(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】アルミニウム系合金、アルミニウム系合金を含むシート、アルミニウム系合金を含むシートの製造方法、およびアルミニウム系合金から作成される鍛造品または鋳造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/10 20060101AFI20220128BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20220128BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C22C21/10
C22F1/053
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2018517204
(86)(22)【出願日】2016-04-29
(86)【国際出願番号】 RU2016000262
(87)【国際公開番号】W WO2017058052
(87)【国際公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-03-20
(32)【優先日】2015-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】518108140
【氏名又は名称】オプシチェストボ エス オグラニチェンノイ オトヴェストヴェンノストユ “オベディネンナヤ カンパニア ルサール インゼネルノ-テクノロギケスキー チェントル”
【氏名又は名称原語表記】OBSHCHESTVO S OGRANICHENNOY OTVETSTVENNOST’YU ‘OBEDINENNAYA KOMPANIYA RUSAL INZHENERNO-TEKHNOLOGICHESKIY TSENTR’
【住所又は居所原語表記】ul.Pogranichnikov,37,str. 1,Krasnoyarsk,660111,Russia
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マン,ヴィクター クリストヤノヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】アラビン,アレクサンドル ニコラエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】フロロフ,アントン ヴァレーリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】グセフ,アレクサンドレ オレゴヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クロキン,アレクサンドレ ユーレヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ベロフ,ニコライ アレクサンドロヴィチ
【審査官】橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-078708(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0114658(KR,A)
【文献】特開2013-209714(JP,A)
【文献】特開2011-058047(JP,A)
【文献】特開2002-053925(JP,A)
【文献】特表2011-510174(JP,A)
【文献】特表2008-542534(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0017604(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00
C22F 1/04-1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅、および、ジルコニウム、ならびに、チタン、スカンジウムおよびクロムからなる群より選択される少なくともひとつの金属を含み、残部がアルミニウムからなる高強度アルミニウム系合金であって、それぞれのwt%濃度が
亜鉛 3.8-7.4
マグネシウム 1.2-2.6
ニッケル 0.5-2.5
鉄 0.3-1.0
銅 0.001-0.25
ジルコニウム 0.05-0.2
