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特許7000321衛星細胞の自己再生および/または分化の促進剤としての使用のための5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体刺激剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】衛星細胞の自己再生および/または分化の促進剤としての使用のための5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体刺激剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/495 20060101AFI20220203BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
A61K31/495
A61K45/00
A61P21/00
A61P43/00 105
A61P43/00 107
A61P43/00 111
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018521709
(86)(22)【出願日】2016-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2016066948
(87)【国際公開番号】W WO2017013031
(87)【国際公開日】2017-01-26
【審査請求日】2019-04-26
(31)【優先権主張番号】62/193,714
(32)【優先日】2015-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16305444.8
(32)【優先日】2016-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508029653
【氏名又は名称】アンスティテュ・パストゥール
(73)【特許権者】
【識別番号】509033033
【氏名又は名称】ユニベルシテ・パリ・デカルト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
(73)【特許権者】
【識別番号】518016971
【氏名又は名称】サントル、オスピタリエ、サンタンヌ、パリ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER SAINTE ANNE PARIS
(73)【特許権者】
【識別番号】508061930
【氏名又は名称】アンスティテュ ギュスタブ ルシ
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】ファブリス、ブルーノ、クレティアン
(72)【発明者】
【氏名】ラファエル、ガイヤール
(72)【発明者】
【氏名】ピエール、ロシュトー
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ、ミール
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/174537(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0121256(US,A1)
【文献】Pharmacology and Therapeutics,2014年,Vol.145,pp.43-57
【文献】NEUROPHARMACOLOGY,1995年,VOL:34, NR:2,PAGE(S):235 - 237
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)の直接的刺激剤を含んでなる、
i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤;または
ii)衛星細胞プールの枯渇の予防剤および/もしくは阻害剤であって、
前記直接的刺激剤がボルチオキセチンまたは少なくとも1つの荷電した化学部分を含んでなるように修飾されたボルチオキセチンである、前記剤。
【請求項2】
前記剤が自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害により影響を受けた対象において使用される、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
前記骨格筋組織の自然の損失および/または損傷および/または障害がサルコペニアである、請求項2に記載の剤。
【請求項4】
前記修飾されたボルチオキセチンが少なくとも1つの正に荷電した化学部分を含んでなるように修飾されたボルチオキセチンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の剤。
【請求項5】
前記正に荷電した化学部分が第四級アンモニウム基または第三級スルホニウム基である、請求項4に記載の剤。
【請求項6】
・前記第四級アンモニウム基が式(I)
-(NR (I)
[式中、
Zは、有機または無機陰イオンであり;かつ
、R およびR はそれぞれアルキル、アリールおよびシクロアルキルからなる群から独立に選択される]
を有するか;または
・前記第三級スルホニウム基が式(II)
-(SR (II)
[式中、
Zは、有機または無機陰イオンであり;かつ
およびR はそれぞれアルキル、アリールおよびシクロアルキルからなる群から独立に選択される]
を有する、請求項5に記載の剤。
【請求項7】
前記少なくとも1つの正に荷電した化学部分を含んでなるように修飾されたボルチオキセチンがボルチオキセチンの塩、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどの正荷電アミノ酸にカップリングされたボルチオキセチン、ピロリジニウム-ボルチオキセチン、ピペラジニウム-ボルチオキセチン、ジメチルアンモニウム-ボルチオキセチン、スルホニウム-ボルチオキセチン、N-オキシド-ボルチオキセチン、スルホキシド-ボルチオキセチン、およびホスホニウム-ボルチオキセチンからなる群から選択される、請求項4~6のいずれか一項に記載の剤。
【請求項8】
前記少なくとも1つの正に荷電した化学部分を含んでなるように修飾されたボルチオキセチンがヒスチジン-ボルチオキセチンまたはピロリジニウム-ボルチオキセチンである、請求項7に記載の剤。
【請求項9】
自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させるための治療方法における使用のための、請求項1~8のいずれか一項に定義される剤。
【請求項10】
i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤;ならびに/または
ii)衛星細胞プールの枯渇の予防剤および/もしくは阻害剤
として使用するための医薬組成物であって、
請求項1~8のいずれか一項に定義される少なくとも1つの5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)の直接的刺激剤と少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤とを含んでなる、組成物。
【請求項11】
骨格筋組織の自然なもしくは病的な損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防するもしくは治療する、かつ/または前記5-HT1 BRの直接的刺激剤の作用を増大させるまたは増強する少なくとも1種類の活性剤をさらに含んでなる、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記活性剤が衛星細胞、造血幹細胞、周皮細胞、血管芽細胞、間葉幹細胞、抗炎症薬、筋栄養剤、免疫治療薬、抗体、遺伝要素、ピンドロール、(S)-(-)-ピンドロール、およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進;ならびに/または
ii)衛星細胞プールの枯渇の予防および/もしくは阻害
に使用するための組合せ製剤であって、
請求項1~8のいずれか一項に定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)の直接的刺激剤と、骨格筋組織の自然なもしくは病的な損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防するもしくは治療する、かつ/または前記5-HT1 BR刺激剤の作用を増大させるまたは増強する活性剤とを含んでなり、それを必要とする対象に同時、個別または逐次投与するための、組合せ製剤。
【請求項14】
衛星細胞の自己再生および/または分化を促進するための、請求項1~8のいずれか一項に定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)の直接的刺激剤のインビトロ使用。
【請求項15】
衛星細胞の自己再生および/または分化のインビトロ促進方法であって、衛星細胞を含んでなる単離された生体サンプルに、有効量の請求項1~8のいずれかに定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)の直接的刺激剤を投与する工程を含んでなる、方法。
【請求項16】
衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進する;かつ/または衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する剤または該剤の組合せを同定するインビトロスクリーニング方法であって、
a)単離された衛星細胞を候補剤または候補剤の組合せと接触させる工程;
b)前記細胞の細胞表現型を評価する工程;
c)工程b)の細胞表現型を、請求項1~8のいずれか一項に定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)の直接的刺激剤と接触させた衛星細胞の表現型と比較する工程を含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緒論
本発明は、筋再生の分野、より詳しくは、インビボ(in vivo)筋幹細胞プールの補充に関する。本発明はより具体的には、i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤、ならびに/またはii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤としての使用のための、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体を直接的または間接的に刺激する薬剤、および前記薬剤を含んでなる組成物に関する。本発明はさらに治療方法およびスクリーニング方法も包含する。
【0002】
衛星細胞は、筋線維とその基底膜の間に位置し、筋組織の発達および再生に関与する筋幹細胞である。
【0003】
成熟した筋では、衛星細胞は一般に静止しているが、微細なまたは大規模な筋外傷の後に必要に応じて動員され得る。筋損傷が最小であれば、衛星細胞および/またはそれらの後代は既存の筋線維と融合し、これに対して、大規模な筋損傷の際には、衛星細胞は互いに融合して新しい筋線維を形成する(Grounds and Yablonka-Reuveni, 1993; Hawke and Garry, 2001)。しかしながら、通常の筋活動中に微細な筋線維の損傷が日常的に起こるので、筋の維持のためには、継続的修復要求が不可欠である。この修復は、おそらくは、これらの細胞の増殖だけでなく、それらの貯蓄および成熟筋細胞への分化も含んでなる複雑なプロセスを含む、衛星細胞の持続的自己再生によるものである。
【0004】
衛星細胞の増殖は一般に、軽度もしくは重度の損傷または筋基底膜の破壊の際に活性化され、これにより最終的には、これらの細胞の一部は新たな筋原細胞へと分化するに至り、他の一部は次回の再生を支持する能力を有する静止細胞の余剰インビボリザーブを再確立するに至る(Moss and Leblond, 1971; Schulz and Jaryszak, 1985; Bischoff, 1994)。この「2つの運命(two-fate)」のプロセスは、より具体的には、これらの細胞で発現されるバイオマーカーのトランスクリプトームおよび分子プロフィールをモニタリングすることにより追跡できる以下の段階に従って起こる:再生中の筋では、衛星細胞プールは、最も注目すべきはそれらの系譜のいくつかの点でMyf5の発現に基づいて識別されるヘテロなPax7+細胞を含有する。これらのPax7+/Myf5-細胞(すなわち、Myf5を発現したことがなく、また、Myf5を発現していた原細胞を有したこともない細胞)は、自己再生能およびPax7+/Myf5+細胞への分化能のある集団に相当する。ひと度、Myf5発現が細胞内に見られると、前記細胞およびその後代は増殖および分化へ運命付けられる(Kuang, Kuroda et al. 2007)。これらの違いは、衛星細胞プールの物理的特性により支配される非対称細胞分裂を介して達成される。各衛星細胞は、実際に、基底膜に接したベーサル側と宿主筋線維に接したアピカル側を有する。衛星細胞が分裂すると、基底膜に隣接した娘細胞は自己再生を受けるが、筋線維に接した娘細胞は一時的増幅および分化を受ける。この筋誘導経路が進行するにつれ、MyoDもまたPax7+/Myf5+活性化細胞(すなわち、自己再生中の細胞)で発現されるようになる。しかしながらやはり、衛星細胞に分化が課せられた際には、Myf5を発現する自己再生中のMyoD-細胞の集団が存在しこれらの細胞は、実際に脱分化し、衛星細胞ニッチェを補充することが観察されている(Baroffio, Hamman et al., 1996; Beauchamp, Helsop et al., 2000)。分化中の細胞では、MyoDおよびMyf5の持続的発現とともに、ミオゲニンおよびMRF4の発現(他の中にあっても)がアップレギュレートされるようになるが、Pax7の発現は低下する(Smith, Janney et al., 1994; Yablonka-Reuveni, 1994; Cornelison and Wold, 1997)。これにより、p21の活性化を介した細胞周期の静止、およびミオシン重鎖などの筋特異的タンパク質の発現(Charge and Rudnicki, 2004)、次いで、成熟多核筋線維を形成するためのM-カドヘリン、m-カプレイン(m-caplain)、ならびにデスミンおよびビメンチンなどの中間径フィラメントタンパク質の発現のアップレギュレーション(Kuch et al.; 1997; Kwak et al., 1993; Smythe et al, 2001; Vaittinen et al., 2001)がもたらされる。従って、筋の再生は、衛星細胞の自己再生と成熟筋線維への分化の両方を駆動する、衛星細胞の活性化により誘発される複雑な多段階プロセスである。
【0005】
そうはいっても、衛星細胞の再生能は無限ではない。実際に、加齢による衛星細胞の存在量および/または機能の低下もさらに筋線維の修復を制限し、加齢に関連する筋の損失に寄与する(Bentzinger et al., 2014; Cosgrove et al., 2014; Bernet al., 2014; Goodell et al., 2015)。サルコペニアなどの加齢性筋障害はヒトおよび動物の両方で報告されており、骨格筋の量、強度および持久力の低下を特徴とし、これらが収縮誘導性の筋損傷の受けやすさの増大を招き得る。また、衛星細胞集団の枯渇がデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの先天性筋障害に侵された患者の悪化および死亡に重要な因子であるということも確認されている。Kudryashovaら(2012)は、特に、衛星細胞の老化が筋ジストロフィーの齧歯類モデルにおける筋障害の基礎をなす特徴であると報告している。しかしながら、先天性および後天性筋障害への衛星細胞の正確な関与は完全には理解されていない。
【発明の概要】
【0006】
ゆえに、衛星細胞のインビボプールの減少が骨格筋組織の自然な(加齢性の)損失および/または損傷および/または障害から起こるものであれ、病的な(先天性または損傷関連の)損失および/または損傷および/または障害から起こるものであれ,生涯にわたって機能的衛星細胞に対する継続的な要求が存在する。
【0007】
本発明は、当技術分野における上記の要求に取り組む。
【0008】
特に、本発明者らは、驚くことに、そして予期しないことに、フルオキセチンおよびボルチオキセチンが衛星細胞の増殖を、特にそれらの分裂速度の増大により促進することを見出した。それらは、特に、インビボデュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルで筋線維の直径を増大させ、また、複数回の損傷の後でも持続可能な様式で筋再生を促進する。よって、本結果は、これらの抗鬱薬が筋再生を誘導し、筋ジストロフィーの進行を緩徐化するために使用可能であることを示す。本発明者らはさらに、これらの驚くべき効果が筋組織で発現される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体により媒介されたことも見出し、このことは、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体を直接的または間接的に刺激するいずれの(選択的または非選択的)薬剤も衛星細胞に対して同様の有利な作用を発揮するであろうことを示唆する。
【0009】
よって、本発明は、
i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤;ならびに/または
ii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤
としての使用のための、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体刺激剤、および前記薬剤を含んでなる組成物を対象とする。
【0010】
本発明はさらに、インビトロ(in vitro)使用、ならびに治療方法およびスクリーニング方法を包含する。
【発明の具体的説明】
【0011】
そうではないことが示されない限り、本発明に関して使用される科学用語および技術用語は、当業者により一般に理解されている意味を有するものとする。さらに、文脈がそうではないことを必要としない限り、本明細書に使用される命名法および分子生物学、細胞培養、および薬理学の技術は、当技術分野で周知かつ慣用されるものである。このような技術は文献で十分に説明されている(Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc.編 New York, 2013; Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 第22版, Mack Publishing Co., Easton, Pa., 2012参照)。
【0012】
しかしながら、本明細書中の種々の用語の使用に関しては、より詳しくは、以下の定義を適用する。
【0013】
本発明に関して、用語「5-ヒドロキシトリプタミン受容体」、「5-HT受容体」、「5-HT R」または「セロトニン受容体」は、ほとんど総ての動物の中枢および末梢神経系に見られる、Gタンパク質シグナル伝達経路の活性化を介しておよび/またはリガンド依存性イオンチャネルとして働く単一ポリペプチド7回膜貫通型受容体のスーパーファミリーを意味する。5-ヒドロキシトリプタミン受容体は、グルタメート、GABA、ドーパミン、エピネフリン/ノルエピネフリン、およびアセチルコリンなどの多くの神経伝達物質、ならびにとりわけ、オキシトシン、プロラクチン、バソプレシン、コルチゾール、コルチコトロピン、およびサブスタンスPなどの多くのホルモンの放出を調節するためにそれらの天然リガンドであるセロトニンにより活性化される。
【0014】
5-ヒドロキシトリプタミン受容体はさらに、それらのGタンパク質共役に従って7つの群に類別され、その中で5-HT1群が本発明に関して特に対象とされる。
【0015】
「5-HT1受容体群」は、5-HT1 A、B、D、EおよびFサブタイプを含んでなり、ヒトでは40~63%の間の構造的相同性を有し、Gαi/oタンパク質と優先的に会合する。5-HT1受容体サブタイプの活性化は一般に、カリウムチャネルの活性化を介して阻害性の神経伝達を惹起し、細胞内cAMP生産を低下させる。
【0016】
