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特許7000256量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
B29C43/34
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018107829
(22)【出願日】2018-06-05
(65)【公開番号】P2019209609
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-09-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清人
(72)【発明者】
【氏名】野口 徹
(72)【発明者】
【氏名】松田 元一
(72)【発明者】
【氏名】福士 雅則
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-215437(JP,A)
【文献】特開2017-145406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料を製造する方法であって、
常温で揮発性のある有機溶媒中に、量子ドットが分散され、常温で固体状態にあり前記有機溶媒に可溶であり透明な熱可塑性樹脂が溶解している混合液を調製する工程と、
前記混合液から自然乾燥により前記有機溶媒を蒸発させて樹脂固化材料を形成する工程と、
ロール混錬機に於いて回転するロールとそれに対向するロール又は壁面との間の間隙に前記樹脂固化材料を通過させることにより前記樹脂固化材料を混錬する工程にして、混錬中の前記樹脂固化材料の温度が、前記樹脂固化材料のミクロブラウン運動開始温度と、前記樹脂固化材料のマクロブラウン運動開始温度よりも高く前記樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部に戻る温度及び前記量子ドットの熱劣化限界温度のうちのいずれか低い方の温度との間の温度に設定され、前記樹脂固化材料が前記ロールから容易に剥離するようになるまで前記樹脂固化材料の混錬を行う工程と、
前記混錬された樹脂固化材料を前記量子ドットの熱劣化限界温度よりも低い温度にてプレス成型する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造方法に係り、より詳細には、熱可塑性樹脂中に量子ドットが分散された固体材料を製造する方法に係る。
【背景技術】
【0002】
直径数nm程度の半導体微粒子である量子ドットは、粒子径に応じた波長の蛍光を発する特徴を有しており、ディスプレイや太陽光発電への応用が試みられている。例えば、太陽光発電への利用に於いては、熱可塑性樹脂(光学プラスチックス)をマトリックスとして量子ドットが分散された板状部材が作製され(特許文献1、2等)、かかる樹脂板状部材の表面に太陽光が照射されて、太陽光を樹脂板中の量子ドットに吸収させ、これにより、量子ドットから単波長の光を放出させ、その単波長の光エネルギーを発電に用いることなどが提案されている。或いは、特許文献3に於いては、量子ドットが分散された熱可塑性樹脂溶液を基板上に塗布し固化させて蛍光顕微鏡用解像度評価チャートを製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2015-537088
【文献】国際公開2016/103720
【文献】特開2012-226055
【文献】特開2015-172148
【文献】特開2016-029168
【文献】特開2016-147992
【文献】特開2017-145406
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き量子ドットは、一般に、強い凝集性を有しており、凝集してしまうと、発光しにくくなるので、通常、その表面が有機物により被覆されて低極性又は無極性溶媒中にて浮遊するコロイドとなるよう分散されて使用される。そして、量子ドットを固体の熱可塑性樹脂材料中に分散させた状態で利用しようとする場合には、まず、溶媒中に熱可塑性樹脂が溶解している樹脂溶液と量子ドットが分散された量子ドット溶液とを混合し、その混合液から溶媒を蒸発させて、樹脂を固化させ、例えば、板状などの所望の形状に成型するといった製造方法が用いられる。かかる製造方法に関し、樹脂と量子ドットとが混合された溶液から単に溶媒を蒸発させて樹脂を固化させただけでは、材料に溶媒が残留し、粘性が残り、硬さが不十分となったり、量子ドットの再凝集が生じてしまい、量子ドットの発光能が低下してしまうといった不具合が生じていた。特に、材料の厚みが0.5mmを超える場合には、単に温度を上げただけでは、材料中の残留溶媒を除去することは難しく、厚みが1mm若しくはそれ以上にて、溶媒が十分に除去された材料を製造することは困難である。また、量子ドットは、一定温度以上に加熱すると、特性劣化が生じるので、材料の十分な硬さを得るべく溶媒の乾燥を行う際に樹脂材料をあまり高い温度下に曝すことは望ましくない。
