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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】工業用二層織物
(51)【国際特許分類】
   D21F 1/10 20060101AFI20220112BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220112BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
D21F1/10
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018143611
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020020054
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000229818
【氏名又は名称】日本フイルコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】村上 晋也
(72)【発明者】
【氏名】梁井 英之
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-20989(JP,A)
【文献】特開昭63-175192(JP,A)
【文献】特開2012-117169(JP,A)
【文献】特開2012-117170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D21F1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる工業用二層織物において、当該工業用二層織物が完全組織中に少なくとも第一の組織と第二の組織を有し、当該第一の組織が上面側経糸2本組と下面側経糸1本によって形成され、前記第二の組織が上面側経糸1本と下面側経糸1本によって形成され、前記第一の組織と前記第二の組織は隣接して配置されており、前記第一の組織における上面側経糸は上面側織物と下面側織物とを接結する機能を有する経糸接結糸によって形成されており、前記第一の組織を形成する2本組の上面側経糸は隣接配置され上面側織物の表面で一部畝織を構成し、前記下面側経糸の線径が前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径よりも大きく、かつ前記第二の組織における上面側経糸が扁平経糸によって形成されていることを特徴とする工業用二層織物。
【請求項2】
前記第一の組織を形成する下面側経糸の線径が前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径の130~300%であることを特徴とする請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項3】
前記第二の組織において、扁平経糸のアスペクト比が1.1~2.0であることを特徴とする請求項1又は2に記載された工業用二層織物。
【請求項4】
前記工業用二層織物が、前記第一の組織と前記第二の組織とが交互に配置されて構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載された工業用二層織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層織物における網厚を薄くすると共に、剛性、耐摩耗性、脱水性、マーク抑制に優れ、高速抄紙機にも対応し得る新規な工業用二層織物に関する。特に、上面側織物を2本の上面側経糸による経畝織組織と扁平経糸を組み合わせて形成することによって、扁平糸構造の織物となり、更には経糸接結構造による緩慢脱水及び低保水という効果を奏する工業用二層織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から工業用織物として経糸、緯糸で製織したものが広く使用されており、例えば製紙用織物や搬送用ベルト、ろ布等があり、それぞれ用途や使用環境に適した織物特性が要求されている。これらの織物のうち、織物の網目を利用して原料の脱水等を行う製紙工程で使用される抄紙用織物での要求は特に厳しい。例えば、紙に織物のワイヤーマークが転写しにくい表面平滑性に優れた織物、また原料に含まれる余分な水分を十分且つ均一に脱水するための脱水性、過酷な環境下でも好適に使用できる程度の剛性、耐摩耗性を持ち合わせ、更に良好な紙を製造するために必要な条件を長期間持続することのできる織物が要求されている。その他にも繊維支持性、製紙の歩留まりの向上、寸法安定性、走行安定性等が要求されている。さらに近年では抄紙マシンが高速化しているため、それに伴い抄紙用織物への要求も一段と厳しいものとなっている。
