上に貢献できる。
【0018】
ところで、上記ホイールアライメント調整システムにおいて、前記カムボルトは、水平方向に沿う横向き姿勢とされ、前記第1カメラは、前記カムボルトの放射方向の一方位から撮影するように前記支持台に搭載され、前記第2カメラは、前記カムボルトの軸方向一端側から撮影するように前記支持台上の前記調整ソケットの近傍に付設される、構成とすることができる。
【0019】
この構成では、前記第1カメラを前記支持台に搭載するとともに前記第2カメラを前記支持台上の前記締付ソケットの背後に付設しているから、第1、第2カメラを前記支持台とは別体に装備する場合に比べて、ホイールアライメント調整システムの構成を簡素化するうえで有利になる。
【0020】
また、前記制御装置は、ホイールアライメントを適正に調整した基準となる車両の前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を、前記第1、第2カメラでそれぞれ撮影するとともに、当該各撮影画像を第1基準画像および第2基準画像として取得する学習処理と、ホイールアライメント調整の対象となる車両の前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を前記第1カメラで撮影した画像を第1実画像として取得する第1撮影処理と、前記第1基準画像に対する前記第1実画像の位置ずれを計測するとともに、当該計測結果に応じて前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合可能な位置に移動させるための第1目標位置を設定する第1目標設定処理と、前記第1目標位置に前記調整ソケットおよび前記締付ソケットを移動させるように前記アクチュエータを制御する第1移動処理と、ホイールアライメント調整の対象となる車両の前記カムボルトおよび前記ロックナットの少なくとも一方を前記第2カメラで撮影した画像を第2実画像として取得する第2撮影処理と、前記第2基準画像に対する前記第2実画像の位置ずれを計測するとともに、当該計測結果に応じて前記カムボルトの頭部に対する前記調整ソケットの位置ならびに前記ロックナットに対する前記締付ソケットの位置をそれぞれ補正するための第2目標位置を設定する第2目標設定処理と、前記第2目標位置に前記調整ソケットおよび前記締付ソケットを移動させるように前記アクチュエータを制御する第2移動処理と、前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合させる装着処理と、を行う構成とすることができる。
【0021】
ここでは、ホイールアライメント調整の前準備作業として、前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また前記締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合可能な位置に移動させるための各処理の内容を特定するとともに、前記調整ソケットを前記カムボルトの頭部に嵌合させるとともに前記締付ソケットを前記ロックナットに嵌合させる装着処理を加えている。
【0022】
この特定により、ホイールアライメント調整の前準備作業を比較的簡易な構成で行えることがより明らかになる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るホイールアライメント調整システムは、ホイールアライメント調整の対象となる車両のカムボルトおよびロックナットが比較的狭小場所に配置されているような状況であっても、比較的簡易な構成でありながら、調整ソケットを前記カムボルトの頭部に、また締付ソケットを前記ロックナットにそれぞれ嵌合させる作業を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るホイールアライメント調整システムの一実施形態を示す概略構成図である。
図2】サスペンションメンバ側のブラケットとアームとの連結部におけるカムボルトの頭部側を示す側面図である。
図3】サスペンションメンバ側のブラケットとアームとの連結部におけるロックナット側を示す側面図である。
図4】ホイールアライメント調整の前準備作業を説明するための図である。
図5】ホイールアライメント調整の前準備作業の第1段階に相当するステップ2~4を示す図である。
図6】ホイールアライメント調整の前準備作業の第2段階の前半に相当するステップ5,6を示す図である。
図7】ホイールアライメント調整の前準備作業の第2段階の後半に相当するステップ7,8を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1から図7に本発明の一実施形態を示している。従来から車両10の走行性能を高めるために、車両10に取り付けられている車輪のホイールのアライメント(トー角、キャンバー角、キャスター角等)を調整することが行われる。