5-HT1受容体群の中で、「5-HT1 B受容体」(「5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体」、「5-ヒドロキシトリプタミン受容体1B」、「5-HT-1B」、「5-HT-1D-β」、「セロトニン1Dβ受容体」、または「セロトニン受容体1B」)は、1992年にJinらにより同定および特性評価がなされた。ヒトでは、この受容体はHTB1R遺伝子(NCBI RefSeq受託・バージョン番号NM_000863.1およびGI:4504532;対応するコードタンパク質:NCBI RefSeq受託・バージョン番号NP_000854.1およびGI:4504533)によりコードされ、6番染色体の6q13に位置する。この受容体の配列は、ヒト、チンパンジー、アカゲザル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、C.エレガンス(C. elegans)、およびカエルでよく保存されており、これまでに135種の生物がヒト遺伝子HTR1Bとの相同分子種を有することが知られている。
【0017】
「5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤」、または「5-HT1 BR刺激剤」は、本明細書では、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体の活性を直接的もしくは間接的に刺激することができる、または言い換えれば、前記受容体の天然リガンド(すなわち、セロトニン)により通常発揮される効果を模倣もしくは増強することができる活性剤を意味する。直接的刺激は薬剤の前記受容体への結合を必要とし、一方、間接的刺激は、前記薬剤の前記受容体への結合を含まない(すなわち、それは別の作用機序を介して受容体に作用する)。候補薬剤の前記受容体を活性化させる能力は、例えば、細胞内で5-HT1 BRを過剰発現させ、それらの組換え細胞を前記候補薬剤と接触させる前と接触させた後に細胞内のcAMP生産を測定することによるなどの当技術分野で周知の方法によって評価することができる。5-HT1 BRの活性を測定するための他の方法も当技術分野で記載されており、とりわけ、電流測定検出器を用いる電気化学検出器と連結した逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC-ED)が含まれる。本発明に関して、前記薬剤は、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体に対して選択性があり得、または5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体にだけでなく他の5-HT受容体などの他の受容体にも作用し得る。いずれにせよ、本明細書で提案されるように、衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進、ならびに/または衛星細胞プールの枯渇の予防および/もしくは阻害は、本発明の薬剤による5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体の直接的または間接的刺激により媒介される。
【0018】
本明細書に記載される本発明の種々の態様および実施形態によれば、「対象」または「宿主」は、セロトニン作動系を有する対象を意味し、前記系は、より詳しくは、特に5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体をはじめとする5-ヒドロキシトリプタミン受容体を含んでなる。よって、前記対象は好ましくは、動物およびヒトを含む。、
【0019】
加えて、「衛星細胞」とは、本明細書では、本来、筋線維の基底膜の下層に位置し、自己再生能および新たな骨格筋細胞の形成能(すなわち、筋原性)のある小さな単核幹細胞を意味する。衛星細胞の最も決定的なマーカーはPax7であり、出生後の筋の総ての衛星細胞に存在し、それらが分化し始めるまで、増殖中の筋芽細胞で発現される。静止中の衛星細胞に共通の他の転写因子として、Foxk1およびPax3が含まれる。また、CD56(神経系細胞接着分子、またはNCAM)、肝増殖因子(HGF)受容体、およびc-Metをはじめとする細胞表面マーカーも、周囲組織から衛星細胞を識別するために使用できる。M-カドヘリン(Cdh15)もまた一般に静止中の衛星細胞に存在し、ひと度それらが活性化されるとアップレギュレートされる。他のマーカーとしては、CD106(VCAM-1)、CD34、シンデカン3および4、Sox8およびSox15が含まれる。ひと度、衛星細胞が活性化されると、MyoD、Myf6およびMyf5の発現が始まり、次いで、ミオゲニン(MyoG)、デスミン、およびMRF4が発現し、これはそれらの細胞が筋管へと分化を受けていることを示す。筋再生プロセスの各段階で発現される主要な細胞マーカーを図1にまとめる。FACS(蛍光活性化細胞選別)によるなどの当技術分野で周知の方法による前記細胞マーカーの有無を評価することは当業者の技能の範囲内である。
【0020】
「衛星細胞プール」とは、本明細書では、筋線維の形質膜と基底膜の間に位置する対象内に存在する衛星細胞の天然のインビボリザーブまたはストックを意味する。このプールは静止(すなわち、休眠)衛星細胞だけからなり、その細胞表現型はPax7+および/またはPax3+である。特に、前記表現型は、CD34+、Cdh15+、Foxk1+、Met+、Pax3+、Pax7+、Sdc3/4+、Sox8+、Sox15+、VCAM1+、Myf5-、Myf6-、MyoD-、デスミン-、MyoG-、およびMRF4-であり得る。より詳しくは、静止(すなわち、休眠)衛星細胞の細胞表現型は、CD34+、Cdh15+、Foxk1+、Met+、Pax3+、Pax7+、Sdc3/4+、Sox8+、Sox15+、VCAM1+、Myf5-、Myf6-、MyoD-、デスミン-、MyoG-、MRF4-、CD56+、およびMyHC-であり得る。
【0021】
よって、「衛星細胞プールの枯渇」は、前記静止細胞の枯渇または低下を意味する。用語「衛星細胞の自己再生」は、本明細書では、前記細胞が後代を生じるように増殖または分裂することを意味し、その後代は静止するかまたは細胞分化を受けるようになる。よって、増殖または自己再生中の衛星細胞の細胞表現型は、Pax7+、Myf5+、MyoD+、デスミン-、MyoG-およびMRF4-である。特に、前記表現型は、CD34+、Cdh15+、Foxk1+、Met+、Pax3+、Pax7+、Sdc3/4+、Sox8+、Sox15+、VCAM1+、Myf5+、Myf6+、MyoD+、デスミン-、MyoG-、およびMRF4-であり得る。より詳しくは、増殖または自己再生中の衛星細胞の細胞表現型は、CD34+、Cdh15+、Foxk1+、Met+、Pax3+、Pax7+、Sdc3/4+、Sox8+、Sox15+、VCAM1+、Myf5+、Myf6+、MyoD+、デスミン-、MyoG-、MRF4-、CD56+、およびMyHC-であり得る。
【0022】
用語「衛星細胞の分化」は、本明細書では、前記細胞が、ある細胞表現型から成熟筋線維を形成するための別の細胞表現型へ、より詳しくは、自己再生細胞表現型から筋芽細胞表現型へ、そして筋管表現型へと変化する細胞プロセスを意味する。よって、分化中の衛星細胞の細胞表現型は、デスミン+、MyoG+およびMRF4+であり、一方、完全に分化した衛星細胞の細胞表現型は、MyHC+である。特に、分化中の衛星細胞の表現型は、CD34+、Cdh15+、Foxk1+、Met+、Pax3+、Pax7+ Sdc3/4+、Sox8+、Sox15+、VCAM1+、Myf5+、Myf6+、MyoD+、デスミン+、MyoG+、およびMRF4+(すなわち、筋芽細胞表現型)であり得、一方、完全に分化した衛星細胞の細胞表現型は、CD34-、Cdh15-、Foxk1-、Met-、Pax3-、Pax7-、Sdc3/4-、Sox8-、Sox15-、VCAM1-、Myf5+、Myf6+、MyoD+、デスミン+、MyoG+、およびMRF4+およびMyHC+(すなわち、筋管表現型)であり得る。より詳しくは、分化中の衛星細胞の細胞表現型は、CD34+、Cdh15+、Foxk1+、Met+、Pax3+、Pax7+/-、Sdc3/4+、Sox8+、Sox15+、VCAM1+、Myf5+、Myf6+、MyoD+、デスミン+、MyoG+、MRF4+、CD56+/-、およびMyHC+/-(すなわち、筋芽細胞表現型)であり得、一方、完全に分化した衛星細胞の細胞表現型は、CD34-、Cdh15-、Foxk1-、Met-、Pax3-、Pax7-、Sdc3/4-、Sox8-、Sox15-、VCAM1-、Myf5+、Myf6+、MyoD+、デスミン+、MyoG+、MRF4+、CD56-、およびMyHC+(すなわち、筋管表現型)であり得る。
【0023】
さらなる定義は本明細書中に示す。
【0024】
本発明は、本発明の好ましい実施形態を含む以下の詳細な説明、本明細書に含まれる実施例を参照することによってより容易に理解できる。
【0025】
本発明者らは、セロトニンレベルを上昇させて5-HT1 BRを刺激する周知のセロトニン再取り込み阻害薬であるフルオキセチンまたはボルチオキセチン(フルオキセチンは5-HT1 BRに間接的に作用し、ボルチオキセチンは5-HT1 BRに間接的に、ならびに前記受容体の部分アゴニストとして直接的に作用する)と接触した際に、損傷を受けた筋に存在する衛星細胞は、非処置動物に比べてより活発かつより速い細胞分裂を受け、衛星細胞の成熟筋管への分化および新たなリザーブ静止衛星細胞の出現がもたらされることを見出した。本発明者らはさらに、フルオキセチンがデュシェンヌ型筋マウスモデル(Mdx)において、特に、筋線維の壊死を減らし、筋線維サイズを増し、かつ、炎症マーカーを低下させることにより、筋の表現型を改善したことを実証した。
【0026】
よって、本発明は、5-HT1 BR活性を刺激する薬剤を、衛星細胞の増殖および分化に有利とし、かつ、それらのインビボ枯渇を予防し、それにより、筋再生を促進するための新規な薬物として使用することを提案する。
【0027】
よって、第1の態様において、本発明は、
i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤;ならびに/または
ii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤
としての使用のための、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤を対象とする。
【0028】
上述のように、前記薬剤は、前記5-HT1 BRに直接的または間接的に作用し得る。
【0029】
より正確には、本発明は、i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進するため、かつ/またはii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害するための、本明細書に記載の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤の使用に関する。
【0030】
前記使用は、インビボ使用であってもインビトロ使用であってもよく、好ましくは、インビボ使用である。
【0031】
より詳しくは、本発明は、i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進するため、かつ/またはii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害するための薬剤を製造するための、本明細書に記載の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤の使用に関する。
【0032】
言い換えれば、本発明は、i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進する、かつ/またはii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/または阻害する方法であって、有効量の上記の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含んでなる方法に関する。
【0033】
本発明はまた、i)衛星細胞の自己再生および/または分化を促進するための、本明細書に記載の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤のインビトロ使用に関する。
【0034】
言い換えれば、本発明は、i)衛星細胞の自己再生および/または分化を促進するインビトロ方法であって、有効量の本明細書に記載の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤を、衛星細胞、特に、衛星細胞プールを含んでなる単離された生体サンプルに投与する工程を含んでなる方法に関する。前記生体サンプルは、本明細書では、筋サンプルであり得る。
【0035】
「有効量」とは、本明細書では、本発明の薬剤が意図される効果、すなわち、衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進、ならびに/または衛星細胞プールの枯渇の予防および/もしくは阻害を提供するのに十分な量で投与されることを意味する。
【0036】
衛星細胞の自己再生および/または分化、ならびに衛星プールの補充は、上記のように衛星細胞の表現型を分析することによって評価することができる。
【0037】
さらに好ましい実施形態によれば、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤は、本発明では、自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害により影響を受けた対象において使用される。
【0038】
用語「骨格筋組織の自然な損失および/または損傷および/または障害」は、本明細書では、進行性の骨格筋損失をもたらす筋老化の自然プロセスを包含する。この用語には、限定されるものではないが、サルコペニアおよびその関連合併症、例えば、筋強度の低下(すなわち、筋衰弱)、骨折、ならびに運動性および身体機能の低下が含まれる。一般に、ヒトでは30歳で筋肉量が少しずつ減少し始めるが、結果として生じる強度の損失は年齢とともに指数関数的に増大する。筋損失の保有率は、70歳未満の15~25%から、80歳を超える年代では50%を上回るまでに増えることが知られている。よって、好ましい実施形態では、自然な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害により影響を受けた前記対象は成人対象、好ましくは少なくとも30歳、より好ましくは少なくとも70歳、いっそうより好ましくは少なくとも80歳である。サルコペニアに関しては、クラスIサルコペニアは、Messierら(2009)による文献では、四肢除脂肪体格指数(appendicular lean body mass index)(ALBMI)<または=6.44kg.m-2(四肢除脂肪体重/身長)と定義されており、これは脚および/または腕をスキャンして筋容積を求めることにより特定することができる。よって、好ましい実施形態では、自然な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害により影響を受けた前記対象は、約6kg/m以上、好ましくは約6.3kg/m以上、より好ましくは約6.4kg/m以上、いっそうより好ましくは約6.44kg/m以上のALBMIを有する。サルコペニアはまた、上腕筋周囲長および下腿周囲長などの人体計測を行って四肢骨格筋の通常量を下回ることを判定することによっても特定することができる(Bauer et al., 2008)。Baumgartnerら(1998)はさらに、高年対象の骨格筋肉量が健康な若年成人の平均を標準偏差の2倍を超えて下回る場合にサルコペニアと特定した。
【0039】
「病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害」とは、本明細書では、骨格筋に影響を及ぼすいずれの先天性また後天性の筋退化、衰弱、機能不全および/または損失も意味する。骨格筋に影響を及ぼす典型的な先天性病状としては、限定されるものではないが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy)(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー(Limb Girdle muscular dystrophy)(LGMD)、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、筋強直性筋ジストロフィー、眼球咽頭型筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、およびエメリ・ドレフュス型筋ジストロフィーなどの筋障害が含まれる。対照的に、骨格筋に影響を及ぼす先天性病状は遺伝せず、炎症(炎症性筋障害)、薬物(薬剤性筋障害)、外傷または損傷(外傷性筋障害、または手術誘発性筋障害)、結合組織および筋虚血(バージャー病)、癌(癌誘発性サルコペニア)またはさらには食餌(食餌性筋障害)により誘発され得る。
【0040】
好ましい実施形態によれば、本発明で使用される5-HT1 BR刺激剤は、抗鬱薬および抗片頭痛薬、それらの薬学上許容可能な誘導体、類似体、異性体、代謝産物、塩、溶媒和物、包接体、多形体、および共結晶、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される。
【0041】
「誘導体」とは、本明細書では、対象とする化学化合物(すなわち、5-HT1 BR刺激剤)から直接誘導され、前記化合物と同一ではないが構造的に類似し、かつ、同じ生物活性および/または物理化学的特性を保持する化合物を意味する。
【0042】
「類似体」、または「機能的類似体」とは、本明細書では、対象とする化学化合物から直接に誘導されず、従って、構造的に異なるが、同じ生物活性および/または物理化学的特性を示す、同配体などの化合物を意味する。
【0043】
本発明による5-HT1 BR刺激剤の「誘導体」および「類似体」は、本明細書では、本明細書では、上記に定義されるように5-HT1 BR刺激活性を保持するが、さらに以下に記載されるように血液脳関門を通過しない化合物を包含する。
【0044】
「異性体」とは、本明細書では、対象とする化合物と同じ化学式を有するが、化学構造が異なる化合物を意味する。この用語は、構造異性体および立体異性体を包含する。本発明の異性体が立体異性体であれば、個々の立体異性体(鏡像異性体およびジアステレオ異性体)およびそれらの混合物が本発明の範囲に含まれる。本発明による化合物には、互変異性形(構造異性体の一種)で存在し得るものがあり、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0045】
「代謝産物」とは、本明細書で使用する場合、中間体および/または代謝の産物であるいずれの化合物も意味する。ある化学化合物からの代謝産物は通常には、それが投与される対象内で、対象とする化合物を分解および排除する天然の生化学プロセスの一部として形成される。本発明による抗鬱薬の代謝産物の例は以下でさらに示す。
【0046】
用語「薬学上許容可能な塩」または「塩」は、本明細書で使用する場合、本発明に関して適当な様式で使用される場合、特に、哺乳動物で使用される場合には、生理学上許容される(すなわち、非毒性である)塩を意味する。薬学上許容可能な塩としては、薬学上許容可能な無機および有機酸および塩基から誘導されるものが含まれる。本発明による好適な酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-硫酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-硫酸、ベンゼンスルホン酸、グルコン酸、グルタミン酸、ビス-メチレンサリチル酸、エタンジスルホン酸、プロピオン酸、p-アミノ-安息香酸、リンゴ酸、マンデル酸、桂皮酸、シトラコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸およびスルファミン酸、ならびにテオフィリン酢酸および8-ハロテオフィリン、例えば、8-ブロモテオフィリンが含まれる。シュウ酸などの他の酸も、それら自体薬学上許容可能でないが、本化合物およびそれらの薬学上許容可能な酸付加塩を得る上での中間体として有用な塩の調製において使用され得る。適当な塩基から誘導される塩としては、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩)、アルカリ土類金属塩、(例えば、マグネシウム塩)、アンモニウム塩およびN-(C1-C4アルキル) 塩が含まれる。
