IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ビューティ ケア ソリューションズ フランス エスエーエスの特許一覧

<>
  • 特許-小分子グリコシル化のための方法 図1
  • 特許-小分子グリコシル化のための方法 図2
  • 特許-小分子グリコシル化のための方法 図3
  • 特許-小分子グリコシル化のための方法 図4
  • 特許-小分子グリコシル化のための方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】小分子グリコシル化のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/44 20060101AFI20220128BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20220128BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220128BHJP
【FI】
C12P19/44
C12N9/10
C12N15/54
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018535237
(86)(22)【出願日】2016-09-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 EP2016072586
(87)【国際公開番号】W WO2017050920
(87)【国際公開日】2017-03-30
【審査請求日】2019-09-12
(31)【優先権主張番号】15186888.2
(32)【優先日】2015-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500226948
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ビューティ ケア ソリューションズ フランス エスエーエス
【氏名又は名称原語表記】BASF Beauty Care Solutions France S.A.S.
【住所又は居所原語表記】32 rue Saint Jean de Dieu, F-69007 Lyon, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グディミンチ,ラマ・クリシュナ
(72)【発明者】
【氏名】ニデツキー,ベルント
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】Carbohydrate Research,2011年,Vol. 346,p. 1860-1867
【文献】Biocatalysis and Biotransformation,2010年,Vol. 28,p. 10-21
【文献】Biotechnol. Lett.,2007年,Vol. 29,p. 611-615
【文献】Food Sci. Biotechnol.,2011年,Vol. 20,p. 513-518
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00 - 19/64
C12N 9/00 - 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸を産生するための方法であって:
a. グルコシルドナーおよびグルコシルアクセプターを含む混合物を提供し;
b. 該混合物をスクロースホスホリラーゼとインキュベーションし;
c. インキュベーション中、pHを4.8~5.5の範囲に維持し;
d. 反応中、さらなるグリコシルドナーおよび/またはスクロースホスホリラーゼを添加してもよい;そして
e. 2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸を単離および/または精製する
一連の工程を含
前記グルコシルドナーがグルコース1-リン酸またはスクロースであり、
前記グルコシルアクセプターがアスコルビン酸である、
前記方法。
【請求項2】
前記スクロースホスホリラーゼがメタゲノム、微生物、好ましくは細菌起源のものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記スクロースホスホリラーゼがホモ二量体性である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記スクロースホスホリラーゼが、pH<7、好ましくはpH<6、より好ましくはpH<5、最も好ましくはpH<4で非常に安定である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記クロースホスホリラーゼが、アグロバクテリウム・ビティス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ロングム、大腸菌、大腸菌06、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・デルブルエキー亜種ラクティス、ロイコノストック・メセンテロイデス、リステリア菌、シュードモナス・プトレファシエンス、シュードモナス・サッカロフィラ、ロドピレルラ・バルティカ、シェワネラ・バルティカ、シェワネラ・フリジディマリナ、ソリバクター・ウシタトゥス、ストレプトコッカス・ムタンスおよび/またはシネココッカス属種より得られる細菌スクロースホスホリラーゼである、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記スクロースホスホリラーゼが天然タンパク質または突然変異体である、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
前記スクロースホスホリラーゼが、全長タンパク質またはその触媒的活性断片、あるいは融合タンパク質として組換え的に産生される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記スクロースホスホリラーゼが、全細胞、無細胞抽出物、粗精製、精製または固定型で用いられる、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
前記インキュベーション工程を少なくとも24時間、好ましくは少なくとも48時間、より好ましくは少なくとも72時間行う、請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