チタン 0.01-0.05
スカンジウム 0.05-0.10
クロム 0.04-0.15
であって、
鉄およびニッケル
の存在比がNi/Fe≧1であり、合金組織中に、2vol%より大きいフラクション体積のAl
9FeNi共晶相の
共晶アルミナイドを
有し、前記共晶アルミナイドの平均断面寸法が2μm未満であり、ジルコニウム
、チタン、およびスカンジウムの合計が0.25wt%未満である、ことを特徴とするアルミニウム系合金。
【請求項2】
ジルコニウム、チタン、およびクロムの合計が、
0.20wt%未満である、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系合金。
【請求項3】
Zn/Mg>2.7の条件が満たされる、ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム系合金。
【請求項4】
亜鉛、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅、および、ジルコニウム、ならびに、チタンおよびクロムからなる群より選択される少なくともひとつの金属を含み、残部がアルミニウムからなる高強度アルミニウム系合金であって、それぞれのwt%濃度が
亜鉛 5.7-7.2
マグネシウム 1.9-2.4
ニッケル 0.6-1.5
鉄 0.3-0.8
銅 0.15-0.25
ジルコニウム 0.11-0.14
チタン 0.01-0.05
クロム 0.04-0.15
であって、
鉄およびニッケル
の存在比がNi/Fe≧1であり、合金組織中に、2vol%より大きいフラクション体積のAl
9FeNi共晶相の
共晶アルミナイドを
有し、前記共晶アルミナイドの平均断面寸法が2μm未満であり、ジルコニウム
、チタン、およびスカンジウムの合計が0.25wt%未満である、ことを特徴とするアルミニウム系合金。
【請求項5】
Zn/Mg>2.7の条件が満たされる、ことを特徴とする請求項
4に記載のアルミニウム系合金。
【請求項6】
亜鉛、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅、および、ジルコニウム、ならびに、チタンおよびスカンジウムからなる群より選択される少なくともひとつの金属を含み、残部がアルミニウムからなる高強度アルミニウム系合金であって、それぞれのwt%濃度が
亜鉛 5.5-6.2
マグネシウム 1.8-2.4
鉄 0.3-0.6
銅 0.01-0.25
ニッケル 0.6-1.5
ジルコニウム 0.11-0.15
チタン 0.02-0.05
スカンジウム 0.05-0.10
であって、
鉄およびニッケル
の存在比がNi/Fe≧1であり、合金組織中に、2vol%より大きいフラクション体積のAl
9FeNi共晶相の
共晶アルミナイドを
有し、前記共晶アルミナイドの平均断面寸法が2μm未満であり、ジルコニウム、チタン、およびスカンジウム
の合計が0.25wt%未満である、ことを特徴とするアルミニウム系合金。
【請求項7】
Zn/Mg>2.7の条件が満たされる、ことを特徴とする請求項
6に記載のアルミニウム系合金。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか一項に記載のアルミニウム系合金
を含むシート。
【請求項9】
圧延処理する工程を含む、ことを特徴とする請求項8に記載のシートの製造方法。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたアルミニウム系合金から作成される鍛造品の製造方法であって、当該方法は、
溶融を準備する工程と、
溶融結晶化により、インゴットを製造する工程と、
前記インゴットを均質化アニールする工程と、
均質化された前記インゴットを加工することにより、鍛造品を製造する工程と、
前記鍛造品を加熱する工程と、
硬化させるために前記鍛造品を所定の温度で保持する工程と、
前記鍛造品を水硬化する工程と、
前記鍛造品をエージング処理する工程と
を備え、
前記インゴットは、560℃未満の温度でアニール処理することにより均質化され、
前記鍛造品は、硬化のために、380℃から450℃の範囲の温度で保持され、