【0027】
このホイールアライメントの調整は、図2および図3に示すように、サスペンションメンバ側のブラケット11と、車輪に端部が連結されているアーム12とを連結するためのカムボルト13およびロックナット14を回動操作することにより行われる。
【0028】
カムボルト13は、外周面が六角形状の頭部13aと、ねじ軸部13bとを有し、ブラケット11のボルト挿通孔11aに突き抜けるようにブッシュ15(図1のみ記載)を介して挿通される。
【0029】
なお、カムボルト13は、水平方向に沿う横向き姿勢とされている。この横向き姿勢とは、完全な水平方向に沿う姿勢だけでなく、水平方向に対して適宜傾いた姿勢も含まれる。また、ボルト挿通孔11aは、図2および図3に示すように、円形ではなく小判形状のような長孔とされている。
【0030】
ロックナット14は、外周面が六角形状に形成されており、カムボルト13においてブラケット11のボルト挿通孔11aから突き出た部分に螺合される。
【0031】
カムボルト13の頭部13aには、調整カムプレート16が回転一体となるように取り付けられている。ロックナット14とブラケット11との間には、締付カムプレート17が挟まれるように配置されている。締付カムプレート17は、カムボルト13のねじ軸部13bに回転一体となるように嵌合されている。調整カムプレート16および締付カムプレート17は、ブラケット11の一対のカム受け部11bの間に配置されている。
【0032】
なお、公知のように、カムボルト13により調整カムプレート16を左回転または右回転させることによりカムボルト13が長孔からなるボルト挿通孔11a内の左側および右側にスライドされることになり、ブラケット11に対するアーム12の位置が変化されることになって、ホイールアライメントが調整されることになる。
【0033】
この実施形態のホイールアライメント調整システムは、図1に示すように、ホイールアライメント計測器1、調整装置2、アクチュエータ3、第1カメラ4、第2カメラ5、制御装置6等を備えている。
【0034】
ホイールアライメント計測器1は、車両10に取り付けられている車輪のホイールアライメントを計測するもので、公知の構成とされる。
【0035】
調整装置2は、制御装置6の動作指令に基づいてホイールアライメントの調整を行うもので、調整機21、締付機22、支持台23等を有している。
【0036】
調整機21は、カムボルト13を回動(左回転または右回転)させることによりホイールアライメントを調整するものであって、カムボルト13の頭部13aに嵌合される調整ソケット21aと、当該調整ソケット21aを回動させるための駆動手段(図示省略)とを有している。
【0037】
締付機22は、カムボルト13に螺合されたロックナット14を締め付けたり緩めたりするものであって、ロックナット14に嵌合される締付ソケット22aと、当該締付ソケット22aを回動させるための駆動手段(図示省略)とを有している。
【0038】
なお、前記調整機21の駆動手段および締付機22の駆動手段は、例えばモータならびに歯車機構等を備える公知の構成(例えば上記特許文献1,2等)と同様とすることができるので、ここでの詳細な図示や説明を割愛している。
【0039】
支持台23は、調整ソケット21aと締付ソケット22aとを同軸上に離隔して対向するように調整機21および締付機22を支持するものである。
【0040】
なお、支持台23には、調整機21に対して締付機22を直線的に遠近変位可能とするための変位手段(図示省略)が設けられているとともに、調整ソケット21aおよび締付ソケット22aをカムボルト13の頭部13aおよびロックナット14に嵌合する際の微小ズレを吸収するためのフローティング部24が設けられている。なお、前記変位手段は、公知の構成(例えば上記特許文献1,2に記載の直動シリンダ等)と同様とすることができるので、ここでの詳細な図示や説明を割愛している。
【0041】
アクチュエータ3は、制御装置6の動作指令に基づいて調整装置2の姿勢および位置を変更するものであって、例えばロボットアームとされている。
【0042】
このロボットアームからなるアクチュエータ3は、例えば支持台23を水平2軸方向(X軸方向およびY軸方向)に移動させる動作と、支持台23を鉛直方向(Z軸方向)に移動させる動作と、支持台23を鉛直線(Z軸)周りに旋回させる動作(横首振り動作ともいう)と、支持台23を鉛直方向に傾かせる動作(縦首振り動作ともいう)と、を行うものであって、例えば多関節機構、モータならびに動力伝達機構等を備える公知の構成とすることができるので、ここでの詳細な図示や説明を割愛している。
【0043】