前記インキュベーションを約30~70℃、好ましくは約40~60℃、より好ましくは約40~50℃の温度範囲で行う、請求項1~のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記アスコルビン酸を、スクロースに対して0.3~3倍モル過剰で用いる、請求項1~10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記反応混合物中のスクロースホスホリラーゼの量が、1U/mL~10,000U/mLの範囲、または5U/mL~100U/mLの範囲、または10U/mL~50U/mLの範囲、または20U/mL~40U/mLの範囲、または30U/mLである、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
らなるスクロースホスホリラーゼおよびスクロースを、インキュベーション中にインキュベーション混合物に添加して、スクロースホスホリラーゼを1U/mL~10,000U/mLの範囲、または5U/mL~100U/mLの範囲、または10U/mL~50U/mLの範囲、または20U/mL~40U/mLの範囲、または30U/mLに、そしてスクロースを100~2,000mMの範囲、または250mM~1,000mMの範囲または800mMに維持する、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを同時にまたは異なる時点で添加する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記細菌スクロースホスホリラーゼがビフィドバクテリウム・アドレセンティスより得られる、請求項5記載の方法。
【請求項16】
前記細菌スクロースホスホリラーゼがビフィドバクテリウム・ロングムより得られる、請求項5記載の方法。
【請求項17】
前記細菌スクロースホスホリラーゼがストレプトコッカス・ムタンスより得られる、請求項5記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、スクロースホスホリラーゼが仲介する2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸の産生法に関する。
【発明の概要】
【0002】
背景技術
[0002]2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(AA-2G)は、すべての既知のL-アスコルビン酸誘導体の中で非常に安定な型である。L-アスコルビン酸の2位のヒドロキシル基(その生物学的活性および安定性に関与する)の修飾は、L-アスコルビン酸(L-AA)の安定性を有意に改善してきた。L-アスコルビン酸の2位のヒドロキシル基のグリコシル化は、リン酸および硫酸誘導体などの他の誘導体に勝る、いくつかの利点を提供する。L-AAグルコシドの他のアイソフォーム、すなわち、3-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(AA-3G)、5-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(AA-5G)および6-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(AA-6G)が合成されてきたが、これらのいずれも、AA-2Gと同程度に優れた安定性は示さなかった。
【0003】
a. AA-2Gは、いかなる生物学的活性および還元力も示さない、極度に不活性な型であり、そしてしたがって、極度の物理的および化学的安定性を所持する。
b. AA-2Gが、生体によって分泌されるα-グルコシダーゼ酵素の作用によってL-アスコルビン酸およびD-グルコースに加水分解され、そしてL-アスコルビン酸に固有の生物学的活性を示した際に、L-アスコルビン酸の特性が顕示される。
【0004】
c. 何らかの特定の状態下で、in vivoでAA-2Gが合成され、そして代謝されることが証明されてきている。したがって、AA-2Gは、非常に安定化されたL-AAの最も安全な型と認識される。
【0005】
d. 水および油性物質中で高い溶解度を有するため、AA-2Gは、ビタミンC補足剤として、経口および局所配合物中で好適に用いられる。
[0003]グリコシルトランスフェラーゼ(GT)は、天然のグリコシド合成に関与する酵素である一方、グリコシルヒドロラーゼ(GH)は、これらを分解するように進化してきている。グリコシルトランスフェラーゼおよびグリコシルヒドロラーゼの両方が、非常に多様なグリコシドの産生にうまく用いられてきている。これらの酵素はまた、AA-2Gの酵素合成においても用いられてきている。
【0006】
[0004]GHに属するラット腸およびイネ種子α-グルコシダーゼは、マルトースおよびL-AAを、それぞれ、ドナーおよびアクセプター基質として用いた際、AA-2Gを産生した。しかし、これらの2つの酵素は常に、AA-2Gとともに、不可避的にAA-6G、AA-5Gアイソフォームを産生する。該酵素は、ドナー基質として、商業適用のために関心が持たれる安価なマルトースを用いて1つのグルコシドのみを産生するが、該酵素は安価には入手可能でなく、そしてアイソフォームの存在は、AA-2Gの単離および精製を困難なものにした。A.ニガー(A. niger)由来のα-グルコシダーゼは、大部分AA-6Gを産生し、そして非常にわずかなAA-2Gを産生する。
【0007】
[0005]GTに属するシクロデキストリン・グルカノトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)は、AA-2Gの大規模産生のための別のよく研究される酵素である。EP0425066は、AA-2Gを産生するためのプロセスを開示し、該プロセスは、産業規模で実施可能であり、糖類トランスファー酵素、例えばCGTアーゼがL-アスコルビン酸およびα-グルコシル糖類を含有する溶液に作用して、AA-2Gおよび副産物を形成することを可能にする。CGTアーゼを、ドナー基質としてのシクロデキストリン(最も好ましいドナー基質)またはデンプンとともに用いると、直鎖化マルトオリゴ糖の全部または一部がL-AAにトランスファーされるため、いくつかのAA-2-マルトオリゴ糖副産物が不可避的に形成された。異なる重合度を有する、生成されたいくつかの副産物は、さらなるグルコアミラーゼ処理で、AA-2Gにさらにトリミングされた。CGTアーゼの使用は、比較的より少ない量で、常に、AA-3GおよびAA-6Gなどの他のアイソフォームを産生した。これらのアイソフォームの存在はやはり、下流プロセス、特に他のアイソフォームからAA-2Gの分離を複雑なものにした。いくつかの副産物の形成およびさらなるグルコアミラーゼ処理を回避するため、CGTアーゼは、ドナー基質としてマルトースを受け入れるよう操作されたが、成功はほとんど達成されず、そして収率はまったく魅力的ではなかった(Hanら、参考文献)。
