(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】滑り止め施工用粘着シート
(51)【国際特許分類】
E04F 15/02 20060101AFI20220112BHJP
E04F 21/04 20060101ALI20220112BHJP
【FI】
E04F15/02 C
E04F21/04 Z
(21)【出願番号】P 2018510612
(86)(22)【出願日】2017-04-04
(86)【国際出願番号】 JP2017014070
(87)【国際公開番号】W WO2017175753
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2019-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2016078050
(32)【優先日】2016-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】為野 乗寛
(72)【発明者】
【氏名】田中 愛益
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 順
(72)【発明者】
【氏名】岡田 まりな
【審査官】津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-515802(JP,A)
【文献】特開2016-023521(JP,A)
【文献】特開平08-173895(JP,A)
【文献】特開平07-158244(JP,A)
【文献】特開2010-001736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/02
E04F 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層と、粘着剤層とを有し、前記表面層及び前記粘着剤層を貫通する複数の貫通孔を有し、
前記表面層の少なくとも表面露出面にはエンボス加工が施されている、滑り止め施工用粘着シート。
【請求項2】
前記貫通孔の数は、前記滑り止め施工用粘着シート100cm
2あたり3~1000個である請求項1に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項3】
前記貫通孔1つあたりの面積は0.01~20.0cm
2である請求項1又は2に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項4】
前記貫通孔の総面積が、前記滑り止め施工用粘着シートの全面積の2~60%である請求項1~3のいずれか1項に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項5】
厚みが0.05~1mmである請求項1~4のいずれか1項に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項6】
前記表面層の厚みが100~500μmである請求項1~5のいずれか1項に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項7】
前記粘着剤層は再剥離性を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項8】
前記粘着剤層の粘着力が0.5~10.0N/50mmである請求項1~7のいずれか1項に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項9】
前記表面層がプラスチックフィルムである請求項1~8のいずれか1項に記載の滑り止め施工用粘着シート。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の滑り止め施工用粘着シートの粘着剤層の一方の面側であって、前記表面層が積層された面とは反対の面側にさらに剥離剤層を有する剥離剤層付き滑り止め施工用粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止め施工用粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の床材には、大理石等の天然石や各種樹脂から構成されるタイル材などが用いられている。しかし、このような床材は、強度や耐候性に優れているが、表面に水分を纏うと滑りやすくなるという欠点を有している。このため、床材の表面に防滑性を付与する試みがなされている。床材の表面に防滑性を付与する方法としては、床材の表面に粒子等を配合した塗料樹脂を塗布し、滑り止め層を形成する方法や、床面の表面に凹凸形状を形成する方法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、滑り止め要素として粒子を含む床カバーが開示されている。ここでは、滑り止め要素の粒子が表面に突出することで、滑り止め機能を発揮している。また、特許文献2には、フィルム上に部分的に接着剤を付与し、その上に所定粒径の粒子を接着させて圧着することで形成されるノンスリップ床材が開示されている。さらに特許文献3の従来技術には、床材の表面に部分的な滑り止め加工を施す方法が開示されている。特許文献3の
図3では、床材の表面にマスキングシートを載置し、マスキングシートの開口部に樹脂材料等を塗布して防滑層を形成する方法が開示されている。ここでは、マスキングシートは1層構成の樹脂シートが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-143058号公報
【文献】実用新案登録第2545700号公報
【文献】特開平2-199081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2のような床全面を覆う床カバーを用いた場合、床材が本来有する風合いや模様等の意匠性が損なわれるという問題があった。また、このような床カバーを用いた場合、歩行性や台車の通行性が悪化する場合があり問題となっていた。