【0047】
本発明による用語「溶媒和物」は、特に、水和物およびアルコラート、例えば、メタノラートを含め、前記化合物が別の分子(通常には、極性溶媒)と非共有結合的相互作用を介して連結されている、本発明に従う活性剤(すなわち、5-HT1 BR刺激剤)のいずれの形態も意味すると理解されるべきである。溶媒和の方法は当技術分野で周知である。
【0048】
「包接体」とは、本明細書では、第2の種類の対象分子/化合物を捕捉または含有する格子またはケージからなる化学物質を意味し、これらは対象分子/化合物の安定性および水中での溶解度を高めるために使用することができる。包接体は一般にポリマー系である。
【0049】
用語「多形体」は、分子が異なる配列および/または異なる分子立体配座を有する、対象化合物の種々の結晶形を意味する。多形体には、対象化合物の結晶性液体形態または結晶性固体形態が含まれる。水和物および包接体は多形体であり得る。
【0050】
「共結晶」とは、本明細書では、少なくとも2つの成分から構成される結晶構造を意味し、この場合、これらの成分は原子、イオンまたは分子であり得る。溶媒和物および包接体は、ある特定の条件で共結晶であり得る。
【0051】
本発明に関して、上記に定義される薬学上許容可能な誘導体、類似体、異性体、代謝産物、塩、溶媒和物、包接体、多形体、および共結晶は活性型であり、すなわち、それらは5-HT1 BR刺激活性を示す。前記活性は上記のように評価することができる。
【0052】
さらに、上記のような5-HT1 BR刺激剤、またはそれらの誘導体、類似体、異性体、代謝産物、塩、溶媒和物、包接体、多形体、および共結晶は好ましくは薬学上許容可能であるかまたは実質的に純粋な形態であると理解されるべきである。薬学上許容可能な形態とは、とりわけ、薬学上許容可能なレベルの純度を有すること、すなわち、通常の用量レベルで有毒と見なされる、希釈剤および担体などの通常の添加剤、および任意の物質を排除することを意味する。本発明に関して、純度は好ましくは98%を超え、より好ましくは99%を超え、いっそうより好ましくは99.9%を超える。好ましい実施形態では、前記純度は99.9%である。
【0053】
上述のように、本発明による5-HT1 BR刺激剤は、トリプタンまたはエルゴタミンなどの抗片頭痛薬の中で選択することができる。トリプタンは、5-HT1 BRおよび5-HT1 DRに対するそれらの作動効果のために片頭痛および群発性頭痛の治療に使用されるトリプタミン系薬物として周知である。本発明によるトリプタンの例としては、限定されるものではないが、スマトリプタン、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、アルモトリプタン、フロバトリプタン、ナラトリプタン、アビトリプタン、およびドニトリプタンが挙げられる。前記化合物の塩の非限定例としは、ドニトリプタン塩酸塩、エレトリプタン臭化水素酸塩、およびリザトリプタン安息香酸塩がある。
【化1】
【0054】
本発明による特に好ましいトリプタンは、スマトリプタン、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、アルモトリプタン、およびフロバトリプタンからなる群から選択される。
【0055】
本発明による5-HT1 BR刺激剤は、あるいは抗鬱薬の中で選択することができる。
【0056】
「抗鬱薬」とは、本明細書では、鬱病(憂鬱症を含む)および/または気分変調などの気分障害を治療することができる活性剤を意味する。本発明による抗鬱薬としては、限定されるものではないが、セロトニン再取り込み阻害薬(serotonin reuptake inhibitor)(SRI);三環系抗鬱薬(tricyclic antidepressant)(TCA);モノアミンオキシダーゼ阻害薬(monoamine oxidase inhibitor)(MAO);ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗鬱薬(noradrenergic and specific serotoninergic antidepressant)(NaSSA);非定型抗鬱薬または抗鬱薬増強剤が含まれる。
【0057】
セロトニン再取り込み阻害薬(SRI)は、セロトニン神経伝達物質のシナプス前終末への再取り込みを阻害し、それによりセロトニンの細胞外レベル、従って、セロトニン作動性伝達を増大させることで一般に作用する化合物種を呼称する。このような化合物は、神経伝達物質セロトニンに選択的にまたは非選択的に作用し得る。SRIはまた、実際に、他のモノアミン再取り込み系、特に、ノルエピネフリンおよびドーパミンの輸送体に対して様々な程度の選択性を示し得る。SRIには、一般に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor)(SSRI)、セロトニンおよびノルエピネフリン再取り込み阻害薬(serotonine and norepinephrine reuptake inhibitor)(SNRI)およびセロトニン-ノルエピネフリン-ドーパミン再取り込み阻害薬(serotonin-norepinephrine-dopamine reuptake inhibitor)(SNDRI)が含まれる。
【0058】
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の例としては、限定されるものではないが、フルオキセチン、シタロプラム、エスシタプラム、セルトラリン、ノルセルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、フェモキセチン、インダルピン、アラプロクラート、セリクラミン、イフォキセチン、ジメリジン、ダポキセチン、およびエトペリドン、好ましくは、フルオキセチン、シタロプラム、エスシタプラム、セルトラリン、ノルセルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、フェモキセチン、インダルピン、アラプロクラート、セリクラミン、イフォキセチンおよびジメリジンが含まれる。
【化2】
【0059】
活性のあるSSRI代謝産物の例としては、限定されるものではないが、デスメチルシタロプラム、ジデスメチルシタロプラム、およびセプロキセチン(すなわち、(S)-ノルフルオキセチン)が含まれる。
【0060】
セロトニンおよびノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)の例としては、限定されるものではないが、デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ミルナシプラン、レボミルナシプラン、およびシブトラミンが含まれる。
【0061】
セロトニン-ノルエピネフリン-ドーパミン再取り込み阻害薬(SNDRI)(トリプル再取り込み阻害薬またはTRIとしても知られる)の例としては、限定されるものではないが、ビシファジン、ブラソフェンシン、テソフェンシンおよびノミフェンシン、好ましくは、ビシファジンが含まれる。
【0062】
本発明による三環系抗鬱薬(TCA)の例としては、限定されるものではないが、クロミプラミン、アモキサピン、ノルトリプチリン、マプロチリン、トリミプラミン、イミプラミン、デシプラミンおよびプロトリプチリンが含まれる。
【0063】
本発明によるモノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAO)の例としては、限定されるものではないが、イプロニアジド、フェネルジン、トラニルシプロミン、モクロベミド、セレギリンおよびラサギリンが含まれる。
【0064】
好ましくは、シナプス前α-2アドレナリン受容体を遮断することにより作用するノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗鬱薬(NaSSA)の例としては、とりわけ、ミルタザピン、ミアンセリン、アプタザピン、エスミルタザピン、セチプチリンおよびS32212(N-[4-メトキシ-3-(4-メチルピペラジン-1-イル)フェニル]-1,2-ジヒドロ-3H-ベンゾ[e]インドール-3-カルボキシアミドとしても知られる)、好ましくは、ミルタザピンおよびミアンセリンが含まれる。
【0065】
非定型抗鬱薬(従って、上記の抗鬱薬種のいずれにも属さないと定義される)または抗鬱薬増強剤の例としては、限定されるものではないが、ボルチオキセチンなどのビスアリールスルファニルアミン、ならびにチアネプチン、アゴメラチン、ネファゾドン、トラゾドン、ブスピロン、タンドスピロン、およびケタミン、好ましくは、ボルチオキセチン、チアネプチン、アゴメラチン、ネファゾドン、トラゾドン、ブスピロン、タンドスピロン、およびケタミンが含まれる。
ビスアリールスルファニルアミンは、引用することにより一部とされる特許出願WO2003/029232に開示されており、本発明による5-HT1 BR刺激剤の範囲内にある。前記化合物は、下記の一般式(A)に従って記載することができ、
【化3】
式中、
・mは1または2であり;
・pは0、1、2、3、4、5、6、7または8であり;
・qは0、1、2、3または4であり;
・sは1または2であり;
・各R1’は、C1-6-アルキルにより表される基から独立に選択されるか、または2個のR1’ が同じ炭素原子と結合して3~6員スピロ結合シクロアルキルを形成してもよく;
・各R2’は、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-6-アルク(エン/イン)イル、C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシ、C1-6-アルク(エン/イン)イルスルファニル、ヒドロキシ、ヒドロキシ-C1-6-アルク(エン/イン)イル、ハロ-C1-6-アルク(エン/イン)イル、ハロ-C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシ、C3-8-シクロアルク(エン)イル、C3-8-シクロアルク(エン)イル-C1-6-アルク(エン/イン)イル、アシル、C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシカルボニル、C1-6-アルク(エン/イン)イルスルホニル、または-NRxRy;-NRxCO-C1-6-アルク(エン/イン)イルにより表される基から独立に選択され;
・各R3’は、ハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-6-アルク(エン/イン)イル、C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシ、C1-6-アルク(エン/イン)イルスルファニル、ヒドロキシ、ヒドロキシ-C1-6-アルク(エン/イン)イル、ハロ-C1-6-アルク(エン/イン)イル、ハロ-C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシ、C3-8-シクロアルク(エン)イル、C3-8-シクロアルク(エン)イル-C1-6-アルク(エン/イン)イル、C1-6-アルク(エン/イン)イルスルホニル、アリール、C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシカルボニル、アシル、-NRCO-C1-6-アルク(エン/イン)イル、CONRまたはNRにより表される基から独立に選択され;
あるいは、2個の隣接するR3’置換基は一緒に、
【化4】
(式中、WはOまたはSであり、かつ、RおよびRは水素またはC1-6-アルキルである)
からなる群から選択されるフェニル環と縮合した複素環を形成するか、
あるいは、2個の隣接するR3’置換基は一緒に、1、2または3個のヘテロ原子を含有する縮合複素芳香族系を形成し、
各RおよびRは、水素、C1-6-アルク(エン/イン)イル、C3-8-シクロアルク(エン)イル、C3-8-シクロアルク(エン)イル-C1-6-アルク(エン/イン)イル、もしくはアリールにより表されるから独立に選択され;またはR およびRは、それらが結合している窒素と一緒に、場合により1個のさらなるヘテロ原子を含有してもよい3~7員環を形成し、
またはその薬学上許容可能な塩である。
【0066】
一般式(A)の化合物の合成は、WO2003/029232に十分に記載されているので、本明細書で詳説する必要はない。
【0067】
一般式(A)の好ましい実施形態では、pは0である。
【0068】
一般式(A)の好ましい実施形態では、mは1または2である。
【0069】
一般式(A)の好ましい実施形態では、R2’はトリフルオロメチル、またはC1-6-アルキルである。
【0070】
一般式(A)の好ましい実施形態では、R3’は、ハロゲン、C1-6-アルコキシ、C1-6-スルファニル、C1-6-アルキルヒドロキシおよびトリフルオロメチルからなる群から選択される。
【0071】
一般式(A)のより好ましい実施形態では、m=1、p=0、q=0、R3’はメチルであり、かつ、s=2である。
【0072】
一般式(A)の特に好ましい実施形態では、式(A)の化合物は、以下のいずれかである:
1-[2-(2-トリフルオロメチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペラジン、
1-[2-(4-ブロモフェニルスルファニル)フェニル]ピペラジン、
1-{2-[4-(メチルスルファニル)フェニルスルファニル]フェニル}ピペラジン、
1-[2-(4-ヒドロキシフェニルスルファニル]フェニル}ピペラジン、
1-[2-(2,4-ジメチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペラジン(ボルチオキセチンとしても知られる)、
ボルチオキセチン:
【化5】
1-[2-(3,5-ジメチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペラジン、
1-[2-(2,6-ジメチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペラジン、
1-[2-(2,5-ジメチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペラジン、
1-[2-(2-トリフルオロメチルフェニルスルファニル)フェニル][1,4]ジアゼパン、
1-[2-(3-メチルフェニルスルファニル)フェニル]-[1,4]-ジアゼパン、
2-(4-メチルフェニルスルファニル)フェニル-1-ピペラジン、
1-[2-(4-クロロフェニルスルファニル)フェニル]-ピペラジン、
1-[2-(4-メトキシフェニルスルファニル)-4-クロロフェニル]ピペラジン、
1-[2-(4-メトキシフェニルスルファニル)-4-メチルフェニル]ピペラジン、
1-[2-(4-メトキシフェニルスルファニル)-5-メチルフェニル]ピペラジン、
1-[2-(4-フルオロフェニルスルファニル)-5-メチルフェニル]ピペラジン、
1-[2-(4-メトキシフェニルスルファニル)-5-トリフルオロメチルフェニル]ピペラジン、
1-[2-(4-クロロフェニルスルファニル)フェニル]-3-メチルピペラジン、
1-[2-(4-クロロフェニルスルファニル)フェニル]-3,5-ジメチルピペラジン、
またはそれらの薬学上許容可能な塩。
【0073】
最も好ましい実施形態では式(A)の化合物は、1-[2-(2,4-ジメチルフェニルスルファニル)フェニル]ピペラジン(すなわち、ボルチオキセチン)である。
【0074】
「ハロゲン」は、本明細書では、フルオロ(F)、クロロ(Cl)、ブロモ(Br)またはヨード(I)を意味する。
【0075】
「アルキル」、「アルケニル」、「アルキニル」、および「アリール」は、以下にさらに定義される。
【0076】
1-6-アルク(エン/イン)イルという表現は、C1-6-アルキル、C2-6-アルケニルまたはC2-6-アルキニル基を意味する。
【0077】
3-8-シクロアルク(エン)イルという表現は、C3-8-シクロアルキル-またはシクロアルケニル基を意味する。
【0078】
1-6アルキルという用語は、1~6個の炭素原子を有する分岐または非分岐アルキルを意味し、限定されるものではないが、メチル、エチル、1-プロピル、2-プロピル、1-ブチル、2-ブチル、2-メチル-2-プロピルおよび2-メチル-1-プロピルが含まれる。
【0079】
同様に、C2-6アルケニルおよびC2-6アルキニルはそれぞれ、それぞれ1個の二重結合および1個の三重結合を含む2~6個の炭素原子を有する、そのような基を表し、限定されるものではないが、エテニル、プロペニル、ブテニル、エチニル、プロピニルおよびブチニルが含まれる。
【0080】
3-8シクロアルキルという用語は、3~8個のC原子を有する単環式または二環式炭素環を表し、限定されるものではないが、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが含まれる。
【0081】
3-8シクロアルケニルという用語は、3~8個のC原子を有し、かつ、1個の二重結合を含む単環式または二環式炭素環を表す。
【0082】
3-8-シクロアルク(エン)イル-C1-6-アルク(エン/イン)イルという用語において、C3-8-シクロアルク(エン)イルおよびC1-6-アルク(エン/イン)イルは上記に定義される通りである。
【0083】
1-6-アルク(エン/イン)イルオキシ、C1-6 アルク(エン/イン)イルスルファニル、ヒドロキシ-C1-6-アルク(エン/イン)イル、ハロ-C1-6-アルク(エン/イン)イル、ハロ-C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシ、C1-6-アルク(エン/イン)イルスルホニルなどの用語は、C1-6-アルク(エン/イン)イルが上記に定義される通りである、そのような基を表す。
【0084】
本明細書で使用する場合、C1-6-アルク(エン/イン)イルオキシカルボニルという用語は、式C1-6-アルク(エン/イン)イル-O-CO-の基を意味し、ここで、C1-6-アルク(エン/イン)イルは上記に定義される通りである。
【0085】
本明細書で使用する場合、アシルという用語は、ホルミル、C1-6-アルク(エン/イン)イルカルボニル、アリールカルボニル、アリール-C1-6-アルク(エン/イン)イルカルボニル、C3-8-シクロアルク(エン)イルカルボニルまたはC3-8-シクロアルク(エン)イル-C1-6-アルク(エン/イン)イル-カルボニル基を意味する。
【0086】
場合により1個のさらなるヘテロ原子を含有してもよい3~7員環という用語は、本明細書で使用する場合、1-モルホリニル、1-ピペリジニル、1-アゼピニル、1-ピペラジニル、1-ホモピペラジニル、1-イミダゾリル、1-ピロリルまたはピラゾリルなどの環系を意味し、それらは総てC1-6-アルキルでさらに置換されていてもよい。
【0087】
2個の隣接するR3’置換基により形成され、親環と縮合した複素環は一緒に、3H-1,2,3-オキサチアゾール、1,3,2-オキサチアゾール、1,3,2-ジオキサゾール、3H-1,2,3-ジチアゾール、1,3,2-ジチアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1H-1,2,3-トリアゾール、イソキサゾール、オキサゾール、イソチアゾール、チアゾール、1H-イミダゾール、1H-ピラゾール、1H-ピロール、フランまたはチオフェンなどの5員単環式環ならびに1,2,3-オキサチアジン、1,2,4-オキサチアジン、1,2,5-オキサチアジン、1,4,2-オキサチアジン、1,4,3-オキサチアジン、1,2,3-ジオキサジン、1,2,4-ジオキサジン、4H-1,3,2-ジオキサジン、1,4,2-ジオキサジン、2H-1,5,2-ジオキサジン、1,2,3-ジチアジン、1,2,4-ジチアジン、4H-1,3,2-ジチアジン、1,4,2-ジチアジン、2H-1,5,2-ジチアジン、2H-1,2,3-オキサジアジン、2H-1,2,4-オキサジアジン、2H-1,2,5-オキサジアジン、2H-1,2,b-オキサジアジン、2H-1,3,4-オキサジアジン、2H-1,2,3-チアジアジン、2H-1,2,4-チアジアジン、2H-1,2,5-チアジアジン、2H-1,2,6-チアジアジン、2H-1,3,4-チアジアジン、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、2H-1,2-オキサジン、2H-1,3-オキサジン、2H-1,4-オキサジン、2H-1,2-チアジン、2H-1,3-チアジン、2H-1,4-チアジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、4H-1,3-オキサチイン、1,4-オキサチイン、4H-1,3-ジオキシイン、1,4-ジオキシイン、4H-1,3-ジチイン、1,4-ジチイン、ピリジン、2H-ピランまたは2H-チインなどの6員単環式環などの環を形成してもよい。