【0008】
[0006]WO2004013344は、アースロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)由来のα-イソマルトシルグルコサッカライド形成酵素(IMG)を用いてAA-2Gを産生するためのプロセスを開示し、ここでAA-5GまたはAA-6Gは形成されないか、またはこれらの形成が検出不能であるほど少量(乾燥固体ベースで<0.1%重量/重量)でしか形成されない。このプロセスにおいて、IMGは、CGTアーゼおよびドナー基質としてのデンプン部分的加水分解物とともに(デンプンをオリゴ糖に分解するため)、トランスグリコシル化酵素として用いられた。これらの2つの酵素の組み合わせは収率を改善し、そしてAA-5GおよびAA-6G形成量を0.1%未満まで減少させた。しかし、いくつかの副産物の形成は回避されなかった。副産物はさらにグルコアミラーゼで処理され、AA-2Gに変換された。したがって、このシステムは、全プロセスを効率的に実行するために、総数3つの酵素を必要とした。
【0009】
[0007]現在利用可能な酵素的方法は、大規模に、AA-2Gを産生可能である。反応終了時のいくつかの副産物および異なるアイソフォームの存在はなお、全プロセスにおけるボトルネックであり、そしてAA-2G単離および精製に干渉する。副産物は、グルコアミラーゼ処理によってAA-2Gに変換可能であり、そしてAA-2Gは、強酸性陽イオン交換樹脂を用いて、L-AAおよびグルコースから容易に分離可能である。しかし、AA-2Gと一緒に形成されたAA-5GおよびAA-6Gアイソフォームは、溶解性およびクロマトグラフィ特性が似ているため、ほとんど分離されない。EP0539196は、その還元力に由来する、酸化可能性を好適に利用して、AA-2GからAA-5GおよびAA-6Gを分離する方法を開示している。このプロセスは、AA-5GおよびAA-6Gのみを酸化するが、AA-2Gに影響を及ぼし、AA-2G収量の減少を生じうる、過剰な酸化は可能にしないように、反応条件の正確な調節を必要とする。
【0010】
[0008]したがって、AA-2Gを高収率で産生するための改善されたプロセスがなお必要である。
発明の要旨
[0009]本発明の目的は、AA-2Gの大規模製造のための効率的な一工程産生プロセスを提供することである。
【0011】
[0010]該目的は、本発明の主題によって解決される。
[0011]本発明にしたがって、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(AA-2G)を産生するための方法であって:
a. グルコシルドナーおよびグルコシルアクセプターを含む混合物を提供し;
b. 前記混合物をスクロースホスホリラーゼとインキュベーションし;
c. インキュベーション中、pHを7.0未満に維持し;そして
d. 場合によって、反応中、さらなるグルコシルドナーおよび/またはスクロースホスホリラーゼを添加し、そして
e. 2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸を単離および/または精製する
一連の工程を含む、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】[0012]図1は、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(AA-2G)の化学構造を示す。
図2】[0013]図2は、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)のスクロースホスホリラーゼ酵素のAA-2G形成活性に対するpHの影響を示す。
図3】[0014]図3は、ビフィドバクテリウム・ロングムのスクロースホスホリラーゼ酵素のAA-2G形成活性に対する温度の影響を示す。
図4】[0015]図4は、ビフィドバクテリウム・ロングムのスクロースホスホリラーゼ酵素のAA-2G形成活性に対するドナー(スクロース)およびアクセプター(L-AA)基質濃度の影響を示す。
図5】[0016]図5は、異なるスクロースホスホリラーゼによって触媒されるL-アスコルビン酸のトランスグルコシル化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0017]本発明は、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸を産生するための新規のそして改善された方法であって:
a. グルコシルドナーおよびグルコシルアクセプターを含む混合物を提供し;
b. 前記混合物をスクロースホスホリラーゼとインキュベーションし;
c. インキュベーション中、pHを7.0未満に維持し;そして
d. 場合によって、反応中、さらなるグリコシルドナーならびにスクロースホスホリラーゼを添加し;そして
e. 2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸を単離および/または精製する
一連の工程を含む、前記方法を提供する。
【0014】
[0018]したがって、ドナー基質として単純でそして低コストの二糖または単糖を用い、そしてL-AAの2位でのみトランスグリコシル化を実行することが可能な酵素を発見することが目的であった。
【0015】
[0019]GTおよびGHクラスの中で、グリコシドホスホリラーゼ(GP)は、いくつかの観点で特別である。GPは、αおよびβ-D-グリコシド、主に二糖を含むグルコシド(Glc-OR)および多様な重合度のオリゴ糖または多糖の加リン酸分解を触媒する。リン酸(Pi)へのグルコシルトランスファーは、in vivoで、熱力学的に好ましい、これは、リン酸が通常、α-D-グルコース-1-リン酸(Glc-1-P)よりも過剰に存在するためである。しかし、GPが触媒する反応の熱力学的平衡定数(Keq)は、GT(Keq<<1)およびGH(Keq>>1)の反応に関するKeq値の間に属する。比較的好ましいKeq、およびリン活性化糖が、大部分のGTに必要とされるヌクレオチド活性化糖よりもより安価であるという事実によって、GPは、グルコシドの立体および位置特異的合成のために関心が持たれる生体触媒となっている。
