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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】高結合活性HPV T細胞受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220128BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20220128BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220128BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220128BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220128BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220128BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20220128BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/08 ZNA
C12N15/85 Z
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P31/00
A61K48/00
A61K35/17 Z
A61K39/395 D
A61K39/395 S
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P31/20
A61P37/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018519710
(86)(22)【出願日】2016-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2016074612
(87)【国際公開番号】W WO2017064198
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2019-10-08
(31)【優先権主張番号】15190230.1
(32)【優先日】2015-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504439274
【氏名又は名称】マックス-デルブリュック-ツェントルム フューア モレキュラーレ メディツィン イン デア ヘルムホルツ-ゲマインシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】ブランケンシュタイン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ウィリンズキー,ゲラルド
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0121628(US,A1)
【文献】特表2015-504895(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0218080(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175683(US,A1)
【文献】Genome Medicine,2013年,Vol.5:98,pp.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CA/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原に特異的に結合する抗原認識構築物であって、該抗原認識構築物が
I. a.配列番号29に含まれる、相補鎖決定領域(CDR)1 (DSASNY)、CDR2 (IRSNVGE) 及びCDR3(CAASSYNQGGKLIF)配列、及び
b. 配列番号31に含まれる、CDR1 (SGHNS)、CDR2 (FNNNVP) 及びCDR3 (CASSLLSSYNEQFF)配列、又は
II. a.配列番号30に含まれる、CDR1 (TISGTDY)、CDR2 (GLTSN)及びCDR3 (CILRDVNAGGTSYG KLTF)配列、及び
b. 配列番号31に含まれる、CDR1 (SGHNS)、CDR2 (FNNNVP)及びCDR3 (CASSLLSSYNEQFF)配列、又は
III. a.配列番号32に含まれる、CDR1 (DRGSQS)、CDR2 (IYSNGD)及びCDR3 (CAVNVDFNKFYF)配列、及び
b. 配列番号33に含まれる、CDR1 (MGHRA)、CDR2 (YSYEKL)及びCDR3 (CASSQDWNNEQFF)配列、又は
IV. a.配列番号34に含まれる、CDR1 (VSGLRG)、CDR2 (LYSAGEE)及びCDR3 (CAVQANRGSTLGRLYF)配列、及び
b. 配列番号35に含まれる、CDR1 (MDHEN)、CDR2 (SYDVKM)及びCDR3 (CASSLWGRLAKNIQYF)配列、又は
V. a.配列番号36に含まれる、CDR1 (DSAIYN)、CDR2 (IQSSQRE)及びCDR3 (CAVRETSGSRLTF)配列、及び
b. 配列番号37に含まれる、CDR1 (MDHEN)、CDR2 (SYDVKM)及びCDR3 (CASSFWGRSTDTQYF)配列、又は
VI. a.配列番号38に含まれる、CDR1 (TSINN)、CDR2 (IRSNERE)及びCDR3 (CATVSTDSWGKLQF)配列、及び
b. 配列番号39に含まれる、CDR1 (ENHRY)、CDR2 (SYGVKD)及びCDR3 (CAISDSNGINIQYF)配列、又は
VII. a.配列番号38に含まれる、CDR1 (TSINN)、CDR2 (IRSNERE)及びCDR3 (CATVSTDSWGKLQF)配列、及び
b. 配列番号40に含まれる、CDR1 (MDHEN), CDR2 (SYDVKM)及びCDR3(CASSFWGRSTDTQYF) 配列、又は
VIII. a.配列番号41に含まれる、CDR1 (SSVSVY)、CDR2 (YLSGSTLV)及びCDR3 (CAVSLNSGNTPLVF)配列、及び
b. 配列番号42に含まれる、CDR1 (DFQATT)、CDR2 (SNEGSKA)及びCDR3 (CSARDLAGNTGELFF)配列、又は
IX. a.配列番号43に含まれる、CDR1 (KALYS)、CDR2 (LLKGGEQ)及びCDR3 (CGTGTDSWGKLQF)配列、及び
b. 配列番号44に含まれる、CDR1 (SGHDY)、CDR2 (FNNNVP)及びCDR3 (CASSPGLAGGEQFF)配列、又は
X. a.配列番号45に含まれる、CDR1 (DSVNN)、CDR2 (IPSGT)及びCDR3 (CAVEPNSGNTPLVF)配列、及び
b. 配列番号46に含まれる、CDR1 (SGHTA)、CDR2 (FQGNS)及びCDR3 (CASSLIISYNEQFF)配列、又は
XI. a.配列番号47に含まれる、CDR1 (TSESDYY)、CDR2 (QEAYKQQ)及びCDR3 (CAYRSAPYSGAGSYQLTF)配列、及び
b. 配列番号48に含まれる、CDR1 (LGHNA)、CDR2 (YNFKEQ)及びCDR3 (CASSQAPGLAGAEQYF)配列、
を含む、抗原認識構築物。
【請求項2】
抗原認識構築物が、抗体しくはその断片、又は、T細胞受容体(TCR)しくはその断片である、請求項1に記載の抗原認識構築物。
【請求項3】
抗原認識構築物がTCR又はTCRα鎖及びTCRβ鎖から構成される該TCRの断片であり、該TCRが、配列番号29と31、又は配列番号30と31、又は配列番号32と33、又は配列番号34と35、又は配列番号36と37、又は配列番号38と39、又は配列番号38と40、又は配列番号41と42、又は配列番号43と44、又は配列番号45と46、又は配列番号47と48に示される可変配列を含む、請求項1又は2に記載の抗原認識構築物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原認識構築物をコードする核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸を含むベクター。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原認識構築物、又は請求項4に記載の核酸、又は請求項5に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項7】
宿主細胞が、CD4若しくはCD8陽性T細胞、Tリンパ球、又はリンパ球である、請求項6に記載の宿主細胞。
【請求項8】
医薬に使用するための、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原認識構築物、又は請求項4に記載の核酸、又は請求項5に記載のベクター、又は請求項6又は7に記載の宿主細胞。
【請求項9】
悪性又は良性の腫瘍疾患を含む、増殖疾患又は感染性疾患の、診断、予防、及び/又は治療に使用するための、請求項8に記載の抗原認識構築物、又は核酸、又はベクター、又は宿主細胞。
【請求項10】
医薬への使用が、養子T細胞療法を含む免疫療法である、請求項8又は9に記載の抗原認識構築物、又は核酸、又はベクター、又は宿主細胞。
【請求項11】
HPV特異的な抗原認識構築物(ARC)を発現する細胞系の製造のためのインビトロ方法であって、
a.適切な宿主細胞を提供する工程、
b.ARCをコードする遺伝子構築物を提供する工程であって、
該ARCは
I. a.配列番号29に含まれる、相補鎖決定領域(CDR)1 (DSASNY)、CDR2 (IRSNVGE) 及びCDR3(CAASSYNQGGKLIF)配列、及び
