(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】電磁波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20220112BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20220112BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2018232235
(22)【出願日】2018-12-12
(62)【分割の表示】P 2016241731の分割
【原出願日】2016-12-14
【審査請求日】2019-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】請井 博一
(72)【発明者】
【氏名】宇井 丈裕
(72)【発明者】
【氏名】山形 一斗
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄希
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】北川 祐矢
(72)【発明者】
【氏名】佐々 和明
【審査官】五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-6436(JP,A)
【文献】特開2004-296758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 7/025
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と、上記誘電体層の一方の面に設けられる抵抗層と、上記誘電体層の他方の面に設けられ上記抵抗層より低いシート抵抗を有する導電層とを有する電磁波吸収体であって、上記誘電体層が単層または複層からなり、上記誘電体層
の比誘電率が1~5.19の範囲にあって、
上記誘電体層の厚みが100~1000μmの範囲にあり、上記導電層の厚みが20nm~100μmの範囲にあり、60~90GHzの周波数帯域において、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅が5GHz以上であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
上記導電層のシート抵抗が、1.0×10
-7~100Ω/□の範囲に設定された請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
上記誘電体層が単層または二層からなるものである請求項1または2記載の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波障害を防止するための電磁波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電磁波を情報通信媒体とした利用が進んでいる。このような電磁波の利用としては、例えば、自動車の技術分野において、レーダにより障害物を検知して自動でブレーキをかけたり、周辺車両の速度や車間距離を測定して自車の速度や車間距離を制御したりする、衝突予防システムがある。衝突予防システム等が正常に動作するには、誤認防止のため、不要な電磁波(ノイズ)をできるだけ受信しないようにすることが重要である。したがって、これらのシステム等には、ノイズを吸収する電磁波吸収体が用いられることがある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
そして、上記衝突予防システム等において、より高い検知性能を実現するため、レーダ自体の性能が向上しており、従来の周波数(24GHz)よりも高い周波数(76.5GHz,79GHz)のレーダの利用が進められているため、高周波帯域においてノイズを高吸収する電磁波吸収体が求められている。また、レーダの分解能を向上させるため、使用周波数の広帯域化(76GHzの場合1GHz、79GHzの場合4GHz)も進んでおり、電磁波吸収体においても広帯域幅での吸収性能が求められている。しかし、特許文献1,2に示すように、従来の電磁波吸収体は、対象となる周波数近傍のごく限られた範囲にしか吸収能を発揮することができず、高い周波数帯域をカバーできないという問題がある。また、使用中の環境の変化や経時により、電磁波吸収体を構成する材料の特性が変化すると、それに応じて吸収することのできる周波数(吸収ピーク)も変動する可能性があり、設定した周波数において充分な吸収能を発揮できないことが懸念される。また、レーダの周波数が少しでも変動すると、吸収能を発揮できなくなるという問題もある。
【0004】
さらに、上記衝突予防システム等において、より一層の高い精度を実現するため、周波数の異なる複数のレーダが併用されることが考えられる。しかし、上記のとおり、通常、電磁波吸収体の吸収能は、対象とする周波数近傍のごく限られた範囲にしか発揮することができないため、周波数の異なるレーダごとに異なる電磁波吸収体を用意する必要があり、電磁波吸収体のコストが高くなるとともに、多数の電磁波吸収体を用いることにより総重量が重くなるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-120689号公報
