(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-27
(45)【発行日】2022-01-19
(54)【発明の名称】粘性推定装置及び粘性推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/14 20060101AFI20220112BHJP
【FI】
G01N11/14 Z
(21)【出願番号】P 2019080281
(22)【出願日】2019-04-19
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513213966
【氏名又は名称】横河ソリューションサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】岡本 弘文
(72)【発明者】
【氏名】田谷 英治
(72)【発明者】
【氏名】大島 勝也
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-190882(JP,A)
【文献】特開平11-295205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機によって回転駆動される回転軸の回転によって撹拌される物質の粘性を推定する粘性推定装置であって、
前記誘導電動機に供給される駆動電流を検出する電流検出部と、
前記回転軸の回転を検出する回転検出部と、
前記電流検出部の検出結果と前記回転検出部の検出結果とを用いて、前記物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値を求める演算部と、
を備え
、
前記演算部は、前記電流検出部の検出結果と前記回転検出部の検出結果とを用いて、前記回転軸のすべり率を求めるすべり率演算部と、
前記電流検出部の検出結果から前記駆動電流の実効値を求める実効値演算部と、
前記電流検出部の検出結果から前記駆動電流の周波数を求める周波数演算部と、
前記すべり率演算部の演算結果、前記実効値演算部の演算結果、及び前記周波数演算部の演算結果を用いて前記粘性相関値を求める粘性相関値演算部と、
を備え、
前記粘性相関値演算部は、前記駆動電流の周波数を前記回転検出部の検出結果から得られる前記回転軸の回転速度で除算して得られる値、前記駆動電流の実効値の2乗、及び前記回転軸のすべり率を乗算して得られる値を前記粘性相関値として求める、
粘性推定装置。
【請求項2】
前記すべり率演算部は、前記周波数演算部の演算結果と前記回転検出部の検出結果から得られる前記回転軸の回転速度とを用いて前記回転軸のすべり率を求める、
請求項1記載の粘性推定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記回転検出部の検出結果から前記回転軸の回転速度を求める回転速度算出部を備える、
請求項1又は請求項2記載の粘性推定装置。
【請求項4】
前記粘性相関値をSTとし、前記駆動電流の周波数をω[rad/s]又は[Hz]、前記回転軸の回転速度をω
m[rad/s]又は[Hz]、前記駆動電流の実効値をI
a、前記回転軸のすべり率をs[%]とすると、前記粘性相関値演算部は、以下の(1)式で示される演算を行って前記粘性相関値STを求める、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の粘性推定装置。
【数1】
【請求項5】
誘導電動機によって回転駆動される回転軸の回転によって撹拌される物質の粘性を推定する粘性推定方法であって、
前記誘導電動機に供給される駆動電流を検出する電流検出ステップと、
前記回転軸の回転を検出する回転検出ステップと、
前記電流検出ステップの検出結果と前記回転検出ステップの検出結果とを用いて、前記物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値を求める演算ステップと、
を有
し、
前記演算ステップは、前記電流検出ステップの検出結果と前記回転検出ステップの検出結果とを用いて、前記回転軸のすべり率を求めるすべり率演算ステップと、
前記電流検出ステップの検出結果から前記駆動電流の実効値を求める実効値演算ステップと、
前記電流検出ステップの検出結果から前記駆動電流の周波数を求める周波数演算ステップと、
前記すべり率演算ステップの演算結果、前記実効値演算ステップの演算結果、及び前記周波数演算ステップの演算結果を用いて前記粘性相関値を求める粘性相関値演算ステップと、
を有し、
前記粘性相関値演算ステップは、前記駆動電流の周波数を前記回転検出ステップの検出結果から得られる前記回転軸の回転速度で除算して得られる値、前記駆動電流の実効値の2乗、及び前記回転軸のすべり率を乗算して得られる値を前記粘性相関値として求める、