【0006】
一方で、床材の表面に部分的に防滑層を形成する方法を採用した場合、床材の意匠性が損なわれることは少ないが、その施工に技術を要する場合が多く、このような施工方法の採用が進んでいないのが現状であった。また、従来のマスキングシートを用いて防滑層を形成した場合は、防滑層の形状等が安定せず、十分な防滑性能を発揮できないという問題もあった。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、床材の意匠性を損なわずに優れた防滑性を付与し得る防滑層を形成するための粘着シートを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、滑り止め施工用粘着シートを所定の層構成で形成し、かつ滑り止め施工用粘着シートに複数の貫通孔を形成することで優れた防滑性を発揮する防滑層を形成し得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 表面層と、粘着剤層とを有し、表面層及び粘着剤層を貫通する複数の貫通孔を有することを特徴とする滑り止め施工用粘着シート。
[2] 貫通孔の数は、滑り止め施工用粘着シート100cm2あたり3~1000個である[1]に記載の滑り止め施工用粘着シート。
[3] 貫通孔1つあたりの面積は0.01~20.0cm2である[1]又は[2]に記載の滑り止め施工用粘着シート。
[4] 貫通孔の総面積が、滑り止め施工用粘着シートの全面積の2~60%である[1]~[3]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シート。
[5] 厚みが0.05~1mmである[1]~[4]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シート。
[6] 表面層の厚みが100~500μmである[1]~[5]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シート。
[7] 粘着剤層は再剥離性を有する[1]~[6]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シート。
[8] 粘着剤層の粘着力が0.5~10.0N/50mmである[1]~[7]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シート。
[9] 表面層がプラスチックフィルムである[1]~[8]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シート。
[10] 表面層の少なくとも表面露出面にはエンボス加工が施されている[1]~[9]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シート。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の滑り止め施工用粘着シートの粘着剤層の一方の面側であって、表面層が積層された面とは反対の面側にさらに剥離剤層を有する剥離剤層付き滑り止め施工用粘着シート。
[12] 表面層と、粘着剤層を有する貫通孔形成用粘着シート。
[13] 粘着剤層の粘着力が0.3~8.0N/25mmである[12]に記載の貫通孔形成用粘着シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定の層構成及び構造を有する滑り止め施工用粘着シートを用いて滑り止め施工を行うことにより、簡便な方法で防滑層を形成することができる。
また、本発明の滑り止め施工用粘着シートを用いれば、所望の形状の防滑層を形成することができるため、床材等の被着物に優れた防滑性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の滑り止め施工用粘着シートの構成を説明する平面図及び断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の滑り止め施工用粘着シートを用いて滑り止め施工を施す様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(滑り止め施工用粘着シート)
本発明は、表面層と、粘着剤層とを有する滑り止め施工用粘着シートに関する。本発明の滑り止め施工用粘着シートは、表面層及び粘着剤層を貫通する複数の貫通孔を有する。ここで、本発明の滑り止め施工用粘着シートにおける粘着剤層は感圧粘着剤層である。
本発明の滑り止め施工用粘着シートは、上記構成を有するため、所望の形状の防滑層を容易に形成することができ、床材等の被着物に優れた防滑性を付与することができる。
【0014】
さらに、本発明の滑り止め施工用粘着シートを用いた場合、滑り止め施工時のハンドリング性が良化する。なお、本明細書において、滑り止め施工時のハンドリング性が良好であることは、(1)滑り止め施工用粘着シートを対象物表面に貼り付け易く、(2)充填剤を硬化させた後の滑り止め施工用粘着シートを対象物から剥離し易く、(3)滑り止め施工用粘着シートを対象物から剥離する際には、糊残りなく剥離可能であり、(4)充填剤を貫通孔に確実に充填し易いことをいう。
【0015】
図1は、本発明の滑り止め施工用粘着シートの構成を説明する図である。
図1(a)は、本発明の滑り止め施工用粘着シート100の平面図であり、滑り止め施工用粘着シート100には複数の貫通孔30が設けられている。なお、
図1(a)の平面図は、表面層側から見た平面図であるが、粘着剤層側から見た平面図であっても同様の構成となる。
図1(b)は、本発明の滑り止め施工用粘着シート100の断面図である。
図1(b)の断面図は、
図1(a)において、滑り止め施工用粘着シート100をA-A'線で切断した際の断面図である。滑り止め施工用粘着シート100は、表面層10と粘着剤層20を有し、貫通孔30は表面層と粘着剤層を貫通している。
【0016】