【0005】
ところで、本発明の発明者等の一部による発明に係る本願出願人の一部による特許文献4-7に於いて開示されている如く、熱可塑性樹脂中にナノレベルの材料であるカーボンナノチューブを分散させた樹脂材料を製造する場合に、樹脂とカーボンナノチューブとが分散された溶液から溶媒を蒸発させて樹脂を固化させた段階の材料に対して、樹脂の軟化が始まり、樹脂が適度な弾性と適度な粘性を呈する融点付近までの温度範囲の条件下にてロール混錬処理を実行すると、固化された樹脂中に於いて、凝集塊を成しているカーボンナノチューブを解繊し樹脂中にて分散できることが見出されている。これは、上記の温度条件下に於いて、熱可塑性樹脂が狭いロール間隙を通過する際に、弾性による復元力で大きく変形し、その中のカーボンナノチューブをほぐす高いせん断力が得られるためであると考えられる。なお、この状態での混錬は、「擬弾性混錬」と称される。
【0006】
そこで、上記の擬弾性混錬の如きロール混錬処理を、樹脂と量子ドットとが混合された溶液から溶媒が蒸発し樹脂が固化した状態の材料に対して、量子ドットの熱劣化が生じない温度条件下にて、適用したところ、驚くべきことに、樹脂固化材料中に残留していた溶媒が蒸発して、材料の粘性が消失し弾性が生ずるととともに、ロール混錬処理を実行しない場合に比して、量子ドットがより分散され、量子ドットの発光能が高くなることが見出された。本発明に於いては、かかる知見が利用される。
【0007】
かくして、本発明の一つの課題は、量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料を製造する方法であって、量子ドットの熱による特性劣化を回避しながら固化した材料中の残留溶媒を低減すると共に、固化した樹脂材料中にて量子ドットができるだけ凝集せず、より分散されて、発光能ができるだけ低下しないように樹脂固体材料を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、上記の課題は、量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料を製造する方法であって、
溶媒中に、量子ドットが分散され、常温で固体状態にあり前記溶媒に可溶であり透明な熱可塑性樹脂が溶解している混合液を調製する工程と、
前記混合液から自然乾燥により前記溶媒を蒸発させて樹脂固化材料を形成する工程と、
ロール混錬機に於いて回転するロールとそれに対向するロール又は壁面との間の間隙に前記樹脂固化材料を通過させることにより前記樹脂固化材料を混錬する工程にして、混錬中の前記樹脂固化材料の温度が、前記樹脂固化材料のミクロブラウン運動開始温度と、前記樹脂固化材料のマクロブラウン運動開始温度よりも高く前記樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部に戻る温度及び前記量子ドットの熱劣化限界温度のうちのいずれか低い方の温度との間の温度に設定され、前記樹脂固化材料が前記ロールから容易に剥離するようになるまで前記樹脂固化材料の混錬を行う工程と、
前記混錬された樹脂固化材料を前記量子ドットの熱劣化限界温度よりも低い温度にてプレス成型する工程と
を含む方法によって達成される。
【0009】
上記の構成に於いて、「量子ドット」は、PbS、InP/ZnSなどのII-IV族、III-IV族、IV-IV族の元素群により構成される直径2~10nm程度の半導体粒子である任意の量子ドットであってよい。「溶媒」は、トルエンなどの量子ドットが分散性を有し、常温で揮発性のある任意の有機溶媒であってよい。「熱可塑性樹脂」は、常温で固体状態にあり上記の溶媒に可溶であり透明な任意の熱可塑性樹脂、典型的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂であってよく、より詳細には、後に説明される如く、量子ドットの熱劣化が生じない温度条件下で「擬弾性混錬」が可能な粘度を有する樹脂であってよい。「混合液」から「自然乾燥」により樹脂固化材料を調製する工程では、典型的には、溶媒キャスト法などにより、成形型に流し込まれた混合液が常温にて(通常、2~5日程度)静置され、混合液中の溶媒が自然に蒸発し、混合液中に溶解していた樹脂が固化し、樹脂固化材料が形成されるようになっていてよい。なお、この段階の樹脂固化材料は、材料中に溶媒が残留し、粘弾性を呈する状態である(溶媒がトルエンである場合、通常、トルエンが5wt%~20wt%の範囲で残留する。)。「ロール混錬機」には、樹脂材料の混錬に使用される任意のロール型の混錬機が利用可能であり、典型的には、少なくとも二つの回転軸が平行となるように隣接されたロールの間隙に、或いは、回転ロールとそれに対向する壁面との間の間隙に樹脂固化材料を通過させることによって、樹脂固化材料の混錬が実行されてよい。