前記鍛造品は170℃未満の温度でエージング処理される、ことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記鍛造品は、少なくとも2つのステップでエージング処理され、それは、90℃から130℃の温度での第1ステップと、170℃までの温度での第2ステップを含む、ことを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記鍛造品は、少なくとも72時間の間、室温で保持することによりエージング処理される、ことを特徴とする請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から7のいずれか一項に記載されたアルミニウム系合金から作成される鋳造品の製造方法であって、当該方法は、
溶融を準備する工程と、
鋳造品を製造する工程と、
前記鋳造品を加熱する工程と、
硬化させるために前記鋳造品を所定の温度で保持する工程と、
前記鋳造品を水硬化する工程と、
前記鋳造品をエージング処理する工程と
を備え、
前記鋳造品は、硬化のために、380℃から560℃の範囲の温度で保持され、
前記鋳造品は、170℃未満の温度でエージング処理される、ことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記鋳造品は、少なくとも2つのステップでエージング処理され、それは、90℃から130℃の温度での第1ステップと、170℃までの温度での第2ステップを含む、ことを特徴とする請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記鋳造品は、少なくとも72時間の間、室温で保持することによりエージング処理される、ことを特徴とする請求項
13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、高強度鋳造および鍛造されたアルミニウム系合金の冶金学の分野に関し、クレームに記載された発明は、負荷の下で動作可能な不可欠なデザインで使用される物品を製造するために使用され、輸送分野で使用される、自動車部品の製造を含み、鉄道輸送用の鋳造ホイールリム、部品を含み、飛行機、ヘリコプターなどの航空機の部品、および、ミサイル用部品を含み、スポーツ産業およびスポーツイクイップメントの分野における、自転車、スクーター、エクササイズイクイップメントの製造用の部品、並びに、エンジニアリングおよび工業マネージメントの他の分野における電子デバイスのケーシングの製造用部品を含む。
【背景技術】
【0002】
シルミン(Al-Si系)は、最もポピュラーな鋳造合金である。この系の合金の強度を改善するために、主要なドーピング元素として、銅およびマグネシウム(A354およびA356シリーズの合金に対して典型的)が使用される。これらの合金はしばしば約300および380MPa以下の強度レベル(A356およびA354シリーズの合金に対して)を示し、それは、成形された鋳造を得るための従来の方法で使用される場合に、これらの材料の最大値である。
【0003】
AM5シリーズ(σ=400-450MPa)の商業的アルミニウム鋳造合金は、Al-Cu-Mn系に属する(Alieva S. G., Altman M. B., Ambartsumyan S. M. et al. Promyshlennye alyuminievye splavy (Industrial aluminum alloys). /Reference book./ Moscow, Metallurgiya, p.528, 1984)。このような合金の主な欠点は、成形された鋳造品の製造および最初の永久鋳型鋳造に関して多くの問題を引き起こす、貧弱な鋳造特性による比較的低い鋳造パフォーマンスを含む。
【0004】
高強度鍛造合金の中で、特別の注意は、高い機械的特性を有するAl-Zn-Mg-Cu系の合金にふさわしく、特に、σ=600GPaが、加熱処理条件No.T6のもとでの鍛造半仕上げ物品に対して達成される(Aluminum. Properties and Physical Metallurgy, Ed. J. Hatch, 1984)。例えば、7xxx合金からプレスされた物品のような鍛造反仕上げ物品を製造する主な方法は、溶融を準備する工程、インゴットの鋳造工程、インゴットの均質化工程、変形処理および熱処理強化工程(例えば、条件を合金成分および所望の機械的特性に対する要件に基づいて選択する必要がある場合、熱処理条件No.T6のもとで)を含む。高強度鍛造合金および、それから鍛造半仕上げ物品を製造するための方法の主な欠点は、鋳造フラクチャーを生じさせる傾向の増加による平坦および円筒インゴットの貧弱な鋳造特性、貧弱なアルゴンアーク溶接特性、および、最初の鉄およびシリコン含量(これらは合金内で有害な不純物である)による一次アルミニウム純度に対する高い要求を含む。