滑り止め施工をする際には、まず、本発明の滑り止め施工用粘着シートが床材等の被着物に貼着される。その後、滑り止め施工用粘着シートの貫通孔内に、防滑層を形成する充填剤を充填する。そして、充填剤を硬化させた後に、本発明の滑り止め施工用粘着シートを被着物から剥離することで、部分的に防滑層が形成されることとなる。
【0017】
充填剤を硬化させた後に、本発明の滑り止め施工用粘着シートを被着物から剥離する様子は、
図2に示されている。
図2では、施工方法をわかりやすく説明するために、貫通孔を大きく、かつ可視化して示している。また、
図2では、滑り止め施工を施す対象を床面Pとしているが、滑り止め施工は床面以外にも施すことができる。また、本明細書においては、防滑層とは、
図2に示されているような防滑突起部(防滑層50)または、防滑突起部の集合体をいう。
【0018】
本発明の滑り止め施工用粘着シートの厚みは、0.05~1mmであることが好ましく、0.1~0.8mmであることがより好ましく、0.15~0.6mmであることがさらに好ましく、0.2~0.5mmであることが特に好ましい。滑り止め施工用粘着シートの厚みを上記範囲内とすることにより、形成される防滑層の厚み(高さ)を好ましい範囲とすることができる。これにより、防滑層は水はけを促すことができ、優れた防滑性を発揮することができる。また、滑り止め施工用粘着シートの厚みを上記範囲内とすることにより、歩行時の躓き等を抑制でき、防滑層に起因した歩行性の悪化を抑制することができる。さらに、滑り止め施工用粘着シートの厚みを上記範囲内とすることにより、歩行時に加わる衝撃等により防滑層が被着物から離脱することも抑制することができる。
【0019】
本発明の滑り止め施工用粘着シートは、後述するように床材以外にも適用可能であるが、床材(床面)に滑り止め施工を施すために用いられることが好ましい。このため、本発明の滑り止め施工用粘着シートは、床用滑り止め施工用粘着シートであることが好ましい。
【0020】
(貫通孔)
本発明の滑り止め施工用粘着シートは複数の貫通孔を有する。滑り止め施工用粘着シート100cm2あたりに設けられる貫通孔の数は、3~1000個であることが好ましく、10~800個であることがより好ましく、30~500個であることがさらに好ましい。
また、貫通孔1つあたりの面積は0.01~20.0cm2であることが好ましく、0.02~10.0cm2であることがより好ましく、0.03~8.0cm2であることがさらに好ましい。貫通孔1つあたりの面積を上記下限値以上とすることにより、防滑性能に優れた防滑層を施工することができる。加えて、滑り止め施工用粘着シート上に充填剤を充填する際に、貫通孔に充填剤が充填されたことを容易に視認することができ、効率よく施工できるとともに、充填不良による施工ミスを防ぐことができる。
【0021】
貫通孔の総面積は、滑り止め施工用粘着シートの全面積の2~60%であることが好ましく、3~60%であることがより好ましく、5~50%であることがさらに好ましい。上記の条件となるように貫通孔を形成することにより、所望の大きさ及び形状を有する防滑層を形成することができる。また、滑り止め施工用粘着シートの柔軟性や強度も適切な範囲とすることができ、滑り止め施工時のハンドリング性を良好なものとすることができる。
【0022】
貫通孔1つあたりの面積は上記範囲内であることが好ましく、このような面積を有する貫通孔であれば貫通孔の形状は特に制限されない。貫通孔の形状としては、例えば、円形、楕円形、四角形、三角形、星形、ハート型、動植物型等とすることができる。貫通孔の形状が四角形である場合、一定間隔の長方形として、ストライプ状に貫通孔を形成してもよい。中でも貫通孔の形状は円形であることが好ましく、円形の貫通孔を均一パターン(ドット状)となるように形成することで、水はけ性に優れた防滑層を容易に形成することができる。
【0023】
なお、貫通孔の形状は全て同一でなくてもよく、貫通孔は均一パターンとなるように形成されなくてもよい。例えば、貫通孔の形状を文字形状として、各種文字を並べることで、会社名を表記したり、広告として表示させることもできる。このような貫通孔に充填剤を充填して防滑層を形成することで、床材等の被着物に会社名や広告のロゴを防滑層を用いて表示することができる。この場合、充填剤には色素等を含有させて、着色した防滑層を形成することもできる。このように、貫通孔は様々な形状や性状とすることができ、防滑層は防滑性を発揮するのみならず、広告表示機能や意匠性を発揮することもできる。
【0024】
貫通孔は、表面層と粘着剤層を有する貫通孔形成用粘着シートにパンチング加工やレーザー加工等を施すことで形成されることが好ましい。加工法は、貫通孔の形状等に併せて適宜選択することができる。
【0025】
(表面層)
本発明の滑り止め施工用粘着シートは、表面層を有する。表面層の材質は特に制限されない。例えば、表面層には、プラスチックフィルムや、合成紙等に代表される紙基材等を用いることができる。プラスチックフィルム(樹脂基材)としては、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルム、PET(ポリエチレン・テレフタラート)フィルム、PE(ポリエチレン)フィルム、PP(ポリプロピレン)フィルム、PO(ポリオレフィン)フィルム、PS(ポリスチレン)フィルム、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合)フィルム、シリコーンフィルム等を挙げることができる。また、合成紙としては、例えば、ユポ・コーポレーション社製のユポコート(登録商標)を挙げることができる。表面層は、単層構造であってもよく、上述した基材を2種以上積層した構成であってもよい。
【0026】
中でも、表面層は透明基材であることが好ましく、透明樹脂基材を用いることがより好ましい。透明樹脂基材としては、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルム、PET(ポリエチレン・テレフタラート)フィルム、PE(ポリエチレン)フィルム又はPO(ポリオレフィン)フィルムを用いることがより好ましく、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリオレフィンフィルム又はポリエチレンフィルムを用いることがより好ましく、ポリ塩化ビニルフィルム又はポリオレフィンフィルムを用いることがさらに好ましい。ポリ塩化ビニルフィルムや、ポリオレフィンフィルム、ポリエチレンフィルムは基材としての柔軟性に優れており、これらのフィルムを表面層に用いた場合、金属ヘラで充填剤を均した際のヘラの滑り性が良好であるため、好ましく用いられる。