【0010】
本発明の方法に於いては、上記の如く、まず、量子ドットが分散され熱可塑性樹脂が溶解している混合液から溶媒を自然乾燥により蒸発させて樹脂固化材料が形成され、その樹脂固化材料がロール混錬機により混錬されることとなる。その樹脂固化材料の混錬工程に於いて、特に、本発明では、樹脂固化材料の温度(混錬温度)が、樹脂固化材料のミクロブラウン運動開始温度(T1)と、樹脂固化材料のマクロブラウン運動開始温度(T2)よりも高く樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部に戻る温度(Td)及び量子ドットの熱劣化限界温度(T3)のうちのいずれか低い方の温度との間の範囲の温度に設定される。その場合、樹脂固化材料は、混錬開始時に於いては、適度な弾性と適度な粘性を呈する状態であるところ、混錬していくうちに、徐々に、溶媒が蒸発し、これと共に、粘性が消失し、弾性が高くなり、最終的には、樹脂固化材料がロールから容易に剥離するようになる。なお、上記の温度範囲(T1~Td)にて樹脂固化材料が粘性を呈する状態から弾性を呈するまで実行される混錬は、「擬弾性混錬」と称される。そして、この擬弾性混錬が施された樹脂固化材料を所望の形状にプレス成型して量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の完成品が得られることとなる。
【0011】
本発明の発明者等による研究によれば、上記の如く擬弾性混錬を行って製造された量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料は、擬弾性混錬を行わずにプレス成型して得られた材料に比して、励起光を照射時の発光波長が短くなり、発光強度が大きくなることが見出されており、このことは、擬弾性混錬を行って製造された量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料に於いては、擬弾性混錬を行わない場合に比して、量子ドットが相対的により良く分散され、量子ドットの発光能が向上されていることを示している。また、混錬を量子ドットの熱劣化限界温度よりも高い温度にて行って製造された熱可塑性樹脂固体材料の場合は、上記の温度範囲内(T1~Td又はT3)にて混錬を行って製造された熱可塑性樹脂固体材料に比して、大幅に発光強度が小さくなった。これは、熱劣化による量子ドットの発光能が低下してしまったためであると考えられる。かくして、本発明の方法に於いては、量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造に於いて、上記の如き温度範囲(T1~Td又はT3)にて擬弾性混錬を行うことによって、熱可塑性樹脂固体材料に於ける残留溶媒の低減と量子ドットの分散性の向上が達成され、これにより、熱可塑性樹脂固体材料の剛性の向上と、量子ドットの発光能の向上或いは低下の防止とが図られることとなる。
【0012】
上記の本発明の方法の実施の形態に於いて、混合液中の量子ドットの含有量は、量子ドットが適度に分散される量であってよく、典型的には、1mg/ml~100mg/ml、好適には、約80mg/mlであってよい。また、熱可塑性樹脂固体材料体積に対する量子ドットの含有量は、0.89mg/ml~4.4mg/mlであってよい。擬弾性混錬後の樹脂固化材料のプレス成型は、樹脂が軟化するミクロブラウン運動開始温度よりも高く、量子ドットの熱劣化限界温度よりも低い任意の温度条件下で、例えば、85℃~100℃の範囲で実行されてよい。
【発明の効果】
【0013】
かくして、上記の本発明によれば、量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料を製造する方法に於いて、溶媒中に量子ドットと熱可塑性樹脂とを含む混合液を自然乾燥させて形成された樹脂固化材料に対して、量子ドットの熱劣化が生じる温度よりも低い温度にて擬弾性混錬を施すことにより、高温乾燥を用いずに溶媒を除去して粘性を消失させ材料の硬さを十分なものとすると共に、樹脂固化材料に於いて、量子ドットを、熱劣化させずに、より分散させて、従前より高い発光能を呈する量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造が達成される。樹脂固化材料に残留していた溶媒は、混錬工程で除去され、しかる後に、混錬された樹脂固化材料がブレス成型されることとなるので、厚みが1mm若しくはそれ以上の材料も溶媒が十分に除去された状態で製造することが可能である。更に、かかる擬弾性混錬に於いては、ロールを通過する際の樹脂内の弾性力により樹脂内に配合された量子ドットの凝集塊がほぐされ、量子ドットの粒子を1粒1粒に分散させることが可能になり、一旦これが行われれば、材料を常温に戻し、熱プレスで成型した際に、熱可塑性樹脂固体材料は、濁りを生じることなく、透明な状態が安定的に保たれることが見出されている。