【0003】
工業用織物の中でも最も要求が厳しい抄紙用織物を例に挙げると、近年の抄紙機の高速化に伴い、特に優れた脱水性、表面平滑性によるマーク抑制が要求されている。抄紙機や抄造物により求められる脱水特性は異なっているが、どのような抄造物であっても均一な脱水性は必須条件である。また、近年では古紙の利用が増え、微細繊維が多く混在することで脱水不足になり、十分且つ均一な脱水がより重要となり、抄紙用織物への要求特性の充足は一段と難しい状況にある。さらに、脱水する際に工業用織物が空間内に保つ水分量(以下、「保水量」と記載する。)を低くする低保水性についても要求されている。
例えば、網厚を薄くすることにより、保水量の軽減化を図ることができる。そのため単に経糸の線径を小さくして網厚を薄くすることが行われているが、かかる場合、網目が粗くなり、網強度による剛性が低下し、過度に網目空間が発生するため、織物上に原料が留まらず抜け落ちてしまい、歩留りを低下させる原因となっていた。
また、原料が織物上に吐出された際の脱水(以下、「初期脱水」と記載する。)によって、織物上に繊維の層(以下、「初期マット」と記載する。)が形成される。
織物の脱水速度が速いと、織物の網目に繊維が詰まる等して強固な初期マットが形成されることとなる。強固な初期マットは、原料の脱水が完了する前に、織物の網目を詰まらせてしまう為、その後の脱水が不完全なものとなり、脱水不良を起こし、紙の地合いを悪化させる原因となる等し、脱水性能が不安定となっていた。
織物の脱水速度は、織物の表面や内部の空間等の影響によって速度の緩急が決まることとなる。
特に、上面側織物と下面側織物を接結糸で接結した三重織構造の工業用織物は、脱水速度が速いことから、初期脱水を抑制するために緯糸密度を高く設定することで脱水速度を抑えているが、強固な初期マットが形成された場合は、より著しい脱水性の低下が発生することとなる。
【0004】
他方、脱水性の良い織物としては、上面側から下面側にまで貫通する脱水孔が形成される工業用二層織物等がある。特に工業用二層織物に要求される表面性、繊維支持性、脱水性を満たすことを目的とした織物として、上面側緯糸、下面側緯糸と織り合わされて上面側経糸組織及び下面側経糸組織を形成する経糸接結糸を用いた工業用二層織物が知られている。
特許文献1には、経糸接結糸を用いた二層織物が示されている。このような従来技術は、経糸の一部を上面側層と下面側層を織り合わせる接結糸として機能させる二層織物であり、組になった経糸接結糸が上面側経糸組織と下面側経糸組織を補完し合い、各々の表面組織を形成するため、表面性、接結強度に優れた織物となる。しかし、組織の一部のナックルを崩して接結することが必要であり、かかる箇所を他の経糸にナックルを補完させることが必須となる。この際、隣接する経糸間に交差部が連続して出現することになるため、脱水抵抗が生じ、紙へのマークの発生原因となり易いことが知られていた。
【0005】
また、均一な脱水性を目的として、上面側経糸と経糸接結糸からなる組を配置した工業用二層織物が引用文献2に示されている。この織物は、上下面を織り合わせる経糸接結糸の上面側ナックルと上面側経糸組織を組み合わせることで、表面に均一な組織を形成したものである。この織物は、前記2本の経糸が協働して表面に経糸1本分の組織を形成しているため組織の崩れはないものの、経糸の一方または両方とも経糸自体の組織をくずさなければならず、それらが上下面側を行き来する際に交差部を形成し、且つ経糸は2本組となって経糸1本分として配置されるが、経糸2本は経糸1本分のライン上に重ならず横に並んだ状態になるため、経糸接結糸が上面側緯糸を織り込む付近で網目を塞いでしまい、部分的にワイヤーの脱水特性が変化することで紙にマークを与えてしまうことがあった。 又、かかる工業用二層織物は上面側層から下面側層まで完全に貫通する脱水孔が全面に配置されているため脱水性は良好ではあるが、強力なバキューム等によりワイヤー上のシート原料が織物に刺さり込んだり、繊維や填料等の抜けが発生し、脱水マークの発生が顕著になることもある。
更に、従来の工業用二層織物においては、脱水性を向上させるためにオンスタック構造を採用する場合があるが、かかる構造において、上下異線径にて経糸を形成すると、表面空間が過剰に大きくなり、上面側の経糸間の空間が開く一方下面側の経糸間の間は狭くなるため、脱水速度の制御が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-36052号公報