粘性推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性推定装置及び粘性推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントや工場では、所定の製品又は中間材を得るために、原料の化学反応を促進させる反応工程や、各種原料を混ぜ合わせる撹拌工程が行われることがある。このような工程では、回転翼が取り付けられた回転軸を電動機によって回転させることにより、原料の化学反応を促進させたり、原料の混合度を均一化したりしている。ここで、化学反応の促進具合や混合具合は、製品又は中間材の粘度を測定することによって推定される。
【0003】
現在、粘度を測定する粘度計は、回転粘度計が主流となっている。この回転粘度計は、回転軸を回転させることで回転軸に作用する反作用トルクを検出し、この検出結果を粘度に換算することによって粘度を測定するものである。このような回転粘度計をオンライン計測に応用する場合には、例えば、反作用トルクを検出するために回転軸に取り付けられる歪ゲージ(トルクセンサ)と、歪ゲージの検出結果を粘度に換算する演算部とが必要になると考えられる。
【0004】
尚、以下の非特許文献1には、回転軸に作用する反作用トルクを検出する従来の方法が開示されている。具体的に、以下の非特許文献1に開示された方法では、回転軸の角度応答に基づいて、回転軸が受ける反作用トルクを検出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】T.Murakami F.Yu and K.Ohnishi “Torque sensorless control in multidegree-of-freedom manipulator” IEEE Trans.Ind.Electron. Vol. 40 No.2 pp.259-265 Apr.1993.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、回転粘度計をオンライン計測に応用する場合には、上述した通り、回転軸に作用する反作用トルクを検出するための歪ゲージを回転軸に取り付ける必要がある。ここで、歪ゲージは、高温により劣化しやすいため、環境温度によっては使用できないことがあるという問題がある。また、歪ゲージを取り付けるために既存設備の分解や加工が必要になることがあるため、歪ゲージを回転軸に取り付けることが困難なこともあるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、歪ゲージを用いることなく粘性を推定することができ、粘性のオンライン計測に適用可能な粘性推定装置及び粘性推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による粘性推定装置は、誘導電動機(IM)によって回転駆動される回転軸(AX)の回転によって撹拌される物質の粘性を推定する粘性推定装置(1、2)であって、前記誘導電動機に供給される駆動電流を検出する電流検出部(10)と、前記回転軸の回転を検出する回転検出部(20、20A)と、前記電流検出部の検出結果と前記回転検出部の検出結果とを用いて、前記物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値(ST)を求める演算部(30、30A)と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様による粘性推定装置は、前記演算部が、前記電流検出部の検出結果と前記回転検出部の検出結果とを用いて、前記回転軸のすべり率を求めるすべり率演算部(33)と、前記前記電流検出部の検出結果から前記駆動電流の実効値を求める実効値演算部(34)と、前記すべり率演算部の演算結果と前記実効値演算部の演算結果とを用いて前記粘性相関値を求める粘性相関値演算部(35)と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様による粘性推定装置は、前記演算部が、前記電流検出部の検出結果から前記駆動電流の周波数を求める周波数演算部(31)を備えており、前記すべり率演算部が、前記周波数演算部の演算結果と前記回転検出部の検出結果から得られる前記回転軸の回転速度とを用いて前記回転軸のすべり率を求める。
【0011】
また、本発明の一態様による粘性推定装置は、前記演算部が、前記回転検出部の検出結果から前記回転軸の回転速度を求める回転速度算出部(32)を備える。
【0012】
また、本発明の一態様による粘性推定装置は、前記粘性相関値をSTとし、前記駆動電流の周波数をω[rad/s]又は[Hz]、前記回転軸の回転速度をω