【文献】特開平10-13082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みなされたもので、高い分解能を有するレーダに対して用いることができる、広帯域幅において優れた吸収能を有する電磁波吸収体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、以下の[1]および[2]を提供する。
[1]誘電体層と、上記誘電体層の一方の面に設けられる導電層とを有する電磁波吸収体であって、上記導電層の厚みが20nm~100μmの範囲にあり、60~90GHzの周波数帯域において、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅が2GHz以上であることを特徴とする、電磁波吸収体。
[2]上記導電層のシート抵抗が、1.0×10-7~100Ω/□の範囲に設定された、[1]に記載の電磁波吸収体。
【0008】
本発明者らは、分解能が向上したレーダの周波数とその波動の振幅との関係に着目し、これらのレーダに対応することのできる優れた吸収能を有する電磁波吸収体を得ることを目的として鋭意研究を行った。その結果、60~90GHzの周波数帯域において、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅を2GHz以上である電磁波吸収体とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電磁波吸収体は、60~90GHzの周波数帯域において、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅が2GHz以上であり、広い周波数帯域においてノイズを排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態の一つである電磁波吸収体の断面図である。
【
図2】
図1に示す電磁波吸収体に粘着層を設けた場合を説明する図である。
【
図3】(a),(b)はいずれも
図1に示す電磁波吸収体の製法を説明する図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態である電磁波吸収体の断面図である。
【
図5】
図4に示す電磁波吸収体に粘着層を設けた場合を説明する図である。
【
図6】(a)~(f)はそれぞれ実施例1~6の反射吸収量を測定し、周波数(GHz)と反射吸収量(dB)との関係を示したグラフ図である。
【
図7】(a)~(f)はそれぞれ実施例7~10および比較例1,2の反射吸収量を測定し、周波数(GHz)と反射吸収量(dB)との関係を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
本発明の電磁波吸収体は、60~90GHzの周波数帯域において、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅を2GHz以上有しているものであり、好ましくは5GHz以上、より好ましくは10GHz以上有し、その上限は、通常、30GHzである。また、さらに好ましくは70~85GHzの周波数帯域において2GHz以上、より好ましくは5GHz以上、さらに好ましくは10GHz以上有し、その上限は、通常、30GHzである。
【0013】
上記電磁波吸収量および電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅は、例えば、反射電力法、導波管法等によって測定することができる。本発明においては、キーコム社製 電波吸収体(電波吸収材料)・反射減衰量 測定装置LAF-26.5Bを用いて、JIS R 1679 (電波吸収体のミリ波帯における電波吸収特性測定方法)に準拠し、斜入射15°でサンプルに対して電磁波を照射して反射吸収量を測定し、電磁波吸収量としている。また、同測定において得られた反射吸収曲線より、反射吸収量が20dB以上となる周波数帯域を特定し、電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅としている。
【0014】
この構成によれば、高い周波数の電磁波、例えば、76~81GHzの周波数帯域内にある特定の波長の電磁波を確実に排除することが可能になるため、より高い分解能を有するレーダとして、76~81GHz近傍の周波数のものが採用された場合であっても、発生するノイズを確実に排除することができる。また、環境変化や経時的変化により、電磁波吸収体を構成する材料の特性に変化が生じ、吸収することのできる周波数(吸収ピーク)が変動した場合であっても、排除対象として設定されたレーダの周波数において充分な吸収能を発揮することができる。また、レーダの周波数が変動した場合であっても、充分な吸収能を発揮することができる。さらに、上記周波数近傍において周波数の異なる複数のレーダを用いた場合であっても、複数のレーダからのノイズを確実に排除することができる。このため、従来のように周波数の異なるレーダごとに異なる性能の電磁波吸収体を用いる必要がなくなり、低コストを実現することができる。