【0027】
表面層としてポリ塩化ビニルフィルムを用いる場合、フィルムには可塑剤が含まれることが好ましい。このような可塑剤としては、モノメリック系可塑剤やポリメリック系可塑剤が挙げられるが、本発明では、表面層にはポリメリック系可塑剤が含まれることが好ましい。ポリメリック系可塑剤を用いることにより、表面層に積層される粘着剤層へのブリードアウトを抑制することができ、粘着剤層の粘着力の低下を抑制することができ、経時後であっても粘着剤層の粘着力を所望の範囲内にすることができる。
【0028】
ポリメリック系可塑剤は、モノメリック系に比べ、柔軟性、耐候性および安定性に長けた複雑な構造を有するため好ましく用いられる。ポリメリック系可塑剤は、分子鎖が長く複雑であるため、分子同士が絡み合い、安定性が高い。このため、フィルム表面へのブリードアウトが起き難く、耐候年数が長い等の特徴を有する。
【0029】
なお、一般的な可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系(DEHP、DBP、BBP、DINP、DIDP、DNOP、DOTP)、アジピン酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸、クエン酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系などの可塑剤を挙げることができる。
【0030】
表面層の少なくとも一方の表面にはエンボス加工を施すことが好ましい。特に表面層の表面露出面(粘着剤層が積層されている面とは反対側の面)に、エンボス加工を施すことが好ましい。このようなエンボス加工を施すことにより、表面層には微細な凹凸形状が形成され、表面層は半透明状態になる。表面層は透明基材であることが好ましいが、このようなエンボス加工を施した半透明基材も好ましく用いられる。
【0031】
表面層にエンボス加工が施される場合は、エンボス加工が施された表面の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))は1~10であることが好ましく、2~7であることがより好ましく、2~5であることがさらに好ましい。なお、算術平均粗さ(Ra)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線を y=f(x)で表したときに、次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。なお、下記式においてlは基準長さを表す。
【数1】
【0032】
表面層が半透明基材である場合、充填剤には透明なものを用いることが好ましい。透明な充填剤としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。表面層が半透明である場合、透明な充填剤との色度や透明度が異なるため、充填剤と表面層の見分けがつきやすい。このため、滑り止め施工用粘着シートの貫通孔に充填剤の充填がなされたことを確認しやすくなり、充填剤の充填漏れ(充填抜け)を防止することができる。このように、表面層の色度や透明度は、充填剤の色度や透明度と異なるものであることが好ましい。
なお、表面層と充填剤の色度を異なるものとするために、表面層に色素を含有させてもよい。表面層を着色することで、充填剤の充填を確認しやすくすることも可能である。
【0033】
表面層の少なくとも一方の表面にはエンボス加工が施されていることが好ましい。この場合、表面層の全光線透過率は70~98%であることが好ましく、75~95%であることがさらに好ましい。また、表面層のヘーズは、10~98%であることが好ましく、15~95%であることが好ましい。なお、本願明細書においては、全光線透過率及びヘーズは、JIS K 7136に準拠した方法で測定される値のことをいう。
【0034】
また、上述したようなエンボス加工を施すことで、滑り止め施工時に充填剤を充填する際のヘラの滑り性を高めることもできる。これは表面層の表面露出面に形成されたエンボスにより、ヘラを動かす際の摩擦抵抗が低減されることによるものであると考えられる。このようにエンボス加工を施すことにより、滑り止め施工時の作業性をより高めることができる。
【0035】
表面層の厚みは30~900μmであることが好ましく、50μmより大きく900μm以下であることがより好ましく、100~500μmであることがさらに好ましく、150~400μmであることが一層好ましい。表面層の厚みを上記範囲内とすることにより、形成される防滑層の厚み(高さ)を好ましい範囲とすることができる。これにより、防滑層は優れた防滑性を発揮できることに加え、防滑層に起因した歩行性の悪化を抑制することができる。また、表面層の厚みを上記範囲内とすることにより、歩行時に加わる衝撃等により防滑層が被着物から離脱することも抑制することができる。さらに表面層の厚みを上記範囲内とすることにより、滑り止め施工用粘着シートの柔軟性を維持することができ、施工時に滑り止め施工用粘着シートを被着物に貼り合わせる際のハンドリング性を高めることができる。
【0036】
表面層の引張強度は、10N/10mm以上であることが好ましく、20N/10mm以上であることがより好ましい。また、表面層の引張強度の上限値は150N/10mm以下であることが好ましい。なお、上記引張強度は表面層の長さ方向及び幅方向の引張強度の相乗平均値である。
【0037】
(粘着剤層)
本発明の滑り止め施工用粘着シートは、粘着剤層を有する。本発明では、粘着剤層は再剥離性を有することが好ましい。ここで、再剥離性とは、粘着剤層を被着物から糊残りなく剥がせる性質のことをいう。また、再剥離性は、滑り止め施工用粘着シートの粘着力を所定の範囲内とすること等によって調整することができる。