【0005】
欧州特許第1885898号に開示された、航空および自動車産業に使用される鋳造用のAl-ZnーMg-Cu-Sc系の高強度合金が周知である。当該合金は4-9%のZn、1-4%のMg、1-2.5%のCu、<0.1%のSi、<0.12%のFe、<0.5%のMn、0.01―0.05%のB、<0.15%のTi、0.05-0.2%のZr、0.1-0.5%のScが高強度特性を有する鋳造物の製造に使用され(A356合金より100%だけ高い)、鋳造方法として、低圧力鋳造、重力ダイキャスティング、圧電結晶鋳造、および、そのほかの鋳造方法が使用される。この発明の欠点の中で、特別に注意すべきは、化学成分内にエレメントを形成する共晶混合物がないことであり(合金構造が実質的にアルミニウム溶液である場合)、したがって、比較的複雑な成形鋳造品が製造されることが制限される。付加的に、合金の化学成分は、使用されるべき比較的純粋な一次アルミニウムグレードおよび、しばしば非合理的なスカンジウム(例えば、低い冷却速度による砂型鋳造)を含む遷移金属の少ない添加物の組みあわせの存在を要求する、制限された量の鉄を含む。
【0006】
Al-Zn-Mg-Cu系の他の周知の高強度合金および、プレスされ、スタンプされ、圧延された半仕上げ物品が、米国特許出願公開第20050058568号に開示されている。そこで提案されたアルミニウム合金は、6.7-7.5%のZn、2.0-2.8%のCu、1.6-2.2%のMg、および、付加的に、0.08-0.2%のZr、0.05-0.25%のCr、0.01-0.5%のSc、0.05-0.2%のHf、0.02-0.2%のV、および、<0.2%のSi+Feの群から選択される少なくともひとつを含む。この材料を使って製造された鍛造半仕上げ物品は、高い機械的特性およびフラクチャー耐性の組みあわせをもたらす。この合金は、延長された結晶インターバルによって生じる鋳造インゴット内に高温クラックを生じさせる大きい傾向を有し、それが、アルゴンアーク溶接を使用することを不可能にし、かつ、鉄およびシリコン含量に対する低い制限限界を与える。
【0007】
米国特許出願公開20070039668号には、高強度合金の中に、5-8%のZn、1.5-3%のMg、および、0.5-2%のCu-Niを有するアルミニウム系材料が開示されている。典型的な7xxxシリーズの合金から差別化しているこの材料の特徴は、3.5-11vol%のアルミナイド構造内で生成されるニッケル相の合金構造である。材料は、鍛造半仕上げ物品(プレス、圧延による)を製造するために使用され、および、成形鋳造物品を製造するために使用される。この材料の欠点は、1)超純粋なアルミニウムを使用する必要があること、2)合金固相を減少させる銅添加物の存在、従って、熱処理のステージにおいてニッケル金属間相の特定のサイズを得る能力を制限することである。
【0008】
ロシア国特許第2484168号には、提案された発明に最も近い高強度アルミニウム系合金が開示されている。この合金は、ドーピング濃度(wt%)が、5.5-6.5%のZn、1.7-2.3%のMg、0.4-0.7%のNi、0.3-0.7%のFe、0.02-0.25%のZr、0.05-0.3%のCuである、アルミニウムベースを含む。この合金は、450MPaより大きい終局抵抗により特徴づけられる成形鋳造物品を製造するために使用され、500MPaより大きい終局抵抗により特徴づけられるロール状シート材料の形式で鍛造半仕上げ物品を製造するのに使用される。この発明の欠点は、アルミニウム溶液が修正されずに残され、それは、ある場合に(鋳造物およびインゴットの)鋳造ホットクラックのリスクを減少させるのに必要であり、付加的に、合金内の鉄の最大量は、アイアンリッチな原料を使用することを可能にする0.7%未満であることである。この合金から作られる鋳造物、インゴット、および、鍛造半仕上げ物品は、Al3Zrのジルコニウム相の二次析出物のできるだけ粗大化のために、450℃以上で連続的に加熱される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、成形された鋳造物およびインゴットを得るための(特に、高い鋳造特性)高いパフォーマンスおよび高い機械的特性により特徴づけられる1%までのFeを含む、新規な高強度アルミニウム合金を与える。