【0015】
本発明の電磁波吸収体は、磁性損失を利用する磁性電磁波吸収体、誘電損失を利用する誘電性電磁波吸収体、抵抗損失を利用する導電性電磁波吸収体およびλ/4型電磁波吸収体のいずれの方式の電磁波吸収体であってもよいが、とりわけ耐久性、軽量性、薄膜化が容易である点でλ/4型電磁波吸収体が好ましく、加工性に優れる点で磁性電磁波吸収体、誘電性電磁波吸収体が好ましい。
【0016】
上記λ/4型電磁波吸収体である本発明の電磁波吸収体としては、例えば、
図1に示すように、抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cとをこの順で有し、上記抵抗層Aの外側と、導電層Cの外側に、それぞれ樹脂層D
1,D
2が設けられているものがあげられる。なお、
図1において、各部分は模式的に示したものであり、実際の厚み、大きさ等とは異なっている(以下の図においても同じ)。また、抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cの構成で充分に効果を奏することができるため、樹脂層D
1,D
2は、任意に設けられた構成である。
【0017】
上記抵抗層Aは、電磁波吸収体内部へ電磁波を透過させることが求められるため、空気に近い比誘電率を有していることが好ましく、通常、酸化インジウムスズ(以下「ITO」とする)が用いられる。なかでも、非晶質構造が極めて安定であり、高温多湿の環境下においても抵抗層Aのシート抵抗の変動を抑えることができる点から、20~40重量%のSnO2、より好ましくは25~35重量%のSnO2を含有するITOを主成分とするものが好ましく用いられる。なお、本発明において「主成分とする」とは、その材料の特性に影響を与える成分の意味であり、その成分の含有量は、通常、材料全体の50質量%以上であり、当然、その成分のみからなるものも含まれる。
【0018】
また、抵抗層Aのシート抵抗は320~500Ω/□の範囲に設定されることが好ましく、より好ましくは360~450Ω/□の範囲である。抵抗層Aのシート抵抗が上記範囲内であると、ミリ波レーダや準ミリ波レーダとして汎用される波長(周波)の電磁波を選択的に吸収しやすくなるためである。
【0019】
そして、抵抗層Aの厚みは、15~100nmの範囲であることが好ましく、25~50nmの範囲であることがより好ましい。厚みが厚すぎても、逆に薄すぎても、経時的あるいは環境的変化が加えられた際の、シート抵抗値の信頼性が低下する傾向がみられるためである。
【0020】
上記誘電体層Bは、吸収の対象とする電磁波の波長に合わせ、所定の比誘電率を有する樹脂組成物を、硬化後に所定の厚みとなるように形成し、硬化させることによって得られるものである。上記樹脂組成物としては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、塩化ビニル、ウレタン、アクリル、アクリルウレタン、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ等の合成樹脂や、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン・プロピレンゴムおよびシリコーンゴム等の合成ゴム材料を樹脂成分として用いることが好ましい。とりわけ、成形性と比誘電率の点から、EVAまたはアクリル樹脂を用いることが好ましい。なお、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができ、誘電体層Bは、単層あるいは複層とすることもできる。
【0021】
また、誘電体層Bは比誘電率が小さいほど広帯域化しやすいことから、上記材料を発泡化した発泡体を使用してもよい。またこのような発泡体としては、柔軟性の高い発泡体が好ましく用いられる。
【0022】
誘電体層Bの比誘電率は、1~10の範囲にあることが好ましく、1~5の範囲にあることがより好ましく、1~3の範囲にあることがさらに好ましい。比誘電率が上記範囲内であると、誘電体層を制御しやすい厚みに設定することができ、かつ電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅をより広いものに設定することが可能となり、吸収能をより均一に有する電磁波吸収体を得ることができる。
【0023】
なお、上記誘電体層Bの比誘電率は、アジレント・テクノロジー社製 ネットワークアナライザーN5230C、関東電子応用開発社製 空洞共振器CP531等を用い、10GHzにおける比誘電率を空洞共振器摂動法により測定することができる。
【0024】
誘電体層Bの厚みは、50~2000μmであることが好ましく、100~1500μmであることがより好ましく、100~1000μmであることがさらに好ましい。薄すぎると厚み寸法精度の確保が困難となり、吸収性能の精度が低下する恐れがあり、厚すぎると重量も増すこともあり扱いにくくなったり、材料コストが高くなる傾向がある。