【0038】
粘着剤層を構成する粘着剤としては、溶剤型粘着剤、エマルション型粘着剤、ホットメルト型粘着剤が挙げられる。中でも、貫通孔の加工のしやすさ等の観点から、溶剤型粘着剤が好ましく用いられる。
【0039】
溶剤型粘着剤は、有機溶媒中に粘着剤(粘着成分)を含むものである。溶剤型粘着剤を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエーテル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、フッ素系粘着剤等の、公知の各種粘着剤を挙げることができる。中でも、本発明では、アクリル系粘着剤又はウレタン系粘着剤を用いることが好ましく、アクリル系粘着剤を用いることがより好ましい。
【0040】
アクリル系粘着剤のベースポリマーであるアクリルポリマーは、(メタ)アクリルモノマーを重合してなるものである。アクリルポリマーとしては、公知のポリマーを使用することができる。例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(無水)マレイン酸、(無水)フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基もしくはその無水物基を有する重合性モノマー、アルキル(メタ)アクリレート〔メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等〕、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリル系モノマーから選択されたモノマーのホモポリマー、並びに上記の2種以上から選択されたモノマーのコポリマー、ターポリマー等の多元ポリマーが挙げられる。また、アクリルポリマーには、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、上記以外のモノマー(その他モノマー)が共重合されていてもよい。
【0041】
中でも本発明では、アクリル系溶剤型粘着剤を用いることが好ましい。アクリル系溶剤型粘着剤は貫通孔を形成しやすく、加工適性に優れている。また、貫通孔を形成した後の安定性にも優れており、所望の形状を有する防滑層が形成されやすいという利点がある。
【0042】
アクリル系溶剤型粘着剤のベースポリマーであるアクリルポリマーとしては、アルキル(メタ)アクリレート〔メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等〕、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のホモポリマーやコポリマーが挙げられる。
【0043】
粘着剤層を形成する粘着剤には、粘着性を向上させる目的で、粘着付与剤が配合されてもよく、装置適合性を考慮して軟化剤が配合されてもよい。
粘着付与剤としては、例えば、ロジン、エステルガム、エステルガムH、ポリテルペン樹脂、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、DCPD系石油樹脂、スチレン系樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、およびこれらの水添物等が挙げられる。中でも、ポリテルペン樹脂、C5系石油樹脂の水添物およびC9系石油樹脂の水添物が好ましく用いられる。
軟化剤としては、例えば、各種可塑剤、ポリブテン、液状粘着付与剤樹脂、ポリイソブチレン低重合体、ポリビニルイソブチルエーテル低重合体、ラノリン、解重合ゴム、プロセスオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、加硫オイル等が挙げられる。
その他、必要に応じて、増粘剤、pH調整剤、消泡剤、防腐防黴剤、顔料、無機充填剤、安定剤、濡れ剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0044】
粘着剤層の23℃環境下における粘着力は、0.5~10.0N/50mmであることが好ましく、0.7~9.0N/50mmであることがより好ましく、0.9~8.0N/50mmであることがさらに好ましく、1.0~7.0N/50mmであることが特に好ましい。ここで、上記粘着力は、貫通孔を有する状態における粘着力であり、JIS Z 0237に準じて測定した値である。粘着剤層の粘着力を上記範囲内とすることにより、滑り止め施工用粘着シートと被着物の密着性を高めることができ、滑り止め施工時に充填剤が意図しない場所に染み出すことを抑制することができる。また、粘着剤層の粘着力を上記範囲内とすることにより、滑り止め施工後に粘着シートを被着物から剥離する際の再剥離性を高めることができ、被着物上から糊残りなく粘着シートを剥離することができる。
【0045】
粘着剤層を構成する粘着剤の温度0~60℃の範囲、周波数1Hzで測定される貯蔵弾性率は、5×103~5×106Paであることが好ましく、1×104~5×105Paであることがより好ましい。貯蔵弾性率は、周波数1Hz、0~60℃の範囲内であれば、どの温度条件で測定した場合でも粘着剤の貯蔵弾性率が上記範囲内であることが好ましい。貯蔵弾性率が上記下限値以上であれば、被着物との密着性を高めつつ再剥離性も高めることができる。
【0046】
粘着剤層の厚みは、5~100μmであることが好ましく、8~80μmであることがより好ましく、10~50μmであることがさらに好ましい。粘着剤層の厚みを上記範囲内とすることにより、形成される防滑層の厚み(高さ)を好ましい範囲とすることができる。また、粘着剤層の厚みを上記範囲内とすることにより、貫通孔を形成した後の粘着剤層の安定性を高めることができ、所望の形状を有する防滑層を形成することができる。なお、粘着剤層の厚みは、被着物の表面性状によって適宜調節することができる。例えば、被着物の表面が凹凸形状を有する場合、凹凸追従性を高めるために、粘着剤層の厚みを厚くすることも好ましい。