【文献】特開2004-68168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、剛性、耐摩耗性、脱水性、マーク抑制、保水量を軽減させる低保水性といった織物の基本的な特性を充足する工業用二層織物を提供することを目的とする。
また本発明は、高速抄紙機に対応する新規な工業用二層織物を提供する。すなわち、工業用二層織物の高速化には、脱水性と保水性との相関関係が重要な要因となり、更に原料の抜けを抑えて高い歩留まりも求められる。そのため本発明は、上面側と下面側の目開きと内部空間とを改良し、初期脱水を抑えつつ脱水量を上げる等によって、脱水性を向上させ、低保水性を実現する工業用二層織物を提供することを目的とする。
更に、上面側織物と下面側織物の経糸空間の比率を同程度とし、上面側緯糸と下面側緯糸の線径に差を持たせることによって空間密度の差を任意に設計できるため、上面側緯糸と下面側緯糸の比率を変えることで脱水性や保水性の調整が可能となる工業用二層織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る工業用二層織物は、上面側経糸を2本組で配置し、経糸2本組のうち少なくとも一本について、接結機能を有する経糸とした第一の組織と、上面側経糸に扁平糸を用いた第二の組織を有することで、剛性を有しながら、高い脱水性と低保水性を実現する点に特徴を有する。すなわち、本発明は上記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために、以下の構成を採用した。
(1)上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる工業用二層織物において、当該工業用二層織物が完全組織中に少なくとも第一の組織と第二の組織を有し、当該第一の組織が上面側経糸2本組と下面側経糸1本によって形成され、前記第二の組織が上面側経糸1本と下面側経糸1本によって形成され、前記第一の組織と前記第二の組織は隣接して配置されており、前記第一の組織における上面側経糸は上面側織物と下面側織物とを接結する機能を有する経糸接結糸によって形成されており、前記第一の組織を形成する2本組の上面側経糸は隣接配置され上面側織物の表面で一部畝織を構成し、前記下面側経糸の線径が前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径よりも大きく、かつ前記第二の組織における上面側経糸が扁平経糸によって形成されていることを特徴とする工業用二層織物である。
【0010】
ここで畝織とは、2本の上面側経糸を隣接して配置し、両方の糸が上面側緯糸の上と下を通って織物の表面にナックルを形成することをいう。本発明においては、前記2本の上面側経糸は、接結糸であり、相互に補完し合って接結機能を発揮するため、一部畝織ではなくなる箇所が存在する。2本の上面側経糸によって畝織を形成することによって、あたかも扁平糸を使用した擬似的な効果を得ることができる。具体的には、ナックル形状を平坦にすることができ、表面平滑性や繊維支持性を向上させることができる。また後述の扁平糸を隣接配置することによって、経地糸接結型の二層織物の効果を発揮することができる。
また本発明における扁平糸とは、断面形状が円形ではなく、上下面が略平面である形状の糸のことをいう。本発明の扁平糸としては、断面形状は長方形のみならず楕円系のものも含まれるが、上下径より巾径の方が大きい糸を使用する。好ましいアスペクト比は、1.1~2.0である。このような扁平糸を使用することによって、工業用二層織物における網厚を抑制することができる。
【0011】
又、従来は織物を構成する糸の線径を細くして網厚を抑制していたが、上下異線径の工業用二層織物の場合、上面側の経糸空間は下面側に対して大きくなり、脱水抑制と網厚抑制の両立が困難となっていた。本発明では、2本の細い経糸と、扁平経糸の組み合わせによって網厚を抑制しているため、脱水速度の制御が可能となる。
更に、本発明は2本の経糸で織組織を構成し、かつ接結させる構造をとるため、接結糸は2本のうちの少なくとも1本が織組織構造と接結組織構造の両方を備えており、その部分で上面を構成する対になる他の1本により、接結箇所の織組織の崩れを最小限に抑える効果を奏することができる。
【0012】
(2)前記第一の組織を形成する下面側経糸の線径が前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径の130~300%であることを特徴とする上記(1)に記載された工業用二層織物である。