【0088】
さらに、一般式(A)の化合物は、非溶媒和形態ならびに水、エタノールなどの薬学上許容可能な溶媒との溶媒和形態で存在してもよい。
【0089】
一般式(A)の化合物にはキラル中心を含むものがあり、このような化合物は異性体(すなわち、鏡像異性体)の形態で存在する。このような異性体およびラセミ混合物を含むそれらのいずれの混合物も本発明の範囲内にある。
【0090】
本発明による特に好ましい抗鬱薬は、上記のようなビスアリールスルファニルアミン、例えば、ボルチオキセチン、およびフルオキセチン、シタロプラム、エスシタプラム、セルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、フェモキセチン、インダルピン、アラプロクラート、ジメリジン、デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ミルナシプラン、レボミルナシプラン、シブトラミン、ビシファジン、クロミプラミン、アモキサピン、マプロチリン、イミプラミン、デシプラミン、モクロベミド、セレギリン、ミルタザピン、ミアンセリン、チアネプチン、アゴメラチン、トラゾドン、ブスピロン、タンドスピロン、およびケタミンからなる群から選択される。より好ましくは、本発明による抗鬱薬は、ボルチオキセチンなどの上記のようなビスアリールスルファニルアミン、およびフルオキセチンからなる群から選択される。
【0091】
本発明による他の好適な5-HT1 BR刺激剤は、アンピルトリン塩酸塩、CGS-12066A、CGS 12066B二マレイン酸塩、オキシメタゾリン、5-カルボキサミドトリプタミン、CP-93129およびCP-93129二塩酸などのその塩、CP-94253およびCP-94253塩酸塩などのその塩、CP-122,288、CP-135,807、RU-24969およびRU-24969ヘミコハク酸塩などのその塩、ジプラシドン、アセナピン、5-ノニルオキシトリプタミンシュウ酸塩、ピンドロールおよび(S)-(-)-ピンドロールであり得る。
【0092】
好ましい実施形態によれば、本発明で使用される5-HT1 BR刺激剤は、非定型抗鬱薬およびSRI、特に、SSRIからなる群から選択される抗鬱薬である。
【0093】
より好ましくは、本発明の5-HT1 BR刺激剤は、非定型抗鬱薬ボルチオキセチンまたはSSRIフルオキセチンである。最も好ましくは、本発明の5-HT1 BR刺激剤は、ボルチオキセチンである。
【0094】
しかしながら、本発明の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤が望ましくないCNS関連有害作用を示す場合には、末梢セロトニン系への前記薬剤の作用を制限することが特に有利である。抗鬱薬は、このような副作用を示すことが特によく知られている。副作用は、前記薬剤の構造を化学的に修飾することにより、また特に血液脳関門を通過しないように荷電化学部分をグラフトすることにより防ぐことができる。
【0095】
よって、好ましい実施形態では、本発明で使用される5-HT1 BR刺激剤は、好ましくは正に荷電した、少なくとも1つの荷電化学部分を含むように修飾される。特に、この正電荷は広範囲のpH、特に、生理学的pHにおいて保持され得る。
【0096】
言い換えれば、本発明によるこのような修飾5-HT1 BR刺激剤は、血液脳関門を通過することができない。よって、この方法で修飾された抗鬱薬および抗片頭痛薬はそれぞれ、抗鬱薬能および抗片頭痛能は無い。
【0097】
このような化学修飾は、引用することにより本明細書の一部とされる特許出願WO2007/148341に詳細に記載されており、血液脳関門を通過しないようにしつつ、それらの化合物の5-HT1 BR刺激活性を保持するように遂行することができる。
【0098】
「荷電化学部分」、「荷電部分」、「荷電化学基」または「荷電基」という用語は、本明細書で使用する場合、有機分子の一部を形成し、正または負の静電電荷を特徴とする原子または原子団を意味する。
【0099】
よって、「正荷電化学部分」、「正荷電部分」、「正荷電化学基」または「正荷電基」とは、正の静電電荷を特徴とする、上記に定義される荷電化学部分を意味する。1以上の正荷電部分を含む化合物は、しばしば分子陽イオンと呼ばれる分子イオンである。正荷電原子団は、これらの原子の陽子数未満の少なくとも1個の電子を有する。正荷電化学部分としては、限定されるものではないが、アンモニウム基およびスルホニウム基が含まれる。
【0100】
生理学的pHでその電荷を保持する正荷電基は、5-HT1-BR刺激剤が活性である体内の生理学的環境に典型的なpH範囲で電子交換相互作用に関与できない基である。一般に、生理学的pHは約7.4であり、従って、生理学的pHにおいてその電荷を保持する正荷電基は、約5~8のpH範囲でイオン化を維持する正荷電化学基を意味する。生理学的pHに関してpHレベルが極端に低いGIであっても、本発明による正荷電化学部分は正荷電を維持するので、本発明による修飾5-HT1-BR刺激剤は、GIのpHレベルにより悪影響を受けないことに留意されたい。
【0101】
なおさらに、さらなる好ましい実施形態によれば、前記正に荷電した化学部分は、第四級アンモニウム基または第三級スルホニウム基である。
【0102】
「第四級アンモニウム」とは、本明細書では、4個の非水素置換基と結合している、従って、正荷電分子(アミン)の一部を形成する窒素原子を意味する。「アミン」という用語は、R’およびR”のそれぞれが独立に水素、アルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリールまたはヘテロアリールである-NR’R”基を表す。
【0103】
「第三級スルホニウム基」とは、3個の非水素置換基と結合している、従って、正荷電分子(スルホニウム)の一部を形成する硫黄原子を意味する。「スルホニウム」という用語は、R’およびR’’がそれぞれ独立にアルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環式、アリールまたはヘテロアリールである-SR’R’’を意味する。
【0104】
本発明によれば、「アルキル基」という用語は、直鎖または分岐飽和脂肪族基を意味する。好ましくは、アルキル基は1~20個の炭素原子、より好ましくは1~10個の炭素原子、いっそうより好ましくは1~6個の炭素原子を有する。例えば「1~10」などの数値範囲が本明細書に示される場合、それはその基(この場合アルキル基)が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子などから、10個以下の炭素原子を含み得ることを意味する。アルキル基の例としては、限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、tert-ブチルおよびイソプロピル基が含まれる。アルキル基はさらに置換することができる。置換される場合、置換基は例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ハライド、ヒドロキシ、アルコキシおよびヒドロキシアルキルであり得る。「アルキル」という用語は、本明細書で使用する場合、飽和または不飽和炭化水素をさらに包含し、従って、この用語はアルケニルおよびアルキニルをさらに包含する。
【0105】
「シクロアルキル」という用語は、3~8個の炭素原子を有する脂肪族単環式または二環式環を意味し、限定されるものではないが、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが含まれる。
【0106】
「アルケニル」という用語は、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも1個の炭素-炭素二重結合、かつ、上記のように1以上の置換基で置換することができる、上記に定義される不飽和アルキルを包含する。「アルキニル」という用語は、少なくとも2個の炭素原子および少なくとも1個の炭素-炭素三重結合を有し、かつ、上記のように1以上の置換基で置換することができる不飽和アルキルである。
【0107】
「アリール」という用語は、全炭素単環式または完全に共役したパイ電子系を有する縮合環多環式(すなわち、隣接する炭素原子対を共有する環)基を表す。
【0108】
「アリールまたはヘテロアリール基」とは、本明細書では、好ましくは4~15個の間の炭素原子、好ましくは5~10個の間の炭素原子を含んでなる単環式または多環式芳香族基を意味する。アリール基の例としては、限定されるものではないが、フェニル、ナフチルなどが含まれる。本発明によるアリール基は、上記のように1以上の置換基でさらに置換されていてもよい。ヘテロアリール基は一般に、窒素、酸素、および硫黄などの少なくとも1個のヘテロ原子を含んでなり、ヘテロ原子は、炭素または水素ではない任意の原子である。ヘテロアリール基の例としては、限定されるものではないが、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリンおよびプリンが含まれる。ヘテロアリール基は、上記のように1以上の置換基でさらに置換されてもよく、代表例は、チアジアゾール、ピリジン、ピロール、オキサゾール、インドール、およびプリンなどである。
【0109】
より好ましい実施形態では、前記第四級アンモニウム基は、式(I)
-(NR (I)
を有し、式中、
Zは、有機または無機陰イオン、例えば、NO 、HPO 2-、Br-、HSO 、CHSO または酒石酸陰イオンであり;かつ
、R およびRはそれぞれアルキル、アリールおよびシクロアルキルからなる群から独立に選択される。
【0110】
好ましくは、R、RおよびRはそれぞれ、1~4個の炭素原子を有するアルキルであり、より好ましくは、R、R およびRはそれぞれ、メチルであって正荷電基を生じるか、または第四級アンモニウム基-(NMeである。
【0111】
別の好ましい実施形態では、前記第三級スルホニウム基は、式(II)
-(SR (II)
を有し、式中、
Zは、有機または無機陰イオン、例えば、NO 、HPO 2-、Br-、HSO 、CHSO または酒石酸陰イオンであり;かつ
およびRはそれぞれアルキル、アリールおよびシクロアルキルからなる群から独立に選択される。
【0112】
好ましくは、RおよびRはそれぞれ1~4個の炭素原子を有するアルキルであり、より好ましくは、RおよびRはそれぞれ、メチルであって正荷電基を生じるか、またはスルホニウム-(SMeである。
【0113】
正荷電基は、5-HT1 BR刺激剤上で5-HT1 BR刺激剤の一部を形成する既存の基から、すなわち、部分的に荷電したもしくは非荷電の基を正荷電基に変えるか、または陽子交換相互作用に関与できる既存の正荷電基をそのような相互作用に関与できないものに変えて、それを不可逆的正電荷または恒久的正電荷とし、それにより5-HT1 BR刺激剤を修飾することにより形成することができる。
【0114】
あるいは、正荷電基は、1以上の炭素原子を正荷電基で置換すること、例えば、水素原子もしくは他の任意の置換基を第四級アンモニウム基もしくは第三級スルホニウム基で置換することにより、5-HT1 BR刺激剤に付加することもできる。
【0115】
本明細書に記載の化合物が誘導され得る好ましい5-HT1 BR刺激剤の例としては、限定されるものではないが、ボルチオキセチンなどの上記のようなビスアリールスルファニルアミン、ならびにフルオキセチン、シタロプラム、アラプロクラート、ダポキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン、ジメリジン、エトペリドン、デンスバラファキシン(densvalafaxine)、デュロキセチン、ミルナシプラン、ネファゾドン、ベンラファキシン、ブラソフェンシン、テソフェンシンおよびノミフェンシン、好ましくは、ボルチオキセチン、フルオキセチン、シタロプラム、アラプロクラート、ダポキセチン、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシンおよびジメリジンが含まれる。実際に、これらの薬剤は総て、すでに少なくとも1個のアミン基を含んでなり、これは第四級アンモニウム、すなわち、上記に定義される正荷電基に容易に変換できる。特に、前記薬剤は、上記のように式(I)の少なくとも1つの第四級アンモニウム基を含んでなるように修飾することができる。
【0116】
このような第四級アンモニウム基を含んでなるシタロプラムの誘導体の例はn-メチル-シタロプラム(NMC)であり、その合成は特許出願WO2007/128341に詳しく記載されている。
【0117】
式(A)のビスアリールスルファニルアミンはまた、本明細書では特に、それらがアミン基だけでなく硫黄基も含んでおり、それぞれ第四級アンモニウム基および/または第三級スルホニウム基に容易に変換できるので有利である。正荷電部分はまた、前記化合物のピペラジン基の炭素原子に結合させることもできる。
【0118】
前記ビスアリールスルファニルアミンの特に好ましい誘導体は、以下のような式(B)の化合物であり、
【化6】
式中、
・Zは、上記に定義される有機もしくは無機陰イオン、例えば、NO 、HPO 2-、Br-、HSO 、CHSO 、もしくは酒石酸陰イオン、または有機もしくは無機陰イオンの混合物であり、その全体の電荷は式(B)の化合物が中性となるものであり;
・R1’、R2’、R3’、m、p、qおよびは上記に定義される通りであり、ここで、R3’は場合により、上記に定義されるアンモニウム基またはスルホニウム基で置換されたC1-6-アルク(エン/イン)イルオキシ基であってよく、好ましくは、R3’はコリンであり;
・tは0、1、2、3、4、5、6、7または8であり、好ましくは、0または1、より好ましくは、0であり、ただし、t+p≦8であり;
・各R4’は、同一または異なる、好ましくは、上記に定義されるように正に荷電した少なくとも1つの荷電化学部分、例えば、スルホニウム基またはアンモニウム基であり;
・X’は、
○ -(NR5’6’-、ここで、
5’およびR6’はそれぞれ独立に、本明細書に定義される水素、アルキル、アリールおよびシクロアルキルにより、好ましくは、水素、C1-6-アルキル、およびC3-8-シクロアルキルにより表される基から選択されるか;あるいは
5’6’はそれらが結合している窒素と一緒にシクロヘテロアルキル、好ましくは、3~8員シクロヘテロアルキル、より好ましくは、3~6員シクロヘテロアルキルを形成する;
○ -NH-;
○ -NR7’-、ここで、R7’はC1-6-アルキルであり;
○ -N(O)R8’-、ここで、R8’はC1-6-アルキルであり;
○ -NC(O)R9’-、ここで、R9’はアミノ酸(前記アミノ酸は、ヒスチジン、アルギニンもしくはリシンなど、好ましくは正に荷電している)、またはアミノ酸誘導体(前記誘導体は、コリンもしくはカルニチンなど、好ましくは正に荷電している)、またはC1-6-アルキルホスホニウムである;
からなる群から選択され;
・Y’は、
○ -S-;
○ -(SR10’-、ここで、R10’は、本明細書に定義される水素、アルキル、アリールおよびシクロアルキルにより表される基から選択され、好ましくは、C1-6-アルキルである;および
○ -S(O)
からなる群から選択される。
【0119】
当業者は、陰イオンZが分子の正電荷と釣り合いを取るために存在することを容易に理解するであろう。よって、式(B)の化合物は、分子の正電荷を打ち消すために必要な数の陰イオンZを含んでなる。当業者はさらに、p>0およびt>0であれば、R1’およびR4’は、複素環式環の、異なる炭素ではあるが炭素原子のいずれかと結合していることを理解するであろう。
【0120】
好ましい実施形態では、X’、Y’、R4’(t>0の場合)およびR3’(アンモニウム基またはスルホニウム基で置換されている場合)のうち1つだけが正荷電化学部分である。
【0121】
1’、R2’、R3’、m、p、qおよびsに関する好ましい実施形態は、上記に定義される。
【0122】
本発明の好ましい実施形態では、特に好ましくは荷電化学部分を含んでなるように本明細書に記載の化合物が誘導される5-HT1 BR刺激剤は、上記に定義されるビスアリールスルファニルアミンなどの非定型抗鬱薬、およびSRI、特に、SSRIからなる群から選択される。
【0123】
より好ましくは、修飾される5-HT1 BR刺激剤は、非定型抗鬱薬ボルチオキセチンまたはSSRIフルオキセチンである。最も好ましくは、修飾される5-HT1 BR刺激剤は、ボルチオキセチンである。
【0124】
例えば、ボルチオキセチンは、以下のように化学的に修飾することができ、
【化7】
式中、Z、t、R4’、X’およびY’は上記に定義される通りである。より好ましくは、t=0である。
【0125】
好ましくは正に荷電した少なくとも1つの荷電化学部分を含んでなるボルチオキセチンの特に好ましい塩、誘導体および/または類似体は、
【化8】
[式中、HZは好ましくはHNO、HPO、HBr、HSO、CHSOH、または酒石酸(ボルチオキセチンの塩)である];
【化9】
(式中、AAはアミノ酸である)、
好ましくは、
【化10】
(式中、AA+は、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどの正荷電アミノ酸である);
【化11】
からなる群から選択される。
【0126】
好ましくは、好ましくは正に荷電した少なくとも1つの荷電化学部分を含んでなる、ボルチオキセチンの前記の塩、誘導体および/または類似体は、
・上記のようなボルチオキセチンの塩;
・上記のようなヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどの正荷電アミノ酸(好ましくは、少なくとも1つの)にカップリングされたボルチオキセチン;
・ピロリジニウム-ボルチオキセチン;
・ピペラジニウム-ボルチオキセチン;
・ジメチルアンモニウム-ボルチオキセチン;
・スルホニウム-ボルチオキセチン;
・N-オキシド-ボルチオキセチン;
・スルホキシド-ボルチオキセチン;
・ホスホニウム-ボルチオキセチン;および
・テンポール-カルバメート-ボルチオキセチン
からなる群から選択される。
【0127】
より好ましくは、少なくとも1つの正荷電化学部分を含んでなるボルチオキセチンの前記の塩、誘導体および/または類似体は、
・上記のようなボルチオキセチンの塩;
・上記のようなヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどの正荷電アミノ酸(好ましくは、少なくとも1つの)にカップリングされたボルチオキセチン;
・ピロリジニウム-ボルチオキセチン;
・ピペラジニウム-ボルチオキセチン;
・ジメチルアンモニウム-ボルチオキセチン;
・スルホニウム-ボルチオキセチン;
・N-オキシド-ボルチオキセチン;
・スルホキシド-ボルチオキセチン;および
・ホスホニウム-ボルチオキセチン
からなる群から選択される。
【0128】
なおいっそうより好ましくは、少なくとも1つの正荷電化学部分を含んでなるボルチオキセチンの前記の塩、誘導体および/または類似体は、
・上記のようなボルチオキセチンの塩;
・上記のようなヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどの正荷電アミノ酸(好ましくは、少なくとも1つの)にカップリングされたボルチオキセチン;
・ピロリジニウム-ボルチオキセチン;
・ピペラジニウム-ボルチオキセチン;
・ジメチルアンモニウム-ボルチオキセチン;
・スルホニウム-ボルチオキセチン;および
・ホスホニウム-ボルチオキセチン
からなる群から選択される。
【0129】
さらにいっそうより好ましくは、前記正荷電ボルチオキセチンは、ヒスチジン-ボルチオキセチンおよびピロリジニウム-ボルチオキセチンからなる群から選択される。
【0130】
上記化合物は当技術分野の慣例の方法に従って製造することができる。このような方法を以下にさらに詳しく記載する。
【0131】
例えば、ピロリジニウム-ボルチオキセチンまたはピペラジニウム-ボルチオキセチンを合成するために、当業者は次のような手順をとることができる。
【化12】
【0132】
より詳しくは、4-アリールピペラジン上でのピロリジニウム(n=1)の形成については、反応は、KCO、エタノール(EtOH)および10時間の還流(引用することにより本明細書の一部とされるMokrosz et al., 1992)か、またはKCO、アセトンおよび15時間の還流(引用することにより本明細書の一部とされるWO2004/9914A1参照)のいずれかを用いて行うことができる。