【0014】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明による量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造工程の模式図である。
図2図2は、樹脂固化材料(キャスト品)の動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率(E’)の温度変化とその温度についての微分値の温度変化の例であり、擬弾性混錬を実行する際の設定温度(混錬温度)の温度範囲を決定する方法について説明する図である。貯蔵弾性率(E’)とその微分値は、対数にて表されている。なお、図示の例は、PMMA樹脂のキャスト品を100℃にてプレス成型して得られた樹脂固化材料に於いて計測された結果である。
図3図3(A)、(B)は、それぞれ、本実施形態による製造工程に従って得られた量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料(混錬あり-混錬後に100℃にてプレス成型したもの)、溶媒キャスト法により得られた樹脂固化材料を混錬せずに100℃にてプレス成型したもの(混錬なし-なお、プレス成型の前後で重量変化は見られず、溶媒含有量の変化はないことが確認されている。)、絶乾状態の熱可塑性樹脂材料(ペレット-溶媒に溶解していない材料を160℃にてプレス成型したもの)についての動的粘弾性測定により得られた貯蔵弾性率(E’)と損失係数(tanδ)の温度変化の例を示している。
図4図4は、本実施形態による製造工程に従って得られた量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料(混錬・プレス後)、混錬せずに製造した量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料(混錬なし・プレス後)、溶媒キャスト法により得られた量子ドットを含有する樹脂固化材料(混錬前)に対してハロゲンランプ光を照射した場合に得られた発光スペクトルの例を示している。
図5図5は、本実施形態に於いて、板状に成型された樹脂材料に対して光を照射した場合の樹脂材料から放出される光の波長と強度を計測する発光特性計測システムの模式図である。
図6図6(A)、(B)は、本実施形態による製造工程に於いて異なる混錬温度にて混錬を実行した場合に得られた量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の完成品の発光スペクトルの例を示している。(A)は、樹脂体積に対する量子ドット添加量が100mg/150角×1mmの場合であり、(B)は、樹脂体積に対する量子ドット添加量が50mg/150角×1mmの場合である。図中、a、b、cは、混錬温度を、それぞれ、80℃、100℃、130℃に設定した場合である。図6(C)は、量子ドットを含まない熱可塑性樹脂固体材料の発光スペクトルを示している。
【符号の説明】
【0016】
10…溶媒キャスト法用型枠
12…ガラス基板
14…プレス成型用型枠
L…量子ドット・樹脂混合液
C…キャスト品(樹脂固化材料)
R1、R2…ロール混錬機のロール
K…混錬後樹脂固化材料
B…樹脂固化材料粉砕片
P…プレス成型品(完成品)
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0018】
製造工程
本発明による量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造に於いては、(a)量子ドットが分散され熱可塑性樹脂が溶解された混合液を調製する工程、(b)混合液から溶媒を蒸発させて樹脂固化材料を形成する工程、(c)樹脂固化材料を混錬する工程、及び(d)混錬された樹脂固化材料をプレス成型する工程が実行される。以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0019】
(a)混合液の調製