【0016】
[0020]スクロースホスホリラーゼ(SPアーゼ;EC2.4.1.7)は、グルコシルホスホリラーゼであり、スクロースおよびリン酸のD-フルクトースおよびα-D-グルコース-1-リン酸(Glc-1-P)への変換を触媒する。SPアーゼは、いくつかの細菌供給源から単離されてきている。SPアーゼをコードする遺伝子が異なる細菌からクローニングされ、そして異種発現されている(Kawasaki Hら, Biosci. Biotech. Biochem.(1996)60:322-324; Kitao SおよびNakano E, J. Ferment. Bioeng.(1992)73:179-184; van den Broek LAMら, Appl. Microbiol. Biotechnol.(2004)65:219-227)。グリコシルヒドロラーゼ(GH)およびグリコシルトランスフェラーゼ(GT)の体系的な配列に基づく分類にしたがって、SPアーゼは、しばしばα-アミラーゼファミリーと称される、ファミリーGH13(クランGH-H)に属する。ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)由来のSPアーゼの三次元構造は、最近、解明され、(ベータ/アルファ)8バレルフォールド、ならびに2つのカルボキシレート基が求核(Asp192)および一般酸/塩基(Glu232)の役割をおそらく達成する触媒部位が明らかになった。
【0017】
[0021]「スクロースホスホリラーゼ」は、本明細書において、EC2.4.1.7クラスの酵素だけでなく、基質および産物に関連する同じ特性を示す分子またはその機能的同等物も指す。「機能的同等物」または酵素の類似体は、本発明の範囲内で、望ましい生物学的機能または活性、例えば酵素活性をさらに持つ、多様なポリペプチドである。
【0018】
[0022]本発明の1つの態様は、AA-2G産生法であって、SPアーゼがメタゲノム、微生物または細菌起源のものである、前記方法に関する。本明細書において、用語「メタゲノム」は、環境試料から直接回収された遺伝子材料を指す。
【0019】
[0023]本発明のさらなる態様は、SPアーゼが微生物または細菌起源、好ましくは細菌起源のものである、AA-2G産生法に関する。
[0024]ホモ二量体酵素は、2つの同一分子によって形成される酵素複合体を指す。SPアーゼのいくつかはホモ二量体を形成可能である。ホモ二量体性SPアーゼの例は、とりわけ、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ストレプトコッカス・ムタンス(Streptococcus mutans)、またはビフィドバクテリウム・ロングム由来である。驚くべきことに、ホモ二量体性SPアーゼは、L-AAのグリコシル化において、高い部位選択性を示す。したがって、本発明の1つの態様において、スクロースホスホリラーゼは、ホモ二量体性スクロースホスホリラーゼである。ホモ二量体性SPアーゼの高い部位選択性のため、AA-6G副産物は実質的に形成されない。したがって、本発明の1つの態様において、副産物が実質的に形成されないAA-2G産生法を提供する。本発明のさらなる態様にしたがって、インキュベーション工程中、AA-3G、AA-5GまたはAA-6Gは実質的に形成されない。
【0020】
[0025]本明細書において、用語「副産物」は、任意の望ましくない産物を指し、特にAA-3G、AA-5GまたはAA-6Gを指す。用語「副産物を実質的に含まない」は、副産物含量が重量25%未満、20%未満、15%、10%、5%、または1%未満であることを意味する。
【0021】
[0026]本発明の1つの態様は、7未満のpH、好ましくは6未満のpH、より好ましくは5未満のpH、そして最も好ましくは4未満のpHで高い安定性を示す、スクロースホスホリラーゼに関する。
【0022】
[0027]特定の態様において、本発明のスクロースホスホリラーゼは、60℃で48時間、そして2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、および7.0より選択されるpHでインキュベーションした後、0時間(インキュベーション開始前)でのスクロースホスホリラーゼ活性に比較して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、82%、84%、86%、90%、92%、または少なくとも94%の相対スクロースホスホリラーゼ活性を有する。好ましい態様において、インキュベーションpHは、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5または7.0である。さらにより好ましい態様において、インキュベーションpHは5.2であり、そして残存活性は、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、または少なくとも82%である。
【0023】
[0028]SPアーゼ活性は、連続共役酵素アッセイを用いて30℃で測定され、ここで、実施例2に記載するように、スクロースおよび無機リン酸からのGlc 1-Pの産生を、ホスホグルコムターゼ(PGM)およびグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6P-DH)の存在下で、NAD+の還元に共役させる。
【0024】
[0029]本発明の1つの態様は、環境試料から直接得られる遺伝材料を用いて組換え的に産生されたスクロースホスホリラーゼに関する。
[0030]微生物スクロースホスホリラーゼを用いる利点は、産生および単離が単純であり、そしてこれらの酵素が安定であることである。これらは、天然にまたは組換え的にSPアーゼを発現している微生物から得られうる。
【0025】
[0031]本発明の1つの態様は、アグロバクテリウム・ビティス(Agrobacterium vitis)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ロングム、大腸菌(Escherichia coli)、好ましくは大腸菌06、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・デルブルエキー亜種ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、シュードモナス・プトレファシエンス(Pseudomonas putrefaciens)、シュードモナス・サッカロフィラ(Pseudomonas saccharophila)、ロドピレルラ・バルティカ(Rhodopirellula baltica)、シェワネラ・バルティカ(Shewanella baltica)、シェワネラ・フリジディマリナ(Shewanella frigidimarina)、ソリバクター・ウシタトゥス(Solibacter usitatus)、ストレプトコッカス・ムタンスまたはシネココッカス属(Synechococcus)種より得られるスクロースホスホリラーゼに関する。