b. 配列番号31に含まれる、CDR1 (SGHNS)、CDR2 (FNNNVP) 及びCDR3 (CASSLLSSYNEQFF)配列、又は
II. a.配列番号30に含まれる、CDR1 (TISGTDY)、CDR2 (GLTSN)及びCDR3 (CILRDVNAGGTSYG KLTF)配列、及び
b. 配列番号31に含まれる、CDR1 (SGHNS)、CDR2 (FNNNVP)及びCDR3 (CASSLLSSYNEQFF)配列、又は
III. a.配列番号32に含まれる、CDR1 (DRGSQS)、CDR2 (IYSNGD)及びCDR3 (CAVNVDFNKFYF)配列、及び
b. 配列番号33に含まれる、CDR1 (MGHRA)、CDR2 (YSYEKL)及びCDR3 (CASSQDWNNEQFF)配列、又は
IV. a. 配列番号34に含まれる、CDR1 (VSGLRG)、CDR2 (LYSAGEE)及びCDR3 (CAVQANRGSTLGRLYF)配列、及び
b. 配列番号35に含まれる、CDR1 (MDHEN)、CDR2 (SYDVKM)及びCDR3 (CASSLWGRLAKNIQYF)配列、又は
V. a. 配列番号36に含まれる、CDR1 (DSAIYN)、CDR2 (IQSSQRE)及びCDR3 (CAVRETSGSRLTF)配列、及び
b. 配列番号37に含まれる、CDR1 (MDHEN)、CDR2 (SYDVKM)及びCDR3 (CASSFWGRSTDTQYF)配列、又は
VI. a. 配列番号38に含まれる、CDR1 (TSINN)、CDR2 (IRSNERE)及びCDR3 (CATVSTDSWGKLQF)配列、及び
b. 配列番号39に含まれる、CDR1 (ENHRY)、CDR2 (SYGVKD)及びCDR3 (CAISDSNGINIQYF)配列、又は
VII. a. 配列番号38に含まれる、CDR1 (TSINN)、CDR2 (IRSNERE)及びCDR3 (CATVSTDSWGKLQF)配列、及び
b. 配列番号40に含まれる、CDR1 (MDHEN), CDR2 (SYDVKM)及びCDR3(CASSFWGRSTDTQYF) 配列、又は
VIII. a. 配列番号41に含まれる、CDR1 (SSVSVY)、CDR2 (YLSGSTLV)及びCDR3 (CAVSLNSGNTPLVF)配列、及び
b. 配列番号42に含まれる、CDR1 (DFQATT)、CDR2 (SNEGSKA)及びCDR3 (CSARDLAGNTGELFF)配列、又は
IX. a. 配列番号43に含まれる、CDR1 (KALYS)、CDR2 (LLKGGEQ)及びCDR3 (CGTGTDSWGKLQF)配列、及び
b. 配列番号44に含まれる、CDR1 (SGHDY)、CDR2 (FNNNVP)及びCDR3 (CASSPGLAGGEQFF)配列、又は
X. a. 配列番号45に含まれる、CDR1 (DSVNN)、CDR2 (IPSGT)及びCDR3 (CAVEPNSGNTPLVF)配列、及び
b. 配列番号46に含まれる、CDR1 (SGHTA)、CDR2 (FQGNS)及びCDR3 (CASSLIISYNEQFF)配列、又は
XI. a. 配列番号47に含まれる、CDR1 (TSESDYY)、CDR2 (QEAYKQQ)及びCDR3 (CAYRSAPYSGAGSYQLTF)配列、及び
b. 配列番号48に含まれる、CDR1 (LGHNA)、CDR2 (YNFKEQ)及びCDR3 (CASSQAPGLAGAEQYF)配列、
を含むものである、
c.前記適切な宿主細胞に前記遺伝子構築物を導入する工程、
d.前記適切な宿主細胞で前記遺伝子構築物を発現させる工程、
を含む、方法。
【請求項12】
前記ARCが請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原認識構築物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記宿主細胞がヒトを含む哺乳類のT細胞である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
細胞からARCの精製、及び、任意でT細胞で翻訳されたARC断片の再構築をさらに含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトパピローマウイルス抗原に対する新規高結合活性抗原認識構築物に関する。本発明は、HPV16/18タンパク質E5、E6及びE7に選択的かつ特異的である新規なT細胞受容体(TCR)に基づく分子を提供する。本発明のTCR、及びそれに由来するHPV抗原結合断片はHPV感染の診断、治療及び予防に使用されるだけでなく、HPV感染が媒介する二次的疾患としてのHPV感染が引き起こしたがん、例えば、子宮頸がん、上咽頭がん(nasopharyngeal cancer)、頭頸部がん等の診断、治療及び予防に使用される。本発明のタンパク質をコードする核酸及びそれを発現する組換え細胞もさらに提供される。
【背景技術】
【0002】
TCRは、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体のインバリアント(invariant)タンパク質に関連する免疫グロブリンスーパーファミリーのヘテロダイマー細胞表面タンパク質である。TCRはαβ型及びγδ型が存在し、それらは構造的には類似しているが、全く異なる解剖学的部位及び恐らく機能を有する。天然のヘテロ二量体αβTCRの細胞外部分は、2つのポリペプチドからなり、各々は膜近位定常ドメイン及び膜遠位可変ドメインを有する。各定常ドメイン及び可変ドメインは、鎖内ジスルフィド結合を含む。可変ドメインは、抗体の相補性決定領域(CDR)に類似した高度に多型性のループを含む。TCR遺伝子療法の使用は、多くの現在のハードルを克服する。これにより、患者自身のT細胞に所望の特異性を与え、短期間に十分な数のT細胞を生成し、それらの消耗を回避することが可能になる。TCRは、セントラルメモリー T細胞又は幹細胞の特徴を有するT細胞に変換され、移植(transfer)時の持続性及び機能をより確実にすることができる。TCR改変(TCR-engineered)T細胞は、化学療法又は放射線照射によってリンパ球減少症を引き起こす患者に注入され、効率的な生着を可能にするが、免疫抑制を阻害する。
【0003】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚及び/又は粘膜上皮に感染する、小さな非エンベロープの二本鎖DNAウイルスである。100を超えるHPV遺伝子型が存在することが知られている。男性及び女性の肛門生殖器管に感染する、粘液分泌性であるHPVのサブセットは、最も一般的な性感染ヒト病原体である。これらの性的に伝播する粘膜親和性HPVはそれらの発がん性により、高いリスク(HPV16及びHPV18)又は低いリスク(HPV6 及び HPV11)として分類される。高リスク遺伝子型は、子宮頸がんの100%近くを含む肛門生殖器がんと因果関係があり、これは世界の女性のがんによる死亡原因の第2位の原因である。
【0004】
発がん性HPVの持続性は、子宮頸部前がん及びがんの発生に必要である。しかしながら、ウイルスの持続性及び腫瘍原性の進行を決定する因子は完全には理解されていない。ウイルス感染後の子宮頸部発がんの初期事象は、高リスクHPV型が感染ケラチノサイトにおけるウイルス遺伝子発現の転写制御を無効にする特異的変化を受けるという事実に依存する。これらの細胞制御機能の不活性化は初期ウイルス遺伝子E6及びE7の転写調節解除を可能にし、それによって細胞増殖、アポトーシスの阻害、分化の再プログラミング及び染色体不安定性を引き起こす。これらの変化は、エピソームHPVゲノムの宿主細胞の染色体への組み込みを支援することができ、及びウイルス遺伝子E6及びE7のさらなる過剰発現に貢献し、子宮頸部発がんの初期段階におけるE7がんタンパク質レベルの上昇をもたらす。
【0005】
ウイルスのがんタンパク質E6及びE7が発がんにおいて決定的に重要であることは、高リスクE7タンパク質が高リスクE6と協力して、インビトロでヒト初代ケラチノサイトを効率的に不死化できることによってさらに証明された。さらに、子宮頸がん細胞の形質転換された表現型を誘導及び維持するためには、E6及びE7発がん遺伝子の一貫した過剰発現が必要である。
【0006】
従って、E6及びE7タンパク質の検出は優れた診断ツールであると思われる。様々な抗体が当技術分野で既に知られているが、それらは低感受性若しくは低特異性を示すか、又は様々なHPV型のE7タンパク質と交差反応すると記載されている。また、ポリクローナル抗体は1体の動物で限られた量しか産生することができないので、バッチ間の違いがある。E7タンパク質に対する非常に特異的かつ高感度のモノクローナル抗体を産生することの困難性は、主にE7タンパク質の低い免疫原性によるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的の一つは前述の困難性を克服することであり、そして、費用対効果の高い、迅速かつ信頼性の高いHPV感染の診断のための、非常に特異的でより高感度な手段、例えば、E5、E6又はE7等の初期HPVタンパク質の存在又は非存在の検出を介する手段、を提供することである。
【0008】
最も一般的な2つの高リスクHPVに対する有効な予防ワクチンが入手可能であるが、高額であり、社会的な受容の問題、及び、HPV関連肛門生殖器がんが最も一般的に見られる特に発展途上国の女性に、このワクチンの利用可能性を制限する可能性があるワクチン接種が可能な医療制度の限界がある。それゆえ、HPV感染及び子宮頸がんのようなHPV感染に起因するがんを標的とするための直接的な治療法を明らかにする必要性が依然として存在する。従って、本発明が解決すべきもう一つの技術的課題は、HPV介在性疾患の治療及び予防における治療的アプローチに使用される、効率的かつ高結合活性T細胞受容体に基づく分子を提供することである