第1カメラ4は、カムボルト13およびロックナット14の少なくとも一方を第1の方向つまりカムボルト13の放射方向の一方位から撮影することが可能となるように支持台23に搭載されている。この実施形態では、第1カメラ4でカムボルト13およびロックナット14の下面を撮影する形態にしている。
【0044】
第2カメラ5は、カムボルト13およびロックナット14の少なくとも一方を前記第1の方向と異なる第2の方向(例えばカムボルト13の軸方向一端側)から撮影することが可能となるように支持台23上の調整ソケット21aの背後に付設されている。この実施形態では、第2カメラ5でカムボルト13の頭部13aの端面を撮影する形態にしている。また、第2カメラ5は、その視点中心が調整ソケット21Aの内孔中心と一致するように配置されている。
【0045】
制御装置6は、ホイールアライメント計測器1の計測結果に応じて調整装置2の動作を制御することによりホイールアライメントを調整するためのプログラムを有している他、調整装置2の姿勢および位置を変更することによりホイールアライメント調整の前準備作業を行うためのプログラム等を有している。
【0046】
前記ホイールアライメント調整のプログラムは、一般的な手法と同様に、ホイールアライメントの目標値に対するホイールアライメント計測器1の計測値のずれを補正するように調整機21でカムボルト13を適宜左回転または右回転させることによりホイールアライメントを調整し、この後、締付機22でロックナット14を締め付けることによりブラケット11にカムボルト13を固定する。
【0047】
前記前準備作業のプログラムは、以下で詳細に説明するが、要するに、ホイールアライメントを適正に調整した車両10のカムボルト13およびロックナット14を第1、第2カメラ5で撮影した二次元の画像を第1、第2基準画像として取得し、ホイールアライメント調整の対象となる車両10のカムボルト13およびロックナット14を第1、第2カメラ5で撮影した二次元の画像を第1、第2実画像として取得し、前記第1、第2基準画像に対する前記第1、第2実画像の位置ずれをパターンマッチング技術等により計測することにより、当該計測結果に応じて調整装置2でもって調整ソケット21aをカムボルト13の頭部13aに、また締付ソケット22aをロックナット14にそれぞれ嵌合させる。
【0048】
次に、図4から図7を参照して、ホイールアライメント調整の前準備作業について詳細に説明する。
【0049】
図4のステップS1において学習処理を実行する。この学習処理は、ホイールアライメントを適正に調整した車両10のカムボルト13およびロックナット14を第1カメラ4で撮影して当該撮影画像を第1基準画像として取得するとともに、ホイールアライメントを適正に調整した車両10のカムボルト13の頭部13aの端面を第2カメラ5で撮影して当該撮影画像を第2基準画像として取得する。
【0050】
なお、前記第1基準画像を撮影するときの第1カメラ4の視点中心は、カムボルト13の軸方向中央位置に配置することが好ましい。この視点の位置調整は、例えば第1カメラ4の撮影画像を監視しながら支持台23を動かすことにより行える。
【0051】
この学習処理を実行する理由を説明する。
【0052】
そもそも、調整装置2の支持台23は、調整ソケット21aおよび締付ソケット22aを前記したホイールアライメントを適正に調整した車両のカムボルト13の頭部13aおよびロックナット14に嵌合可能な位置(基準目標位置と言う)に移動させるように制御されるようになっている。 そのため、ホイールアライメント調整の対象となる車両10のカムボルト13およびロックナット14が、前記ホイールアライメントを適正に調整した車両10のカムボルト13およびロックナット14と同一姿勢でかつ同一位置に配置されている場合には、支持台23の実際の移動目標位置を前記基準目標位置のまま変更する必要は無い。
【0053】
しかしながら、ホイールアライメント調整の対象となる車両10のカムボルト13およびロックナット14が、前記ホイールアライメントを適正に調整した車両10のカムボルト13およびロックナット14と同一姿勢でかつ同一位置に配置されていない場合には、以下のような前準備作業(図4のステップS2~S8参照)が必要になる。
【0054】
参考までに、前記基準となる車両のカムボルト13およびロックナット14に対するホイールアライメント調整の対象となる車両のカムボルト13およびロックナット14の位置ずれの発生原因としては、下記四つの位置ずれが考えられる。
【0055】
(1)前記ホイールアライメントの調整後と調整前とにおけるカムボルト13の頭部13aの水平方向での位置ずれ(W)。
【0056】
(2)車両毎に使用する部品の精度ずれによる前記位置ずれ(W)。
【0057】
(3)車両毎の車高ずれによるカムボルト13の頭部13aの鉛直方向での位置ずれ(H)。
【0058】