【0026】
[0032]本発明の1つの態様は、好ましくは全長タンパク質またはその触媒活性断片、あるいは融合タンパク質として、組換え的に産生されたスクロースホスホリラーゼに関する。酵素の組換え体産生法は、当業者に知られる(例えば、Sambrook J.ら Molecular cloning: a laboratory manual. ISBN 0-87969-309-6)。
【0027】
[0033]本明細書において、「全長タンパク質」は、例えば上記に列挙するような生物由来の遺伝子によってコードされる、スクロースホスホリラーゼタンパク質を指す。前記天然存在遺伝子、特に前記遺伝子のスクロースホスホリラーゼコード領域を、SPアーゼの組換え体産生に直接使用する。
【0028】
[0034]スクロースホスホリラーゼの「触媒活性断片」は、天然SPアーゼと同じかまたは実質的に同じ活性および基質特異性を有するスクロースホスホリラーゼのタンパク質断片を指す。断片が天然スクロースホスホリラーゼと同じかまたは類似の基質特異性を有し、そして同じ産物の形成を触媒するならば、断片の長さはそれほど重要ではない。
【0029】
[0035]用語「融合タンパク質」は、少なくとも1つのさらなるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに組換え的に融合された、スクロースホスホリラーゼまたはその触媒活性断片を指す。前記の少なくとも1つのさらなるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、任意の種類(例えば酵素)であってもよい。
【0030】
[0036]スクロースホスホリラーゼの機能性変異体(すなわち欠失、置換および挿入を含む突然変異)が天然スクロースホスホリラーゼと同じかまたは実質的に同じ活性を有するならば、これらの機能性変異体もまた、本発明の範囲内に含まれることが注目される。
【0031】
[0037]しかし、スクロースホスホリラーゼを天然に産生する生物から直接得られるスクロースホスホリラーゼを用いることもまたもちろん可能である。
[0038]SPアーゼは、部分的に精製されていなくてもよい細胞不含酵素、細胞膜の透過性改善(透過処理)および物理的安定性のために物理的または化学的に前処理された全細胞系、好ましくはゲル様構造中に、前記遊離酵素または全細胞系が封入された被包触媒、あるいはキャリアー上に固定されたもののいずれかとして、インキュベーション工程中で使用可能である。好適には、SPアーゼは、好ましくは固体支持体であるキャリアー上に固定される。キャリアーは、好ましくはクロマトグラフィ樹脂であり、好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィ樹脂、陽イオン交換クロマトグラフィ樹脂、アフィニティクロマトグラフィ樹脂(例えば固定SPアーゼ特異的抗体を含むもの)および疎水性相互作用クロマトグラフィ樹脂からなる群より選択される。
【0032】
[0039]本発明のSPアーゼは、該酵素の酵素活性が、その基質特異性が変化するかまたはその活性が低変換率に減少するような方式で影響を受けないならば、任意のキャリアー、好ましくは粒子(例えばビーズ)、特にクロマトグラフィ樹脂上に(一時的にまたは共有的に)固定されていてもよい。
【0033】
[0040]本発明のさらなる態様において、全細胞、無細胞抽出物、粗精製(crude)、精製または固定型のスクロースホスホリラーゼを用いる。
[0041]SPアーゼの反応は、アノマー立体配置の正味保持を伴って進行し、そして2つの立体配置的に反転した工程を伴う二重置換機構:グルコシルドナーの炭素-酸素結合の切断および共有β-グルコシル酵素(β-Glc-E)中間体の形成;ならびにGlc 1-Pを生じる中間体とリン酸の反応を通じて起こる。副反応において、β-Glc-E中間体は、水によって妨害され、加水分解を生じうる。スクロースの加水分解的変換は不可逆性であるが、加リン酸分解的反応よりもほぼ2桁遅く進行する。SPアーゼはまた、トランスグルコシル化反応も触媒し、該反応は、加水分解と競合して起こり、そしてそれによって、外部求核剤によってβ-Glc-E中間体が攻撃され、そして新たなα-D-グルコシドが産生される。
【0034】
[0042]生化学的研究によって、SPアーゼがグルコシル部分のトランスファーに厳密に特異的であり、そしてエピマー化および脱酸素を含む、グルコピラノシル環に対する構造修飾を許容しないことが示されてきている。
【0035】
[0043]本発明の方法に使用されるグルコシルドナーは、SPアーゼによって触媒されるトランスグリコシル化反応の基質として働く、任意のものであってもよい。
[0044]SPアーゼの既知のグルコシルドナーのリストは短く:スクロース、Glc 1-Pおよびα-D-グルコース1-フルオリドである。3つの既知のグリコシルドナーのうち、スクロースは安価であり、そして非常に安定な高エネルギーグルコシルドナーであり、そしてSPアーゼによって弱く加水分解される。
【0036】
[0045]しかし、グルコシルドナーはまた、スクロース、およびフルクトシル部分が修飾されるかまたは別のケトシル残基によって置換されているスクロース類似体、あるいはさらに安定な活性化されたグルコシルドナー、例えばα-D-グルコース-1-アジド、および/またはその混合物からなる群より選択されることも可能である。
【0037】
[0046]本発明の1つの態様は、グルコシルドナーがスクロース、Glc 1-Pまたはα-D-グルコース1-フルオリドであり、好ましくはグルコシルドナーがスクロースまたはGlc 1-P、より好ましくはスクロースである、AA-2G産生法に関する。
【0038】
[0047]対照的に、グルコシルアクセプターに対するSPアーゼの特異性は、比較的緩やかである。
[0048]本発明の1つの態様は、グルコシルアクセプターがアスコルビン酸またはその機能性変異体である、AA-2G産生法に関する。
【0039】