【0010】
本願発明により得られる技術的効果は、インゴットおよび鋳造物の製造用の高パフォーマンスの付与による、分散硬化を通じた、強化相の二次析出物から生じる合金から作られた物品の強度特性を強化する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明のひとつの態様に従い、上記した技術的効果は、高強度アルミニウム系合金により得られる。当該合金は、下記の濃度(wt%)の亜鉛、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅、および、ジルコニアを含み、付加的に、チタン、スカンジウム、およびクロムを含む群から選択された少なくともひとつの金属を有し、
亜鉛 3.8-7.4
マグネシウム 1.2-2.6
ニッケル 0.5-2.5
鉄 0.3-1.0
銅 0.001-0.25
ジルコニウム 0.05-0.2
チタン 0.01-0.05
スカンジウム 0.05-0.10
クロム 0.04-0.15
アルミニウム 残部
ここで、鉄およびニッケルは、Al9FeNi共晶相のアルミナイドを好適に作成し、そのフラクション体積は、2vol%より大きい。
【0012】
本願発明のいくつかの好適実施形態にしたがい、それぞれ別個に、または、組み合わせて、以下の要件に一致しなければならない。
ジルコニウムおよびチタンの合計量が0.25wt%未満、
ジルコニウム、チタンおよびスカンジウムの合計量が0.25wt%未満、
ジルコニウムおよびスカンジウムの合計量が0.25wt%未満、
ジルコニウム、チタン、およびクロムの合計量が0.20wt%未満、
存在比率がNi/Fe≧1、
鉄およびニッケルが、2ミクロン未満の粒子サイズの共晶アルミナイドを作成し、
高強度合金が、不活性アノードを使って電解して製造されたアルミニウムからなり、
ジルコニウムおよびチタンは、20nm未満の粒子サイズおよびL12型の結晶格子を有する、実質的に二次析出物であり、
条件Zn/Mg>2.7が充足される。
【0013】
本願発明の好適な実施形態に従い、技術的効果は、高強度アルミニウム系合金によって得られ、当該合金は、下記の濃度(wt%)の亜鉛、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅、および、ジルコニウム、ならびに、付加的に、チタンおよびクロムを含む群から選択される少なくともひとつの金属を含み、
亜鉛 5.7-7.2
マグネシウム 1.9-2.4
ニッケル 0.6-1.5
鉄 0.3-0.8
銅 0.15-0.25
ジルコニウム 0.11-0.14
チタン 0.01-0.05
クロム 0.04-0.15
アルミニウム 残部
ここで、鉄およびニッケルは、Al9FeNi共晶相のアルミナイドを好適に作成し、そのフラクション体積は、2vol%より大きく、ジルコニウムおよびチタンの合計量は0.25wt%未満である。
【0014】
本願発明の他の好適実施形態に従い、技術的効果は高強度のアルミニウム系合金により達成され、当該合金は、下記の濃度(wt%)の亜鉛、マグネシウム、ニッケル、鉄、銅、および、ジルコニウム、ならびに、付加的に、チタンおよびスカンジウムを含む群から選択される少なくともひとつの金属を含み、
亜鉛 5.5-6.2
マグネシウム 1.8-2.4
鉄 0.3-0.6
銅 0.01-0.25
ニッケル 0.6-1.5
ジルコニウム 0.11-0.15
チタン 0.02-0.05
スカンジウム 0.05-0.10
アルミニウム 残部
ここで、鉄およびニッケルは、Al9FeNi共晶相のアルミナイドを好適に作成し、そのフラクション体積は、2vol%より大きい。
【0015】
本願発明の他の態様に従い、ジルコニウム、チタン、および、スカンジウムの合計量は0.25wt%未満である。
【0016】
本願発明の他の態様に従い、当該合金は、鋳造物または他の半仕上げ品または物品の形式である。好適な実施形態に従い、当該合金から作成された物品は、鍛造物品である。当該鍛造物品は、圧延製品(シートまたはプレート)で、パンチされ、かつ、プレスされたプロファイルの形式で製造される。好適実施形態に従い、物品は、鋳造物の形式で作成される。
【0017】