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は配列番号9~28から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又は100%の配列同一性を持つアミノ酸配列を含む抗原認識構築物による第一の態様で解決される。
【0010】
配列番号9~28は、本出願の実施例(実施例1~9)の節の表に示されるTCR T1~T9 CDR3領域に対応する。本発明のHPV応答性TCRは、HPV抗原に対する最先端のTCRと比較して非常に貪欲(avid)であり驚くべき発見だった。場合によって、本発明は、最先端のTCRと比較して、より特異的であり、より敏感であり、より選択的であり、及び/又はより貪欲(avid)である。本発明の好ましい一態様において、抗原認識構築物は配列番号9~28から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又は100%の配列同一性を持つ相補鎖決定領域3(CDR3)を含む。
【0011】
本発明の抗原認識構築物のCDR3は突然変異していてもよい。配列番号9~28のCDR3配列の変異は、3つ以下の、好ましくは2つ以下の、最も好ましくは1アミノ酸残基の置換、欠失、付加、又は挿入を好ましくは含む。
【0012】
別のさらなる若しくは代替の態様において、抗原認識構築物はHPV抗原認識構築物である。
【0013】
別のさらなる若しくは代替の態様において、抗原認識構築物はCDR1及びCDR2ドメイン配列をさらに含んでいてもよい。可変ドメイン内では、CDR1及びCDR2はポリペプチド鎖の可変(V)領域に見出され、CDR3は可変(V)領域の一部と、ダイバーシティ(D)領域及びジョイニング(J)領域のすべてを含む。CDR3は最も可変であり、抗原を認識に関与する主要なCDRである。CDR1及びCDR2配列は、ヒト可変鎖対立遺伝子のCDR配列から選択され得る。
【0014】
天然のアルファ-ベータヘテロダイマーTCRはアルファ鎖及びベータ鎖を持つ。それぞれの鎖は可変領域、ジョイニング領域及び定常領域を含み、ベータ鎖は通常、可変領域とジョイニング領域の間に短いダイバーシティ領域を含むが、このダイバーシティ領域はしばしばジョイニング領域の一部とみなされる。それぞれの可変領域はフレームワーク配列に埋め込まれている3つのCDR(相補鎖決定領域)を含み、1つがCDR3と呼ばれる高頻度可変領域である。フレームワーク領域、CDR1配列及びCDR2配列によって区別される、及び一部CDR3配列によって定義される、数種類のアルファ鎖可変(Vα)領域及び数種類のベータ鎖可変(Vβ)領域がある。Vαタイプは、IMGT命名法では固有のTRAV番号によって参照され、Vβタイプは固有のTRBV番号によって参照される。
【0015】
従って、もう一つの又は代替の態様において、本発明の抗原認識構築物は、CDR3配列と共にそれぞれの可変鎖アリルが示される実施例の節の表で提供される組合せのCDR1、CDR2、CDR3を含む。従って、本発明の好ましい抗原認識構築物は少なくとも1つ、好ましくは全てのCDR配列、CDR1、CDR2及びCDR3を含む。
【0016】
本発明の一態様において、抗原認識構築物はヒトパピローマウイルス(HPV)抗原に特異的に結合し、好ましくは、HPV抗原はHPV16 E5、HPV16 E6、 HPV16 E7、HPV18 E6及びHPV18 E7から選択されるタンパク質である。
【0017】
本願明細書において、抗原に与えられる用語「特異性」又は「抗原特性」又は「特異的」は、抗原認識構築物が前記抗原に、好ましくはHPV抗原に、より好ましくは高結合活性で、特異的に結合可能であること、を意味する。例えば、TCRを発現するT細胞が低濃度(例えば、約10-11mol/l、10-10mol/l、10-9mol/l、10-8mol/l、10-7mol/l、10-6mol/l、 10-5mol/l)のHPV抗原(例えば、HPV16 E5、E6及びE7抗原)でパルスした標的細胞標的細胞との共培養の際に少なくとも約200 pg/ml以上(例えば、250 pg/ml以上、300 pg/ml以上、400 pg/ml以上、500 pg/ml以上、600 pg/ml以上、700 pg/ml以上、1000 pg ml以上、2,000 pg/ml以上、2,500 pg/ml 以上、5,000 pg/ml 以上)のインターフェロンγ(IFN-γ)を分泌する場合、TCRはHPV抗原に対する「抗原特異性」を有すると考えられ得る。 代替的に又は付加的に、TCRを発現するT細胞が、低濃度のHPV抗原でパルスした標的細胞との共培養の際に、IFN-γの非形質導入バックグラウンドレベルの少なくとも2倍のIFN-γを分泌する場合、TCRはHPVに対して「抗原特異性」を有すると考えられ得る。本明細書で記載されるそのような「特異性」は例えばELISAで分析可能である。
【0018】
本発明の代替の又は別の態様において、抗原認識構築物はヒトパピローマウイルス(HPV)抗原に選択的に結合し、好ましくはHPV抗原はHPV16 E5、HPV16 E6、HPV16 E7、HPV18 E6及びHPV18 E7から選択されるタンパク質である。
【0019】
用語「選択性」又は「選択的認識/結合」は好ましくは1つの特異的エピトープのみを選択的に認識又は結合し、好ましくは別のエピトープに対して交差反応性を示さないか又は実質的に示さない、抗体またはT細胞受容体の特性を意味すると理解される。好ましくは、「選択性」又は「選択的認識/結合」は、抗原認識構築物(例えばTCR)が好ましくは1つの特異的エピトープのみを選択的に認識又は結合し、好ましくは別のエピトープに対して交差反応性を示さないか又は実質的に示さないことを意味し、前記エピトープは、抗原認識構築物が別のエピトープ及び別のタンパク質に対して交差反応性を示さないか又は実質的に示さないように、1つのタンパク質に対して特有である。
【0020】
本発明に係る抗原認識構築物は、抗体又はその誘導体若しくはその断片、又は、T細胞受容体(TCR)又はその誘導体若しくはその断片から好ましくは選択される。本発明の抗体又はTCRの誘導体又は断片は、オリジナル分子の持つ抗原への結合/認識能力を、特に、上記説明の通りの特異性及び/又は選択性を、好ましくは保持するものである。
【0021】
本発明の一態様において、本発明のTCRは主要組織適合抗原(MHC)クラスIに依存する態様でHPV抗原を認識することができる。本明細書において「MHCクラスIに依存する態様」とは、TCRがMHCクラスI分子のある状況下でHPV抗原に結合すると免疫応答を誘導することを意味する。該MHCクラスI分子は当業者に知られるいかなるMHCクラスI分子でもよく、例えば、HLA-A分子が挙げられる。本発明の好ましい態様において、 該MHCクラスI分子はHLA-A分子であり、好ましくはHLA-A2.01である。
【0022】
以下のエピトープ(配列番号1~9)は実施例のTCRを産生するのに使用された: YIIFVYIPL (HPV 16 E563-71)、KLPQLCTEL (HPV 16 E611-19) 、TIHDIILECV (HPV 16 E629-38) 、YMLDLQPET (HPV 16 E711-19) 、YMLDLQPETT (HPV 16 E711-20) 、TLGIVCPI (HPV 16 E786-93) 、KCIDFYSRI (HPV 18 E667-75) 、FQQLFLNTL (HPV 18 E786-94)。従って、抗原認識構築物が記載される本発明の一つの態様では、抗原認識構築物が上記HPVエピトープの一つに特異的及び/又は選択的である。本願実施例の節で記載されるとおり、どのCDR3が存在するかに依存して、本発明の抗原認識構築物がそれぞれの対応するエピトープに特異的及び/又は選択的に結合することは当業者に明らかである。
【0023】
本発明は、一本鎖抗原認識構築物及び二本鎖認識構築物の両方を提供する。
【0024】
本発明は、抗原認識構築物又はその断片若しくはその誘導体としてのTCRを特に提供する。TCRは好ましくはヒトであり、TCRはヒトTCR遺伝子座由来で生成されるものと理解され、そしてこのことから、ヒトTCR配列を含むものと理解される。さらに、本発明のTCRは、ヒト起源であり、HPV抗原を特異的に認識することを特徴とすることができる。この点における「起源」という用語は、それぞれの「元の」配列に由来するがアミノ酸の改変を含む変異した配列を指す。例えば、ヒト起源のTCRは、非ヒト種のTCR配列を含んでもよく、ヒトTCR配列に人工的に導入されたものでもよい。
【0025】
本発明の付加的又は代替的な別の態様は免疫反応を誘導する上記抗原認識構築物を提供し、好ましくは、免疫反応はインターフェロン(IFN)γレベルを増加することにより特徴付けられる。
【0026】
本発明のTCRは、一本鎖α分子若しくは一本鎖β分子として、又はα鎖及びβ鎖の両方、又はγ鎖及びδ鎖の両方から構成される二本鎖構築物として提供され得る。従って、本発明のTCRは配列番号9、10、12、14、16、18、21、23、25、 27から選択される1つのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するアルファ鎖CDR3を、及び/又は、配列番号11、13、15、17、19、20、22、24、26、28から選択されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するベータ鎖CDR3を好ましくは含む。
【0027】