m[rad/s]又は[Hz]、前記電流の実効値をI
a、前記回転軸のすべり率をs[%]とすると、前記粘性相関値演算部が、以下の(1)式で示される演算を行って前記粘性相関値STを求める、請求項2から請求項4の何れか一項に記載の粘性推定装置。
【数1】
【0013】
本発明の一態様による粘性推定方法は、誘導電動機(IM)によって回転駆動される回転軸(AX)の回転によって撹拌される物質の粘性を推定する粘性推定方法であって、前記誘導電動機に供給される駆動電流を検出する電流検出ステップ(S11)と、前記回転軸の回転を検出する回転検出ステップ(S14)と、前記電流検出ステップ)の検出結果と前記回転検出ステップの検出結果とを用いて、前記物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値を求める演算ステップ(S17)と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、歪ゲージを用いることなく粘性を推定することができ、粘性のオンライン計測に適用可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態による粘性推定装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態による粘性推定方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態による粘性推定装置の変形例の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による粘性推定装置及び粘性推定方法について詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の各実施形態の詳細について説明する。
【0017】
〔概要〕
本発明の実施形態は、歪ゲージを用いることなく粘性を推定することができ、粘性のオンライン計測に適用可能にするものである。例えば、本発明の実施形態は、撹拌翼を備える回転軸を誘導電動機で回転させることによってタンク内の材料を撹拌させる機器(例えば、反応器や攪拌器)における材料の粘性をオンラインで連続的に推定することを可能とするものである。
【0018】
ここで、日本工業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)において、粘度計は、毛細管粘度計、落球粘度計、共軸二重円筒形回転粘度計、単一円筒形回転粘度計、円錐平板形回転粘度計、及び振動式粘度計の6種類に分類されている(JIS Z 8803)。このような粘度計は、一般的には、研究室や実験室等で使用する試験機として用いられることが殆どである。このため、従来は、プラント等においは、製造中の製品又は中間材のサンプルを抜き取り、抜き取ったサンプルの粘度を測定室で測定して品質管理を行っていた。
【0019】
粘度の測定にあたっては、測定バラツキの影響を低減する必要があることから、専門の知識を有する試験者による粘度の測定が複数回に亘って行われる。このため、製品の粘度の測定には、ある程度の時間が必要になり、生産性向上、品質向上の妨げとなっていた。ここで、粘度の測定をオンラインで連続測定する装置も実現されているが、高価であったり、設置に特別な工夫が必要であったり、性能を維持するため頻繁なメンテナンスが必要であったりすることから、適用分野が限られているのが現状である。
【0020】
現在、粘度を測定する粘度計は、回転粘度計が主流となっている。このような回転粘度計をオンライン計測に応用する場合には、例えば、反作用トルクを検出するために回転軸に取り付けられる歪ゲージ(トルクセンサ)と、歪ゲージの検出結果を粘度に換算する演算部とが必要になると考えられる。ここで、歪ゲージは、高温により劣化しやすいため、環境温度によっては使用できないことがある。また、歪ゲージを取り付けるために既存設備の分解や加工が必要になることがあるため、歪ゲージを回転軸に取り付けることが困難なこともある。
【0021】
本発明の実施形態では、粘性を推定する対象である物質を撹拌する回転軸を回転駆動する誘導電動機に供給される駆動電流を検出し、回転軸の回転を検出し、駆動電流の検出結果と回転軸の回転の検出結果とを用いて、物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値を求めている。これにより、歪ゲージを用いることなく粘性を推定することができ、粘性のオンライン計測に適用可能である。
【0022】
〔実施形態〕
〈粘性推定装置〉