他の態様に従い、本願発明は、高強度合金から作成される鍛造物品の製造方法を与える。当該方法は、溶融を準備する工程と、溶融結晶化によりインゴットを製造する工程と、インゴットを均質化アニール処理する工程と、均質化されたインゴットを加工することにより鍛造物品を製造する工程と、鍛造物品を加熱する工程と、硬化させるために鍛造物品を所定の温度で保持する工程と、鍛造物品を水硬化される工程と、鍛造物品をエージング処理する工程とを有し、均質化アニール処理工程は、560℃未満の温度で実行され、鍛造物品は380℃-450℃の範囲の温度で硬化するために保持され、鍛造物品は、170℃未満の温度でエージングされる。
【0018】
好適実施形態に従い、鍛造物品のエージング処理は、90-130℃の温度での第1ステップ、および、170℃までの温度での第2ステップを含む少なくとも2つのステップと、少なくとも72時間の間室温で保持することとにより、実行される。
【0019】
他の態様に従い、本願発明は、高強度合金から鋳造物を製造するための方法を与え、当該方法は、溶融を準備する工程と、鋳造物を製造する工程と、鋳造物を加熱する工程と、硬化させるために所定の温度で保持する工程と、鋳造物を水硬化させる工程と、鋳造物をエージング処理する工程とを有し、鋳造物は硬化させるために380-560℃の温度で保持され、鋳造物は170℃未満の温度でエージング処理される。
【0020】
いくつかの好適実施形態に従い、鋳造物のエージング処理は、90-130℃の温度の第1ステップ、および、170℃までの温度の第2ステップを含む少なくとも2つのステップと、少なくとも72時間の間室温で保持することにより、実行される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは、低温鋳造、重力鋳造、圧電結晶鋳造などの鋳造技術により鋳造された、
金型鋳造に典型的な均質化インゴットの構造を示す。
【
図1B】
図1Bは、機械的特性を低下させる粗い共晶コンポーネントが存在するところの
一体鋳造における典型的な構造を示す。
【
図2】
図2は、400℃の初期インゴット温度で均質化されたインゴットを加工することにより製造された合金から作成された6×55mmの断面を有するストリップを示す。
【
図3】
図3は、組成物No.6(表1)の合金から作られた螺旋標本の鋳造物、および、第1の組成物がA356.2合金(表8)に対応する高い流動性を有することを実証するA356.2を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特許請求の範囲に記載したドーピング元素の範囲は、鋳造および加工処理の高い機械的特性およびパフォーマンスの達成を可能にする。この構造のために、高強度アルミニウム合金は、以下のようでなければならない。すなわち、アルミニウム溶液は二次析出物相の強化体によって、および、2%より多いフラクション体積および2μm未満の平均断面寸法を有する共晶コンポーネントによって強化されている。この量の共晶コンポーネントは、得られるインゴットおよび鋳造物に対して所望のパフォーマンスを保証する。
【0023】
合金内で所定の構造を達成するために与えられる特許請求の範囲に記載したドーピングコンポーネントは、以下によってサポートされる。
【0024】
特許請求の範囲に記載した量の亜鉛、マグネシウム、および銅は、分散硬化を通じて強化相の二次析出物を作成するのに要求される。より低い濃度の量は、所望のレベルの評価特性を達成するのに不十分であり、より高い濃度の量においては、相対的伸長、並びに、鋳造および加工パフォーマンスが要求されるレベル以下に減少する。
【0025】
特許請求の範囲に記載した鉄およびニッケルの量は、構造中に、高い鋳造パフォーマンスを担う共晶コンポーネントを生成するために要求される。より高い鉄およびニッケル濃度において、機械的特性を著しく損なう対応する一次結晶相が構造内に生成されやすい。共晶形成元素(鉄およびニッケル)のより低い濃度において、鋳造物内にホットクラックの高いリスクが存在する。
【0026】
特許請求の範囲に記載した量のジルコニウム、スカンジウム、およびクロムは、平均サイズがそれぞれ10-20nmおよび20-50nmのLI3格子およびAl7Crを有するAl3Zrおよび/またはAl3(Zr,Sc)の二次相を生成するのに要求される。より低い濃度において、粒子の数は、鋳造および鍛造半仕上げ物品の強度特性を増加させるためにもはや十分ではなく、より高い濃度において、鋳造および鍛造半仕上げ物品の機械的特性に悪影響を与える一次結晶の形成リスクが存在する。