【0047】
(剥離剤層)
本発明は、滑り止め施工用粘着シートの粘着剤層の一方の面側であって、表面層が積層された面とは反対の面側にさらに剥離剤層を有する剥離剤層付き滑り止め施工用粘着シートに関するものであってもよい。このような剥離剤層を設けることにより、粘着剤層の表面にゴミや埃等の付着物が付着することを抑制することができる。これにより、粘着剤層と被着物の密着性の低下を防止することができる。
剥離剤層としては、例えば、周知の剥離シートが使用される。周知の剥離シートとしては、例えば、キャストコート紙、アート紙、コート紙、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム等の支持体の表面に、必要に応じて目止め層を形成した上で、シリコーン系等の剥離剤を塗布した剥離シートなどが挙げられる。
【0048】
本発明の滑り止め施工用粘着シートは、剥離剤層を有さず、表面層と粘着剤層の2層構成からなる粘着シートであってもよく、この場合は、ロール状に巻き取られたテープであってもよい。また、剥離剤層を有する剥離剤層付き滑り止め施工用粘着シートの場合もロール状に巻き取られた状態で保管されてもよい。
【0049】
(滑り止め施工用粘着シートの製造方法)
本発明の滑り止め施工用粘着シートの製造工程は、剥離剤層上に粘着剤層を構成する粘着剤塗工液を塗工する工程と、粘着剤層の一方の面側であって、剥離剤層が積層された面とは反対の面側に表面層を積層する工程と、貫通孔を形成する工程を含むことが好ましい。
粘着剤塗工液を塗工する工程の後には、粘着剤層を硬化する工程を含むことが好ましく、粘着剤層を溶剤型粘着剤から形成する場合は、乾燥工程を含むことが好ましい。
【0050】
また、表面層を積層する工程の前工程として、表面層の少なくとも一方の面にエンボス加工を施す工程を設けることが好ましい。
【0051】
貫通孔を形成する工程は、剥離剤層と、粘着剤層と、表面層がこの順で積層された剥離剤層付き貫通孔形成用粘着シートにパンチング加工やレーザー加工等を施す工程である。加工法は、貫通孔の形状等に併せて適宜選択することができる。
【0052】
(貫通孔形成用粘着シート)
本発明は、貫通孔を形成する前の貫通孔形成用粘着シートに関するものでもある。貫通孔形成用粘着シートは、表面層と、粘着剤層を有し、上述したような貫通孔を形成するための粘着シートである。
【0053】
貫通孔形成用粘着シートの23℃環境下における粘着力は、0.3~8.0N/25mmであることが好ましく、0.5~7.7N/25mmであることがより好ましく、0.8~7.5N/25mmであることがさらに好ましく、1.0~7.0N/25mmであることが特に好ましい。ここで、上記粘着力は、貫通孔を形成する前の状態における粘着力であり、JIS Z 0237に準じて測定した値である。粘着剤層の粘着力を上記範囲内とすることにより、貫通孔の形成が容易となり、さらに貫通孔を形成した後の滑り止め施工用粘着シートと被着物の密着性を高めることができる。
【0054】
(滑り止め施工方法)
本発明の滑り止め施工用粘着シートは滑り止め施工方法に使用される。具体的には、滑り止め施工用粘着シートが床面等の被着物に貼着され、その後、滑り止め施工用粘着シートの貫通孔内に、防滑層を形成する充填剤を充填し、硬化することで防滑層が形成される。本発明の滑り止め施工用粘着シートは防滑層が形成された後に、被着物から剥離される。
【0055】
図2は、本発明の滑り止め施工用粘着シートを用いて滑り止め施工を施す様子を説明する図である。
図2では、施工方法をわかりやすく説明するために、貫通孔を大きく、かつ可視化して示している。また、
図2では、滑り止め施工を施す対象を床面Pとしているが、滑り止め施工は床面以外にも施すことができる。
以下で、滑り止め施工方法について詳述する。
【0056】
滑り止め施工方法は、(A)本発明の滑り止め施工用粘着シート100を床面に貼り付ける工程と、(B)滑り止め施工用粘着シート100の貫通孔30と床面Pとで形成された空間の中に充填剤を充填し、充填剤35の少なくとも一部を床面Pに付着させる工程と、(C)滑り止め施工用粘着シート100を床から取り除く工程と、を含む。滑り止め施工方法は、さらに(D)床面P上に付着した充填剤35を硬化させる工程を含むことが好ましい。
【0057】
(A)工程の前には、床面Pの清浄化工程を含むことが好ましい。清浄化工程においては、床面のゴミや埃等を除去した後、薬剤等を用いて床面Pの油汚れやその他の汚れを除去することが好ましい。薬剤としては、例えば、イソプロパノールやアセトンの有機溶剤を用いることができる。
【0058】
(A)工程においては、本発明の滑り止め施工用粘着シート100が床面Pに貼着される。滑り止め施工用粘着シート100を貼着する際には、滑り止め施工用粘着シート100と床面Pとの密着性を高めるために、圧締ローラーで圧締することが好ましい。
【0059】
(B)工程においては、滑り止め施工用粘着シート100の貫通孔30に、充填剤35が充填される。この時、充填剤35は、貫通孔30の総容積よりも多い量が用いられ、貫通孔30内に充填されずに余った充填剤は、ヘラなどを用いることで除去される。このような工程をスキージ工程と呼ぶこともある。スキージ工程では、ヘラで表面層の表面を均すことにより、貫通孔30内に充填剤を密に充填することができ、さらに、充填剤の上面を平らにすることができる。
【0060】
本発明の滑り止め施工用粘着シート100の表面層10は、上述した通り、透明基材であることが好ましい。また、表面層10の表面露出面にはエンボス加工が施されていることが好ましい。このようなエンボス加工が施されていることにより、表面層には微細な凹凸形状が形成され、表面で光が乱反射することにより、表面層は半透明状態になる。このような表面層は充填剤が透明な場合に、充填剤の充填がなされたことを確認しやすく好ましい。すなわち、表面層の色度や透明度は、充填剤の色度や透明度と異なっていることが好ましい。
【0061】