(4)ホイールアライメント計測器1に対する車両の停止位置ずれ。
【0059】
なお、前記前準備作業は、図4のステップS2~S4に示す第1段階と、図4のステップS5~S8に示す第2段階とを含んでいる。
【0060】
図4のステップS2(第1撮影処理)は、図5(a)に示すように、ホイールアライメント調整の対象となる車両10のカムボルト13およびロックナット14の下面を第1カメラ4で撮影し、当該撮影画像を第1実画像として取得する。なお、この第1実画像を撮影するときの第1カメラ4の視点中心は、上記第1基準画像を撮影するときと同じ配置とすることが好ましい。
【0061】
図4のステップS3(第1目標設定処理)は、前記第1基準画像に対する前記第1実画像の位置ずれをパターンマッチング技術等により計測し、この計測結果に基づいて調整ソケット21aをカムボルト13の頭部13aに、また締付ソケット22aをロックナット14にそれぞれ嵌合可能な位置に移動させるための第1目標位置を設定する。
【0062】
なお、この実施形態では第1カメラ4でカムボルト13およびロックナット14の下面を撮影する形態にしているから、前記位置ずれとしては、図5(b)に示すようにカムボルト13の頭部13aの軸方向での位置ずれ(実際の位置ずれLに標準隙間Aを加算した値)と、図示していないがカムボルト13の頭部13aの水平方向での位置ずれ(W)と、図示していないがカムボルト13の中心軸線の水平方向での傾き角(横首振り角θ)と、を計測することができる。
【0063】
このことから判るように第1カメラ4の撮影画像により、空間におけるカムボルト13およびロックナット14の二次元位置(水平方向で交差する2軸方向の位置)を計測することができるものの、空間におけるカムボルト13およびロックナット14の鉛直方向に沿う位置を計測することができないので、当該鉛直方向の位置を以下の第2カメラ5の撮影画像により計測するようにしているのである。
【0064】
図4のステップS4(第1移動処理)は、図5(c)に示すように、アクチュエータ3でもって支持台23の姿勢および位置を適宜変更することにより調整ソケット21aおよび締付ソケット22aを前記第1目標位置に移動させる。
【0065】
図4のステップS5(第2撮影処理)は、図6(a)に示すように、ホイールアライメント調整の対象となる車両10のカムボルト13の頭部13aの端面を第2カメラ5で撮影し、当該撮影画像を第2実画像として取得する。
【0066】
図4のステップS6(第2目標設定処理)は、前記第2基準画像に対する前記第2実画像の位置ずれをパターンマッチング技術等により計測し、この計測結果に応じてカムボルト13の頭部13aに対する調整ソケット21aの位置ならびにロックナット14に対する締付ソケット22aの位置をそれぞれ補正するための第2目標位置を設定する。
【0067】
なお、この実施形態では第2カメラ5でカムボルト13の頭部13aの端面を撮影する形態にしているから、前記位置ずれとしては、図6(b)に示すようにカムボルト13の頭部13aの鉛直方向での位置ずれ(H)と、図示していないがカムボルト13の頭部13aの水平方向での位置ずれ(W)と、を計測することができる。つまり、第2カメラ5の視点中心は調整ソケット21Aの内孔中心と一致しているので、前記第2基準画像に対する前記第2実画像の位置ずれはカムボルト13の頭部13aに対する調整ソケット21aの位置ずれと同等であると言える。
【0068】
図4のステップS7(第2移動処理)は、図7(a)に示すように、アクチュエータ3でもって支持台23の姿勢および位置を適宜変更することにより調整ソケット21aおよび締付ソケット22aを前記第2目標位置に移動させる。
【0069】
図4のステップS8(装着処理)は、図7(b)に示すように、不図示の前記変位手段により調整ソケット21aをカムボルト13の頭部13aに嵌合させるとともに締付ソケット22aをロックナット14に嵌合させる。
【0070】
以上説明したようなホイールアライメント調整の前準備作業を行ってから、実際のホイールアライメント調整の作業に移行する。
【0071】
このホイールアライメント調整は、上述しているが、ホイールアライメントの目標値に対するホイールアライメント計測器1の計測値のずれに基づいて、調整装置2を動作させる。
【0072】
以上説明したように、本発明を適用した実施形態では、第1カメラ4で空間における第1の方向からのカムボルト13およびロックナット14の二次元位置を把握することにより、調整ソケット21aをカムボルト13の頭部13aに、また締付ソケット22aをロックナット14にそれぞれ嵌合可能な位置に移動させる作業(ホイールアライメント調整の前準備作業の第1段階)を行うようにしているから、ホイールアライメント調整の対象となる車両10のカムボルト13およびロックナット14が比較的狭小場所に配置されているような状況であっても、「発明が解決しようとする課題」に記載した三次元計測装置およびロボット装置に比べて簡易な構成でありながら、前記前準備作業の第1段階を行うことが可能になる。