[0049]グリセロールアクセプターが典型的にはスクロースの≦2.5倍モル過剰である際、立体化学的に純粋であるグルコシルグリセロールが≧90%ドナー基質変換の高収率で得られ、そして濃度は1M(250g/L)に近かった(Goedlら, Angew Chem Int Ed Engl. 2008;47(52):10086-9)。異なる研究グループによって測定された異なるSPアーゼ酵素のアクセプター混乱状態が、Goedlら(Biocatal Biotrans. 2010;28(1):10-21)によって優れて概説されている。SPアーゼを用いたグリコシルトランスファー反応の最適pHは、6.5~7.5であった。興味深いことに、リン酸およびヒドロキノンのグルコシル化に関するスクロースホスホリラーゼ(ストレプトコッカス・ムタンス由来)の6.5の最適pHは、グルコシルアクセプターとして酢酸を用いた際には5.0未満のpHにシフトし、これによって、グルコシル単位の有効なトランスファーのためには、アクセプターの相互作用基がプロトン化型である必要があることが示される。
【0040】
[0050]Kwonら(Biotechnol Lett. 2007 Apr;29(4):611-615)は、組換え産生ビフィドバクテリウム・ロングム・スクロースホスホリラーゼを用いて、L-AAおよびスクロースから一工程でAA-2Gを産生する可能性を開示した。用いたL-AAおよびスクロースの濃度は、それぞれ、0.5%(w/v)および30%(w/v)であり、そして大規模には試みられなかった。結果は、達成されたAA-2G濃度を開示しなかった。Aertsら(Carbohydr Res. 2011 Sep 27;346(13):1860-7)は、80の推定されるアクセプターに対して、6つの異なるSP酵素のトランスグルコシル化活性を比較した。それぞれ、アクセプターおよびドナー基質として、65mMのL-AAおよび50mMのスクロースを用いた際、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス由来のスクロースホスホリラーゼを用いて、トランスグルコシル化産物は明らかには観察可能であったが、トランスグルコシル化率は、加水分解率の約100倍低かった。したがって、L-AAは、スクロースホスホリラーゼの弱いアクセプターと記載された。タンパク質操作アプローチを使用して、L-アスコルビン酸のトランスグルコシル化のため、スクロースホスホリラーゼ中にタンパク質リガンド相互作用が導入されたが、成功しなかった。これらの研究は、AA-2Gの産生におけるスクロースホスホリラーゼの現実的な適用を証明しなかった。上述の研究において、反応は37℃およびpH7.0~7.5で行われ、これはL-AAへのグルコシル単位のトランスファーにまったく好ましくない。酸性pHでの可能性をチェックする試みは行われなかった。
【0041】
[0051]本発明の目的は、SPアーゼを用い、いくつかの副産物またはAA-2Gのアイソフォームを産生することなく、L-AAをグリコシル化して、一工程でAA-2Gを産生することであった。ビフィドバクテリウム・ロングム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ロイコノストック・メセンテロイデス、ラクトバチルス・アシドフィルスおよびストレプトコッカス・ムタンス由来のスクロースホスホリラーゼ酵素を用いて、L-AAのグリコシル化効率および特異性をチェックした。すべてのSPアーゼは、酸性pHでL-AAのグリコシル化に成功した。ストレプトコッカス・ムタンス、B.アドレセンティスSPアーゼおよびB.ロングムSPアーゼは、AA-2Gのみを産生した。高収率のAA-2G産生のため、試薬濃度および反応条件を体系的に最適化した。その結果、本発明者らは、予期せぬことに、反応をpH約5、40~50℃の間で、そして1.5倍過剰L-AAで行うと、AA-2Gが驚くべき量で形成されることを見出した。反応終了時、3% w/w未満の同定されない不純物とともに、反応混合物中に、AA-2G、L-AA、スクロース、フルクトース、および非常にわずかのグルコースが観察された。他の副産物またはアイソフォームは形成されないか、または検出可能な量では形成されなかった。
【0042】
[0052]本発明のさらなる態様は、インキュベーション工程を、4.0~7.0のpH範囲、または4.0~6.5の範囲、または4.5~6.5の範囲、または4.8~6.2の範囲、または5.0~5.5の範囲で行う、AA-2G産生法に関する。驚くべきことに、部位選択性は、約4.0~7.0の範囲のpH、または約4.5~6.0の範囲のpH、または約4.8~5.5の範囲のpH、または約5.2のpHで働くことによって、強く改善される。不適切なpHでの反応は、劣った部位選択性を導く。本発明のさらなる態様において、インキュベーション工程を約5.2のpHで行う。
【0043】
[0053]単純な有機および無機材料を用いて、または異なるタイプの緩衝剤混合物を用いて、反応媒体のpHを調節可能である。酵素添加によって反応を開始する前に、pHを調節してもよい。また、反応中に、望ましいpHを維持するために、pHを調節してもよい。手動または自動的にpHを調節してもよい。
【0044】
[0054]本発明のさらなる態様は、約30~70℃の温度範囲で、または約35~65℃の範囲で、または約40~60℃の範囲で、または約40~50℃の範囲で、インキュベーション工程を行う、AA-2G産生法に関する。さらなる態様において、インキュベーション工程を約40℃の温度で行う。
【0045】
[0055]本発明のさらなる態様は、インキュベーション工程を少なくとも24時間、好ましくは少なくとも48時間、より好ましくは少なくとも72時間行う、AA-2G産生法に関する。
【0046】
[0056]本発明のさらなる態様は、グルコシルアクセプターをグルコシルドナーの0.3~3倍モル過剰で用いる、AA-2G産生法に関する。本発明のさらなる態様において、グルコシルアクセプターをグルコシルドナーの0.5~2.5倍モル過剰で、または1.0~2倍モル過剰で用いる。本発明のさらなる態様において、グルコシルアクセプターをグルコシルドナーの1.5倍モル過剰で用いる。本発明のさらなる態様において、グルコシルアクセプターはアスコルビン酸であり、そしてグルコシルドナーはスクロースである。
【0047】
[0057]本発明のさらなる態様は、反応混合物中のスクロースホスホリラーゼの量が、1U/mL~10,000U/mLの範囲、または5U/mL~100U/mLの範囲、または10U/mL~50U/mLの範囲、または20U/mL~40U/mLの範囲である、AA-2G産生法に関する。本発明のさらなる態様において、スクロースホスホリラーゼを約30U/mLの量で用いる。