図1は、本発明の一実施形態による粘性推定装置の要部構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態の粘性推定装置1は、変流器10(電流検出部)、エンコーダ20(回転検出部)、及び演算部30を備える。かかる構成の粘性推定装置1は、誘導電動機IMによって回転駆動される回転軸AXの回転によって撹拌される物質の粘性を推定する。尚、回転軸AXの回転によって撹拌される物質は、任意の物質であって良い。
【0023】
ここで、誘導電動機IMは、コイルを有する固定子と、例えばかご型構造の回転子とを備えており、固定子のコイルによって形成される回転磁界によって回転子が回転するものである。誘導電動機IMは、単相の交流電流によって駆動されるものであっても良く、三相の交流電流によって駆動されるものであって良い。本実施形態において、誘導電動機IMは、三相の交流電流によって駆動されるものであるとする。
【0024】
回転軸AXは、例えば、円柱状(棒状)の部材であり、誘導電動機IMの回転子が回転することによって回転駆動される。回転軸AXは、予め規定された減速比を有する減速機を介して誘導電動機IMの回転子に接続されていても良い。このような減速機が設けられる場合には、例えば、所定の周波数(例えば、10[Hz])の駆動電流が誘導電動機IMに供給された場合に、回転軸AXが、無負荷の状態で、所定の回転数(例えば、100[rpm])で回転する。尚、回転軸AXは、誘導電動機IMの回転子に同軸となるように直接取り付けられていても良い。また、回転軸AXには撹拌翼が設けられていても良い。
【0025】
変流器10は、誘導電動機IMに供給される駆動電流を検出する。尚、変流器10は、誘導電動機IMに供給される駆動電流の全ての相(三相)を検出するものであってもよく、特定の一相のみを検出するものであっても良い。本実施形態では、変流器10は、三相のうちの特定の一相のみを検出するものであるとする。変流器10の検出結果は、演算部30に出力される。
【0026】
エンコーダ20は、回転軸AXの回転を検出する。具体的に、エンコーダ20は、回転軸AXの回転量(回転位置)を検出し、その検出結果に応じた数のパルスを出力する。このエンコーダ20は、機械式のロータリーエンコーダであっても良く、光学式のロータリーエンコーダであっても良い。エンコーダ20の検出結果は、演算部30に出力される。
【0027】
演算部30は、周波数演算部31、回転速度算出部32、すべり率演算部33、実効値演算部34、ST演算部35(粘性相関値演算部)、ST粘性演算部36、及びフィルタ演算部37を備える。かかる構成の演算部30は、変流器10の検出結果とエンコーダ20の検出結果とを用いて、物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値ST(すべりトルク係数)を求め、粘性相関値STに基づいて物質の粘性を推定する。
【0028】
周波数演算部31は、変流器10の検出結果から、誘導電動機IMに供給される駆動電流の周波数ω[rad/s]又は[Hz]を求める。例えば、周波数演算部31は、回転軸AXが予め規定された回転数N(Nは、1以上の整数)だけ回転する度に、誘導電動機IMに供給される駆動電流の周波数ωを求めるようにしても良い。尚、周波数演算部31が誘導電動機IMに供給される駆動電流の周波数ωを求めるタイミングや周期は任意に設定することができる。
【0029】
回転速度算出部32は、エンコーダ20の検出結果から、回転軸AXの回転速度ωm[rad/s]又は[Hz]を求める。例えば、回転速度算出部32は、予め規定された時間(例えば、1[s])が経過する度に、回転軸AXの回転速度ωmを求めるようにしても良い。尚、回転速度算出部32が回転軸AXの回転速度ωmを求めるタイミングや周期は任意に設定することができる。
【0030】
すべり率演算部33は、変流器10の検出結果とエンコーダ20の検出結果とを用いて、回転軸AXのすべり率を求める。具体的に、すべり率演算部33は、変流器10の検出結果を用いて周波数演算部31で求められた駆動電流の周波数ωと、エンコーダ20の検出結果を用いて回転速度算出部32で求められた回転軸AXの回転速度ωmとを用いて回転軸AXのすべり率を求める。より具体的に、すべり率演算部33は、以下の(2)式に示される演算を行って、回転軸AXのすべり率s[%]を求める。
【0031】
【0032】
実効値演算部34は、変流器10の検出結果から、誘導電動機IMに供給される駆動電流の実効値Ia[A]を求める。例えば、実効値演算部34は、周波数演算部31と同様に、回転軸AXが予め規定された回転数Nだけ回転する度に、駆動電流の実効値Iaを求めるようにしても良い。尚、実効値演算部34が駆動電流の実効値Iaを求めるタイミングや周期は任意に設定することができる。
【0033】