好ましくは二重鎖TCR又はその抗原結合断片は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号11に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号12に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号13に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号15に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号17に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号19に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号18に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号20に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号22に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号23に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号24に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含み;又は、第一ポリペプチド鎖において、配列番号27に示されるアミノ酸配列を含み、及び、第二ポリペプチド鎖において、配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む。前記二重鎖TCR又はその抗原結合断片のうちのいずれか1つは本発明の好ましいTCRである。いくつかの態様において、本発明の二重鎖TCR のCDR3は変異していてもよい。上記提供される配列番号9~28のCDR3の変異は3つ以下、好ましくは2つ、最も好ましくは1つのアミノ酸残基の置換、欠失、付加、又は挿入を含む。いくつかの態様において、第一ポリペプチド鎖はTCRα鎖又はγ鎖、かつ、第二ポリペプチド鎖はTCRβ鎖又はδ鎖であってもよい。好ましくはαβ又はγδの組合せのTCRである。
【0028】
TCR又はその抗原結合断片は TCRα鎖及びTCRβ鎖、又はγ鎖及びδ鎖から構成される。そのような二本鎖TCRはそれぞれの鎖内にCDR1配列、CDR2配列及びCDR3配列を含む可変領域を含む。TCRは配列番号29及び配列番号31(T1a);又は配列番号30及び配列番号31(T1b);又は配列番号32及び配列番号33(T2);又は配列番号34及び配列番号35(T3);又は配列番号36及び配列番号37(T4);又は配列番号38及び配列番号39(T5a);又は配列番号38及び配列番号40(T5b);又は配列番号41及び配列番号42(T6);又は配列番号43及び配列番号44(T7);又は配列番号45及び配列番号46(T8);又は配列番号47及び配列番号48(T9)に示される可変鎖アミノ酸配列に含まれるCDR1~3を含む。
【0029】
本発明のいくつかの態様はTCR又はTCRα鎖及びTCRβ鎖から構成されるその断片に関連し、前記TCRはα鎖及びβ鎖、それぞれ配列番号29及び配列番号31(T1a);又はそれぞれ配列番号30及び配列番号31(T1b);又はそれぞれ配列番号32及び配列番号33(T2);又はそれぞれ配列番号34及び配列番号35(T3);又はそれぞれ配列番号36及び配列番号37(T4);又はそれぞれ配列番号38及び配列番号39(T5a);又はそれぞれ配列番号38及び配列番号40(T5b);又はそれぞれ配列番号41及び配列番号42(T6);又はそれぞれ配列番号43及び配列番号44(T7);又はそれぞれ配列番号45及び配列番号46(T8);又はそれぞれ配列番号47及び配列番号48(T9)に示されるα鎖及びβ鎖の可変領域配列を含む。
【0030】
本発明のTCRは任意の適切な種、例えばヒト又はマウスに由来する定常領域をさらに含んでよい。本発明の一態様において、本発明のTCRはヒト定常領域をさらに含む。いくつかの好ましい態様において、本発明のTCRの定常領域は、例えばTCRの安定性を増大させる可能性のあるマウスの配列を導入することによって、わずかに変更されてもよい。
【0031】
本明細書において、抗原認識構築物、又はTCR、又は本明細書に記載される(例えば相補鎖決定領域(CDR)、可変領域、定常領域、α鎖、及び/又はβ鎖などの)TCRの任意の構成要素に言及する場合、用語「マウス」又は「ヒト」は、それぞれマウス又はヒトの再構成されていないTCR遺伝子座に由来するTCR(又はその構成要素)を意味する。
【0032】
本発明の一態様において、キメラTCRはTCRのα鎖及びTCRのβ鎖を含むことができる。本発明のキメラTCRのα鎖及びβ鎖のそれぞれは独立して任意のアミノ酸配列を含むことができる。好ましくは、上述のとおり、α鎖はヒトのα鎖の可変領域及びマウスのα鎖の定常領域を含む。
【0033】
本発明のTCRの一つの態様は上記態様に係るヒト可変領域及びヒト定常領域を含む。
【0034】
本発明のTCRは一本鎖TCR(scTCR)として提供されてもよい。scTCRは第一TCR鎖(例えばα鎖)の可変領域のポリペプチド及び全体(全長)第二TCR鎖(例えばβ鎖)のポリペプチド、又はその逆であってもよい、を含んでもよい。さらに、scTCRは任意で2つ以上のポリペプチドを一緒に連結する1つ以上のリンカーを含むことができる。本明細書に記載されるとおり、リンカーは、例えば、2つの一本鎖を連結するペプチドであり得る。本発明のscTCRの一例としては、例えばIL-2、IL-7又はIL-15のようなヒトサイトカインと融合されるものとしても提供される。
【0035】
本発明に係る抗原認識構築物は、少なくとも2つのscTCR分子を含む、多量体複合体の形態で提供することもでき、前記scTCR分子はそれぞれ、少なくとも1つのビオチン部分と融合されるものであって、前記scTCR分子はビオチン-ストレプトアビジン相互作用によって相互連結され、前記多量体複合体の形成を可能にするものである。多量体TCRの生成に関する同様のアプローチも可能であり本開示に含まれる。また、本発明のscTCRを2つを超えて含む高次の多量体複合体も提供される。
【0036】
本発明の目的のため、TCRは少なくとも1つのTCRアルファ及び/又はTCRベータ可変ドメインを有する部分である。一般的に、これらはTCRアルファ可変ドメイン及びTCRβ可変ドメインの両方を含む。これらはαβヘテロダイマー又は一本鎖形態であってもよい。養子免疫療法での使用のため、αβヘテロダイマーTCRは、例えば、細胞質及び膜貫通ドメインの両方を有する全長鎖でトランスフェクションされてもよい。所望の場合、それぞれの定常ドメインの残基間に導入されたジスルフィド結合が存在していてもよい。
【0037】
本発明の第一の態様の一つの付加的な好ましい態様において、抗原認識構築物は上記TCRである。該TCRは好ましくは少なくとも1つのアルファ及び/又はベータTCR鎖を含み、前記TCRは配列番号22~39に示されるTCR鎖のいずれか1つに示されるアミノ酸配列、又は配列番号22~39に示されるアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又は100%同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0038】
好ましい態様において、抗原認識構築物はヒトTCR又はその断片若しくはその誘導体である。ヒトTCR又はその断片若しくはその誘導体は対応するヒトTCR配列の50%超を含むTCRである。好ましくは、TCR配列のごく一部のみが人工起源であるか、又は他の種に由来する。しかしながら、例えば、定常ドメイン中のマウス配列を有するヒト由来のキメラTCRが有利であることが知られる。したがって、特に好ましいのは、それらの定常ドメインの細胞外部分にマウス配列を含む、本発明によるTCRである。
【0039】
このように、本発明の抗原認識構築物は、ヒト白血球抗原(HLA)依存的様式、好ましくはHLA-A02依存的様式でその抗原を認識することができることも好ましい態様である。本発明の文脈における用語「HLA依存的様式」は、抗原ペプチドがHLAによって提示される場合にのみ抗原認識構築物が該抗原に結合することを意味する。
【0040】
本発明の一態様における抗原認識構築物は、好ましくは免疫反応を誘導し、好ましくは該免疫反応はインターフェロン(IFN)γレベルを増大することによって特徴づけられる。
【0041】
本願で提供されるものは、例えば、本願実施例の節で提供されるTCRのT1~T9のいずれか1つのような本開示のTCR(又はその機能的変異体)のいずれかの機能的部分を含むポリペプチドでもある。本明細書で使用される用語「ポリペプチド」は、オリゴペプチドを含み、1つ以上のペプチド結合によって連結されたアミノ酸の一本鎖をいう。本発明のポリペプチドに関し、その機能的部分は、その機能的部分が配列番号1~8に示されるHPV抗原に特異的に結合する場合、その部分であるTCR(又はその機能的変異体)の連続アミノ酸を含む任意の部分であり得る。「機能的部分」という用語は、TCR(又はその機能的変異体)に関して使用される場合、本発明のTCR(又はその機能的変異体)の任意の部分又は断片をいい、その部分又は断片はその一部(その親TCR又はその親機能的変異体)であるTCR(又はその機能的変異体)の生物学的活性を保持する。機能的部分は、例えば、HPV抗原(例えば配列番号1~8)に(例えばHLA-A2依存的様式で)特異的に結合する能力を保持するか、又は癌を検出、治療、若しくは予防する能力を保持するTCR(又はその機能的変異体)の部分を、親TCR(又はその機能的変異体)と類似する程度、同程度又はより高い程度に包含する。親TCR(又はその機能的変異体)に関し、その機能的部分は親TCR可変配列(又はその機能的変異体)の、例えば、約10%、25%、30%、50%、68%、80%、90%、95%以上を含むことができる。
【0042】
機能的部分は、親TCR又はその機能的変異体のアミノ酸配列中に見出されない、付加的なアミノ酸をその部分のアミノ末端又はカルボキシ末端、又は両方の末端に含み得る。望ましくは、その付加的アミノ酸は、機能的部分の生物学的機能、例えばHPV抗原に特異的に結合すること、を妨げず、及び/又は癌等を検出、治療若しくは予防する能力を有する。より望ましくは、その付加的アミノ酸は親TCR又はその機能的変異体の生物学的活性と比較して、生物学的活性を増強する。
【0043】