ここで下面側経糸の線径が上面側経糸の線径の130%未満である場合は、上面側経糸と下面側経糸の線径差が少なくなり、織物に伸びが生じる等し、剛性、脱水性に影響する危険が生じる。一方、下面側経糸の線径が上面側経糸の線径の300%を超えると、織物自体の空間が少なくなり、脱水速度の観点から問題が発生する危険が生じる。
(3)前記第二の組織において、扁平経糸のアスペクト比が1.1~2.0であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載された工業用二層織物である。
扁平経糸のアスペクト比が1.1未満の場合は、十分に薄い網厚を得ることができない。一方、扁平経糸のアスペクト比が2.0を超えると、扁平糸自体が薄いものとなり、織物自体の空間が少なくなり、織物の強度が低下し、脱水性に影響する危険が生じる。
【0013】
(4)前記工業用二層織物が、前記第一の組織と前記第二の組織とが交互に配置されて構成されていることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれか一に記載された工業用二層織物である。
本発明に係る工業用二層織物を構成する糸としては、上面側緯糸と織り合わせる上面側経糸、上面側緯糸と下面側緯糸の両方と織り合わせる経糸接結糸が存在し、上面側経糸と経糸接結糸が上下に配置する経糸接結糸の組を構成している。ここで、上下に配置するとあるが、上面側経糸は上面側緯糸のみと織り合わされており、経糸接結糸は上面側緯糸と下面側緯糸の両方と織り合わされているため、完全に重なって配置されているわけではなく、実際にはずれて配置されている。また、経糸接結糸の組の他に、上面側緯糸と織り合わせる上面側経糸、下面側緯糸と織り合わせる下面側経糸からなる上下経糸の組を配置しても構わない。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る工業用二層織物の構成を採用することによって、剛性、耐摩耗性、脱水性、マーク抑制、保水量を軽減させる低保水性といった織物の基本的な特性を充足する効果を得ることができる。
また本発明に係る工業用二層織物の構成を採用することによって、高速抄紙機に対応する新規な工業用二層織物を提供することができる。本発明は、経畝織に扁平経糸を組み合わせることによって、扁平糸構造の織物を有する経糸接結構造による緩慢脱水及び低保水を実現することができるため、従来の織物に比較して脱水性を大幅に向上させ、低保水性を有するという優れた効果を奏する。
更に本発明に係る工業用二層織物の構成を採用することによって、上面側織物と下面側織物の経糸空間の比率を同程度とすることができるため、上面側緯糸と下面側緯糸の線径に差を持たせることによって空間密度の差を任意に設計でき、上面側緯糸と下面側緯糸の比率を変えることで脱水性や保水性の調整を可能とする効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を構成する経糸及び緯糸のナックル形状や高さを有した織物の作用効果を説明するための概念図である。(a)は従来の経糸及び緯糸の概念図である。(b)及び(c)は本発明を構成する経糸及び緯糸の概念図である。
図2】本発明の実施形態1に係る完全組織を示す意匠図である。
図3】本発明の実施形態1に係る側方から見た経糸の状態を示す一部側面配置図である。
図4】本発明の実施形態2に係る完全組織を示す意匠図である。
図5】本発明の実施形態2に係る側方から見た経糸の状態を示す一部側面配置図である。
図6】本発明の実施形態3に係る完全組織を示す意匠図である。
図7】本発明の実施形態3に係る側方から見た経糸の状態を示す一部側面配置図である。
図8】本発明の実施形態4に係る完全組織を示す意匠図である。
図9】本発明の実施形態4に係る側方から見た経糸の状態を示す一部側面配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る工業用二層織物の実施形態を説明する。以下に示す実施形態は、本発明の一例であって、本発明を限定するものではない。