量子ドットと熱可塑性樹脂とを含む混合液の調製に於いては、まず、量子ドットの分散した量子ドット溶液と熱可塑性樹脂が溶解した樹脂溶液とが準備されてよい。本発明に於いて使用される量子ドットは、既に触れた如く、II-IV族、III-IV族、IV-IV族の元素群により構成される直径2~10nm程度の半導体粒子である任意の量子ドットであってよく、具体的には、PbS、InP/ZnS、CdSe、CdSe/ZnS、CdSe/CdTe、CdSe/CdZnS、PbSe、Au、CuInS/ZnS、CdTe、CdS、CdSe/CdS、PbSe、GaAs、CsPbX(X=Cl,Br,I)、CsPbBrI、CuInSeなどの半導体粒子であってよい。量子ドットを分散させる溶媒は、量子ドットが分散性を有し、常温で揮発性のある任意の有機溶媒であってよく、典型的には、トルエンが用いられるが、オクタデセン、エチレングリコール、アルコール類、ケトン類、クエン酸ナトリウム、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサン、アルカン、アルケン、ベンゼン、N-メチルー2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラメチル尿素、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコール、ジフェニルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、キシレンであってもよい。量子ドット溶液中の量子ドットの濃度は、1mg/ml~100mg/mlであってよく、好適には、約80mg/mlであってよい。
【0020】
一方、本発明に於いて使用される熱可塑性樹脂は、常温で固体状態にあり上記の溶媒に可溶であり透明な任意の熱可塑性樹脂であって、量子ドットの熱劣化が生じない温度条件下で、後に説明される「擬弾性混錬」が可能な粘度を有する樹脂であってよい。そのような熱可塑性樹脂としては、典型的には、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が挙げられるところ、メタクリルエステル樹脂、アクリルエステル樹脂、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリルニトリルスチレン(AS)樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、シクロオレフィン樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、脂環式アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、非晶フッ素系樹脂、ABS樹脂、ポリイミド樹脂、トリアセチルセルロース、ポリメチルペンテンであってもよい。なお、上記の樹脂のうちで、そのままでは、量子ドットの熱劣化が生じない温度条件下で「擬弾性混錬」が可能な粘度を呈さないものであっても、適宜溶媒で薄めることにより(樹脂に溶媒を含有させることにより)、利用することが可能である。上記の樹脂は、例えば、PMMA樹脂の場合には、溶媒中に、例えば、10~50重量部にて溶解されてよい。また、溶媒中に樹脂の基となるモノマー、重合開始剤等を混合してモノマーを重合させ、溶媒中で、樹脂(ポリマー)を形成させてもよい。
【0021】
そして、樹脂が溶解した樹脂溶液へ量子ドット溶液が添加され、混合され攪拌されて、量子ドットと熱可塑性樹脂とを含む混合液が調製される。熱可塑性樹脂に対する量子ドットの割合は、例えば、150角×1mm厚の樹脂板に対して、20mg~100mg、即ち、0.89mg/ml~4.4mg/mlであってよいが、これに限定されず、適宜調節されてよい。
【0022】
(b)樹脂固化材料の調製
上記の如く量子ドットと熱可塑性樹脂とを含む混合液が調製されると、その混合液から溶媒を蒸発させることにより溶解した樹脂を固化させ、かくして、量子ドットを含有した状態にて樹脂固化材料が形成される。かかる樹脂固化材料の形成に於いては、典型的には、溶媒キャスト法が採用されてよい。その場合、具体的には、図1(a)に示されている如く、量子ドットと熱可塑性樹脂とを含む混合液Lが厚みを制御した態様にてガラス板12上に置かれた金属製の型枠10内へ流し込まれ成型され、図1(b)に示されている如く、その状態で常温にて、2日~5日程度、静置され自然乾燥される。そうすると、混合液L中の揮発性のある溶媒は、樹脂固化材料中の溶媒の含有率が5~20wt%となるまで蒸発し、それとともに、混合液L中の熱可塑性樹脂が固化することとなる。なお、その後に自然乾燥を続けても、樹脂の表面が乾燥して固化するため、溶媒の蒸発の速度は極めて遅くなり、溶媒の含有率の低下も極めて遅くなることが見出されている。また、かかる時点の樹脂固化材料中の溶媒の含有率が5~20wt%となっていることは、熱分析による重量減少率の測定により見出されており、その際の樹脂の硬さを把握しておくことにより、樹脂固化材料中の溶媒の含有率が5~20wt%となる程度まで溶媒が乾燥しているかどうかは、樹脂の硬さから判断することが可能である。そして、材料中の溶媒の含有率が5~20wt%となったときに(樹脂の硬さがかかる溶媒の含有率に相当する硬さになったときに)、樹脂固化材料のキャスト品Cが、型枠10から外される(図1(c))。