ポリペプチドは、本発明のTCR又はその機能的変異体のα鎖及びβ鎖のいずれか一方又は両方の機能的部分、例えば本発明のTCR又はその機能的変異体のα鎖及び/又はβ鎖の可変領域の1つ以上のCDR1、CDR2及びCDR3を含む機能的部分、を含むことができる。本発明の一態様において、ポリペプチドは配列番号9~28のアミノ酸配列(本発明のTCRの可変領域のCDR3)又はその組合せを含む機能的部分を含むことができる。本発明の一態様において、本発明のポリペプチドは、例えば、上記CDR領域の組合せを含む本発明のTCR又はその機能的変異体の可変領域を含むことができる。これに関し、ポリペプチドは配列番号29~48(α鎖又はβ鎖の可変領域)のいずれかのアミノ酸配列を含むことができる。
【0044】
場合によって、本願発明の抗原認識構築物は、配列番号9~48(CDR配列又は全可変領域)に示されるいずれか1つの配列を含む1つ又は2つのポリペプチド、又はその機能的断片を含んでもよく、また、他のアミノ酸配列、例えば、免疫グロブリン又はその部分をコードするアミノ酸配列をさらに含んでもよく、その場合本願発明のタンパク質は融合タンパク質であり得る。これに関し、本発明は、少なくとも1つの本発明のポリペプチドと本明細書の文脈に沿う少なくとも1つの他のポリペプチドとを含む融合タンパク質を提供する。他のポリペプチドは、融合タンパク質の別個のポリペプチドとして存在し得るか、又は本明細書に記載される本発明のポリペプチドの1つとインフレーム(タンデム)で発現されるポリペプチドとして存在し得る。該他のポリペプチドは、免疫グロブリン、CD3、CD4、CD8、MHC分子、CD1分子(例えば、CD 1a、CD 1b、CD 1c、CD 1d等)を含むがこれらに限定されない、任意のペプチド又はタンパク質分子又はその一部をコードすることができる。
【0045】
融合タンパク質は、本発明のポリペプチドの1以上のコピー及び/又は他のポリペプチドの1以上のコピーを含むことができる。例えば、融合タンパク質は、1、2、3、4、5又はそれ以上の本発明のポリペプチド及び/又は他のポリペプチドのコピーを含み得る。融合タンパク質を作製する適切な方法は、当技術分野で公知であり、例えば、組換え方法が含まれる。本発明の一態様において、本発明のTCR(及びその機能的部分及びその機能的変異体)、ポリペプチド、及びタンパク質は、α/γ鎖及びβ/δ鎖を連結するリンカーペプチドを含む単一のタンパク質として発現され得る。これに関し、本発明のTCR(及びその機能的部分及びその機能的変異体)、ポリペプチド、及びタンパク質は、本発明のTCRの可変領域のアミノ酸配列(T1~T9)を含み、さらにリンカーペプチドを含んでもよい。リンカーペプチドは、宿主細胞中において組換えTCR(及びその機能的部分及びその機能的変異体)、ポリペプチド、及び/又はタンパク質の発現を有利に促進し得る。リンカーペプチドは、任意の適切なアミノ酸配列を含んでもよい。一本鎖TCR構築物のためのリンカー配列は、当技術分野において周知である。そのような一本鎖構築物は、1つ又は2つの定常ドメイン配列をさらに含んでもよい。宿主細胞によるリンカーペプチドを含む構築物の発現の際に、リンカーペプチドは切断され、分離されたα鎖及びβ鎖を生じてもよい。
【0046】
上述したように、本発明のTCRの結合機能性は、抗体の枠組みにおいて提供されてもよい。その種々の文法的形態において、用語「抗体」は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、抗体結合部位又はパラトープを含む分子をいうために本明細書中で使用される。そのような分子は、免疫グロブリン分子の「抗原結合断片」とも呼ばれる。本発明は本明細書で記載される抗原に特異的に結合する抗体、又はその抗原結合部分をさらに提供する。抗体は、当技術分野で公知の任意のタイプの免疫グロブリンであり得る。例えば、抗体は、任意のアイソタイプ、例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM等であり得る。抗体は、モノクローナル又はポリクローナルであり得る。抗体は、例えばマウス、ウサギ、ヤギ、ウマ、ニワトリ、ハムスター、ヒト等の哺乳動物から単離及び/又は精製された抗体等の天然抗体であり得る。あるいは、抗体は、遺伝子操作された抗体、例えば、ヒト化抗体又はキメラ抗体であり得る。抗体は、モノマー又はポリマー形態であり得る。
【0047】
本発明は、本明細書に記載の抗体のいずれかの抗原結合部分も提供する。抗原結合部分は、Fab、F(ab')2、dsFv、sFv、ダイアボディ(diabodies)、及びトリアボディ(triabodies)のような、少なくとも1つの抗原結合部位を有する任意の部分であり得る。合成ペプチドを介して軽鎖抗体の可変(V)ドメインに連結された抗体重鎖の可変(V)ドメインを含む短縮型Fab断片からなる、一本鎖可変領域断片(sFv)抗体断片は、通常の組換えDNA技術手法を用いて作製することができる。同様に、ジスルフィド安定化可変領域断片(dsFv)は、組換えDNA技術によって作製され得る。しかしながら、本発明の抗体断片は、これらの例示的なタイプの抗体断片に限定されない。また、抗体又はその抗原結合部分は、例えば、放射性同位体、フルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ)、及び素粒子(例えば、金粒子)のような検出可能な標識を含むように修飾され得る。場合によっては、TCRのCDR3配列はわずかに修飾されてもよく、配列番号9~28に示されるCDR3配列と比較して、好ましくは3以下のアミノ酸残基によって、好ましくは2つのみによって、及び最も好ましくは1つのアミノ酸部位のみにおいて、修飾されてもよい。好ましくは、抗体は、本開示の実施例の節においてTCR T1~T9について示されるように、CDR3、好ましくはCDR1~CDR3領域のすべてを組み合わせて含む。
【0048】
抗体を作製する適切な方法は、当技術分野において公知である。例えば、標準的なハイブリドーマ法は、例えば、Kohler and Milstein, Eur. J. Immunol, 5, 51 1-519 (1976)、 Harlow and Lane (eds.), Antibodies: A Laboratory Manual, CSH Press(1988)、及びC.A. Janeway et al. (eds.), Immunobiology, 8 Ed., Garland Publishing,New York, NY (201 1))に記載される。あるいは、他の方法としては、例えばEBV-ハイブリドーマ法(Haskard and Archer, J. Immunol. Methods, 74(2), 361-67 (1984)、及びRoder et al, Methods Enzymol, 121, 140-67 (1986))、及びバクテリオファージベクター発現システム (例えば、Huse et al., Science, 246, 1275-81 (1989)を参照) が当技術分野で公知である。さらに、非ヒト動物で抗体を産生する方法が、例えば、米国特許5,545,806、5,569,825、及び5,714,352、及び米国特許出願公開番号2002/0197266Alに記載されている。
【0049】
本発明のいくつかの態様は、可溶性TCRである、TCR又はその機能的断片及びポリペプチドにも関連する。本明細書において、用語「可溶性T細胞受容体」は、ジスルフィド結合によって連結されたTCRα鎖及びβ鎖の細胞外部分を含むが、天然タンパク質の膜貫通及びサイトゾルドメインを欠いている、天然TCRの切断変異体のヘテロ二量体である。用語「可溶性T細胞受容体α鎖配列及び可溶性T細胞受容体β鎖配列」は、膜貫通及びサイトゾルドメインを欠くTCRα鎖及びβ鎖配列をいう。可溶性TCRα鎖及びβ鎖の(アミノ酸又は核酸)配列は、天然のTCR中の対応する配列と同一であってもよく、対応する天然のTCRと比較して変異型の可溶性TCRα鎖及びβ鎖配列を含んでもよい。本明細書で使用される用語「可溶性T細胞受容体」は、変異型又は非変異型の可溶性TCRα鎖及びβ鎖配列を有する可溶性TCRを包含する。変異型は、可溶性TCRα鎖及びβ鎖配列の可変領域又は定常領域に存在してもよく、これに限定されるものではないが、アミノ酸欠失、挿入、置換突然変異、並びにアミノ酸配列を変更しない核酸配列の変化を含むことができる。いずれの場合においても、本発明の可溶性TCRは、それらの親分子の結合機能を保持する。
【0050】
上述の課題は本発明の抗原認識構築物、又は上述したタンパク若しくはポリペプチド構築物をコードする核酸によっても解決される。核酸は、好ましくは、(a)本発明に係る抗原認識構築物をコードする鎖を有するか、(b)(a)の鎖に相補的な鎖を有するか、又は(c)(a)若しくは(b)の分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする鎖を有する。ストリンジェントな条件下は当業者に公知であり、特に、Sambrook et al, “Molecular Cloning” が参照される。また、核酸は、任意でさらなる配列、特に哺乳動物/ヒト細胞で発現するための、タンパク質に対応する核酸配列を発現するのに必要とされる配列を有する。使用される核酸は、細胞内のペプチドに対応する核酸配列の発現を可能にするのに適したベクター中に含まれ得る。しかしながら、核酸は、提示細胞(樹状細胞等の古典的な抗原提示細胞に限定されない)を、核酸自体が細胞表面上に対応するタンパク質を産生するように形質転換するために、使用することもできる。
【0051】
本明細書で使用する「核酸」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「核酸分子」を含み、一般にDNA又はRNAのポリマーを意味する。該核酸は一本鎖又は二本鎖であり、合成され得るか、又は天然源から得られる(例えば、単離及び/又は精製され得る)。該核酸は、天然、非天然又は変化したヌクレオチドを含むことができ、修飾されていないオリゴヌクレオチドのヌクレオチド間に見出されるホスホジエステルの代わりに、天然、非天然又は変化したヌクレオチド間結合、例えば、ホスホロアミド酸結合、ホスホロチオエート結合を含むことができる。