【0025】
上記導電層Cは、対象とする電磁波を電磁波吸収体の裏面近傍で反射させるために配置されるものであり、そのシート抵抗は、抵抗層Aのシート抵抗より充分に低く設定されている。これらのことから、導電層Cの材料としては、例えば、ITO、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、およびこれらの金属の合金があげられる。なかでも、導電層CにITOを用いることで、透明な電磁波吸収体を供することができ、透明性が必要とされる部位への適用が可能となるだけでなく、施工性の改善を図ることができるため、とりわけ5~15重量%のSnO2を含有するITOが好ましく用いられる。導電層CにITOを用いた場合の厚みは、20~200nmであることが好ましく、50~150nmであることがより好ましい。厚みが厚すぎると導電層Cに応力によりクラックが入り易くなる傾向がみられ、薄すぎると所望の低い抵抗値が得られ難くなる傾向がみられるためである。一方、シート抵抗値をより容易に下げることができ、ノイズをより低減することができる点から、Alまたはその合金が好ましく用いられる。Alまたはその金属合金を用いた場合の導電層Cの厚みは、20nm~100μmであることが好ましく、50nm~50μmであることがより好ましい。厚みが厚すぎると電磁波吸収体が剛直となり扱いづらくなる傾向がみられ、薄すぎると所望の低い抵抗値が得られがたくなる傾向がみられるためである。また、導電層Cのシート抵抗は、1.0×10-7Ω~100Ωであることが好ましく、1.0×10-7Ω~20Ωであることが好ましい。
【0026】
上記樹脂層D1,D2は、抵抗層Aまたは導電層Cをスパッタ等により形成する際の基板となるものであり、電磁波吸収体に形成された後に、抵抗層Aおよび導電層Cを外部からの衝撃等から保護する等の役割を果たすものである。このような樹脂層D1,D2の材料としては、抵抗層Aまたは導電層Cの形成に用いる蒸着やスパッタ等の高温に耐えうるものであることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)等があげられる。なかでも、耐熱性に優れ、寸法安定性とコストとのバランスがよいことからPETが好ましく用いられる。なお、樹脂層D1,D2は、互いに同じ材料からなっていてもよいし、それぞれ異なる材料からなっていてもよい。また、単層にかぎらず複層であってもよいし、樹脂層D1,D2を設けなくてもよい。
【0027】
樹脂層D1,D2の厚みは、それぞれ10~125μmであることが好ましく、20~50μmであることがより好ましい。薄すぎると、抵抗層Aを形成する際にシワや変形が起こりやすい傾向がみられるためであり、厚すぎると、電磁波吸収体としての屈曲性が低下する傾向がみられるためである。また、樹脂層D1,D2は互いに同じ厚みであってもよいし、それぞれ異なる厚みであってもよい。
【0028】
なお、上記実施の形態では、電磁波吸収体が、抵抗層A、誘電体層B、導電層C、樹脂層D
1,D
2の積層体からなっているが、電磁波吸収体にはこれらの層以外の層を設けてもよい。すなわち、樹脂層D
1の外側、抵抗層Aと誘電体層Bの間、誘電体層Bと導電層Cの間、樹脂層D
2の外側等に他の層を設けるようにしてもよい。例えば、抵抗層Aと誘電体層Bの間にコート層(図示せず)を設けると、誘電体層B中の成分が抵抗層Aに拡散することを防止することができ、抵抗層Aの保護を図ることができる。同様に、導電層Cと誘電体層Bの間にコート層(図示せず)を設けると、誘電体層B中の成分が導電層Cに拡散することを防止することができ、導電層Cの保護を図ることができる。また、
図2に示すように、樹脂層D
2の外側に粘着層Gを設けると他の部材(被取り付け部材)への取り付けが容易になる。
【0029】
上記コート層の材料としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(SiN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ニオブ(Nb2O5)、スズ・シリコン酸化物(STO)、アルミニウム含有酸化亜鉛(AZO)、窒化シリコン(SiN)等を用いることができる。
【0030】
上記粘着層Gの材料としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等の粘着剤を用いることができる。また、エマルション系接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤、ビニル系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いることもでき、被取り付け部材の材質や形状によって適宜選択することができる。なかでも、長期間にわたる粘着力を発揮し、取り付けの信頼性が高い点から、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0031】
このような電磁波吸収体(
図1参照)は、例えば、つぎのようにして製造することができる。
【0032】
まず、