【0133】
さらに、例えば、ジメチルアンモニウム-ボルチオキセチンを合成するために、当業者は次のような手順をとることができる。
【化13】
【0134】
より詳しくは、4-アリールピペラジンジメチル化については、Romanelli et al. (2001)(引用することにより本明細書の一部とされる)を参照することができ、この第一工程はエシュバイラー・クラーク(Eschweiler-clarke)反応であり、第二工程はメチル化である。
【0135】
別の具体例として、ボルチオキセチン、コリン-ボルチオキセチンおよびカルニチン-ボルチオキセチンのアミノ酸誘導体を合成するために、当業者は次のような手順をとることができる。
【化14】
【0136】
より詳しくは、カルニチン上でのアミド形成については、反応はピリジン、エチレンジクロリド(EDC)、ジメチルホルムアミド(DMF)、およびエタノール(EtOH)を用いてアシルヒドラジン上で(引用することにより本明細書の一部とされるKuroda et al., 1996)、またはピリジン、エチレンジクロリド(EDC)、メタノール(MeOH)およびアセトニトリル(CHCN)を用いて第一級アミン上で(引用することにより本明細書の一部とされるNakaya et al., 2001)で行うことができる。
【0137】
別の具体例として、ホスホニウム-ボルチオキセチンを合成するために、当業者は次のような手順をとることができる。
【化15】
【0138】
別の具体例として、N-オキシド-ボルチオキセチンを合成するために、当業者は次のような手順をとることができる。
【化16】
【0139】
より詳しくは、4-アリール-ピペラジンのN-酸化については、反応は20~45℃でメタ-クロロペルオキシ安息香酸(m-CPBA)およびCHClを用いて行うことができる(引用することにより本明細書の一部とされるUS2008/153812A1、WO2011/162515A2またはWO 2004/104007A1参照)。
【0140】
別の具体例として、テンポ-カルバメート-ボルチオキセチンを合成するために、当業者は次のような手順をとることができる。
【化17】
【0141】
別の具体例として、ベンジル-コリン-ボルチオキセチンを合成するために、当業者は次のような手順をとることができる。
【化18】
【0142】
より詳しくは、ベンジル位臭素化については、反応はN-ブロモスクシンイミド、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)およびテトラクロロメタン(CCl)(引用することにより本明細書の一部とされるUS2010/4159A1参照)、またはN-ブロモスクシンイミド、メタ-クロロペルオキシ安息香酸(m-CPBA)およびテトラクロロメタン(CCl)(引用することにより本明細書の一部とされるFarmaco, 1989, 44, from p.683参照)のいずれかを用いて行うことができる。
【0143】
上記に定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤は、付加的活性剤を含んでなり得る医薬組成物かまたはそれを必要とする対象に同時、個別もしくは逐次投与され得る組合せ製剤のいずれかで治療目的に使用することができる。
【0144】
よって、本発明のさらなる態様は、自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させるための治療方法において、好ましくはアジュバントとして使用するための、上記に定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤を提供することである。
【0145】
より詳しくは、本発明は、それを必要とする対象において自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させることを意図した薬剤を製造するための、本明細書に記載の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤の使用に関する。
【0146】
言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象における自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させるための治療方法であって、有効量の本明細書に記載の5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤を前記対象に投与する工程を含んでなる方法に関する。
【0147】
なお別の態様では、本発明は、
i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤;ならびに/または
ii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤
としての使用のための医薬組成物に関し、
前記組成物は、少なくとも1種類の上記に定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤と少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤とを含んでなる。
【0148】
より詳しくは、本発明は、i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進するため、かつ/またはii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害するための薬剤の製造のための前記医薬組成物の使用に関する。
【0149】
言い換えれば、本発明は、i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進する、かつ/またはii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する方法であって、有効量の前記組成物を、それを必要とする対象に投与する工程を含んでなる方法に関する。
【0150】
「薬学上許容可能な賦形剤」とは、本明細書では、活性剤の送達、安定性またはバイオアベイラビリティを改善し、かつ、それが投与される対象によって代謝可能で非毒性の製薬等級の化合物を意味する。本発明による好ましい賦形剤は、例えば、微晶質セルロース、ラクトース、デンプン、およびダイズ粉末などの医薬製剤に慣用されるいずれの賦形剤も含む。
【0151】
好ましい実施形態によれば、前記医薬組成物は、自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害を遅延させる、予防する、もしくは治療する(本発明による5-HT1 BR刺激剤とは異なる有効性を持つ可能性があるが)および/または5-HT1 BR刺激剤の作用を増大もしくは増強する(すなわち、5-HT1 BR刺激剤により発揮される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体の活性の刺激を増大もしくは増強する)少なくとも1つの活性剤をさらに含んでなる。前記薬剤は、例えば、自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害を遅延させる、予防する、もしくは治療するために知られている治療薬であり得る。
【0152】
このような活性剤は当業者に周知であり、限定されるものではないが、衛星細胞、間葉幹細胞、造血幹細胞、周皮細胞、中胚葉性血管芽細胞(上述の細胞は天然型または遺伝的に改変されている)、コルチコステロイドおよびNSAID(非ステロイド系抗炎症薬)などの抗炎症薬、ミオスタチンなどの筋栄養剤、免疫治療薬、抗体、CRISPR/Cas9などの遺伝要素、およびそれらの組合せ、好ましくは、衛星細胞、遺伝的に改変された衛星細胞、間葉幹細胞、造血幹細胞、周皮細胞、中胚葉性血管芽細胞およびそれらの組合せが含まれる。また、ピンドロールおよび(S)-(-)-ピンドロールも、これらは抗鬱薬の作用を増強することが知られているので好適な活性剤である。実際に、本発明による5-HT1 BR刺激剤との上述の活性剤の組合せ製剤は、衛星細胞の自己再生および/または分化の促進、ならびに/または衛星細胞プールの枯渇の予防および/もしくは阻害を有意に改善し、それにより筋再生を改善することができる。
【0153】
本発明の目的で、5-HT1 BR刺激剤と上記活性剤の中でも自然なもしくは病的な骨格筋組織の損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防するもしくは治療する、かつ/または5-HT1 BR刺激剤の作用を増大もしくは増強する活性剤の適当な組合せを選択することは当業者の技能の範囲内である。
【0154】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、本発明の目的に好適な形態であり得る。例えば、前記組成物は、非経口、経口または局所投与に好適な形態、例えば、液体懸濁液、固体投与形(顆粒、丸剤、カプセル剤もしくは錠剤)、またはペーストもしくはゲルであり得る。非経口という用語は、本明細書で使用する場合、皮下注射、静脈内、または筋内注射を含む。例えば、本医薬組成物は、筋内投与に好適な形態であり得る。
【0155】
上記組成物は、より詳しくは、自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させるために使用することができる。
【0156】
よって、特定の実施形態では、本発明は、自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させるための治療方法における使用のための上記に定義される医薬組成物を提供する。
【0157】
より詳しくは、本発明は、それを必要とする対象において自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させることを意図した薬剤を製造するための前記医薬組成物の使用に関する。
【0158】
言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象における自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させるための治療方法であって、有効量の前記医薬組成物を前記対象に投与する工程を含んでなる方法に関する。
【0159】
上記に示すように、本発明による5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤を、自然なもしくは病的な骨格筋組織の損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防する、もしくは治療し、かつ、/または当技術分野で従来使用されている5-HT1 BR刺激剤の作用を増大もしくは増強する活性剤と組み合わせることが特に有利である。
【0160】
よって、本発明のさらなる態様は、それを必要とする対象における同時、個別または逐次投与のための組合せ製剤としての、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤と、自然なもしくは病的な骨格筋組織の損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防する、もしくは治療し、かつ、/または5-HT1 BR刺激剤の作用を増大もしくは増強する活性剤を提供することである。
【0161】
自然なもしくは病的な骨格筋組織の損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防する、もしくは治療し、かつ/または5-HT1 BR刺激剤の作用を増大もしくは増強する本発明による好ましい活性剤は上記の通りである。
【0162】
5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤または本発明による医薬組成物の用量および投与スキームは、治療される対象の年齢、体重および症状の重篤度に応じて当業者により適合可能である。
【0163】
よって、別の態様では、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)または本発明による組成物は、1日1回、好ましくは、約6週間(特に、フルオキセチンなどの遅効性5-HT1 BR刺激剤の場合)または約12日間(特に、ボルチオキセチンなどの即効性5-HT1 BR刺激剤の場合)投与することができる。
【0164】
さらに、好ましい実施形態では、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤または本発明による組成物は、約5mg/kg~約30mg/kg、好ましくは約10mg/kg~約25mg/kgの間、より好ましくは約15mg/kg~約20mg/kgの間を含む、好ましくは18mg/kgの用量で投与される。
【0165】
別の態様において、本発明による5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体刺激剤は、薬物スクリーニング目的に使用され得る。特に、衛星細胞の自己再生およびもしくは分化、ならびに/またはインビボ衛星細胞プールの補充に効果的に干渉する治療薬を特定する新規な薬物アッセイが提供され得る。
【0166】
この態様では、本発明はより詳しくは、衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進する、かつ/または衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤または薬剤の組合せを特定するためのインビトロスクリーニング方法であって、
a)単離された衛星細胞を候補薬剤または候補薬剤の組合せと接触させる工程;
b)前記細胞の細胞表現型を評価する工程;
c)工程b)の細胞表現型を前記薬剤もしくは薬剤の組合せの不在下の衛星細胞の表現型、および/または上記のような5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤と接触させた衛星細胞の表現型と比較する工程
を含んでなる方法に関する。
【0167】
好ましくは、工程a)の単離された衛星細胞は、静止中の衛星細胞である。
【0168】
上記の方法は、場合により、工程c)の比較に基づき、候補薬剤もしくは薬剤の組合せが衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進するかどうか、かつ/または衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害するかどうかを決定する工程d)をさらに含んでなってもよい。
【0169】
細胞表現型は、上記のように静止中、自己再生中および/または分化中の衛星細胞の特徴である細胞マーカーの発現を分析することにより評価することができる。
【0170】
本発明は、実施例を含む以下の実験の詳細な説明に照らせばより良く理解される。しかしながら、当業者は、この詳細な説明が限定ではないこと、ならびに様々な改変、置換、省略、および変更が本発明の範囲から逸脱することなく行えることを認識するであろう。
本発明は以下の通りである。
[1]i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤;ならびに/または
ii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤
としての使用のための、5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤。
[2]前記薬剤が自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害により影響を受けた対象において使用される、上記[1]に記載の使用のための薬剤。
[3]前記骨格筋組織の自然の損失および/または損傷および/または障害がサルコペニアである、上記[1]または[2]に記載の使用のための薬剤。
[4]前記薬剤が抗鬱薬および抗片頭痛薬、それらの薬学上許容可能な誘導体、類似体、異性体、代謝産物、塩、溶媒和物、包接体、多形体、および共結晶、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される、上記[1]~[3]のいずれかに記載の使用のための薬剤。
[5]前記抗鬱薬が非定型抗鬱薬、好ましくは、ボルチオキセチンなどのビスアリールスルファニルアミン、ならびにチアネプチン、アゴメラチン、ネファゾドン、トラゾドン、ブスピロン、タンドスピロン、およびケタミン;選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、好ましくは、フルオキセチン、シタロプラム、エスシタプラム、セルトラリン、ノルセルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、フェモキセチン、インダルピン、アラプロクラート、セリクラミン、イフォキセチン、ジメリジン、ダポキセチン、エトペリドン、ならびにデスメチルシタロプラム、ジデスメチルシタロプラム、およびセプロキセチンなどのそれらの代謝産物;セロトニンおよびノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)、好ましくは、デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、ミルナシプラン、レボミルナシプラン、およびシブトラミン;セロトニン-ノルエピネフリン-ドーパミン再取り込み阻害薬(SNDRI)、好ましくは、ビシファジン、ブラソフェンシン、テソフェンシン、およびノミフェンシン;三環系抗鬱薬(TCA)、好ましくは、クロミプラミン、アモキサピン、ノルトリプチリン、マプロチリン、トリミプラミン、イミプラミン、デシプラミンおよびプロトリプチリン;モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAO)、好ましくは、イプロニアジド、フェネルジン、トラニルシプロミン、モクロベミド、セレギリンおよびラサギリン;ならびにノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗鬱薬(NaSSA)、好ましくは、ミルタザピン、ミアンセリン、アプタザピン、エスミルタザピン、セチプチリンおよびS32212(N-[4-メトキシ-3-(4-メチルピペラジン-1-イル)フェニル]-1,2-ジヒドロ-3H-ベンゾ[e]インドール-3-カルボキシアミドとしても知られる)からなる群から選択される、上記[4]に記載の使用のための薬剤。
[6]前記抗片頭痛薬がエルゴタミンまたはトリプタンであり、前記トリプタンは、好ましくはスマトリプタン、リザトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、アルモトリプタン、フロバトリプタン、ナラトリプタン、アビトリプタンおよびドニトリプタンからなる群から選択される、上記[4]に記載の使用のための薬剤。
[7]前記薬剤が少なくとも1つの荷電した化学部分を含んでなるように修飾されている、好ましくは、正に荷電されている、上記[1]~[6]のいずれかに記載の使用のための薬剤。
[8]前記正に荷電した化学部分が第四級アンモニウム基または第三級スルホニウム基である、上記[7]に記載の使用のための薬剤。
[9]・前記第四級アンモニウム基が式(I)
-(NR (I)
[式中、
Zは、有機または無機陰イオンであり;かつ
、R およびR はそれぞれアルキル、アリールおよびシクロアルキルからなる群から独立に選択される]
を有するか;または
・前記第三級スルホニウム基が式(II)
-(SR (II)
[式中、
Zは、有機または無機陰イオンであり;かつ
およびR はそれぞれアルキル、アリールおよびシクロアルキルからなる群から独立に選択される]
を有する、上記[8]に記載の使用のための薬剤。
[10]前記薬剤がボルチオキセチンの塩、ヒスチジン、アルギニンまたはリシン、ピロリジニウム-ボルチオキセチン、ピペラジニウム-ボルチオキセチン、ジメチルアンモニウム-ボルチオキセチン、スルホニウム-ボルチオキセチン、N-オキシド-ボルチオキセチン、スルホキシド-ボルチオキセチン、およびホスホニウム-ボルチオキセチンなどの正荷電アミノ酸にカップリングされたボルチオキセチンからなる群から選択される、正荷電ボルチオキセチンである、上記[7]~[9]のいずれかに記載の使用のための薬剤。
[11]前記薬剤がヒスチジン-ボルチオキセチンまたはピロリジニウム-ボルチオキセチンである、上記[10]に記載の使用のための薬剤。