本発明に係る工業用二層織物は、上面側経糸と上面側緯糸とからなる上面側織物と、下面側経糸と下面側緯糸とからなる工業用二層織物において、当該工業用二層織物が完全組織中に少なくとも第一の組織と第二の組織を有し、当該第一の組織が上面側経糸2本組と下面側経糸1本によって形成され、前記第二の組織が上面側経糸1本と下面側経糸1本によって形成され、前記第一の組織と前記第二の組織は隣接して配置されており、前記第一の組織における上面側経糸は上面側織物と下面側織物とを接結する機能を有する経糸接結糸によって形成されており、前記第一の組織を形成する2本組の上面側経糸は隣接配置され上面側織物の表面で一部畝織を構成し、前記下面側経糸の線径が前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径よりも大きく、かつ前記第二の組織における上面側経糸が扁平経糸によって形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明に使用される糸は用途によって選択すればよいが、例えば、モノフィラメントの他、マルチフィラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、あるいはこれらを撚り合わせる等して組み合わせた糸が使用できる。また、扁平経糸以外の糸の断面形状も円形だけでなく、星型形状、矩形状又は多角形状の糸や楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の材質としても、自由に選択でき、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロ、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、綿、ウール、金属等が使用できる。もちろん、共重合体やこれらの材質に目的に応じてさまざまな物質をブレンド又は含有させた糸を使用しても良い。工業用織物としては一般的には、上面側経糸、下面側経糸、下経地糸接結糸、上面側緯糸には剛性があり、寸法安定性に優れるポリエステルモノフィラメントを用いるのが好ましい。また、剛性や耐摩耗性が要求される下面側緯糸には、ポリエステルモノフィラメントとポリアミドモノフィラメントを交互に配置する等、交織することも可能である。
【0018】
又、本発明において、第一の組織における経糸2本組は、並列することによって協働して畝織されている。図1は、本発明を構成する経糸のナックル形状や高さを説明するための概念図である。図1(a)は、従来の経糸及び緯糸による織り合わせ箇所を示す概念図である。そして、織物における線径の経糸及び緯糸を用いたナックル形状や高さを示す概念図である。又、図1(b)は、第一の組織における2本組の上面側経糸1t,2tが上面側緯糸1’uの下側に配置されている図である。又、図1(c)は、第二の組織における扁平経糸3hが、上面側緯糸1’uの下側に配置されている図である。本発明における第一の組織に使用される経糸は、上面側経糸が下面側経糸よりも糸の線径が小さい点に特徴を有する。そのため図1に示す如く、上面側経糸1t,2t及び扁平経糸3hによって形成されるナックル形状の縦長L2,L3は、従来の線径の糸によって形成されるナックル形状の縦長L1より小さくなることが分かる。
そのため、本発明に係る工業用二層織物は、従来の工業用二層織物に比較して、上面組織側におけるナックル形状を平たく形成することができるため、網厚を抑えた織物を得ることができる。又、2本の経糸や扁平経糸に織り込まれる緯糸は、ナックル形状が平たくなるため、表面平滑性や繊維支持性を向上させることができる。更に、厚みを増やすことなく、網目を小さく調整することができるため、従来にない脱水特性を付与することができる。
そして本発明は、2本の経糸で織組織を構成し、かつ接結する構造を有するため、接結糸は、一組の2本のうちの1本が組織構造と接結組織構造の両方を備えることになり、上面側を構成する他の1本の糸により、接結箇所の織組織の崩れを最小に抑えることができる。
【0019】
又、本発明に係る工業用二層織物は、前記上面側経糸の線径は全て同じに構成することができる。又、前記下面側経糸の線径を全て同じに構成しても良い。更に、下面側経糸の線径が上面側経糸の線径の130~300%に構成してもよい。このように構成することによって、上面側織物と下面側織物の接結を比較的細い経糸2本で構成する畝織の片方の糸で接結することができるため、織物内部を上下する接結糸の線径は従来の経糸接結糸を用いた工業用二層織物における経糸接結糸より細い糸で構成することができる。したがって、部分的な脱水ムラの発生を最小限に抑制することができる。更に、従来は織物を形成する糸の線径を細くして網厚を制御していたが、上下異線径の工業用二層織物の場合、上面側の経糸の空間は下面側に対し大きくなり、脱水抑制と網厚抑制の両立が困難であった。本発明は、2本の細い経糸と、扁平経糸の組み合わせによって、網厚を維持したまま脱水速度の調節が可能となった。
【0020】