図3(a)に示すように、フィルム状に成形された樹脂層D
1の上(図では下)に抵抗層Aを形成する。また、フィルム状に成形された樹脂層D
2の上に導電層Cを形成する。上記抵抗層Aおよび導電層Cは、スパッタ、蒸着等により形成することができる。なかでも、抵抗値や厚みを厳密に制御できる点から、いずれもスパッタを用いることが好ましい。
【0033】
つぎに、
図3(b)に示すように、誘電体層Bを形成する樹脂組成物をシート状にプレス成形する。そして、上記誘電体層Bの一方の面に、樹脂層D
1の上に形成された抵抗層Aを重ね、もう一方の面に、樹脂層D
2の上に形成された導電層Cを重ねる。これにより、
図1に示す、樹脂層D
1、抵抗層A、誘電体層B、導電層C、樹脂層D
2がこの順で積層された電磁波吸収体を得ることができる。
【0034】
これによれば、誘電体層Bの厚みの制御が容易であるため、対象とする波長(周波)の電磁波を効果的に吸収する電磁波吸収体とすることができる。また、抵抗層Aおよび導電層Cを別々に形成することができるため、電磁波吸収体の製造にかかる時間を短縮することができ、低コストで製造することができる。なお、樹脂層D1,D2を設けない場合には、例えば、誘電体層Bに、抵抗層Aおよび導電層Cの材料を、直接、スパッタ、蒸着等することにより電磁波吸収体を製造することができる。
【0035】
つぎに、前記磁性電磁波吸収体または誘電性電磁波吸収体である本発明の電磁波吸収体としては、例えば、
図4に示すように、誘電体層Eと導電層Fを有しているものがあげられる。磁性電磁波吸収体は、誘電体層Eの外側から照射された電磁波を、添加される磁性体の磁気モーメントの追従遅れを利用した磁性損失により吸収する電磁波吸収体である。一方、誘電性電磁波吸収体は、添加される誘電体の分極の追従遅れを利用した熱損失により吸収する電磁波吸収体である。なお、磁性体と誘電体とを組み合わせて添加した電磁波吸収体としてもよい。
【0036】
磁性電磁波吸収体の場合、上記誘電体層Eは、前記誘電体層Bと同様の材料からなる樹脂組成物に、磁性体を含有させたものを、硬化後に所定の厚みとなるように形成し、硬化させることによって得ることができる。上記磁性体としては、加えた電界により電磁波を吸収するものがあげられ、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの導電性カーボン、鉄、ニッケル、フェライトなどの磁性粉等を用いることができる。なかでも、樹脂組成物への分散性に優れる点から、錯体状のカルボニル金属を用いることが好ましく、とりわけカルボニル鉄粉が好ましく用いられる。
【0037】
誘電性電磁波吸収体の場合、上記誘電体層Eは、前記誘電体層Bと同様の材料からなる樹脂組成物に、誘電体を含有させたものを、硬化後に所定の厚みとなるように形成し、硬化させることによって得ることができる。上記誘電体としては、加えた磁界により電磁波を吸収するものがあげられ、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、膨張黒鉛などのカーボン、チタン酸バリウム やチタン酸ジルコン酸鉛等の強誘電体を用いることができる。なかでも、材料コストに優れる点からカーボン粉末が好ましく用いられる。
【0038】
そして、誘電体層Eの厚みは、50~2000μmであることが好ましく、100~1500μmであることがより好ましい。薄すぎると厚み寸法精度の確保が困難となる傾向がみられ、厚すぎると材料コストが高くなるだけでなく、重量が増加し過ぎる傾向がみられるためである。
【0039】
また、誘電体層Eの比誘電率は、1~10の範囲にあることが好ましく、1~5の範囲にあることがより好ましい。比誘電率が上記範囲内であると、誘電体層を制御しやすい厚みに設定することができ、かつ電磁波吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅をより広いものに設定することが可能となり、また、吸収能をより均一に有する電磁波吸収体を得ることができる。そして、設定および製造が容易であるため、低コストの電磁波吸収体を実現することができる。
【0040】
上記導電層Fは、対象とする波長(周波)の電磁波を電磁波吸収体の裏面近傍で反射させるために配置されるものであることから、導電層Fの材料としては、例えば、ITO、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、およびこれらの金属の合金があげられる。
【0041】
また、導電層Fの厚みは、20nm~100μmであることが好ましく、50nm~50μmであることがより好ましい。厚みが厚すぎると導電層Fに応力やクラックが入り易くなる傾向がみられ、薄すぎると所望の低い抵抗値が得られ難くなる傾向がみられるためである。そして、導電層Fのシート抵抗は、1.0×10-7Ω~100Ωであることが好ましく、1.0×10-7Ω~20Ωであることがより好ましい。
【0042】
このような電磁波吸収体(
図4参照)は、例えば、プレス成形等によりシート状に形成された誘電体層Eに、導電層Fの材料をスパッタ、蒸着等することにより製造することができる。
【0043】