[12]自然なまたは病的な骨格筋組織の損失および/または損傷および/または障害の進行を遅延させるための治療方法における使用のための、上記[1]~[11]のいずれかに定義される薬剤。
[13]i)衛星細胞の自己再生および/もしくは分化の促進剤;ならびに/または
ii)衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤
として使用するための医薬組成物であって、
上記[1]~[11]のいずれかに定義される少なくとも1つの5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤と少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤とを含んでなる、組成物。
[14]骨格筋組織の自然なもしくは病的な損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防するもしくは治療する、かつ/または前記5-HT1 BR刺激剤の作用を増大させるまたは増強する少なくとも1種類の活性剤をさらに含んでなる、上記[13]に記載の使用のための組成物。
[15]前記薬剤が衛星細胞、造血幹細胞、周皮細胞、血管芽細胞、間葉幹細胞、抗炎症薬、筋栄養剤、免疫治療薬、抗体、遺伝要素、ピンドロール、(S)-(-)-ピンドロール、およびそれらの組合せからなる群から選択される、上記[14]に記載の使用のための組成物。
[16]それを必要とする対象に同時、個別または逐次投与するための組合せ製剤としての、上記[1]~[11]のいずれかに定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤と、骨格筋組織の自然なもしくは病的な損失および/もしくは損傷および/もしくは障害を遅延させる、予防するもしくは治療する、かつ/または前記5-HT1 BR刺激剤の作用を増大させるまたは増強する活性剤。
[17]衛星細胞の自己再生および/または分化を促進するための、上記[1]~[11]のいずれかに定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤のインビトロ使用。
[18]衛星細胞の自己再生および/または分化のインビトロ促進方法であって、衛星細胞を含んでなる単離された生体サンプルに、有効量の上記[1]~[11]のいずれかに定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤を投与する工程を含んでなる、方法。
[19]衛星細胞の自己再生および/もしくは分化を促進する;かつ/または衛星細胞プールの枯渇を予防および/もしくは阻害する薬剤または薬剤の組合せを同定するインビトロスクリーニング方法であって、
a)単離された衛星細胞を候補薬剤または候補薬剤の組合せと接触させる工程;
b)前記細胞の細胞表現型を評価する工程;
c)工程b)の細胞表現型を、前記薬剤または薬剤の組合せの不在下での衛星細胞の表現型、および/または上記[1]~[11]のいずれかに定義される5-ヒドロキシトリプタミン1B受容体(5-HT1 BR)刺激剤と接触させた衛星細胞の表現型と比較する工程
を含んでなる、方法。
【図面の簡単な説明】
【0171】
図1】成体骨格筋の衛星細胞(MSC)および前駆細胞(MPC)で発現される重要な遺伝子マーカー(Shi et al., 2006から抜粋)。
図2】フルオキセチンは、骨格筋の血管数および衛星細胞(SC)数を増大させる。 (a)フルオキセチン送達および犠牲時点の概略図。(b)切片におけるmm当たりの衛星細胞の数。(c~d)プラセボ処置マウス前脛骨筋(c)およびフルオキセチン処置TgPax7nGFPマウス(d)の組織切片。矢印は衛星細胞を指す。(e)種々の時点でのフルオキセチンの腹腔内(IP)または経口投与後のmm当たりの血管の数。(f~g)プラセボ(f)およびフルオキセチン処置(g)Flk1GFP/+マウスの前脛骨筋の組織切片。写真は内因性GFPを示す。(h)プラセボおよびフルオキセチン処置マウスの皮下にグラフトされたマトリゲルプラグ内のCD31+細胞の数。(i~j)プラセボ(i)またはフルオキセチン(j)で処置したC57Bl/6マウスにおける6週間後のマトリゲルプラグの代表的画像。(k~l)プラセボ(k)またはフルオキセチン(l)処置マウスにおいてHE染色により検出されたマトリゲルプラグ内の血管(矢印)の代表的画像。(m)HUVECで覆ったcytodex(登録商標)ビーズの播種4日後の血管長。(n)プラセボ血漿の存在下の播種4日後のcytodex(登録商標)ビーズの代表的画像。(o)フルオキセチン処置マウス血漿の存在下の播種4日後のcytodex(登録商標)ビーズの代表的画像。 図(p)~(v)における免疫染色およびFACSセルソーティングの使用:(p)FACSにより計数された消化TA当たりのPax7GFP発現細胞の数(絶対数として表される)。(q)TgPax7nGFPマウスの消化TAの代表的FACSプロフィール。(r)処置の開始から終了まで飲水でフルオキセチンまたはプラセボとともにBrdUを需要したBrdU+ SC.Tg:Pax7nGFPマウス(各時点n=3)の累積数。TA筋を消化し、細胞をFACSにより単離し、スライドグラス上で回転させ、BrdUに対して免疫染色した。(s)Tg:Pax7nGFPマウス(各時点n=3)におけるBrdU+細胞のパーセンテージ。Tg:Pax7nGFPマウスにフルオキセチン経口処置を施し、BrdUを2回注射した(死亡前12時間および4時間)。TA筋を消化し、細胞をFACSにより単離し、スライドグラス上で回転させ、BrdUに対して免疫染色した。(t)プラセボおよびフルオキセチン処置動物において、CD31免疫標識を用い、組織切片上で計数したmm当たりの血管の数。(u~v)プラセボ(u)およびフルオキセチン(v)処置マウスにおけるラミニンおよびCD31+免疫染色の代表的組織切片。図(a)~(o)について:n=6のインビボ試験細胞以外、各条件につきn=8マウスを使用。データは平均±s.d.で表す。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。スケールバーは100μmを表す。 図(p)~(v)について:各時点n=3のBrdU試験以外、各条件につきn=7マウスを使用。データは平均±s.d.で表し。**P<0.01。スケールバーは100μmを表す。
図3】フルオキセチンは衛星細胞の数を増すことにより筋再生を改善する。 (a)フルオキセチン送達、筋損傷、BrdU注射および犠牲時点の概略図。(b)損傷4日後のmm当たりのPax7GFP+細胞の数。(c~d)プラセボ(c)およびフルオキセチン(d)処置後の切片に対するPax7GFP+細胞の免疫染色。(e)損傷4日後の分化中の(ミオゲニン+)細胞の数。(f~g)プラセボ(f)およびフルオキセチン(g)処置動物におけるミオゲニンおよびGFP細胞の代表的写真。(h~i)プラセボ(h)およびフルオキセチン(i)処置動物における損傷14日後の凍結切片TAのヘマトキシリンおよびエオジン染色。(j)損傷14日後のプラセボおよびフルオキセチンにおける線維サイズμm。(k)プラセボおよびフルオキセチン処置マウスにおける損傷14日後の線維化面積のパーセンテージ。(l)一連の損傷後の凍結切片TAのヘマトキシリンおよびエオジン染色。 n=9のGFP+細胞の計数以外、各条件につきn=7マウスを使用。データは平均±s.d.で表す。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。スケールバーは100μmを表す。
図4】フルオキセチン処置後の方が筋再生が速く、自己再生中の衛星細胞の数が多い。 (a)損傷4日および14日後のプラセボおよびフルオキセチン処置マウスにおける免疫Gr1(顆粒球)およびF4/80(マクロファージ)の数。(b~c)プラセボ(b)およびフルオキセチン(c)処置動物における損傷14日後のシリウスレッド染色の組織切片(線維化)。(d)プラセボ対フルオキセチン処置動物における損傷14日後のカルシウム沈着。(e)損傷14日後のプラセボ対フルオキセチン処置動物における線維の数。(f)プラセボ対フルオキセチン処置動物における損傷28日後のFlk1GFP/+マウスの血管の数。(g)プラセボ対フルオキセチン処置動物における損傷28日後のTgPax7nGFPマウスのSCの数。(h)プラセボ対フルオキセチン処置動物における数回の損傷後のSCの数。(i)インビトロライブビデオ顕微鏡により評価された最初の分裂。細胞をプラセボ処置C57Bl/6動物またはフルオキセチン処置C57Bl/6動物のいずれかに由来する血漿とともに播種した。(j)インビトロライブビデオ顕微鏡により評価された分裂速度。細胞をプラセボ処置C57Bl/6動物またはフルオキセチン処置C57Bl/6動物のいずれかに由来する血漿とともに播種した。(k)播種4日後の分化中の(ミオゲニン+)細胞のパーセンテージ。細胞をプラセボ処置C57Bl/6動物またはフルオキセチン処置C57Bl/6動物のいずれかに由来する血漿とともに播種した。 各条件につきn=7マウスを使用。データは平均±s.d.で表す。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。スケールバーは100μmを表す。
図5】内皮細胞および衛星細胞に対するフルオキセチンの効果は5-HT1 B受容体を介して達成される。 (a)フルオキセチンおよび阻害剤送達のスキーム。(b)内皮細胞および衛星細胞におけるプラセボに対する増加倍率として示した種々のセロトニン受容体のRT-qPCRによる定量。(c)損傷4日後のプラセボ、フルオキセチンおよびフルオキセチン+GR127935 5-HT1 Bアンタゴニストにおけるmm当たりの分化中の細胞(ミオゲニン+)の数。(d)プラセボ、フルオキセチンおよびフルオキセチン+GR127935 5-HT1 Bアンタゴニストにおける損傷14日後の線維サイズμm。(e)損傷14日後の線維化面積のパーセンテージ。(f)フルオキセチン、フルオキセチンおよび阻害剤GR127935、阻害剤GR127935単独におけるTg:Pax7nGFPマウスのTA当たりのSCの数。(g~h)フルオキセチン(g)およびフルオキセチンとGR127935 5-HT1 B阻害剤(h)における切片上のGFP+細胞の数の代表的写真。この写真は内因性GFPを示す。(i)フルオキセチン処置およびGR127935 5-HT1 Bアンタゴニスト後のFlk1GFP/+マウスにおける血管の数。(j~k)mm当たりのフルオキセチン(j)、フルオキセチンおよび阻害剤(k)における血管の数(Flk1GFP/+マウスからの内因性GFPを用いて計数)の代表的組織切片。各条件につきn=7マウスを使用(対照はn=5)。データは平均±s.d.として表す。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。スケールバーは100μmを表す。
図6】5-HT1 BRはフルオキセチン効果に関与するが5-HT2 BRは関与しない。 (a)プラセボ、フルオキセチン、フルオキセチンおよびGR127935 5-HT1 BRアンタゴニストおよびMDL100907 5-HT2 BRアンタゴニストにおける損傷4日後のSCの数。(b)プラセボ、フルオキセチン、フルオキセチンとGR127935 5-HT1 BRアンタゴニストにおける損傷14日後のカルシウム沈着。(c)プラセボ、フルオキセチン、フルオキセチンとGR127935 5-HT1 BアンタゴニストおよびMDL100907 5-HT2 BRアンタゴニストにおける損傷4日後の免疫Gr1(顆粒球)およびF4/80(マクロファージ)の数。(d)プラセボ、フルオキセチン、フルオキセチンとGR127935 5-HT1 BRアンタゴニストおよびMDL100907 5-HT2 BRアンタゴニストにおける損傷14日後の免疫Gr1(顆粒球)およびF4/80(マクロファージ)の数。(e)フルオキセチンおよびフルオキセチンと5-HT2 BRアンタゴニストを用いた場合の損傷4日後の分化中の細胞(ミオゲニン+)の数。(f)MDL100907アンタゴニストによる5-HT2 BR阻害後のTgPax7nGFPからのSCの数。(g)MDL100907アンタゴニストによる5-HT2 BR阻害後のFlk1GFP/+からの血管の数。各条件につきn=6マウスを使用(対照はn=5)。データは平均±s.d.として表す。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。スケールバーは100μmを表す。
図7】フルオキセチン処置マウスからのインビトロ血漿は、マウスおよびヒト両方の衛星細胞で、初期段階で分化を加速化し、後期段階で自己再生を増大させる。 (a)インビトロフルオキセチンおよび阻害剤送達のスキーム。(b)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤におけるFACS選別SC総数の中のPax7+細胞の経時的パーセンテージ。(c)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤におけるFACS選別SCの播種14日後の自己再生した(リザーブ細胞とも呼ばれる)SC(Pax7+/EdU-)の数。(d)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤におけるFACS選別SC総数の中のMyoD+細胞の経時的パーセンテージ。(e)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤におけるFACS選別SC総数の中のミオゲニン+細胞の経時的パーセンテージ。(f)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤におけるライブビデオ顕微鏡により評価された最初の細胞分裂。(g)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤におけるライブビデオ顕微鏡により評価された分裂速度。(h)CP94253 5HT1B特異的アゴニストとインビトロで共培養された、免疫蛍光により確認されたPax7+細胞のパーセンテージ。(i)CP94253 5HT1BR特異的アゴニストとインビトロで共培養された、免疫蛍光により確認されたミオゲニン+細胞のパーセンテージ。(j)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤における播種4日後の、予備播種技術から得られた初代ヒトSCに由来する分化(ミオゲニン+)細胞。(k)インビトロでのプラセボ血漿、フルオキセチン血漿、フルオキセチン血漿とGR127935阻害剤、フルオキセチン血漿とMDL100907阻害剤における播種4日後の、予備播種技術から得られた初代ヒトSCに由来する自己再生(Pax7+/EdU-)細胞。 各条件につきn=4のヒト筋芽細胞以外、各条件につきn=6マウスを使用。データは平均±s.d.で表す。P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。スケールバーは100μmを表す。
図8】フルオキセチンはジストロフィーマウスの表現型を改善する。 (a)プラセボおよびフルオキセチン処置動物における壊死面積(mm)の定量。(b)プラセボおよびフルオキセチン処置Mdxマウスの線維サイズ(面積)。(c~d)プラセボ(c)またはフルオキセチン(d)のいずれかで処置したMdxマウスの凍結切片TAのヘマトキシリンおよびエオジン染色。(e)CD31での免疫染色により計数し、mm当たりの細胞数で表す、プラセボまたはフルオキセチンのいずれかで処置したMdxマウスにおける血管の数。(f)プラセボまたはフルオキセチンのいずれかで処置したMdxマウスにおける周期中の細胞(Pax7+およびBrdU+細胞)の数。(g)プラセボおよびフルオキセチンの両方で処置したマウスの血漿のタンパク質発現レベルをピコグラム/グラムで表すインターロイキン6(IL6)に対するLuminex(登録商標)の実験。(h)プラセボおよびフルオキセチンの両方で処置したマウスの血漿のタンパク質発現レベルをピコグラム/グラムで表すインターロイキン10(IL10)に対するLuminex(登録商標)の実験。(i)プラセボ処置およびフルオキセチン処置Mdxマウスの凍結切片TAにおけるGr1+細胞の数。数は断面当たりの絶対数で示す。
図9】5HT1B-Rへの拮抗作用は、ジストロフィー表現型に対するフルオキセチンの有益な効果を排除する。 (a)プラセボ、フルオキセチンおよびフルオキセチンとGR127935 5HT1BR阻害剤処置動物における壊死面積(mm)の定量。(b)プラセボ、フルオキセチンおよびフルオキセチンとGR127935 5HT1BR阻害剤処置Mdxマウスの線維サイズ(面積)。(c~e)プラセボ(c)またはフルオキセチン(d)またはフルオキセチンとGR127935阻害剤(e)のいずれかで処置したMdxマウスの凍結切片TAのヘマトキシリンおよびエオジン染色。(f)CD31での免疫染色により計数し、mm当たりの細胞数で表す、プラセボ、フルオキセチンまたはフルオキセチンとGR127935 5HT1BR阻害剤で処置したMdxマウスにおける血管の数。(g)プラセボ、フルオキセチンまたはフルオキセチンとGR127935 5HT1BR阻害剤のいずれかで処置したMdxにおける周期中の細胞(Pax7+およびEdU+細胞)の数。(h)プラセボ処置およびフルオキセチン処置Mdxマウスの凍結切片TAにおけるGr1+細胞の数。数は断面当たりの絶対数で示す。各条件につきn=9マウス。データは平均±s.d.で表す。P<0.05;***P<0.001;ns:有意でない。スケールバーは100μmを表す。(i)握力試験。フルオキセチンおよびプラセボ処置マウスにおいて動物の総合力を測定した(四肢)。(j)フルオキセチンまたはプラセボ処置mdxマウスのedl筋線維の最大張力(6V)。(k)プラセボおよびフルオキセチン処置mdxマウスにおける種々の電圧での単離されたedlの張力。
図10】ボルチオキセチンはインビボにおいて血管の数および衛星細胞の数を増加させる。(a)ボルチオキセチン送達および犠牲の時機の概略図。(b)I.P処置後のmm当たりのCD31免疫染色後切片で計数した血管の数。(c)P.O処置後のmm当たりのCD31免疫染色後切片で計数した血管の数。(d)プラセボ、12日および3週間ボルチオキセチンI.P処置Tg:Pax7nGFPマウスにおけるFACSにより計数した衛星細胞の数。(e)プラセボ、12日および3週間ボルチオキセチンP.O処置Tg:Pax7nGFPマウスにおけるFACSにより計数した衛星細胞の数。
図11】ボルチオキセチンはインビボおよびインビトロにおいて5-HT1 B受容体を介して血管の数および衛星細胞の数を増加させる。(a)12日間20mg/KgでのTgPax7nGFPマウスのボルチオキセチンI.P処置後のCD31免疫染色により切片上で計数したmm当たりの血管の数。(b)12日間20mg/KgでのTgPax7nGFPのボルチオキセチンI.P処置後のFACSにより計数した前脛骨筋当たりの衛星細胞の数。(c~e)細胞をTg:Pax7nGFPマウスからFACSにより選別し、2000細胞/cmで播種した。翌日、ボルチオキセチンを10μMで加えた。示された時点で細胞を固定し、Pax7(c)、Myod(d)、MyoG(e)に関して染色した。
図12】ボルチオキセチン誘導体であるヒスチジン-ボルチオキセチンおよびピロリジニウム-ボルチオキセチンは血管および衛星細胞の数を増加させる:(a~b)細胞をTg:Pax7nGFPマウスからFACSにより選別し、2000細胞/cmで播種した。翌日、ヒスチジン-ボルチオキセチンまたはピロリジニウム-ボルチオキセチンを10μMで加えた。(a)PBSまたはボルチオキセチンまたはヒスチジン-ボルチオキセチンまたはピロリジニウム-ボルチオキセチンを用いた場合のインビトロにおける種々の時点でのPax7+細胞のパーセンテージ。(b)PBSまたはボルチオキセチンまたはヒスチジン-ボルチオキセチンまたはピロリジニウム-ボルチオキセチンを用いた場合のインビトロにおける種々の時点でのMyoG+細胞のパーセンテージ。(c~d)PBS(n=4)またはヒスチジン-ボルチオキセチン(n=5)またはピロリジニウム-ボルチオキセチン(n=5)を12日間20mg/kgでTg:Pax7nGFPマウスにIP注射した。筋(TA)を消化し、サイトメトリーにより計数した。(c)はヒスチジン-ボルチオキセチン対PBS注射を示す。(d)はピロリジニウム-ボルチオキセチン対PBSを示す。データは平均±s.d.として表す。**P<0.01。
【実施例
【0172】
フルオキセチン、ボルチオキセチンおよびそれらの誘導体は筋幹細胞を増加させ、筋の再生能を改善する
1.材料および方法
1.1.マウスの注射および損傷