又、本発明において、第一の組織を構成する2本組からなる上面側経糸の線径を、第二の組織を構成する1本組からなる上面側経糸の線径より細いものを使用しても良い。第一の組織を構成する2本組からなる上面側経糸の線径を細くすることにより、ナックル形成時に緯糸に掛かる力を1本組と同程度にすることができ、表面平滑性、繊維支持性等を向上させる事ができる。また、線材と合わせて線径を選択することで線径を調節することもできるため、線径、線材は適宜選択できる。
又、本発明において、オンスタック構造を採用しても良い。オンスタック構造とすることによって、高い脱水性を得ることができ、一方、表面組織が畝織であるため、2本の糸で縦目を適度に塞ぎ、上面側と下面側の目開きに過剰な差を抑えることができるため、脱水速度を制御することができる。
【0021】
次に本発明の工業用二層織物に係る実施形態を図面に則して説明する。図2図9は本発明の工業用二層織物に係る一例を示す意匠図及び一部側面配置図である。意匠図とは織物組織の最小の繰り返し単位であって、この完全組織が上下左右につながって織物全体の組織が形成される。意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1、2、3・・・で示した。緯糸はダッシュを付したアラビア数字、例えば1’、2’、3’・・・で示した。接結糸は第一の組織を構成する上面側経糸である。また、×印は第一の組織を構成する一の上面側経糸が上面側緯糸の上側に位置していることを示し、△印は上面側経糸が下面側緯糸の下側に位置していることを示し、○印は下面側経糸が下面側緯糸の下側に位置していることを示す。同じ数字が付された上面側経糸と下面側経糸及び上面側緯糸と下面側緯糸は上下に配置されている。意匠図では糸が上下に正確に重なって配置されるか、2本の上面側経糸の中間地点に下面側経糸が配置されることになっているが、これは図面の都合上であって実際の織物で多少ずれて配置されても構わない。
【0022】
実施形態1
図2は本発明の工業用二層織物に係る実施形態1の意匠図である。図3は本発明の工業用二層織物に係る実施形態1の一部側面配置図である。本実施形態1に係る第一の組織は、上面側経糸2本組と下面側経糸1本によって構成されている。第一の組織における上面側経糸は、上面側織物と下面側織物とを接結する機能を有する経糸接結糸によって形成されている。又、第一の組織を形成する2本組の上面側経糸は隣接配置され上面側織物の表面で一部畝織を構成している。又、第二の組織は、上面側経糸1本と下面側経糸1本によって構成されている。第二の組織における上面側経糸は、扁平経糸によって形成されている。又、図2に示す如く、第一の組織1,3,5と第二の組織2,4,6は隣接し交互に配置されて構成されている。更に、前記下面側経糸の線径は、前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径よりも大きく形成されている。
【0023】
具体的には図2及び図3に示す如く、第一の組織における一の上面側経糸1は、下面側緯糸1’の下側を通り、上面側緯糸5’,7’,9’,11’,13’,15’,17’,19’,21’の上側を通る組織となっている。そして第一の組織における他の上面側経糸1は、上面側緯糸1’,3’,5’,7’,9’の上側を通り、下面側緯糸13’の下側を通り、更に上面側緯糸17’,19’,21’,23’の上側を通る組織となっている。下面側経糸1は、下面側緯糸1’,13’の下側を通っている。そのため図3から明らかなように、第一の組織における2本組の上面側経糸1は、上面側緯糸5’,7’,9’及び17’,19’,21’において、上面側織物の表面で一部畝織を構成することになる。 次に第二の組織における扁平経糸である上面側経糸2は、上面側緯糸2’,4’,6’,8’,10’,12’,14’,16’,18’,20’,22’,24’の上側を通り平織を形成している。第二の組織における下面側経糸2は、下面側緯糸3’,15’の下側を通っている。
【0024】
本実施形態1に係る工業用二層織物における第一の組織は、上面側織物の表面の一部に2本の細い上面側経糸を並列させ畝織を構成することによって擬似扁平糸を形成することができる。更に第二の組織における扁平経糸を第一の組織に隣接配置することによって、扁平糸のみを使用して表面組織を形成する織物と同様に、厚みを抑えつつ好適な剛性と伸び耐性を確保し、耐摩耗性、好適な脱水性、低保水性及び表面平滑性に優れた織物を提供することができる。
また本実施形態1に係る織物構造を採用することによって、織物の厚みを抑えつつ網目を小さくすることが可能であるため、糸の線径を選択することによって脱水性及び保水性を調節することができる。