【0052】
好ましくは、本発明の核酸は組換えである。本明細書において使用される、用語「組換え」は、(i)天然又は合成の核酸セグメントを、生細胞内で複製することができる核酸分子に結合させることによって、生きている細胞の外に構築された分子、又は(ii)上記(i)に記載のものの複製から生じる分子、をいう。本明細書の目的のために、複製はインビトロ複製又はインビボ複製であり得る。核酸は、本明細書に記載の任意のTCR、ポリペプチド、タンパク質又はその機能的部分若しくは機能的変異体をコードする、いかなる核酸配列をも含むことができる。
【0053】
また、本発明は、上記のような本発明の核酸を含むベクターを提供する。望ましくは、ベクターは発現ベクター又は組換え発現ベクターである。本発明の文脈において、用語「組換え発現ベクター」は、適切な宿主細胞においてmRNA、タンパク質又はポリペプチドの発現を可能にする核酸構築物をいう。本願発明の組換え発現ベクターは任意の適切な組換え発現ベクターであり得、任意の適切な宿主に形質転換又はトランスフェクトするために使用され得る。適切なベクターには、例えばプラスミド及びウイルスの、増殖及び拡大のために、又は発現又はその両方のために、設計されたベクターが含まれる。動物発現ベクターの例には、pMP71、pEUK-Cl、pMAM、 pMAMneo及びpSB100Xoが含まれる。好ましくは、組換え発現ベクターは、ウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクター、又は非ウイルスベクター、例えばトランスポゾンベースのSleeping Beautyベクターのいずれかである。組換え発現ベクターは、ベクターが導入される宿主細胞のタイプ(例えば、細菌、真菌、植物又は動物)に特異的であり、本発明の核酸の発現が行われる制御配列、例えば転写および翻訳開始及び終止コドンを含む。また、本発明のベクターは、形質転換又はトランスフェクトされた宿主の選択を可能にする1つ以上のマーカー遺伝子を含み得る。組換え発現ベクターは、本発明の構築物をコードするヌクレオチド配列、又は本発明の構築物をコードするヌクレオチド配列に相補的であるか又はそれにハイブリダイズするヌクレオチド配列に作動可能に連結された天然又は規範的プロモーターを含むことができる。プロモーターの選択には、例えば、強力な、弱い、誘導性の、組織特異的な及び発生特異的なプロモーターが含まれる。 プロモーターは、非ウイルスプロモーター又はウイルスプロモーターであり得る。本発明の組換え発現ベクターは、一過性発現のために、安定した発現のために、又はその両方のために設計することができる。組換え発現ベクターは、構成的発現又は誘導発現のために作製することもできる。
【0054】
本発明は、本発明に係る抗原認識構築物を含む宿主細胞にも関する。具体的には、本発明の宿主細胞は、上記の核酸又はベクターを含む。宿主細胞は、真核細胞、例えば、植物、動物、菌類、若しくは藻類であってもよく、又は原核細胞、例えば細菌又は原生動物であってもよい。宿主細胞は、培養細胞又は初代細胞であってもよく、すなわち生物、例えばヒトから直接単離されてもよい。宿主細胞は、付着細胞又は懸濁細胞、すなわち懸濁液中で増殖する細胞であり得る。組換えTCR、ポリペプチド、又はタンパク質を産生するためには、宿主細胞は好ましくは哺乳動物細胞である。最も好ましくは、宿主細胞はヒト細胞である。宿主細胞は、任意の細胞タイプであってよく、任意のタイプの組織由来であってよく、任意の発生段階であってよいが、好ましくは、末梢血白血球(PBL)又は末梢血単核細胞(PBMC)である。より好ましくは、宿主細胞はT細胞である。T細胞は例えば培養されたT細胞のような任意のT細胞であってよく、例えば初代T細胞、又は培養されたT細胞系、例えばJurkat, SupTl等、に由来するT細胞、又は哺乳動物、好ましくは、ヒト患者由来のT細胞又はT細胞前駆細胞から得られたT細胞であってよい。哺乳動物から得る場合、T細胞は、血液、骨髄、リンパ節、胸腺、又は他の組織若しくは体液を含むがこれらに限定されない多数の供給源から得ることができる。T細胞は濃縮されても精製されてもよい。好ましくは、T細胞はヒトT細胞である。より好ましくは、該T細胞はヒトから単離されたT細胞である。該T細胞は任意のタイプのT細胞であってよく、該T細胞はいかなる発生段階のものであってもよく、これらに限定されるものではないが、CD4陽性及び/又はCD8陽性、CD4陽性ヘルパーT細胞、例えば、Th1及びTh2細胞、CD8陽性T細胞(例えば、細胞障害性T細胞)、腫瘍浸潤細胞(TILs)、記憶T細胞、ナイーブT細胞等を含む。好ましくは、該T細胞はCD8陽性T細胞又はCD4陽性T細胞である。
【0055】
好ましくは、本発明の宿主細胞はリンパ球であり、好ましくは、Tリンパ球であり、例えば、CD4又はCD8陽性T細胞である。また、宿主細胞は好ましくはMAGE-A1発現腫瘍細胞に特異的な腫瘍反応性T細胞である。
【0056】
本発明の一つのさらなる態様は、医薬用途に使用するための、本明細書中に開示される抗原認識構築物、核酸、ベクター、及び/又は宿主細胞に関する。一つの好ましい医薬用途に使用する態様は、感染性疾患、好ましくはHPV感染、又は増殖性疾患、例えば悪性若しくは良性腫瘍疾患、の診断、予防及び/又は治療を含む。腫瘍疾患は例えばHPV関連がんである。
【0057】
本発明の構築物、タンパク質、TCR抗体、ポリペプチド及び核酸は、特に免疫療法、好ましくは養子T細胞療法に使用するためのものである。本発明の化合物の投与は、例えば、本発明のT細胞の該患者への注入を含むことができる。好ましくは、このようなT細胞は、本発明の核酸又は抗原認識構築物でインビトロで形質導入された患者の自己T細胞である。
【0058】
本発明の目的は、HPV特異的な抗原認識構築物(ARC)を発現する細胞系の製造のための方法であって、
HPV特異的な抗原認識構築物(ARC)を発現する細胞系の製造のためのインビトロ方法であって、
a.適切な宿主細胞を提供する工程、
b.ARCをコードする遺伝子構築物を提供する工程であって、該ARCは配列番号9~28から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、又は100%配列同一性を有するアミノ酸配列を持つCDR3を含むものである、
c.前記適切な宿主細胞に前記遺伝子構築物を導入する工程、
d.前記適切な宿主細胞で前記遺伝子構築物を発現させる工程、
を含む、方法によっても解決する。
【0059】
好ましい一つの実施態様において上記方法は、前記ARCの細胞表面提示を含む工程をさらに含んでもよい。
【0060】
当然本発明の態様の文脈において前記ARCは、上述の本発明の態様によるARCであることも好ましい。この点において、前記ARCが哺乳動物起源、好ましくはヒト起源のものであることが、さらに又は代替的に好ましい。
【0061】
本発明の方法での使用に好ましい好適な宿主細胞は、哺乳動物、特にヒトT細胞のようなヒト細胞である。本発明での使用のためのT細胞は、本明細書の上述のとおり詳細に記載されている。
【0062】
本発明の方法に従って製造されたARCは、一つの実施態様においてTCRである。例えば、追加の(機能的な)ドメインを有するTCR又は代替ドメイン、例えば、膜アンカーとしての外膜貫通ドメインを備えるTCR、を備えるTCRも含まれる。本発明に従って産生されるTCRは、例えばアルファ/ベータTCR、ガンマ/デルタTCR又は一本鎖TCR(scTCR)である。本発明に含まれるTCR形態は、一般に、当技術分野で公知の任意のTCR、具体的には上記のものである。
【0063】
望ましくは、本発明に係る方法で使用するためのトランスフェクション系は、レトロウイルスベクター系である。このような系は、当業者に周知である。
【0064】
また、本発明に含まれるのは、一つの実施態様において、ARCを細胞から精製する追加の方法工程、及び任意で、T細胞における翻訳されたARC断片の再構成である。
【0065】
本発明の別の態様において、T細胞は、腫瘍細胞に特異的であり、上述のとおり高い結合活性を有する、T細胞受容体(TCR)の産生方法によって得られる又は得ることが可能である。そのようなT細胞は、本発明の方法で使用される宿主細胞、例えばヒト又は非ヒトT細胞、好ましくはヒトTCRに依存する。
【0066】
本発明のTCR、ポリペプチド、タンパク質(その機能的変異体を含む)、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞(その集団を含む)及び抗体(その抗原結合部分を含む)は、単離及び/又は精製され得る。本願明細書において使用される用語「単離」とは、自然の環境から取り除かれたことを意味する。本願明細書において使用される用語「精製」とは、純度が上がったことを意味し、ここで「純度」とは相対的な用語であり、必ずしも絶対的な純度として解釈されるべきではない。例えば、純度は、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%以上であり得、又は100%であり得る。
【0067】
本発明の抗原認識構築物、TCR、ポリペプチド、タンパク質(その機能的変異体を含む)、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞(その集団を含む)及び抗体(それらの抗原結合部分を含む) (以下、まとめて「本発明のTCR材料」という。)は、医薬組成物等の組成物に製剤化することができる。これに関して、本発明は、TCR、ポリペプチド、タンパク質、機能的部分、機能的変異体、核酸、発現ベクター、宿主細胞(その集団を含む)、及び抗体(その抗原結合部分を含む)及び薬学的に許容される担体のいずれかを含む医薬組成物を提供する。本発明のTCR材料のいずれかを含有する本発明の医薬組成物は、複数の本発明のTCR材料、例えば、ポリペプチド及び核酸、又は2つ以上の異なるTCR(その機能的部分及びその機能的変異体を含む)を含むことができる。あるいは、医薬組成物は、例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキセート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどの化学療法剤などの別の薬学的に活性な薬剤又は薬物と組み合わせた本発明のTCR材料を含むことができ、好ましくは、担体は薬学的に許容される担体である。医薬組成物に関して、担体は、考慮されている特定の本発明のTCR材料のために従来使用されているもののいずれかであり得る。このような薬学的に許容される担体は、当業者に周知であり、公に容易に入手可能である。薬学的に許容される担体は、使用条件下で有害な副作用又は毒性を有さないものであることが好ましい。