【0048】
[0058]本発明のさらなる態様は、さらなるスクロースホスホリラーゼおよびスクロースを、インキュベーション中に反応混合物に添加して、スクロースホスホリラーゼを1U/mL~10,000U/mLの範囲、または5U/mL~100U/mLの範囲、または10U/mL~50U/mLの範囲、または20U/mL~40U/mLの範囲、または約30U/mLに、そしてスクロースを100~2,000mMの範囲、または250mM~1,000mMの範囲または約800mMに維持する、AA-2G産生法に関する。
【0049】
[0059]本発明のさらなる態様は、スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを同時にまたは異なる時点で反応混合物に添加して、上記のような必要量を維持する、AA-2G産生法に関する。
【0050】
[0060]本発明は、制限されることなく、以下の図および実施例によってさらに例示される。
[0061]図1は、2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸(AA-2G)の化学構造を示す。
【0051】
[0062]図2は、ビフィドバクテリウム・ロングムのスクロースホスホリラーゼ酵素のAA-2G形成活性に対するpHの影響を示す。AA-2G合成の異常なpH依存性が観察された。pH7.0~7.5では、ほぼいかなるAA-2Gも形成されなかった。活性は、pHを低下させた際に急激に増加し、pH5.2で明確な最大に達した。pHのさらなる減少は、強い活性喪失を生じた。
【0052】
[0063]図3は、ビフィドバクテリウム・ロングムのスクロースホスホリラーゼ酵素のAA-2G形成活性に対する温度の影響を示す。AA-2G合成の最適温度は50℃であった。しかし、プロセス中、L-アスコルビン酸分解を最小にするため、40℃のより低い温度が好ましい。
【0053】
[0064]図4は、ビフィドバクテリウム・ロングムのスクロースホスホリラーゼ酵素のAA-2G形成活性に対するドナー(スクロース)およびアクセプター(L-AA)基質濃度の影響を示す。AA-2G合成は、L-AA濃度が増加するにつれて有意に増加した。AA-2Gの濃度および収率は、1.5倍過剰のL-AAが反応に添加された際に最大であった。
【0054】
[0065]図5は、異なるスクロースホスホリラーゼによって触媒されるL-アスコルビン
酸のトランスグルコシル化を示す。タンパク質ファミリー内の配列および構造多様性を示
す、選択されたスクロースホスホリラーゼは、部位選択性において、明らかな相違を示し
た。結果を表1で比較する。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸を産生するための方法であって:
a. グルコシルドナーおよびグルコシルアクセプターを含む混合物を提供し;
b. 該混合物をスクロースホスホリラーゼとインキュベーションし;
c. インキュベーション中、pHを7.0未満に維持し;
d. 反応中、さらなるグリコシルドナーおよび/またはスクロースホスホリラーゼを添加してもよい;そして
e. 2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸を単離および/または精製する一連の工程を含む、前記方法。
[実施形態2]前記スクロースホスホリラーゼがメタゲノム、微生物、好ましくは細菌起源のものである、実施形態1記載の方法。
[実施形態3]前記スクロースホスホリラーゼがホモ二量体性である、実施形態1または2記載の方法。
[実施形態4]前記スクロースホスホリラーゼが、pH<7、好ましくはpH<6、より好ましくはpH<5、最も好ましくはpH<4で非常に安定である、実施形態1~3のいずれか記載の方法。
[実施形態5]前記細菌スクロースホスホリラーゼが、アグロバクテリウム・ビティス、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ビフィドバクテリウム・ロングム、大腸菌、大腸菌06、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・デルブルエキー亜種ラクティス、ロイコノストック・メセンテロイデス、リステリア菌、シュードモナス・プトレファシエンス、シュードモナス・サッカロフィラ、ロドピレルラ・バルティカ、シェワネラ・バルティカ、シェワネラ・フリジディマリナ、ソリバクター・ウシタトゥス、ストレプトコッカス・ムタンスおよび/またはシネココッカス属種より得られる、実施形態1~4のいずれか記載の方法。
[実施形態6]前記スクロースホスホリラーゼが天然タンパク質または突然変異体である、実施形態1~5のいずれか記載の方法。
[実施形態7]前記スクロースホスホリラーゼが、全長タンパク質またはその触媒的活性断片、あるいは融合タンパク質として組換え的に産生される、実施形態1~6のいずれか記載の方法。
[実施形態8]前記スクロースホスホリラーゼが、全細胞、無細胞抽出物、粗精製、精製または固定型で用いられる、実施形態1~7のいずれか記載の方法。
[実施形態9]前記グルコシルドナーがグルコース1-リン酸またはスクロースである、実施形態1~8のいずれか記載の方法。
[実施形態10]前記グルコシルアクセプターがアスコルビン酸である、実施形態1~9のいずれか記載の方法。
[実施形態11]前記インキュベーションを、4.0~7.0、好ましくは4.5~6.5、より好ましくは4.8~6.2のpH範囲、特に5.2のpHで行う、実施形態1~10のいずれか記載の方法。
[実施形態12]前記インキュベーション工程を少なくとも24時間、好ましくは少なくとも48時間、より好ましくは少なくとも72時間行う、実施形態1~11のいずれか記載の方法。
[実施形態13]前記インキュベーションを約30~70℃、好ましくは約40~60℃、より好ましくは約40~50℃の温度範囲で行う、実施形態1~12のいずれか記載の方法。
[実施形態14]前記アスコルビン酸を、スクロースに対して0.3~3倍モル過剰で用いる、実施形態1~13のいずれか記載の方法。
[実施形態15]前記反応混合物中のスクロースホスホリラーゼの量が、1U/ml~10,000U/mLの範囲、または5U/mL~100U/mLの範囲、または10U/mL~50U/mLの範囲、または20U/mL~40U/mLの範囲、または30U/mLである、実施形態1~14のいずれか記載の方法。