【0023】
なお、混合液から溶媒を蒸発させた樹脂固化材料の形成は、上記以外の方法により達成されてもよい。例えば、量子ドットと熱可塑性樹脂とを含む混合液にメタノールを投入して沈殿させ、沈殿物をプレス成型することにより、樹脂固化材料が形成されてもよい。また、混合液を離型処理した紙等に塗布し乾燥してフィルム状の薄膜を形成し、かかる薄膜を積層してプレス成型し、樹脂固化材料が形成されてもよい。
【0024】
(c)樹脂固化材料の擬弾性混錬
次いで、上記の如く形成された樹脂固化材料(キャスト品C)に対して混錬処理が施される。かかる樹脂固化材料(キャスト品C)の混錬処理は、図1(d)に示されている如く、樹脂固化材料Cを、ロール混錬機に於いて回転するロールR1とそれに対向するロールR2(平坦な壁面等であってもよい。)との間隙に通過させることにより、実行されてよい。ロール混錬機には、樹脂材料の混錬に通常使用される任意のロール混錬機が用いられ、ロールの間隙の幅や回転速度等は、通常の態様に設定されてよい。例えば、径が3インチの二つの回転ロールが対向している構成の場合、ロール間隔は、0~1.0mm、好ましくは、約0.5mmなどと設定されてよく、第一のロールの速度V1と第二のロールの速度V2との比(V1/V2)は表面速度比で、1.05~3.0、好ましくは、1.05~1.5などと設定されてよい。
【0025】
しかしながら、本発明の方法に於ける混錬処理では、混錬温度(樹脂固化材料の温度)が、樹脂固化材料のミクロブラウン運動開始温度と、樹脂固化材料のマクロブラウン運動開始温度よりも高く樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部となる温度(Td)及び量子ドットの熱劣化限界温度のうちのいずれか低い方の温度との間の温度に設定される。この点に関し、図2に示されている如く、樹脂固化材料のミクロブラウン運動開始温度は、樹脂固化材料(キャスト品C)の動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率(E‘)の温度変化に於いて見出される二つの変曲点のうちの温度の低い方、即ち、貯蔵弾性率(E‘)の温度についての微分値に於ける二つの極小値のうちの温度の低い方(T1)であり、樹脂固化材料のマクロブラウン運動開始温度は、貯蔵弾性率(E‘)の温度変化に於ける二つの変曲点のうちの温度の高い方、即ち、貯蔵弾性率(E‘)の温度についての微分値に於ける二つの極小値のうちの温度の高い方(又は最小値)(T2)であるので、マクロブラウン運動開始温度T1と、樹脂固化材料のマクロブラウン運動開始温度T2よりも高く樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部に戻る温度(Td)とは、使用される樹脂固化材料についての温度に対する貯蔵弾性率の微分値から決定可能である。また、量子ドットの熱劣化限界温度(T3)は、使用される量子ドットについて実験的に或いは文献等の調査により知ることができる。かくして、上記の混錬温度は、予め測定された樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値から得られるミクロブラウン運動開始温度T1、マクロブラウン運動開始温度T2及び貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部に戻る温度Tdと、量子ドットの熱劣化限界温度T3の情報を参照して、設定可能である。
【0026】
上記の混錬温度条件下にて混錬を実行すると、既に触れた如く、樹脂固化材料は、混錬開始時に於いては、適度な弾性と適度な粘性を呈し、ロールに纏わりつく状態となるところ、混錬していくうちに、徐々に、溶媒が蒸発し、これと共に、粘性が消失し、弾性が高くなり、最終的には、樹脂固化材料がロールから容易に剥離するようになる。実際、図3(A)、(B)に例示されている如く、上記の条件にて混錬処理を施した樹脂固化材料(混錬あり)に於いて動的粘弾性測定により得られた貯蔵弾性率(E’)と損失係数(tanδ)とは、溶媒キャスト法による形成後の(混錬処理を施していない)溶媒の含有率が高い樹脂固化材料(混錬なし)の場合よりも高温側にシフトし、溶媒に溶解する前の絶乾状態の熱可塑性樹脂材料(ペレット)の値に近くなっており、このことからも、上記の混錬処理により、溶媒キャスト法により形成された樹脂固化材料の状態から溶媒が更に蒸発して、十分な硬さの樹脂材料が得られることが理解される。
【0027】