【0073】
しかも、上記実施形態では、前記第1段階の後で、第2カメラ5で空間における第2の方向からのカムボルト13およびロックナット14の二次元位置を把握し、必要に応じてカムボルト13の頭部13aに対する調整ソケット21aの位置ならびにロックナット14に対する締付ソケット22aの位置をそれぞれ補正する作業(前記前準備作業の第2段階)を行うようにしているから、調整ソケット21aをカムボルト13の頭部13aに、また締付ソケット22aをロックナット14にそれぞれ確実に嵌合させることが可能になる。
【0074】
これにより、この実施形態のホイールアライメント調整システムによれば、ホイールアライメント調整の前準備作業を行ってから、ホイールアライメント調整の作業へと短時間で移行できるようになる等、一連の作業効率の向上に貢献できる。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0076】
(1)上記実施形態では、第1カメラ4によりカムボルト13およびロックナット14の下面を撮影する形態にするとともに、第2カメラ5によりカムボルト13の頭部13aの端面を撮影する形態にした例を挙げているが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【0077】
(2)上記実施形態では、第1カメラ4を支持台23に搭載する例を挙げているが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、例えば第1カメラ4は支持台23と別体にすることが可能である。
【0078】
(3)上記実施形態では、第2カメラ5を支持台23上の調整ソケット21aの背後に付設する例を挙げているが、本発明はこれのみに限定されるものではなく、例えば第2カメラ5は調整機21の上端に配置することが可能である。
【0079】
この場合、第2カメラ5の視点中心が調整ソケット21aの内孔中心に対してオフセット配置されることになるので、第1、第2目標位置を設定する際には前記オフセット分を補正する必要がある。
【0080】
また、第2カメラ5は、締付ソケット22aの背後または締付機22の上端に配置することが可能である。
【0081】
(4)上記実施形態では、前記第1、第2基準画像に対する前記第1、第2実画像の位置ずれに基づいて前記第1、第2目標位置を設定し、当該第1、第2目標位置に調整ソケット21aおよび締付ソケット22aを移動させる形態を例に挙げているが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【0082】
図示していないが、本発明は、例えば前記第1、第2基準画像を取得せずに前記第1、第2実画像のみからカムボルト13およびロックナット14の各二次元位置を計測し、当該各二次元位置を第1、第2目標位置に設定し、当該第1、第2目標位置に調整ソケット21aおよび締付ソケット22aを移動させるようにした実施形態も含まれる。
【0083】
(5)上記実施形態では、第1カメラ4によりカムボルト13およびロックナット14の両方を撮影する形態にするとともに、第2カメラ5によりカムボルト13の頭部13aの端面を撮影する形態にした例を挙げているが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【0084】
例えば第1カメラ4でカムボルト13およびロックナット14の少なくとも一方を撮影する形態にし、第2カメラ5でロックナット14を撮影する形態にすることが可能である。この場合、第1カメラ4の撮影画像に基づいてカムボルト13およびロックナット14の残り他方の二次元位置を推定することによって、カムボルト13およびロックナット14の二次元位置を把握するうえで有利になる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、ホイールアライメント調整システムに好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 ホイールアライメント計測器
2 調整装置
21 調整機
21a 調整ソケット
22 締付機
22a 締付ソケット
23 支持台
3 アクチュエータ
4 第1カメラ
5 第2カメラ
6 制御装置
10 車両
11 ブラケット
11a ボルト挿通孔
12 アーム
13 カムボルト
13a 頭部
13b ねじ軸部
14 ロックナット
16 調整カムプレート
17 締付カムプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7