【0068】
したがって、本明細書に記載の本発明の製品のいずれか、具体的には任意のタンパク質、核酸又は宿主細胞を含む医薬組成物もまた提供される。好ましい実施態様において、医薬組成物は免疫療法のためのものである。
【0069】
好ましくは、本発明のTCR材料は、注射によって、例えば、静脈内に投与される。本発明のTCR材料が本発明のTCR(又はその機能的変異体)を発現する宿主細胞である場合、注射用の細胞のための薬学的に許容される担体は、任意の等張性担体、例えば、通常の生理食塩水(約0.90%w/vのNaCl水溶液、約300 mOsm/LのNaCl水溶液、又は約9.0gのNaCl /リットル水)、NORMOSOL R 電解液(Abbott,Chicago, IL)、PLASMA-LYTE A (Baxter, Deerfield, IL)、水中約5%デキストロース、リンゲル乳酸塩を含んでもよい。一つの実施態様において、薬学的に許容される担体は、ヒト血清アルブミンが補充される。
【0070】
本発明の目的のため、投与される本発明のTCR材料の量又は用量(例えば、本発明のTCR材料が1以上の細胞の場合、細胞の数)は、合理的な時間内で、効果、例えば対象又は動物治療効果、若しくは予防応答効果が十分となるべきである。例えば、本発明のTCR材料の用量は、投与の約2時間以上、例えば12~24時間以上の期間で、がん抗原に結合するのに十分であるか、又はがんを検出、治療又は予防するのに十分でなければならない。特定の実施態様において、期間はさらに長くなり得る。用量は、特定の本発明のTCR材料の有効性及び動物(例えば、ヒト)の状態、及び治療される動物(例えば、ヒト)の体重によって決定される。
【0071】
本発明の医薬組成物、TCR(その機能的変異体を含む)、ポリペプチド、タンパク質、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞、又は細胞集団は、がん、HPV感染、又はHPV陽性前悪性を治療又は予防する方法において使用することができると考えられる。特定の理論に拘束されるものではないが、本発明のTCR(及びその機能的変異体)は、本発明のHPV抗原を発現する標的細胞に対する免疫応答を媒介することができる細胞によって発現される場合、TCR(又は関連する本発明のポリペプチド若しくはタンパク質及びその機能的変異体)がHPV抗原に特異的に結合すると考えられる。この点に関し、本発明は、哺乳動物の状態を治療又は予防する方法であって、本明細書に記載のいずれかの医薬組成物、TCR(及びその機能的変異体)、ポリペプチド、又はタンパク質、本明細書に記載のTCR(及びその機能的変異体)、ポリペプチド、タンパク質のいずれかをコードする核酸配列を含むいずれかの核酸若しくは組換え発現ベクター、又は、本明細書に記載のTCR(及びその機能的変異体)、ポリペプチド、またはタンパク質のいずれかをコードする組換えベクターを含むいずれかの宿主細胞若しくは細胞集団を、哺乳動物におけるがん、HPV感染、又はHPV陽性前悪性状態を治療又は予防するのに有効な量で、哺乳動物に投与することを含む、方法を提供する。
【0072】
本発明に有用な薬学的に許容される担体又は希釈剤の例としては、例えばSPGA、炭水化物(例えば、ソルビトール、マンニトール、デンプン、スクロース、グルコース、デキストラン)などの安定剤、例えばアルブミン又はカゼインなどのタンパク質、ウシ血清又はスキムミルクなどのタンパク質含有剤、及びバッファー(例えばリン酸バッファー)を含む。
【0073】
本明細書で使用される用語「治療」及び「予防」並びにそれに由来する言葉は、必ずしも100%又は完全な治療又は予防を意味するものではない。むしろ、当業者が潜在的な利益又は治療効果を有すると認識する様々な程度の治療又は予防が存在する。この点に関し、本発明の方法は、任意のレベルの任意の量の哺乳動物の状態の治療又は予防を提供することができる。さらに、本発明の方法によって提供される治療又は予防は、治療又は予防される状態(例えば、がん)の1つ以上の状態又は症状の治療又は予防を含み得る。例えば、治療又は予防は、腫瘍の退行を促進することを含むことができる。また、本明細書の目的のために、「予防」は、状態の発症の遅延、又はその症状若しくは状態の遅延を包含し得る。
【0074】
また、哺乳動物における状態の存在を検出する方法も提供される。当該方法は、(i)本明細書に記載される本発明のTCR(及びその機能的変異体)、ポリペプチド、タンパク質、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞、細胞集団、抗体又はその抗原結合部分、又は医薬組成物のいずれかで哺乳動物由来の1つ以上の細胞を含む試料を接触させることにより、複合体を形成させ、そしてその複合体を検出することであって、該複合体の検出は哺乳動物における状態の存在の指標であり、該状態はがん、HPV16感染、又はHPV陽性前悪性状態である、を含む。
【0075】
哺乳動物における状態を検出する本発明の方法に関して、細胞試料は、全細胞、その溶解物、又は全細胞溶解物の一部、例えば、核又は細胞質画分、全タンパク質画分、又は核酸画分を含む試料であり得る。
【0076】
本発明検出方法の目的のため、接触は、哺乳動物に関してインビトロ又はインビボで起こり得る。
【0077】
また、複合体の検出は、当技術分野で公知の任意の数の方法によって行うことができる。例えば、本明細書に記載される本発明のTCR(及びその機能的変異体)、ポリペプチド、タンパク質、核酸、組換え発現ベクター、宿主細胞、細胞集団、又は抗体若しくはその抗原結合部分は、検出可能な標識、例えば、放射性同位体、フルオロフォア(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE))、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)、及び素粒子(例えば、金粒子)で標識され得る。
【0078】
本発明の方法の目的のため、宿主細胞又は細胞の集団が投与される場合、該細胞は、哺乳動物に対して同種又は自家である細胞であり得る。
【0079】
上述した本発明のTCR材料の医薬用途に関し、治療及び/又は予防されるがんは、急性リンパ球性がん、急性骨髄性白血病、胞巣状横紋筋肉腫、骨癌、脳癌、乳癌、肛門癌、肛門管又は肛門直腸癌、眼の癌、肝内胆管の癌、関節の癌、頸部の癌、胆嚢、又は胸膜の癌、鼻の癌、鼻腔又は中耳の癌、口腔の癌、膣の癌、外陰部の癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性癌、結腸癌、食道癌 癌、子宮頸癌、消化管カルチノイド腫瘍、神経膠腫、ホジキンリンパ腫、下咽頭癌、腎臓癌、喉頭癌、肝臓癌、肺癌、悪性中皮腫、メラノーマ、多発性骨髄腫、鼻咽頭癌、非ホジキンリンパ腫、中咽頭癌、卵巣癌、陰茎癌、膵臓癌、腹膜、網及び腸間膜癌、咽頭癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、皮膚癌、小腸癌、 軟部組織がん、胃がん、精巣がん、 甲状腺がん、子宮がん、尿管がん、及び膀胱がんのいずれかを含む任意のがんでよい。好ましいがんは、子宮頚部、口腔咽頭、肛門、肛門管、肛門直腸、膣、外陰部又は陰茎のがんである。特に好ましいがんは、HPV陽性がん、例えば、HPV16又はHPV18陽性がんである。HPV16/18感染に最も一般的に関連する癌は子宮頚部、口腔咽頭、肛門、肛門管、肛門直腸、膣、外陰部及び陰茎のがんを含むが、本発明の方法は他の解剖学的領域で生じるがんを含む任意のHPV陽性がんの治療に使用されてもよい。
【0080】
概して、本発明は本発明により開示される抗原認識構築物、核酸、ベクター及び/又は宿主細胞の投与を含む、腫瘍又は腫瘍疾患に罹患している対象を治療するための方法を提供する。好ましくは、対象はそのような治療を必要とする対象である。好ましい態様において、哺乳動物の対象は、好ましくはヒト患者であり、HPV陽性である腫瘍又は腫瘍疾患に罹患している。
【0081】
添付の図面および配列を参照して、以下の実施例で本発明をさらに説明するが、これに限定されるものではない。本発明の目的のために、本明細書中で引用される全ての参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1図1は、ABabDIIマウスにおけるHLA-A *02.01制限HPV16 E6エピトープTIHDIILECVに対する特異的CD8 + T細胞応答の例を示す。ABabDIIマウスを腹腔内に(i.p.)E6/7発現アデノウイルスで免疫し、続いて皮下に(s.c.) 50μgのE6ペプチドをIFA中に乳化させた50μgのCpG ODN1826と共に、又はペプチド/CpG/IFA混合物を単独で投与した。免疫動物の末梢血におけるHPV特異的CD8 + T細胞の存在を、各ブーストの7日後に細胞内IFNγ染色によって評価した。ホルボールミリステートアセテート(PMA)及びイオノマイシンによる刺激を陽性対照(+ctrl)として使用した。
図2図2は、ABabDIIマウスにおけるHLA-A201制限HPV16 E7エピトープTLGIVCPIに対する特異的CD8+ T細胞応答の例を示す。ABabDIIマウスを50μgのE7ペプチドと共にIFA中で乳化した50μgのCpG ODN1826と共に尾基部の皮下(s.c.)に免疫した。免疫動物の末梢血におけるHPV特異的CD8+ T細胞の存在を、各ブーストの7日後に細胞内IFNγ染色によって評価した。ホルボールミリステートアセテート(PMA)及びイオノマイシンによる刺激を陽性対照(+ctrl)として使用した。