本試験の総ての手順はパスツール研究所の動物実験委員会(Animal Care and Use committee)(CETEA 2014-004)により承認されたものである。明示されなければ、本試験には齢の雄マウスを使用し、温度および湿度を制御した病原体除去施設にて12:12明/暗周期で飼育した。食物および飲水は自由に与えた。
【0173】
動物を損傷前にケタミン(Imalgene 1000 100mg/Kg Merial)およびキシラジン(Rompun2% 20mg/Kg Bayer)で麻酔した。動物に水分補給させ、損傷後4日間、1日2回鎮痛剤(ブプレノルフィン アキシエンス0.3mg/kg)で処置した。損傷については、マウスを従前に記載したように麻酔し、10μlの12.5μg/mlノテキシン(Lotaxan)を前脛骨筋に注射した。総てのプロトコールは、動物福祉法および公衆衛生局推奨に基づく仏国および欧州規則を遵守するための監督当局であるパスツール研究所により審査された。本プロジェクトはパスツール研究所倫理員会(C2EA 89-CETEA)により審査および承認されたものである(#2013-0044)。
【0174】
処置マウスのうち、緑色蛍光タンパク質(GFP)がVEGF-受容体-2遺伝子座にターゲッティングされ、総ての内皮細胞に明るいGFPシグナルを呈するFlk1GFP/+マウスは、Alexander Medvinsky(Institute for Stem Cell Research、エジンバラ大学、エジンバラ、UK)により、厚意により提供された。
【0175】
1.2.組織学的分析
前脛骨筋(TA)を注意深く解剖し、液体窒素で冷却したイソペンタン中、数分で急速冷凍し、凍結切片化(10μm切片)まで-80℃で保存した。切片を染色前に室温で一晩維持した。その後、切片をPBS中で10分間再水和させ、10%ホルマリン中で3分間固定した。次に、これらの切片を自動染色機を用いてまたは手動でシリウスレッドを用い、常法でヘマトキシリンおよびエオジン(HE)染色を行った。
【0176】
これらのスライドグラスを二重盲検により、可能であれば自動で評価した(線維直径、細胞総数、梗塞面積)。
【0177】
1.3.免疫染色
免疫染色は、冷PBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA EMS#15710)で固定し、0.5%トリトンX-100を用いて室温で20分透過処理を施し、洗浄し、10%BSAで30分間ブロッキングした凍結切片に対して行った。切片を4℃で一晩、一次抗体とともに(以下の表1参照)、また、45分間、アレクサ結合二次抗体1/250およびヘキストとともにインキュベートした。その後、切片を、自動axioscan(Zeiss)または倒立Observer.Z1 Apotome(Zeiss)を用いて分析した。アポトーシス評価については、細胞を2%血清中に回収し、ポリD-リシン(Sigma-Aldrich#P6407)上で回転させ、すぐにPFA4%で固定した。
【0178】
【表1】
【0179】
1.4.セルソーティング、計数および培養
筋の切開は冷DMEM中で従前に記載されているように行った。次に、筋を小さな鋏で刻み、37℃で穏やかに浸透しながら、コラゲナーゼ0.1%およびトリプシン0.25%が入った50mlファルコンチューブに入れた。20分後、上清を氷上に置いた20%血清中に回収し、コラゲナーゼ/トリプシン溶液を加えて消化を続けた。筋が完全に消化したところで、40μmセルストレーナーを用いて溶液を濾過した。衛星細胞は、20%血清FBS(Biowest S1860)を含有する1:1 DMEM-Glutamax(Gibco#41965-039):MCDB201(Sigma#M6770)中で培養した。培地を、0.22μmフィルターを用いて濾過した。細胞をマトリゲルコーティング(BD Biosciences#354234)上に播種し、インキュベーター(37℃、5%CO)内で維持した。一部のインビトロ試験では、6週間後にフルオキセチンまたはボルチオキセチン処置動物から心臓穿刺により血漿を抽出し、その後、1500gで15分間遠心分離を行った。このようにして得られた上清を培養培地中、FBSの代わりとし、残りの培地は不変とした。
【0180】
衛星細胞の計数については、前脛骨筋のみを切り出し、上記の通りに消化し、そのチューブ全体を分析して筋当たりの衛星細胞の数を評価した。FACS分析はFACSasia(Beckman)を用いて行った。総ての分析および定量は、DakoCytomationからのSummit v4.3ソフトウエアおよびFloJoソフトウエアを用いて行った。死細胞を排除するために細胞をヨウ化プロピジウム10μg/ml(Sigma-Aldrich#P4170)で標識し、FACSプロフィールに対してPE(フィコエリトリン、レッド)チャネルを用いて表示した。
【0181】
1.5.ライブビデオ顕微鏡
FACSにより単離された細胞をマトリゲル(BD Biosciences#354234)でコーティングした24ウェルガラス底プレート(P24G-0-10-F;MatTek)に一晩播種し、インキュベーター内の予め平衡化した培地(1:1 DMEM Glutamax:MCDB[Sigma-Aldrich]、20%FCS(Biowest S1860)中に置いた。次に、このプレートを37℃、5%CO(Zeiss、Pecon)でインキュベートした。LCI PlnN 10×/0.8W phaseII対物レンズを接続したZeiss Observer.Z1およびAxioVisionで操作されるAxioCamカメラを使用した。最大5日間細胞を映像化し、明視野および位相フィルターおよびMozaiX 3X3(Zeiss)で30分ごとに画像を得た。生データを変換し、動画として提供した。
【0182】
1.6.画像解析
画像解析(線維化定量)については、各試験につき最低3切片、各切片につき無作為に撮影した10枚の異なる写真に対してImageJ 1.46rソフトウエアを使用した。これらの写真を二値画像に変換した後、ピクセル値を収集した。線維サイズについては、切片を1/200希釈したウサギ抗ラミニン(Sigma-Aldrich #L9393)で4℃にて一晩、免疫染色した。二次ロバ抗ウサギ488(DL488 JacksonImmuno #711486152)を室温で45分、1/200で使用した。線維境界の画定はPixcavator(登録商標)ソフトウエアを使用することにより自動的に行った。
【0183】
1.7.Luminex(登録商標)(マルチプルイムノアッセイ)
急速冷凍血漿サンプル(各条件につきn=6)を解凍し、上清をLuminex(登録商標)マルチプルサイトカインおよびケモカイン分析(Bio-Plex(登録商標)ProTMマウスサイトカインスタンダード23プレックス、グループIおよびスタンダード9プレックス、グループII)向けに処理した。冷凍筋のサンプル重により正規化を行った。
【0184】
1.8.RT-qPCR
全RNAは、RNAeasy Microキット(Qiagen)を用いて細胞から単離した。全RNAを、スーパースクリプト(登録商標)III逆転写酵素(インビトロgen)を用いて逆転写した。リアルタイム定量的PCRはPower Sybr Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて行い、色素の組み込み速度を、StepOne(商標)Plus RealTime PCRシステム(Applied Biosystems)を用いてモニタリングした。各条件について少なくとも3回の生物学的反復を用いた。データはStepOne Plus RT PCRソフトウエアv2.1およびマイクロソフト・エクセルにより分析した。GAPDH転写産物レベルを各標的の正規化に使用した(=ΔCT)。リアルタイムPCR C値を、2-(ΔΔCt)法を用いて分析し、発現倍率を計算した(ΔΔCT法、Livak et al., 2001)。
【0185】
1.9.力の測定
握力試験は、インビボでマウスの筋力を評価するために設計された非侵襲的方法である。力変換器に取り付けたグリップメーター(Bio-GT3、BIOSEB)は、生じた最大力を測定する。プラセボおよびフルオキセチン(6週間処置)mdxマウスを、4本の足をグリッドに接地して置き、マウスがそれらのグリップを離すまで徐々に後方へ引っ張った。5回の試験の後に統計分析を行い、各マウスについて3つの中央値データを用いて平均値を計算した。結果は、体重(g)に対して正規化した3つの最大力(g)の結果として表す。
【0186】
1.10.剥離線維試験
TA筋をプラセボおよびフルオキセチン処置マウス(6週間の処置)から切り出した。線維2~5本の小束を、従前に記載した通りに筋から手で単離した。トリトンX-100を用いて化学的剥離を行った。剥離した線維をDisplacement Measuring System KD 2300(モデル0.5SU、Kaman Instrumentation、コロラドスプリングス、CO、USA)に取り付けた。力の測定を行うため、剥離した線維調製物を1%トリトンX-100(v/v)を含有する弛緩液(pCa9.0、低カルシウム含量)中で1時間インキュベートして筋線維膜および筋小胞体膜を可溶化し、次に、洗剤を含まない弛緩液中で数回洗浄した。線維をたるみのある長さに調節し、その後、張力が最大となるまで段階的に伸ばした。等尺性張力を、チュートレコーダー(モデル1200、Linear、リノ、ネバダ州、USA)を用いて継続的に記録した。得られた張力を線維横断面積に対して正規化した。
【0187】
1.11.統計分析
統計分析は、GraphPad Prismソフトウエアを用い、適当な検定(明示されていなければ、ノンパラメトリック・マン・ホイットニー)および有意性に関して最低95%の信頼区間を用いて行った;図に示すp値は、<0.05(*)、 <0.01(**)、および<0.001(***)である。図は、全供試動物の平均値±SDまたはRT-qPCRに関しては±SEM、または示されたように示す。
【0188】
2.結果
2.1.フルオキセチン
2.1.1.フルオキセチンは、骨格筋の血管数および衛星細胞数を増加させる
フルオキセチンの血管数に対する効果を検討するために、Flk1GFP/+またはTgPax7nGFPマウスに18mg/kgのフルオキセチンの腹腔内(I.P)または経口(P.O)投与を3または6週間行ったところ(図2a)、それぞれ内皮細胞および衛星細胞(SC)の直接的可視化を可能とした。本試験では、前脛骨筋(TA)に焦点を合わせた。骨格筋では、SCが筋修復の中枢である。組織学的計数により、SCの数はフルオキセチンで処置した際により多かったことが認められた(プラセボでの9.7±3.1SC/mmに対して処置では16.3±5.4SC、p=0.04)(図2b~dおよびp~q)。これらの結果は、TAを消化し、Tg:Pax7nGFPマウスを用いたサイトメトリーによってSCの数を直接計数することにより(Sambasivan et al., 2009)確認した(p=0.02)(図2p,q)。SCは毛細血管に近接して位置し、血管新生は、血管細胞とSCの間の細胞相互作用を伴う筋修復SCの生存に重要であることが知られている。よって、血管の数を定量した。対照Flk1GFP/+マウス(プラセボ)では、血管の数は870±213.1血管/mmであり、3週間のI.P処置後に増加し(1103±110.2血管/mm)、6週間にいっそうさらに増加した(1384±175.3血管/mm、p=0.008)(図2e)。新血管は、基底膜と透過性内腔(赤血球を含む場合がある)を連結する正常な組織学的外観を呈した。いくつかのモデルでは炎症と新血管新生には相関関係があるので(Sadat et al., 2014)、毎日のフルオキセチンのI.P投与は、血管新生に干渉し得る望ましくない腹膜炎症を引き起こす可能性があった。従って、フルオキセチンは6週間、P.O投与したところ、血管数に同様の増加が見られた(1256±62.2血管/mmp=0.008、図2e~g)。これらの結果は、フルオキセチンをC57Bl/6マウスに6週間P.O投与し、凍結切片TAに対してCD31+細胞の免疫標識を行うことによる別のモデルでも確認された。フルオキセチン処置マウスにおける2260±361 CD31+細胞/mmに対してプラセボ処置マウスでは841±137 CD31+細胞/mmが計数されp=0.008(図2t~v)、従前の所見が確認された。フルオキセチンの6週間インビボ送達の後、IL-1a、IL-1b、IL-2、およびエオタキシンのレベルはダウンレギュレートされたが、IL-4およびIL-13はアップレギュレートされた(p=0.02)。他の供試サイトカインは有意な変化を示さなかった(表2)。
【0189】
【表2】
【0190】
上記の結果をさらに確認するために、ex vivoマトリゲル血管新生アッセイを用いた。これを行うために、冷マトリゲルを皮下に導入し、これは固化し、宿主細胞による浸透および6週間P.O処置したC57Bl/6において新血管の形成を可能とする。CD31発現細胞の数は、プラセボ(25.20±13.8 CD31+細胞/mm、p=0.002)に比べてフルオキセチン処置プラグで多く(72.9±22.6 CD31+細胞/mm)(図2h~l)、従前の所見が確認された。
【0191】
これらのデータをさらに、インビトロ HUVECアッセイ(ヒト内皮細胞)により確認した。C57Bl/6マウスを6週間P.O処置し、血液から血漿を抽出した。次に、HUVEC細胞をcytodexビーズに播種し、いずれかの血漿中で培養した。播種4日後に、処置動物に由来する血漿とともにインキュベートしたHUVECの増殖の方が速かった(p≦0.0001)(図2m~o)。
【0192】
細胞分裂は、フルオキセチンによる全経口処置中、BrdU投与後に定量し、それらの結果は、SC集団の90%が分裂中であったことを示した(図2r)。死亡16時間前のBrdUの短期間のパルスは、SCの大部分が3週目と5週目の間に分裂中であったことを示した(図2s)。
【0193】
2.1.2.フルオキセチンは筋再生脳を向上させる
フルオキセチンが筋に対して機能的な影響を持っていたかどうかを検討するために、フルオキセチン処置後にノテキシン損傷を行い(図3a)、Tg:Pax7nGFPマウスに対する筋の再生能を検討した(Sambasivan et al., 2009)。損傷4日後と14日後の筋の比較は、両場合ともより良好な再生を示した(図3b~j)。実際に、プラセボとフルオキセチン処置マウスの間には筋再生の特徴に大きな差が見られた。損傷4日後では、処置動物は、より多数のSCを示し(処置での459±283に対してプラセボでは177.2±49、p=0.04)(図3b~d)、より多くの細胞がすでに分化中であった(p=0.0006)(図3e~g)。損傷14日後のプラセボ群では、再生中の有中心核線維は、変動のあるサイズ(大小不同、81±28.4μm)、単核炎症性細胞による多重筋内膜浸潤(切片当たり9.14±3.9 Gr1+細胞および12.6±3.9 F4/80+細胞)、カルシウム沈着の複数の大きな好塩基性巣の存在(19±4/mm)、および筋内膜の軽度の線維化(総筋面積の6.4±2%)を示した(図3h~k)。対照的に、フルオキセチン処置マウスでは、再生中の線維はより大きく、変動の少ないサイズ(129±12.6μm、p=0.005)、少ない炎症性細胞(4.1±2.6 Gr1+細胞;p=0.018および4.7±2.7 F4/80細胞;p=0.0017)、少ないカルシウム沈着(3.2±3/mm p=0.0006)、および少ない筋内膜線維化(総筋面積の2.2±0.7 p=0.007)を示した(図3h~k、および図4a~d)。しかしながら、線維の数は同じままであった(p=0.4、図4e)。損傷28日後、筋は完全に再生し、フルオキセチン処置動物で血管数(p=0.036)およびSC数が多かった(p=0.076)こと以外に、これらの2群の間に差は見られなかった。(図4f,g)。これらのデータを、Tg:Pax7nGFPマウス由来のSCを、C57Bl/6処置マウスまたはプラセボに由来する20%血漿中に播種することにより、インビトロで確認した。ライブビデオ顕微鏡により、最初の衛星細胞分裂は速く(フルオキセチン処置血漿では播種26.45時間±1.18後に対して、対照血漿では29.08時間±0.37後 p=0.02)、より高い分裂速度(プラセボでの12.5±2.1時間に対して、フルオキセチンでは8.7±0.7時間;p=0.047)で起こったことが認められた(図4i,j)。また、播種4日後にはより多いミオゲニン陽性細胞数(プラセボでは総播種細胞の12±5.5%に対して、フルオキセチン処置では34.75±6.3%;p=0.02)(図4k)ならびにより速い筋線維形成も見られ、インビボで筋線維のより速い分化および修復が見られることが確認された。興味深いことに、この再生の向上とともに、従前と同様に、損傷後の筋の炎症の軽減も見られた(表3)。例えば、炎症誘発性サイトカインIL-6は、損傷の4258±665pg/μlから、フルオキセチン処置を伴う損傷の2459±920pg/μlに低下した(p=0.02)。
【0194】
表現型を悪化させても衛星細胞(SC)プールが枯渇しないことを確認することを目的に、筋をさらに刺激するため、フルオキセチン処置に複数回の損傷を施した。3回の損傷の後であってもTA当たりのSCの数は維持されていた(図4h)。組織レベルでは、筋は損傷の場合も再損傷の場合も十分に再生し(図3l)、SCはフルオキセチン処置後もなお機能的な幹細胞であったことを示す。
【0195】
【表3】
【0196】
2.1.3.血管および衛星細胞に対するフルオキセチンの効果は5-HT1 Bセロトニン受容体の刺激を介して得られる
どのように血管が活性化されたかを理解するために、6週間P.Oフルオキセチン処置後に、消化した筋からの内皮細胞(CD34+、CD31+、Sca-1+、CD45-)をFACSによる細胞選別にかけた(図5a)。次に、どれによって内皮細胞が活性化され得るかさらに特性決定するためにセロトニン受容体サブタイプに対してRT-qPCRを行った(図5b)。プラセボマウス(p=0.0035)に対して処置マウスでは5-HT1 BRサブタイプに90±35倍の増加が、また、フルオキセチン処置動物では5-HT2 BRサブタイプに30±13(p=0.015)倍の増加が見られた(図5b)。他の供試サブタイプ(5-HT1 AR、5-HT1 DR、5-HT1 FR、5-HT2 AR、5-HT2 CR)は、統計的に有意な増加を示さなかった(図5b)。これらのデータは、6週間P.Oフルオキセチン処置後の消化された筋から内皮マーカーを用いて確認した(データは示されていない)。同じ所見が、Tg:Pax7nGFPマウスからFACSにより細胞選別されたSCでも得られた(図5b)。
【0197】
5-HT1 BRの役割を検討するために、GR127935塩酸塩阻害剤(5-HT1 BRアンタゴニスト)を6週間のフルオキセチンP.O処置とともに浸透圧ポンプに送達し、Flk1GFP/+マウスの血管計数およびTg:Pax7nGFPマウスのSC計数を行った。血管の数は、フルオキセチンおよびPBS処置Flk1GFP/+マウス(1949±576血管/mm、p=0.0159)に比べてフルオキセチンおよび阻害剤処置Flk1GFP/+マウスで少なかった(1028±173血管/mm)(図5i~k)。SCの数も、フルオキセチンおよびPBS処置Tg:Pax7nGFPマウス(TA当たり7283±2325SC p=0.04)に比べてフルオキセチンおよび阻害剤処置Tg:Pax7nGFPマウスで少なかった(TA当たり4674±1414 SC)(図5f~h)。フルオキセチン処置後に5-HT2 B受容体の30倍の増加が検出されたが、それをMDL100907(5-HT2 BRアンタゴニスト)で打ち消すとフルオキセチン効果の阻害は見られなかった(図6f,g)。
【0198】
損傷後、GR127935による5-HT1 BRの阻害は、損傷14日後のSC(図6a)および分化中の細胞(図5c)の数の減少、線維サイズの縮小(図5d)およびカルシウム沈着の増加(図6b)、線維化パーセンテージの増大(図5e)および免疫Gr1およびF4/80細胞の浸潤の増大(図6c,d)を伴って、フルオキセチン処置の有益な効果を誘導体歩クセイした。損傷後、MDL100907による5-HT2 BRの阻害は、フルオキセチンの有益な効果を抑制しなかった(図6e)。
【0199】