ST演算部35は、すべり率演算部33の演算結果と実効値演算部34の演算結果とを用いて、粘性相関値STを求める。具体的に、ST演算部35は、周波数演算部31で求められた駆動電流の周波数ω、回転速度算出部32で求められた回転軸AXの回転速度ωm、実効値演算部34で求められた駆動電流の実効値Ia、及びすべり率演算部33で求められた回転軸AXのすべり率sを用い、以下の(3)式に示される演算を行って粘性相関値STを求める。
【0034】
【0035】
ここで、静止座標系(αβ座標系)における誘導電動機IMのモデルを、dq座標系に変換した場合を考える。誘導電動機IMの極数をP、固定子と回転子との相互インダクタンスをM、d軸の電流の最大値をId、回転子の直流抵抗値をRrとすると、誘導電動機IMの定常時における発生トルクτeは、以下の(4)式で表される。
【0036】
【0037】
また、制動係数(=粘性)をRm、クーロン摩擦をTlとすると、誘導電動機IMの定常時における発生トルクτeは、以下の(5)式で表される。
【0038】
【0039】
上記(4)式及び(5)式から以下の(6)式が得られる。
【0040】
【0041】
いま、固定子と回転子との相互インダクタンスM、回転子の直流抵抗値Rr、及びクーロン摩擦Tlが一定とし、以下の2つの条件を仮定する。
・d軸の電流の変化率はほぼ同じで、駆動電流の実効値Iaに比例する
・回転軸AXの回転速度ωmは大きく変化しない
すると、上記(6)式は、以下の(7)式で表される。
【0042】
【0043】
上記(7)式から、粘性を示す制動係数Rmは、駆動電流の周波数ωを回転軸AXの回転速度ωmで除算して得られる値、駆動電流の実効値Iaの2乗、及び回転軸AXのすべり率sの積に比例することが分かる。このため、物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値STを、上記(3)式の通りに表すことができる。
【0044】
ST粘性演算部36は、ST演算部35で得られた粘性相関値STを粘性値Dに変換する。具体的に、ST粘性演算部36は、D=A・ST+Bなる演算を行って、粘性相関値STを粘性値Dに変換する。ここで、上記式中の変数A,Bは、物質の粘性の測定に先立って予めST粘性演算部36に格納されても良く、物質の粘性の測定を行う際にST粘性演算部36に入力されても良い。尚、上記式中の変数Aは、粘性相関値STのスケーリング(拡大縮小率)を規定するものであり、上記式中の変数Bは、粘性相関値STのオフセットを規定するものである。
【0045】
フィルタ演算部37は、例えば一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)等のフィルタを用いてスムージング処理を行う。かかるスムージング処理が行われることで、例えば高周波成分が除去されるため、物質の粘性を高い精度で推定することができる。フィルタ演算部37でスムージング処理が行われることによって得られたデータ(例えば、粘性を示すデータ)は、例えば不図示のネットワークを介してデータ収集装置に収集され、或いは、表示装置に表示される。
【0046】
〈粘性推定方法〉
図2は、本発明の一実施形態による粘性推定方法を示すフローチャートである。
図2に示すフローチャートは、例えば、予め設定された一定の周期で繰り返し行われる。尚、ここでは、不図示の駆動装置から誘導電動機IMに対して駆動電流が供給されており、誘導電動機IMによって回転軸AXが回転駆動されて、所定の物質が回転軸AXの回転により撹拌されている状態であるとする。
【0047】
図2に示すフローチャートの処理が開始されると、まず、変流器10によって、誘導電動機IMに供給されている駆動電流が検出される(ステップS11:電流検出ステップ)。変流器10によって検出された駆動電流は、演算部30に出力される。すると、変流器10の検出結果から、誘導電動機IMに供給される駆動電流の周波数ωを求める処理が周波数演算部31によって行われる(ステップS12)。また、変流器10の検出結果から、誘導電動機IMに供給される駆動電流の実効値I
aを求める処理が実効値演算部34によって行われる(ステップS13)。
【0048】
次に、エンコーダ20によって、回転軸AXの回転が検出される(ステップS14:回転検出ステップ)。エンコーダ20の検出結果は、演算部30に出力される。すると、エンコーダ20の検出結果から、回転軸AXの回転速度ωmを求める処理が回転速度算出部32によって行われる(ステップS15)。
【0049】
次いで、周波数演算部31で求められた駆動電流の周波数ωと、回転速度算出部32で求められた回転軸AXの回転速度ωmとを用いて回転軸AXのすべり率を求める処理がすべり率演算部33によって行われる(ステップS16)。具体的には、前述した(2)式に示される演算を行って、回転軸AXのすべり率s[%]を求める処理がすべり率演算部33によって行われる。
【0050】