(B)工程は、充填剤を硬化させる工程を含むことが好ましい。充填剤としては室温で硬化するものを用いることが好ましい。また、必要に応じてドライヤー等を用いて加熱硬化をしてもよい。なお、室温で充填剤を硬化させる場合には、充填後1~24時間経過した後に(C)工程に移ることが好ましいが、充填剤の性状によっては、直ちに(C)工程に移行することも可能である。充填後に十分に硬化させることによって、(C)工程において滑り止め施工用粘着シート100を床から取り除いた後にも充填剤がその周辺に拡がって立体形状を失うことを防ぐことができる。
【0062】
(C)工程では、滑り止め施工用粘着シート100は床面Pから剥離され、処分される。滑り止め施工用粘着シート100を床面Pから剥離した後には、貫通孔30内で硬化した充填剤が床面P上に突設され、このような硬化充填剤を防滑層50と呼ぶことができる。防滑層50は、滑り止め施工用粘着シート100に設けられた貫通孔30の数の分だけ形成されることになる。このようにして形成された多数の防滑層50が床面の水はけを促し、滑り止め効果が発揮される。
【0063】
滑り止め施工方法において(D)工程を設ける場合は、この(D)工程は(B)工程で硬化させた充填剤をさらに完全硬化させる工程となる。(D)工程においては、例えば、薬剤等を噴霧することにより完全硬化を促進してもよく、加熱乾燥等をさらに行ってもよい。また、紫外線照射をすることによって硬化を促進してもよい。
なお、用いる充填剤の種類によっては、このような完全硬化工程を設けなくても、(B)工程で充填剤を完全硬化させることも可能である。
【0064】
<充填剤>
充填剤としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記充填剤には添加剤として、各種着色染料、顔料、蛍光剤および/または畜光剤を添加することもできる。このような添加剤は、充填剤の色度や透明度を、表面層の色度や透明度と異なるものとすることができる。これにより、滑り止め施工用粘着シートの貫通孔に充填剤の充填がなされたことを確認しやすくなり、充填剤の充填漏れ(充填抜け)を防止することができる。さらに、上記充填剤には、形成される防滑層の強度を上げるために、ガラスビーズを添加してもよい。
【0065】
<施工対象>
滑り止め施工を施す対象としては、例えば、床、携帯電話の筐体、おぼんの表裏面、食器棚等が挙げられる。特に、滑り止め施工を床に施す場合は、公共施設の床、ペットサロン等の床、浴室の床、調理場の床、工場の床、駅構内の床や階段など、床面に水が付着する可能性のある床に好ましく用いることができる。中でも、セラミックタイル製の床材、御影石、大理石等の天然石床材、および塩化ビニル樹脂など硬質な素材を使ったプラスチック系床材などに好ましく用いることができ、特にセラミックタイル製の床材に好ましく用いられることが出来る。
【0066】
また、本発明は、滑り止め施工用粘着シートと、滑り止め施工用粘着シートの貫通孔に充填する充填剤を含む滑り止め施工用キットに関するものとしてもよい。
【実施例】
【0067】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例1は、参考例1と読み替えるものとする。
【0068】
(実施例1)
アクリル系粘着剤(トーヨーケム株式会社製BPS5303-2OJI)100質量部に、東ソー株式会社製コロネートL 質量5部を配合して粘着剤を得た。上記粘着剤を、剥離紙(王子タック株式会社製青グラシン82)に、コンマコータにより塗工し、100℃、2分間加熱して、粘着剤層(厚さ:20μm)を形成した。
上記粘着剤層の露出面に、透明塩化ビニルシート(アキレス株式会社製、FCZA3502、厚さ:200μm)を貼り合わせた。その後、タレットパンチング加工機を用いて、表1に記載の形状を有する貫通孔を形成した。このようにして実施例1の滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0069】
(実施例2)
透明塩化ビニルシートとしてエンボス加工が施されたシート(アキレス株式会社製、FCNA3502、厚さ:200μm)を用い、貫通孔の形状を表1に記載の通りとなるように変更した以外は実施例1と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0070】
(実施例3~5)
透明塩化ビニルシートの厚みを表1の通りとし、粘着剤層の厚みを表1の通りとし、かつ貫通孔の形状を表1に記載の通りとなるように変更した以外は実施例2と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0071】
(実施例6)
透明塩化ビニルシートを透明ポリオレフィンシート(オカモト株式会社製、PO系コンビニフィルム、厚さ:300μm)とし、かつアクリル系粘着剤をウレタン系粘着剤(トーヨーケム株式会社製、SP-205)に変更した以外は実施例5と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0072】
(実施例7)
ウレタン系粘着剤をアクリル系粘着剤に変更し、粘着剤層の厚みを表1の通りとし、かつ貫通孔の形状を表1に記載の通りとなるように変更した以外は実施例6と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0073】
(比較例1)
透明塩化ビニルシートを自己吸着白色発泡ウレタンフォーム(イノアックコーポレーション社製PureCell、厚み1000μm)に変更し、粘着剤層を設けなかった以外は実施例2と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0074】
(比較例2)
透明塩化ビニルシートをエンボス加工がされていないものに変更し、粘着剤層を形成しなかった以外は実施例3と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0075】
(比較例3)
比較例2で用いた透明塩化ビニルシートに、表1の形状を有する貫通孔を形成し、エポキシ系接着剤(スリーボンド社製、TB2081D)を10μmの厚みになるよう塗布し、滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0076】