更に2本の畝織組織によって、緯糸のナックル形状を平たくすることができるため、表面平滑性及び繊維支持性を向上させることができる。
【0025】
実施形態2
図4は本発明の工業用二層織物に係る実施形態1の意匠図である。図5は本発明の工業用二層織物に係る実施形態2の一部側面配置図である。本実施形態2に係る第一の組織は、上面側経糸2本組と下面側経糸1本によって構成されている。第一の組織における上面側経糸は、上面側織物と下面側織物とを接結する機能を有する経糸接結糸によって形成されている。又、第一の組織を形成する2本組の上面側経糸は隣接配置され上面側織物の表面で一部畝織を構成している。又、第二の組織は、上面側経糸1本と下面側経糸1本によって構成されている。第二の組織における上面側経糸は、扁平経糸によって形成されている。又、図4に示す如く、第一の組織1,3,5と第二の組織2,4,6は隣接し交互に配置されて構成されている。更に、前記下面側経糸の線径は、前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径よりも大きく形成されている。
【0026】
具体的には図4及び図5に示す如く、第一の組織における一の上面側経糸1は、上面側緯糸1’,3’,5’,7’の上側を通り、下面側緯糸10’の下側を通って、上面側緯糸13’,15’,17’の上側を通る組織となっている。そして第一の組織における他の上面側経糸1は、下面側緯糸1’の下側を通り、上面側緯糸3’,5’,7’,9’,11’,13’,15’,17’の上側を通る組織となっている。下面側経糸1は、下面側緯糸1’,10’の下側を通っている。そのため図5から明らかなように、第一の組織における2本組の上面側経糸1は、上面側緯糸3’,5’,7’及び13’,15’,17’において、上面側織物の表面で一部畝織を構成することになる。
次に第二の組織における扁平経糸である上面側経糸2は、上面側緯糸2’,4’,6’,8’,10’,12’,14’,16’,18’の上側を通り平織を形成している。第二の組織における下面側経糸2は、下面側緯糸2’,11’の下側を通っている。
【0027】
本実施形態2に係る工業用二層織物における第一の組織は、上面側織物の表面の一部に2本の細い上面側経糸を並列させ畝織を構成することによって擬似扁平糸を形成することができる。更に第二の組織における扁平経糸を第一の組織に隣接配置することによって、扁平糸のみを使用して表面組織を形成する織物と同様に、厚みを抑えつつ好適な剛性と伸び耐性を確保し、耐摩耗性、好適な脱水性及び表面平滑性に優れた織物を提供することができる。
また本実施形態2に係る織物構造を採用することによって、織物の厚みを抑えつつ網目を小さくすることが可能であるため、糸の線径を選択することによって脱水特性を調節することができる。
更に2本の畝織組織によって、緯糸のナックル形状を平たくすることができるため、表面平滑性及び繊維支持性を向上させることができる。
【0028】
実施形態3
図6は本発明の工業用二層織物に係る実施形態3の意匠図である。図7は本発明の工業用二層織物に係る実施形態3の一部側面配置図である。本実施形態3に係る第一の組織は、上面側経糸2本組と下面側経糸1本によって構成されている。第一の組織における上面側経糸は、上面側織物と下面側織物とを接結する機能を有する経糸接結糸によって形成されている。又、第一の組織を形成する2本組の上面側経糸は隣接配置され上面側織物の表面で一部畝織を構成している。又、第二の組織は、上面側経糸1本と下面側経糸1本によって構成されている。第二の組織における上面側経糸は、扁平経糸によって形成されている。又、図6に示す如く、第一の組織1,3,5と第二の組織2,4,6は隣接して配置されて構成されている。更に、前記下面側経糸の線径は、前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径よりも大きく形成されている。
【0029】
具体的には図6及び図7に示す如く、第一の組織における一の上面側経糸1は、上面側緯糸1’,3’,5’,7’の上側を通り、下面側緯糸10’の下側を通って、上面側緯糸13’,15’,17’の上側を通る組織となっている。下面側経糸1は、下面側緯糸1’,10’の下側を通っている。そして第一の組織における他の上面側経糸1は、下面側緯糸1’の下側を通り、上面側緯糸5’,7’,9’,11’,13’,15’の上側を通る組織となっている。そのため図7から明らかなように、第一の組織における2本組の上面側経糸1は、上面側緯糸5’,7’及び13’,15’において、上面側織物の表面で一部畝織を構成することになる。