続いて、周波数演算部31で求められた駆動電流の周波数ω、回転速度算出部32で求められた回転軸AXの回転速度ωm、実効値演算部34で求められた駆動電流の実効値Ia、及びすべり率演算部33で求められた回転軸AXのすべり率sを用いて、粘性相関値STを求める処理がST演算部35によって行われる(ステップS17:演算ステップ)。具体的には、前述した(3)式に示される演算を行って粘性相関値STを求める処理がST演算部35によって行われる。
【0051】
以上の処理が終了すると、ST演算部35で得られた粘性相関値STを粘性値Dに変換する処理がST粘性演算部36で行われる(ステップS18)。具体的には、D=A・ST+Bなる演算を行って、粘性相関値STを粘性値Dに変換する処理がST粘性演算部36で行われる。そして、例えば一次遅れフィルタ(ローパスフィルタ)等のフィルタを用いたスムージング処理がフィルタ演算部37によって行われる(ステップS19)。そして、スムージング処理が行われることによって得られたデータ(例えば、粘性を示すデータ)は、例えば不図示のネットワークを介してデータ収集装置に収集され、或いは、表示装置に表示される。
【0052】
尚、
図2に示すフローチャートにおいては、説明の便宜のために、ステップS11~S13の処理が終了した後に、ステップS14,S15の処理が行われる例を図示している。しかしながら、ステップS14,S15の処理は、ステップS11~S13の処理の前に行われても良く、ステップS11~S13の処理と並行して行われても良い。
【0053】
〈変形例〉
図3は、本発明の一実施形態による粘性推定装置の変形例の構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本変形例に係る粘性推定装置2は、
図1に示す粘性推定装置1のエンコーダ20をタコメータ20A(回転検出部)に代え、演算部30を演算部30Aに代えた構成である。タコメータ20Aは、回転軸AXの回転速度ω
m[rad/s]又は[Hz]を検出する。このタコメータ20Aは、機械式のものであっても良く、電気式のものであっても良い。
【0054】
演算部30Aは、
図1に示す演算部30の回転速度算出部32を省略した構成であり、タコメータ20Aの検出結果が演算部30Aのすべり率演算部33に直接入力される。つまり、タコメータ20Aは、回転軸AXの回転速度ω
mを直接検出することができるため、エンコーダ20の検出結果から回転軸AXの回転速度ω
mを求める回転速度算出部32は省略されている。
【0055】
本変形例に係る粘性推定方法を示すフローチャートは、
図2に示すフローチャートとほぼ同様である。具体的に、本変形例に係る粘性推定方法を示すフローチャートは、
図2中のステップS14における「回転軸の回転を検出」を、「回転軸の回転速度を検出」と読み替え、ステップS15を省略したものになる。
【0056】
以上の通り、本発明の実施形態では、粘性を推定する対象である物質を撹拌する回転軸を回転駆動する誘導電動機に供給される駆動電流を検出し、回転軸の回転を検出し、駆動電流の検出結果と回転軸の回転の検出結果とを用いて、物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値を求めている。これにより、歪ゲージを用いることなく粘性を推定することができ、粘性のオンライン計測に適用可能である。
【0057】
以上、本発明の一実施形態による粘性推定装置及び粘性推定方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、変流器10の検出結果とエンコーダ20(又は、タコメータ20A)の検出結果とを用いて、物質の粘性と相関を有する値である粘性相関値STを求め、粘性相関値STに基づいて推定された物質の粘性を、ネットワークを介してデータ収集装置で収集し、或いは、表示装置に表示するようにしていた。
【0058】
しかしながら、変流器10の検出結果とエンコーダ20の検出結果とをネットワークを介して収集し、収集したこれらの検出結果に基づいて、粘性相関値STを求めるとともに粘性を推定するようにしても良い。このようにすることで、誘導電動機IM及び回転軸AXの設置場所から離れた遠方において、物質の粘性を推定することができる。
【0059】
尚、上述した粘性相関値STを利用することで、高速回転にて液体を攪拌することで行われてきた分散や乳化処理に対しても、その進行具合を推定することができる。
【符号の説明】
【0060】
1,2 粘性推定装置
10 変流器
20 エンコーダ
20A タコメータ
30,30A 演算部
31 周波数演算部
32 回転速度算出部
33 すべり率演算部
34 実効値演算部
35 ST演算部
AX 回転軸
IM 誘導電動機
ST 粘性相関値