図3図3は、HLA-A*02.01制限HPV16 E5、E6及びE7エピトープに対する特異的CD8+ T細胞のFACSort戦略(IFNγ捕獲アッセイ)を示す。応答マウス由来の脾臓細胞でCD4+ T細胞を枯渇させ、10-8モルのそれぞれのペプチドで10日間再刺激した。5'RACE PCRのために、HPV特異的CD8+ T細胞を、IFNγ捕獲アッセイを用いてRNA精製バッファーに直接選別した。
図4図4は、新たに調製したヒトPBLのHPV16 E6及びE7 TCR形質導入を示す。1×106の新たに単離又は凍結したhPBMCを、200U/mlの組換えヒトインターロイキン2の存在下で抗CD3及び抗CD28被覆プレートで刺激した。上清と硫酸プロタミンを含むレトロウイルスの添加、それに続くスピノキュレーション(1回目の形質導入)又はレトロネクチン(Takara)で被覆されたプレート上へのウイルスのプレローディング及びスピノキュレーション(2回目の形質導入)によって、48時間及び72時間後に形質導入を行った。形質導入効率を、抗CD8及び抗マウス定常TCRβmAbで染色することによって評価した。
図5図5は、TCRが形質導入されたヒトPBMCのHPV16 E6/E7ペプチド特異的IFN-γの放出を示す;5859TCRは 配列番号34及び35に対応する;5843B14TCRは配列番号36及び37に対応する;14800TCRは配列番号43及び44に対応する。IFNγ産生は、1×104個のTCR形質導入T細胞と1×104個のペプチド負荷T2細胞との16時間共培養の後、酵素結合免疫吸着測定法によって測定した。ホルボールミリステートアセテート(PMA)及びイオノマイシンによる刺激を陽性対照(max)として用いた。ut:非形質導入PBMC。
図6図6は、滴定されたE6特異的ペプチド及びCASKI細胞系における、TCR形質導入されたヒトPBMCのHPV16 E6 IFN-γ放出を示す。左パネルは配列番号14/15(T3)のTCRを示し、右パネルは 配列番号16/17(T4)のTCRを示す。IFNγ産生は、1x104個のTCR形質導入T細胞と1x104個のペプチド負荷T2細胞又は1x104個のCASKI細胞系の16時間共培養の後、酵素結合免疫吸着測定法によって測定した。ホルボールミリステートアセテート(PMA)及びイオノマイシンによる刺激を陽性対照(P+I)として用いた。HLA形質導入された子宮頸癌細胞系SiHa細胞系及び頭頸部癌細胞系SCC-090及びSCC-152についても、CASKI細胞の認識に匹敵するIFNγ放出が見られた(データは示さず)。
図7図7は、新たに調製したヒトPBLのHPV16 E5形質導入及びTCRを形質導入したヒトPBMCのHPV16 E5ペプチド特異的IFN-γ放出を示す。TCRは配列番号12/13(T2)のTCRが使用された。1×106の新たに単離又は凍結したhPBMCを、200U/mlの組換えヒトインターロイキン2の存在下の抗CD3及び抗CD28被覆プレートで刺激した。上清と硫酸プロタミンを含むレトロウイルスの添加、それに続くスピノキュレーション(1回目の形質導入)又はレトロネクチン(Takara)被覆プレートへのウイルスのプレローディング及びスピノキュレーション(2回目の形質導入)によって、48及び72時間後に形質導入を行った。形質導入効率は抗CD8及び抗マウス定常TCRβmAbで染色することによって評価した。IFNγ産生は、1x104個のTCR形質導入T細胞と1x104個のペプチド負荷T2細胞との16時間共培養の後、酵素結合免疫吸着測定法によって測定した。ホルボールミリステートアセテート(PMA)及びイオノマイシンによる刺激を陽性対照(P+I)として用いた。
【発明を実施するための形態】
【0083】
配列番号1~8:本発明のTCRが結合するHPV16及び18エピトープを示す。
配列番号9~28: 本発明のTCRのα鎖及びβ鎖CDR3配列を示す。
配列番号29~48:本発明のTCRのα鎖及びβ鎖の全長可変配列を示す。
【実施例
【0084】
動物の免疫化に使用されるHPVエピトープ:
【0085】
【表1】
ABabDIIマウスにおけるCTL反応性を有するペプチドエピトープ
【0086】
(実施例1)HPV16-E5エピトープYIIFVYIPLを認識するT細胞受容体T1
【0087】
【表2】
CDR1配列を太字で示す
CDR2配列を二重下線で示す
CDR3配列を一重下線で示す
【0088】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0089】
TRAV13-1*01-CAASSYNQGGKLIF-TRAJ23*01 (配列番号29)
【0090】
TRAV26-2*01-CILRDVNAGGTSYGKLTF-TRAJ52*01(配列番号30)
【0091】
TRBV12-3*01-CASSLLSSYNEQFF-TRBD2*01-TRBJ2-3*01(配列番号31)
【0092】
(実施例2)HPV 16-E5エピトープYIIFVYIPLを認識するT細胞受容体T2
【0093】
【表3】
【0094】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0095】
TRAV12-2*02-CAVNVDFNKFYF-TRAJ21*01(配列番号32)
【0096】
TRBV4-1*01-CASSQDWNNEQFF-TRBD1*01-TRBJ2-1*01配列番号33
【0097】
(実施例3)HPV 16-E6エピトープTIHDIILECVを認識するT細胞受容体T3
【0098】
【表4】
【0099】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0100】
TRAV20*02-CAVQANRGSTLGRLYF-TRAJ18*01配列番号34
【0101】
TRBV28*01-CASSLWGRLAKNIQYF-TRBD1*01-TRBJ2-4*01配列番号35
【0102】
(実施例4)HPV 16-E6エピトープTIHDIILECVを認識するT細胞受容体T4
【0103】
【表5】
【0104】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0105】
TRAV21*02-CAVRETSGSRLTF-TRAJ58*01配列番号36
【0106】
TRBV28*01-CASSFWGRSTDTQYF-TRBD1*01-TRBJ2-3*01 配列番号37
【0107】
(実施例5)HPV 16-E6エピトープTIHDIILECVを認識するT細胞受容体T5
【0108】
【表6】
【0109】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0110】
TRAV17*01-CATVSTDSWGKKLQF-TRAJ24*02 配列番号38
【0111】
TRBV10‐3*02-CAISDSNGINIQYF-TRBD2*02-TRBJ2-4*01 配列番号39
【0112】
TRBV28*01-CASSLWGRAGKDTQYF-TRBD2*02-TRBJ2-3*01配列番号40
【0113】
(実施例6)HPV 16-E6エピトープKLPQLCTELを認識するT細胞受容体T6
【0114】
【表7】
【0115】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0116】
TRAV8-6*01-CAVSLNSGNTPLVF-TRAJ29*01配列番号41
【0117】
TRBV20-1*01-CSARDLAGNTGELFF-TRBD2*01-TRBJ2-2*01配列番号42
【0118】
(実施例7)HPV 16-E7エピトープTLGIVCPIを認識するT細胞受容体T7
【0119】
【表8】
【0120】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0121】
TRAV30*01-CGTGTDSWGKLQF-TRAJ24*02配列番号43
【0122】
TRBV12‐4*01-CASSPGLAGGEQFF-TRBD2*02-TRBJ2-1*01 配列番号44
【0123】
(実施例8)HPV 16-E7エピトープTLGIVCPIを認識するT細胞受容体T8
【0124】
【表9】
【0125】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0126】
TRAV22*01-CAVEPNSGNTPLVF-TRAJ29*01配列番号45
【0127】
TRBV7-2*02or 03-CASSLIISYNEQFF-TRBJ2-1*01 配列番号46
【0128】
(実施例9)HPV 16-E7エピトープTLGIVCPIを認識するT細胞受容体T9
【0129】
【表10】
【0130】
完全長可変鎖配列(CDR3配列を下線で示す)
【0131】
TRAV38-2/DV-8*01-CAYRSAPYSGAGSYQLTF-TRAJ28*01配列番号47
【0132】
TRBV4-2*01-CASSQAPGLAGAEQYF-TRBD2*02-TRBJ2-7*01配列番号48
【0133】
(実施例10)TCR T2、T3及びT4形質導入細胞系によるインターフェロンγ放出
【0134】
図6及び図7は、TCR T3及びT4(図6)及びT2(図7)で形質導入されたT細胞系を示す。結果は図面及び図面の説明に示される。
【0135】
peptide: ペプチド
FACsorted population for TCR-specific 5'RACE PCR: TCR特異的5'RACE PCR用FACSortされた集団
Donor: ドナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
0007000315000001.app