それらの結果をインビトロで確認した(図7a)。Pax7陽性細胞の数は、フルオキセチン処置動物由来の血漿中での播種4日後により急速に低下し(フルオキセチン処置の24%±6に対してプラセボでは39.25%±8 p=0.02)(図7b)、GR127935とともにインキュベートした場合のプラセボのものに近かった(35.25%±6.2 p=0.32)(図7b)。播種14日後、フルオキセチン処置動物由来の血漿(9.4%±0.7)では、プラセボ処置動物(4.4%±0.7、p=0.01)よりも多数のリザーブ細胞(インビトロにおける静止中のPax7陽性細胞)が検出され、GR127935をインビトロで加えた場合には、リザーブ細胞の数は減少した(4.5%±0.5、p=0.9)(図7b,c)。MyoD(活性化マーカー)発現は、3つの試験条件で検討した場合は常に異なっていたが(図7d)、分化マーカーであるミオゲニン(MyoG)は、フルオキセチン処置マウスに由来する血漿とともに播種した場合、発現に3倍の増加を示した(p=0.0017)(図7e)。この差は、SCがGR127935とともに播種された場合には消失した(p=0.4)(図7e)。また、より早い静止の存在およびより高い分裂速度も、インビトロにおいてGR127935を添加した場合に消失した(図7f,g)。フルオキセチン処置動物由来の血漿のこれらの効果は、MDL100907を加えた場合には持続した(図7b~g)。重要なこととしては、インビトロにおいて、培養培地中への5-HT1Bアゴニストの直接的添加は、フルオキセチン処置マウス由来の血漿の添加と同じ効果を惹起し(図7h,i)、本発明者らは、播種後の早期の時点ではより速い分化、および播種後の後期の時点ではより高い自己再生速度を見出した。
【0200】
初代ヒト筋芽細胞をフルオキセチン処置マウス由来の血漿中に播種した場合でも同じ結果が見られ、播種4日後により速い分化(p=0.05)(図 7j)播種14後に細胞のより高い自己再生が得られた(p=0.02)(図7k)。それらの効果は、5-HT1 BRを打ち消した場合には消失したが、5-HT2 BRを打ち消した場合には消失しなかった(図7j,k)。
【0201】
2.1.4.フルオキセチンはMdx表現型を改善する
フルオキセチンをデュシェンヌ型筋ジストロフィーマウスモデルであるMdxマウス(Bulfield G et al., 1983)に6週間、P.O.送達した。フルオキセチン処置Mdxマウスは非処置Mdx対照(平均5041±1629mm、p=0.04)に比べて少ない壊死線維巣(平均2893±803mm)を示した(図8a)。また、線維サイズもMdx処置動物で全体的に大きかった(処置の4.241±0.9ピクセルに対してプラセボの3.192±0.3 p=0.051)(図8b)。従って、再生巣の数はフルオキセチンで処置したMdxマウスでは減少した(図8c~d)。血管の数は、プラセボ(切片当たり942.4±113血管、p=0.008)に比べて処置マウス(1459±327血管/mm)で増加した(図8e)。興味深いことに、周期中の衛星細胞の数も減少しており、従前に見られた再生巣の数の減少と相関していた(図8f)。処置マウスはまた、プラセボ(580±158pg/mlのIL6、p=0.004)に比べて低いサイトカインレベルも示した(34.52±21pg/mlのIL6、表4)(図8g、表4)。同じ低下が他の炎症誘発性サイトカインについても見られた(データは示されていない)。IL10(抗炎症性サイトカイン)のレベルは、プラセボ(64.1±50、p=0.4)に比べて処置動物では変化が無かった(99.6±56pg/mlのIL10)ことに留意されたい(図8h、表4)。この所見は、筋に見られた炎症性細胞の浸潤の減少と一致していた(プラセボにおいて切片当たりに見られた9.6±3.7のGr1+細胞に対して、処置マウスでは4±2.4のGr1+細胞 p=0.04)(図8i)。特に、Mdxマウスをフルオキセチンおよび5-HT1B阻害剤で処置した場合には、有益な効果が消失した(図9a~h)。
【0202】
機能的レベルで、フルオキセチン処置mdxマウスの総筋力は56%増加し(図9i)、長指伸筋(extensor digitorum longus)(edl)力の単離された単線維も45%増加した(図9j~k)。このことをヒラメ筋で確認した(データは示されていない)。
【0203】
【表4】
【0204】
2.2.ボルチオキセチン
2.2.1.ボルチオキセチンは前脛骨筋の血管数を増加させる
血管数に対するボルチオキセチンの効果を検討するために、C57Bl/6マウスに20mg/kgのボルチオキセチンの腹腔内(I.P)投与を12日間、3週間または6週間のいずれかで行った(図10a)。CD31+細胞の数を免疫染色により計数した。プラセボにおける血管数は(863.5±115.6血管/mm)であり、12日間のI.P処置後に増加し(2274±926血管/mm、p=0.03)、3週間後にはいっそう増加する(2847±705血管/mm、p=0.02)(図10b)。しかしながら、12日間と3週間の処置の間に統計的に有意な差は無かった(p=0.49)。新血管は、基底膜と透過性内腔(赤血球を含む場合がある)を連結した正常な組織学的外観を呈した。いくつかのモデルでは炎症と新血管新生には相関関係があるので、毎日のボルチオキセチンのIP投与は、血管新生に干渉し得る望ましくない腹膜炎症を引き起こす可能性があった。従って、ボルチオキセチンは12日間経口(P.O)投与したところ、血管数に同様の増加が見られた(2451±595血管/mmp=0.028、図10c)。これらの結果をさらに確認するために、ボルチオキセチンをFlk1GFP/+マウスに12日間、P.OおよびI.P投与し、ex vivoマトリゲル血管新生アッセイおよびボルチオキセチン処置マウス由来血漿をHUVEC(内皮細胞)に対して使用する。
【0205】
2.2.2.ボルチオキセチンは衛星細胞数を増加させる
衛星細胞数を計数するために、プラセボおよびボルチオキセチン(12日、20mg/Kg)処置マウスにおいてTg:Pax7nGFPマウスの前脛骨筋(TA)を消化し、FACSにより分析した。次に、TA当たりの細胞をサイトメトリーにより計数したところ(図10d)、非処置マウス(4444衛星細胞±802 p=0.008)に対して処置マウス(8660衛星細胞±699)でSC数に明白な増加が見られた(図10a)。これらのデータを切片に対する組織学的計数により確認したところ、TA切片に対して2倍の増加が見られた。3週間のボルチオキセチン処置後、衛星細胞数ははるかに多かった(9351衛星細胞±706、p=0.0079)が、12日間と3週間の処置の間に統計的に有意な差は見られなかった(p=0.15)。ボルチオキセチンはまた20mg/kgでのP.O投与も行ったところSC数に同様の増加が見られ、それにより、I.P結果が確認された(図10d,e)。
【0206】
2.2.3.ボルチオキセチンは5-HT1 B受容体の刺激を介して血管および衛星細胞の数を増加させる
5-HT1 BRの役割を検討するために、特異的5-HT1 BRアンタゴニストであるGR127935塩酸塩阻害剤を12日間のボルチオキセチンI.P処置とともに浸透圧ポンプに送達した。血管の数は、ボルチオキセチンおよびPBS処置Flk1GFP/+マウス(2274±926血管/mm、p=0.028)に比べて、ボルチオキセチンおよび阻害剤処置Flk1GFP/+マウスで少なかった(928±207血管/mm)(図11a)。また、SCの数も、ボルチオキセチン単独に比べて、ボルチオキセチンおよび阻害剤処置Tg:Pax7nGFPマウスで少なかった(TA当たり5540±411 SC)(図11b)。それを5-HT2 B受容体の阻害剤であるMDL100907で打ち消すとボルチオキセチンの効果の阻害は、血管数についてもSC数についても見られなかった(図11a,b)。
【0207】
損傷後、GR127935による5-HT1 BRの阻害はボルチオキセチン12日間処置の有益な効果を抑制し、実際に、損傷14日後のSCおよび分化中の細胞の数の減少、線維サイズの減少およびカルシウム沈着の増加、線維化パーセンテージの増大ならびに免疫Gr1およびF4/80細胞の浸潤の増大を認めることができた。
【0208】
これらの結果を図11c~eに示されるようにインビトロで確認した。衛星細胞をTg:Pax7nGFPマウスから単離し、細胞を2.000細胞/cmで播種した。一晩の後、ボルチオキセチンを10μMで加えた。Pax7陽性細胞の数は、播種4日後により急速に減少し(ボルチオキセチン処置における23%±2に対して、PBSでは38.25%±6 p=0.02)(図11c)、GR127935阻害剤とともにインキュベートした場合の対照(PBS)(25.5%±4.2 p=0.32)に近かった(図11c)。播種14日後、ボルチオキセチン処置細胞(9%±0.7)ではPBS(3.5%±0.9、p=0.01)よりも多数のリザーブ細胞(インビトロにおいて静止中のPax7陽性細胞)が検出され、GR127935阻害剤をインビトロで添加した場合には、リザーブ細胞の数は減少した(3.5%±0.9、p=0.9)(図11c)。MyoD(活性化マーカー)の発現は、3つの試験条件で検討した場合は常に違いは無かった(図11d)。しかしながら、分化マーカーであるミオゲニン(MyoG)は、ボルチオキセチンとともに播種して4日後に、発現に2倍の増加を示した(p=0.0017)(図11e)。この発現の差は、SCがGR127935 5-HT1 BR阻害剤とともに播種された場合には消失した(p=0.4)(図11c~e)。このボルチオキセチンの正の効果は、インビトロでボルチオキセチンとともにGR127935が添加された場合には消失した(図11c~e)。しかしながら、これらの効果は5-HT2 BRアンタゴニストを加えた場合には持続した(図11c~e)。このことは、インビトロでボルチオキセチンを衛星細胞とともに播種した場合に見られる正の効果は5HT1B受容体により媒介されるが5HT2Bによっては媒介されないことを意味する。
【0209】
これらのインビトロ試験は、インビボで得られた所見と同様に、ボルチオキセチンが衛星細胞に直接作用し、フルオキセチンよりも速い再生速度でそれらの分化を刺激することを明らかに示す。最も重要なこととしては、自己再生中の衛星細胞の数の増加はインビトロ14日後に見られ、このことは筋幹細胞プールを増加させるボルチオキセチンの能力を強調する。
【0210】
2.3.ボルチオキセチン誘導体
2.3.1.ヒスチジン-ボルチオキセチンおよびピロリジニウム-ボルチオキセチンは血管および衛星細胞の数を増加させる
ボルチオキセチンの2つの誘導体、すなわち、ヒスチジン-ボルチオキセチンおよびピロリジニウム-ボルチオキセチンが、非修飾型のボルチオキセチンに比べて同等または改善された効果を有し得るかどうかを調べるために、上記の第2.2.3に記載されるインビトロアプローチを使用し、衛星細胞の分化カスケードを、上記の第2.2.3に記載されるPax7(肝細胞性および静止のマーカー)およびミオゲニン(MyoG、分化のマーカー)の発現パターンを評価することによって検討した。これを行うために、Tg:Pax7-nGFP由来の衛星細胞をFACSにより単離し、2.000細胞/cmで播種した(一晩播種)。翌日、ボルチオキセチン、その誘導体、または対照PBSを10μMで加え、示された時点で細胞を固定した。
【0211】
細胞の分化速度は、PBS(対照)の場合よりも、ボルチオキセチン、ピロリジニウム-ボルチオキセチンおよびヒスチジン-ボルチオキセチンの場合に速かった。実際に、PBS中で4日後に38.2±6.7%の細胞がなおPax7+であったが、これに対し、細胞をボルチオキセチンとともに播種した場合には23.7±2.78%(p≦0.001)であり、ピロリジニウム-ボルチオキセチンとともに播種した場合には25.25±4%(p≦0.001)であり、ヒスチジン-ボルチオキセチンとともに播種した場合には22.5±3.3%(p≦0.0001)であった(図12a)。さらにミオゲニン染色データでも、PBS対照におけるMyoG+細胞13.25±2%に対し、ボルチオキセチンでは34.5±2.5%(p≦0.0001)、ピロリジニウム-ボルチオキセチンでは19.75±0.47%(p≦0.05)およびヒスチジン-ボルチオキセチンでは30±1.7%(p≦0.0001)をもってこの所見を確認した(図12b)。
【0212】
考え合わせると、これらの結果は、インビトロにおいてピロリジニウム-ボルチオキセチンおよびヒスチジン-ボルチオキセチンはボルチオキセチンと同様に衛星細胞の速い分化を惹起することを示す。
【0213】
重要なこととしては、衛星細胞の自己再生を評価する場合、ピロリジニウム-ボルチオキセチンおよびヒスチジン-ボルチオキセチンの両方が播種14日後(培地を4日毎に交換)により多くのPax7+細胞を示したことが認められた。実際に、インビトロにおける分化プロセスの終了時に、PBSを用いた場合には2±0.4%の細胞がPax7+であったのに対し、ボルチオキセチンでは10.5±0.65%、ピロリジニウム-ボルチオキセチンでは12.5±1.9%(p≦0.01)、およびヒスチジン-ボルチオキセチンでは12.25±1.3%(p≦0.05)であった。このことは、インビトロにおける自己再生中の細胞の数は、ボルチオキセチン単独に比べてピロリジニウム-ボルチオキセチンおよびヒスチジン-ボルチオキセチンで多いことを示す(図12a,b;20%増)。20mg/Kgのヒスチジン-ボルチオキセチンまたはピロリジニウム-ボルチオキセチンをTgPax7nGFPマウスに12日間IP注射したところ、TAにSC数の倍増が見られた。これらの結果は、ボルチオキセチンに比べてこれらの2つの誘導体が同等の効果を有することを示す(図12c,d)。
【0214】
3.考察
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)種の抗鬱薬(例えばフルオキセチン)は、広域の気分障害を治療するために慣用されている(Marsella et al., 1975)。興味深いことに、脳以外の器官の再生を向上させるためのフルオキセチンの使用は評価されたことが無かった。
【0215】
本結果は、フルオキセチンだけでなくボルチオキセチン(周知の非定型抗鬱薬)の投与も、骨格筋において血管、および最も重要には、衛星細胞の数を増加させたことを示す。これらの結果は、異なるアプローチ(遺伝学および免疫染色)、投与経路(腹腔内および経口)ならびに異なる濃度を用いて確認された。これらのデータはさらに、ex vivoで、フルオキセチン処置マウスにおいてマトリゲルプラグに侵入する血管が多いことで確認された。インビトロにおいて、ヒト内皮細胞HUVECは、プラセボ処置マウス由来の血漿を用いた場合に比べて、フルオキセチンで処置したマウスの血漿中に播種した場合により多い分裂を示した。また、初代ヒト衛星細胞も、播種早期の時点での分化および後期の時点でのより高い自己再生能を示した。
【0216】
決定的なこととしては、フルオキセチンまたはボルチオキセチン処置動物は、注射した際により早い再生を示し、これは複数回の損傷でも持続可能であった。より速い再生は、遺伝子レベル(ミオゲニン発現)および組織学的レベルの両方で評価された。その上、再生はフルオキセチンに比べてボルチオキセチンで速かった(6週間に対して2週間)。この再生の向上に関与する可能性のある作用機序を追求したところ、MyoDはインビボおよびインビトロの両方で処置マウスおよび対照マウスにおいて同じ時点で検出されたことから、活性化の速度は関与しているとは思えなかった。実際に、初期の衛星細胞の数はインビボでほぼ倍増していた。インビトロでは、衛星細胞は、フルオキセチン処置マウス血漿中に播種した場合により多い細胞分裂およびより速い分化を示した。
【0217】
衛星細胞の自己再生を評価したところ、インビトロにおいて播種14日後にピロリジニウム-ボルチオキセチンおよびヒスチジン-ボルチオキセチンの両方がボルチオキセチン単独よりも良好な効果を示したことがさらに認められた。播種後早期の時点では(4日)、ピロリジニウム-ボルチオキセチンおよびヒスチジン-ボルチオキセチンの両方がより速い分化を示したことが認められた。
【0218】
また、フルオキセチンまたはボルチオキセチン衛星細胞の静止期の脱出を惹起していたことも示される。実際に、6週間の処置の後により多くの細胞が検出され、これらはBrdU+であったことから、それはこれらの余剰細胞は既存の細胞の分裂(自己再生)に由来することを意味する。このことが損傷後のより速い筋の再生の基礎にあり得る。実際に、より多い衛星細胞数はより速い分化を説明する可能性があるが、インビトロ損傷時のそれらのより速い活性化および分裂速度がより速い分化を説明する見込みがより高い。このことは、衛星細胞は、静止してはいるが、損傷時または活性化の必要時にそれらの休眠状態から脱して速やかに活性化することを意味し得る。
【0219】
よって、本明細書に示されるインビボおよびインビトロデータは、細胞の生理学的または病理学的状態に応じて異なる機構を持ち得る2段階式の作用を示している。休眠時、衛星細胞は、制御された、また、限定された様式でそれらの自己再生を惹起するフルオキセチンまたはボルチオキセチンまたは5-HT1B刺激によって活性化され得る。細胞の活性化の後、分化のカスケードのある時点で、5-HT1BRの活性化がより速い分化を惹起し得る(細胞密度が高い、または示されたように、5-HT1B受容体の直接的活性化が分化を惹起するといういずれかの理由で(排他的仮説ではない))。よって、5-HT1BR刺激は、衛星細胞の休眠の脱出を惹起し、細胞分裂速度、通常の生理学的条件で、自己再生だけでなく必要時に分化も増加させる。
【0220】
フルオキセチンの送達はまた、内皮細胞およびSC細胞においてセロトニン受容体5-HT1 BRのレベルも90倍に高め、5-HT1 BR阻害剤の薬剤送達は、血管数および衛星細胞数の両方の増加に対するこれらのフルオキセチンの効果を打ち消した。インビトロにおいて、フルオキセチンは分化の速度およびリザーブ細胞の数を増したが、阻害剤の添加がそれらの効果を打ち消した。それはフルオキセチンまたはフルオキセチン投与によりインビボで生成された血漿中に見られる代謝産物は、5-HT1 B受容体を標的とすることによりSCに対して直接作用し得ることを示すので、このことは重要なポイントである。
【0221】
5-HT2 BRの阻害はこれらの結果に影響を及ぼさず、このことは、血漿処置マウスからのフルオキセチンの、またはボルチオキセチンにより直接媒介されるこの効果が5-HT1 B受容体に特異的に作用することを示す。
【0222】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、最も多い筋ジストロフィーであり、機能的ジストロフィンタンパク質の欠損によって引き起こされるX連鎖劣性の進行性筋消耗疾患である(Emery, 2002)。DMDに見られる構造的欠陥は、機械的ストレスに対する感受性の増した筋細胞をもたらし、重大な虚血を伴い、それが筋細胞の損傷を生じ、連続的に何回もの筋線維変性および再生、カルシウム恒常性の低下、慢性炎症性応答、線維化、および筋壊死を誘発する。DMDを有する個体では、これらのプロセスは最初の10年の後に間もなく不可避的に歩行低下を生じ、30年または40年で心臓-呼吸器系の異常のために死をもって寿命が短縮される。DMDの治癒は知られておらず、原因遺伝子は20年以上前に同定されているものの、治療に関する研究は臨床上関連のある結果をほとんど出していない。これらの特徴のために、血管(虚血)と衛星細胞(筋再生)の両方を標的とすることは主要な関心事となり得る。
【0223】
ジストロフィーマウス(Mdx)へのフルオキセチンの送達の後、筋線維サイズの大きな変動および有中心核線維がなお見られたが、壊死巣の数は劇的に減少し、線維の全体的な直径は大きくなった。Luminex(登録商標)アッセイにより、Mdxマウスにおける炎症の周知の読み出しであるサイトカインの総レベルが低下したことも示された。これは浸潤した炎症性細胞の数の減少に関連していた。
【0224】
考え合わせると、これらの結果は、フルオキセチン、ボルチオキセチン、それらのまたは誘導体のジストロフィー患者への送達が、筋再生、より詳しくは、筋幹細胞の数(血管に加えて)を増すことによってジストロフィーの進行を軽減する可能性を持つことを示す。本データは、この効果が内皮細胞および筋幹細胞の両方で発現される5-HT1 B受容体により直接媒介されることを示す。
【0225】
参照文献
図1
図2(a)】
図2(b-d)】
図2(e)】
図2(f-h)】
図2(i-l)】
図2(m-o)】
図2(p)】
図2(q)】
図2(r-s)】
図2(t-v)】
図3(a)】
図3(b-d)】
図3(e-g)】
図3(h-k)】
図3(l)】
図4(a-c)】
図4(d-e)】
図4(f-h)】
図4(i-k)】
図5(a)】
図5(b)】
図5(c-d)】
図5(e-f)】
図5(g-k)】
図6(a-b)】
図6(c-d)】
図6(e-g)】
図7(a)】
図7(b-c)】
図7(d-e)】
図7(f-g)】
図7(h-i)】
図7(j-k)】
図8(a-d)】
図8(e-f)】
図8(g-i)】
図9(a-b)】
図9(c-f)】
図9(g-h)】
図9(i-j)】
図9(k)】
図10(a-c)】
図10(d-e)】
図11(a-b)】
図11(c)】
図11(d)】
図11(e)】
図12(a)】
図12(b)】
図12(c-d)】