なお、上記実施の形態では、電磁波吸収体が、誘電体層Eと導電層Fとの積層体からなっているが、電磁波吸収体にこれら以外の層を設けてもよい。すなわち、誘電体層Eの外側、誘電体層Eと導電層Fの間、導電層Fの外側等に他の層を設けるようにしてもよい。例えば、誘電体層Eと導電層Fの間にコート層(図示せず)を設けると、誘電体層E中の成分が導電層Fに拡散することを防止することができ、導電層Fの保護を図ることができる。また、
図5に示すように、樹脂層Fの外側に粘着層Gを設けると他の部材(被取り付け部材)への取り付けが容易になる。上記コート層および粘着層Gの材料としては、
図1に示す実施の形態と同様のものを用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例をあげて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
下記に示すとおり、実施例1~10および比較例1,2の電磁波吸収体を作製し、これらについて、キーコム社製 電波吸収体(電波吸収材料)・反射減衰量 測定装置 LAF-26.5Bを用いて、JIS R 1679(電波吸収体のミリ波帯における電波吸収特性測定方法)に準拠し、斜入射15°で電磁波を照射し、それぞれ反射吸収量を測定した。結果を後記の表1および
図6、
図7に示す。
【0046】
<実施例1>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250、比誘電率2.45)を120℃でプレス成形し、560μm厚シートに成形して誘電体層Bを作製した。この誘電体層Bの一方の面に、導電層Cとして表面抵抗が20Ω/□になるようにITOがスパッタ形成された38μm厚のPETフィルム(樹脂層D
1)を、導電層Cを誘電体層Bに対峙するように貼り合せた。そして、上記誘電体層Bのもう一方の面に、抵抗層Aとして表面抵抗が380Ω/□になるようにITOがスパッタ形成された38μm厚のPETフィルム(樹脂層D
2)を抵抗層Aが誘電体層Bに対峙するように貼り合せて、目的とする電磁波吸収体を得た。
【0047】
<実施例2>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bを下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
(誘電体層B)
三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250)100重量部に、堺化学工業社製チタン酸バリウム(BT-01)を50重量部添加し、ミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成形し、458μm厚シートに成形して誘電体層Bを作製した。この誘電体層Bの比誘電率は3.90であった。
【0048】
<実施例3>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bを下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
(誘電体層B)
三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250)100重量部に、堺化学工業社製チタン酸バリウム(BT-01)を100重量部添加し、ミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成形し、397μm厚シートに成形して誘電体層Bを作製した。この誘電体層Bの比誘電率は5.19であった。
【0049】
<実施例4>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bを下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
(誘電体層B)
三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250)100重量部に、堺化学工業社製チタン酸バリウム(BT-01)を200重量部添加し、ミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成形し、336μm厚のシートに成形して誘電体層Bを作製した。この誘電体層Bの比誘電率は7.25であった。
【0050】
<実施例5>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bを日東電工社製のオレフィン系発泡体SCF100(比誘電率1.07)を厚み822μmにスライス成形したものに変更し、抵抗層Aおよび導電層Cをそれぞれ厚み30μmに形成したアクリル系粘着剤を介して誘電体層Bに貼り合せた以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
【0051】