[実施形態16]前記のさらなるスクロースホスホリラーゼおよびスクロースを、インキュベーション中にインキュベーション混合物に添加して、スクロースホスホリラーゼを1U/ml~10,000U/mLの範囲、または5U/mL~100U/mLの範囲、または10U/mL~50U/mLの範囲、または20U/mL~40U/mLの範囲、または30U/mLに、そしてスクロースを100~2,000mMの範囲、または250mM~1,000mMの範囲または800mMに維持する、実施形態1~15のいずれか記載の方法。
[実施形態17]前記スクロースホスホリラーゼおよびスクロースを同時にまたは異なる時点で添加する、実施形態16記載の方法。
【実施例
【0055】
以下の実施例は、本発明の理解を補助するために示されるが、いかなる点でも、本発明の範囲を限定することは意図されず、そして限定すると見なされてはならない。実施例には、慣用法、例えばクローニング、トランスフェクション、および微生物宿主細胞においてタンパク質を発現するための方法の基本的な側面の詳細な説明は含まれない。こうした方法は、一般の当業者に周知である。
【0056】
実施例1-スクロースホスホリラーゼ酵素の産生
[0066]SPアーゼ遺伝子挿入物をhisタグ下に含むpC21Eベクターを所持する大腸菌BL21宿主株を、SPアーゼ産生に用いた。該遺伝子は、tac1プロモーター系下にクローニングされ、そしてIPTGで誘導された。グリセロールストックから培養を少量、マイクロピペットチップでスクラッチし、そしてアンピシリン(120μg/mL)を含有する50mLのLB培地内に接種した。フラスコを、120rpmの振盪装置上、約12時間、30℃で一晩インキュベーションした。一晩培養物を、アンピシリン(120μg/mL)を含有する200mL LB培地内に接種して、0.01のOD600を生じた。OD600が0.8~1.0に到達するまで、フラスコを37℃、120rpmで数時間インキュベーションした。最終濃度1mMになるようにIPTGをフラスコに添加した。フラスコを25℃、120rpmでほぼ20時間、振盪装置上でインキュベーションした。5,000rpmで15分間遠心分離することによって細胞を採取した。上清をデカントし、そしてペレットを100mMクエン酸緩衝液pH5.2で洗浄した(湿細胞重量各1gに、5mLの緩衝液を用いた)。1gの湿細胞を5mLの溶解緩衝液(50mM NaCl+1mM EDTA+0.5mM DTTを含有する100mMクエン酸緩衝液pH5.2)中に再懸濁した。懸濁物をフレンチプレスに2回通過させた。生じた細胞溶解物を8,000xgで遠心分離して、破壊されなかった細胞および細胞破片から、可溶性分画を分離した。上清中のSPアーゼ酵素活性を定量化し、アリコットし、そして将来使用するために、-20℃で保存した。
【0057】
実施例2: 酵素アッセイ
[0067]スクロースおよび無機リン酸からのGlc 1-Pの産生を、ホスホグルコムターゼ(PGM)およびグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6P-DH)の存在下でNAD+の還元と共役させる、連続共役酵素アッセイを用いて、SPアーゼ活性を30℃で測定した。10mM EDTA、10mM MgClおよび10μM α-Dグルコース1,6-二リン酸を含有する50mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0中で、本質的に別の箇所に記載されるように標準アッセイを行った。反応混合物は、250mMスクロース、2.5mM NAD、3U/mL PGM、3.4U/mL NAD+依存性G6P-DHおよび適切な希釈の酵素溶液を含有した。経時的なNADH形成を340nmで分光光度的に監視した。1単位のSPアーゼ活性は、上述の条件下で、1分あたり、1マイクロモルのNADの還元を引き起こす酵素の量に相当する。標準としてウシ血清アルブミンを用いたBioRad色素結合法を用いて、タンパク質濃度を決定した。
【0058】
実施例3: 2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸の合成
[0068]水中で1,200mMのL-AAおよび800mMのスクロースまたはグルコース-1-リン酸および30U/mLのSPアーゼを含有する反応混合物を50℃および300rpmで48~72時間インキュベーションした。空気密封容器中、暗所条件下、好ましくはpH5.2で、反応を行った。BioRad HPX-87Hカラムを使用したHPLCを用いて、産物分析を行い、そしてピークの溶出プロファイルをUVおよびRI検出装置で監視した。カラムを25℃で維持し、そして20mM硫酸を0.4mL/分の流速で溶出剤として用いた。これらの条件下で、>30%のL-AAがグルコシル化された。単離され、そして精製された産物のNMR分析によって、AA-2Gのα-1-2グリコシド連結が確認された。
【0059】
実施例4: 2-O-α-D-グルコピラノシル-L-アスコルビン酸の収率の改善
[0069]水中で1,200mMのL-AAおよび800mMのスクロースまたはグルコース-1-リン酸および30U/mLのSPアーゼを含有する反応混合物を50℃および300rpmでインキュベーションした。反応中、スクロースの枯渇およびSPアーゼ活性の喪失を監視した。さらなるスクロースおよびSPアーゼを、24時間、48時間および72時間後に添加して、スクロース濃度およびSPアーゼ活性を最初の量、すなわちそれぞれ800mMおよび30U/mLに回復させた。この方式で、収率は約1.5x増加した。
【0060】
実施例5:さらなるスクロースホスホリラーゼの評価
[0070]ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、ストレプトコッカス・ムタンス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ロイコノストック・メセンテロイデス由来の、タンパク質ファミリー内の配列多様性を示す、4つのさらなるスクロースホスホリラーゼを評価した。ホモ二量体性スクロースホスホリラーゼは、2-OHでL-アスコルビン酸のグリコシル化に高い部位選択性を示し、AA-2GおよびAA-6Gの混合物が形成される単量体型に比較して、AA-2G形成を生じた。単量体性スクロースホスホリラーゼは、総産物のかなりの比率でAA-6Gを放出した一方、ホモ二量体性タンパク質では、検出限界を超えるAA-6Gは形成されなかった。しかし、pH7.5では本質的に欠けている、pH5.2でのAA-2G合成は、試験したすべてのスクロースホスホリラーゼの本質的な特性であった。
【0061】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5