【0027】
特許請求の範囲に記載した量のチタンは、ハードなアルミニウム溶液を修正するのに要求される。さらに、チタンは、(ジルコニウムおよびスカンジウムの組み合わされた導入時に)LI2格子を有する二次相を生成するために使用され、それは、強化特性にとって有利である。チタンの含有量が推奨量より低ければ、鋳造時のホットクラッキングのリスクが存在する。より高い含有量は、構造中に、機械的特性を劣化させるTi構成相の一次結晶作成リスクを増加させる。
【0028】
本願発明の0.25wt%より小さい、ジルコニウム、チタンおよびスカンジウムの合計量の制限は、機械的特性を損なう元素からなる一次結晶の増加のリスクに基づいている。
【実施例】
【0029】
<実施例1>
ドーピング元素が要求された構造を作成することができ、その結果、要求された機械的特性を与えることができる濃度範囲を守るために、実験室において、直径が40mmの円筒インゴットの形式で13種類の合金が生成された(化学的組成を表1に示す)。合金は、純粋な金属およびマスターズ(wt%)、特に、不活性アノード技術を使って得られたアルミニウム(99.7)、亜鉛(99.9)、マグネシウム(99.9)およびマスターズAl-20Ni、Al-5Ti、Al-10Cr、Al-2ScおよびAl-10Zrを含むアルミニウム(99.95)からの黒鉛坩堝内の抵抗炉内で生成された。
【0030】
【0031】
熱処理条件No.T6(水硬化およびエージング)のもとでの最大強度に関して、熱処理後に硬さ(HB)がどのように変化したかに基づいて、実験合金の強化の度合いが、ブルネルスケールに従う硬さの値によって評価された。構造的パラメータ、特に、一次結晶の存在が金属組織的に評価された。硬さHBの変化および構造解析の結果、ならびに、量が表2に示されている。
【0032】
表2からわかるように、要求される構造パラメータおよび分散硬化の効果は、組成1および11から13を除き、特許請求の範囲に記載された合金(組成2から10)によってのみ与えられる。例えば、組成1を有する合金は、強化が低い傾向があり、その硬さの値は81HBである。合金No.11の構造は、3μm以上の断面寸法を有するAl3Feの粗い針状粒子を含み、これらの一次結晶の推定量は0.18vol%であった。合金No.12の構造は、共晶性質の状態だったAl3Feの許容できない針状粒子を含んでいた。
【0033】
合金No.13の構造、そのZr、ScおよびTiの合計量は0.35%であり、これらの遷移金属の一次結晶を含んでいた。両方のタイプの粒子の存在は許容されず、ある論文によれば、それらは、機械的特性を劣化させ、これらのエレメントは有利な効果を与えない。
【0034】
【0035】
合金2-10の構造において、鉄およびニッケル(Ni/Fe≧1の存在比率)は、有利なモーフォロジー、2μm未満の平均断面寸法および2vol%以上のフラクション体積を有する共晶相Al9FeNi(Al+Al9FeNiの共晶内で構成される)のアルミナイドを有利に作成する。
【0036】
<実施例2>
直径125mmおよび長さ1mを有する円筒インゴットを製造するために、実験室セットにおいて、組成8(表1)を有する本願発明の合金が使用された。次に、インゴットは、540℃の温度において、均質化された。均質化されたインゴットの構造は、
図1に示されている。均質化されたインゴットは、400℃のインゴットの初期温度で、商業的施設LLC“KraMZ”上で、6×55mm(
図2参照)の断面を有するストリップに加工された。鍛造された半仕上げ物品は、450℃の温度から水硬化された。処理済みの半仕上げ物品は、室温(自然エージング、熱処理条件No.T4)および160℃(熱処理条件No.T6)でエージング処理された。プレスされたストリップの機械的引張特性の結果が表3に示される。
【0037】
【0038】
<実施例3>
本願発明の合金の組成2、4、6、8、10(表1)が、120×40mmの断面を有する平坦なインゴットを製造するべく実験室セット内で使用された。均質化されたインゴットは、初期温度450℃で厚さ5mmのシートに熱間圧延され、その後、厚さ1mmのシートに冷間圧延された。圧延されたシートは、450℃の温度から水硬化された。シートは160℃の温度でエージング処理された(条件T6)。シートの機械的引張特性の結果が表4に示されている。