また、上記の混錬温度条件下での混錬処理によれば、ロールを通過する際の樹脂内の弾性力により樹脂内に配合された量子ドットの凝集塊がほぐされ、量子ドットの粒子が1粒1粒に分散され、混錬処理を施さない場合に比して、樹脂固化材料に於ける量子ドットの発光能が向上される。実際、図4に例示されている如く、樹脂固化材料について得られた発光スペクトル(後に説明される方法により計測)を参照すると、上記の混錬温度条件下での混錬処理を施して(後述の)プレス成型された後の樹脂固化材料(混錬・プレス後)の発光波長は、混錬処理を施す前の樹脂固化材料の場合(混錬前)及び混錬処理を施さずにプレス成型された後の樹脂固化材料の場合(混錬なし・プレス後)よりも短波長側にシフトし、樹脂固化材料(混錬・プレス後)の発光強度は、樹脂固化材料(混錬なし・プレス後)の場合よりも高くなった。一般に、量子ドットは、より分散されるほど、発光波長が短くなり、発光能が増大するので、図4に例示する結果は、上記の混錬処理によって、樹脂固化材料中にて、量子ドットが凝集せずに、1粒1粒、より分散され、また、混錬温度が量子ドットの熱劣化限界温度よりも低いことにより、混錬中の量子ドットの熱による特性劣化も回避され、混錬処理をしない場合よりも量子ドットの発光能が向上されていることを示している。(図4に於いて、樹脂固化材料の発光強度(混錬前)が樹脂固化材料の発光強度(混錬・プレス後)よりも高いのは、前者の方が、材料の厚みが大きいためである。混錬・プレス後の樹脂固化材料と混錬なし・プレス後の樹脂固化材料の厚みは、同じである。)。
【0028】
上記の混錬処理は、樹脂固化材料がロールから容易に剥離するようになるまで、典型的には、2分~20分間ほど実行され、その後、樹脂固化材料は、常温に戻される。この状態に於いて、樹脂固化材料は、通常、弾性と剛性を呈する透明で濁りのない薄板状又は薄膜状の部材(ワカメ様又は昆布様の部材)となる(図1(e))。
【0029】
(d)混錬後の樹脂固化材料のプレス成型
上記の混錬処理後の樹脂固化材料は、帯状の部材であるので(図1(e))、細かく切断又は粉砕される(図1(f))。なお、切断又は粉砕は、手にて又は任意の切断器具若しくは粉砕機等を用いて実行されてよい。しかる後、切断又は粉砕された材料片Bは、真空プレス機の型枠14に入れられて、加温されながら、プレス成型される(図1(g))。プレス成型時の温度は、量子ドットの熱劣化限界温度よりも低い温度であって樹脂が軟化する温度、例えば、85℃~100℃程度(量子ドット及び樹脂の種類によって異なる。)に設定される。なお、プレス成型に於いては、典型的には、材料は、板状に成型されるが、これに限定されない。かくして、プレス成型処理が完了すると、樹脂固化材料が完成品Pとして型枠から取り外される。完成品Pに於いては、量子ドットの経時的凝集は生じず、濁りを生じるような問題も無く、安定性が保たれる特徴を有することが確認されている。
【0030】
上記に説明した本発明の有効性を検証するために、以下の如き実験を行った。なお、以下の実施例は、本発明の有効性を例示するものであって、本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。
【実施例
【0031】
上記の本発明の方法に従って、量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の製造を行った。表1は、本発明の教示に従って量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料を製造した例(実施例1~4)についての製造時の条件と結果を示している。また、比較のため、表2に、混錬温度が本発明の教示する温度範囲外に設定した例(比較例1~4)についての製造時の条件と結果が示されている。
【0032】
ここに例示した実験の製造工程に於いて、具体的には、量子ドットと熱可塑性樹脂とを含む混合液の溶媒には、トルエンを用い、量子ドットには、PbSを用い、樹脂には、PMMAを用いた。混合液の調製に於いては、トルエンにPMMA樹脂を溶解した樹脂溶液中にトルエン中に量子ドットを分散させた量子ドット溶液を添加し、混合攪拌した。そして、溶媒キャスト法により、ガラス板上に置かれた型枠の内側に混合液を流し込み、3~5日静置し自然乾燥させて、板状のキャスト品(樹脂固化材料)を形成した。しかる後、樹脂固化材料の混錬に於いては、ロール混錬機(安田精機 特注型番 ロール径3インチ)の2本のロールの間隙を0.2mmに設定し、第一ロールと第二ロールの速度比V1/V2を1/1.1に設定して、約10分間に亘って混錬を行った。混錬温度ついては、予め、PMMA樹脂のキャスト品を100℃にてプレス成型して得た樹脂固化材料に於いて計測された貯蔵弾性率の温度変化から決定された樹脂固化材料のミクロブラウン運動開始温度T1、マクロブラウン運動開始温度T2、樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部に戻る温度Tdと、量子ドットの熱劣化限界温度(約110℃)とを参照して(図2参照)、実施例1~4については、混錬温度が、T1~Tdの範囲内に入るように表1に記載の通りに設定し、比較例1~4については、混錬温度が、T1~T3の範囲外となるように表2に記載の通りに設定した(本実験例では、Td<T3であった。)。なお、実際の混錬中の温度は、表1、表2の混錬温度枠の括弧内の温度範囲で変動した。かくして、混錬処理後の樹脂固化材料は、手にて細かく切断され、真空プレス成型機を用いて、表1、表2に記載の温度にて、プレス成型され、板状の完成品を得た。