次に第二の組織における扁平経糸である上面側経糸2は、上面側緯糸2’,4’,6’,8’,10’,12’,14’,16’,18’の上側を通り平織を形成している。第二の組織における下面側経糸2は、下面側緯糸2’,11’の下側を通っている。
【0030】
本実施形態3に係る工業用二層織物における第一の組織は、上面側織物の表面の一部に2本の細い上面側経糸を並列させ畝織を構成することによって擬似扁平糸を形成することができる。更に第二の組織における扁平経糸を第一の組織に隣接配置することによって、扁平糸のみを使用して表面組織を形成する織物と同様に、厚みを抑えつつ好適な剛性と伸び耐性を確保し、耐摩耗性、好適な脱水性及び表面平滑性に優れた織物を提供することができる。
また本実施形態3に係る織物構造を採用することによって、織物の厚みを抑えつつ網目を小さくすることが可能であるため、糸の線径を選択することによって脱水特性を調節することができる。
更に2本の畝織組織によって、緯糸のナックル形状を平たくすることができるため、表面平滑性及び繊維支持性を向上させることができる。
【0031】
実施形態4
図8は本発明の工業用二層織物に係る実施形態4の意匠図である。図9は本発明の工業用二層織物に係る実施形態4の一部側面配置図である。本実施形態4に係る第一の組織は、上面側経糸2本組と下面側経糸1本によって構成されている。第一の組織における上面側経糸は、上面側織物と下面側織物とを接結する機能を有する経糸接結糸によって形成されている。又、第一の組織を形成する2本組の上面側経糸は隣接配置され上面側織物の表面で一部畝織を構成している。又、第二の組織は、上面側経糸1本と下面側経糸1本によって構成されている。第二の組織における上面側経糸は、扁平経糸によって形成されている。又、図8に示す如く、第一の組織1と第二の組織2,8は隣接して配置されて構成されており、第一の組織5と第二の組織4,6は隣接して配置されて構成されている。更に、前記下面側経糸の線径は、前記第一の組織を形成する上面側経糸の線径よりも大きく形成されている。
【0032】
具体的には図8及び図9に示す如く、第一の組織における一の上面側経糸1は、上面側緯糸1’,3’,5’,7’,9’,11’の上側を通り、下面側緯糸13’の下側を通って、上面側緯糸15’,17’の上側を通る組織となっている。下面側経糸1は、下面側緯糸1’,7’,13’の下側を通っている。そして第一の組織における他の上面側経糸1は、下面側緯糸1’の下側を通り、上面側緯糸3’,5’,7’,9’,11’,13’,15’,17’の上側を通る組織となっている。そのため図9から明らかなように、第一の組織における2本組の上面側経糸1は、上面側緯糸3’,5’,7’,9’,11’及び15’,17’において、上面側織物の表面で一部畝織を構成することになる。
次に第二の組織における扁平経糸である上面側経糸2は、上面側緯糸2’,4’,6’,8’,10’,12’,14’,16’,18’の上側を通り平織を形成している。第二の組織における下面側経糸2は、下面側緯糸2’,8’,14’の下側を通っている。
次に第二の組織における扁平経糸である上面側経糸3は、上面側緯糸1’,3’,5’,7’,9’,11’,13’,15’,17’の上側を通り平織を形成している。第二の組織における下面側経糸3は、下面側緯糸4’,10’,16’の下側を通っている。
次に第二の組織における扁平経糸である上面側経糸4は、上面側緯糸2’,4’,6’,8’,10’,12’,14’,16’,18’の上側を通り平織を形成している。第二の組織における下面側経糸4は、下面側緯糸5’,11’,17’の下側を通っている。
【0033】
本実施形態4に係る工業用二層織物における第一の組織は、上面側織物の表面の一部に2本の細い上面側経糸を並列させ畝織を構成することによって擬似扁平糸を形成することができる。更に第二の組織における扁平経糸を第一の組織に隣接配置することによって、扁平糸のみを使用して表面組織を形成する織物と同様に、厚みを抑えつつ好適な剛性と伸び耐性を確保し、耐摩耗性、好適な脱水性及び表面平滑性に優れた織物を提供することができる。
また本実施形態4に係る織物構造を採用することによって、織物の厚みを抑えつつ網目を小さくすることが可能であるため、糸の線径を選択することによって脱水特性を調節することができる。
更に2本の畝織組織によって、緯糸のナックル形状を平たくすることができるため、表面平滑性及び繊維支持性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0034】
1~8 経糸
1’~24’ 緯糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9