【0039】
【0040】
<実施例4>
室温(条件No.T4)での自然エージング処理の間隔は、組成4(表1)を有する本願発明の合金の例として使用する硬さ(HB)の変更に基づいて選択された。硬化シートの硬さの結果が、表5に示されている。表5からわかるように、硬さの増加は24時間後に減速し始め、保持してから72時間後には、最大値間のギャップは3%未満であった。
【0041】
【0042】
<実施例5>
特許請求の範囲に記載の範囲の合金濃度で均質化および硬化するために選択された条件を守るために、表1に示す実験組成物のソリダスおよびソルバスの典型的な温度が計算された。表6は、計算結果を示す。
【0043】
【0044】
表6からわかるように、ドーピング元素濃度の特許請求の範囲に記載の範囲に対して、インゴット均質化のステージにおいて得られる最大可能加熱温度は、それぞれ568℃から610℃の範囲にある。実験室合金の過飽和ハードアルミニウム溶液を得るための水硬化が、ドーピング元素濃度の範囲に応じて、328℃および422℃より高い加熱温度で実行される。537℃より高い加熱温度で、組成No.9から生成される物品は、回収不能に溶融される。
【0045】
<実施例6>
機械的特性における冷却の効果は、GOST1593に従う鋳造棒から切断された直径の5倍の長さを有する曲がった円筒形標本を使って、機械的特性の値(σ-引張強度MPa、δ-特定の伸長率%)に基づいて評価された。ここで、標本は、一体鋳造および金型鋳造された。機械的特性は、最適な機械的特性を与える条件No.T6の下で比較された(表7)。
【0046】
【0047】
比較結果からわかるように、1.8μmの共晶コンポーネントの平均サイズを有する所望の構造の形成は、機械的特性に差を生じさせる。さらに、
図1Aに示す構造は、低圧キャスティング、重力キャスティング、圧電結晶キャスティングを含む処理によって実行される
金型鋳造に典型的である。
一体鋳造における構造(
図1B参照)は、機械的特性に悪影響を及ぼす粗い共晶コンポーネントを有する。
【0048】
<実施例7>
鋳造モールド充填のパフォーマンスは、螺旋標本上での流動性によって評価された。組成6(表1)の特許請求の範囲にかかる合金およびA356.2から形成された
図3に示す螺旋鋳造物は、第1の組成が非常に高い流動性を有し、合金A356.2に対応することを表す(表8)。
【0049】
【0050】
<実施例8>
アルゴンアーク溶接により製造された溶接ジョイントに対する特許請求の範囲に記載した合金のパフォーマンスが、組成14および15を使って評価された(表9)。そのために、実施例3の処理を使ってシートが製造され、その後、溶接され、条件No.T6の下で加熱処理された。溶接ジョイント実験の結果を表10に示す。
【0051】
【0052】
<実施例9>
GOST1593に従う鋳造棒を製造するために、組成16および17の合金が使用された。鋳造体は、540℃の温度で硬化後に72時間室温で自然エージング処理された後に試験された。
【0053】
【0054】
<実施例10>
硬化オペレーションに続いて実行されるエージング処理の温度は、組成4(表1)を有する本願発明の合金を実施例として使用し、硬さ(HB)の変化に基づいて選択された。硬化されたシートに対する硬さ測定の結果が表13に示されている。表13からわかるように、有意な強化利得は160℃までに観測された。180℃でのエージング処理は、範囲外の処理のため硬さを減少させている。
【0055】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0056】
【文献】欧州特許第1885898号公報
【文献】米国特許出願公開第20050058568号明細書
【文献】米国特許出願公開20070039668号明細書
【文献】ロシア国特許第2484168号公報
【非特許文献】
【0057】
【文献】Alieva S. G., Altman M. B., Ambartsumyan S. M. et al. Promyshlennye alyuminievye splavy (Industrial aluminum alloys). /Reference book./ Moscow, Metallurgiya, p.528, 1984
【文献】Aluminum. Properties and Physical Metallurgy, Ed. J. Hatch, 1984