【0033】
量子ドットを含有する熱可塑性樹脂固体材料の完成品の発光特性は、図5に模式的に描かれた発光特性計測システムにより計測した。図5を参照して、本実験例に於ける発光特性計測システムに於いては、ハロゲンランプを光源として、ハロゲンランプの光をレンズで集光して光ファイバの一方端へ入射させ、光ファイバの他方端から出射した光を励起光Exとして平板状の熱可塑性樹脂固体材料の完成品Pの広い表面上に照射した。一方、完成品P内から放出される光Emは、完成品Pの側面に光ファイバの一方端を近接させてその一方端に入射させ、その光ファイバの他方端を分光器(オーシャン・オプティクス(Ocean Optics)社 Miniature Spectrometer 「flame-S」)へ接続して、光ファイバの他方端からの出射光のスペクトルを測定した。なお、分光器の計測制御には、汎用のコンピュータを用いた。図6(A)、(B)は、実施例1~4、比較例3、4の完成品Pに於いて計測された発光スペクトルを示している。また、比較のため、量子ドットを含有しない熱可塑性樹脂固体材料の完成品の発光スペクトルも測定した(図6(C)-この場合、量子ドットの発光波長800nm近傍の発光強度は実質的に0であることが確認され、従って、図6(A)、(B)に於ける量子ドットを含有させた完成品に於いて計測された発光波長800nm近傍の発光強度が量子ドットによるものであることが理解される。)。
【0034】

【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
結果に於いて、まず表2を参照して、比較例1、2に於いては、混錬処理に於ける混錬温度(50~58℃)が樹脂固化材料(PMMA樹脂キャスト品)のミクロブラウン運動開始温度(約60℃)よりも低かったため、樹脂が軟化しておらず、2本ロール上で粉砕するも、まとまらずロールに巻きつかず、混錬処理が実行できず、このため、完成品が作成できなかった。
【0037】
次に、表1を参照して、実施例1~2、3~4は、それぞれ、混練温度(60℃~95℃、93℃~101℃)がT1~Tdの範囲内であるところ、混錬処理が可能であり、完成品が作成された。また、完成品の発光特性に於いて、表1、図6(A)a(実施例1)、図6(A)b(実施例3)、図6(B)a(実施例2)、図6(B)b(実施例4)にて示されている如く、いずれの場合も、有意な発光強度のピークが得られ、ピーク値の発光波長は、混練前よりも短波長側にシフトした。これは、量子ドットの凝集がほぐれて、粒子一粒、一粒が分散され、量子ドット本来の発光特性が発揮されていることを示唆している。
【0038】
そして、表2を再度参照して、比較例3、4は、混練温度(130~138℃)が量子ドットの熱劣化限界温度T3(約110℃)を超過した条件下で混練したものであるところ、ロール混練は可能であり、完成品も作成可能であった。しかしながら、表2、図6(A)c(比較例3)、図6(B)c(比較例4)に示されている如く、発光スペクトルに於いて、発光波長が、混錬前に比して、長波長側に大きくシフトし、発光強度は、実施例1~4の場合に比して低かった。このことは、混練温度がマクロブラウン運動開始温度T2より高い樹脂固化材料の貯蔵弾性率の微分値が0近傍の平坦部となる温度Tdを超え、樹脂材料が軟化し過ぎていたため、量子ドットの再凝集が生じ、粒子径が増大していることと、量子ドットの熱劣化による量子効率の低下が生じていることが考えられる。
【0039】
かくして、本発明にかかる量子ドット含有熱可塑性樹脂固体材料の製造方法によれば、上記の如き温度範囲(T1~Td又はT3)での擬弾性混練を採用することにより、樹脂固化材料内の量子ドットの凝集をほぐし、粒子1粒1粒に分散させた状態で、量子ドットを透明樹脂中に閉じ込めることが可能となり、量子ドットの発光能を最大限に発揮させることが可能であり且つ経時的に安定な成形品が提供されることが理解されるであろう。また、上記の擬弾性混練によれば、樹脂固化材料内の残留溶媒も同時に蒸発乾燥させることが可能で、溶媒の除去に高い温度をかけられない量子ドットの取扱いに於いて、本発明の製造方法は、極めて有効であり優位性がある。
【0040】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6