<実施例6>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bをポリエステル系発泡体SCF T100(比誘電率1.09)を厚み793μmにスライス成形したものに変更し、抵抗層Aおよび導電層Cをそれぞれ厚み30μmに形成したアクリル系粘着剤を介して誘電体層Bに貼り合せた以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
【0052】
<実施例7>
図4に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250)100重量部に、ニューメタルスエンドケミカルス社製 カルボニル鉄粉YW1を300重量部添加し、ミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成形し、1200μm厚シートに成形して誘電体層Eを作製した。この誘電体層Eの比誘電率は6.60であった。上記誘電体層Eの一方の面に、導電層Fとして、ITOフィルム(表面抵抗20Ω/□)を貼り合せて、目的とする電磁波吸収体を得た。
【0053】
<実施例8>
図4に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、導電層Fとして、アルミ箔/PET複合フィルム(UACJ社製 アルミ箔7μm/PET9μm)を、アルミ箔面を誘電体層Eに対峙させて貼り合せた以外は、実施例7と同様にして、目的とする電磁波吸収体を得た。
【0054】
<実施例9>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bをクラレ社製 熱可塑アクリル系エラストマー(クラリティー2330、比誘電率2.55)を150℃でプレス成形し、厚み561μmのシートに成形したものに変更した以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
【0055】
<実施例10>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bをクラレ社製 熱可塑アクリル系エラストマー(クラリティー2330、比誘電率2.55)を150℃でプレス成形し、厚み538μmのシートに成形したものに変更し、さらに、抵抗層Aとして、アルミ箔/PET複合フィルム(UACJ社製 アルミ箔7μm/PET9μm)を、アルミ箔面を誘電体層Bに対峙させて貼り合せた以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
【0056】
<比較例1>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bを下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
(誘電体層B)
三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250)100重量部に、堺化学工業社製チタン酸バリウム(BT-01)を300重量部添加し、ミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成形し、242μm厚シートに成形して誘電体層Bを作製した。この誘電体層Bの比誘電率は14.0であった。
【0057】
<比較例2>
図4に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Eを下記のように変更した以外は、実施例7と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
(誘電体層E)
三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250)100重量部に、ニューメタルスエンドケミカルス社製カルボニル鉄粉YW1を400重量部添加し、ミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成形し、1200μm厚シートに成形して誘電体層Eを作製した。この誘電体層Eの比誘電率は10.3であった。
【0058】
【0059】
上記表1および
図6、
図7の結果から、実施例1~10は、60~90GHzの周波数帯域において、反射吸収量が20dB以上である周波数帯域の帯域幅が2GHz以上あり、とりわけ実施例1~3、5、6、9、10は、同帯域幅が10.0GHz以上という広い幅を有することがわかる。また比誘電率が小さいほど20dB帯域幅が広くなる傾向にある。これに対し、比較例1、2は、60~90GHzの周波数帯域において、若干の吸収能を発揮するものの、反射吸収量が20dB以上となる吸収能をどの範囲においても実現することはできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、幅広い周波数帯域において、長期間にわたり不要な電磁波を吸収する性能を発揮することができるため、自動車衝突防止システムに用いるミリ波レーダの電磁波吸収体に好適に利用できる。また、その他の用途として自動車、道路、人の相互間で情報通信を行う高度道路交通システム(ITS)やミリ波を用いた次世代移動通信システム(5G)においても、電波干渉抑制やノイズ低減の目的で用いることができる。