(実施例8)
トーヨーケム株式会社BPS5303-2OJI 100質量部に、東ソー株式会社製コロネートL 5質量部を配合して粘着剤を得た。上記粘着剤を、剥離紙(王子タック株式会社製青グラシン82)に、リップコータにより塗工し、100℃、7分間加熱して、粘着剤層(厚さ:120μm)を形成した。上記粘着剤層の露出面に、エンボス加工が施された透明塩化ビニルシートであって、厚みが300μmの透明塩化ビニルシートを貼り合わせ、実施例1と同様の貫通孔を形成した。このようにして実施例8の滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0077】
(実施例9)
表面層として、白色ユポ(ユポコーポレーション社製、ニューユポFGS、厚み:200μm)を用い、粘着剤層の厚みを表1の通りとし、かつ貫通孔の形状を表1に記載の通りとなるように変更した以外は実施例1と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0078】
(実施例10)
表面層として、透明PETフィルム(東レ株式会社製、ルミラーS-10、厚み:188μm)を用い、貫通孔の形状を表1に記載の通りとなるように変更した以外は実施例1と同様にして滑り止め施工用粘着シートを得た。
【0079】
(評価)
<滑り止め施工方法>
セラミックタイル製の床材を清浄した後に、実施例及び比較例で得られた滑り止め施工用粘着シートを床面に貼着した。その後、シリコーン樹脂とガラスビーズ(粒径:80μm)を含む充填剤を貫通孔に充填し、室温下℃で24時間硬化させた。その後、滑り止め施工用粘着シートを床面から剥離し、防滑層を形成した。
滑り止め施工時のハンドリング性について、下記の評価基準にて評価した。
【0080】
<貼り易さ及び充填剤漏れ>
床面表面に滑り止め施工用粘着シートを貼付する際、任意の場所へ貼合できるか否かを評価した。また、充填剤を貫通孔に充填し、貫通孔周辺の樹脂漏れの有無を確認した。
○:粘着剤層と床面表面間に気泡の噛み込みがなく、床面の任意の位置に貼付できる。また充填剤を貫通孔に漏れなく充填できる。
△:粘着剤層と床面表面間での一部気泡の噛み込みにより貼付作業に時間を要するが、床面の任意の位置に貼付できる。また充填剤を貫通孔に漏れなく充填できる。
×:粘着剤層と床面表面間での気泡の噛み込みにより、何度も貼り替え作業を要する。また充填剤が貫通孔から漏れ出る。
【0081】
<剥がし易さ>
床面に貼付した滑り止め施工用粘着シート上に充填剤を充填後、滑り止め施工用粘着シートを剥がす工程にて、作業者が滑り止め施工用粘着シートを床面から全面剥がす際の剥がしやすさを評価した。
○:床面から滑り止め施工用粘着シートをスムーズに剥がせる。
△:かなり力を使うが床面から滑り止め施工用粘着シートを剥がせる。
×:床面から滑り止め施工用粘着シートを剥がせない、剥がし途中で止まる。
【0082】
<糊残り>
作業者が床面全面から滑り止め施工用粘着シートを剥がした後、粘着剤層の糊残りを目視で確認した。
○:床面の表面に糊残りがない。
△:床面の一部に糊残りを起こす。
×:床面全面に糊残りを起こす。
【0083】
<(ヘラの)表面滑り性>
滑り止め施工用粘着シートの貫通孔に充填剤を充填する際、ヘラでスキージ作業を行い、すべり性を評価した。
○:ヘラが滑り止め施工用粘着シート表面をスムーズに滑り、気泡を噛み込まず充填剤を貫通孔に充填できる。
△:ヘラが滑り止め施工用粘着シート表面をスムーズに滑るが、気泡を噛み込みながら充填剤を貫通孔に充填できる。
×:ヘラが滑り止め施工用粘着シート表面を滑らず、充填剤を貫通孔に充填できない。
【0084】
<充填確認容易性>
滑り止め施工用粘着シート上に充填剤を充填した際に、充填部分の認識容易性を評価した。
○:滑り止め施工用粘着シート上の充填剤塗工部と未塗工部がはっきりと認識できる。
△:滑り止め施工用粘着シート上の充填剤塗工部と未塗工部がなんとか認識できる。局所的な塗工抜けがある。
×:滑り止め施工用粘着シート上の充填剤塗工部と未塗工部との差異が認識できない。塗抜けが発生する。
【0085】
<防滑層性状(防滑性)>
JIS A 1454に定める床材の滑り性試験によって測定される滑り抵抗係数(CSR値)による防滑層のすべり難さを評価した。
◎:CSR値が0.50以上
○:CSR値が0.45以上0.50未満
△:CSR値が0.40以上0.45未満
×:CSR値が0.40未満
【0086】
<粘着力評価(貫通孔形成前)>
貫通孔形成前の滑り止め施工用粘着シートを25mm×100mmに裁断後、剥離紙(セパレータ)を剥がしてSUS板に2kg荷重ロールで圧着し、常温で30分間放置した。その後、引張試験機(型式:オートグラフAGS-J、島津製作所社製)を用い、JIS Z 0237に準じて引張速度300mm/分で180度剥離した際の剥離強度を測定し、その剥離強度を貫通孔形成前の粘着力とした。
【0087】
<粘着力評価(貫通孔形成後)>
貫通孔形成後の滑り止め施工用粘着シートを50mm×100mmに裁断後、剥離紙(セパレータ)を剥がしてSUS板に2kg荷重ロールで圧着し、常温で30分間放置した。その後、引張試験機(型式:オートグラフAGS-J、島津製作所社製)を用い、JIS Z 0237に準じて引張速度300mm/分で180度剥離した際の剥離強度を測定し、その剥離強度を貫通孔形成後の粘着力とした。
【0088】
【0089】
実施例で得られた滑り止め施工用粘着シートを用いた場合、防滑層が所望の形状で形成されており、十分な防滑性能を発揮することができる。特に実施例1~7で得られた滑り止め施工用粘着シートを用いた場合、滑り止め施工用粘着シートの貼り易さ及び剥がし易さが優れており、施工時に充填剤等をヘラで均す際のヘラの滑り性等が良好であり、ハンドリング性に優れていた。
【符号の説明】
【0090】
10 表面層
20 粘着剤層
30 貫通孔
35 充填剤
50 防滑層
100 滑り止め施工用粘着シート
P 床面